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  • -塗装金属板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167225
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】塗装金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/02 20060101AFI20221027BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20221027BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B05D3/02 D
B05D7/14 P
B05D7/24 302E
B05D7/24 303A
B05D3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072890
(22)【出願日】2021-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】壱岐島 健司
(72)【発明者】
【氏名】米谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】白垣 信樹
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 智和
(72)【発明者】
【氏名】山中 慶一
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AC28
4D075AC35
4D075AC88
4D075AE03
4D075BB23X
4D075BB28Z
4D075BB33Z
4D075BB35Z
4D075BB36Z
4D075BB38Z
4D075BB74X
4D075BB93X
4D075CA03
4D075CA17
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB02
4D075DB05
4D075DB07
4D075DC01
4D075EA05
4D075EA31
4D075EA41
4D075EC11
4D075EC13
4D075EC15
4D075EC30
(57)【要約】
【課題】金属基板への塗膜の焼き付けを行いやすい塗装金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】塗装金属板の製造方法は、塗装工程と、第一加熱工程と、第二加熱工程と、を備える。塗装工程は、金属基板1の表面に樹脂、顔料及び溶剤を含む塗料2を塗布する工程である。第一加熱工程は、塗装工程の後、熱伝導により金属基板1を加熱する工程である。第二加熱工程は、第一加熱工程の後、金属基板1の表面に塗布されている塗料に熱風を吹きかけて塗料を加熱する工程である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の表面に樹脂、顔料及び溶剤を含む塗料を塗布する塗装工程と、
前記塗装工程の後、熱伝導により前記金属基板を加熱する第一加熱工程と、
前記第一加熱工程の後、前記金属基板の表面に塗布されている前記塗料に熱風を吹きかけて前記塗料を加熱する第二加熱工程と、
を備える塗装金属板の製造方法。
【請求項2】
前記第一加熱工程において、前記金属板が接触する加熱ロールを介した熱伝導により前記金属板を加熱する請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項3】
前記塗装工程の前、熱伝導により前記金属基板を加熱する塗装前加熱工程を更に備える請求項1又は2に記載の塗装金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建材等に用いることができる塗装金属板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、流れ模様塗装金属板の製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。この流れ模様塗装金属板の製造方法は、ロールコーターの塗布ロールを金属基板の搬送方向に対して順方向に回転させて、高粘度の塩化ビニル樹脂塗料組成物を塗布した後、焼き付けることにより行うものである。塗布ロールによって塗料組成物が転写された金属基板は、連続的に搬送されて、乾燥、焼き付け及び冷却の工程を経て、塗装金属板となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-245519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の塗装金属板の製造方法にあっては、塗布ロールによって塗料組成物が転写された金属基板は、一般的に、炉内に搬送されて熱風により表面が加熱されることにより、乾燥、焼き付けが行われていた。
【0005】
しかしながら、塗料組成物の表面から加熱されると、塗料組成物の表面が先に硬化して、塗料組成物の内部の溶剤が蒸発しにくくなり、塗料組成物の焼き付けが行われにくいものであった。
【0006】
本開示は上記従来の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは、金属基板への塗膜の焼き付けを行いやすい塗装金属板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る一形態の塗装金属板の製造方法は、塗装工程と、第一加熱工程と、第二加熱工程と、を備える。前記塗装工程は、金属基板の表面に樹脂、顔料及び溶剤を含む塗料を塗布する工程である。前記第一加熱工程は、前記塗装工程の後、熱伝導により前記金属基板を加熱する工程である。前記第二加熱工程は、前記第一加熱工程の後、前記金属基板の表面に塗布されている前記塗料に熱風を吹きかけて前記塗料を加熱する工程である。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る一形態の塗装金属板の製造方法にあっては、第二加熱工程において、塗料の表面の硬化が始まる前に、第一加熱工程において熱伝導により金属基板が加熱されるため、塗料の表面より奥方の位置にある溶剤が蒸発しやすく、金属基板への塗膜の焼き付けを行いやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第一実施形態に係る塗装金属板の製造方法に用いられる装置の概略構成図である。
図2図2は、第二実施形態に係る塗装金属板の製造方法に用いられる装置の概略構成図である。
図3図3は、変形例に係る塗装金属板の製造方法に用いられる装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、建材等に用いることができる塗装金属板の製造方法に関し、更に詳しくは、金属基板の表面に樹脂、顔料及び溶剤を含む塗料を塗布した後、溶剤を蒸発させて顔料を金属基板に焼き付けて形成される塗装金属板の製造方法に関する。
【0011】
以下、本開示に係る塗装金属板の製造方法について、実施形態に基づいて説明する。なお、本開示に係る塗装金属板の製造方法の実施形態は、下記実施形態に限定されるものではなく、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0012】
第一実施形態に係る塗装金属板の製造方法について、図1に基づいて説明する。
【0013】
塗装金属板の製造方法は、塗装工程と、第一加熱工程と、第二加熱工程と、を備える。塗装工程は、金属基板1の表面に樹脂、顔料及び溶剤を含む塗料2を塗布する工程を有する。
【0014】
本実施形態にて用いる金属基板1としては、特に制限されるものではないが、例えばアルミニウムめっき鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム-亜鉛めっき鋼板、ステンレス板等を挙げることができる。また、このような金属基板1としては、長尺のものを用いることができる。
【0015】
金属基板1に塗装を施すにあたっては、長尺な金属基板1をコイル状に巻回したペイオフリール(不図示)から金属基板1を繰り出して連続的に搬送しながら、各種処理を施し、塗装処理後の金属基板1を所望の寸法に切断し、あるいは切断せずに再びコイル状に巻き取る連続処理工程により行うことができる。
【0016】
このような金属基板1への塗装工程に先立って、必要に応じてクロメート処理やリン酸亜鉛処理等といった化成処理や、金属基板1の表面の油脂、埃等の汚れの除去等の前処理を施し、この後に塗装工程を行ってもよい。
【0017】
また、金属基板1には、金属基板1の表面に上塗り塗膜を形成するための塗料2(上塗り塗料)を塗布する外層塗装を施すに先立って、必要に応じて適宜の下塗り塗膜を形成し、あるいは更に適宜の中塗り塗膜を形成することができる。
【0018】
下塗り塗膜を形成する場合、塗料(下塗り塗料)としては、例えばエポキシ樹脂やエポキシウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に、酸化チタン、微粉末クレー、炭酸カルシウム等の体質顔料や、防錆顔料などを分散させたエポキシ樹脂系塗料を用いることができる。防錆顔料としては、例えばクロム酸ストロンチウムやクロム酸カルシウム等のクロム酸塩を主体としたものを用いることができる。下塗り塗装にあたっては、このような組成を有する下塗り塗料を、金属基板1の一面に塗布するものであり、また場合によっては金属基板1の他面にも下塗り塗料を塗布する。また、金属基板1の他面には、下塗り塗料とは異なる組成を有する裏塗り塗料を塗布してもよい。下塗り塗料や裏塗り塗料の塗布は、浸漬、スプレー、はけ塗り、ロールコーター、エアーナイフ、静電塗布等から構成される適宜の塗布装置により行うことができる。
【0019】
下塗り塗料の塗布後は、下塗り塗料を金属基板1に対して焼き付け等により硬化させて、下塗り塗膜を形成することができる。
【0020】
下塗り塗膜の厚みは特に制限されず、適宜設定されるものであるが、3~25μmの範囲とすることが好ましい。
【0021】
また、中塗り塗膜を形成する場合、塗料(中塗り塗料)としてはプレコート用途の適宜の液状の塗料を用いることができるが、例えばポリエステル系、ウレタン系、アルキッド系や、フッ素系、アクリル系、塩化ビニル系等の塗料を用いることができる。中塗り塗料の塗布は、浸漬、スプレー、はけ塗り、ロールコーター、カーテンコーター、エアーナイフ、静電塗布等から構成される適宜の塗布装置により行うことができ、中塗り塗料の塗布後は、下塗り塗料を金属基板1に対して焼き付け等により硬化させて、中塗り塗膜を形成することができる。このときの中塗り塗膜の厚みは適宜調整されるが、乾燥塗膜厚みが5~40μm、特に10~30μmとなるようにすることが好ましい。このような中塗り塗膜を形成すると、塗料の塗布可能な塗膜厚の範囲内で塗装金属板における耐食性、耐候性、耐薬品性、隠蔽性等の塗膜性能を向上することができ、特に塗装金属板を外装建材として用いる場合に好適である。
【0022】
金属基板1に外層塗装を施すにあたっては、塗料2としては、上記中塗り塗料と同様にプレコート用途の適宜の液状の塗料を用いることができ、例えばポリエステル系、ウレタン系、アルキッド系塗料や、フッ素系、アクリル系、塩化ビニル系等の塗料を用いることができる。
【0023】
また、この塗料2としては、溶剤中に適宜の顔料を含有するものを用いる。このような顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄イエロー、酸化鉄レッド(ベンガラ)、アルミニウムフレーク、マイカフレーク、着色ガラスフレーク、有機ブルー(フタロシアニンブルー)などが挙げられる。このような顔料の塗料2中における配合割合は適宜の範囲とすることができるが、通常0.1~80重量%が好ましく、特に0.5~50重量%が好ましい。
【0024】
特に、塗料2中には顔料としてアルミニウム粉末、ニッケル粉末、銅粉末等の金属粉末を含有させることにより、塗膜にメタリックな外観を付与することができる。この金属粉末には、金属被覆を施したガラス粉などのような金属と無機物との複合物の粉末も含まれる。
【0025】
また金属粉末の平均粒径は5~80μmの範囲、特に10~30μmの範囲とすることが好ましい。この粒径が過大であると塗料2の塗布の際の塗布性が悪化し、ロールコーターにて塗布する場合に均一な塗布が困難となる。またこの粒径が過小であると、金属基板1に焼き付けられた顔料からなる外層塗膜に十分なメタリック感を付与することができず、また鱗片状の金属粉末を用いる場合にその配列の乱れによる光反射性の変化が十分に発揮されなくなる場合がある。
【0026】
このような金属粉末を用いる場合の、その塗料2中の配合量は、1~15重量%の範囲とすることが好ましい。
【0027】
塗料2の塗布にあたっては、塗布ロール3を回転させながらその周面に塗料2を供給した後、塗布ロール3の周面の塗料2を金属基板1の表面に接触させて塗料2を塗布し、次いでこの金属基板1を加熱ロール71に向けて搬送する。
【0028】
図1に示す例では、塗料2を貯留した塗料パン4の上方にピックアップロール5を配置する。ピックアップロール5は、その下部が塗料パン4中の塗料2に浸漬されるように配置される。また、ピックアップロール5は、塗布ロール3の周面がピックアップロール5の周面と接触するように配置される。この塗布ロール3と、塗布ロール3に対向して配設されるバックアップロール6との間を長尺な金属基板1が搬送されるようになっている。このとき、ピックアップロール5が回転駆動することによりピックアップロール5の周面に塗料2が供給され、ピックアップロール5の周面に供給された塗料2が、塗布ロール3の周面に供給される。更に、この塗布ロール3が回転することにより、塗料2が金属基板1の表面に供給されて塗布されるようになっている。塗料2が塗布された金属基板1は、加熱ロール71へと向けて搬送される。ここで、塗布ロール3の回転方向は、金属基板1の搬送方向に対して順方向でも逆方向でもよいが、図1に示す例では、金属基板1の搬送方向と逆方向に回転させている。
【0029】
第一加熱工程は、塗装工程の後、熱伝導により金属基板1を加熱する工程である。第一加熱工程における金属基板1の加熱は、金属基板1の表面に塗布された塗料2を介さずに行われる。第一加熱工程における金属基板1の加熱は、金属基板加熱装置7により行われる。
【0030】
金属基板加熱装置7は、塗料2を介して金属基板1を間接的に加熱するのではなく、塗料2を介さずに金属基板1を直接的に加熱する。本実施形態の金属基板加熱装置7は、金属基板1が接触する加熱ロール71を有する。加熱ロール71は、金属製で内部にヒータ70を有しており、内部のヒータ70により加熱ロール71自体が加熱される。加熱された加熱ロール71は、接触する金属基板1を熱伝導により加熱する。塗料2は、加熱ロール71による直接的な加熱は行われず、金属基板1からの熱伝導により加熱される。
【0031】
加熱ロール71は金属製でなくてもよく、所定の熱伝導性を有する材料で形成されていればよい。また、加熱ロール71自体を加熱するヒータ70は、電気ヒータをはじめとする各種ヒータが適宜利用可能である。また、加熱ロール71は、内部にヒータ70を有しなくてもよく、外部の熱源により加熱されるものであってもよい。
【0032】
第一加熱工程において、金属基板1の表面に塗布された塗料2には、加熱ロール71による直接的な加熱は行われない。このため、金属基板1の表面に塗布された塗料2の表面(すなわち金属基板1の表面と接している側と反対側の表面)が加熱されにくく、塗料2の表面の硬化が進行しにくい。
【0033】
塗料2は、金属基板1からの熱伝導により、金属基板1の表面と接している側から加熱される。このため、加熱された塗料2の内部の溶剤は、硬化が進行していない塗料2の表面から大気中に逃げやすく、塗料2からの蒸発が進行しやすい。
【0034】
以上のような第一加熱工程の後、第二加熱工程が行われる。第二加熱工程は、金属基板1の表面に塗布されている塗料2に熱風を吹きかけて塗料2を加熱する工程である。本実施形態では、第二加熱工程における塗料2の加熱は、加熱炉8により行われる。この第二加熱工程における塗料2の加熱は、特許文献1に開示されているように広く一般的に行われており、詳細な説明は省略する。
【0035】
第二加熱工程において、金属基板1の表面に塗布された塗料2の表面が、直接的に加熱される。第二加熱工程においては、塗料2の表面が加熱されて、塗料2の表面の硬化が進行する。塗料2の表面の硬化が進行するに従って、塗料2の内部の溶剤は塗料2の表面から逃げにくく塗料2から蒸発しにくくなるが、第一加熱工程において塗料2の内部の溶剤の蒸発が進行しているため、第二加熱工程において塗料2の内部に残留している溶剤は少なく、支障はない。
【0036】
第一加熱工程及び第二加熱工程を経て、塗料2に含有される溶剤を塗料2から蒸発させて顔料を金属基板1に焼き付け、金属基板1に外層塗膜が形成される。金属基板1に形成された外層塗膜は、残留している溶剤の含有率が従来例よりも低く、乾燥した良好な状態となる。
【0037】
次に、第二実施形態の塗装金属板の製造方法について、図2に基いて説明する。なお、第二実施形態の塗装金属板の製造方法は、第一実施形態の塗装金属板の製造方法と大部分において同じである。このため、第一実施形態と重複する説明については、説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0038】
第一実施形態の塗装金属板の製造方法においては、金属基板加熱装置7は、加熱ロール71を有するものであった。これに対して、第二実施形態の塗装金属板の製造方法においては、バックアップロール6が金属基板加熱装置7を兼用している。バックアップロール6は、金属製で内部にヒータ70を有しており、内部のヒータ70によりバックアップロール6自体が加熱される。加熱されたバックアップロール6は、接触する金属基板1を熱伝導により加熱する。塗料2は、バックアップロール6による直接的な加熱は行われず、金属基板1からの熱伝導により加熱される。
【0039】
バックアップロール6は金属製でなくてもよく、所定の熱伝導性を有する材料で形成されていればよい。また、バックアップロール6自体を加熱するヒータ70は、電気ヒータをはじめとする各種ヒータが適宜利用可能である。また、バックアップロール6は、内部にヒータ70を有しなくてもよく、外部の熱源により加熱されるものであってもよい。
【0040】
第二実施形態においても、第一加熱工程においては、金属基板1の表面に塗布された塗料2に直接的な加熱が行われないため、塗料2の表面が加熱されにくく、塗料2の表面の硬化が進行しにくい。この結果、加熱された塗料2の内部の溶剤は、硬化が進行していない塗料2の表面から大気中に逃げやすく、塗料2からの蒸発が進行しやすい。
【0041】
第一加熱工程及び第二加熱工程を経て形成された外層塗膜は、残留している溶剤の含有率が従来例よりも低く、乾燥した良好な状態となる。
【0042】
また、第二実施形態においては、バックアップロール6が金属基板加熱装置7を兼用するため、金属基板加熱装置7として大掛かりな装置を別途配置する必要がない。
【0043】
次に、第三実施形態の塗装金属板の製造方法について説明する。なお、第三実施形態の塗装金属板の製造方法は、第一実施形態及び第二実施形態の塗装金属板の製造方法と大部分において同じである。このため、第一実施形態及び第二実施形態と重複する説明については、説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0044】
第一実施形態及び第二実施形態の塗装金属板の製造方法においては、塗装工程の前に金属基板1を加熱する工程を備えていなかった。これに対して、第三実施形態の塗装金属板の製造方法においては、塗装工程の前、熱伝導により金属基板1を加熱する塗装前加熱工程を更に備える。
【0045】
第三実施形態では、金属基板加熱装置7は、金属基板1が接触する加熱ロール(不図示)をバックアップロール6の上流側に有する。この加熱ロールは、加熱ロール71と同様に、金属製で内部にヒータを有しており、内部のヒータにより加熱ロール自体が加熱される。加熱された加熱ロールは、接触する金属基板1を熱伝導により加熱する。
【0046】
このように、塗装工程の前に、熱伝導により金属基板1を加熱する塗装前加熱工程を備えることにより、塗装工程において粘度の高い塗料2の塗装を行いやすくなると共に、第一加熱工程及び第二加熱工程における加熱時間(乾燥時間)を短縮させやすくなる。また、塗装前の金属基板1の温度が140℃以下にされる場合、塗料2に含まれる溶剤の量を増やさずに粘度の低い塗料2とすることができる。
【0047】
次に、変形例としての塗装金属板の製造方法について、図3に基いて説明する。なお、変形例としての塗装金属板の製造方法は、第一実施形態の塗装金属板の製造方法と大部分において同じである。このため、第一実施形態と重複する説明については、説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0048】
第一実施形態の塗装金属板の製造方法においては、金属基板加熱装置7は、加熱ロール71を有するものであった。これに対して、変形例としての塗装金属板の製造方法においては、金属基板加熱装置7は、電磁誘導加熱装置72により構成される。電磁誘導加熱装置72は、電磁誘導加熱(Induction Heating)により金属基板1を加熱する。変形例においては、加熱ロール71は配置されないため、金属基板1はバックアップロール6から加熱炉8に向けて搬送される。電磁誘導加熱装置72は、バックアップロール6と加熱炉8との間に配置され、バックアップロール6から加熱炉8に向けて搬送される金属基板1を電磁誘導加熱により加熱する。
【0049】
変形例においても、第一加熱工程においては、金属基板1の表面に塗布された塗料2に直接的な加熱が行われないため、塗料2の表面が加熱されにくく、塗料2の表面の硬化が進行しにくい。この結果、加熱された塗料2の内部の溶剤は、硬化が進行していない塗料2の表面から大気中に逃げやすく、塗料2からの蒸発が進行しやすい。
【0050】
第一加熱工程及び第二加熱工程を経て形成された外層塗膜は、残留している溶剤の含有率が従来例よりも低く、乾燥した良好な状態となる。
【0051】
また、変形例においては、金属基板加熱装置7が電磁誘導加熱装置72により構成されるため、金属基板1の搬送経路にロール等の装置を配置する必要がなく、従来例と比較して金属基板1の搬送経路を大幅に変更したりする必要がない。
【0052】
本開示の塗装金属板の製造方法について実証実験を行ったので、以下に説明する。
【0053】
<鋼板>
厚さ0.35mmの溶融55%アルミニウム-亜鉛-マグネシウム合金めっき鋼板(日鉄鋼板株式会社製 エスジーエル)に、下地処理として、塗布型クロメート(日本パーカライジング株式会社製、型番:ZM1300)を50g/mの坪量で塗布する。
【0054】
<下塗り塗膜>
プライマー(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製、型番:P667S)を4.8g/mの坪量で塗布し、200℃で30秒間焼き付け処理を行って下塗り塗膜を形成する。
【0055】
<外層塗料>
塗料2(関西ペイント株式会社製、型番:GHK01)として、塗料粘度が60sec(フォードカップ、20℃)の低粘度塗料と、塗料粘度が180sec(フォードカップ、20℃)の高粘度塗料の二種類をそれぞれ金属基板1に塗布する。
【0056】
<評価試験片の製作>
まず、塗布型クロメートを塗布しためっき鋼板を用意する。
【0057】
次に、用意しためっき鋼板にプライマーを塗布して乾燥させ、金属基板1を構成する。
【0058】
次に、金属基板1に塗料2を上塗り塗装する。上塗り塗膜を二層以上の多層塗膜とする場合は、金属基板1に塗料2を塗装する上塗り塗装の工程を繰り返す。
【0059】
<実施例及び比較例>
実施例は番号1~5、11~15の計10例、比較例は番号6~10、16の計6例であり、以下において、それぞれ実施例1~5、実施例11~15、比較例6~10、16と記載する。
【0060】
実施例1~5及び比較例6~9は、第一実施形態及び第二実施形態におけるように塗装前加熱工程を備えない例であり、比較例10、実施例11~15及び比較例16は、第三実施形態におけるように塗装前加熱工程を備える例である。
【0061】
また、実施例1~5及び比較例6~9は、塗料2として塗料粘度が60sec(フォードカップ、20℃)の低粘度塗料を用いた例であり、比較例10、実施例11~15及び比較例16は、塗料粘度が180sec(フォードカップ、20℃)の高粘度塗料を用いた例である。
【0062】
また、比較例6~9の比較例は、第一加熱工程を備えていない例である。
【0063】
その他の試験条件及び評価結果を[表1]に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
<評価結果>
外観の評価として、“ワキ”の有無を評価した。“ワキ”とは、塗料2が乾燥する過程で、塗料2中に含まれる溶剤が蒸発して大気中に抜ける際に発生する塗膜欠陥である。塗料2が乾燥してなる上塗り塗膜の表層が、上塗り塗膜の内部よりも早く硬化すると発生しやすい。上塗り塗膜の表面に、目視で“ワキ”が発見できない場合を“○(良)”とし、“ワキ”が発見できる場合を“×(不良)”とした。
【0066】
また、外観の評価として、“ザラツキ”感の有無を評価した。“ザラツキ”感とは、上塗り塗膜の表面を触診した際の感覚をいう。これは、マクロ的には“ワキ”として認識できないが、ミクロ的には“ワキ”と同様に塗料2から溶剤が蒸発して大気中に抜ける際に形成される塗膜欠陥のひとつである。“ザラツキ”感が少ないほど上塗り塗膜の外観は美しい。上塗り塗膜の表面を直接に指で触診した際の感覚で、“ザラツキ”感が認められない場合を“○(良)”とし、“ザラツキ”感が認められる場合を“×(不良)”とした。
【0067】
また、外観の評価として、“ローピング”の有無を評価した。“ローピング”とは、上塗り塗膜の厚みがストリップ(金属基板1)の幅方向にSin曲線状に変化する現象である。ストリップの進行方向に“スジ”が入ったように見える。金属塗装業界では、この欠陥をローピング、リビング、あるいはロール目と呼んでいる。ローピングの評価は、ローピングが出やすい高粘度の塗料2を使用して行った。
【0068】
実施例1~5における上塗り塗膜の表面の外観は、比較例6~9に比べて優れている。また、実施例5と実施例6は、塗料2を塗布した後の加熱時間の合計は20(sec)で同じであるが、外観のみならず、加工や沸騰水に対する上塗り塗膜の耐性は、実施例5の方が比較例6に比べて優れていた。この理由については、熱伝導による第一加熱工程で塗料2内の溶剤の抜け方が促進されることが、上塗り塗膜の形成において、何らかの外観向上以上の効果をもたらしたと推察される。なお、加工性とは、上塗り塗膜を塗布した鋼板を180°折り曲げる限界を測定する方法(JIS K 3312常温20℃)で、折り曲げる際に試験片と同じ板厚のスペーサをT枚(T=1、2、3、・・・)まで挟むことができるかで評価する。挟めるスペーサの枚数が8T(8枚)より6T(6枚)の方が挟むスペーサの枚数が少ない分、曲げRが小さく厳しい加工まで可能であることを示す。また、耐沸騰水とは、上塗り塗膜にカッターで傷をつけて5時間沸騰水に浸漬した後に取り出し、セロファンテープを使って上塗り塗膜の密着性を評価したものである。セロファンテープで上塗り塗膜の剥離が発生すれば“×(不良)”、剥離が発生しなければ“○(良)”と判定した。
【0069】
実施例11~15及び比較例16は、いずれも塗装前加熱工程を備えた例であるが、塗装前加熱工程の板温度(金属基板1の温度)の条件を変えて“ワキ”の有無及び“ザラツキ”感に加えて“ローピング”の有無を評価した。
【0070】
塗装前加熱工程における加熱条件が適切であれば、実施例11~15に示す通り、ローピングは発生せず良好な表面外観を示した。一方、比較例10のように塗装前加熱工程における加熱温度が低いと、高粘度の塗料2ではローピングが発生する。また、逆に、塗装前加熱工程における加熱温度が高すぎると、比較例16のように、多数の上塗り塗膜の欠陥が発生するため、上塗り塗膜の表面は良好な外観とならない。
【0071】
なお、上述した第一実施形態、第二実施形態及び変形例においては、第二加熱工程において熱風を吹きかけるのは、塗料2であったが、第二加熱工程において熱風を吹きかけるのは塗料2でなくてもよい。すなわち、上述した実施形態及び変形例においては、金属基板1の表面に塗料2を塗布するのに先立って、下塗り塗膜及び中塗り塗膜を形成していたが、金属基板1の表面に下塗り塗膜及び中塗り塗膜を形成しなくてもよい。この場合、第二加熱工程において熱風を吹きかけるのは、金属基板1の表面に塗布された、第一実施形態、第二実施形態及び変形例における塗料2と同様の塗料である。
【0072】
以上、述べた第一実施形態、第二実施形態及び変形例から明らかなように、第1の態様の塗装金属板の製造方法は、塗装工程と、第一加熱工程と、第二加熱工程と、を備える。塗装工程は、金属基板1の表面に樹脂、顔料及び溶剤を含む塗料2を塗布する工程である。第一加熱工程は、塗装工程の後、熱伝導により金属基板1を加熱する工程である。第二加熱工程は、第一加熱工程の後、金属基板1の表面に塗布されている塗料2に熱風を吹きかけて塗料2を加熱する工程である。
【0073】
第1の態様によれば、第一加熱工程において、金属基板1の表面に塗布された塗料2には直接的な加熱は行われないため、金属基板1の表面に塗布された塗料2の表面が加熱されにくく、塗料2の表面の硬化が進行しにくい。また、塗料2は、金属基板1の表面と接している側から加熱されるため、加熱された塗料2の内部の溶剤は、硬化が進行していない塗料2の表面から大気中に逃げやすく、塗料2からの蒸発が進行しやすい。第一加熱工程及び第二加熱工程を経て、塗料2に含有される溶剤を塗料2から蒸発させて、金属基板1に外層塗膜が焼き付けられる。金属基板1に形成された塗膜は、残留している溶剤の含有率が低く、乾燥した良好な状態となる。
【0074】
第2の態様では、第1の態様との組み合わせにより実現され得る。第2の態様では、第一加熱工程において、金属基板1が接触する加熱ロール71を介した熱伝導により金属基板1を加熱する。
【0075】
第2の態様によれば、金属基板1の搬送経路に一般的に設置されるロール(加熱ロール71)により金属基板1を加熱することができる。
【0076】
第3の態様では、第1又は第2の態様との組み合わせにより実現され得る。第3の態様では、塗装工程の前、熱伝導により金属基板1を加熱する塗装前加熱工程を更に備える。
【0077】
第3の態様によれば、第一加熱工程及び第二加熱工程における加熱時間(乾燥時間)を短縮させやすくなる。
【符号の説明】
【0078】
1 金属基板
2 塗料
3 塗布ロール
4 塗料パン
5 ピックアップロール
6 バックアップロール
7 金属基板加熱装置
70 ヒータ
71 加熱ロール
72 電磁誘導加熱装置
8 加熱炉
図1
図2
図3