(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167463
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】タイヤ用シーラント材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20221027BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221027BHJP
B60C 19/12 20060101ALI20221027BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20221027BHJP
B29C 73/16 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C09K3/10 A
B60C1/00 Z
B60C19/12 Z
B29D30/06
B29C73/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073259
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】齋木 丈章
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
【テーマコード(参考)】
3D131
4F213
4F215
4H017
【Fターム(参考)】
3D131AA60
3D131BA18
3D131BB01
3D131BC24
3D131LA13
3D131LA28
4F213AA45
4F213WA95
4F213WM05
4F213WM15
4F213WM35
4F215AH20
4F215VA01
4F215VC03
4H017AA03
4H017AB07
4H017AC17
4H017AD02
4H017AE01
(57)【要約】
【課題】汎用ゴムを用いた場合であっても良好なシール性を確保することを可能にしたタイヤ用シーラント材の製造方法を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材組成物を加硫してなるタイヤ用シーラント材を製造するにあたって、未加硫のシーラント材組成物を加硫する加硫工程と、未加硫のシーラント材組成物の構成成分のうちの少なくともゴム成分を120℃以上の温度条件で混練してゴム成分中のゴム分子を切断する切断工程とを行い、切断工程を加硫工程の前および/または加硫工程と同時に行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材組成物を加硫してなるタイヤ用シーラント材の製造方法であって、未加硫の前記シーラント材組成物を加硫する加硫工程と、未加硫の前記シーラント材組成物の構成成分のうちの少なくとも前記ゴム成分を120℃以上の温度条件で混練して前記ゴム成分中のゴム分子を切断する切断工程とを含み、前記切断工程を前記加硫工程の前および/または前記加硫工程と同時に行うことを特徴とするタイヤ用シーラント材の製造方法。
【請求項2】
前記タイヤ用シーラント材の複素粘度が、前記切断工程を経ずに製造された同成分からなるシーラント材の複素粘度の70%以下であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用シーラント材の製造方法。
【請求項3】
前記切断工程を前記加硫工程の前に120℃以上の温度条件で行う場合に、前記切断工程では未加硫の前記シーラント材組成物の構成成分の一部を混練し、前記切断工程で混練される未加硫の前記シーラント材組成物の構成成分の一部に占める前記ゴム成分の割合が50質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用シーラント材の製造方法。
【請求項4】
前記ゴム成分が天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用シーラント材の製造方法。
【請求項5】
前記シーラント材組成物において、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部~140質量部のオイルが配合されたことを特徴とする請求項4に記載のタイヤ用シーラント材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の製造方法により前記タイヤ用シーラント材を調製し、このタイヤ用シーラント材を用いてトレッド部の内表面にシーラント層を形成することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えたセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層を構成するタイヤ用シーラント材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このような空気入りタイヤでは、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
【0003】
上述したセルフシールタイプの空気入りタイヤに用いられるシーラント材は、上述のように貫通孔内に流入するために低粘度であることが求められる。また、シーラント材は、タイヤ内面に貼付されるため、且つ、貫通孔を効果的に塞ぐために、粘着性を有することも求められる。そのため、シーラント材は、例えばブチルゴムを主成分とシーラント材組成物で構成される(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、ブチルゴムは他の汎用ゴム(天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムなど)と比較すると高価であるため、これら汎用ゴムを用いてシーラント材を構成することも検討されている。
【0004】
しかしながら、前述の汎用ゴムを用いる場合、シーラント材として求められる物性(低粘度かつ粘着性)を確保するには、シーラント材組成物に多量の軟化剤(例えばオイル)を配合する必要があり、生産性が悪化する(例えば、軟化剤を投入する工程に要する時間が大幅に延長する)ことが懸念される。そのため、汎用ゴムを用いたシーラント材において、軟化剤の量を抑制しながら、シーラント材として十分な程度まで粘度を低減して、貫通孔を塞ぐ性能(シール性)を良好に確保するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006‐152110号公報
【特許文献2】特開2019‐163399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、汎用ゴムを用いた場合であっても良好なシール性を確保することを可能にしたタイヤ用シーラント材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用シーラント材の製造方法は、ジエン系ゴムをゴム成分の主成分として含有するシーラント材組成物を加硫してなるタイヤ用シーラント材の製造方法であって、未加硫の前記シーラント材組成物を加硫する加硫工程と、未加硫の前記シーラント材組成物の構成成分のうちの少なくとも前記ゴム成分を120℃以上の温度条件で混練して前記ゴム成分中のゴム分子を切断する切断工程とを含み、前記切断工程を前記加硫工程の前および/または前記加硫工程と同時に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発明者は、軟化剤(例えばオイル)の量を増加させる以外の方法でタイヤ用シーラント材の粘度を低減するための製造方法について鋭意研究した結果、加硫時または加硫前にゴム成分を混練することで、ゴム分子を切断することができ、それにより、軟化剤の量を増加させることなく、タイヤ用シーラント材の粘度を低減できることを知見した。また、このようにゴム分子を切断した場合に得られたタイヤ用シーラント材は、軟化剤の量を増加させた場合よりも、良好なシール性を発揮する(特に、低温環境下でのシール性が良化する)ことを知見した。本発明は、この知見に基づいて、未加硫のシーラント材組成物の構成成分のうちの少なくともゴム成分を混練してゴム成分中のゴム分子を切断する切断工程を設け、この切断工程を加硫工程の前に120℃以上の温度条件で行うか、加硫工程と同時に行っているので、タイヤ用シーラント材の粘度を効果的に低減することができる。その結果、本発明の製造方法で製造されたタイヤ用シーラント材を用いたタイヤでは、室温および低温環境下において良好なシール性を発揮することができる。
【0009】
本発明の製造方法においては、タイヤ用シーラント材の複素粘度が、切断工程を経ずに製造された同成分からなるシーラント材の複素粘度の70%以下であることが好ましい。これにより、タイヤ用シーラント材の粘度を効果的に低減することができ、室温および低温環境下において良好なシール性を発揮することができる。
【0010】
本発明の製造方法においては、切断工程を加硫工程の前に120℃以上の温度条件で行う場合に、切断工程では未加硫のシーラント材組成物の構成成分の一部を混練し、切断工程で混練される未加硫のシーラント材組成物の構成成分の一部に占めるゴム成分の割合を50質量%以上にすることが好ましい。これにより、タイヤ用シーラント材の粘度を効果的に低減することができ、室温および低温環境下において良好なシール性を発揮することができる。
【0011】
本発明の製造方法においては、ゴム成分が天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また。本発明の製造方法においては、シーラント材組成物において、ゴム成分100質量部に対して20質量部~140質量部の軟化剤が配合されることが好ましい。
【0012】
上述の製造方法で製造されるタイヤ用シーラント材は、トレッド部の内表面にシーラント層を備えた空気入りタイヤ(所謂セルフシールタイヤ)に用いることができる。その際、上述の製造方法によりタイヤ用シーラント材を調製し、このタイヤ用シーラント材を用いてトレッド部の内表面にシーラント層を形成することで空気入りタイヤを製造することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本発明の製造方法によって製造されるタイヤ用シーラント材が用いられる空気入りタイヤ(セルフシールタイプの空気入りタイヤ)は、例えば
図1に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
【0016】
図1の例において、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5およびビードフィラー6の廻りに車両内側から外側に折り返されている。ビードフィラー6はビードコア5の外周側に配置され、カーカス層の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0017】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には、少なくとも1層のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、カーカス層の外周側に隣接して配置された内側ベルト層7aを必ず含み、任意で図示の例のように、内側ベルト層7aの外周側に隣接して配置された外側ベルト層7bを設けることができる。各ベルト層7(内側ベルト層7a、外側ベルト層7b)は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。トレッド部1におけるベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。図示の例では、ベルト層7の全幅を覆うフルカバー層とフルカバー層の更に外周側に配置されてベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層の2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含み、この有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0018】
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
【0019】
図1に示すように、トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側には、シーラント層10が設けられている。特に、走行時に釘等の異物が刺さる可能性がある領域、即ち、トレッド部1の接地領域に対応するタイヤ内面にシーラント層10は設けられる。特に、最小ベルト層7aの幅よりも広い範囲にシーラント層10を設けるとよい。本発明のシーラント材組成物は、このシーラント層10に用いられる。シーラント層10は、上述の基本構造を有する空気入りタイヤの内表面に貼付されるものであり、例えば釘等の異物がトレッド部1に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層10を構成する粘着性のタイヤ用シーラント材が流入し、貫通孔を封止することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。
【0020】
シーラント層10は、例えば2.0mm~5.0mmの厚さを有する。この程度の厚さを有することで、シール性を良好に確保しながら、走行時のシーラントの流動を抑制することができる。また、シーラント層10をタイヤ内面に貼付する際の加工性も良好になる。シーラント層10の厚さが2.0mm未満であると充分なシール性を確保することが難しくなる。シーラント層10の厚さが5.0mmを超えるとタイヤ重量が増加して転がり抵抗が悪化する。尚、ここで言う「シーラント層10の厚さ」とは平均厚さである。
【0021】
シーラント層10は、加硫済みの空気入りタイヤの内面に後から貼り付けることで形成することができる。例えば、後述の製造方法によって製造されたタイヤ用シーラント材をシート状に加硫成型してタイヤ内表面の全周に亘って貼付したり、紐状または帯状に加硫成型してタイヤ内表面に螺旋状に貼付することでシーラント層10を形成することができる。或いは、加硫済みのシーラント材を150℃~180℃に加熱し、軟化してペースト状になったシーラント材を塗布機から紐状に押し出されたものをタイヤ内面に螺旋状に塗布(貼付)することでシーラント層10を形成することもできる。前述のように、タイヤ用シーラント材は加硫(架橋)されているものを用いるとよい。即ち、予め加硫(架橋)されたタイヤ用シーラント材は変形が生じにくいので、シーラント層10としてタイヤ内面に設置した後であっても、走行に伴う変形や流動が発生しにくくなる。
【0022】
本発明は、主として、上述のセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10を構成するタイヤ用シーラント材の製造方法に関するものであるので、空気入りタイヤの基本構造や、シーラント層10の構造は上述の例に限定されない。
【0023】
タイヤ用シーラント材の製造方法では、一般的に、各種材料を混練機(ニーダー)に順次投入・混練した後、所定の温度で加硫(加硫工程)が行われる。各種材料は、混練機に投入される段階別に、ゴム成分、粉系配合剤(カーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸など)、軟化剤(オイル、DOP(ジオクチルフタレートなどの可塑剤)、液状ゴム、液状ポリマー、熱可塑性樹脂など)、加硫系配合剤(硫黄、加硫促進剤、加硫助剤など)に大別される。これら材料は、通常、ゴム成分、粉系配合剤、軟化剤、加硫系配合剤の順に混練機に投入される。尚、軟化剤は、全量を一度に投入されず、少量ずつ分割して投入される。
【0024】
本発明では、ゴム成分はジエン系ゴムを主成分とする。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムの群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。タイヤ用シーラント材を構成するゴム成分として、ブチルゴムが用いられることがあるが、本発明は、低コスト化のために、ブチルゴムではなく上述のジエン系ゴム(汎用ゴム)を用いるものである。これらゴムは単独または組み合わせて用いることができる。後述の分子切断の観点から、これらゴムのなかでも、特に、天然ゴム、イソプレンゴムを好適に用いることができる。逆に、スチレンブタジエンゴムやブタジエンゴムは後述の分子切断がしにくい傾向があるので、天然ゴムまたはイソプレンゴムと併用することが好ましい。勿論、スチレンブタジエンゴムやブタジエンゴムを単独で使用することもできる。
【0025】
上述の汎用ゴムを用いる場合、従来の製造方法では、シーラント材として求められる物性(低粘度かつ粘着性)を確保するには、シーラント材組成物に多量の軟化剤(例えばオイル)を配合する必要があったが、後述の本発明の製造方法を採用することで、軟化剤の量を低減することができる。具体的には、本発明のシーラント材組成物では、軟化剤(オイル)は、ゴム成分100質量部に対して20質量部~140質量部、好ましくは60質量部~100質量部が配合される。後述の本発明の製造方法を採用すれば、軟化剤の配合量が前述の範囲であっても、シーラント材として求められる物性(低粘度かつ粘着性)を確保することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、未加硫のシーラント材組成物の構成成分のうちの少なくともゴム成分を120℃以上の温度条件で混練する切断工程が行われる。言い換えると、タイヤ用シーラント材の製造方法においては上述のように、各種材料が順次投入されるので、少なくともゴム成分が混練機に投入された状態で、温度条件を120℃以上に設定して混練機に投入された成分を混練するか、或いは、撹拌熱で120℃以上まで昇温した状態で混練機に投入された成分を混練することで切断工程が行われる。この切断工程では、120℃以上の温度で、未加硫のシーラント材組成物の構成成分のうちの少なくともゴム成分が混練されることで、ゴム成分中のゴム分子が切断されるので、タイヤ用シーラント材の粘度を低減することができる。このような切断工程を導入することで、軟化剤の量を増加させることなく、ゴム分子の切断によって、タイヤ用シーラント材の低粘度化を達成することができる。また、このようにゴム分子を切断した場合に得られたタイヤ用シーラント材は、軟化剤の量を増加させた場合よりも、良好なシール性を発揮する(特に、低温環境下でのシール性が良化する)ことができる。
【0027】
切断工程は、加硫工程の前に行うか、加硫工程と同時に行うことができる。更に、加硫工程の前に切断工程を行ったうえで、更に加硫工程と同時に切断工程を行うこともできる。切断工程を加硫前に行う場合は、少なくともゴム成分が混練機に投入された状態で、投入された材料を120℃以上、好ましくは130℃~180℃に加熱して混練することにより、切断工程を行うとよい。一方、切断工程を加硫と同時に行う場合は、投入された材料は加硫温度(120℃以上、好ましくは140℃~180℃)まで加熱・混練されるため、切断工程のための加熱を別途行う必要はない。
【0028】
切断工程を加硫工程の前に行う場合、各種材料(ゴム成分、粉系配合剤、軟化剤)のすべてを投入する前、つまり、未加硫のシーラント材組成物の構成成分の一部のみが投入された状態で、切断工程を行うとよい。この場合、切断工程で混練される未加硫のシーラント材組成物の構成成分の一部に占めるゴム成分の割合を50質量%以上、好ましくは50質量%~90質量%にするとよい。言い換えると、切断工程において混練される未加硫のシーラント材組成物の構成成分の一部において、ゴム成分以外に投入されている材料がゴム成分と同量以下であることが好ましい。この状態で切断工程を行うことで、ゴム成分中のゴム分子を確実に切断することができ、タイヤ用シーラント材の粘度を低減するには有利になる。前述のように、ゴム成分、粉系配合剤、軟化剤、加硫系配合剤の順に材料が混練機に投入されることや、軟化剤の量がゴム成分と同程度であることを踏まえると、切断工程は、ゴム成分および粉系配合剤が投入された段階で行うことが好ましい。
【0029】
いずれの場合も、切断工程においては、温度条件、混練時間、混練機の回転数や剪断力の調整によって、ゴム成分中のゴム分子の切断の度合(即ち、製造されるタイヤ用シーラント材の粘度)を調整することができる。例えば、切断工程を加硫前に行う場合は、温度条件を130℃~180℃、混練時間を20分~120分、混練機の回転数を20rpm~80rpmに設定することが好ましい。また、切断工程を加硫と同時に行う場合は、温度条件(加硫温度)を140℃~180℃、混練時間(加硫時間)を30分~120分、混練機の回転数を20rpm~60rpmに設定することが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によって製造されたタイヤ用シーラント材の複素粘度は、切断工程を経ずに製造された同成分からなるシーラント材の複素粘度の好ましくは70%以下、より好ましくは40%~60%であるとよい。これにより、タイヤ用シーラント材を十分に低粘度化することができる。尚、本発明において「複素粘度」とは、動的粘弾性測定装置を用いて、25mmφパラレルプレート、試料厚さ1.5mm、周波数1Hz、歪0.1%、30℃の温度条件で測定した値である。
【0031】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0032】
表1~2に記載の組成からなるシーラント材組成物を調製した。具体的には、0.6Lのニーダー(東洋精機社製)に、表1~2に記載される材料を、ゴム成分(天然ゴム、スチレンブタジエンゴム)、粉系配合剤(カーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸)、軟化剤(オイル)、加硫系配合剤(硫黄、加硫促進剤)の順に投入・混練し、次いで、加硫工程を行うことにより、各シーラント材組成物を調整した。このとき、表1~2の配合比で、ニーダーの容量の60~70%となる量を計算比重から求め、投入・混練を実施する。このとき、加硫前に行われる切断工程の有無およびその条件(混練温度、混練時間、混練機の回転数)、加硫と同時に行われる切断工程の有無およびその条件(混練温度(加硫温度)、混練時間(加硫時間)、混練機の回転数)を表1~2に記載のように変化させて比較例1~2、実施例1~11のシーラント材を得た。尚、加硫前に切断工程を行った例では、切断工程は、上述の材料のうち天然ゴム、カーボンブラック、亜鉛華、ステアリン酸を投入した段階で行った。加硫と同時に切断工程を行わない例では、表1~2に記載の条件(加硫温度および加硫時間)で一般的なプレス加硫を行った。
【0033】
表1~2には、各シーラント材の複素粘度を併せて記載した。複素粘度は、動的粘弾性測定装置を用いて、25mmφパラレルプレート、試料厚さ1.5mm、周波数1Hz、歪0.1%、30℃の温度条件で測定した。
【0034】
各シーラント材を、
図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作し、下記の試験方法により、室温におけるシール性(表中の「シール性(20℃)」)と、低温環境下におけるシール性(表中の「シール性(-15℃)」)を評価し、その結果を表1~2に併せて示した。
【0035】
シール性(20℃)
各試験タイヤをリムサイズ20×8.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、室温環境下で、初期空気圧250kPa、荷重8.5kNの条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で2時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0036】
シール性(-15℃)
各試験タイヤを温度-15℃の条件で24時間冷却した後、リムサイズ20×8.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kN、温度-15℃の条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で-15℃環境下に2時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0037】
【0038】
【0039】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、SIR20
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol SBR1502
・オイル:出光興産社製ダイアナプロセスNM280
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストV
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・硫黄:鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーDM‐PO
【0040】
表1~2から明らかなように、実施例1は、同配合で切断工程を行わない比較例1と比較して、室温におけるシール性を良好に維持しながら、低温環境下におけるシール性を改善した。また、比較例1に対してゴム成分を天然ゴムのみとし、且つ、オイル量を減少し、切断工程を行わなかった比較例2では、シール性が著しく悪化したのに対して、比較例2と同配合で切断工程を行った実施例2~11は、比較例1,2と比較して、室温および低温環境下の両方において優れたシール性を発揮した。