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特開2022-167310耐火被覆鋼材の設計方法、耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材並びに耐火被覆鋼材の設計プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167310
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】耐火被覆鋼材の設計方法、耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材並びに耐火被覆鋼材の設計プログラム
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
E04B1/94 A ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073037
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】小野木 武司
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA06
2E001GA12
2E001GA52
2E001GA65
2E001GA66
2E001KA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐火被覆鋼材の耐火性能を損なうことなく、耐火被覆材の厚みを簡易かつ適切に設計することを可能とする、耐火被覆鋼材の設計方法を提供する。
【解決手段】鋼材及び厚みt(mm)の耐火被覆材を備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計方法であって、温度Tとひずみεとひずみ速度εとを変数とする鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、第1ステップにおいて求めた1%ひずみ時応力-温度関係に、鋼構造物として使用された場合の設計荷重を導入して対応する温度T’を求め、温度T’を鋼材が破損しない鋼材許容温度とする第2ステップと、第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みを決定する第3ステップと、を備えた耐火被覆鋼材の設計方法を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計方法であって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、を備えた耐火被覆鋼材の設計方法。
【請求項2】
前記関数式が、下記(1)式である、請求項1に記載の耐火被覆鋼材の設計方法。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (1)
但し、式(1)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
【請求項3】
鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の製造方法であって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、
前記第3ステップにより得られた厚みtの前記耐火被覆材によって前記鋼材を被覆することにより、前記耐火被覆鋼材を製造する第4ステップと、
を備えた耐火被覆鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記関数式が、下記(2)式である、請求項3に記載の耐火被覆鋼材の製造方法。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (2)
但し、式(2)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
【請求項5】
鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材であって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、により決定された厚みtの耐火被覆材を有する、耐火被覆鋼材。
【請求項6】
前記関数式が、下記(3)式である、請求項5に記載の耐火被覆鋼材。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (3)
但し、式(3)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
【請求項7】
前記鋼材は、20℃における降伏強さσが235N/mm以上である、請求項5または請求項6に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項8】
前記鋼材は、20℃における降伏強さσが335N/mm以上である、請求項5または請求項6に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項9】
前記鋼材は、20℃における降伏強さσが355N/mm以上である、請求項5または請求項6に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項10】
前記鋼材は、20℃における降伏強さσが385N/mm以上である、請求項5または請求項6に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項11】
前記鋼材は、H形鋼、角形鋼管、円形鋼管のいずれかである請求項5乃至請求項10の何れか一項に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項12】
前記鋼材が前記H形鋼からなる場合に、前記鋼構造物における大梁または小梁のいずれかに用いる、請求項11に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項13】
前記鋼材が前記角形鋼管または前記円形鋼管からなる場合に、前記鋼構造物における柱に用いる、請求項11に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項14】
前記耐火被覆材が、吹付層、塗装層、成形板、巻付け体のいずれかである、請求項5乃至請求項13の何れか一項に記載の耐火被覆鋼材。
【請求項15】
鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計プログラムであって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、を備えた耐火被覆鋼材の設計プログラム。
【請求項16】
前記関数式が、下記(4)式である、請求項15に記載の耐火被覆鋼材の設計プログラム。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (4)
但し、式(4)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火被覆鋼材の設計方法、耐火被覆鋼材の製造方法及び耐火被覆鋼材並びに耐火被覆鋼材の設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の強度は、高温になるにつれて低下することが知られている。そこで、建築物の構造部材に鋼材を使用する場合は、火災発生時に居住者や利用者等が避難する間に建築物が崩壊しないよう耐火性能を確保する必要がある。そのため、構造部材として梁材にH形鋼などを使用する場合は、H形鋼の外表面を耐火被覆材で被覆している(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6409396号公報
【特許文献2】特許第4198292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高温時に鋼材の強度が低下することは従来から知られているものの、実際に高温下で鋼材の引張試験を行うには、高温状態の鋼材を取り扱う必要がある。しかし、実際には、高温状態の鋼材の取り扱いが難しいことから、常温での試験に比べて試験例が少なく、散発的な試験結果しか得られていないのが現状である。
【0005】
また、例えば日本産業規格(JIS規格)では、鋼材の引張試験の試験条件として、0.3%/分のひずみ速度で試験を行うことが推奨されている。このため、鋼構造物の耐火性能を評価する際には、0.3%/分のひずみ速度が慣用されている。しかし、鋼構造物からなる建築物が火災等に見舞われて破壊する際には、梁や柱に対して、0.3%/分を大幅に超えるひずみ速度に対応する負荷が加わることが、最近の研究で明らかになりつつある。このように、ひずみ速度が高くなると、鋼材の高温強度が想定以上に高くなる可能性がある。従って、従来から慣用されていた試験方法に基づいて試験が行なわれ、その試験結果に基づいて設計された耐火被覆鋼材は、そもそもの設計の前提が実態と異なっているために、耐火性能が過剰に見積もられている可能性がある。
【0006】
また、耐火被覆鋼材において鋼材を被覆する耐火被覆材の厚みを設計する際には、実物大の梁材や柱材を用意し、これら梁材や柱材に模擬的に負荷を加えたまま加熱することにより、その変形挙動を見極めた上で、経験則に基づき耐火被覆材の厚みを決定しているが、その厚みの決定には多大な手間と時間を要する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なうことなく、耐火被覆材の厚みを簡易かつ適切に設計することを可能とする、耐火被覆鋼材の設計方法及び耐火被覆鋼材の製造方法並びに耐火被覆鋼材の設計プログラムを提供することを課題とする。
また、本発明は、耐火性能を損なわない程度の厚みの耐火被覆材を備えた、耐火被覆鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計方法であって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、を備えた耐火被覆鋼材の設計方法。
[2] 前記関数式が、下記(1)式である、[1]に記載の耐火被覆鋼材の設計方法。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (1)
但し、式(1)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
[3] 鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の製造方法であって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、
前記第3ステップにより得られた厚みtの前記耐火被覆材によって前記鋼材を被覆することにより、前記耐火被覆鋼材を製造する第4ステップと、
を備えた耐火被覆鋼材の製造方法。
[4] 前記関数式が、下記(2)式である、[3]に記載の耐火被覆鋼材の製造方法。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (2)
但し、式(2)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
[5] 鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材であって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、により決定された厚みtの耐火被覆材を有する、耐火被覆鋼材。
[6] 前記関数式が、下記(3)式である、[5]に記載の耐火被覆鋼材。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (3)
但し、式(3)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
[7] 前記鋼材は、20℃における降伏強さσが235N/mm以上である、[5]または[6]に記載の耐火被覆鋼材。
[8] 前記鋼材は、20℃における降伏強さσが335N/mm以上である、[5]または[6]に記載の耐火被覆鋼材。
[9] 前記鋼材は、20℃における降伏強さσが355N/mm以上である、[5]または[6]に記載の耐火被覆鋼材。
[10] 前記鋼材は、20℃における降伏強さσが385N/mm以上である、[5]または[6]に記載の耐火被覆鋼材。
[11] 前記鋼材は、H形鋼、角形鋼管、円形鋼管のいずれかである[5]乃至[10]の何れか一項に記載の耐火被覆鋼材。
[12] 前記鋼材が前記H形鋼からなる場合に、前記鋼構造物における大梁または小梁のいずれかに用いる、[11]に記載の耐火被覆鋼材。
[13] 前記鋼材が前記角形鋼管または前記円形鋼管からなる場合に、前記鋼構造物における柱に用いる、[11]に記載の耐火被覆鋼材。
[14] 前記耐火被覆材が、吹付層、塗装層、成形板、巻付け体のいずれかである、[5]乃至[13]の何れか一項に記載の耐火被覆鋼材。
[15] 鋼材と、前記鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計プログラムであって、
温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする前記鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める第1ステップと、
前記第1ステップにおいて求めた前記1%ひずみ時応力-温度関係に、前記鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、前記温度T’を前記鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする第2ステップと、
前記第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から前記耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する第3ステップと、を備えた耐火被覆鋼材の設計プログラム。
[16] 前記関数式が、下記(4)式である、[15]に記載の耐火被覆鋼材の設計プログラム。
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (4)
但し、式(4)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐火被覆鋼材の設計方法では、第1ステップにおいて、温度T(℃)、ひずみε(%)及びひずみ速度ε(%/分)を変数とする、鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式に基づき、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める。この、1%ひずみ時応力-温度関係を用いることにより、従来より慣用されていたひずみ速度(=0.3%/分)とは異なるひずみ速度での、1%ひずみ時応力と温度との関係が得られる。この関係から、火災により建築物が破壊される際の鋼材に加わるひずみ速度における、鋼材の高温強度特性を評価することが可能になる。
次に、第2ステップにおいて、1%ひずみ時応力と温度との関係に、鋼材が鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して、温度T’を求める。この温度T’は、鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)となる。
次に、第3ステップにおいて、鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する。決定された耐火被覆材の厚みt(mm)は、従来慣用されていたひずみ速度(=0.3%/分)を前提として設計された耐火被覆材の厚み場合に比べて、小さな厚みとなる。
以上により、本発明の耐火被覆鋼材の設計方法によれば、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なわずに、耐火被覆材の厚みを適切に設計することができる。本発明によって得られる耐火被覆材の厚みの設計値は、従来の手法により決定される耐火被覆材の厚みよりも薄くなる。このため、本発明に係る設計方法により設計された耐火被覆材を備えた建築物においては、耐火被覆材が占有するスペースが縮小されるようになり、建物内における居住スペースや利用スペースを拡大することが可能になる。
【0010】
また、本発明の耐火被覆鋼材の製造方法によれば、上記の第1~第3ステップに加えて、第4ステップにおいて、第3ステップにより得られた厚みtの耐火被覆材によって鋼材を被覆することにより、耐火被覆鋼材を製造するので、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なわずに、耐火被覆材の厚みが適切に設計された耐火被覆鋼材を製造できる。
【0011】
また、本発明の耐火被覆鋼材によれば、鋼材を被覆する耐火被覆材の厚みが、上記の第1~第3ステップによって設計された厚みtであるので、耐火性能を損なうことなく、耐火被覆材の厚みを適切な厚みにすることができる。
【0012】
また、本発明の耐火被覆鋼材の設計プログラムによれば、第1ステップにおいて、温度T(℃)、ひずみε(%)及びひずみ速度ε(%/分)を変数とする、鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式に基づき、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める。この、1%ひずみ時応力-温度関係を用いることにより、従来より慣用されていたひずみ速度(=0.3%/分)とは異なるひずみ速度での、1%ひずみ時応力と温度との関係が得られる。この関係から、火災により建築物が破壊される際の鋼材に加わるひずみ速度における、鋼材の高温強度特性を評価することが可能になる。
次に、第2ステップにおいて、1%ひずみ時応力と温度との関係に、鋼材が鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して、温度T’を求める。この温度T’は、鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)となる。
次に、第3ステップにおいて、鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する。決定された耐火被覆材の厚みt(mm)は、従来慣用されていたひずみ速度(=0.3%/分)を前提として設計された耐火被覆材の厚み場合に比べて、小さな厚みとなる。
以上により、本発明の耐火被覆鋼材の設計プログラムによれば、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なわずに、耐火被覆材の厚みを適切に設計することができる。本発明によって得られる耐火被覆材の厚みの設計値は、従来の手法により決定される耐火被覆材の厚みよりも薄くなる。このため、本発明に係る設計方法により設計された耐火被覆材を備えた建築物においては、耐火被覆材が占有するスペースが縮小されるようになり、建物内における居住スペースや利用スペースを拡大することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、温度Tとひずみ速度鋭敏性係数mとの関係を示すグラフである。
図2A図2Aは、600℃において鋼からなる試験片を、0.3%/分のひずみ速度でひずみを加えた場合の応力ひずみ曲線を示す図であって、実測曲線及び推測曲線を示す図である。
図2B図2Bは、600℃において鋼からなる試験片を、3.0%/分のひずみ速度でひずみを加えた場合の応力ひずみ曲線を示す図であって、実測曲線及び推測曲線を示す図である。
図2C図2Cは、600℃において鋼からなる試験片を、7.5%/分のひずみ速度でひずみを加えた場合の応力ひずみ曲線を示す図であって、実測曲線及び推測曲線を示す図である。
図3図3は、1%ひずみにおける応力(N/mm)と温度Tとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態である耐火被覆鋼材の設計方法及び耐火被覆鋼材の製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態の耐火被覆鋼材の設計方法は、鋼材と、鋼材の表面を覆う厚みt(mm)の耐火被覆材とを備えた鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計方法であって、第1ステップ、第2ステップ及び第3ステップからなる。
【0016】
第1ステップは、温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める。
【0017】
第2ステップでは、第1ステップにおいて求めた1%ひずみ時応力-温度関係に、鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、温度T’を鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする。
【0018】
第3ステップでは、第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する。
【0019】
また、本実施形態の耐火被覆鋼材の製造方法は、上記の第1ステップ~第3ステップに加えて、第4ステップを備える。第4ステップでは、第3ステップにより得られた厚みtの耐火被覆材によって鋼材を被覆することにより、耐火被覆鋼材を製造する。
【0020】
以下、各ステップについて説明する。
【0021】
(第1ステップ)
第1ステップでは、まず、鋼材の応力ひずみ曲線の関数式を推測する。
【0022】
関数式として、温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を用いることができる。関数式の一例を、下記式(1)に示す。式(1)における各種のパラメータを適切に設定することにより、限られた実験データによって、応力とひずみεとの関係からなる応力ひずみ曲線を、温度Tおよびひずみ速度ε(%/分)を変数とする関数として推測することが可能になる。例えば、630℃、ひずみ速度0.7%/分で引張試験を行った場合の応力ひずみ曲線を推測できるようになる。
【0023】
なお、鋼の高温強度特性は鋼種毎に異なるので、式(1)は鋼種毎に求めるとよい。
【0024】
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε … (1)
【0025】
式(1)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。また、式(1)の左辺であるσ(T,ε,ε)は、応力ひずみ曲線における応力の推測値であって、温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とにより推測される推測値である。
【0026】
式(1)中の基準応力σは、下記の式(2)~式(5)で与えられる。各式(2)~(5)におけるパラメータは次の通りである。これらパラメータσ、σ、ε、εst、ε、σ20、ε20、k、n及びαは何れも、温度Tの関数である。
【0027】
E:ヤング率
σ:降伏応力(0.2%耐力)
σ:引張強さ
ε:降伏ひずみ(σ/E)
εst:降伏棚終了ひずみ
ε:一様伸び
σ20:ひずみ20%時の応力
ε20:20%時のひずみ
k、n:ひずみ硬化に関する係数
α:一様伸びの温度とひずみ速度に関する係数
【0028】
【数1】
【0029】
式(2)は、応力ひずみ曲線において、ひずみεが、0以上、降伏ひずみε以下の範囲における基準応力σを示す。すなわち、式(2)は鋼の応力ひずみ曲線において、弾性変形の範囲における応力を示す式である。
【0030】
式(3)は、応力ひずみ曲線において、ひずみεが、降伏ひずみε超、降伏棚終了ひずみεst以下の範囲における基準応力σを示す。
【0031】
式(4)は、応力ひずみ曲線において、ひずみεが、降伏棚終了ひずみεst超、一様伸びεと係数αとの積αε以下の範囲における基準応力σを示す。すなわち、式(2)は鋼の応力ひずみ曲線において、降伏応力から引張強さが現れる間の応力を示すものとなる。
【0032】
式(5)は、応力ひずみ曲線において、ひずみεが、一様伸びεと係数αとの積αε超の範囲における基準応力σを示す。すなわち、式(5)は、鋼の応力ひずみ曲線において、引張強さ後の応力の低下を示す式である。
【0033】
式(2)~(5)における、温度Tの関数である各パラメータは実験的に求められる。例えば、対象とする鋼に対して、JIS G 0567:2020に準拠して引張試験を行い、応力とひずみとの関係を得る。試験片は、JIS G 0567:2020の附属書Aに規定される試験片とする。ひずみ速度は0.3%/分とし、試験温度は例えば、20℃、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃とする。なお、試験温度は例示したものに限定されるものではなく、耐火被覆鋼材が火災に曝された際の鋼材の温度を含むように試験温度を設定すればよい。
【0034】
引張試験により、各試験温度毎に、応力実測値σとひずみεとの組合せデータが得られる。これらの測定データに基づき、上記式(2)~式(5)が最もよく当てはまるように、各パラメータσ、σ、ε、εst、ε、σ20、ε20、k、n及びαを求める。各パラメータの最適化は、例えば差分進化法(DE)を利用するとよい。各パラメータの最適化を行うことで、各パラメータσ、σ、ε、εst、ε、σ20、ε20、k、n及びαを、温度Tの関数として求める。
【0035】
なお、係数αは、温度の他にひずみ速度によってεが変化することを考慮した係数であり、係数αは温度とひずみ速度の関数である。ひずみ速度0.3%/分の場合のαは温度によらずα=1になる。
【0036】
また、式(1)中のひずみ速度鋭敏性係数mは、下記式(6)により求める。
【0037】
【数2】
【0038】
式(6)において、例えば、m、m、m、mはそれぞれ、m=0.0103、m=5.5、m=587、m=0.169とすることができる。
【0039】
図1におけるプロットは、実際の引張試験による応力ひずみ曲線が、式(1)におおよそ一致する場合のmの値であり、一方、図1における実線が式(6)であり、m、m、m、mはそれぞれ、実線が各プロットに近接するように調整した値である。
【0040】
なお、式(1)が成立する温度Tの範囲は、各パラメータを求める際に用いた鋼材の引張試験の測定温度Tを適宜設定することにより、調整できる。例えば、上記のように測定温度を20~800℃とした場合は、少なくとも温度Tを20~800℃の範囲とすることができる。
【0041】
また、ひずみ速度εは特に制限がなく、例えば、0.3%/分~8.0%/分の範囲の中の任意の値にすることができる。好ましくは、ひずみ速度εは5.0%/分~8.0%/分の範囲の中の任意の値としてもよい。
【0042】
図2A図2Cには、応力ひずみ曲線の一例として、600℃において鋼からなる試験片を、0.3%/分、3.0%/分、7.5%/分のひずみ速度でひずみを加えた場合の応力ひずみ曲線の例を模式的に示す。図2Aは、ひずみ速度0.3%/分の例であり、図2Bは、ひずみ速度3.0%/分の例であり、図2Cは、ひずみ速度7.5%/分の例である。また、図2A図2Cには、実測した曲線と、本実施形態の推測方法により推測した曲線の両方を示している。図2A図2Cに示す実測曲線から明らかなように、温度が一定の場合、ひずみ速度が大きくなるほど応力ひずみ曲線が高い応力側にシフトすることが分かる。また、図2A図2Cに示す推測曲線から明らかなように、推測曲線は、実測曲線によく一致していることが判る。第1ステップによって式(1)を推測することにより、温度毎、またはひずみ速度毎の応力ひずみ曲線を精度よく推測できるようになる。また、推測された応力ひずみ曲線から、1%ひずみ時の応力(N/mm)を求めることも可能になる。
【0043】
次に、推測された応力ひずみ曲線の関数式である式(1)に基づき、1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係を求める。例えば、推定された式(1)に、温度Tとして20~800℃を導入するとともに、ひずみ速度として0.3%/分、7.5%/分を導入し、ひずみεが1%のときの応力であるσ(T=20~800℃,ε=1%,ε=0.3%/分)及びσ(T=20~800℃,ε=1%,ε=7.5%/分)を求める。なお、1%ひずみ時の応力(N/mm)を選択した理由は、「鋼構造耐火設計指針 第3版」(一般社団法人日本建築学会編、2017年6月発行)」に、「火災時における架構や部材の実挙動を検討すると,部材温度や鋼種によらず,ひずみ1%程度のときの鋼材が示す応答応力値を有効降伏強度とするのが適当となる」と記載されており、この記載内容に基づき、本実施形態では1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係を求めることにしている。
【0044】
図3には、1%ひずみにおける応力(N/mm)と温度Tとの関係の一例をグラフで示す。図3は、引張強度590N/mm級の鋼について、式(1)から求めた応力ひずみ曲線に基づいて得られたグラフである。図3には、引張強度590N/mm級の鋼について、ひずみ速度0.3%/分の場合と7.5%/分の場合での、1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの曲線が示されている。これらの曲線は、第1ステップにて推測された式(1)から導出された曲線である。
【0045】
図3に示すように、例えば、1%ひずみ時の応力が300(N/mm)では、ひずみ速度0.3%/分の曲線よりも、7.5%/分の曲線が高温側にある。これは、一定の応力(1%歪みが生じる応力に相当する応力)が加えられた状態での鋼材の変形温度は、ひずみ速度が高いほど高温になることを示している。従って、建築物が火災に見舞われて鋼材が破壊するようなひずみ速度では、より高い温度に至るまで鋼材が変形せず、耐火性能に優れることが分かる。言い換えると、耐火被覆材の厚みを薄くしても、十分に耐火性能を維持できることを示している。
【0046】
(第2ステップ)
次に、第2ステップでは、第1ステップにおいて求めた1%ひずみ時応力-温度関係に、鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して、対応する温度T’を求め、この温度T’を鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする。
【0047】
なお、「鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)」は、「防耐火性能試験・評価業務方法書」(一般財団法人 日本建築総合試験所作成、2020年6月15日変更版、8A-103-01(Rev.4.0))の第4頁~第8頁に記載の「4.1 耐火性能試験方法」に記載された試験方法により試験された結果、第7頁~第8頁の「6.判定」に記載された判定基準によって試験体が合格とされる温度よりも高い温度であることが望ましい。
【0048】
(第3ステップ)
第3ステップでは、第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する。耐火被覆材の厚みt(mm)の決定方法としては、従来から知られている鋼材許容温度(℃)と耐火被覆材の厚みt(mm)との関係に基づいて、決定すればよい。すなわち、耐火被覆鋼材において、耐火被覆材の厚みをt(mm)とし、耐火被覆材を被覆させた鋼材を加熱した場合の加熱開始から2時間経過後の鋼材の温度をT2h(℃)とすると、tとT2hは、T2h=at+b(但し、a、bは耐火被覆材の種類によって定まる定数)の関係にあるので、この関係に基づき、鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定すればよい。
【0049】
(第4ステップ)
第4ステップでは、第3ステップにより得られた厚みtの耐火被覆材によって鋼材を被覆することにより、耐火被覆鋼材を製造する。耐火被覆材は、耐火被覆材料を鋼材表面に吹き付ける吹付法、耐火被覆材料を含む塗料を鋼材表面に塗装する塗装法、耐火被覆材料からなる板材を鋼材表面に取り付ける方法、耐火被覆材料からなるシートを鋼材表面に巻き付ける方法のいずれであってもよい。
【0050】
以上のようにして得られる耐火被覆鋼材は、その耐火被覆材の厚みが、上記第1ステップ~第3ステップを経ることによって求められた設計値となっており、十分な耐火性を備えたものとなる。
【0051】
本実施形態の耐火被覆鋼材に使用される鋼材は、20℃における降伏強さσが235N/mm以上であってもよく、335N/mm以上であってもよく、355N/mm以上であってもよく、385N/mm以上であってもよい。
【0052】
また、鋼材は、H形鋼、角形鋼管、円形鋼管のいずれかであってもよい。
【0053】
鋼材がH形鋼からなる場合の本実施形態の耐火被覆鋼材は、鋼構造物の大梁または小梁のいずれかに用いることが好ましい。
また、鋼材が記角形鋼管または円形鋼管からなる場合の本実施形態の耐火被覆鋼材は、鋼構造物の柱に用いることが好ましい。
【0054】
更に、耐火被覆材が、吹付層、塗装層、成形板、巻付け体のいずれかであることが好ましい。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の耐火被覆鋼材の設計方法では、第1ステップにおいて、温度T(℃)、ひずみε(%)及びひずみ速度ε(%/分)を変数とする、鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式である式(1)を推測し、推測された式(1)に基づき、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める。この、1%ひずみ時応力-温度関係を用いることにより、従来より慣用されていたひずみ速度(=0.3%/分)とは異なるひずみ速度での、1%ひずみ時応力と温度との関係が得られる。この関係から、火災により建築物が破壊される際の鋼材に加わるひずみ速度における、鋼材の高温強度特性を評価することが可能になる。
次に、第2ステップにおいて、1%ひずみ時応力と温度との関係に、鋼材が鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して、温度T’を求める。この温度T’は、鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)となる。
次に、第3ステップにおいて、鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する。決定された耐火被覆材の厚みt(mm)は、従来慣用されていたひずみ速度(=0.3%/分)を前提として設計された耐火被覆材の厚み場合に比べて、小さな厚みとなる。
以上により、本実施形態の耐火被覆鋼材の設計方法によれば、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なわずに、耐火被覆材の厚みを適切に設計することができる。
【0056】
本実施形態によって得られる耐火被覆材の厚みの設計値は、従来の手法により決定される耐火被覆材の厚みよりも薄くなる。このため、本実施形態に係る設計方法により設計された耐火被覆材を備えた建築物においては、耐火被覆材が占有するスペースが縮小されるようになり、建物内における居住スペースや利用スペースを拡大することが可能になる。
【0057】
また、本実施形態の耐火被覆鋼材の製造方法によれば、上記の第1~第3ステップに加えて、第4ステップを行う。第4ステップでは、第3ステップにて得られた厚みtの耐火被覆材によって鋼材を被覆することにより、耐火被覆鋼材を製造する。よって、本実施形態の製造方法によれば、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なわずに、耐火被覆材の厚みが適切に設計された耐火被覆鋼材を製造できる。
【0058】
また、本実施形態の耐火被覆鋼材によれば、鋼材を被覆する耐火被覆材の厚みが、上記の第1~第3ステップによって設計された厚みtであるので、耐火性能を損なうことなく、耐火被覆材の厚みを適切な厚みにすることができる。
【0059】
次に、本実施形態の鋼構造物用の耐火被覆鋼材の設計プログラムについて説明する。
本実施形態の設計プログラムは、コンピュータに実行させるプログラムであって、第1ステップ、第2ステップ及び第3ステップよりなる。
【0060】
第1ステップは、温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とを変数とする鋼材の応力ひずみ曲線を表す関数式を推測し、推測された関数式から、ひずみ速度εでの1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係である1%ひずみ時応力-温度関係を求める。
【0061】
第2ステップは、第1ステップにおいて求めた1%ひずみ時応力-温度関係に、鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して対応する温度T’を求め、温度T’を鋼材が破損しない鋼材許容温度(℃)とする。
【0062】
第3ステップは、第2ステップにおいて求めた鋼材許容温度(℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定する。
【0063】
第1ステップにおける関数式は、上記式(1)で表される関数式でもよいし、上記式(2)式で表される関数式でもよい。
【0064】
第1ステップ、第2ステップ及び第3ステップの具体的な内容は、先に述べた設計方法の第1ステップ、第2ステップ及び第3ステップについて述べた通りである。
【0065】
本実施形態の設計プログラムによれば、耐火被覆鋼材の耐火性能を損なわずに、耐火被覆材の厚みを適切に設計することができる。本実施形態によって得られる耐火被覆材の厚みの設計値は、従来の手法により決定される耐火被覆材の厚みよりも薄くなる。このため、本実施形態に係る設計プログラムにより設計された耐火被覆材を備えた建築物においては、耐火被覆材が占有するスペースが縮小されるようになり、建物内における居住スペースや利用スペースを拡大することが可能になる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、第1ステップにおいて使用する関数式を変更してもよい。すなわち、上記式(1)に代えて、下記式(A)を関数式として利用してもよい。
【0067】
σ(T,ε,ε)=σ(ε/ε)m … (A)
【0068】
式(A)におけるσは、ひずみ速度0.3%/分の場合の基準応力値であり、εは、変数としてのひずみ速度(%/分)であり、εは基準ひずみ速度0.3%/分であり、mはひずみ速度鋭敏性係数である。また、式(A)の左辺であるσ(T,ε,ε)は、応力ひずみ曲線における応力の推測値であって、温度T(℃)とひずみε(%)とひずみ速度ε(%/分)とにより推測される推測値である。
【0069】
式(A)におけるσ及びmの算出手順は、式(1)におけるσ及びmの算出手順と同じ手順とすることができる。
【実施例0070】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下に説明する実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0071】
(実施例)
鋼材として、板厚48mmの引張強度590N/mm級の鋼を用意し、これを適当なサイズに切断して、JIS G 0567:2020の附属書Aに規定される試験片とした。得られた試験片について、ひずみ速度を0.3%/分とし、試験温度を、20℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃として、JIS G 0567:2020に準拠して引張試験を行い、応力ひずみ曲線を得た。そして、得られた応力ひずみ曲線に基づき、上記式(1)~(5)を推定した。
【0072】
次に、推定された式(1)に基づき、1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの関係を求めた。図3には、引張強度590N/mm級の鋼について、1%ひずみにおける応力(N/mm)と温度Tとの関係をグラフで示す。図3には、ひずみ速度0.3%/分の場合と7.5%/分の場合での、1%ひずみ時の応力(N/mm)と温度Tとの曲線を示した。
【0073】
次に、図3に示す1%ひずみ時応力-温度関係に、鋼構造物として使用された場合の設計荷重(N/mm)を導入して、温度T’ (鋼材許容温度(℃))を求めた。本実施例では、ひずみ速度として7.5%/分のデータを用いた。設計荷重は、440/1.5=293(N/mm)とした。この場合の温度T’(鋼材許容温度(℃))は650℃であった。
【0074】
次に、得られた鋼材許容温度(℃)(=650℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定した。耐火被覆材の厚みt(mm)は52mmであった。
【0075】
板厚32mmおよび19mmの引張強度590N/mm級の鋼を適当なサイズに切断して厚さ32mmの上フランジ部及び下フランジ部になる板材と、厚さ19mmのウエブ部になる板材を切り出し、上フランジ部、下フランジ部及びウエブ部を溶接することにより、高さ1000mm、上ウエブ部及び下ウエブ部の幅が300mmであるH形鋼を製造した。
【0076】
そして、このH形鋼全体に、耐火被覆材を被覆した。耐火被覆材の厚みは52mmとした。このようにして実施例の耐火被覆鋼材を製造した。
【0077】
(参考例)
参考例として、板厚32および19mmmmの引張強度590N/mm級の鋼を用意し、これを適当なサイズに切断して厚さ32mmの上フランジ部及び下フランジ部になる板材と、厚さ19mmのウエブ部になる板材を切り出し、上フランジ部、下フランジ部及びウエブ部を溶接することにより、高さ1000mm、上ウエブ部及び下ウエブ部の幅が300mmであるH形鋼を製造した。
【0078】
そして、このH形鋼を供試材として、「防耐火性能試験・評価業務方法書」(一般財団法人 日本建築総合試験所作成、2020年6月15日変更版、8A-103-01(Rev.4.0))の第4頁~第8頁に記載の「4.1 耐火性能試験方法」に記載された試験方法により試験を行い、第7頁~第8頁の「6.判定」に記載された判定基準によって試験体が合格とされる温度を測定した。その結果、550℃の温度が得られた。
【0079】
次に、得られた温度(=550℃)から耐火被覆材の厚みt(mm)を決定したところ、耐火被覆材の厚みt(mm)は65mmとなった。
【0080】
上記と同様にして、板厚32mmおよび19mmの引張強度590N/mm級の鋼よりなる、高さ1000mm、上ウエブ部及び下ウエブ部の幅が300mmであるH形鋼を製造した。
そして、このH形鋼全体に、耐火被覆材を被覆した。耐火被覆材の厚みは65mmとした。このようにして参考例の耐火被覆鋼材を製造した。
【0081】
(評価)
実施例及び比較例の耐火被覆鋼材について、耐火性能を確認した。耐火性能は、上述の「防耐火性能試験・評価業務方法書」に準じて確認した。その結果、いずれも2時間以上の耐火性を示した。
従って,本発明例である実施例の耐火被覆鋼材は、耐火被覆材の厚みが参考例よりも薄いにもかかわらず、参考例と同等の耐火性能を示すものとなった。
図1
図2A
図2B
図2C
図3