(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167619
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】スラリー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 23/52 20220101AFI20221027BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221027BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20221027BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B01F17/52
C08K3/013
C08L33/14
C08F220/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073541
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】石橋 洋一
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4D077AA01
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4J002BG071
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4J100JA44
(57)【要約】
【課題】広範囲のpH領域において分散効果を発現し、この効果を経時的に維持でき、また粉体の微細構造が制御可能となるスラリー組成物を提供する。
【解決手段】分散剤、粉体及び分散媒を混合してスラリー組成物を製造するスラリー組成物の製造方法であって、分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である、スラリー組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤、粉体及び分散媒を混合してスラリー組成物を製造するスラリー組成物の製造方法であって、
分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である、
スラリー組成物の製造方法。
【請求項2】
前記共重合体の重量平均分子量は、10,000以上80,000以下である、請求項1記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項3】
(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、(アルコキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、ポリエチレングリコール中のエチレンオキサイド平均付加モル数が4以上90以下である、請求項1又は2記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記エチレンオキサイド平均付加モル数は、6以上45以下である、請求項3記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項5】
スラリー組成物に対する金属イオン含有量が、1ppm以下である、請求項1~4いずれかに記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項6】
スラリー組成物に対する粉体の配合量が、55質量%以上85質量%以下である、請求項1~5いずれかに記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項7】
金属イオンは、軽金属イオンである、請求項1~6いずれかに記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項8】
粉体に対する分散剤の配合量が、分散剤に含まれる共重合体換算で、0.05質量%以上3.0質量%以下である、請求項1~7いずれかに記載のスラリー組成物の製造方法。
【請求項9】
分散剤、粉体及び分散媒を配合してなるスラリー組成物であって、
分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下であり、
粉体に対する分散剤の配合量が、分散剤に含まれる共重合体換算で、0.05質量%以上3.0質量%以下である、
スラリー組成物。
【請求項10】
粉体が金属酸化物である、請求項9に記載のスラリー組成物。
【請求項11】
(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である、分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー組成物の製造方法、スラリー組成物及び分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの電子部品の製造には、スラリー化した電子材料用粉体が用いられる。例えば、誘電体セラミック粉末のスラリー組成物は、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の形成材料として利用される。携帯電話等をはじめとする電子機器及びそれらの電子部品の高性能化及び小型化に伴い、より取り扱い性が向上したスラリー組成物が求められている。例えば、積層セラミックコンデンサの小型化には誘電体セラミック層の薄層化が必要であり、分散性及び作業性が向上した誘電体セラミック粉末のスラリー組成物が求められている。
また、自動車排ガス浄化装置の製造には、自動車排ガス処理用触媒を分散媒に分散させたスラリー組成物が用いられる。自動車排ガスの規制強化に伴い、より分散性の向上したスラリー組成物が求められている。
【0003】
粉体の分散剤の1つとして、ポリカルボン酸系(共)重合体が知られている。
特許文献1には、(メタ)アクリル酸(A)単位と、(メタ)アクリル酸アルコキシポリオキシアルキレンエステル(B)単位から構成される共重合体を含有してなり、(A)単位の含有量が50~70モル%、(B)単位の含有量が50~30モル% である、排ガス浄化触媒用スラリーの減粘剤が開示されている。
特許文献2には、(メタ)アクリル酸(A)単位と、(メタ)アクリル酸アルコキシポリオキシアルキレンエステル(B)単位から構成される共重合体を含有してなり、(A)単位の含有量が80~97モル%、(B)単位の含有量が3~20モル% である、排ガス浄化触媒用スラリーの減粘剤が開示されている。
特許文献3には、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(a)由来の構造単位(I)と、不飽和カルボン酸系単量体(b)由来の構造単位(II)とを有するカルボン酸系共重合体と、アルカノールアミン化合物と、を含み、構造単位(I)と構造単位(II)の含有割合が60モル%以下である、セメント用添加剤が開示されている。
特許文献4には、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルと、(メタ)アクリル酸と、を重合反応させてポリカルボン酸系重合体を得る工程を有する、ポリカルボン酸系重合体の製造方法が開示されている。
特許文献5には、所定の不飽和酸系化合物と、所定のポリエーテル化合物と、を反応させて、セメント混和剤用親水性重合体を得る反応工程を含む、セメント混和剤用親水性共重合体の製造方法が開示されている。
特許文献6には、ポリオキシアルキレン基を有するエチレン系不飽和カルボン酸誘導体等の単量体(A1)と、(メタ)アクリル酸等の単量体(A2)とを共重合させて得られる共重合体混合物を、石炭スラリー用の分散剤として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-105222号公報
【特許文献2】特開2017-148780号公報
【特許文献3】国際公開第2017/033590号
【特許文献4】特開2014-152187号公報
【特許文献5】特開2011-213537号公報
【特許文献6】特開2003-003180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、電子部品の分野に適用されるファインセラミックなどの分野では、ナノスケールの微細構造を制御することで、電子部品などの小型化、高速化、低消費電力、高効率化、高容量化を実現する試みがなされている。また、自動車排ガス処理用触媒などの触媒の分野でも、ナノスケールの微細構造を制御することで、触媒活性の向上を実現する試みがなされている。これらの分野では、水などの分散媒における粉体のナノ分散技術への要求も高く、分散剤の性能のさらなる改善が求められている。
そこで、本発明は、広範囲のpH領域において優れた分散効果を発現し、その効果が経時的に維持され、また粉体の微細構造が制御可能となるスラリー組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、分散剤、粉体及び分散媒を混合してスラリー組成物を製造するスラリー組成物の製造方法であって、
分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である、スラリー組成物の製造方法に関する。
【0007】
本発明は、分散剤、粉体及び分散媒を配合してなるスラリー組成物であって、
分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下であり、
粉体に対する分散剤の配合量が、分散剤に含まれる共重合体換算で0.05質量%以上3.0質量%以下である、スラリー組成物に関する。
【0008】
本発明は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である、分散剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、広範囲のpH領域において優れた分散効果を発現し、その効果が経時的に維持され、また粉体の微細構造が制御可能となるスラリー組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の分散剤が、水などの分散媒に粉体を良好に分散できる理由は定かではないが、その理由は以下のように考えられる。
本発明の分散剤に含まれる共重合体は、(メタ)アクリル酸塩部位で静電反発力を発現し、更に(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート部位で立体的反発力を発現すると考えられる。本発明では、共重合体中の(メタ)アクリル酸部位と(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート部位の質量比率を最適質量比率の範囲とすることで、例えば、pH4~10の酸側から塩基側までの広範囲の領域で効率良く分散安定化が図れているものと考えられる。この最適質量比率の範囲内においては、粉体への分散安定化が図れる結果、スラリー粘度の経時変化が極めて少なくなっているものと考えられる。
一方で、この最適質量比率の範囲内である共重合体であっても、共重合体中に100ppmよりも多い金属イオンを含有する分散剤を用いてスラリー組成物とした場合、スラリー組成物の生成直後では共重合体を含む分散剤はアルミナ粉体などの粉体表面に吸着し、分散性を維持するものの、時間が経つにつれ系中に有る金属イオンが分散剤のアニオン部位(メタクリル酸)に接近して水和することから、分散剤が粉体から外れてスラリー組成物は増粘すると考えられる。但し、これらは推定であって、本発明は、これらメカニズムに限定されない。
【0011】
本発明は、分散剤、粉体及び分散媒を混合してスラリー組成物(以下、本発明のスラリー組成物という)を製造するスラリー組成物の製造方法であって、
分散剤は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位〔以下、構成単位(I)という〕と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位〔以下、構成単位(II)という〕とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である、スラリー組成物の製造方法に関する。
なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸の意味であり、(アルコキシ)は、アルコキシ基を含む構造である又は含まない構造であることを意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートの意味である(以下、同様である)。
【0012】
まず、本発明のスラリー組成物に混合される分散剤、粉体及び分散媒について、詳細に説明する。
【0013】
<分散剤>
本発明の分散剤は、構成単位(I)と構成単位(II)とを含む共重合体(以下、本発明の共重合体ともいう)を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、本発明の共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である。
【0014】
構成単位(I)は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート(以下、モノマー(I)という場合もある)由来の構成単位である。
【0015】
モノマー(I)のアルコキシ基は、炭素数が、例えば、1以上であり、そして、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。なお、アルコキシ基は、不飽和であるものを含む。モノマー(I)のポリアルキレングリコールにおける、アルキレンオキシドの炭素数は、好ましくは2以上4以下であり、より好ましくはエチレンオキシドである。ポリアルキレングリコールにおける、アルキレンオキシドの平均付加モル数は、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上、更に好ましくは12以上、更に好ましくは13以上、そして、好ましくは90以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは50以下、更に好ましくは45以下、更に好ましくは35以下、更に好ましくは25以下である。
【0016】
モノマー(I)としては、例えば、(アルコキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。(アルコキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートは、スラリー組成物の粘度低減の観点から、ポリエチレングリコールのエチレンオキサイド平均付加モル数が、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上、更に好ましくは12以上、更に好ましくは13以上、そして、好ましくは90以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは50以下、更に好ましくは45以下、更に好ましくは35以下、更に好ましくは25以下である。
【0017】
モノマー(I)としては、例えば、下記一般式(I)で表されるモノマーが挙げられる。
R11-O-(AO)n-CO-C(R12)=CH2 (I)
〔式中、R11は水素原子又は炭素数1以上8以下の炭化水素基、好ましくはアルキル基若しくはアルケニル基、より好ましくはアルキル基、R12はメチル基又は水素原子、AOは炭素数2以上4以下、好ましくは2又は3のアルキレンオキシ基、nは、AOの平均付加モル数であり、4以上90以下である。〕
【0018】
一般式(I)において、AOの平均付加モル数nは、4以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは12以上、更に好ましくは13以上、そして、90以下、好ましくは70以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは45以下、更に好ましくは35以下、更に好ましくは25以下である。
【0019】
構成単位(II)は、共重合体中、(メタ)アクリル酸(以下、モノマー(II)という場合もある)由来の構成単位である。
【0020】
モノマー(II)である(メタ)アクリル酸は、下記一般式(II)で示される化合物が挙げられる。モノマー(II)のカルボキシ基は、酸であってもよく、一部が塩であってよい。モノマー(II)が塩の場合、塩は、アンモニウム塩、アルカノールアンモニウム塩などが挙げられる。アルカノールアンモニウム塩は、例えば、カルボキシ基が酸であるモノマー(II)を、アルカノールアミンで中和することで形成される。
CH2=C(R21)-COOM (II)
〔式中、R21はメチル基又は水素原子を示す。Mは、水素原子又は対イオンである。〕
【0021】
一般式(II)において、Mが対イオンの場合、Mは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオンなどの無機イオン、及び有機アミンイオンから選択される1種以上が挙げられ、好ましくはアンモニウムイオン及びアルカノールアンモニウムイオンから選択される1種以上である。モノマー(II)は、無機塩基との塩、有機塩基との塩であってよい。ただし、モノマー(II)が無機塩基との塩の場合、共重合体中の金属イオン含有量は、100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。
【0022】
本発明の共重合体は、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(I)の割合が、スラリー組成物の粘度低減の観点から、好ましくは50質量%を超え、より好ましくは53質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、そして、好ましくは90質量%未満、より好ましくは88質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0023】
本発明の共重合体は、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、スラリー組成物の粘度低減の観点から、10質量%を超え、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上、そして、50質量%未満、好ましくは47質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0024】
本発明の共重合体は、モノマー(I)及び(II)以外のモノマー(以下、モノマー(III)という)由来の構成単位を含んでもよい。モノマー(III)として、例えば、α-オレフィン、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリルアルコール、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレン、ベンジルメタクリレート及びビニルベンジルアルコールが挙げられる。
本発明の共重合体が、モノマー(III)由来の構成単位を含む場合、モノマー(III)は、全構成単位中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、そして、0質量%超である。
また、本発明の共重合体が、芳香族を含む構成単位を含む場合、本発明の共重合体は、共重合体中、芳香族を含む構成単位の含有率が、3質量%以下であることが好ましく、芳香環を含む構成単位の含有率が3質量%以下であり、重量平均分子量が10,000以上80,000以下の共重合体がより好ましい。
【0025】
本発明の共重合体は、全構成単位中、構成単位(I)及び(II)の合計の割合が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
【0026】
本発明の共重合体の重量平均分子量(Mw)は、スラリー組成物の粘度低減及び仕込み時に使用される粉体細粒の分散性向上の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは14,000以上、更に好ましくは18,000以上、そして、好ましくは80,000以下、より好ましくは70,000以下、更に好ましくは60,000以下である。共重合体の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値である。具体的には、共重合体の重量平均分子量は、以下の条件より測定できる。
【0027】
〔共重合体の重量平均分子量の測定方法〕
カラム:TSK (α-M)+(α-M) (いずれも東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
検出器:RI又はUV(210nm)
溶離液:60mmol/L リン酸緩衝液/ジメチルホルムアミド(1/9)
流速:1.0mL/min
注入量:0.1mL
標準:ポリスチレン(分子量:2,000~1,000万)
【0028】
本発明の共重合体中、金属イオンの含有量は、経時的に分散性を維持する観点から、100ppm以下(質量比である、以下同じ)、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。
金属イオンは、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオンなどの軽金属イオンが挙げられ、より具体的にはナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンなどが挙げられる。
【0029】
本発明の共重合体は、酸または塩の形態である。本発明の共重合体が塩の形態の場合、少なくとも構成単位(II)は塩の形態となっている。本発明の共重合体は、アンモニウム塩などの無機塩基塩及び有機アミン塩などの有機塩基塩から選択される1以上の塩であってもよい。ただし、共重合体が無機塩基塩の場合、共重合体中の金属イオン含有量が、上記範囲を満たしている。
本発明の共重合体の中和度は、分散性向上の観点から、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上である。ここで、中和度は、[共重合体の中和されている酸基のモル当量/共重合体の中和され得る全酸基のモル当量]×100(モル%)で表される。
上記中和度の条件を満足していれば、その際、本発明の共重合体の塩を複数使用したときの中和度又はアルカリ過剰度は、特に規定されないが、粉体成分の耐化学分解性及び耐臭気性の観点から、好ましくは45モル%以上、より好ましくは55モル%以上、更に好ましくは65モル%以上、そして、好ましくは120モル%以下、より好ましくは110モル%以下、更に好ましくは105モル%以下である。ここで、アルカリ過剰度は、[共重合体の中和されている酸基のモル当量/共重合体の中和され得る全酸基のモル当量]が1よりも大きいことを示すものである。そして、前記モル%が100モル%よりも大きい範囲はアルカリ過剰度として示される。
【0030】
本発明の分散剤は、液体状、更に水に本発明の共重合体を含有させた液体状であってよい。分散剤は、本発明の共重合体及び水を含有する液体の分散剤が挙げられる。
【0031】
本発明の分散剤が液体の分散剤、例えば、水を含有する液体の分散剤である場合、本発明の分散剤の20℃におけるpHは、粉体成分の耐化学分解性及び耐臭気性の観点から、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.7以上、更に好ましくは2.0以上、そして、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.0以下である。
【0032】
本発明の分散剤は、スラリー組成物の粘度低減の観点から、本発明の共重合体を、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、そして、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下含有する。分散剤は、本発明の共重合体からなる分散剤であってもよい。
【0033】
本発明の分散剤は、分散剤に含まれる固形分中、本発明の共重合体の割合が、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下であってよい。本発明の分散剤は、固形分中、本発明の共重合体の割合が100質量%であってよい。ここで、分散剤についての固形分とは、水以外の成分であってよい。
【0034】
本発明の分散剤は、本発明の共重合体以外に、任意成分として、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、無機塩、有機塩などを含有することができる。ただし、分散剤がこれら任意成分を含む場合、共重合体中の金属イオン含有量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下の範囲で用いられる。同様に、本発明のスラリー組成物は、これらの任意成分を含有することができる。ただし、スラリー組成物がこれら任意成分を含有する場合、スラリー組成物中の金属イオン含有量が、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.7ppm以下、更に好ましくは0.5ppm以下の範囲で用いられる。
【0035】
<粉体>
粉体は、水不溶性の粉体が挙げられる。粉体について、水不溶性とは、20℃の水100gに対する溶解量が0.1g以下であってよい。粉体としては、炭酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、珪酸塩、マンガン酸塩等の水不溶性の塩、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(酸化ケイ素)、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムなどの金属酸化物、水酸化ニッケルなどの金属水酸化物、カーボンブラック、炭化珪素、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素などが挙げられる。
粉体は、スラリー組成物の用途にもよるが、例えば、電子材料用粉体、触媒粉体、研磨材用粉体、一次電池又は二次電池製造用粉体が挙げられる。
電子材料粉体は、例えば、ICパッケージ、配線基板、絶縁体、センサー、電極、磁性体、半導体、コンデンサー又は光ファイバー等の電子部品の製造に用いられる粉体が挙げられる。また、触媒粉体は、例えば、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車の排ガスを処理する自動車排ガス処理用触媒粉体(例えば、白金、パラジウム又はロジウムなどの貴金属を、酸化セリウム又はアルミナなどの担体表面に付着させたもの)などが挙げられる。また、研磨材用粉体は、例えば、シリカ又は酸化セリウムなどの粉体が挙げられ、一次電池又は二次電池製造用粉体は、例えば、マンガン酸塩、コバルト酸塩、水酸化ニッケルなどの粉体が挙げられる。
【0036】
粉体の平均粒子径は、分散性向上の観点から、好ましくは60nm以上、より好ましくは80nm以上、更に好ましくは100nm以上、そして、分散性向上の観点から、好ましくは700nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは500nm以下である。粉体の平均粒子径は、レーザー散乱型粒径測定装置(株式会社堀場製作所製 LA-920)により測定できる。
【0037】
<分散媒>
分散媒は、水が好ましい。分散媒は、水を含有する分散媒が好ましい。分散媒としては、水又は水と水溶性有機化合物との混合溶液が挙げられる。水溶性有機化合物は、20℃の水100gに対する溶解量が100g以上の有機化合物であってよい。
分散媒中、水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、そして、100質量%であり、100質量%以下、98質量%以下、95質量%以下であってもよい。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水などが挙げられる。水溶性有機化合物としては、例えば、エチルアルコール、エチレングリコールなどが挙げられる。
【0038】
<スラリー組成物>
本発明のスラリー組成物は、上記の分散剤、粉体及び分散媒を配合してなるスラリー組成物であって、分散剤は、構成単位(I)と、構成単位(II)とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下であり、粉体に対する分散剤の配合量が、分散剤に含まれる共重合体換算で、0.05質量%以上3.0質量%以下である。本発明のスラリー組成物は、上記の分散剤、粉体及び分散媒を含有するスラリー組成物であってよい。スラリー組成物の好ましい配合量は、スラリー組成物の好ましい含有量とみなすことができる。
【0039】
本発明のスラリー組成物は、スラリー組成物の粘度低減の観点から、粉体に対する分散剤の配合量が、分散剤に含まれる共重合体換算で、0.05質量%以上、好ましくは0.07質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、そして、3.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0040】
本発明のスラリー組成物において、スラリー組成物に配合される全成分中、粉体の配合量は、特に限定されないが、乾燥効率及び生産性の向上の観点から、好ましくは68質量%以上、より好ましくは72質量%以上、更に好ましくは76質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下である。粉体は、スラリー組成物に配合される原料粉体であってよい。
【0041】
本発明のスラリー組成物中、分散粒子の含有量は、乾燥効率及び生産性の向上の観点から、好ましくは68質量%以上、より好ましくは72質量%以上、更に好ましくは76質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下である。分散粒子の含有量は、原料粉体の含有量であってよい。また、通常、スラリー組成物において、分散粒子の残部は、分散媒の含有量とみなすことができる。
【0042】
本発明のスラリー組成物中、金属イオン含有量は、経時的に分散性を維持する観点から、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.7ppm以下、更に好ましくは0.5ppm以下、更に好ましくは0.15ppm以下である。
【0043】
本発明のスラリー組成物は、25℃での粘度が、例えば、60mPa・s以上、更に70mPa・s以上、更に100mPa・s以上、そして、890mPa・s以下、更に600mPa・s以下、更に400mPa・s以下であってよい。この粘度は、東機産業株式会社製のB型粘度測定装置TVB-10を用いてローターの回転速度3~60rpmで測定できる。スラリー組成物の粘度が、上記範囲であれば、電子部品や自動車排ガス処理用触媒などの製造に用いるスラリー組成物として好ましく用いることができ、高品質の電子部品や、自動車排ガス処理用触媒などの製造が可能となる。
【0044】
<分散剤の製造方法>
本発明の分散剤及び該分散剤に含まれる共重合体の製造方法について、詳細に説明する。なお、本発明の分散剤及び共重合体の製造方法は、記載された態様に限定されるものではない。本発明の分散剤や共重合体の製造方法における、分散剤や共重合体の好ましい態様は、上記本発明の分散剤や共重合体の好ましい態様と同じである。本発明の分散剤における共重合体等の好ましい含有量は、分散媒の製造における好ましい配合量と置き換えて適用できる。また、本発明の共重合体を構成する構成単位の好ましい比率は、本発明の共重合体の製造における好ましいモノマーの配合量と置き換えて適用できる。
【0045】
ここでは、本発明の共重合体の製造方法について、詳細に説明する。本発明の共重合体は、水を反応媒体として含む反応系で製造することができる。そして、反応後、得られた本発明の共重合体を含む混合物は、そのまま本発明の分散剤として用いることができる。
【0046】
まず、攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、及び滴下ロート等を備えた反応容器に、溶媒としてイオン交換水を仕込み、窒素気流下で加熱後、温度を維持する。次に、予め混合溶解した各モノマー、過硫酸塩水溶液及び連鎖移動剤をそれぞれ別の滴下ロートから所定時間をかけて滴下し重合反応を行う。滴下終了後、所定時間熟成し(熟成開始から所定時間経過後、例えば15分後に過硫酸塩水溶液を添加する)重合反応を完結させる。その後、温度を保持しながらpHが6~7となるように中和剤を滴下して中和し、本発明の共重合体を得る。なお、共重合体を酸の形態で用いる場合は中和剤を滴下しないで、酸の形態の共重合体を本発明の分散剤とすることもできる。このとき、分散剤のpHは、例えば、2程度である。
【0047】
重合反応には重合を容易に開始・促進させるための重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
重合反応には更に連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、2-メルカプトエタノール、メルカプトリンゴ酸、メルカプトグリセロール、3-メルカプトプロピオン酸、ブチルメルカプタン、次亜リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0048】
共重合体の分子量の制御のしやすさの観点から、重合方法としては、各滴下ロートにそれぞれの薬剤を仕込み、所定の時間にて滴下する重合方法が好ましい。重合時及びその後の熟成時の温度としては、反応を容易に進行させる観点から、好ましくは75℃以上、より好ましくは78℃以上、更に好ましくは81℃以上、そして、好ましくは110℃以下、より好ましくは105℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0049】
共重合体を中和して塩とするために添加する中和剤としては、例えば、アミン、アンモニウム化合物などが挙げられる。アミン及びアンモニウム化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム、アンモニア水溶液などが挙げられる。
【0050】
本発明の分散剤は、粉体と分散媒を含むスラリー組成物の粘度低減及び微細な分散粒子を含むスラリー組成物の長期安定性に優れる。本発明の分散剤は、例えば、電子材料用粉体、研磨材用粉体、自動車排ガス処理用触媒粉体並びに一次電池又は二次電池用粉体を分散媒に分散させる用途に適用できる。本発明の分散剤は、とりわけ、電子材料用粉体として使用される粉体の分散に好適である。
【0051】
<スラリー組成物の製造方法>
本発明のスラリー組成物の製造方法について、詳細に説明する。スラリー組成物の製造には、上記分散剤、粉体、及び分散媒を好ましく用いることができる。また、上記スラリー組成物の好ましい配合量は、スラリー組成物の製造方法における好ましい配合量であり、上記スラリー組成物の好ましい含有量は、スラリー組成物の製造方法における配合量と置き換えて適用することができる。
【0052】
本発明は、本発明の分散剤、粉体、及び分散媒を混合して、分散媒に粉体を分散させる工程を有する、スラリー組成物の製造方法を提供する。また、本発明は、本発明の共重合体、粉体、及び本発明の分散媒を混合して、分散媒に粉体を分散させる工程を有する、スラリー組成物の製造方法を提供する。
【0053】
本発明のスラリー組成物の製造方法は、例えば、本発明の分散剤を溶解した水溶液に粉体を添加し、攪拌、混合する方法、あるいは、粉体に分散媒と本発明の分散剤を加えて攪拌、混合する方法などが挙げられる。本発明のスラリー組成物の攪拌、混合には、一般的な攪拌装置が使用できる。攪拌装置は、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル又はペイントシェーカーなどが挙げられる。スラリー組成物の攪拌温度は、本発明の分散剤と粉体とを容易に混合させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは23℃以上、更に好ましくは25℃以上、そして、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
【0054】
本発明のスラリー組成物の製造方法は、個数平均粒径が10μm以上の粉体粗粒子を、粉砕と同時にスラリー化してスラリー組成物を製造する方法であってもよい。具体的には、粉体粗粒子に分散媒と本発明の分散剤とを添加して、粉砕と同時にスラリー化する方法などが挙げられる。粉体粗粒子の粉砕と同時に粉体をスラリー化する方法では、一般的な攪拌装置が使用できる。攪拌装置は、例えば、ビーズミル又はペイントシェーカーなどが挙げられる。スラリー組成物の攪拌温度は、本発明の水系分散剤と粉体とを容易に混合させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは23℃以上、更に好ましくは25℃以上、そして、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
【0055】
本発明のスラリー組成物中、粉体の平均粒子径は、分散性向上の観点から、好ましくは70nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、分散性向上の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、更に好ましくは700nm以下である。スラリー組成物中の粉体の平均粒子径は、レーザー散乱型粒径測定装置(株式会社堀場製作所製 LA-920)で測定できる。スラリー組成物中の粉体の平均粒子径は、スラリー組成物中の分散粒子の平均粒子径であってよい。
【0056】
<粉体の分散方法>
本発明は、構成単位(I)と、構成単位(II)とを含む共重合体を含み、構成単位(I)及び(II)の合計を100質量%として、構成単位(II)の割合が、10質量%を超え50質量%未満であり、前記共重合体中、金属イオン含有量が100ppm以下である分散剤を用いて、粉体を分散媒に分散させる工程を含む、粉体の分散方法を提供する。
【0057】
本発明の粉体の分散方法における、分散剤、粉体、分散媒などの好ましい態様は、上記本発明の分散剤、粉体、分散媒、スラリー組成物及びスラリー組成物の製造方法などで述べた好ましい態様と同じである。
【0058】
以上のように、本発明の分散剤によれば、例えば、スラリー組成物における粉体の分散性が向上する、また、スラリー組成物の粘度を低減させて、スラリー組成物を用いた作業の作業性を向上できる。これにより、例えば、各製造プロセスにおける生産性の向上、触媒活性の向上、並びに電子部品の小型化、高速化、低消費電力、高効率化及び高容量化などに寄与できる。
【0059】
本発明のスラリー組成物、分散剤、スラリー組成物の製造方法、分散剤の製造方法及び粉体の分散方法は、半導体製造プロセス、電子材料製造プロセス、ファインセラミックス製造プロセス、自動車排ガス処理装置の製造プロセス、触媒製造プロセス、一次電池又は二次電池製造プロセス、水溶性印刷インキ製造プロセスなどの用途に用いることができる。
【0060】
本発明のスラリー組成物は、化学機械研磨(CMP)用スラリー、電子材料用スラリー、自動車排ガス処理装置製造用スラリー、触媒製造用スラリー、一次電池又は二次電池製造用スラリー、水溶性印刷インキ製造スラリーであってよい。
化学機械研磨用スラリーは、例えば、シリカ粉末又は酸化セリウム粉末などのスラリーが挙げられる。電子材料用スラリーとしては、例えば、誘電体セラミック粉末のスラリーが挙げられる。自動車排ガス処理用スラリーは、例えば、アルミナなどの担体に貴金属触媒を付着させた粉体(自動車排ガス処理用触媒粉体)のスラリーが挙げられる。一次電池又は二次電池製造用スラリーは、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)や正極又は負極活物質などのスラリーが挙げられる。本発明の分散剤は、これらスラリーの分散剤として使用できる。
【実施例0061】
以下、本発明を、その実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0062】
〔共重合体の重量平均分子量の測定方法〕
実施例及び比較例において、共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。具体的には、HLC-8120GPC(東ソー株式会社製)測定装置を用い、上記の条件で、共重合体の重量平均分子量を測定した。
【0063】
〔共重合体中の金属イオン含有量の測定方法〕
共重合体中のナトリウムイオン量を測定し、共重合体中の金属イオン含有量を算出した。ナトリウムイオン量はフレームレス式原子吸光により測定した。具体的な条件は以下のとおりである。なお、共重合体中のナトリウムイオン含有量は、共重合体中の金属イオン含有量とみなすことができる。また、表中の共重合体中の金属イオン含有量は、共重合体の質量に対する金属イオンの含有量である。
フレームレス原子吸光装置(アジレント・テクノロジー株式会社製)
ランプ電流:5.0mA
測定波長:589.0nm
ガス圧力:アルゴン供給圧力0.2MPa
試料注入量:20μL
【0064】
〔分散剤の調製(実施例1~15、比較例1~8)〕
表1に示す分散剤(実施例1~15、比較例1~8)を、以下の方法で調製した。
【0065】
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、イオン交換水72.8gを仕込んだ。次に、窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、予め溶解混合したメトキシポリエチレングリコール(EO23モル)メタクリレート(新中村化学工業株式社製)85.0g及びメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製)15.0gと、2.9質量%2-メルカプトエタノール水溶液(東京化成工業株式会社製)60.0gと、2質量%過硫酸アンモニウム水溶液(三菱ガス化学株式会社製)17.0gの3つの溶液をそれぞれ別の滴下ロートから2時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で3時間熟成し(熟成開始15分後に2質量%過硫酸アンモニウム水溶液1.5gを添加)重合反応を完結させた。次に、分散剤の着色防止のため、35質量%過酸化水素水(三菱ガス化学株式会社製)3.3gを滴下し、更に1時間熟成した。40℃まで冷却後、イオン交換水で濃度調整を行い、共重合体を含む分散剤を得た。そして、共重合体の重量平均分子量(Mw)をGPCで測定した。共重合体のMwは、19,600であった。また、共重合体中のナトリウムイオン濃度は、51ppmであった。
【0066】
(比較例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、イオン交換水72.8gを仕込んだ。次に、窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、予め溶解混合したメトキシポリエチレングリコール(EO23モル)メタクリレート(新中村化学工業株式会社製)85.0g及びメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製)15.0gと、2.9質量%2-メルカプトエタノール水溶液(東京化成工業株式会社製)60.0gと、2質量%過硫酸ナトリウム水溶液(三菱ガス化学株式会社製)17.0gの3つの溶液をそれぞれ別の滴下ロートから2時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で3時間熟成し(熟成開始15分後に2質量%過硫酸ナトリウム水溶液1.5gを添加)重合反応を完結させた。次に、分散剤の着色防止のため、35質量%過酸化水素水(三菱ガス化学株式会社製)3.3gを滴下し、更に1時間熟成した。40℃まで冷却後、イオン交換水で濃度調整を行い、共重合体を含む分散剤を得た。この共重合体の重量平均分子量(Mw)をGPCで測定した。共重合体のMwは19,700であった。また、共重合体中のナトリウムイオン濃度は、730ppmであった。
【0067】
(比較例2)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、イオン交換水72.8gを仕込んだ。次に窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、予め溶解混合したメトキシポリエチレングリコール(EO23モル)メタクリレート(新中村化学工業株式会社製)85.0g及びメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製)15.0gと、2.9質量%2-メルカプトエタノール水溶液(東京化成工業株式会社製)60.0gと、2質量%過硫酸ナトリウム水溶液3.5gと2質量%過硫酸アンモニウム水溶液13.6gとの混合液(何れも三菱ガス化学株式会社製)の3つの溶液をそれぞれ別の滴下ロートから2時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で3時間熟成し(熟成開始15分後に2質量%過硫酸ナトリウム水溶液0.3gと2質量%過硫酸アンモニウム水溶液1.2gとの混合液を添加)重合反応を完結させた。次に分散剤の着色防止のため、35質量%過酸化水素水(三菱ガス化学株式会社製)3.3gを滴下し、更に1時間熟成した。40℃まで冷却後、イオン交換水で濃度調整を行い、共重合体を含む分散剤を得た。そして、共重合体の重量平均分子量(Mw)をGPCで測定した。共重合体のMwは19,700であった。また、共重合体中のナトリウムイオン濃度は、150ppmであった。
【0068】
(実施例2~15、比較例3~8)
実施例1と同様の方法で、表1に示すモノマー組成比、重量平均分子量(Mw)、中和塩からなる分散剤を調製した。なお、比較例8はポリアクリル酸アンモニウム塩である。
【0069】
表1中、モノマー組成比(質量比)のメタクリル酸及びアクリル酸は、それぞれ酸型にして記載している。また、表1中の記号は以下の意味であり、下記記号中の括弧内のn及び表1の記号中の括弧内の数字は、エチレンオキサイド(EO)の平均付加モル数である。
【0070】
MePEG(n)MA:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業株式会社製)
MePEG(n)AA:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
PEG(n)MA:ポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業株式会社製)
MAA:メタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製)
AA:アクリル酸(株式会社日本触媒製)
NH3:アンモニウム塩(中和剤:28質量%アンモニア水溶液(シグマアルドリッチ社製、試薬特級))
MEA:モノエタノールアミン塩(中和剤:モノエタノールアミン(株式会社日本触媒製))
【0071】
〔分散性試験〕
分散性については、自動車排ガス処理用触媒の製造に用いられるスラリー組成物に適した粘度範囲となるか否かに基づいて、分散剤の評価を行った。
実施例1~15、比較例1~8の分散剤を使用し、表1に示すスラリー組成物を調製し、得られたスラリー組成物の粘度を測定した。スラリー組成物の粘度が保持されることにより、スラリー組成物中での濃度差の発生が低減されるので、スラリー組成物の粘度が保持されていると、該組成物は、経時的な分散性に優れているといえる。なお、スラリー組成物の粘度が実施例の粘度であれば、自動車排ガス処理用触媒の製造だけでなく、電子部品などの製造に用いられるスラリー組成物としても好ましい。
【0072】
まず、ディスポビーカー500mLに平均粒径が400nmのアルミナ粉体(住友化学株式会社製、AES-12)を117g、表1に示す各共重合体を含む分散剤、及びイオン交換水を加え、プライミクス社製のホモディスパーで攪拌(2,500rpm×2分間)し、78質量%の粉体スラリー(スラリー組成物)を調製した。分散剤は、アルミナ粉体に対する配合量が、分散剤に含まれる共重合体換算で0.2質量%となるように添加した。
【0073】
スラリー組成物は、各実施例の共重合体を含む分散剤を用いて、pH4、pH7、pH10に調整した組成物をそれぞれ調製した。スラリー組成物のpH調整は、スラリー組成物をホモディスパーで攪拌する前に、スラリー組成物のpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製、F-21)で測定しながら、スラリー組成物に酢酸又はアンモニア水溶液を滴下して行った。例えば、pH4のスラリーを調製する場合、スラリー組成物に99.5質量%酢酸(株式会社ダイセル製)を滴下して、スラリー組成物のpHを調整した。また、pH10のスラリーを調製する場合、スラリー組成物に28質量%アンモニア水溶液を滴下して、スラリー組成物のpHを調整した。スラリー組成物のpHの調整は、25℃のスラリー組成物で行った。
【0074】
pH調整された各スラリー組成物で、スラリー組成物を調製した直後の粘度と、スラリー組成物を調製した後25℃で30日保存した後の粘度を測定した。スラリー組成物の粘度の測定は、東機産業株式会社製のB型粘度測定装置TVB-10を用いて、ローターの回転速度3~60rpm、25℃の条件で測定した。結果を表1に示す。実施例のスラリー組成物は、すべてスラリー組成物中の金属イオン含有量が、0.15ppm未満であった。
なお、スラリー組成物の粘度の大小によってローターの回転速度を変化させて粘度の測定を行った。比較例中、100000超は100000を超える値であり、すなわち粘度計における測定上限値を超えるものである。
【0075】
【0076】
実施例1~15の分散剤を用いたスラリー組成物は、粉体含有量が同じであるスラリー組成物に比較例1~8の分散剤を用いたものに比べ、pH4~10の領域において、調製直後のスラリー組成物の低粘度化が確認され、その効果が30日経過後も維持されていることから、粉体の分散性に優れていた。
また、アルミナ粉体は、例えば、自動車排ガス処理用触媒の担体として用いられる粉体であり、その表面に貴金属などの触媒が付着している場合も同様の性質(粘性、分散性など)を有するスラリー組成物が得られると考えられる。
【0077】
このように、実施例1~15の分散剤は、少量の添加量で、広範囲のpH領域において優れた分散効果(低粘度、微細な分散粒子を含むスラリーの長期安定性)が得られた。