(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167715
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20221027BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01F17/04 Z
H01F27/29 G
H01F27/29 123
H01F17/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073700
(22)【出願日】2021-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】塩川 登
(72)【発明者】
【氏名】林 慶一郎
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB10
5E070BA03
5E070DA12
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】
【課題】第1鍔部の天面から第2鍔部の天面にかけてコアを覆うように設けられたカバー部材について、鍔部の天面上での厚みを確保し、クラックを発生しにくくしたコイル部品を提供する。
【解決手段】カバー部材25は、紫外線硬化性樹脂26と、長軸および短軸を有する扁平状の粒子からなるフィラー27と、を含む。好ましくは、フィラー27として、タルク粒子が用いられ、カバー部材25における鍔部5の天面17を覆う部分に含まれるフィラー27は、天面17の延びる方向と平行またはほぼ平行に長軸の延びる方向を向けており、巻芯部の中心軸線を通りかつ天面17に直交する面に沿ったカバー部材25の断面において、カバー部材25における天面17を覆う部分に含まれるフィラー27は、15.0%以上かつ50.1%以下の面積比率を有し、フィラー27の粒径は、D50で1μm以上かつ30μm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる巻芯部ならびに前記巻芯部の前記軸線方向での互いに逆の第1端、第2端にそれぞれ設けられた第1鍔部、第2鍔部を有する、コアを備え、
前記第1鍔部および前記第2鍔部の各々は、前記巻芯部の前記第1端および前記第2端をそれぞれ位置させる内側端面と、前記内側端面とは逆方向に向く外側端面と、前記内側端面および前記外側端面間を結ぶ方向にそれぞれ延びる、実装面側に向く底面と、前記底面とは逆方向に向く天面と、前記底面、前記天面、前記内側端面および前記外側端面の各々に隣接し、互いに逆方向に向く第1側面および第2側面と、を有し、
前記第1鍔部の前記底面に設けられた少なくとも1つの第1端子電極と、
前記第2鍔部の前記底面に設けられた少なくとも1つの第2端子電極と、
前記巻芯部に巻回され、かつ前記第1端子電極と前記第2端子電極との間に接続された、少なくとも1本のワイヤと、
前記第1鍔部の前記天面から前記第2鍔部の前記天面にかけて前記コアを覆うように設けられたカバー部材と、
をさらに備え、
前記カバー部材は、紫外線硬化性樹脂と、長軸および短軸を有する扁平状の粒子からなるフィラーと、を含む、
コイル部品。
【請求項2】
前記フィラーは、タルク粒子を含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記カバー部材における前記天面を覆う部分に含まれる前記フィラーは、前記天面の延びる方向と平行またはほぼ平行に前記長軸の延びる方向を向けているものを含む、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記カバー部材における前記巻芯部を覆う部分に含まれる前記フィラーは、前記長軸をランダムな方向に向けている、請求項1ないし3のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項5】
前記巻芯部の中心軸線を通りかつ前記天面に直交する面に沿った前記カバー部材の断面において、前記カバー部材における前記天面を覆う部分に含まれる前記フィラーは、15.0%以上かつ50.1%以下の面積比率を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項6】
前記巻芯部の中心軸線を通りかつ前記天面に直交する面に沿った前記カバー部材の断面において、前記カバー部材における前記天面を覆う部分に含まれる前記フィラーの面積比率は、前記カバー部材における前記巻芯部を覆う部分に含まれる前記フィラーの面積比率より大きい、請求項1ないし5のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項7】
前記フィラーの粒径は、D50で1μm以上かつ30μm以下である、請求項1ないし6のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項8】
前記フィラーは、前記天面に接するものを含む、請求項1ないし7のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項9】
前記フィラーは、前記カバー部材における前記天面を覆う部分において、前記カバー部材の表面に露出するものを含む、請求項1ないし8のいずれかに記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コイル部品に関するもので、特に、ワイヤが巻回された巻芯部と巻芯部の各端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部とを有するコア、ならびに第1鍔部の天面から第2鍔部の天面にかけてコアを覆うように設けられたカバー部材を備える、コイル部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある技術として、たとえば特開2008-10675号公報(特許文献1)には、ワイヤが巻回された巻芯部ならびに巻芯部の軸線方向での互いに逆の第1端、第2端にそれぞれ設けられた第1鍔部、第2鍔部を有する、コアを備える、コイル部品が記載されている。コイル部品は、第1鍔部の天面から第2鍔部の天面にかけてコアを覆うように設けられたカバー部材(特許文献1では、「外装樹脂部」)をさらに備えている。
【0003】
カバー部材は、外部環境からワイヤを保護するためのものであるとともに、コイル部品を配線基板の所定の場所に実装する工程において、コイル部品をピックアップする際、真空吸引チャックによる平坦な吸着面を与えるためのものである。
【0004】
特許文献1では、カバー部材は、たとえば、エポキシ系の熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の硬化性樹脂からなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のコイル部品は、一般民生機器を意識した設計となっていることがほとんどである。言い換えると、従来のコイル部品は、車載用機器向け等、高信頼性が要求される条件での使用が考慮されているとは言い難い場合がある。
【0007】
特に樹脂からなるカバー部材に注目すると、車載用機器向け等、高信頼性の要求を満たすために行われる熱衝撃試験において、大きい圧縮応力が加わるため、カバー部材における、巻芯部まわりのワイヤの表面を覆う部分でクラックが発生することがあった。
【0008】
そこで、この発明の目的は、上述したようなクラックを発生しにくくしたカバー部材を備えるコイル部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したクラックは、カバー部材における鍔部上に位置する部分の厚みを厚くすることによって、発生しにくくできることがわかった。他方、カバー部材における鍔部上に位置する部分の厚みは、個々のコイル部品ごとにばらつきやすく、コイル部品によっては、当該部分の厚みが十分に得られないことがあることもわかった。
【0010】
この発明は、上述した知見に基づき、なされたもので、この発明に係るコイル部品は、軸線方向に延びる巻芯部ならびに巻芯部の軸線方向での互いに逆の第1端、第2端にそれぞれ設けられた第1鍔部、第2鍔部を有する、コアを備える。上記第1鍔部および第2鍔部の各々は、巻芯部の第1端および第2端をそれぞれ位置させる内側端面と、内側端面とは逆方向に向く外側端面と、内側端面および外側端面間を結ぶ方向にそれぞれ延びる、実装面側に向く底面と、底面とは逆方向に向く天面と、底面、天面、内側端面および外側端面の各々に隣接し、互いに逆方向に向く第1側面および第2側面と、を有する。
【0011】
コイル部品は、さらに、第1鍔部の底面に設けられた少なくとも1つの第1端子電極と、第2鍔部の底面に設けられた少なくとも1つの第2端子電極と、巻芯部に巻回され、かつ第1端子電極と第2端子電極との間に接続された、少なくとも1本のワイヤと、第1鍔部の天面から第2鍔部の天面にかけてコアを覆うように設けられたカバー部材と、を備える。
【0012】
そして、上述した技術的課題を解決するため、カバー部材は、紫外線硬化性樹脂と、長軸および短軸を有する扁平状の粒子からなるフィラーと、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、カバー部材に含まれるフィラーが、カバー部材において所定の厚みを確保するように作用する。したがって、第1鍔部および第2鍔部の各々の天面上でのカバー部材の厚みについても、これを十分に確保することができる。
【0014】
その結果、第1鍔部および第2鍔部の各々の天面上でのカバー部材が十分な厚みをもって設けられることから、熱衝撃試験において、カバー部材に大きい圧縮応力が加わっても、カバー部材における、巻芯部まわりのワイヤの表面を覆う部分でのクラックの発生を抑制することができる。これは、第1鍔部および第2鍔部の各々の天面上でのカバー部材の体積が増したことによって、鍔部とカバー部材との界面に発生する応力が抑制されたためであると推測される。
【0015】
また、この発明によれば、カバー部材に含まれるフィラーが扁平状の粒子からなるので、フィラーは、鍔部の天面の延びる方向と平行またはほぼ平行に長軸の延びる方向を向ける状態となりやすい。したがって、フィラーは、カバー部材の、鍔部の天面に沿う収縮を抑制する作用を発揮しやすい。
【0016】
また、カバー部材は、紫外線硬化性樹脂をもって構成されるので、硬化工程を能率的に進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の第1の実施形態によるコイル部品1を示すもので、(A)は正面図、(B)は右側面図である。
【
図2】
図1に示したコイル部品1に相当する実施品において、巻芯部3の中心軸線を通りかつ鍔部5の天面17に直交する面に沿ったカバー部材25の断面を撮影した電子線像をトレースして描いた図である。
【
図3】
図1に示したコイル部品1の製造方法に含まれるカバー部材25の形成工程を示す正面図である。
【
図4】この発明の第2の実施形態によるコイル部品1aの一部であって、カバー部材25が鍔部5の天面17を覆うように設けられた部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、この発明の第1の実施形態によるコイル部品1について説明する。
【0019】
コイル部品1は、コア2を備える。コア2は、軸線方向AXに延びる巻芯部3と、巻芯部3の軸線方向AXでの互いに逆の第1端、第2端にそれぞれ設けられた第1鍔部5、第2鍔部6と、を有する。コア2は、全体として四角柱形状をなしており、たとえば、軸線方向AXの寸法が0.5~2.6mm、高さ方向の寸法が0.4~2.0mm、幅方向の寸法が0.3~2.3mmである。一例として、コア2の軸線方向AXの寸法は1.6mm、高さ方向の寸法は0.85mm、幅方向の寸法は0.8mmである。
【0020】
コア2は、たとえば、アルミナのような絶縁体セラミック等の非磁性材料、ニッケル(Ni)-亜鉛(Zn)系フェライト、マンガン(Mn)-Zn系フェライト等の磁性材料、金属磁性体などから構成される。コア2は、上述した材料の粉末を、圧縮成形し、得られた成形体を焼結させることにより得られる。コア2は、磁性粉を含有した樹脂を成形することによって得られてもよい。
【0021】
第1鍔部5の実装面側に向く底面15には、第1端子電極7が設けられる。第2鍔部6の実装面側に向く底面16には、第2端子電極8が設けられる。
【0022】
端子電極7および8は、たとえば、ガラス粉末および導電成分としての銀を含む導電性ペーストの焼き付けによって形成され、必要に応じて、その上にNi、Cu、Sn等のめっきが施される。端子電極7および8は、別に用意された金属端子部材を鍔部5および6に接着することによって設けられてもよい。
【0023】
巻芯部3のまわりには、ワイヤ9が巻回される。ワイヤ9は、図示しないが、CuやAg等の導電性金属材料からなる芯線と、芯線を被覆する、たとえばポリウレタンやポリエステル、ポリイミド、ポリアミドまたはこれらの混合材料からなる電気絶縁性樹脂材料からなる被覆材からなる。芯線および被覆材を含めたワイヤ9の直径は、好ましくは、16μm以上かつ110μm以下である。
【0024】
ワイヤ9の一方の端末は、第1端子電極7に接続され、ワイヤ9の他方の端末は、第2端子電極8に接続される。ワイヤ9と端子電極7および6の各々との接続には、好ましくは、熱圧着が適用される。なお、熱圧着に代えて、はんだ付け、溶接等が適用されてもよい。
【0025】
上記第1鍔部5は、巻芯部3の第1端を位置させる内側端面11と、内側端面11とは逆方向に向く外側端面12と、内側端面11および外側端面12間を結ぶ方向にそれぞれ延びる、実装面側に向く底面15と、底面15とは逆方向に向く天面17と、底面15、天面17、内側端面11および外側端面13の各々に隣接し、互いに逆方向に向く第1側面19および第2側面21と、を有する。
【0026】
第2鍔部6は、巻芯部3の第2端を位置させる内側端面12と、内側端面12とは逆方向に向く外側端面14と、内側端面12および外側端面14間を結ぶ方向にそれぞれ延びる、実装面側に向く底面16と、底面16とは逆方向に向く天面18と、底面16、天面18、内側端面12および外側端面14の各々に隣接し、互いに逆方向に向く第1側面20および第2側面22と、を有する。
【0027】
コイル部品1は、第1鍔部5の天面17から第2鍔部6の天面18にかけてコア2を覆うように設けられたカバー部材25をさらに備える。カバー部材25は、好ましくは、天面17および18だけでなく、内側端面11および12、外側端面13および14、第1側面19および20、ならびに第2側面21および22の各一部であって、天面17および18に隣接する部分を覆うように設けられる。カバー部材25は、たとえば、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系、またはシリコーン系の紫外線硬化性樹脂と、扁平状の粒子からなるフィラーと、を含む。
【0028】
図2は、
図1に示したコイル部品1に相当する実施品において、コア2の第1鍔部5の天面17上に形成されたカバー部材25の断面を撮影した電子線像をトレースして描いた図である。カバー部材25が紫外線硬化性樹脂26とフィラー27とを含んでいることが
図2に示されている。
【0029】
図2に示すように、フィラー27は、最も長い方向を長軸としたとき、長軸および長軸に直交する方向でより短い方向の短軸を有する扁平状の粒子からなる。扁平状の粒子とは、長径aと短径bとの比で定義されるアスペクト比a/bが平均2.0以上かつ30以下である粒子である。アスペクト比は、たとえば
図2の断面において、SEM(SUI510)を用い、倍率:×320の条件で、少なくとも10個のフィラー27で得られた値を平均して求めることができる。扁平状の粒子は、たとえば、針状の粒子(XYZ軸でXが長径、YZが短径の形状)であっても、板状の粒子(XYZ軸でXYが長径、Zが短径の形状)であってもよい。フィラー27としては、たとえば、タルク粒子、シリカ粒子、ジルコニア粒子などの無機粒子が用いられ得るが、特に、タルク粒子が好ましい。
【0030】
タルクは、Mg3Si4O10(OH)2を主成分とするマグネシウムのケイ酸塩鉱物由来の材料であり、タルク粒子は、当該ケイ酸塩鉱物を粉砕して得られるものである。上記ケイ酸塩鉱物を粉砕したとき、通常、扁平状の形態を有するタルク粒子が得られる。また、タルク粒子は、表面に微細な凹凸を有しているので、紫外線硬化性樹脂26との間で良好な接合性を得ることができる。なお、ケイ酸塩鉱物を粉砕して得られるタルク粒子は、不純物を含むことがある。
【0031】
次に、
図3を参照して、カバー25の形成工程について説明する。上述した
図2は、カバー部材25の形成工程を説明した後で再び参照する。
【0032】
図3(1)には、コイル部品1が既にカバー部材25となるべき要素(未硬化樹脂液30)を備える状態で図示されているが、まず、ワイヤ9が巻回された後であって、カバー部材25が形成される前のコア2が、端子電極7および8側を粘着シート29に向けた状態で、粘着シート29によって粘着保持される。他方、カバー部材25となる未硬化の紫外線硬化性樹脂26およびフィラー27を含む未硬化樹脂液30を一定の厚みで貯留した樹脂浴31が用意される。
【0033】
次いで、コア2が、端子電極7および8側とは反対側から樹脂浴31に漬けられ、その後、矢印32で示すように、樹脂浴31から引き上げられる。この段階での状態が
図3(1)に示されている。
図3(1)において、コア2における端子電極7および8側とは反対側に、樹脂浴31を構成していた未硬化樹脂液30が塗布されている。未硬化樹脂液30は、第1鍔部5の天面17から第2鍔部6の天面18にかけて、コア2を覆っている。
【0034】
次に、
図3(2)に示すように、コア2が粘着シート29に保持された状態のまま、未硬化樹脂液30が塗布された側、すなわち、鍔部5および6の天面17および18側が、当接シート33に押し付けられる。この段階で、未硬化樹脂液30中のフィラー27は、天面17および18の延びる方向と平行またはほぼ平行に長軸の延びる方向を向けるように挙動する傾向がある。
【0035】
なお、鍔部5および6の天面17および18は、その全域が平面であるとは限らない。たとえば、コア2をバレル研磨すると、天面17および18の周縁にアール面取りが施される。このような場合、天面17および18とは、巻芯部3の軸線方向AXに平行な面であると解すべきである。したがって、上述したように、「フィラー27が、天面17および18の延びる方向と平行またはほぼ平行に長軸の延びる方向を向けるように挙動する」における「天面17および18」は、軸線方向AXに平行な面であると解される。
【0036】
また、フィラー27として、タルク粒子が用いられると、これが扁平状であり、他材料よりも脆い材料であることから、当接シート33による押し付けにより、カバー部材25の表面での平坦性が得られやすいという利点がある。タルク粒子からなるフィラー27は、コア2を傷つけにくいという利点も有する。
【0037】
上述した当接シート33は、紫外線を透過し得るように透明であることが好ましい。そのため、当接シート33は、たとえばポリエチレンテレフタレートから構成される。
【0038】
次に、上述のように、コア2における未硬化樹脂液30が塗布された側が当接シート33に押し付けられた状態を維持しながら、当接シート33を通して、紫外線34が未硬化樹脂液30に照射される。これによって、未硬化樹脂液30に含まれていた紫外線硬化性樹脂26が硬化し、
図2に示すように、紫外線硬化性樹脂26とフィラー27とを含むカバー部材25が形成される。
【0039】
なお、カバー部材25において、紫外線硬化性樹脂を用いることは優れた量産性をもたらす一方、ここにフィラーを含有させることは、紫外線の透過を遮るため、従来避けられていた。しかしながら、この実施形態のように、カバー部材25にフィラー27を含有させれば、鍔部5および6の天面17および18上でのカバー部材25の厚みを確実に確保でき、クラック発生抑制の効果を奏することができ、一方では、フィラー27が一定量混入されても、紫外線による紫外線硬化性樹脂26の硬化が妨げられないことが確認された。
【0040】
前述したように、当接シート33への押し付けにより、
図2からわかるように、カバー部材25における鍔部5および6の天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27は、その多くが天面17の延びる方向と平行またはほぼ平行に長軸の延びる方向を向けている。したがって、フィラー27は、カバー部材25の、鍔部5および6の天面17および18に沿う収縮を抑制する作用を効果的に発揮する。
【0041】
一方、カバー部材25における巻芯部3を覆う部分には、上述した当接シート33による押し付けが直接作用しないので、その部分に含まれるフィラー27は、長軸をランダムな方向に向けていることが多い。
【0042】
カバー部材25に含まれるフィラー27の粒径は、D50で1μm以上かつ30μm以下であることが好ましく、5μm以上かつ30μm以下であることがより好ましい。フィラー27の粒径が上記のような範囲に選ばれると、カバー部材25において、応力を低減し、熱衝撃時のクラックの発生を抑制する効果をより確実に奏することができる。また、フィラー27の粒径がD50で30μm以下とされることにより、製品寸法の無駄な大型化を避けることもできる。なお、フィラー27の粒径は、光散乱法によって測定されることができるが、カバー部材25を形成する前の段階でのフィラー27の粒径は、カバー部材25の形成後においても、ほぼ維持されている。このことは、たとえばSEM(SUI510)を用い、倍率:×320の条件で、少なくとも10個のフィラー27で得られた粒径の値を平均して求めることにより確認されている。
【0043】
また、
図2に現れているように、フィラー27は、天面17および18に接するものを含むことが好ましい。同様に、フィラー27は、カバー部材25における天面17および18を覆う部分において、カバー部材25の表面に露出するものを含むことが好ましい。このような構成が実現されると、コア2の熱を外部に効果的に放出することができる。
【0044】
カバー部材25におけるフィラー27の含有比率に関して、巻芯部3の中心軸線を通りかつ天面17および18に直交する面C-C(
図1(B)参照)に沿ったカバー部材25の断面において、カバー部材25における天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27は、15.0%以上かつ50.1%以下の面積比率を有することが好ましい。すなわち、
図2に示したカバー部材25の断面において、カバー部材25における天面17および18を覆う部分の断面積に対する、フィラー25の断面積の比率を面積比率とすると、フィラー27は、15.0%以上かつ50.1%以下の面積比率を有することが好ましい。このような面積比率は、前述した当接シート33による押し付け力を制御することによって実現することができる。
【0045】
上述のように、カバー部材25における天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27が15.0%以上の面積比率を有していると、
図3(1)を参照して説明した未硬化樹脂液30の塗布工程で扱いやすい粘度・レオロジーを、未硬化樹脂液30に対して与えることができる。また、信頼性試験時のカバー部材25における圧縮応力を抑制し、微小クラックの伸展を抑制する効果を確実に奏することができる。また、カバー部材25における天面17および18を覆う部分における厚みのばらつきを抑制しながら、所定の厚みを確実に確保することができる。
【0046】
他方、カバー部材25における天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27が50.1%以下の面積比率を有していると、紫外線硬化性樹脂26の硬化性を良好なものとし、比較的低積算光量でこれを硬化させることができる。また、
図3(1)を参照して説明した未硬化樹脂液30の塗布工程で扱いやすい粘度・レオロジーを、未硬化樹脂液30に対して与えることができる。
【0047】
巻芯部3の中心軸線を通りかつ天面に直交する面C-Cに沿ったカバー部材25の断面において、カバー部材25における天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率は、カバー部材25における巻芯部3を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率より大きいことが好ましい。このような面積比率の関係は、前述した当接シート33による押し付け作用が、カバー部材25における天面17および18を覆う部分では直接及ぼされるが、巻芯部3を覆う部分では直接及ぼされないといった差異からもたらされる。
【0048】
上述のように、天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率が、巻芯部3を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率がより大きいこと、言い換えると、巻芯部3を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率が、天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率より小さいことは、カバー部材25の厚みがより厚くなっている巻芯部3を覆う部分において、紫外線をより透過しやすい構成を実現し、巻芯部3を覆う部分での紫外線硬化性樹脂26の硬化を十分に達成できることを意味する。
【0049】
次に、カバー部材25における天面17および18を覆う部分に含まれるフィラー27の面積比率を種々に変更した試料を作製し、当該部分における、カバー部材25の厚みのばらつき、クラックの有無および未硬化樹脂液30の塗布性について評価した。その結果が以下の表1に示されている。
【0050】
【0051】
表1において、「フィラー面積比率」は、SEM(SUI510)を用い、加速電圧:15kV、倍率:×320、プローブ電流:60mAの条件にて測定したものである。
【0052】
「カバー部材厚みばらつき」については、試料の断面を、寸法測定が可能な顕微鏡で観察し、良(◎)か、可(○)かを判定した。
【0053】
「クラック有無」は、熱衝撃試験(-155℃~+125℃のサイクルを500サイクル)後の試料におけるカバー部材の表面を観察し、有か無かを判定した。
【0054】
「塗布性」は、試料に塗布された未硬化樹脂の量について適切であるかを観察し、良(◎)か、可(○)かを判定した。未硬化樹脂液中のフィラー量が多くなると、未硬化樹脂液の粘度が高くなり、コアを樹脂浴から引き上げた際に、過多の未硬化樹脂液が塗布されてしまう。
【0055】
表1に示すように、「フィラー面積比率」が15.0%以上かつ50.1%以下である試料2~9によれば、「カバー部材厚みばらつき」、「クラック有無」および「塗布性」の各項目において好ましい結果が得られている。
【0056】
他方、「フィラー面積比率」が15.0%未満である試料1では、「カバー部材厚みばらつき」において、可(○)の評価となった。また、「フィラー面積比率」が50.1%を超える試料10では、「塗布性」において、可(○)の評価となった。
【0057】
図4には、この発明の第2の実施形態によるコイル部品1aの一部であって、カバー部材25が鍔部5の天面17を覆うように設けられた部分が断面図で示されている。
図4において、
図1に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0058】
図4に示したコイル部品1aは、コア2の鍔部5の内側端面11に勾配が設けられていることを特徴としている。カバー部材25は、鍔部5における巻芯部3側である内側端面11上において、肉厚部分37を有している。したがって、コイル部品1aによれば、第1の実施形態に係るコイル部品1に比べて、カバー部材25における、鍔部5と巻芯部3との境界部分に対応する部分において、応力が集中しにくくなり、よって、クラックがより発生しにくくなる。
【0059】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、図示した各実施形態は、例示的なものであり、この発明の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0060】
たとえば、コイル部品は、単一のコイルを構成するもの以外に、パルストランスやコモンモードチョークコイルなどの複数のコイルによって構成されるものであってもよい。したがって、ワイヤの数も任意であり、それに応じて、各鍔部に設けられる端子電極の数も任意である。
【符号の説明】
【0061】
1,1a コイル部品
2 コア
3 巻芯部
4,5 鍔部
7,8 端子電極
9 ワイヤ
11,12 内側端面
13,14 外側端面
15,16 底面
17,18 天面
19,20 第1側面
21,22 第2側面
25 カバー部材
26 紫外線硬化性樹脂
27 フィラー