(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167353
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】複合電解質、電解質膜、触媒層、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1051 20160101AFI20221027BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221027BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073104
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】篠原 朗大
(72)【発明者】
【氏名】北野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】津坂 恭子
(72)【発明者】
【氏名】星川 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 数馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 時穂
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG12
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】ラジカルに起因する固体高分子電解質の劣化を抑制することが可能な複合電解質、並びに、これを備えた電解質膜、触媒層、及び固体高分子形燃料電池を提供すること。
【解決手段】複合電解質は、固体高分子電解質と、前記固体高分子電解質内に分散しているタングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子とを備えている。前記タングステン酸化物の水和物は、WO
3・nH
2O(但し、n=1/3、及び/又は、2)からなる。電解質膜は、このような複合電解質からなる。触媒層は、このような複合電解質を含む。さらに、固体高分子形燃料電池は、このような電解質膜、及び/又は、触媒層を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散している、タングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子と
を備え、
前記タングステン酸化物の水和物は、WO3・nH2O(但し、n=1/3、及び/又は、2)からなる
複合電解質。
【請求項2】
前記第1微粒子の含有量は、0.5mass%以上10mass%以下である請求項1に記載の複合電解質。
【請求項3】
前記第1微粒子の平均粒径は、8nm以上65nm以下である請求項1又は2に記載の複合電解質。
【請求項4】
(a)前記固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している、ラジカルを消去する機能を有する第2金属元素のイオン、及び/又は、
(b)前記固体高分子電解質内に分散している、前記第2金属元素を含む第2化合物からなる第2微粒子
をさらに含む請求項1から3までのいずれか1項に記載の複合電解質。
【請求項5】
前記第2金属元素は、Ceである請求項4に記載の複合電解質。
【請求項6】
次の式(1)を満たす請求項4又は5に記載の複合電解質。
0.0005≦M/A≦0.15 …(1)
但し、
M/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記第2金属元素のモル数(M)の比。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の複合電解質からなる電解質膜。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の複合電解質を含む触媒層。
【請求項9】
請求項7に記載の電解質膜、及び/又は、請求項8に記載の触媒層を含む固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電解質、電解質膜、触媒層、及び固体高分子形燃料電池に関し、さらに詳しくは、タングステン酸化物の水和物からなる微粒子を含む複合電解質、並びに、このような複合電解質を備えた電解質膜、触媒層、及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーダ電解装置、水電解装置、燃料電池などの固体高分子電解質を用いた各種の電気化学デバイスにおいて、電気化学反応を生じさせる部位に膜電極接合体(MEA)が用いられている。MEAは、酸素と水素の直接反応若しくは電気化学反応によって直接的に生成するラジカル、又は、過酸化水素を経て生成するラジカルにより、電解質が攻撃され劣化すると言われている。
例えば、燃料電池においては、ラジカル攻撃により電解質膜の抵抗増加、クロスリークの増加、薄膜化による短寿命化などが起こることが知られている。さらには、ラジカル攻撃により生成する劣化生成物により触媒被毒が起こり、電解性能や電池性能が低下するおそれがある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)白金担持カーボン及びナフィオン(登録商標)を含む触媒インクに、ナフィオン(登録商標)中のスルホン酸基のモル量に対して0.25倍モルのH2WO4、及び、0.05倍モルのRuイオンを添加し、
(b)この触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布・乾燥させることにより触媒シートとし、
(c)触媒シートをスルホン化したポリエーテルエーテルスルホン膜に熱転写する
ことにより得られるMEAが開示されている。
【0004】
同文献には、触媒層中にH2WO4及びRuイオンを同時に添加すると、これらを含まない触媒層を用いたMEAに比べて、耐久試験後の電解質膜の分子量維持率が向上する点が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、
(a)ナフィオン(登録商標)112膜を、0.1Mのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4)水溶液に90℃で30分間浸漬し、
(b)ナフィオン(登録商標)112膜をタングステン酸ナトリウム水溶液から取り出して水洗した後、さらに0.5Mの硫酸に浸漬する
ことにより得られる電解質膜が開示されている。
【0006】
同文献には、
(a)タングステン酸ナトリウムを含む膜を硫酸に浸漬すると、タングステン酸ナトリウムが加水分解し、膜内にタングステン酸化物の水和物が析出する点、及び、
(b)加水分解法を用いると、ナノメートルオーダーの遷移金属酸化物を、固体高分子電解質の内部までほぼ均一に分散させることができる点
が記載されている。
【0007】
さらに、非特許文献1には、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)を酸性条件下で処理すると、タングステン酸化物の1水和物(WO3・H2O、又は、H2WO4)が得られる点が記載されている。
【0008】
特許文献1、2には、固体高分子電解質にタングステン酸化物を単独で添加し、あるいは、タングステン酸化物とある種の金属イオンとを同時に添加すると、固体高分子電解質の劣化が抑制される点が記載されている。しかしながら、固体高分子電解質を用いた各種の電気化学デバイスの耐久性をさらに向上させるためには、ラジカルに起因する固体高分子電解質の劣化をさらに抑制することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5194448号公報
【特許文献2】特開2005-019232号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Acta Materialia 69(2014)203-209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ラジカルに起因する固体高分子電解質の劣化を抑制することが可能な複合電解質を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような複合電解質を備えた電解質膜、触媒層、及び固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る複合電解質は、
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散している、タングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子と
を備え、
前記タングステン酸化物の水和物は、WO3・nH2O(但し、n=1/3、及び/又は、2)からなることを要旨とする。
【0013】
本発明に係る電解質膜は、本発明に係る複合電解質からなる。
本発明に係る触媒層は、本発明に係る複合電解質を含む。
さらに、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係る電解質膜、及び/又は、本発明に係る触媒層を含む。
【発明の効果】
【0014】
タングステン酸化物の水和物の中でも、1/3水和物(WO3・(1/3)H2O)、及び、2水和物(WO3・2H2O)は、無水物(WO3)や1水和物(WO3・H2O)に比べて、過酸化水素分解能が格段に高い。そのため、これを固体高分子電解質に添加すると、ラジカルに起因する固体高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】各種添加剤の過酸化水素分解率を示す図である。
【
図2】実施例3及び比較例5~6で得られた電解質膜に対して開回路電圧試験を実施した時の90時間経過後のフッ素排出量の累計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 複合電解質]
本発明に係る複合電解質は、
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散している、タングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子と
を備えている。
【0017】
複合電解質は、
(a)前記固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している、ラジカルを消去する機能を有する第2金属元素のイオン、及び/又は、
(b)前記固体高分子電解質内に分散している、前記第2金属元素を含む第2化合物からなる第2微粒子
をさらに含んでいても良い。
【0018】
[1.1. 固体高分子電解質]
本発明において、固体高分子電解質の材料は、特に限定されない。固体高分子電解質は、フッ素系電解質又は炭化水素系電解質のいずれであっても良い。複合電解質には、これらのいずれか1種の固体高分子電解質が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
また、固体高分子電解質の酸基の種類についても、特に限定されない。酸基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基等がある。固体高分子電解質には、これらの酸基のいずれか1種類のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0019】
フッ素系電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などがある。
フッ素系電解質は、高分子の構造内にC-H結合を含まない全フッ素系電解質であっても良く、あるいは、高分子の構造内にC-H結合とC-F結合とを含む部分フッ素系電解質であっても良い。
【0020】
炭化水素系電解質としては、例えば、
(a)スルホン酸基などの酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、又は、これらの誘導体からなる全芳香族炭化水素系電解質、
(b)脂肪族炭化水素系電解質の高分子鎖の一部に芳香環を有する部分芳香族炭化水素系電解質、
などがある。
【0021】
[1.2. 第1微粒子]
[1.2.1. 組成]
「第1微粒子」とは、タングステン酸化物の水和物からなる微粒子をいう。
本発明において、固体高分子電解質内には、第1微粒子が分散している。
ここで、「分散」とは、
(a)タングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子(一次粒子)、又は二次粒子などの高次粒子の周囲が固体高分子電解質で囲まれた状態、又は、
(b)一次粒子、又は高次粒子の周囲の一部に固体高分子電解質が存在している状態
をいう。
タングステン酸化物の水和物は、主として、過酸化水素を分解して無害化する作用がある。そのため、固体高分子電解質にタングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子を適量添加すると、固体高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0022】
本発明において、タングステン酸化物の水和物は、WO3・nH2O(但し、n=1/3、及び/又は、2)からなる。この点が従来とは、異なる。
1/3水和物(WO3・(1/3)H2O)、及び、2水和物(WO3・2H2O)は、無水物(WO3)や1水和物(WO3・H2O)に比べて、過酸化水素分解能が格段に高い。そのため、これを固体高分子電解質に添加すると、ラジカルに起因する固体高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0023】
[1.2.2. 含有量]
「第1微粒子の含有量」とは、複合電解質の総質量に対する第1微粒子の質量の割合をいう。
本発明において、第1微粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。一般に、第1微粒子の含有量が多くなるほど、固体高分子電解質の劣化が抑制される。このような効果を得るためには、第1微粒子の含有量は、0.5mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、第1微粒子の含有量が過剰になると、固体高分子電解質の伝導度が低下する場合がある。また、複合電解質を膜化したときに、第1微粒子が凝集し、表面積の低下による劣化抑制効果の減少、あるいは、膜の機械的強度の低下が起こるおそれがある。従って、第1微粒子の含有量は、10mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、3.0mass%以下である。
【0024】
[1.2.3. 平均粒径]
「第1微粒子の平均粒径」とは、TEM観察により求めた、任意の複数個の第1微粒子の最大寸法の平均値をいう。
第1微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、第1微粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、第1微粒子が凝集しやすくなる。従って、第1微粒子の平均粒径は、8nm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、10nm以上である。
一方、第1微粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、表面積の低下による劣化抑制効果の減少、あるいは、膜の機械的強度の低下が起こるおそれがある。従って、第1微粒子の平均粒径は、65nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、40nm以下である。
【0025】
[1.3. 第2金属元素のイオン又は第2微粒子]
[1.3.1. 材料]
「第2金属元素」とは、ラジカルを消去する機能を有する金属元素をいう。
「第2化合物」とは、第2金属元素を含む化合物をいう。
「第2微粒子」とは、第2化合物からなる微粒子をいう。
【0026】
ある種の金属元素を含む化合物及びイオンは、主として、ラジカルを消去する作用がある。そのため、タングステン酸化物の水和物に加えて、固体高分子電解質にそのような金属元素を含む化合物及び/又はイオンを適量添加すると、固体高分子電解質の劣化をさらに抑制することができる。
【0027】
第2金属元素としては、例えば、Ce、Ag、Cs、Sn、Mn、Ti、Co、Ni、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、Pt、Prなどがある。複合電解質には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
これらの中でも、第2金属元素は、Ce、Ag、Cs、Sn、及びMnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。第2金属元素は、特に、Ceが好ましい。これは、これらはいずれもラジカルの生成を抑制する作用、又は、ラジカルを消去する作用が大きいためである。
【0028】
第2化合物は、水溶性の化合物であっても良く、あるいは、難溶性の化合物であっても良い。水溶性の第2化合物を用いた場合、複合電解質内において第2化合物が解離し、固体高分子電解質の酸基のプロトンの一部が第2金属元素のイオンに置換される。一方、難溶性の第2化合物を用いた場合、第2化合物は、固体高分子電解質内に分散した状態となる。
第2化合物としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、塩化物、フッ化物、水酸化物、アセチルアセトネート化合物などがある。
【0029】
[1.3.2. 含有量]
複合電解質が第2金属元素のイオン又は第2微粒子を含む場合、複合電解質は、次の式(1)を満たしているのが好ましい。
0.0005≦M/A≦0.15 …(1)
但し、
M/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記第2金属元素のモル数(M)の比。
【0030】
固体高分子電解質にタングステン酸化物の水和物のみを添加した場合であっても、固体高分子電解質の劣化を効果的に抑制することができる。しかしながら、タングステン酸化物の水和物に加えて、第2金属元素のイオン及び/又は第2微粒子をさらに添加すると、これらの相乗効果により、固体高分子電解質の劣化がさらに抑制される。このような効果を得るためには、M/A比は、0.0005以上が好ましい。M/A比は、好ましくは、0.001以上、さらに好ましくは、0.005以上である。
【0031】
一方、M/A比が大きくなりすぎると、固体高分子電解質の伝導度が低下する場合がある。従って、M/A比は、0.15以下である必要がある。M/A比は、好ましくは、0.10以下、さらに好ましくは、0.05以下、さらに好ましくは、0.04以下、さらに好ましくは、0.03以下である。
【0032】
[1.3.2. 平均粒径]
固体高分子電解質に第2微粒子を添加する場合、第2微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。第2微粒子の平均粒径に関するその他の点は、タングステン酸化物の水和物からなる第1微粒子の平均粒径と同様であるので、説明を省略する。
【0033】
[2. 電解質膜、触媒層、及び固体高分子形燃料電池]
本発明に係る電解質膜は、本発明に係る複合電解質からなる。
本発明に係る触媒層は、本発明に係る複合電解質を含む。
さらに、本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係る電解質膜、及び/又は、本発明に係る触媒層を含む。
【0034】
電解質膜、触媒層、及び、固体高分子形燃料電池に関するその他の点、例えば、
(a)電解質膜の厚さ、
(b)触媒層の組成、
(c)MEA、並びに、その両面に配置されるガス拡散層及びセパレータの構造
等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0035】
さらに、本発明に係る複合電解質を用いて電解質膜を作製する場合、電解質膜は本発明に係る複合電解質のみからなるものでも良く、あるいは、複合電解質と補強材との複合体であっても良い。この場合、補強材の種類は、特に限定されない。
補強材としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂の多孔膜や不織布、
(b)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの炭化水素系樹脂の多孔膜や不織布、
などがある。
【0036】
[3. 複合電解質の製造方法]
本発明に係る複合電解質は、
(a)固体高分子電解質が溶媒に溶解又は分散している溶液(A)を調製し、
(b)溶液(A)に、タングステン酸化物の水和物、及び、必要に応じて、第2化合物をさらに溶解又は分散させて溶液と(B)とし、
(c)溶液(B)から溶媒を除去する
ことにより製造することができる。
【0037】
また、本発明に係る複合電解質を含む各種部材は、種々の方法により製造することができる。例えば、複合電解質からなる電解質膜は、溶液(B)を適当な基板表面にキャストし、溶媒を除去することにより製造することができる。
【0038】
複合電解質を含む触媒層は、溶液(B)にさらに電極触媒を分散させて溶液(C)とし、溶液(C)を適当な基板表面にキャストし、溶媒を除去することにより製造することができる。
あるいは、電解質膜の表面に溶液(C)を塗布や又はスプレーし、溶媒を除去することにより触媒層を形成しても良い。
【0039】
[3. 作用]
タングステン酸化物の無水物(WO3)、あるいは、1水和物(WO3・H2O)は、過酸化水素を分解させる作用があることが知られている。しかしながら、無水物及び1水和物の過酸化水素分解能を超える過酸化水素分解能を持つ添加剤については、従来知られていなかった。
【0040】
これに対し、タングステン酸化物の水和物の中でも、1/3水和物(WO3・(1/3)H2O)、及び、2水和物(WO3・2H2O)は、無水物(WO3)や1水和物(WO3・H2O)に比べて、過酸化水素分解能が格段に高い。そのため、これを固体高分子電解質に添加すると、ラジカルに起因する固体高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0041】
また、固体高分子電解質に対し、第1微粒子に加えて、第2微粒子及び/又は第2金属元素のイオンをさらに添加すると、これらの添加量が相対的に少量であっても、高い耐久性が得られる。これは、
(a)第1微粒子は、過酸化水素を分解して無害化する作用があり、その添加量が少量であっても、高い過酸化水素分解効果を示すため、
(b)第2微粒子及び第2金属元素のイオンは、ラジカルを消去する作用があるため、
(c)第1微粒子と、第2微粒子及び/又は第2金属元素のイオンとを共存させると、第1微粒子の過酸化水素分解効果が向上するため、及び/又は、
(d)第1微粒子により分解されなかった過酸化水素からラジカルが発生しても、第2微粒子及び/又は第2金属元素のイオンがラジカルを効果的に消去するため、
と考えられる。
【実施例0042】
(実施例1~2、比較例1~4)
[1. 試験方法]
0.067mmolの各種添加剤を10mLの水に分散させて分散液とし、この分散液にさらに4.41mmolの過酸化水素を添加した。添加剤には、
(a)WO3・2H2O(実施例1)、
(b)WO3・(1/3)H2O(実施例2)、
(c)WO2(比較例1)、
(d)WO3(比較例2)、
(e)WO3・H2O(比較例3)、又は、
(f)Na2WO4・2H2O(比較例4)
を用いた。
【0043】
得られた分散液を80℃で1時間保持した後、分散液に残存している過酸化水素濃度を測定した。さらに、次の式(2)から過酸化水素分解率を算出した。
過酸化水素分解率(%)=(C0-C)×100/C0 …(2)
但し、
C0は、元の分散液に含まれる過酸化水素の濃度、
Cは、80℃で1時間保持後の分散液に含まれる過酸化水素の濃度。
【0044】
[2. 結果]
表1及び
図1に、各種添加剤の過酸化水素分解率を示す。なお、表1には、各種添加剤の組成も併せて示した。また、表1及び
図1には、ブランクの過酸化水素分解率も併せて示した。表1及び
図1より、WO
3・2H
2O(実施例1)及びWO
3・(1/3)H
2Oは、他の添加剤に比べて過酸化水素分解率が格段に高いことが分かる。
【0045】
【0046】
(実施例3、比較例5~6)
[1. 電解質膜の作製]
[1.1. 実施例3]
ナフィオン(登録商標)溶液(D2020)に、
(a)電解質の1mass%に相当するWO3・2H2O、
(b)スルホン酸基置換率4.4%相当のCe3+(Ce(NO3)3として添加、M/A=0.015に相当)、及び、
(c)ラジカル発生剤として、スルホン酸基置換率1.0%相当のFe2+(FeSO4として添加)
を加えて分散液とした。この分散液をキャストし、電解質膜を得た。
【0047】
[1.2. 比較例5]
WO3・2H2Oを添加しなかった以外は実施例3と同様にして、電解質膜を作製した。
[1.3. 比較例6]
WO3・2H2O及びCeを添加しなかった以外は実施例3と同様にして、電解質膜を作製した。
【0048】
[2. 試験方法及び結果]
得られた電解質膜を用いてMEAを作製した。さらに、MEAに対して、95℃、30%RHの条件下で開回路電圧試験を実施した。生成水中に含まれるフッ素(F)量を計測し、試験を開始してから90時間経過後までのフッ素溶出量を累計した。
【0049】
表2及び
図2にF溶出量の累計を示す。なお、表2には、添加剤の種類も併せて示した。表2及び
図2より、WO
3・2H
2OとCeを同時に添加した実施例3は、比較例5~6に比べて、F溶出量の累計が格段に少なくなることが分かる。
【0050】
【0051】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。