IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-膜電極接合体及びその製造方法 図1
  • 特開-膜電極接合体及びその製造方法 図2
  • 特開-膜電極接合体及びその製造方法 図3
  • 特開-膜電極接合体及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167439
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】膜電極接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20221027BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221027BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221027BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20221027BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
C25B9/23
C25B13/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073219
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】北野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】星川 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】津坂 恭子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 朗大
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 数馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 時穂
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB15
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA15
4K021DB43
4K021DB50
4K021DB53
5H126AA02
5H126BB06
5H126GG12
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】固体高分子電解質の劣化を引き起こすラジカルの発生を抑制することが可能な膜電極接合体を提供すること。
【解決手段】膜電極接合体は、固体高分子電解質を含む電解質膜と、電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、電解質膜とアノード触媒層との界面に配置された第1微粒子とを備え、第1微粒子は、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる。このような膜電極接合体は、電解質膜の表面、及び/又は、アノード触媒層の電解質膜側の表面に、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる第1微粒子を付着させ、第1微粒子が付着している面が内側になるように、電解質膜のアノード側の表面にアノード触媒層を形成し、さらに、電解質膜の他方の面にカソード触媒層を形成して積層体とし、積層体を熱処理することにより得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質を含む電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記電解質膜と前記アノード触媒層との界面に配置された第1微粒子と
を備え、
前記第1微粒子は、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる
膜電極接合体。
【請求項2】
前記第1化合物は、タングステン化合物からなる請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記第1化合物は、酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、又は、タングステン酸塩からなる請求項1又は2に記載の膜電極接合体
【請求項4】
前記第1微粒子の平均含有量は、0.01mass%以上20.0mass%以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記第1微粒子の平均粒径は、前記電解質膜の膜厚の1/10以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
(a)前記固体高分子電解質の酸基のプロトンとイオン交換している、ラジカルを消去する機能を有する第2金属元素のイオン、及び/又は、
(b)前記電解質膜内に分散している、前記第2金属元素を含む第2化合物からなる第2微粒子
をさらに含む請求項1から5までのいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記第2金属元素は、Ceである請求項6に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
次の式(1)を満たす請求項6又は7に記載の膜電極接合体。
0.0005≦M/A≦0.15 …(1)
但し、
M/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる前記酸基のモル数(A)に対する、前記第2金属元素のモル数(M)の比。
【請求項9】
前記第1微粒子は、面内方向に偏在している請求項1から8までのいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項10】
電解質膜の表面、及び/又は、アノード触媒層の前記電解質膜側の表面に、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる第1微粒子を付着させる第1工程と、
前記第1微粒子が付着している面が内側になるように、前記電解質膜のアノード側の表面に前記アノード触媒層を形成し、さらに、前記電解質膜の他方の面にカソード触媒層を形成して積層体とする第2工程と、
前記積層体を熱処理し、請求項1から9までのいずれか1項に記載の膜電極接合体を得る第3工程と
を備えた膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、固体高分子電解質の劣化を引き起こすラジカルの発生を抑制する機能がある添加物を含む膜電極接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーダ電解装置、水電解装置、燃料電池などにおいて、電気化学反応を生じさせる部位に膜電極接合体(MEA)が用いられている。MEAは、酸素と水素の直接反応若しくは電気化学反応によって直接的に生成するラジカル、又は、過酸化水素を経て生成するラジカルにより、電解質が攻撃され劣化すると言われている。
例えば、燃料電池においては、ラジカル攻撃により電解質膜の抵抗増加、クロスリークの増加、薄膜化による短寿命化などが起こることが知られている。さらには、ラジカル攻撃により生成する劣化生成物により触媒被毒が起こり、電解性能や電池性能が低下するおそれがある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、電解質膜と、電解質膜の両面に接合された触媒層及び拡散層からなる電極とを備え、拡散層の周辺部に硝酸セリウムを含浸させた膜電極接合体が開示されている。
【0004】
同文献には、
(A)ラジカルによる電解質膜の劣化は、MEAの中央部ではなく、周辺部付近で顕著に発生する点、及び、
(B)拡散層の端部にCeを添加すると、発電性能を低下させることなく、有害な過酸化水素を効率良くセル内から除去することが可能となる点
が記載されている。
【0005】
特許文献2には、複数の単セルが水平方向に積層されている燃料電池(すなわち、複数の単セルが鉛直方向に立設されている燃料電池)において、
(a)アノード側撥水層及びカソード側撥水層に、それぞれ、ラジカル抑制剤としてのCeO2が含まれており、かつ、
(b)アノード側撥水層及びカソード側撥水層の鉛直上方部位に含まれるラジカル抑制剤の濃度(溶出したCeイオンの濃度)が、鉛直下方部位に含まれるラジカル抑制剤の濃度より高い
燃料電池が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)複数の単セルが水平方向に積層されている燃料電池においては、燃料電池の停止後に残水を排出するための掃気制御を実行しても、MEAの鉛直下方部位の残水量は鉛直上方部位の残水量より多くなる点、
(B)ラジカル抑制剤が撥水層に均一に含まれている場合、残水量が少ないMEAの鉛直上方部部位ではラジカル抑制剤の溶出量が少ないために、ヒドロキシラジカルによる劣化を抑制できないのに対し、残水量が多いMEAの鉛直下方部位ではラジカル抑制剤の溶出量が過剰となるために、電解質膜のプロトン移動抵抗が増大する点、及び、
(C)撥水層の鉛直上方部位に含まれるラジカル抑制剤の濃度を、撥水層の鉛直下方部位に含まれるラジカル抑制剤の濃度を高くすると、残水量が少ない鉛直上方部位でのラジカル抑制剤の溶出量を確保しつつ、残水量が多い鉛直下方部位でのラジカル抑制剤の溶出量を抑制できる点
が記載されている。
【0007】
特許文献3には、燃料ガスの流れと酸化剤ガスの流れとが対抗する向きとなるカウンターフロー型の燃料電池において、
(a)アノード(アノード触媒層又はアノード拡散層)にAgが含まれており、かつ、
(b)燃料ガスの出口側のAg濃度が燃料ガスの入口側のAg濃度より高い
燃料電池が開示されている。
【0008】
同文献には、
(A)カウンターフロー型の燃料電池において、燃料ガスの出口側では、入口よりも低湿度となるために、ラジカルによる劣化が起きやすい点、及び、
(B)燃料ガスの出口側のAg濃度を入口側よりも高くすると、燃料電池の発電性能を低下させることなく、ラジカルによる劣化を抑制することができる点
が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献4には、延伸PTFE膜にイオン交換材料を含浸させたコンポジット膜の一方の面に、イオン交換材料及び白金担持カーボンを含む第二層が形成された固体高分子電解質膜が開示されている。
同文献には、高強度の固体高分子電解質中に白金担持カーボンを分散させると、燃料電池の寿命が向上する点が記載されている。
【0010】
Ceイオン及びAgは、ラジカルを消去する作用がある。そのため、特許文献1~3に記載されているように、化学的劣化の激しい箇所により多くのCeイオン又はAgを添加すると、電解質膜の劣化をある程度抑制することができる。
しかしながら、Ceイオン及びAgイオンは、濃度勾配によって電解質膜の面内方向及び/又は膜厚方向に拡散しやすい。そのため、Ceイオン又はAgイオンが化学的劣化の激しい箇所から移動すると、劣化抑制効果を十分に発現できなくなる場合がある。
【0011】
同様に、Ptは、ラジカルを消去する作用がある。そのため、特許文献4に記載されているように、Pt電解質膜にPt担持カーボンを添加すると、電解質膜の劣化をある程度抑制することができる。しかし、Ptも同様に、電解質膜内においてイオン化し、濃度勾配によって面内方向及び/又は膜厚方向に拡散する場合がある。さらに、Pt担持カーボンは、Ptが過酸化水素を生成する機能も有するために、Pt担持カーボンの添加位置によっては電解質膜の劣化を促進する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-098996号公報
【特許文献2】特開2018-022570号公報
【特許文献3】特開2019-160604号公報
【特許文献4】特開2014-139939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、固体高分子電解質の劣化を引き起こすラジカルの発生を抑制することが可能な膜電極接合体を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、長期に渡って電解質膜の劣化を抑制することが可能な膜電極接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る膜電極接合体は、
固体高分子電解質を含む電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記電解質膜と前記アノード触媒層との界面に配置された第1微粒子と
を備え、
前記第1微粒子は、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる。
【0015】
本発明に係る膜電極接合体の製造方法は、
電解質膜の表面、及び/又は、アノード触媒層の前記電解質膜側の表面に、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる第1微粒子を付着させる第1工程と、
前記第1微粒子が付着している面が内側になるように、前記電解質膜のアノード側の表面に前記アノード触媒層を形成し、さらに、前記電解質膜の他方の面にカソード触媒層を形成して積層体とする第2工程と、
前記積層体を熱処理し、本発明に係る膜電極接合体を得る第3工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0016】
電解質膜の劣化は、
(a)カソードからアノードに透過した酸素がアノード触媒上において水素と反応することでH22が生成し、
(b)アノード触媒上で生成したH22が電解質膜内に拡散し、電解質膜中に不純物として混入しているFeとH22とが反応することでヒドロキシラジカルが生成し、
(c)ヒドロキシラジカルが電解質を分解する、
ことにより起こると考えられる。
【0017】
そのため、過酸化水素を分解する機能を有する第1微粒子を電解質膜とアノード触媒層との界面に存在させると、アノードにおいて生成したH22がヒドロキシラジカルとなる前に水と酸素に分解される。その結果、電解質膜の分解が抑制され、電解質膜の化学的耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(空気)を所定の方向に流すガス流路構造を備えた燃料電池の模式図である。
図2図2(A)は、実施例1で得られた膜電極接合体の断面のSEM像である。図2(B)は、比較例2で得られた膜電極接合体の断面のSEM像である。
図3図3(A)は、実施例1で得られた膜電極接合体からアノード触媒層を剥がした後の電解質膜表面のSEM像である。図3(B)は、比較例2で得られた膜電極接合体からアノード触媒層を剥がした後の電解膜表面のSEM像である。
図4】各種添加剤を含む溶液の塗布位置、及び、W又はCeの定量位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 膜電極接合体]
本発明に係る膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう)は、
固体高分子電解質を含む電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記電解質膜と前記アノード触媒層との界面に配置された第1微粒子と
を備えている。
【0020】
[1.1. 電解質膜]
電解質膜は、固体高分子電解質を含む。本発明において、電解質膜に含まれる固体高分子電解質の種類は、特に限定されない。固体高分子電解質は、フッ素系電解質又は炭化水素系電解質のいずれであっても良い。電解質膜には、これらのいずれか1種の固体高分子電解質が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
また、固体高分子電解質の酸基の種類についても、特に限定されない。酸基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基等がある。固体高分子電解質には、これらの酸基のいずれか1種類のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0021】
フッ素系電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などがある。
フッ素系電解質は、高分子の構造内にC-H結合を含まない全フッ素系電解質の他に、高分子の構造内にC-H結合とC-F結合とを含む部分フッ素系電解質も含まれる。
【0022】
炭化水素系電解質としては、例えば、
(a)スルホン酸基などの酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、又は、これらの誘導体からなる全芳香族炭化水素系電解質、
(b)脂肪族炭化水素系電解質の高分子鎖の一部に芳香環を有する部分芳香族炭化水素系電解質、
などがある。
【0023】
さらに、電解質膜は、各種の添加剤を含む固体高分子電解質(複合電解質)のみからなるものでも良く、あるいは、複合電解質と補強材との複合体であっても良い。この場合、補強材の種類は、特に限定されない。
補強材としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂の多孔膜や不織布、
(b)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの炭化水素系樹脂の多孔膜や不織布、
などがある。
【0024】
[1.2. アノード触媒層]
電解質膜の一方の面には、アノード触媒層が接合されている。アノード触媒層は、水素酸化反応に対して活性を有する電極触媒(アノード触媒)と、触媒層アイオノマとを備えている。アノード触媒は、水素酸化反応に対する活性を有する触媒粒子(A)のみからなるものでも良く、あるいは、触媒粒子(A)が担体表面に担持されているものでも良い。
本発明において、触媒層アイオノマ、触媒粒子(A)、及び担体の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0025】
アノード側の触媒層アイオノマは、電解質膜を構成する固体高分子電解質と同一の材料からなるものでも良く、あるいは、異なる材料でも良い。
触媒粒子(A)としては、例えば、貴金属、2種以上の貴金属を含む合金、1種又は2種以上の貴金属と1種又は2種以上の卑金属との合金などがある。
担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0026】
[1.3. カソード触媒層]
電解質膜の他方の面には、カソード触媒層が接合されている。カソード触媒層は、酸素還元反応に対して活性を有する電極触媒(カソード触媒)と、触媒層アイオノマとを備えている。カソード触媒は、酸素還元反応に対する活性を有する触媒粒子(B)のみからなるものでも良く、あるいは、触媒粒子(B)が担体表面に担持されているものでも良い。
本発明において、触媒層アイオノマ、触媒粒子(B)、及び担体の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0027】
カソード側の触媒層アイオノマは、電解質膜を構成する固体高分子電解質と同一の材料からなるものでも良く、あるいは、異なる材料でも良い。
触媒粒子(B)としては、例えば、貴金属、2種以上の貴金属を含む合金、1種又は2種以上の貴金属と1種又は2種以上の卑金属とを含む合金などがある。
担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0028】
[1.4. 第1微粒子]
[1.4.1. 材料]
「第1微粒子」とは、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物(無機化合物)からなる微粒子をいう。
第1化合物の種類は、過酸化水素を分解する機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。第1化合物としては、例えば、タングステン化合物、モリブデン化合物などがある。
これら中でも、第1化合物は、タングステン化合物が好ましい。タングステン化合物は、他の材料に比べて過酸化水素分解能が高いので、第1微粒子の材料として好適である。
【0029】
タングステン化合物としては、例えば、
(a)酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、
(b)タングステン酸塩
などがある。
第1微粒子は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上を含む混合物であっても良い。
【0030】
酸化タングステンは、無水物であっても良く、あるいは、水和物であっても良い。酸化タングステンは、特に、WO3・(1/3)H2O又はWO3・2H2Oが好ましい。WO3の1/3水和物又は2水和物は、他の酸化タングステンに比べて過酸化水素分解能が格段に高いので、第1微粒子の材料として特に好適である。
タングステン酸塩としては、例えば、Al2(WO4)3、BaWO4、FeWO4、Ni2WO4、Cu2WO4、ZnWO4、Ce2(WO4)3などがある。
【0031】
[1.4.2. 第1微粒子の位置]
[A. 膜厚方向の位置]
第1微粒子は、電解質膜とアノード触媒層との界面に配置されている。この点が従来とは異なる。
過酸化水素は、カソードからアノードに透過した酸素がアノード触媒上において水素と反応することにより生成する。アノード触媒上において生成した過酸化水素がラジカルになる前に水と酸素に分解されるには、第1微粒子の位置は、アノード側に近いほど良い。ラジカルによる劣化を抑制するためには、第1微粒子は、電解質膜とアノード側触媒層との界面に配置されているのが好ましい。
【0032】
[B. 面内方向の位置]
第1微粒子は、電解質膜とアノード触媒層との界面全体に均一に存在していても良く、あるいは、面内方向に偏在(すなわち、界面の一部に存在)していても良い。
【0033】
MEAの外側には、通常、ガス拡散層が配置される。また、ガス拡散層の外側には、さらに、ガス流路を備えたセパレータ(「集電体」とも呼ばれている)が配置される。
ガス流路の構造(すなわち、燃料ガス及び酸化剤ガスを流す方法)には、種々の構造がある。一方、ガス流路の構造は、ガス流の方向を決めるだけでなく、セル内の温度分布、湿度分布などにも影響を与える。さらに、セル内の温度分布、湿度分布などが変わると、位置により電解質膜の劣化速度も変わる。そのため、第1微粒子は、面内方向に均一に分散させるよりもむしろ、電解質膜の劣化が生じやすい位置に偏在させるのが好ましい。
【0034】
図1に、燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(空気)を所定の方向に流すガス流路構造を備えた燃料電池の模式図を示す。図1に示す番号は、分割されたMEAの領域を表す。
図1において、燃料ガスは、領域1のx軸方向の端部から導入される。領域1に導入された水素ガスは、領域1、4、7、8、5、2、3、6、9の順に流れ、領域9のx軸方向の端部から排出される。一方、酸化剤ガスは、領域3、6、9のy軸方向の端部から導入される。領域3、6、9に導入された酸化剤ガスは、y軸方向に流れ、領域1、4、7のy軸方向の端部から排出される。
【0035】
図1に示す例の場合、領域1、3、6、9は、他の領域に比べてセル内湿度が低くなり、電解質膜の劣化が生じやすくなる。そのため、これらの領域に添加される第1微粒子の含有量を、それ以外の領域の含有量より多くするのが好ましい。
具体的には、劣化が生じやすい領域には、界面に存在する第1微粒子の全量の50~100%を配置するのが好ましい。
【0036】
[1.4.3. 第1微粒子の平均含有量]
「平均含有量」とは、電解質膜とアノード触媒層との界面に第1微粒子が配置されている場合において、第1微粒子が配置されている領域内にある電解質膜に含まれる固体高分子電解質及び第1微粒子の総質量に対する、第1微粒子の質量の割合をいう。
【0037】
第1微粒子の平均含有量は、膜電極接合体の耐久性に影響を与える。第1微粒子の平均含有量が多くなるほど、膜電極接合体の耐久性が向上する。このような効果を得るためには、第1微粒子の平均含有量は、0.01mass%以上が好ましい。平均含有量は、さらに好ましくは、0.05mass%以上、さらに好ましくは、0.1mass%以上である。
【0038】
電解質膜内に第1微粒子を分散させる場合において、第1微粒子の平均含有量が過剰になると、電解質膜が割れる場合がある。しかしながら、第1微粒子を界面に配置する場合、平均含有量が過剰になっても、電解質膜が割れることはない。しかしながら、第1微粒子の平均含有量が過剰になると、電解質膜のプロトン伝導度が低下する場合がある。従って、第1微粒子の平均含有量は、20.0mass%以下が好ましい。平均含有量は、さらに好ましくは、10.0mass%以下、さらに好ましくは、5.0mass%以下である。
【0039】
[1.4.4. 第1微粒子の平均粒径]
「第1微粒子の平均粒径」とは、顕微鏡観察下において、無作為に選択した20個以上の第1微粒子の最大寸法の平均値をいう。
【0040】
第1微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、第1微粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、第1微粒子が膜を突き破って、ショートやリークが起こる場合がある。従って、第1微粒子の平均粒径は、電解質膜の膜厚の1/10以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、電解質膜の膜厚の1/100以下、さらに好ましくは、1/5000以下である。
一方、第1微粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、第1微粒子が溶解しやすくなる。従って、第1微粒子の平均粒径は、0.1nm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、1.0nm以上、さらに好ましくは、2.0nm以上である。
【0041】
[1.5. 第2金属元素のイオン及び/又は第2微粒子]
[1.5.1. 材料]
「第2金属元素」とは、ラジカルを消去する機能を有する金属元素をいう。
「第2化合物」とは、第2金属元素を含む化合物をいう。
「第2微粒子」とは、第2化合物からなる微粒子をいう。
【0042】
ある種の金属元素を含む化合物及びイオンは、主として、ラジカルを消去する作用がある。そのため、電解質膜にこのような金属元素を含む化合物の微粒子、及び/又は、このような金属元素のイオンを適量添加すると、電解質膜の劣化をさらに抑制することができる。
【0043】
第2金属元素としては、例えば、Ce、Ag、Cs、Sn、Mn、Ti、Co、Ni、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、Pt、Prなどがある。電解質膜には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
これらの中でも、第2金属元素は、Ce、Ag、Cs、Sn、及びMnからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。第2金属元素は、特に、Ceが好ましい。これは、これらはいずれもラジカルの生成を抑制する作用、又は、ラジカルを消去する作用が大きいためである。
【0044】
第2化合物は、水溶性の化合物であっても良く、あるいは、難溶性の化合物であっても良い。水溶性の第2化合物を用いた場合、電解質膜内において第2化合物が解離し、固体高分子電解質の酸基のプロトンの一部が第2金属元素のイオンに置換される。一方、難溶性の第2化合物を用いた場合、第2化合物は、電解質膜内に分散した状態となる。
第2化合物としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、塩化物、フッ化物、水酸化物、アセチルアセトネート化合物などがある。
【0045】
[1.5.2. 含有量]
電解質膜が第2金属元素のイオン及び/又は第2微粒子を含む場合、電解質膜は、次の式(1)を満たしているのが好ましい。
0.0005≦M/A≦0.15 …(1)
但し、
M/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記第2金属元素のモル数(M)の比。
【0046】
電解質膜/アノード触媒層の界面に第1微粒子のみを配置した場合であっても、電解質膜の劣化を効果的に抑制することができる。しかしながら、第1微粒子に加えて、電解質膜に第2化合物及び/又は第2金属元素のイオンをさらに添加すると、これらの相乗効果により、電解質膜の劣化がさらに抑制される。このような効果を得るためには、M/A比は、0.0005以上が好ましい。M/A比は、好ましくは、0.001以上、さらに好ましくは、0.005以上である。
【0047】
一方、M/A比が大きくなりすぎると、電解質膜の伝導度が低下する場合がある。従って、M/A比は、0.15以下である必要がある。M/A比は、好ましくは、0.10以下、さらに好ましくは、0.05以下、さらに好ましくは、0.04以下、さらに好ましくは、0.03以下である。
【0048】
[1.5.3. 平均粒径]
電解質膜に第2微粒子を添加する場合、第2微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。第2微粒子の平均粒径に関するその他の点は、第1微粒子の平均粒径と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
[1.5.4. 第2金属元素のイオン又は第2微粒子の位置]
第2金属元素のイオン及び第2微粒子が添加される位置は、特に限定されない。ラジカルは、必ずしもアノード側において生成するとは限らないので、第2金属元素のイオン及び第2微粒子は、カソード側に添加されていても良い。
【0050】
[2. 膜電極接合体の製造方法]
本発明に係る膜電極接合体の製造方法は、
電解質膜の表面、及び/又は、アノード触媒層の前記電解質膜側の表面に、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる第1微粒子を付着させる第1工程と、
前記第1微粒子が付着している面が内側になるように、前記電解質膜のアノード側の表面に前記アノード触媒層を形成し、さらに、前記電解質膜の他方の面にカソード触媒層を形成して積層体とする第2工程と、
前記積層体を熱処理し、本発明に係る膜電極接合体を得る第3工程と
を備えている。
【0051】
[2.1. 第1工程]
まず、電解質膜の表面、及び/又は、アノード触媒層の前記電解質膜側の表面に、過酸化水素を分解する機能を有する第1化合物からなる第1微粒子を付着させる(第1工程)。
【0052】
第1微粒子を付着させる方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。第1微粒子の付着方法としては、例えば、
(a)第1微粒子を分散させた分散液を電解質膜の表面又はアノード触媒層の表面に散布し、乾燥させる方法、
(b)静電スクリーン印刷法などのドライ塗工法を用いて、電解質膜の表面又はアノード触媒層の表面に第1微粒子を塗工する方法、
などがある。
【0053】
第1微粒子は、電解質膜の表面又はアノード触媒層の表面のいずれか一方にのみ付着させても良く、あるいは、双方に付着させても良い。
また、第1微粒子は、電解質膜の表面全面、及び/又は、アノード触媒層の表面全面に付着させても良く、あるいは、表面の一部にのみ付着させても良い。
【0054】
電解質膜に第2金属元素のイオン又は第2微粒子を添加する方法としては、例えば、
(a)電解質膜を作製するためのキャスト溶液に第2微粒子、又は、第2金属元素を含む溶媒可溶性の化合物を添加する方法、
(b)電解質膜を作製した後、第2金属元素のイオンを含む溶液を電解質膜の表面に塗布し、第2金属元素のイオンを電解質膜内に拡散させる方法、
(c)電解質膜を作製した後、第2金属元素のイオンを含む溶液を電解質膜の表面に塗布し、第2金属元素のイオンを電解質膜内に拡散させ、電解質膜内において第2化合物を析出させる方法、
などがある。
【0055】
[2.2. 第2工程]
次に、前記第1微粒子が付着している面が内側になるように、前記電解質膜のアノード側の表面に前記アノード触媒層を形成し、さらに、前記電解質膜の他方の面にカソード触媒層を形成して積層体とする(第2工程)。
【0056】
触媒層の形成方法は、特に限定されない。触媒層の形成方法としては、例えば、
(a)基材表面に触媒層を形成し、電解質膜の表面に触媒層を転写する方法、
(b)電解質膜の表面に触媒層を形成するためのペーストを塗布し、乾燥させる方法、
などがある。
転写法を用いて触媒層を形成する場合、第1微粒子は、触媒層の表面に付着させても良く、あるいは、電解質膜の表面に付着させても良い。
【0057】
[2.3. 第3工程]
次に、前記積層体を熱処理する(第3工程)。これにより、本発明に係る膜電極接合体が得られる。
熱処理条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な条件を選択することができる。熱処理は、通常、1kgf/cm2(9.8×10-2MPa)~100kgf/cm2(9.8MPa)の圧力をかけながら、25℃~200℃において、1分~20分間加熱することにより行われる。
【0058】
[3. 作用]
電解質膜の劣化は、
(a)カソードからアノードに透過した酸素がアノード触媒上において水素と反応することでH22が生成し、
(b)アノード触媒上で生成したH22が電解質膜内に拡散し、電解質膜中に不純物として混入しているFeとH22とが反応することでヒドロキシラジカルが生成し、
(c)ヒドロキシラジカルが電解質を分解する、
ことにより起こると考えられる。
【0059】
そのため、過酸化水素を分解する機能を有する第1微粒子を電解質膜とアノード触媒層との界面に存在させると、アノードにおいて生成したH22がヒドロキシラジカルとなる前に水と酸素に分解される。その結果、電解質膜の分解が抑制され、電解質膜の化学的耐久性が向上する。
特に、酸化タングステン及びタングステン酸塩は、燃料電池環境下(酸性度、電位)で溶解することがなく、微粒子の状態で電解質膜/アノード触媒層の界面に存在することが可能である。そのため、溶解したイオンが電解質のスルホン酸基とイオン交換することがなく、高いプロトン伝導度を維持できるので、電池性能が低下しない。
また、酸化タングステンの中でも、WO3・(1/3)H2O又はWO3・2H2Oは、他の材料に比べて、格段に高い過酸化水素分解能を示す。そのため、これを、電解質膜/アノード触媒層界面に配置すると、電解質膜の化学的耐久性が向上する。
【0060】
また、燃料電池作動環境下で安定な第1微粒子は、膜電極接合体の内部を移動しない。そのため、本発明に係る方法を用いて、電解質膜の劣化が激しい箇所に選択的に第1微粒子を配置すると、電解質膜の劣化を効率良く抑制することができ、かつ、長期間に渡って劣化抑制効果を持続させることができる。
【0061】
さらに、電解質膜/アノード触媒層の界面に第1微粒子を配置することに加えて、電解質膜に第2微粒子及び/又は第2金属元素のイオンをさらに添加すると、これらの添加量が相対的に少量であっても、高い耐久性が得られる。これは、
(a)第1微粒子は、過酸化水素を分解して無害化する作用があり、その添加量が少量であっても、高い過酸化水素分解効果を示すため、
(b)第2微粒子及び第2金属元素のイオンは、ラジカルを消去する作用があるため、
(c)第1微粒子と、第2微粒子及び/又は第2金属元素のイオンとを共存させると、第1微粒子の過酸化水素分解効果が向上するため、及び/又は、
(d)第1微粒子により分解されなかった過酸化水素からラジカルが発生しても、第2微粒子及び/又は第2金属元素のイオンがラジカルを効果的に消去するため、
と考えられる。
【実施例0062】
(実施例1、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電解質膜の作製]
[1.1.1. 実施例1]
電解質溶液(D2020、ナフィオン(登録商標)分散液、1000EW、20mass%、Chemours社製)と1-プロパノールと超純水とを、電解質溶液:1-プロパノール:水=10:7:3(質量比)となるように混合した。さらに、混合液に超音波を10分間照射することで電解質を分散させ、キャスト溶液を得た。
【0063】
キャスト溶液:1.20gをφ35mmのフラットシャーレに採取し、恒温室雰囲気(25℃)で数日放置して、乾固させた。次いで、シャーレのまま140℃で15分間アニールした。アニール後、膜を超純水で5回洗浄した。さらに、シャーレから膜を剥がし、風乾させた。
【0064】
次に、WO3を1mass%の割合で分散させたエタノール溶液を調製した。アトマイザースプレーを用いて、電解質膜の表面にエタノール溶液を塗布し、複合電解質膜を得た。WO3の塗布面積は4cm2とした。また、WO3の塗布量は、塗布面積中のWO3の平均含有量(塗布領域に含まれる固体高分子電解質及びWO3の総質量に対するWO3の質量の割合)が20mass%となる量とした。
【0065】
[1.1.2. 比較例1~2]
電解質溶液(D2020、ナフィオン(登録商標)分散液、1000EW、20mass%、Chemours社製)と1-プロパノールと超純水とを、電解質溶液:1-プロパノール:水=10:7:3(質量比)となるように混合した後、さらにWO3を添加した。WO3添加量は、膜全体の平均含有量(膜全体に含まれる固体高分子電解質及びWO3の総質量に対するWO3の質量の割合)が20mass%となる量(比較例1)、又は、3mass%となる量(比較例2)とした。さらに、混合液に超音波を10分間照射することで電解質を分散させ、キャスト溶液を得た。
【0066】
キャスト溶液:1.20gをφ35mmのフラットシャーレに採取し、恒温室雰囲気(25℃)で数日放置して、乾固させた。次いで、シャーレのまま140℃で15分間アニールした。アニール後、膜を超純水で5回洗浄した。さらに、シャーレから膜を剥がし、風乾させた。
【0067】
[1.2. MEAの作製]
電解質膜の両面に触媒層を熱転写(145℃、5分、60kgf/cm2(5.9MPa)して、MEAを作製した。
【0068】
[2. 試験方法]
[2.1. 目視によるヒビ割れの評価]
MEAを作製する前に、目視により電解質膜のヒビ割れを評価した。
[2.2. 走査型透過電子顕微鏡(SEM)観察]
走査型透過電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られたMEAの断面、及び、MEAからアノード触媒層を剥がした後の電解質膜の表面を観察した。
【0069】
[3. 結果]
[3.1. 目視によるヒビ割れの評価]
表1に、結果を示す。比較例1は、電解質膜にヒビ割れが発生していた。一方、実施例1及び比較例2は、電解質膜にヒビ割れは認められなかった。
【0070】
【表1】
【0071】
[3.2. SEM観察]
図2(A)に、実施例1で得られた膜電極接合体の断面のSEM像を示す。図2(B)に、比較例2で得られた膜電極接合体の断面のSEM像を示す。スプレー法で作製したMEA(実施例1)の場合、WO3は電解質膜とアノード触媒層の界面に存在した。一方、キャスト法で作製したMEA(比較例2)の場合、WO3は電解質膜内のアノード側に偏析していたが、電解質膜とアノード触媒層の界面にはWO3層は認められなかった。
【0072】
図3(A)に、実施例1で得られた膜電極接合体からアノード触媒層を剥がした後の電解質膜表面のSEM像を示す。さらに、図3(B)に、比較例2で得られた膜電極接合体からアノード触媒層を剥がした後の電解膜表面のSEM像を示す。
比較例2の場合、アノード触媒層を剥がした後の電解質膜の表面の大半は電解質からなり、電解質膜の表面に露出しているWO3はほとんど認められなかった。一方、実施例1の場合、アノード触媒層を剥がした後の電解質膜の表面には、WO3しか確認できなかった。
【0073】
(実施例2、比較例3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例2]
実施例1と同様にして、電解質膜のアノード側表面にWO3粉末を塗布(塗布面積:4cm2)した電解質膜を作製した。
【0074】
[1.2. 比較例3]
実施例1と同様にして、電解質のみからなるキャスト膜を作製した。
次に、硝酸セリウムを1mass%の割合で分散させた水溶液を調製した。アトマイザースプレーを用いて、電解質膜の表面に水溶液を塗布し、複合電解質膜を得た。Ceの塗布面積は4cm2とした。また、Ceの塗布量は、塗布面積中の電解質膜のスルホン酸基量の20%に相当する量とした。
【0075】
[2. 試験方法]
得られた電解質膜を80℃、80%RHの条件で72時間放置した。その後、電解質膜に含まれるW量又はCe量を定量し、試験前後の値を比較した。
図4に、各種添加剤を含む溶液の塗布位置、及び、W又はCeの定量位置を示す。図4に示すように、各種添加剤は、電解質膜のほぼ中央に塗布した。また、W又はCeの定量は、添加剤の塗布領域のほぼ中央の領域(定量位置1)と、添加剤を塗布していない領域(定量位置2)の2箇所で行った。
【0076】
[3. 結果]
表2に結果を示す。実施例2の場合、定量位置1におけるW量は、試験前後においてほとんど変化がなかった。また、定量位置2におけるW量は、初期及び試験後のいずれもゼロであった。
一方、比較例3の場合、定量位置1におけるCe量は、試験後に大きく減少した。また、定量位置2では、初期状態でも既に少量のCeが検出され、試験後においてはCe量が増大した。
以上の結果から、劣化を抑制したい箇所にWO3を選択的に添加すると、当該箇所における劣化抑制効果を長期間に渡って持続させることができることが分かった。
【0077】
【表2】
【0078】
(実施例4~10、比較例4)
[1. 試験方法]
0.067mmolの各種添加剤を10mLの水に分散させて分散液とし、この分散液にさらに4.41mmolの過酸化水素を添加した。添加剤には、以下のものを用いた。
(a)タングステン酸アルミニウム(Al2(WO4)3)(実施例4)
(b)タングステン酸バリウム(BaWO4)(実施例5)
(c)タングステン酸鉄(FeWO4)(実施例6)
(d)タングステン酸ニッケル(Ni2WO4)(実施例7)
(e)タングステン酸銅(Cu2WO4)(実施例8)
(f)タングステン酸亜鉛(ZnWO4)(実施例9)
(g)WO2(実施例10)
(h)無添加(比較例4)
【0079】
得られた分散液を80℃で1時間保持した後、分散液に残存している過酸化水素濃度を測定した。さらに、次の式(2)から過酸化水素分解率を算出した。
過酸化水素分解率(%)=(C0-C)×100/C0 …(2)
但し、
0は、元の分散液に含まれる過酸化水素の濃度、
Cは、80℃で1時間保持後の分散液に含まれる過酸化水素の濃度。
【0080】
[2. 結果]
表3に、各種添加剤のH22分解率を示す。本実験条件において、H22は、熱による自己分解をしないことが分かった(比較例4)。一方、実施例10のWO2だけでなく、実施例4~9の各種タングステン酸塩を用いた場合においてもH22は分解した。
以上より、タングステン酸塩を電解質とアノード側触媒層の界面に配置することで、化学劣化が抑制されることが予想される。
【0081】
【表3】
【0082】
(実施例11~12、比較例5)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例11]
キャスト溶液に、電解質膜のスルホン酸基の1%がFeイオンで置換される量の硫酸鉄をさらに加えた以外は、実施例1と同様にしてMEAを作製した。
[1.2. 比較例5]
キャスト溶液に、電解質膜のスルホン酸基の1%がFeイオンで置換される量の硫酸鉄をさらに加えた以外は、比較例2と同様にしてMEAを作製した。
[1.3. 実施例12]
キャスト溶液に、電解質膜のスルホン酸基の1%がFeイオンで置換される量の硫酸鉄、及び、電解質膜のスルホン酸基の4.4%がCeイオンで置換される量の硝酸セリウムをさらに加えた以外は、実施例1と同様にしてMEAを作製した。
【0083】
[2. 試験方法]
得られたMEAの両側にガス拡散層を配置し、燃料電池セルに組み付けた。電極面積は0.64cm2とした。次いで、得られた燃料電池セルを用いて、以下の条件下で90時間の開回路(OC)耐久試験を行った。
セル温度:95℃
湿度:アノード及びカソード共に30%RH
ガス流量:300cc/min(アノード:H2、カソード:O2
背圧:133kPa
【0084】
燃料電池から排出された試験中の加湿ガスを凝縮させ、得られた水を24時間毎に回収した。回収水中には、電解質膜が化学劣化分解したFイオンが溶解している。これをイオンクロマトグラフィーにより定量し、90時間までのFイオン量の累計を算出した。
【0085】
[3. 結果]
表4に結果を示す。表4より、実施例11は、比較例5に比べてF溶出量が少ないことが分かる。これは、電解質膜/アノード触媒層界面にWO2を偏在させることにより、過酸化水素が効率良く分解されたためと考えられる。さらに、実施例12は、実施例11よりもさらにF溶出量が減少しており、CeとWの複合添加の効果が認められた。
【0086】
【表4】
【0087】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池、固体高分子形水電解装置などの各種電気化学デバイスに用いることができる。
図1
図2
図3
図4