(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167284
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンド粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/28 20170101AFI20221027BHJP
C01B 32/26 20170101ALI20221027BHJP
【FI】
C01B32/28
C01B32/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021072995
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀一
(72)【発明者】
【氏名】松野 直良
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AC30B
4G146BA11
4G146BA15
4G146BB04
4G146BC11
4G146CA03
4G146CA16
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB14
4G146CB37
4G146DA07
(57)【要約】
【課題】粗ナノダイヤモンドを、ロス分の発生を抑制しつつ、スピーディーに水洗、乾燥を行って、高分散性を有し、水分の残存量が少ないナノダイヤモンド粉末を製造する方法を提供する。
【解決手段】本開示は、下記酸化処理工程、分離工程、水洗工程、及び乾燥工程を経て、粒径D50が500μm以下のナノダイヤモンド粉末を得る、ナノダイヤモンド粉末の製造方法に関する。
酸化処理工程:粗ナノダイヤモンド水分散液に酸化剤を添加して加熱する。
分離工程:酸化処理工程終了後の反応液をフィルター濾過し、濾物を得る。
水洗工程:分離工程を経て得られた濾物を水洗し、フィルター濾過する。
乾燥工程:水洗工程を経て得られた濾物と、球状メディアを乾燥容器に仕込み、前記球状メディアによって乾燥容器内を撹拌しながら、圧力-0.1~0.1MPa・G、60~150℃で加熱乾燥する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化処理工程、分離工程、水洗工程、及び乾燥工程を経て、粒径D50が500μm以下のナノダイヤモンド粉末を得る、ナノダイヤモンド粉末の製造方法。
酸化処理工程:粗ナノダイヤモンド水分散液に酸化剤を添加して加熱する。
分離工程:酸化処理工程終了後の反応液をフィルター濾過し、濾物を得る。
水洗工程:分離工程を経て得られた濾物を水洗し、フィルター濾過する。尚、前記フィルターの通気度は2cm3/cm2・min以上、10cm3/cm2・min未満である。
乾燥工程:水洗工程を経て得られた濾物と、比重4~9g/cm3の球状メディア(直径:5~50mm)を乾燥容器に仕込み、前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍であり、前記球状メディアによって乾燥容器内を撹拌しながら、圧力-0.1~0.1MPa・G、60~150℃で加熱乾燥する。
【請求項2】
前記水洗工程が下記水洗工程である、請求項1に記載のナノダイヤモンド粉末の製造方法。
水洗工程:分離工程を経て得られた濾物と、比重4~9g/cm3の球状メディア(直径:5~50mm)を水洗容器に仕込み、前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍であり、前記球状メディアによって水洗容器内を撹拌しながら、濾物を水洗し、フィルター濾過する。尚、前記フィルターの通気度は2cm3/cm2・min以上、10cm3/cm2・min未満である。
【請求項3】
前記酸化剤が混酸[硫酸/硝酸(重量比)=60/40~95/5]である、請求項1又は2に記載のナノダイヤモンド粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ナノダイヤモンド粉末のグラファイト含有量が40重量%以下である、請求項1~3の何れか1項に記載のナノダイヤモンド粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ナノダイヤモンド粉末の金属元素含有量が0.5重量%以下である、請求項1~4の何れか1項に記載のナノダイヤモンド粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ナノダイヤモンド粉末の水分含有量が10重量%以下である、請求項1~5の何れか1項に記載のナノダイヤモンド粉末の製造方法。
【請求項7】
爆轟法により粗ナノダイヤモンドを得、得られた粗ナノダイヤモンドの水分散液を酸化処理工程に付す、請求項1~6の何れか1項に記載のナノダイヤモンド粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノダイヤモンド粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノダイヤモンドとは、長径、短径、厚みのうち少なくとも1つが100nm以下の、比表面積が非常に大きい超微粒子のダイヤモンドであり、高い機械的強度と電気絶縁性、及び優れた熱伝導性を有する。また、消臭効果や抗菌効果も有する。そのため、研磨材、導電性付与材、絶縁材料、消臭剤、抗菌剤等として使用される。
【0003】
ナノダイヤモンドは爆轟法等により製造されるが、前記製造方法により得られる粗ナノダイヤモンドには反応に用いた容器等に由来する金属酸化物や、グラファイト等の副生物が多く混入し、これらの混入によりナノダイヤモンドの分散性が低下して凝集体を形成するため、上記特性が低下することが問題であった。
【0004】
そこで、粗ナノダイヤモンドに酸化剤を反応させて金属酸化物やグラファイト等の副生物をナノダイヤモンドから分離し、水洗し、その後、スプレードライヤー等で乾燥させることが行われている。
【0005】
前記水洗方法としては、酸化剤を反応させた後のナノダイヤモンドが仕込まれた反応缶に水を加えて撹拌し、ナノダイヤモンドの沈降後に上澄み液を抜き取って固液分離し、水に再分散する作業を繰り返し行う方法が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、例えば1kgのナノダイヤモンド粉末を製造する場合、前記水洗には4~5日程度かかり、更に乾燥にも24時間以上の時間がかかるため、作業効率が悪いことが問題であった。
【0006】
前記固液分離する方法としては、遠心分離処理を行う方法も考えられる。しかし、遠心分離処理を行う方法では、小さい粒子の回収が困難でありロス分が多く発生することや、ナノダイヤモンドは一旦凝集すると再分散し難いことが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本開示の目的は、粗ナノダイヤモンドを、ロス分の発生を抑制しつつ、スピーディーに水洗、乾燥を行って、高分散性を有し、水分の残存量が少ないナノダイヤモンド粉末を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の事項を見いだした。
1.酸化処理後の、不純物を含むナノダイヤモンドを、水洗し、特定の通気度を有するフィルターを用いて濾過すれば、ナノダイヤモンドのロスを抑制しつつ、スピーディーに不純物を洗浄水と共に除去することができること
2.ナノダイヤモンドを水洗する際に、ナノダイヤモンドと洗浄水の混合物中に特定のメディアを介在させて、混合物を撹拌すれば、ナノダイヤモンドに含まれる不純物の除去効果が向上すること
3.ナノダイヤモンドと洗浄水の混合物を濾過する際に、特定のメディアを介在させて混合物を撹拌すれば、ナノダイヤモンドによってケーキ層が形成されるのを防ぐことができ、ケーキ層により濾過フィルターが目詰まりして、濾液透過速度が低下するのを防ぐことができること
4.従来の乾燥方法では、乾燥工程中に水分を含むナノダイヤモンドが圧密化され、塊状物を形成していたが、塊状物の中に閉じ込められた水分は、乾燥させるのが非常に困難であり、これが乾燥時間の短縮を困難なものとしていること
5.水洗し、濾過した後の濾物を、特定のメディアを仕込んだ乾燥容器に仕込み、前記メディアによって撹拌しながら減圧加熱乾燥を行えば、ナノダイヤモンドの塊状物中に水分が中に閉じ込められるのを防ぐことができ、水分の残存量が極めて低いナノダイヤモンド粉末が得られること
本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本開示は、下記酸化処理工程、分離工程、水洗工程、及び乾燥工程を経て、粒径D50が500μm以下のナノダイヤモンド粉末を得る、ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
酸化処理工程:粗ナノダイヤモンド水分散液に酸化剤を添加して加熱する。
分離工程:酸化処理工程終了後の反応液をフィルター濾過し、濾物を得る。
水洗工程:分離工程を経て得られた濾物を水洗し、フィルター濾過する。尚、前記フィルターの通気度は2cm3/cm2・min以上、10cm3/cm2・min未満である。
乾燥工程:水洗工程を経て得られた濾物と、比重4~9g/cm3の球状メディア(直径:5~50mm)を乾燥容器に仕込み、前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍であり、前記球状メディアによって乾燥容器内を撹拌しながら、圧力-0.1~0.1MPa・G、60~150℃で加熱乾燥する。
【0011】
本開示は、また、前記水洗工程が下記水洗工程である前記ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
水洗工程:分離工程を経て得られた濾物と、比重4~9g/cm3の球状メディア(直径:5~50mm)を水洗容器に仕込み、前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍であり、前記球状メディアによって水洗容器内を撹拌しながら、濾物を水洗し、フィルター濾過する。尚、前記フィルターの通気度は2cm3/cm2・min以上、10cm3/cm2・min未満である。
【0012】
本開示は、また、前記酸化剤が混酸[硫酸/硝酸(重量比)=60/40~95/5]である前記ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
【0013】
本開示は、また、前記ナノダイヤモンド粉末のグラファイト含有量が40重量%以下である前記ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
【0014】
本開示は、また、前記ナノダイヤモンド粉末の金属元素含有量が0.5重量%以下である前記ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
【0015】
本開示は、また、前記ナノダイヤモンド粉末の水分含有量が10重量%以下である前記ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
【0016】
本開示は、また、爆轟法により粗ナノダイヤモンドを得、得られた粗ナノダイヤモンドの水分散液を酸化処理工程に付す前記ナノダイヤモンド粉末の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示のナノダイヤモンド粉末の製造方法によれば、不純物の含有量が低いため分散性に優れ、且つ水分残存量が低いナノダイヤモンド粉末を、ロス分の発生を抑制しつつ、スピーディーに製造することができる。
このようにして得られるナノダイヤモンド粉末は、機械的強度、電気絶縁性、熱伝導性、消臭効果、及び抗菌効果に優れる。そのため、本開示の製造方法により得られるナノダイヤモンド粉末は、研磨材、導電性付与材、絶縁材料、消臭剤、抗菌剤等に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本開示のナノダイヤモンド粉末の製造方法に使用可能な濾過乾燥機の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ナノダイヤモンド粉末の製造方法]
本開示のナノダイヤモンド粉末の製造方法は、下記[酸化処理工程]、[分離工程]、[水洗工程]、及び[乾燥工程]を経て、粒径D50が500μm以下のナノダイヤモンド粉末を得る方法である。
[酸化処理工程] 粗ナノダイヤモンド水分散液に酸化剤を添加して加熱する工程。
[分離工程] 酸化処理工程終了後の反応液をフィルター濾過し、濾物を得る工程。
[水洗工程] 分離工程を経て得られた濾物を水洗し、フィルター濾過する工程。
[乾燥工程] 水洗工程を経て得られた濾物と、比重4~9g/cm3の球状メディア(直径:5~50mm)を乾燥容器に仕込み、前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍であり、前記球状メディアによって乾燥容器内を撹拌しながら、圧力-0.1~0.1MPa・G、60~150℃で加熱乾燥する工程。
【0020】
本開示のナノダイヤモンド粉末の製造方法は、上記工程以外にも、必要に応じて他の工程を有していてもよい。
【0021】
<酸化処理工程>
酸化処理工程は、粗ナノダイヤモンド水分散液に酸化剤を添加して加熱する工程である。前記粗ナノダイヤモンドとは、不純物を含むナノダイヤモンドであり、本工程において、酸化剤を添加して加熱することにより、粗ナノダイヤモンドに含まれる不純物を、ナノダイヤモンドから除去し易い形態に変更することができる。
【0022】
前記酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、及び混酸(硫酸と硝酸の混合物)や、これらの塩が挙げられる。前記酸化剤としては、なかでも、混酸(硫酸と硝酸の混合物)を使用することが、不純物の除去効率に優れる点で好ましい。
【0023】
前記混酸における硫酸と硝酸の混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40~95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5~2atm)の下でも、反応温度を、例えば130℃以上(好ましくは130~200℃、特に好ましくは150~200℃)にまで上昇させることができ、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。前記硫酸と硝酸の混合割合の下限値は、好ましくは65/35、特に好ましくは70/30である。また、前記硫酸と硝酸の混合割合の上限値は、好ましくは90/10、特に好ましくは85/15、最も好ましくは80/20である。
【0024】
混酸における硝酸の割合が上記範囲を上回ると、高沸点を有する硫酸の含有量が少なく、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以下となり、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。一方、混酸における硝酸の割合が上記範囲を下回ると、グラファイトの酸化に大きく貢献する硝酸の含有量が少なくなるため、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。
【0025】
酸化剤(特に、前記混酸)の使用量は、粗ナノダイヤモンド1質量部に対して、例えば10~50質量部、好ましくは15~40質量部、特に好ましくは20~40質量部である。また、前記混酸中の硫酸の使用量は、粗ナノダイヤモンド1質量部に対して例えば5~48質量部、好ましくは10~35質量部、特に好ましくは15~30質量部であり、前記混酸中の硝酸の使用量は、粗ナノダイヤモンド1質量部に対して例えば2~20質量部、好ましくは4~10質量部、特に好ましくは5~8質量部である。
【0026】
ここで、上記酸化処理工程に付す粗ナノダイヤモンド水分散液に含まれる粗ナノダイヤモンドは、例えば、爆轟法により製造された粗ナノダイヤモンドである。
【0027】
爆轟法とは、爆薬を、耐圧性容器(例えば、鉄などの金属製容器)内に、大気組成の常圧の気体と共存した状態で密封して前記爆薬を爆轟させ、爆薬が部分的に不完全燃焼を起こすことにより遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によって粗ナノダイヤモンドを生成させる方法である。
【0028】
爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの重量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲である。
【0029】
このようにして得られた粗ナノダイヤモンドは、反応に用いた容器由来のAl、Fe、Co、Cr、Ni等の金属の酸化物(例えば、Fe2O3、Fe3O4、Co2O3、Co3O4、NiO、Ni2O3等)が金属性不純物として含まれ、前記金属性不純物はナノダイヤモンドの凝集の原因となる。また、グラファイト等の副生物が含まれる場合もあり、これもナノダイヤモンドの凝集の原因となる。
【0030】
従って、酸化処理工程に供する粗ナノダイヤモンドが含む不純物とは、グラファイト等の副生物や金属酸化物であり、粗ナノダイヤモンドを上記酸化処理に付すると、前記不純物を除去し易い形状に変更することができる。
【0031】
より詳細には、粗ナノダイヤモンドに含まれる金属の酸化物は、酸化剤で酸化することにより、イオン化して(=イオン性不純物となり)溶解する。また、粗ナノダイヤモンドに含まれるグラファイト等の副生物は、酸化剤で二酸化炭素にまで酸化され、容易に系外へ排出できるようになる。
【0032】
<分離工程>
分離工程は、酸化処理工程終了後の反応液をフィルター濾過し、濾物を得る工程である。
【0033】
前記反応液には、ナノダイヤモンドと、余剰の酸化剤と、金属酸化物由来のイオン性不純物が含まれる。
【0034】
前記フィルターとしては、通気度が例えば10cm3/cm2・min未満のフィルターを使用することができる。前記通気度は、好ましくは2cm3/cm2・min以上、10cm3/cm2・min未満、より好ましくは2~8cm3/cm2・min、特に好ましくは2~7cm3/cm2・min、最も好ましくは2~6cm3/cm2・min、とりわけ好ましくは2~5cm3/cm2・minである。通気度が前記範囲の濾過フィルターを使用すれば、ナノダイヤモンドのロス分の発生を抑制することができる。
【0035】
前記フィルターとしては、例えば、遠心分離濾過膜、フィルタープレス濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜、ナノフィルター、逆浸透膜等を挙げることができる。
【0036】
前記濾過フィルターの膜形状としては、例えば、中空糸型濾過膜、チューブラー膜、スパイラル膜、平膜等の何れであっても良い。
【0037】
前記濾過フィルターの材質としては、例えば、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、セラミックなどの一般的な材質を特に制限されることなく使用することができる。本開示においては、なかでも、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、芳香族ポリアミドが好ましい。
【0038】
前記反応液を濾過フィルターで濾過すると、余剰の酸化剤と金属酸化物由来のイオン性不純物は、ナノダイヤモンドに付着しているものを残して、大部分が、濾液として除去される。そして、濾過により得られる濾物は、ナノダイヤモンドと、ナノダイヤモンドに付着して残存した酸化剤と金属酸化物由来のイオン性不純物を含む。
【0039】
<水洗工程>
水洗工程は、分離工程を経て得られた濾物を水洗して、フィルター濾過することにより、濾物に含まれる不純物を、濾液と共に除去する工程である。
【0040】
水洗工程に付される濾物が含む不純物とは、酸化剤や金属酸化物由来のイオン性不純物であり、これらの不純物は水に溶解し易いため、水洗により容易に除去することができる。本工程を経て、前記不純物が除去された、湿状態のナノダイヤモンドが得られる。
【0041】
前記フィルターとしては、通気度が2cm3/cm2・min以上、10cm3/cm2・min未満のフィルターを使用する。前記通気度は、好ましくは2~8cm3/cm2・min、特に好ましくは2~7cm3/cm2・min、最も好ましくは2~6cm3/cm2・min、とりわけ好ましくは2~5cm3/cm2・minである。
【0042】
前記フィルターの好ましい形状や材質としては、上記分離工程において使用されるフィルターと同様である。
【0043】
前記濾物の水洗作業は、例えば、濾物を水洗容器に仕込み、そこへ水を加えて撹拌する方法で行うことができる。また、水洗後の濾物をフィルターで濾過する作業は、水洗容器内の濾物と洗浄水の混合物を、濾過フィルターを通過させる方法で行うことができる。
【0044】
前記水洗容器としては、耐食性に優れた材質(例えば、Ni,Cr,Mo等の合金)の容器を使用することが好ましい。
【0045】
また、濾物を水洗容器に仕込み、そこへ水を加えて撹拌する水洗作業は、水洗容器に濾物と共に球状メディアを仕込み、前記球状メディアによって水洗容器内を撹拌しながら行うことが、濾物からの不純物の除去効率を顕著に向上する効果が得られる点において好ましい。
【0046】
さらに、濾物と洗浄水の混合物を濾過フィルターで濾過する作業は、水洗容器に球状メディアを仕込み、前記球状メディアによって前記混合物を撹拌しながら行うことが好ましい。これにより、濾物がケーキ層を形成するのを防ぐことができ、ケーキ層により濾過フィルターの目詰まりが抑制されるので、濾液の透過速度の低下が抑制される効果、若しくは濾液の透過速度を向上させる効果が得られるためである。
【0047】
前記球状メディアによって水洗容器内を撹拌する方法としては、例えば、球状メディアが仕込まれた水洗容器を回転させる方法等が挙げられる。水洗容器の回転速度は、例えば1~10rpm程度である。
【0048】
球状メディアを使用した場合の濾液透過速度は、例えば15kg/Hr・m2以上、好ましくは30kg/Hr・m2以上、より好ましくは40kg/Hr・m2以上、より好ましくは45kg/Hr・m2以上、より好ましくは50kg/Hr・m2以上、更に好ましくは55kg/Hr・m2以上である。尚、濾液透過速度の上限値は、例えば100kg/Hr・m2である。
【0049】
前記水洗-濾過作業は、濾液のpH或いは電気伝導度が下記範囲となるまで繰り返し行うことが、不純物の混入量が極めて低いナノダイヤモンド粉末を得る上で好ましい。
【0050】
前記水洗-濾過作業は、濾液のpHが、より酸性側から、2.0以上(例えば2.0~7.0、好ましくは3.0~7.0、特に好ましくは3.5~7.0)となるまで繰り返し行うことが、不純物の混入量が極めて低いナノダイヤモンド粉末を得る上で好ましい。
【0051】
また、前記水洗-濾過作業は、濾液の電気伝導度が3000μS/cm以下(好ましくは2000μS/cm以下、より好ましくは1000μS/cm以下、更に好ましくは500μS/cm以下、更に好ましくは300μS/cm以下、更に好ましくは200μS/cm以下、特に好ましくは100μS/cm以下、最も好ましくは50μS/cm以下)となるまで繰り返し行ってもよい。濾液の電気伝導度が上記範囲になるまで膜濾過を繰り返し行うと、不純物の混入量が極めて低いナノダイヤモンド粉末を得ることができる。
【0052】
前記球状メディアの比重は、例えば4~9g/cm3、好ましくは5~8g/cm3である。前記球状メディアは、例えば鉄製の球状メディアである。前記比重を有する球状メディアを使用すれば、濾物に効率よく衝撃応力を付与して、濾物が塊状物を形成するのを防止することができ、これにより、濾物中に含まれる不純物の除去効率を向上することができる。
【0053】
前記球状メディアが鉄等の高硬度の素材で形成されている場合には、前記球状メディアの表面は、例えば、ナイロン等のプラスチック等で表面が被覆されていることが、水洗容器内部の損傷を防止することができる点において好ましい。
【0054】
前記球状メディアの直径は5~50mmであり、好ましくは5~30mm、特に好ましくは5~20mmである。前記範囲の直径を有する球状メディアを使用すれば、濾物に効率よく衝撃応力を付与して、濾物が塊状物を形成するのを防止することができ、これにより、濾物中に含まれる不純物の除去効率を向上することができる。
【0055】
前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍である。仕込み量の上限値は、好ましくは50倍、より好ましくは20倍、更に好ましくは10倍、特に好ましくは8倍、最も好ましくは6倍、とりわけ好ましくは5倍である。仕込み量の下限値は、好ましくは1.5倍、特に好ましくは2倍、最も好ましくは4倍である。
【0056】
また、前記球状メディアの仕込み量は、前記球状メディアの投影面積(複数の球状メディアを使用する場合はその合計面積)と濾過フィルターの表面積の比(前者/後者)が、例えば0.05~0.8に相当する量である。前記下限値は、好ましくは0.07、特に好ましくは0.10、最も好ましくは0.13である。前記上限値は、好ましくは0.7、特に好ましくは0.6、最も好ましくは0.5、とりわけ好ましくは0.3である。
【0057】
球状メディアを前記範囲で仕込めば、濾液透過速度の低下及びロス分の発生を抑制しつつ、濾物に効率よく衝撃応力を付与して、濾物が塊状物を形成するのを防止することができ、これにより、濾物の塊状物中に水分が残存するのを防止することができる。
【0058】
前記濾物のケーキ層厚み(球状メディアを使用する場合は、濾物と球状メディアのケーキ層の合計厚み)は、不純物の除去効率と、作業効率を両立させる観点から、例えば0.5~10.0cm(好ましくは0.5~5.0cm、特に好ましくは0.5~3.0cm)となる範囲に設定することが好ましい。
【0059】
<乾燥工程>
乾燥工程は、水洗工程を経て得られた濾物を球状メディアと共に、乾燥容器に仕込み、仕込み後の乾燥容器を回転させながら、減圧加熱乾燥する工程である。本工程を経て、ナノダイヤモンド粉末が得られる。
【0060】
乾燥容器の圧力は圧力-0.1~0.1MPa・Gであり、好ましくは-0.1~0.05MPa・G、特に好ましくは-0.1~0MPa・Gである。
【0061】
乾燥容器での加熱乾燥温度は60~150℃であり、好ましくは60~120℃、特に好ましくは70~100℃、最も好ましくは70~90℃である。
【0062】
従って、前記乾燥容器としては、耐熱性に優れた材質(例えば、Ni,Cr,Mo等の合金)の容器を使用することが好ましい。
【0063】
また、上記水洗工程と乾燥工程は、例えば、耐食性及び耐熱性に優れた材質の水洗・乾燥容器を備えた濾過乾燥機(すなわち、濾過、洗浄、及び乾燥処理を単一機械内で行うことができる装置)を使用して、上記水洗工程と乾燥工程とを連続的に行ってもよい。
【0064】
図1に濾過乾燥機の一例を示す。
図1に記載の濾過乾燥機は、水洗・乾燥容器1が回転軸5を中心に回転可能である。そして、水洗・乾燥容器1には加圧口6と濾過フィルター2が設置され、水洗・乾燥容器1に仕込み口3から、反応液、球状メディア、洗浄水を仕込むことができ、濾過フィルター2を透過した濾液等は排出口4から排出することができる。
【0065】
乾燥容器の回転速度は、例えば1~10rpm、好ましくは5~10rpmである。前記速度で乾燥容器を回転させることで、乾燥容器内部において、球状メディアを適度な速度で濾物に衝突させて濾物に衝撃応力を付与することができる。これにより、乾燥中に濾物が圧密化されて塊状物を形成した場合にはこれを破砕することができ、塊状物中に閉じ込められた水分が乾燥せずに残存するのを防止することができる。
【0066】
前記球状メディアの比重及び直径の好ましい範囲は、上記水洗工程で使用される球状メディアと同様である。このような球状メディアを使用すれば、濾物に効率よく衝撃応力を付与して、濾物が塊状物を形成するのを防止することができ、これにより、濾物の塊状物中に水分が残存するのを防止することができる。
【0067】
また、前記球状メディアとしては鉄製の球状メディアが好ましく、特に、鉄製の球状メディアの表面は、例えば、ナイロン等のプラスチック等で表面が被覆されていることが、乾燥容器内部の損傷を防止することができる点において好ましい。
【0068】
前記球状メディアの仕込み量は、前記濾物重量の1~100倍であり、好ましくは1~10倍、特に好ましくは1~5倍である。球状メディアを前記範囲で仕込めば、濾物に効率よく衝撃応力を付与して、濾物が塊状物を形成するのを防止することができ、これにより、濾物の塊状物中に水分が残存するのを防止することができる。
【0069】
上記工程を経て得られるナノダイヤモンド粉末の水分含有量は、例えば10重量%以下、好ましくは7重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。
【0070】
上記工程を経て得られるナノダイヤモンド粉末のグラファイト含有量は、例えば40重量%以下、好ましくは30重量%以下、特に好ましくは25重量%以下である。
【0071】
上記工程を経て得られるナノダイヤモンド粉末の金属元素含有量は、例えば0.5重量%以下、好ましくは0.重量2%以下、特に好ましくは0.1重量%以下である。
【0072】
上記の通り前記ナノダイヤモンド粉末はグラファイトや金属元素含有量が低い。そのため、前記ナノダイヤモンド粉末は高分散性を有する。前記ナノダイヤモンド粉末の粒径D50は500μm以下であり、好ましくは1~300μm、特に好ましくは1~150μmである。
【0073】
本開示の製造方法により得られるナノダイヤモンド粉末は、不純物や水分の含有量が低く、高分散性を有するため、ナノダイヤモンドの特性(高い機械的強度、電気絶縁性、優れた熱伝導性、消臭効果、抗菌効果)を高度に発現することができる。そのため、前記ナノダイヤモンド粉末は、研磨材、導電性付与材、絶縁材料、消臭剤、抗菌剤等に好適に使用できる。
【0074】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0075】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【0076】
実施例1
(生成工程)
爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体が使用爆薬と共存する状態で容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物(TNT/RDX(重量比)=50/50)0.50kgを使用した。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着している粗ナノダイヤモンドをヘラで掻き取って回収した。
【0077】
(酸化処理工程)
粗ナノダイヤモンド100gに、98重量%硫酸水溶液6Lと69重量%の硝酸1Lの混酸を5L加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下、140~160℃の温度で48時間の加熱処理を行った。
【0078】
(水洗処理工程)
濾過フィルター(商品名「P2704C」、大川原製作所製、通気度:3cm3/cm2/min)を設置した濾過乾燥機(大川原製作所製、FVD-lab、内容積4.2L)に、酸化処理工程終了後の反応液3Lを仕込み、コンプレッサーエアーを用いて、濾過乾燥機内部を0.19MPaGに加圧してから、前記濾過フィルターを通して濾液を系外へ排出した。
濾過乾燥機内には濾物が残存しており、そこに、ミリQ水3Lと、ナイロンコーティング鉄球(直径:6.3mm、比重:約8g/cm3)200個(前記濾物の重量の3倍に相当する量であり、球の投影面積/濾過フィルターの表面積(比)=0.33)を加えて、濾過乾燥機本体を10rpmにて5分間回転させた(洗浄)。
次いで、コンプレッサーエアーを用いて、濾過乾燥機内部を0.19MPaGに加圧して濾液を排出させた(排水)。
濾液の排出が終わってから加圧を解除し、排出されたのと同量のミリQ水を加えて再度洗浄し、加圧して排出した。この洗浄と排出の作業を、濾液のpHが5、濾液の電気伝導度が100μS/cm以下となるまで繰り返した。水洗処理に要した時間は、20時間であった。
【0079】
(乾燥処理工程)
次に、濾過乾燥機(機内には、濾物とナイロンコーティング鉄球が存在する)のジャケットに80℃の温水を通液して、濾過乾燥機を加温し、機内圧力を-0.1MPaGとなるまで減圧して、10時間、10rpmの速度で濾過乾燥機を回転させて、ナノダイヤモンド粉末1を得た。
【0080】
ナノダイヤモンド粉末1のメディアン径(D50)を、以下の方法で測定した。その結果、500μm以下であった。
<メディアン径の測定>
HORIBA社製の装置(商品名「Partica LA-960」)を使用して、レーザー回折法によって測定した。測定試料には、ナノダイヤモンド粉末の濃度が0.5~2.0重量%となるように超純水で希釈し、超音波洗浄機による超音波照射を行って得られたナノダイヤモンド分散液を使用した。
【0081】
また、ナノダイヤモンド粉末1のグラファイト含有量を、ラマン分光法によるグラファイトピーク面積/ナノダイヤモンドピーク面積(比)で求めた。その結果、25重量%以下であった。
【0082】
さらに、ナノダイヤモンド粉末1の金属元素含有量を以下の方法で測定した。その結果、0.1重量%以下であった。
〈金属元素含有量の測定〉
ナノダイヤモンド粉末1を磁性るつぼに入れた状態で電気炉内にて乾式分解を行った。この乾式分解は、450℃で1時間の条件、これに続く550℃で1時間の条件、及びこれに続く650℃で1時間の条件にて、3段階で行った。このような乾式分解の後、磁性るつぼ内の残留物について、磁性るつぼに濃硫酸0.5mLを加えて蒸発乾固させた。そして、得られた乾固物を最終的に20mLの超純水に溶解させた。このようにして分析サンプルを調製した。
得られた分析サンプルを、ICP発光分光分析装置(商品名「CIROS120」,リガク社製)によるICP発光分光分析に供した。本分析では、空のるつぼで同様に操作および分析して得られた測定値を、測定試料についての測定値から差し引き、測定試料中の金属成分濃度を求めた。
【0083】
さらにまた、ナノダイヤモンド粉末1の水分含有量を加熱乾燥法によって求めた。すなわち、ナノダイヤモンド粉末を赤外線照射により加熱乾燥させ、水分の蒸発による質量変化から水分率を測定した。結果は下記表に示す。
【0084】
実施例2
ナイロンコーティング鉄球(直径:6.3mm、比重:約8g/cm3)を200個使用したのに代えて、ナイロンコーティング鉄球(直径:19.0mm、比重:約8g/cm3)を10個(前記濾物の重量の5倍に相当する量であり、球の投影面積/濾過フィルターの表面積(比)=0.14)使用した以外は実施例1と同様に行って、ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0085】
実施例3
ナイロンコーティング鉄球(直径:6.3mm、比重:約8g/cm3)を200個使用したのに代えて、ナイロンコーティング鉄球(直径:12.7mm、比重:約8g/cm3)を100個(前記濾物の重量の15倍に相当する量であり、球の投影面積/濾過フィルターの表面積(比)=0.67)使用した以外は実施例1と同様に行って、ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0086】
実施例4
ナイロンコーティング鉄球(直径:6.3mm、比重:約8g/cm3)の使用量を200個から80個(前記濾物の重量の1.2倍に相当する量であり、球の投影面積/濾過フィルターの表面積(比)=0.125)に変更した以外は実施例1と同様に行って、ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0087】
比較例1
濾過乾燥機に設置する濾過フィルターを、商品名「T89-1C」(大川原製作所製、通気度:10cm3/cm2/min)に変更した以外は実施例1と同様に水洗工程を行った。その結果、ナノダイヤモンド粉末が濾過フィルターを通過してしまい、多くのロスが発生した。
【0088】
比較例2
ナイロンコーティング鉄球を使用せずに水洗処理工程及び乾燥工程を行った以外は実施例1と同様に行って、ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0089】
実施例2~4、及び比較例1,2で得られたナノダイヤモンド粉末について、実施例1と同様の方法で水分含有量を求めた。結果は下記表に示す。
【0090】
また、実施例及び比較例で得られたナノダイヤモンド粉末の分散性を以下の方法で評価した。
<評価方法>
ナノダイヤモンド粉末を透明容器に入れ、目視で5mm以上の塊状のものの概ねの体積比率を観察し、下記基準で評価した。
<評価基準>
○: 5%以下
△: 5%を超え、20%以下
×: 20%超
【0091】