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特開2022-167342荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システム
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  • 特開-荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167342
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221027BHJP
   H01C 13/00 20060101ALI20221027BHJP
   H01C 3/00 20060101ALI20221027BHJP
   H01C 3/02 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H01C13/00 A
H01C3/00 Z
H01C3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073084
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA07
5H770AA21
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770JA14W
5H770LA01W
5H770LB07
5H770QA36
(57)【要約】      (修正有)
【課題】荷役装置の放電用抵抗器の電磁振動に伴う騒音の発生を低減するための荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムを提供する。
【解決手段】回生電力放電システムにおいて、回生電力が充電されることで上昇する平滑コンデンサCの電極間電圧を降下させるために、平滑コンデンサCの電極間に、抵抗体素子RD及び抵抗体素子に電流を流すための開閉回路用トランジスタBTを直列に接続する。開閉回路用トランジスタBTは、平滑コンデンサCの電極間電圧が回生電力が充電されることにより上昇した時にオンになり抵抗体素子に電流を流し、抵抗体素子により充電された回生電力を放電することで平滑コンデンサCの電極間電圧が降下した時にオフになることにより、モータIMが回生状態の時にオン/オフを繰り返して抵抗体素子にパルス状の電流を流す動作をする。抵抗体素子には非磁性体金属であるSUS304を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役装置のモータが回生状態の時に、モータから継続して回生電力が回生され、インバータ装置の平滑コンデンサに回生電力が充電される荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムにおいて、
回生電力が充電されることで電極間電圧が上昇する平滑コンデンサの上昇した電極間電圧を降下させるために、平滑コンデンサの電極間に、抵抗器及び該抵抗器に電流を流すための開閉回路用トランジスタが直列に接続され、
開閉回路用トランジスタは、平滑コンデンサの電極間電圧が回生電力が充電されることにより上昇した時にオンになり抵抗器に電流を流し、抵抗器により充電された回生電力を放電することで平滑コンデンサの電極間電圧が降下した時にオフになることにより、モータが回生状態の時にオン/オフを繰り返して抵抗器にパルス状の電流を流す動作をし、
抵抗器は、抵抗体素子に非磁性体金属であるSUS304を用いてなる
ことを特徴とする荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システム。
【請求項2】
前記抵抗器を、抵抗器の抵抗体素子の温度が高温になった時の抵抗値の上昇を加味した抵抗値でも回生電力を放電しきれる抵抗値に設定するとともに、抵抗体素子の温度が低温になった時の抵抗値の降下により放電電流値が増大することを加味して、放電電流の開閉回路用トランジスタの通電容量を選定することにより、温度による抵抗値変化の大きな非磁性体金属であるSUS304を抵抗体素子に使用可能としたことを特徴とする請求項1に記載の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン昇降機等の荷役装置のモータが回生状態の時に、モータから継続して回生電力が回生され、インバータ装置の平滑コンデンサに回生電力が充電される荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷役装置、例えば、クレーン昇降機は、荷を巻上げる時に電源から電力の供給を受けて荷を巻上げ、供給された電気エネルギは、モータが媒体となり荷の位置エネルギに変換される。そして荷に与えられた位置エネルギは、巻下げ時にモータを媒体とし電気エネルギに戻されインバータ装置に回生される。
そのインバータ装置に回生された電気エネルギを電源側に回生して省エネルギ化を図る変換装置が実用化されているが、その変換装置の費用対効果の問題により、回生電力を抵抗器に放電してしまうシンプルな回路も根強く運用されており、抵抗器を放電する回路の改善も求められている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-90593号公報
【特許文献2】特開2012-77385号公報
【特許文献3】特開2019-83616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレーン昇降機が吊荷の巻下げ等を行うことにより回生された回生電力は、インバータ装置内の直流回路に接続された平滑コンデンサに充電され平滑コンデンサの電圧を上昇させる。平滑コンデンサの電圧が上昇すると、その充電電力を放電するための抵抗器に向けて開閉回路用トランジスタがパルス状にスイッチングし、パルス状の電流を放電用抵抗器に流すことにより、その抵抗器の抵抗体素子にパルス状に磁界が発生する。そのパルス状の磁界により放電用抵抗器の抵抗体素子が振動し、振動音による約90dBにも及ぶ大きな騒音を発生させていた。
【0005】
クレーンの横行や走行においても、その放電用抵抗器の騒音は発生していたが、横行や走行が回生状態になるのが減速時のみで、横行や走行が持っている慣性エネルギを放電用抵抗器で放出すれば停止するので、その時間も短く、エネルギ量も小さいことから、横行や走行回路における回生用抵抗器の発生音は大きな問題になることはない。
また、類似の昇降機であるエレベータは、カウンタウエイトが存在するため、回生されるエネルギ量も小さいが、クレーンは、カウンタウエイトがなく、吊荷の位置エネルギが巻下げ運転中に継続して大きなエネルギが回生される。
このため、他の用途と異なりクレーン昇降機の放電用抵抗器の電磁振動に伴う騒音が特に問題になっており、低騒音化が求められていた。
【0006】
本発明は、上記カウンタウエイトを用いないクレーン昇降機等の荷役装置の放電用抵抗器の電磁振動に伴う騒音の問題に鑑み、放電用抵抗器の電磁振動に伴う騒音の発生を低減するための荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムは、荷役装置のモータが回生状態の時に、モータから継続して回生電力が回生され、インバータ装置の平滑コンデンサに回生電力が充電される荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムにおいて、回生電力が充電されることで電極間電圧が上昇する平滑コンデンサの上昇した電極間電圧を降下させるために、平滑コンデンサの電極間に、抵抗器及び該抵抗器に電流を流すための開閉回路用トランジスタが直列に接続され、開閉回路用トランジスタは、平滑コンデンサの電極間電圧が回生電力が充電されることにより上昇した時にオンになり抵抗器に電流を流し、抵抗器により充電された回生電力を放電することで平滑コンデンサの電極間電圧が降下した時にオフになることにより、モータが回生状態の時にオン/オフを繰り返して抵抗器にパルス状の電流を流す動作をし、抵抗器は、抵抗体素子に非磁性体金属であるSUS304を用いてなることを特徴とする。
この荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムは、荷役装置のインバータに接続される回生電力放電用抵抗器の抵抗体素子に、開閉回路用トランジスタが作り出すパルス状の放電電流を流すことにより発生するパルス状に変化する磁界により、抵抗体素子自体がそのパルス状の磁界の変化で振動しないようにするため、抵抗体素子に非磁性体金属であるSUS304を使用し、抵抗体素子自身が振動することを防止することで、抵抗器の騒音レベルを暗騒音レベルまで抑えることを可能にしている。
【0008】
この場合において、前記抵抗器を、抵抗器の抵抗体素子の温度が高温になった時の抵抗値の上昇を加味した抵抗値でも回生電力を放電しきれる抵抗値に設定するとともに、抵抗体素子の温度が低温になった時の抵抗値の降下により放電電流値が増大することを加味して、放電電流の開閉回路用トランジスタの通電容量を選定することにより、温度による抵抗値変化の大きな非磁性体金属であるSUS304を抵抗体素子に使用可能としている。
すなわち、制御用抵抗器用抵抗体素子として一般に用いられる磁性体金属である抵抗体素子に比べて温度変化に対する抵抗値変化が大きな非磁性体金属であるSUS304を放電回路用抵抗器の抵抗体素子として採用することを可能とするため、抵抗体素子に通電し温度が上昇することで上昇した抵抗値でも回生電力を放出できる抵抗値になるように低い抵抗値に設定し、抵抗体素子が冷えて抵抗値が下がった時の抵抗値でも、それに伴い増大する放電電流を流せる容量に開閉回路用トランジスタの通電容量を大きく選定することで非磁性体金属として汎用性の高いSUS304を抵抗体素子として利用できるようにしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムによれば、放電用抵抗器から発する騒音を安価に解消することが可能になり、カウンタウエイトを用いないクレーン昇降機等の荷役装置の放電用抵抗器の電磁振動に伴う騒音のクレーン昇降機等の荷役装置の騒音を低減することができる。また、荷役装置であるクレーンの制御装置はクレーン上に設置するのが一般的であるが、クレーンの制御装置をフロア上に配置するクレーンにおいては、人が往来する近傍に制御装置に付随する放電用抵抗器が設置されるため、本発明による静粛性が特に有効に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムの全体構成の説明図である。
図2】コンバータ回路の動作波形図である。
図3】開閉回路用トランジスタ回路の動作説明図である。
図4】回生電力の説明図である。
図5】電磁振動音発生の原因の説明図である。
図6】丸鋼を用いた抵抗器の一例の組立て説明図である。
図7】鋼板を用いた抵抗器の一例の組立て説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムについて、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムの全体構成の説明図である。
三相交流電源PW、順変換回路CONV、平滑コンデンサC及び逆変換回路INVで構成される汎用的なインバータ回路にモータIMが接続され、モータIMの回転軸は、ブレーキBRと減速機GRを介して、ワイヤードラムDRに接続され、これを回転させ、ワイヤードラムDRに巻き付けられたワイヤーロープWRをワイヤードラムDRの回転で荷重WAの巻上げ或いは巻下げを行うようにしている。
【0013】
図2(1)に示す、例えば、400Vの三相交流電源PWから順変換回路CONVに三相交流が供給されると、ダイオードの全相三波整流が行われ、平滑コンデンサCで平滑され、図2(2)に示すように、約540Vの直流電圧が平滑コンデンサCの電極間電圧PNとして発生する。
この直流電圧を、逆変換回路でPWMスイッチングを行い、巻上げ回転方向の相順で交流電源を作り出すと、電源側から電気エネルギをモータIMに供給する力行状態となり、モータIMの回転で荷重WAが巻上がり、荷重WAの位置エネルギが作り出される。
逆変換回路INVで巻下げ側の相順の交流電源を作り出すと、荷重WAが巻下げ方向に動作し、荷重WAの位置エネルギがモータIMで電気エネルギに変換され、インバータの直流回路に回生し、平滑コンデンサCに充電され、平滑コンデンサCの電極間電圧PNを押上げる。
この平滑コンデンサCの電極間電圧PNを押上げた回生電力を電源側にスイッチングして電源に回生する電源回生装置が実用化されているが、本発明は回生電力を電源側に回生せず、抵抗器で熱にして放電してしまう回路構成に関する技術で、シンプルで安価なのが特長である。
【0014】
図1に示すように、平滑コンデンサCの電極間には、放電用抵抗器の抵抗体素子RDと開閉回路用トランジスタBTが接続されており、平滑コンデンサCの電極間電圧PNが比較回路CPに接続され、平滑コンデンサCの電極間電圧PNを見て開閉回路用トランジスタBTのゲートに接続され、開閉回路用トランジスタBTをオン/オフするようになっている。
図3に示すように、負荷仕事率が回生RE状態になると、平滑コンデンサCの電極間電圧PNが上昇し、この電圧が三相交流電源PWの線間最大電圧を超えたところで三相交流電源PW側からの平滑コンデンサCへの充電は堰き止められ、さらに、平滑コンデンサCの電極間電圧PNが上昇し、同電圧が本実施例では720Vに達した時に開閉回路用トランジスタBTがオンし、抵抗放電電流RIが流れ、それに伴い平滑コンデンサCの電極間電圧PNが低下し、同電圧が実施例では700Vまで低下した時に開閉回路用トランジスタBTがオフし、抵抗放電電流RIが遮断される。
そして、回生電力で再び平滑コンデンサCの電極間電圧PNが720Vまで上昇し、開閉回路用トランジスタBTがオン/オフを繰り返す回路が構成される。
このように、放電用抵抗器の抵抗体素子RDには、開閉回路用トランジスタBTのオン/オフにより作り出されるパルス状の抵抗放電電流RIが流される。
【0015】
図4(1)は、クレーン昇降機の昇降用途の負荷の特性を示し、図4(2)は、クレーンの横行や走行、台車等の走行の負荷の特性である。
クレーン昇降機では、巻下げDWの間は常に位置エネルギ分が回生REされ、巻下げの
加速中は位置エネルギから慣性エネルギが差し引かれ、巻下げの減速中は、位置エネルギと慣性エネルギ分が加算される。回生状態の時間は、数十秒から数分継続し、低速のクレーンにおいては、数十分継続するものもある。
クレーンの横行や走行については、減速DLの間、クレーンの慣性エネルギ分が回生されるが、時間もエネルギ量も昇降用途より小さい。
例えば、昇降用途でWA=10tの荷重をV=1m/secで巻下げた時の負荷仕事率LP(kW)は、式(1)の値となる。
LP=g×WA×V×η 式(1)
ここで、gは重力加速度9.8(m/sec
ηは機械効率やモータ効率等を含めた効率値で0.8とする。
負荷仕事率LPは、式(1)より78.4(kW)となり、この負荷仕事率LPの値だけ回生され、非常に大きなエネルギ量が回生される。
そして、減速開始時のピーク時は、これの約1.5倍の回生電力が回生されるので、ピーク回生電力量PMは、78.4×1.5=117.6(kW)となる。
そして、このエネルギ量を放出するのに必要な抵抗値Rは、式(2)になる。
R=E÷(PM×1000) 式(2)
ここで、Eは放電電圧で700Vとする。
抵抗値Rは、4.16Ωとなり、放電用抵抗器の抵抗体素子RDの抵抗値を4.16Ω以下とすることでピーク回生電力量PMの117.6kWを放電することができる。
また、この放電用抵抗器の抵抗体素子に流れる負荷仕事率LPでの抵抗放電電流RIは、式(3)となる。
RI=(LP×1000÷R)1/2 式(3)
抵抗放電電流RIは、137Aとなり、これを放電用抵抗器の抵抗体素子RDの定格電流とする。
【0016】
開閉回路用トランジスタBTをオンした時の抵抗器に流れる電流は、式(4)となる。
RI=E÷R 式(4)
開閉回路用トランジスタBTをオンした時の抵抗器に流れる抵抗放電電流RIは168Aとなり、巻下げ定速中は、この168Aの電流が平均電流137Aになるように、開閉回路用トランジスタBTがオン・オフを繰り返しパルス状の電流が流される。
このような168Aにも及ぶ大きな電流を抵抗体に流すと、図5に示すように、抵抗体の周りに磁束φが発生し、一般的に磁性体金属である抵抗体素子がその磁束φに振られる。そして、次の瞬間、パルス状の電流がオフするのでその抵抗体素子が元に戻る。このパルスの周波数は、400Hz前後になり、その周波数抵抗体素子が振動し約90dB程度の音が抵抗体素子から発生する。
【0017】
クレーンの横行や走行、台車等の走行の負荷の回生電力の特性は、図4(2)に示すとおり、減速の時に慣性エネルギ分のエネルギが回生される。
昇降機に比べると、そのエネルギ量は小さく、放電用抵抗器の抵抗値は昇降機の10倍程度で、流れる電流が小さく、かつ、減速時間の短い時間しか回生されない。さらに、減速の開始時点では大きなエネルギが回生されるが、減速し速度が低下するとともに、速度に比例して回生量が小さくなるので、低速体素子の振動音は発生するが、昇降機ほどの大きな音にはならない。
クレーンと同じ昇降機用途としてはエレベータもあるが、エレベータにはカウンタウエイトが存在するため、クレーンの昇降に比べると回生量が少なく、その回生量に比例し抵抗体素子の振動音も小さくなる。
また、それ以外のインバータ用途であるファンやポンプ等は殆ど回生がない。
このように、放電用抵抗器の振動音の発生は、クレーン等の荷役装置に特有の問題で、昇降機で特に顕著に発生する。
【0018】
この磁束φによる抵抗体素子RDの振動音を抑えるために、本発明では抵抗体素子RDに非磁性体金属であるSUS304を用いることで、抵抗体素子RDの振動を解消するようにし、抵抗体素子RDから発生する音を暗騒音レベルに低減し、完全に解消している。
一般に、制御用抵抗用金属素子は、温度による制御特性の変動が大きくならないように、抵抗温度係数が小さい合金金属が用いられるが、非磁性体金属として汎用性のあるSUS304は抗温度係数が高く、温度による抵抗値の変動が大きくなる。
本実施例では、平均電流137AをSUS304からなる抵抗体素子RDに流した時に、温度が300℃になるように設計し、300℃の時に4.16Ω以下になるように選定している。
このSUS304からなる抵抗体素子RDが冷えて仕様最低温度(本実施例では、-5℃)になった時の抵抗値の値に対して、開閉回路用トランジスタBTの許容電流が満足する大きさのトランジスタを選定することで、システムとして成立させている。
なお、このシステムでは、抵抗値の変動は、パルス幅が変動することで吸収されるので、抵抗体素子RDの温度変化により抵抗値が変動しても問題なく機能する。
このように、放電用抵抗器は、従来の制御用抵抗器と異なり、温度による抵抗値の変動をシステム全体で総合的に選定することで、汎用性のある非磁性体金属であるSUS304を抵抗体素子として使用できるようにしている。
【0019】
図6に、SUS304の丸鋼を曲げて抵抗体素子RDとした実施例を示す。
図6(2)が、抵抗体素子RDの単品を側面から見た図で、図6(1)がそれを多数組み合わせて、直列回路に接続した状態を上面から見た図である。
鋼棒に耐熱絶縁チューブを巻いた2本の耐熱絶縁棒ILに抵抗体素子RDを通し、片側に耐熱絶縁板IPを挟んで抵抗体素子を重ねていく。そして、終端に端子板TBを挟み、四隅に絶縁碍子PIを付けて四隅から締め付けることで、一組の抵抗体ブロックとなり、数組の抵抗体ブロックを直列回路に接続し、所定の抵抗値にする。
ここで、耐熱絶縁棒ILの棒鋼製心棒や、この抵抗体ブロックを覆う通風性の鋼板カバーを使用するが、これらの心棒やカバーは、磁性体金属であるSS400等を用いても音の発生源にはならない。
SUS304の丸鋼を曲げ加工に当たっては、極端に小さい曲げ半径で曲げるとその部分の組織が非磁性体のオーステナイトから磁性体のマルテンサイトに組織変形し、僅かに磁性を帯びる場合があるので、曲げ半径を小さくしすぎないことが重要である。万一、マルテンサイト化しても熱処理を行い、オーステナイト組織に戻せばよいが、曲げ半径の管理を行えば、その必要性はない。
【0020】
図7にSUS304の鋼板を型抜きし、抵抗体素子RDとした実施例を示す。
図7(2)が、抵抗体素子RDの単品を側面から見た図で、図7(1)がそれを多数組み合わせて、直列回路に接続した状態を上面から見た図である。
鋼棒に耐熱絶縁チューブを巻いた2本の耐熱絶縁棒ILに抵抗体素子RDを通し、耐熱絶縁カラーISを挟んで端部を隣の抵抗体素子と溶着し直列回路に重ねていく。
そして、終端に端子板TBを接続し、四隅に絶縁碍子PIを付けて四隅から締め付けることで、一組の抵抗体ブロックとなり、数組の抵抗体ブロックを直列回路に接続し、所定の抵抗値にする。
ここで、耐熱絶縁棒ILの棒鋼製心棒や、この抵抗体ブロックを覆う通風性の鋼板カバーを使用するが、これらの心棒やカバーは、磁性体金属であるSS400等を用いても音の発生源にはならない。
図7の素子を使う場合も、隣の素子と接合するために、端部に曲げ加工を施すが、この曲げ加工も大きく曲げると上述のように僅かに磁性を帯びる場合があるので曲げを大きくしないことが重要である。
【0021】
放電用抵抗体素子RDに非磁性体金属を用いる用途として最も有効に作用するクレーン
昇降機の昇降用途での実施例について説明をしたが、クレーン昇降機の横行や走行、台車等の走行の負荷やエレベータ等も、磁性体素子の放電用抵抗器を使用すると小さいながら振動音が発生し、これらの機器を静粛な場所に設置する場合などに非磁性体金属を放電用抵抗体素子RDを用いることで有効に作用する。
【0022】
近年では、省エネルギ化のニーズの高まりで平滑コンデンサCに蓄電された回生電力を電源に回生するニーズも高まっているが、その場合は、平滑コンデンサCから電源側に向かってスイッチング回路を構成する電源回生装置を追加設置する必要があり、設備コストが高くなる。
ところで、常に定格荷重を吊るクレーンは珍しく、普段は定格荷重の50%以下の荷重値の荷重を吊り、定格荷重を吊るのは偶にしかないというクレーンが多い。
そういうクレーンに、前記の電源回生装置を設置する場合も、最大荷重を回生できる能力のある大きさの電源回生装置を設置する必要があり、電源回生装置の負荷率が小さくなり、電源回生装置の設置費用に対する運用効果が小さくなるので、電源回生ではなく、構造がシンプルな抵抗器で放電してしまう図1の回路構成のニーズが根強いのが実態である。
【0023】
以上、本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムについて、クレーン昇降機の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の荷役装置のインバータ装置を備えた駆動回路の回生電力放電システムは、カウンタウエイトを用いないクレーン昇降機等の荷役装置の放電用抵抗器の電磁振動に伴って発生する大きな騒音を暗騒音レベルに抑制し、装置の静粛性を高めることができるとともに、抵抗体素子に汎用性の高い非磁性体金属であるSUS304が選定できるように温度による抵抗値の変動を許容する構成とすることで、設備コストを抑えて静粛性を高めることが可能なため、クレーン昇降機等の荷役装置の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0025】
PW 三相交流電源
CONV 順変換回路
INV 逆変換回路
P プラスライン
N マイナスライン
C 平滑コンデンサ
RD 抵抗体素子
BT 開閉回路用トランジスタ
CP 比較回路
IM モータ
BR ブレーキ
GR 減速機
DR ワイヤードラム
WR ワイヤーロープ
WA 荷重
PWE 電源電圧
L1 R相
L2 S相
L3 T相
PN 平滑コンデンサの電極間電圧
LP 負荷仕事率
PE 力行
RE 回生
RI 抵抗放電電流
V 速度
UP 巻上げ
DW 巻下げ
AL 加速
RN 高速走行
DL 減速
t 時間
IL 耐熱絶縁棒
PI 絶縁碍子
IP 耐熱絶縁板
TB 端子板
IS 耐熱絶縁カラー
φ 磁束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7