(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167482
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】液卵代替組成物及び加熱凝固物
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20221027BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23J3/00 508
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073288
(22)【出願日】2021-04-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆久
(72)【発明者】
【氏名】白石 敦士
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD37
4B042AE08
4B042AK05
4B042AK06
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK13
4B042AP02
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】外観と食感の両方に優れた加熱凝固物を調製できる液卵代替組成物を提供する。
【解決手段】本発明の液卵代替組成物は、アーモンドの抽出タンパク質およびカードランを含有する液卵代替組成物であって、前記アーモンドタンパク質の含有量が1質量%以上15質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーモンドの抽出タンパク質およびカードランを含有する液卵代替組成物であって、
前記アーモンドの抽出タンパク質の含有量が1質量%以上15質量%以下である、
液卵代替組成物。
【請求項2】
カードランの含有量が1質量%以上8質量%以下である、
請求項1記載の液卵代替組成物。
【請求項3】
3質量%以上15質量%以下の脂質をさらに含有する
請求項1又は2に記載の液卵代替組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の液卵代替組成物を用いて調製した、
加熱凝固物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液卵代替組成物及びその加熱凝固物に関する。
【背景技術】
【0002】
液卵を加熱凝固させたスクランブルエッグ等の卵調理品は、卵独特のコク深い風味、及び鮮やかな色彩等から、好んで食されてきた。一方で、近年は、健康への配慮や、植物性食品への嗜好の高まり等から、卵を使用せずに植物性タンパク質を使用した様々な液卵代替組成物が開発されている。
【0003】
特許文献1には、精製緑豆タンパク質単離物を含む卵代用品であって、卵に類似する1つまたは複数の官能特性を有することを特徴とする卵代用品が記載されている。
特許文献2には、精製小豆タンパク質単離物を含む卵代用品であって、卵に類似する1つまたは複数の官能特性を有することを特徴とする卵代用品が記載されている。
特許文献3には、大豆蛋白素材と酸化澱粉を含むことを特徴とする、卵代替用の粉末組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-509036号公報
【特許文献2】特表2019-505226号公報
【特許文献3】特開2018-038318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、植物タンパク質を含有する液卵代替組成物を用いて、スクランブルエッグや炒り卵等のそぼろ状の加熱凝固物を調製しようとすると、加熱凝固物が適度な大きさのそぼろ状にならない等、スクランブルエッグ様や炒り卵様のそぼろ状の外観になり難いという問題があった。また、植物タンパク質のざらつきが感じられるなど食感の問題もあり、外観と食感の両方に優れた加熱凝固物を調製できる液卵代替組成物を得ることは難しかった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、外観と食感の両方に優れた加熱凝固物を調製できる液卵代替組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アーモンドの抽出タンパク質とカードランを組み合わせて用いることにより、外観と食感の両方にすぐれたスクランブルエッグ等の加熱凝固物を調製できる液卵代替組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)アーモンドの抽出タンパク質およびカードランを含有する液卵代替組成物であって、
前記アーモンドの抽出タンパク質の含有量が1質量%以上15質量%以下である、
液卵代替組成物、
(2)カードランの含有量が1質量%以上8質量%以下である、(1)記載の液卵代替組成物、
(3)3質量%以上15質量%以下の脂質をさらに含有する、(1)又は(2)に記載の液卵代替組成物、
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の液卵代替組成物を用いて調製した、加熱凝固物、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外観と食感の両方に優れた加熱凝固物を調製できる液卵代替組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
<液卵代替組成物>
本発明の液卵代替組成物は、卵を含有しない又は卵を少量含有する液卵代替組成物であって、アーモンドの抽出タンパク質を1質量%以上15質量%以下及びカードランを含有することを特徴とする。 本発明の液卵代替組成物は、液卵同様に加熱することで本物のスクランブルエッグや炒り卵等の加熱凝固卵に近い外観、食感を有する加熱凝固物を調製することができる。
「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、前記鳥類の卵由来の原料を、液卵代替組成物中に5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下含有することをいう。
【0012】
<液卵>
本発明において、液卵とは、一般に食用に供される鳥類の卵を割卵して得られた液卵白と液卵黄を均一に混合した未加熱の液卵をいう。
液卵は、加熱凝固性を有するため、加熱凝固卵として喫食されることが多い。そのため、液卵の代替物としては、液卵と同等の加熱凝固性を有し、かつ加熱凝固物の食感が加熱凝固卵に近いことが求められる。また、調理に用いやすいことから液卵と同等の流動性を有することが望ましい。
【0013】
<加熱凝固卵>
本発明において、加熱凝固卵とは、液卵の加熱凝固物を意味する。加熱凝固卵としては、例えば、スクランブルエッグ、オムレツ、卵焼き、炒り卵、薄焼き卵、錦糸卵、及びこれらを含む調理品等が挙げられる。
【0014】
<加熱凝固物>
本発明の加熱凝固物とは、本発明の液卵代替組成物の加熱凝固物をいう。当該加熱凝固物は、上記液卵代替組成物をフライパン、湯煎、その他の適当な方法で加熱して、凝固(ゲル化)させたものである。本発明の加熱凝固物は、加熱凝固卵の代替物として用いることができる。
【0015】
<アーモンドの抽出タンパク質>
本発明の液卵代替組成物は、アーモンドの抽出タンパク質を含有することを特徴とする。アーモンドの抽出タンパク質とは、アーモンドから抽出されたタンパク質をいう。アーモンドの抽出タンパク質は、最適な水への溶解性を有する。すなわち、水への溶解性が低いため、カードランによるゲルネットワークの形成を阻害せずに、そぼろ状の加熱凝固物を調製することができる。一方で、わずかに水に溶解するため、タンパク質粉末のざらつきを感じにくく、食感に優れた加熱凝固物が得られる。さらに、色調の点においても、白色をベースとした淡色の色調を有する。これにより、褐色、黒色又は灰色等の濃色の色調を有する他の植物タンパク質と比較して、加熱凝固卵に近い黄色の色調を再現しやすくなる。さらに、アーモンドの抽出タンパク質は、素材特有の臭いが少ない。これにより、加熱凝固卵の風味により近い加熱凝固物が得られやすい。
このように、本発明の液卵代替組成物は、液卵の代替物として求められる加熱凝固性及び流動性、並びに、加熱凝固卵の代替物として求められる、ざらつきのない食感、淡色の色調及び良好な風味、の全ての性質を兼ね備えている。したがって、本発明によれば、加熱凝固卵を製するための液卵の代替物として、より優れた特性を有する液卵代替組成物を得ることができる。
【0016】
<アーモンドの抽出タンパク質の含有量>
本発明の液卵代替組成物は、上記アーモンドの抽出タンパク質を1質量%以上15質量%以下含有する。アーモンドの抽出タンパク質が前記範囲未満の場合、加熱凝固物を調製しても、加熱時に適度な大きさのそぼろ状にならない。また、アーモンドの抽出タンパク質が前記範囲より多い場合、アーモンドの抽出タンパク質のざらつきが感じられる。また流動性が低下し、調理に使いにくくなる。
また、本発明の液卵代替組成物は、加熱後により優れた外観、食感の加熱凝固物が得られやすいことから、上記アーモンドの抽出タンパク質を2質量%以上10質量%以下含有するとよく、3質量%以上7質量%以下含有するとよりよい。なお、前記アーモンドの抽出タンパク質の割合は、アーモンドから抽出されたタンパク質のみの割合を指し、アーモンドから抽出されたタンパク質以外の成分は含まない。
【0017】
<カードラン>
本発明においてカードランとは、β-1,3グルコシド結合を主体とした加熱凝固性多糖類の総称であり、例えば、Alcaligenes faecalis var.myxogenes菌類によって生産される多糖類が挙げられる。カードランは、市販されているので市販品を用いればよい。本発明の液卵代替組成物に含まれるカードランの割合は特に限定しないが、外観および食感に優れた加熱凝固物を得られやすいことから1質量%以上8質量%以下であることができ、さらに2質量%以上7質量%以下であるとよい。
【0018】
<脂質>
本発明の液卵代替組成物は、3質量%以上15質量%以下の脂質をさらに含有しているとよい。これにより、液卵代替組成物の組成を液卵の組成により近づけられるとともに、加熱後に、加熱凝固卵に近いコクが感じられやすくなる。また、本発明の液卵代替組成物は、脂質を4質量%以上含んでいるとよく、12質量%以下含んでいるとよく、さらに10質量%以下含んでいるとよい。
本発明の液卵代替組成物は、脂質の含有量を上記範囲に調整する観点から、食用油脂を含有しているとよい。食用油脂としては、例えば、動植物油及びこれらの精製油、化学的又は酵素的処理を施して得られた油脂等が挙げられる。動植物油としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、卵黄油等が挙げられる。化学的又は酵素的処理を施して得られた油脂としては、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等が挙げられる。これらの食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
<その他の原料>
本発明の液卵代替組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、醤油、食塩、胡椒、アミノ酸等の調味料類、グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、澱粉類、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖エタノール等の糖類、グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、保存料、酸化防止剤、香料等が挙げられる。
【0020】
<液卵代替組成物の製造方法>
本発明の液卵代替組成物の製造方法は、例えば、アーモンドの抽出タンパク質及びカードランを準備する工程と、当該アーモンドの抽出タンパク質が1質量%以上15質量%以下となるように液卵代替組成物を調製する工程と、を含む。
【0021】
<アーモンドの抽出タンパク質の準備工程>
本工程では、市販のアーモンドの抽出タンパク質を購入する、又は常法に従ってアーモンドからタンパク質を抽出する、等の方法により、アーモンドの抽出タンパク質を準備する。
タンパク質の抽出方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。まず、必要に応じて、アーモンドの前処理を行う。前処理としては、例えば、アーモンドを粉砕して粉体化してもよい。あるいは、粉体化しない場合は、粉砕等したアーモンドを水等に浸漬させてもよい。続いて、アーモンドからタンパク質を溶出する。タンパク質の溶出には、例えば水酸化ナトリウム等を含むアルカリ性の溶出液を用いることができる。その後、必要に応じて不溶物を除去し、溶出液に溶解したタンパク質を沈殿させる。タンパク質の沈殿には、塩酸等の酸を用いることができる。そして、遠心分離又は濾過等によって沈殿物を回収した後、必要に応じて沈殿物を中和することで、アーモンドのタンパク質が得られる。
なお、抽出されたタンパク質に対し、必要に応じて、ゲル化性を高めるためのトランスグルタミナーゼ処理等の酵素処理を行うこともできる。
【0022】
<調製工程>
本工程では、アーモンドの抽出タンパク質と、カードランと、水と、その他の原料と、を攪拌して混合し、液卵代替組成物を調製する。アーモンドの抽出タンパク質は、1質量%以上15質量%以下となるように調製される。
なお、調製工程後、必要に応じて、加熱殺菌工程を行うこともできる。
以上により、本発明の液卵代替組成物が製造される。
【0023】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【実施例0024】
<試験例1:植物タンパク質の検討>
表1に記載の配合で、各種植物原料から抽出したタンパク質を含有する液卵代替組成物を調製した。具体的には、ゲル化剤をあらかじめ水に混合し、ヒスコトロンで5分撹拌して分散させた。その後植物タンパク質を溶解させ、最後に大豆油とレシチンを添加して同じくヒスコトロン1分間乳化し、液卵代替組成物を調製した。調製した液卵代替組成物を約170℃に加熱したフライパンで加熱し、スクランブルエッグ様の加熱凝固物を調製した。加熱凝固物の外観及び食感を下記基準で評価した。結果を表1に示した。
【0025】
[外観の評価基準]
A:ゲルがばらけたそぼろ状になり、スクランブルエッグと同等の外観であった
B:そぼろ状のゲル同士が全体的にまとまりとなったが、スクランブルエッグに近い外観であった。
C:ゲルがひとまとまりのペースト状になり、スクランブルエッグとは異なる外観であった
【0026】
[食感の評価基準]
A:ざらつきがなく、良好な食感であった。
B:若干ざらつきを感じたが、特に気にならない程度であった。
C:ざらつきが感じられ、好ましくない食感であった。
【0027】
【0028】
表1に示すように、植物タンパク質としてアーモンドから抽出したタンパク質を用いることにより、外観および食感に優れた加熱凝固物が得られることが分かった。
【0029】
<試験例2:タンパク質含有量についての検討>
アーモンドの抽出タンパク質含量を、表2に記載の割合に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例2~9、比較例6の液卵代替組成物を調製した。調製した各液卵代替組成物を用い、試験例1と同じ方法でスクランブルエッグ様の加熱凝固物を調製し、外観及び食感を評価した。結果を表2に示した。
【0030】
【0031】
表2に示すように、アーモンドから抽出したタンパク質を1質量%以上15質量%以下含有することにより、外観および食感に優れた加熱凝固物が得られることが分かった。
また、タンパク質濃度が2質量%以上7質量%以下である実施例2乃至7の液卵代替組成物は、流動性が高く、スクランブルエッグの調製がしやすかった。
さらに、タンパク質濃度が3質量%以上7質量%以下の液卵代替組成物で調製したスクランブルエッグは、ゲルの状態がより本物のスクランブルエッグに近く好ましかった。
【0032】
<試験例3:ゲル化剤の検討>
カードランをジェランガム又は寒天に変更した以外は実施例1と同様の方法で、比較例7又は8の液卵代替組成物を調製した。調製した各液卵代替組成物を用い、試験例1と同じ方法でスクランブルエッグ様の加熱凝固物を調製し、外観及び食感を評価した。
その結果、比較例7又は8の液卵代替組成物で調製した加熱凝固物は、ざらつきは感じられなかったが、ひとまとまりのペーストになりスクランブルエッグ様の外観にならなかった。
【0033】
<試験例4:カードラン濃度の検討>
カードランの含有量を表3に記載の割合に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例10~14、比較例9の液卵代替組成物を調製した。調製した各液卵代替組成物を用い、試験例1と同じ方法でスクランブルエッグ様の加熱凝固物を調製し、外観及び食感を評価した。結果を表3に示した。
【0034】
【0035】
表3に示すように、カードランを1質量%以上8質量%以下含有することにより、外観および食感に優れた加熱凝固物が得られることが分かった。
【0036】
[実施例15]
大豆油を3%に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例15の液卵代替組成物を調製した。
【0037】
[実施例16]
大豆油を7%に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例16の液卵代替組成物を調製した。
【0038】
実施例15及び16の液卵代替組成物を用い、試験例1と同じ方法でスクランブルエッグ様の加熱凝固物を調製し、外観及び食感を評価した結果、いずれもA評価で良好な結果であった。