(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167555
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】床構造および床構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/38 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
E04B5/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073418
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓
(72)【発明者】
【氏名】貞広 修
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 景一
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
(72)【発明者】
【氏名】増田 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 広夢
(57)【要約】
【課題】床厚を抑えることができるとともに、容易に施工することができる床構造および床構造の施工方法を提供する。
【解決手段】床構造1は、構造物の構造体として設けられるRCスラブ2と、RCスラブ2の下面に沿って設けられるCLTパネル3と、を有する。構造物の構造体として設けられるRCスラブ2と、RCスラブ2の下面に沿って設けられるCLTパネル3と、を有する床構造の施工方法において、CLTパネル3を設置するCLTパネル設置工程とRCスラブ2を施工するRCスラブ施工工程と、を有し、CLTパネル設置工程は、RCスラブ施工工程に先行して行われ、RCスラブ施工工程では、CLTパネル設置工程で設置されたCLTパネル3を型枠として使用し、CLTパネル3の上面にRCスラブ2を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の構造体として設けられるRCスラブと、
前記RCスラブの下面に沿って設けられるCLTパネルと、を有する床構造。
【請求項2】
前記CLTパネルと前記RCスラブとの間に設けられたシアキーを有する請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記シアキーは、前記RCスラブの配筋のためのスペーサを兼ねる請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記CLTパネルは、前記RCスラブに対して着脱可能に構成されている請求項1から3のいずれか一項に記載の床構造。
【請求項5】
前記CLTパネルの端部は、前記RCスラブを支持する前記構造物の梁に形成された切り欠き部に嵌め込まれている請求項1から4のいずれか一項に記載の床構造。
【請求項6】
構造物の構造体として設けられるRCスラブと、
前記RCスラブの下面に沿って設けられるCLTパネルと、を有する床構造の施工方法において、
前記CLTパネルを設置するCLTパネル設置工程と
前記RCスラブを施工するRCスラブ施工工程と、を有し、
前記CLTパネル設置工程は、前記RCスラブ施工工程に先行して行われ、
前記RCスラブ施工工程では、前記CLTパネル設置工程で設置された前記CLTパネルを型枠として使用し、前記CLTパネルの上面に前記RCスラブを形成する床構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床構造および床構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ひき板をその繊維方向が直交するように交互に積層接着したCLT(Cross Laminated Timber)は、厚みのあるパネル状の木質材料で、建築の構造材などに使用される(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-78307号公報
【特許文献2】特開2019-138053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐火構造物の主要構造部に木構造を採用する場合、木質材料を耐火被覆材で覆う必要がある。このため、耐火構造物の床にCLTパネルを構造材として採用する場合は、CLTパネルを耐火被覆材で覆っている。このような床構造では、仕上げ面には、耐火被覆材を覆うように仕上げ材を設けるため、床厚が大きくなるとともに、施工工程が多くなり、施工が煩雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、床厚を抑えることができるとともに、容易に施工することができる床構造および床構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る床構造は、構造物の構造体として設けられるRCスラブと、前記RCスラブの下面に沿って設けられるCLTパネルと、を有する。
【0007】
本発明では、RCスラブが構造物の構造体として設けられることにより、CLTパネルを構造物の主要構造部としてではなく、防振材や、遮音材、仕上げ材として設けることができる。CLTパネルが構造物の主要構造部ではないことにより、耐火構造物の場合もCLTパネルに耐火被覆材を設ける必要がない。また、CLTパネルが耐火被覆材に覆われないことにより、表し仕上げの仕上げ材として露出した状態で設置することができる。このように、耐火被覆材を設ける必要が無いことにより、床厚を抑えることができるとともに、床を容易に施工することができる。
【0008】
また、本発明に係る床構造では、前記CLTパネルと前記RCスラブとの間に設けられたシアキーを有していてもよい。
【0009】
このような構成とすることにより、CLTパネルのみでなく、CLTパネルとRCスラブとが一体化した合成床として、防振性能および遮音性能を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る床構造では、前記シアキーは、前記RCスラブの配筋のためのスペーサを兼ねていてもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、RCスラブの配筋のスペーサを別途設ける必要が無く、施工を容易に行うことができるとともに、部品点数を減らすことができて管理を容易にすることができる。
【0012】
また、本発明に係る床構造では、前記CLTパネルは、前記RCスラブに対して着脱可能に構成されていてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、地震や火災などによりCLTパネルが損傷した場合に、CLTパネルを容易に交換することができる。また、CLTパネルが損傷しても、CLTパネルを交換することにより、CLTパネルが有する性能(防振性能や遮音性能など)を維持することができる。
【0014】
また、本発明に係る床構造では、前記CLTパネルの端部は、前記RCスラブを支持する前記構造物の梁に形成された切り欠き部に嵌め込まれていてもよい。
【0015】
このような構成とすることにより、CLTパネルの端部をRCスラブに支持させることができる。また、CLTパネルの端部が露出しないため、意匠性を良くすることができる。
【0016】
また、本発明に係る床構造の施工方法は、構造物の構造体として設けられるRCスラブと、前記RCスラブの下面に沿って設けられるCLTパネルと、を有する床構造の施工方法において、前記CLTパネルを設置するCLTパネル設置工程と前記RCスラブを施工するRCスラブ施工工程と、を有し、前記CLTパネル設置工程は、前記RCスラブ施工工程に先行して行われ、前記RCスラブ施工工程では、前記CLTパネル設置工程で設置された前記CLTパネルを型枠として使用し、前記CLTパネルの上面に前記RCスラブを形成する。
【0017】
本発明では、RCスラブが構造物の構造体として設けられることにより、CLTパネルを構造物の主要構造部としてではなく、防振材や、遮音材、仕上げ材として設けることができる。CLTパネルが構造物の主要構造部ではないことにより、耐火構造物の場合もCLTパネルに耐火被覆材を設ける必要がない。また、CLTパネルが耐火被覆材に覆われないことにより、表し仕上げの仕上げ材として露出した状態で設置することができる。このように、耐火被覆材を設ける必要が無いことにより、床厚を抑えることができるとともに、床を容易に施工することができる。また、RCスラブ施工工程では、CLTパネル設置工程で設置されたCLTパネルを型枠として使用する。このような構成とすることにより、RCスラブの型枠の設置、脱型を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、床厚を抑えることができるとともに、容易に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態による床構造を示す鉛直断面図である。
【
図3】第2実施形態による床構造を示す鉛直断面図である。
【
図5】第3実施形態による床構造を示す鉛直断面図である。
【
図6】第4実施形態による床構造を示す鉛直断面図である。
【
図7】第4実施形態による床構造の変形例を示す鉛直断面図である。
【
図8】第4実施形態による床構造の他の変形例を示す鉛直断面図である。
【
図9】第5実施形態による床構造を示す鉛直断面図である。
【
図10】床衝撃音遮断性能の測定試験の残響室を示す図である。
【
図13】床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験の測定機器系統図である。
【
図14】衝撃時間内応答インピーダンスの考え方を示す図である。
【
図15】静的たわみ測定試験、シアキーせん断試験の載荷を説明する側面図である。
【
図16】静的たわみ測定試験、シアキーせん断試験の載荷を説明する平面図である。
【
図17】遮音性能測定試験、静的たわみ測定試験、シアキーせん断試験に使用する試験体の概要を示す表である。
【
図18】(a)は試験体1-3の平面図、(b)は(a)のX-X´線断面図、(c)は(a)のY-Y´線断面図、(d)は試験体1-3の立面図(側面図)である。
【
図19】(a)は試験体4の平面図、(b)は(a)のX-X´線断面図、(c)は(a)のY-Y´線断面図、(d)は試験体4の立面図(側面図)である。
【
図20】(a)は試験体5の平面図、(b)は(a)のX-X´線断面図、(c)は(a)のY-Y´線断面図、(d)は試験体5の立面図(側面図)である。
【
図21】試験体1のシアキーの割り付けパターンAを示す図である。
【
図22】試験体2のシアキーの割り付けパターンBを示す図である。
【
図23】試験体3のシアキーの割り付けパターンCを示す図である。
【
図24】試験体4のシアキーの割り付けパターンDを示す図である。
【
図25】(a)はシアキーCLC8×160の側面図、(b)は試験体に90°の角度で設けられたシアキーCLC8×160を示す側面図、(c)は(b)の平面図、(d)は試験体に45°の角度で設けられたシアキーCLC8×160を示す側面図、(e)は(d)の平面図である。
【
図26】(a)はラグスクリューボルトのシアキーの側面図、(b)は(a)が90°の角度で設けられた試験体を示す側面図、(c)は(b)の平面図、(d)はラグスクリューボルトM16の側面図である。
【
図27】(a)は試験体1b-4b共通のたわみ測定位置図を示す平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【
図28】(a)は試験体1b-3b共通のインピーダンスの測定位置を示す図、(b)は側面図、(c)は試験体4b共通のインピーダンスの測定位置を示す図、(b)は側面図である。
【
図29】試験体ごとの遮音性能測定試験、静的たわみ測定試験の結果(LH(重量床衝撃音)、たわみ量)を示す表である。
【
図30】シアキーごとの剛性および耐力を示す表である。
【
図31】(a)はCLC8-90(90°)試験後のシアキーの様子を示す画像、(b)はCLC8-45,135(45°,135°)試験後のシアキーの様子を示す画像、(c)はLSM12-90(90°)試験後のシアキーの様子を示す画像、(d)はLSM16-90(90°)試験後のシアキーの様子を示す画像である。
【
図32】試験体ごとのオクターブバンド中心周波数と床衝撃音レベルとの関係を示すグラフである。
【
図33】シアキーごとの変位と荷重との関係を示すグラフである。
【
図34】遮音性能測定試験(コンクリート素面)を行う建物の2階の平面図である。
【
図35】遮音性能測定試験(コンクリート素面)を行う建物の1階の平面図である。
【
図36】遮音性能測定試験(コンクリート素面)の測定番号ごとの重量床衝撃音遮断性能および衝撃インピーダンスを示す表である。
【
図37】遮音性能測定試験(コンクリート素面)の測定Nо.1の測定結果である。
【
図38】遮音性能測定試験(コンクリート素面)の測定Nо.2の測定結果である。
【
図39】遮音性能測定試験(コンクリート素面)の測定Nо.3の測定結果である。
【
図40】遮音性能測定試験(コンクリート素面)の測定Nо.4の測定結果である。
【
図41】遮音性能測定試験(仕上げ面)を行う建物の2階の平面図である。
【
図42】遮音性能測定試験(仕上げ面)の測定番号ごとの重量床衝撃音遮断性能および衝撃インピーダンスを示す表である。
【
図43】遮音性能測定試験(仕上げ素面)の測定Nо.1の測定結果である。
【
図44】遮音性能測定試験(仕上げ素面)の測定Nо.2の測定結果である。
【
図45】遮音性能測定試験(仕上げ素面)の測定Nо.3の測定結果である。
【
図46】遮音性能測定試験(仕上げ素面)の測定Nо.4の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による床構造および床構造の施工方法について、
図1-
図2に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態による床構造1は、RCスラブ2と、RCスラブ2の下面に沿って設けられるCLTパネル3と、を有する。本実施形態では、RCスラブ2は、RCの梁4に支持されている。CLTパネル3は、ひき板をその繊維方向が直交するように交互に積層接着したCLT(Cross Laminated Timber)のパネルである。CLTパネル3は、水平方向に隣り合う梁4の間に設けられている。
【0021】
本実施形態の床構造1は、RCスラブ2が鉛直荷重の支持や層間区画などを行う主要構造部の構造体として設けられ、CLTパネル3が防振、遮音を行う防振材、遮音材として設けられている。すなわち。CLTパネル3は主要構造部ではなく、構造物の荷重を支持せず、また層間区画をしない部材である。CLTパネル3の下面3cは、表し仕上げとして下方に露出している。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、梁4にCLTパネル3の端部が嵌め込まれる切り欠き部41が形成されている。CLTパネル3の下面3cは、縁部3a近傍が梁4のコンクリートに覆われ、縁部3a以外の中央部3eが下方に表し仕上げとして露出している。
【0023】
CLTパネル3とRCスラブ2との間にはシアキー5が設けられている。シアキー5は、例えば、ラグスクリューや、構造ネジなどで、下部側がCLTパネル3に上方から挿し込まれ、上部側がCLTパネル3の上面よりも上方に突出し、RCスラブ2のコンクリート21に定着している。構造ネジは、CLTパネル3に対して斜め方向から挿し込まれていてもよい。
【0024】
本実施形態による床構造の施工方法について説明する。本実施形態による床構造の施工方法は、CLTパネル3を設置するCLTパネル設置工程と、RCスラブ2を施工するRCスラブ施工工程と、シアキー5を設置するシアキー設置工程と、を有している。CLTパネル設置工程は、RCスラブ施工工程に先行して行われる。シアキー設置工程は、CLTパネル設置工程の前、すなわちCLTパネル3を設置位置に設置する前に、CLTパネル3に設置してもよいし、CLTパネル設置工程の後、すなわちCLTパネル3を設置位置に設置した後に行われてもよい。
【0025】
CLTパネル設置工程では、CLTパネル3の縁部3aを梁4の切り欠き部41にはめ込み、CLTパネル3を設置位置に設置する。CLTパネル3を支持する仮設サポートを設けてもよい。
【0026】
RCスラブ施工工程では、CLTパネル3の上方にRCスラブ2の鉄筋27を設置する配筋工程と、配筋工程の後に、RCスラブ2のコンクリート21を打設するコンクリート打設工程と、を有している。RCスラブ施工工程では、CLTパネル3をRCスラブ2の下面の型枠として利用する。配筋工程、コンクリート打設工程を行い、コンクリートを所定期間養生させることで床構造が構築される。シアキー設置工程は、配筋工程と前後して行われてもよい。
【0027】
第1実施形態による床構造1および床構造の施工方法の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による床構造1では、RCスラブ2が構造物の構造体として設けられることにより、CLTパネル3を構造物の主要構造部としてではなく、防振材や、遮音材、仕上げ材として設けることができる。CLTパネル3が構造物の主要構造部ではないことにより、耐火構造物の場合もCLTパネル3に耐火被覆材を設ける必要がない。また、CLTパネル3が耐火被覆材に覆われないことにより、表し仕上げの仕上げ材として露出した状態で設置することができる。このように、耐火被覆材を設ける必要が無いことにより、床厚を抑えることができるとともに、床構造1を容易に施工することができる。
【0028】
上記の本実施形態による床構造1では、CLTパネル3とRCスラブ2との間に設けられたシアキー5を有している。このような構成とすることにより、CLTパネル3のみでなく、CLTパネル3とRCスラブ2とが一体化した合成床として、防振性能および遮音性能を向上させることができる。また、RCスラブ2の長期たわみを抑える効果も期待できる。
【0029】
上記の本実施形態による床構造1では、CLTパネル3の端部は、RCスラブ2を支持する梁4に形成された切り欠き部41に嵌め込まれている。このような構成とすることにより、CLTパネル3の端部をRCスラブ2に支持させることができる。また、CLTパネル3の端部が露出しないため、意匠性を良くすることができる。
【0030】
また、第1実施形態による床構造の施工方法では、RCスラブ施工工程では、CLTパネル設置工程で設置されたCLTパネル3を型枠として使用する。このようにすることにより、RCスラブ2の型枠の設置、脱型を容易にすることができる。
【0031】
(他の実施形態)
次に、他の実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0032】
(第2実施形態)
図3および
図4に示すように、第2実施形態による床構造1Bでは、RCスラブ2の鉄筋にトラス筋22が用いられている。トラス筋22は、下側に位置する2本のボトム筋23と、上側に位置するトップ筋24と、ボトム筋23およびトップ筋24に接合される2本のラチス筋25と、を有している。2本のボトム筋23は、水平方向に間隔をあけて平行に配置される。トップ筋24は、2本のボトム筋23と平行となる向きに配置され、2本のボトム筋23の略中央の上方に位置している。ラチス筋25は、波形に折り曲げられた鉄筋で、一方のボトム筋23とトップ筋24との間、他方のボトム筋23とトップ筋24との間のそれぞれにトラスの形状で配置されている。トラス筋22は、RCスラブ2に複数配置される。
【0033】
シアキー5Bは、鉄筋や棒状の鋼材で、U字形状に曲げられている。シアキー5Bは、U字形が下側に開口する向きに配置される。シアキー5Bは、下部側がCLTパネル3に上方から挿し込まれる。シアキー5Bは、トラス筋22よりも上下方向の寸法が大きくなるように設計されている。また、シアキー5Bは、CLTパネル3に挿し込まれた状態のCLTパネル3の上面から上端部までの長さがトラス筋22の上下方向の長さよりも大きくなるように設計されている。
【0034】
トラス筋22は、CLTパネル3に設置されたシアキー5Bの上に重なって配置される。すなわち、シアキー5Bは、RCスラブ2の配筋(トラス筋22)のためのスペーサを兼ねている。トラス筋22のトップ筋24がシアキー5Bの上端部の角部51の上に重なり、トラス筋22の2つのボトム筋23がシアキー5Bを両側から挟むように配置される。ボトム筋23は、CLTパネル3の上方に間隔をあけて配置される。
【0035】
上記の第2実施形態による床構造1Bでは、第1実施形態と同様の効果を奏する。第2実施形態による床構造1Bでは、シアキー5Bは、RCスラブ2の配筋(トラス筋22)のためのスペーサを兼ねている。このような構成とすることにより、RCスラブ2の配筋のスペーサを別途設ける必要が無く、施工を容易に行うことができるとともに、部品点数を減らすことができて管理を容易にすることができる。
【0036】
(第3実施形態)
図5に示すように、第3実施形態による床構造1Cでは、CLTパネル3がRCスラブ2から取り外し可能に構成されている。RCスラブ2には、インサート26が埋設されている。
図5では、RCスラブ2の鉄筋を省略している。CLTパネル3は、インサート26に螺合するボルト61でRCスラブ2に固定されている。CLTパネル3は、ボルト61を外すことでRCスラブ2から取り外すことができる。また、RCスラブ2からCLTパネル3を外した後には、新たなCLTパネル3をRCスラブ2に取り付けることができる。すなわち、第2実施形態による床構造1Cでは、CLTパネル3がRCスラブ2に対して着脱可能である。
【0037】
CLTパネル3には、上下方向に貫通し、ボルト61が挿通される孔部31が形成されている。孔部31は、上側に位置する直線部32と、下側に位置するテーパー部33と、を有している。直線部32は、上下方向に延びる丸孔で、上下方向全体にわたって同じ径である。テーパー部33は、上下方向に延びる孔で、上側から下側に向かって漸次径が大きくなる。テーパー部33の上端部の開口33aは、直線部32の丸孔と同じ円形で、テーパー部33の下端部の開口33bは、上端部の開口33aよりも大きい円形である。テーパー部33は、円錐台状に形成されている。孔部31の下端部分には、孔部31を塞ぐ塞ぎ材64が設けられる。塞ぎ材64は、例えば木材などで製作され、下面が仕上げ面となっている。
【0038】
ボルト61は、CLTパネル3をRCスラブ2に固定している状態では、上部側がRCスラブ2のインサート26に螺合し、下部側がCLTパネル3の孔部31に配置されている。ボルト61の下端部は、テーパー部33の中に位置している。ボルト61には、下側からワッシャ62が取り付けられ、ワッシャ62の下からナット63が締結されている。ワッシャ62の外形は、上側から下側に向かって漸次径が大きくなる円錐台状に形成されている。ワッシャ62の外形は、テーパー部33に対応している。ワッシャ62は、テーパー部33にはめ込み可能である。ワッシャ62がテーパー部33にはめ込まれると、ワッシャ62の外周面がテーパー部33の内周面と面接触する。ボルト61にナット63を締結すると、ワッシャ62の外周面がテーパー部33の内周面を押してCLTパネル3を圧縮する。このとき、ワッシャ62がCLTパネル3を上方のRCスラブ2に向かって押すため、圧縮力が生じる。この圧縮力に比例する摩擦力がCLTパネル3とRCスラブ2がずれる時にせん断力を伝達するシアキーと同様の役割を果たす。
【0039】
第3実施形態では、梁4に第1実施形態と同様の切り欠き部41が形成されているが、CLTパネル3の縁部3aが嵌め込まれていない。切り欠き部41には、固定用木材7が嵌め込まれている。固定用木材7は、CLTパネル3側の端面7aが下側から上側に向かって漸次CLTパネル3に向かうテーパー面である。固定用木材7は、CLTパネル3側の面の下端部が梁4の側面の直上に位置し、下端部から上方に向かうに従って、漸次梁4の側面よりもCLTパネル3側に突出している。第3実施形態では、CLTパネル3の端面3fは、テーパー面であり、固定用木材7のCLTパネル3側の端面7aに対応している。CLTパネル3の端面3fは、下側から上側に向かって漸次平面視における中央に向かうテーパー面である。CLTパネル3の縁部3aは、取り付け釘などの固定具71によって固定用木材7に固定されている。このとき、CLTパネル3の端面3fおよび固定用木材7の端面7aがテーパー面であるため、ナット63を締め付けることにより、CLTパネル3の端面3fと固定用木材7の端面7aとの間にCLTパネル3の面に沿った方向(水平方向)に軸力を発生させ、その圧縮力に比例する摩擦力が固定具71を補う効果も期待できる。
【0040】
第3実施形態の床構造1CにおけるCLTパネル3の交換方法について説明する。まず、ナット63を緩めてインサート26からボルト61を外し、CLTパネル3からボルト61、ナット63、ワッシャ62を取り外し、固定具71も抜き取る。続いて、RCスラブ2からCLTパネル3を取り外す。このとき、固定用木材7もCLTパネル3とともにRCスラブ2から取り外す。続いて、新たな固定用木材7を梁4の切り欠き部41に設置する。続いて、新たなCLTパネル3をRCスラブ2の下側に配置し、CLTパネル3を固定用木材7に固定するとともに、ボルト61、ナット63、ワッシャ62を取り付けてCLTパネル3をRCスラブ2に固定する。このようにしてCLTパネル3を交換する。
【0041】
第3実施形態による床構造1Cは、第1実施形態と同様の効果を奏する。第3実施形態による床構造1Cでは、インサート26がシアキー5Bとして作用することができる。第3実施形態による床構造1Cでは、CLTパネル3は、RCスラブ2に対して着脱可能に構成されている。このような構成とすることにより、地震や火災などによりCLTパネル3が損傷した場合に、CLTパネル3を容易に交換することができる。また、CLTパネル3が損傷しても、CLTパネル3を交換することにより、CLTパネル3が有する性能(防振性能や遮音性能など)を維持することができる。
【0042】
なお、固定用木材7は、そのものが損傷しておらず、また、新たに設けるCLTパネル3を固定する固定具71の位置を元の位置とずらすことができれば、交換せずに再利用することが可能である。
【0043】
(第4実施形態)
図6に示すように、第4実施形態による床構造1Dは、梁4Dが鉄骨梁の場合に採用される。第4実施形態による床構造1Dでは、CLTパネル3Dの上面3bが梁4Dの上端面4aと同じ高さに位置し、CLTパネル3Dの下面3cが梁4Dの上下方向の中間部の高さに位置している。梁4DおよびCLTパネル3Dの上にRCスラブ2が配置されている。本実施形態の鉄骨梁は、H形鋼である。CLTパネル3Dの上面3bは、鉄骨梁の上フランジ42の上面と同じ高さに位置している。CLTパネル3Dの下面3cは、梁4Dのウェブ43の上下方向の中間部の高さに位置している。なお、本実施形態では、CLTパネル3Dの上面3bの高さは、梁4Dの上端面4aと同じであるが、
図7に示すように、梁4Dの上端面4aと異なる高さであってもよい。
【0044】
梁4Dの上部側で、CLTパネル3Dが設けられる高さ範囲は、コンクリートに埋設されている。梁4Dの上部側を埋設するコンクリートを梁コンクリート45する。梁コンクリート45の上端は、梁4Dの上端面4a(上フランジ42の上端面)と同じ高さとなっている。梁コンクリート45の上には、RCスラブ2が設けられている。
【0045】
梁コンクリート45の側方には、CLTパネル3Dが配置される。梁コンクリート45の側面とCLTパネル3Dの縁部3aとは、対向している。CLTパネル3Dの縁部3aは、上部側が下部側よりも側方(梁コンクリート45側)に突出している。CLTパネル3Dの縁部3aにおける上部側の突出する部分を突出部34とする。梁コンクリート45には、CLTパネル3Dの端部の突出部34が嵌め込まれる切り欠き部41Dが形成されている。第4実施形態では、CLTパネル3Dの縁部3aの突出部34が梁4Dのコンクリートに覆われている。CLTパネル3Dの下面3cは、下方に表し仕上げとして露出している。梁4Dにおける梁コンクリート45で覆われていない下部側には、耐火被覆材(不図示)が設けられる。
【0046】
第4実施形態による床施工方法では、CLTパネル設置工程において、梁コンクリート45の下側の型枠を設置する。梁コンクリート45の下側の型枠81は、梁4D(鉄骨梁)に支持させてもよい。
図6では、ウェブ43の片側のみに梁コンクリート45の下側の型枠81を表示している。梁コンクリート45の下側の型枠81と連続するように、CLTパネル3Dを設置する。本実施形態では、CLTパネル3Dの縁部3aを梁コンクリート45の側方の型枠に利用する。CLTパネル3Dを支持する仮設サポート82を設ける。続いて、梁コンクリート45を打設する梁コンクリート施工工程を行う。続いて、RCスラブ施工工程を行う。
【0047】
梁コンクリート施工工程の後に梁4Dにおける梁コンクリート45で覆われていない下部側に耐火被覆材を設ける耐火被覆工程を行う。本実施形態では、CLTパネル3Dと梁4Dとの間に梁コンクリート45が設けられ、CLTパネル3Dと梁4Dとが接触していない。これにより、CLTパネル3Dが耐火認定に影響することが無い。耐火被覆工程は、梁コンクリート45が硬化し、型枠81および仮設サポート82を取り外した後に、梁4Dにおける梁コンクリート45で覆われていない下部側に耐火被覆材を設ければよい。
【0048】
第4実施形態による床施工方法では、RCスラブ2のコンクリートと梁コンクリート45とを一体に打設してもよい。また、
図8に示すように、梁コンクリート45の下側の型枠81と仮設サポート82とは、一体化して兼用できるようにしてもよい。
【0049】
第4実施形態による床構造1Dは、梁4Dが鉄骨梁の場合も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0050】
(第5実施形態)
図9に示すように、第5実施形態による床構造1Eは、梁4Eが鉄骨梁の場合に採用される。第5実施形態による床構造1Eでは、CLTパネル3Eが梁4Eの上部に配置されている。梁4Eは、耐火被覆材48で覆われていて、CLTパネル3Eは、梁4Eの上面を被覆する耐火被覆材48aの上に配置されている。CLTパネル3Eの上にRCスラブ2が配置されている。
【0051】
梁4Eの上フランジ42には、上方に突出するようにスタッド46が接合されている。スタッド46の周りには、CLTパネル3Eが配置されず、コンクリートが設けられる。上フランジ42の上にスタッド46の周りに設けられるコンクリートを梁上コンクリート47とする。梁上コンクリート47は、RCスラブ2のコンクリートと一体に設けられる。スタッド46は、梁4EとRCスラブ2のシアキーとして設けられる。スタッド46が設けられることにより、梁4E(鉄骨梁)とRCスラブ2の合成効果を見込むことが可能となる。
【0052】
第5実施形態による床構造の施工方法では、CLTパネル設置工程において、CLTパネル3Eをその縁部3aが梁4Eの上に載置されるように設置する。CLTパネル3Eの端面3dが梁上コンクリート47の側部の型枠を兼ねている。続いて、RCスラブ施工工程を行う。RCスラブ2の配筋を行ったのち、RCスラブ2のコンクリートと梁上コンクリート47とを一体に打設する。
【0053】
第5実施形態による床構造1Eは、梁4Eが鉄骨梁の場合も、第1実施形態と同様の効果を奏する。また、第4実施形態による床構造の施工方法では、梁コンクリート45の施工後に梁4Dにおける梁コンクリート45で覆われていない下部側に耐火被覆材が設ける必要がある。これに対し、第5実施形態による床構造の施工方法は、第4実施形態とは異なり、耐火被覆材の施工を梁上コンクリート47の施工よりも前の先施工とする工法となる。これにより、第5実施形態による床構造の施工方法は、梁4EにCLTパネル3Eを直接支持させた上でコンクリート打設を行うことができ、第4実施形態のような仮設サポート82(
図6参照)を設ける必要がない。
【0054】
本発明のRCスラブとCLTパネルとを有する床構造について、遮音性能測定試験、静的たわみ測定試験、シアキーせん断試験、床衝撃音遮断性測定、および実際に設置された建物における遮音性能測定試験を行った。以下では、各測試験について説明する。以下の記載における「床版」、「試験床版」とは、本発明の床構造の床版である。
【0055】
(遮音性能測定試験)
遮音性能測定試験では、床衝撃音遮断性能、床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験を行った。
【0056】
(床衝撃音遮断性能の測定試験)
床衝撃音遮断性能の測定試験は、(一財)日本建築総合試験所(大阪府吹田市)で実施した。
図10に示すような、上下に配置されている上側の残響室(第2残響室、V=178.5m
2)、下側の残響室(第4残響室、V=134.2m
2)を使用し、両残響室間の開口に本発明の床構造の試験体を設置して試験を行った。
図11に、上側の残響室の平面図を示す。図中のS1からS5は、加振点であり、対角五点に設けた。
図12に、下側の残響室の平面図を示す。R1からR5は、受音点(測定点)である。
図12には、受音点の床面からの高さも記載した。
【0057】
試験として、軽量床衝撃音遮断性能(タッピングマシン)および重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)の試験を行った。
【0058】
(1)軽量床衝撃音遮断性能
試験は、ISO10140-3 “Acoustics-Laboratory measurement of sound insulation of building elements-Part3:Measurement of impact sound insulation”に基づき、標準軽量衝撃限(タッピングマシン)による規準化床衝撃音レベルの測定を行う(加振点及び測定点は、
図11および
図12参照)。測定機器系統は、以下である。加振装置は、標準軽量衝撃源(タッピングマシン、B&K Type-3204)である。受音側装置は、マイクロホン(小野測器 MI-1233)、プリアンプ(小野測器 MI-3110)、多チャンネル信号分析器(小野測器 DS-2100)、制御用PC(東芝 DynaBook)である。
【0059】
次の手順で規準化軽量床衝撃音レベルを求める。
(a) 各加振点においてタッピングマシンにより試験床版を加振し、第4残響室に設定
した5か所の受音点に於いて等価音圧レベルを測定する。
(b) 5か所の受音点で得られた等価音圧レベル値をエネルギ平均する。
(c) 上記(a)(b)の手順で5か所の加振点に対するエネルギ平均値をそれぞれ求める。それらの値を算術平均することで軽量床衝撃音レベルを算出する。
(d) 第4残響室の残響時間から同室の等価吸音面積を求め、基準等価吸音面積(10m2)との関係から、基準化軽量床衝撃音レベルを算出する。
測定周波数は中心周波数50~500Hzの1/3オクターブ帯域とし、その結果から中心周波数63~4kHzオクターブ帯域の値を算出する。
【0060】
(2)重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)
試験は、ISO10140-3“Acoustics-Laboratory measurement of sound insulation of building elements-Part 3:Measurement of impact Sound insulation”に準じて、JIS A1418-2:2000「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法-第2部:標準重量衝撃限による方法:に規定される衝撃力特性(1)の標準重量床衝撃源(タイヤ衝撃源)による重量床衝撃音レベルの測定を行う(加振点及び測定点は、
図11および
図12参照)。測定機器系統は、以下である。加振装置は、標準軽量衝撃源(タイヤ衝撃源、さつき製作所 T型)である。受音側装置は、マイクロホン(小野測器 MI-1233)、プリアンプ(小野測器 MI-3110)、多チャンネル信号分析器(小野測器 DS-2100)、制御用PC(東芝 DynaBook)である。
【0061】
次の手順で重量床衝撃音レベルを求める。
(a) 各加振点においてタイヤ衝撃源により試験床版を加振し、第4残響室に設定した5か所の受音点に於いて最大音圧レベル(動特性F)を測定する。
(b) 5か所の受音点で得られた最大音圧レベル値をエネルギ平均する。
(c) 上記(a)(b)の手順で5加振点に対するエネルギ平均値をそれぞれ求める。それらの値を算術平均することで重量床衝撃音レベルを算出する。
測定周波数は中心周波数20~630Hzの1/3オクターブ帯域とし、その結果から中心周波数31.5~500Hzオクターブ帯域の値を算出する。
【0062】
(床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験)
床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験は、(一財)日本建築総合試験所(大阪府吹田市)で実施した。床衝撃音遮断性能の測定試験と同様に、上下に配置されている第2残響室、第4残響室を用い、両室間の開口に試験体を設置して行う。
【0063】
床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験の測定機器系統図を
図13に示す。本試験では、インパクトハンマはPCB 0860D20、IPC POWER UINITはPCB MODEL 480E09、加振加速度ピックアップは小野測器 NP-2130、チャージアンプは小野測器 CH-1200、多チャンネル信号分析器(小野測器 DS-2100)、制御用PC(東芝 DynaBook)である。
【0064】
インピーダンス/固有振動数は、次の手順により求める。
(a)試験床版に加速度ピックアップを固定、その近傍をインパクトハンマで加振する。インパクトハンマから出力される加振力及び試験床版に生じる加速度を測定する。インパクトハンマはPCB製086D20を用い、ヘッドはミディアム(衝撃周波数約200Hz)とする。
(b)加振力及び加速度を分析器に入力し次の2つの解析を行ってインピーダンスを求める。分析のサンプリング周波数は12.8kHz、フレーム長は1.28秒とする。
【0065】
・衝撃時間内応答インピーダンス
衝撃時間内応答インピーダンスの考え方を
図14に示す。
図14に示す衝撃時間の範囲が対象となる。衝撃時間内における加振力及び振動速度時間波形の2乗積分値の比の平方根をとり、その常用対数を20倍して衝撃時間内応答インピーダンスを求める。各加振点に対して3回の測定を行い、その結果を算術平均する。衝撃時間内応答インピーダンスはその算出方法から周波数によらず一定の値を示し、主に床衝撃音の検討に用いられる。
・全時間応答インピーダンス/固有振動数
加振力及び振動速度の時間波形をフーリエ変換し、周波数領域に於いて加振力を振動速度で除してインピーダンスを求める。さらに基準インピーダンスで除して対数をとり20倍することでインピーダンスレベルが求められる。3回の測定を行い、その平均を取る。全時間応答インピーダンスは、周波数特性を有し、スラブのモード特性などを観測することができる。全時間応答インピーダンスの特性から、最も低い周波数での明確なディップ位置が固有振動数と判断する。
【0066】
(静的たわみ測定試験、シアキーせん断試験)
静的たわみ測定試験では、
図15に示すように、架台102の上に試験体となる試験床版101を架設し、試験床版101の上に載荷板を載置する。
図15では、載荷板による載荷を符号103で示す。図中の符号104は、アングルである。載荷後、架台102のみの変位、架台102および試験体全体の変位を測定し、架台102および試験体全体の変位から架台102のみの変位を引くことで、試験体のみの変位を測定する。
図16に、変位測定位置(X1-X5)を示す。変位測定位置の両側の四角形は載荷板103を示し、H形は、アングルを示す。載荷板は、RCスラブのコンクリート打設時に作成した。載荷板は、サイズが600mm×600mm×100mm、重量が83kgである。載荷板は、6枚で500kg、12枚で1000kgとなる。載荷板には吊り具を取り付け、載荷板をクレーンで試験体の上に載せる。
【0067】
図17に、遮音性能測定試験、静的たわみ測定試験、シアキーせん断試験に使用する試験体1-5を示す。試験では、1つの試験体に対して、4辺支持された形態と2辺支持された形態の2つの形態についてそれぞれ試験した。シアキーについては後述する。
【0068】
図18(a)には試験体1-3の平面図を示す。
図18(b)には、
図18(a)のX-X´線断面図、
図18(c)には、
図18(a)のY-Y´線断面図、
図18(d)には、試験体1-3の立面図(側面図)を示す。
【0069】
図19(a)には試験体4の平面図を示す。
図19(b)には、
図19(a)のX-X´線断面図、
図19(c)には、
図19(a)のY-Y´線断面図、
図19(d)には、試験体4の立面図(側面図)を示す。
【0070】
図20(a)には試験体5の平面図を示す。
図20(b)には、
図20(a)のX-X´線断面図、
図20(c)には、
図20(a)のY-Y´線断面図、
図20(d)には、試験体5の立面図(側面図)を示す。
【0071】
シアキーの割り付けのパターンは、
図21-24の4パターンである。
図21のシアキー割り付けパターンは、試験体1のシアキーの割り付けパターンAである。
図22のシアキー割り付けパターンは、試験体2のシアキーの割り付けパターンBである。
図23のシアキー割り付けパターンは、試験体3のシアキーの割り付けパターンCである。
図24のシアキー割り付けパターンは、試験体4のシアキーの割り付けパターンDである。試験体4は、試験体1に切り欠きを設けた形態である。試験体5にはCLTパネルを設けていない。
【0072】
図25は、試験体3に使用されるシアキー、CLC8×160を示している。試験体3では、
図25(d)および
図25(e)に示すように、シアキーを斜め(-45°、-135°)に設けている。
図26は、ラグスクリューボルトのシアキーを示す。
図26(d)は、試験体1および試験体2に使用されるシアキー、ラグスクリューボルトM16を示す。
【0073】
図27には、試験体1b-4b共通の固有振動数および歪み測定位置を示す。
図27(c)では、RCスラブ2の上に合計1000kgの載荷板103が載置されている。
図28(a)は、試験体1b-3b共通の衝撃インピーダンスの測定位置を示し、
図28(b)は、試験体4bの衝撃インピーダンスの測定位置を示す。
【0074】
図29に試験体ごとの遮音性能測定試験、静的たわみ測定試験の結果(LH(重量床衝撃音)、たわみ量)を示し、
図30にシアキーごとの剛性および耐力を示し、
図31に、試験後のシアキーの様子を示す。
図32のグラフに試験体ごとのオクターブバンド中心周波数と床衝撃音レベルとの関係を示し、
図33のグラフに試験体ごとの変位と荷重との関係を示す。
【0075】
図29および
図32より、CLTパネル(150mm)を設けることにより、LH(重量床衝撃音)を5db小さくできることがわかる。
図29より、CLTパネル(150mm)を設けることによりたわみ量を小さくできることがわかる。
図30、
図31および
図33に示すように、シアキーを設けることにより、RCスラブとCLTパネルの打継面におけるせん断剛性および耐力を把握できる。
【0076】
(本発明による床構造が実際に設置された建物における遮音性能測定試験)
試験は、建物(住宅)の1、2階を使用している。建物の2階には、床として、本発明による床構造の床版(RCスラブ、CLTパネルの合成床)を設けたエリア、およびFR合成床(RCスラブ、プレキャストコンクリート板)を設けたエリアがある。その直下の1階には、仮設壁を設置する。建物の2階で、重量衝撃音打撃、軽量衝撃音打撃を行い、その直下の1階で測定を行う。
【0077】
同じ建物において衝撃音打撃を2階の床のコンクリート素面(RCスラブの上面)にて実施する遮音性能測定試験と、衝撃音打撃を2階の床の仕上げ面にて実施する遮音性能測定試験の2つを行った。2階の仕上げ面とは、2階のRCスラブの上に設けた乾式二重床の上面である。
【0078】
(1)2階のコンクリート素面にて衝撃音打撃を行った遮音性能測定試験について
以下では、2階のコンクリート素面にて衝撃音打撃を行った遮音性能測定試験を「遮音性能測定試験(コンクリート素面)」と表記することがある。遮音性能測定試験(コンクリート素面)では、重量衝撃音打撃を行い、遮音性能を測定する。
【0079】
図34に遮音性能測定試験(コンクリート素面)を行う建物の2階の平面図を示し、
図34に1階の平面図を示す。
図34に示す、2階の床のうち、通り芯1~3の間、かつ通り芯A~Cの間の範囲には本発明による床構造の床版(RCスラブ、CLTパネルの合成床)が設けられ、これ以外にはFR合成床(RCスラブ、プレキャストコンクリート板)が設けられている。
【0080】
図34の2階平面図には、重量衝撃音打撃位置を白抜きの丸で示す。
図35の1階平面図には、仮設壁施工位置図を示す。測定は、直下の1階集会室で行った。測定は4つのエリア(測定No.1~測定No.4)で行った。
【0081】
測定No.1は、音源室(重量衝撃音打撃を行う部屋)が2階の居室であり、その直下の1階の集会所が受音室(測定を行う部屋)である。測定No.1の2階の床は、RCスラブ(厚さ150mm)、CLTパネル(厚さ150mm)の床版である。
【0082】
測定No.2は、音源室(が測定Nо.1とは異なる2階の居室であり、その直下の1階の集会所が受音室である。測定No.2の2階の床は、RCスラブ(厚さ150mm)、CLTパネル(厚さ150mm)の床版である。
【0083】
測定No.3および測定No.4は、音源室が測定Nо.1および測定Nо.2とは異なる2階の居室であり、その直下の1階の居室が受音室である。測定No.3の測定エリアは、測定No.4の測定エリアよりも小さい範囲である。測定No.3および測定No.4の2階の床は、RCスラブ(200mm)とプレキャストコンクリート板の床版(FR合成床)であり、測定No.1および測定No.2と比較検討するために測定した。
【0084】
測定領域が他の領域と連続し、広い空間の一部となる場合、衝撃音が広範囲に広がり測定値が小さくなることが想定されるため、測定No.1、測定No.2の1階の領域の周囲に仮設壁を設けた。仮設壁は、
図35に破線および符号105で示す。
【0085】
(重量床衝撃音遮断性能)
重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)の試験を行う。重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)の測定については、上記の床衝撃音遮断性能の測定試験の(2)重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)と同様に行う。タイヤ衝撃源による加振は、2階の床版に行い、2階に設定した5か所の受音点に於いて最大音圧レベル(動特性F)を測定する。
【0086】
(床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験)
床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験は、上記の床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験と同様に行う。
【0087】
図36に、測定番号ごとの重量床衝撃音遮断性能および衝撃インピーダンスを示す。
図37に測定Nо.1の測定結果を示し、
図38に測定Nо.2の測定結果を示し、
図39に測定Nо.3の測定結果を示し、
図40に測定Nо.4の測定結果を示す。
【0088】
(2)2階の仕上げ面にて衝撃音打撃を行った遮音性能測定試験について
以下では、2階の仕上げ面にて衝撃音打撃を行った遮音性能測定試験を「遮音性能測定試験(仕上げ面)」と表記することがある。遮音性能測定試験(仕上げ面)では、軽量衝撃音打撃および重量衝撃音打撃を行い、遮音性能を測定する。
【0089】
図41に遮音性能測定試験(仕上げ面)を行う建物の2階の平面図を示す。遮音性能測定試験(仕上げ面)は、上述しているように、遮音性能測定試験(コンクリート素面)と同じ建物で行われた。
図41の2階平面図には、軽量・重量衝撃音打撃位置を白抜きの丸で示す。
【0090】
測定No.3の測定エリアは、測定No.4の測定エリアよりも小さい範囲である。測定No.3および測定No.4の2階の床は、RCスラブ(200mm)とプレキャストコンクリート板の床版(FR合成床)であり、測定No.1および測定No.2と比較検討するために測定した。
【0091】
(軽量床衝撃音遮断性能)
軽量床衝撃音遮断性能(タッピングマシン)の試験を行う。軽量床衝撃音遮断性能(タッピングマシン)の試験は、上記の床衝撃音遮断性能の測定試験の(1)軽量床衝撃音遮断性能の試験と同様に行う。
【0092】
(重量床衝撃音遮断性能)
重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)の試験を行う。重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)の試験は、遮音性能測定試験(コンクリート素面)の重量床衝撃音遮断性能(タイヤ衝撃源)の試験と同様に行う。
【0093】
(床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験)
床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験は、上記の遮音性能測定試験(コンクリート素面)の床版のインピーダンス/固有振動数の測定試験と同様に行う。
【0094】
図42に、測定番号ごとの重量床衝撃音遮断性能および衝撃インピーダンスを示す。
図43に測定Nо.1の測定結果を示し、
図44に測定Nо.2の測定結果を示し、
図45に測定Nо.3の測定結果を示し、
図46に測定Nо.4の測定結果を示す。
【0095】
以上、本発明による床構造および床構造の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、CLTパネル3とRCスラブ2との間にシアキー5、5Bが設けられている。CLTパネル3とRCスラブ2との間にシアキー5,5Bが設けられていなくてもよい。また、上記の実施形態では、シアキー5Bは、RCスラブ2の配筋のための支保工やスペーサを兼ねているが、RCスラブ2の配筋のための支保工やスペーサとして利用されていなくてもよい。また、シアキー5Bは、トラス筋22のスペーサを兼ねているが、トラス筋22以外の配筋のスペーサとして利用されてもよい。
【0096】
また、上記の第1実施形態および第2実施形態では、CLTパネル3の縁部3aが梁4の切り欠き部41にはめ込まれる構造である。これに対し、梁4に切り欠き部41が形成されず、CLTパネル3Eの端面と梁4の側面とが対向する構造であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1,1B~1E 床構造
2 RCスラブ
3,3D,3E CLTパネル
3b 上面
41 切り欠き部
5,5B シアキー
22 トラス筋(配筋)