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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167454
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】フィルタ
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/16 20060101AFI20221027BHJP
   B01D 39/08 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61L9/16 F
B01D39/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073244
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川崎 達也
【テーマコード(参考)】
4C180
4D019
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180DD09
4C180EB05X
4C180EB07X
4C180EB14X
4C180EB22Y
4C180MM08
4D019AA01
4D019BA13
4D019BB02
4D019BB03
4D019BB10
4D019BC06
4D019BC09
4D019CA02
4D019DA01
4D019DA02
4D019DA03
4D019DA04
4D019DA06
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス剤によって捕集対象物に付着しているウイルスの活性を低下可能であると共に、粘着剤がポリブテンを含んでいることによってフィルタから捕集対象物が脱落するのをより防止可能なフィルタの提供を目的とする。また、フィルタから抗ウイルス剤を含んだ粘着剤が脱落し難いことで、ウイルスの活性を低下させる機能が低下するのを防止可能なフィルタの提供を目的とする。
【解決手段】
着剤が付着している布帛を備えたフィルタにおいて、粘着剤が抗ウイルス剤を含んでいると共に、粘着剤が粘着成分としてポリブテンを含むことによって、課題を解決できることを見出した。粘着剤がポリブテンを含んでいることにより、粘着剤に亀裂が発生し難いため、フィルタの使用中や交換時に粘着剤に亀裂が発生して、フィルタから捕集対象物を保持している粘着剤ごと、捕集対象物が脱落するのを防止できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤が付着している布帛を備えたフィルタであって、前記粘着剤は抗ウイルス剤とポリブテンとを含有している、フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタに捕集された捕集対象物を保持する役割を担う粘着剤を備えたフィルタであって、粘着剤に保持されている捕集対象物に付着しているウイルスの活性を低下可能であると共に、捕集対象物がより脱落し難いフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや病院あるいは学校などの大型建造物や家庭の住居には、空気質改善のためフィルタが設けられ使用されている。しかし、使用されている通常のフィルタは、使用中や交換時に捕集されている粉じんがフィルタから脱落し易いという問題を有しているものであった。そのため、フィルタに新型コロナウイルスなどウイルスの付着した粉じんが捕集されている場合、フィルタの使用中や交換時に当該フィルタから粉じんが脱落することでウイルスが環境中へ放出される恐れがあった。そして、環境中へ放出された粉じんを人が吸引するなどしてウイルスが体内に入り込み、人へ悪影響を与える恐れがあった。
【0003】
ウイルスが環境中へ放出されることを防止可能なフィルタとして、例えば、特表2006-524569(特許文献1)には、次亜塩素酸ナトリウムのような抗ウイルス剤と粘性の有機成分を含有した粘着剤を布帛に備えたフィルタが開示されている。このような構成を備えたフィルタでは、抗ウイルス剤によって粉じんに付着しているウイルスの活性を低下可能であると共に、粉じんが粘着剤に保持されるためフィルタから粉じんが脱落し難く、ウイルスが環境中へ放出されるのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006-524569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本願出願人が、特許文献1に開示されているような従来技術にかかるフィルタを調製したところ、なおもフィルタから粉じんなど捕集対象物が脱落し易いことがあった。本願出願人がこの問題の発生原因を確認したところ、フィルタの使用中や交換時に粘着剤に亀裂が発生して、フィルタから捕集対象物を保持している粘着剤ごと、捕集対象物が脱落していることを見出した。更に、フィルタから抗ウイルス剤を含んだ粘着剤が脱落することで、フィルタにおけるウイルスの活性を低下させる機能が低下する恐れがあるという問題も見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「粘着剤が付着している布帛を備えたフィルタであって、前記粘着剤は抗ウイルス剤とポリブテンとを含有している、フィルタ。」
である。
【発明の効果】
【0007】
本願出願人は、粘着剤が付着している布帛を備えたフィルタにおいて、粘着剤が抗ウイルス剤を含んでいると共に、粘着剤が粘着成分としてポリブテンを含むことによって、課題を解決できることを見出した。この理由は完全に明らかにできていないが、次の効果が発揮されているためだと考えられる。
ポリブテンは粘性を有するオレフィン系樹脂であり、側鎖にエチル基を有する。そして、その化学構造に伴い、主鎖はねじれらせん構造を成している。そのため、ポリブテンは外部からの応力に対し柔軟に変形可能であり、高い耐ストレスクラック性を示す。その結果、本発明にかかるフィルタの使用中や交換時に、フィルタへ力が作用した場合であっても、粘着剤がポリブテンを含んでいることにより粘着剤に亀裂が発生し難い。
以上から、本発明にかかるフィルタは、抗ウイルス剤によって捕集対象物に付着しているウイルスの活性を低下可能であると共に、粘着剤がポリブテンを含んでいることによってフィルタから捕集対象物が脱落するのをより防止できる。
また、フィルタから抗ウイルス剤を含んだ粘着剤が脱落し難いため、フィルタにおけるウイルスの活性を低下させる機能が低下するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、大気圧下のもと測定を行った。また、25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、前記値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。そして、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0009】
本発明でいう布帛とは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの繊維シートである。特にフィルタが、全ての構成繊維がランダムに絡合してなる布帛(特に、繊維ウェブや不織布)を備えている場合には、より初期圧力損失が低く捕集性に優れると共に、濾過性能を長期間維持し易いフィルタを提供でき好ましい。
【0010】
布帛の構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。
【0011】
なお、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0012】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0013】
構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0014】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0015】
布帛が構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、繊維同士を熱融着することによって、布帛に強度と形態安定性を付与でき好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。
【0016】
布帛が繊維ウェブや不織布である場合、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
【0017】
また、連続長を有する細繊維(次に述べるステープル繊維よりも繊度が小さい繊維)と、特定の繊維長を有するステープル繊維とが混合してなる布帛であると、より初期圧力損失が低く捕集性に優れると共に、濾過性能を長期間維持し易いフィルタを提供でき好ましい。また、布帛が連続長を有する細繊維を含んでいることによって、前記細繊維の表面に効率よく粘着剤がまとわり付くためか、粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が、より脱落し難いフィルタを提供し易い。
【0018】
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、後述するバインダ樹脂によって構成繊維同士を一体化させる以外にも、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどして接着繊維(全溶融型接着繊維や芯鞘型接着繊維など)によって構成繊維同士を接着一体化させる方法などを挙げることができる。
【0019】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0020】
布帛が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
【0021】
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物を、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
【0022】
布帛の構成繊維の繊度や繊維長は特に限定するものではないが、より初期圧力損失が低く捕集性に優れると共に、濾過性能を長期間維持し易いフィルタを提供できるよう、また、粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が、より脱落し難いフィルタを提供し易いよう、適宜調整できる。繊度は、1~50dtexあることができ、5~40dtexあることができ、10~30dtexあることができる。構成繊維は、直接紡糸繊維(メルトブロー繊維や静電紡糸繊維など)のように、特定の長さを有さない連続長を有する繊維であってもよい。また、構成繊維は特定の繊維長を有するステープル繊維であってもよく、その繊維長は、30~120mmあることができ、40~100mmあることができ、50~80mmあることができる。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0023】
布帛の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定するものではないが、より初期圧力損失が低く捕集性に優れると共に、濾過性能を長期間維持し易いフィルタを提供できるよう、また、粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が、より脱落し難いフィルタを提供し易いよう、適宜調整できる。厚さは、3~50mmであることができ、5~40mmであることができ、10~30mmであることができる。目付は、20~500g/mであることができ、50~400g/mであることができ、80~300g/mであることができる。なお、本発明において厚さとは、主面と垂直方向へ0.5g/cm圧縮荷重をかけた時の当該垂直方向の長さをいい、目付とは測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1mあたりの質量をいう。
【0024】
本発明にかかるフィルタでは、布帛に粘着剤が付着している。粘着剤は、含まれているポリブテンなどの捕集対象物を粘着する成分が発揮する機能によって、布帛を備えたフィルタから捕集対象物が脱落するのを防止する役割を担う。
【0025】
粘着剤が布帛に付着している態様は適宜調整できるが、布帛全体に抗ウイルス剤が存在することによって、捕集対象物に付着しているウイルスの活性を効率よく低下できるよう、また、布帛全体にポリブテンなどの捕集対象物を粘着する成分が存在することによって、より多くの捕集対象物を保持できるよう、布帛の一方の主面全面に粘着剤が付着しているのが好ましく、布帛の両主面全面に粘着剤が付着しているのがより好ましい。また、主面以外にも布帛の内部(布帛の両主面間に存在している構成繊維同士の間)にも、粘着剤が存在しているのが好ましく。これらの観点から、布帛の全体(両主面や内部)に粘着剤が付着しているのが、最も好ましい。
【0026】
なお、粘着剤は抗ウイルス剤とポリブテン以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、活性炭、無機粒子などの添加剤を含有していてもよい。
【0027】
また、粘着剤はポリブテン以外にも、バインダ樹脂を含んでいても良い。使用可能なバインダ樹脂の種類は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体(スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂(アクリル酸エステル樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合体樹脂など)、ポリウレタン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体などを使用できる。また、これらのバインダ樹脂は、抗ウイルス剤や上述した添加物を布帛に担持する役割や、フィルタに粉じんを保持する役割も担うことができる。
【0028】
布帛へ粘着剤を付与する方法は適宜選択できるが、抗ウイルス剤とポリブテンを含有した溶液や分散液を、布帛へそのままあるいは泡立てた状態で、スプレーやグラビアロールなどを用いて付与した後、溶媒あるいは分散媒を除去する方法を採用できる。あるいは、布帛を当該溶液や分散液中へ浸漬した後、溶媒あるいは分散媒を除去する方法を採用できる。
【0029】
布帛に付着している粘着剤の質量は適宜調整可能であるが、意図せず布帛の空隙を閉塞することが無く、より初期圧力損失が低く捕集性に優れると共に、濾過性能を長期間維持し易いフィルタを提供できるよう適宜調整できる。布帛の質量に占める粘着剤の質量の百分率は、1~70質量%であることができ、5~60質量%であることができ、10~50質量%であることができる。
【0030】
本発明の粘着剤は抗ウイルス剤を含有している。抗ウイルス剤の種類は、フィルタの用途や対象とするウイルスの種類によって適宜選択できるものである。
【0031】
抗ウイルス剤として、特許文献1に記載の次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を採用することも可能であるが、当該酸化剤は皮膚に接触すると炎症を起こす恐れがあり、揮発した成分を吸入すると気管支が影響を受けるなど、人体へ悪影響を及ぼす恐れがある。そのため、抗ウイルス剤として、無機系抗菌抗ウイルス剤、天然系抗菌抗ウイルス剤、光触媒系抗菌抗ウイルス剤などを採用するのが好ましい。
【0032】
特に、抗ウイルス剤として、特開2010-24587号公報に開示されている、
(a)一般式RCHCOOH(式中、Rは、炭素数7~20の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基である)で表される高級脂肪酸、そのスルホン酸又は硫酸エステルの金属塩、
(b)一般式:
【0033】
【化1】
【0034】
(式中、R及びRは、それぞれ、水素原子が水酸基で置換されることのある飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、少なくとも一方が不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Rの炭素数とRの炭素数の合計炭素数は8~21であり、Mは、金属塩を形成することのできる金属である)で表される高級脂肪酸エステルの硫酸エステルの金属塩、
(c)一般式:
【0035】
【化2】
【0036】
(式中、Rは、炭素数8~21の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Mは前記と同じ意味である)で表される多価アルコール脂肪酸の部分エステルの硫酸エステルのアルカリ金属塩、又は一般式:
【0037】
【化3】
【0038】
(式中、R及びMは、前記と同じ意味である)で表される多価アルコール脂肪酸の部分エステルの燐酸エステルのアルカリ金属塩、
(d)一般式RC(=O)OCHSOM(式中、Rは、炭素数8~21の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Mは、前記と同じ意味である)で表される高級脂肪酸エステルのスルホン酸の金属塩、及び
(e)一般式:
【0039】
【化4】
【0040】
(式中、R及びRは、それぞれ、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Rの炭素数とRの炭素数の合計炭素数は8~21であり、Mは、前記と同じ意味である)で表される化合物の金属塩、又は一般式:
【0041】
【化5】
【0042】
(式中、R、R、及びR10は、それぞれ、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、Rの炭素数とRの炭素数とR10の炭素数の合計炭素数は12~32であり、Mは、前記と同じ意味である)で表される化合物の金属塩、からなる群から選んだ陰イオン界面活性剤を含んだ抗ウイルス剤であると、人体へ悪影響を及ぼす恐れが少なく、また、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスに対する不活性作用に富むフィルタを提供でき好ましい。
【0043】
これらの中でも、特に、オレイン酸アルカリ金属塩及びジオクチルスルホコハク酸アルカリ金属塩からなる群から選んだ陰イオン界面活性剤を含んだ抗ウイルス剤(具体的には、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム[ROCOCH(ROCOCH)SONa;Rの炭素数は7]及びオレイン酸カリウム(RCOOK;Rの炭素数は17)を含んだ抗ウイルス剤など)を採用すると、よりインフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスに対する不活性作用に富むフィルタを提供でき好ましい。
【0044】
なお、抗ウイルス剤は粒子などの固体形状を有するものであっても、液体形状を有するものであっても良いが、抗ウイルス剤が脱落し難いフィルタを提供し易いように液体形状を有する抗ウイルス剤を採用するのが好ましい。
【0045】
なお、粘着剤の質量中に含まれている抗ウイルス剤の質量の百分率は、その目的や用途(新型インフルエンザウイルスなどのエンベロープを有するウイルスに対する不活性作用に富むフィルタの提供など)に合わせて適宜調整でき、0.1~10質量%であることができ、0.5~8質量%であることができ、1~5質量%であることができる。
【0046】
抗ウイルス剤は粘着剤中に混合されていても良いが、粘着剤を備えたフィルタの表面に抗ウイルス剤が担持されていてもよい。抗ウイルス剤を混合した粘着剤を布帛へ付与してなるフィルタであることによって、更に、粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が、より脱落し難い。また、粘着剤を備えたフィルタの表面に抗ウイルス剤が付与されてなるフィルタであることによって、抗ウイルス剤の効果が効率良く発揮されたフィルタを提供できる。
【0047】
本発明の粘着剤はポリブテンを含有している。ポリブテンは、その捕集対象物を粘着する機能によって、フィルタから粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が脱落するのを防止する役割を担う。
【0048】
ポリブテンは粘性を有するオレフィン系樹脂であり、側鎖にエチル基を有する。そして、その化学構造に伴い、主鎖はねじれらせん構造を成している。そのため、ポリブテンは外部からの応力に対し柔軟に変形可能であり、高い耐ストレスクラック性を示す。
【0049】
その結果、本発明にかかるフィルタの使用中や交換時に、フィルタへ力が作用した場合であっても、粘着剤がポリブテンを含んでいることにより粘着剤に亀裂が発生し難いことで、粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が、より脱落し難いフィルタを提供できると考えられる。また、ポリブテンは安全性が高く、フィルタを素手で取り扱った場合でも人体へ影響を与え難いという、副次的な効果を奏する。そのため、本発明によって、安全性の高いフィルタを提供できる。
【0050】
ポリブテンの平均分子量は適宜調整できるが、例えば960~3000であることができ、1260~2300であることができる。
【0051】
粘着剤の質量中に含まれている抗ウイルス剤の質量とポリブテンの質量の比率は、適宜調整する。粘着剤の質量中に含まれているポリブテンの質量を100とした場合、粘着剤の質量中に含まれている抗ウイルス剤の質量は、1~50であることができ、3~30であることができ、5~10であることができる。
【0052】
フィルタの、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定するものではないが、より初期圧力損失が低く捕集性に優れると共に、濾過性能を長期間維持し易いフィルタを提供できるよう、また、粘着剤および粘着剤に保持されている捕集対象物が、より脱落し難いフィルタを提供し易いよう、適宜調整できる。厚さは、3~50mmであることができ、5~40mmであることができ、10~30mmであることができる。目付は、20~500g/mであることができ、50~400g/mであることができ、80~300g/mであることができる。
【0053】
本発明にかかるフィルタは単体で使用できるが、プレフィルター層やバックフィルター層を備える積層フィルタとして使用しても良い。このとき、プレフィルター層やバックフィルター層を構成する部材は適宜選択でき、例えば、布帛や多孔フィルムなどを使用することができる。
【0054】
また、本発明にかかるフィルタは平板状で使用できるが、プリーツ折やコルゲート折などの加工やエッジバンドを付与する加工、帯電処理や親水化処理などの二次加工を施し使用してもよい。また、本発明にかかるフィルを枠などに収めたフィルタユニットの態様で使用してもよい。
【実施例0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
(不織布の用意)
芯鞘型複合熱接着繊維(芯部:ポリプロピレン、鞘部:ポリエチレン)からなるカードウエブを調製し、加熱処理することによって繊維間接着されてなる不織布(目付:200g/m、厚み:20mm)を調製した。
【0057】
(比較例1)
以下の組成を有する水系分散液(濃度:43.0質量%)を用意した。
・ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム[ROCOCH(ROCOCH)SONa;Rの炭素数は7]及びオレイン酸カリウム(RCOOK;Rの炭素数は17)を含んだ抗ウイルス剤(液体形状、水系分散液に占める濃度:1.3質量%)
・エチレン-酢酸ビニル共重合体の分散液(水系分散液に占める固形分濃度:34.2質量%)
・難燃剤(水系分散液に占める固形分濃度:7.5質量%)
そして、水系分散液中へ不織布を1分間浸漬した後、マングルロールで絞り不要な水系分散液を除き、熱風加熱(加熱温度:130℃)することにより乾燥し、不織布全体に抗ウイルス剤とエチレン-酢酸ビニル共重合体および難燃剤が混合してなる粘着剤を備えてなるフィルタ(目付:280g/m、厚さ:18mm、フィルタが含む前記粘着剤の質量:80g/m)を調製した。
なお、粘着剤に含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体は、粘着剤に粉じんを保持させる役割も担う。
【0058】
(実施例1)
エチレン-酢酸ビニル共重合体の分散液に替え、ポリブテン分散液(平均分子量:2,300、水系分散液に占める固形分濃度:34.2質量%)を配合した水系分散液(濃度:43.0質量%)を用意した。
そして、当該水系分散液を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、不織布全体に抗ウイルス剤とポリブテンおよび難燃剤が混合してなる粘着剤を備えてなるフィルタ(目付:280g/m、厚さ:18mm、フィルタが含む前記粘着剤の質量:80g/m)を調製した。
なお、粘着剤に含まれるポリブテンは、粘着剤に粉じんを保持させる役割も担う。
【0059】
上述のようにして調製した比較例1のフィルタを空調装置に設ける際、フィルタから粘着剤の脱落が認められた。次いで、空調装置を作動させ比較例1のフィルタへ大気中の粉じんを捕集させた後、空調装置から使用済みのフィルタを取り外した。その際、フィルタから粘着剤および粉じんを保持している粘着剤の脱落が認められた。
【0060】
一方、上述のようにして調製した実施例1のフィルタを空調装置に設ける際、フィルタから粘着剤の脱落は認められなかった。次いで、空調装置を作動させ実施例1のフィルタへ大気中の粉じんを捕集させた後、空調装置から使用済みのフィルタを取り外した。その際、フィルタから粘着剤および粉じんを保持している粘着剤の脱落は認められなかった。
【0061】
以上から、本発明によって、抗ウイルス剤によって捕集対象物に付着しているウイルスの活性を低下可能であると共に、粘着剤がポリブテンを含んでいることによってフィルタから捕集対象物が脱落するのをより防止可能なフィルタを提供できることが判明した。
また、フィルタから抗ウイルス剤を含んだ粘着剤が脱落し難いため、ウイルスの活性を低下させる機能が低下するのを防止可能なフィルタを提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のフィルタは、例えば、食品や医療品の生産工場用途、精密機器の製造工場用途、農作物の室内栽培施設用途、一般家庭用途あるいは病院やオフィスビルなどの産業施設用途、空気清浄機用途やOA機器用途などの電化製品用途、自動車や航空機などの各種車両用途において、気体フィルタや液体フィルタとして好適に使用できる。