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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167612
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】摩擦締結要素の作動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20221027BHJP
   F16D 25/08 20060101ALI20221027BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20221027BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
F16D28/00 A
F16D25/08 C
F16H25/22 M
F16H25/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073525
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】胡本 博史
【テーマコード(参考)】
3J057
3J062
【Fターム(参考)】
3J057AA07
3J057BB04
3J057GA49
3J057GB22
3J057GC11
3J057GE11
3J057GE13
3J057HH02
3J057JJ04
3J062AA02
3J062AB22
3J062AC07
3J062CD04
3J062CD22
3J062CD45
3J062CD47
(57)【要約】
【課題】摩擦締結要素の作動アクチュエータにおいて、エネルギ損失を抑制しつつ、摩擦締結要素の摩耗状態に応じた応答性の向上を図る。
【解決手段】
摩擦締結要素1の作動アクチュエータ2は、モータ21と、モータ21の回転力を直線運動に変換するねじ機構22の直線運動をピストン23に伝達する作動油が充填された油密状態の油充填室26とを有し、ねじ機構22はねじ軸22a上を軸方向に移動することで油充填室を介してピストン23に押圧力を伝達するナット22bとを有し、ピストン23のゼロクリアランス位置を検出すると共に、検出されたゼロクリアランス位置に基づいて複数の摩擦板13の摩耗量を算出する摩耗量算出手段30と、摩耗量に基づいてナット22bの軸方向位置を補正することでピストン23の所定の解放位置a1からゼロクリアランス位置までのストローク量を補正するストローク補正手段30とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムとハブの間に設けられて前記ドラムと前記ハブに交互に係合する複数の摩擦板を押圧して互いに締結させる摩擦締結要素の作動アクチュエータであって、
モータと、前記モータの回転力を直線運動に変換するねじ機構と、前記摩擦板を押圧するピストンと、前記ねじ機構の直線運動を前記ピストンに伝達する作動油が充填された油密状態の油充填室とを有し、
前記ねじ機構は、ねじ軸と、前記ねじ軸上を軸方向に移動すると共に前記油充填室を介して前記ピストンに押圧力を伝達するナットとを有するボールねじ機構で構成され、
前記ピストンが、前記ピストンによって前記摩擦板のクリアランスを詰めるゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置を検出すると共に、検出された前記ゼロクリアランス位置に基づいて前記複数の摩擦板の摩耗量を算出する摩耗量算出手段と、
前記摩耗量算出手段によって算出された前記摩耗量に基づいて、前記ピストンが所定の解放位置に位置するときの前記ナットの軸方向位置を補正することで、前記ピストンの前記所定の解放位置からゼロクリアランス位置までのストローク量を補正するストローク補正手段とを備える摩擦締結要素の作動アクチュエータ。
【請求項2】
前記ねじ機構は、
前記ねじ軸の軸線方向一方側に第1ピッチが形成された第1ピッチ領域と、
前記第1ピッチ領域に連続して前記ねじ軸の軸線方向他方側に第2ピッチが形成された第2ピッチ領域とを備えると共に、前記第2ピッチが前記第1ピッチより小さく形成されたピッチ可変ボールねじ機構で構成され、
前記第1ピッチと前記第2ピッチは、前記ゼロクリアランス位置で切り替わるように設定された請求項1に記載の摩擦締結要素の作動アクチュエータ。
【請求項3】
前記ピストン位置検出手段は、前記油充填室の油圧の立ち上がりで前記ピストンの位置を検出するように構成されている請求項1又は請求項2に記載の摩擦締結要素の作動アクチュエータ。
【請求項4】
前記ピストン位置検出手段は、油圧スイッチで構成されている請求項3に記載の摩擦締結要素の作動アクチュエータ。
【請求項5】
前記ピストン位置検出手段は、油圧センサで構成されている請求項3に記載の摩擦締結要素の作動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載される摩擦締結要素の作動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される摩擦締結要素は、例えば、エンジンなどの駆動源に連結されると共に複数のプラネタリギヤセットを備えた自動変速機に搭載されている。自動変速機は、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて複数の前進変速段と通例1段の後退速段とを達成するように構成されている。
【0003】
前記摩擦締結要素として、複数の摩擦板と、油圧室に油圧が供給されたときに複数の摩擦板を押圧して摩擦締結要素を締結するピストンとを備え、油圧作動のピストンを用いて摩擦締結要素の締結及び解放を行う摩擦締結要素が知られている。
【0004】
しかしながら、油圧室に供給される油圧は、エンジンによって駆動させられるオイルポンプにより生成されると共に、摩擦締結要素に対する作動油の給俳は、複数のソレノイドバルブを備えた油圧制御装置によって制御されることから、複数のソレノイドバルブ等からのオイル漏れが生じるため、非締結状態においてもオイルポンプを駆動させて油圧制御装置の油圧を保持するための駆動損失が生じ、エネルギ損失を引き起こす。
【0005】
これに対して、摩擦締結要素として、オイルポンプ及び複数のソレノイドバルブ等の油圧制御装置に代えて、電動モータと電動モータの回転運動を直線方向の運動に変換する変換機構と油密状態の油圧回路を構成する油圧ピストンとによって摩擦締結要素の締結及び解放を行うことで、非締結状態における油圧保持のため駆動損失の削減を図ることが考えられる。例えば特許文献1には、電動モータと、変換機構と、変換機構に接続されたマスタピストンと、マスタピストンが嵌合された油圧式マスタシリンダと、油圧式マスタシリンダに流体的に接続された油圧式スレーブシリンダと、スレーブシリンダに嵌合されると共に摩擦板を押圧するスレーブピストンとを備えた作動アクチュエータを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-514198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
変速時や発進時における摩擦締結要素の締結及び解放には、乗員へのショックの抑制や応答性の向上のために、摩擦締結要素を締結するときに、複数の摩擦板同士のクリアランスがゼロとなると共に、ピストンの位置をピストンが摩擦板を押圧することなく、先端が該摩擦板に接した状態もしくはほぼ接した状態(以下、「ゼロクリアランス状態」ともいう)となるゼロクリアランス位置に設定する場合がある。
【0008】
特許文献1の作動アクチュエータでは、電動モータの回転数を制御することで、ピストンの解放位置からゼロクリアランス位置までのストローク量を設定することが考えられる。
【0009】
しかしながら、複数の摩擦板は締結解放を繰り返すことによって各摩擦板の締結面に貼り付けられたフェイシングが摩耗して、ピストンのゼロクリアランス位置がフェイシング摩耗前の新品時に設定されていたピストンのゼロクリアランス位置よりも締結側にずれて、ピストンの締結制御に遅れが生じる虞がある。
【0010】
本発明は、エネルギ損失を抑制しつつ、摩擦締結要素の摩耗状態に応じた応答性の向上を図ることができる摩擦締結要素の作動アクチュエータを提供する。
【0011】
本発明は、ドラムとハブの間に設けられて前記ドラムと前記ハブに交互に係合する複数の摩擦板を押圧して互いに締結させる摩擦締結要素の作動アクチュエータであって、
モータと、前記モータの回転力を直線運動に変換するねじ機構と、前記摩擦板を押圧するピストンと、前記ねじ機構の直線運動を前記ピストンに伝達する作動油が充填された油密状態の油充填室とを有し、
前記ねじ機構は、ねじ軸と、前記ねじ軸上を軸方向に移動すると共に前記油充填室を介して前記ピストンに押圧力を伝達するナットとを有するボールねじ機構で構成され、
前記ピストンが、前記ピストンによって前記摩擦板のクリアランスを詰めるゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置を検出すると共に、検出された前記ゼロクリアランス位置に基づいて前記複数の摩擦板の摩耗量を算出する摩耗量算出手段と、
前記摩耗量算出手段によって算出された前記摩耗量に基づいて、前記ピストンが所定の解放位置に位置するときの前記ナットの軸方向位置を補正することで、前記ピストンの前記所定の解放位置からゼロクリアランス位置までのストローク量を補正するストローク補正手段とを備える摩擦締結要素の作動アクチュエータを提供する。
【0012】
本発明によれば、摩耗量算出手段によって算出された摩耗量に基づいてナットの軸方向位置を補正することで、摩擦締結要素の摩耗に応じてピストンの所定の解放位置からゼロクリアランス位置までのストローク量を補正することができるので、複数の摩擦板に摩耗が生じた場合においても、締結時の応答性の向上を図ることができる。
【0013】
具体的には、例えば、複数の摩擦板の摩耗によって、検出されたピストンのゼロクリアランス位置が予め設定されたゼロクリアランス位置よりも締結側にずれた場合は、解放位置からゼロクリアランス位置に延長が必要となったストローク分だけ解放状態におけるナットの軸方向位置を軸方向一方側(解放側)に補正することで、検出されたゼロクリアランス位置と予め設定されたゼロクリアランス位置とのずれを吸収できる。
【0014】
ねじ機構にすべりねじ機構を用いる場合に比べて接触面積を低減することができ、ねじ効率が向上することで、モータトルクが低減でき、モータを小型化できる。作動アクチュエータは、ボールねじ機構と油密状態の油充填室と、ピストンとによって構成されているので、非締結状態において油圧保持のために油圧ポンプを駆動させる場合に比べて、非締結状態における圧力保持のためのエネルギ損失が抑制できる。
【0015】
前記ねじ機構は、
前記ねじ軸の軸線方向一方側に第1ピッチが形成された第1ピッチ領域と、
前記第1ピッチ領域に連続して前記ねじ軸の軸線方向他方側に第2ピッチが形成された第2ピッチ領域とを備えると共に、
前記第2ピッチが前記第1ピッチより小さく形成されたピッチ可変ボールねじ機構で構成され、
前記第1ピッチと前記第2ピッチは、前記ゼロクリアランス位置で切り替わるように設定されてもよい。
【0016】
本構成によれば、 ピッチの異なる第1ピッチと第2ピッチを備えたピッチ可変ボールねじ機構を用いることで、モータを大型化することなく、ピストンの解放位置からゼロクリアランス位置に至るまでのストローク速度を速めると共に、ピストンのゼロクリアランス位置から完全締結位置に至るまでの押圧力を確保しながらストローク速度を低減することができる。その結果、摩擦締結要素の締結時における応答速度の向上と緻密な締結制御と締結に必要な押圧力の確保と実現される。
【0017】
例えば、第1ピッチを締結時における最大ストローク速度となるように設定し、第2ピッチを締結時における最大必要トルクとなるように設定することで、定格で最大回転数及び最大必要トルクを出力可能な大型なモータを搭載する場合に比べて、小さなモータを用いることができる。これにより、解放位置からゼロクリアランス位置に至るまでのピストンのストローク速度の向上とゼロクリアランス位置以降に必要な締結トルクを確保しつつ搭載性のよい小型なモータを用いることができる。
【0018】
前記ピストン位置検出手段は、前記油充填室の油圧の立ち上がりで検出されるように構成されてもよい。
【0019】
本構成によれば、油充填室の油圧は、ピストンが解放位置から締結側へ移動して摩擦板のクリアランスを詰めるゼロクリアランス位置で立ち上がるので、摩擦板の摩耗状態によって、ピストンの所定の解放位置から摩耗後のゼロクリアランス位置までのストローク量と、ピストンの所定の解放位置から新品時(摩耗前)のゼロクリアランス位置までのストローク量とにずれが生じた場合においても摩耗後ゼロクリアランス位置を正確に検出することができる。
【0020】
前記ピストン位置検出手段は、油圧スイッチで構成されてもよい。
【0021】
本構成によれば、ピストンのゼロクリアランス位置を摩擦板の締結による油圧の立ち上がりを、油圧スイッチによって検出するので、油圧センサ等を用いる場合に比べて安価な構成でゼロクリアランス位置を検出することができる。
【0022】
前記ピストン位置検出手段は、油圧センサで構成されてもよい。
【0023】
本構成によれば、ピストンのゼロクリアランス位置を摩擦板の締結による油圧の立ち上がりを、油圧センサによって検出するので、油圧スイッチを用いる場合に比べて緻密な制御性が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エネルギ損失を抑制しつつ、摩擦締結要素の摩耗状態に応じた応答性の向上を図ることができる摩擦締結要素の作動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る摩擦締結要素の作動アクチュエータの解放状態の模式図である。
図2】摩擦締結要素の作動アクチュエータのゼロクリアランス状態の模式図である。
図3】摩擦締結要素の作動アクチュエータの締結状態の模式図である。
図4】ナットの軸方向位置の補正によるピストンのストローク量の補正を説明する説明図である。
図5】ピストンのストロークに対応させたねじ軸のピッチを示す模式図である。
図6】摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図7】ピストンのストローク量を補正方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦締結要素1の作動アクチュエータ2の模式図であって、摩擦締結要素1の作動アクチュエータ2の解放状態が示されている。作動アクチュエータ2は、摩擦締結要素1の締結時における応答性を向上させるために、クラッチクリアランス(締結用ピストンとリテーニングプレートとの間の寸法から全摩擦板の厚さの総和を減じた値)を調整する機能を有する。摩擦締結要素1は、例えば、自動変速機(図示せず)に備えられる複数のクラッチやブレーキを構成され、作動アクチュエータ2は各摩擦締結要素に設けられている。
【0028】
摩擦締結要素1としてのクラッチは、円筒状のドラム11と、ドラム11より小径の円筒状のハブ12と、ドラム11とハブ12の間に軸方向に並べて配設されてドラム11とハブ12とに交互にスプライン係合された複数の摩擦板13と、複数の摩擦板13を押圧して互いに締結させる作動アクチュエータ2とを備える。複数の摩擦板13は、作動アクチュエータ2に備えられたピストン23よって押圧されることでクラッチ1が締結される。
【0029】
複数の摩擦板13のうち、ドラム11の内側に配設された複数の摩擦板13aは、ドラム11にスプライン係合されて軸方向に移動可能に、かつ、ドラム11と一体に回転可能に配置されている。ハブ12の外側に配設された複数の摩擦板13bは、ハブ12にスプライン係合されて軸方向に移動可能に、且つ、ハブ12と一体に回転可能に配置されている。ドラム11の摩擦板13aとハブ12の摩擦板13bは、交互に配置され、ハブ12の摩擦板13bの両面に設けられたフェイシング13cを介して、互いに対向している。複数の摩擦板13の軸方向他方側には、ドラム11の摩擦板13aと同様にドラム11にスプライン係合され、スナップリング14により軸方向一方側に対して抜け止めされたリテーニングプレート15が配設されている。
【0030】
ピストン23は、複数の摩擦板13の軸方向一方側に配置されると共に、油充填室26の一部を構成する第2シリンダ26bに軸方向に移動可能に嵌合されている。ピストン23の軸方向一方側には、第2シリンダ26bとピストン23とによって油圧室27が油密的に形成されている。
【0031】
油圧室27には、第2シリンダ26bに設けられた油路27aが接続されており、油路27aは、油圧管路26cを介して第1シリンダ26aの軸方向他方側に通じている。第1シリンダ26aの軸方向一方側には、第1ピストン24が嵌合されている。第2ピストン23の軸方向他方側には、第2ピストン23を軸方向一方側に付勢するリターンスプリング(図示せず)が設けられている。
【0032】
作動アクチュエータ2は、電動モータ21と、電動モータ21の回転力を直線運動に変換するねじ機構22と、ねじ機構22の直線運動が伝達されることで摩擦板13を押圧するピストン24cと、ねじ機構22の直線運動をピストン23に伝達する作動油が充填された油密状態の油充填室26とを有する。
【0033】
電動モータ21は、例えばブラシレスモータによって構成されている。ロータ(図示せず)の磁極に対向したステータ(図示せず)側には、モータ回転数センサ(例えば、ホール素子等の磁気センサ)35が配置されている。モータ回転数は、ホール素子からの位置検出信号に基づいて、一定周期の波形が合成され、その周期から回転数が算出される。モータ回転数センサ35によって検出された位置信号は、制御装置30に入力される(図6参照)。
【0034】
ねじ機構22は、例えばこま式のボール循環機構を備えたボールねじ装置である。ねじ機構22は、ねじ軸22aと、ねじ軸22aの回転に伴って軸線方向に移動するナット22bと、ねじ軸22aとナット22bとの間に介在される複数の転動体(図示せず)とを備える。本実施形態におけるねじ軸22aは、電動モータ21の回転軸によって構成されているが、電動モータ21の回転軸とギヤ等を介して動力が伝達されるように構成されてもよい。
【0035】
ねじ軸22aの外周面には、略半円弧形状のボール転動溝22cが螺旋状に形成されている。ボール転動溝22cは、ねじ軸22aの軸線方向の異なった位置において、ピッチが変化するように形成されている。本実施形態におけるねじ機構22は、ピッチ可変ボールねじ機構で構成されている。ねじ軸22aのピッチの詳細については後述する。
【0036】
ナット22bの内周面には、ねじ軸22aのボール転動溝22cと対向する略半円弧形状のナット転動溝(図示せず)が形成されている。ボールは、ボール転動溝22cおよびナット転動溝(図示せず)の間に配置される。これにより、ボール転動溝22cとナット転動溝とがボールを介して螺合され、電動モータ21によってねじ軸22aを回転させることによってボールが循環路を転動しながら循環してナット22bを軸方向に移動させる。
【0037】
ナット22bと油充填室26の一部を構成する後述の第1シリンダ24aに嵌合された第1ピストン24とは、連結部材25によって連結されている。ナット22bの軸線方向の移動に連動して、第1ピストン24が軸方向に移動するように構成されている。
【0038】
油充填室26は、ナット22bに連結部材25を介して接続された第1ピストン24が収容されている第1シリンダ26aと、複数の摩擦板13を押圧するピストン(第2ピストン)23が収容されている第2シリンダ26bと、第1及び第2シリンダ26a,24dを接続する油圧管路26cと、第1シリンダ26aに設けられた接続部26dを介して第1シリンダ26aに連通接続可能なリザーバタンク26eとを有している。本実施形態において第2ピストン23は、摩擦板13を押圧するピストン23に相当する。
【0039】
第1シリンダ26a、油圧管路26c、第2シリンダ26b及びリザーバタンク26e内には、作動油が充填されると共に、油密状態とされている。接続部26dには、第1シリンダ26a内の油圧がリザーバタンク26e内の油圧未満となった場合にのみ解放されるチェックバルブ26fが設けられている。リザーバタンク26eは、周囲の圧力に対して密閉されておらず、リザーバタンク26e内に存在する作動油は、大気圧を有している。第1シリンダ26a、油圧管路26c、第2シリンダ26b内の作動油は、ピストン23が解放位置にある状態においてリザーバタンク26e内の作動油とつり合った油密状態となるように設定されている。
【0040】
ねじ機構22の電動モータ21の回転に伴うナット22bの軸方向移動は、接続部材25を介して第1ピストン24に伝達されて第1ピストン24が軸方向移動すると、第1シリンダ26a内の作動油が油圧管路26cを介して第2シリンダ26b内に流入し、第2ピストン23が締結(軸方向他方)側にストロークする。
【0041】
図1では、摩擦締結要素1は、油圧室27から油圧が排出されて第2ピストン23がリターンスプリングの付勢力により反摩擦板13側に移動された解放状態で示されている。
【0042】
クラッチ1の締結時に、図1に示す解放状態で作動アクチュエータ2の電動モータ21を回転させてナット22bを締結側に締結側にストロークさせると、図2に示すように、第1ピストン24が第1シリンダ26a内を軸方向他方側に移動する。第1ピストン24の軸方向移動によって第1シリンダ26a内の作動油が油圧管路26cを介して第2シリンダ26b(油圧室27)内に流入し、第2ピストン23がリターンスプリングの付勢力に抗して摩擦板13側に移動する。
【0043】
ナット22bのストローク、より詳しくは、第2ピストン23の所定の解放位置a1に対応したねじ軸22a上のナット解放位置b1から、第2ピストン23によって摩擦板13間のクリアランスが詰められて第2ピストン23が摩擦板13を押圧することなく摩擦板13に接した状態もしくはほぼ接した状態であるゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置a2に対応したねじ軸22a上のナットゼロクリアランス位置b2までの第1ストロークL1によって油圧室27には、図4(a)に示すように、摩擦締結要素1の締結に必要な押圧力に対応した締結油圧P1よりも低く、リターンスプリングの付勢力に抗して第2ピストン23を摩擦板13側に移動させて、第2ピストン23を締結のためのストロークを終了させて、ゼロクリアランス位置a2に第2ピストン23を保持するための保持油圧P2が供給されている。換言すると、第2ピストン24bの解放位置a1からゼロクリアランス位置a2までのストローク中、油圧室27には保持油圧P2が供給されている。
【0044】
さらに、図2に示すゼロクリアランス状態でナット22bを締結側にストロークさせると、図3に示すように、第1ピストン24が第1シリンダ26a内を軸方向他方側にさらに移動する。第1ピストン24の軸方向移動によって第1シリンダ26a内の作動油が油圧管路26cを介して第2シリンダ26b(油圧室27)内に流入し、油圧室27内の油圧が高められて、第2ピストン23が摩擦板13を押し付けて、ドラム11に固定されたリテーニングプレート15と第2ピストン23との間に摩擦板13が挟み込まれて相対回転不能になることで、摩擦締結要素1が締結された締結状態となる。
【0045】
ナット22bのストローク、より詳しくは、ナットゼロクリアランス位置b2から、第2ピストン23が摩擦板13を押圧して摩擦締結要素1が締結状態となる締結位置a3に対応したねじ軸22a上のナット締結位置b3までの第2ストロークL2によって油圧室27には、図4(a)に示すように、摩擦締結要素1の締結に必要な押圧力に対応した締結油圧P1以上の油圧が供給されている。
【0046】
一方、摩擦締結要素1の解放時には、図3に示す締結状態でナット22bを解放側にストローク(ナット締結位置b3からナットゼロクリアランス位置b2にストローク)させると、図2に示すように、第2ピストン23が摩擦板13に接した状態もしくはほぼ接した状態で第2ピストン23による押圧力が解除されて、摩擦締結要素1がゼロクリアランス状態となる。
【0047】
さらに、図2に示すゼロクリアランス状態でナット22bを解放側にストローク(ナットゼロクリアランス位置b2からナット解放位置b1にストローク)させると、図1に示すように、第2ピストン23がリターンスプリングの付勢力により反摩擦板13側に移動して、摩擦締結要素1が解放状態となる。
【0048】
摩擦締結要素1は、締結時において、応答性の観点からピストン23を解放位置a1からゼロクリアランス位置a2までのストローク速度を高めることが望まれ、ゼロクリアランス位置a1から締結位置a3までは摩擦板13の締結に必要な押圧力を発生させつつ緻密な制御性のためにストローク速度を低減することが望まれる。
【0049】
このような要件を達成しようとした場合、摩擦締結要素1の第2ピストン23に要求されるストローク速度に対応する最大必要回転数と、ピストン23に要求される押圧力に対応する最大必要トルクを定格で出力可能な大出力のモータを用いることが考えられるが、モータの大出力化はモータが大型化することとなって、作動アクチュエータ2の搭載性が悪化する。
【0050】
これに対して、摩擦板1の作動アクチュエータ2は、モータを小型化しつつ、締結時における応答性の向上と押圧力の確保とを両立を図るためのねじ機構22を備えている。図5に示すように、ねじ機構22は、ピッチ可変ボールねじ機構によって構成されており、例えば、特許第4366215号に開示されている。ねじ機構22は、ねじ軸22aの軸線方向一方側に第1ピッチX11が形成された第1ピッチ領域X1と、第1ピッチ領域X1に連続すると共に軸方向他方側に第2ピッチX21が形成された第2ピッチ領域X2とを備える。第2ピッチX21は、第1ピッチX11よりも小さくなるように形成されている。本実施形態においては、特許第4366215号に開示されているように、ナット22bが、転動体転送溝を備えたボール保持部材(図示せず)と、ボール保持部材が回転可能に収容されるケース(図示せず)とによって構成されると共に、ねじ軸のピッチが変化するのに対応して、ボール保持部材がケースに対して回転する構成を備えている。
【0051】
ねじ軸22aに設けられたピッチX11,X21は、隣り合うねじ溝間の距離であって、本実施形態においてねじ軸22aが1条ねじで構成されているため、1ピッチはねじ軸22a(電動モータ21)が1回転したときにナット22bが軸方向に移動する距離と一致する。電動モータ21が1回転した時のナットのストローク量が、第1ピッチ領域X1のストローク量が第2ピッチ領域X2のストローク量よりも大きくなる。したがって、第1ピッチ領域X1でのナット22bのストローク速度は、第2ピッチ領域X2のナット22bのストローク速度よりも早くなるように設定されている。
【0052】
前述のように、第2ピストン23は、ナット22bのストロークによってストロークする。図2を参照しながら、ナット22bのストローク速度が変化する第1ピッチ領域X1及び第2ピッチ領域X2と、ピストン23のストローク速度との関係について説明する。ここでは、説明をわかりやすくするために、例えば、ナット22bのストローク量と第2ピストン23のストローク量を同じとして考える。
【0053】
第1ピッチ領域X1は、予め設定されている第2ピストン23の解放位置a1からゼロクリアランス位置a2までのストローク量L1と同じになるように設定されている。第2ピッチ領域X2は、第1ピッチ領域X1に連続して軸方向他方側に延びると共に、予め設定されているゼロクリアランス位置a2から締結位置a3までのストローク量以上となるように設定されている。
【0054】
第2ピストン23が所定の解放位置a1に位置する場合に対応するナット解放位置b1は、ナット22bの先端位置が第1ピッチ領域X1の軸方向一方側の端部に位置するように設定されている。第2ピストン23がゼロクリアランス位置a2に位置する場合に対応するナットゼロクリアランス位置b2は、破線で示すようにナット22bの先端位置が第1ピッチ領域X1と第2ピッチ領域X2の境界位置(第1ピッチ領域X1の軸方向他方側の端部かつ第2ピッチ領域X2の軸方向一方側の端部)Xに位置するように設定されている。換言すると、第2ピストン23のゼロクリアランス位置a2で、第1ピッチX11と第2ピッチX21が切り替わるように設定されている。
【0055】
第1ピッチ領域X1の軸方向一方側には、後述の摩擦板の摩耗時におけるゼロクリアランス位置を補正するための第2ピッチ領域X3が設けられている。第2ピッチ領域X3に形成された第3ピッチX31は、第1ピッチX11と同じピッチ幅で設定されている。
【0056】
周知のように、電動モータの出力=角速度×トルクの関係を有するので、電動モータの出力を一定とすると、モータトルクを増大させようとすると回転数が低下し、回転数を上昇させようとするとトルクが低下する特性を有する。
【0057】
したがって、第1ピッチ領域X1は、第2ピストン23の解放位置a1からゼロクリアランス位置a2のストローク領域L1に対応するため、保持油圧P2に対応する電気モータ21に必要とされるトルクは締結油圧P1よりも低いため、モータ回転数が低下することなく高い回転数且つ第2ピッチ領域X2よりも速いストローク速度でナット22bを移動させることができる。
【0058】
一方、第2ピッチ領域X2は、第2ピストン23のゼロクリアランス位置a2から締結位置a3のストローク領域L2に対応するため、電気モータ21に必要とされるトルクは締結油圧P1に対応した大きなトルクが必要となり、これに伴ってモータ回転数が低下すると共に第1ピッチ領域X1よりも遅いストローク速度でナット22bを移動させることができる。
【0059】
したがって、摩擦締結要素1を締結するときには、ナット22bを第1ピッチ領域X1上をストロークさせれば、第2ピストン23はゼロクリアランス状態となり、ゼロクリアランス状態でさらにナット22bを第2ピッチ領域X2上をストロークさせれば、ナット22bのストロークと略同時に摩擦板13を押圧し、摩擦締結要素1が応答性良く締結されることとなる。
【0060】
複数の摩擦締結要素1を備えた自動変速機(図示せず)は、各摩擦締結要素1における各作動アクチュエータ2を制御して運転状態に応じた変速段を形成する制御装置30を備えている。図5に示すように、該制御装置30には、運転者の操作により選択されたレンジを検出するレンジセンサ31からの信号、当該車両の車速を検出する車速センサ32からの信号、運転者のアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ33からの信号、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ34からの信号、作動アクチュエータ2の電動モータ21の回転数を検出するモータ回転数センサ35、油充填室26上に設けられた油圧センサ36からの信号等が入力されるようになっている。なお、制御装置30は、マイクロコンピュータを主部分として構成されている。
【0061】
制御装置30は、各種入力信号に基づき、各作動アクチュエータ2に制御信号を出力して自動変速機を制御する。変速制御では、例えば、車速センサ32によって検出される車速、アクセル開度センサ33によって検出されるアクセル開度、及び、所定の変速マップに基づいて、目標変速段が決定される。
【0062】
目標変速段への変速が行われるときは、いわゆる架け替えが行われる解放側の摩擦締結要素及び締結側の摩擦締結要素のそれぞれに対応する作動アクチュエータ2が制御される。
【0063】
複数の摩擦板13は締結解放を繰り返すことによって各摩擦板13の締結面に貼り付けられたフェイシング13cが摩耗して、図5に破線で示すように、実際の第2ピストン23のゼロクリアランス位置がフェイシング摩耗前の新品時に予め設定されていた第2ピストン23のゼロクリアランス位置(新品時ゼロクリアランス位置)a2よりも締結側にずれた摩耗時ゼロクリアランス位置a21となる場合がある。この場合、第2ピストン23の解放位置a1から締結までのストロークが不足し完全締結に至らない虞がある。
【0064】
摩耗によってゼロクリアランス位置がずれると、第2ピストン23の新品時のゼロクリアランス位置a2と一致するように設定されたねじ軸22aの第1ピッチ領域X1と第2ピッチ領域X2第2ピストン23の境界位置Xと摩耗時ゼロクリアランス位置a21との間にもずれが生じる。この場合、第2ピストン23が予め設定されていた解放位置a1からゼロクリアランス位置a2までのストロークが完了(ナット22bが第1ピッチ領域X1と第2ピッチ領域X2の境界位置Xに到達)しても、第2ピストン23が摩耗時ゼロクリアランス位置a21に到達せず、第2ピストン23が摩耗時ゼロクリアランス位置a21に到達する前に、ナット22bのストローク領域が第1ピッチ領域X1から第2ピッチ領域X2に変化する。そのため、摩耗時ゼロクリアランス位置a21に至る前に第2ピストン23のストローク速度が落ちることになって、第2ピストン23の応答性に遅れが生じる虞がある。
【0065】
これに対して、制御装置30は、作動アクチュエータ2の電動モータ21を制御して、第2ピストン23が摩擦板13の摩耗状態に応じたゼロクリアランス位置(摩耗時ゼロクリアランス位置)a21に設定されるように、ピストン23のストローク量を補正する構成を備える。
【0066】
制御装置30は、第2ピストン23の摩耗時ゼロクリアランス位置a21を検出するピストン位置検出手段36によって検出された摩耗時ゼロクリアランス位置a21に基づいて複数の摩擦板13の摩耗量Gを算出する摩耗量算出手段と、摩耗量算出手段によって算出された摩耗量Gに基づいて、第2ピストン23が所定の解放位置a1に位置するときのナット22bのナット解放位置b1の軸方向位置を補正することで、第2ピストン23の所定の解放位置a1から新品時におけるゼロクリアランス位置a2までのストローク量L1を補正するストローク補正手段とを備える。
【0067】
ピストン位置検出手段36は、図1に示すように、油充填室26に設けられたピストン位置検出手段としての油圧センサ36によって構成され、油圧センサ36によって摩擦締結要素1の摩耗後の実際のゼロクリアランス位置(摩耗時ゼロクリアランス位置)a21を検出する。
【0068】
本実施形態において、ゼロクリアランス位置a21の検出は、図4(a)に示すように、油圧センサ36の値が所定の閾値P3以上の油圧となったときとする。所定の閾値P3は、例えば、第2ピストン23がリターンスプリングの付勢力に抗して複数の摩擦板13同士のクリアランスを埋められた状態を保持する保持油圧P2以上となる油圧に設定される。
【0069】
摩耗量算出手段は、第2ピストン23の摩耗時ゼロクリアランス位置a21と新品時ゼロクリアランス位置a2からのずれ量(摩耗量)Gを算出する。第2ピストン23のストローク量は、ナット22bのストローク量に対応しているので、本実施形態においは、第2ピストン23の新品時ゼロクリアランス位置a2に対応するナット22bの境界位置Xから油圧センサ36の値が所定の閾値P3以上となった時点までのナット22bのずれ量を補正ストローク量gとして補正することで第2ピストン23の摩耗量Gを補正する。
【0070】
摩耗量算出手段は、モータ回転数センサ35で検出されるモータ回転位置を積分してモータ回転量を算出し、算出したモータ回転量に第2ピッチX21掛けること補正ストローク量gを算出する。
【0071】
ストローク補正手段は、ナット22bのナット解放位置b1を摩耗量算出手段によって算出された補正ストローク量g分だけ解放側に位置させるように電動モータ21を制御する。第1ピッチ領域X1の解放側には、第1ピッチX11が形成された第3ピッチ領域が設けられているので、ストローク補正手段は、モータ回転量=補正ストローク量g/第1ピッチX11から求められるモータ回転量で電動モータ21を回転させることで、ナット解放位置b1を補正されたナット解放位置b21に位置させる。これにより、ナット22bの境界位置Xから解放位置までのストロークが延長されるので、ナット22bに連動する第2ピストン23の解放位置a1からゼロクリアランス位置までのストロークも延長される。
【0072】
図4(b)に仮想線で示すように、摩耗によって締結側にゼロクリアランス位置がずれた場合、第2ピストン23が新品時ゼロクリアランス位置a2から摩耗時ゼロクリアランス位置a21にストロークするまでの間、ナット22bは第2ピッチ領域X2をストロークすることになるが、本実施形態においては、ナット22bは、第1ピッチX11でストロークする領域が延長されるようにナット22bのストローク量を補正するので、第2ピストン23が摩耗時ゼロクリアランス位置a21に到達するまで、ナット22bを第1ピッチ領域X1のストローク速度でストロークできる。
【0073】
制御装置30は、第2ピストン23が解放位置a1に位置するときにおけるナット22bの解放位置(本実施形態においてはピストンのストローク量とナットのストローク量を一致させているのでナット22bの解放位置をa1とする)を、第1ピッチ領域X1の軸方向一方側の端部よりも一方側の第2ピッチ領域X3に位置させるように電動モータ21を制御する。ナット22bのストローク補正量は、第2ピストン23の解放位置a1から摩耗時ゼロクリアランス位置a21までのモータ回転数と、予め設定された解放位置a1から新品時ゼロクリアランス位置a2までの回転数との差と、第2ピッチX21とから算出される。算出されたナット22bのストローク補正量及び第3ピッチ(=第1ピッチ)P11とから電動モータ21の回転数を算出し、ナット22bの解放位置a1を補正後の解放位置a11に補正する。
【0074】
ナット22bの解放位置の補正に伴って、ナット22bに連結される第1ピストン24の軸方向位置が解放側に移動するため、第1シリンダ26aの容積が拡大される。第1シリンダ26aの容積の拡大によって、第1シリンダ26a内には負圧が生じ、チェックバルブ26fが解放されて、第1シリンダ26aに接続されたリザーバタンク26eから接続部26dを介して作動油が供給されて、油充填室26内が油密状態に維持される。
【0075】
このようにして、制御装置30では、ゼロクリアランス位置のずれを補正するためのナット22bの解放位置のストローク補正量が算出され、ナット22bの解放位置を補正することで、第2ピストン23のゼロクリアランス位置が補正される。複数の摩擦板13の摩耗状態は、経年によって変化するため、摩耗状態に応じてゼロクリアランス位置のずれを学習補正することが望ましく、本実施形態においては、運転者の操作により選択されたレンジがPレンジであった場合に、上記のゼロクリアランス補正制御を実行する。
【0076】
図7は、摩擦締結要素1の締結時における第2ピストン23の位置の補正を説明するためのフローチャートである。図7に示すように、摩擦板13の摩耗による第2ピストン23の位置のずれに対応するナット22bのストローク補正量を算出し、算出したナット22bのストローク補正量に基づいて、摩擦締結要素1の締結を開始するときの第2ピストン23の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるようにナット22bの解放位置を調整する摩擦締結要素1の制御は、制御装置30によって行われる。
【0077】
制御装置30ではまず、運転者の操作により選択されたレンジが読み込まれ、読み込まれたレンジがPレンジか否かが判定される(ステップS1)。
【0078】
ステップS1の判定がNOの場合、すなわちレンジがPレンジでない場合、ゼロクリアランス補正制御を終了する。ステップS1での判定結果がYESになると、すなわちレンジがPレンジになると、ナット22bのストロークを進める(ステップS2)と共に油圧センサ36が所定の閾値P3以上かどうかが判定される(ステップS3)。
【0079】
ステップS3での判定結果がNOの場合、すなわち油圧が所定の閾値P3以下で第2ピストン23がゼロクリアランス位置に到達していない場合、ステップS2~S3が繰り返されるが、ステップS3での判定結果がYESになると、すなわち油圧が所定の閾値P3以上で第2ピストン23が摩耗時ゼロクリアランス位置a21に到達した状態になると、ナット22bの解放位置a1から摩耗時ゼロクリアランス位置a21までのストローク量と、新品時における解放位置a1から新品時ゼロクリアランス位置a2までのストローク量との差(ストローク補正量)Gが算出される(ステップS4)。
【0080】
続くステップS5では、ナット22bの解放位置a1を解放側に補正する。このとき、ナット22bの軸方向位置は、予め設定された解放位置a1よりもステップS4で算出されたストローク補正量分、解放側に位置するように解放位置を補正する。
【0081】
ステップS6では、第1シリンダ26aとリザーバタンク26eとの間に設けられたチェックバルブ26fを開いて、容積が拡大した第1シリンダ26aに作動油を充填させ、続くステップS7で第1シリンダ26aが大気圧(あるいはリザーバタンク26e)とつり合うまでステップS6を繰り返し、第1シリンダ26aが大気圧(あるいはリザーバタンク26e)とつり合った時点でチェックバルブ26fを閉じてゼロクリアランス補正制御を終了する。
【0082】
このように、本実施形態に係る摩擦締結要素1の作動アクチュエータ2によれば、算出した摩耗量に基づいてナット22bの解放位置を補正することで、摩擦締結要素1の摩耗に応じて第2ピストン23の所定の解放位置からゼロクリアランス位置までのストローク量を補正することができるので、複数の摩擦板13に摩耗が生じた場合における締結時の応答性を向上できる。
【0083】
複数の摩擦板13の摩耗によって、検出された第2ピストン23のゼロクリアランス位置が予め設定された新品時ゼロクリアランス位置よりも締結側にずれた場合は、解放位置からゼロクリアランス位置に延長が必要となったストローク分だけ解放状態におけるナットの軸方向位置を軸方向一方側(解放側)に補正することで、検出されたゼロクリアランス位置(摩耗時ゼロクリアランス位置)と予め設定されたゼロクリアランス位置(新品時ゼロクリアランス位置)とのずれを吸収できる。
【0084】
ねじ機構22にすべりねじ機構を用いる場合に比べて接触面積を低減することができ、ねじ効率が向上することで、モータトルクが低減でき、電動モータ21を小型化できる。ボールねじ機構と油密状態の油充填室26によって、非締結状態において油圧保持のために油圧ポンプを駆動させる場合に比べて、非締結状態における圧力保持のための駆動損失が削減できる。
【0085】
ピッチの異なる第1ピッチX11と第2ピッチX21を備えたピッチ可変ボールねじ機構を用いることで、電動モータ21を大型化することなく、解放位置からゼロクリアランス位置に至るまでのストローク速度を速めると共に、ゼロクリアランス位置から完全締結位置に至るまでのストローク速度を低減することができる。その結果、摩擦締結要素1の締結時における応答速度の向上と緻密な締結制御の両立が可能となる。
【0086】
例えば、第1ピッチX11を締結時における最大ストローク速度となるように設定し、第2ピッチX21を締結時における最大必要トルクとなるように設定することで、定格で最大回転数及び最大必要トルクを出力可能な大型なモータを搭載する場合に比べて、小さなモータを用いることができる。これにより、解放位置からゼロクリアランス位置に至るまでの第2ピストン23のストローク速度の向上とゼロクリアランス位置以降に必要な締結トルクを確保しつつ搭載性のよい小型なモータを用いることができる。
【0087】
第2ピストン23の摩耗時ゼロクリアランス位置を油圧の立ち上がりで検出するので、摩擦板13の摩耗状態によって、第2ピストン23のストローク位置がずれた場合においても、ゼロクリアランス位置を正確に検出することができる。
【0088】
ピストン位置検出手段は、油圧36で構成されているので、油圧スイッチ等を用いる場合に比べて緻密な制御性が得られる。
【0089】
本実施形態においては、ねじ軸が第1ピッチX11及び第2ピッチX21を有する構成について説明したが、ねじ軸22aに設けられるピッチは第1ピッチX11又は第2ピッチX21のいずれか一方で構成されてもよいし、3種類以上のピッチで構成されていてもよい。例えば、第1ピッチ領域X1と第2ピッチ領域X2とを接続する変わり目部分に、第1ピッチX11よりも小さく第2ピッチX21よりも大きなピッチで形成された変わり目ピッチを有する変わり目領域が形成されてもよい。変わり目領域では、第1ピッチ領域X1から第2ピッチ領域X2に向かって徐々にピッチが小さくなるように設定されてもよい。
【0090】
本実施形態においては、シフトレンジがPレンジにあるときに、ストローク補正を実行したが、Dレンジの変速制御中にストローク補正を実行してもよい。
【0091】
本実施形態においては、油充填室26に第1シリンダ26aと、第2シリンダ26bと、第1シリンダ26aと第2シリンダ26bとを流体的に接続する油圧管路26cとを備える構成について説明したが、油充填室26は第1シリンダ26aと、第2シリンダ26bのいずれか一方を備える構成としてもよい。
【0092】
本実施形態においては、作動アクチュエータの電動モータ21がブラシレスモータで構成されることを例に挙げて説明したが、これに限られるものではなく、ステッピングモータ等の他のモータを用いてもよい。
【0093】
本実施形態においては、摩擦締結要素1がクラッチである例を示しているが、ドラム11が変速機ケース等によって構成される非回転要素と回転部材としてのハブ12とを連結するブレーキについても、基本的には同様の作動アクチュエータ2が設けられてもよい。
【0094】
本実施形態においては、ピストン位置検出手段が油圧センサで構成される例について説明したが、これに限られるものではなく、ピストン位置検出手段は油圧スイッチによって構成されてもよい。これにより、油圧センサ等を用いる場合に比べて安価な構成でゼロクリアランス位置を検出することができる。
【0095】
本実施形態においては、ピストン位置検出手段を油圧センサで構成される例について説明したが、これに限られるものではなく、ピストン位置検出手段はトルクの立ち上がりを検出するトルクセンサによって構成されてもよい。
【0096】
チェックバルブ26fの開閉は、電気信号で作動させてもよいし、第1シリンダ26a内の負圧によって、解放されるものであってもよい。
【0097】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のように、本発明によれば、摩擦締結要素の作動アクチュエータにおいて、オイルポンプの駆動損失を低減しながら、摩擦締結要素の摩耗状態に応じた制御性の向上を図ることができるので、摩擦締結要素の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0099】
1 摩擦締結要素
2 作動アクチュエータ
11 ドラム
12 ハブ
13 複数の摩擦板
21 モータ
22 ねじ機構(ボールねじ機構、ピッチ可変ボールねじ機構)
22a ねじ軸
22b ナット
23 ピストン(第1ピストン)
26 油充填室
36 ピストン位置検出手段(油圧センサ、油圧スイッチ)
30 制御手段(摩耗量算出手段、ストローク補正手段)
a1 所定の解放位置
a21 ゼロクリアランス位置(摩耗時ゼロクリアランス位置)
G 摩耗量
X1 第1ピッチ領域
X2 第2ピッチ領域
X11 第1ピッチ
X21 第2ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7