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2022-167624ショウガポリフェノールの体内吸収改善方法、及び、ポリフェノール体内吸収改善用組成物
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  • -ショウガポリフェノールの体内吸収改善方法、及び、ポリフェノール体内吸収改善用組成物 図1
  • -ショウガポリフェノールの体内吸収改善方法、及び、ポリフェノール体内吸収改善用組成物 図2
  • -ショウガポリフェノールの体内吸収改善方法、及び、ポリフェノール体内吸収改善用組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167624
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ショウガポリフェノールの体内吸収改善方法、及び、ポリフェノール体内吸収改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20221027BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 36/906 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20221027BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20221027BHJP
   A23L 29/00 20160101ALN20221027BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K47/40
A61K8/35
A61P3/00
A61P3/02
A61K36/906
A61K31/12
A23L5/00 Z
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073550
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】楊 金緯
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 典基
(72)【発明者】
【氏名】米山 拓
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4C076
4C083
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD36
4B018ME14
4B018MF02
4B035LC16
4B035LG17
4B035LG32
4B035LP21
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC21
4C076CC40
4C083AC211
4C083AC212
4C083AD251
4C083AD252
4C083CC01
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC04
4C083EE07
4C083EE12
4C083EE13
4C088AB81
4C088AC01
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA11
4C088BA32
4C088CA03
4C088CA04
4C088CA05
4C088CA06
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA11
4C088NA13
4C088ZA89
4C088ZC21
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206KA18
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA72
4C206MA83
4C206NA05
4C206NA11
4C206ZA89
4C206ZC21
(57)【要約】
【課題】
本発明は、ショウガポリフェノール含有抽出物のポリフェノールの体内吸収を改善する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、シクロデキストリンをショウガポリフェノール含有抽出物に加えることで、ポリフェノールの体内吸収を改善したショウガポリフェノール含有組成物の開発に成功し、ポリフェノールの体内吸収を改善する方法を特徴とする。
本発明は、ショウガポリフェノール含有組成物を各剤形での提供を可能とすることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガポリフェノール含有抽出物にシクロデキストリンを添加するショウガポリフェノール含有抽出物のポリフェノール体内吸収改善方法。
【請求項2】
前記シクロデキストリンはγ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びα-シクロデキストリンの少なくともいずれかを含む請求項1記載のショウガポリフェノール含有抽出物のポリフェノール体内吸収改善方法。
【請求項3】
請求項1、請求項2に記載のショウガポリフェノール含有抽出物を含有する食品組成物、医薬品組成物、化粧品組成物。
【請求項4】
シクロデキストリンを含むポリフェノール体内吸収改善用組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウガポリフェノール含有抽出物のポリフェノール体内吸収改善方法、及び、ポリフェノール体内吸収改善要組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガ(Zingiber officinale)は古くから世界中の人々に食されている素材である。漢方生薬としても利用されており、ショウガ特有のショウガポリフェノールを活性成分とした様々な薬理作用、食品機能があることが知られている(非特許文献1参照)。ショウガに含まれるショウガポリフェノールは、主に6-ジンゲロールとその2次代謝物である6-ショウガオールである。漢方生薬では主に身体を温める目的で利用されており、ショウガポリフェノールとしてジンゲロールとショウガオールが体熱産生作用、皮膚表面温度上昇作用を有することが報告されている。
【0003】
辛味や熱刺激の受容体であるTRPV1はショウガポリフェノールにより活性化されることが知られている。TRPV1の活性化は生体内でエネルギー代謝を亢進させ、体温を上昇させると考えられている。さらにショウガオールは腸の血流を亢進する効果も報告されており、腹部を中心とした血液循環を亢進する作用も知られている。漢方生薬としてはジンゲロールが多く含まれる生姜は、発散作用、胃を温める作用および新陳代謝作用に優れており、ショウガオールが多く含まれる乾姜は、裏寒を温める作用に優れている(非特許文献2参照)。すなわち臓器を温め、体の内側から冷えを温める作用が期待されている。
【0004】
ところで、近年、季節や昼夜を問わず室温を制御した環境で過ごす機会が増え、夏場でも冷えを感じることが増えている。日本人女性の約4割が冷えを感じており、冷えは肩こりや腰痛など様々な体の諸症状を誘引する(非特許文献3参照)。冷えへの対策としてショウガポリフェノールの作用が期待されている。
【0005】
上記のようにショウガポリフェノールの作用への期待は高いことから、活性成分であるショウガポリフェノールの体内吸収を向上させたショウガポリフェノール含有組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】食品機能性の科学編集委員会編(2008)食品機能性の科学 西川研次郎監修 産業技術センター,p1086-1089
【非特許文献2】漢方フロンティア 下巻 (2011)田畑隆一郎 有限会社源草社,p886-887、p934-937
【非特許文献3】冷え性の病態に関する統計学的考察(1987)日本産科婦人科学会誌39(11),近藤真彦、岡村靖p2000-2004
【非特許文献4】食品機能性の科学編集委員会編(2008)食品機能性の科学 西川研次郎監修 産業技術センター,p335-338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ショウガポリフェノールの体内吸収を改善する方法、ポリフェノール体内吸収改善剤及びこれを含む組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリンをショウガポリフェノール含有抽出物に加えることで、ポリフェノールの体内吸収を改善したショウガポリフェノール含有組成物の開発に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一観点に係るショウガポリフェノール含有抽出物のポリフェノール体内吸収改善方法は、ショウガポリフェノール含有抽出物にシクロデキストリンを添加するものである。
【0010】
また、本観点において、限定されるわけではないが、シクロデキストリンはγ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリンを含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の一観点に係る食品組成物、医薬品組成物、又は、化粧品組成物は、ショウガポリフェノール含有抽出物を含有するものである。
【0012】
また、本発明の他の一観点に係るポリフェノール体内吸収改善用組成物は、シクロデキストリンを含むものである。
【発明の効果】
【0013】
以上本発明によって、ポリフェノールの体内吸収の高いショウガポリフェノール含有組成物、ポリフェノール体内吸収改善剤及びこれを含む組成物を提供することが出来る。
【0014】
上記効果により、例えばショウガポリフェノール含有組成物を各剤形にした場合であっても、ポリフェノールの体内吸収を改善したショウガポリフェノール含有抽出物を提供することが可能となる。この結果、ポリフェノールによる様々な生理活性をより効率的に発揮することが可能なショウガポリフェノール含有組成物を各剤形で提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】小腸吸収(Caco2)キットの名称を示す図である。
図2】ショウガポリフェノール含有組成物の時間ごとに上皮細胞層を透過した6-ジンゲロールの面積値を示すグラフを示す図である。
図3】ショウガポリフェノール含有組成物の時間ごとに上皮細胞層を透過した6-ショウガオールの面積値を示すグラフを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態や実施例の具体的例示にのみ限定されるわけではない。
【0017】
本実施形態に係るショウガポリフェノール含有組成物(以下「本組成物」という。)はショウガポリフェノール含有抽出物とシクロデキストリンを含む。
【0018】
本組成物において、ショウガポリフェノールとは、ショウガに含まれるポリフェノール類のことをいい、ジンゲロール類とその誘導体が主である(非特許文献4参照)。誘導体の例として、限定されるわけではないが、ショウガオール類が挙げられる。
【0019】
また、本組成物は、ショウガポリフェノールを含有するものである。限定されるわけではないが、生のショウガ、乾燥したショウガなどから抽出することができ、特に限定されるわけではないが、植物由来であることがより効率的なショウガポリフェノール類の抽出観点から好ましい。
【0020】
また、本組成物に含まれるショウガポリフェノール含有抽出物は、ショウガの根、葉、果実、種子、花などそのもの、及び根、葉、果実、種子、花を乾燥、粉砕等の加工を行った加工物の少なくともいずれかを含む植物原料から溶媒抽出等により得られた抽出物に限らず、この抽出物を濃縮して溶媒を除去した濃縮物、更には濃縮物に樹脂精製などの加工を施して得られた精製物などが含まれる。
【0021】
上記において抽出物を得る際の溶媒抽出に用いられる溶媒としては、ショウガポリフェノール含有原料内に存在するショウガポリフェノール類化合物を効率的に抽出できる限りにおいて、限定されるわけではないが、水、アルコール、及び極性溶媒の少なくともいずれかを含むものを挙げることが出来る。
【0022】
また上記において、アルコールは限定されるわけではないが、取扱いの観点から低級アルコールであることが、例としてエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノールおよびブタノールの少なくともいずれかを含ものであることが好ましい。更により好ましくは水及びアルコールを含む含水アルコールであり、食品組成物、医薬品組成物、化粧品組成物としての観点からエタノールを含む含水エタノールであることが好ましい。
【0023】
また上記において、極性溶媒は限定されるわけではないが、アセトンおよびグリセリンの少なくともいずれかを含む物であることが好ましい。
【0024】
また、本組成物において、シクロデキストリンは、ポリフェノール、より具体的にはショウガポリフェノールの体内における吸収を改善する効果を得ることができる。すなわち、シクロデキストリンは、ポリフェノール体内吸収改善用組成物となりうる。
【0025】
また、本組成物においてシクロデキストリンは、限定されるわけではないが、例としてγ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびα-シクロデキストリンが挙げられる。またこれらは単独であっても、2種以上を組み合わせて混合させてもよい。
【0026】
本組成物において含まれるシクロデキストリンの量は、限定されるわけではないが、ショウガポリフェノールの重量を1とした場合、シクロデキストリンの量が0.01以上100以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1以上75以下であり、更に好ましくは1以上50以下である。
【0027】
上記記載にもある通り、本組成物は食品組成物、医薬品組成物、化粧品組成物としても形態をとりうる。
【0028】
また、本組成物の形態は、いずれの場合においても固形状、液体状、またはこれらが混合してなる流動性のある状態であってもよい。
【0029】
上記食品組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、飴、キャンディー、ガム、シロップ、チョコレート等の菓子類、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤など種々の形態の健康食品、機能性表示食品や栄養補助食品が挙げられる。
【0030】
また、上記医薬品組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチなどが挙げられる。
【0031】
また、上記化粧品組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することが出来るが、例えば、化粧水、軟膏、乳液、香水、染料などが挙げられる。
【0032】
なお、本実施形態や下記実施例の製法で製造されたショウガポリフェノール含有組成物、及び本発明を配合した食品、医薬品、化粧品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0033】
以上、本発明によって、ポリフェノールの体内吸収を高めたショウガポリフェノール含有組成物を提供することができる。
【実施例0034】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
ショウガ原料に対して5~10倍の40%(v/v)エタノールを加え、75~80℃で60分間抽出した。濃縮後にショウガ原料に対してγ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンを合計10%加え、凍結乾燥して製造例1を調製した。また、シクロデキストリンを加えていないショウガ抽出物の濃縮液をそのまま凍結乾燥し、対照区1として調製した。さらにシクロデキストリンの代わりに直鎖状デキストリンを加えたショウガ抽出物の濃縮液を凍結乾燥した対照区2を調製した。
【0036】
―HPLC分析による6-ショウガオール、6-ジンゲロールの含量測定―
まず、6-ショウガオール、6-ジンゲロールの含有量を測定するため、製造例1、対照1、および対照2の抽出物についてHPLC分析を行った。
【0037】
製造例1、対照区1、および対照区2の抽出物を約0.1g量り、50%(v/v)エタノール40mLを加え、時々振り混ぜながら超音波処理した後、50%(v/v)エタノールを加えて正確に50mLとし、0.45μLフィルター通液分を試料溶液とした。
【0038】
<HPLC分析条件>
検出器:紫外可視吸光光度計
測定波長:280nm
カラム:内径4.6mm、長さ250mmのステンレス管に5μLの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
移動相:5%ギ酸水/アセトニトリル(55:45)
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
【0039】
<HPLC分析結果>
【表1】
【0040】
-Caco2細胞試験-
POCATM小腸吸収(Caco2)キットを用いた。図1に示すインサートにHBSS-HEPESを100μL添加後、サンプルを添加した。サンプル添加量は6-ジンゲロール、6-ショウガオールが同量になるように添加した。サンプルには製造例1、対照区1、および対照区2を用いた。図1に示すインサートの穴から下のwellにHBSS-HEPESを600μL添加後37℃のCOインキュベーターにインキュベートした。10分間または30分間のインキュベート後に、インサートのHBSS-HEPESをピペットで回収し、その後下のwellのHBSS-HEPESを回収した。回収した下のwellのHBSS-HEPESはLC/MSMSを用いて6-ショウガオール、6-ジンゲロールについて分析し、面積値を確認した。
【0041】
<LC/MSMS分析条件>
検出器:トリプル四重極質量分析計
イオン化モード:ESI-positiveモード
カラム:内径2.1mm、長さ100mmのステンレス管に1.7μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
スキャンタイプ:MRM
【表2】
移動相:A液:0.1%ギ酸
B液:0.1%ギ酸アセトニトリル
【表3】
流速:0.2mL/min
サンプル量:2μL
カラム温度:40℃
ネブライザーガス流量:3L/min
DL温度:250℃
ヒートブロック温度:400℃
インターフェイス電圧:4.50kV
インターフェイス電流:0.60μA
【0042】
<LC/MSMS分析結果>
【表4】
【表5】
【0043】
表4の結果から、製造例1のショウガポリフェノール含有組成物は対照区2と比べて6-ジンゲロールの小腸吸収率が改善されていることを確認できた。また、表5の結果から、製造例1のショウガポリフェノール含有組成物は対照区1および対照区2と比べて6-ショウガオールの小腸吸収率が改善されていることを確認できた。
【0044】
以上の結果から、ショウガポリフェノール含有抽出物にシクロデキストリンを添加することでポリフェノールの体内吸収効率を改善する方法が提供できることを確認するとともに、シクロデキストリンがポリフェノール、具体的にはショウガポリフェノール含有抽出物の体内吸収改善用組成物として機能することを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ショウガポリフェノール含有抽出物のポリフェノール体内吸収を改善する方法、及びポリフェノール体内吸収改善用組成物として産業上の利用可能性がある。

図1
図2
図3