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  • 特開-駆動部材制御装置 図1
  • 特開-駆動部材制御装置 図2
  • 特開-駆動部材制御装置 図3
  • 特開-駆動部材制御装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167646
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】駆動部材制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20221027BHJP
【FI】
H02P29/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073583
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】矢頭 大侑
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 豪
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501BB08
5H501CC04
5H501DD01
5H501JJ04
5H501JJ17
5H501LL05
5H501LL37
5H501LL39
5H501MM05
(57)【要約】
【課題】推定するモータ温度の高精度化を可能とした駆動部材制御装置を提供すること。
【解決手段】パワーウィンドウ装置2は、ウィンドウガラス1を駆動させるモータMを制御するとともに、モータ温度を推定する制御部8を備える。制御部8は、前回までに推定したモータ温度に応じて発熱量を算出し、その発熱量に応じてモータ温度を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部材(1)を駆動させるモータ(M)を制御するとともに、モータ温度を推定する制御部(8)を備えた駆動部材制御装置(2)であって、
前記制御部は、前回までに推定した前記モータ温度と周辺温度との少なくとも一方に応じて発熱量を算出し、前記発熱量に応じて前記モータ温度を推定する駆動部材制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記モータの回転数が予め設定された回転数閾値(A)よりも小さい場合に、前回までに推定した前記モータ温度が高いほど前記発熱量が小さくなるように前記発熱量を算出する請求項1に記載の駆動部材制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記モータの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合に、前記周辺温度が高いほど前記発熱量が小さくなるように前記発熱量を算出する請求項1または請求項2に記載の駆動部材制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記周辺温度を他の用途用の温度センサ(5)から取得する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駆動部材制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、推定した前記モータ温度に基づいて前記モータの作動を制限する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の駆動部材制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動部材制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーウィンドウ制御装置等の駆動部材制御装置としては、推定したモータ温度が規制値以上となったときモータに流す通電量を規制することでモータを保護するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-11610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような駆動部材制御装置では、推定するモータ温度の精度が低いという問題があった。具体的には、上記したような駆動部材制御装置では、実際のモータ温度よりも推定するモータ温度が低くなるとモータを保護できないため、推定するモータ温度が実際のモータ温度よりも大幅に高くなってしまうことがあった。このことは、早期にモータの作動を制限してしまう原因となる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、推定するモータ温度の高精度化を可能とした駆動部材制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する駆動部材制御装置(2)は、駆動部材(1)を駆動させるモータ(M)を制御するとともに、モータ温度を推定する制御部(8)を備えた駆動部材制御装置(2)であって、前記制御部は、前回までに推定した前記モータ温度と周辺温度との少なくとも一方に応じて発熱量を算出し、前記発熱量に応じて前記モータ温度を推定する。
【0007】
同構成によれば、制御部は、前回までに推定したモータ温度と周辺温度との少なくとも一方に応じて発熱量を算出するため、例えば、前回までに推定したモータ温度及び周辺温度に関わらず発熱量を算出する場合に比べて、発熱量を高精度に算出することができる。よって、モータ温度を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態におけるパワーウィンドウ装置に関する模式回路図。
図2】一実施形態における制御部の温度変化量算出処理を説明するためのフロー図。
図3】一実施形態におけるトルクに対する回転数と電流値の特性図。
図4】一実施形態における回転数に対する発熱量の特性図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、パワーウィンドウ制御装置の一実施形態を図1図4に従って説明する。
図1に示すように、車両ドアDに設けられる駆動部材としてのウィンドウガラス1には図示しないレギュレータ等を介して駆動部材制御装置としてのパワーウィンドウ装置2におけるモータMが駆動連結されている。モータMは駆動することでウィンドウガラス1を開閉駆動させる。
【0010】
パワーウィンドウ装置2は、モータMの回転速度を検出するホールIC等の回転検出センサ3を備える。また、パワーウィンドウ装置2は、前記回転検出センサ3からの信号、操作スイッチ4からの信号、温度センサ5からの信号、及びバッテリ6の電圧等に基づいて駆動回路7のデューティ比を制御して駆動電圧をモータMに供給する制御部8を備える。なお、本実施形態の温度センサ5は、例えば、車両ディスプレイに表示する外気温を検出するための外気温センサである。制御部8は、メモリ9を有している。メモリ9は、予め設定された種々の閾値等を含む種々の情報を記憶している。
【0011】
制御部8は、例えば、操作スイッチ4が操作されたことに応じて、モータMに給電してウィンドウガラス1を開閉駆動させる。また、制御部8は、各情報に基づいてモータ温度を推定する。
【0012】
詳述すると、制御部8は、周辺温度と、モータMに供給する駆動電圧と、回転検出センサ3からの信号に対応したモータMの回転数と、経過した時間とに基づいて、モータ温度を推定する。なお、制御部8は、周辺温度を他の用途用の温度センサ5から取得する。詳しくは、本実施形態の制御部8は、外気温を検出するための外気温センサである温度センサ5から周辺温度を取得する。
【0013】
制御部8は、前回までに推定したモータ温度に応じて発熱量を算出し、その発熱量に応じてモータ温度を推定する。なお、本実施形態の制御部8は、直前に推定したモータ温度をそのまま前回までに推定したモータ温度として利用するが、これに限定されず、例えば、2回以上前に推定したモータ温度の平均値を前回までに推定したモータ温度として利用してもよい。
【0014】
具体的には、制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合に、前回までに推定したモータ温度が高いほど発熱量が小さくなるように発熱量を算出する。この際、制御部8は、以下で述べるようなモータMの特性に基づいて発熱量を算出する。
【0015】
図3は、モータMにおけるトルクに対する回転数と電流値の特性図である。図3において、特性K1は、モータ温度が70℃の際の回転数であり、特性K2は、モータ温度が25℃の際の回転数であり、特性K3は、モータ温度が-20℃の際の回転数である。また、図3において、特性C1は、モータ温度が70℃の際の電流値であり、特性C2は、モータ温度が25℃の際の電流値であり、特性C3は、モータ温度が-20℃の際の電流値である。図3に示すように、モータMは、回転数が小さい場合においては、モータ温度が高くなると電流値が小さくなって発熱量が小さくなるという特性を有する。制御部8は、上記した特性を含む各データに基づいて、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合に、前回までに推定したモータ温度が高いほど発熱量が小さくなるように発熱量を算出する。
【0016】
そして、制御部8は、算出した発熱量を直前に推定したモータ温度に加算して最新のモータ温度を推定する。なお、制御部8は、例えば、車両が長期間放置されていた場合等、モータ温度を温度センサ5から取得した周辺温度と同じと推定する。
【0017】
そして、制御部8は、推定したモータ温度に基づいてモータMの作動を制限する。本実施形態の制御部8は、推定したモータ温度が予め設定された新規作動禁止閾値を超えると新規の作動を制限する。また、制御部8は、推定したモータ温度が予め設定された作動禁止閾値を超えると作動の途中であっても作動を中止させる。
【0018】
次に、上記したパワーウィンドウ装置2の具体的な動作及び作用を図2に従って説明する。
図2に示すように、制御部8は、極短時間の制御周期毎に、ステップS1以下の温度変化量算出処理を行う。
【0019】
ステップS1において、制御部8は、モータMが作動中であるか否かを判定し、作動中であると判定すると、ステップS2に移行し、作動中でないと判定すると、ステップS3に移行する。
【0020】
ステップS2において、制御部8は、回転検出センサ3からの信号に対応したモータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さいか否かを判定し、小さいと判定すると、ステップS4に移行し、小さくないと判定すると、ステップS5に移行する。
【0021】
ステップS4において、制御部8は、モータMに供給する駆動電圧と、回転検出センサ3からの信号に対応したモータMの回転数と、直前に推定したモータ温度とに基づいて、発熱量を算出する。なお、このとき、制御部8は、直前に推定したモータ温度が高いほど発熱量が小さくなるように発熱量を算出する。
【0022】
また、ステップS5において、制御部8は、モータMに供給する駆動電圧と、回転検出センサ3からの信号に対応したモータMの回転数とに基づいて、発熱量を算出する。
また、ステップS3において、制御部8は、直前に推定したモータ温度と、温度センサ5から取得した周辺温度とに基づいて、放熱量を算出する。なお、このとき、制御部8は、直前に推定したモータ温度が周辺温度より高い場合に、その差が大きいほど放熱量が大きくなるように放熱量を算出する。
【0023】
そして、制御部8は、上記した温度変化量算出処理を終えると、算出した発熱量を直前に推定したモータ温度に加算、若しくは算出した放熱量を直前に推定したモータ温度から減算して最新のモータ温度を推定する。
【0024】
そして、制御部8は、推定したモータ温度に基づいてモータMの作動を制限する。これにより、例えば、モータMは発熱による損傷から保護される。
次に、上記実施形態の効果を以下に記載する。
【0025】
(1)制御部8は、前回までに推定したモータ温度に応じて発熱量を算出するため、例えば、前回までに推定したモータ温度に関わらず発熱量を算出する場合に比べて、発熱量を高精度に算出することができる。よって、モータ温度を高精度に推定することができる。
【0026】
(2)制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合に、前回までに推定したモータ温度が高いほど発熱量が小さくなるように発熱量を算出するため、発熱量を高精度に算出することができる。
【0027】
すなわち、モータMは、モータMの回転数が小さい場合においては、モータ温度が高くなると電流値が小さくなって発熱量が小さくなるという特性を有するため、その特性を考慮に入れた高精度な発熱量を算出することができる。これにより、モータ温度が高い場合に実際の発熱量よりも大幅に大きい発熱量を算出してしまうことが抑制され、推定するモータ温度が実際のモータ温度よりも大幅に高くなってしまうことを抑制することができる。
【0028】
なお、モータMは、モータMの回転数が大きい場合においては、例えば、速く回転することで放熱効果が上がることなどの理由によって、モータ温度が高くなると発熱量が小さくなるという単純な特性にならない場合がある。よって、制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合にのみ、前回までに推定したモータ温度に応じて発熱量を算出することで、容易且つ高精度に発熱量を算出することができる。
【0029】
具体的には、例えば、図4に示すように、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値Aよりも小さい場合であって、モータ温度が高い場合に、推定する発熱量の特性X1を実際の想定される発熱量の特性Z1に近づけることができる。
【0030】
すなわち、図4は、モータMにおける回転数に対する発熱量の特性図である。図4において、特性Z1は、モータ温度が70℃の際の実際の想定される発熱量であり、特性Z2は、モータ温度が25℃の際の実際の想定される発熱量であり、特性Z3は、モータ温度が-20℃の際の実際の想定される発熱量である。また、図4において、特性X1は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値Aよりも小さい場合であって、モータ温度が70℃の際に、本実施形態の制御部8が推定する発熱量である。また、図4において、特性X2は、モータ温度に関わらずモータMを保護可能となるように従来の制御部が推定する発熱量である。すなわち、従来の制御部は、モータ温度に関わらずモータMを保護すべく、モータ温度が-20℃の際の実際の想定される発熱量を下まわらないように発熱量を推定する。
【0031】
図4の特性Z1と特性X1とに示すように、本実施形態の制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値Aよりも小さい場合であって、モータ温度が高い場合には、推定する発熱量を実際の発熱量に近づけることができる。すなわち、モータ温度に関わらず推定される特性X2に比べて、本実施形態の制御部8によって推定される特性X1は特性Z1に近い値となる。このように、推定するモータ温度が実際のモータ温度よりも大幅に高くなってしまうことを抑制することができ、早期にモータMの作動を制限してしまうことを抑制することができる。
【0032】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、制御部8は、前回までに推定したモータ温度に応じて発熱量を算出するとしたが、前回までに推定したモータ温度と周辺温度との少なくとも一方に応じて発熱量を算出すればよい。
【0033】
例えば、制御部8は、前回までに推定したモータ温度に関わらず、周辺温度に応じて発熱量を算出するようにしてもよい。具体的には、制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合に、周辺温度が高いほど発熱量が小さくなるように発熱量を算出するようにしてもよい。また、この際、制御部8は、周辺温度を他の用途用の温度センサ5から取得することが好ましい。なお、他の用途用の温度センサ5は、外気温センサに限らず、例えば、車両ドアDに設けられたドアECUの温度センサであってもよい。
【0034】
このようにしても、制御部8は、発熱量を高精度に算出することができる。すなわち、モータMは、モータMの回転数が小さい場合においては、周辺温度が高くなると、配線の電気抵抗が大きくなって電流値が小さくなることなどにより発熱量が小さくなる特性を有するため、その特性を考慮に入れた発熱量を算出することができる。これにより、周辺温度が高い場合に実際の発熱量よりも大幅に大きい発熱量を算出してしまうことが抑制され、推定するモータ温度が実際のモータ温度よりも大幅に高くなってしまうことを抑制することができる。その結果、早期にモータMの作動を制限してしまうことを抑制することができる。なお、モータMは、モータMの回転数が大きい場合においては、例えば、速く回転することで放熱効果が上がることなどの理由によって、周辺温度が高くなると発熱量が小さくなるという単純な特性にならない場合がある。よって、制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合にのみ、周辺温度に応じて発熱量を算出することで、容易且つ高精度に発熱量を算出することができる。
【0035】
また、制御部8は、周辺温度を他の用途用の温度センサ5から取得するため、例えば、周辺温度を検出する専用の周辺温度センサを用いた構成に比べて、専用の周辺温度センサが不要となり、部品点数を抑えることができる。
【0036】
また、例えば、制御部8は、前回までに推定したモータ温度、及び周辺温度に応じて発熱量を算出するようにしてもよい。具体的には、制御部8は、モータMの回転数が予め設定された回転数閾値よりも小さい場合に、前回までに推定したモータ温度が高いほど発熱量が小さくなるように、且つ周辺温度が高いほど発熱量が小さくなるように発熱量を算出するようにしてもよい。
【0037】
・上記実施形態では、駆動部材がウィンドウガラス1であるパワーウィンドウ装置2に具体化したが、これに限定されず、他の駆動部材を駆動させる他の駆動部材制御装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…ウィンドウガラス(駆動部材)、2…パワーウィンドウ装置(駆動部材制御装置)、5…温度センサ、8…制御部、A…回転数閾値、M…モータ。
図1
図2
図3
図4