(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167312
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】木柱劣化判定システムおよび木柱劣化判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20221027BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073039
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】満井 法嗣
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA11
2G047BC11
2G047CA03
2G047EA12
2G047EA14
2G047GD02
2G047GG36
2G047GG37
(57)【要約】
【課題】打診によって誰もが容易かつ適正に木柱の劣化度を点検できるようにする。
【解決手段】木柱Pを叩いた際の打撃音を集音するスマートフォン2と、打撃音に基づいて木柱Pの劣化度を判定する劣化判定サーバー3と、を備え、劣化判定サーバー3は、打撃音が入力されると木柱Pの劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデルを用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木柱を叩いた際の打撃音を集音する集音手段と、
前記打撃音に基づいて前記木柱の劣化度を判定する劣化判定手段と、
を備え、前記劣化判定手段は、前記打撃音が入力されると前記木柱の劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする木柱劣化判定システム。
【請求項2】
前記劣化判定手段は、判定した劣化度に基づいて前記木柱の措置方法を割り出す、
ことを特徴とする請求項1に記載の木柱劣化判定システム。
【請求項3】
携帯端末に前記集音手段を備え、
前記携帯端末から前記打撃音を受信する劣化判定サーバーに前記劣化判定手段を備える、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の木柱劣化判定システム。
【請求項4】
片手で保持可能で、前記木柱を所定の力で連続的に叩く打撃手段を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の木柱劣化判定システム。
【請求項5】
コンピュータを、木柱を叩いた際の打撃音に基づいて前記木柱の劣化度を判定する劣化判定手段として機能させ、
前記劣化判定手段は、前記打撃音が入力されると前記木柱の劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする木柱劣化判定プログラム。
【請求項6】
前記劣化判定手段は、判定した劣化度に基づいて前記木柱の措置方法を割り出す、
ことを特徴とする請求項5に記載の木柱劣化判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製の柱の健全性・劣化度を点検するための木柱劣化判定システムおよび木柱劣化判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
木製の電力柱や通信柱などの柱(木柱)は、腐食などによって劣化して強度が低下する場合がある。そして、強度が低下すると、木柱に架線されている配電線の張力や風力などによって、木柱が転倒したり傾倒したりするおそれがある。このため、木柱の劣化度を定期的に点検し、腐食などが確認された場合には、補修・補強したり建て替えたりする必要がある。
【0003】
そして、木柱の劣化度を点検する場合、従来から、木柱をハンマーなどで叩き、その打撃音・空洞音を人が聴いて劣化度・腐食度を判定する打診が行われていた。
【0004】
一方、再現性よく、かつ、短時間に電柱の劣化を診断できる、という電柱劣化診断装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、リング状のフレームの内周に、電柱に固定するための固定バネが複数配設され、劣化を診断するためのセンサーが対向してフレームに取り付けられているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、打診は、木柱をハンマーなどで叩いてその打撃音を聴くだけであるため、非常に簡易で手間がかからないが、打診によって木柱の劣化度を判定、点検するには、経験を要するばかりでなく、点検者によって点検結果が異なるおそれがあった。一方、特許文献1に記載の電柱劣化診断装置では、点検現場まで装置を運んで設置しなければならないばかりでなく、木柱の長手方向に沿って装置を移動させながら設置、診断しなければならならず、多大な手間と時間を要する。このため、打診によって誰もが容易かつ適正に木柱の劣化度を点検できるような技術が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、打診によって誰もが容易かつ適正に木柱の劣化度を点検できるようにする、木柱劣化判定システムおよび木柱劣化判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、木柱を叩いた際の打撃音を集音する集音手段と、前記打撃音に基づいて前記木柱の劣化度を判定する劣化判定手段と、を備え、前記劣化判定手段は、前記打撃音が入力されると前記木柱の劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデルを用いる、ことを特徴とする木柱劣化判定システムである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の木柱劣化判定システムにおいて、前記劣化判定手段は、判定した劣化度に基づいて前記木柱の措置方法を割り出す、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の木柱劣化判定システムにおいて、携帯端末に前記集音手段を備え、前記携帯端末から前記打撃音を受信する劣化判定サーバーに前記劣化判定手段を備える、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から3に記載の木柱劣化判定システムにおいて、片手で保持可能で、前記木柱を所定の力で連続的に叩く打撃手段を備える、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、コンピュータを、木柱を叩いた際の打撃音に基づいて前記木柱の劣化度を判定する劣化判定手段として機能させ、前記劣化判定手段は、前記打撃音が入力されると前記木柱の劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデルを用いる、ことを特徴とする木柱劣化判定プログラムである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5に記載の木柱劣化判定プログラムにおいて、前記劣化判定手段は、判定した劣化度に基づいて前記木柱の措置方法を割り出す、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1および請求項5に記載の発明によれば、打撃音に基づいて木柱の劣化度が自動的に判定される。このため、専門的な知識や経験を有していなくても誰でも、精度にバラツキなく、打撃音・空洞音によって木柱の健全性・劣化度を判定・点検することが可能となる。また、点検者は従来どおり木柱を叩くだけでよいため、簡易かつ迅速に木柱の劣化度を点検することが可能となる。しかも、機械学習された劣化判定用学習モデルを用いて、打撃音に基づいて木柱の劣化度が判定されるため、精度高く適正に木柱の劣化度を判定・点検することが可能となる。
【0015】
請求項2および請求項6に記載の発明によれば、判定した劣化度に基づいて木柱に対する措置方法が自動的に割り出される。例えば、劣化度が大きい場合には、措置方法として木柱の建て替えが割り出されたり、劣化度が小さい場合には、措置方法として木柱の補強が割り出されたりする。このため、木柱の劣化度に応じた適正な措置を迅速かつ間違いなく採ることが可能となるとともに、人による判断の負担を軽減することが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、携帯端末に集音手段を備え、劣化判定サーバーに劣化判定手段を備えるため、点検者が携帯端末で打撃音を集音して劣化判定サーバーに送信するだけで、劣化判定サーバーにおいて木柱の劣化度が判定される。そして、判定結果を携帯端末に送信することで、点検者はその場で劣化度を知得することができ、必要に応じた対応を迅速かつ適正に行うことが可能となる。また、点検現場では、従来のように木柱を叩くハンマーなどと携帯端末を用いるだけであり、新たな機器などを要しないため、容易かつ低コストで木柱劣化判定システム1を構築して、多様な点検現場で判定結果を取得することが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、打撃手段によって自動的・連続的に木柱が叩かれるため、点検者が木柱を叩く負担が軽減されるだけではなく、所定の力で木柱が叩かれるため、点検者による力のバラツキがない。つまり、叩く力などが異なることによる打撃音・空洞音のバラツキがなくなるため、より精度高く適正に木柱の劣化度を判定・点検することが可能となる。また、打撃手段を片手で保持可能なため、従来のハンマーと同様に、点検者が容易に持って木柱を点検することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る木柱劣化判定システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の木柱劣化判定システムの劣化判定サーバーの概略構成ブロック図である。
【
図3】
図2の劣化判定サーバーの劣化判定用学習モデルの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】この発明の実施の形態2に係る木柱劣化判定システムを示す概略構成図である。
【
図5】
図4の木柱劣化判定システムのハンマーブロックの内部を示す概略側面図であり、ハンマーピンが上昇した状態を示す図(a)と、ハンマーピンが下降した状態を示す図(b)と、昇降カムの正面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係る木柱劣化判定システム1を示す概略構成図である。この木柱劣化判定システム1は、木柱Pの健全性・劣化度を判定、点検するためのシステムであり、この実施の形態では、スマートフォン(集音手段、携帯端末)2と、劣化判定サーバー(劣化判定手段)3と、を備える。ここで、この実施の形態では、配電線や変圧器などが架設、配設された電力柱を点検対象の木柱Pとし、従来と同様に、点検者101が木柱Pをハンマー(金鎚)102で叩いて(打診して)、その打撃音(反響音・空洞音)から木柱Pの劣化度・腐食度を判定、点検する。
【0021】
スマートフォン2は、マイク(集音手段)やレコーダー(メモリ)、タッチパネル(表示機能、入力機能)、通信機能、撮影機能・カメラなどを備えた既製・既存の多機能携帯電話・携帯端末であり、木柱Pを叩いた際の打撃音を集音して記憶する。すなわち、スマートフォン2を録音モードにして点検者101が所持・携帯したり、木柱Pの周辺に配置したりする。そして、点検者101が木柱Pをハンマー102で叩くと、その打撃音がスマートフォン2で集音されて記憶される。
【0022】
また、スマートフォン2には、劣化判定アプリケーションソフト(以下、「劣化判定アプリ」という)がインストールされ、この劣化判定アプリを起動させることで劣化判定サーバー3から劣化判定サービスを受けられるようになっている。すなわち、この実施の形態では、劣化判定アプリを起動した状態で打撃音を集音すると、打撃音を記憶すると同時に、リアルタイムに打撃音を劣化判定サーバー3に送信し、後述するように、判定結果や措置方法を劣化判定サーバー3から受信できるようになっている。
【0023】
そして、受信した判定結果が後述する「腐食あり」の場合には、警報音を発するようになっている。このとき、判定結果に応じて警報音を変えてもよい。さらに、スマートフォン2をビデオモードにして木柱Pを叩いている状態を撮影している場合には、警報音を発した際に撮影されている画像・画面をマーキング(識別)する。これにより、警報音が発せられた位置、つまり、腐食がある木柱Pの位置を容易に知得できるようになっている。このような劣化判定アプリをスマートフォン2にインストールするだけで、どのスマートフォン2からも、つまり、誰でもこのような劣化判定サービスを受けられるようになっている。
【0024】
劣化判定サーバー3は、打撃音に基づいて木柱Pの劣化度を判定したりする劣化判定サービスを提供するためのサーバーであり、不特定多数のスマートフォン2から打撃音を受信して判定可能となっている。この劣化判定サーバー3は、
図2に示すように、主として、通信部31と、劣化判定タスク(劣化判定手段)32と、学習タスク33と、劣化判定用学習モデル34と、劣化判定用実績データベース35と、これらを制御などする中央処理部36と、を備える。
【0025】
通信部31は、スマートフォン2などの外部と通信するためのインターフェースである。
【0026】
劣化判定タスク32は、スマートフォン2から受信した打撃音に基づいて、木柱Pの劣化度を判定するタスク・プログラムである。具体的には、木柱Pの健全度・劣化度が既知である打撃音が、実績データとして予め記憶されている。つまり、木柱Pの健全度・劣化度がどのようなときに、どのような打撃音となるかが、実績データとして記憶されている。例えば、木柱Pが健全で腐食が全くない場合には、「コン、コン」という打撃音が生じ、木柱Pの内部が腐食して空洞で表層部は健全に見える場合には、「カン、カン」という打撃音が生じ、木柱Pの内部も表層部も腐食している場合には、「ボコ、ボコ」という打撃音が生じることが記憶されている。そして、スマートフォン2から受信した打撃音と、実績データの打撃音とを比較することで、木柱Pの劣化度を判定する。
【0027】
このような劣化判定タスク32は、打撃音が入力されると木柱Pの劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデル34を用いる。この劣化判定用学習モデル34は、学習タスク33によって作成される。
【0028】
すなわち、学習タスク33は、劣化判定用実績データベース35に記録・蓄積されている過去の実績データを用いて、ニューラルネットワーク等の公知の機械学習アルゴリズムにより劣化判定用学習モデル34を作成する。この劣化判定用実績データベース35は、入力情報として、過去に木柱Pを打診した際に集音した打撃音と、この木柱Pを切断したり超音波検査器等を用いたりして内部状態を確認して判定した木柱Pの劣化度と、を含む実績データが記録・蓄積されているデータベースである。なお、過去の実績データには、実際の打撃音と実際に確認された木柱Pの劣化度に基づいて作成されたデータの他、事前訓練などで作成されたデータなどが含まれる。
【0029】
この学習タスク33は、
図3に示すように、ニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習を用い、劣化判定用実績データベース35に記録されている実績データに基づいて、例えば、点検時の打撃音を入力層、木柱Pの劣化度を出力層、打撃音から木柱Pの劣化度への音響(音声)解析処理を中間層とするニューラルネットワークを作成する。そして、学習タスク33は、劣化判定用学習モデル34の実績データを学習データとして用いて、中間層における各種パラメータについて学習を行う。すなわち、学習タスク33は、打撃音から漏れなくかつ精度よく木柱Pの劣化度が判定されるように、中間層における各種パラメータの学習を行う。
【0030】
そして、このようにして判定した木柱Pの健全度・劣化度を判定結果として、当該打撃音を送信したスマートフォン2に送信する。例えば、木柱Pが健全で腐食が全くないと判定した場合には、「健全」の判定結果を送信し、木柱Pの内部が腐食して空洞で表層部は健全に見えると判定した場合には、「内部に腐食あり」の判定結果を送信し、木柱Pの内部も表層部も腐食していると判定した場合には、「内外部に腐食あり」の判定結果を送信する。このような判定および判定結果の送信を、打撃音を受信する度にリアルタイムに繰り返し行うものである。
【0031】
さらに、劣化判定タスク32は、判定した劣化度に基づいて木柱Pに対して必要な(推奨する)措置方法を割り出す。すなわち、予め木柱Pの劣化度・判定結果に応じた措置方法がメモリに記憶され、判定した劣化度に対応する措置方法を割り出す。例えば、判定結果が「健全」の場合には、措置方法として「措置不要」を割り出し、判定結果が「内部に腐食あり」の場合には、措置方法として「補強要」を割り出し、判定結果が「内外部に腐食あり」の場合には、措置方法として「建て替え要」を割り出す。
【0032】
このような措置方法の割り出しは、この実施の形態では、木柱Pに対する打診・点検が終了した旨がスマートフォン2から通知された際に作動・起動され、割り出した措置方法がスマートフォン2に送信される。つまり、1つの木柱Pに対して1つの措置方法がスマートフォン2に送信される。この際、各判定結果に基づいて措置方法が送信される。例えば、最も悪い判定結果に対する措置方法を送信する。すなわち、いずれかの打撃音の判定結果が「内外部に腐食あり」の場合には、「建て替え要」を送信し、判定結果に「内外部に腐食あり」はないが「内部に腐食あり」の判定結果がある場合には、「補強要」を送信し、いずれの打撃音でも判定結果が「健全」の場合には、「措置不要」を送信する。これに対して、上記の判定結果と同様に、リアルタイムに措置方法を送信してもよい。つまり、判定結果ごとに措置方法を送信してもよい。
【0033】
ここで、上記に挙げた打撃音や判定結果、措置方法は、単なる例えであり、この他のものであってもよいことは勿論である。例えば、措置方法として、より詳細、正確に木柱Pの劣化度を診断する方法(木柱腐朽度測定器や電動ドリルなどを用いた診断方法)を含めてもよい。
【0034】
次に、このような構成の木柱劣化判定システム1の動作および木柱劣化判定システム1による木柱劣化判定方法について説明する。
【0035】
まず、劣化判定アプリを起動させたスマートフォン2を点検者101が携帯したり、木柱Pの周辺に配置したりして、点検者101が木柱Pをハンマー102で叩くと、リアルタイムに打撃音が劣化判定サーバー3に送信される。この打撃音に基づいて劣化判定サーバー3で木柱Pの劣化度が判定され、その判定結果がリアルタイムにスマートフォン2に送信される。そして、判定結果が「腐食あり」の場合には、スマートフォン2で警報音が発せられ、さらに、上記のようなビデオモードの場合には、「腐食あり」つまり不良箇所の画像・画面がマーキングされる。このような判定および判定結果の出力を、木柱Pを叩く度に繰り返し、点検者101がスマートフォン2を操作して打診・点検が終了した旨を劣化判定サーバー3に送信すると、上記のように、措置方法がスマートフォン2に送信され、スマートフォン2に表示される。
【0036】
以上のように、この木柱劣化判定システム1および木柱劣化判定方法によれば、打撃音に基づいて木柱Pの劣化度が自動的に判定される。このため、専門的な知識や経験を有していなくても誰でも、精度にバラツキなく、打撃音・空洞音によって木柱Pの健全性・劣化度を判定・点検することが可能となる。また、点検者101は従来どおり木柱Pを叩くだけでよいため、簡易かつ迅速に木柱Pの劣化度を点検することが可能となる。しかも、機械学習された劣化判定用学習モデル34を用いて、打撃音に基づいて木柱Pの劣化度が判定されるため、精度高く適正に木柱Pの劣化度を判定・点検することが可能となる。
【0037】
また、判定した劣化度に基づいて木柱Pに対する措置方法が自動的に割り出される。例えば、劣化度が大きい場合には、措置方法として木柱Pの建て替えが割り出されたり、劣化度が小さい場合には、措置方法として木柱Pの補強が割り出されたりする。このため、木柱Pの劣化度に応じた適正な措置を迅速かつ間違いなく採ることが可能となるとともに、人による判断の負担を軽減することが可能となる。
【0038】
さらに、スマートフォン2に集音手段を備え、劣化判定サーバー3に劣化判定手段を備えるため、点検者101がスマートフォン2で打撃音を集音して劣化判定サーバー3に送信するだけで、劣化判定サーバー3において木柱Pの劣化度が判定される。そして、判定結果がリアルタイムにスマートフォン2に送信されるため、点検者101はその場で劣化度を知得することができ、必要に応じた対応(詳細な調査や報告など)を迅速かつ適正に行うことが可能となる。また、点検現場では、従来のように木柱Pを叩くハンマー102とスマートフォン2を用いるだけであり、新たな機器などを要しないため、容易かつ低コストで木柱劣化判定システム1を適用・構築して、多様な点検現場で判定結果を取得することが可能となる。
【0039】
(実施の形態2)
図4は、この実施の形態に係る木柱劣化判定システム10を示す概略構成図である。この実施の形態では、ハンマーブロック(打撃手段)4を用いて木柱Pを叩く点で実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0040】
ハンマーブロック4は、片手で保持可能で、木柱Pを所定の力で連続的に叩くものである。すなわち、片手で持てる大きさ、重さに設定され、
図5(a)、(b)に示すように、略直方体状のケース41内に、ハンマーピン42、モータ43および昇降カム44などが配設されている。
【0041】
ハンマーピン42は、丸棒状で、一端側が半球状に形成され、他端側にピンツバ42aが形成され、ケース41の底面41aに形成された筒状のガイド筒41b内に、一端側が往復動自在に挿入されている。また、ガイド筒41bの自由端に形成されたガイドツバ41cとピンツバ42aとの間にコイルスプリング45が装着され、ハンマーピン42が常に反ガイド筒41b側に押圧されている。
【0042】
モータ43は、図示しない電源・電池によって駆動し、ケース41内に固定され、その出力軸・回転軸43aに昇降カム44が配設され、昇降カム44のカム面(側面)が常にピンツバ42aに当接するようになっている。この昇降カム44は、
図3(c)に示すような略卵型で、出力軸43aから最も近い上死点44aがピンツバ42aに当接した状態では、
図5(a)に示すように、ハンマーピン42がガイド筒41bの開口端(底面41aの開口)41dから上昇する。一方、出力軸43aから最も遠い下死点44bがピンツバ42aに当接した状態では、
図5(b)に示すように、ハンマーピン42が開口端41dから突出するように下降する。
【0043】
そして、ケース41の底面41aを木柱Pに当てた状態でハンマーブロック4の稼働スイッチ(図示せず)をオンすると、モータ43が駆動して回転軸43aが回転する。この回転に伴って昇降カム44が回転してハンマーピン42が上下動し、下降した際に木柱Pを叩く。この際、ハンマーピン42のストロークなどが一定のため、所定・一定の力で木柱Pを叩く。また、稼働スイッチをオンし続けた状態では、連続的にハンマーピン42が上下動して連続的に木柱Pを叩く。さらに、所定の周期・リズムで回転軸43aが回転してハンマーピン42が上下動するようになっており、これにより、一定のリズムで連続的に木柱Pを叩くものである。
【0044】
このような実施の形態によれば、ハンマーブロック4によって自動的・連続的に木柱Pが叩かれるため、点検者101が木柱Pを叩く負担が軽減されるだけではなく、所定・一定の力で木柱Pが叩かれるため、点検者101による力などのバラツキがない。つまり、叩く力やリズムなどが異なることによる打撃音・空洞音のバラツキがなくなるため、より精度高く適正に木柱Pの劣化度を判定・点検することが可能となる。また、ハンマーブロック4を片手で保持可能なため、従来のハンマー102と同様に、点検者101が容易に持って木柱Pを点検することができる。
【0045】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、実施の形態1では、集音部としてのスマートフォン2と、劣化判定部としての劣化判定サーバー3とを別体に設けて木柱劣化判定システム1を構成しているが、スマートフォン2に劣化判定部を一体的に組み込んで、スマートフォン2だけで木柱劣化判定システム1を構成してもよい。
【0046】
また、実施の形態2において、ハンマーブロック4に集音部を一体的に組み込むとともに、集音部で集音した打撃音を記憶する記憶媒体を設ける。そして、記憶媒体に記憶された打撃音を劣化判定部としての劣化判定サーバー3やコンピュータに読み込ませて、木柱Pの劣化度を判定してもよい。あるいは、ハンマーブロック4に集音部と劣化判定部を一体的に組み込んで、ハンマーブロック4だけで木柱劣化判定システム10を構成してもよい。これにより、点検者はハンマーブロック4を持って点検するだけで、その場で劣化度を判定することが可能となる。
【0047】
また、スマートフォン2から劣化判定サーバー3にリアルタイムに打撃音を送信し、劣化判定サーバー3からスマートフォン2にリアルタイムに判定結果を送信しているが、この他のタイミングで送受信してもよい。例えば、木柱Pに対する打診・点検が終了した際に、スマートフォン2から劣化判定サーバー3にまとめて全打撃音を送信し、これを受けて全打撃音に対する判定結果を劣化判定サーバー3からスマートフォン2に送信してもよい。さらに、劣化判定アプリを介してスマートフォン2と劣化判定サーバー3とで情報・データの授受を行っているが、劣化判定アプリなどを介さずにマニュアルで授受してもよいことは勿論である。
【0048】
ところで、次のような木柱劣化判定プログラムを汎用のコンピュータにインストールすることで、上記のような劣化判定サーバー3を構成してもよい。すなわち、コンピュータを、木柱Pを叩いた際の打撃音に基づいて木柱Pの劣化度を判定する劣化判定手段(劣化判定タスク32)として機能させ、劣化判定手段は、打撃音が入力されると木柱Pの劣化度を判定するように、過去の実績データに基づいて機械学習された劣化判定用学習モデル34を用い、さらに、判定した劣化度に基づいて木柱Pの措置方法を割り出す、ことを特徴とする木柱劣化判定プログラム。
【符号の説明】
【0049】
1、10 木柱劣化判定システム
2 スマートフォン(集音手段、携帯端末)
3 劣化判定サーバー(劣化判定手段)
32 劣化判定タスク(劣化判定手段)
34 劣化判定用学習モデル
4 ハンマーブロック(打撃手段)
101 点検者
102 ハンマー
P 木柱