(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167516
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】蓋装置および容器減圧方法
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A01N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073349
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】笠松 寛央
(72)【発明者】
【氏名】吉本 周平
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011CA01
4H011CB05
4H011CC01
(57)【要約】
【課題】器官などの生体組織が収容される容器を適切に減圧することができる技術を提供する。
【解決手段】蓋装置3は、生体組織9が収容される容器2を密閉する装置である。蓋装置3は、蓋本体部31と、シール部材33と、排気用ポート41とを備える。蓋本体部31は、容器2の開口を塞ぐ。シール部材33は、蓋本体部31における容器2に面する側に固定されている。シール部材33は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2の周縁部25と接触しつつ、当該周縁部25と蓋本体部31との間の隙間をシールする。排気用ポート41は、蓋本体部31に配置されている。排気用ポート41は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2内のエアが容器2外へ向かう排出流路を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織が収容される容器を密閉する蓋装置であって、
前記容器の開口を塞ぐ蓋本体部と、
前記蓋本体部の前記容器に面する側に固定されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器の周縁部と接触しつつ、前記容器の周縁部と前記蓋本体部との間の隙間をシールするシール部材と、
前記蓋本体部に配置されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内のエアが前記容器外へ向かう排出流路を構成する排気用ポートと、
を備える、蓋装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓋装置であって、
前記排気用ポートは、前記容器内へエアが逆流することを防止する逆止弁を有する、蓋装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓋装置であって、
前記排気用ポートは、エアを濾過するフィルタを有する、蓋装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蓋装置であって、
前記排気用ポートに接続され、前記容器内のエアを、前記排気用ポートを通じて外部に排出する排気部、
をさらに備える、蓋装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蓋装置であって、
前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内の圧力を検出する圧力センサ、
をさらに備える、蓋装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蓋装置であって、
前記蓋本体部は、前記容器に面する側とは反対の側に突出する形状を有する、蓋装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の蓋装置であって、
前記蓋本体部に配置され、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内に収容された前記生体組織内を流れる灌流液を通過させるための灌流用ポート、
をさらに備える、蓋装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の蓋装置であって、
前記シール部材は、平面視において、環状を有し、
前記シール部材の幅が、前記容器の前記周縁部の幅よりも大きい、蓋装置。
【請求項9】
容器減圧システムであって、
生体組織が収容される容器と、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の蓋装置と、
を備える、容器減圧システム。
【請求項10】
容器減圧方法であって、
a)生体組織が収容された容器を準備する工程と、
b)前記工程a)の後、前記容器の開口を蓋装置で塞ぐ工程と、
c)前記工程b)の後、前記容器内のエアを前記容器外へ排出する工程と、
を含み、
前記蓋装置は、
前記容器の開口を塞ぐ蓋本体部と、
前記蓋本体部の前記容器に面する側に固定されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた場合に、前記容器の周縁部と接触しつつ、前記容器の周縁部と前記蓋本体部との間の隙間をシールするシール部材と、
前記蓋本体部に配置されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内のエアが前記容器外へ向かう排出流路を構成する排気用ポートと、
を備え、
前記工程b)は、前記シール部材を前記容器の周縁部に接触させる工程を含み、
前記工程c)は、前記排気用ポートを通じて前記容器内のエアを前記容器外へ排出する工程である、容器減圧方法。
【請求項11】
請求項10に記載の容器減圧方法であって、
前記工程c)は、前記容器内の圧力を0~-30mmHgとする工程を含む、容器減圧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋装置および容器減圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓などの器官の移植手術では、ドナーから摘出された器官が、レシピエントへ移植するまでの間、一時的に体外で保存される。その際、器官内の血管に灌流液を流しつつ器官を保存する、いわゆる灌流保存が行われる場合がある。この灌流保存により、移植後の生着率を改善できることが報告されている。
【0003】
器官に灌流液を流す技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヒトの腹腔内器官における静脈血液の循環は、押し圧と、陰圧とによって実現されていることが知られている。押し圧は、具体的には、心臓ポンプによる圧力、および、下肢の筋収縮による血管の外圧などに由来する。また、陰圧は、呼吸により腹腔構成筋群(特に横隔膜)が上下することで生じる。
【0006】
移植用に摘出した器官が置かれる環境を、生体内の環境に近づけるためには、上記のような圧力の変動環境を構築することが望ましいと考えられる。特に、器官に対して減圧を行うことにより、血管の拡張作用を期待できる。したがって、摘出された器官を、簡易的に減圧できる機構を開発することは、移植医療の観点から重要である。しかしながら、従来技術では、器官などの生体組織を収容した容器を減圧することについて、何ら検討されていない。
【0007】
本発明の目的は、器官などの生体組織が収容される容器を適切に減圧することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1態様は、生体組織が収容される容器を密閉する蓋装置であって、前記容器の開口を塞ぐ蓋本体部と、前記蓋本体部の前記容器に面する側に固定されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器の周縁部と接触しつつ、前記容器の周縁部と前記蓋本体部との間の隙間をシールするシール部材と、前記蓋本体部に配置されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内のエアが前記容器外へ向かう排出流路を構成する排気用ポートとを備える。
【0009】
第2態様は、第1態様の蓋装置であって、前記排気用ポートは、前記容器内へエアが逆流することを防止する逆止弁を有する。
【0010】
第3態様は、第1態様または第2態様の蓋装置であって、前記排気用ポートは、エアを濾過するフィルタを有する。
【0011】
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれか1つの蓋装置であって、前記排気用ポートに接続され、前記容器内のエアを、前記排気用ポートを通じて外部に排出する排気部をさらに備える。
【0012】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか1つの蓋装置であって、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内の圧力を検出する圧力センサをさらに備える。
【0013】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれか1つの蓋装置であって、前記蓋本体部は、前記容器に面する側とは反対の側に突出する形状を有する。
【0014】
第7態様は、第1態様から第6態様のいずれか1つの蓋装置であって、前記蓋本体部に配置され、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内に収容された前記生体組織内を流れる灌流液を通過させるための灌流用ポートをさらに備える。
【0015】
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1つの蓋装置であって、前記シール部材は、平面視において、環状を有し、前記シール部材の幅が、前記容器の前記周縁部の幅よりも大きい。
【0016】
第9態様は、容器減圧システムであって、生体組織が収容される容器と、第1態様から第8態様のいずれか1項に記載の蓋装置とを備える。
【0017】
第10態様は、容器減圧方法であって、a)生体組織が収容された容器を準備する工程と、b)前記工程a)の後、前記容器の開口を蓋装置で塞ぐ工程と、c)前記工程b)の後、前記容器内のエアを前記容器外へ排出する工程と、を含み、前記蓋装置は、前記容器の開口を塞ぐ蓋本体部と、前記蓋本体部の前記容器に面する側に固定されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた場合に、前記容器の周縁部と接触しつつ、前記容器の周縁部と前記蓋本体部との間の隙間をシールするシール部材と、前記蓋本体部に配置されており、前記蓋本体部が前記容器に付けられた状態で、前記容器内のエアが前記容器外へ向かう排出流路を構成する排気用ポートと、を備え、前記工程b)は、前記シール部材を前記容器の周縁部に接触させる工程を含み、前記工程c)は、前記排気用ポートを通じて前記容器内のエアを前記容器外へ排出する工程である。
【0018】
第11態様は、第10態様の容器減圧方法であって、前記工程c)は、前記容器内の圧力を0~-30mmHgとする工程を含む。
【発明の効果】
【0019】
第1態様の蓋装置によると、シール部材が容器の周縁部と蓋本体部との間の隙間をシールするため、生体組織が収容された容器を密閉できる。また、排気用ポートを介して容器内のエアを容器外へ排出することにより、生体組織が収容された容器を適切に減圧できる。
【0020】
第2態様の蓋装置によると、排気用ポートが逆止弁を有するため、エアが容器内へ逆流することを抑制できる。
【0021】
第3態様の蓋装置によると、排気用ポートがフィルタを有するため、容器内が汚染されることを抑制できる。
【0022】
第4態様の蓋装置によると、排気部が容器内のエアを排出することによって、容器内を減圧できる。
【0023】
第5態様の蓋装置によると、圧力センサで容器内の圧力を検出することによって、容器内を適切な圧力にすることができる。
【0024】
第6態様の蓋装置によると、蓋本体部が容器とは反対側に突出する形状を有するため、蓋本体部と容器とで形成される、生体組織を収容する空間を大きくすることができる。
【0025】
第7態様の蓋装置によると、蓋本体部に配置された灌流用ポートを通じて、容器内に収容された生体組織内に灌流液を流すことができる。
【0026】
第8態様の蓋装置によると、シール部材が環状であり、シール部材の幅が、容器の周縁部の幅よりも大きいため、容器の周縁部の全周に対して、シール部材を容易に当接させることができる。
【0027】
第9態様の容器減圧方法によると、シール部材が容器の周縁部と蓋本体部との間の隙間をシールするため、生体組織が収容された容器を密閉できる。また、排気用ポートを介して容器内のエアを容器外へ排出することにより、生体組織が収容された容器を適切に減圧できる。
【0028】
第10態様の容器減圧方法によると、シール部材が容器の周縁部と蓋本体部との間の隙間をシールするため、生体組織が収容された容器を密閉できる。また、排気用ポートを介して容器内のエアを容器外へ排出することにより、生体組織が収容された容器を適切に減圧できる。
【0029】
第11態様の容器減圧方法によると、保存に適した圧力下で生体組織を保存できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態に係る容器減圧システムを示す図である。
【
図2】
図1に示す容器減圧システムの蓋本体部における容器に面する側を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0032】
図1は、実施形態に係る容器減圧システム1を示す図である。
図1に示すように、容器減圧システム1は、容器2と、蓋装置3とを備える。容器減圧システム1は、生体組織9が収容された容器2内を減圧するシステムである。容器2内に収容される生体組織9は、人の器官(例えば、肺臓、心臓、脾臓、肝臓、腎臓、大腸、小腸、胃、胆、膀胱、三焦などの内臓を含む。)、または、人の組織(例えば、上皮組織、筋肉組織、脂肪組織または神経組織)である。また、生体組織9は、人以外の動物(マウスまたはラットなどの齧歯類、ブタ、ヤギ、またはヒツジなどの有蹄類、チンパンジーなどの非ヒト霊長類、その他の非ヒトほ乳動物、または、非ほ乳動物)の器官または組織であってもよい。
【0033】
容器減圧システム1は、例えば移植を目的として、ドナーから取り出した肝臓などをレシピエントに移植するまでの間、生体外で一時的に保存する場合に適用可能である。また、容器減圧システム1は、生体外で組織を培養する場合にも適用可能である。
【0034】
<容器2>
容器2は、生体組織9を内部に収容する部材である。
図1に示すように、容器2は、円板状の底部21と、当該底部21の周縁部から上方向に延びる円筒状の筒部23とを有する。また、容器2は、筒部23の上端に位置し、円形状の開口を形成する環状(ここでは、円環状)の周縁部25を有する。なお、容器2の筒部23が円筒状であることは必須では無い。また、容器2の開口が円形状であることも必須ではなく、楕円形状や長円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0035】
<蓋装置3>
図2は、
図1に示す容器減圧システム1の蓋本体部31における容器2に面する側を示す平面図である。蓋装置3は、生体組織9が収容される容器2を密閉する装置である。後述するように、蓋装置3は、容器2を密閉した状態で、容器2内を減圧することが可能である。
図1に示すように、蓋装置3は、蓋本体部31と、シール部材33と、排気用ポート41とを備える。
【0036】
以下の説明では、蓋本体部31の中心を通り、蓋本体部31の厚さ方向に延びる軸を「中心軸Q1」と称する。
図1に示すように、蓋本体部31が容器2に付けられた状態において、容器2は、蓋本体部31に対して、軸方向の一方に配置される。また、容器2の周縁部25は、中心軸Q1のまわりに配置される。以下では、軸方向一方を下方とし、軸方向他方を上方とする。また、中心軸Q1と直交する方向を径方向と称する。また、中心軸Q1に向かう径方向の一方を「径方向内方」と称し、中心軸Q1から離れる径方向の他方を「径方向外方」と称する。
【0037】
蓋本体部31は、容器2の開口を塞ぐ部材である。
図1に示すように、蓋本体部31は、断面視において、中央部が上方に突出する形状である。本例では、蓋本体部31は、弧状である。蓋本体部31は、下面が凹に上面が凸に形成された板状である。
図2に示すように、蓋本体部31は、平面視において、円形状である。
図1に示すように、蓋本体部31の径方向における外寸W1(ここでは、外径)は、容器2の周縁部25の径方向の外寸W21(ここでは、外径)よりも大きい。
【0038】
蓋本体部31が上側に突出する形状を有するため、蓋本体部31と容器2とで形成される、生体組織9を収容するための空間を大きくすることができる。また、容器2内を減圧した状態における蓋本体部31の耐圧性を向上させることができる。
【0039】
なお、蓋本体部31が弧状であることは必須ではない。例えば、蓋本体部31は、平板状であってもよい。また、蓋本体部31は、中央部が下側に突出する形状であってもよい。
【0040】
図2に示すように、蓋本体部31の外周部には、一対の把手部35が配置されている。一対の把手部35は、対向配置されている。ユーザは、一対の把手部35を把持することによって、蓋本体部31を持ち運びできる。また、蓋装置3が、容器2を密閉しつつ容器2内を減圧した場合、ユーザは、一対の把手部35を把持することによって、蓋本体部31とともに容器2を持ち運びできる。
【0041】
シール部材33は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2の周縁部25と接触しつつ、容器2の周縁部25と蓋本体部31との間の隙間をシールする部材である。シール部材33は、好ましくは、弾性材料で構成される。シール部材33は、例えば、シリコーンゴム、または、ウレタンゴムなどゴムで構成される。シール部材33は、容器2の周縁部25の形状に合わせて弾性的に変形することにより、周縁部25に密着する。これにより、容器2の周縁部25と蓋本体部31との間の隙間がシールされる。
【0042】
図2に示すように、シール部材33は、蓋本体部31の下面に配置されている。シール部材33は、蓋本体部31の容器2に面する側に配置されている。シール部材33は、例えば、接着剤を介して蓋本体部31に固定されている。なお、シール部材33の固定方法は、接着剤に限定されるものではない。例えば、シール部材33は、蓋本体部31に設けられた溝に圧入されることによって、蓋本体部31に固定されてもよい。
【0043】
図2に示すように、シール部材33は、平面視において、環状(ここでは、円環状)であって、板状である。また、
図1に示すように、シール部材33は、蓋本体部31の下面に沿う形状を有する。
【0044】
図2に示すように、シール部材33の外周部333の径方向における外寸W31(ここでは、外径)は、容器2の周縁部25の外寸W21よりも大きい(W31>W21)。また、シール部材33の内周部331の径方向における内寸W32(ここでは、内径)は、容器2の周縁部25の径方向における内寸W22(ここでは、内径)よりも小さい(W32<W22)。さらに、シール部材33の径方向の幅W33(=W31-W32)は、周縁部25の径方向の幅W23(=W21-W22)よりも大きい(W33>W23)。シール部材33の各寸法がこのように設定されることによって、容器2の周縁部25に、シール部材33を当接させることが容易となる。また、周縁部25の全周をシール部材33に当接させることができるため、シール部材33によって容器2と蓋本体部31との間の隙間を有効にシールできる。
【0045】
移植医療の現場では、器官を収容する容器2として、市販のボウルが利用される場合がある。市販のボウルは、多種多様であり、開口の周縁部(開口部)の大きさはボウル毎に異なり得る。そこで、シール部材33の大きさ(特に幅W33)をできるだけ大きくすることにより、ボウル毎に開口の大きさが異なっていたとしても、1種類の蓋装置3で各ボウルを良好に密閉できる。
【0046】
図2に示すように、蓋本体部31の下面のうち、シール部材33で覆われた領域の面積は、好ましくは、シール部材33で覆われていない領域の面積よりも大きい。このように、蓋本体部31におけるシール部材33で覆われた領域の面積を大きくすることによって、容器2の開口の大きさが変更された場合であっても、同じ蓋装置3で容器2を密閉できる。
【0047】
排気用ポート41は、蓋本体部31に配置されている。排気用ポート41は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2内のエアが容器2外へ向かう排出流路を構成する。
【0048】
図1および
図2に示すように、排気用ポート41は、シール部材33の内周部331よりも内側(径方向内方)に配置されている。排気用ポート41は、蓋本体部31の中央に配置されている。排気用ポート41は、一対の把手部35の中間に配置されている。排気用ポート41が中央に配置されていることによって、容器2内を均一に減圧できる。なお、排気用ポート41が中央部に配置されていることは必須ではない。
【0049】
図1に示すように、排気用ポート41は、フィルタ413を有する。フィルタ413は、排気用ポート41の排気流路内のエアを濾過する機能を有する。排気用ポート41にフィルタ413が配置されていることによって、排気用ポート41を介して容器2内に流入するエアを浄化できる。
【0050】
図1に示すように、蓋装置3は、減圧器43を有する。減圧器43は、容器2内を減圧する装置である。減圧器43は、排気用ポート41の排出口に接続される。減圧器43は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2内のエアを、排気用ポート41を通じて容器2外に排出する。減圧器43は、例えば、真空ポンプである。減圧器43は、排出部の一例である。
【0051】
減圧器43は、好ましくは、排気用ポート41に対して着脱可能であり、ユーザが片手で持ち運び可能なハンディタイプである。ただし、減圧器43は、一定の場所に設置されて使用されるものであってもよい。
【0052】
図1に示すように、蓋装置3は、圧力センサ51を有する。圧力センサ51は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2内の圧力を検出する。圧力センサ51は、蓋本体部31に対して、下側(容器2に面する側)に配置されている。
図1に示すように、圧力センサ51は、電線53を介して、容器2外に配置されたディスプレイ55と接続されている。ディスプレイ55は、圧力センサ51が出力する圧力値を表示する。圧力センサ51が検出した圧力値がディスプレイ55に表示されることによって、容器2内の圧力を、ユーザが容易に確認できる。
図1に示すように、蓋本体部31は、電線用ポート57を有する。電線用ポート57は、電線53が挿入される孔を形成している。電線用ポート57は、シール部材33の内周部331よりも内側(径方向内方)に配置されている。
【0053】
図1および
図2に示すように、蓋装置3は、供給用ポート61と、回収用ポート63とを有する。供給用ポート61および回収用ポート63は、蓋本体部31に配置されている。
図2に示すように、供給用ポート61および回収用ポート63は、シール部材33の内周部331よりも内側(径方向内方)に配置されている。
【0054】
供給用ポート61は、容器2内に配置された生体組織9に灌流液を供給するための供給口を構成している。回収用ポート63は、生体組織9内を通った灌流液を回収するための回収口を構成している。
【0055】
供給用ポート61および回収用ポート63は、それぞれ、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、容器2内に収容された生体組織9内を流れる灌流液を通過させるための灌流用ポートの一例である。
【0056】
図1に示すように、容器減圧システム1は、灌流装置7を備えている。灌流装置7は、容器2内に収容されている生体組織9に灌流液を流すための装置である。灌流装置7は、供給タンク71と、回収タンク73と、給液管75と、回収管77とを備える。
【0057】
供給タンク71は、生体組織9に供給される灌流液を貯留する容器である。回収タンク73は、生体組織9から回収される灌流液を貯留する容器である。灌流液は、例えば、ETK液、UW液などである。供給タンク71には、温度調整機構711やガス交換機構713が接続されていてもよい。温度調整機構711は、供給タンク71内に貯留される灌流液の温度を調整する。ガス交換機構713は、供給タンク71に貯留される灌流液に、酸素等の気体を供給して、当該気体を灌流液に溶解させる。なお、温度調整機構711およびガス交換機構713が、供給タンク71に取り付けられていることは必須ではない。温度調整機構711およびガス交換機構713は、例えば、給液管75に接続されていてもよい。
【0058】
給液管75は、供給タンク71から生体組織9へ送られる灌流液の流路を構成している。給液管75の一端は、供給タンク71に接続されている。給液管75は、蓋本体部31の供給用ポート61に挿入される。給液管75の他端は、容器2内に収容された生体組織9に接続される。生体組織9が肝臓である場合、給液管75の他端は、例えば、肝臓の門脈に接続される。
【0059】
給液管75の途中には、ポンプ751が配置されている。ポンプ751は、給液管75内に圧を掛けることによって、供給タンク71から生体組織9へ向かって灌流液を圧送する。なお、供給タンク71内に圧力を印加することによって、供給タンク71から生体組織9へ灌流液が送られてもよい。
【0060】
回収管77は、生体組織9から回収タンク73へ送られる灌流液の流路を構成している。回収管77の一端は、生体組織9に接続される。生体組織9が肝臓である場合、回収管77の一端は、肝臓の静脈(肝上部下大静脈(SH-IVC)または肝下部下大静脈(IH-IVC))に接続される。回収管77は、蓋本体部31の回収用ポート63に挿入される。回収管77の他端は、回収タンク73に接続されている。なお、回収管77の途中に、生体組織9から回収タンク73へ灌流液を圧送するポンプが配置されていてもよい。
【0061】
回収タンク73に回収された灌流液は、適宜廃棄されてもよい。また、回収タンク73に回収された灌流液は、フィルタなどで濾過された後、供給タンク71に戻されてもよい。また、回収タンク73は、省略されてもよい。この場合、回収管77の他端が、供給タンク71に接続されることによって、生体組織9を通過した灌流液が、供給タンク71に還流するようにしてもよい。
【0062】
<蓋装置3の使用例>
次に、蓋装置3の使用例について説明する。
【0063】
まず、
図1に示すように、生体組織9を収容した容器2が準備される。続いて、容器2内の生体組織9に対して、給液管75および回収管77がそれぞれ接続される。そして、容器2内の生体組織9に給液管75および回収管77が接続された状態で、ポンプ751が駆動される。これによって、供給タンク71の灌流液が生体組織9に供給されるとともに、生体組織9から回収タンク73へ灌流液が回収される。
【0064】
生体組織9に給液管75および回収管77が接続されると、容器2の開口が蓋装置3の蓋本体部31で塞がれる。このとき、
図1に示すように、蓋本体部31の下面側のシール部材33が、容器2の周縁部25の全周に当接される。
【0065】
容器2の開口が蓋本体部31で塞がれると、蓋装置3の減圧器43が駆動される。そうすると、容器2内のエアが容器2外へ排出されることによって、容器2内が減圧される。これにより、生体組織9内の血管が広がるため、血管の流路抵抗が下がる。したがって、生体組織9内の血管に、灌流液を良好に流すことができる。例えば、生体組織9が肝臓である場合、容器2内の圧力値が0~-30mmHgとなるように、減圧器43で減圧が行われる。
【0066】
なお、減圧器43が、容器2からエアを排出することと、排出を停止することとを交互に行うことによって、容器2内の気圧が、大気圧未満である低圧の状態と、高圧(例えば、大気圧)の状態とに、周期的に遷移するようにしてもよい。このような減圧動作により、容器2内において、生体内と同様に、圧力が変動する環境を構築できる。これにより、生体組織9を、生体内に近い環境に置くことができる。生体組織9内に灌流液を流す場合、灌流液が生体組織9内を適切に流れることによって、生体組織9の保存または培養を適切に行うことができる。
【0067】
蓋装置3は、減圧器43を制御する制御部を備えていてもよい。制御部は、CPUなどのプロセッサ、RAM、および、補助記憶装置などで構成されるコンピュータとしてもよい。補助記憶装置にインストールされたプログラムに従って、プロセッサが動作することによって、減圧器43が制御される。なお、制御部は、圧力センサ51と電気的に接続されていてもよい。また、制御部は、圧力センサ51が出力する圧力値に基づき、容器2内の圧力が目標値に近づくように減圧器43を制御してもよい。
【0068】
以上のように、蓋装置3によれば、シール部材33が容器2の周縁部25に当接することによって、蓋本体部31と容器2との間の隙間がシールされる。これにより、容器2内を有効に減圧できる。したがって、生体組織9を、低圧環境下に置くことができる。また、容器2内が減圧されることによって、容器2内の滅菌性を担保できる。また、容器2が減圧されることによって、容器2内の液体が容器2外に飛散することを低減できる。
【0069】
また、排気用ポート41がフィルタ413を有するため、容器2内がエアで汚染されることを抑制できる。
【0070】
また、減圧器43が容器2内のエアを容器2外へ排出することによって、容器2内を減圧できる。
【0071】
また、圧力センサ51が容器2内の圧力を検出することによって、容器2内を適切な圧力に制御できる。
【0072】
なお、排気用ポート41は、逆止弁を有していてもよい。逆止弁は、蓋本体部31が容器2に付けられた状態で、排気用ポート41内の排気流路を流れるエアが、容器2内へ逆流することを防止する弁である。逆止弁を設けることによって、減圧器43により、容器2内のエアを容器2外へ排出する場合に、容器2内を効率的に減圧できる。
【0073】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 容器減圧システム
2 容器
3 蓋装置
9 生体組織
25 周縁部
31 蓋本体部
33 シール部材
41 排気用ポート
43 減圧器
51 圧力センサ
61 供給用ポート
63 回収用ポート
413 フィルタ