(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167604
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/265 20060101AFI20221027BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01L21/265 W
H01L21/02 Z
H01L21/265 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073507
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】汲田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】霜野 貴也
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 洋平
(57)【要約】
【課題】反り矯正のための溝を形成する手法とは異なる手法でSiCウェーハの反りを抑制する。
【解決手段】イオン注入を行う前に、SiCウェーハ1の裏面側に破砕層1aを形成することで下凸方向の反りを発生させる。これにより、イオン注入を行うことで上凸方向の反りを発生させることになっても、予め破砕層1aを形成することで発生させていた下凸方向の反りによってキャンセルすることが可能となって、上凸方向の反りを軽減できる。したがって、SiC半導体装置の製造工程における各工程において、反りの影響でSiCウェーハ1の搬送に支障をきたすことが抑制され、SiCウェーハ1を的確に搬送することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
表面および裏面を有する炭化珪素ウェーハ(1)を用意することと、
前記炭化珪素ウェーハの表面側において、少なくとも1回のイオン注入を含む半導体素子の形成プロセスを行って前記半導体素子を形成することと、を含み、
前記イオン注入の前に、前記炭化珪素ウェーハの裏面側に破砕層(1a)を形成することで、前記炭化珪素ウェーハの中央側が外縁側よりも前記裏面側に突き出す下凸方向の反りを発生させる、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体素子を形成することにおける前記形成プロセスでは、前記イオン注入を複数行い、前記下凸方向の反りを発生させることを、複数行われる前記イオン注入のうちの少なくとも1回のイオン注入の前に行う、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記下凸方向の反りを発生させることと複数行われる前記イオン注入のうちの1回もしくは複数回の前記イオン注入を行うこととを交互に繰り返し行う、請求項2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記下凸方向の反りを発生させることは、前記炭化珪素ウェーハの裏面側を研削することで前記破砕層を形成することである、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記下凸方向の反りを発生させることは、前記炭化珪素ウェーハの裏面側に対してブラスト処理を行うことで前記破砕層を形成することである、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記半導体素子を形成することは、前記炭化珪素ウェーハの表面側にトレンチを形成することを含み、
前記トレンチを形成することの後に、前記破砕層を除去することを行う、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高い電界破壊強度が得られるパワーデバイスの素材としてSiCが検討されている。SiCウェーハは、Siウェーハに比べて薄く、反りが発生しやすい。特に、半導体素子形成などのために繰り返しイオン注入を行うと、ウェーハの中央側が外縁側よりも上側、つまりウェーハの表面側に突き出すような上凸方向の反りを拡大させる。また、トレンチ形成を行う場合には、トレンチ形成によってウェーハの中央側が外縁側よりも下側、つまりウェーハの裏面側に突き出すような下凸方向の反りを発生させるが、それ以前に上凸方向の反りが大きくなりすぎていると、搬送に支障をきたすことがある。例えば、反りの影響で搬送前のウェーハ取り出しの際のサーチにおいてオリエンテーションフラットが的確に認識できなくて搬送できなかったり、ウェーハアライメントを的確に行えず搬送を的確に行えなかったりする。また、ウェーハを真空吸引チャックや真空吸引ステージに搭載する際に、反りの影響で真空吸引できないこともある。
【0003】
そこで、特許文献1において、SiCウェーハの反りを矯正する半導体基板の反り矯正方法が提案されている。具体的には、n+型単結晶SiCで構成される半導体基板の表面にn-型エピタキシャル層とp型エピタキシャル層とが積層されたSiC基板に、複数の溝を格子状に形成したのち熱処理を行うことで半導体基板の反りを矯正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の反り矯正方法では、複数の溝の形成後の反りは緩和できるが、それ以前には反りを緩和することができず、それ以前の工程での搬送に支障をきたす場合に対応できない。また、複数の溝のレイアウトを加味して半導体素子レイアウトやチップレイアウトを決める必要がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、反り矯正のための溝を形成する手法とは異なる手法でSiCウェーハの反りを抑制するSiC半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、SiC半導体装置の製造方法であって、表面および裏面を有するSiCウェーハ(1)を用意することと、SiCウェーハの表面側において、少なくとも1回のイオン注入を含む半導体素子の形成プロセスを行って半導体素子を形成することと、を含み、イオン注入の前に、半導体ウェーハの裏面側に破砕層(1a)を形成することで、SiCウェーハの中央側が外縁側よりも裏面側に突き出す下凸方向の反りを発生させる。
【0008】
このように、イオン注入を行う前に、SiCウェーハの裏面側に破砕層を形成することで下凸方向の反りを発生させている。このため、イオン注入を行うことで上凸方向の反りを発生させることになっても、予め破砕層を形成することで発生させていた下凸方向の反りによってキャンセルすることが可能となって、上凸方向の反りを軽減できる。したがって、SiC半導体装置の製造工程における各工程において、反りの影響でSiCウェーハの搬送に支障をきたすことが抑制され、SiCウェーハを的確に搬送することが可能となる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる半導体装置の製造工程中の断面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。ここでは、半導体素子としてトレンチゲート構造のMOSFETが形成されるSiC半導体装置の製造方法を例に挙げて説明するが、他の半導体素子が形成されるSiC半導体装置であっても良い。また、SiC半導体装置の製造工程のうちのMOSFETの形成プロセス自体は公知となっている手法と同じで良いため、ここでは主に反りの抑制に関わる工程について説明する。
【0013】
まず、
図1(a)に示すように、SiCウェーハ1を用意する。例えば、n型チャネルのMOSFETの場合であれば、SiCウェーハ1として高濃度のn型で構成されたものを用意する。SiCウェーハ1の厚みについては任意であるが、例えば350μm程度としている。そして、SiCウェーハ1より低濃度のn
-型で構成されるエピタキシャル層の形成工程等を行った後、もしくはエピタキシャル層の形成工程の前に、
図1(b)~(g)に示す工程を行う。
【0014】
すなわち、
図1(b)に示すように、SiCウェーハ1の表面側に保護テープ2を貼り付ける。保護テープ2については、SiCウェーハ1の表面を保護しつつ、後工程において容易に剥がすことができるものであればどのようなものでも良い。例えば、SiC半導体装置の素子形成後の最終段階で行われる裏面研削の際に用いられるバックグラインディング用テープなどを保護テープ2として用いることができる。
【0015】
この状態で、
図1(c)に示すように、SiCウェーハ1の表裏面を反転させ、保護テープ2側を下に向け、SiCウェーハ1のうち保護テープ2が貼り付けられていない裏面側を上に向ける。そして、図示しないグラインダーなどを用いてSiCウェーハ1の裏面側を研削することで、
図1(d)に示すように、SiCウェーハ1の裏面に破砕層1aを形成する。このような破砕層1aを形成することにより、SiCウェーハ1の中央側が外縁側よりも下側に突き出すような下凸方向の反りを発生させることができる。破砕層1aについては、裏面側を研削して荒らすことで、SiC単結晶に転移が発生したり、アモルファス化が生じることで形成される。
【0016】
このときのSiCウェーハ1の研削量および破砕層1aの表面粗さについては任意であるが、SiCウェーハ1の反りの抑制に適した研削量および表面粗さとしている。例えば、グラインダーに使用する砥石として2000番のものを用い、50μm程度研削することで破砕層1aを形成している。勿論、砥石の番手については任意であり、他の番手のものを用いても良いし、例えば2000番の砥石による研削を行った後に10000番の砥石による研削を行うなど、複数の番手の砥石を組み合わせて用いても良い。破砕層1aの表面粗さについては、使用する砥石の番手に応じて適宜調整できる。そして、破砕層1aを形成する際のSiCウェーハ1の研削量や破砕層1aの表面粗さに応じて、下凸方向の反り量を設定できる。なお、反り量は、例えば、平坦面を基準として、SiCウェーハ1の径に対するSiCウェーハ1の中央位置と外周端との高さの差として表される。
【0017】
続いて、
図1(e)に示すように、SiCウェーハ1の表裏面を再び反転させて保護テープ2側を上に向けたのち、
図1(f)に示すように、保護テープ2をSiCウェーハ1から剥離させる。そして、
図1(g)に示すようにSiCウェーハ1の表面を洗浄する。
【0018】
この後、まだエピタキシャル層の形成工程を行っていない場合であればエピタキシャル層の形成工程を行ったのちに、MOSFETを構成するための各種工程を行う。例えば、チャネル領域を形成するためのp型のベース領域の形成工程、ベース領域の上に配置される高濃度のn+型のソース領域や高濃度のp+型のコンタクト領域の形成工程をイオン注入などによって行う。また、ソース領域やベース領域を貫通してエピタキシャル層に達するトレンチの形成工程、トレンチ内壁面へのゲート絶縁膜の形成工程、トレンチ内におけるゲート絶縁膜上へのゲート電極形成工程を行うことでトレンチゲート構造を形成する。さらに、ゲート電極を覆う層間絶縁膜の形成工程、層間絶縁膜へのコンタクトホールの形成工程、コンタクトホールを通じてソース領域およびコンタクト領域に接続されるソース電極の形成工程、保護膜形成工程等を行う。これにより、SiCウェーハ1の表面側への各種工程が完了する。そして、SiCウェーハ1の裏面側を更にCMP(Chemical Mechanical Polishing)などによって研削研磨して、SiCウェーハ1を所定厚さ、例えば200μmまで薄厚化したのち、ドレイン電極を成膜する。このようにして、MOSFETが形成されるため、その後、MOSFETが形成されたSiCウェーハ1をダイシングすることでチップ単位に個片化し、SiC半導体装置が完成する。
【0019】
以上説明したようなSiC半導体装置の製造工程では、イオン注入によって例えばソース領域やコンタクト領域などの不純物層を形成する工程が含まれている。このイオン注入を行うこと、特に繰り返し行うことにより、SiCウェーハ1の中央側が外縁側よりも上側に突き出すような上凸方向の反りを発生させることになる。
【0020】
しかしながら、本実施形態では、イオン注入を行う前に、SiCウェーハ1の裏面側に破砕層1aを形成することで下凸方向の反りを発生させている。このため、イオン注入を行うことで上凸方向の反りを発生させることになっても、予め破砕層1aを形成することで発生させていた下凸方向の反りによってキャンセルすることが可能となって、上凸方向の反りを軽減できる。したがって、SiC半導体装置の製造工程における各工程において、反りの影響でSiCウェーハ1の搬送に支障をきたすことが抑制され、SiCウェーハ1を的確に搬送することが可能となる。例えば、イオン注入によって上凸方向の反りが50μm程度発生することを想定しているが、上凸方向の反りが200μm程度発生したとしても、的確にその反りを低減できることを確認している。
【0021】
なお、破砕層1aの形成に基づくSiCウェーハ1の下凸方向の反り量とイオン注入を行うによるSiCウェーハ1の上凸方向の反り量とが一致している必要はない。少なくとも破砕層1aの形成に基づいてSiCウェーハ1に下凸方向の反りを発生させられれば、イオン注入を行うことによるSiCウェーハ1の上凸方向の反りを軽減できる。
【0022】
また、本実施形態では、トレンチゲート構造のMOSFETを備えたSiC半導体装置としており、トレンチ形成が行われるが、トレンチ形成を行うことで下凸方向の反りが生じ、さらにトレンチ形成後に熱処理を行うと尚更に下凸方向の反りが大きくなる。例えば、トレンチ形成後の熱処理としては、注入されたイオンを活性化するための熱処理などが挙げられるが、特に1000℃を超えるような熱処理を行うと下凸方向の反りがより大きくなる。
【0023】
このため、トレンチ形成により、イオン注入を行うことによる上凸方向の反りをさらにキャンセルすることが可能となる。
【0024】
ここで、上凸方向の反りと下凸方向の反りの関係について説明する。上記したように、イオン注入を行うことにより、上凸方向の反りを発生させられる。一方、破砕層1aの形成により、下凸方向の反りを発生させられる。また、トレンチ形成後には、トレンチ形成および熱処理に基づいて下凸方向の反りを発生させられる。
【0025】
搬送に支障をきたすか否かは、SiC半導体装置の製造に適用される装置に依存する。例えば、(1)上凸方向の反りは支障をきたすが下凸方向の反りは搬送に支障をきたさない場合や、(2)下凸方向の反りも搬送に支障をきたすが下凸方向の反り量が上凸方向の反り量よりも大きな反り量であっても許容される場合がある。また、(3)下凸方向の反りも上凸方向の反りと同程度に搬送に支障をきたすが、下凸方向の反り量がイオン注入を行うことで発生する上凸方向の反り量より小さければあまり搬送に支障をきたさない場合もある。
【0026】
これら(1)~(3)のいずれの場合でも、破砕層1aを形成して下凸方向の反りを発生させておけば、イオン注入を行うことによる上凸方向の反りの少なくとも一部をキャンセルできる。
【0027】
例えば、(1)の場合については、下凸方向の反りが搬送に支障をきたさないため、破砕層1aの形成に基づく下凸方向の反り量がイオン注入を行うことによる反り量以上であれば、上凸方向の反りをすべてキャンセルできる。また、この場合、下凸方向の反り量がイオン注入を行うことによる反り量未満であっても、上凸方向の反りの一部をキャンセルできる。
【0028】
また、(2)、(3)において、下凸方向の反りが搬送に支障をきたし得る場合には、支障をきたさない程度の反り量となるように破砕層1aを形成する際のSiCウェーハ1の研削量および破砕層1aの表面粗さを調整する。その場合、破砕層1aの形成に基づいて発生させられる下凸方向の反り量がイオン注入を行うことによる上凸方向の反り量よりも小さくても、下凸方向の反りにより上凸方向の反りの一部をキャンセルできる。
【0029】
このように、(1)~(3)のいずれの場合であっても、破砕層1aを形成して下凸方向の反りを発生させておけば、イオン注入を行うことによる上凸方向の反りの少なくとも一部をキャンセルできる。このため、反り矯正のための溝を形成する手法と異なる手法でSiCウェーハ1の反りを抑制でき、より的確に搬送を行うことが可能となる。
【0030】
また、トレンチを形成する場合には、トレンチ形成および熱処理に基づいて下凸方向の反りを発生させることになる。(1)の場合は、下凸方向の反りの影響を考慮しなくてよいが、(2)、(3)の場合は、トレンチ形成および熱処理に基づく下凸方向の反りを考慮に入れて、破砕層1aの形成に基づく下凸方向の反り量を調整することもできる。
【0031】
例えば、(2)、(3)の場合は、破砕層1aの形成に基づく下凸方向の反り量について、イオン注入を行うことによる上凸方向の反りを軽減して搬送に支障をきたさない程度となるように設定する。加えて、破砕層1aの形成に基づく下凸方向の反り量について、トレンチ形成および熱処理に基づく下凸方向の反り量を加算した場合に、下凸方向の反り量が大きくなりすぎて搬送に支障をきたさないように設定する。ただし、この場合には、イオン注入を行うことによる上凸方向の反り分によって下凸方向の反りがキャンセルされる。このため、そのキャンセル分を差し引いて、破砕層1aの形成に基づく分とトレンチ形成および熱処理に基づく分とを加算したときの下凸方向の反り量が搬送に支障をきたさない程度となるようにすれば良い。
【0032】
また、トレンチ形成および熱処理に基づく下凸方向の反りが発生することを考慮して、例えばイオン注入やトレンチ形成を行った後の熱処理前に、破砕層1aを調整することもできる。つまり、破砕層1aを形成する際の研削量や破砕層1aの表面粗さを調整し、破砕層1aの形成に基づく下凸方向の反り量を調整前よりも低下させるようにしても良い。
【0033】
さらに、トレンチの形成によって下凸方向の反りを発生させられることから、トレンチの形成後に破砕層1aを除去する工程を行うようにしても良い。除去する方法は、研削、ウェットエッチングなど、どのような方法であっても良い。上記したように、ドレイン電極の形成前にSiCウェーハ1の裏面側を研削研磨するが、トレンチ形成後に高温での熱処理が行われると、より下凸方向の反りが大きくなるため、その熱処理が行われる前に破砕層1aを除去しておくと好ましい。この場合、破砕層1aを除去したとしても、イオン注入を行うことによる上凸方向の反りとトレンチの形成および熱処理に基づく下凸方向の反りとによって、反りがキャンセルされることになる。
【0034】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0035】
例えば、上記実施形態では、破砕層1aの形成を研削により行っているが、研削以外の手法を用いて破砕層1aを形成しても良い。一例を挙げると、研削に代えて、SiCウェーハ1の裏面に対してブラスト処理を行うことによって破砕層1aを形成しても良い。
【0036】
また、上記実施形態では、イオン注入の前に破砕層1aを形成しておくことについて説明したが、破砕層1aの形成を多段階に分けて行うようにしても良い。例えば、破砕層1aを形成したのち1回もしくは複数回のイオン注入を行ったら、破砕層1aを形成する際の研削量や破砕層1aの表面粗さを調整する、という工程を繰り返し行う。そして、破砕層1aを形成する際の研削量や破砕層1aの表面粗さを調整する際に、その後に行われるイオン注入に基づく上凸方向の反り量を考慮して調整を行うようにする。このようにすれば、下凸方向の反りと上凸方向の反りを少しずつ交互に繰り返し発生させられるため、工程ごとに見ると、下凸方向の反りもしくは上凸方向の反りが発生していても、小さな反り量となるようにできる。
【0037】
また、上記実施形態では、トレンチを形成するSiC半導体装置として、トレンチゲート構造のMOSFETを例に挙げて説明した。しかしながら、トレンチを形成しない場合でも、イオン注入や熱処理に基づく上凸方向の反りが発生するため、トレンチを形成しないSiC半導体装置に対しても本発明を適用できる。また、トレンチゲート構造以外のトレンチ、例えば素子が形成されたセル領域が外周耐圧領域よりも突き出すメサ構造を構成するために、外周領域を凹ませるトレンチを形成することがある。このようなメサ構造を構成するトレンチについても、下凸方向の反りを発生させる要因になるため、それを加味して破砕層1aの形成に基づく下凸方向の反りを調整すると好ましい。
【0038】
すなわち、SiCウェーハ1を用意し、これにイオン注入を含む半導体素子の形成プロセスを行うSiC半導体装置の製造方法において、イオン注入の前に破砕層1aを形成しておくことで、上記実施形態で示した効果を得ることができる。そして、イオン注入が複数回行われる場合には、破砕層1aの形成もイオン注入と交互に複数回に分けて行うようにしても良い。破砕層1aの形成の後に少なくとも1回のイオン注入が行われれば良く、イオン注入が最初に行われた後に破砕層1aの形成が行われ、その後に再びイオン注入が行われると言う順番であっても構わない。
【符号の説明】
【0039】
1 SiCウェーハ
1a 破砕層
2 保護テープ