IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エフノートの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016774
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】電子演奏装置
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
G10H1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119703
(22)【出願日】2020-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】319004537
【氏名又は名称】株式会社エフノート
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 一晃
(72)【発明者】
【氏名】森 良彰
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478AA23
5D478LL00
(57)【要約】
【課題】打撃強度によらず付加要素を適用して出力波形データを生成することによって、記憶する波形データの情報量や編集作業時間を短縮させながら、演奏の単調性をごく自然に回避することができる電子演奏装置を提供する。
【解決手段】打撃強度毎の波形データを記憶する記憶手段1と、打撃時の検出信号を送信可能な検出手段2と、検出信号の打撃強度に応じた波形データを出力可能な出力手段3とを具備した電子演奏装置において、記憶手段1は、楽器の打撃強度に応じた基本波形データと、基本波形データとは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の打撃強度に適用可能な付加要素とを記憶するとともに、出力手段3は、基本波形データに付加要素を付加した出力波形データを出力可能とされたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器を打撃した際に得られた打撃強度毎の波形データを予め記憶する記憶手段と、
演奏時に打撃し得る打撃部と、
前記打撃部に対する演奏時の打撃を検出し得るとともに、少なくとも当該打撃時の打撃強度に関わる検出信号を送信可能な検出手段と、
前記検出手段から前記検出信号を受信したことを条件として、前記記憶手段で記憶された波形データのうち前記検出信号の打撃強度に応じた波形データを出力可能な出力手段と、
を具備した電子演奏装置において、
前記記憶手段は、
前記楽器の打撃強度に応じた基本波形データと、
前記楽器から前記基本波形データとは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の前記打撃強度に適用可能な付加要素と、
を記憶するとともに、前記出力手段は、前記基本波形データに付加要素を付加して生成された出力波形データを出力可能とされたことを特徴とする電子演奏装置。
【請求項2】
前記付加要素は、同程度の打撃強度で取得された2つの波形データの差異を抽出した差分データに基づき生成されることを特徴とする請求項1記載の電子演奏装置。
【請求項3】
前記付加要素は、前記差分データに所定の係数を乗算して得られることを特徴とする請求項2記載の電子演奏装置。
【請求項4】
所定の打撃強度における前記基本波形データに対し、前記付加要素を付加するタイミングを任意に変更し、又は音量の増減を伴うエンベロープ処理若しくは所定の音域のみ付加要素を付加するフィルタ処理を行って近似した種々の出力波形データを生成することを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の電子演奏装置。
【請求項5】
前記出力手段は、前記付加要素を付加して生成された複数の出力波形データをランダム又は予め設定した通りに出力可能とされたことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の電子演奏装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記打撃部の打撃される部位、打撃される時間的な間隔、前記打撃部に付与された圧力など前記打撃部に対する打撃強度とは異なる演奏時の種々パラメータを検出し、その検出値に基づいて前記付加要素を構成して前記出力波形データを生成することを特徴とする請求項1~5の何れか1つに記載の電子演奏装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、複数の付加要素が記憶されるとともに、前記打撃部の打撃強度に応じて適用される付加要素が選択されることを特徴とする請求項1~6の何れか1つに記載の電子演奏装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打撃強度に応じた波形データを出力可能な電子演奏装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の電子演奏装置は、アコースティックドラムやアコースティックシンバル等の特定の自然楽器について、予め打撃時の波形データを記憶しておき、演奏時の打撃を検出したとき、予め記憶された波形データを出力するよう構成されている。この場合、例えばロール演奏時(打撃面を細かく連打して演奏)、同一の波形データが単に繰り返し出力されることとなり、演奏が単調である印象を受ける虞があった。
【0003】
そこで、従来、例えば特許文献1にて開示されているように、自然楽器について予め打撃強度毎に複数の波形データを記憶しておき、演奏時に打撃強度に応じた波形データを予め定められたアルゴリズム(乱数)に従って選択して出力する電子演奏装置が提案されている。かかる従来技術によれば、ロール演奏時の単調性を回避することができるとともに、自然楽器により近い打撃音を電子的に作り出すことができる。また、従来、例えば特許文献2には、基準波形と残差波形とを合成して、楽音波形信号を得ることができる楽音発生装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-30474号公報
【特許文献2】特開昭61-9693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術(特許文献1で開示された従来技術)においては、演奏の単調性を回避することができると思われるものの、自然楽器について予め打撃強度毎に複数の波形データを記憶しておく必要があるため、大きなメモリ領域の記憶手段が必要とされてしまう。また、打撃強度毎の波形データは、それぞれ演奏に最適な状態に編集する必要があるため、編集作業に熟練を要するとともに、編集作業に膨大な時間が必要とされてしまうという不具合がある。
【0006】
さらに、上記の別の従来技術(特許文献2で開示された従来技術)においては、例えばフィルタやタイミングをずらして残差波形を変化させ、基準波形に加算した場合であっても、残差波形には人間や自然楽器が本来有するばらつきの要素は含まれないため、楽音の表情は変化することはなく、連打した場合に似通って聞こえてしまうという不具合がある。特に、かかる従来技術においては、弱打であれば柔らかい音の残差データ、強打であれば鋭い音の残差データというように、強度グループ毎に残差データを生成する必要があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、打撃強度によらず付加要素を適用して出力波形データを生成することによって、記憶する波形データの情報量や編集作業時間を短縮させながら、演奏の単調性をごく自然に回避することができる電子演奏装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、楽器を打撃した際に得られた打撃強度毎の波形データを予め記憶する記憶手段と、演奏時に打撃し得る打撃部と、前記打撃部に対する演奏時の打撃を検出し得るとともに、少なくとも当該打撃時の打撃強度に関わる検出信号を送信可能な検出手段と、前記検出手段から前記検出信号を受信したことを条件として、前記記憶手段で記憶された波形データのうち前記検出信号の打撃強度に応じた波形データを出力可能な出力手段とを具備した電子演奏装置において、前記記憶手段は、前記楽器の打撃強度に応じた基本波形データと、前記楽器から前記基本波形データとは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の前記打撃強度に適用可能な付加要素とを記憶するとともに、前記出力手段は、前記基本波形データに付加要素を付加して生成された出力波形データを出力可能とされたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電子演奏装置において、前記付加要素は、同程度の打撃強度で取得された2つの波形データの差異を抽出した差分データに基づき生成されることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の電子演奏装置において、前記付加要素は、前記差分データに所定の係数を乗算して得られることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載の電子演奏装置において、所定の打撃強度における前記基本波形データに対し、前記付加要素を付加するタイミングを任意に変更し、又は音量の増減を伴うエンベロープ処理若しくは所定の音域のみ付加要素を付加するフィルタ処理を行って近似した種々の出力波形データを生成することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1~4の何れか1つに記載の電子演奏装置において、前記出力手段は、前記付加要素を付加して生成された複数の出力波形データをランダム又は予め設定した通りに出力可能とされたことを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1~5の何れか1つに記載の電子演奏装置において、前記検出手段は、前記打撃部の打撃される部位、打撃される時間的な間隔、前記打撃部に付与された圧力など前記打撃部に対する打撃強度とは異なる演奏時の種々パラメータを検出し、その検出値に基づいて前記付加要素を構成して前記出力波形データを生成することを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1~6の何れか1つに記載の電子演奏装置において、前記記憶手段は、複数の付加要素が記憶されるとともに、前記打撃部の打撃強度に応じて適用される付加要素が選択されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、楽器の打撃強度に応じた基本波形データと、前記楽器から前記基本波形データとは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の前記打撃強度に適用可能な付加要素とを記憶するとともに、前記出力手段は、前記基本波形データに付加要素を付加して生成された出力波形データを出力可能とされたので、打撃強度によらず付加要素を適用して出力波形データを生成することによって、記憶する波形データの情報量や編集作業時間を短縮させながら、演奏の単調性をごく自然に回避することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、付加要素は、同程度の打撃強度で取得された2つの波形データの差異を抽出した差分データに基づき生成されるので、基本波形データに近似しつつ自然な出力波形データを容易に生成することができる。特に、人間や自然楽器が本来有するばらつきを同程度の打撃強度の差分として抽出しているので、かかる差分を基本波形データに付加して出力波形データを生成することにより、楽音の表情を自然に変化させることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、付加要素は、差分データに所定の係数を乗算して得られるので、生成される出力波形データのバリエーションを増加させてより自然な演奏を行わせることができる。また、係数を乗算するのは、人間や自然楽器が本来有するばらつきを抽出した差分データのみであるから、基本波形データの質感は保持され、出力波形データの質感の劣化は最小限に抑えられる。
【0018】
請求項4の発明によれば、所定の打撃強度における基本波形データに対し、付加要素を付加するタイミングを任意に変更し、又は音量の増減を伴うエンベロープ処理若しくは所定の音域のみ付加要素を付加するフィルタ処理を行って近似した種々の出力波形データを生成するので、生成される出力波形データのバリエーションをより一層向上させることができるとともに、基本波形データそのものにフィルタ処理を行って変化を与える手法に比べ楽音の質感の劣化が格段に抑えられる。
【0019】
請求項5の発明によれば、出力手段は、付加要素を付加して生成された複数の出力波形データをランダム又は予め設定した通りに出力可能とされたので、演奏時に適切な出力波形データを円滑に出力させることができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、検出手段は、打撃部の打撃される部位、打撃される時間的な間隔、打撃部に付与された圧力など打撃部に対する打撃強度とは異なる演奏時の種々パラメータを検出し、その検出値に基づいて付加要素を構成して出力波形データを生成するので、楽器本来のふるまいに合わせた自然な出力波形データの変化を得ることができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、記憶手段は、複数の付加要素が記憶されるとともに、打撃部の打撃強度に応じて適用される付加要素が選択されるので、打撃強度に応じた適切な出力波形データを出力させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る電子演奏装置を示すブロック図
図2】同電子演奏装置で適用される打撃強度毎の基本波形データ及び差分データを示す模式図
図3】同電子演奏装置による制御内容を示すフローチャート
図4】本発明の他の実施形態に係る電子演奏装置で適用される打撃強度毎の基本波形データ及び差分データを示す模式図
図5】同電子演奏装置による制御内容を示すフローチャート
図6】本発明の電子演奏装置を示す模式図
図7】本発明の電子演奏装置に適用される電子ドラムを示す斜視図
図8】同電子ドラムを示す平面図
図9】同電子ドラムにおける打撃面を取り外した状態を示す平面図
図10図8のX-X線断面図
図11図8のXI-XI線断面図
図12図8のXII-XII線断面図
図13】同電子ドラムの基本波形データを示すグラフ
図14図13のa部拡大図
図15】同電子ドラムの差分データを示すグラフ
図16】同電子ドラムの波形データ及び出力波形データを示すグラフ
図17】本発明の電子演奏装置に適用される電子シンバルを示す斜視図
図18】同電子シンバルを示す平面図
図19】同電子シンバルにおけるサーフェスを取り外した状態を示す平面図
図20】同電子シンバルにおけるカバーを取り外した状態を示す底面図
図21】同電子シンバルの分解図であって下方から見た分解斜視図
図22】同電子シンバルの分解図であって上方から見た分解斜視図
図23図18のXXIII-XXIII線断面図
図24図18のXXIV-XXIV線断面図
図25】同電子シンバルの基本波形データを示すグラフ
図26図25のb部拡大図
図27】同電子シンバルの差分データを示すグラフ
図28】同電子シンバルの波形データ及び出力波形データを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る電子演奏装置は、電子的に打撃音を生成して演奏時に出力し得るもので、図1に示すように、楽器を打撃した際に得られた打撃強度毎の波形データを予め記憶する記憶手段1と、演奏時に打撃し得る打撃部Rと、打撃部Rに対する演奏時の打撃を検出し得るとともに、少なくとも当該打撃時の打撃強度に関わる検出信号を送信可能な検出手段2と、検出手段2から検出信号を受信したことを条件として、記憶手段1で記憶された波形データのうち検出信号の打撃強度に応じた波形データを出力可能な出力手段3とを有して構成されている。
【0024】
本実施形態に係る電子演奏装置は、図6に示すように、電子ドラムR1や電子シンバルR2等から成るもので、例えば電子ドラムR1の打撃面R1a(図7~12参照)や電子シンバルR2の打撃面R2a(図17~24参照)(これら打撃面R1a及び打撃面R2aは、本発明の打撃部Rに相当する)を演奏者がスティック等で打撃することにより演奏可能とされている。
【0025】
なお、適用される電子演奏装置は、電子ドラムR1や電子シンバルR2等の打楽器の他、電子ピアノなどの鍵盤楽器や電子ギターなどの弦楽器等、減衰音を発生させる他の電子演奏装置であってもよい。例えば、電子演奏装置が鍵盤楽器に適用された場合、その打撃強度は打鍵強度を指すものとされ、電子演奏装置が弦楽器に適用された場合、その打撃強度は打弦強度または撥弦強度を指すものとされる。
【0026】
記憶手段1は、電子演奏装置に対応する特定の楽器(例えば、音を再現する対象である所謂アコースティック楽器と称される自然楽器)を打撃した際に得られた打撃強度毎の波形データを予め記憶するメモリ等の記憶媒体から成るもので、例えば図2に示すように、打撃強度毎に取得された基本波形データ(A~H)をそれぞれ記憶可能とされている。かかる基本波形データ(A~H)は、図13、25(横軸が時間及び縦軸が音量を示すグラフ)に示すように、打撃により生じて時間経過に伴い減衰する音波を示すデータから成る。
【0027】
検出手段2は、電子演奏装置の打撃部Rに取り付けられた振動センサ等から成るもので、例えば図10、11に示すように、電子ドラムR1内に取り付けられた振動センサ(R1b、R1c)(ヘッドセンサ及びリムセンサ)や振動センサR1d(サイドリムセンサ)、又は図20~24に示すように、電子シンバルR2内に取り付けられた振動センサR2b、R2c及びR2d(振動センサ、カップセンサ及びエッジセンサ)から成る。かかる検出手段2は、演奏時に打撃を検出すると、少なくとも打撃時の打撃強度に関わる検出信号を出力手段3に送信可能とされている。なお、図10、11における符号tは、振動センサ(R1b、R1c)を弾性保持するクッションテープを示している。
【0028】
出力手段3は、記憶手段1及び検出手段2と電気的に接続して構成されたもので、検出手段2から検出信号を受信したことを条件として、記憶手段1で記憶された波形データのうち検出信号の打撃強度に応じた波形データ(出力波形データ)を打撃音としてスピーカ等で出力可能とされている。すなわち、出力手段3は、演奏時に打撃部Rを打撃すると、その打撃強度に応じて予め録音(サンプリング)して記憶した楽器の音を再生可能とされているのである。
【0029】
具体的な電子演奏装置の構成について以下に説明する。
電子ドラムR1は、図7~12に示すように、PETやナイロン等から成る網状の打撃面R1aと、ABSやナイロン等の樹脂から成る円筒状のシェル6と、ABSやナイロン等の樹脂又はアルミや亜鉛ダイカストから成るラグ10と、ABSやナイロン等の樹脂から成るサイドリム5と、スチール又はダイカストから成るフープ8と、スチール製のプレート12と、打撃センサ(R1b、R1c)とを有して構成されている。
【0030】
また、EPDMゴム等の弾性体から成るフープラバー4がフープ8に固着されている。シェル6は、周方向に沿ってラグ10が複数形成されており、当該ラグ10に取り付けられたテンションボルト7にてフープラバー4及びフープ8を含む打撃面R1aが固定されている。本実施形態に係るシェル6におけるラグ10の取付部は、図11、12に示すように、外方に屈曲した屈曲部6aと内方に屈曲した屈曲部6bとが形成されており、剛性を確保し得るようになっている。
【0031】
また、シェル6の内部には、図9~12に示すように、シェル6の中心軸に対して回転対象に周縁から中心に向かって張り出した複数のセンサ配置部sが形成されており、センサ配置部sにはそれぞれプレート12が配置されている。そして、特定のプレート12には、ヘッドセンサクッション9が取り付けられている。かかるヘッドセンサクッション9は、図11、12に示すように、プレート12上に固定されるとともに、突端が打撃面R1aと当接した状態で取り付けられている。また、ヘッドセンサクッション9とプレート12との間には、打撃面R1aの打撃を検出し得るヘッドセンサを構成する打撃センサR1bが取り付けられるとともに、プレート12の下方には、フープラバー4の打撃を検出し得るリムセンサを構成する打撃センサR1cが取り付けられている。
【0032】
かかる構成により、ヘッドセンサクッション9及び打撃センサ(R1b、R1c)をシェル6内部の任意の位置(任意のプレート12の位置)に取り付けることができ、センサの数と配置をモデルに併せて柔軟に変更することができる。また、センサ配置部sの特定の位置には、出力ジャックJ1(図9~12参照)がプレート12と相互に位置を交換可能な方法で取り付けられており、打撃センサR1bの検出信号が出力ジャックJ1から出力可能とされている。なお、出力ジャックJ1の基板は、内部配線を隠すカバーを兼ねている。
【0033】
サイドリム5は、図11に示すように、シェル6の所定位置に取り付けられたもので、演奏者が打撃可能なサイドリムラバー5aを有するとともに、サイドリム5に対する打撃を検出し得るサイドリムセンサを構成する打撃センサR1dや打撃センサR1dで検出した検出値を出力する出力ジャックJ2(サイドリム出力ジャック)を有して構成されている。本実施形態に係るサイドリム5は、ラバーブッシュ11を介してシェル6の外周面に取り付けられており、これにより、打撃センサR1d(サイドリムセンサ)の打撃の検出と打撃センサ(R1b、R1c)(ヘッドセンサ及びリムセンサ)の打撃の検出とを確実に分離可能とされている。
【0034】
電子シンバルR2は、図17~24に示すように、打撃面R2aを構成するサーフェス13(シリコンゴム等)と、フレーム14(ABSやナイロン等の樹脂)と、カバー15(EPDMゴム等)とを有して構成されている。サーフェス13は、演奏者がスティック等で打撃可能な部位から成り、図17に示すように、カップ部R2aaと、ボウ部R2ab及びエッジ部R2acとを有して構成されている。
【0035】
サーフェス13の中央部は、ブッシュラバーブッシュ16を介してフレーム14と連結されており、カップ部R2aa、ボウ部R2ab及びエッジ部R2acに対する打撃を打撃センサR2b、R2c、R2dにて検出し、その検出信号を出力ジャックJ3にて出力可能とされている。なお、打撃センサR2bは、振動センサから成るとともに、打撃センサ(R2c、R2d)(エッジセンサ及びカップセンサ)は、それぞれシートスイッチセンサから成るものとされている。
【0036】
本実施形態に係る電子シンバルR2は、図24に示すように、フレーム14の周縁部(打撃センサR2cの配設部近傍)の曲率r2がフレーム14の周縁部内側(ボウ部R2abに相当する部位)の曲率r1より大きく設定されている。これにより、演奏者がエッジ部R2acに対して水平方向に近い角度から打撃しても、曲率r1をむやみに大きくすることなくシンバルらしい断面形状を維持しながら打撃センサR2cの水平方向に対する配設角度を大きくすることができるため、打撃センサR2cによる打撃の検出を確実に行わせることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るフレーム14は、図21、24に示すように、カバー15の取付部位にフック状の係止部14aが形成されている。そして、かかる係止部14aにカバー15に形成された突起部15a(図22、24参照)を嵌合させることにより、フレーム14にカバー15が取り付けられるようになっている。これにより、フレーム14にカバー15をネジ止め等にて固定させるものに比べ、打撃によるネジ等の破損を回避することができる。
【0038】
ここで、本実施形態に係る記憶手段1は、図2に示すように、楽器の打撃強度に応じた基本波形データ(A~H)と、同一の楽器から基本波形データ(A~H)とは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の打撃強度(本実施形態においては、弱打から強打に亘る全ての打撃強度)に適用可能な付加要素とを記憶するものとされている。本実施形態に係る付加要素は、同程度の打撃強度で取得された2つの波形データの差異を抽出した差分データに基づき生成されるもので、これは人間や自然楽器が本来有するばらつきの要素を抽出したものであり、例えば図15で示す波形データ(α1)や、図27で示す波形データ(α2)の如き差分の波形データから成る。
【0039】
具体的には、本実施形態に係る差分データは、例えば基本波形データEと同程度の打撃強度の場合、基本波形データEとは異なる2つの波形データ(同一の楽器を基本波形データEと同程度の打撃強度で打撃することにより得られた2つの波形データ)を取得した後、これら2つの波形データの同一時間における値の差を算出することにより得られる。そして、かかる差分データに所定の係数を乗算することにより付加要素が求められ、かかる付加要素を基本波形データに付加(加算又は減算)して出力波形データを得ることができる。
【0040】
なお、所定の係数は、予め定められた値の他、演奏時に適宜変化する値(例えば時間経過に伴って乱数を発生させ、その乱数に対応した値など)とすることができる。また、所定の係数を1とすることができ、その場合、付加要素は差分データと等しくなるので、基本波形データに差分データを付加(加算又は減算)することにより出力波形データが得られることとなる。
【0041】
例えば、電子ドラムR1に対応するアコースティックドラムを所定の打撃強度にて打撃して録音することにより、図13、14に示すように、基本波形データh1を得ることができるとともに、その打撃強度と同程度の打撃強度に基づいて、図15に示すような差分データα1を算出する。そして、差分データα1に所定の係数を乗算して付加要素を求め、その付加要素を基本波形データh1に付加することにより、図16に示すように、基本波形データh1と近似する出力波形データh2を得ることができる。
【0042】
また、電子シンバルR2に対応するアコースティックシンバル(自然楽器)を所定の打撃強度にて打撃して録音することにより、図25、26に示すように、基本波形データh3を得ることができるとともに、その打撃強度と同程度の打撃強度に基づいて、図27に示すような差分データα2を算出する。そして、差分データα2に所定の係数を乗算して付加要素を求め、その付加要素を基本波形データh3に付加することにより、図28に示すように、基本波形データh3と近似する出力波形データh4を得ることができる。
【0043】
したがって、本発明の打撃部としての打撃面(R1a、R2a)を打撃すると、その打撃強度に応じた基本波形データ(A~H)に付加要素が付加されて得られた出力波形データを出力手段3で出力することができるので、例えばロール演奏時に同一の打撃面を細かく連打した場合、人間や自然楽器が本来有するばらつきを含んだ、互いに近似しつつ同一でない出力波形データが出力されることとなり、同一の波形データが単に繰り返し出力されてしまうのを回避することができる。
【0044】
さらに、本実施形態に係る記憶手段1は、所定の打撃強度における基本波形データに対し、付加要素を付加するタイミングを任意に変更(付加要素を加算又は減算する時間をずらして変更)することにより、出力波形データを生成することができる。また、音量の増減を伴うエンベロープ処理を施してもよく、或いは所定の音域のみ付加要素を付加するフィルタ処理を行うようにすることができる。ここで、基本波形データにはエンベロープ処理やフィルタ処理が発生しないため、楽音の質感の劣化を最小限に抑えられる。これにより、近似した種々の出力波形データを質感を維持したまま生成することができ、バリエーションに富んだ出力を可能とすることができる。
【0045】
またさらに、本実施形態に係る出力手段3は、付加要素を付加して生成された複数の出力波形データをランダム又は予め設定した通りに出力可能とされている。すなわち、同一程度の打撃強度において互いに異なる付加要素を付加した複数の出力波形データを生成し、それらを発生した乱数等に応じてランダムに、或いは予め設定した通りに出力し得るようになっている。
【0046】
次に、本実施形態に係る電子演奏装置の制御内容について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、打撃部Rに対する打撃が検出手段2により検出されると(S1)、有効な打撃か否か判定され(S2)、有効な打撃であると判定されると、その打撃強度が算出される(S3)。そして、差分データ(付加要素)を付加する対象か否か判定され(S4)、差分データを付加する対象と判定されると、フィルタ処理が必要か否か判定される(S5)。なお、この場合、フィルタ処理に限らず、エンベロープ処理など他の処理を行うか否か判定するようにしてもよい。
【0047】
その後、フィルタ処理を行うべきか否かが判定され(S6)、当該フィルタ処理を行うと判定された場合、フィルタ処理を行い(S7)、差分データ(付加要素)を付加する(S8)とともに、当該フィルタ処理を行わないと判定された場合、フィルタ処理を行わず差分データ(付加要素)を付加する(S8)ことにより、出力波形データを生成する(S9)。こうして得られた出力波形データは、出力手段3にて出力されることとなる。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態に係る電子演奏装置について説明する。
本実施形態に係る電子演奏装置は、先の実施形態と同様、電子的に打撃音を生成して演奏時に出力し得るもので、図1に示すように、楽器(例えば、電子演奏装置に対応する自然楽器)を打撃した際に得られた打撃強度毎の波形データを予め記憶する記憶手段1と、打撃部Rに対する演奏時の打撃を検出し得るとともに、少なくとも当該打撃時の打撃強度に関わる検出信号を送信可能な検出手段2と、検出手段2から検出信号を受信したことを条件として、記憶手段1で記憶された波形データのうち検出信号の打撃強度に応じた波形データを出力可能な出力手段3とを有して構成されている。なお、先の実施形態と同様の構成要素については、詳細な説明を省略する。
【0049】
ここで、本実施形態に係る記憶手段1は、図4に示すように、複数の付加要素(本実施形態においては2つの差分データα、β)が記憶されるとともに、打撃強度に応じて適用される付加要素が選択されるよう構成されている。すなわち、記憶手段1は、図4に示すように、楽器の打撃強度に応じた基本波形データ(A~H)と、基本波形データ(A~H)とは別に抽出された波形データに基づいて生成された付加要素(差分データα、β)とを記憶するとともに、打撃強度に応じて付加される付加要素が選択されるようになっている。
【0050】
具体的には、打撃強度が比較的弱い領域(基本波形データA、Bの領域)においては、差分データαに所定の係数を乗算した付加要素を基本波形データA又は基本波形データBに付加して出力波形データを生成し、打撃強度が比較的強い領域(基本波形データE~Hの領域)においては、差分データβに所定の係数を乗算した付加要素を基本波形データ(E~H)に付加して出力波形データを生成する。また、打撃強度が中間領域(基本波形データC、Dの領域)においては、差分データαに所定の係数を乗算した付加要素を基本波形データC又は基本波形データDに付加した後、更に差分データβに所定の係数を乗算した付加要素を付加することにより出力波形データを生成する。このように、本実施形態に係る付加要素においても、先の実施形態と同様、複数の打撃強度(本実施形態においては、強い打撃強度の領域、弱い打撃強度の領域、及びそれらの中間領域)に適用可能とされている。
【0051】
次に、本実施形態に係る電子演奏装置の制御内容について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、打撃部Rに対する打撃が検出手段2により検出されると(S1)、有効な打撃か否か判定され(S2)、有効な打撃であると判定されると、その打撃強度が算出される(S3)。そして、差分データ(付加要素)を付加する対象か否か判定され(S4)、差分データを付加する対象と判定されると、フィルタ処理が必要か否か判定される(S5)。なお、この場合、先の実施形態と同様、フィルタ処理に限らず、エンベロープ処理など他の処理を行うか否か判定するようにしてもよい。
【0052】
その後、S6~S9の処理(差分データαに関する処理)及びS11~S14の処理(差分データβに関する処理)が並行して行われる。差分データαに関する処理においては、差分データαを付加するか否か判定され(S6)、当該差分データαを付加すると判定された場合、フィルタ処理を行うべきか否かが判定される(S7)。そして、フィルタ処理を行うと判定された場合、フィルタ処理を行い(S8)、差分データα(付加要素)を付加する(S9)とともに、当該フィルタ処理を行わないと判定された場合、フィルタ処理を行わず差分データα(付加要素)を付加する(S9)ことにより、出力波形データを生成する(S10)。こうして得られた出力波形データは、出力手段3にて出力されることとなる。
【0053】
一方、差分データβに関する処理においては、差分データβを付加するか否か判定され(S11)、当該差分データβを付加すると判定された場合、フィルタ処理を行うべきか否かが判定される(S12)。そして、フィルタ処理を行うと判定された場合、フィルタ処理を行い(S13)、差分データβ(付加要素)を付加する(S14)とともに、当該フィルタ処理を行わないと判定された場合、フィルタ処理を行わず差分データβ(付加要素)を付加する(S14)ことにより、出力波形データを生成する(S10)。こうして得られた出力波形データは、出力手段3にて出力されることとなる。なお、S6にて差分データαを付加すると判定されない場合、及びS11にて差分データβを付加すると判定されない場合は、S7~S9及びS12~S14をスキップしてS10に進む。
【0054】
上記実施形態によれば、記憶手段1は、打撃強度に応じた基本波形データと、基本波形データ(A~H)とは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の打撃強度に適用可能な付加要素とを記憶するとともに、出力手段3は、基本波形データに付加要素を付加して生成された出力波形データを出力可能とされたので、打撃強度によらず付加要素を適用して出力波形データを生成することによって、記憶する波形データの情報量や編集作業時間を短縮させながら、演奏の単調性をごく自然に回避することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る付加要素は、同程度の打撃強度で取得された2つの波形データの差異を抽出した差分データに基づき生成されるので、基本波形データに近似した出力波形データを容易に生成することができる。特に、本実施形態においては、人間や自然楽器が本来有するばらつきを同程度の打撃強度の差分として抽出しているので、かかる差分を基本波形データに付加して出力波形データを生成することにより、楽音の表情を自然に変化させることができる。さらに、本実施形態に係る付加要素は、差分データに所定の係数を乗算して得られるので、生成される出力波形データのバリエーションを増加させてより自然な演奏を行わせることができる。また、係数を乗算するのは、人間や自然楽器が本来有するばらつきを抽出した差分データのみであるから、基本波形データの質感は保持され、出力波形データの質感の劣化は最小限に抑えられる。
【0056】
加えて、所定の打撃強度における基本波形データに対し、付加要素を付加するタイミングを任意に変更し、又は音量の増減を伴うエンベロープ処理若しくは所定の音域のみ付加要素を付加するフィルタ処理を行って近似した種々の出力波形データを生成するので、生成される出力波形データのバリエーションをより一層向上させることができるとともに、基本波形データそのものにフィルタ処理を行って変化を与える手法に比べ楽音の質感の劣化が格段に抑えられる。また、本発明に係る出力手段3として、付加要素を付加して生成された複数の出力波形データをランダム又は予め設定した通りに出力可能なものとすれば、演奏時に適切な出力波形データを円滑に出力させることができる。
【0057】
さらに、本発明に係る他の実施形態によれば、複数の付加要素が記憶されるとともに、打撃強度に応じて適用される付加要素が選択されるので、打撃強度に応じた適切な出力波形データを出力させることができる。複数の付加要素のうち何れの付加要素を打撃強度に適用してもよく、例えば打撃強度(A~H)のそれぞれに互いに異なる付加要素を付加させるようにしてもよい。
【0058】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば付加要素は、差分データのみに基づき生成されるものに限らず、基本波形データ以外の演奏に関わるパラメータを利用して付加要素を生成してもよい。具体的には、検出手段2は、打撃部Rに対する演奏時の打撃強度の他、打撃部Rの打撃される部位、打撃される時間的な間隔(直前に打撃されてからの経過時間)、打撃部Rに付与された圧力を検出し、その検出値をパラメータとして付加要素を構成して出力波形データを生成して出力させることができる。また、トップシンバル及びボトムシンバルが対峙して配設されて当接又は離間し得る電子ハイハットを打撃部Rとして用いた場合、トップシンバル及びボトムシンバルの離間距離に応じて付加要素を異ならせるようにしてもよい。
【0059】
また、本発明の付加要素は、同一楽器の録音波形データからのみ生成される場合に限らず、ごく類似した他の楽器の録音波形データから付加要素を生成しても十分な効果を得ることができる。あるいは、楽器の打面の種類や張り具合、響き線や弦の種類や張り具合、演奏に用いる撥やハンマー、マイクロフォンなどの録音機材などを変更して録音した波形データ、または類似した楽器を録音した波形データを元に付加要素を生成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
記憶手段は、楽器の打撃強度に応じた基本波形データと、楽器から基本波形データとは別に抽出された波形データに基づいて生成され、複数の打撃強度に適用可能な付加要素とを記憶するとともに、出力手段は、基本波形データに付加要素を付加して生成された出力波形データを出力可能とされた電子演奏装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 記憶手段
2 検出手段
3 出力手段
4 フープラバー
5 サイドリム
6 シェル
7 テンションボルト
8 フープ
9 ヘッドセンサクッション
10 ラグ
11 ラバーブッシュ
12 プレート
13 サーフェス
14 フレーム
14a 係止部
15 カバー
15a 突起部
16 ブッシュラバーブッシュ
R 打撃部
R1 電子ドラム
R1a 打撃面(打撃部)
R1b 打撃センサ(ヘッドセンサ)
R1c 打撃センサ(リムセンサ)
R1d 打撃センサ(サイドリムセンサ)
R2 電子シンバル
R2a 打撃面(打撃部)
R2aa カップ部
R2ab ボウ部
R2ac エッジ部
R2b 打撃センサ
R2c 打撃センサ
R2d 打撃センサ
J1 出力ジャック
J2 出力ジャック
J3 出力ジャック
A~H 基本波形データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28