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特開2022-167662超音波デバイス、および超音波診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167662
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】超音波デバイス、および超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20221027BHJP
   A61B 8/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H04R17/00 332Y
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073604
(22)【出願日】2021-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 英章
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601FE01
4C601FE04
4C601GB06
4C601GB11
4C601GB12
4C601GB13
4C601GB41
4C601GB44
5D019AA02
5D019AA21
5D019BB13
5D019FF04
(57)【要約】
【課題】超音波素子を密集して配置させることにより生じる不具合を低減しつつ、送信する信号の強度を高める。
【解決手段】超音波デバイス(1)は、圧電体(19)と、圧電体(19)を送受信方向で挟むように位置している上部電極(21)および下部電極(17)と、該2つの電極のうち一方の電極の、圧電体(19)とは反対側に位置しているキャビティ(5c)とを含み、超音波の送信および受信を行う超音波素子(3)を複数有し、超音波素子(3)の少なくとも一部は、環状に配置されており、環状の中心から離れるに従って、超音波素子(3)の配置密度が低くなっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送信および受信を行う素子であって、圧電体と、該圧電体を送受信方向で挟むように位置している2つの電極と、該2つの電極のうち一方の電極の、前記圧電体とは反対側に位置しているキャビティとを含む素子を複数有し、
前記素子の少なくとも一部は、環状に配置されており、
前記環状の中心から離れるに従って、前記素子の配置密度が低くなっている、超音波デバイス。
【請求項2】
前記超音波を受信する単位であるチャンネルが、前記中心からの距離に応じて区分された複数の領域それぞれに割り当てられており、
前記チャンネル内に配置された前記素子間の最短距離は、前記チャンネルをまたいで配置された前記素子間の最短距離よりも短い、請求項1に記載の超音波デバイス。
【請求項3】
同一の前記チャンネル内に配置された前記素子間の最短距離は、前記中心から離れるに従って長くなる、請求項2に記載の超音波デバイス。
【請求項4】
前記中心から2番目に近い前記領域と3番目に近い前記領域とに割り当てられたチャンネルにおける前記配置密度の差が、他のチャンネル間における前記配置密度の差よりも大きい、請求項2または3に記載の超音波デバイス。
【請求項5】
前記中心から最も近い前記領域と2番目に近い前記領域とに割り当てられたチャンネルをまたいで配置された前記素子間の最短距離、および前記中心から2番目に近い前記領域と3番目に近い前記領域とに割り当てられたチャンネルをまたいで配置された前記素子間の最短距離は、他のチャンネル間をまたいで配置された前記素子間の最短距離よりも長い、請求項2~4のいずれか1項に記載の超音波デバイス。
【請求項6】
前記チャンネルの間に、当該チャンネル間をまたいで伝わる振動を低減する低減機構が備えられている、請求項2~5のいずれか1項に記載の超音波デバイス。
【請求項7】
前記低減機構は、前記チャンネル間に設けられた、送信方向と反対側に凹んだ凹構造、または、前記チャンネル間に設けられた、送信方向に突出した凸構造である、請求項6に記載の超音波デバイス。
【請求項8】
前記素子は支持基板上に配置されており、
前記支持基板の端部に最も近い位置に配置された前記素子と当該素子に最も近い素子との間の距離は、他の素子間の距離よりも長い、請求項1~7のいずれか1項に記載の超音波デバイス。
【請求項9】
前記配置密度とは、前記領域における前記素子が占める割合である、請求項1~8のいずれか1項に記載の超音波デバイス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の超音波デバイスと、
前記超音波デバイスからの電気信号に基づく画像を表示する画像表示装置と、を備えた超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波デバイス、および当該超音波デバイスを含む超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波の送受信を行う複数の超音波素子を平面上に配列して構成された超音波デバイスが知られている。例えば、特許文献1には、超音波送受波面の中央部に送信振動子を密集して配置し、周辺部に受信振動子を分散粗配置した超音波探触子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-313484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、超音波素子を密集して配置すると、或る超音波素子の影響を、周囲の他の超音波素子が受けやすくなり、不具合が生じる可能性がある。一方で、超音波素子を粗く配置すると、送信する信号強度が弱まる、弱い強度の信号を受信しにくくなる等の可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る超音波デバイスは、超音波の送信および受信を行う素子であって、圧電体と、該圧電体を送受信方向で挟むように位置している2つの電極と、該2つの電極のうち一方の電極の、前記圧電体とは反対側に位置しているキャビティとを含む素子を複数有し、前記素子の少なくとも一部は、環状に配置されており、前記環状の中心から離れるに従って、前記素子の配置密度が低くなっている。
【0006】
本開示の一態様に係る超音波診断装置は、前記超音波デバイスと、前記超音波デバイスからの電気信号に基づく画像を表示する画像表示装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、環状の中心に近いところほど超音波素子の配置密度が高いので、送信する信号の強度を高めることができる。また、全体の超音波素子の配置密度が高いのではなく、環状の中心から離れたところでは、配置密度が低いので、超音波素子を密集して配置させることにより生じる不具合を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る超音波デバイスにおける超音波素子の配置例を示す平面図である。
図2】上記超音波デバイスの一部の構成を示す斜視図である。
図3図2のII-II線における断面図である。
図4図1の領域Iの拡大図である。
図5】配置密度の定義を説明するための図である。
図6】パルス幅の定義を説明するためのグラフである。
図7】低減機構の例を示す断面図である。
図8】低減機構の例を示す断面図である。
図9】低減機構の例を示す断面図である。
図10】実験に用いた超音波素子の配置例を示す図である。
図11】実験における超音波素子の振動変位を示すグラフである。
図12】実験における超音波素子の振動変位を示すグラフである。
図13】実験における超音波素子の振動変位を示すグラフである。
図14】本実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。本開示で参照するグラフ以外の各図は模式的に示した図である。従って、各図は、図に示されていない任意の構成要素を備え得るし、各図中の構成要素は、実際の構成要素のサイズなどを忠実に表したものではない。
【0010】
〔全体概要〕
まず、図1を参照して、本実施形態に係る超音波デバイス1における超音波素子3の配置例について説明する。図1は、超音波デバイス1における超音波素子3の配置例を示す平面図である。
【0011】
図1に示すように、超音波デバイス1は、支持基板5に超音波素子3が略同心円上に配置されたアニュラーアレイ型である。そして、同心円の中心に近いほど、超音波素子3の配置密度が高くなるように配置されている。
【0012】
ここで、図5を参照して配置密度について説明する。図5は、配置密度の定義を説明するための図であり、近接する2つの超音波素子3が示されている。配置密度とは、所定領域において超音波素子3が占める割合である。具体的には、最も近い距離にある2つの超音波素子3の中心間の距離Dcを当該超音波素子の外周の距離dpで除することにより算出される。式で表せば、配置密度=Dc/dpとなる。
【0013】
また、超音波デバイス1は、同心円の中心からの距離に応じて区分された領域それぞれにチャンネルが割り当てられている。チャンネルとは、超音波を受信する単位であり、図1に示す例では、チャンネルCh1からチャンネルCh7までの7つのチャンネルが割り当てられている。ただし、チャンネル数は一例であり、これよりも多くても、少なくてもよい。
【0014】
本実施形態に係る超音波デバイス1は、超音波素子3の少なくとも一部が略同心円上、つまり環状に配置されている。そして、環状の中心から離れるに従って、超音波素子3の配置密度が低くなっている。ここで、環状の中心は、上記同心円における円の中心と一致する。よって、環状の中心とは、超音波素子3が配置されている同心円における円の中心であるといえる。
【0015】
〔超音波素子の構成〕
次に、図2および図3を参照して、超音波素子3の構成について説明する。
【0016】
図2および図3には、便宜上、直交座標系D1-D2-D3を付している。ここでは、便宜上、D3軸方向の正側を上方として、上部または下部等の語を用いることがある。また、以下において平面視または平面透視という場合、D3軸方向に見ることをいうものとする。
【0017】
図2は、超音波デバイス1の一部の構成を示す斜視図である。超音波デバイス1の概略の外形およびその寸法は、超音波デバイス1が利用される技術分野、超音波デバイス1に要求される機能等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、超音波デバイス1は、血管内超音波検査法(IVUS:intravascular ultrasound)において血管内に配置可能に比較的小さくされてもよいし、通常の超音波診断装置(例えば腹部の断層像を得るための装置)のプローブに利用可能に掌の大きさ程度とされてもよい。また、超音波デバイス1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)として構成されてもよい。
【0018】
超音波デバイス1は、支持基板5上に構成されている。図2は、支持基板5の上面の一部を示している。超音波デバイス1は、上面1aに沿って配置された複数(図1では2つのみ示されている)の超音波素子3を有している。各超音波素子3は、超音波の送信および受信を行う。換言すれば、超音波素子3は、超音波から電気信号への変換およびその逆の変換を行うトランスデューサーである。
【0019】
具体的には、超音波素子3は、所定の波形(例えば、スパイク波、矩形波又は正弦波)で電圧が変化する電気信号(駆動信号)が入力されると、その電気信号を当該電気信号の波形を反映した超音波に変換し、D3軸方向の正側へ送信する。また、超音波素子3は、D3軸方向の正側から超音波を受信し、その超音波を当該超音波の波形を反映した電気信号に変換する。ここで、超音波の送信および受信についてのD3軸方向の正側は、D3軸方向に平行とは限らない。
【0020】
複数の超音波素子3において、一部の超音波素子3の平面視における径と、他の一部の超音波素子3の平面視における径とは同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。複数の超音波素子3は、任意の数で設けられてよい。
【0021】
図3は、図2のII-II線における断面図である。超音波デバイス1は、支持基板5と、支持基板5の上面5aに重なっている機能層7と、支持基板5の下面5bに重なっている減衰材9とを有している。図示しないが、超音波デバイス1は、上記以外の構成要素を有していてもよい。例えば、超音波デバイス1は、上面5aもしくは下面5bまたは減衰材9のいずれかの面に実装された電子素子を有していてもよい。
【0022】
支持基板5は、上面5aに開口する複数のキャビティ5cを有している。各超音波素子3は、キャビティ5cと、機能層7のうちキャビティ5cに重なっている部分とを含む。機能層7のうちキャビティ5cに重なっている部分は、振動して超音波を生じる部分であり、超音波の送信および受信を直接的に担う。当該部分を素子本体3aということがある。支持基板5は、機能層7を支持することに寄与し、また、機能層7の共振周波数(固有振動数)に影響を及ぼしている。減衰材9は、例えば、不要な振動の減衰に寄与する。
【0023】
支持基板5は、上面5aと、その背面の下面5bと、複数のキャビティ5cとを有している。支持基板5は、例えば、略平板状であり、上面5aおよび下面5bは互いに平行な平面状である。キャビティ5cの内部は、真空状態または適宜な気体が封入されている。キャビティ5cは、機能層7のうち超音波素子3を構成する部分(素子本体3a)の振動を容易化することに寄与する。また、素子本体3aは、断面視において、キャビティ5cの両側縁部において両端支持された状態となり、キャビティ5cは、素子本体3a(素子3)の共振周波数を規定することに寄与する。すなわち、キャビティ5cの径が大きくされるほど、超音波素子3の共振周波数は低くなる。
【0024】
キャビティ5cの形状および寸法は適宜に設定されてよい。例えば、キャビティ5cの平面視における形状は、円形または多角形とされてよい。本実施形態では、キャビティ5cの開口形状が円形である場合を例に説明する。また、図示の例では、キャビティ5cのその深さ方向に平行な断面(D1-D3平面に平行な断面)の形状は矩形である。キャビティ5cのその深さ方向に直交する断面(D1-D2平面に平行な断面)の形状は、深さ方向(D3方向)の位置によらずに一定である。ただし、キャビティ5cのその深さ方向に直交する断面の形状は、深さ方向の位置によって異なっていてもよい。例えば、図2のような断面視において、キャビティ5cの形状は、上部側ほど拡径または縮径する台形状とされてもよい。キャビティ5cの径は適宜に設定されてよく、一例を挙げると、10μm以上100μm以下である。
【0025】
キャビティ5cのその深さ方向に直交する断面の形状が深さ方向の位置によって異なる態様において、キャビティ5cの径は、キャビティ5cの上面5aにおける開口形状の径を指すものとする。この理由は、キャビティ5c(支持基板5)のうち素子3の共振周波数に影響を及ぼす部分は、主として上面5aに開口する部分であるためである。また、キャビティ5cの開口形状が円形でない場合において、キャビティ5cの径は、キャビティ5cの上面5aにおける開口の外接円の径を指すものとする。この理由は、超音波素子3の共振周波数は、キャビティ5cの開口形状のうち径が大きい部分の影響を受けやすいためである。
【0026】
支持基板5の材料は任意である。支持基板5は、その全体が1つの材料によって構成されていてもよいし、複数の材料が組み合わされて構成されていてもよい。支持基板5の材料は、例えば、無機絶縁材料または有機絶縁材料である。具体的には、例えば、支持基板5は、シリコン(Si)等の絶縁材料によって一体的に形成されてよい。また、例えば、支持基板5は、シリコン等の絶縁材料によって概ね全体が一体的に形成されているとともに、上面および下面にSiO等の他の絶縁材料からなる層を有していてもよい。
【0027】
機能層7のうち超音波素子3を構成している部分である素子本体3aは、例えば、キャビティ5c側(-D3側)およびキャビティ5cとは反対側(+D3側)の少なくとも一方への撓み変形を伴う振動を生じる。当該振動は、換言すれば、面外振動である。この振動によって、超音波の送信およびは受信が行われる。すなわち、超音波素子3は、撓み振動型のものである。
【0028】
撓み振動型の超音波素子としては、例えば、pMUT等の圧電式の素子およびcMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)等の容量式の素子を挙げることができる。本実施形態では、pMUTを例に挙げて説明する。また、撓み振動型の圧電素子としては、例えば、バイモルフ型の素子およびユニモルフ型の素子を挙げることができる。本実施形態では、ユニモルフ型の素子を例に挙げて説明する。
【0029】
素子本体3aは、中央が振動の腹となり、外縁が振動の節となる1次モードの振動に関して、共振周波数が超音波の周波数帯に位置するように構成されている。超音波の周波数帯は、例えば、20kHz以上の周波数帯である。超音波の周波数の上限について、特に規定は存在しないが、例えば、5GHzである。超音波素子3の厚さは適宜に設定されてよく、一例を挙げると、4μm以上40μm以下である。
【0030】
機能層7は、複数のキャビティ5c上に位置する複数のメンブレン11と、複数のメンブレン11の上から上面5aを覆っている被覆層13とを有している。1つの超音波素子3(1つの素子本体3a)は、1つのキャビティ5cと重なる1つのメンブレン11と、被覆層13のうち1つのメンブレン11に重なる領域とを有している。メンブレン11は、超音波の送信および受信を直接に担う部分である。被覆層13は、例えば、メンブレン11の保護および絶縁に寄与する。
【0031】
機能層7のうち、複数のメンブレン11を含む層(機能層7のうち被覆層13よりも下方の層)を機能本体層8とする。機能本体層8は、メンブレン11の他、メンブレン11の電気的接続に寄与する配線等を有してよい。機能本体層8の厚さは適宜に設定されてよく、一例を挙げると、2μm以上20μm以下である。
【0032】
メンブレン11は、支持基板5から順に積層された、振動部15、下部電極17、圧電体19および上部電極21を有している。
【0033】
圧電体19の分極軸方向(単結晶においては電気軸・X軸)は、圧電体19の厚み方向とされている。下部電極17および上部電極21によって圧電体19に分極の向きと同じ向きで電界が印加されると、圧電体19の下部電極17および上部電極21に挟まれた部分は、平面方向(D1方向及びD2方向)に縮小する。この縮小は、振動部15によって規制される。その結果、メンブレン11は、バイメタルのようにキャビティ5c側へ撓む(変位する)。逆に、分極の向きと逆の向きで電界が印加されると、メンブレン11は、キャビティ5cとは反対側へ撓む。
【0034】
上記のような超音波素子3の変位によって、超音波素子3の周囲の媒質(例えば流体)においては圧力波が形成される。そして、所定の波形で電圧が変化する電気信号が下部電極17および上部電極21に入力されることによって、その電気信号の波形(例えば周波数および振幅の少なくとも何れか)を反映した超音波が生成される。
【0035】
上記では、超音波の送信について記載したが、超音波の受信は、送信時とは逆の原理によって実現される。本実施形態では、1つの超音波素子3において、送信および受信の双方を行う。送信および受信の双方を行う超音波素子3は、超音波の送信を間欠的に行い、超音波の送信が行われていない間において超音波の受信を行う。これにより、超音波素子3は、自らが送信した超音波の反射波を受信する。
【0036】
振動部15は、振動層16のうちキャビティ5c上の部分である。振動層16は、平面透視において複数のキャビティ5cを包含する1つの領域の全体に亘って隙間無く広がっている。換言すれば、振動層16は、複数のキャビティ5cと、その間の領域とを覆っている。ただし、振動部15は、図示の例とは異なり、超音波素子3毎に設けられていてもよい。すなわち、キャビティ5c間に振動層16の非配置領域が形成されることにより、複数の振動部15は、互いに分離されていてもよい。振動部15は、例えば、略一定の厚さの層状である。振動部15の厚さは適宜に設定されてよい。例えば、振動部15の厚さは、圧電体19の厚さに対して、薄くてもよいし、同等でもよいし、厚くてもよい。
【0037】
振動部15は、例えば、絶縁材料によって形成されている。絶縁材料は、無機材料でも有機材料でもよく、より具体的には、例えば、シリコン、二酸化シリコン(SiO)または窒化シリコン(SiN)である。振動部15は、例えば、1種類の材料によって一体的に構成されていてもよいし、互いに異なる材料からなる複数の層が積層されて構成されていてもよい。振動部15は、シリコンと、その下面に重なるSiOとによって構成されていてもよい。特に図示しないが、振動部15を設けず、下部電極17または上部電極21を振動部として機能させることも可能である。
【0038】
圧電体19は、略一定の厚さの層状である。圧電体19は、超音波素子3毎に設けられている。複数の圧電体19は、互いに分離されている。平面透視において、圧電体19の形状および広さは、キャビティ5cと略同等である。例えば、平面透視において、圧電体19の90%以上とキャビティ5cの90%以上とが重なっている。ただし、圧電体19は、平面透視において、キャビティ5cの開口形状とは全く異なる形状、広さであってもよい。圧電体19の厚さは適宜に設定されてよい。一例を挙げると、圧電体19の厚さは、0.5μm以上10μm以下である。
【0039】
圧電体19は、例えば、上面側ほど縮径するようにテーパ状に形成されている。換言すれば、圧電体19の側面は、圧電体19が支持基板5側ほど拡径する向きで傾斜する斜面を有している。これにより、例えば、上部電極21に接続される上部配線25(後述する)の断線が生じにくくなる。また、後述するように、超音波の送信および受信の効率を向上させることができる。上述した斜面は、圧電体19の側面の一部であってもよいし、全部であってもよい。圧電体19のテーパ面(側面)は、図2のような横断面において平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。また、テーパ面の傾斜角度も任意である。図示の例とは異なり、圧電体19は、上面と下面とが概ね重なる形状、すなわち側面が鉛直壁である形状であってもよい。
【0040】
圧電体19は、単結晶によって構成されていてもよいし、多結晶によって構成されていてもよい。圧電体19の材料は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸バリウム(BTO:BaTiO)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO)、チタン酸ビスマスナトリウム(NBT:Na0.5Bi0.5TiO)およびチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti1-x)O)である。上記の例示からも理解されるように、圧電体は、強誘電体であってもなくてもよいし、焦電体であってもなくてもよい。また、結晶構造は、ペロブスカイト型またはウルツ鉱型等の適宜なものであってよい。
【0041】
下部電極17は、略一定の厚さの層状である。下部電極17は、超音波素子3毎に設けられている。複数の下部電極17は、互いに分離されている。平面透視において、下部電極17の形状および広さは、キャビティ5cおよび圧電体19の下面と略同等とされている。例えば、平面透視において、下部電極17の90%以上とキャビティ5c(その上面5aにおける開口)および圧電体19の下面の90%以上とが重なっている。ただし、下部電極17は、平面透視において、キャビティ5cの開口形状とは全く異なる形状および広さであってもよい。
【0042】
上記の下部電極17に係る説明は、上部電極21に援用されてよい。この際、「下部電極17」は「上部電極21」に、「圧電体19の下面」は「圧電体19の上面」に、「下部電極層」は「上部電極層」に、それぞれ置き換える。下部電極17および上部電極21は、その形状および大きさが互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。図示の例では、圧電体19がテーパ状とされている。そして、下部電極17が圧電体19の下面と概ね同等の形状および大きさとされており、上部電極21が圧電体19の上面と概ね同等の形状および大きさとされている。その結果、上部電極21は、下部電極17よりも一回り小さい。
【0043】
下部電極17および上部電極21の厚さは適宜に設定されてよい。通常、それぞれの電極の厚さは、圧電体19および振動層16の厚さに比較して薄い。例えば、下部電極17および上部電極21の厚さは、圧電体19の厚さの1/10以下である。下部電極17の厚さと上部電極21の厚さとは互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0044】
下部電極17および上部電極21の材料は、例えば、適宜な金属および酸化物導電薄膜の層とされてよい。金属は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)若しくはクロム(Cr)またはこれらを含む合金である。また、酸化物導電薄膜は、例えば、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)またはニッケル酸ランタン(LNO)等のペロブスカイト構造の導電材料である。下部電極17および上部電極21は、上記で示した互いに異なる材料からなる複数の層が積層されて構成されていてもよい。下部電極17の材料と上部電極21の材料とは互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0045】
複数の下部電極17は、互いに接続されていてもよいし、互いに非接続とされていてもよい。同様に、複数の上部電極21は、互いに接続されていてもよいし、互いに非接続とされていてもよい。本実施形態の説明では、主として、複数の下部電極17が互いに接続されており、かつ複数の上部電極21が互いに接続されている態様を例に挙げて説明する。
【0046】
複数のメンブレン11を含む機能本体層8は、上述したように、メンブレン11の他、メンブレン11の電気的接続に係る配線を含んでよい。例えば、上記のように、本実施形態では、上部電極21同士が接続される態様としており、機能本体層8は、D1方向に並んでいる複数の上部電極21を互いに接続する上部配線25を有している。
【0047】
上部配線25は、例えば、メンブレン11の上から支持基板5に重なる導体層によって構成されている。上部配線25は、D1方向において互いに隣り合う上部電極21の一方から他方へ延びており、両者を接続している。このような上部配線25の具体的な形状および寸法は適宜に設定されてよい。
【0048】
例えば、上部配線25は、略一定の幅でD1方向に延びる長尺状である。その幅は、例えば、上部電極21のD2方向の径よりも小さい。上部配線25の一端は、互いに隣り合う上部電極21の一方の上に重なり、上部配線25の他端は、互いに隣り合う上部電極21の他方の上に重なっている。同一の上部電極21上に位置している2つの上部配線25の端部は、互いに間隔を空けてD1方向において対向している。当該間隔は、キャビティ5cの中央上に位置している。
【0049】
また、例えば、上部配線25の厚さは、下部電極17、上部電極21および下部配線(図示せず)よりも厚くされている。これにより、例えば、上部配線25のうち圧電体19の厚みによって構成された段差を超える部分において断線が生じにくくなる。上部配線25の厚さは、圧電体19の厚さの1/20以上1/5以下とされてよい。
【0050】
下部電極17および下部配線に対して上から重なり、かつ上部配線25の下に位置し、前者と後者との短絡が生じにくい絶縁膜27が設けられてもよい。絶縁膜27の材料、形状及び寸法等は任意である。例えば、絶縁膜27は、上部配線25よりも薄く形成されており、また、少なくとも圧電体19の上部を露出させている。絶縁膜27の材料は、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。図示の例とは異なり、絶縁膜27を設けず、上部配線25を圧電体19のみによって下部電極17および下部配線と絶縁してもよい。
【0051】
被覆層13は、超音波デバイス1の上面1aを構成している。従って、超音波デバイス1の周囲の流体は、被覆層13の上面に接する。ただし、被覆層13は、超音波デバイス1の上面1aを構成していなくてもよい。例えば、不図示の層が被覆層13上に重ねられていてもよい。
【0052】
被覆層13は、平面透視において複数の超音波素子3を包含する1つの領域の全体に隙間無く広がっている。被覆層13は、略一定の厚さで広がっている。従って、被覆層13の上面は、図2および図3に示すように、機能本体層8の上面の凹凸を反映している。すなわち、被覆層13は、いわゆるコンフォーマル(conformal、共形)な層である。ただし、被覆層13の上面の凹凸は、機能本体層8の上面の凹凸に比較して滑らかになっている。また、図示の例とは異なり、機能本体層8の上面の凹凸の有無に関わらず、被覆層13の上面は、平面状とされてもよい。被覆層13の厚さは適宜に設定されてよい。
【0053】
より具体的には、本実施形態では、複数の圧電体19が互いに分離して設けられている。これにより、機能本体層8の上面は、キャビティ5c上に凸部を有している。ひいては、被覆層13の上面は、キャビティ5c上に凸部13aを有している。凸部13aの形状は、圧電体19の形状を反映しており、図示の例では、略円錐台である。また、本実施形態では、比較的厚い上部配線25が設けられていることによっても、機能本体層8の上面に凸部が生じている。その結果、被覆層13の表面には、D1方向に延びる凸部13bが形成されている。
【0054】
被覆層13の材料は、絶縁性を有する材料とされてよい。例えば、被覆層13の材料の体積抵抗率は、1014Ωm以上である。絶縁材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよい。被覆層13は、一の材料から構成されていてもよいし、互いに異なる材料の層が積層されて構成されていてもよい。
【0055】
減衰材9は、音響に係る減衰定数(m-1・Hz-1)が支持基板5よりも大きい材料によって構成されている。これにより、例えば、素子3で生じた振動が外部へ漏れにくくなり、逆に、外部からの振動が素子3へ伝わりにくくなる。減衰材9が絶縁性材料によって構成されている場合においては、減衰材9は、回路基板の絶縁体のように機能可能である。従って、減衰材9の+D3側もしくは-D3側の表面に電子部品が実装されたり、減衰材9の内部に配線または電子素子が設けられたりしてもよい。減衰材9の材料は、適宜なものとされてよく、例えば、樹脂またはセラミックとされてよい。減衰材9は設けられなくてもよい。
【0056】
〔超音波素子3の配置の詳細〕
次に、図4を参照して超音波素子3の配置例の詳細について説明する。図4は、図1の領域Iの拡大図である。以下では、超音波素子3として特定の素子を示す必要が無い場合は、単に「超音波素子3」と記載し、特定の素子を示す場合は、「超音波素子3-1a」というように、「超音波素子3」の後に枝番を付して説明する。
【0057】
まず、チャンネルCh1に配置された超音波素子3-1aに着目する。超音波素子3-1aと同じチャンネルCh1内に配置され、超音波素子3-1aから最も近い位置に配置されている超音波素子3-1bと超音波素子3-1aとの距離をd11とする。
【0058】
また、チャンネルCh2に配置された超音波素子3のうち、超音波素子3-1aから最も近い位置に配置された超音波素子3-2aと超音波素子3-1aとの距離をd21とする。
【0059】
本実施形態では、距離d11<距離d21となっている。すなわち、同じチャンネル内に配置された超音波素子3間の最短距離は、チャンネルをまたいで配置された超音波素子3間の最短距離よりも短い。これにより、他のチャンネル内に配置された超音波素子3の影響を受けてしまうことを低減できる。
【0060】
また、超音波素子3-2aと同じチャンネルCh2内に配置され、超音波素子3-2aから最も近い位置に配置されている超音波素子3-2bと超音波素子3-2aとの距離をd22とする。
【0061】
本実施形態では、距離d11<距離d22となっている。また、チャンネルCh3内に配置されている超音波素子3-3aと同じチャンネルCh3内で超音波素子3-3aから最短距離に配置されている超音波素子3-3bとの距離d32は、距離d22よりも長い。すなわち、本実施形態では、距離d22<距離d32となっている。このように、本実施形態では、同一のチャンネル内に配置された超音波素子3間の最短距離は、同心円の中心から離れるに従って長くなる構成である。同心円の中心から離れるほど円の直径が大きくなるので、半径方向外側のチャンネルになればなるほど、同じチャンネル内に配置される超音波素子3の配置間隔を長くしても、所望の数の超音波素子3素子を配置することは可能である。そして、同一のチャンネル内に配置された超音波素子3間の距離を長くすることにより、信号強度を下げることなく、チャンネル内の他の素子から受ける影響を低減できる。
【0062】
また、本実施形態では、チャンネルCh1における超音波素子3の配置密度、および、チャンネルCh2における超音波素子3の配置密度が、チャンネルCh3以降における超音波素子3の配置密度よりも高くなっている。換言すれば、チャンネルCh2とチャンネルCh3における超音波素子3の配置密度の差が、他のチャンネル間における前記配置密度の差よりも大きい。
【0063】
チャンネルCh1およびチャンネルCh2の超音波素子3の配置密度を他のチャンネルよりも高めることにより、他のチャンネルよりも面積が小さいチャンネルCh1およびチャンネルCh2において、信号強度が弱まることを低減できる。
【0064】
また、本実施形態では、チャンネルCh3内に配置されている超音波素子3-3aと、チャンネルCh4内に配置され、超音波素子3-3aと最短距離にある超音波素子3-4aとの距離d43は、距離d21および距離d31よりも短くなっている。すなわち、距離d43<距離d21、および距離d43<距離d31となっている。また、チャンネルCh4以降についても同様に、チャンネル間をまたぐ超音波素子3の最短距離は、距離d21および距離d31よりも短くなっている。
【0065】
これにより、配置密度が高いチャンネルCh1およびチャンネルCh2の影響がチャンネルCh3以降に及ぶことを低減できる。
【0066】
また、本実施形態では、支持基板5の端部5bに最も近い位置に配置されている超音波素子3-7aと、当該超音波素子3-7aと同じチャンネルCh7内に配置され、超音波素子3-7aともっと近い位置に配置されている超音波素子3-7bとの距離d71は、超音波素子3-7bと超音波素子3-7a以外の超音波素子3-7cとの距離d72よりも長い。すなわち、距離d71>距離d72である。換言すれば、超音波素子3の配置密度は支持基板5の端部5bに近いほど低い。
【0067】
これにより、支持基板5の端部の近傍に配置された超音波素子3の振動が、支持基板5基板の端部で反射されることにより他の超音波素子3へ影響を及ぼしてしまうことを低減できる。
【0068】
以上のように、本実施形態に係る超音波デバイス1は、超音波の送信および受信を行う超音波素子3を複数有する。そして、超音波素子3は、圧電体19と、該圧電体19を送受信方向で挟むように位置している2つの電極(上部電極21、および下部電極17)と、該2つの電極のうち一方の電極の、前記圧電体19とは反対側に位置しているキャビティ5cとを含む。さらに、超音波素子3の少なくとも一部は、環状に配置されており、環状の中心から離れるに従って、超音波素子3の配置密度が低くなっている。
【0069】
これにより、環状の中心に近いところほど超音波素子3の配置密度が高くなるので、送信する信号の強度を高めることができる。また、超音波素子3の全体の配置密度が高いのではなく、環状の中心から離れたところでは、配置密度が低いので、超音波素子3を密集して配置させることにより生じる不具合を低減することができる。
【0070】
〔低減機構〕
次に、図7図9を参照して低減機構の例について説明する。低減機構とは、チャンネル間に配置されることにより、或るチャンネルにおける超音波素子3の振動の影響が他のチャンネルにおける超音波素子3に及ぶことを低減するものである。
【0071】
図7は、低減機構として、チャンネルをまたぐ超音波素子3の間に溝(凹構造)が設けられている例を示す。図7に示す例における超音波素子3-1はチャンネルCh1に配置されている超音波素子3を示し、超音波素子3-2はチャンネルCh2に配置されている超音波素子3を示す。そして、チャンネルをまたぐように配置されている超音波素子3-1および超音波素子3-2の間に溝71が設けられている。溝71が設けられることにより、チャンネルCh1における超音波素子3の振動の影響がチャンネルChn2における超音波素子3に及ぶことを低減できる。また、逆に、チャンネルCh2における超音波素子3の振動の影響がチャンネルCh1における超音波素子3に及ぶことを低減できる。ここでは、チャンネルCh1とチャンネルCh2との間に溝71が設けられる例を説明したが、溝71は全てのチャンネル間に設けられてよい。
【0072】
図8は、低減機構として、チャンネルをまたぐ超音波素子3の間におもり(凸構造)が設けられている例を示す。図8に示す例における超音波素子3-1はチャンネルCh1に配置されている超音波素子3を示し、超音波素子3-2はチャンネルCh2に配置されている超音波素子3を示す。そして、チャンネルをまたぐように配置されている超音波素子3-1および超音波素子3-2の間におもり81が設けられている。おもり81が設けられることにより、チャンネルCh1における超音波素子3の振動の影響がチャンネルChn2における超音波素子3に及ぶことを低減できる。また、逆に、チャンネルCh2における超音波素子3の振動の影響がチャンネルCh1における超音波素子3に及ぶことを低減できる。ここでは、チャンネルCh1とチャンネルCh2との間におもり81が設けられる例を説明したが、おもり81は全てのチャンネル間に設けられてよい。
【0073】
おもり81は、チャンネル間に配置され、或るチャンネルにおける超音波素子3の振動の影響が他のチャンネルにおける超音波素子3に及ぼされないようにできるものであればよく、例えば銅または金などでパターニングが施された構造体である。
【0074】
また、図9に示すように、チャンネル間の距離を広げることにより、低減機構の役割を果たしてもよい。
【0075】
図9の901は、チャンネルCh1における超音波素子3-1とチャンネルCh2における超音波素子3-2との関係を示す図である。図9に示すように、超音波素子3-1と超音波素子3-2との距離はd12-1である。この距離を図9の902に示すようにd12-2(>d12-1)としてもよい。このように、チャンネルをまたぐ超音波素子3の距離を広げることにより、チャンネルCh1における超音波素子3の振動の影響がチャンネルChn2における超音波素子3に及ぶことを低減できる。また、逆に、チャンネルCh2における超音波素子3の振動の影響がチャンネルCh1における超音波素子3に及ぶことを低減できる。このように、低減機構として溝71および/またはおもり81を設けた場合と同様の効果を奏することができる。ただし、チャンネルCh1とチャンネルCh2との間のみ、間隔をひろげるのではなく、他のチャンネル間の距離も広げてもよい。
【0076】
以上のように、低減機構は、チャンネル間に設けられた、送信方向と反対側に凹んだ溝71(凹構造)、または、チャンネル間に設けられた、送信方向に突出したおもり81(凸構造)であってよい。これにより、或るチャンネル内に配置された超音波素子3の振動が、他のチャンネルに配置された超音波素子3へ影響を及ぼすことを低減できる。
【0077】
〔実験結果〕
図10図13を参照して、本願発明者らが行った実験の結果について説明する。本願発明者らは、超音波素子の振動の影響について、実験を行い、図10図13に示す結果を得た。
【0078】
まず、図10は、実験に用いた超音波素子の配置を示す。図10の1001は、1つの超音波素子3001を用いた場合を示し、図10の1002は、13×13のマトリクス状に配置された超音波素子を用いた例を示す。ここでは、注目する超音波素子について3011~3015の符号を付している。
【0079】
図11の1101は、図10の1001に示す超音波素子3001にある振動を与えたときの振動変位を示すグラフである。当該グラフの縦軸は振動変位(nm)を示し、横軸は時間(nsec)を示す。
【0080】
図11の1102は、同じ振動を図10の1002に示す超音波素子に与えたときの超音波素子3011の振動変位を示すグラフである。1101と同様に、縦軸は振動変位(nm)を示し、横軸は時間(nsec)を示す。1102に示すように、超音波素子が1つではなく複数、配列されている場合、1102の領域1100で示すように、1101の場合と比較してリンギングが顕著になっていることが分かる。
【0081】
ここで、リンギングとは、パルス幅が増大していることをいう。図6を参照してパルス幅について説明する。パルス幅とは、横軸に時間、縦軸に電圧をとったグラフで考えた場合、最大振幅の-20dB以上の電圧が観測される時間幅のことをいう。すなわち、最大振幅の2倍をV1とした場合、振幅の2倍であるV2がV2>V1/10となる時間幅をパルス幅という。
【0082】
よって、振幅が、最大振幅の10分の1(-20dB)を超える期間が増大すれば、パルス幅が増大していることになり、リンギングが顕著になっているということができる。
【0083】
図12は、図10の1002における超音波素子3011~3014の振動変位を示すグラフである。図11に示すグラフと同様に図12に示すグラフも、縦軸は振動変位(nm)を示し、横軸は時間(nsec)を示す。
【0084】
図12のグラフの1201~1203に示すように、マトリクス状に配置された超音波素子のうち、外側に配置された超音波素子ほど、リンギングが小さいことが分かる。
【0085】
図13の1301は、図10の1002における超音波素子3016における振動変位を示すグラフである。1302は、超音波素子3011における振動変位を示すグラフである。1303は、超音波素子3015における振動変位を示すグラフである。1301の領域1311、1302の領域1321、および1303の領域1331に示すように、リンギングの影響は超音波素子3016、超音波素子3011、超音波素子3015の順で小さい。すなわち、マトリクス状に配置された超音波素子のうち、端部に近づくほどリンギングの影響が小さいことが分かる。
【0086】
〔超音波診断装置101〕
次に、図14を参照して、超音波診断装置101について説明する。図14は、超音波デバイス1の応用例として、超音波デバイス1を含む超音波診断装置101の構成を模式的に示すブロック図である。
【0087】
超音波診断装置101は、例えば、IVUS用のものであってよい。超音波診断装置101は、患者の血管内に挿入されるカテーテル103と、カテーテル103に接続されている装置本体107とを備えている。カテーテル103は、概略チューブ状のカテーテル本体103aと、カテーテル本体103a内に収容されている超音波デバイス1とを有している。
【0088】
超音波デバイス1は、カテーテル本体103aを介してカテーテル本体103aの径方向外側へ超音波を送信し、その反射波を受信する。
【0089】
装置本体107は、カテーテル本体103a内の不図示の配線を介してデバイス401と接続されている送受信部109を有している。送受信部109は、超音波デバイス1に送信信号を出力するとともに超音波デバイス1ら受信信号が入力されるものであってもよい。カテーテル103における電気的構成と送受信部109との間の役割分担は適宜に設定されてよい。
【0090】
装置本体107は、例えば、ユーザ(例えば医師または技師)の操作を受け付ける入力部111と、入力部111からの信号に基づいて送受信部109を制御する制御部113と、を有している。また、装置本体107は、送受信部109からの信号及び制御部113からの信号に基づいて画像処理を行う画像処理部115と、画像処理部115からの信号に基づいて画像を表示する表示部117(画像表示装置)とを備えている。表示部117には、例えば、超音波の送受信によって得られた患者の断層画像(ここでは血管の断面画像)が表示される。
【0091】
特に図示しないが、カテーテル103は、カテーテル本体103aを屈曲運動させたり、カテーテル本体103a内のデバイス401の向きを変えたりする機構を有していてもよい。また、装置本体107は、そのような機構に対応した制御部を有していてよい。
【0092】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0093】
1 超音波デバイス
3 超音波素子
5 支持基板
5c キャビティ
17 下部電極
19 圧電体
21 上部電極
101 超音波診断装置
117 表示部(画像表示装置)
Ch1,Ch2,Ch3,Ch4,Ch5,Ch6,Ch7 チャンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14