(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167402
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20221027BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073173
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】仁田 昇
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF71
2C057AG12
2C057AG45
2C057AM17
2C057AN01
(57)【要約】
【課題】発熱増加等が懸念されることなく、マルチドロップの吐出速度を安定化する。
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクを収容する圧力室と、圧力室に連通するノズルを備えるノズルプレートと、圧力室に対応して設けられ、圧力室の容積を変位させるアクチュエータと、アクチュエータを駆動する駆動回路とを含む。駆動回路は、アクチュエータに、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってインクを吐出しない補助パルスとして、圧力室を収縮する向きに駆動して当該圧力室の圧力を増大させた後、その圧力が減少して負圧に転じ、再び増大して正圧に転ずるまで当該圧力室の収縮状態を保持し、その後、当該圧力室を復帰させるパルスを与える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容する圧力室と、
前記圧力室に連通するノズルを備えるノズルプレートと、
前記圧力室に対応して設けられ、前記圧力室の容積を変位させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを駆動する駆動回路と、
を具備し、
前記駆動回路は、
前記アクチュエータに、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってインクを吐出しない補助パルスとして、前記圧力室を収縮する向きに駆動して当該圧力室の圧力を増大させた後、その圧力が減少して負圧に転じ、再び増大して正圧に転ずるまで当該圧力室の収縮状態を保持し、その後、当該圧力室を復帰させるパルスを与える、インクジェットヘッド。
【請求項2】
インクを収容する圧力室と、
前記圧力室に連通するノズルを備えるノズルプレートと、
前記圧力室に対応して設けられ、前記圧力室の容積を変位させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを駆動する駆動回路と、
を具備し、
前記駆動回路は、
前記アクチュエータに、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってインクを吐出しない補助パルスとして、前記圧力室を収縮する向きに駆動し、その収縮状態を保持した後復帰させるパルスであり、当該パルスの開始から終了までの時間は、圧力室の圧力振動周期以上であるパルスを与えるインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記駆動パルスは、前記圧力室を拡張状態としてインクを引き込み、そのインクの前記圧力室内における圧力が負圧から正圧に代わった後に前記圧力室を前記拡張状態から復帰させることでさらに前記圧力を増大させてインクを吐出させ、その後、前記圧力室の収縮と拡張とを行うことで残留振動をキャンセルするパルスである、請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記補助パルスは、その前縁で、前記圧力室を複数回に分けて段階的に収縮させる、請求項1乃至3のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記補助パルスは、その前縁で、前記圧力室を徐々に収縮させる、請求項1乃至3のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記補助パルスは、その後縁で、前記圧力室を複数回に分けて段階的に収縮状態から復帰させる、請求項1乃至3のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記補助パルスは、その後縁で、前記圧力室の残留振動を減少させる、請求項1乃至6のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記補助パルスは、その後縁で、前記圧力室の残留振動が残っているうちに、前記駆動パルスの出力を開始する、請求項1乃至6のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
隣接する前記圧力室は、前記アクチュエータを共有する、請求項1乃至8のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
互いに隣接する圧力室の隔壁をアクチュエータとするタイプのインクジェットヘッドがある。このタイプのインクジェットヘッドでは、拡張パルスと収縮パルスとを含む駆動パルスがアクチュエータに印加されると、隔壁が圧力室を拡張させる方向または収縮させる方向に変形して、圧力室内に圧力振動が発生する。この圧力振動により圧力室内の容積が変化して、その圧力室に連通するノズルからインク滴が吐出される。
【0003】
このように、インクジェットヘッドは、圧力室の隔壁を変形させることでノズルからインク滴を吐出させるため、互いに隣接する圧力室にそれぞれ連通した隣り合うノズルからインク滴を同時に吐出することはできない。そこで、インクジェットヘッドは、各圧力室を例えば2個おきの3組に分割し、組毎に駆動パルスの位相を変えている。このため、画像パターンによっては、インクを吐出するノズルは1つであり、他のノズルからはインクが吐出されない状態(以下、単ノズル駆動状態と称する)と、インクを吐出するのはいずれか1組に属するノズルであり、他の組に属するノズルからはインクが吐出されない状態(以下、複ノズル同時駆動状態と称する)と、少なくとも2つの組に属するノズルから時分割でインクが吐出される状態(以下、複ノズル連続駆動状態と称する)とが生じる。
【0004】
近年、高解像度のインクジェットヘッドが望まれている。高解像度のインクジェットヘッドを実現するためには、アクチュエータを小さくする必要がある。小さなアクチュエータを使って所定の飛翔速度でインクを吐出しようとすると、アクチュエータに与える電界は強くしなくてはならない。アクチュエータに与える電界が強いと、アクチュエータの非線形性を無視できなくなる。
【0005】
このようなアクチュエータの一つ一つを隣接する圧力室が共有し、各圧力室を2個おきの3組に分割し、組毎に駆動パルスの位相を変えて順次駆動するインクジェットヘッドは、複ノズル同時駆動状態のときと複ノズル連続駆動状態のときとで吐出速度に大きな違いを生じる。これは、複ノズル同時駆動状態のときと複ノズル連続駆動状態のときとでは、隣接する圧力室と共有するアクチュエータを前回駆動した履歴の向きが、隣接する圧力室からの吐出の有無によって逆転するためである。
【0006】
このような課題を解決するために、1ドロップ目を吐出させる駆動パルスの前に、ノズルからインク滴が吐出しない程度の拡張パルスと収縮パルスとを含む補助パルスをアクチュエータに印加して、アクチュエータの駆動方向の履歴をリセットすることで、駆動状態に関わらずマルチドロップの吐出速度を安定化する技術が知られている。
【0007】
しかし、この技術は、補助パルスとして拡張パルスと収縮パルスの2つのパルスを使用するため、駆動回数が多く、発熱が増加する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-013487号公報
【特許文献2】特開2018-114642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、補助パルスとして単一のパルスを用いることで発熱増加等が懸念されることなく、駆動状態に係らずマルチドロップの吐出速度を安定化でき、高品質な印刷が可能なインクジェットヘッドを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態において、インクジェットヘッドは、インクを収容する圧力室と、圧力室に連通するノズルを備えるノズルプレートと、圧力室に対応して設けられ、圧力室の容積を変位させるアクチュエータと、アクチュエータを駆動する駆動回路とを含む。駆動回路は、アクチュエータに、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってインクを吐出しない補助パルスとして、圧力室を収縮する向きに駆動して当該圧力室の圧力を増大させた後、その圧力が減少して負圧に転じ、再び増大して正圧に転ずるまで当該圧力室の収縮状態を保持し、その後、当該圧力室を復帰させるパルスを与える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】インクジェットヘッドの一部を分解して示す斜視図。
【
図2】インクジェットヘッドの前方部における縦断面図。
【
図3】インクジェットヘッドの前方部における横断面図。
【
図4】インクジェットヘッドの動作原理を説明するための図。
【
図5】インクジェットプリンタのハードウェア構成を示すブロック図。
【
図6】インクジェットプリンタにおけるヘッド駆動回路の具体的構成を示すブロック図。
【
図7】ヘッド駆動回路に含まれるバッファ回路とスイッチ回路との概略回路図。
【
図8】インクを吐出するための駆動パルスの一例を示す波形図。
【
図9】ヘッドの各ノズルを印刷用紙の搬送路側から見た模式図。
【
図12】PZTテストピースに印加する電圧波形を示す図。
【
図13】PZTテストピースに
図12の電圧波形を印加したときの充電電荷と変位量とを示す図。
【
図14】補助パルス波形を加えなかったときのドロップ毎の吐出速度の一例を示すグラフ。
【
図15】駆動パルスに先立って出力されるインクを吐出しない補助パルスの第1実施例を示す波形図。
【
図16】
図8の駆動パルスと
図15の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図。
【
図17】第1実施例の補助パルスの変形例を示す波形図。
【
図18】
図8の駆動パルスと
図17の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図。
【
図19】
図8の駆動パルスと
図17の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合の別のシミュレーション結果を示す図。
【
図20】駆動パルスに先立って出力されるインクを吐出しない補助パルスの第2実施例を示す波形図。
【
図21】
図8の駆動パルスと
図20の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図。
【
図22】第2実施例の補助パルスの変形例を示す波形図。
【
図23】
図8の駆動パルスと
図22の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図。
【
図24】
図8の駆動パルスと
図22の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合の別のシミュレーション結果を示す図。
【
図25】駆動パルスに先立って出力されるインクを吐出しない補助パルスの第3実施例を示す波形図。
【
図26】
図8の駆動パルスと
図25の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図。
【
図27】第3実施例の補助パルスの変形例を示す波形図。
【
図28】
図8の駆動パルスと
図27の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図。
【
図29】
図8の駆動パルスと
図27の補助パルスとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合の別のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係るインクジェットヘッドについて、図面を用いて説明する。因みにこの実施形態では、インクジェットヘッドとしてシェアモード・シェアードウォールタイプのインクジェットヘッド100(
図1を参照)を例示する。
【0013】
はじめに、インクジェットヘッド100(以下、ヘッド100と略称する)の構成について、
図1乃至
図3を用いて説明する。
図1は、ヘッド100の一部を分解して示す斜視図、
図2は、ヘッド100の前方部における縦断面図、
図3は、ヘッド100の前方部における横断面図である。
【0014】
図1乃至
図3に示すように、ヘッド100は、ベース基板9を有する。ヘッド100は、ベース基板9の前方側の上面に第1の圧電部材1を接合し、この第1の圧電部材1の上に第2の圧電部材2を接合する。接合された第1の圧電部材1と第2の圧電部材2とは、
図2の矢印で示すように、板厚方向に沿って互いに相反する方向に分極する。
【0015】
ベース基板9は、誘電率が小さく、かつ圧電部材1,2との熱膨張率の差が小さい材料を用いて形成する。ベース基板9の材料としては、例えばアルミナ(Al203)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等がよい。一方、圧電部材1,2の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等が用いられる。
【0016】
ヘッド100は、接合された圧電部材1,2の先端側から後端側に向けて、多数の長尺な溝3を設ける。各溝3は、間隔が一定でありかつ平行である。各溝3は、先端が開口し、後端が上方に傾斜する。
【0017】
ヘッド100は、各溝3の側壁及び底面に電極4を設ける。電極4は、ニッケル(Ni)と金(Au)との二層構造となっている。電極4は、例えばメッキ法によって各溝3内に均一に成膜される。電極4の形成方法は、メッキ法に限定されない。他に、スパッタ法や蒸着法等を用いることもできる。
【0018】
図1及び
図3に示すように、ヘッド100は、天板6とノズルプレート7とを備える。天板6は、各溝3の上部を塞ぐ。ノズルプレート7は、各溝3の先端を塞ぐ。ヘッド100は、天板6とノズルプレート7とで囲まれた各溝3によって、複数の圧力室15を形成する。圧力室15は、例えば深さが300μmで幅が80μmの形状を有し、169μmのピッチで平行に配列される。このような圧力室15は、インク室とも称される。
【0019】
天板6は、その内側後方に共通インク室5を備える。ノズルプレート7は、各溝3と対向する位置にノズル8を穿設する。ノズル8は、対向する溝3つまりは圧力室15と連通する。ノズル8は、圧力室15側から反対側のインク吐出側に向けて先細りの形状をなす。ノズル8は、隣り合う3つの圧力室15に対応したものを1組とし、溝3の高さ方向(
図2の紙面の上下方向)に一定の間隔でずれて形成される。
【0020】
図1に示すように、ヘッド100は、各溝3の後端から第2の圧電部材2の後部上面に向けて引出し電極10を設ける。引出し電極10は、前記電極4から延出する。またヘッド100は、ベース基板9の後方側の上面に、導電パターン13が形成されたプリント基板11を接合する。そしてヘッド100は、このプリント基板11に、後述するヘッド駆動回路101を実装したドライブIC12を搭載する。ドライブIC12は、導電パターン13に接続する。導電パターン13は、各引出し電極10とワイヤボンディングにより導線14で結合する。
【0021】
ヘッド100が有する圧力室15、電極4及びノズル8のセットをチャネルと称する。すなわちヘッド100は、溝3の数Nだけチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nを有する。
【0022】
次に、上記の如く構成されたヘッド100の動作原理について、
図4を用いて説明する。
図4の(a)は、中央の圧力室152と、この圧力室152に隣接する両隣の圧力室151,153との各壁面にそれぞれ配設された電極4の電位がいずれもグラウンド電位GNDである状態を示している。この状態では、互いに隣接する圧力室151,152で挟まれた隔壁161及び同じく隣接する圧力室152,153で挟まれた隔壁162は、いずれも何ら歪み作用を受けない。
【0023】
図4の(b)は、中央の圧力室152の電極4に負極性の電圧-Vが印加された状態を示している。両隣の圧力室151,153の電極4の電位はいずれもグラウンド電位GNDのままである。この状態では、各隔壁161,162に対して、圧電部材1,2の分極方向と直交する方向に電圧Vの電界が作用する。この作用により、各隔壁161,162は、圧力室152の容積を拡張するようにそれぞれ外側に変形する。
【0024】
図4の(c)は、中央の圧力室152の電極4に正極性の電圧+Vが印加された状態を示している。両隣の圧力室151,153の電極4の電位はいずれもグラウンド電位GNDのままである。この状態では、各隔壁161,162に対して、
図4の(b)のときとは逆の方向に電圧Vの電界が作用する。この作用により、各隔壁161,162は、圧力室152の容積を収縮するようにそれぞれ内側に変形する。
【0025】
圧力室152の容積が拡張または収縮された場合、圧力室152内に圧力振動が発生する。この圧力振動により、圧力室152内の圧力が高まり、圧力室152に連通するノズル8からインク滴が吐出される。
【0026】
このように、圧力室151,152を隔てる隔壁161と、圧力室152,153を隔てる隔壁162とは、当該隔壁161,162を壁面とする圧力室152の内部に圧力振動を与えるためのアクチュエータとなる。つまり各圧力室15は、それぞれ隣接する圧力室15とアクチュエータを共有する。このため、ヘッド駆動回路101は、各圧力室15を個別に駆動することができない。ヘッド駆動回路101は、各圧力室15をn(nは2以上の整数)個おきに(n+1)個のグループに分割して駆動する。本実施形態では、ヘッド駆動回路101が、各圧力室15を2つおきに3つの組に分けて分割駆動する、いわゆる3分割駆動の場合を例示する。なお、3分割駆動はあくまでも一例であり、4分割駆動または5分割駆動などであってもよい。
ところで
図4の(a),(b),(c)では、中央の圧力室152に対応するノズルからインクを吐出させるために、中央の圧力室152の電極4に電圧-V、+Vを与えた。中央の圧力室152に対応するノズルからインクを吐出させる例は、これに限らない。例えば、中央の圧力室152の電極4に電圧-Vを印加するとともに、両隣の圧力室151,153の電極4に電圧+Vを印加する。逆に、中央の圧力室152の電極4に電圧+Vを印加するとともに、両隣の圧力室151,153の電極4に電圧-Vを印加する。この場合も、与える電圧Vを半分にすればアクチュエータの動作は
図4の場合と全く同じとなる。
【0027】
次に、インクジェットプリンタ200(以下、プリンタ200と略称する)の構成について、
図5~
図7を用いて説明する。
図5は、プリンタ200のハードウェア構成を示すブロック図、
図6は、ヘッド駆動回路101の具体的構成を示すブロック図、
図7は、ヘッド駆動回路101に含まれるバッファ回路1013とスイッチ回路1014との概略回路図である。プリンタ200は、例えばオフィス用プリンタ、バーコードプリンタ、POS用プリンタ、産業用プリンタ等に適用される。
【0028】
プリンタ200は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、操作パネル204、通信インターフェース205、搬送モータ206、モータ駆動回路207、ポンプ208、ポンプ駆動回路209及びヘッド100を備える。またプリンタ200は、アドレスバス,データバスなどのバスライン211を含む。そしてプリンタ200は、このバスライン211に、CPU201、ROM202、RAM203、操作パネル204、通信インターフェース205、モータ駆動回路207、ポンプ駆動回路209及びヘッド100の駆動回路101をそれぞれ直接あるいは入出力回路を介して接続する。
【0029】
CPU201は、コンピュータの中枢部分に相当する。CPU201は、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムに従って、プリンタ200としての各種の機能を実現するべく各部を制御する。
【0030】
ROM202は、上記コンピュータの主記憶部分に相当する。ROM202は、上記のオペレーティングシステムやアプリケーションプログラムを記憶する。ROM202は、CPU201が各部を制御するための処理を実行する上で必要なデータを記憶する場合もある。
【0031】
RAM203は、上記コンピュータの主記憶部分に相当する。RAM203は、CPU201が処理を実行する上で必要なデータを記憶する。またRAM203は、CPU201によって情報が適宜書き換えられるワークエリアとしても利用される。ワークエリアは、印刷データが展開される画像メモリを含む。
【0032】
操作パネル204は、操作部と表示部とを有する。操作部は、電源キー、用紙フィードキー、エラー解除キー等のファンクションキーを配置したものである。表示部は、プリンタ200の種々の状態を表示可能なものである。
【0033】
通信インターフェース205は、LAN(Local Area Network)等のネットワークを介して接続されるクライアント端末から印刷データを受信する。通信インターフェース205は、例えばプリンタ200にエラーが発生したとき、エラーを通知する信号をクライアント端末に送信する。
【0034】
モータ駆動回路207は、搬送モータ206の駆動を制御する。搬送モータ206は、印刷用紙などの記録媒体を搬送する搬送機構の駆動源として機能する。搬送モータ206が駆動すると、搬送機構が記録媒体の搬送を開始する。搬送機構は、記録媒体をヘッド100による印刷位置まで搬送する。搬送機構は、印刷を終えた記録媒体を図示しない排出口からプリンタ200の外部に排出する。
【0035】
ポンプ駆動回路209は、ポンプ208の駆動を制御する。ポンプ208が駆動すると、図示しないインクタンク内のインクがヘッド100に供給される。
【0036】
ヘッド駆動回路101は、印刷データに基づきヘッド100のチャネル群102を駆動する。ヘッド駆動回路101は、
図6に示すように、パターンジェネレータ1011、ロジック回路1012、バッファ回路1013及びスイッチ回路1014を含む。
【0037】
パターンジェネレータ1011は、吐出当該波形、吐出両隣波形、非吐出当該波形、非吐出両隣波形等の波形パターンを生成する。パターンジェネレータ1011で生成された波形パターンのデータは、ロジック回路1012に供給される。
【0038】
ロジック回路1012は、画像メモリから1ラインずつ読み出される印刷データの入力を受け付ける。印刷データが入力されると、ロジック回路1012は、ヘッド100の隣り合う3つのチャネルch.(i-1),ch.i,ch.(i+1)を1セットとし、そのうちひとつのチャネル、例えば中央のチャネルch.iがインクを吐出する吐出チャネルなのか、インクを吐出しない非吐出チャネルなのかを決定する。そして、チャネルch.iが吐出チャネルの場合、ロジック回路1012は、このチャネルch.iに対して吐出当該波形のパターンデータを出力し、かつ、その両隣のチャネルch.(i-1),ch.(i+1)に対して吐出両隣波形のパターンデータを出力する。チャネルch.iが非吐出チャネルの場合、ロジック回路1012は、このチャネルch.iに対して非吐出当該波形のパターンデータを出力し、かつ、その両隣のチャネルch.(i-1),ch.(i+1)に対して非吐出両隣波形のパターンデータを出力する。ロジック回路1012から出力される各パターンデータは、バッファ回路1013に与えられる。
【0039】
バッファ回路1013は、正電圧Vccの電源と負電圧-Vの電源とを接続する。またバッファ回路1013は、
図7に示すように、ヘッド100のチャネルch.1,ch.2,…, ch.N毎にプリバッファPBを備える。なお、
図7では、隣り合う3つのチャネルch.(i-1),ch.i,ch.(i+1)にそれぞれ対応したプリバッファPB(i-1),PBi,PB(i+1)を示す。
【0040】
各プリバッファPBは、それぞれ第1~第3の3つのバッファBa,Bb,Bcを有する。各バッファBa,Bb,Bcは、それぞれ正電圧Vccの電源と負電圧-Vの電源とに接続される。
【0041】
各プリバッファPBにおいて、第1~第3のバッファBa,Bb,Bcの出力は、ロジック回路1012から供給されるパターンデータの信号レベルに応じて変化する。ロジック回路1012からは、対応するチャネルch.k(1≦k≦N)が吐出チャネルなのか、非吐出チャネルなのか、吐出チャネルまたは非吐出チャネルに隣接するチャネルなのかによってそれぞれ異なるレベルの信号が供給される。ハイレベル信号が供給された第1~第3のバッファBa,Bb,Bcは、正電圧Vccレベルの信号を出力する。ローレベル信号が供給された第1~第3のバッファBa,Bb,Bcは、負電圧-Vレベルの信号を出力する。
【0042】
各プリバッファPBの出力、すなわち第1~第3のバッファBa,Bb,Bcの出力信号は、スイッチ回路1014に与えられる。
【0043】
スイッチ回路1014は、正電圧Vccの電源と、正電圧+Vの電源と、負電圧-Vの電源とグラウンド電位GNDとを接続する。正電圧Vccは正電圧+Vよりも高い。その代表的な値としては、正電圧Vccが24ボルトであり、正電圧+Vが15ボルトである。この場合、負電圧-Vは-15ボルトである。
【0044】
ただし、正電圧及び負電圧の適正値はインクの粘度によって異なる。インクの粘度はインクの種類や使用温度によって異なる。このため、正電圧+V及び負電圧-Vはインクの種類や使用温度に応じて±15ボルト~±30ボルト程度の範囲で選ばれる。その際、正電圧Vccは正電圧+Vよりも高くなくてはならないので、正電圧+V及び負電圧-Vが最大±30ボルトであれば正電圧Vccは例えば39ボルトとする。
【0045】
スイッチ回路1014は、
図7に示すように、ヘッド100のチャネルch.1,ch.2,…,ch.N毎にドライバDRを有する。なお、
図7では、隣り合う3つのチャネルch.(i-1),ch.i,ch.(i+1)にそれぞれ対応したドライバDR (i-1),DRi,DR(i+1)を示す。
【0046】
各ドライバDRは、それぞれPMOSタイプの電界効果トランジスタTra(以下、第1トランジスタTraと称する)と、NMOSタイプの2つの電界効果トランジスタTrb,Trc(以下、第2トランジスタTrb,第3トランジスタTrcと称する)とを含む。各ドライバDRは、それぞれ正電圧+Vの電源とグラウンド電位GNDとの間に、第1トランジスタTraと第2トランジスタTrbとの直列回路を接続し、さらにこの第1トランジスタTraと第2トランジスタTrbとの接続点と負電圧-Vの電源との間に、第3トランジスタTrcを接続する。また各ドライバDRは、それぞれ第1トランジスタTraのバックゲートを正電圧Vccの電源に接続し、第2トランジスタTrb及び第3トランジスタTrcのバックゲートをそれぞれ負電圧-Vの電源に接続する。さらに各ドライバDRは、それぞれ対応するプリバッファPBの第1のバッファBaを第2トランジスタTrbのゲートに接続し、第2のバッファBbを第1トランジスタTraのゲートに接続し、第3のバッファBcを第3トランジスタTrcのゲートに接続する。そして各ドライバDRは、それぞれ第1トランジスタTraと第2トランジスタTrbとの接続点の電位を、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4に印加する。
【0047】
したがって、第1トランジスタTraは、第2のバッファBbから正電圧Vccレベルの信号が入力されるとオフし、負電圧-Vレベルの信号が入力されるとオンする。第2トランジスタTrbは、第1のバッファBaから正電圧Vccレベルの信号が入力されるとオンし、負電圧-Vレベルの信号が入力されるとオフする。第3トランジスタTrcは、第3のバッファBcから正電圧Vccレベルの信号が入力されるとオンし、負電圧-Vレベルの信号が入力されるとオフする。
【0048】
このような構成のドライバDRは、第1トランジスタTraがオンし、第2トランジスタTrbと第3トランジスタTrcとがオフすると、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4に正電圧+Vを印加する。ドライバDRは、第1トランジスタTraと第3トランジスタTrcとが同時にオフし、第2トランジスタTrbがオンすると、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4の電位をグラウンドGNDレベルとする。ドライバDRは、第1トランジスタTraと第2トランジスタTrbとが同時にオフし、第3トランジスタTrcがオンすると、対応するチャネルch.1,ch.2,…,ch.Nの電極4に負電圧-Vを印加する。
【0049】
次に、インクを吐出するための駆動パルスの一例について説明する。駆動パルスは、インクを吐出するチャネル(吐出チャネルch.x)の電極4、ひいてはアクチュエータに印加されるパルスである。
【0050】
図8は、駆動パルスの一例であるDRP波形の説明図である。
図8において、実線「駆動電圧」は、駆動パルスの電圧を表す波形である。一点鎖線「圧力」は、駆動パルスにより圧力室15内に生じる圧力の変化を表す波形である。二点鎖線「流速」は、駆動パルスによりノズル8に流入するインクの流速の変化を表す波形である。破線「メニスカス」は、駆動パルスによりインクの液面の位置の変化を表す波形である。横軸は、時間(s)の経過を表している。縦軸は、駆動電圧、圧力、流速、波形及びメニスカスの大きさを表しており、その数値は正規化されている。なお、以下では、圧力室15における圧力の固有振動周期2AL(acoustic length)を、圧力振動周期Tとする。本実施形態において、圧力振動周期Tは、3.8μsとする。
【0051】
吐出のための駆動パルスは、拡張パルス(Draw)Pdと、保持時間(Release)Rと、収縮パルス(Push)Ppと、を含む。駆動パルスは、定常状態である0Vから拡張パルスPdを印加後、0Vの保持時間Rを維持し、その後、収縮パルスPpを印加する。収縮パルスPpを印加後は、定常状態である0Vを維持する。
【0052】
拡張パルスPdは、その前縁で吐出チャネルch.xの圧力室15を急激に拡張するためのパルスである。拡張パルスPdは、圧力室15の拡張状態をT/2(1.9μs)の時間だけ維持してインクを引き込み、そのインクの圧力室15内における圧力が負圧から正圧に変わるまで待つ。拡張パルスPdは、インクの圧力が負圧から正圧に変わった後に、その後縁で圧力室15を急激に拡張状態から復帰させる。この復帰により、正圧となったインクの圧力はさらに増大して、圧力室15に連通したノズル8からインクが吐出する。
【0053】
保持時間Rは、復帰状態になった圧力室15内のインクの圧力が正圧から負圧に転じ、最大負圧に達した後、再度増加するのを待つための時間である。
【0054】
収縮パルスPpは、その前縁で保持時間Rの経過によりインクの圧力が増加に転じた圧力室15を収縮し、後援で圧力室15を収縮状態から復帰させる。この収縮と復帰により、圧力室15の残留振動がキャンセルされる。
【0055】
DRP波形は、最初に圧力室15を拡張状態とするが、その拡張状態を維持する時間を圧力室15の圧力振動周期Tの1/2としたときインクの吐出体積が最大となる。拡張状態を維持する時間が圧力振動周期Tの1/2よりも長い若しくは短いと、インクの吐出体積が減少する。そこでDRP波形では、吐出体積の調節等を目的として圧力室15の拡張状態を維持する時間を圧力振動周期Tの1/2からずらしても構わない。なお、インクを吐出するための駆動波形は、DRP波形に限定されない。他の駆動波形のパルス波形を駆動パルスとして用いてもよい。
【0056】
次に、
図9~
図14を用いて、複ノズル同時駆動状態、複ノズル連続駆動状態について今一度説明する。
図9は、
図1~
図4のヘッド100の各ノズル8を印刷用紙PAの搬送路側から見た模式図である。図示するように、本実施形態のヘッド100は、ノズル8が3列の千鳥配置となっている。このタイプのヘッド100は、隣接する圧力室(151,152,153等)がアクチュエータ(161、162等)を共有しているため、隣接するノズル8から同時にインク滴を吐出することができない。このため、各ノズル8に対応した圧力室15を、(3n+1)番目の組と、(3n+2)番目の組と、(3n+3)番目の組とに分けて時分割で順次駆動する。例えば
図9において、矢印の方向に印刷用紙PAが搬送される場合、横一列の直線を印字するためには、先ず符号aのノズル8に対応する圧力室15を駆動し、続いて符号cのノズル8に対応する圧力室15を駆動し、続いて符号bのノズル8に対応する圧力室15を駆動する。なお、
図9において、符号bのノズル8は注目する当該ノズルであり、圧力室15は
図4の圧力室152に相当する。符号a,cのノズル8は当該ノズルに隣接するノズルであり、圧力室15は
図4の圧力室151,153に相当する。
【0057】
図10は、複ノズル連続駆動状態の説明図である。複ノズル連続駆動状態とは、少なくとも2つの組に属するノズルから時分割でインクが吐出される状態をいう。例えば同図(a)に示すように、横2本線の印刷イメージを得るためには、同図(b)に示すように、符号a,c,bの時間順でノズル8から必要な量のインク滴が吐出されるようにアクチュエータを駆動する。この場合、時間をずらして隣接するアクチュエータはすべて駆動される。このような駆動モードを複ノズル連続駆動と称する。ここで、連続駆動とは、空間方向(ノズルの並び方向)に連続するノズル8が駆動されるという意味である。
【0058】
図11は、複ノズル同時駆動状態の説明図である。複ノズル同時駆動状態とは、いずれか1つの組に属するノズルからインクが吐出され、他の組に属するノズルからはインクが吐出されない状態をいう。例えば同図(a)に示すように、横方向に並べられた複数の点を複数列に配置する印刷イメージを得るためには、同図(b)に示すように、(3n+1)番目の組と、(3n+2)番目の組と、(3n+3)番目の組とに分けたときに同じ組に属するノズルから必要な量のインクが吐出されるようにアクチュエータを駆動する。このような駆動モードを複ノズル同時駆動と称する。
【0059】
複ノズル同時駆動は、圧力室15の挙動としては最もシンプルなものである。すなわち、同一の組に属するアクチュエータがノズルの並び方向に均一に駆動されるため、全てのチャネルの圧力室15が均一の挙動となる。
【0060】
一方、複ノズル連続駆動は、時間方向に複雑な挙動を示す。これは、隣接するチャネルからインク滴が吐出される際に、隣接チャネルと共有する当該チャネルのアクチュエータの片壁を駆動した履歴が、当該チャネルのアクチュエータの動作に影響してしまうからである。
【0061】
また、ノズル連続駆動状態では、アクチュエータが動作する際の履歴の向きが1ドロップ目と2ドロップ目以降とで異なる。この向きの違いが、1ドロップ目で吐出速度が大きく落ち込む原因である。その理由を理解するために、次に、圧電部材1,2として用いられるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)のヒステリシス特性について説明する。
【0062】
このヒステリシス特性の説明に関しては、PZTのテストピースを用いる。テストピースは、高さ10[mm]、幅3[mm]、厚み0.2[mm]の直方体である。そしてこのテストピースを高さ方向で分極し、厚み方向に
図12に示す波形の電圧を印加する。電圧は、テストピースの厚みがヘッド100の隔壁の厚みの約2.3倍なので、60[V]とした。
【0063】
図12に示す波形の電圧を印加してテストピースに注入される充電電荷P1[μC/cm2]とテストピースの変位量d[nm]とを測定すると、
図13の結果が得られた。すなわち、アクチュエータが同方向の履歴を持つ場合、60[V]の電圧変化でテストピースに60[nm]の変位があった。これに対して逆方向の履歴を持つ場合には、60[V]の電圧変化でテストピースに80[nm]の変位があった。つまり、逆方向の履歴を持つことにより、同方向の履歴を持つときに対して133%の変位に増大する。このように、テストピースの変位量は、逆方向の履歴を持ったときよりも同方向の履歴を持ったときの方が小さい。したがって、同方向の履歴を持つ複ノズル連続駆動状態の1ドロップ目は、吐出速度が大きく落ち込むと考えられる。
【0064】
図14は、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態の各状態において、補助パルス波形を加えずにマルチドロップ方式により1ドロップのみ、または、2~5ドロップを連続して吐出したときの吐出速度[m/s]の一例を示している。
図14において、横軸の数値“1”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度である。横軸の数値“2”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して2ドロップを吐出したときの2ドロップ目の吐出速度である。横軸の数値“3”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して3ドロップを吐出したときの3ドロップ目の吐出速度である。横軸の数値“4”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して4ドロップを吐出したときの4ドロップ目の吐出速度である。横軸の数値“5”に対応してプロットされた点の縦軸の数値が、連続して5ドロップを吐出したときの5ドロップ目の吐出速度である。
図14において、一点鎖線のグラフは、複ノズル同時駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。破線のグラフは、複ノズル連続駆動状態のときの吐出速度[m/s]を示す。
【0065】
補助パルスを加えなかった場合、
図14に示すように、複ノズル同時駆動状態及び複ノズル連続駆動状態において、1ドロップのみ吐出したとき、及び、連続して2ドロップ以上を吐出したときの始めのドロップを吐出したときの吐出速度が、連続して2ドロップ以上を吐出したときの最終ドロップの吐出速度よりも遅くなる。特に、複ノズル連続駆動状態のときには、1ドロップのみ吐出したときの吐出速度が極めて遅く、安定した印字品質が得られない。
【0066】
このような不具合は、インクを吐出するための駆動パルスに先立って補助パルスをアクチュエータに印加することで解決できる。そこで次に、補助パルスについて説明する。
【0067】
補助パルスは、インクを吐出しないパルスである。アクチュエータに対し、吐出のための駆動を行う直前に補助パルスをアクチュエータに印加して、アクチュエータに対して吐出しない程度の駆動を行うと、その後の吐出に影響を与える。その影響は、アクチュエータの履歴に依存する振幅の差異によるものと、駆動直前に残った残留振動によるものが含まれる。特に、マルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合には、補助パルスが1ドロップ目と2ドロップ目の吐出速度に与える影響は大きい。良好な吐出特性を得るためには、アクチュエータの履歴に依存する振幅の差異と吐出のための駆動直前の残留振動の両方を適切に制御できなくてはならない。そこで、先ず履歴をリセットし、その後に残留振動を残さない補助パルスについて説明する。そして次に、この補助パルスに修正を加えて、駆動直前に故意に所望の残留振動を残す補助パルスについて説明する。
【0068】
[第1実施例]
図15は、第1実施例に係る補助パルスPaの説明図である。
図15において、実線「駆動電圧」は、補助パルスPaの電圧を表す波形である。一点鎖線「圧力」は、補助パルスPaにより圧力室15内に生じる圧力の変化を表す波形である。二点鎖線「流速」は、補助パルスPaによりノズル8に流入するインクの流速の変化を表す波形である。破線「メニスカス」は、補助パルスPaによりインクの液面の位置の変化を表す波形である。横軸は、時間(s)の経過を表している。縦軸は、駆動電圧、圧力、流速、波形及びメニスカスの大きさを表しており、その数値は正規化されている。
【0069】
補助パルスPaは、定常状態である0Vから電圧を印加することで、圧力室15を収縮させ、一定時間電圧を維持した後、段階的に電圧を下げて0Vに戻す。補助パルスPaは、その前縁で圧力室15を急激に収縮させ、その収縮状態を維持する。このとき、圧力室15内に生じる圧力は、収縮によって急峻に増大する。そして、その収縮状態が維持されている間、その圧力は低下して負圧に転じ、やがて最大負圧に達する。最大負圧に達するのは補助パルスPaの前縁から圧力振動周期Tの1/2の時間が経過した後である。その後、圧力室15内に生じる圧力は再び増大し、正圧に転じる。仮に、圧力室15の収縮状態をそのまま維持していたとすれば、補助パルスPaの前縁から圧力振動周期Tの時間が経過時点で圧力室15内に生じる圧力は最大値を迎えて残留振動が継続する。しかし、圧力室15内に生じる圧力が正圧に転じた後、収縮状態にあった圧力室15を段階的に復帰させると、アクチュエータに収縮方向の履歴を持たせた状態で残留振動を止めることができる。
【0070】
補助パルスPaは、その後縁で圧力室15を2段階に分けて段階的に復帰させる。1段階目の復帰動作は、その後の2段階目の復帰動作による圧力変化で圧力室15内に生じる圧力がゼロとなるように振動の大きさを調節する。2段階目の復帰動作は、圧力室15のインクの流速がゼロとなった時点で行う。このような補助パルスPaは、その前縁である収縮動作の開始から、その後縁である2段階目の復帰動作終了までの時間が、圧力室15の圧力振動周期T以上、例えば4.4μsとなる。
【0071】
かかる構成の補助パルスPaを、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってアクチュエータに印加する。そうすることにより、アクチュエータが常に収縮方向の履歴を持った状態で圧力室15の残留振動がキャンセルされる。そして、アクチュエータが常に収縮方向の履歴を持った後で、しかも圧力室15の残留振動がキャンセルされた後にインクを吐出するための駆動パルスがアクチュエータに与えられる。すなわち、前回駆動時の印字内容に係らず、インク吐出前におけるアクチュエータの駆動方向の履歴が常に一方向に揃えられる。
【0072】
このように、第1実施例における補助パルスPaは、先ずアクチュエータの履歴をリセットし、その後に残留振動を残さない信号である。すなわち補助パルスPaは、アクチュエータの履歴を一方向に固定することによって履歴に依存する振幅の差異を排除し、かつその後の吐出前に残留振動を止める。
【0073】
図16は、
図8の駆動パルス(PRD波形)と
図15の補助パルスPaとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションは、インクジェットヘッドを模擬したLCR等価回路(図示省略)を用いて行った。
図16は、補助パルスPaを1回印加した後、駆動パルスを3回印加した例を示す。
【0074】
図16において、実線「駆動電圧」は、補助パルスPa及び駆動パルスの電圧変化を表す波形である。駆動パルスは、拡張パルスPdと、収縮パルスPpとを含む。一点鎖線「圧力」は、圧力室15内に生じる圧力の変化を表す波形である。二点鎖線「流速」は、ノズル8に流入するインクの流速の変化を表す波形である。破線「メニスカス」は、インクの液面の位置の変化を表す波形である。
図16において、横軸は時間(s)の経過を表しており、縦軸は、正規化された各項目の大きさを表している。
【0075】
図16に示すように、インクを吐出するための駆動パルスに先立って補助パルスPaを印加することにより、インク吐出前におけるアクチュエータの駆動方向の履歴は、収縮方向となる。また、圧力室15の残留振動はキャンセルされる。かくして、マルチドロップ方式により連続して吐出されるインクは、シミュレーション上では一定の吐出速度で吐出される。
【0076】
しかし現実には正確にシミュレーション通りの動作とはならず、吐出前に残留振動を残すことによってその後の挙動を調整したい場合がある。そこで次に、補助パルスPaの変形例として、履歴をリセットした後で、残留振動を故意に残す補助パルスPeについて説明する。
【0077】
図17は、補助パルスPeの説明図である。なお、
図17においても、縦軸、横軸、実線「駆動電圧」、一点鎖線「圧力」、二点鎖線「流速」、破線「メニスカス」は、
図15で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0078】
補助パルスPeも補助パルスPaと同様に定常状態である0Vから電圧を印加することで、圧力室15を収縮させ、一定時間電圧を維持した後、段階的に電圧を下げて0Vに戻す。補助パルスPeは、残留振動を故意に残すように補助パルスPaに修正を加えたものである。補助パルスPaの段階的な復帰動作のタイミングをずらすことにより、残留振動を残すことができる。補助パルスPeは、復帰1段目のタイミングを遅らせることで、残留振動を故意に残している。
【0079】
復帰1段目のタイミングが遅くなることにより、その後の2段階目の復帰動作により圧力室15の圧力振動は減少するもののゼロにはならない。つまり、圧力室15の圧力振動が残る。このように圧力室15の圧力振動が残っているうちに、駆動パルスの出力を開始する。そうすることにより、1ドロップ目又は2ドロップ目の吐出速度を調整することができる。
【0080】
図18は、1ドロップ目の吐出速度を速める場合のシミュレーション結果であり、
図19は、2ドロップ目の吐出速度を速める場合のシミュレーション結果である。
図18及び
図19は、補助パルスPeを1回印加した後、駆動パルスを3回印加した例を示す。
【0081】
図18のシミュレーションと
図19のシミュレーションとで異なる点は、補助パルスPeの2段階目の復帰動作が終了してから、駆動パルスの拡張パルスPdの前縁に至るまでの待機時間Haである。
図18のシミュレーションでは、
図19のシミュレーションよりも待機時間Haを短くしている。待機時間Haを短くして、圧力室15内の圧力が負圧のときに、拡張パルスPdの前縁で吐出チャネルch.xの圧力室15を急激に拡張する。そうすると、補助パルスPaを印加した場合と比較して、圧力室15内に生じる負の圧力は大きくなる。したがって、拡張パルスPdの後縁で圧力室15を急激に拡張状態に復帰させた際に圧力室15内に生じる正の圧力は、補助パルスPaを印加した場合と比較して大きい。その結果、1ドロップ目の吐出速度が速くなる。
【0082】
一方、
図19のシミュレーションでは、
図18のシミュレーションよりも待機時間Haを長くしている。待機時間Haを長くして、圧力室15内の圧力が正圧のときに、拡張パルスPdの前縁で吐出チャネルch.xの圧力室15を急激に拡張する。そうすると、補助パルスPaを印加した場合と比較して、圧力室15内に生じる負の圧力は小さくなる。したがって、拡張パルスPdの後縁で圧力室15を急激に拡張状態に復帰させた際に圧力室15内に生じる正の圧力は、補助パルスPaを印加した場合と比較して小さい。その結果、1ドロップ目の吐出速度よりも2ドロップ目の吐出速度が速くなる。
【0083】
例えば、1ドロップ目の吐出速度が落ちるインクジェットヘッドに対しては、
図18のシミュレーション結果をもたらす補助パルスPeが有効である。2ドロップ目の吐出速度が落ちるインクジェットヘッドに対しては、
図19のシミュレーション結果をもたらす補助パルスPeが有効である。
【0084】
このように、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってインクを吐出しない補助パルスPa又は補助パルスPeをアクチュエータに印加することにより、複ノズル連続駆動状態又は複ノズル同時駆動状態等の駆動状態に係らず、マルチドロップの吐出速度を安定にできる効果を奏し得る。その結果、高品質な印刷が可能なインクジェットヘッド100を提供することができる。
【0085】
その上、補助パルスPa又は補助パルスPeは、1つのパルス信号で構成される。したがって、拡張パルスと収縮パルスとを含む補助パルスを出力する場合と比較して、駆動回数が少ない。その結果、発熱が増加する懸念も生じ得ない。
【0086】
[第2実施例]
図20は、第2実施例に係る補助パルスPbの説明図である。なお、
図20においても、縦軸、横軸、実線「駆動電圧」、一点鎖線「圧力」、二点鎖線「流速」、破線「メニスカス」は、
図15で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0087】
補助パルスPbは、補助パルスPaと比較してその前縁が異なる。すなわち補助パルスPbは、その前縁で、圧力室15を2段階に分けて段階的に収縮させる。補助パルスPbは、定常状態である0Vから電圧を印加することで、段階的に圧力室15を収縮させ、一定時間電圧を維持した後、段階的に電圧を下げて0Vに戻す。1段階目の収縮動作は、その前縁で圧力室15を収縮させ、その収縮状態を維持する。このとき、圧力室15内に生じる圧力は、収縮によって増大するが、収縮状態が維持されている間、その圧力は低下してゼロとなる。
【0088】
圧力室15内に生じる圧力がゼロとなった時点で2段階目の収縮動作を行う。この収縮動作により、圧力室15内に生じる圧力は、再び増大する。そして、2段階目の収縮状態が維持されている間、その圧力は低下して負圧に転じ、やがて最大負圧に達する。最大負圧に達するのは補助パルスPaの2段階目の収縮時点から圧力振動周期Tの1/2の時間が経過した後である。その後、圧力室15内に生じる圧力は再び増大し、正圧に転じる。
【0089】
正圧に転じた圧力がゼロとなった時点で、補助パルスPbは、補助パルスPaと同様に、圧力室15を2段階に分けて段階的に復帰させる。1段階目の復帰動作は、その後の2段階目の復帰動作による圧力変化で圧力室15内に生じる圧力がゼロとなるように振動の大きさを調節する。2段階目の復帰動作は、圧力室15のインクの流速がゼロとなった時点で行う。このような補助パルスPbも、その前縁である1段階目の収縮動作の開始から、その後縁である2段階目の復帰動作終了までの時間が、圧力室15の圧力振動周期T以上、例えば4.8μsとなる。
【0090】
かかる構成の補助パルスPbを、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってアクチュエータに印加する。そうすることにより、アクチュエータが常に収縮方向の履歴を持った状態で圧力室15の残留振動がキャンセルされる。そして、アクチュエータが常に収縮方向の履歴を持った後で、しかも圧力室15の残留振動がキャンセルされた後にインクを吐出するための駆動パルスがアクチュエータに与えられる。すなわち、前回駆動時の印字内容に係らず、インク吐出前におけるアクチュエータの駆動方向の履歴が常に一方向に揃えられる。
【0091】
このように、第2実施例における補助パルスPbも、先ずアクチュエータの履歴をリセットし、その後に残留振動を残さない信号である。すなわち補助パルスPbは、アクチュエータの履歴を一方向に固定することによって履歴に依存する振幅の差異を排除し、かつその後の吐出前に残留振動を止める。
【0092】
図21は、
図8の駆動パルス(PRD波形)と
図20の補助パルスPbとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションは、インクジェットヘッドを模擬したLCR等価回路(図示省略)を用いて行った。
図21は、補助パルスPbを1回印加した後、駆動パルスを3回印加した例を示す。
【0093】
図21において、実線「駆動電圧」は、補助パルスPb及び駆動パルスの電圧変化を表す波形である。駆動パルスは、拡張パルスPdと、収縮パルスPpとを含む。一点鎖線「圧力」は、圧力室15内に生じる圧力の変化を表す波形である。二点鎖線「流速」は、ノズル8に流入するインクの流速の変化を表す波形である。破線「メニスカス」は、インクの液面の位置の変化を表す波形である。
図21において、横軸は時間(s)の経過を表しており、縦軸は、正規化された各項目の大きさを表している。
【0094】
図21に示すように、インクを吐出するための駆動パルスに先立って補助パルスPbを印加することにより、インク吐出前におけるアクチュエータの駆動方向の履歴は、収縮方向となる。また、圧力室15の残留振動はキャンセルされる。かくして、マルチドロップ方式により連続して吐出されるインクは、シミュレーション上では一定の吐出速度で吐出される。
【0095】
しかし現実には正確にシミュレーション通りの動作とはならず、吐出前に残留振動を残すことによってその後の挙動を調整したい場合がある。そこで次に、補助パルスPbの変形例として、履歴をリセットした後で、残留振動を故意に残す補助パルスPfについて説明する。
【0096】
図22は、補助パルスPfの説明図である。なお、
図22においても、縦軸、横軸、実線「駆動電圧」、一点鎖線「圧力」、二点鎖線「流速」、破線「メニスカス」は、
図15で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0097】
補助パルスPfは、残留振動を故意に残すように補助パルスPbに修正を加えたものである。補助パルスPfにおいても、補助パルスPeと同様に、段階的な復帰動作のタイミングをずらすことにより、残留振動を残すことができる。補助パルスPfは、定常状態である0Vから電圧を印加することで、圧力室15を段階的に収縮させ、一定時間電圧を維持した後、段階的に電圧を下げて0Vに戻す。補助パルスPfは、復帰1段目のタイミングを遅らせることで、残留振動を故意に残している。
【0098】
復帰1段目のタイミングが遅くなることにより、その後の2段階目の復帰動作により圧力室15の圧力振動は減少するもののゼロにはならない。つまり、圧力室15の圧力振動が残る。このように圧力室15の圧力振動が残っているうちに、駆動パルスの出力を開始する。そうすることにより、1ドロップ目又は2ドロップ目の吐出速度を調整することができる。
【0099】
図23は、1ドロップ目の吐出速度を速める場合のシミュレーション結果であり、
図24は、2ドロップ目の吐出速度を速める場合のシミュレーション結果である。
図23及び
図24は、補助パルスPfを1回印加した後、駆動パルスを3回印加した例を示す。
【0100】
図23のシミュレーションと
図24のシミュレーションとで異なる点は、補助パルスPfの2段階目の復帰動作が終了してから、駆動パルスの拡張パルスPdの前縁に至るまでの待機時間Hbである。
図23のシミュレーションでは、
図24のシミュレーションよりも待機時間Hbを短くしている。待機時間Haを短くして、圧力室15内の圧力が負圧のときに、拡張パルスPdの前縁で吐出チャネルch.xの圧力室15を急激に拡張する。そうすると、補助パルスPbを印加した場合と比較して、圧力室15内に生じる負の圧力は大きくなる。したがって、拡張パルスPdの後縁で圧力室15を急激に拡張状態に復帰させた際に圧力室15内に生じる正の圧力は、補助パルスPbを印加した場合と比較して大きい。その結果、1ドロップ目の吐出速度が速くなる。
【0101】
一方、
図24のシミュレーションでは、
図23のシミュレーションよりも待機時間Hbを長くしている。待機時間Haを長くして、圧力室15内の圧力が正圧のときに、拡張パルスPdの前縁で吐出チャネルch.xの圧力室15を急激に拡張する。そうすると、補助パルスPbを印加した場合と比較して、圧力室15内に生じる負の圧力は小さくなる。したがって、拡張パルスPdの後縁で圧力室15を急激に拡張状態に復帰させた際に圧力室15内に生じる正の圧力は、補助パルスPbを印加した場合と比較して小さい。その結果、1ドロップ目の吐出速度よりも2ドロップ目の吐出速度が速くなる。
【0102】
例えば、1ドロップ目の吐出速度が落ちるインクジェットヘッドに対しては、
図23のシミュレーション結果をもたらす補助パルスPfが有効である。2ドロップ目の吐出速度が落ちるインクジェットヘッドに対しては、
図24のシミュレーション結果をもたらす補助パルスPfが有効である。
【0103】
このように、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってインクを吐出しない補助パルスPb又は補助パルスPfをアクチュエータに印加することにより、複ノズル連続駆動状態又は複ノズル同時駆動状態等の駆動状態に係らず、マルチドロップの吐出速度を安定にできる効果を奏し得る。その結果、高品質な印刷が可能なインクジェットヘッド100を提供することができる。
【0104】
その上、補助パルスPb又は補助パルスPfは、1つのパルス信号で構成される。したがって、拡張パルスと収縮パルスとを含む補助パルスを出力する場合と比較して、駆動回数が少ない。その結果、発熱が増加する懸念も生じ得ない。
【0105】
しかも、補助パルスPb又は補助パルスPfは、その前縁で圧力室15を段階的に収縮させている。そして、その段階的収縮の時間差を適宜調整することより、圧力室15の最大変位を第1実施例と同じ大きさに保ったまま、圧力室15の最大圧力を減らすことができる効果を奏し得る。
【0106】
[第3実施例]
図25は、第3実施例に係る補助パルスPcの説明図である。なお、
図25においても、縦軸、横軸、実線「駆動電圧」、一点鎖線「圧力」、二点鎖線「流速」、破線「メニスカス」は、
図15で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0107】
補助パルスPcは、補助パルスPa又は補助パルスPbと比較してその前縁及び後縁が異なる。すなわち補助パルスPcは、その前縁で、圧力室15を徐々に収縮させる。また補助パルスPcは、その後縁で、圧力室15を徐々に復帰させる。補助パルスPcは、定常状態である0Vから徐々に電圧を印加することで、圧力室15を徐々に収縮させ、一定時間電圧を維持した後、徐々に電圧を下げて0Vに戻す。
【0108】
補助パルスPcの前縁で、圧力室15を徐々に収縮させると、圧力室15内に生じる圧力は、収縮によって増加するが、その途中で最大正圧に達し、その後低下する。そして、圧力室15の収縮状態が維持されている間、その圧力はさらに低下して負圧に転じ、やがて最大負圧に達する。その後、圧力室15を徐々に復帰させると、圧力室15内に生じる圧力は、復帰させている途中で正圧に転じるが、その後、低下して、圧力室15のインクの流速がゼロとなった時点、つまりは圧力室15が復帰した時点で、圧力室15内に生じる圧力はゼロとなる。このような補助パルスPcも、その前縁である収縮動作の開始から、その後縁である復帰動作終了までの時間F、圧力室15の圧力振動周期T以上、例えば6.0μsとなる。
【0109】
図26は、
図8の駆動パルス(PRD波形)と
図25の補助パルスPcとを用いてマルチドロップ方式によりインク滴を吐出する場合のシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションは、インクジェットヘッドを模擬したLCR等価回路(図示省略)を用いて行った。
図26は、補助パルスPcを1回印加した後、駆動パルスを3回印加した例を示す。
【0110】
図26において、実線「駆動電圧」は、補助パルスPc及び駆動パルスの電圧変化を表す波形である。駆動パルスは、拡張パルスPdと、収縮パルスPpとを含む。一点鎖線「圧力」は、圧力室15内に生じる圧力の変化を表す波形である。二点鎖線「流速」は、ノズル8に流入するインクの流速の変化を表す波形である。破線「メニスカス」は、インクの液面の位置の変化を表す波形である。
図26において、横軸は時間(s)の経過を表しており、縦軸は、正規化された各項目の大きさを表している。
【0111】
図26に示すように、インクを吐出するための駆動パルスに先立って補助パルスPcを印加することにより、インク吐出前におけるアクチュエータの駆動方向の履歴は、収縮方向となる。また、圧力室15の残留振動はキャンセルされる。かくして、マルチドロップ方式により連続して吐出されるインクは、一定の吐出速度で吐出される。
【0112】
かかる構成の補助パルスPcを、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってアクチュエータに印加した場合も、第1実施例の補助パルスPa又は第2実施例の補助パルスPbを印加した場合と同様の作用効果を奏し得る。
その上に、補助パルスPcは、補助パルスPbと比較して、圧力室15の最大変位を所定に保ったまま、最大圧力をさらに減らすことができるメリットを奏し得る。
【0113】
このように、圧力室15内に生じる圧力の変化は、補助パルスPa、補助パルスPb、補助パルスPcの順に少なくなる。そしてその順番に、補助パルスによる語吐出が起こりにくい。ただし、チキソ性のあるインクに対しては、補助パルスPa、補助パルスPb、補助パルスPcの順に吐出時のインクの粘度を下げる効果が大きい利点がある。
【0114】
なお、補助パルスPcにおいても、後縁の波形を調整することにより、補助パルスPe又は補助パルスPfと同様に、残留振動を故意に残すことによって、1ドロップ目又は2ドロップ目の吐出速度を調整することは可能である。
【0115】
図27は、補助パルスPcの変形例として、履歴をリセットした後で、残留振動を故意に残す補助パルスPgの説明図である。なお、
図27においても、縦軸、横軸、実線「駆動電圧」、一点鎖線「圧力」、二点鎖線「流速」、破線「メニスカス」は、
図15で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0116】
補助パルスPcは、その後縁で、圧力室15を徐々に復帰させた。補助パルスPgは、その後縁で、補助パルスPe、補助パルスPfと同様に、圧力室15を急峻に復帰させ、圧力室15の圧力振動を残す。この圧力振動が残っているうちに、駆動パルスの出力を開始する。そうすることにより、1ドロップ目又は2ドロップ目の吐出速度を調整することができる。補助パルスPgは、定常状態である0Vから徐々に電圧を上げることで、圧力室15を徐々に収縮させ、一定時間電圧を維持した後、電圧を下げて0Vに戻す。
【0117】
図28は、1ドロップ目の吐出速度を速める場合のシミュレーション結果であり、
図29は、2ドロップ目の吐出速度を速める場合のシミュレーション結果である。
図28及び
図29は、補助パルスPgを1回印加した後、駆動パルスを3回印加した例を示す。
【0118】
図28のシミュレーションと
図29のシミュレーションとで異なる点は、補助パルスPgの段階的な復帰動作が終了してから、駆動パルスの拡張パルスPdの前縁に至るまでの待機時間である。待機時間を代えることによって、1ドロップ目の吐出速度を速めたり、2ドロップ目の吐出速度を速めたりできる。
【0119】
以上、インクを吐出するための駆動パルスに先立ってアクチュエータに与えられるインクを吐出しない補助パルスの実施例として、補助パルスPa、補助パルスPb、補助パルスPc、補助パルスPe、補助パルスPfを例示したが、補助パルスはこれらに限定されるものではない。
【0120】
例えば、その前縁で圧力室15を収縮する際には、補助パルスPbのように段階的な収縮し、その後縁で圧力室15を復帰させる際には、補助パルスPcのように徐々に復帰させる補助パルスであってもよい。あるいは、その前縁で圧力室15を収縮する際には、補助パルスPcのように徐々に収縮し、その後縁で圧力室15を復帰させる際には、補助パルスPa又は補助パルスPbのように段階的に復帰させる補助パルスであってもよい。
【0121】
補助パルスPa又は補助パルスPbにおいて、収縮状態にある圧力室15を段階的に復帰させる場合の段階数は2段階に限定されない。3段階以上に分けて、圧力室15を復帰させてもよい。
【0122】
補助パルスPbにおいて、圧力室15を段階的に収縮する場合の段階数は2段階に限定されない。3段階以上に分けて、圧力室15を収縮してもよい。
【0123】
補助パルスPa、補助パルスPb、補助パルスPc、補助パルスPe及び補助パルスPfのパルスの開始から終了までの時間は、圧力室15の圧力振動周期T以上であるとした。この点に関しては、圧力室15の圧力振動周期Tに近い値であれば、必ずしも圧力振動周期T以上でなくてもよい。
【0124】
この他、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、発明の範囲に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0125】
4…電極、7…ノズルプレート、8…ノズル、15、151、152、153…圧力室、16、161、162…隔壁、100…インクジェットヘッド、101…ヘッド駆動回路、Pa、Pb、Pc、Pe、Pf、Pg…補助パルス、Pd…拡張パルス、Pp…収縮パルス。