(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167371
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ダスト発生速度評価装置及びダスト発生速度評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20221027BHJP
C21C 5/46 20060101ALI20221027BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
G01N21/359
C21C5/46 A
F27D21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073128
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】宗岡 均
(72)【発明者】
【氏名】柿本 昌平
【テーマコード(参考)】
2G059
4K056
4K070
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB01
2G059BB09
2G059CC19
2G059EE06
2G059EE12
2G059FF04
2G059GG10
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH06
2G059KK01
2G059MM01
2G059MM10
4K056AA02
4K056BA06
4K056CA02
4K056FA11
4K070BE11
(57)【要約】
【課題】常時稼働が可能であり、メンテナンス負荷が小さく、かつ、高い精度でダスト発生速度を評価することができるダスト発生速度評価装置を提供する。
【解決手段】精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得部と、分光輝度取得部が分光輝度を取得した時における燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定部と、推定された燃焼火炎の温度における注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算部と、分光輝度取得部により取得された分光輝度及び黒体輻射輝度演算部により算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算部と、算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬炉の操業において発生するダストの発生速度を評価する装置であって、
前記精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得部と、
前記分光輝度取得部が前記分光輝度を取得した時における前記燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定部と、
推定された前記燃焼火炎の温度における前記注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算部と、
前記分光輝度取得部により取得された分光輝度及び前記黒体輻射輝度演算部により算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算部と、
算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録部と、
を備える、ダスト発生速度評価装置。
【請求項2】
前記経時変化記録部により記録された分光放射率の経時変化に基づいて、前記ダストの発生速度を推定するダスト発生速度推定部を備え、
前記ダスト発生速度推定部は、予め求めておいた分光放射率とダスト発生速度との関係式に基づいて、前記ダストの発生速度を推定する、請求項1に記載のダスト発生速度評価装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダスト発生速度評価装置により評価されたダスト発生速度に基づいて前記精錬炉の制御を行う、精錬炉。
【請求項4】
精錬炉の操業において発生するダストの発生速度を評価する方法であって、
前記精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得工程と、
前記分光輝度取得工程において前記分光輝度を取得した時における前記燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定工程と、
推定された前記燃焼火炎の温度における前記注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算工程と、
前記分光輝度測定工程において取得された分光輝度及び前記黒体輻射輝度演算工程において算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算工程と、
算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録工程と、
前記経時変化記録工程において記録された分光放射率の経時変化に基づいて、前記ダストの発生速度を推定するダスト発生速度推定工程と、
を備える、ダスト発生速度評価方法。
【請求項5】
前記ダスト発生速度推定工程は、予め求めておいた分光放射率とダスト発生速度との関係式に基づいて、前記ダストの発生速度を推定する、請求項4に記載のダスト発生速度評価方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のダスト発生速度評価方法により評価されたダスト発生速度に基づいて前記精錬炉の制御を行う、精錬炉の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はダスト発生速度評価装置及びダスト発生速度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から得られた溶鉄は転炉において精錬される。転炉での精錬過程では脱炭、脱珪等の処理が行われ、これらの進行に応じてメインランスの高さや、送酸速度、副原料の投入量などが制御される。このような転炉の制御において、従来から、転炉の燃焼火炎の発光スペクトルを利用する技術が知られている。
【0003】
特許文献1、2は、高精度で精錬過程の脱炭等を推定するために、転炉排ガス煙道内に発光を分析し、煙道内の排ガス及びダストの成分濃度を算出する転炉排ガスの分析方法を開示している。
【0004】
特許文献3は、対象物が発する光を分光情報として取得するイメージング分光装置と、対象物の2次元領域の画像を撮影する2次元撮像装置と、2次元撮像装置によって撮影された画像に基づいてイメージング分光装置が分光情報を取得する範囲を決定する演算装置と、を備える分光特性測定装置を開示している。また、特許文献3には、この技術を利用して、精錬炉から発生する火炎の分光特性を測定し、精錬炉の制御を行うことが記載されている。
【0005】
特許文献4、5は、転炉の炉口から吹き出る炉口燃焼火炎の発光スペクトルを測定し、測定される580~620nmの範囲の波長における発光強度の時間変化を算出し、算出した発光強度の時間変化に基づいて炉内の状況変化を推定し、当該炉内の状況変化の推定に基づいて脱珪反応の終了時点や溶融鉄の炭素濃度を推定する技術を開示している。
【0006】
特許文献6は、転炉の炉口部の光学特性についての情報を含む実績情報に基づいて、溶湯中炭素濃度を推定する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62-90524号公報
【特許文献2】特開昭62-90525号公報
【特許文献3】国際公開第2019/168141号
【特許文献4】特開2020-105610号公報
【特許文献5】特開2020-105611号公報
【特許文献6】国際公開第2019/220800号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、転炉吹錬中に発生するダストの量は溶鉄全体の1%~数%にのぼるため、転炉操業において、ダストの発生量を低減することはコスト削減に直結する。しかしながら、これまでに提案されたダスト発生速度評価手段は、人手をかけてダスト量をサンプリングする手法や、集塵水や排ガス配管などでダスト量を連続的に測定する手法であり、通常の操業時に立ち入る頻度が少ないエリアにおいて、部品の定期的な交換や部品を取り外しての清掃を含むメンテナンスが必要であった。そのため、常時稼働させる転炉において、このような手間の大きい手法を常時行うことは困難であった。また、特許文献1~6の技術は、ダスト量(ダスト発生速度)を推定するものではなかった。
【0009】
そこで本開示の目的は、上記実情を鑑み、常時稼働が可能であり、メンテナンス負荷が小さく、かつ、高い精度でダスト発生速度を評価することができるダスト発生速度評価装置及びダスト発生速度評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、精錬炉の操業において発生するダストの発生速度を評価する装置であって、精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得部と、分光輝度取得部が分光輝度を取得した時における燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定部と、推定された燃焼火炎の温度における注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算部と、分光輝度取得部により取得された分光輝度及び黒体輻射輝度演算部により算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算部と、算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録部と、を備える、ダスト発生速度評価装置を提供する。
【0011】
上記のダスト発生速度評価装置は、経時変化記録部により記録された分光放射率の経時変化に基づいて、ダストの発生速度を推定するダスト発生速度推定部を備えていてもよい。ダスト発生速度推定部は、予め求めておいた分光放射率とダスト発生速度との関係式に基づいて、ダストの発生速度を推定してもよい。
【0012】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、上記のダスト発生速度評価装置により評価されたダスト発生速度に基づいて精錬炉の制御を行う、精錬炉を提供する。
【0013】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、精錬炉の操業において発生するダストの発生速度を評価する方法であって、精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得工程と、分光輝度取得工程において分光輝度を取得した時における燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定工程と、推定された燃焼火炎の温度における注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算工程と、分光輝度取得工程において取得された分光輝度及び黒体輻射輝度演算工程において算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算工程と、算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録工程と、経時変化記録工程において記録された分光放射率の経時変化に基づいて、ダストの発生速度を推定するダスト発生速度推定工程と、を備える、ダスト発生速度評価方法を提供する。
【0014】
上記のダスト発生速度評価方法において、ダスト発生速度推定工程は、予め求めておいた分光放射率とダスト発生速度との関係式に基づいて、ダストの発生速度を推定してもよい。
【0015】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、上記のダスト発生速度評価方法により評価されたダスト発生速度に基づいて精錬炉の制御を行う、精錬炉の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、常時稼働が可能であり、メンテナンス負荷が小さく、かつ、高い精度でダスト発生速度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ダスト発生速度評価装置100の模式図である。
【
図2】実施例1における分光放射率及び単位時間当たりのフィルター採取量と経過時間との関係を示した。
【
図3】実施例1における推定した単位時間当たりのフィルター採取量と実際の単位時間当たりのフィルター採取量との関係を示した。
【
図4】実施例2におけるダスト発生速度(インデックス値)と経過時間との関係を示した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、精錬炉の開口部(炉口フレーム)に発生する燃焼火炎を分光器で分光測定したところ、輻射スペクトルが主であることを確認した。この輻射スペクトルの注目波長における測定輝度とPlanckの法則により計算される黒体輻射輝度との比率から、分光放射率を算出することができる。測定領域内に発光物が全く含まれなければ分光放射率の測定値は0となる一方、測定領域内が発光物で見た目上埋め尽くされていれば面発光と等しくなり、分光放射率の測定値は発光物の性質としての分光放射率に一致する。このように、測定される分光放射率は測定領域内における発光物(炉口燃焼火炎の場合、ダスト)の濃度に依存するものであるため、本発明者らは、分光放射率に基づいて、精錬炉におけるダストの発生速度が評価可能であると着想した。そして、本発明者らは当該着想の成否を確認するために、試験転炉を用いて、燃焼火炎の輻射スペクトルから算出された分光放射率とフィルターから採取したダスト発生量との関係を評価したところ、分光放射率とダスト発生量との間に良い相関があることを確認した。本開示のダスト発生速度評価装置及びダスト発生速度評価方法はこのような知見に基づいて発明されたものである。以下、本開示のダスト発生速度評価装置及びダスト発生速度評価方法についてそれぞれ説明する。
【0019】
[ダスト発生速度評価装置]
本開示のダスト発生速度評価装置について、一実施形態であるダスト発生速度評価装置100(以下において、「装置100」ということがある)を用いて説明する。
図1に装置100の模式図を示した。
【0020】
装置100は、精錬炉1の操業において発生するダストの発生速度を評価する装置であって、精錬炉1の開口部2で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得部10と、ダスト発生速度を評価するための演算を行う演算部20を備える。
【0021】
分光輝度取得部10は、光取得部11と分光器12を備えるものであり、光取得部11と分光器12との間は光ファイバー等により接続されている。光取得部11は精錬炉の開口部2で発生する燃焼火炎の発光を取得できる位置に配置されていればよい。また光取得部11に集光レンズを用いて測定範囲を明確化することにより、分光輝度の取得精度を向上することができる。このような分光輝度取得部10は公知の構成である。
【0022】
分光輝度取得部10は精錬炉1の開口部2で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得するものであり、通常、これらの情報を含む分光スペクトルを取得する。そして、分光輝度取得部10は分光輝度情報を演算部20に送信する。取得する分光スペクトルの波長範囲は、例えば350nm~1000nmである。
【0023】
ここで、注目波長における輻射スペクトルについて説明する。燃焼火炎の発光から得られる分光スペクトルには輻射スペクトルや分子発光スペクトル、原子発光スペクトル等が含まれている。このうち、輻射スペクトルを含み、かつ、分子発光スペクトル及び原子発光スペクトルを含まない波長を選定する。例えば、輻射スペクトルのみを含む波長を選定する。このように選定された波長が注目波長である。例えば、FeOの生成及び消失に起因する分子発光スペクトル580nm~620nmや、Naの原子発光スペクトル589nm、Kの原子発光スペクトル767nm~770nmは、注目波長として好ましくない。ただし、分光器の波長分解能が高ければ上記領域でも分子発光や原子発光の影響を除外することも可能である。
【0024】
なお、本開示において、分光輝度取得部10は
図1の形態に限定されない。例えば、バンドパスフィルター等の光学素子を用いて特定の波長の分光輝度を取得することができる光センサーを用いてもよい。
【0025】
また、分光輝度取得部10は、1点のみの分光輝度を取得してもよく、2以上の分光輝度を取得してもよい。すなわち、分光輝度取得部10は多点測定してもよい。これにより、ダスト発生速度の評価精度を向上することができる。
【0026】
演算部20は分光輝度取得部10から送信された注目波長の分光輝度に基づいて、精錬炉の操業において発生するダストの発生速度を評価するものである。演算部20は、CPU、RAM、ROM、所定のインターフェース等を備える、公知のコンピュータである。
【0027】
演算部20は、分光輝度取得部10が分光輝度を取得した時における燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定部と、推定された燃焼火炎の温度における注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算部と、分光輝度取得部により取得された分光輝度及び黒体輻射輝度演算部により算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算部と、算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録部と、を備える。また、演算部20は、経時変化記録部により記録された分光放射率の経時変化に基づいて、ダストの発生速度を評価するダスト発生速度推定部を備えていてもよい。
【0028】
燃焼火炎温度推定部は、分光輝度取得部10が分光輝度を取得した時における燃焼火炎の温度を推定するものである。分光輝度取得部10が分光スペクトルを得ている場合、その分光スペクトルから二色温度計の原理を用いて燃焼火炎の温度を推定することができる。また、別途、放射温度計を用いて燃焼火炎の温度を測定してもよい。この場合、分光輝度取得部10が分光輝度を取得した時と同時に燃焼火炎の温度を測定する必要がある。同時とは、完全に同時でなくてもよい。例えば誤差1秒以内であれば許容される。好ましくは分光スペクトルから二色温度計の原理を用いて燃焼火炎の温度を推定することである。
【0029】
黒体輻射輝度演算部は、燃焼火炎温度推定部により推定された燃焼火炎の温度における注目波長の黒体輻射輝度を算出するものである。注目波長の黒体輻射輝度はPlanckの法則を用いることにより算出することができる。
【0030】
分光放射率演算部は、分光輝度取得部10により取得された分光輝度(M0)及び黒体輻射輝度演算部により算出された黒体輻射輝度(MB)の比率から分光放射率(M0/MB)を算出するものである。
【0031】
ここで、「分光放射率」とは、分光放射率の絶対的な値及び分光放射率に比例する値の両方を包含する概念である。分光放射率に比例する値とは、分光放射率の絶対的な値と測定系に依存する所定の係数との積である。具体的には、注目波長における「黒体輻射の分光輝度」の温度依存係数(相対値)の理論式をPlanckの法則に従って計算し、その理論式に「測定した輻射温度(燃焼火炎温度)」を代入することで得られた温度依存係数で「測定で得られた分光輝度」を割れば、分光放射率に比例する値を取得できる。分光放射率に比例する値を用いたとしても、ダストの発生速度の評価に与える影響が少ないからである。ただし、測定系に依存する係数を予め黒体炉を用いて求め、分光放射率の絶対的な値を得ることにより、評価精度が向上する。例えば、予め装置100と同一の構成の装置を用いて、標準黒体炉における減衰率等を求めておくことにより、分光放射率の絶対的な値を得ることができる。
【0032】
経時変化記録部は、分光放射率演算部により算出された分光放射率の経時変化を記録するものである。記録された経時変化は、装置の操作者に視覚的に見えるように、ディスプレイ等に出力してもよい。
【0033】
分光放射率演算部により算出された分光放射率は、集光範囲内の平均の分光放射率である。分光放射率は、分光輝度取得部10により注目波長の分光輝度を取得した際における集光範囲内に占める発光体(ダスト)の量を示すものであり、ダスト量が多ければ分光放射率が大きくなり、ダスト量が小さければ分光放射率は小さくなる。このように、分光放射率とダスト量とは相関するものであるので、分光放射率の経時変化から空間中のダスト量(ダスト発生速度)の経時変化を評価することができる。
【0034】
例えば、ディスプレイ等に出力した分光放射率の経時変化を精錬炉の操作者が目視で観察し、その分光放射率の上下の動きからダスト発生量を評価することができる。また、分光放射率が所定の閾値を超えた場合に、ダスト発生量が過剰であるとみなしてもよい。
【0035】
ただし、空間に占めるダストの体積割合が小さい場合は測定される分光放射率とダスト発生速度は比例するが、ダストの体積割合が大きくなると、ダスト同士の重なりが無視できなくなり、測定される分光放射率とダスト発生速度は比例しなくなる。そのため、分光放射率は0.01以上0.9以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01以上0.7以下の範囲である。
【0036】
一方で、分光放射率とダスト発生速度との関係式を予め求めておくことにより、分光放射率とダスト発生速度とが比例の関係を有していない範囲においても、ダスト発生速度を評価することができる。このような処理は、ダスト発生速度推定部により行われる。
【0037】
ダスト発生速度推定部は、経時変化記録部により記録された分光放射率の経時変化に基づいて、ダストの発生速度を推定するものであり、予め求めておいた分光放射率とダスト発生速度との関係式に基づいて、ダストの発生速度を推定する。
【0038】
上記の分光放射率は集光範囲内における瞬間的なダスト量に関係する値であるため、分光放射率をダスト発生速度に変換するためには、分光放射率と精錬炉1の炉径・炉口付近のガス通過速度とを変数とした実験式を予め求めておく必要がある。ここで、ガス通過速度は上吹き・底吹き送酸量に基づくガス発生速度(ガス発生量)と同等であるため、当該実験式にガス発生速度を用いてもよい。このような実験式(関係式)は、実験的に又はシミュレーションにより求めることができる。
【0039】
ダスト発生速度推定部は推定されたダスト発生速度を、ディスプレイ等に経時的に表示してもよい。これにより、操業中にほぼリアルタイムで推定されたダスト発生速度を操縦者が確認することできる。
【0040】
以上、一実施形態である装置100を用いて本開示のダスト発生速度評価装置について説明した。本開示のダスト発生速度評価装置は、燃焼火炎の所定の波長の分光輝度を取得し、その分光輝度に基づいてダスト発生速度を評価するものである。従って、従来のダスト発生速度評価方法とは異なり、常時稼働が可能な構成である。また、本開示のダスト発生速度評価装置は、精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎の発光を取得できる位置に測定装置が配置されていればよいため設置位置の自由度が高く、操業者が容易にアクセスできる位置に設置可能である。本開示のダスト発生速度評価装置は、燃焼火炎の分光輝度を取得する部分(光取得部)のみをメンテナンスすればよく、取り外す必要もないため、メンテナンス負荷も小さい。例えば、光取得部付近のダストをエアダスター等で吹き飛ばす程度で良く、必要なメンテナンス頻度は約1回/日以下に低減できる。また、光取得部にダストが付着・堆積しないように工夫することで、例えば1回/月以下などさらなる頻度低減も可能である。従って、従来手法と比較して大幅にメンテナンス負荷を小さくすることができる。さらに、本開示のダスト発生速度評価装置は、注目波長における輻射スペクトルの分光輝度に基づく分光放射率を用いている。本発明者らは、上述の通り、分光放射率とダスト発生速度との間には所定の相関があることを見出している。従って、分光放射率を用いることにより、高い精度でダスト発生速度を評価することができる。以上、本開示のダスト発生速度評価装置によれば、常時稼働が可能であり、メンテナンス負荷が小さく、かつ、高い精度でダスト発生速度を評価することができる。
【0041】
[精錬炉]
本開示の精錬炉は、本開示のダスト発生速度評価装置により評価されたダスト発生速度に基づいて精錬炉の制御を行うものである。精錬炉とは溶鉄を精錬する炉であり、例えば、転炉やAODである。精錬炉の制御とは、例えばダスト発生速度を低減するように精錬炉の制御を行うことである。具体的な手段としては、例えば精錬炉のランスの高さを変更することや、上吹き・底吹き送酸量を変更すること、副原料の投入タイミングや投入速度を変更すること等を挙げることができる。本開示の精錬炉によれば、ダスト発生量を低減することが可能である。
【0042】
[ダスト発生速度評価方法]
本開示のダスト発生速度評価方法は、精錬炉の操業において発生するダストの発生速度を評価する方法であって、精錬炉の開口部で発生する燃焼火炎から注目波長における輻射スペクトルの分光輝度を取得する分光輝度取得工程と、分光輝度取得工程において分光輝度を取得した時における燃焼火炎の温度を推定する燃焼火炎温度推定工程と、推定された燃焼火炎の温度における注目波長の黒体輻射輝度を算出する黒体輻射輝度演算工程と、分光輝度取得工程において取得された分光輝度及び黒体輻射輝度演算工程において算出された黒体輻射輝度の比率から分光放射率を算出する分光放射率演算工程と、算出された分光放射率の経時変化を記録する経時変化記録工程と、経時変化記録工程において記録された分光放射率の経時変化に基づいて、ダストの発生速度を推定するダスト発生速度推定工程と、を備える。
【0043】
本開示のダスト発生速度評価方法の内容は、本開示のダスト発生速度評価装置において説明したため、ここでは説明を省略する。ただし、ダスト発生速度推定工程については、次の説明を付記する。
【0044】
上記のダスト発生速度推定工程は、例えばディスプレイ等に出力した分光放射率の経時変化を精錬炉の操作者が目視で観察し、その分光放射率の上下の動きからダスト発生量を推定することを含むものである。また、分光放射率が所定の閾値を超えた場合に、ダスト発生量が過剰であるとみなすことを含むものである。さらに、予め求めておいた分光放射率とダスト発生速度との関係式に基づいて、ダストの発生速度を推定することを含むものである。
【0045】
[精錬炉の制御方法]
本開示の精錬炉の制御方法は、本開示のダスト発生速度評価方法により評価されたダスト発生速度に基づいて精錬炉の制御を行うものである。本開示の精錬炉の制御方法の内容は、本開示の精錬炉において説明したため、ここでは説明を省略する。
【実施例0046】
以下、本開示について、実施例を用いてさらに説明する。
【0047】
[実施例1]
2t規模の小型転炉を用いてダスト発生速度を評価した。ここで、評価に際し、予め黒体炉を用いて測定系の感度の補正を実施した。また、光取得部に集光レンズを用いて、転炉炉口の特定部分からの光を集光した。分光輝度取得部は、注目波長700nmの分光輝度を取得した。燃焼火炎の温度は波長700nmと900nmの輝度比に基づく二色温度計の原理を用いて推定した。そして、算出した分光輝度と黒体輻射輝度の比率から、分光放射率を算出した。さらに、転炉の排ガスを一定時間間隔でサンプリングしてフィルターに通してダストを採取した。
【0048】
図2に分光放射率及び単位時間当たりのフィルター採取量と経過時間との関係を示した。また、
図3に、分光放射率を予め求めた所定の実験式を用いて推定した単位時間当たりのフィルター採取量と、実際の単位時間当たりのフィルター採取量との関係を示した。
【0049】
図2より、分光放射率とフィルター採取量との間には強い相関があることが確認できた。また、
図3より、分光放射率から推定したフィルター採取量と、実際のフィルター採取量との間にも強い相関があることが確認できた。単位時間当たりのフィルター採取量はダスト発生速度に相関するものである。従って、本開示によれば、高い精度でダスト発生速度を評価可能である。
【0050】
[実施例2]
300t規模の転炉を用いてダスト発生速度を評価し、その評価に基づいて転炉の操業を制御した。ここで、この実施に際し、予め黒体炉を用いて測定系の感度の補正を実施した。また、光取得部に集光レンズを用いて、転炉炉口の特定部分からの光を集光した。分光輝度取得部は、注目波長700nmの分光輝度を取得した。燃焼火炎の温度は波長700nmと900nmの輝度比に基づく二色温度計の原理を用いて推定した。そして、算出した分光輝度と黒体輻射輝度の比率から、分光放射率を算出した。さらに、分光放射率から、予め求めた所定の実験式を用いて、ダスト発生速度(インデックス値)を求めた。また、実測ダスト発生速度(インデックス値)は、集塵水から採取されたダスト量から算出した。
【0051】
ここで、集塵水から採取されたダスト量とは、集塵水を所定間隔でサンプリングした際の「サンプリングした集塵水中に含まれるダスト重量とサンプリング水量の比」である。このようなダスト量は、例えば「JIS K 0102 14.1 懸濁物質」を改良した濾過分析により取得することができる。通常、上記の「JIS K 0102 14.1 懸濁物質」では適量を濾過機に注ぎ入れるものであるが、幅広い粒径分布を持つダストでは代表性が得られないため、採取したサンプルを全量濾過して、ダスト量を得ている。
【0052】
図4に、ダスト発生速度(インデックス値)と経過時間との関係を示した。ここで、
図4の5分の時点で、ダスト発生速度を低減するように、転炉の操業(ランス高さ及び送酸速度)を制御した。
【0053】
図4より、分光放射率の経時変化を観察しながら、操縦者が転炉の操業を制御することにより、ダスト発生速度を低減することができることが確認できた。