(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167541
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】マルチコプタ
(51)【国際特許分類】
B64D 35/04 20060101AFI20221027BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20221027BHJP
B64D 27/24 20060101ALI20221027BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20221027BHJP
B64D 27/04 20060101ALI20221027BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B64D35/04
B64C27/08
B64D27/24
B64C39/02
B64D27/04
F16F15/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073392
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹川 翔一朗
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA07
3J048AB08
3J048AB12
3J048AD01
3J048CB21
3J048EA36
(57)【要約】
【課題】エンジン振動を抑制して、飛行安定性を向上させることができるマルチコプタを提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、機体11と、機体11に複数設けられるプロペラ21と、機体11を飛行させる電力を発電するために駆動するエンジン41と、を有するマルチコプタ1において、複数のプロペラ21の回転数の差を変化させることにより、エンジン41のクランクシャフト61の回転数の変動により機体11に作用するモーメントMEを相殺する相殺制御を行う制御部32を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、前記機体に複数設けられるプロペラと、前記機体を飛行させる電力を発電するために駆動するエンジンと、を有するマルチコプタにおいて、
複数の前記プロペラの回転数の差を変化させることにより、前記エンジンのクランクシャフトの回転数の変動により前記機体に作用するモーメントを相殺する相殺制御を行う制御部を有すること、
を特徴とするマルチコプタ。
【請求項2】
請求項1のマルチコプタにおいて、
複数の前記プロペラが前記クランクシャフトよりも上側に存在するようにして、前記クランクシャフトの軸方向から前記マルチコプタを見たときに、
前記制御部は、
前記エンジンの燃焼行程に伴う前記クランクシャフトの加減速で前記クランクシャフトの回転数が上昇する場合に、
前記相殺制御として、
前記クランクシャフトの回転が右回転であるときには、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を下げ、
前記クランクシャフトの回転が左回転であるときには、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を下げること、
を特徴とするマルチコプタ。
【請求項3】
請求項1または2のマルチコプタにおいて、
複数の前記プロペラが前記クランクシャフトよりも上側に存在するようにして、前記クランクシャフトの軸方向から前記マルチコプタを見たときに、
前記制御部は、
前記エンジンの燃焼行程に伴う前記クランクシャフトの加減速で前記クランクシャフトの回転数が低下する場合に、
前記相殺制御として、
前記クランクシャフトの回転が右回転であるときには、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を下げ、
前記クランクシャフトの回転が左回転であるときには、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を下げること、
を特徴とするマルチコプタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つのマルチコプタにおいて、
前記制御部は、前記相殺制御を行うときには、前記クランクシャフトの軸方向と直交する方向にて前記クランクシャフトから最も遠い位置に存在する前記プロペラの回転数を制御すること、
を特徴とするマルチコプタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つのマルチコプタにおいて、
前記制御部は、
前記クランクシャフトのクランク角を取得し、
前記クランク角と前記モーメントとの関係を規定したマップを用いて、取得した前記クランク角をもとに前記モーメントを算出し、
算出した前記モーメントをもとに前記相殺制御を行うこと、
を特徴とするマルチコプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチコプタに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチコプタに関する文献として、特許文献1には、駆動源であるエンジンを有する無人航空機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される無人航空機において、エンジンをエンジンフレームに取り付けるアダプタ部材であるエンジンマウントと、エンジンフレームとは、弾性体を用いた防振部材であるダンパを介して接合されている。しかしながら、特許文献1に開示される無人航空機において、このようにダンパのような物理的な緩衝材を設けたとしても、エンジン振動を十分に抑えることができず、飛行安定性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は上記した課題を解決するためになされたものであり、エンジン振動を抑制して、飛行安定性を向上させることができるマルチコプタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、機体と、前記機体に複数設けられるプロペラと、前記機体を飛行させる電力を発電するために駆動するエンジンと、を有するマルチコプタにおいて、複数の前記プロペラの回転数の差を変化させることにより、前記エンジンのクランクシャフトの回転数の変動により前記機体に作用するモーメントを相殺する相殺制御を行う制御部を有すること、を特徴とする。
【0007】
この態様によれば、相殺制御を行ってエンジンのクランクシャフトの回転数の変動により機体に作用するモーメントを相殺することにより、前記モーメントによって機体に生じるエンジン振動を抑制できる。そのため、マルチコプタの飛行の安定性を向上させることができる。
【0008】
上記の態様においては、複数の前記プロペラが前記クランクシャフトよりも上側に存在するようにして、前記クランクシャフトの軸方向から前記マルチコプタを見たときに、前記制御部は、前記エンジンの燃焼行程に伴う前記クランクシャフトの加減速で前記クランクシャフトの回転数が上昇する場合に、前記相殺制御として、前記クランクシャフトの回転が右回転であるときには、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を下げ、前記クランクシャフトの回転が左回転であるときには、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を下げること、が好ましい。
【0009】
この態様によれば、プロペラの総推力を保ちながら、クランクシャフトの回転数が上昇してエンジン回転数が上昇する場合に発生しうるエンジン振動を抑制できる。
【0010】
上記の態様においては、複数の前記プロペラが前記クランクシャフトよりも上側に存在するようにして、前記クランクシャフトの軸方向から前記マルチコプタを見たときに、前記制御部は、前記エンジンの燃焼行程に伴う前記クランクシャフトの加減速で前記クランクシャフトの回転数が低下する場合に、前記相殺制御として、前記クランクシャフトの回転が右回転であるときには、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を下げ、前記クランクシャフトの回転が左回転であるときには、前記クランクシャフトに対して左側に存在する前記プロペラの回転数を上げ、かつ、前記クランクシャフトに対して右側に存在する前記プロペラの回転数を下げること、が好ましい。
【0011】
この態様によれば、プロペラの総推力を保ちながら、クランクシャフトの回転数が低下してエンジン回転数が低下する場合に発生しうるエンジン振動を抑制できる。
【0012】
上記の態様においては、前記制御部は、前記相殺制御を行うときには、前記クランクシャフトの軸方向と直交する方向にて前記クランクシャフトから最も遠い位置に存在する前記プロペラの回転数を制御すること、が好ましい。
【0013】
この態様によれば、相殺制御としてクランクシャフトから最も遠い位置に存在するプロペラの回転数を制御することにより、クランクシャフトの回転数の変動により機体に作用するモーメントをより効果的に相殺できるので、前記モーメントによって機体に生じるエンジン振動をより効果的に抑制できる。
【0014】
クランクシャフトの回転数の変動により機体に作用するモーメントは、クランクシャフトのクランク角と相関関係にある。
そこで、上記の態様においては、前記制御部は、前記クランクシャフトのクランク角を取得し、前記クランク角と前記モーメントとの関係を規定したマップを用いて、取得した前記クランク角をもとに前記モーメントを算出し、算出した前記モーメントをもとに前記相殺制御を行うこと、が好ましい。
【0015】
この態様によれば、制御部が予めクランク角とクランクシャフトの回転数の変動により機体に作用するモーメントとの関係を規定したマップを備えておき、このマップを用いてクランク角から前記モーメントを算出して相殺制御を行う。これにより、機体に前記モーメントが実際に作用してからフィードバック制御を行って前記モーメントを相殺するのではなく、機体に前記モーメントが実際に作用する前にフィードフォワード制御を行って前記モーメントを相殺することができる。そのため、前記モーメントによって機体に生じるエンジン振動をすぐに抑制できる。したがって、より効果的に、マルチコプタの飛行の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示のマルチコプタによれば、エンジン振動を抑制して、飛行安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態のマルチコプタの外観斜視図である。
【
図2】本実施形態のマルチコプタの構成を示すブロック図である。
【
図3】エンジンの角運動量ベクトルやエンジンの加減速に伴う力のモーメントを示す図である。
【
図4】エンジン加速時とエンジン減速時において、エンジンの加減速に伴う力のモーメントが作用する方向を示す図である。
【
図5】エンジン加速時にてエンジンの加減速に伴う力のモーメントを打ち消すことを示す図である。
【
図6】エンジン減速時にてエンジンの加減速に伴う力のモーメントを打ち消すことを示す図である。
【
図7】プロペラの数が8個である場合において、制御対象のプロペラの一例を示す図である。
【
図8】プロペラの数が8個である場合において、制御対象のプロペラの一例を示す図である。
【
図9】プロペラの数が6個である場合において、制御対象のプロペラの一例を示す図である。
【
図10】プロペラの数が6個である場合において、制御対象のプロペラの一例を示す図である。
【
図11】プロペラの数が4個である場合において、制御対象のプロペラの一例を示す図である。
【
図12】プロペラの数が4個である場合において、制御対象のプロペラの一例を示す図である。
【
図13】本実施形態で行われる制御の内容を示すフローチャート図である。
【
図14】エンジン回転数とスロットル開度から発電機動作点を取得するためのマップを示す図である。
【
図15】発電機動作点が燃費動作点である場合に使用するクランク角とエンジンの加減速に伴う力のモーメントとの関係を規定したマップの一例を示す図である。
【
図16】発電機動作点が出力動作点である場合に使用するクランク角とエンジンの加減速に伴う力のモーメントとの関係を規定したマップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示のマルチコプタの実施形態について説明する。
【0019】
<マルチコプタの概要>
(マルチコプタの構成)
図1に示すように、本実施形態のマルチコプタ1は、機体11とエンジン発電ユニット12を有する。
【0020】
機体11には、プロペラ21とモータ22と機体本体部23が設けられている。
【0021】
プロペラ21は、複数設けられている。そして、この複数のプロペラ21を回転させることにより、マルチコプタ1は飛行する。なお、プロペラ21は、複数設けられていればよく、
図1に示す例では8個設けられているが、これに限定されず、例えば4個や6個でもよい。なお、
図2では、8個のプロペラ21(プロペラ#1~#8)が設けられている例を示している。
【0022】
モータ22は、各々のプロペラ21に設けられ、プロペラ21を回転させる。モータ22は、
図2に示すように、後述するESC34(インバータ(不図示))とパワーコントロールユニット33とを介して、後述するバッテリ31やジェネレータ42に電気的に接続されている。これにより、ジェネレータ42にて発電された電力やバッテリ31から放電される電力が、パワーコントロールユニット33とESC34とを介して、モータ22に供給される。なお、
図2では、8個のモータ22(モータ#1~#8)が設けられている例を示している。
【0023】
機体本体部23には、
図2に示すように、バッテリ31と、制御部32と、パワーコントロールユニット33と、ESC(Electric Speed Controller)34などが設けられている。
【0024】
バッテリ31は、電力を充放電可能な充放電部(二次電池、蓄電池)である。
図2に示すように、バッテリ31は、パワーコントロールユニット33を介して、ジェネレータ42と電気的に接続されており、ジェネレータ42で発電された電力を充電する。また、バッテリ31は、パワーコントロールユニット33とESC34とを介して、モータ22と電気的に接続されており、モータ22に供給する電力を放電する。
【0025】
制御部32は、小型のコンピュータとして構成されており、マルチコプタ1の全体を制御する。例えば、制御部32は、エンジン41の駆動を制御して、ジェネレータ42での発電を制御する。
【0026】
パワーコントロールユニット33は、モータ22へ供給される電力を制御する装置である。このパワーコントロールユニット33は、ジェネレータ42で発電された電力を受給したり、バッテリ31との間で電力の供給および受給を行ったり、ESC34へ電力を供給したりする。
【0027】
ESC34は、モータ22の回転数を制御する装置である。このESC34は、パワーコントロールユニット33から供給される電力を、駆動電力として、モータ22に供給する。なお、
図2では、8個のESC34(ESC#1~#8)が設けられている例を示している。
【0028】
エンジン発電ユニット12は、
図1と
図2に示すように、エンジン41とジェネレータ(すなわち、発電機)42を備えている。エンジン41は、ジェネレータ42の動力源であって、例えば、小型のディーゼルエンジンやレシプロエンジンなどである。すなわち、エンジン41は、モータ22またはバッテリ31へ供給する電力(すなわち、機体11を飛行させる電力)をジェネレータ42で発電するために駆動する。なお、本実施形態では、後述する
図3~
図12に示すように、エンジン41のクランクシャフト61の軸方向(すなわち、中心軸の方向)は、マルチコプタ1の前進および後進方向と直交している。
【0029】
また、マルチコプタ1は、
図2に示すように、コントローラ51を有する。コントローラ51は、マルチコプタ1の使用者が持つ操作部であり、例えば、ジョイスティックである。
【0030】
また、本実施形態のマルチコプタ1においては、モータ22とバッテリ31とエンジン41によりシリーズハイブリッドシステムが構成されている。すなわち、マルチコプタ1においては、エンジン41が発電のみに使用され、モータ22がプロペラ21の駆動に使用され、さらに電力を回収するためのバッテリ31を有するシステムが構成されている。このようにして、マルチコプタ1は、エンジン41の駆動によりジェネレータ42にて発電し、発電した電力でモータ22を駆動してプロペラ21を駆動することにより、飛行する。また、マルチコプタ1は、エンジン41の駆動によりジェネレータ42にて発電した際の余剰電力を、バッテリ31に一旦蓄え、必要に応じてモータ22の駆動に用いる。
【0031】
(マルチコプタの作用)
このような構成のマルチコプタ1は、モータ22に電力を供給し、複数のプロペラ21を回転させることにより飛行する。そして、プロペラ21の回転数を制御し、プロペラ21の回転によって得られる揚力をマルチコプタ1自体の重力とバランスさせることで、マルチコプタ1のホバリング飛行や前進・後進・左右移動飛行を実現させることができる。また、プロペラ21により発生させる揚力を大きくしてマルチコプタ1の上昇飛行を実現
させることができ、プロペラ21により発生させる揚力を小さくしてマルチコプタ1の下降飛行を実現させることができる。
【0032】
<エンジン振動の抑制について>
マルチコプタ1において、ジャイロ連成による飛行への影響として、エンジン41の各行程(吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程)で、エンジン41のクランクシャフト61が加減速して角運動量が変化すると、それに伴うモーメント、すなわち、エンジン41の加減速に伴う力のモーメントME(以下、適宜、単に「モーメントME」とも言う。)が
図3に示すように機体11に作用する。このモーメントMEは、言い換えれば、クランクシャフト61の回転数の変動により機体11に作用するモーメントである。そして、このようなモーメントMEが機体11に作用すると、これが機体11に生じるエンジン振動となって、マルチコプタ1の飛行に影響しうる。なお、
図3は、マルチコプタ1の重心CGを基点として互いに直交するXb軸とYb軸とZb軸のXYZ軸系を想定するときに、モーメントMEは、Yb軸回りに作用する例を示している。
【0033】
ここで、ジャイロ連成とは、ある機体にエンジンなどの回転体(角運動量)が設けられていると、推力等によるモーメントを受けて角運動量の向きが変化するときに、機体に意図しない向きの角速度ベクトルが発生することをいう。
【0034】
そして、回転体が設けられた機体の運動方程式(機体座標系)は、以下の数式で表される。
【数1】
【0035】
なお、「
」は機体を剛体とみなした場合の回転速度変化に関する値である。「-ΩJωは、慣性クロス連成に関する値である。「M
a」は空力の値であり、「M
t」は推力の値である。「
」は、エンジンの加減速の値である。「ΩC
b/t」は、エンジン角運動量影響に関する値である。「C
b/tΩ
t」は、エンジン角運動量方向アクティブ変化に関する値である。「J
e」はエンジンの慣性イナーシャの値であり、「ωe」はエンジンの角速度の値である。
【0036】
そして、エンジン41の加減速に伴う力のモーメントMEは、以下の数式で表される。
【数2】
【0037】
また、エンジン41の加減速に伴う力のモーメントMEは、エンジン加速時(ピッチ下げ時、すなわち、クランクシャフト61の回転数の上昇時)と、エンジン減速時(ピッチ上げ時、すなわち、クランクシャフト61の回転数の低下時)とにおいて、それぞれ、
図4に示すように、機体11に作用する。
【0038】
すなわち、
図4に示すように、プロペラ21がクランクシャフト61よりも上側に存在するようにしてマルチコプタ1をクランクシャフト61の軸方向から見たとする。このとき、
図4にて破線の矢印で示すように、クランクシャフト61が右回りに回転(以下、単に「右回転」という。)していれば、モーメントMEは、マルチコプタ1の重心CGを中心に、エンジン加速時には左回りに作用する一方、エンジン減速時には右回りに作用する。なお、クランクシャフト61が左回りに回転(以下、単に「左回転」という。)していれば、モーメントMEは、マルチコプタ1の重心CGを中心に、エンジン加速時には右回りに作用する一方、エンジン減速時には左回りに作用する。
【0039】
本実施形態では、モーメントMEによって機体11に生じるエンジン振動を抑制するため、制御部32は、複数のプロペラ21の回転数の差を変化させることにより、モーメントMEを相殺する相殺制御を行う。
【0040】
具体的には、マルチコプタ1がホバリングしている時を想定したときに、制御部32は、エンジン加速時(すなわち、クランクシャフト61の回転数が上昇する場合)に、相殺制御として、
図5に示すように、クランクシャフト61の回転が右回転であるときに、クランクシャフト61に対して左側に存在するフロント側(すなわち、マルチコプタ1が前進するときの進行方向側(
図5の左側))のプロペラ21Fの回転数を上げ、かつ、クランクシャフト61に対して右側に存在するリア側(すなわち、マルチコプタ1が後進するときの進行方向側(
図5の右側))のプロペラ21Rの回転数を下げる。このようにして、エンジン加速時には、
図5に示すように、ピッチ下げ(すなわち、機体11のフロント側が下がること)を打ち消すように、プロペラ21の総推力を保ちながら、フロント側のプロペラ21Fの推力をリア側のプロペラ21Rの推力よりも強くする。なお、
図5は、複数のプロペラ21がクランクシャフト61よりも上側に存在するようにして、クランクシャフト61の軸方向からマルチコプタ1を見たときの図である。
【0041】
一方、制御部32は、クランクシャフト61の回転数が低下する場合に、相殺制御として、
図6に示すように、クランクシャフト61の回転が右回転であるときに、クランクシャフト61に対して右側に存在するリア側(
図6の右側)のプロペラ21Rの回転数を上げ、かつ、クランクシャフト61に対して左側に存在するフロント側(
図6の左側)のプロペラ21Rの回転数を下げる。このようにして、エンジン減速時には、
図6に示すように、ピッチ上げ(すなわち、機体11のフロント側が上がること)を打ち消すように、プロペラ21の総推力を保ちながら、リア側のプロペラ21Rの推力をフロント側のプロペラ21Fの推力よりも強くする。なお、
図6は、複数のプロペラ21がクランクシャフト61よりも上側に存在するようにして、クランクシャフト61の軸方向からマルチコプタ1を見たときの図である。
【0042】
ここで、フロント側のプロペラ21Fとリア側のプロペラ21Rは、8個のプロペラ21のうち、クランクシャフト61の軸方向(
図5や
図6の紙面奥行き手前方向)と直交する方向(
図5や
図6の左右方向)にてクランクシャフト61から最も遠い位置に存在するプロペラ21である。このようにして、本実施形態では、制御部32は、相殺制御を行うときには、クランクシャフト61の軸方向と直交する方向にてクランクシャフト61から最も遠い位置に存在するプロペラ21の回転数を制御する。
【0043】
例えば、相殺制御が行われるときには、プロペラ21の数が8個の場合には
図7や
図8に示すように、プロペラ21の数が6個の場合には
図9や
図10に示すように、プロペラ21の数が4個の場合には
図11や
図12に示すように、フロント側のプロペラ21F、または、リア側のプロペラ21Rの回転数が制御される。
【0044】
このようにして相殺制御が行われる場合に、制御部32は、例えば、
図13に示すフローチャートに基づいて制御する。
図13に示すように、まず、制御部32は、発電機動作点を取得する(ステップS1)。詳しくは、制御部32は、エンジン発電ユニット12からエンジン回転数とスロットル開度(エンジン41への吸気量を制御するスロットル弁(不図示)の開度)を取得し、
図14に示すマップを用いて、発電機動作点が、燃費動作点であるか、出力動作点であるかを判断する。なお、スロットル開度の代わりに、エンジンの現在のトルクがわかるものであれば、吸気量や発電電力などを用いてもよい。
【0045】
なお、発電機動作点とは、エンジン発電ユニット12の動作モードである。そして、燃費動作点とは、エンジン41の出力を高めることよりも、エンジン41の燃費を向上させることを重視した動作モードである。また、出力動作点とは、エンジン41の燃費を向上させるよりも、エンジン41の出力を高めることを重視した動作モードである。
【0046】
次に、制御部32は、ステップS1にて取得した発電機動作点に対応した「クランク角-モーメントマップ」を決定する(ステップS2)。ここで、「クランク角-モーメントマップ」とは、クランク角CAと、エンジン41の加減速に伴う力のモーメントMEとの関係を規定したマップである。そして、例えば、ステップS1にて取得した発電機動作点が「燃費動作点」である場合には、「クランク角-モーメントマップ」を
図15に示すマップに決定する。また、ステップS1にて取得した発電機動作点が「出力動作点」である場合には、「クランク角-モーメントマップ」を
図16に示すマップに決定する。
【0047】
次に、制御部32は、エンジン発電ユニット12からクランク角CAの値を取得する(ステップS3)。なお、制御部32は、クランク角CAの代わりに、現在のクランクシャフト61の回転方向の位置が分かるものであれば、吸気圧などを取得してもよい。
【0048】
次に、制御部32は、ステップS3で取得したクランク角CAの値をもとに、例えば
図15または
図16のマップを用いてモーメントMEを算出し、算出したモーメントMEをもとに相殺制御を行う。
【0049】
具体的には、制御部32は、モータ補正トルクを算出する(ステップS4)。より具体的には、制御部32は、ステップS3で取得したクランク角CAの値をもとに、例えば
図15または
図16のマップを用いてモーメントMEを算出し、この算出したモーメントMEを打ち消すために必要なモータ補正トルク(すなわち、モータ22のトルクの補正値)を算出する。
【0050】
次に、制御部32は、各モータ推力補正値を算出する(ステップS5)。具体的には、制御部32は、ステップS4で算出したモータ補正トルクを得るために必要な各モータ推力補正値(すなわち、各モータ22(各プロペラ21)の推力の補正値)を算出する。
【0051】
次に、制御部32は、操縦者飛行要求(例えば、操縦者がコントローラ51を操作して選択した飛行要求)に基づく各モータ22(各プロペラ21)の基本推力の値を算出する(ステップS6)。
【0052】
次に、制御部32は、各モータ22の推力の値を算出する(ステップS7)。具体的には、制御部32は、ステップS6で算出した各モータ22(各プロペラ21)の基本推力の値に、ステップS5で算出した各モータ推力補正値を加算して、各モータ22(各プロペラ21)の推力の値を算出する。
【0053】
次に、制御部32は、要求回転数を算出する(ステップS8)。具体的には、制御部32は、ステップS7で算出した各モータ22の推力の値をもとに、各モータ22(各プロペラ21)の要求回転数を算出する。
【0054】
次に、制御部32は、各モータ22の回転数をステップS8で算出した要求回転数に制御する(ステップS9)。そして、これにより、制御部32は、各プロペラ21の回転数を要求回転数に制御して、相殺制御を行う。
【0055】
このようにして、本実施形態では、制御部32は、クランク角CAを取得し、クランク角CAとモーメントMEとの関係を規定したマップを用いて、取得したクランク角CAをもとにモーメントMEを算出し、算出したモーメントMEをもとに各々のプロペラ21の目標回転数を算出し、各々のプロペラ21の回転数を目標回転数に制御することにより、相殺制御を行う。
【0056】
<本実施形態の効果>
以上のように、本実施形態によれば、制御部32は、エンジン41の加減速に伴う力のモーメントMEを相殺する相殺制御を行う。そして、制御部32は、相殺制御を行うために、フロント側のプロペラ21Fとリア側のプロペラ21Rとの間の回転数の差を変化させる。例えば、マルチコプタ1がホバリングしており、フロント側のプロペラ21Fとリア側のプロペラ21Rとの間の回転数の差がない状態(すなわち、「0」である状態)から、フロント側のプロペラ21Fとリア側のプロペラ21Rとの間の回転数の差を持たせるようにして(すなわち、「0」よりも大きくして)、相殺制御を行う。
【0057】
このようにして、相殺制御を行ってエンジン41の加減速に伴う力のモーメントMEを相殺することにより、モーメントMEによって機体11に生じるエンジン振動を抑制できる。そのため、マルチコプタ1の飛行の安定性を向上させることができる。
【0058】
そして、具体的には、
図5に示すように、複数のプロペラ21がクランクシャフト61よりも上側に存在するようにして、クランクシャフト61の軸方向からマルチコプタ1を見たときに、制御部32は、エンジン41の燃焼行程に伴うクランクシャフト61の加減速でクランクシャフト61の回転数が上昇する場合に、相殺制御として、クランクシャフト61の回転が右回転であるときには、クランクシャフト61に対して左側に存在するフロント側のプロペラ21Fの回転数を上げ、かつ、クランクシャフト61に対して右側に存在するリア側のプロペラ21Rの回転数を下げる。なお、制御部32は、クランクシャフト61の中心軸からフロント側のプロペラ21Fまでの距離に応じて、フロント側のプロペラ21Fの回転数を上げる量を調整する。また、制御部32は、クランクシャフト61の中心軸からリア側のプロペラ21Rまでの距離に応じて、リア側のプロペラ21Rの回転数を下げる量を調整する。
【0059】
なお、クランクシャフト61の回転が左回転であるときには、制御部32は、相殺制御として、クランクシャフト61に対して右側に存在するリア側のプロペラ21Rの回転数を上げ、かつ、クランクシャフト61に対して左側に存在するフロント側のプロペラ21Fの回転数を下げる。
【0060】
このようにして、プロペラ21の総推力を保ちながら、クランクシャフト61の回転数が上昇してエンジン回転数が上昇する場合に発生しうるエンジン振動を抑制できる。
【0061】
一方、
図6に示すように、複数のプロペラ21がクランクシャフト61よりも上側に存在するようにして、クランクシャフト61の軸方向からマルチコプタ1を見たときに、制御部32は、エンジン41の燃焼行程に伴うクランクシャフト61の加減速でクランクシャフト61の回転数が低下する場合に、相殺制御として、クランクシャフト61の回転が右回転であるときには、クランクシャフト61に対して右側に存在するリア側のプロペラ21Rの回転数を上げ、かつ、クランクシャフト61に対して左側に存在するフロント側のプロペラ21Fの回転数を下げる。なお、制御部32は、クランクシャフト61の中心軸からリア側のプロペラ21Rまでの距離に応じて、リア側のプロペラ21Rの回転数を上げる量を調整する。また、制御部32は、クランクシャフト61の中心軸からフロント側のプロペラ21Fまでの距離に応じて、フロント側のプロペラ21Fの回転数を下げる量を調整する。
【0062】
なお、クランクシャフト61の回転が左回転であるときには、制御部32は、相殺制御として、クランクシャフト61に対して左側に存在するフロント側のプロペラ21Fの回転数を上げ、かつ、クランクシャフト61に対して右側に存在するリア側のプロペラ21Rの回転数を下げる。
【0063】
このようにして、プロペラ21の総推力を保ちながら、クランクシャフト61の回転数が低下してエンジン回転数が低下する場合に発生しうるエンジン振動を抑制できる。
【0064】
そして、制御部32は、相殺制御を行うときには、クランクシャフト61の軸方向と直交する方向にてクランクシャフト61から最も遠い位置に存在するフロント側のプロペラ21F、または、リア側のプロペラ21Rの回転数を制御する。
【0065】
これにより、相殺制御としてクランクシャフト61から最も遠い位置に存在するプロペラ21の回転数を制御することにより、エンジン41の加減速に伴う力のモーメントMEをより効果的に相殺できるので、モーメントMEによって機体11に生じるエンジン振動をより効果的に抑制できる。
【0066】
また、モーメントMEは、クランク角CAと相関関係にある。そこで、制御部32は、クランク角CAを取得し、クランク角CAとモーメントMEとの関係を規定したマップ(
図15や
図16参照)を用いて、取得したクランク角CAをもとにモーメントMEを算出し、算出したモーメントMEをもとに、相殺制御を行う。
【0067】
このようにして、制御部32が予めクランク角CAとモーメントMEとの関係を規定したマップを備えておき、このマップを用いてクランク角CAからモーメントMEを算出して相殺制御を行う。これにより、機体11にモーメントMEが実際に作用してからフィードバック制御を行ってモーメントMEを相殺するのではなく、機体11にモーメントMEが実際に作用する前にフィードフォワード制御を行ってモーメントMEを相殺することができる。そのため、モーメントMEによって機体に生じるエンジン振動をすぐに抑制できる。したがって、より効果的に、マルチコプタ1の飛行の安定性を向上させることができる。
【0068】
なお、制御部32は、フロント側のプロペラ21Fとリア側のプロペラ21Rとともに、フロント側のプロペラ21Fとリア側のプロペラ21R以外のプロペラ21の回転数を変化させて、相殺制御を行ってもよい。
【0069】
なお、上記の説明では、マルチコプタ1のホバリング飛行時に本開示の相殺制御が行われる例を示したが、これに限らず、マルチコプタ1の前進時や後進時や上昇時や下降時や回転時などに本開示の相殺制御が行われるとしてもよい。
【0070】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0071】
1 マルチコプタ
11 機体
12 エンジン発電ユニット
21 プロペラ
21F フロント側のプロペラ
21R リア側のプロペラ
22 モータ
32 制御部
34 ESC
41 エンジン
42 ジェネレータ
51 コントローラ
61 クランクシャフト
ME モーメント
CG 重心
CA クランク角