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特開2022-167435半導体装置及びそれを用いた電力変換装置、半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167435
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】半導体装置及びそれを用いた電力変換装置、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20221027BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20221027BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20221027BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20221027BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652C
H01L29/78 652S
H01L29/78 658H
H01L29/78 655C
H01L29/78 657D
H01L29/78 653B
H01L27/06 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073215
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三好 智之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 克明
(72)【発明者】
【氏名】古川 智康
【テーマコード(参考)】
5F048
【Fターム(参考)】
5F048AC10
5F048BA14
5F048BB19
5F048BC03
5F048BC12
5F048BD07
(57)【要約】
【課題】
低い導通損失とスイッチング損失を併せ持ち、かつ、動作時の発熱温度の均一性が良好な信頼性の高い半導体装置を提供する。
【解決手段】
同一半導体チップ内に、高伝導領域と、低伝導領域とを備え、前記低伝導領域に、第1のゲート電極に接続された第1のキャリア制御ゲートと、前記第1のゲート電極とは独立して制御が可能な第2のゲート電極に接続されたスイッチングゲートとを有し、前記高伝導領域に、第3のゲート電極に接続された第2のキャリア制御ゲートを有し、前記低伝導領域の前記高伝導領域との境界側の端部には、前記第1のキャリア制御ゲートと前記スイッチングゲートとのうち、前記第1のキャリア制御ゲートが配置され、導通時に蓄積できるキャリア濃度は、前記低伝導領域の方が前記高伝導領域より低いことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一半導体チップ内に、高伝導領域と、低伝導領域とを備え、
前記低伝導領域に、第1のゲート電極に接続された第1のキャリア制御ゲートと、前記第1のゲート電極とは独立して制御が可能な第2のゲート電極に接続されたスイッチングゲートとを有し、
前記高伝導領域に、第3のゲート電極に接続された第2のキャリア制御ゲートを有し、
前記低伝導領域の前記高伝導領域との境界側の端部には、前記第1のキャリア制御ゲートと前記スイッチングゲートとのうち、前記第1のキャリア制御ゲートが配置され、
導通時に蓄積できるキャリア濃度は、前記低伝導領域の方が前記高伝導領域より低いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記高伝導領域と前記低伝導領域とが互いに直接隣接することを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
絶縁膜を介して前記第2のキャリア制御ゲートに隣接し、エミッタ電極と接続された第1のウェル領域と、
絶縁膜を介して前記第1のキャリア制御ゲートおよび前記スイッチングゲートに隣接し、前記エミッタ電極と接続された第2のウェル領域と、を備え、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極と前記第3のゲート電極に、前記第1のウェル領域および前記第2のウェル領域に反転層が形成される電圧が印加される第1の状態と、
前記第1のゲート電極と前記第3のゲート電極に、前記第1のキャリア制御ゲートに隣接する前記第2のウェル領域および前記第2のキャリア制御ゲートに隣接する前記第1のウェル領域に反転層が形成されない電圧が印加され、かつ、前記第2のゲート電極に、前記スイッチングゲートに隣接する前記第2のウェル領域に反転層が形成される電圧が印加される第2の状態と、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極と前記第3のゲート電極に、前記第1のウェル領域および前記第2のウェル領域に反転層が形成されない電圧が印加される第3の状態と、を有し、
導通状態から非導通状態に移行する際において、前記第1の状態、前記第2の状態、前記第3の状態の順に移行することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第1のウェル領域と前記第2のウェル領域をそれぞれ複数備え、
前記第1のウェル領域同士の間隔は、前記第2のウェル領域同士の間隔よりも広いことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記高伝導領域と前記低伝導領域は、共通のドリフト層内に配置され、
前記低伝導領域のドリフト層内にキャリアライフタイムキラー層を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において、
前記低伝導領域の前記スイッチングゲートが配置される領域のドリフト層内に、前記キャリアライフタイムキラー層とは異なる別のキャリアライフタイムキラー層をさらに有することを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記高伝導領域と前記低伝導領域は、共通のドリフト層内に配置され、
前記ドリフト層の下部に、コレクタ電極と隣接するキャリア注入層を有し、
前記高伝導領域の下部のキャリア注入層の濃度が、前記低伝導領域の下部のキャリア注入層の濃度よりも高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記同一半導体チップ内に、前記高伝導領域と前記低伝導領域とをそれぞれ複数備え、
前記同一半導体チップの外周部に、共通の電界緩和領域を有し、
複数の前記高伝導領域と複数の前記低伝導領域が、前記共通の電界緩和領域に囲われて配置されることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記同一半導体チップ内に、前記高伝導領域と前記低伝導領域との境界に配置されたダイオード領域を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記低伝導領域は、前記スイッチングゲートが配置された領域の導通時に蓄積できるキャリア濃度が前記第1のキャリア制御ゲートが配置された領域の導通時に蓄積できるキャリア濃度よりも低いことを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極と前記第3のゲート電極は、絶縁膜に埋め込まれたトレンチ形状であることを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極と前記第3のゲート電極は、一方の面が絶縁膜を介してウェル領域と接し、他方の面はウェル領域もドリフト層も存在せず絶縁膜と接するサイドゲート形状ことを特徴とする半導体装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の半導体装置を搭載した電力変換装置。
【請求項14】
請求項5に記載の半導体装置を製造する製造方法であって、
前記同一半導体チップの裏面側に、前記低伝導領域と対向する領域の厚さが前記高伝導領域と対向する領域の厚さよりも薄いマスクを配置し、
前記マスクの前記同一半導体チップと対向する面とは反対側から軽イオンを照射することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項6に記載の半導体装置を製造する製造方法であって、
前記同一半導体チップの裏面側に、前記低伝導領域と対向する領域の厚さが前記高伝導領域と対向する領域の厚さよりも薄い第1のマスクを配置し、前記第1のマスクの前記同一半導体チップと対向する面とは反対側から軽イオンを照射する第1の照射工程と、
前記同一半導体チップの裏面側に、前記低伝導領域の前記スイッチングゲートが配置される領域と対向する領域の厚さが他の領域の厚さよりも薄い第2のマスクを配置し、前記第2のマスクの前記同一半導体チップと対向する面とは反対側から軽イオンを照射する第2の照射工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の構造とその製造方法に係り、特に、電力制御用のパワー半導体装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が世界共通の重要な緊急課題となっており、その対策の一つとしてパワーエレクトロニクス技術の貢献期待度が高まっている。特に、電力変換機能を司るインバータの高効率化に向けて、それを構成するパワースイッチング機能を果たすIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と、整流機能を果たすダイオードを主としたパワー半導体装置の低消費電力化が求められている。
【0003】
図20に、代表的なインバータの部分回路図を示す。絶縁ゲート端子98を有するIGBT97には、IGBT97と逆並列にダイオード99が接続されている。インバータは、直流電源96から電力が供給され、IGBT97の絶縁ゲート端子98に電圧が印加され高速にターンオン、ターンオフを繰り返すことで接続された誘導性負荷95に供給する電力を制御する構成となっている。なお、誘導性負荷95は、例えばモータ(電動機)である。
【0004】
IGBT97とダイオード99は導通時に導通損失を発生し、スイッチング時にスイッチング損失を発生するため、インバータを小型化・高効率化するにはIGBT97とダイオード99の導通損失とスイッチング損失を低減する必要がある。ここで、スイッチング損失は、IGBT97から発生するターンオン損失とターンオフ損失、ターンオン時にダイオード99から発生するリカバリー損失から構成される。
【0005】
IGBTの導通損失とターンオフ損失を低減する技術として、例えば特許文献1に記載の2つの独立した制御が可能なゲートを有するダブルゲート型(デュアルゲート型とも呼ぶ)のIGBT構造に関する技術が知られている。
【0006】
図21は、特許文献1に記載されたIGBTの断面図である。ゲートGsとゲートGcはともに、トレンチ形状を有しており、エミッタ電極7に対し、ゲートGsの絶縁ゲート電極91とゲートGcの絶縁ゲート電極92に高電圧が印加されると、p型ウェル層2のゲート電極界面に反転層である電子層が生成される。これにより、コレクタ電極8とエミッタ電極7の間に順方向電圧が印加されると、エミッタ電極7から絶縁ゲート電極(Gs)91と絶縁ゲート電極(Gc)92の表面に形成された電子層を介し、電子キャリアがn-型ドリフト層1に注入されて、p型コレクタ層4から正孔キャリアを引き出し、n-型ドリフト層1の内部で伝導度変調が生じIGBTは導通状態となる。
【0007】
次に、ターンオフ時は、p型ウェル層2のゲート電極界面に反転層を形成しない閾値電圧未満の電圧をゲートに印加することで伝導度変調に寄与していたキャリアがエミッタ電極7とコレクタ電極8へ排出されて非導通状態へ移行し、その際に生じる電流と、エミッタ電極7とコレクタ電極8に印加される逆方向電圧によって、ターンオフ損失と呼ばれる電力損失が生じる。
【0008】
ここで、2つの独立した制御が可能なゲートを有する本構造では、ターンオフ直前に、一方の絶縁ゲート電極(Gc)92に対して絶縁ゲート電極(Gs)91に先行して閾値電圧未満の電圧を印加することが可能であり、伝導度変調を抑制し、キャリア濃度が低減したドリフト領域を一時的に形成することが可能である。これにより、ターンオフ時に排出されるキャリアによる電流を低減でき、また高速に逆方向電圧がコレクタ電極8、エミッタ電極7間に印加されることで、ターンオフ損失を低減できる。
【0009】
即ち、絶縁ゲート電極(Gs)91と絶縁ゲート電極(Gc)92に印加するゲートバイアスを、導通状態の直前と非導通状態の直前でそれぞれ変化させることで、n-型ドリフト層1に蓄積されるキャリア濃度を動的に制御することが可能であり、その制御によってターンオフ時に発生する損失を低減することが可能な技術である。
【0010】
また、ダブルゲート型の他の態様として、コレクタ領域近傍の蓄積されたキャリア濃度を一時的に低下させ、ターンオフ時の電流を小さくする技術として、例えば特許文献2に記載のコレクタの注入効率の異なる2つのIGBTを並列接続した構造に関する技術が知られている。
【0011】
図22は、特許文献2に記載されたIGBTの回路図である。IGBTは、構造の異なる2つのIGBT33,34から構成され、並列に接続してIGBTのスイッチング機能を果たす。2つのIGBT33,34は、キャリアの注入効率が高く低オン電圧なIGBT33と、注入効率が低く高オン電圧なIGBT34の別構造であり、それぞれのゲート35,36を独立に制御する。
【0012】
ここで、キャリアの注入効率は、IGBT33,34のコレクタ領域における不純物濃度や、ドリフト領域のキャリアライフタイム制御量により調整される。導通状態においては、2つのIGBT33,34の両方のゲート35,36に、閾値電圧以上の電圧を印加することで、2つのIGBT33,34は共に導通し、低いオン電圧が得られる。
【0013】
次に、ターンオフ時においては、低オン電圧のIGBT33のゲート35を先行して閾値電圧未満の電圧を印加することで、高オン電圧のIGBT34のみ導通状態とする。この制御を適用することで、一時的にキャリア濃度の低い状態を形成でき、その後の高オン電圧なIGBT34に閾値電圧未満の電圧を印加することで非導通状態に移行する際の、キャリア排出に伴う電流を低減できる。
【0014】
この構成と制御から成る技術の利点は、ドリフト領域におけるコレクタ領域近傍のキャリア濃度、ここでは並列素子間での平均的なキャリア濃度を制御でき、高オン電圧のIGBT34のみを導通させることで一時的に平均キャリア濃度を下げられることから、ターンオフ時の電流を低減できる点にある。
【0015】
なお、上述した図20のインバータに用いるダブルゲート型の半導体装置として、例えば、特許文献3のような技術が知られている。
【0016】
特許文献3には、Gcゲート92のみを有し、p型コレクタ層4Aの不純物濃度が高く設定されているIGBT51と、Gsゲート91とGcゲート92とを有し、p型コレクタ層4Bの不純物濃度が低く設定されているIGBT52とにより構成される半導体装置が開示されている。(特許文献3の図2等)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2014/038064号
【特許文献2】特開2012-249509号公報
【特許文献3】特開2019-145758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献1に記載のIGBT構造においては、n-型ドリフト層1におけるp型ウェル層2近傍のキャリアは、絶縁ゲート電極(Gc)92のバイアス制御により濃度を調整することが可能である一方、p型コレクタ層4近傍のキャリア濃度の制御は困難である。
【0019】
この傾向は、IGBTを構成する基板の厚さが大きくなる、即ち、n型エミッタ層3とp型コレクタ層4の間隔が広い高耐圧な構造になるほど顕著であり、ダブルゲート型IGBTのキャリアを制御する効果が小さくなる。従って、ターンオフ時において、n-型ドリフト層1の、特にp型コレクタ層4近傍における高濃度に蓄積されたキャリアが排出されることにより生じる電流が大きく、ダブルゲート型IGBTによるターンオフ損失の低減効果は小さくなる。
【0020】
また、上記特許文献2に記載のIGBT構造においては、高オン電圧のIGBT34のドリフト領域におけるエミッタ領域近傍のキャリア濃度は制御が困難で、キャリア濃度の高い状態からターンオフの制御が入るため、コレクタ-エミッタ間の電圧が逆方向電圧へ推移する際、ドリフト領域内部の空乏化の速度が遅く、電圧の推移時間が長いことに起因し、ターンオフ損失の低減効果が小さい。
【0021】
また、異なる不純物濃度やキャリアライフタイムを適用した2チップの構成となるため、導通時やターンオフスイッチング時において発生する電力起因でのIGBT内部の温度のアンバランスが2チップ間で生じ、信頼性の課題や最大接合温度で規定される許容最大電流まで導通電流値を上昇できない懸念がある。
【0022】
以上のように、特許文献1の構造においては、IGBTのドリフト領域におけるエミッタ領域近傍のキャリア濃度を一時的に下げられることで、ターンオフ時において、高速に高電圧が印加される一方で、電流の低減速度を高めるのが困難であり、ターンオフ損失の低減効果が小さい。
【0023】
また、特許文献2の構造においては、IGBTのドリフト領域におけるコレクタ領域近傍のキャリア濃度を一時的に下げられることで、ターンオフ時において、電流の低減速度を高められる一方で、高電圧が印加される速度を高めるのは困難であり、ターンオフ損失の低減効果が小さい。また、2チップ間の温度アンバランスの懸念がある。
【0024】
従って、従来の特許文献1、特許文献2のダブルゲート型IGBTでは、IGBTの損失低減効果は小さく、また特許文献2では動作発熱時の温度均一性に関する課題があり、電流許容量の拡大による大容量化は難しかった。
【0025】
また、上記特許文献3に記載の半導体装置では、例えば図2に示されている様に、IGBT51とIGBT52は、それぞれ別チップで構成されることを前提としており、半導体装置の小型化や動作時にIGBT51とIGBT52の発熱温度差が生じる可能性がある等、更なる改善の余地がある。
【0026】
そこで、本発明の目的は、低い導通損失とスイッチング損失を併せ持ち、かつ、動作時の発熱温度の均一性が良好な信頼性の高い半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は、同一半導体チップ内に、高伝導領域と、低伝導領域とを備え、前記低伝導領域に、第1のゲート電極に接続された第1のキャリア制御ゲートと、前記第1のゲート電極とは独立して制御が可能な第2のゲート電極に接続されたスイッチングゲートとを有し、前記高伝導領域に、第3のゲート電極に接続された第2のキャリア制御ゲートを有し、前記低伝導領域の前記高伝導領域との境界側の端部には、前記第1のキャリア制御ゲートと前記スイッチングゲートとのうち、前記第1のキャリア制御ゲートが配置され、導通時に蓄積できるキャリア濃度は、前記低伝導領域の方が前記高伝導領域より低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低い導通損失とスイッチング損失を併せ持ち、かつ、動作時の発熱温度の均一性が良好な信頼性の高い半導体装置及びその製造方法を実現することができる。
【0029】
これにより、半導体装置及びそれを用いた電力変換装置の大容量化と信頼性向上が図れる。
【0030】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例1に係る半導体装置の断面図である。
図2図1の半導体装置を用いた駆動回路図及び駆動信号を示す図である。
図3図1の半導体装置の高伝導期間におけるキャリア分布を概念的に示す図である。
図4図1の半導体装置の低伝導期間におけるキャリア分布を概念的に示す図である。
図5】ターンオフスイッチング波形及び電力損失を示す図である。
図6図1の半導体装置の導通時とターンオフスイッチング時の発生電力と、その発生電力に伴う内部温度の分布を概念的に示す図である。
図7】本発明の実施例2に係る半導体装置の断面図である。
図8図7の半導体装置の平面レイアウト図である。
図9】本発明の実施例3に係る半導体装置の断面図である。
図10図9の半導体装置の平面レイアウト図である。
図11図9の半導体装置の製造方法を示す図である。
図12】本発明の実施例4に係る半導体装置の断面図である。
図13図12の半導体装置の平面レイアウト図である。
図14】本発明の実施例5に係る半導体装置の平面レイアウト図である。
図15図14の変形例を示す図である。(実施例5の変形例1)
図16図15の半導体装置の断面及び等価回路を示す図である。
図17図16の変形例を示す図である。(実施例5の変形例2)
図18】本発明の実施例6に係る半導体装置の平面配置図及び断面配置図である。
図19図18の変形例を示す図である。(実施例6の変形例)
図20】代表的な電力変換装置の回路構成を示す図である。
図21】特許文献1に記載の従来技術を適用した半導体装置の断面図である。
図22】特許文献2に記載の従来技術を適用した半導体装置の回路図である。
図23図9の変形例を示す図である。(実施例3の変形例)
図24A図23の半導体装置の製造方法を示す図である。(第1の照射工程)
図24B図23の半導体装置の製造方法を示す図である。(第2の照射工程)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0033】
また、図中のn-,nという表記は、半導体層がn型であることを示し、かつnの不純物濃度はn-の不純物濃度よりも相対的に高いことを示す。また、p-,pという表記は、半導体層がp型であることを示し、かつpの不純物濃度はp-の不純物濃度よりも相対的に高いことを示す。
【実施例0034】
図1から図6を参照して、本発明の実施例1に係る絶縁ゲート型(ゲート制御型)の半導体装置について説明する。図1は、本実施例の半導体装置100の断面図である。
【0035】
本実施例の半導体装置100は、複数のトレンチゲート形状を有するダブルゲート型IGBTであり、共通のn-型ドリフト層20に高伝導領域21と低伝導領域22が設けられている。高伝導領域21は、IGBT導通時に高濃度のキャリアを蓄積できる領域であり、一方、低伝導領域22は、IGBT導通時に高伝導領域21よりも低濃度のキャリアを蓄積できる領域である。
【0036】
高伝導領域21の上部に配置された複数のトレンチゲートは、キャリア制御ゲート(Gc)23に接続される。一方、低伝導領域22の上部に配置された複数のトレンチゲートは、キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24に接続される。
【0037】
また、半導体装置100は、n-型ドリフト層20に縦方向で隣接するp型ウェル層25、p型ウェル層25とは反対側においてn-型ドリフト層20と縦方向で隣接するp型コレクタ層26を備える。
【0038】
さらに、p型ウェル層25の上部には、p型給電層27とn型エミッタ層28が隣接して存在する。そして、これらp型ウェル層25、n型エミッタ層28は、ゲート絶縁膜(ゲート酸化膜)29を介してゲート電極を有するトレンチゲート型の第1の絶縁ゲートであるキャリア制御ゲート(Gc)23とトレンチゲート型の第2の絶縁ゲートであるスイッチングゲート(Gs)24と接している。
【0039】
エミッタ電極40は、下に凸のトレンチ形状を有して、p型給電層27とn型エミッタ層28と接している。また、各トレンチゲートは、ゲート絶縁膜29を介して、互いに絶縁される。また、n-型ドリフト層20は、p型ウェル層25とは対極側の表面にて、p型コレクタ層26と隣接する。そして、p型コレクタ層26に接したコレクタ電極41を備える。また、半導体装置100において、これら高伝導領域21と低伝導領域22のn-ドリフト層20とエミッタ電極40とコレクタ電極41は共通であり、1チップの半導体素子の内部に構成される。
【0040】
ここで、高伝導領域21と低伝導領域22は、2つのトレンチゲートに挟まれたp型ウェル層25の間隔やp型コレクタ層26の濃度やn-ドリフト層20内のキャリアライフタイムによって伝導度が設定される。また、高伝導領域21と低伝導領域22との境界側の端部に配置された高伝導領域21のキャリア制御ゲート(Gc)42と低伝導領域22のキャリア制御ゲート(Gc)42は隣接して配置される。これは、以下に示すキャリア引き抜き期間でのキャリア濃度の低減効果を発揮する為の構成である。
【0041】
なお、本実施例で用いる半導体基板は、例えばケイ素(シリコン:Si)もしくは炭化ケイ素(SiC)から形成され、ゲート絶縁膜29は例えば二酸化ケイ素(SiO2)から形成される。
【0042】
次に、図2から図4を用いて、本実施例の半導体装置100の動作について説明する。図2は、本実施例の半導体装置100を用いた駆動回路図及び駆動信号を示している。
【0043】
本実施例の半導体装置100は、キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24をそれぞれ駆動するゲートドライバ44,45による駆動信号によって、低損失な動作を発揮する。
【0044】
図2の右図の符号48はIGBTの導通期間であり、符号49は非導通期間を示している。先ず、IGBT導通期間において、キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24に対し、IGBTのp型ウェル層25に反転層を形成する閾値電圧以上の電圧が印加される高伝導期間46と、キャリア制御ゲート(Gc)23には閾値未満の電圧が印加され、スイッチングゲート(Gs)24に対し、閾値電圧以上の電圧が印加される低伝導期間47が設定される。
【0045】
高伝導期間46においては、IGBT内部の蓄積キャリア濃度が高まり、低オン電圧の性能が導出される。低伝導期間47においては、IGBT内部の蓄積キャリア濃度が低減し、続いてスイッチングゲート(Gs)24に閾値電圧未満の電圧が印加されてIGBTがオフした際に、高速にIGBTに逆阻止の電圧が印加され、さらに、高速に電流が低減することで、低損失なターンオフスイッチング50を実現できる。
【0046】
即ち、図2の右図に示すような駆動信号で図2の左図に示す本実施例のIGBT構造を駆動することで、低損失なIGBT性能が導出される。
【0047】
図3は、高伝導期間46における本実施例の半導体装置100のキャリア分布を示している。キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24に、p型ウェル層25に反転層である電子層を生成させる閾値電圧以上の正電圧が印加され、さらに、コレクタ電極41とエミッタ電極40の間にIGBTが導通する順方向電圧が印加された際の電子51と正孔52のキャリアの分布を示している。
【0048】
エミッタ電極40からp型ウェル層25内に生成された電子層を経由し、n-ドリフト層20に電子51が注入される。そして、n-ドリフト層20において、注入された電子51に誘発され、p型コレクタ層26から正孔52が注入されて、n-型ドリフト層20の内部で電導度変調が生じる。
【0049】
ここで、本実施例の半導体装置100は、高伝導領域21を有しており、例えばp型ウェル層25の間隔(ピッチ)が広く、正孔52がエミッタ電極40へ抜け難く、この高伝導領域21において電導度変調で蓄積されるキャリア濃度を高めることができる。
【0050】
これによって、本実施例の半導体装置100では、低い電圧降下、即ち低オン電圧で、所定の電流を流すことができ、導通時の低損失な性能が導出される。
【0051】
図4は、高伝導期間46を経て、キャリア制御ゲート(Gc)23に閾値電圧未満の負電圧が印加された低伝導期間47における本実施例の半導体装置100のキャリア分布を示している。
【0052】
コレクタ電極41とエミッタ電極40の間にIGBTが導通する順方向電圧が印加された状態にて、キャリア制御ゲート(Gc)23に接するp型ウェル層25には、正孔52の蓄積層が形成され、n-型ドリフト層20の内部で電導度変調に寄与していた正孔52が蓄積層を介してエミッタ電極40に排出される。
【0053】
ここで、本実施例の半導体装置100は、低伝導領域22を有しており、例えばp型ウェル層25のピッチが狭いため、電導度変調に寄与していた正孔52がキャリア制御ゲート(Gc)23による蓄積層を介してエミッタ電極40へ排出しやすく、またスイッチングゲート(Gs)24による反転層を介して、電子51が注入され続けることから、極低濃度な蓄積キャリア55のプロファイルを安定してn-ドリフト層20内に形成できる。
【0054】
また、低伝導領域22の高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置することで、n-ドリフト層20における低伝導領域22と高伝導領域21の境界部における蓄積キャリアを効率よくキャリア制御ゲート(Gc)42による蓄積層を介して排出でき、また低伝導領域22のスイッチングゲート(Gs)24から高伝導領域21への電子51の注入を防ぐことができ、これにより低伝導領域22の蓄積キャリアを均一性よく低濃度化することができる。
【0055】
この状態からスイッチンゲート(Gs)24にオフバイアスが印加され、半導体装置100が導通状態から非導通状態へ推移するターンオフスイッチング動作に移行すると、n-ドリフト層20内部の蓄積キャリア濃度が低いために、正孔52はエミッタ電極40へ、電子51はコレクタ電極41へ高速に排出されるため、高速にIGBTに逆阻止の電圧が印加されるとともに、高速に電流が低減する動作をし、低損失なターンオフスイッチングが実現される。
【0056】
即ち、IGBT内部の蓄積キャリア濃度をキャリア制御ゲート(Gc)24,42のゲートバイアスによって制御でき、特にその濃度の制御性を本発明によって高めることができ、導通時の低オン電圧な性能と、低いターンオフ損失の性能を両立したIGBTを実現できる。
【0057】
次に、図5及び図6を用いて、電力損失とチップ内温度均一性に関する本発明の効果を説明する。図5に、本発明のダブルゲート型IGBTのターンオフスイッチング波形58と、特許文献1を元にした従来のダブルゲート型IGBTのターンオフスイッチング波形57の比較を示す。
【0058】
スイッチングゲート(Gs)24にオフバイアスを印加することで、IGBTは導通状態から非導通状態に推移し、図5には、その際のコレクタ電流ICとコレクタ・エミッタ間電圧VCEの変化、またICとVCEの積による電力Powerを示している。
【0059】
スイッチンゲート(Gs)24にオフバイアスが印加されると、IGBT内部のキャリアが排出され、まずVCEが上昇する。ここで、本発明のダブルゲート型IGBTでは、直前の低伝導期間47でのキャリア濃度が低いことで、従来に対し、高速にVCEが電源電圧まで上昇する。この現象は主に、ドリフト領域のエミッタ領域近傍、即ち表面寄りのキャリア濃度が本発明で下げられている効果である。
【0060】
次に、VCEが電源電圧に達すると、ICの低減がはじまる。本発明のダブルゲート型IGBTでは、低伝導期間47でのキャリア濃度、特にドリフト領域のコレクタ領域近傍、即ち裏面寄りのキャリア濃度が低いことで、高速にコレクタ電流ICが低下し、またテール期間も小さく0Aに至って、非導通状態に推移する。即ち、本発明のダブルゲート型IGBTによれば、コレクタ・エミッタ間電圧VCE、コレクタ電流ICをともに従来に対し高速に変化させることができる。
【0061】
これらVCE、ICの変化による電力Powerを積分することでターンオフスイッチング時の電力損失が算出されるが、図5に示すように、本発明のダブルゲート型IGBTによれば、VCE、Icの変化期間が短いことで、発生する電力損失30が、従来の電力損失31に対し小さいことが判る。
【0062】
図6は、本発明のダブルゲート型IGBTの高伝導領域21と低伝導領域22において、導通時とターンオフスイッチング時の発生電力と、その発生電力に伴う内部温度の分布を模式的に示している。図中の(1),(2)は、それぞれ導通時、ターンオフスイッチング時の発生電力を示しており、(3)は導通とスイッチングを繰り返すことによる定常状態の内部温度を示している。
【0063】
本発明では、高伝導領域21と低伝導領域22は共通のn-型ドリフト層20の内部に構成され、その領域間の熱抵抗が小さく、これによって温度均一性の効果を生み出す。
【0064】
図6の(1)に示す様に、IGBT導通時においては、高伝導領域21は、蓄積キャリア濃度が高まることで、低伝導領域22に対し通流する電流量が大きくなるため、発生するPowerも低伝導領域22に比べて大きい。ここで領域間の熱抵抗が小さいことによって、共通のn-型ドリフト層20内部で高伝導領域21から低伝導領域22へ熱拡散59が生じる。
【0065】
次に、(2)に示すIGBTのターンオフスイッチング時においては、直前の低伝導期間47において、キャリアは主に低伝導領域22に蓄積されるため、ターンオフ時の電流は低伝導領域22が高伝導領域21に対し大きい。従って、発生するPowerも低伝導領域22が高伝導領域21に比べて大きくなる。ここでも領域間の熱抵抗が小さいことによって、共通のドリフト層内部で低伝導領域22から高伝導領域21へ熱拡散59が生じる。
【0066】
これら(1)と(2)の動作においてそれぞれ生じる領域間の発熱アンバランスに対し、本発明では領域間の熱抵抗が小さいことで他方への熱拡散が生じる効果が働き、(3)に示す様に、導通とスイッチングを繰り返すことによる定常状態の内部温度は、高伝導領域21から低伝導領域22に渡って、高い温度均一性を得ることができる。
【0067】
以上より、本実施例の半導体装置100(ダブルゲート型IGBT)によって、低導通損失と低ターンオフ損失を両立した低損失な性能と、導通時及びターンオフスイッチング時に発生する電力によって生じる温度上昇に対しチップ内均一性が得られる。
【実施例0068】
図7及び図8を参照して、本発明の実施例2に係る絶縁ゲート型(ゲート制御型)の半導体装置について説明する。図7は、本実施例の半導体装置200の断面図である。
【0069】
本実施例の半導体装置200は、複数のトレンチゲート形状を有するダブルゲート型IGBTであり、共通のn-型ドリフト層20に高伝導領域21と低伝導領域22が設けられている。高伝導領域21は、IGBT導通時に高濃度のキャリアを蓄積できる領域であり、一方、低伝導領域22は、IGBT導通時に高伝導領域21よりも低濃度のキャリアを蓄積できる領域である。
【0070】
ここで、本実施例では、高伝導領域21を構成するp型ウェル層25について、隣り合うp型ウェル層25との間隔をaと定義し、低伝導領域22のそれをbと定義とした時、a≧bの関係を満たす。
【0071】
p型ウェル層25同士の間隔が広いと、IGBT導通時において、コレクタ電極41からn-型ドリフト層20に注入された正孔52が、p型ウェル層25を経てエミッタ電極40に排出され難く、即ちn-型ドリフト層20内の伝導度変調を高める効果が働く。
【0072】
従って、高伝導領域21の間隔aを低伝導領域22の間隔b以上(a≧b)として構成することとし、かつ、低伝導領域22の高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置することで、蓄積キャリア濃度のキャリア制御ゲート(Gc)42のバイアスによる制御性を高める効果が働き、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0073】
図8は、図7の半導体装置200の平面レイアウト図である。
【0074】
本実施例の半導体装置200は、図8に示す様に、チップの外周に配置された共通の電界緩和領域60の内側に、高伝導領域21と低伝導領域22が配置され、高伝導領域21の2つのキャリア制御ゲート(Gc)23,42に挟まれたウェル領域の間隔aと低伝導領域22のキャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24に挟まれたウェル領域の間隔bが、a≧bの関係で配置される。より好ましくは、a>bの関係で配置される。
【0075】
複数のキャリア制御ゲート(Gc)23と複数のスイッチングゲート(Gs)24は、それぞれ一つずつチップ内に配置されたキャリア制御ゲート(Gc)のパッド電極61とスイッチングゲート(Gs)のパッド電極62に接続され、外部から制御バイアスが印加できる様に構成される。
【0076】
なお、キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24の配線は、エミッタ電極40の下に埋め込まれた、例えばポリシリコンで配線される。
【0077】
この構成によって、1チップ内部で、高伝導領域21と低伝導領域22、及びキャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24を配線でき、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0078】
以上より、本実施例の半導体装置200(ダブルゲート型IGBT)によって、低導通損失と低ターンオフ損失を両立した低損失な性能と、導通時及びターンオフスイッチング時に発生する電力によって生じる温度上昇に対しチップ内均一性が得られる。
【実施例0079】
図9から図11、及び図23図24A図24Bを参照して、本発明の実施例3に係る絶縁ゲート型(ゲート制御型)の半導体装置とその製造方法について説明する。図9は、本実施例の半導体装置300の断面図である。
【0080】
本実施例の半導体装置300は、複数のトレンチゲート形状を有するダブルゲート型IGBTであり、共通のn-型ドリフト層20に高伝導領域21と低伝導領域22が設けられている。高伝導領域21は、IGBT導通時に高濃度のキャリアを蓄積できる領域であり、一方、低伝導領域22は、IGBT導通時に高伝導領域21よりも低濃度のキャリアを蓄積できる領域である。
【0081】
ここで、本実施例では、高伝導領域21を構成するn-型ドリフト層20のキャリアライフタイムを低伝導領域22のそれに比べて高くすることで、導通時の高伝導期間46に蓄積できるキャリア濃度を高めることができ、かつ低伝導期間47に低伝導領域22で蓄積されるキャリア濃度を下げることができる。即ち、キャリア制御ゲート(Gc)23により高い蓄積キャリア濃度の制御性が得られる。
【0082】
n-型ドリフト層20のキャリアライフタイムを異ならせるため、本実施例では、低伝導領域22にキャリアライフタイムキラー層63を配置する。キャリアライフタイムキラー層63は結晶欠陥であり、ヘリウムやプロトン等の軽イオンの照射によって生成される。
【0083】
高伝導領域21にはキャリアライフタイムキラー層は存在せず、蓄積キャリア濃度を高められるドリフト層とし、低伝導領域22にはキャリアライフタイムキラー層63を存在させ、蓄積キャリア濃度を低減できるドリフト層とし、かつ、低伝導領域22の高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置することで、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0084】
図10は、図9の半導体装置300の平面レイアウト図である。
【0085】
本実施例の半導体装置300は、図10に示す様に、チップの外周に配置された共通の電界緩和領域60の内側に、高伝導領域21と低伝導領域22が配置され、低伝導領域22にキャリアライフタイムキラー層64をドリフト領域内に配置する構成とする。
【0086】
また、ここでは、電界緩和領域60においてもキャリアライフタイムキラー層63が存在するドリフトとして示した。これは、電界緩和領域60におけるドリフトは、キャリア蓄積が不要であり、高伝導領域21や低伝導領域22との境界へターンオフスイッチング時のキャリアの集中を抑止することが信頼性向上につながるため、キャリアライフタイムキラー層63を低伝導領域22と同様に配置する構成とする。
【0087】
図11を用いて、本実施例の半導体装置300の製造方法を説明する。キャリアライフタイムキラー層63は、低伝導領域22のn-型ドリフト層20内に選択的に形成する必要があり、軽イオン照射65の際に深さを調整する為のマスク66にパターニングを施すことで可能となる。
【0088】
低伝導領域22を覆うマスク66の厚さ67は、n-型ドリフト層20内にキャリアライフタイムキラー層63が留まる位置とし、一方で、高伝導領域21にはそれが入り込こまない深さとする。即ち、段差を有するパターニングを施したマスク66越しに軽イオンをチップ全面に照射することで、本実施例の半導体装置300が製造される。
【0089】
これによって、1チップ内部で、高伝導領域21と低伝導領域22、及びキャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24を配置でき、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0090】
以上より、本実施例の半導体装置300(ダブルゲート型IGBT)によって、低導通損失と低ターンオフ損失を両立した低損失な性能と、導通時及びターンオフスイッチング時に発生する電力によって生じる温度上昇に対しチップ内均一性が得られる。
【0091】
≪実施例3の変形例≫
図23は、図9の変形例を示す図である。
【0092】
図23に示す様に、図9の構成に加えて、低伝導領域22のスイッチングゲート(Gs)24が配置される領域のn-型ドリフト層20内に、キャリアライフタイムキラー層63とは異なる別のキャリアライフタイムキラー層86をさらに設けてもよい。
【0093】
このように、低伝導領域22内において、スイッチングゲート(Gs)24が配置される領域のn-型ドリフト層20の導通時に蓄積できるキャリア濃度を、低伝導領域22のキャリア制御ゲート(Gc)23,42が配置される領域のn-型ドリフト層20の導通時に蓄積できるキャリア濃度よりも低くなるように構成することで、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0094】
図24A及び図24Bは、図23の半導体装置の製造方法を示す図であり、図11の変形例に相当する。
【0095】
本製造方法は、図24A及び図24Bに示すように、第1の軽イオン照射工程(図24A)と第2の軽イオン照射工程(図24B)の2つのステップを有する。図24Aに示す第1の軽イオン照射工程は、図11と同様であり、繰り返しとなる説明は省略する。
【0096】
図24Aに示す第1の軽イオン照射工程により、低伝導領域22にキャリアライフタイムキラー層63を形成した後、図24Bに示すように、チップの裏面側に、低伝導領域22のスイッチングゲート(Gs)24が配置される領域と対向する領域の厚さ88が他の領域の厚さよりも薄い、マスク66とは異なる別のマスク87を配置し、マスク87のチップと対向する面とは反対側から軽イオンを照射する。なお、ここでは第1の軽イオン照射工程、第2の軽イオン照射工程の順に実施する例を示したが、第2の軽イオン照射工程、第1の軽イオン照射工程の順に実施してもよい。
【実施例0097】
図12及び図13を参照して、本発明の実施例4に係る絶縁ゲート型(ゲート制御型)の半導体装置について説明する。図12は、本実施例の半導体装置400の断面図である。
【0098】
本実施例の半導体装置400は、複数のトレンチゲート形状を有するダブルゲート型IGBTであり、共通のn-型ドリフト層20に高伝導領域21と低伝導領域22が設けられている。高伝導領域21は、IGBT導通時に高濃度のキャリアを蓄積できる領域であり、一方、低伝導領域22は、IGBT導通時に高伝導領域21よりも低濃度のキャリアを蓄積できる領域である。
【0099】
ここで、本実施例では、導通時の高伝導期間46に蓄積できるキャリア濃度を高め、また、低伝導期間47に低伝導領域22で蓄積されるキャリア濃度を低減する、即ちキャリア制御ゲート(Gc)23,42のバイアスで、蓄積キャリア濃度の高い制御性を得ることを目的とし、低伝導領域22のn-型ドリフト層20内にキャリアライフタイムキラー層63を設ける。
【0100】
さらに、高伝導領域21のp型コレクタ層68と低伝導領域22のp型コレクタ層69の不純物濃度を異ならせ、高伝導領域21のp型コレクタ層68の不純物濃度を低伝導領域22のp型コレクタ層69の不純物濃度に対し高く配置する。
【0101】
これにより、導通時の高伝導期間46においては、高伝導領域21の高濃度p型コレクタ層68からの正孔52の注入効率を上げることができ、かつ、低伝導期間47においては、低伝導領域22における低濃度p型コレクタ層69からの正孔52の注入効率を下げることができ、即ち蓄積キャリア濃度の制御性をさらに高めることができる。
【0102】
なお、キャリアライフタイムキラー層63を存在させなくても、本発明における一定の効果は得られるが、高伝導領域21及び低伝導領域22の各p型コレクタ層の不純物濃度の濃度差と組み合わせることで、高い効果が得られる。
【0103】
本実施例のように、高伝導領域21と低伝導領域22において各p型コレクタ層の不純物濃度を変え、かつ、低伝導領域22の高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置することで、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0104】
図13は、図12の半導体装置400の平面レイアウト図である。
【0105】
本実施例の半導体装置400は、図13に示す様に、チップの外周に配置された共通の電界緩和領域60の内側に、高伝導領域21と低伝導領域22が配置され、高伝導領域21に高濃度p型コレクタ層68を配置する領域70をドリフト層下に設ける構成とする。
【0106】
また、ここでは、電界緩和領域60において、そのドリフトは、キャリア蓄積が不要であり、高伝導領域21や低伝導領域22との境界へターンオフスイッチング時のキャリアの集中を抑止することが信頼性向上につながるため、低濃度p型コレクタ層69を低伝導領域22と同様に配置する構成とする。
【0107】
以上より、本実施例の半導体装置400(ダブルゲート型IGBT)によって、低導通損失と低ターンオフ損失を両立した低損失な性能と、導通時及びターンオフスイッチング時に発生する電力によって生じる温度上昇に対しチップ内均一性が得られる。
【実施例0108】
図14から図17を参照して、本発明の実施例5に係る絶縁ゲート型(ゲート制御型)の半導体装置について説明する。図14は、本実施例の半導体装置500の平面レイアウト図である。
【0109】
本実施例の半導体装置500は、複数のトレンチゲート形状を有するダブルゲート型IGBTであり、かつ複数の高伝導領域21と低伝導領域22を1チップ内に配置した構成である。高伝導領域21は、IGBT導通時に高濃度のキャリアを蓄積できる領域であり、一方、低伝導領域22は、IGBT導通時に高伝導領域21よりも低濃度のキャリアを蓄積できる領域である。
【0110】
また、チップの外周に配置された共通の電界緩和領域60の内部に、複数の高伝導領域21と低伝導領域22が配置される。
【0111】
ここで、高伝導領域21と低伝導領域22には、実施例3で説明したようにキャリアライフタイムキラー層63の打ち分けを導入してもよいし、実施例4で説明したようにp型コレクタ層の濃度を変化させてもよく、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0112】
複数の高伝導領域21と低伝導領域22は互いに隣接して、共通の電界緩和領域60の内側に構成される。この構成によって、IGBTの導通時とターンオフスイッチング動作時において、一方で大きくなる発生電力起因の発熱に対し、他方への熱拡散の効果が高く働き、チップ内の温度均一性を高めることができる。また、分割して配置する高伝導領域21と低伝導領域22の数を増やすことでこの効果をより高めることができる。
【0113】
さらに、縦方向(半導体装置500の長辺方向)に分割して領域の数を増やすだけでなく、横方向(半導体装置500の短辺方向)にも分割して千鳥の配置とすることで、さらに温度均一性の効果を高めることができる。
【0114】
複数のキャリア制御ゲート(Gc)23と複数のスイッチングゲート(Gs)24は、それぞれ一つずつチップ内に配置されたキャリア制御ゲート(Gc)のパッド電極61とスイッチングゲート(Gs)のパッド電極62に接続され、外部から制御バイアスが印加できる様に構成される。
【0115】
なお、キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24の配線は、エミッタ電極40の下に埋め込まれた、例えばポリシリコンで配線される。
【0116】
また、特に、横方向(半導体装置500の短辺方向)にも分割する場合は、キャリア制御ゲート(Gc)23とスイッチングゲート(Gs)24の配線を効率よく最短距離で引き回す目的で、二層の配線層で構成してもよい。
【0117】
また、低伝導領域22の高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置する。これにより、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0118】
≪実施例5の変形例1≫
図15は、図14の変形例を示す平面レイアウト図である。
【0119】
これまでの実施例では、高伝導領域21と低伝導領域22とが互いに直接隣接して配置される例を示してきた。
【0120】
本変形例は、複数のトレンチゲート形状を有するダブルゲート型IGBTであり、かつ複数の高伝導領域21と低伝導領域22を1チップ内に配置した構成であり、さらに、高伝導領域21と低伝導領域22との境界にダイオード領域71を配置する。ダイオードは、図20において示した様に、電力変換器において、還流・整流動作を目的としIGBTと逆並列に接続することが必要不可欠である。
【0121】
本変形例は、ダイオードをダブルゲート型IGBTのチップに内蔵した構成である。ダイオード領域71を高伝導領域21と低伝導領域22の間に配置することで、IGBTの導通時とターンオフスイッチング動作時において、一方で大きくなる発生電力起因の発熱に対し、共通のn-型ドリフト層20から成るダイオード領域71への熱拡散の効果も働き、チップ内の温度均一性を高めることができる。
【0122】
また、本変形例では、ダイオード領域71の導通動作とスイッチング動作による発生電力起因の発熱に対し、共通のn-型ドリフト層20から成るIGBTの高伝導領域21と低伝導領域22への熱拡散の効果が働き、ダイオードを別チップとした構成に対し、よりIGBTとダイオードの温度均一性を高め、また温度上昇を抑制することができ、なおかつ、ダイオード領域71の電界緩和領域60を削減してその分IGBT領域とダイオード領域の面積を増加することもでき、定格容量の上昇の効果をさらに高めることができる。
【0123】
なお、図15においては、複数の高伝導領域21と低伝導領域22の間に複数のダイオード領域71を配置した構成であるが、実施例1から実施例4に適用して、それぞれ一つずつの領域としても、本発明の一定の効果を発揮する。
【0124】
例えば、実施例1(図1)のように、高伝導領域21と低伝導領域22をそれぞれ一つずつ有する構成において、高伝導領域21と低伝導領域22の間にダイオード領域71を配置した場合であっても、低伝導領域22のダイオード領域71を介した高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置することで、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0125】
図16に、図15の半導体装置の断面及び等価回路を示す。
【0126】
高伝導領域21とダイオード領域71と低伝導領域22は、共通のn-型ドリフト層20で形成され、各領域間の熱抵抗は極めて小さい。ダイオード領域71のアノード電極は、高伝導領域21と低伝導領域22のエミッタ電極40と共通とすることができ、また、ダイオード領域71のカソード領域は、高伝導領域21と低伝導領域22のコレクタ電極41と共通とすることができ、所定の電力変換に必要な還流・整流動作が可能である。
【0127】
ダイオード領域71のn-型ドリフト層20の上部には、アノードウェル領域73とそれと接するアノード給電領域72が設けられ、これは本発明のダブルゲート型IGBTの高伝導領域21及び低伝導領域22のn型エミッタ層28と同一の製造工程で形成される。
【0128】
ダイオード領域71のn-型ドリフト層20の下部には、n型カソード層74が設けられ、これは高伝導領域21及び低伝導領域22のp型コレクタ層68,69と注入する不純物を変えることで形成される。
【0129】
また、ダイオード領域71のn-型ドリフト層20に、低伝導領域22のn-型ドリフト層20に設けられるキャリアライフタイムキラー層63と同じものを設けてもよく、ダイオード動作におけるリカバリースイッチング損失の低減効果に寄与する。
【0130】
高伝導領域21とダイオード領域71と低伝導領域22は、共通のn-型ドリフト層20で形成され、各領域間の熱抵抗が極めて小さいことで、上記した熱拡散の効果が発揮される。
【0131】
また、低伝導領域22のダイオード領域71を介した高伝導領域21との境界側の端部に、キャリア制御ゲート(Gc)42とスイッチングゲート(Gs)24とのうち、キャリア制御ゲート(Gc)42を配置する。これにより、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性が得られる。
【0132】
≪実施例5の変形例2≫
図17は、図16の変形例を示す図である。
【0133】
本変形例では、ゲート電極の形状を、一方の面はゲート絶縁膜29を介してp型ウェル層(エミッタウェル層)25と接し、他方の面はp型ウェル層(エミッタウェル層)25もn-ドリフトドリフト層20も存在せず絶縁膜(厚い酸化膜78)と接することを特徴としたサイドゲート形状とする。
【0134】
実施例1から実施例4で図示したトレンチゲート形状では、トレンチゲートの下部におけるゲート電極とゲート絶縁膜29とn-ドリフト層20とで形成されるMOS容量に加え、p型ウェル層25に対向する面とは反対側の面に配置されたp型フローティング層15(p型フローティング層15に替えてn-型ドリフト層が形成されている場合はn-型ドリフト層)とゲート絶縁膜29とゲート電極とで形成されるMOS容量が並列に配置される。これによりトレンチゲート型ではそのMOS容量が帰還容量として働いてその値は大きく、IGBTがターンオフやターンオンスイッチングする際、この容量を充電するミラー期間が発生して、高速な電流・電圧の変化を妨げ、損失を上昇する要因となる。
【0135】
一方、本変形例のサイドゲート形状では、p型ウェル層25に対向する面とは反対側の面(すなわち他方の面)は厚い絶縁膜78が配置されており、容量成分は存在しない。従って帰還容量は、サイドゲートの下部におけるゲート電極とゲート絶縁膜29とn-ドリフト層20とで形成されるMOS容量のみで形成され、トレンチゲート型に対し、その容量値は小さい。
【0136】
そのため、トレンチゲート型に対して、スイッチングの際、より高速に電流・電圧が変化し、スイッチング損失が小さくなる。従って、本発明にサイドゲートを適用することで、実施例1と同様に、本発明の効果である低損失な性能と温度均一性を高めることができる。
【0137】
サイドゲートの形状は、従来のトレンチゲートのように断面が長方形でもよいが、図17に示すように、エミッタ電極40側からコレクタ電極41側に向かって幅が広くなる形状としてもよい。
【0138】
なお、本変形例では、サイドゲートを有した高伝導領域21と低伝導領域22の間にダイオード領域71を配置しているが、ダイオード領域71については必須ではない。ダイオード領域71のない実施例1から実施例5にサイドゲートの構造を適用してもよい。ダイオード領域71と組み合わせた場合は、上述したダイオードを混載させる効果が働き、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0139】
以上より、本実施例の半導体装置500(ダブルゲート型IGBT)及びその変形例の構成によって、低導通損失と低ターンオフ損失を両立した低損失な性能と、導通時及びターンオフスイッチング時に発生する電力によって生じる温度上昇に対しチップ内均一性が得られる。
【実施例0140】
図18及び図19を参照して、本発明の実施例6に係る絶縁ゲート型(ゲート制御型)の半導体装置について説明する。図18は、本実施例の半導体装置600の平面配置図(a)及び断面配置図(b)である。
【0141】
本実施例の半導体装置600は、高伝導領域21と低伝導領域22が設けられたIGBT素子のチップ79とダイオード素子のチップ80を逆並列に接続した構成を有する。
【0142】
IGBT素子の構成は、ダイオード領域71を有しない構成を想定しており、実施例1から実施例5(但し、実施例5の変形例1及び変形例2を除く)で説明した通りであり、ここでは説明を割愛する。本実施例では、整流素子であるダイオードチップ80をダブルゲート型IGBTチップ79に逆並列に接続する。
【0143】
これによって、IGBTのコレクタ端子からエミッタ端子に向けて、ダイオードチップ80を介して電流を流すことができ、インバータをはじめとした電力変換器の機能を実現できる。
【0144】
ダイオードチップ80は、図示しないカソード端子及びアノード端子を、それぞれダブルゲート型IGBTチップ79のコレクタ端子及びエミッタ端子と電気的に接続することで、逆並列な関係で接続される。
【0145】
ここで、ダイオードチップ80は、Si基板もしくはSiC基板内に不純物のドーピングで形成されるPN接合からなるダイオードでもよいし、不純物のドーピング層と金属のショットキーバリア接合からなるダイオードでもよい。また、ダイオードは、1素子でもよいし、小型な素子を複数並列に搭載する形態でもよい。
【0146】
ダブルゲート型IGBTチップ79とダイオードチップ80は、同一の絶縁基板81上に形成された導電性膜82と接合されて、絶縁基板81上に搭載される。接合には半田材料などが用いられる。
【0147】
ここで、ダブルゲート型IGBTチップ79のコレクタ電極とダイオードチップ80のカソード電極は、絶縁基板81上の導電性膜82を介して電気的に接続される。そして導電性膜82と導通する端子83によって、ダブルゲート型IGBTチップ79とダイオードチップ80に電気的な信号を導入できる。
【0148】
さらに、ダブルゲート型IGBTチップ79のエミッタ電極とダイオードチップ80のアノード電極は、電気的に双方に接続する端子84を介して、ダブルゲート型IGBTチップ79とダイオードチップ80に電気的な信号を与えられる。
【0149】
これらの端子83,84は、例えば、アルミニウムや銅を材料とした導電性ワイヤである。即ち、金属性被膜(導電性膜82)が形成された絶縁基板81とワイヤとによって、2つのIGBT素子とダイオード素子は、逆並列に接続され、双方向に電流を流せる半導体部品となる。
【0150】
ここで、ダイオードチップ80を2つのダブルゲート型IGBTチップ79で挟む構成とすることで、各々の素子が動作することによって発生する電力起因の熱を他方の素子へ逃がすことができ、温度上昇を抑制できる。
【0151】
ダブルゲート型IGBTチップ79は、導通時においては、通流する電流とその際の電圧降下によって電力が発生し、素子周辺の熱抵抗によって発熱する。また、ターンオフやターンオンのスイッチング時においては、過渡的な電流や電圧の変化によって電力が発生し、同じく素子周辺の熱抵抗によって発熱する。
【0152】
この発熱を抑制することは、素子の温度上昇を抑制でき、より大きな電流を流すことができ、また長期的な信頼性を向上できるため重要である。2つのダブルゲート型IGBTチップ79の間にダイオードチップ80を挟むことで、ダブルゲート型IGBTチップ79の発熱時に、このダイオードチップ80へ熱拡散できることから熱容量が上昇する。
【0153】
従って、ダブルゲート型IGBTチップ79の動作時における温度上昇を抑制できることから、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0154】
≪実施例6の変形例≫
図19は、図18の変形例である。
【0155】
本変形例では、実施例5の変形例1及び変形例2で説明したダブルゲート型IGBTとダイオードを混載するチップ85を適用する。
【0156】
1チップ内で、IGBT領域とダイオード領域の動作による発熱が生じるが、チップ内の熱拡散による効果で、双方の温度均一性を確保できる。従って、定格容量の調整を目的とする場合、図19に示す様に、チップ85を並列接続することで、領域の温度均一性を保ち容量を上昇することが可能である。
【0157】
以上より、本発明のダブルゲート型IGBTによって、低導通損失と低ターンオフ損失を両立した低損失な性能と、導通時及びターンオフスイッチング時に発生する電力によって生じる温度上昇に対しチップ内均一性が得られ、さらに、ダイオードを逆並列接続した組合わせにより、信頼性を維持し容易に必要な容量に対応したIGBTとダイオードから成る電力変換器を提供可能である。
【0158】
なお、本発明は、エアコンや電子レンジなどの小電力機器から、自動車や鉄道、製鉄所のインバータなどの大電力機器まで広く使われているものに好適な半導体装置、半導体回路の駆動装置並びに電力変換装置に適用することができる。
【0159】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0160】
1…n-型ドリフト層
2…p型ウェル層
3…n型エミッタ層
4…p型コレクタ層
5…ゲート絶縁膜(酸化膜)
7…エミッタ電極
8…コレクタ電極
12…p型給電層
15…p型フローティング層またはn-型ドリフト層
16…厚い絶縁膜
20…n-型ドリフト層
21…高伝導領域
22…低伝導領域
23…キャリア制御ゲート(Gc)
24…スイッチングゲート(Gs)
25…p型ウェル層
26…p型コレクタ層
27…p型給電層
28…n型エミッタ層
29…ゲート絶縁膜(ゲート酸化膜)
30…本発明のダブルゲート型IGBTの電力損失
31…従来のダブルゲート型IGBTの電力損失
33…低オン電圧のIGBT
34…高オン電圧のIGBT
35…低オン電圧のIGBT33のゲート
36…高オン電圧のIGBT34のゲート
38…ゲートの制御回路
40…エミッタ電極
41…コレクタ電極
42…キャリア制御ゲート(Gc)
44…ゲートドライバ
45…ゲートドライバ
46…高伝導期間
47…低伝導期間
48…導通期間
49…非導通期間
50…ターンオフスイッチング
51…電子のキャリア
52…正孔のキャリア
53…高濃度の蓄積キャリア
54…低濃度の蓄積キャリア
55…極低濃度の蓄積キャリア
56…蓄積キャリアの低濃度化
57…従来のダブルゲート型IGBTのターンオフスイッチング波形
58…本発明のダブルゲート型IGBTのターンオフスイッチング波形
59…(共通のドリフト層による)熱拡散
60…電界緩和領域
61…(キャリア制御ゲート(Gc)の)パッド電極
62…(スイッチングゲート(Gs)の)パッド電極
63…キャリアライフタイムキラー層
64…キャリアライフタイムキラー層を配置する領域
65…軽イオン照射
66…(軽イオン照射の際の)マスク
67…低伝導領域を覆うマスクの厚さ
68…高伝導領域の高濃度p型コレクタ層
69…低伝導領域の低濃度p型コレクタ層
70…高濃度p型コレクタ層を配置する領域
71…ダイオード領域
72…アノード給電領域
73…アノードウェル領域
74…n型カソード層
76…サイドゲート形状のキャリア制御ゲート(Gc)
77…サイドゲート形状のスイッチングゲート(Gs)
78…厚い酸化膜
79…ダブルゲート型IGBTチップ
80…ダイオードチップ
81…絶縁基板
82…導電性膜
83…導電性膜82と導通する端子
84…IGBTのエミッタ電極とダイオードのアノード電極と導通する端子
85…実施例5の変形例1及び変形例2のダブルゲート型IGBTチップ
86…キャリアライフタイムキラー層
87…(軽イオン照射の際の)マスク
88…低伝導領域のスイッチングゲート(Gs)領域を覆うマスクの厚さ
91…絶縁ゲート電極(Gs)
92…絶縁ゲート電極(Gc)
93…制御回路
94…駆動回路
95…誘導性負荷
96…直流電源
97…IGBT
98…絶縁ゲート端子
99…ダイオード
100…半導体装置(ダブルゲート型IGBT)
200…半導体装置(ダブルゲート型IGBT)
300…半導体装置(ダブルゲート型IGBT)
400…半導体装置(ダブルゲート型IGBT)
500,501…半導体装置(ダブルゲート型IGBT)
600…半導体装置(ダブルゲート型IGBT)
A…共通のドリフト領域により領域間の熱抵抗が小さい
IT…内部温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B