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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167731
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】建物浸水防止装置
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/64 20060101AFI20221027BHJP
   E04B 1/70 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
E04B1/64 C
E04B1/70 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021097636
(22)【出願日】2021-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】519021141
【氏名又は名称】丸山 芳之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 芳之
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DA03
2E001DB02
2E001DC02
2E001FA12
2E001FA21
2E001GA13
2E001GA24
2E001GA77
2E001HB01
2E001HD11
2E001LA01
2E001LA16
2E001MA02
2E001NB01
2E001ND01
(57)【要約】
【課題】大雨による洪水等の際、建物一階の外壁下方部通風口、土台水切り換気孔からの浸水防止装置、浸水防止装置を備えた建物及び浸水防止方法を提供する。
【解決手段】建物の外壁下方部通風口3、土台水切り換気孔4を有する建物で、外壁1、土台水切り2、基礎のうち少なくとも一箇所へ固定できるようになっていて、固定した場合、前記通風口4、換気口5を塞ぐように成形した着脱可能な防水部材5からなる建物浸水防止装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物一階外壁下方部通風口、土台水切り換気孔のうち少なくとも一つを設置する建物に用いる建物浸水防止装置であって、外壁、土台水切りのうち少なくとも一箇所へ固定できるようになっていて、固定した場合、設置している、前記通風口、前記換気孔を塞ぐように成形した防水部材からなる建物浸水防止装置。
【請求項2】
前記防水部材を前記固定箇所へ固定するための固定機能部を設けた、外壁材、土台水切り材のうち少なくとも一つを備えていることを特徴とする請求項1に記載の建物浸水防止装置。
【請求項3】
前記防水部材を前記固定箇所へ固定する際に、防水部材を固定箇所側へ押圧して固定するための押圧固定材を備えていることを特徴とする請求項1~2の何れか1項に記載の建物浸水防止装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の建物浸水防止装置を適用した建物。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の建物浸水防止装置を適用した建物浸水防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物一階の外壁下方部通風口、土台水切り換気孔からの浸水を防止する建物浸水防止装置、建物浸水防止装置を備えた建物及び建物浸水防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、以前にも況して、建物浸水被害防止対策が必要となっているが、建物への浸水量が最も多い一階床部付近に設置の通風口、換気孔からの有効な浸水防止装置が普及していない。
従来から、建物浸水防止対策は、建物周囲に土のうを積んだり、止水板を立てたり(特許文献1参照)、建物を防水シートで囲むこと(特許文献2、非特許文献1参照)などが提案されていた。
近年になって、開口部の被覆シールを備えた土台水切り(特許文献3参照)などの発明、提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-096114
【特許文献2】特開2016-160728
【特許文献3】特開2017-095999
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「家の土台と基礎の間に通風口がぐるりとあるパッキン工法という家の場合、浸水の恐れが有る場合どのような対策を」(インターネット、YAHOO知恵袋、2019年10月31日質問及び回答日)
【非特許文献2】「建築水理学・水害対策の知識」(桑村仁著、技報堂出版 2017年7月20日発行)
【非特許文献3】「内水ハザードマップ」(川崎市、2021年2月15日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2の止水板、浸水防止パネルシートを設置しても、水が止水板等の高さを超え、建物周囲の水位が上昇し、土台水切り換気孔、外壁下方部通風口を超えた場合、建物への浸水を防ぐことができない。
【0006】
また、高さのある防水シートを地面に固定して建物全周をシートで囲むためには、建物全周の地面を平坦に整地(コンクリート張り等)する必要があり、土砂部分、凹凸がある地面では固定用部材を固定し難いなどの課題がある。
【0007】
さらに、非特許文献1のように、防水シートで建物を囲むには、防水シートの大きさ、重量等からして一人では困難な作業である。特に強風下においては大きな防水シートの取扱いは相当困難であると考えられる。また、固定したままでは、窓を覆ったりして日常生活に支障をきたすことや外観上も好ましくない。
【0008】
加えて、防水シートを建物に密着するための粘着テープは、凹凸のある外壁やコンクリート基礎の粗面で使用できるものはあるが、シートの重み等で接着力が弱まるものと考えられ、建物全周を大きなシートで隙間なく囲むのは困難である。また、接着面に凹凸箇所があればその隙間から浸水する。
【0009】
たとえ、防水シートを地面、建物に隙間なく固定することができても、設置後に大きなシートは強風(台風等)を受けて飛ばされたり、浸水時の氾濫流で流されたり、漂流物が直撃して破れたりすることで、浸水防止効果は期待できない。
【0010】
また、防水シートが飛ばされたり、流されたりするまでに至らなくても、大きなシートに、風力、水流がかかれば、地面や建物との固定部分の一部が引き剥がされて固定部分に隙間が生じることになる。
【0011】
さらに、大きな防水シートは、浸水時の浮力によって地面や建物との固定部分から引き剥がされる可能性が高い。特に、凹凸のある外壁やコンクリート基礎の粗面では、浸水した際に耐水性粘着テープでも、浮力、水圧により接着部分が剥がれることが考えられ、防水シートを粘着テープのみで固定し、密着を維持することは困難である。
【0012】
加えて、特許文献2などの防水シートは、水圧による建物への密着度は高いであろうが、氾濫流の直撃や速い水流ではシートが流されることが懸念される。
【0013】
上記のとおり、防水シートと地面や建物との固定部分の一部が引き剥がされて隙間が生じれば建物の浸水被害につながる。
【0014】
さらに、既存建物の場合、既設の土台水切りを特許文献3の開口部の被覆シールを備えた土台水切り等に取り換えるには、専門的な工事が必要であり、同工事には相当の時間(日数)と費用がかかることになる。また、この技術以外にも床下等に設置して浸水を防止する装置等が発明されているが、専門的な取り換え工事が必要なことなどから設置しづらいのでないかと考えられる。
【0015】
また、自動で作用する浸水防止装置で、土台水切りの内部や、床下へ水を引き込んだ上で浸水を防止する装置は、浸水時に細かい浮遊物が装置の内部に入り込むなどして装置が正常に作動しないことも考えられる。
【0016】
なお、工務店等が建てる一般的な在来工法等では、一階床部付近の通風口等からの浸水防止対策は、基礎を高くする方法(費用は数十万円以上)があるが、その他の浸水防止対策(技術的手段)はほぼ施されていないのが現状であろう。
【0017】
従って、浸水想定区域内で浸水防止対策を行っていない既存建物であっても、従来からの浸水防止対策に要する費用、工事日数、また、技術、効果等に躊躇するなどして、一階床部付近の通風口等からの浸水防止対策が重要であるのに、これにポイントを絞った浸水防止対策が進んでいないものと思料される。
【0018】
このような現状を裏付ける文献として、東京大学工学部の教科書「建築水理学」がある(非特許文献2)。
この文献には、「最近の家屋浸水実験によると、外壁材やその継ぎ目、建具サッシまわりは高気密・高断熱使用が普及している関係で、防水性も高くなっていることが明らかになってきている。したがって、家屋の浸水対策は、居室換気、床下換気との折り合いが焦点となる(34頁)。」、「浸水口のうち、地面に近いものほど、また開口面積の大きいものほど、屋内浸水を誘引する(208頁)。」、「1階の床面積34.8平方メートルで、法令規定の床下換気孔を有す木造建物の床下換気孔からの浸水を計算すると、わずか1分余りで屋内が限界水位(床から1.0メートル)に達する。浸水経路の抵抗等でもう少し時間的余裕があるかもしれない(213頁)。」旨、一階床部付近の浸水口からの浸水防止対策の重要性が問題提起されている。
【0019】
また、同文献には、「建築物は総体として耐雨性をもっているわけである。ところが、水の氾濫に対する耐浸水性は与えられておらず、床下浸水、床上浸水をやすやすと許してしまう(207頁)。」と浸水対策の困難性と有効な浸水防止対策(技術的手段)が確立されていない現状が記されている。
【0020】
さらに、自治体では最新の「内水ハザードマップ」で、「浸水深が浅いときは土のう等、家庭にあるものを使って浸水対策ができる」旨を公表している(非特許文献3参照)。なお、海岸部等での通風口等からの高潮浸水被害への対策も必要である。
【0021】
本発明は、以上のような一階床部付近に通風口等を設置する建物の浸水防止対策上の課題を踏まえ、当該通風口等からの浸水防止を図るためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決して上記目的を達成するため、本発明に係る建物浸水防止装置は、一階床部付近の外壁下方部通風口、土台水切り換気孔を完全に塞ぐことができるように成形した、着脱可能な防水部材等からなることを特徴とする。
【0023】
本発明の概要を説明する。
本建物浸水防止装置は、「風」、「水流」、「泥」の影響を受け難いよう、また、区域によっては浸水状態が数日に及ぶことが想定されている折、長時間の浸水時の「浮力」に対しても固定、密着状態を維持できる(密着固定度強化)こととした。
また、浸水防止装置一式は比較的廉価(低コスト化)とし、防水シート製の防水部材を固定するのに効果のある下地材(固定機能部)を外壁等へ予め固着する工事は、日曜大工程度の技術、道具で施工ができる(設置簡易化・低コスト化)こととした。
さらに、防水部材等は小型軽量とし、平時の保管に支障が少なく、浸水発生予測時等に一人ででも建物へ固定することが可能であり(保管と固定の簡便化)、防水部材等を外すのも一人でできるようにした。
加えて、外壁材、土台水切り材と防水部材を建物浸水防止装置として規格統一することで、生産コストを下げ浸水防止対策の普及が図れることとした。
【0024】
なお、防水部材は固定したままでも日常生活の支障にならず、台風発生等の際は、自治会、自治体等が協力して、早くから災害対策の準備ができるよう、地域における防災対策の一つとすることができる建物浸水防止方法となるようにした。
【0025】
以上のとおり、本発明は、当業者(建築・防災・行政関係)から従来には提案されていない一階床部付近の通風口、換気孔を防水部材で覆って塞ぎ、通風口等からの建物内への浸水を防止し、その状態を維持させることに的を絞った、着脱可能な実用的で実効性が高く、費用対効果の高い建物浸水防止装置を提供することを視野に、その実現を図ったものである。
【0026】
本発明について、請求項1から順に説明する。
請求項1に記載の発明は、建物一階の外壁下方部通風口、土台水切り換気孔を設置する建物において、浸水発生予測時等に、通風口、換気孔を全て塞ぐことができるように成形した「防水部材」を手動で所定位置へ固定し、通風口等を塞ぎ、建物内への浸水を防止する建物浸水防止装置を提供する。
【0027】
現状では、既存建物へ用いる上述のような浸水防止装置は、提案等がなされていない。
仮に、上述のような浸水防止方法を個人的に思い描いても、既存建物では、外壁下方部通風口、土台水切りについて、サイズ等の規格が統一されてなく、また、土台水切りの設置状態や、位置関係等が様々であることから、個人が防水シート、金属部材等を加工するなどして防水部材等を準備し、浸水防止装置として用いることは相当に困難である。
【0028】
本発明は、このような課題があるなか、必要時に固定した場合、通風口等を塞ぐ防水部材からなる建物浸水防止装置を既存建物へも適用できるようにした。
請求項1に記載の発明の中核となる防水部材は、耐水性、耐久性を有する、金属、樹脂等の成形品、防水シート製を提供する。固定方法は、弾性復元力の利用、ネジ止め等の従来の固定技術による。
【0029】
請求項2に記載の発明は、防水部材を固定する際に、請求項1に記載の発明よりもさらに効果等の大きい、防水部材を一層容易かつ強固に固定するための「固定機能部」を設けた、外壁材、土台水切り材を使用することで、浸水発生予測時等に、防水部材を速やか、かつ、確実、強固に固定できるようにする建物浸水防止装置を提供する。
【0030】
なお、請求項1に記載の発明は、主として、既存建物へ浸水防止装置を提供するものである(ただし、新築、増築等の際に設置しても何ら問題ない。)が、この発明は、防水部材と外壁材、土台水切り材の規格、固定機能を統一することで、新築、増築、リフォーム時の建物浸水防止装置の普及を推進するとともに、防水部材の固定を一層容易、確実にすることなどの実現をはかることを提供する。
【0031】
固定機能部とは、防水部材を固定するための固定機能を有する部分をいう。
固定機能部の例としては、ボルト止め用のナットを外壁材、土台水切り材の内部等へ固着したもの、防水部材に取付足部を持たせ、その足部を受けるための孔、凹部等を外壁材、土台水切り材へ設けたもの、防水部材をネジ止めするためのネジ下穴を外壁材、土台水切り材へ設けたものなどである。
換言すれば、固定機能部とは、防水部材で外壁下方部通風口、土台水切り換気孔を塞ぐように固定する際、防水部材の固定を容易にし、固定度の強化等を図るために、規格、固定機能を統一し、外壁材等へ設けるものである。
固定機能部は、上記ネジ止め等の固定方法等に限定するものでなく、従来の固定技術により必要とされる機能全般に関するものである。
【0032】
なお、請求項1に記載の発明で、防水部材を外壁等へ直接ネジ止めした場合、取り外した際に外壁等にネジ跡を残すことになるが、請求項2の固定機能部を設けておけば、防水部材を取り外したあとでも外壁等にネジ跡が残ることはない。
【0033】
請求項3の発明は、請求項1~2の発明を実施するについて、防水部材を外壁等へ固定する際に、防水部材を固定箇所側へ押圧するための、「押圧固定材」を取り付けて、防水部材の固定度、密着度の向上をさらに図ることを提供するものである。
【0034】
請求項1または請求項2の発明でも、防水部材の固定はしっかりしているため、静止した状態に近い水による浸水では十分な固定を維持できる。しかし、速い水流や氾濫流のような建物へ水が衝突するような状態や、浸水深が深くなったり、浸水時間が長時間になったりして、防水部材への水流、浮力等の抵抗が強まった場合、また、台風等の強風から防水部材の破損を防止し、固定部からの脱落防止等を目的として、防水部材を押圧する押圧固定材を備えるものである。
【0035】
押圧固定材は、防水部材を固定する全体部へ用いてもよいし、強風や氾濫流が当たるおそれのある部分へ限定して用いてもよい。
【0036】
請求項4の発明は、請求項1~3に記載の何れか1項に記載の発明を備えた建物を提供することを特徴とする。
【0037】
なお、建物としての総合的な浸水防止対策では、建物浸水防止装置への漂流物等の直撃を避け、同装置の破損、流失を防ぐことが重要である。そのため建物浸水防止装置をネット状等のもので覆うようにする防護材を外壁等へ取り付けるフック等を外壁等へ設けた建物であることが望ましい。
【0038】
また、新築の際などで、防水部材を固定する外壁部分を、凹凸をなくし、平滑なものとしておけば、固定用の下地材を用いなくても固定部に隙間ができないし、また、外壁材、土台水切り材へ防水部材を固定するための固定機能部を設けたものを使用しておけば、新築時には建物浸水防止装置を設置しなくても、5年、10年等先に設置することができる。
【0039】
請求項5の発明は、請求項1~3の何れか1項に記載の建物浸水防止装置を適用した建物浸水防止方法を提供する。
【0040】
建物浸水防止方法の実効を確保するには、氾濫流や漂流物によって建物浸水防止装置の損壊、流失を防ぐことにある。
そのため、建物への氾濫流等の直撃を防ぐには、できるだけ建物敷地全体を水流を通さないブロック塀等で囲み、門扉も水流を通し難いものとするのがよい。
【0041】
なお、建物浸水防止装置の防水部材等の保管は、建物外に収納ロッカーを設け、粘着テープ、工具等とともに保管して、保管の旨を外部表示しておけば、浸水発生予測時に家人が不在でも、近隣住民等で防水部材等を固定することができる。
また、浸水発生予測区域等の高齢者世帯等の場合は、建物浸水防止装置が地域単位で普及すれば、防水部材の固定方法等が共通のため、近隣住民、行政等の支援によって防水部材を固定することができ、大雨洪水、高潮、台風等に備えることができ安全・安心を確保できる。
このように、本発明は、防災対策、防災方法の一つとして、今後、地域全体で実施することができる建物浸水防止方法である。
【0042】
なお、請求項全ての発明を実施するについて、防水部材を外壁、土台水切りへ、強固に固定するため、外壁材、土台水切り材について、その材質、構造等において、強度を確保することが重要である。
具体的には、外壁材では防水部材の固定部分を金属等で補強したり、土台水切り材では鋼板製であれば鋼板を厚くしたり、アルミ等の金属製、樹脂製として強度を確保することが重要である。
【0043】
防水部材が部分的に破損等した場合、部分的な浸水につながることを想定し、それに対応するため、特に防水シート製の防水部材では、通風口等へ吸水性部材や水膨張性部材を挿入しておくことが望ましい。
【0044】
以上のとおり、請求項1~3の発明は、防水部材の下端部を地面に固定しないで、土台水切りの位置で固定することにより、大きな破壊力を持つ「泥流」の直撃を極力避けることを可能とした。また、材質、形状に多様性を持たせた防水部材と、固定機能部(ナット、下地材等)、押圧固定材、粘着テープの使用を組み合わせることができるようにしたため、水流、泥流、浮力に対する固定度を高め、防水部材が受ける引き剥がし作用を抑えることが可能となり、併せて、長時間の浸水時にも防水部材の固定耐久力を維持させることができるようにした。
【0045】
本発明は、建物への浸水量が最も多い一階床部付近の通風口等からの浸水を防止する課題の根本である、「平時の換気等の確保」と「浸水防止」の折り合いを解決するにおいて、建物浸水防止装置は、比較的安価で工事も簡便で、浸水発生予測時に設置しやすく、固定したままでも建物の外観を損なわず、日常生活に支障がなく、着脱が容易で、固定すれば建物一階床部付近の通風口等を完全かつ限定的に塞ぐことができる小型の防水部材を準備しておき、最も確実な手動にて短時間で強固に固定し、さらに、耐水性粘着テープを有効活用して、固定強度、水密度を高め、「風」、「水」、「泥」、及び「浮力」の影響を最小限に抑え、浸水が解消するまでの長時間であっても建物への密着度を維持しておくことが肝要であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0046】
以上説明したように、請求項1に記載の発明は、通風口、換気孔へ水が入らないようにして、建物内への浸水を防止することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、防水部材を固定しやすく、かつ、強固に固定するとともに、防水部材、外壁材、土台水切り材の規格、固定機能を統一した建物浸水防止装置として量産ができ、低コスト化による普及がはかれる。
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明効果に加えて、防水部材をさらに密着して強固に固定できるので、建物への浸水防止効果を一層高めることができる。
請求項4記載の発明は、建物浸水防止装置を保護し、その効果を最大限発揮させることができる。
請求項5記載の発明は、地域住民、行政等が協力して、これまでになかった地域全体での浸水防止対策を推進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】 本発明に係る請求項1の実施例1の断面概略図である。
図2】 本発明に係る請求項1の実施例2の断面概略図である。
図3】 本発明に係る請求項1の実施例3の断面概略図である。
図4】 本発明に係る請求項1の実施例4の断面概略図である。
図5】 本発明に係る請求項1の実施例5と請求項2の実施形態の断面概略図である。
図6】 本発明に係る防水部材の形状の一例を表した傾斜図である。
図7】 本発明に係る防水部材固定部品の形状の一例を表した傾斜図である。
図8】 本発明に係る防水部材固定部品の形状の一例を表した傾斜図である。
図9】 本発明に係る請求項1、2、3の実施形態の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態、本発明の技術的範囲については、以下の実施形態及び図示に限定されるものではない。
まず、請求項1に記載の発明について、実施例1~5に共通することについて説明する。
【0049】
外壁下方部通風口3、土台水切り換気孔4を塞ぐための、防水部材5は、内外側ともに粘着テープが貼付できる平滑面を有するものがよい。
【0050】
防水部材5の形状(上下高、横幅)は、通風口等を完全に塞ぐことができ、かつ、塞いだ状態でネジ止め等の固定方法で固定するのに必要な大きさに成形したものとする。
上下高について、ネジ止めする場合では、本発明を適用する建物の通風口等の設置状態等により異なり、また、固定する外壁1等の状態によっては固定する位置を外壁1の下部より上方としなければならないなどで異なり、一概に材料としての必要な高さは限定できない。しかし、一般的な土台水切り2の設置状態下で、防水部材5の上端部を外壁1の最下部より約10センチメートル上に、下端部を土台水切り2の底壁部の建物際に固定する場合として、30センチメートル程度の高さ(材料としての高さ)が必要となる。なお、この高さは一応の目安であり、上述のとおり建物毎の固定方法、固定位置等により、これ以上の高さが必要となるし、また、土台水切り換気孔4のみを覆う防水部材5では、材料としての高さは10センチメートル程度となる場合もある。
【0051】
横幅の長さ合計は、建物周囲の長さから玄関付近等の通風口等を設置していない部分の長さを引き、防水シート製の防水部材5では、隣接の防水シートを重複させる部分を加えた長さとなる。平時に保管する際の長さとしては、金属、樹脂等の成形品であれば、保管のしやすさ、固定時の取扱いやすさを考慮すれば、1.8メートルから2メートル程度の長さでよいが、これ以上の任意の長さとしてよい。防水シート製防水部材5であれば、製造等が可能な長さの範囲内で、平時には、巻くか、折りたたんで保管することができ、固定する際に扱いやすい任意の長さにしてよい。
【0052】
防水部材5が、弾性を有する金属、樹脂等のものであれば、弾性復元力を用いて密着度を高めるため、横幅の長さの中程(1.8メートルであれば0・9メートル)を中心として左右均等に若干湾曲させることで、湾曲の方向によって、中央部で1箇所、または左右両端部で各1箇所にて、ネジ止め等で固定することで、防水部材全体を外壁1、土台水切り2へ強く密着させることができる。
【0053】
厚さは、防水シート製であれば、1枚分の厚さ以上で2枚以上を重ねて使用する場合は重ねた枚数分の厚さとなる。金属製、樹脂製等の場合は、鋼板1枚分程度の厚さから数ミリ程度の厚さとなるが、材質の強度等によりそれ以上となることもある。また、浸水深が深くなる想定区域や建物の外壁下方部通風口が大きい場合は、浸水時に高い水圧がかかるため、通風口、換気孔付近の構造、大きさ等に合わせたこれ以上の厚さを確保することになる。
【0054】
平時は原則として、建物の通風、換気を確保しておかなければならないため、防水部材5は浸水発生予測時等に固定する。ただし、寒冷期等での蓄熱目的、塩害防止対策、高潮防止目的等で使用することができ、何れの効果を得ることができる。
【0055】
防水部材5の横端部の接合は、金属、樹脂等の場合は、端部を密着させ固定する。防水シート製の場合は、隣接する部分を重複させて内外側で粘着テープで貼付するなどの方法で行い、上下端部はネジ止め等で外壁1等へ固定するのがよい。
防水部材5で接合しない横端部が生じた場合は、外壁1、土台水切り2等へネジ止め等で固定する。
【0056】
防水シート製の場合は、上下端部に金属、樹脂等の平板状部材またはワイヤー等を接着、内包等するか、その部分を2枚重ね以上にして上下端部の硬度、強度を確保し、外壁1等と密着して固定し、水密度を確保できるよう成形したものを使用する。
【0057】
パッキンは、防水部材5の上下端部等へ用いてもよいし、予め防水部材5へ固定しておいてもよい。
【0058】
続いて、請求項1に記載の発明における、主な実施例(実施形態)について説明する。
先ず、請求項1に記載の発明の実施例1を図1の断面概略図で説明する。
これは、土台水切り換気孔4のみを有する建物と、防水部材5(防水部材固定部品6の使用時を含む)とその固定方法等を表している。
この換気孔4は、外壁内側通風層、基礎上部床下換気層等へつながっているタイプである。
この場合の防水部材5は、金属、樹脂等の成形品、または防水シート製とすることができる。
【0059】
防水部材5で、金属、樹脂等の成形品の場合は、図のように、ほぼL字型断面を有し、土台水切り2の外形の一部(垂直壁部、底壁部)にほぼ沿うように成形したものを、土台水切り2へ密着させてネジ止め等で土台水切り2へ固定する。
防水シート製の場合は、土台水切り2の垂直壁部、底壁部へ密着させて、上述のほぼL字型断面を有する成形品の横幅の長さを短くした防水部材固定部品6、または、図7図8で示した形状のような防水部材固定部品6で防水部材5の上に密着させ、その上からネジ止め等で上述のように固定する。
【0060】
これら防水部材固定部品6の横幅の長さは、ネジ止め、ボルト止めをして固定しても強度を保てる長さを確保すれば、上限はないので、例えば、1メートル程度であってもよいし、それ以上長くてもよい。特に、速い水流が当たる部分等では、1メートル程度かそれ以上に長いものを用いることで、防水シートへ漂流物が直撃することなどでの破損、流失等を防止することができる。
図7で示したものは、土台水切り2の形状を一回り大きくしたもので、ネジ止め等で固定することを主にしているので、鋼板、アルミ、樹脂等で成形できる。図8で示したものは、弾性復元力を用いて固定が可能な形状の一例である。
また防水部材固定部品6は、上述のような幅を有するものでなくても、図7図8のような断面形状の番線程度の太さのクリップ状のもので固定機能を有するものであれば、使用が可能であり、それを用いてもよい。
【0061】
この例の場合、固定時に、土台水切り換気孔4への浸水を防ぐのは、防水部材5の上部では、防水部材5の内側と土台水切り2の垂直壁部とが接している部分である。同様に、防水部材5の下部では、防水部材5の下端部と土台水切り2の底壁部とが接する部分となる。しかし、土台水切り2は、その内部へ換気孔から雨等が浸入しないように垂直壁部を底壁部より下方へ数ミリメートル伸ばしているものが一般的である。よって、防水部材5と防水部材固定部品6は、下端部(建物側の端部)を土台水切り2の垂直壁部が下方へ伸びている長さ以上、上方へ伸ばしておくことで、下端部を土台水切り2の底壁部と密着させることができ、この部分からの浸水を防ぐことができ、土台水切り換気孔4からの浸水を防止することができる。なお、固定時に防水部材5の内側と土台水切り2の底壁部との間へ、パッキン、吸水性部材や水膨張性部材を挿入しておいてもよい。また、予め、防水部材5のこの部分へパッキン等を固定しておいてもよい。
【0062】
この例の防水部材5は、土台水切り2の形状に合わせることができれば、弾性復元力が少ない材料でも良く、鋼板、アルミ、プラスチック等を用いれば材料的にも少なくて済むため比較的安価に製造できる。
【0063】
防水部材5、防水部材固定部品6の固定方法は、図1のようなネジ止め以外の従来の固定技術を用いる。
【0064】
次に、請求項1に記載の発明の実施例2を図2の断面概略図で説明する。
これは、外壁下方部通風口3のみを有する建物の防水部材5(防水部材固定部品6の使用時を含む)とその固定方法等である。
この通風口は、外壁内側通風層等の屋内各部へつながっているタイプで、床下用換気孔は基礎の中程に設置している建物である。
【0065】
この場合の防水部材5は、金属、樹脂等の成形品、または防水シート製とすることができる。
金属、樹脂等の成形品の場合は、図のようなほぼL字型断面を有するように成形している。図では、上端部を外壁1へ固定し、屈折部から下端部にかけての間で土台水切り2の上壁部へ固定し、外壁1、土台水切り2の二箇所へネジ止めしているが、少なくとも一箇所でネジ止め等で固定する。
防水シート製の防水部材5の場合は、外壁1、土台水切り2へ密着させ、その上から、上述の断面を有する成形品の横幅の長さを短くした防水部材固定部品6で、外壁1、土台水切り2の少なくとも一箇所へネジ止め等で固定する。
【0066】
この実施例2の固定時に、外壁下方部通風口3への浸水を防ぐのは、防水部材5の上部では防水部材5の内側と外壁1とが接している部分である。同様に下部では、防水部材5の内側と土台水切り2の上壁部とが接する部分となる。しかし、土台水切り2の上壁部は、雨等が屋外側へ流れ落ちるように屋外側へ向かって下り傾斜しているのが一般的である。よって、防水部材5と防水部材固定部品6は、中程の屈折部を90度より大きくしておくことで、防水部材5の上下端部等が外壁1と土台水切り2に接する部分の面積を大きく確保することができる。ただし、土台水切り2の上壁部がほぼ水平のものもあるので、その場合は、防水部材5の屈折部はほぼ90度とする。このようにして、外壁下方部通風口3への浸水を防止することができる。なお、防水部材5の固定時に防水部材5と外壁1,土台水切り2の上壁部との内側にパッキンを入れて密着度を高めてもよいし、予め防水部材5、防水部材固定部品6へパッキンを固定しておいてもよい。
【0067】
外壁下方部通風口3のみを塞ぐ上述の防水部材5、防水部材固定部品6は、実施例1と同様に小さく、材料が少なくて済む。また、弾性復元力を有していれば固定時の上下端部での密着度を高く確保できる。一方、防水部材5、防水部材固定部品6の形状(屈折角度等)を土台水切り2の上壁部の傾斜角度等にほぼ合致させれば、弾性復元力が少なくても上下端部の密着度が確保可能なため、鋼板、アルミ、プラスチック等を用いて比較的安価に製造できる。
【0068】
この図の防水部材5の形状(屈折角度等)は、一例であり、上述のとおりほぼ90度にすることもあり、逆に角度をそれ以上に大きくすることがある。また、固定方法も、図示のネジ止め以外の従来の固定技術としてよい。
【0069】
次に、請求項1に記載の発明の実施例3を図3の断面概略図で説明する。
これは、外壁下方部通風口3と土台水切り換気孔4の両方を設置する建物の防水部材5(防水部材固定部品6の使用時を含む)とその固定方法等である。
【0070】
この場合の防水部材5は、金属、樹脂等の成形品、または防水シート製とすることができる。
金属、樹脂等の成形品の場合は、図のような断面を有するように成形し、外壁1、土台水切り2に密着させてネジ止め等で固定する。
防水シート製防水部材5の場合は、外壁1、土台水切り2へ密着させて、上述の成形品の横幅の長さを短くした防水部材固定部品6で、外壁1、土台水切り2の少なくとも一箇所へネジ止め等で固定する。(図3では二箇所へ固定している。)
なお、図では、防水部材5の最上部の辺の部分が土台水切り2の中程の上方から上方へ伸びているが、土台水切り2の外壁からの突出部分の長さが短い場合は、土台水切り2の垂直壁部と上壁部の交差部分付近の上方から外壁1と密着するように上方へ伸ばしてよい。
【0071】
この例での固定時に、外壁下方部通風口3と土台水切り換気孔4への浸水を防ぐのは、防水部材5の上部では防水部材5の内側と外壁1とが接している部分である。同様に下部では、防水部材5の下端部と土台水切り2の底壁部とが接する部分となる。これら部分の浸水防止等に関する詳細は、上述の実施例1、2で説明したとおりであり、防水部材5の屈折角度を土台水切り2の上壁部の傾斜角度に合わせること、垂直壁部が底壁部より下方へ伸びているため、防水部材5の下端部を垂直壁部が伸びている以上、上方へ伸ばし、防水部材5の外壁1、土台水切り2との固定部の密着度を高めることが必要である。ただし、図では、防水部材5の下端部を上述のように上方へ伸ばさず、その分を土台水切り2の垂直壁部が下方へ伸びているのに沿う形でそれ以上に下方へ伸ばすことで、防水部材2の下端部を土台水切り2の底壁部へ密着させている。この図の形状のような防水部材5でネジ止めする場合は、その材質の弾性復元力は少なくてもよい。
【0072】
既存建物で、ハウスメーカー製建物、メーカー製土台水切り使用建物については、その土台水切りの仕様に合わせた防水部材5、防水部材固定部品6の量産が可能である。しかし、それらを除けば、既存建物に使用している土台水切り2の規格、外壁1からの突出具合等が様々であるため、防水部材5(防水部材固定部品6を含む)は、各辺の長さ、屈折角度等を変えたものを組み合わせて数種類の防水部材5を用意し、建物毎に最も適合するものを使用することとなる。
【0073】
この実施例3は、実施例1と実施例2を組み合わせ、金属、樹脂等の成形品の防水部材5を2種類(実施例1、2のもの)を用いて実施することが可能である。なお、防水シート製の防水部材5の場合は、実施例3を実施する大きさの防水シート製防水部材5を準備し、防水部材固定部品6は、実施例1、実施例2の2種類を用いればよい。
【0074】
次に、請求項1に記載の発明の実施例4を図4の断面概略図で説明する。
これは、土台水切り換気孔4のみを設置する建物の防水部材5(防水部材固定部品6の使用時を含む)とその固定方法等である。
【0075】
この場合の防水部材5は、金属、樹脂等の成形品、または防水シート製とすることができる。
金属、樹脂等の成形品の場合は、図のようなほぼコ字型断面を有する成形品で土台水切り2を覆うようにして土台水切り換気孔4を塞ぎ、防水部材5の弾性復元力によって固定する。
防水シート製の防水部材5の場合は、土台水切り2の上壁部から底壁部へ密着させた上から、上述の成形品の横幅の長さを短くしたクリップ状の防水部材固定部品6ではさんで、防水部材固定部品6の弾性復元力によって固定する。
なお、前述のとおり、クリップ状のものは、番線程度の太さ(幅)のものを使用してもよい。
【0076】
この例の固定時に、土台水切り換気孔4への浸水を防ぐのは、防水部材5の上部では防水部材5の上端部と土台水切り2の上壁部とが接している部分である。同様に下部では、防水部材5の下端部が土台水切り2の底壁部と接する部分となり、この部分の水密度を確保する技術等は、上述の実施例1~3で説明したとおりである。
防水部材5の上部の水密度を確保するには、防水部材5、防水部材固定部品6の上部屈折角度は90度以下にしておけば、土台水切り2をはさんだ状態での弾性復元力によって、密着度を高めることができると同時に下端部の密着度をも高めることができる。この屈折部の角度は、土台水切り2の大きさ、上壁部の傾斜角度等によるため、図示の形状(角度)はあくまで一例である。
防水部材5、防水部材固定部品6の弾性復元力のみで固定するには、金属、樹脂の厚さを確保するなどして、弾性力が強いものであることを要する。
図示していないが、防水部材5を土台水切り2の垂直壁部等へネジ止め等で固定すれば、固定強度の確保、維持を図ることができる。
【0077】
この例の防水部材5は、実施例1のものの、1.5倍程度の材料を要するが、土台水切りへはめるだけで確実に固定され、また、ネジ止めしない場合は、外したあとにネジ跡が残らないメッリトがある。
【0078】
なお、請求項2の発明の固定機能部7については、後述するが、この実施例で、土台水切り2の上壁部、底壁部の防水部材5と密着する部分に、防水部材5の上下端部が嵌まる浅い溝(固定機能部)を設けておけば、防水部材5の固定がしっかりしたものとなる。
【0079】
次に、請求項1に記載の発明の実施例5を図5の断面概略図、図6の斜視図で説明する。
これは、外壁下方部通風口3と土台水切り換気孔4の両方を有する建物の防水部材5(防水部材固定部品6の使用時を含む)とその固定方法等である。
この場合の防水部材5は、金属、樹脂等の成形品、または防水シート製とすることができる。
金属、樹脂等の成形品の場合は、図5図6の断面を有し、図6で示したような成形品で、上端部を外壁1へ、下端部等を土台水切り2へ密着させる。図5では、防水部材5を外壁1へボルト止めしているが、防水部材5の弾性復元力を用いて固定することができる。
【0080】
この例でも、上述のとおり、土台水切りへ浅い溝(固定機能部)を設け、そこへ防水部材5の下端部等の密着する部分を嵌め込めば、固定度が強化される。
【0081】
防水シート製の防水部材5の場合は、外壁1の下部から、土台水切り2の底壁部まで密着させ、上述の成形品の幅の長さを短くした防水部材固定部品6でその弾性復元力を用いて固定する。(この場合も、土台水切りへ浅い溝(固定機能部)を設けることについては上述のとおり。)
ただし、防水部材5が、金属、樹脂等の成形品、または防水部材固定部品6の弾性が低いものでは、ネジ止め等で固定する。固定は、図のようにボルト止めや、それ以外の従来の固定技術で固定する。
【0082】
この例で、固定時に、外壁下方部通風口3と土台水切り換気孔4への浸水を防ぐのは、防水部材5の上部では、防水部材5の内側と外壁1とが接している部分である。同様に下部では、防水部材5の下端部と土台水切り2の底壁部とが接する部分となる。上部、下部の浸水防止については、上述の実施例1~4で説明したとおりである。
【0083】
この実施例の防水部材5の形状等は複雑であり、工務店等の建設による既存建物では数種類の大きさ、角度等を組み合わせたものを用意したなかから適合するものを選択する必要があるが、ハウスメーカー製建物、メーカー製土台水切りを使用した既存建物へ適用する防水部材5に関しては、上述(0073)のとおりであり、量産が可能である。
【0084】
この防水部材5は、実施例4と同様に、防水部材5、防水部材固定部品6の弾性復元力を用いて固定できるので、建物敷地周りをブロック塀等が囲み、速い水流が建物に接近しない、所謂、静止した水が徐々に上がってきて浸水することが想定される場合等は、ネジ止めを要せずに固定が維持できるものと考えられる。固定方法が嵌め込むだけで簡便であり、ネジ止め等をしなければネジ跡がのこらないメリットがある。
【0085】
図6は、金属、樹脂等の成形品からなる防水部材5を示している。上述のとおり、下端部は、土台水切り2の垂直壁部が底壁部より下方に伸びている長さ以上に上方へ伸ばしている。
図5では、外壁1、土台水切り2に7a、7bと示した部分があるが、これは請求項2に記載の発明による固定機能部であり、詳細は後述する。
この図5の防水部材5の下端部は、上述(図6)のように上方へ伸ばしていない。これは、上述の実施例3と同様で、土台水切り2の垂直壁部が下方へ伸びているのに沿う形でそれ以上に防水部材5の垂直部分を下方へ伸ばすことで、防水部材5の下端部を土台水切り2の底壁部へ密着させているためである。
なお、この場合も図6のように下端部を上方へ伸ばしたものとしてもよく、防水部材5の屈折位置、屈折角度、上下端部の形状、角度は、外壁1、土台水切り2と最も密着することを優先に本発明全体において構成するものである。
【0086】
以上で、請求項1に記載の発明の実施例5つを説明したが、これらに共通して該当することと、上述以外の実施例について説明する。
金属、樹脂等を用いた防水部材5は、固定する建物に合わせてオーダーメードが可能であり、その場合は防水シート製に比べ高額となるが、耐久性が高く、漂流物の直撃等でも破損し難く、また、弾性復元力によって上下端部等を外壁1等へ強力に密着させることができ浸水防止効果は高くなる。
【0087】
本発明の防水部材5は、通風口、換気孔を完全に塞ぐことを達成しつつ、通風口等の上方、下方の通風口等の出来る限り近接部分に固定し、さらに、外壁1、土台水切り2へ密着するよう設計し、防水部材5の小型化(小さい面積=少ない材料)を図ることができている。従って、その利点として固定状態のままでも邪魔にならず、日常生活に支障がなく、景観を損なわないため、蓄熱暖房を目的として期間限定で建物へ固定しておくこと、高潮、海風による塩害等を予防するための設置が可能である。
また、なにより、台風発生時等では、エアコン室外機設置付近等の防水部材5を固定し難い部分から段階的に固定し、早めから台風対策等をすることができる。このように小型で固定しやすい利点を生かし、防水部材を日頃から固定することで防災意識を高め、浸水発生予測時に手際よく防水部材等を固定することができる。さらに防水シートの経年劣化等の不具合を点検することもできる。
【0088】
以上のとおり、請求項1に記載の発明は、既存建物であっても、通風口、換気孔、これら周辺の状態に合わせて、上述の実施形態により、その建物に適合する防水部材5、防水部材固定部品6を、最適な材質、形状の中から選択して、最適な方法で固定し、通風口、換気孔からの建物内への浸水を防止する実施形態としている。
【0089】
続いて、請求項2に記載の発明について説明する。この発明は、請求項1に記載の発明の浸水防止作用、効果等に加え、さらに防水部材を固定しやすくしておくとともに、防水部材を固定した場合、さらに強固に固定できるようにするための固定機能部の提供である。
請求項2の発明を図9の断面概略図で説明する。
【0090】
この発明は、防水部材5を固定するための固定機能部7を設けた外壁材、土台水切り材を用いて、外壁1、土台水切り2とする建物浸水防止装置である。
現状では、外壁材、土台水切り材で、防水部材5、防水部材固定部品6を固定するための固定機能部7を設けたものは製造等されていないものと思料する。
【0091】
上述のとおり、請求項1に記載の発明は、主として既存建物へ建物浸水防止装置を提供するためのものであり、それぞれの実施例(実施形態)で説明したように、建物によって、防水部材5の形状、大きさ等は様々となる。
そのため、防水部材5は、それぞれごとに適合するよう、数種類の形状、大きさのものを製造して揃え、その中から最も適合(形状等が合って、浸水防止効果が高く、固定の維持が出来るもの)したものを選択する必要がある。
この点が不便であり、特殊な設計を施した建物等では適合品を見つけるのが困難であることも考えられる。
このような課題を解消し、今後の新築等の建物に浸水防止装置を標準的に設置するには、防水部材5を確実、容易に固定するための固定機能部7を有する外壁材、土台水切り材を用いれば、その課題を解消することができる。
以上のような課題を解消し、その目的を達成するため、外壁材、土台水切り材へ固定機能部7を設けることを提供する。
【0092】
固定機能部について説明する。
固定機能部7とは、防水部材5を固定するために、外壁1、土台水切り2へ設けた機能部である。
例えば、図9で示した、防水部材5を土台水切り2へボルト止めするため、土台水切り2の内部へ固着したナットが固定機能部7aである。
これまで、防水部材を固定するため、土台水切り(内部等)、外壁材(内部、裏面等)へナットを固着したものは見当たらない。
この防水部材5とセットになった土台水切り2により、防水部材5を容易かつ強固にボルト止めで固定することができる。平時は、ボルト用の孔は樹脂等のキャップ等で塞いでおけばよい。
【0093】
他の固定機能部7の例としては、防水部材5の端部を嵌め込む溝状部分7bを設けた外壁材(図5参照)、防水部材5を固定するための下地材7cを固着した外壁材(図9参照)等である。その他、土台水切り2の上壁部、垂直壁部へ浅い丸みのある凹部を設け、そこへ防水部材5の内側に浅くて丸みのある凸部を嵌め込むようにして固定するものなどがある。
上述のナット7a、溝状部分7b、下地材7c等は、外壁材、土台水切り材の何れにも設けることができる。防水部材端部を嵌め込む溝状部分7b等の固定機能部7を有する位置も、図示の一例に限定せず(土台水切り2の防水部材5と密着する部分の浅い溝については、請求項1の説明部分で説明したとおりである。)、すなわち、防水部材5の上下端部を挿入して、固定度、水密度をあげる最適の位置に設けるのがよく、外壁材であれば、下部表面に限定するものでなく、例えば、底面部、内部、裏面部等の何れへ設けてもよい。土台水切りであれば、内部の他に、底壁部、上壁部、垂直壁部、屈折部等の何れへ設けてもよい。
要するに、防水部材5を外壁材、土台水切り材へ固定する方法は、上述のネジ止め、ボルト止め、弾性復元力等に限定しないで従来の様々な固定技術を用いるのであるから、用いる固定技術に必要な固定機能部7を外壁材、土台水切り材の必要な部分へ設けることである。
【0094】
このような固定機能部7は、防水部材5の固定の容易化、作業時間の短縮につながり、確実、強固な固定ができることを目的としている。
特に、防水部材5が、氾濫流の直撃等に耐えられるよう、防水部材固定部品6も含め、その上下端部を外壁1、土台水切り2へ設けた防水部材端部を嵌め込む溝状部分7bへ嵌め込むのは、固定度を高めるだけでなく、水密度を高めることになる。
【0095】
固定機能部7の一つである、下地材について説明する。
請求項1に記載の発明を実施するに際し、外壁の固定部分に凹凸や粗面がある場合などは、そのままの状態で防水部材5を固定しても、その外壁1との隙間から大量の水が浸入することになる。
そこで、防水部材5と外壁1の固定部分に密着度、水密度を確保する目的で、凹凸をなくすための固定用の下地材7cを固定用機能部7として設け、シーリングを充填等しておくことで、防水部材5と外壁1の固定部の隙間を解消することができる。
この下地材7cは、外壁材の下部を平滑に仕上げる方法と、外壁材下部に金属、樹脂等の下地材7cを固着する方法が考えられる。
【0096】
下地材7cを外壁材へ固着する場合は、耐水性、耐久性を有する金属、樹脂等とし、外側は粘着テープが貼付できる平滑面を有するものが好ましい。
【0097】
既存建物へ主として固着する下地材7cは、外壁等へ固着したままとするため、平時の保管を要さず、長さは、一般建築材料と同様に長くであってよい。形状は平板でもよいが、チャンネル(コ字型溝形状)等の足部のある形にすれば、内部にシーリング、接着剤を充填して外壁1へ固着でき、凹部を埋めることができる。
また、内部へ防水部材5を固定するためのボルト止め用のナットを固着することができる。
表面、裏面は、平坦面を有するもので、厚さは数ミリ程度以上で、幅はネジ止め等での強度が保てることを要する。
【0098】
続いて、請求項3に記載の発明「押圧固定材」を図9の断面概略図で説明する。
この図では、外壁下方部通風口3のみを設置する建物へ防水部材5を固定している。
図では、押圧固定材8を2つ示している。押圧固定材8は文字通り防水部材5を押圧して、外壁1、土台水切り2へ固定するための部品であり、防水部材5の上から固定箇所側へ押圧することで、固定部分の固定強度、密着度をさらに高め、防水部材5の破損防止につながる。請求項1、請求項2に記載の発明のみで、防水部材5は、しっかりと固定できるが、一層強固に固定するため、この押圧固定材8を備えることを提供する。
なお、押圧固定材8は、防水部材5の下部を土台水切りへ固定せず、基礎へ固定する必要がある場合にも用いることができる。これは、基礎部分に防水部材5を固定した場合、泥流が直撃するおそれがある。これによる防水部材5の破損等を防止するために押圧固定材8で防水部材5を上から保護するのがよい。
【0099】
この図では、押圧固定材8の下端部を土台水切り2の上壁部へ接するようにネジ止めで下地材7cへ固定している。このように固定することで、外壁下方部通風口3の部分で防水部材5へかかる水圧から防水部材5を保護することができる。すなわち、この部分でかかる水圧は大きく、この水圧により、押圧固定材8が建物側へ押されるが、一般的に土台水切り2の上壁部は降雨を外側へ流すため建物側へ向かって斜めに上昇しているため、押圧固定材8が水圧を受けても、その下端部が土台水切り2の上壁部へ接し、それ以上に建物側へ押し込まれることを止めることができる。また、土台水切り2の上壁部が上述の状態でなく、ほぼ水平の場合は、上壁部の押圧固定材8と接する部分へ浅い凹凸部を設けるか、押圧固定材8のネジ止め等の固定を強化するのがよい。
浸水深が深くなるほど水圧は高まるので、外壁下方部通風口3部分の水圧により、防水部材5が建物側へ押し込まれないようにしておかなければならない。特に浸水深が深くなると想定されている区域等では上述のような十分な水圧対策を講じておく必要があり、押圧固定材8は、水圧対策上、重要なものである。
【0100】
上述の他にも、台風等での強風、泥流の直撃、長時間の浸水の浮力等への対策として、防水部材5の固定部分が、引っ張られて破損したり、抜けて脱落しないよう押圧固定材8を備え、防水部材5を保護する。
【0101】
このように、防水部材5が、防水シート製の場合、または、金属、樹脂等であっても厚みが薄い等で上下端部の硬度、強度が不足する場合は、請求項1、2の実施のみでなく、押圧固定材8を用いるのがよい。
【0102】
大きさについて、縦の長さと厚さは、ネジまたはボルトを貫通させて押圧できる強度を保てるものでよい。
幅の長さは、平時の保管、固定時の作業性等を考慮し、防水部材5と同様、長さ1.8メートルから2メートル程度が望ましいが、それ以上でも以下でも任意の長さとしてよい。防水部材5と同様に、幅の長さの中程を中心に左右均等に若干湾曲させ、中程で一箇所、左右端部で各一箇所、ネジ止め等で固定することで固定時の密着度を高めることができる。
また、防水部材5同様、当該建物に合わせ、端末部分等に固定するものは、固定時の設計どおりに短く成形しておく。
さらに、押圧固定材8は、上述のような幅の長さでよいが、数センチメートル以上のものとして、ネジ止め等の箇所で部分的に用いるようにしてもよい。
押圧固定材8の上から防水部材5をネジ止めで固定する場合は、押圧固定材8へネジ用の孔を、下地材7cへネジ下穴を開けておくのがよい(外壁1、土台水切り2は固定する際でもよい。)。また、ネジは手動でも締められるようネジ頭部が大きく、かつ、滑らないもので、ドライバー等の工具使用も可能なネジを使用するのがよい。ネジ下穴は、樹脂製キャップ等で塞いでおけばよい。
【0103】
図9では、防水部材5の上部位置での固定は、ネジが防水部材5を貫通して下地材7cへ固定しているが、防水部材5の上端部に凹凸部を設け、下地材7c、押圧固定材8に、防水部材5の凹凸部に見合う凹凸部を設けておけば、防水部材5は押圧固定されているため、水圧等がかかっても引き抜かれるおそれがない場合は、防水部材5をネジが貫通しなくてもよい。これについては、防水部材5の下部(下端部)においても同じである。
【0104】
また、防水部材5の、上下端部、上下方向の中程部等に土台水切り2へのネジ止め等の固定部分を設ける場合は、同部分へ押圧固定材8または、同様の部材を予め接着、内包するなどし、防水部材5と一体に成形しておいてもよい。
【0105】
押圧固定材8と下地材7cは二つの部材に分けているが、二つを一体化して、ほぼU字型断面を有する一体製の部材としてもよい。この場合、防水部材5を固定する際は、その端部をこのU字型部分へ挿入し、U字型部分ではさみ込む状態で固定する。
【0106】
浸水時の浸水深が深い、または長期と想定されている区域では、ネジ止め等で固定する際は、下地材7cの外側と防水部材5の内側とを、また、防水部材5の外側と押圧固定材8の内側とを、それぞれ両面テープで貼付し、それぞれの部分の固定度、密着度、水密度の向上を図ることが望ましい。
さらに、防水部材5を固定した後、下地材7cと押圧固定材8の外側を粘着テープで貼付し、両部材の一体性、両部材重複部の水密度の向上を図ることが望ましい。
【0107】
以上は、請求項1~3についての実施形態に関する説明であるが、以下に請求項全体にかかる説明を行う。
【0108】
防水部材5、押圧固定材8には、浸水発生予測時点等で、出来るだけ短時間で固定できるよう、固定位置、固定順等を表示しておくのがよい。併せて、防水部材5等の固定箇所・固定要領等を記載したマニュアルを作り、防水部材5等とともに保管しておくのがよい。そうすることで、家人以外でも固定することができる。
【0109】
また、外壁材、土台水切り材と防水部材をセットとした統一規格の建物浸水防止装置として量産することにより、さらに安価で使い勝手のいいものとして、標準的な浸水防止装置になることが期待される。
【0110】
何れにしても、固定方法等については、ネジ止め等に限定せず、従来の固定方法技術によるため、簡便で強固な固定方法等とするためにも、防水部材5と、外壁材、土台水切り材等による建物浸水防止装置の統一規格をつくって大量生産による防災対策の普及が望ましい。
【0111】
上述した本発明の建物浸水防止装置については、上述した実施形態に限定されず、各部材の材質、固定位置、固定方法等などは特許請求の範囲に記載の範囲で種々の変更ができる。
本発明の基本は、外壁下方部通風口3、土台水切り換気孔4を完全に塞ぐ形に成形した防水部材5を、外壁1、土台水切り2の少なくとも一箇所へ固定し、必要であれば基礎へも固定することである。それで浸水は防止できるが、さらに、固定機能部7で固定の簡便さ等の実感による普及促進を図る。そして、浸水予想等の必要に応じて押圧固定材8を用い、防水部材5をさらに簡易かつ強固に固定し、通風口3、換気孔4へ入る水を建物の外で防ぎ、長時間の浸水であっても防水部材5の固定度、密着度を確保して対象となる全建物で床下等の浸水を防止することにある。
本発明は、特許請求の範囲において、洪水ハザードマップ等を参考にし、当該建物の立地条件、周囲の環境、建物自体の状態等を総合して、本発明の防水部材等と従来の固定方法等を適宜組み合わせるなどして、建物浸水防止方策を構成するのがよい。
【符号の説明】
【0112】
1 外壁
2 土台水切り
3 外壁下方部通風口
4 土台水切り換気孔
5 防水部材
6 防水部材固定部品
7a 固定機能部(ナット)
7b 固定機能部(防水部材端部を嵌め込む溝状部分)
7c 固定機能部(下地材)
8 押圧固定材
図1
図2
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図5
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図7
図8
図9