(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167528
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】通信システム
(51)【国際特許分類】
H04L 12/28 20060101AFI20221027BHJP
B60R 16/023 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H04L12/28 400
B60R16/023 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073374
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】羅 炯竣
(72)【発明者】
【氏名】古田 善一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓祐
(72)【発明者】
【氏名】根塚 智裕
【テーマコード(参考)】
5K033
【Fターム(参考)】
5K033DA11
5K033EA03
5K033EA07
5K033EC01
(57)【要約】
【課題】マスタからデイジーチェーン接続されている複数のスレーブに対して送信する信号の時間差を、極力短くできる通信システムを提供する。
【解決手段】デイジーチェーン接続される制御ユニット6及び各駆動部11は、それぞれ絶縁通信回路13及び14を備える。制御ユニット6は、計測期間において各駆動部11のそれぞれに行ったパルス信号の送信に対する応答時間から制御ユニット6-各駆動部11間の通信遅延時間をそれぞれ計測すると、各通信遅延時間に基づいて各駆動部11に対し、それぞれが出力する信号のタイミングを等しくするためのシフト時間を伝達する。各駆動部11は、制御ユニット6より信号の出力を指示する指令を受信するとシフト時間が経過した時点で信号を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信デバイスであるマスタ(6)と複数のスレーブ(11)とがデイジーチェーン接続された状態で互いに通信を行う通信システムにおいて、
前記マスタ及びスレーブは、絶縁通信回路(13,14)を備え、
前記マスタは、計測期間において、前記スレーブのそれぞれに行った送信に対する応答時間からマスタ-スレーブ間の通信遅延時間をそれぞれ計測し、
計測した各通信遅延時間に基づいて、各スレーブに対し、それぞれが出力する信号のタイミングを等しくするためのシフト時間を伝達し、
各スレーブは、前記マスタより信号の出力を指示する指令を受信すると、前記シフト時間が経過した時点で信号を出力する通信システム。
【請求項2】
前記マスタは、起動すると、前記複数のスレーブに、それぞれを識別するための識別データを送信して設定する請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記スレーブは、直流電力を交流電力に変換する電力変換回路(4,33)を構成する複数のスイッチング素子(10,32)に、駆動信号を出力する請求項1又は2記載の通信システム。
【請求項4】
前記マスタは、前記複数のスレーブのそれぞれに送信する駆動指令を、空間ベクトル法により生成し、
前記空間ベクトル法の制御周期の冒頭に、当該制御周期内における前記駆動信号のレベル値と各レベル値の継続時間とを送信し、
各スレーブは、受信した前記レベル値及び前記継続時間に基づいて、それぞれのスイッチング素子に駆動信号を出力する請求項3記載の通信システム。
【請求項5】
各スレーブは、前記駆動指令を受信すると、センシングにより得られた各種の状態データを前記駆動指令に付加してから次の通信デバイスに送信する請求項4記載の通信システム。
【請求項6】
前記スレーブは、前記計測期間における前記マスタへの応答を、当該マスタからの送信を受信した方向に折り返して送信する請求項1から5の何れか一項に記載の通信システム。
【請求項7】
前記スレーブは、クロック周波数が調整可能な発振回路と、この発振回路が出力するクロック信号によりカウント動作を行うカウンタとを備え、
前記マスタは、前記複数のスレーブに対して同期信号を送信し、
各スレーブは、前記同期信号の出力時間を前記カウンタによりカウントし、そのカウント値が所定値となるように前記クロック周波数を調整する請求項1から6の何れか一項に記載の通信システム。
【請求項8】
前記マスタは、最初に位置するスレーブに対して信号を送信した時点から、前記送信に対する最後に位置するスレーブからの応答があるまでの総遅延時間を計測してモニタしており、
前記総遅延時間が計測済みの値から変化すると、その変化率に応じて、前記シフト時間を補正する請求項1から7の何れか一項に記載の通信システム。
【請求項9】
前記マスタは、前記複数のスレーブの何れかの間で通信の途絶が発生したことを検出すると、最後に位置するスレーブからも通信を開始する経路を構成する請求項1から8の何れか一項に記載の通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信デバイスであるマスタと複数のスレーブとがデイジーチェーン接続された状態で互いに通信を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1では、電気自動車における車両の駆動源であるモータを、車輪を構成するホイールの内周側に配置した所謂インホイールモータが提案されている。また、特許文献2には、各車輪に配置されているモータを独立に制御するため、各モータに対応して駆動回路であるインバータを備えたものが開示されている。更に、特許文献3には、各モータに対応したインバータについても、モータと共にインホイール構造としたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-166544号公報
【特許文献2】特開2009-207235号公報
【特許文献3】米国特許9073424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献3のような構造を想定すると、インバータを制御するユニットであるECU(Electronic Control Unit)は、各車輪に配置されているインバータを構成する複数のスイッチング素子に、それぞれ駆動信号を送信することになる。その場合、ECUから各車輪までの配線距離が長くなるため、各駆動信号間に発生する遅延時間の差も大きくなる。
【0005】
そして一般に、各スイッチング素子に与える駆動信号には、上下アーム間の短絡を防止するため、上下アームのスイッチング素子を同時にオフするデッドタイムを設けている。インホイール構造のインバータにおいて、駆動信号間に発生する遅延時間のばらつきが増大すれば、それに応じてデッドタイムをより長く設定する必要がある。
【0006】
しかしながら、デッドタイムを長く設定すると、モータで発生する損失が増加したり、低速域でのトルク変動やコギングの発生,ベクトル制御における電流ゼロクロス点でのゲイン低下などモータ制御性の劣化に繋がる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、マスタからデイジーチェーン接続されている複数のスレーブに対して送信する信号の時間差を、極力短くできる通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の通信システムによれば、マスタ及び複数のスレーブは、それぞれ絶縁通信回路を備える。マスタは、計測期間において、スレーブのそれぞれに行った送信に対する応答時間からマスタ-スレーブ間の通信遅延時間をそれぞれ計測すると、各通信遅延時間に基づいて、各スレーブに対し、それぞれが出力する信号のタイミングを等しくするためのシフト時間を伝達する。そして、各スレーブは、マスタより信号の出力を指示する指令を受信すると、前記シフト時間が経過した時点で信号を出力する。
【0009】
このように構成すれば、マスタと複数のスレーブとの間の配線距離が長いため、マスタが送信した信号を複数のスレーブが受信するタイミングにばらつきが生じたとしても、各スレーブが、それぞれに伝達されたシフト時間の経過後に信号を出力することで、その出力タイミングを同期させることができる。
【0010】
請求項2記載の通信システムによれば、マスタは、起動すると、複数のスレーブに、それぞれを識別するための識別データを送信して設定する。このように構成すれば、システムによって、デイジーチェーン接続されるスレーブの数が異なる場合でも、各スレーブを容易に識別できる。
【0011】
請求項3記載の通信システムによれば、スレーブは、直流電力を交流電力に変換する電力変換回路を構成する複数のスイッチング素子に駆動信号を出力するので、例えばインバータのような電力変換回路に対して、上下アーム間の短絡を防止するために設定するデッドタイムを極力短く設定することができる。これにより、駆動効率の低下や制御性の劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態であり、制御ユニットと各駆動部とをデイジーチェーン接続した構成を示す図
【
図2】2つの絶縁通信回路間におけるより詳細な接続構成を示す図
【
図3】
図4に示すシステム構成をより詳細に示す機能ブロック図
【
図4】電気自動車におけるシステム構成を概略的に示す機能ブロック図
【
図5】電源投入時のシステム動作を示すフローチャート
【
図8】各ICが行うクロック周波数の補正を説明する図
【
図9】IC間における通信遅延時間の計測処理を説明する図
【
図11】各ICが指令シフトを行うことでゲート駆動信号を出力するタイミングを同期させる処理を説明する図
【
図12】第2実施形態であり、制御ユニットが各駆動部に送信する駆動指令の具体例を示す図
【
図14】第3実施形態であり、制御ユニットが各駆動部に送信する駆動指令の具体例を示す図
【
図16】第4実施形態であり、合計遅延時間の補正処理を示すフローチャート
【
図17】合計遅延時間の計測処理を示すフローチャート
【
図19】第5実施形態であり、空間電圧ベクトルを示す図
【
図20】セクタ1の1キャリア周期における3相信号の一例を示す図
【
図22】第6実施形態であり、駆動指令データパケットの空き領域に各駆動部がセンシングした情報を付加する処理を説明する図
【
図23】第7実施形態であり、IC3-IC4間で通信途絶が発生した状態を示す図
【
図24】制御ユニットが行う処理を示すフローチャート
【
図25】第8実施形態であり、制御ユニットにおける絶縁通信回路の配置に関するバリエーションを示す図
【
図26】第9実施形態であり、駆動部における絶縁通信回路の配置に関するバリエーションを示す図
【
図27】第10実施形態であり、制御ユニットと駆動部とを各相毎にデイジーチェーン接続した構成を示す図
【
図28】各ICが指令シフトを行うことでゲート駆動信号を出力するタイミングを同期させる処理を説明する図
【
図29】第11実施形態であり、3レベルインバータを示す図
【
図30】制御ユニットと3レベルインバータの駆動部とを各相毎にデイジーチェーン接続した構成を示す図
【
図31】第12実施形態であり、組電池に接続される電池監視装置に適用した場合を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図4に示すように、本実施形態の通信システムは、モータ及び当該モータを駆動するインバータがインホイール構造である電気自動車に適用する。
図4では、図示の都合上モータ及びインバータが車輪の外部にあるように示しているが、実際には、
図3に示すようにインホイール構造となっている。
【0014】
電気自動車1の車輪2Lに対応して、モータ3L及びインバータ4Lが配置されており、インバータ4Lはモータ3Lを駆動し、モータ3Lの回転軸は車輪2Lの車輪軸に取り付けられている。同様に、車輪2Rに対応して、モータ3R及びインバータ4Rが配置されている。インバータ4L及び4Rには、例えばリチウムイオン電池などの二次電池5より駆動電源が供給される。ECUである制御ユニット6は、インバータ4L及び4Rに対し、ケーブル7L及び7Rを介して駆動制御信号を出力する。尚、以下で述べる構成の説明で左右の区別をする必要が無い場合は、符号に「L,R」を付さずに示す。
【0015】
電力変換器の一例であるインバータ4は、主回路8と、ゲート駆動回路9とを備えている。主回路8は、スイッチング素子である例えばNチャネルMOSFET10を、3相ブリッジ接続して構成されている。ゲート駆動回路9は、6個のFET10に対応した駆動部11を備え、各駆動部11が対応するFET10にゲート駆動信号を出力する。各駆動部11は、通信機能を有するIC12を備えている。
【0016】
図1に示すように、制御ユニット6は絶縁通信回路13を備えており、各駆動部11のIC12も絶縁通信回路14を備えている。そして、絶縁通信回路13と絶縁通信回路14(1)~14(6)とは、通信ケーブルによってデイジーチェーン接続されている。
図2は、2つの絶縁通信回路として例えば回路13,14(1)間におけるより詳細な接続構成を示している。
【0017】
絶縁通信回路13,14は、それぞれ電源21,ゲートアレイ22,送受信回路23,保護回路24,フィルタ25及び絶縁素子26を備えている。そして、絶縁通信回路13,14(1)が備える絶縁素子26,26の間がケーブル7によって接続されている。制御ユニット6はマスタの一例であり、各駆動部11はスレーブの一例である。また、制御ユニット6及び各駆動部11は、通信デバイスの一例でもある。
【0018】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図5に示すように、車両のイグニッションスイッチ(IG)がONされて電源が投入されると、制御ユニット6は、各駆動部11の絶縁通信回路14に識別用のIDを付与する(S1)。これには、例えば特開2006-268254号公報や特開2011-181392号公報,WO2014/162765号公報等に開示されている公知技術を用いる。
【0019】
例えば
図7に示すように、絶縁通信回路13のIDをIC0とし、絶縁通信回路14(1)~14(6)は、デイジーチェーンの接続順に応じてIC1~IC6に設定する。IDデータは識別データに相当する。以下では、制御ユニット6及び各駆動部11を、それぞれが有する絶縁通信回路13,14(1)~14(6)のIDであるIC0~IC6で表記することがある。
【0020】
続いて、制御ユニット6は、IC0より各駆動部11に一定時間間隔のパルス信号を同期信号として連続して送信する(S2)。
図8に示すように、IC1~IC6は、受信した同期信号の立ち上がりエッジの間隔を、発振器が出力するクロック信号でカウントする(S3)。尚、発振器及びカウンタの機能は、ゲートアレイ22によるものである。
【0021】
各IC1~IC6は、クロックのカウント値が予め定められている狙い値であるか否かを判断する(S4)。カウント値が狙い値に一致しなければ(NO)、それぞれの発振器のクロック周期を変更してから(S5)ステップS3に戻る。カウント値が狙い値に一致すれば(YES)、それぞれの発振器のクロック周期をロックする(S6)。
【0022】
次に、ICのID番号を示すポインタNを「1」にセットすると(S7)、制御ユニット6は、IC0よりIC_Nにモノパルス信号を送信する(S8)。そのパルス信号を受信したIC_Nは、制御ユニット6にモノパルス信号を折り返して返信する(S9)。すなわちこの場合は、デイジーチェーンの下流側ではなく、上流側に信号を送信する。
【0023】
制御ユニット6は、IC_Nが折り返して返信したパルス信号を受信すると、自身がパルス信号を送信してから受信するまでの往復時間を計測しており、計測した時間の1/2を信号の遅延時間として記憶する(S10,
図9参照)。それから、ポインタNが「6」であるか否かを判断し(S11)、「6」でなければ(NO)ポインタNをインクリメントして(S12)ステップS8に戻る。以上のステップS8~S12が、計測期間に対応する。
【0024】
尚、上記の遅延時間を計測するに際しては、各IC1~IC6において、ゲート駆動信号を出力する回路までのレプリカ回路を用意することで、レプリカ回路において生じる信号の遅延時間を内部遅延として加味しても良い。
【0025】
ポインタNが「6」になると(YES)、制御ユニット6は、記憶したIC1~IC6の遅延時間から最も長い時間を抽出する(S13)。そして、IC1~IC6の各遅延時間と、最も長い遅延時間との差分を求めると、その差分時間を各駆動部11に送信する(S14)。各駆動部11は、それぞれ自分に該当する差分時間を記憶する(S15)。
図10に示す一例では、最も長い遅延時間はIC6の25μsであり、その遅延時間に対するIC1~IC6それぞれの差分時間は
[15μs,12μs,9μs,6μs,3μs,0]
となっている。
【0026】
そして、
図6に示すように、通常のモータを駆動制御する動作においては、制御ユニット6が各駆動部11に駆動指令を送信すると(S21)、各駆動部11は、それぞれの差分時間だけ、ゲート駆動信号を出力するタイミングをシフトさせる(S22)。これにより、各駆動部11は、全相を同じタイミングで駆動することになり、全相同時駆動となる(S23)。
図11は、全相同時駆動のイメージを示している。
【0027】
このように、インバータ4の主回路8を構成する各FET10に与えるゲート駆動信号の出力タイミングが同時になることで、上下アーム間の短絡を防止するためにデッドタイムを設ける必要がなくなる。
【0028】
以上のように本実施形態によれば、デイジーチェーン接続される制御ユニット6及び各駆動部11は、それぞれ絶縁通信回路13及び14を備える。制御ユニット6は、計測期間において、各駆動部11のそれぞれに行ったパルス信号の送信に対する応答時間から制御ユニット6-各駆動部11間の通信遅延時間をそれぞれ計測すると、各通信遅延時間に基づいて、各駆動部11に対し、それぞれが出力する信号のタイミングを等しくするためのシフト時間を伝達する。そして、各駆動部11は、制御ユニット6より信号の出力を指示する指令を受信すると、前記シフト時間が経過した時点で信号を出力する。
【0029】
このように構成すれば、制御ユニット6と各駆動部11との間の配線距離が長いため、制御ユニット6が送信した信号を複数の各駆動部11が受信するタイミングにばらつきが生じたとしても、各駆動部11が、それぞれに伝達されたシフト時間の経過後に信号を出力することで、その出力タイミングを同期させることができる。
【0030】
この場合、制御ユニット6は起動すると、各駆動部11に、それぞれを識別するためのIDデータを送信して設定する。このように構成すれば、システムによって、デイジーチェーン接続されるスレーブの数が異なる場合でも、各スレーブを容易に識別できる。
【0031】
そして、各駆動部11は、インバータ4の主回路8を構成する複数のFET10に駆動信号を出力するので、上下アーム間の短絡を防止するために設定するデッドタイムを設定する必要がなくなる。これにより、駆動効率の低下や制御性の劣化を防止できる。
【0032】
また、各駆動部11に、クロック周波数が調整可能な発振回路と、この発振回路が出力するクロック信号によりカウント動作を行うカウンタとを備え、制御ユニット6は、各駆動部11に対して同期信号を送信し、各駆動部11は、同期信号が出力される間隔時間をカウンタによりカウントし、そのカウント値が所定値となるようにクロック周波数を調整する。これにより、各駆動部11は、ゲート駆動信号を出力する際に、それぞれのシフト時間を正確に計測できる。従って、各ゲート駆動信号の出力タイミングを確実に同期させることができる。
【0033】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。第2実施形態は、制御ユニット6が各駆動部11に送信する駆動指令の具体例を示す。
図12及び
図13に示すように、PWM制御のキャリア周波数が例えば5kHzであり周期が200μsである場合に、200μs毎に駆動指令のデータを送信する。この場合、次の制御周期に駆動指令の送信がなければ、駆動部11は通信途絶の異常が発生したと判定し、シャットダウン等の保護動作を行うことができる。
【0034】
(第3実施形態)
第3実施形態は、第2実施形態と同様に駆動指令の送信パターンの具体例を示す。第3実施形態では、
図14及び
図15に示すように、3相の駆動指令のパターンに変化が生じた段階でデータを送信する。この場合、第2実施形態に比較して、通信レートを低減することができる。
【0035】
(第4実施形態)
第1実施形態において、
図10に示した通信遅延時間は、例えば温度等の環境条件に影響を受けて変化する可能性がある。そこで、第3実施形態では、遅延時間の計測を周期的に実行し、最初に計測した遅延時間を基準とする変化率が閾値を超えた場合に、各駆動部に送信する差分時間を更新する処理を行なう。
【0036】
図16に示すように、ステップS31~S33のループにおいて、ステップS31の合計遅延時間計測処理が周期的に実行される。
図17に示す合計遅延時間計測処理では、制御ユニット6は、IC0よりIC1にパルス信号を送信すると共に、時間計測,すなわちクロックカウントを開始する(S41,S42)。そのパルス信号を受信したIC_Nは、下流側のIC_N+1にパルス信号を転送する(S43)。尚、ステップS43~S46については制御ユニット6は関与せず、IC1~IC6側で行われる処理を示している。ステップS44で「YES」になると、IC6は、IC5から受信したパルス信号を制御ユニット6;IC0に送信する(S46)。制御ユニット6は、IC6が送信したパルス信号を受信すると時間計測を終了する(S47)。
【0037】
図16において、合計遅延時間計測処理からリターンすると、その計測処理が1回目の実施であれば(S32;YES)、制御ユニット6はその計測結果を開始時の値として,つまり合計遅延時間の初期値として記憶する(S33)。2回目以降の実施であれば(S32;NO)、今回の計測時間と開始時の計測時間との差を求め、その差が閾値を超えているか否かを判断する(S34)。ここでの閾値については、例えば開始時の計測値が50μsであれば、その10%未満値として3μsに設定する等すれば良い。両計測値との差が閾値以下であれば(NO)ステップS31に戻る。
【0038】
両計測値との差が閾値を超えていると(YES)、制御ユニット6は、開始時の計測時間に対する今回の計測時間の変化比率を求めて記憶する(S35)。そして、ステップS10で記憶していた各IC1~IC6の遅延時間に上記変化比率を乗じて、各遅延時間を更新する(S36)。
【0039】
続いて、制御ユニット6はステップS14と同様に、更新した値に基づいて、最も長い遅延時間とその他の遅延時間との差分を求めて各駆動部11に送信する(S37)。各駆動部11は、それぞれ自分に該当する差分時間を記憶する(S38)。それから、ステップS31に戻る。
【0040】
例えば
図18に示すように、合計遅延時間が開始時の値に対して10%増長した場合は、その変化比率に応じて各駆動部11に対応するシフト時間が更新される。
【0041】
以上のように第4実施形態によれば、制御ユニット6は、パルス信号を送信した時点から、デイジーチェーン接続の最後に位置する駆動部11(6)を介して前記パルス信号を受信するまでの合計遅延時間を計測してモニタしており、今回計測した合計遅延時間が計測済みの値から変化すると、その変化率に応じて、各駆動部11のシフト時間を補正する。これにより、環境条件の変化等の影響で信号の遅延時間が変化した場合でも、各駆動部11のシフト時間を適切に補正できる。
【0042】
(第5実施形態)
第5実施形態では、制御ユニット6が各駆動部11に送信する駆動指令を、
図19及び
図20に示すように空間ベクトル法に従って生成する。
図20は、セクタ1における1キャリア周期Tの3相駆動信号パターンであり、半周期内の電圧ベクトルは
[V0→V2→V1→V0]と変化し、各電圧ベクトルの出力時間は
[t3/4→t2/2→t1/2→t3/4]となっている。
【0043】
図21は、
図20に対応して制御ユニット6が各駆動部11に送信する駆動指令データの一例である。冒頭3ビットが電圧ベクトルを示し、それに続く7ビットで各電圧ベクトルの出力時間を示している。周期Tの後半は、前半の出力パターンの折返しとなるので、前半のデータのみを送信すれば良い。制御ユニット6は、このようなフォーマットのデータを各キャリア周期Tの冒頭に一括して送信する。各駆動部11は、冒頭3ビットで示される電圧ベクトルに応じて、それぞれが出力するゲート駆動信号の二値レベルを把握する。
【0044】
以上のように第5実施形態によれば、制御ユニット6は、各駆動部11に送信する駆動指令を空間ベクトル法により生成し、キャリア周期Tの冒頭にその周期T内における駆動信号のレベル値と各レベル値の継続時間とを含むデータを送信し、各駆動部11は、受信したデータに基づいて、それぞれのFET10にゲート駆動信号を出力する。これにより、通信レートをより低減できる。また、各駆動部11は、周期Tの冒頭にデータを受信できなかった場合は通信途絶を検知できる。
【0045】
(第6実施形態)
第6実施形態では、第5実施形態と同様に空間ベクトル法を適用する場合において、制御ユニット6が送信したデータパケットの空き領域に、各駆動部11が備えているセンサなどによりセンシングした情報,例えばFET10の温度や電圧,電流,短絡見地に関する情報などを付加して制御ユニット6に転送する。
【0046】
図22に示すように、IC0が送信する駆動指令のデータパケットには空き領域がある。IC1は、受信したデータパケットにU相下アームの情報を付加してIC2に送信する。IC2は、受信したデータパケットにU相上アームの情報を付加してIC3に送信する。以下同様に、IC3~IC6は、それぞれV相下アーム,V相上アーム,W相下アーム,W相上アームの情報をデータパケットに付加する。IC0は、IC6が送信したデータパケットを受信して、各駆動部11の情報を把握する。
【0047】
以上のように第6実施形態によれば、各駆動部11は、駆動指令のデータパケットを受信すると、センシングにより得られた各種の状態データをデータパケットに付加してから下流側に位置するICに送信する。これにより、制御ユニット6は、各駆動部11に関する情報を把握できる。
【0048】
(第7実施形態)
第7実施形態では、例えば
図23に示すように、制御ユニット6が駆動部11(3),11(4)の間で通信途絶が発生したことを検出すると、デイジーチェーンによる通信を停止する。デイジーチェーン通信では、絶縁通信回路13のポートAを送信側として使用し、ポートBを受信側として使用している。上記のようにデイジーチェーン通信を中止すると、制御ユニット6は、ポートAを用いてIC1~IC3との間で双方向通信を行い、ポートBを用いてIC6~IC4との間で双方向通信を行うように切り替える。
【0049】
図24に示すように、制御ユニット6が、IC_XとIC_Y(X<Y)との間で通信途絶が発生したことを検出したものとする(S51)。例えば
図23に示した例では、制御ユニット6は、IC4~IC6から通信途絶の発生を通知されることで、IC3,IC4間で発生したことを把握できる。この場合、X=3,Y=4となる。
【0050】
次に、制御ユニット6は、IC0→IC1→…→IC_X側で単方向通信を行うように通信チェーンを構成すると共に(S52)、IC0→IC6→…→IC_Y側でも単方向通信を行うように通信チェーンを構成する(S53)。そして、制御ユニット6がIC_Nへの駆動指令を生成した場合(S54)、NがX以下であれば(S55;YES)制御ユニット6はIC0→IC1→…→IC_X側のルートで駆動指令を送信する(S56)。すると、IC0~IC_Xは、それぞれの駆動部11の情報を、IC_X→IC1→…→IC0のルートで折り返して送信する(S57)。
一方、NがXよりも大であれば(S55;NO)制御ユニット6はIC0→IC6→…→IC_Y側のルートで駆動指令を送信する(S58)。すると、IC_Y~IC6は、それぞれの駆動部11の情報を、IC_Y→…→IC6→IC0のルートで折り返して送信する(S59)。
【0051】
以上のように第7実施形態によれば、制御ユニット6は、各駆動部11の何れかの間で通信の途絶が発生したことを検出すると、チェーンの最後に位置する駆動部11(6)側からも通信を開始する経路を構成する。これにより、異常が発生してもモータ3の駆動が可能となり、車両に退避行動をとらせることができる。
【0052】
(第8実施形態)
第8実施形態は、制御ユニット6における絶縁通信回路13の配置に関するバリエーションであり、
図25に示すように制御ユニット6を構成するマイコン31の内部に絶縁通信回路13を集積しても良いし、マイコン31の外部に絶縁通信回路13を配置しても良い。
【0053】
(第9実施形態)
第9実施形態は、駆動部11における絶縁通信回路14の配置に関するバリエーションであり、
図26に示すようにIC12の外部に絶縁通信回路14を配置しても良い。尚、絶縁通信回路14を、樹脂モールドした両面側より放熱を行うことが可能に構成されたパワーカードに内蔵しても良い。
【0054】
(第10実施形態)
図27に示す第10実施形態は、制御ユニット6がU,V,Wの各相に対応した絶縁通信回路13U,13V,13Wを備えている。そして、絶縁通信回路13Uは駆動部11(1)及び11(2)とデイジーチェーン接続されており、絶縁通信回路13Vは駆動部11(3)及び11(4)とデイジーチェーン接続されている。絶縁通信回路13Wは駆動部11(5)及び11(6)とデイジーチェーン接続されている。
【0055】
この場合、
図28に示すように、制御ユニット6は、IC1,IC3,IC5にそれぞれ駆動指令を出力する。駆動指令のシフトは、U,V,Wの各相の上下アーム間のゲート駆動信号の出力タイミングが等しくなるように行われる。このように構成すれば、通信信号の遅延時間を短縮できる。
【0056】
(第11実施形態)
第11実施形態は、マルチレベルインバータに適用した場合を示す。
図29は、各アームが4つのIGBT32を直列に接続して構成される3レベルインバータの主回路33である。この場合は、
図30に示すように、駆動部11(1)~11(4)がU相アームに対応し、駆動部11(5)~11(8)がV相アームに対応し、駆動部11(9)~11(12)がW相アームに対応する。そして、制御ユニット6と駆動部11(1)~11(12)とがデイジーチェーン接続される。
【0057】
(第12実施形態)
図31に示す第12実施形態は、x個の単位セル40を直列に接続した組電池41に接続される電池監視装置42に適用した場合を示す。電池監視装置42は、IC0である電池ECU43とIC1~ICxである電池IC44(1)~44(x)とで構成されている。電池IC44(1)~44(x)は、それぞれ対応する単位セル40(1)~40(x)に接続されている。そして、電池ECU43と電池IC44(1)~44(x)とがデイジーチェーン接続されている。
【0058】
以上のように構成される電池監視装置42において、電池ECU43は例えば第1実施形態と同様に各遅延時間の計測を行い、各電池IC44(1)~44(x)にシフト時間を伝達する。そして、各電池IC44(1)~44(x)は、それぞれのシフト時間に応じて、例えば各単位セル40(1)~40(x)の電圧を測定するタイミングを同期させる。このように、電池監視装置42に適用すれば、各単位セル40(1)~40(x)について測定により得られるデータの同時性を確保できる。
【0059】
(その他の実施形態)
インバータのゲート駆動回路や電池監視装置に限ることなく、マスタと複数のスレーブとがデイジーチェーン接続されて通信を行うシステムにおいて、各スレーブにおける処理タイミングを同期させるために適用すれば良い。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0060】
図面中、3はモータ、4はインバータ、6は制御ユニット、8は主回路、9はゲート駆動回路、10はNチャネルMOSFET、11は駆動部、12はIC、13,14は絶縁通信回路を示す。