(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167798
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】器具、静電気低下体および静電気低下体シート
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20221027BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20221027BHJP
A41D 31/26 20190101ALI20221027BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20221027BHJP
H05F 3/04 20060101ALI20221027BHJP
H05F 3/02 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
A41D13/11 L
A41D31/26 100
A41D31/00 504Z
H05F3/04 B
H05F3/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049373
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021073494
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 新聞名:下野新聞 掲載日:令和3年11月 9日 新聞名:読売新聞 掲載日:令和3年 7月15日 新聞名:電波新聞 掲載日:令和3年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】502243239
【氏名又は名称】株式会社リッツコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 光司
(72)【発明者】
【氏名】黒木 茂広
【テーマコード(参考)】
2E185
5G067
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA07
2E185CC32
5G067AA02
5G067CA01
5G067DA14
(57)【要約】
【課題】ユーザの声の伝達を妨げない器具、静電気低下体および静電気低下体シートを提供する。
【解決手段】マスク10は、マスク本体11と、耳掛部19と、を有する。マスク本体11は、マスク本体11自体がカーボンを有するように構成されても良いし、マスク本体11の表面に静電気低下体16が貼着されても良い。このようにすることで、マスク本体11の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体16を有していることで、マスク本体11の静電気量を低減することができ、人が発する声を外部に対して良好に伝達させることができる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体近傍、または、人どうしの間に配置される器具であり、
音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体と、
前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体と、
を具備することを特徴とする器具。
【請求項2】
前記静電気低下体は、カーボンを有する樹脂成形体であることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記静電気低下体は、接着層を介して前記器具本体に貼着されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記静電気低下体は、前記器具本体の一部を構成することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の器具。
【請求項5】
前記器具本体は、マスク、パーティションまたはフェイスシールドであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の器具。
【請求項6】
前記静電気低下体は、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆されて成ることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項7】
前記器具本体は、それ自体が音を発する音響機器であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の器具。
【請求項8】
音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体の表面に配設され、
前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体。
【請求項9】
音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体の表面に配設され、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体層と、
基材と、
前記静電気低下体層と前記基材との間に形成された接着層と、を具備し、
1つの静電気低下体を形成する静電気低下体領域を複数有することを特徴とする静電気低下体シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、器具、静電気低下体および静電気低下体シートに関し、特に、ユーザの発声を良好に伝達することができる器具、静電気低下体および静電気低下体シートに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症等の蔓延を防止するために、マスクは日々の生活に於いて多用されている。マスクが日常的に利用されるようになると、ユーザはマスクを付けたまま、会話をするために発声するようになる。
【0003】
マスクを利用している状況下では、ユーザの口はマスクにより塞がれているため、マスクを利用していない状況と比較すると、ユーザの口から発せられた声の少なくとも一部は、マスクにより遮られてしまう。ここで、ユーザを「話し手」と「聞き手」とした場合、マスクを装着している話し手が発声した声の一部が、マスクにより遮られ、聞き手が当該発声を明瞭に聞きづらい、という問題が発生する。
【0004】
特許文献1では、音声が伝えられるマスクが記載されている。具体的には、本体に、複数の通気ピンホールである通気構造と、通気ピンホールを有さない伝音構造とが形成されている。ここで、伝音構造は、通気マスクで伝音領域を特定し、マスクの内側と外側方向にヒートシールを行い、ヒートシールによって伝音領域における複数の通気ピンホールが熱溶接で無孔構造とされている。
【0005】
また、新型コロナウイルス感染症等の蔓延を防止するために、マスク以外の器具も利用されるようになっている。例えば、パーティション、フェイスシールド等も利用されるようになっている。パーティション等を利用した場合であっても、話し手が発声した声の一部がパーティション等により遮られ、話し手が発声した声が、聞き手に良好に伝わらない、という問題が発生し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1では、話し手が発声する声を良好に外部に伝達させる観点から、改善の余地があった。
【0008】
マスクを着用することにより、話し手であるユーザが発する声の伝導が妨げられる理由の1つとして、マスクの静電気量の増加が挙げられる。
【0009】
具体的には、ユーザがマスクを着用すると、マスクが帯電することにより、マスクの静電気量が大きくなる。マスクの静電気量が大きくなると、ユーザの口の周囲にマスクが張り付くようになり、ユーザの顔面とマスクとの間の容積が小さくなる。これにより、ユーザの口の動作がマスクにより妨げられ、ユーザが発する声の伝導が妨げられる。
【0010】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ユーザの声の伝達を妨げない器具、静電気低下体および静電気低下体シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の器具は、人体近傍、または、人どうしの間に配置される器具であり、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体と、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体と、を具備することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、カーボンを有する樹脂成形体であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、接着層を介して前記器具本体に貼着されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、前記器具本体の一部を構成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の器具では、前記器具本体は、マスク、パーティションまたはフェイスシールドであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆されて成ることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の器具では、前記器具本体は、それ自体が音を発する音響機器であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の静電気低下体は、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体の表面に配設され、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成ることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の静電気低下体シートは、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体の表面に配設され、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体層と、基材と、前記静電気低下体層と前記基材との間に形成された接着層と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の器具は、人体近傍、または、人どうしの間に配置される器具であり、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体と、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体と、を具備することを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体を有していることで、器具本体の静電気量を低減することができ、人が発する声を外部に対して良好に伝達させることができる。
【0021】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、カーボンを有する樹脂成形体であることを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、静電気低下体が、カーボンを有する樹脂成形体であることで、静電気低下体を容易に取り扱うことができ、且つ電位を低下させる効果を顕著にすることができる。
【0022】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、接着層を介して前記器具本体に貼着されることを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、静電気低下体を器具本体に貼着することで、器具本体が静電気低下体を有さない場合でも、器具本体の静電気量を低下させ、声の伝達を改善することができる。
【0023】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、前記器具本体の一部を構成することを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、器具本体の少なくとも一部が静電気低下体から成ることで、静電気低下体を別途に用意せずとも、器具本体の静電気量を低下させる効果を奏することができる。
【0024】
また、本発明の器具では、前記器具本体は、マスク、パーティションまたはフェイスシールドであることを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、マスク、パーティションまたはフェイスシールドの静電気量を低下させ、ユーザがこれらの器具を使用している場合でも、ユーザが発する声を良好に伝達することができる。
【0025】
また、本発明の器具では、前記静電気低下体は、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆されて成ることを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、静電気低下体に対してカーボンを効果的に付加することができる。
【0026】
また、本発明の器具では、前記器具本体は、それ自体が音を発する音響機器であることを特徴とする。従って、本発明の器具によれば、音響機器の静電気量を低減することができ、音響機器から発する音を、外部に対して良好に伝達させることができる。
【0027】
また、本発明の静電気低下体は、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体の表面に配設され、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成ることを特徴とする。従って、本発明の静電気低下体によれば、静電気低下体を器具本体の表面に配設することで、器具本体の静電気量を低減し、声を良好に伝達させることができる。
【0028】
また、本発明の静電気低下体シートは、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体の表面に配設され、前記器具本体の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体層と、基材と、前記静電気低下体層と前記基材との間に形成された接着層と、を具備することを特徴とする。従って、本発明の静電気低下体シートによれば、一枚の携行可能なシートから、多数の静電気低下体を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】本発明の実施形態に係るマスクを示す図であり、マスク本体が静電気低下体であるマスクを示す図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係るマスクを示す図であり、マスク本体に静電気低下体が貼着されたマスクを示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るマスクを示す図であり、ユーザがマスクを装着した状態を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るフェイスシールドを示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るパーティションを示す図である。
【
図5A】本発明の実施形態で用いられる静電気低下体シートを示す図であり、静電気低下体シートを示す平面図である。
【
図5B】本発明の実施形態で用いられる静電気低下体シートを示す断面図である。
【
図6A】本発明の実施形態に係るマスクによる電気的効果を示す図であり、マスクの静電気量の平均的な経時変化を示すグラフである。
【
図6B】本発明の実施形態に係るマスクによる電気的効果を示す図であり、フェイスシールドの静電気量の経時変化を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に係るマスクによる電気的効果を示すグラフである。
【
図8A】本発明の実施形態に係るパーティションによる電気的効果を示すグラフである。
【
図8B】本発明の実施形態に係るパーティションによる電気的効果の実験における条件を示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るパーティションによる電気的効果を示すグラフである。
【
図10A】本発明の実施形態に係るヘッドホンを示す図である。
【
図10B】本発明の実施形態に係るイヤホンを示す図である。
【
図11A】本発明の実施形態に係る補聴器を示す図である。
【
図11B】本発明の実施形態に係るピアノを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。以下の説明では、同一の部材には原則的に同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。本実施形態は、新型コロナウイルス感染症等の蔓延を抑制するための器具に関するが、この器具として、マスク10、パーティション12、フェイスシールド14等を例示する。
【0031】
図1Aはマスク本体11が静電気低下体16であるマスク10を示す図であり、
図1Bはマスク本体11に静電気低下体16が貼着されたマスク10を示す図である。
【0032】
図1Aを参照して、マスク10は、人体近傍、または、人どうしの間に配置される器具である。また、マスク10は、音の進行または空気の流れの一部、または、ほぼ全体を妨げる器具本体であるマスク本体11と、マスク本体11の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体16と、を具備する。ここでは、マスク本体11自体が静電気低下体16となっている。
【0033】
マスク10としては、様々なタイプのマスクを採用することができ、例えば、不織布立体マスク、不織布プリーツマスク、立体布マスク、防塵マスク、ウレタンマスク等を採用することができる。
【0034】
具体的には、マスク10は、マスク本体11と、耳掛部19と、を有する。
【0035】
マスク本体11は、正面から見て横方向に長い略矩形状を呈している。ここでは、静電気低下体16は、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆されて成る。静電気低下体16は、例えば、静電気低下体16は、厚みが0.5mmないし2.5mmの、カーボンを有する樹脂成形体である。静電気低下体16の具体的な組成は、一例として、主要原料としてのポリエチレンを質量百分率で約70%含み、発泡材としてのアゾジカーボンアミドを質量百分率で約1%含み、発泡助剤としての酸化亜鉛を質量百分率で約0.1%含み、充填剤としてのカーボンを質量百分率で10%以上20%以下含み、充填剤としての酸化カルシウムを質量百分率で約5%含み、その他、難燃剤および残留物を含んでいる。
【0036】
耳掛部19は、マスク本体11の左右両端部に接続しており、後述するユーザ20の耳に掛けることができる紐状部材である。
【0037】
マスク本体11が静電気低下体16から成ることで、後述するように、マスク本体11の使用状況下に於いて、マスク本体11の静電気量を低減させ、ユーザ20の発声を良好に伝達させる効果が奏される。また、マスク本体11自体が静電気低下体16から成ることから、後述するような貼着タイプの静電気低下体16を採用する場合と比較すると、静電気低下体16を貼着する手間、静電気低下体16を別途に用意する手間が省け、マスク10の簡易性を向上できる。
【0038】
図1Bを参照して、ここでは、マスク本体11として、市販されている通常のマスクの本体部、即ち、静電気低下体16としてのカーボンを含まないものが採用されている。ここでは、マスク本体11の表面側に、複数の静電気低下体16が貼着されている。具体的には、マスク本体11の上辺中央部近傍に3つの静電気低下体16が貼着され、マスク本体11の下辺中央部近傍に3つの静電気低下体16が貼着されている。
【0039】
マスク本体11に静電気低下体16が貼着されることで、
図1Aの場合と同様に、静電気低下体16の静電気量を低減し、ユーザ20の発声を良好に伝達させる効果が奏される。更に、係る構成であれば、市販のマスク10に静電気低下体16を貼着することで、発声を良好に伝達できるので、汎用性を向上できる。
【0040】
図2は、ユーザ20がマスク10を装着した状態を示す側面図である。
【0041】
ユーザ20がマスク10を使用している状況では、耳掛部19がユーザ20の耳に掛けられる。また、マスク本体11は、ユーザ20の顔面下部21、具体的には、鼻の下方部分、口および顎を前方から塞いでいる。また、ユーザ20の顔面下部21とマスク本体11の内面との間には、空間22が形成されている。
【0042】
後述するように、本実施形態では、マスク本体11に静電気低下体16が貼着されていることで、使用時に於いて、マスク本体11の静電気量が低減されている。よって、マスク本体11はユーザ20の顔面下部21に張り付かず、空間22の容積を大きく確保することができる。従って、ユーザ20が発声する際の口およびその周辺部の動きを、マスク本体11が阻害することがないので、ユーザ20は自らが意図する声をハッキリと発声することができる。更に、マスク本体11と顔面下部21とが空間22により離間しているので、ユーザ20が発声した際に、マスク本体11が良好に振動することで、発せられた声はマスク本体11を通過し、外部に良好に伝達できる。このことから、ここでは図示しない他者とユーザ20とが会話を行う場合、ユーザ20がマスク10を装着していたとしても、ユーザ20の口から発声された声は、マスク本体11を通過し、他者の耳に明瞭に伝達される。よって、ユーザ20は、会話により自らの意思を他者に伝えることができる。
【0043】
図3は、フェイスシールド14を示す図である。フェイスシールド14は、本発明の器具の一例であり、フェイスシールド本体15と、頭部掛部23と、を有する。フェイスシールド本体15は、薄板状の透明な合成樹脂から成り、前述したユーザ20の顔面を充分に覆うことができる面積および形状を有している。頭部掛部23は、静電気低下体16の上端近傍に取り付けられた紐状の部材であり、使用時に於いては空間22の頭部に装着される。静電気低下体16は、ここでは、フェイスシールド本体15の上端近傍に複数が貼着される。係る構成により、ユーザ20がフェイスシールド14を装着した際、静電気低下体16を有していることで、フェイスシールド本体15の静電気量が低減され、ユーザ20から発せられる声が、フェイスシールド本体15により遮られることを抑制することができる。
【0044】
図4は、パーティション12を示す図である。パーティション12は、例えば、会話をするユーザ20同士の間に配置され、飛沫等が飛散することを抑制するための器具である。
【0045】
具体的には、パーティション12は、パーティション本体13と、パーティション支持部24と、を有する。パーティション本体13は、例えば、透明な合成樹脂から成る板材である。パーティション支持部24は、パーティション本体13の下辺に複数が取り付けられ、パーティション本体13を、設置面に対して起立するように支持する。
【0046】
静電気低下体16は、パーティション本体13の下辺に沿って貼着されている。このようにすることで、パーティション12の使用状況下に於いて、パーティション本体13の静電気量を低減し、ユーザ20から発せられた声の伝導が、パーティション本体13により遮られることを抑止できる。
【0047】
図5Aは静電気低下体シート25を示す平面図であり、
図5Bは静電気低下体シート25を部分的に示す断面図である。
【0048】
図5Aを参照して、静電気低下体シート25は、
図1B等に示した静電気低下体16となる部分が静電気低下体領域27として形成された多面取りのシート状部材である。ここでは、マトリックス状に複数の静電気低下体領域27が形成されている。
【0049】
図5Bを参照して、静電気低下体シート25は、基材18と、接着層17と、静電気低下体層26と、を積層して成る。
【0050】
基材18は、紙等から成る。接着層17は、基材18の上面に積層された接着材から成る層である。静電気低下体層26は、上記した静電気低下体16と同様の組成を有する層である。接着層17および静電気低下体層26は、静電気低下体領域27を形成するように切断されている。よって、ユーザ20は、静電気低下体領域27毎に、静電気低下体シート25から取り外し、前述したマスク10のマスク本体11の表面に貼着することができる。また、好ましくは、基材18は、紙等の表面に剥離剤であるシリコーン等をコーティングした剥離紙から成り、静電気低下体領域27が取り外ししやすくなされている。
【0051】
ここで、静電気低下体シート25から取り外した1つの静電気低下体領域27が、
図1Bに示した静電気低下体16となる。前述したように、静電気低下体16は、接着層17を介して、マスク本体11の表面に貼着され、マスク本体11の電位を低下し得る機能を有する。
【0052】
図6Aはマスク10の静電気量の平均的な経時変化を示すグラフであり、
図6Bはフェイスシールド14の相対静電気量の経時変化を示すグラフである。この実験では、先ず、ユーザ20にマスク10を装着させ、帯電ガンによりマスク10を帯電させ、その後、マスク本体11の静電気量を静電気測定器により測定した。また、この実験では、静電気低下体16を有するマスク、および、静電気低下体16を有さないマスクに対して、夫々、帯電を2回実施し、2回目の帯電前の初期電位を減算した値を、静電気量としている。係る実験方法は、フェイスシールド14に関しても同様である。
【0053】
図6Aを参照して、ここでは、14名の被検者に対して、静電気低下体16を貼着したマスク10と、静電気低下体16を貼着しないマスク10を装着させ、夫々のマスク10の静電気量を経時的に測定し、その平均値を示している。ここでは、静電気低下体16が貼着されているマスク10の静電気量の変化を実線で示し、静電気低下体16が貼着されていないマスク10の静電気量の変化を点線で示している。
【0054】
マスク本体11の静電気量は、双方共に、時間の経過と共に減少している。ここで、どのような経過時間であっても、静電気低下体16を有しているマスク10の静電気量は、静電気低下体16を有していないマスク10の静電気量よりも低い。よって、静電気低下体16を有していることで、マスク本体11の静電気量を確実に低減させ、空間22の声を明瞭に伝達することができることが理解できる。
【0055】
図6Bを参照して、ここでは、14人の被検者に対して、静電気低下体16を貼着したフェイスシールド14と、静電気低下体16を貼着しないフェイスシールド14を装着させ、夫々のフェイスシールド14の相対静電気量の平均値を測定した。相対静電気量とは、帯電させる前の初期値を、帯電後の測定値から引いたものである。ここでは、静電気低下体16が貼着されているフェイスシールド14の相対静電気量の変化を実線で示し、静電気低下体16が貼着されていないフェイスシールド14の相対静電気量の変化を点線で示している。
【0056】
ここでも同様に、マスク本体11の相対静電気量は、双方共に、時間の経過と共に減少している。また、静電気低下体16を有しているフェイスシールド14の相対静電気量は、静電気低下体16を有していないマスク10の相対静電気量よりも低い。よって、静電気低下体16を有しているフェイスシールド14を用いることで、フェイスシールド14を装着している場合であっても、フェイスシールド14の相対静電気量を低減させ、声を良好に伝達させることができることが理解できる。
【0057】
図7は、前述した本実施形態の音響効果を確認するために行った実験結果を示すグラフである。この実験では、様々な種類のマスクについて、静電気低下体16を有するものと、静電気低下体16を有さないものを用意し、各マスクを用いてユーザが発声し、評価を行った。
【0058】
図7のグラフでは、横軸が評価項目を示し、縦軸が評価値を示している。評価値は、サーストンの一対比較を利用し、その選択率を用い、標準正規分布から逆関数で算出した。評価値と、効果の大きさは、正の相関関係を有している。また、横軸の評価項目としては、「低音が出やすいか」および「音の響きがあるか」を採用した。
【0059】
ここでは、不織布プリーツマスク、不織布立体マスク、立体布マスク、防塵マスク、ウレタンマスクを用意し、夫々のマスクについて、静電気低下体16を備えるものと、静電気低下体16を備えないものを用意した。そして、これら全てのマスクについて、「低音が出やすいか」および「音の響きがあるか」という項目について評価を行った。
【0060】
「低音が出やすいか」という項目については、全ての種類のマスクについて、静電気低下体16を有するものの方が、静電気低下体16を有さないものよりも、評価値が高くなった。よって、全ての種類のマスクに関して、マスク10に静電気低下体16を配設することで、低音が出やすくなるという効果を奏することが理解できる。
【0061】
また、「音の響きがあるか」という項目については、全ての種類のマスクについて、静電気低下体16を有するものの方が、静電気低下体16を有さないものよりも、評価値が高くなった。よって、全ての種類のマスクに関して、マスク10に静電気低下体16を配設することで、音が響きやすくなるという効果を奏することが理解できる。
【0062】
図8Aは、パーティション12による電気的効果を示すグラフである。また、
図8Bは、パーティション12による電気的効果の実験における条件を示す斜視図である。更に、
図9は、条件が若干異なる、パーティション12による電気的効果を示すグラフである。
【0063】
図8Aのグラフにおいて、横軸は経過時間を示し、縦軸は初期値をゼロとした場合の静電気量を示している。
【0064】
図8Bを参照して、この実験ではパーティション12を用意し、パーティション本体13の中央に静電気低下体16を貼着した。静電気低下体16の直径は2.5cmである。また、静電気低下体16の中心から、5cmおよび10cmでの、パーティション本体13の表面における静電気量を測定した。また、静電気低下体16が無い状態でも、電位を計測した。このようにすることで、対称性を担保して、静電気低下体16による効果を検証できる。即ち、同心円状に効果を検証できる。尚、実験時の湿度は48%から50%の範囲であり、静電容量は6回計測した際の平均値を採用した。
【0065】
再び
図8Aを参照して、全体的な傾向として、時間の経過に伴い、静電気量は低下した。即ち、静電気低下体16が無い場合、静電気低下体16からの距離が10cmの場合、および、静電気低下体16からの距離が5cmの場合において、時間の経過と共に静電気量は低下した。また、全ての計測時間において、静電気低下体16から距離が5cmの場合、静電気低下体16から距離が10cmの場合、静電気低下体16が無い場合、の順番で静電気量が小さい。
【0066】
図9は、パーティション12による電気的効果を示すグラフである。ここでは、
図8Aに結果を示した場合と比較すると、湿度が異なる。即ち、
図9に示す場合では、実験を行った際の湿度は、53%から55%であった。ここで示す実験結果の内容も、
図8Aに示した場合と同様であった。即ち、全ての計測時間において、静電気低下体16から距離が5cmの場合、静電気低下体16から距離が10cmの場合、静電気低下体16が無い場合、の順番で静電気量が小さい。また、
図8Aの結果と
図9の結果を比較することで、湿度が低い方が、高いときよりも、静電気低下体16の効果が大きく、静電気量が下がっていることも理解できる。
【0067】
上記のことから、パーティション12のパーティション本体13に、静電気低下体16を貼着することにより、確実に静電気量を小さくすることができることが明らかとなった。静電容量が小さくなることで、パーティション12を挟んでユーザが会話をした場合であっても、一方のユーザから発生された声が、他方のユーザに良好に伝わり、会話をスムーズに行うことができる。
【0068】
図10Aないし
図11に、静電気低下体16の音響機器への適用を説明する。
【0069】
図10Aは、ヘッドホン28を示す図である。ここでは、ヘッドホン28のハウジング29に静電気低下体16が貼着されている。静電気低下体16は、ヘッドホン28の他の部位に貼着することができる。例えば、静電気低下体16は、ハウジング29の内側等に配置することができる。更には、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆された部材からヘッドホン28を構成することもできる。静電気低下体16をヘッドホン28に貼着することで、ヘッドホン28の静電気量を低減し、ヘッドホン28から発せられる音の音質を向上できる。
【0070】
図10Bは、イヤホン30を示す図である。ここでは、イヤホン30のハウジング31に静電気低下体16が貼着されている。静電気低下体16は、ハウジング31以外のイヤホン30の各部位に貼着することが出来る。更に、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆された部材から、イヤホン30を構成することもできる。イヤホン30に静電気低下体16を貼着することにより、イヤホン30の静電気量を低減し、イヤホン30の音質を向上できる。
【0071】
図11Aは、補聴器32を示す図である。補聴器32は、本体部35と、接続線33と、スピーカ34とから構成される。補聴器32は、本体部35により集音した音を増幅し、スピーカ34から発音する機器である。ここでは、本体部35に静電気低下体16が貼着されるが、静電気低下体16はスピーカ34に貼着されても良い。また、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆された部材から、補聴器32を構成することもできる。補聴器32に静電気低下体16を貼着することにより、補聴器32の静電気量を低減し、補聴器32の音質を向上できる。
【0072】
図11Bは、ピアノ36を示す図である。ピアノ36の表面には静電気低下体16が貼着されている。静電気低下体16は、ピアノ36の外面や内面などの様々な箇所に配置することができる。また、カーボンが樹脂成形体に含侵、または、表面に被覆された部材から、ピアノ36を構成することもできる。ピアノ36に静電気低下体16を貼着することにより、ピアノ36の静電気量を低減し、ピアノ36の音質を向上できる。
【0073】
前述した本実施形態により、以下のような主要な効果を奏することができる。
【0074】
マスク10は、マスク本体11の電位を低下し得る機能を有する物体から成る静電気低下体16を有していることで、マスク本体11の静電気量を低減することができ、人が発する声を外部に対して良好に伝達させることができる。
【0075】
また、静電気低下体16が、カーボンを有する樹脂成形体であることで、静電気低下体16を容易に取り扱うことができ、且つ電位を低下させる効果を顕著にすることができる。
【0076】
更に、静電気低下体16をマスク本体11に貼着することで、マスク本体11自体が静電気低下体16を有さない場合でも、マスク本体11の静電気量を低下させ、声の伝達を改善することができる。
【0077】
また、マスク本体11の少なくとも一部が静電気低下体16から成ることで、静電気低下体16を別途に用意せずとも、マスク本体11の静電気量を低下させる効果を奏することができる。
【0078】
更に、マスク10、パーティション12またはフェイスシールド14の静電気量を低下させ、ユーザ20がこれらの器具を使用している場合でも、ユーザ20が発する声を良好に伝達することができる。
【0079】
更に、マスク10によれば、マスク本体11自体がカーボンを有していることで、マスク本体11に対してカーボンを効果的に付加することができる。
【0080】
また、静電気低下体16を器具本体の表面に配設することで、器具本体の静電気量を低減し、声を良好に伝達させることができる。
【0081】
更に、様々な音響機器に電位低下体を適用することにより、当該音響機器の音質を向上することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、前述した各形態は相互に
組み合わせることが可能である。
【0083】
例えば、前述した実施形態では、器具としてマスク10等を例示したが、器具としてこれら以外の物を採用することもでき、例えば、マスク10としてマウスシールド等を採用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
10 マスク
11 マスク本体
12 パーティション
13 パーティション本体
14 フェイスシールド
15 フェイスシールド本体
16 静電気低下体
17 接着層
18 基材
19 耳掛部
20 ユーザ
21 顔面下部
22 空間
23 頭部掛部
24 パーティション支持部
25 電位低下体シート
26 電位低下体層
27 電位低下体領域
28 ヘッドホン
29 ハウジング
30 イヤホン
31 ハウジング
32 補聴器
33 接続線
34 スピーカ
35 本体部
36 ピアノ