IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ブローバイ通路の異常診断装置 図1
  • 特開-ブローバイ通路の異常診断装置 図2
  • 特開-ブローバイ通路の異常診断装置 図3
  • 特開-ブローバイ通路の異常診断装置 図4
  • 特開-ブローバイ通路の異常診断装置 図5
  • 特開-ブローバイ通路の異常診断装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167629
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ブローバイ通路の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20221027BHJP
   F02M 25/08 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
F01M13/00 K
F02M25/08 301H
F02M25/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073560
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】西田 大介
(72)【発明者】
【氏名】西尾 貴史
(72)【発明者】
【氏名】大久保 浩志
(72)【発明者】
【氏名】渥美 伸二
【テーマコード(参考)】
3G015
3G144
【Fターム(参考)】
3G015BD13
3G015BD24
3G015FB01
3G015FC02
3G015FC04
3G015FC05
3G015FE01
3G144BA18
3G144BA21
3G144CA09
3G144DA02
3G144EA03
3G144EA32
3G144EA63
3G144FA05
3G144FA14
3G144FA20
3G144FA28
3G144FA36
3G144GA02
3G144HA06
3G144HA29
(57)【要約】
【課題】ブローバイ通路の異常の有無を適切に判定する。
【解決手段】異常診断装置は、吸気通路20におけるスロットル下流通路27とクランクケース5とを接続するブローバイ通路41を備えたエンジンに適用される。この異常診断装置は、ブローバイガスの流量Qbを特定する流量特定部と、流量特定部により特定されたブローバイガスの流量Qbに基づいてブローバイ通路41に異常が発生しているか否かを判定する異常診断を行う診断部とを備える。診断部は、パージバルブ54が閉弁されている状態でブローバイ通路41の異常診断を行う。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを介して燃焼室と隔てられたクランク室を画成するクランクケースと、前記燃焼室に導入される吸気が流通する吸気通路と、当該吸気通路に開閉可能に設けられたスロットル弁と、前記吸気通路における前記スロットル弁よりも下流側の部分であるスロットル下流通路と前記クランクケースとを接続するブローバイ通路と、燃料タンクから蒸発した蒸発燃料を吸着するキャニスタと前記スロットル下流通路とを接続するパージ通路と、を備えたエンジンにおける前記ブローバイ通路の異常を診断する異常診断装置であって、
前記パージ通路に開閉可能に設けられたパージバルブと、
前記パージバルブの開閉動作を制御するパージ制御部と、
前記ブローバイ通路を通って前記クランク室から前記スロットル下流通路に導入されるブローバイガスの流量を特定する流量特定部と、
前記流量特定部により特定された前記ブローバイガスの流量に基づいて前記ブローバイ通路に異常が発生しているか否かを判定する異常診断を行う診断部とを備え、
前記診断部は、前記パージ制御部により前記パージバルブが閉弁されている状態で前記ブローバイ通路の異常診断を行う、ことを特徴とするブローバイ通路の異常診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブローバイ通路の異常診断装置において、
前記流量特定部は、前記スロットル弁を通過する吸気の流量であるスロットル通過流量を検出するエアフローセンサと、前記スロットル下流通路を流通する吸気の圧力であるスロットル下流圧を検出する吸気圧センサと、前記エアフローセンサにより検出された前記スロットル通過流量と前記吸気圧センサにより検出された前記スロットル下流圧とに基づいて前記ブローバイガスの流量を推定する演算部とを備える、ことを特徴とするブローバイ通路の異常診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブローバイ通路の異常診断装置において、
前記パージ制御部は、減速に伴い前記燃焼室への燃料供給を停止する減速燃料カットの実行時に前記パージバルブを閉弁する、ことを特徴とするブローバイ通路の異常診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載のブローバイ通路の異常診断装置において、
前記診断部は、前記減速燃料カットの実行中に前記ブローバイガスの流量を積算した積算値を求めるとともに、求めた積算値が所定の閾値を超えた場合に前記ブローバイ通路が異常と判定する、ことを特徴とするブローバイ通路の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクケースと吸気通路とを接続するブローバイ通路の異常を診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、吸気通路におけるスロットル弁よりも下流側の部分(以下、これをスロットル下流通路という)とクランクケースとを接続するブローバイ通路(ガス排出通路)を備えたエンジンにおいて、当該ブローバイ通路に孔開き等の異常が発生しているか否かを判定する異常診断を行うことが開示されている。具体的に、下記特許文献1では、上記スロットル下流通路の圧力やスロットル弁の開度等から推定される上記ブローバイ通路の通過ガス量(つまりブローバイガスの流量)が、予め定められた基準流量と比較され、両者の差の絶対値が所定の判定値よりも大きい場合に、上記ブローバイ通路に異常が発生していると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-96032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1のエンジンは、さらに、燃料タンクから蒸発した蒸発燃料を吸着するキャニスタと、当該キャニスタと上記スロットル下流通路とを接続するパージ通路と、当該パージ通路に設けられたパージバルブ(制御バルブ)とを備えている。パージバルブの開弁時には、パージ通路からスロットル下流通路に対しパージガス(蒸発燃料を含むガス)が導入される。
【0005】
しかしながら、パージバルブの開弁時は、パージ通路およびブローバイ通路からパージガスおよびブローバイガスがそれぞれ吸気通路(スロットル下流通路)に導入されるので、各ガスの挙動が複雑化し、ブローバイガスの流量を所望の精度で推定することが困難になる可能性がある。これにより、ブローバイ通路の異常の有無を適切に判定できず、例えばブローバイ通路が正常であるにもかかわらずこれを誤って異常と判定してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ブローバイ通路の異常の有無を適切に判定することが可能なブローバイ通路の異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、ピストンを介して燃焼室と隔てられたクランク室を画成するクランクケースと、前記燃焼室に導入される吸気が流通する吸気通路と、当該吸気通路に開閉可能に設けられたスロットル弁と、前記吸気通路における前記スロットル弁よりも下流側の部分であるスロットル下流通路と前記クランクケースとを接続するブローバイ通路と、燃料タンクから蒸発した蒸発燃料を吸着するキャニスタと前記スロットル下流通路とを接続するパージ通路と、を備えたエンジンにおける前記ブローバイ通路の異常を診断する異常診断装置であって、前記パージ通路に開閉可能に設けられたパージバルブと、前記パージバルブの開閉動作を制御するパージ制御部と、前記ブローバイ通路を通って前記クランク室から前記スロットル下流通路に導入されるブローバイガスの流量を特定する流量特定部と、前記流量特定部により特定された前記ブローバイガスの流量に基づいて前記ブローバイ通路に異常が発生しているか否かを判定する異常診断を行う診断部とを備え、前記診断部は、前記パージ制御部により前記パージバルブが閉弁されている状態で前記ブローバイ通路の異常診断を行う、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、ブローバイガスの流量に基づくブローバイ通路の異常診断が、パージバルブが閉弁されている状態で行われるので、当該ブローバイ通路の異常診断の精度を向上させることができる。例えば、パージバルブが開弁されている状態では、パージ通路からスロットル下流通路にパージガス(キャニスタから離脱した蒸発燃料を含むガス)が導入されるので、ブローバイガスに加えて当該パージガスがスロットル下流通路に導入される結果、それぞれのガスの挙動が複雑化し易くなる。そのため、仮にこのような状態でブローバイガスの流量を推定した場合には、その推定精度が有意に低下するおそれがある。これに対し、本発明では、パージバルブが閉弁されている状態でブローバイ通路の異常診断が行われるので、上記のような事情による推定精度の低下を回避することができる。これにより、ブローバイガスの流量を高い精度で推定できるとともに、推定したブローバイガスの流量に基づいてブローバイ通路に異常が発生しているか否かを適切に判定することができる。
【0009】
好ましくは、前記流量特定部は、前記スロットル弁を通過する吸気の流量であるスロットル通過流量を検出するエアフローセンサと、前記スロットル下流通路を流通する吸気の圧力であるスロットル下流圧を検出する吸気圧センサと、前記エアフローセンサにより検出された前記スロットル通過流量と前記吸気圧センサにより検出された前記スロットル下流圧とに基づいて前記ブローバイガスの流量を推定する演算部とを備える(請求項2)。
【0010】
この構成によれば、スロットル下流通路を出入りするガスの収支を考慮した適切な方法によりブローバイガスの流量を推定することができ、その推定値を用いてブローバイ通路の異常の有無を精度よく判定することができる。
【0011】
好ましくは、前記パージ制御部は、減速に伴い前記燃焼室への燃料供給を停止する減速燃料カットの実行時に前記パージバルブを閉弁する(請求項3)。
【0012】
減速燃料カットの実行時は、スロットル下流通路に強い負圧が形成されるので、ブローバイガスの正常時と異常時とでブローバイガスの流量が大きく異なることが想定される。このような減速燃料カットの実行時にパージバルブを閉じた上でブローバイ通路の異常診断を行うようにした場合には、異常時/正常時で明確に異なるブローバイガスの流量に基づきブローバイ通路の異常診断を行うことができ、その診断精度を十分に高めることができる。
【0013】
前記構成において、より好ましくは、前記診断部は、前記減速燃料カットの実行中に前記ブローバイガスの流量を積算した積算値を求めるとともに、求めた積算値が所定の閾値を超えた場合に前記ブローバイ通路が異常と判定する(請求項4)。
【0014】
この構成によれば、ブローバイ通路の誤判定が起きる可能性を可及的に低減することができる。例えば、ブローバイガスの流量そのものを閾値と比較した場合には、ブローバイガスの流量を特定する際の誤差が何らかの要因で一時的に拡大したときに、ブローバイ通路が正常であるにもかかわらずこれを誤って異常と判定してしまう可能性がある。これに対し、前記のように減速燃料カット中のブローバイガスの流量を積算した積算値を閾値と比較するようにした場合には、ブローバイガスの流量が継続的に異常な値を示した場合にのみブローバイ通路が異常と判定されるので、前記のような誤判定が起きる可能性を可及的に低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のブローバイ通路の異常診断装置によれば、ブローバイ通路の異常の有無を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る異常診断装置が適用されたエンジンの全体構成を示す概略システム図である。
図2】上記エンジンの制御系統を示す機能ブロック図である。
図3】上記エンジンのブローバイ通路の異常の有無を判定する異常診断の具体的手順を示すフローチャートである。
図4図3のステップS6の制御の詳細を示すサブルーチンである。
図5】上記エンジンの吸気通路における各ガスの流れを示す模式図である。
図6】上記ブローバイ通路の異常診断に伴う各種状態量の時間変化の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[エンジンの全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る異常診断装置が適用されたエンジンの全体構成を示す概略システム図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの火花点火式ガソリンエンジンである。エンジンは、ガソリンを含有する燃料の燃焼エネルギーにより駆動されるエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路20と、エンジン本体1から排出された排気ガスが流通する排気通路30とを備える。
【0018】
エンジン本体1は、図1において紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図1ではそのうちの一つのみを示す)を有する直列多気筒型のものである。エンジン本体1は、複数の気筒2を規定するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上側に取り付けられたシリンダヘッド4と、シリンダブロック3の下側に一体に形成されたクランクケース5と、クランクケース5の下側に取り付けられたオイルパン6とを備える。なお、本実施形態では、シリンダブロック3からシリンダヘッド4に向かう側を上、その逆を下として扱うが、これは説明の便宜のためであって、エンジンの据付姿勢を限定する趣旨ではない。
【0019】
エンジン本体1の各気筒2には、それぞれピストン7が往復動可能に収容されている。各気筒2におけるピストン7の上方には、それぞれ燃焼室Cが形成されている。各燃焼室Cは、シリンダヘッド4の下面と、気筒2の側周面(シリンダライナ)と、ピストン7の冠面とによって画成された空間である。
【0020】
ピストン7の下方にはクランク室Kが形成されている。クランク室Kは、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸15を収容する空間であり、ピストン7を介して燃焼室Cと隔てられている。クランク軸15は、各気筒2のピストン7とコネクティングロッド14を介して連結されている。
【0021】
エンジン本体1(シリンダブロック3またはクランクケース5)には、水温センサSN1およびクランク角センサSN2が取り付けられている。水温センサSN1は、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度つまりエンジン水温を検出するセンサである。クランク角センサSN2は、クランク軸15の回転角度であるクランク角と、クランク軸15の回転数であるエンジン回転数とを検出するセンサである。
【0022】
オイルパン6にはエンジンオイルWが貯留されている。エンジンオイルWは、エンジン本体1の摺動部品を潤滑する等の目的で使用される潤滑油である。エンジンオイルWは、図外のオイルポンプにより汲み上げられて、オイルギャラリー等を介してエンジン本体1の各部に供給される。
【0023】
シリンダヘッド4には、インジェクタ10、点火プラグ11、吸気弁12、および排気弁13が、それぞれ気筒2ごとに取り付けられている。インジェクタ10は、ガソリンを含有する燃料を燃焼室Cに噴射する噴射弁である。点火プラグ11は、燃料と空気とが混合した混合気に点火するプラグである。吸気弁12は、吸気通路20と燃焼室Cとを連通する吸気ポート8を開閉するバルブである。排気弁13は、排気通路30と燃焼室Cとを連通する排気ポート9を開閉するバルブである。
【0024】
インジェクタ10から燃焼室Cに噴射された燃料は、燃焼室Cにおいて空気と混合されて混合気を形成する。混合気は点火プラグ11による点火をきっかけに燃焼し、当該燃焼による膨張力を受けてピストン7が往復動する。ピストン7の往復動は、コネクティングロッド14等を含むクランク機構を介してクランク軸15に伝達され、当該クランク軸15を回転させる。
【0025】
インジェクタ10には、車両に備わる燃料タンク60から燃料が供給される。具体的に、各気筒2のインジェクタ10と燃料タンク60とは、燃料供給経路61を介して互いに接続されており、燃料タンク60に貯留された燃料が当該燃料供給経路61を通じて各気筒2のインジェクタ10に送出されるようになっている。燃料供給経路61には、燃料タンク60からインジェクタ10に向けて燃料を圧送する図外の燃料ポンプが設けられている。
【0026】
シリンダヘッド4には、各気筒2の吸気弁12を開閉する吸気動弁機構16と、各気筒2の排気弁13を開閉する排気動弁機構17とが装備されている。各動弁機構16,17は、クランク軸15と連動連結されたカム軸等を含んでおり、クランク軸15の回転に連動して吸気弁12および排気弁13を開閉する。
【0027】
排気通路30は、各気筒2の燃焼室Cから排出された排気ガスの流通路を形成する管状部材である。詳細は省略するが、排気通路30は、上流側から順に、各気筒2に対応して分岐した(図1の紙面に直交する方向に並ぶ)複数の分岐管を含む排気マニホールドと、当該排気マニホールドの各分岐管が集合した排気集合部と、排気集合部から下流側に延びる単管状の共通排気管とを備える。なお、ここでいう排気通路30の上流/下流とは、排気通路30を流通する排気ガスの流れ方向の上流/下流のことであり、エンジン本体1に近い側が上流、エンジン本体1から遠い側が下流である。
【0028】
吸気通路20は、各気筒2の燃焼室Cに導入される吸気の流通路を形成する管状部材であり、吸気マニホールド21と、サージタンク22と、共通吸気管23とを備える。吸気マニホールド21は、各気筒2に対応して分岐した(図1の紙面に直交する方向に並ぶ)複数の分岐管を含み、各分岐管の下流端と各気筒2の吸気ポート8とが連通するようにシリンダヘッド4に接続されている。サージタンク22は、各気筒2に吸気を均等に配分するための空間を提供するタンクであり、吸気マニホールド21における各分岐管の上流端と共通吸気管23との間に介設されている。共通吸気管23は、サージタンク22から上流側に延びる単管状の部材である。なお、ここでいう吸気通路20の上流/下流とは、吸気通路20を流通する吸気の流れ方向の上流/下流のことであり、エンジン本体1に近い側が下流、エンジン本体1から遠い側が上流である。
【0029】
吸気通路20には、エアクリーナ24およびスロットル弁25が上流側からこの順に配置されている。エアクリーナ24は、吸気中の異物を除去するフィルターであり、共通吸気管23の上流端に接続されている。スロットル弁25は、吸気通路20を流通する吸気の流量を調整可能な電動式のバタフライ弁であり、共通吸気管23におけるエアクリーナ24とサージタンク22との間に配置されている。なお、以下では、共通吸気管23におけるスロットル弁25よりも下流側の部分を下流側吸気管23aといい、共通吸気管23におけるスロットル弁25よりも上流側の部分を上流側吸気管23bという。また、下流側吸気管23aとサージタンク22との組合せを、スロットル下流通路27という。
【0030】
上流側吸気管23bには、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、および第1吸気圧センサSN5が取り付けられている。エアフローセンサSN3は、上流側吸気管23bを流通する吸気の流量、つまりスロットル弁25の上流側を流れる吸気の流量を検出するセンサである。吸気温センサSN4は、上流側吸気管23bを流通する吸気の温度を検出するセンサである。第1吸気圧センサSN5は、上流側吸気管23b内の吸気の圧力を検出するセンサである。なお、第1吸気圧センサSN5によって検出される吸気の圧力は、スロットル弁25によって絞られる前の吸気の圧力であるから、実質的に大気圧と同一とみなすことができる。
【0031】
サージタンク22には第2吸気圧センサSN6が取り付けられている。第2吸気圧センサSN6は、サージタンク22内の吸気の圧力、換言すればスロットル弁25の下流側を流れる吸気の圧力を検出するセンサである。なお、第2吸気圧センサSN6は、本発明における「吸気圧センサ」に相当する。
【0032】
本実施形態のエンジンは、ブローバイガス還流装置40と蒸発燃料処理装置50とをさらに備えている。ブローバイガス還流装置40は、各気筒2の燃焼室Cからクランク室Kに漏出したブローバイガス(混合気や既燃ガスを含むガス)を吸気通路20に導入する装置である。蒸発燃料処理装置50は、燃料タンク60から蒸発した燃料を吸気通路20に導入する装置である。
【0033】
ブローバイガス還流装置40は、ブローバイ通路(PCVホース)41と、ブローバイ通路41に設けられたPCVバルブ42とを備える。
【0034】
ブローバイ通路41は、クランクケース5とスロットル下流通路27(詳細にはサージタンク22)とを互いに接続している。すなわち、ブローバイ通路41は、クランク室Kとサージタンク22の内部空間とを互いに連通するようにクランクケース5とサージタンク22とを接続している。このようなブローバイ通路41は、燃焼室Cからクランク室Kに漏出したブローバイガスをサージタンク22内に還流する通路として機能する。
【0035】
PCVバルブ42は、ブローバイ通路41とクランクケース5との接続部に取り付けられている。PCVバルブ42は、サージタンク22の内部圧力がクランク室Kの圧力よりも小さい条件でのみ開弁する機械式のチェックバルブであり、ブローバイガスの逆流を防止する機能を有している。
【0036】
図示は省略するが、PCVバルブ42は、バルブボディと、バルブボディ内のバルブシートに対し離接可能(ストローク可能)に設けられた弁体と、弁体をバルブシート側(クランク室K側)に押圧するスプリングとを有している。サージタンク22とクランク室Kとの圧力差が十分に小さい場合、弁体はスプリングによりバルブシート(閉止位置)に押し付けられ、これによってブローバイ通路41を通じたガスの流通が停止される。一方、サージタンク22の内部圧力が低下(負圧化)し、サージタンク22とクランク室Kとの間に有意な圧力差が生じると、スプリングの弾発力に抗して弁体がバルブシートからストロークする。これにより、ブローバイ通路41とクランク室Kとが連通し、クランク室Kからサージタンク22へのブローバイガスの導入が許容される。サージタンク22の負圧化がさらに進行すると、弁体とバルブシートとの距離は拡大するものの、バルブボディの内壁のうちバルブシートと対向する部分と弁体との距離が縮小する結果、PCVバルブ42内のブローバイガスの流路面積がかえって狭まり、ブローバイガスの流量が抑制される。このように、ブローバイガスの流量は、サージタンク22とクランク室Kとの圧力差に応じて単純比例的に増大するわけではなく、一定の範囲に制限される。言い換えると、PCVバルブ42は、その構造上、ブローバイガスの流量を一定の範囲に制限するレギュレート機能を有している。
【0037】
蒸発燃料処理装置50は、ベーパ通路51と、キャニスタ52と、パージ通路53と、パージバルブ54とを備える。
【0038】
ベーパ通路51は、燃料タンク60から蒸発した燃料をキャニスタ52に導くための通路であり、燃料タンク60からエンジン本体1側に延びるように配設されている。
【0039】
キャニスタ52は、ベーパ通路51を通じて供給された蒸発燃料を捕集する捕集器であり、ベーパ通路51における燃料タンク60とは反対側の端部に接続されている。キャニスタ52は、例えば活性炭等からなる吸着材を内蔵しており、当該吸着材に蒸発燃料を吸着させることで一時的に蒸発燃料を蓄える機能を有している。
【0040】
パージ通路53は、キャニスタ52とスロットル下流通路27(詳細には下流側吸気管23a)とを互いに接続している。すなわち、パージ通路53は、上記吸着材が収容されたキャニスタ52の内部空間と下流側吸気管23aの内部空間とを互いに連通するようにキャニスタ52と下流側吸気管23aとを接続している。このようなパージ通路53は、キャニスタ52から離脱した蒸発燃料を含むガス(以下、これをパージガスという)を下流側吸気管23a内に導入する通路として機能する。
【0041】
パージバルブ54は、パージ通路53から下流側吸気管23aに導入されるパージガスの流量を調整する電動式の制御弁であり、パージ通路53の途中部に開閉可能に設けられている。本実施形態では、キャニスタ52に捕集された蒸発燃料をできるだけ無駄なく利用するため、エンジンの運転中はパージバルブ54が原則的に開弁状態とされて、パージ通路53を通じたパージガスの供給が行われる。ただし、例外として、パージバルブ54は、インジェクタ10による燃料噴射が停止される運転条件(後述する減速燃料カットの実行時)には閉弁される。これは、蒸発燃料を含むパージガスが燃焼停止中の燃焼室Cに供給される(換言すれば蒸発燃料が無駄に放出される)のを防止するためである。
【0042】
[制御系統]
図2は、エンジンの制御系統を示す機能ブロック図である。本図に示されるECU100は、エンジンを統括的に制御するための制御装置であり、各種演算処理を行うプロセッサ(CPU)と、ROMおよびRAM等のメモリーと、各種の入出力バスと、を含むマイクロコンピュータにより構成されている。
【0043】
ECU100には、エンジンに備わる各種センサによる検出情報が入力される。例えば、ECU100は、上述した水温センサSN1、クランク角センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、第1吸気圧センサSN5、および第2吸気圧センサSN6と電気的に接続されている。ECU100には、当該各センサSN1~SN6によって検出された情報、つまりエンジン水温、クランク角、エンジン回転数、吸気流量、吸気温度、吸気圧力等の情報が逐次入力される。
【0044】
また、ECU100には、車両に備わる各種センサによる検出情報も入力される。例えば、車両には、ドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度つまりアクセル開度を検出するアクセルセンサSN7が設けられており、当該アクセルセンサSN7による検出情報(アクセル開度)もECU100に逐次入力される。
【0045】
ECU100は、上記各センサSN1~SN7からの入力情報に基づいて種々の演算や判定等を実行しつつエンジンの各部を制御する。例えば、ECU100は、インジェクタ10、点火プラグ11、スロットル弁25、およびパージバルブ54と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0046】
具体的に、ECU100は、その機能要素として、演算部101、燃焼制御部102、および診断部103を備える。なお、燃焼制御部102は本発明に係る「パージ制御部」に相当する。
【0047】
燃焼制御部102は、各気筒2での混合気の燃焼を制御する制御モジュールである。例えば、燃焼制御部102は、アクセル開度等の条件に応じた適切な出力トルクが得られるように、インジェクタ10、点火プラグ11、およびスロットル弁25等を用いて各気筒2での混合気の燃焼を制御する。
【0048】
診断部103は、ブローバイ通路41の異常診断を行う制御モジュールである。詳細は後述するが、診断部103は、ブローバイガスの流量の推定値に基づいてブローバイ通路41の異常の有無を判定する。例えば、ブローバイ通路41に孔が開いたり、ブローバイ通路41の接続(ブローバイ通路41の一端部とサージタンク22との接続、もしくはブローバイ通路41の他端部とクランクケース5との接続)が解除されるといった異常が発生した場合には、ブローバイガスの流量を推定する精度が大きく悪化し、異常な値の流量が算出されることになる。診断部103は、このような状況が確認された場合にブローバイ通路41に異常が発生していると判定する。
【0049】
演算部101は、燃焼制御部102および診断部103による制御を実行するのに必要な種々のデータ等を演算により求める制御モジュールである。
【0050】
[異常診断]
次に、ブローバイ通路41の異常の有無を判定する異常診断の具体的手順について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0051】
図3のフローがスタートすると、ECU100の診断部103は、ブローバイ通路41の異常診断に必要な情報を各センサSN1~SN7から読み込む(ステップS1)。
【0052】
次いで、診断部103は、診断許可条件が成立するか否かを判定する(ステップS2)。診断許可条件とは、ブローバイ通路41の異常診断が許可される条件のことである。本実施形態において、診断部103は、下記(i)(ii)の要件の双方が満たされる場合に、診断許可条件が成立すると判定する。
(i)エンジン回転数が予め定められた第1回転数N1(図6参照)以下であること。
(ii)大気圧が予め定められた基準圧力以上であること。
【0053】
すなわち、診断部103は、クランク角センサSN2により検出されたエンジン回転数と、第1吸気圧センサSN5により検出された大気圧(スロットル弁25の上流側の吸気の圧力)とを、上記要件(i)(ii)にあてはめる。そして上記要件(i)(ii)の双方が満たされることが確認された場合に、診断許可条件が成立すると判定する。一方、上記要件(i)(ii)のいずれか1つでも満たされないことが確認された場合には、診断許可条件が成立していないと判定する。
【0054】
ここで、上記要件(i)における第1回転数N1、および上記要件(ii)における基準圧力は、後述するステップS6においてブローバイガスの流量を推定する際の推定精度を確保する観点から定められるものである。すなわち、エンジン回転数が過度に高いかまたは大気圧が過度に低い場合(言い換えれば標高が高い場合)には、ブローバイガスの流量の推定精度が有意に低下することが分かっている。そこで、このような低い精度の推定値に基づくブローバイ通路41の異常診断が行われるのを避けるべく、上記要件(i)(ii)が設定されている。なお、上記要件(ii)における基準圧力は、例えば標高2千メートル程度の高地での大気圧に相当する値に設定することができる。
【0055】
上記ステップS2でYESと判定されて診断許可条件が成立することが確認された場合、ECU100の燃焼制御部102は、減速燃料カット条件が成立するか否かを判定する(ステップS3)。減速燃料カット条件とは、燃料の消費を抑える目的で車両の減速時にインジェクタ10による燃料噴射を停止する減速燃料カットの実行が許可される条件のことである。本実施形態において、燃焼制御部102は、下記(iii)~(v)の要件が全て満たされる場合に、減速燃料カット条件が成立すると判定する。
(iii)アクセル開度が実質的にゼロであること(つまりアクセルペダルが踏み込まれていないこと)。
(iv)エンジン回転数が予め定められた第2回転数N2(図6参照)以上であること。
(v)エンジン水温が予め定められた基準温度以上であること。
【0056】
すなわち、燃焼制御部102は、アクセルセンサSN7により検出されたアクセル開度と、クランク角センサSN2により検出されたエンジン回転数と、水温センサSN1により検出されたエンジン水温とを、上記要件(iii)~(v)にあてはめる。そして上記要件(iii)~(v)が全て満たされることが確認された場合に、減速燃料カット条件が成立すると判定する。一方、上記要件(iii)~(v)のいずれか1つでも満たされないことが確認された場合には、減速燃料カット条件が成立していないと判定する。なお、要件(iv)における第2回転数N2は、アイドリング回転数よりもやや高い回転数であって、上述した診断許可条件に関する要件(i)にて用いられる第1回転数N1(つまり異常診断が許可される上限の回転数)よりも十分に低い回転数であるものとする。
【0057】
上記ステップS3でNOと判定されて減速燃料カット条件が非成立であることが確認された場合、燃焼制御部102は、各気筒2の燃焼室Cにおいてインジェクタ10からの噴射燃料を燃焼させる通常の燃焼制御を実行する(ステップS15)。具体的に、燃焼制御部102は、アクセルセンサSN7により検出されたアクセル開度等の情報に基づきエンジンの要求トルクを算出するとともに、算出した要求トルクに見合った熱発生を伴う燃焼が各気筒2の燃焼室Cで行われるように、インジェクタ10による燃料の噴射量、点火プラグ11による点火時期、およびスロットル弁25の開度等を制御する。また、燃焼制御部102は、パージバルブ54を開弁状態とし、蒸発燃料を含むパージガスをパージ通路53を通じて吸気通路20(スロットル下流通路27)に導入する。このときのパージバルブ54の開度は、パージガス中の蒸発燃料とインジェクタ10からの噴射燃料とが合わさった燃料の濃度(混合気の空燃比)が各気筒2の燃焼室Cにおいて所望の値になるように調整される。
【0058】
一方、上記ステップS3でYESと判定されて減速燃料カット条件が成立することが確認された場合、燃焼制御部102は、減速燃料カットを実行する(ステップS4)。すなわち、燃焼制御部102は、各気筒2において燃焼室Cへの燃料噴射が停止されるようにインジェクタ10を制御し、各燃焼室Cでの混合気の燃焼を停止させる。
【0059】
次いで、燃焼制御部102は、パージバルブ54を閉弁する(ステップS5)。すなわち、燃焼制御部102は、蒸発燃料を含むパージガスの吸気通路20への導入が停止されるように、パージバルブ54の開度を全閉相当の開度まで低下させてパージ通路53を遮断する。
【0060】
次いで、ECU100の演算部101は、ブローバイガス流量Qbを算出する(ステップS6)。ここで算出されるブローバイガス流量Qbは、図5に示すとおり、ブローバイ通路41を通ってクランク室Kからサージタンク22に導入されるブローバイガスの流量のことである。このブローバイガス流量Qbは、エアフローセンサSN3により検出される吸気流量Qthと、第2吸気圧センサSN6により検出される吸気圧力Psとに基づき算出(推定)される。
【0061】
ここで、スロットル弁25よりも上流側のエアフローセンサSN3により検出される吸気流量Qthは、スロットル弁25を通過する吸気の流量と等価である。このため、以下では、当該エアフローセンサSN3により検出される流量のことをスロットル通過流量Qthという。また、サージタンク22(スロットル下流通路27)に備わる第2吸気圧センサSN6により検出される吸気圧力Psは、スロットル弁25よりも下流側を流れる吸気の圧力と等価である。このため、以下では、当該第2吸気圧センサSN6により検出される圧力のことをスロットル下流圧Psという。上記ステップS6において、演算部101は、これらスロットル通過流量Qthおよびスロットル下流圧Psからブローバイガス流量Qbを算出する。具体的に、演算部101は、図4に示すサブルーチンに従ってブローバイガス流量Qbを算出する。
【0062】
図4のサブルーチンがスタートすると、演算部101は、エアフローセンサSN3により検出されたスロットル通過流量Qthを取得する(ステップS21)。
【0063】
次いで、演算部101は、第2吸気圧センサSN6により検出されたスロットル下流圧Psと、吸気温センサSN4により検出された吸気温度とに基づいて、図5に示すスロットル下流流量Qsを算出する(ステップS22)。ここで算出されるスロットル下流流量Qsとは、サージタンク22を通過する吸気の流量のことである。このスロットル下流流量Qsは、スロットル下流圧Psおよび吸気温度から気体の状態方程式を用いて算出することができる。すなわち、演算部101は、状態方程式を利用した所定の演算式を用いて、スロットル下流圧Psおよび吸気温度からサージタンク22内の吸気の質量を算出するとともに、算出した質量の時間変化に基づいてスロットル下流流量Qsを算出する。
【0064】
次いで、演算部101は、各気筒2の燃焼室Cに吸い込まれる吸気の流量であるシリンダ流量Qcyを算出する(ステップS23)。具体的に、演算部101は、エアフローセンサSN3により検出されるスロットル通過流量Qthと、吸気弁12のバルブタイミングやエンジン回転数等から推定される各気筒2の充填効率とに基づいて、シリンダ流量Qcyを算出する。例えば、各気筒2の燃焼室Cに導入される吸気の質量は、直近のスロットル通過流量Qth(より詳しくはエアフローセンサSN3の位置から各気筒2の燃焼室Cまでの移動距離から定まる所定の遅れ時間だけ遡った時期でのスロットル通過流量Qth)が多いほど大きくなり、各気筒2の最大容積に対する吸気吸い込み量の割合である充填効率が高いほど大きくなる。演算部101は、このような特性を利用した所定の演算式を用いて、スロットル通過流量Qthの検出値と充填効率の推定値とからシリンダ流量Qcyを算出する。
【0065】
次いで、演算部101は、ブローバイ通路41を通じてサージタンク22に導入されるブローバイガスの流量つまりブローバイガス流量Qbを算出する(ステップS24)。具体的に、演算部101は、上記ステップS21で取得されたスロットル通過流量Qthと、上記ステップS22で算出されたスロットル下流流量Qsと、上記ステップS23で算出されたシリンダ流量Qcyとに基づいて、下式(1)を用いてブローバイガス流量Qbを算出する。
【0066】
Qb=Qs-Qth+Qcy ‥‥(1)
ここで、サージタンク22内の吸気の質量は、サージタンク22への流入ガスの流量であるスロットル通過流量Qthおよびブローバイガス流量Qbが多いほど大きくなり、サージタンク22からの流出ガスの流量であるシリンダ流量Qcyが多いほど小さくなる。このため、サージタンク22内の吸気の質量流量つまりスロットル下流流量Qsは、スロットル通過流量Qthおよびブローバイガス流量Qbをプラス要素とし、かつシリンダ流量Qcyをマイナス要素とする式(Qs=Qth+Qb-Qcy)を用いて求めることができる。この式を変形し、QbとQsが入れ替わるように移項すれば、上記式(1)が得られる。言い換えると、上記ステップS24において、演算部101は、サージタンク22に流入するガスとサージタンク22から流出するガスの収支に基づいて、ブローバイガス流量Qbを推定する。なお、このようなブローバイガス流量Qbの推定のために活用されるエアフローセンサSN3、第2吸気圧センサSN6、および演算部101の組合せは、本発明における「流量特定部」に相当する。
【0067】
既に説明したとおり、ブローバイガス流量Qbの算出(推定)が行われるのは、減速燃料カットの実行に伴いパージバルブ54が閉弁されているときである(図3参照)。このため、ブローバイガス流量Qbの算出にあたっては、パージ通路53を通じてサージタンク22に流入するパージガスの流量を考慮する必要はない。上記式(1)にパージガスの流量を表す項が含まれないのはこのためである。
【0068】
図3に戻って制御の続きを説明する。上記のようなブローバイガス流量Qbの算出後、演算部101は、減速燃料カットが予め定められた規定時間継続されたか否かを判定する(ステップS7)。すなわち、上記ステップS4の減速燃料カットは、上記ステップS3での判定がYESとなる間(減速燃料カット条件が成立している間)継続して行われる。演算部101は、このように減速燃料カットが継続して行われた時間を計測し、計測した時間が上記規定時間に達したか否かを判定する。
【0069】
上記ステップS7でYESと判定されて減速燃料カットが規定時間継続されたことが確認された場合、診断部103は、ブローバイガス流量Qbを積算した積算値Zbを算出する。すなわち、診断部103は、上記規定時間のあいだ図4のルーチンにより繰り返し算出されたブローバイガス流量Qbを積算することにより、ブローバイガス流量の積算値Zbを算出する(ステップS8)。
【0070】
次いで、診断部103は、上記ステップS8で算出されたブローバイガス流量の積算値Zbが予め定められた閾値Xより大きいか否かを判定する(ステップS9)。
【0071】
上記ステップS9でYESと判定されてブローバイガス流量の積算値Zbが閾値Xよりも大きいことが確認された場合、診断部103は、ブローバイ通路41に異常が発生していると判定し(ステップS10)、当該異常をドライバー等に報知するための所定の表示を車内の表示部に表示させる(ステップS11)。例えば、診断部103は、車両のメータパネルに備わる警告灯を点灯させるなどの制御を行う。
【0072】
一方、上記ステップS9でNOと判定されてブローバイガス流量の積算値Zbが閾値X以下であることが確認された場合、診断部103は、ブローバイ通路41は正常であると判定する(ステップS12)。この場合、診断部103は、異常を報知するための特段の表示制御を行うことなく、ブローバイガス流量の積算値Zbをゼロにリセットする(ステップS13)。
【0073】
図6は、図3および図4に示したブローバイ通路41の異常診断に伴う各種状態量の時間変化の一例を示すタイムチャートであり、チャート(a)はアクセル開度の時間変化を、チャート(b)はエンジン回転数の時間変化を、チャート(c)はインジェクタ10からの燃料噴射量の時間変化を、チャート(d)はスロットル下流圧Psもしくはスロットル開度(スロットル弁25の開度)の時間変化を、チャート(e)はパージバルブ54の開度の時間変化を、チャート(f)はブローバイガス流量Qbの時間変化を、チャート(g)はブローバイガス流量の積算値Zbの時間変化を、それぞれ示している。
【0074】
図6では、アクセル開度がゼロまで低下した時点をt1としている。この時点t1において、エンジン回転数は、異常診断が許可される上限の回転数である第1回転数N1よりも低く、減速燃料カットが許可される下限の回転数である第2回転数N2よりも高い。エンジン回転数が第2回転数N2よりも高いことから、減速燃料カットが許可され、時点t1よりも少し遅れた時点t2において、減速燃料カットが開始される(チャート(c))。すなわち、インジェクタ10からの燃料噴射量がゼロまで低減される。
【0075】
時点t2において減速燃料カットが開始されるのに伴い、スロットル弁25の開度が低減されるとともに、スロットル下流圧Psが低下する(チャート(d))。すなわち、スロットル弁25の開度が低減されることにより、スロットル弁25の前後の圧力差が増大し、スロットル弁25よりも下流側のサージタンク22の圧力であるスロットル下流圧Psが低下する。これにより、スロットル下流圧Psは、より強い負圧へと変化する。
【0076】
また、時点t2での減速燃料カット開始に伴い、パージバルブ54が閉弁され、その開度がゼロまで低減される(チャート(e))。これにより、パージ通路53を通じた吸気通路20へのパージガスの導入が停止される。
【0077】
時点t2でのスロットル下流圧Psの低下(負圧化)は、クランク室Kとサージタンク22との間の圧力差を増大させるが、この圧力差の増大によりブローバイガス流量Qbに生じる影響は、ブローバイ通路41が正常か異常かによって異なる。チャート(f)では、ブローバイ通路41が正常であるときのブローバイガス流量Qbを実線で、ブローバイ通路41が異常であるときのブローバイガス流量Qbを一点鎖線でそれぞれ示している。実線の波形によれば、ブローバイ通路41が正常であるとき、時点t2においてスロットル下流圧Psが大きく負圧化(クランク室Kとの圧力差が増大)しても、ブローバイガス流量Qbは大きく変化しない。これは、既に説明したPCVバルブ42のレギュレート機能によるものである。一方、破線の波形で示されるブローバイ通路41の異常時は、時点t2においてスロットル下流圧Psが大きく負圧化したのに伴い、ブローバイガス流量Qbが顕著に増大する。
【0078】
例えば、ブローバイ通路41に孔が開く異常が発生した場合、ブローバイ通路41から吸気通路20に流入するガスは、クランク室Kからブローバイ通路41に引き込まれる本来のブローバイガスと、ブローバイ通路41の孔から流入する外気とが混じったガスとなる。この場合において、ブローバイ通路41の孔から流入する外気は、スロットル下流圧Psが負圧化するほど多くなり、これによってブローバイガス流量Qbは見かけ上顕著に増大する。また、ブローバイ通路41の一端部とサージタンク22との接続が解除される異常が発生した場合には、サージタンク22が実質的に大気解放の状態となり、サージタンク22におけるブローバイ通路41との接続口からサージタンク22に自由に外気が導入されるようになる。この場合、本来のブローバイガス(クランク室Kから引き込まれるブローバイガス)は吸気通路20に導入されなくなるものの、上記接続口からサージタンク22に導入される外気の量がスロットル下流圧Psの負圧化に応じて増大する結果、やはりブローバイガス流量Qbは見かけ上顕著に増大する。このことは、ブローバイ通路41の他端部とクランクケース5との接続が解除される異常が発生した場合でも同様である。スロットル下流圧Psが大きく負圧化する時点t2以降において、ブローバイ通路41の異常時のブローバイガス流量Qbが正常時に比べて顕著に大きいのはこのためである。
【0079】
上述した異常/正常時のブローバイガス流量Qbの相違は、当該ブローバイガス流量Qbを積算した積算値Zb(チャート(g))にも相違をもたらす。すなわち、減速燃料カットが開始される時点t2からブローバイガス流量Qbの積算が開始されることにより、当該積算により得られる積算値Zbは時点t2以降右肩上がりに増大していく。ただし、ブローバイ通路41の異常時の方が正常時よりもブローバイガス流量Qbが顕著に大きいことから、その積算値Zbの増大率は、異常時の方が正常時よりも顕著に大きくなる。
【0080】
図6における時点t3は、減速燃料カットの開始時点t2からの経過時間が上記ステップS7(図3)でいう規定時間に達した時点である。この時点t3において、異常時のブローバイガス流量の積算値Zbは閾値X(上記ステップS9)よりも大きく、正常時のブローバイガス流量の積算値Zbは閾値Xよりも小さい。言い換えると、ブローバイ通路41が異常である場合は、時点t3に至る前に積算値Zbが閾値Xを超えており、ブローバイ通路41が正常である場合は、時点t3に至っても積算値Zbは閾値X未満に留まっている。これにより、時点t3において、異常なブローバイ通路41に対し異常の判定が下され、正常なブローバイ通路41に対し正常の判定が下される。ブローバイ通路41が正常と判定された場合は、判定の時点t3において積算値Zbがゼロにリセットされる。
【0081】
時点t3からやや遅れた時点t4において、エンジン回転数が第2回転数N2まで低下している(チャート(b))。これにより、減速燃料カットが停止されて、インジェクタ10による燃料噴射が再開される(チャート(c))。また、当該燃料噴射の再開に伴い、スロットル弁25の開度が増大されるとともに(チャート(d))、閉弁状態にあったパージバルブ54が再び開弁される(チャート(e))。
【0082】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、インジェクタ10による燃料噴射が停止される減速燃料カットの実行中に、ブローバイ通路41を通じてスロットル下流通路27に導入されるブローバイガスの流量であるブローバイガス流量Qbが演算により推定され、推定されたブローバイガス流量Qbに基づいてブローバイ通路41に異常が発生しているか否かが判定される。このような構成によれば、ブローバイ通路41の異常の有無を適切に判定できるという利点がある。
【0083】
減速燃料カットの実行中は、パージバルブ54の閉弁によってパージ通路53からスロットル下流通路27へのパージガス(蒸発燃料を含むガス)の導入が停止される。このため、上記のように減速燃料カット中にブローバイガス流量Qbを推定すれば、スロットル下流通路27にブローバイガスとパージガスとの双方が導入される状態(換言すれば各ガスの挙動が複雑化し易い状態)でブローバイガス流量Qbが推定されることが避けられる。これにより、ブローバイガス流量Qbの推定精度が良好に確保されるので、推定されたブローバイガス流量Qbに基づいてブローバイ通路41に異常が発生しているか否かを適切に判定することができる。
【0084】
具体的に、上記実施形態では、減速燃料カット中に推定されたブローバイガス流量Qbを積算した積算値Zbが求められ、求められた積算値Zbが閾値Xよりも大きい場合にブローバイ通路41が異常と判定される。このように、ブローバイガス流量の積算値Zbをブローバイ通路41の異常判定の指標として用いるようにした場合には、ブローバイ通路41が正常であるにもかかわらずこれを誤って異常と判定してしまう可能性を可及的に低減することができる。例えば、減速燃料カット中に逐次算出(推定)されるブローバイガス流量Qbは、その算出時の誤差を拡大させる何らかの要因により、一時的に異常に大きな値として算出される可能性がある。この場合に、仮にブローバイガス流量Qbそのものを閾値と比較した場合には、上記のような一時的な誤差拡大が起きたときに、正常なブローバイ通路41を誤って異常と判定してしまう可能性がある。これに対し、上記のように減速燃料カット中のブローバイガス流量Qbを積算した積算値Zbを閾値Xと比較するようにした場合には、ブローバイガス流量Qbが継続的に異常な値を示した場合にのみブローバイ通路41が異常と判定されるので、上記のような誤判定が起きる可能性を可及的に低減することができる。
【0085】
ここで、ブローバイ通路41に孔が開いたり、ブローバイ通路41の接続が解除されるといった異常が発生した場合は、特に減速燃料カット中に、スロットル下流通路27(サージタンク22)におけるブローバイ通路41との接続口から外気を含む多量のガスがスロットル下流通路27に導入されるので、ブローバイガス流量Qbが見かけ上顕著に増大し、当該ブローバイガス流量Qbの算出値(推定値)が異常に大きくなる。これに対し、本実施形態では、減速燃料カット中のブローバイガス流量Qbを積算した積算値Zbが閾値Xより大きい場合にブローバイ通路41が異常と判定されるので、上記のような孔開きや接続解除といった異常が発生した場合にこれを的確に判定することができる。
【0086】
ブローバイ通路41に上記のような異常が発生していると、減速燃料カットを除く通常運転のときに、各気筒2の燃焼室Cに形成される混合気の空燃比が目標値に対し大きくずれることが避けられない。このような空燃比のずれは、例えばエンジンのエミッション性能(排気浄化性能)を悪化させるので、ブローバイ通路41が異常な状態のまま放置されることは避けるべきである。これに対し、本実施形態では、上述した方法によりブローバイ通路41の異常の有無が高い精度で判定されるので、ブローバイ通路41が異常な状態のまま放置されるのを回避することができる。このことは、エミッション性能の保証に有効となる。
【0087】
また、本実施形態では、スロットル弁25よりも上流側のエアフローセンサSN3により検出されるスロットル通過流量Qthと、サージタンク22に設けられた第2吸気圧センサSN6による検出値(スロットル下流圧Ps)等から算出されるスロットル下流流量Qsとに基づいて、演算により上記ブローバイガス流量Qbが推定されるので、スロットル下流通路27(サージタンク22)を出入りするガスの収支を考慮した適切な方法によりブローバイガス流量Qbを推定することができ、その推定値を用いてブローバイ通路41の異常の有無を精度よく判定することができる。
【0088】
[変形例]
上記実施形態では、エアフローセンサSN3および第2吸気圧センサSN6による各検出値から演算によりブローバイガス流量Qbを推定したが、例えばブローバイ通路41との接続口からサージタンク22に流入するガスの流量を直接検出可能なセンサを追加し、当該追加のセンサを用いてブローバイガス流量Qbを特定するようにしてもよい。
【0089】
上記実施形態では、車両の減速に伴いインジェクタ10による燃料噴射を停止する減速燃料カットの実行中にブローバイガス流量Qbを特定し、特定したブローバイガス流量Qbに基づいてブローバイ通路41の異常診断を行うようにしたが、ブローバイ通路41の異常診断は、少なくともパージバルブ54が閉弁されている状態(パージ通路53からスロットル下流通路27へのパージガスの導入が停止されている状態)で行われればよく、減速燃料カットの実行中以外にも上記異常診断を行うことも可能である。例えば、エンジンのアイドリング運転時に、パージバルブ54を閉弁した上でブローバイ通路41の異常診断を行うようにしてもよい。
【0090】
上記実施形態では、減速燃料カット中に特定したブローバイガス流量Qbを積算した積算値Zbを求め、求めた積算値Zbが閾値Xよりも大きい場合にブローバイ通路41が異常と判定したが、必ずしもブローバイガス流量の積算値Zbを異常診断の指標とする必要はない。例えば、パージバルブ54が閉弁されている期間に複数回にわたってブローバイガス流量Qbを特定し、特定したブローバイガス流量Qbの平均値を所定の閾値と比較することにより、ブローバイ通路41の異常診断を行ってもよい。
【0091】
上記実施形態では、エンジン本体1においてクランクケース5とシリンダブロック3とが一体であるものとしたが、クランクケース5とシリンダブロック3とは別体であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
5 クランクケース
7 ピストン
20 吸気通路
25 スロットル弁
27 スロットル下流通路
41 ブローバイ通路
52 キャニスタ
53 パージ通路
54 パージバルブ
101 演算部
102 燃焼制御部(パージ制御部)
103 診断部
C 燃焼室
K クランク室
SN3 エアフローセンサ
SN6 第2吸気圧センサ(吸気圧センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6