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特開2022-167320脈波解析装置、脈波解析方法、および脈波解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167320
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】脈波解析装置、脈波解析方法、および脈波解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20221027BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20221027BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61B5/022 400E
A61B5/02 310A
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073049
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽香
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】根木 潤
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA12
4C017AA14
4C017AB01
4C017AC01
4C017AC26
4C017AD01
4C017BC11
4C017BC16
4C017BC21
4C017BC23
4C038KK01
4C038KL05
4C038KL07
4C038KX01
4C038KY01
(57)【要約】
【課題】患者の中心静脈圧を非侵襲で測定するとともに、測定結果の精度を通知できる脈波解析装置、脈波解析方法、および脈波解析プログラムを提供する。
【解決手段】脈波解析装置300は、脈波取得部401、静脈圧算出部402、パラメータ算出部403、および出力部404を有する。脈波取得部401は、生体の脈波を取得する。静脈圧算出部402は、脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出する。パラメータ算出部403は、上記所定期間における波形を解析し、上記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出する。出力部404は、算出された静脈圧と、バイタルパラメータ、および/またはバイタルパラメータに基づく静脈圧の精度に関する情報とを出力する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の脈波を取得する脈波取得部と、
前記脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出する静脈圧算出部と、
前記所定期間における波形を解析し、前記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出するパラメータ算出部と、
算出された前記静脈圧と、前記バイタルパラメータ、および/または前記バイタルパラメータに基づく前記静脈圧の精度に関する情報とを出力する出力部と、を有する、脈波解析装置。
【請求項2】
前記脈波取得部は、前記生体に装着するカフと接続され、前記生体に印加するカフ圧を変化させつつ、前記生体の脈波を取得し、
前記静脈圧算出部は、前記波形および前記カフ圧に基づいて、静脈圧を算出する、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項3】
前記バイタルパラメータは、呼吸数、呼吸深度、不整脈の有無、脈拍数、および動脈血酸素飽和度のうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の脈波解析装置。
【請求項4】
前記バイタルパラメータは、呼吸数、呼吸深度、および不整脈の有無の少なくとも1つを含み、
前記パラメータ算出部は、前記波形を周波数解析し、前記脈波における呼吸数、呼吸深度、および不整脈の有無の少なくとも1つを算出する、請求項1または2に記載の脈波解析装置。
【請求項5】
前記バイタルパラメータは、不整脈の有無を含み、
前記パラメータ算出部は、前記波形の周期のバラツキに基づいて、前記脈波における不整脈の有無を判定する、請求項1または2に記載の脈波解析装置。
【請求項6】
前記バイタルパラメータは、呼吸深度を含み、
前記パラメータ算出部は、前記波形を周波数解析した際のピーク値に基づいて、前記脈波における呼吸深度を算出する、請求項1または2に記載の脈波解析装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記バイタルパラメータ、および前記静脈圧の精度に関する情報の少なくとも一方に基づいて、算出された前記静脈圧の出力を制御する、請求項1~6のいずれか1項に記載の脈波解析装置。
【請求項8】
前記出力部は、前記バイタルパラメータ、および前記静脈圧の精度に関する情報の少なくとも1つに基づいて、前記静脈圧の表示/非表示、前記静脈圧の表示色および/または表示サイズ、ならびに前記静脈圧の精度に関する警告表示の有無、の少なくとも1つを変更する、請求項7に記載の脈波解析装置。
【請求項9】
静脈圧、および各々のバイタルパラメータについてのカットオフ値を記憶する第1の記憶部をさらに有し、
前記出力部は、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータを表示する表示部を有し、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータの値と、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータのカットオフ値とをそれぞれ比較し、比較結果に応じて、前記静脈圧、および/または前記バイタルパラメータの表示を異ならせる、請求項1~8のいずれか1項に記載の脈波解析装置。
【請求項10】
前記出力部は、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータの値の大きさに応じて、前記静脈圧、および/または前記バイタルパラメータの表示色、および/または表示サイズを異ならせる、請求項9に記載の脈波解析装置。
【請求項11】
前記出力部は、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータを表示する表示部を有し、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータの値の大きさに応じて、前記静脈圧、および/または前記バイタルパラメータの表示に、前記大きさを表す指標の表示を付加する、請求項1~9のいずれか1項に記載の脈波解析装置。
【請求項12】
静脈圧、および各々のバイタルパラメータについての所定範囲を記憶する第2の記憶部をさらに有し、
前記出力部は、前記静脈圧、および前記バイタルパラメータの値が、各々所定範囲に含まれない場合、アラームを出力する、請求項1~11のいずれか1項に記載の脈波解析装置。
【請求項13】
生体の脈波を取得するステップ(a)と、
前記脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出するステップ(b)と、
前記所定期間における波形を解析し、前記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出するステップ(c)と、
算出された前記静脈圧と、前記バイタルパラメータ、および/または前記バイタルパラメータに基づく前記静脈圧の精度に関する情報とを出力するステップ(d)と、を有する、脈波解析方法。
【請求項14】
生体の脈波を取得するステップ(a)と、
前記脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出するステップ(b)と、
前記所定期間における波形を解析し、前記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出するステップ(c)と、
算出された前記静脈圧と、前記バイタルパラメータ、および/または前記バイタルパラメータに基づく前記静脈圧の精度に関する情報とを出力するステップ(d)と、を有する処理をコンピュータに実行させるための脈波解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波解析装置、脈波解析方法、および脈波解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心不全を含む心疾患にかかる患者が増加している。とくに、今後、高齢者の増加に伴い、高齢の心不全患者が大幅に増加することが予想される。また、患者が心不全の治療のため入院し、必要な治療を終えて退院した後に、短期間のうちに再入院するケースも多く、医療費の増加等が、国内外で問題となっている。
【0003】
心不全患者の再入院の原因は、主にうっ血といわれている。うっ血の一例として、右房圧上昇による体静脈のうっ血(体うっ血)が挙げられる。心機能の低下によって血液が十分に循環されず、身体の臓器や組織で血液が停滞してうっ血が生じる。体静脈系でうっ血が生じると、中心静脈圧が上昇するため、中心静脈圧を測定することにより、うっ血の程度を把握することができる。中心静脈圧の測定は、測定精度の観点から、カテーテルを用いて侵襲的に測定する方法が従来から採用されているが、侵襲的であるため患者への負担が大きく、容易には測定できない。また、侵襲的に測定する方法に代わる簡便な推定方法として、頚静脈の怒張を医師が見る方法があるが、手技は医師の経験によるところが大きく、定量的に測定することはできない。
【0004】
したがって、中心静脈圧を非侵襲かつ定量的に精度良く測定できるようになれば、心不全患者のうっ血状態を、病棟やクリニック、さらには家庭において簡便に把握することが可能となる。例えば、下記の特許文献1には、非侵襲的に測定した患者の脈波から、オシロメトリック法の原理に基づいて、中心静脈圧を算出する技術が開示されている。しかしながら、中心静脈圧の測定は呼吸の影響を受けやすく、上記技術では、患者がうっ血状態で、かつ呼吸が苦しい状態である場合、測定精度に更なる改善の余地があった。これに関連して、下記特許文献2および3には、非侵襲的に測定した患者の脈波から、動脈圧の呼吸性変動を示す指標を算出する技術が開示されている。
【0005】
一方で、心不全患者は不整脈を併発する場合が多く、不整脈が生じている患者に対してのオシロメトリック法を用いた測定では、中心静脈圧の測定に更なる改善の余地があった。
【0006】
それに加えて、心不全患者は循環動態が不安定なため、呼吸や脈波が正常ではないことが多い。患者の呼吸状態は、医師の所見で判断されることが多く、医師は、患者の呼吸や脈から呼吸状態を把握し、診断基準に基づいて診断を行う。
【0007】
このように、現状では、患者の状態によって、非侵襲での中心静脈圧の測定には更なる精度改善の余地があり、医療従事者は、測定結果に加えて、測定結果の精度(または信頼性)についても把握する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許5694032号公報
【特許文献2】特許6522327号公報
【特許文献3】特許6282887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の主たる目的は、患者の中心静脈圧を非侵襲で測定するとともに、測定結果の精度を医療従事者に通知できる脈波解析装置、脈波解析方法、および脈波解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記によって達成される。
【0011】
(1)脈波解析装置は、脈波取得部、静脈圧算出部、パラメータ算出部、および出力部を有する。脈波取得部は、生体の脈波を取得する。静脈圧算出部は、前記脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出する。パラメータ算出部は、前記所定期間における波形を解析し、前記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出する。出力部は、算出された静脈圧と、前記バイタルパラメータ、および/または前記バイタルパラメータに基づく前記静脈圧の精度に関する情報とを出力する。
【0012】
(2)生体の脈波を取得するステップ(a)と、前記脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出するステップ(b)と、前記所定期間における波形を解析し、前記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出するステップ(c)と、算出された前記静脈圧と、前記バイタルパラメータ、および/または前記バイタルパラメータに基づく前記静脈圧の精度に関する情報とを出力するステップ(d)と、を有する、脈波解析方法。
【0013】
(3)生体の脈波を取得するステップ(a)と、前記脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出するステップ(b)と、前記所定期間における波形を解析し、前記生体について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出するステップ(c)と、算出された前記静脈圧と、前記バイタルパラメータ、および/または前記バイタルパラメータに基づく前記静脈圧の精度に関する情報とを出力するステップ(d)と、を有する処理をコンピュータに実行させるための脈波解析プログラム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、測定された中心静脈圧と、バイタルパラメータ、および/またはバイタルパラメータに基づく中心静脈圧の精度に関する情報とを出力するので、患者の中心静脈圧に加えて、測定された中心静脈圧の精度を医療従事者に通知できる。したがって、医療従事者は、測定精度を認識した上で、測定された中心静脈圧を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る脈波解析システムの概略的なハードウェア構成を例示するブロック図である。
図2図1に示す制御部の概略的なハードウェア構成を例示するブロック図である。
図3図1に示す制御部の主要な機能を例示する機能ブロック図である。
図4図1に示す脈波解析装置の脈波解析方法の処理手順について説明するためのフローチャートである。
図5図5(A)は患者の上腕に印加されたカフ圧の時間変化を示す図であり、図5(B)は図5(A)のカフ圧の時間変化から抽出された脈波データを例示する図である。
図6図5(B)の脈波データのステップ毎の脈波の波形を例示する波形図である。
図7図6に示すステップ毎の脈波の波形を周波数解析した結果を例示する図である。
図8】呼吸成分を含む脈波のステップ毎の脈波の波形を例示する波形図である。
図9図8に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。
図10】不整脈を含む脈波の波形をステップ毎に例示する波形図である。
図11図10に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。
図12】モニタ画面に中心静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報を表示する場合を例示する模式図である。
図13図13(A)は患者の上腕に印加されたカフ圧の時間変化を示す図であり、図13(B)は図13(A)のカフ圧の時間変化から抽出された脈波データを例示する図である。
図14図13(B)に示す脈波データのステップ毎の脈波の波形を例示する波形図である。
図15図14に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。
図16】モニタ画面に中心静脈圧の測定結果、およびバイタルパラメータとしての呼吸深度を表示する場合を例示する模式図である。
図17】ステップ毎の呼吸のパワーを例示するグラフである。
図18】ステップ毎の心拍成分/呼吸成分を例示するグラフである。
図19図19(A)は患者の上腕に印加されたカフ圧の時間変化を示す図であり、図19(B)は図19(A)のカフ圧の時間変化から抽出された脈波データを例示する図である。
図20図19に示す脈波データのステップ毎の脈波の波形を例示する波形図である。
図21図20に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。
図22】モニタ画面に中心静脈圧の測定結果、およびバイタルパラメータとしての不整脈の有無とを表示する場合を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
<脈波解析システム100>
図1は一実施形態に係る脈波解析システム100の概略的なハードウェア構成を例示するブロック図であり、図2図1に示す制御部360の概略的なハードウェア構成を例示するブロック図である。また、図3は、図1に示す制御部360の主要な機能を例示する機能ブロック図である。
【0018】
本実施形態の脈波解析システム100は、非侵襲的に患者の中心静脈圧を測定し、中心静脈圧の測定結果に加えて、測定された中心静脈圧(以下、単に「静脈圧」ともいう)の精度を出力するシステムである。
【0019】
中心静脈圧は、医師が患者の循環動態を把握する上で重要な指標となる。中心静脈圧は、右心房で測定された圧(右房圧)を反映する指標であり、心臓に戻る血液量および右房の前負荷を反映しうる。したがって、中心静脈圧は、循環血液量を反映するので、医師は、その上昇から体うっ血を評価することができる。心不全増悪の主な要因はうっ血であるが、この場合は中心静脈圧が上昇していることが知られている。
【0020】
しかし、従来、中心静脈圧は、例えば、スワン・ガンツカテーテルを使用し、侵襲的(観血的)に測定することが一般的であった。これに対して、本実施形態では、患者の脈波を取得し、脈波から中心静脈圧を推定することにより、患者に対して中心静脈圧を侵襲的に測定することを回避し、非侵襲的に測定することができる。これにより、中心静脈圧の測定に対する患者の負担を大幅に軽減できる。
【0021】
図1に示すように、脈波解析システム100は、カフ200、光電脈波検出センサ210、および脈波解析装置300を有する。カフ200は、脈波解析装置300に接続可能に構成され、患者の上腕に空気袋が巻回されることにより装着される。光電脈波検出センサ210については後述する。
【0022】
<脈波解析装置300>
脈波解析装置300は、患者の生体情報を解析し、解析結果を表示する医療装置(例えば、生体情報モニタ等)でありうる。以下、脈波解析装置300が有する主要な構成について説明する。
【0023】
脈波解析装置300は、加圧ポンプ311、排気弁312、圧力センサ313、カフ圧検出部314、ADコンバーター(ADC)315、脈波検出部321、ADC322、入力装置330、出力装置340、ネットワークインターフェース350、および制御部360を有する。
【0024】
加圧ポンプ311は、制御部360の指示に応じて、カフ200の空気袋に空気を送り込み、空気袋内の圧力(以下、「カフ内圧」という)を増加させる。これにより、カフ200による患者の腋窩部近傍の上腕への圧迫圧力(以下、「カフ圧」という)を増加させうる。また、排気弁312は、空気袋内の空気を大気に開放することにより、カフ200から徐々に空気を排気し、カフ内圧を減少させる。これにより、カフ圧が減少しうる。
【0025】
圧力センサ313はカフ圧を検出する。カフ圧には、カフ圧が増加および減少される過程における患者の脈波(カフ脈波)が重畳する。カフ圧検出部314は、検出されたカフ圧からカフ圧に重畳した脈波を抽出し、カフ圧および抽出した脈波をそれぞれアナログ信号としてADC315に出力する。ADC315は、カフ圧および脈波のアナログ信号をディジタル信号に変換して制御部360に送信する。なお、圧力センサ313、カフ圧検出部314、およびADC315がカフ200と一体化された構造であってもよい。この場合、制御部360が脈波のディジタル信号を受信する。同様に圧力センサ313およびカフ圧検出部314がカフ200と一体化され、ADC315が脈波解析装置300内にある構成であってもよい。
【0026】
本実施形態では、カフ200、圧力センサ313、カフ圧検出部314、およびADC315は、脈波測定部として機能し、患者の脈波を測定する。
【0027】
光電脈波検出センサ210(以下、「脈波センサ210」という)、脈波検出部321、およびADC322は、光電脈波測定部として機能し、光電脈波法を用いて患者の脈波を検出し、検出された脈波のデータを制御部360に送信する。なお、脈波検出部321、およびADC322が脈波センサ210内に内蔵される構成とし、脈波センサ210が脈波データを制御部360に送信する構成としてもよい。同様にADC322のみ脈波解析装置300内にある構成としてもよい。
【0028】
脈波センサ210は、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定するためのSpO2プローブであり、患者の身体の末梢部(例えば、手指の先等)に装着される。本実施形態では、脈波センサ210は、患者の指の先に装着されることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0029】
脈波センサ210は、発光部および受光部を備え、赤色光または赤外光を所定の発光タイミングで患者に照射し、透過光を受光する。発光部は、例えば、波長が660nm付近(赤色)または940nm付近(赤外)で発光する発光ダイオードを備え、患者の生体表面(指先)に向けて発光する。受光部は、例えば、フォトダイオードを備え、血管および生体組織を透過した透過光を受光し、透過光に応じた電気信号に変換する。
【0030】
脈波検出部321は、脈波センサ210で生成された電気信号から脈波を検出し、光電脈波信号として、ADC322に出力する。ADC322は、光電脈波信号をディジタル信号に変換して制御部360に出力する。
【0031】
入力装置330は、脈波解析装置300を操作する医療従事者等のユーザの入力操作を受け付け、当該入力操作に対応する入力信号を生成するように構成されている。入力装置330は、例えば、出力装置340のディスプレイ341上に重ねて配置されたタッチパネル、脈波解析装置300の筐体に取り付けられた操作ボタン、マウス、またはキーボード等を有する。入力装置330によって生成された入力信号は、制御部360に送信されて、制御部360は、入力信号に応じて所定の処理を実行する。
【0032】
出力装置340は、出力部として機能し、本実施形態では、中心静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報を出力する。出力装置340は、ディスプレイ341およびスピーカ342を有する。ディスプレイ341は、表示部として機能し、脈波解析装置300の筐体に取り付けられた液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等でありうる。また、ディスプレイ341は、ユーザの頭部に装着される透過型、または非透過型のヘッドマウントディスプレイ等の表示装置であってもよい。ディスプレイ341は、例えば、静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報を表示する(図10を参照)。
【0033】
スピーカ342は、脈波解析装置300の筐体に取り付けられ、静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報を音声で出力できる。また、スピーカ342は、ユーザに対して、音声によりアラームを発報できる。また、出力装置340は、LED等を備える発光部を有し、LED等の光によってアラートを発する構成とすることもできる。
【0034】
なお、出力装置340は、ディスプレイ341、スピーカ342、LEDに限らず、例えば、静脈圧の測定結果、および測定結果の精度を印刷して出力するためのプリンタを備えることもできる。
【0035】
ネットワークインターフェース350は、制御部360を通信ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、ネットワークインターフェース350は、通信ネットワークを介してサーバ等の外部装置と通信するための各種インターフェース用の処理回路を含んでおり、通信ネットワークを介して通信するための通信規格に適合するように構成されている。通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等である。
【0036】
制御部360は、患者の静脈圧を測定し、静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報を出力する。制御部360は、脈波解析装置300の主たる制御を司るソフトウェアおよびハードウェアであっても良く、制御部360が独立した装置であってもよい。例えば制御部360は、患者の脈波解析を行う専用の医療装置であってもよいし、脈波解析を行うための脈波解析プログラムがインストールされたパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等であってもよい。さらに、制御部360は、ユーザの身体(例えば、腕や頭部等)に装着されるウェアラブルデバイス等であってもよい。
【0037】
図2に示すように、制御部360は、プロセッサ(CPU:Central Processing Unit)361、メモリ362、補助記憶部363、および入出力インターフェース364を有する。
【0038】
メモリ362は、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)を有する。ROMには、各種プログラムやパラメータ等が記憶されている。また、RAMは、プロセッサ361により実行される各種プログラム等が格納されるワークエリアを備える。プロセッサ361は、ROMや補助記憶部363に記憶されている各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMと協働することにより各種処理を実行するように構成されている。また、RAMには、静脈圧の測定結果、測定結果の精度に関する情報、静脈圧の適性範囲、バイタルパラメータの算出結果、バイタルパラメータのカットオフ値、適性範囲等が保存されている。RAMは、第1の記憶部、および第2の記憶部として機能する。
【0039】
補助記憶部363は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、USBフラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)を有する。補助記憶部363は、脈波解析プログラムや各種データを格納するように構成されている。また、補助記憶部363は、脈波取得部401によって取得された脈波データを保存する。
【0040】
入出力インターフェース364は、プロセッサ361と、入力装置330および出力装置150とのインターフェースとして機能する。入出力インターフェース364は、マウスやキーボード等の入力デバイスとの通信を行う各種の通信モジュールや、ディスプレイ341およびスピーカ342を駆動する駆動モジュール等を有する。
【0041】
プロセッサ361が脈波解析プログラムを実行することにより、制御部360は、脈波解析装置300の各部を制御し、様々な機能を実現する。
【0042】
図3は、制御部360の主要な機能を例示する機能ブロック図である。制御部360は、脈波取得部401、静脈圧算出部402、パラメータ算出部403、および出力制御部404として機能する。以下、図4を参照して、制御部360の各機能について詳細に説明する。
【0043】
<脈波解析方法>
図4は、脈波解析装置300の脈波解析方法の処理手順について例示するためのフローチャートである。同図のフローチャートの処理は、プロセッサ361が脈波解析プログラムを実行することにより実現される。また、図5(A)は患者の上腕に印加されたカフ圧の時間変化を示す図であり、図5(B)は図5Aのカフ圧の時間変化から抽出された脈波データを例示する図である。また、図6図5(B)の脈波データのステップ毎の脈波の波形を例示する波形図であり、図7図6に示すステップ毎の脈波の波形を周波数解析した結果を例示する図である。また、図8は呼吸成分を含む脈波のステップ毎の脈波の波形を例示する波形図であり、図9図8に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。また、図10は不整脈を含む脈波の波形をステップ毎に例示する波形図であり、図11図10に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。また、図12は、モニタ画面に中心静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報を表示する場合を例示する模式図である。
【0044】
本実施形態では、患者の動脈圧および静脈圧を含む血圧測定を行う場合について例示する。まず、患者の脈波の取得を開始する(ステップS101)。脈波取得部401は、脈波測定部を制御し、患者(生体)の脈波の取得を開始する。脈波取得部401は、患者の血圧測定を開始するタイミングを管理し、このタイミングに合わせて、脈波測定部の各部に対して必要な制御を行う。例えば、脈波取得部401は、血圧測定を開始するタイミングとして一定期間毎にトリガーを生成するように構成されうる。また、医療従事者による血圧測定の指示をトリガーとして、血圧測定を開始することもできる。
【0045】
脈波取得部401は、患者の血圧測定を行うタイミングになった場合、または医療従事者による血圧測定の指示が入力された場合、脈波測定部に対して、測定開始の指示を出力し、加圧ポンプ311および排気弁312の制御を行う。これにより、患者の上腕に印加されるカフ圧が変化しつつ、患者の脈波が取得される。
【0046】
より具体的には、図5(A)に示すように、脈波取得部401は、血圧測定が開始されると、加圧ポンプ311によりカフ圧を上昇させる。カフ圧が上昇する過程(同図のT1で示される期間)において、動脈圧、すなわち拡張期血圧、平均血圧、および収縮期血圧がオシロメトリック法により非侵襲的に測定される。オシロメトリック法による動脈圧の測定方法は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0047】
次に、中心静脈圧を算出する(ステップS102)。脈波取得部401は、ステップS101において血圧測定のために十分な圧力(例えば130mmHg以上)まで上昇したカフ圧を拡張期血圧以下の40~50mmHg程度(例えば、45mmHg)まで降下させ、カフ圧を一定に維持する(同図のT2で示される期間)。その後、脈波取得部401は、一定時間(例えば、900ms)毎にカフ圧を所定の減圧幅(例えば、5mmHg)だけ段階的に降下させる。静脈圧算出部402は、カフ圧が降下する過程(同図のT3で示される期間)におけるカフ圧と脈波の波形とに基づいて、患者の中心静脈圧を算出する。カフ圧が段階的に降下される各段階の加圧区間は、後述する図6の各ステップに対応する。より具体的には、図5(A)におけるT2の最後の加圧区間と、T3の11個の加圧区間とは、各々図6のステップ1~12に対応する。
【0048】
より具体的には、図5(B)に示すように、カフ圧が所定の減圧幅で降下する過程において、脈波が測定される。図5(B)は、図5(A)に示されるカフ圧の経時変化を示す波形から抽出された圧振動の成分の経時変化を示している。圧振動の成分の抽出は、図5(A)に示される波形にフィルタリング処理を行なうことによってなされうる。フィルタリング処理は、カフ圧検出部314が備えうるハイパスフィルタ回路を通過させることによって行なわれてもよいし、プロセッサ361によってソフトウェア的に行なわれてもよい。
【0049】
カフ圧が段階的(ステップ状)に降下していくと、それに伴ってカフ圧に重畳する動脈の脈波成分が減少していくとともに、静脈の脈波成分(以下、単に「脈波」ともいう)が徐々に増加していく。さらにカフ圧が降下すると脈波がさらに増加していく。そして、カフ圧と、患者の上腕の血管壁にかかる血液の圧力とが等しくなった時、脈波の振幅が最大となる。静脈圧算出部402は、脈波の振幅が所定の変化をした時点、例えば、脈波の振幅が最大となった時点におけるカフ圧(図5(B)においてP1で示されるカフ圧)を平均静脈圧であると決定する。カフ圧を降下させつつ行う脈波の測定は、脈波の振幅が所定の変化をするまで繰り返される。そして、静脈圧算出部402は、決定した平均静脈圧を中心静脈圧であると推定する。
【0050】
なお、図5(A),(B)の例では、カフ圧を降下させつつ脈波を測定し、脈波の振幅が所定の変化をしたカフ圧から静脈圧を推定する場合について説明したが、このような場合に限定されない。カフ圧を上昇させつつ脈波を測定し、脈波の振幅が所定の変化をしたカフ圧から静脈圧を推定するように構成してもよい。
【0051】
このように、脈波解析装置300は、カフ圧および脈波に基づいて、演算によって患者の静脈圧を測定できるので、侵襲的な測定を回避できる。
【0052】
また、本実施形態では、静脈圧の測定と並行して、脈波を解析することによりバイタルパラメータの算出も行う。より具体的には、パラメータ算出部203は、脈波の所定期間における波形を解析し、患者について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出する。所定期間は、カフ圧の降圧過程(図5(A)のT3で示される期間)でありうる。なお、所定期間は、カフ圧の降圧過程と完全に一致する必要はなく、カフ圧の降圧過程の一部の期間、またはカフ圧の降圧過程と一部重なる期間であってもよい。
【0053】
パラメータ算出部203は、カフ圧の降圧過程において、静脈圧を測定しつつ、バイタルパラメータを算出することが好ましい。図4のフローチャートには、説明の便宜上、ステップS102において中心静脈圧を算出した後、ステップS103においてバイタルパラメータを算出するように記載されているが、ステップS102,S103の処理は同時並行的に行うことが可能である。これにより、血圧測定にかかる時間を短縮することができる。また、静脈圧を測定した後に、脈波の所定期間における波形を解析し、バイタルパラメータを算出することもできる。
【0054】
脈波の解析は、例えば、脈波の波形について、周波数解析(例えば、フーリエ変換)や振幅の変化を算出することによって行われる。バイタルパラメータは、例えば、呼吸数、呼吸深度、不整脈の有無、心拍数(脈拍数)、および動脈血酸素飽和度(SpO2)のうちの少なくとも1つを含む。
【0055】
図6に示すように、各々のステップ(同図に示す例ではStep1~12)には、1つの心拍に対応する1単位の脈波が複数含まれている。正常な脈波では、周期のバラツキは少ない。
【0056】
図7に示すように、パラメータ算出部203は、図6の各々のステップについて脈波の波形の周波数解析を行い、周波数に対する脈波の強度を取得する。同図において、縦軸は、脈波の強度(パワー表示)であり、横軸は周波数(表示の数値×60)[Hz]である。例えば、患者の心拍が1分間に60回(すなわち1[Hz])である場合、横軸が1とその正数倍(高調波)の周波数にピーク(図7において「〇」で示す)を有する。
【0057】
安静時の健康な成人の心拍は、通常、1分間に60~100回程度といわれている。脈波測定部によって測定される脈波には、患者の心拍に由来する心拍成分だけではなく、呼吸に由来する呼吸成分も含まれうる。例えば、図8に示すように、呼吸成分が多く含まれる脈波では、心拍成分に呼吸成分が重畳されることにより、振幅にバラツキが生じうる。
【0058】
呼吸数は、1分間に12~20回程度といわれており、心拍数よりも少ない。したがって、脈波に含まれる呼吸成分の周期は、通常、心拍成分の周期よりも長い周期を有するので、測定された脈波の周期(すなわち周波数)の差異を利用して、脈波から呼吸成分を分離することができる。また、分離した呼吸成分の大きさから、呼吸成分の強度(パワー)を取得できる。
【0059】
より具体的には、図9に示すように、パラメータ算出部203は、図8の各々のステップについて、脈波の波形の周波数解析を行う。同図の縦軸は、脈波の呼吸成分について、呼吸深度に対応し、横軸は1分毎の呼吸数に対応する。
【0060】
一方、患者の毎分の呼吸は多くても20回程度であるので、脈波の呼吸成分は、60[Hz]よりも低い周波数の範囲に現れる。図9に示す例では、各ステップにおいて矢印ARで示す周波数に呼吸が現れている。したがって、例えば、パラメータ算出部403は、カットオフ周波数が40[Hz]程度のローパスフィルタにより、脈波から呼吸成分を分離できる。また、パラメータ算出部403は、呼吸成分のピーク値に基づいて、脈波における呼吸深度を算出する。これにより、呼吸深度が深い場合、呼吸による脈波への影響が大きいと推定できる。
【0061】
また、脈波の周波数解析の結果、基本周波数に対応する成分は、心拍成分であるので、パラメータ算出部403は、基本周波数に基づいて心拍数(脈拍数)を算出する。さらに、図10に示すように、不整脈により脈が乱れている場合、脈波の周期にバラツキが生じる。このような場合、図11に示すように、各ステップについて周波数解析を行うと、心拍の基本周波数の高調波以外の周波数にもピークが現れる。パラメータ算出部403は、基本周波数、および高調波以外のピークに応じて、不整脈の有無を判定できる。パラメータ算出部403は、例えば、基本周波数、および高調波以外の周波数にも所定値よりも大きいピークが有る場合、不整脈が有ると判定し、所定値よりも大きいピークが無い場合、不整脈が無いと判定する。あるいは、パラメータ算出部403は、周波数解析を行う代わりに、脈波の波形の周期(あるピークから次のピークまでの時間)のバラツキに基づいて、脈波における不整脈の有無を判定することもできる。パラメータ算出部403は、例えば周期のバラツキが大きい場合には不整脈ありと判定し、バラツキが小さい場合は不整脈無しと判定する。またパラメータ算出部403は、例えば、脈波の波形の周期の平均値が所定の第1時間よりも長い場合には不整脈と判定し、または所定の第2時間(<第1時間)よりも短い場合にも不整脈と判定する。
【0062】
次に、静脈圧の測定結果と、測定結果の精度に関する情報とを出力する(ステップS104)。図12に示すように、出力制御部404は、出力部として機能し、例えば、静脈圧の測定結果、および測定結果の精度に関する情報(以下、「測定精度情報」ともいう)を、ディスプレイ341のモニタ画面400に表示するように制御する。また、静脈圧の測定結果、および測定精度情報を、スピーカ342から音声で出力したり、出力装置340がプリンタを備える場合は、用紙に印刷したりすることもできる。
【0063】
モニタ画面500は、例えば、算出された中心静脈圧(CVP)を表示する静脈圧表示領域510と、測定精度情報を表示する精度表示領域520と、心拍数(HR)を表示する心拍数表示領域530と、呼吸数(RR)および呼吸深度を表示する呼吸情報表示領域540と、非観血血圧(NIBP)を表示する非観血血圧表示領域550と、動脈血酸素飽和度(SpO2)を表示する酸素飽和度表示領域560と、波形表示領域570(波形の図示を省略)と含みうる。
【0064】
図12には、算出された中心静脈圧が20[mmHg]であり、静脈圧の測定精度が「良好」である場合について例示されている。例えば、測定精度情報は、算出された静脈圧の精度の高低の情報を含み、精度が高い場合は「良好(Good)」が表示され、精度が低い場合は「不良(Bad)」が表示されうる。例えば、出力制御部404は、呼吸深度が所定の閾値(カットオフ値)以下であり、不整脈が無い場合は、算出された静脈圧の精度が高いと判定し、測定精度として「良好」を表示する。一方、出力制御部404は、呼吸深度が上記閾値を超える場合、および不整脈が有る場合の少なくともいずれかである場合は、算出された静脈圧の精度が低いと判定し、測定精度として「不良」を表示する。このように、バイタルパラメータの測定結果(本例では呼吸深度の大きさや不整脈の有無)に応じて、静脈圧の表示に測定結果の大きさや、良し悪しを表す指標(例えば、高(High)/低(Low)や、良好(Good)/不良(Bad))の表示を付加する。したがって、ユーザは、静脈圧の測定精度を容易に把握できる。なお、測定精度を「良好」、「不良」の2段階で表示する場合について説明したが、これに限らず、閾値を複数設定することにより、精度を多段階で表示するように構成してもよい。
【0065】
なお、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、呼吸情報、非観血血圧(NIBP)、および動脈血酸素飽和度(SpO2)については、通常の生体情報測定では、モニタ画面500に表示されるが、後述の変形例との差異を明確にするため、ここでは表示を省略している。
【0066】
また、出力制御部404は、バイタルパラメータ、および測定精度情報の少なくとも1つに基づいて、算出された静脈圧の出力を制御することもできる。例えば、出力制御部404は、バイタルパラメータ、および測定精度情報の少なくとも1つに基づいて、静脈圧の測定結果の表示/非表示、測定結果の表示色および/または表示サイズ、ならびに測定精度に関する警告表示の有無、の少なくとも1つを変更できる。例えば、出力制御部404は、測定精度が高い場合、測定結果を表示し、測定精度が低い場合、測定結果を表示しないように制御しうる。
【0067】
また、出力制御部404は、測定精度の高低に応じて、測定結果を異なる色で表示しうる。例えば、測定精度が高い場合、測定結果の表示色を緑色で表示し、測定精度が低い場合、測定結果の表示色を赤色で表示するように出力装置340を制御しうる。
【0068】
また、出力制御部404は、測定精度の高低に応じて、測定結果を異なるサイズで表示するように出力装置340を制御しうる。例えば、出力制御部404は、測定精度が高い場合、測定結果の表示サイズを通常のサイズとし、測定精度が低い場合、測定結果の表示サイズを通常のサイズよりも大きくするように出力装置340を制御しうる。
【0069】
また、測定精度が低い場合は、測定結果にマークを付したり、測定結果の周りを枠で囲ったりして、測定精度が低い旨を警告する表示を行うこともできる。このように、算出された静脈圧の測定精度の高低に応じて、静脈圧の出力形態が異なるので、ユーザは、測定精度が低いことを容易に把握できる。
【0070】
また、出力制御部404、バイタルパラメータの算出結果が、当該バイタルパラメータの適性範囲(所定範囲)に含まれない場合、表示および/または音声によりアラームを出力するように出力装置340を制御することもできる。これにより、ユーザは、バイタルパラメータの算出結果が、バイタルパラメータの適性範囲外となったことを即座に把握できる。
【0071】
さらに、出力制御部404は、静脈圧の測定結果が、静脈圧の適性範囲(所定範囲)に含まれない場合、表示および/または音声によりアラームを出力するように出力装置340を制御することもできる。これにより、ユーザは、静脈圧の算出結果が、静脈圧の適性範囲外となったことを即座に把握できる。
【0072】
以上で説明した図4に示すフローチャートの処理において、脈波取得部401は患者の脈波を取得する。静脈圧算出部402は、脈波の所定期間における波形に基づいて、静脈圧を算出し、パラメータ算出部403は、上記所定期間における波形を解析し、患者について少なくとも1つのバイタルパラメータを算出する。そして、出力制御部404は、算出された静脈圧と、バイタルパラメータに基づく静脈圧の精度に関する情報とを出力する。
【0073】
(変形例)
上述の例では、中心静脈圧の測定結果と測定結果の精度に関する情報とをモニタ画面に表示する場合について説明したが、測定結果の精度に関する情報の代わり、あるいは測定結果の精度に関する情報に加えてバイタルパラメータを出力するように構成することもできる。
【0074】
脈波に含まれる呼吸成分が大きい場合を想定する。図13(A)は患者の上腕に印加されたカフ圧の時間変化を示す図であり、図13(B)は図13(A)のカフ圧の時間変化から抽出された脈波データを例示する図である。また、図14図13(B)に示す脈波データのステップ毎の脈波の波形を例示する波形図であり、図15図14に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。また、図16は、モニタ画面に中心静脈圧の測定結果、およびバイタルパラメータとしての呼吸深度とを表示する場合を例示する模式図である。図17はステップ毎の呼吸のパワーを例示するグラフであり、図18はステップ毎の心拍成分/呼吸成分を例示するグラフである。
【0075】
図13(A),(B)に示すように、脈波取得部401は、患者の上腕に印加するカフ圧を変化させつつ、患者の脈波を取得する。しかし、同図に示す例では、カフ圧の降下過程の全体において、呼吸の影響により脈波の振幅が著しく変動しているため、脈波の振幅が最大となる時点を判別することが難しく、静脈圧を決定することができない。図14に示すように、ステップ毎の脈波の振幅も1単位の脈波毎にばらついている。
【0076】
図15に示すように、パラメータ算出部403は、各々のステップ毎の脈波を周波数解析する。解析の結果、多くのステップにおいて、周波数が1[Hz]以下の低周波領域にピークが現れており、心拍成分よりも呼吸成分の方が大きくなっている。例えば、呼吸成分の強度(呼吸深度)は、Step1において約0.06であり、Step2において約0.03である。
【0077】
図16に示すように、出力制御部404は、中心静脈圧の測定結果とバイタルパラメータとしての呼吸深度とを、各々静脈圧表示領域510および呼吸情報表示領域540に表示するように出力装置340を制御する。同図には、呼吸数が17[/min]、呼吸深度(Power)が0.03である場合について例示されている。中心静脈圧については、呼吸の影響により測定できていないため、「-」と表示されている。また、出力制御部404は、呼吸深度の値と、呼吸深度のカットオフ値とを比較し、比較結果に応じて、呼吸深度の大きさを表す指標(例えば、高低)を表示するように制御できる。例えば、同図の場合では、呼吸深度の値がカットオフ値(例えば、0.01)よりも大きいので、呼吸深度の高低として「高」と表示される。このように、バイタルパラメータとしての呼吸深度の算出結果の大きさに応じて、呼吸深度の表示に高/低の表示を付加する。したがって、ユーザは、呼吸深度の高低を容易に把握できる。また、カットオフ値は、制御部360のRAMに予め保存されている。なお、上述の例では呼吸深度について、高/低の2段階の表示を行う場合について説明したが、2段階の表示に限定されず、比較するための閾値をRAMに複数保存することにより、多段階(例えば、高/中/低)の表示を行うように構成してもよい。医師は、呼吸深度が高い(深い)ことを確認し、中心静脈圧の測定が呼吸の影響を受けたため中心静脈圧の測定ができなかったと判断する。
【0078】
このように、呼吸の影響により脈波の基線が安定せず、脈波の振幅変化の検出が困難である場合は、静脈圧の精度が低いことを表示するか、あるいは測定結果を非表示とする処理を行う。これにより、ユーザは、呼吸の影響が大きく、静脈圧の精度が低い、あるいは測定が実施できなかった旨を把握できる。
【0079】
また、脈波(心拍成分)の振幅変化ではなく脈波の大きさの変動から静脈圧を算出することもできる。例えば、図17に示すように、呼吸成分が重畳しているために、心拍成分の振幅変化を検出することが困難である場合において、心拍成分の振幅変化ではなく脈波の大きさの変動を利用して静脈圧を推定する。例えば、同図のStep2~11において、患者の呼吸深度が概ね一定、すなわち呼吸成分のパワーが概ね一定であり、かつ心拍成分のパワーも一定であれば、呼吸成分のパワーに対する脈波のパワーの比は概ね一定となる。しかし、図18に示すように、Step2~11において呼吸深度が概ね一定であるにもかかわらず、呼吸成分に対する脈波のパワーの比は、大きく変化している。これは、心拍成分の振幅が変化しているためである。図18に示す例では、静脈圧算出部402は、呼吸成分に対する脈波のパワーの比が最も大きいステップ(Step)8に対応するカフ圧を中心静脈圧であると決定する。
【0080】
また、脈波の心拍成分の周期がばらついている場合を想定する。図19(A)は患者の上腕に印加されたカフ圧の時間変化を示す図であり、図19(B)は図19(A)のカフ圧の時間変化から抽出された脈波データを例示する図である。また、図20図19(B)に示す脈波データのステップ毎の脈波の波形を例示する波形図であり、図21図20に示すステップ毎の脈波を周波数解析した結果を例示する図である。また、図22は、モニタ画面に中心静脈圧の測定結果、およびバイタルパラメータとしての不整脈の有無とを表示する場合を例示する模式図である。
【0081】
図19(A),(B)に示すように、脈波取得部401は、患者の上腕に印加するカフ圧を変化させつつ、患者の脈波を取得する。静脈圧算出部402は、例えば、脈波の振幅が最大となった時点におけるカフ圧(図19(B)においてP2で示されるカフ圧)を中心静脈圧であると決定する。図20に示すように、ステップ毎の脈波において、周期がばらついている。
【0082】
図21に示すように、パラメータ算出部403は、図20のステップ毎の脈波について周波数解析する。解析の結果、心拍成分の高調波以外の周波数にもピーク値が現れている。これは、脈波の心拍成分の周期がばらついているためである。したがって、脈波には不整脈が含まれ、静脈圧算出部402によって算出された中心静脈圧の測定結果の精度は低いと考えられる。
【0083】
図22に示すように、出力装置340は、中心静脈圧の測定結果とバイタルパラメータとしての不整脈の有無とを、各々静脈圧表示領域510および不整脈表示領域535に表示するように出力装置340を制御する。同図には、中心静脈圧が20[mmHg]であり、不整脈が有る場合について例示されている。医師は、患者に不整脈が有ることを確認し、中心静脈圧の測定が不整脈の影響を受けたため、測定結果の精度が低いと判断する。
【0084】
以上で説明した本実施形態の脈波解析装置は下記の効果を奏する。
【0085】
測定された中心静脈圧と、バイタルパラメータ、および/またはバイタルパラメータに基づく中心静脈圧の精度に関する情報とを出力するので、患者の中心静脈圧に加えて、測定された中心静脈圧の精度を医療従事者に通知できる。したがって、医療従事者は、測定精度を認識した上で、測定された中心静脈圧を確認できる。
【0086】
また、静脈圧の測定とバイタルパラメータの算出を同時並行的に行うことができるので、測定の時間を短縮できる。
【0087】
以上のとおり、実施形態において、本発明の脈波解析装置、脈波解析方法、および脈波解析プログラムを説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略できることはいうまでもない。
【0088】
例えば、上述の実施形態では、脈波解析装置300が患者の動脈圧および静脈圧を含む血圧測定を行う場合について説明したが、このような場合に限定されない。脈波解析装置300は、測定開始後、動脈圧を測定せずに、カフ圧を段階的に降下または上昇させて、中心静脈圧を測定してもよい。また、静脈圧の測定は、静脈圧の測定の後に行ってよい。
【0089】
また、上述の実施形態では、カフ200を含む脈波測定部によって測定された脈波(カフ脈波)に基づいて静脈圧を算出する場合について主に説明した。しかしながら、本発明はこのような場合に限定されない。例えば、光電脈波測定部によって測定された光電脈波に基づいて静脈圧を算出するように構成することもできる。また、他のシステムで非侵襲的に測定され、通信ネットワーク上に配置されたサーバ(コンピュータ)からネットワークインターフェース350を介して取得された脈波データに基づいて静脈圧を算出してもよい。また、患者の頸部に光源とフォトデテクターを内蔵するセンサを配置し、当該センサが取得した光学的信号に対してNIRS(近赤外線分光法)を用いた演算を行うことによって静脈圧を推定してもよい。
【0090】
また、上述の実施形態では、静脈圧の測定結果、または各々のバイタルパラメータの算出結果を単独で閾値との比較や、適性範囲に含まれるか否かの判定を行い、測定精度の表示やアラームの出力を行う場合について説明したが、本発明はこのような場合に限定されない。静脈圧の測定結果、および少なくとも1つのバイタルパラメータの各々が他の測定(算出)に及ぼす影響を考慮し、測定精度(信頼度)の表示やアラームの出力を行うように構成してもよい。また、複数のバイタルパラメータを組み合わせて新たな指標を生成し、閾値との比較を行い、測定精度の表示やアラームの出力を行うように構成してもよい。
【0091】
また、脈波の測定の精度を向上させるため、光電脈波を加味するように構成してもよい。また、電極および心電図測定装置をさらに有し、心電図による脈波を加味するように構成してもよい。
【0092】
また、上述した実施形態に係る脈波解析装置300における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピュータのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、脈波解析装置300の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0093】
100 脈波解析システム、
200 カフ、
210 光電脈波検出センサ、
300 脈波解析装置、
311 加圧ポンプ、
312 排気弁、
313 圧力センサ、
314 カフ圧検出部、
315 ADC、
330 入力装置、
340 出力装置、
350 ネットワークインターフェース、
360 制御部、
361 プロセッサ、
362 メモリ、
363 補助記憶部、
364 入出力インターフェース、
401 脈波取得部、
402 静脈圧算出部、
403 パラメータ算出部、
404 出力制御部。
図1
図2
図3
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