(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167852
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】電気化学セル用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/46 20060101AFI20221027BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221027BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221027BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20221027BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20221027BHJP
C25B 11/053 20210101ALI20221027BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20221027BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20221027BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20221027BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20221027BHJP
B01J 37/12 20060101ALI20221027BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20221027BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221027BHJP
【FI】
B01J23/46 301M
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M4/90 B
H01M4/90 M
H01M4/90 X
C25B11/052
C25B11/053
C25B11/081
C25B11/091
B01J37/02 301J
B01J37/02 101C
B01J37/16
B01J37/12
B01J33/00 C
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070358
(22)【出願日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0053078
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】519371862
【氏名又は名称】インダストリー-ユニバーシティ、コーオペレイション、ファウンデーション、ハニャン、ユニバーシティ、エリカ、キャンパス
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY-UNIVERSITY COOPERATION FOUNDATION HANYANG UNIVERSITY ERICA CAMPUS
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100210790
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大策
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ジュンハン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク、テジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム、デウン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミンジ
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
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4K011AA01
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4K011DA01
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB07
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5H018HH00
5H018HH03
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5H018HH10
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電気化学セル用触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の触媒は、支持体と、前記支持体上に担持され、水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性がある第1触媒と、前記支持体及び前記第1触媒のうちの少なくとも一つ上に担持され、酸素発生反応(OER)に活性がある第2触媒と、前記第1触媒及び前記第2触媒のうちの少なくとも一つの表面に形成された保護層と、を含むことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に担持され、水素酸化反応(HOR:Hydrogen Oxygen Reaction)又は酸素還元反応(ORR:Oxygen Reduction Reaction)に活性がある第1触媒と、
前記支持体及び前記第1触媒のうちの少なくとも一つ上に担持され、酸素発生反応(Oxygen evolution reaction、OER)に活性がある第2触媒と、
前記第1触媒及び前記第2触媒のうちの少なくとも一つの表面に形成された保護層と、を含む、電気化学セル用触媒。
【請求項2】
前記第1触媒上に前記第2触媒が担持され、
前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層が形成されたものである、請求項1に記載の電気化学セル用触媒。
【請求項3】
前記支持体上に前記第2触媒が担持され、
前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層が形成されたものである、請求項1に記載の電気化学セル用触媒。
【請求項4】
前記第2触媒は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、これらの酸化物及びこれらの合金よりなる群から選ばれた少なくとも一つを含む、請求項1に記載の電気化学セル用触媒。
【請求項5】
前記保護層は、チタン酸化物(TiOx)、亜鉛酸化物(ZnOx)、銅酸化物(CuOx)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、黒鉛化炭素窒化物(Graphitic carbon nitride)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含む、請求項1に記載の電気化学セル用触媒。
【請求項6】
前記保護層の厚さが0.8nm~5nmである、請求項1に記載の電気化学セル用触媒。
【請求項7】
水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性がある第1触媒が担持された支持体を含む出発物質を準備するステップと、
前記出発物質を粉末型原子層堆積(Atomic layer deposition、ALD)装置の回転式反応器に投入するステップと、
酸素発生反応(Oxygen evolution reaction、OER)に活性がある第2触媒の前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した第2触媒の前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、
前記回転式反応器を回転させながら第1反応を起こして、第2触媒の前駆体を第1触媒上に反応させるステップと、
パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、
回転式反応器に還元剤を注入して第1反応の結果を還元させることで第2触媒を前記第1触媒上に担持するステップと、
パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、
保護層前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、
前記回転式反応器を回転させながら第2反応を起こして、前記第1触媒及び前記第2触媒のうちの少なくとも一つの表面に前駆体層を形成するステップと、
回転式反応器に酸化剤を注入して第2反応の結果物を酸化させることで前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層を形成するステップと、を含む、電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第2触媒は前記第1触媒上に担持され、
前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層が形成されたものである、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第2触媒は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、これらの酸化物及びこれらの合金よりなる群から選ばれた少なくとも一つを含む、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項10】
キャリアガスを100mL/min~1,000mL/minの流量で注入して、気化した第2触媒の前駆体を回転式反応器に投入するものである、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記第1反応は、回転式反応器の回転速度30rpm~60rpm、回転式反応器の温度200℃~360℃、反応時間2秒~30秒の条件で行うものである、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記保護層は、チタン酸化物(TiOx)、亜鉛酸化物(ZnOx)、銅酸化物(CuOx)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、黒鉛化炭素窒化物(Graphitic carbon nitride)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含む、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項13】
キャリアガスを100mL/min~1,000mL/minの流量で注入して、気化した保護層前駆体を回転式反応器に投入するものである、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項14】
前記第2反応は、回転式反応器の回転速度30rpm~60rpm、回転式反応器の温度70℃~250℃、反応時間2秒~30秒の条件で行うものである、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項15】
前記第2反応を終了した後、回転式反応器に酸化剤を注入して第2反応の結果物を酸化させるステップをさらに含む、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項16】
前記酸化剤は、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、オゾン(O3)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含む、請求項15に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項17】
前記保護層の厚さが0.8nm~5nmである、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項18】
前記出発物質として、支持体上に担持された第1触媒の表面にのみ自己組織化単分子膜(Self-assembled monolayer、SAM)が形成されたものを準備する、請求項7に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項19】
前記第2触媒は支持体上に担持され、
前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層が形成されたものである、請求項18に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【請求項20】
前記第2触媒を前記出発物質に担持した後、大気雰囲気中で熱処理して、前記第1触媒の表面に形成された自己組織化単分子膜を除去するステップをさらに含む、請求項18に記載の電気化学セル用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用水電解触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車用燃料電池としては、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)が適用されているが、この高分子電解質膜燃料電池が自動車の様々な運転条件で少なくとも数十kW以上の高出力性能を正常に発現するには、広い電流密度範囲で安定して作動可能でなければならない。一般的に、高分子電解質膜燃料電池は、要求される出力レベルを満たすために単位セル(Unit Cell)を積層して組み立てたスタック(Stack)の形で使用する。燃料電池スタックの単位セルの構成における最も内側には、膜-電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)がある。前記MEAは、水素イオン(Proton)を移動させることができる電解質膜と、電解質膜の両面に塗布されたアノード(Anode)及びカソード(Cathode)から構成される。以下、燃料電池とは、高分子電解質膜燃料電池を意味する。
【0003】
また、MEAの外側部分、すなわちアノード及びカソードが位置した外側部分には、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)とガスケット(Gasket)などが積層される。GDLの外側には、反応ガス、冷却水、及び反応により発生した水が流れる流路(Flow Field)を提供する分離板(セパレータ(Separator)又はバイポーラプレート(Bipolar Plate)が接合される。前記高分子電解質膜燃料電池の電気生成のための電気化学反応は、次の通りである。燃料電池の酸化極であるアノードに供給された水素が水素イオンと電子に分離された後、水素イオンは、高分子電解質膜を介して、還元極であるカソード側へ移動し、電子は、外部回路を介してカソードへ移動する。前記カソードで酸素分子、水素イオン及び電子が一緒に反応して電気と熱を生成するとともに、反応副産物として水を生成する。燃料電池内の電気化学反応の際に生成される水は、適切な量が存在するとMEAの加湿性を維持させる好適な役割を果たすが、過剰量の水が発生した場合にこれを適切に除去しなければ、高い電流密度で「水氾濫又は洪水(フラッディング(Flooding))現象」が発生する。氾濫した水は、反応ガスが効率よく燃料電池セルの内部に供給されることを妨げるので、電圧損失がさらに大きくなる。
【0004】
アノードパージ、水素供給量の増大、水素供給圧力の増大、空気供給量の増大、空気供給圧力の増大などの従来技術は、燃料電池スタック内に水が蓄積されるか或いは溜まることにより、反応ガス(水素及び空気中の酸素)の流れを妨げてセルの性能が低下する「水氾濫(Flooding)」現象のように可逆的に性能が回復する場合には使用できるが、不可逆的劣化モードで適用することは難しい。代表的な不可逆的劣化モードである「逆電圧(Cell Voltage Reversal)」問題は、燃料電池内の水氾濫、冬季の氷の生成及び水素燃料供給装置の異常などのさまざまな原因によって、アノードに水素燃料が不足する(Hydrogen Fuel Starvation)ために発生する。逆電圧が発生すると、燃料電池セルの性能に非常に致命的な悪影響を及ぼしてセル電圧を大幅に減少させることが知られている。一般的に、水素供給不足現象は、燃料電池セルで全体的に水素供給が足りなくなる「全体的な水素不足(Overall Hydrogen Starvation)」現象と、セルの全体的な水素供給は十分であるものの、不均一な分配(Uneven Distribution)により部分的に水素供給が足りなくなる「局部的な水素不足(Local Hydrogen Starvation)」現象に大別される。このような水素不足現象は、特に水素ガスの不均一な供給及び分配、突然の燃料電池ロード(Load)要求量の増加及び燃料電池の始動(Start-up)などの運転条件で頻繁に発生する。アノードに水素が足りない場合、アノード電圧Vanodeが増加する。アノード電圧が増加し続けると、結局はアノード電圧がカソード電圧Vcathodeに比べてさらに増加してセル電圧Vcellが0よりも小さくなる逆電圧状態に達する(Vcell=Vcathode-Vanode<0)。アノード電圧の増加による逆電圧状態では、まず、下記式[1]のように、水電気分解(Water Electrolysis)反応が発生する。
【0005】
【0006】
ここで、Eoは標準電極電位(Standard Electrode Potential)であり、SHEは標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode)である。
【0007】
その後も、アノード電圧が増加し続けると、下記式[2]及び下記式[3]のようにアノードでの炭素腐食反応が加速化される。
【0008】
【0009】
このようなセル逆電圧条件が持続されてセル電圧が約-2V未満になる過度な逆電圧状態に到達すると、燃料電池セルの発熱が過多になってMEA及びガス拡散層などを全般的に破損させ、特にMEAにピンホール(Pin-Hole)が発生し、セルが電気的に短絡する(Electrically Shorted)深刻な問題を引き起こすおそれがある。このため、結局はもはや燃料電池セルを正常に運転することができないセル故障(Cell Failure)状態に到達する。
【0010】
全体的な水素不足現象は、燃料電池運転装置(Balance Of Plant)などでセンサーを用いて水素供給状態などを監視することにより、比較的容易に検知することができる。しかし、一部のセルでの局部的な水素不足現象は、燃料電池スタックの各セルをスタック電圧モニタリング(Stack Voltage Monitoring)装置などで綿密に監視したときにのみ検知することができるので、一層多くの努力と複雑な制御システムを要求する。
【0011】
したがって、根本的な解決方法が必要であり、従来では、炭素腐食反応よりは水分解反応を誘導するために、Ru系、Ir系、Ti系触媒などをアノード電極に添加した。一般的に、逆電圧改善性能の面ではRu系、Ir系、Ti系の順に優勢であるが、触媒の性能と耐久を同時に考慮して主にIr系触媒が使用される。しかし、さらに安定した水素電気自動車の実現のためには、現在のレベルに比べて酸性雰囲気中で逆電圧触媒の耐久性の増大が必要である。そこで、本発明では、高耐久性の水電解触媒を用いて不可逆的な逆電圧現象を改善しようとする。
【0012】
一方、本発明では、別の電気化学セル構造であるPEM水電解も含む。
【0013】
PEM(Polymer Electrolyte Membrane)水電解装置は、外部から電気を供給して電気化学反応(Electrochemical Reaction)によって水を水素と酸素に分離する装置である。PEM水電解装置は、速い水素生成速度、高い水素純度、柔軟な運転性などの特徴により清浄水素を確保することができる次世代の手段として脚光を浴びている。しかも、水電解システムに印加する供給電源を環境にやさしい再生可能エネルギー(太陽エネルギー、風力エネルギーなど)で代替すると、環境汚染なしに水素を生産することができ、余剰電力を活用して水素を生成することができるので、再生可能エネルギーの活用性を極大化することができるという利点がある。
【0014】
一般的に、PEM水電解装置は、要求される水素生産量を充足するために、単位セル(Unit Cell)を積層して組み立てたスタック(Stack)の形で使用する。
【0015】
水電解スタックの単位セル構成における最も内側には膜-電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)が位置し、この膜-電極接合体は、水素イオン(Proton)を移動させることができるパーフルオロスルホン酸系アイオノマーベースの電解質膜(Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer-Based Membrane)と電解質膜の両面にそれぞれアノード(Anode)とカソード(Cathode)電極で構成される。以下、水電解とは、PEM水電解を意味する。
【0016】
また、MEAの外側部分、すなわち、アノード及びカソードが位置した外側部分には、それぞれ気孔性物質移動体(PTL:Porous Transport Layer)、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)及びガスケット(Gasket)などが積層される。PTLとGDLの外側には、反応物及び生成物が流れる流路(Flow Field)、或いは流路を代替することができる構造物を含む分離板(セパレータ又はバイポーラプレート(Separator or Bipolar Plate))が接合できる。
【0017】
前記水電解の電気化学反応は、パーフルオロスルホン酸系アイオノマーベースの電解質膜とアノード/カソードの電極から構成された膜-電極接合体で発生するが、アノードに供給された水は、酸素、水素イオン(Proton)、電子(Electron)に分離された後、水素イオンは膜を介して還元極であるカソード側へ移動し、電子は外部回路及び供給電源を介してカソードへ移動する。前記カソードで水素イオン及び電子が一緒に反応して水素を生成する。前記反応のために、一般的に、アノードにはIrO2、RuO2などのIr系、Ru系触媒、カソードには白金(Pt)が含まれている触媒を主に使用する。
【0018】
しかし、PEM水電解において水分解反応の際に酸性雰囲気と作動電圧の影響により一部の触媒がイオン化されて溶け出るなど、PEM水電解性能を低下させる不可逆的劣化をもたらす可能性がある。従来では、Ru系、Ir系、Ti系、これらの元素を含む触媒、又は遷移金属が添加された触媒などを使用したが、商用化のためには、依然としてアノード触媒の耐久性の増大が必要である。
【0019】
したがって、PEM水電解の安定的な実現のために根本的な解決方法が必要であり、本発明では、高耐久性の水電解触媒を用いて従来の問題点を改善しようとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、セルの寿命を向上させることができる電気化学セル用触媒を提供することを目的とする。
【0021】
本発明の目的は、上述した目的に制限されない。本発明の目的は、以降の説明からさらに明らかになり、特許請求の範囲に記載された手段及びその組み合わせで実現されるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一実施形態に係る電気化学セル用触媒は、支持体と、前記支持体上に担持され、水素酸化反応(HOR:Hydrogen Oxygen Reaction)又は酸素還元反応(ORR:Oxygen Reduction Reaction)に活性がある第1触媒と、前記支持体及び前記第1触媒のうちの少なくとも一つ上に担持され、酸素発生反応(Oxygen evolution reaction、OER)に活性がある第2触媒と、前記第1触媒及び前記第2触媒のうちの少なくとも一つの表面に形成された保護層と、を含むことができる。
【0023】
前記触媒は、前記第1触媒上に前記第2触媒が担持され、前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層が形成されたものであり得る。
【0024】
前記触媒は、前記支持体上に前記第2触媒が担持され、前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層が形成されたものであり得る。
【0025】
前記第2触媒は、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、これらの酸化物及びこれらの合金よりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0026】
前記保護層は、チタン酸化物(TiOx)、亜鉛酸化物(ZnOx)、銅酸化物(CuOx)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、黒鉛化炭素窒化物(Graphitic carbon nitride)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0027】
前記保護層の厚さは、0.8nm~5nmであることができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る電気化学セル用触媒の製造方法は、水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性がある第1触媒が担持された支持体を含む出発物質を準備するステップと、前記出発物質を粉末型原子層堆積(Atomic layer deposition、ALD)装置の回転式反応器に投入するステップと、酸素発生反応(Oxygen evolutionreaction、OER)に活性がある第2触媒の前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した第2触媒の前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第1反応を起こして、第2触媒の前駆体を第1触媒上に反応させるステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、回転式反応器に還元剤を注入して第1反応の結果を還元させることで第2触媒を前記第1触媒上に担持するステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、保護層前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第2反応を起こして、前記第1触媒及び前記第2触媒のうちの少なくとも一つの表面に前駆体層を形成するステップと、回転式反応器に酸化剤を注入して第2反応の結果物を酸化させることで前記第1触媒及び前記第2触媒の表面に保護層を形成するステップと、を含むことができる。
【0029】
前記製造方法は、キャリアガスを100mL/min~1,000mL/minの流量で注入して、気化した第2触媒の前駆体を回転式反応器に投入するものであり得る。
【0030】
前記第1反応は、回転式反応器の回転速度30rpm~60rpm、回転式反応器の温度200℃~360℃、反応時間2秒~30秒の条件で行うことができる。
【0031】
前記製造方法は、キャリアガスを100mL/min~1,000mL/minの流量で注入して、気化した保護層前駆体を回転式反応器に投入するものであり得る。
【0032】
前記第2反応は、回転式反応器の回転速度30rpm~60rpm、回転式反応器の温度70℃~250℃、反応時間2秒~30秒の条件で行うことができる。
【0033】
前記製造方法は、前記第2反応を終了した後、回転式反応器に酸化剤を注入して第2反応の結果物を酸化させるステップをさらに含むことができる。
【0034】
前記酸化剤は、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、オゾン(O3)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0035】
前記出発物質として、支持体上に担持された第1触媒の表面にのみ自己組織化単分子膜(Self-assembled monolayer、SAM)が形成されたものを準備することができる。
【0036】
前記製造方法は、前記第2触媒を前記出発物質に担持した後、大気雰囲気中で熱処理して、前記第1触媒の表面に形成された自己組織化単分子膜を除去するステップをさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る電気化学セル用触媒は、酸素発生反応(OER:Oxygen Evolution Reaction)に活性がある触媒上に保護層を形成することにより、初期の性能は保護層を形成する前と同等のレベルを維持しながら、セルの劣化を低減することができる。
【0038】
本発明に係る電気化学セル用触媒は、水素酸化反応(HOR:Hydrogen Oxidation Reaction)又は酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction)特性があり、ナノサイズで分散された触媒上に、酸素発生反応(OER)に活性がある触媒を担持して、その分散性と均一性を大幅に向上させることができる。
【0039】
本発明に係る電気化学セル用触媒は、保護層が形成された構造であって、従来に比べてセルの寿命を向上させることができる。
【0040】
本発明の効果は、上述した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明で推論可能なすべての効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係る電気化学セル用触媒の第1実施形態を示す図である。
【
図2】本発明に係る触媒をTEM-EDSで分析した結果である。
【
図3】本発明に係る触媒をXRF、TEMで分析した結果である。
【
図5】本発明に係る電気化学セル用触媒の第2実施形態を示す図である。
【
図6】本発明に係る電気化学セル用触媒の第3実施形態を示す図である。
【
図7】本発明に係る電気化学セル用触媒の第4実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は、添付図面に関連する以下の好適な実施形態によって容易に理解されるだろう。ところが、本発明は、ここで説明される実施形態に限定されるものではなく、他の形態に具体化されてもよい。ここで紹介される実施形態は、開示された内容が徹底的で完全たるものとなるように、かつ、通常の技術者に本発明の思想が十分伝達されるようにするために提供されるものである。
【0043】
各図面を説明しながら類似の参照符号を類似の構成要素に対して使用した。添付図面において、構造物の寸法は、本発明の明確性のために実際よりも拡大して示したものである。第1、第2などの用語は、多様な構成要素を説明するのに使用できるが、これらの構成要素は、これらの用語によって限定されてはならない。これらの用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するためにのみ使用される。例えば、本発明の権利範囲を逸脱することなく、第1構成要素は第2構成要素と命名でき、これと同様に、第2構成要素も第1構成要素と命名できる。単数の表現は、文脈上、明らかに異なる意味ではない限り、複数の表現を含む。
【0044】
本明細書で使用される「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はこれらの組み合わせが存在することを指定しようとするものであり、一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はこれらの組み合わせの存在又は付加可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは他の部分の「真上に」ある場合だけでなく、それらの間に別の部分がある場合も含む。反対に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」あるとする場合、これは他の部分の「真下に」ある場合だけでなく、それらの間に別の部分がある場合も含む。
【0045】
他に明示されない限り、本明細書で使用された成分、反応条件、ポリマー組成物及び配合物の量を表現する全ての数字、値及び/又は表現は、これらの数字が本質的に異なるものの中からこのような値を得る上で発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、全ての場合、「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。また、本記載から数値範囲が開示される場合、このような範囲は、連続的であり、他に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値の含まれた前記最大値までの全ての値を含む。ひいては、このような範囲が整数を指し示す場合、他に指摘されない限り、最小値から最大値の含まれた前記最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0046】
図1は本発明に係る電気化学セル用触媒の第1実施形態を示す図である。これを参照すると、前記触媒は、支持体10と、前記支持体10上に担持され、水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性がある第1触媒20と、前記第1触媒20上に担持され、酸素発生反応(OER)に活性がある第2触媒30と、前記第1触媒20及び第2触媒30の表面に形成された保護層40と、を含むことができる。
【0047】
前記支持体10は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、グラフェンなどの炭素材を含むことができる。
【0048】
前記第1触媒20は、水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性があるものであって、白金、金、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、白金-ルテニウム合金、白金-オスミウム合金、及び白金-パラジウム合金よりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0049】
前記第2触媒30は、酸素発生反応(OER)に活性があるものであって、Ru系、Ir系、Ti系よりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。電気化学セルの電極内の第2触媒30が存在すると、燃料電池の場合は、水素が足りないため、アノードに高電圧雰囲気が形成されたときに水分解反応を誘導して触媒及び電極の損傷を低減することができる。
【0050】
本発明は、前記第2触媒30を前記第1触媒20上に担持したことを特徴とする。具体的には、ナノサイズの第1触媒20の表面に第2触媒30を形成して前記第2触媒30の分散性と均一性を大幅に向上させた。これにより、燃料電池に逆電圧が発生する場合、支持体10の腐食による第1触媒20の脱落及び膜-電極接合体の破損を低減することができる。また、水電解装置の場合は、第2触媒30の高い分散性を介して水電解性能を向上させることができる。特に、後述するが、第2触媒30を粉末型原子層堆積(Atomic layer deposition)工程で第1触媒20に蒸着してこれらを一体化するため、第2触媒30の分散性、触媒の電気伝導度及び結合力を高いレベルで確保することができる。また、酸素発生反応(OER)に活性がある触媒をPt/Cなどの触媒と単純混合する従来技術に比べて、第2触媒30が第1触媒20に強く結合されているので、触媒の損失を低減することができる。
【0051】
しかし、このような場合でも、酸性雰囲気及び作動電圧に応じて触媒の活性が低下したり、一部の触媒金属がイオン化されて溶け出たりするなどの不可逆的劣化が発生する可能性がある、このため、本発明は、前記第1触媒20及び第2触媒30の表面に厚さ数nmの保護層40を形成することにより、触媒の性能は維持しながら、触媒の構造変化を最小限に抑え且つ劣化を防止することができるようにしたことを特徴とする。
【0052】
前記保護層40は、チタン酸化物(TiOx)、亜鉛酸化物(ZnOx)、銅酸化物(CuOx)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、黒鉛化炭素窒化物(Graphitic carbon nitride)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0053】
前記保護層40の厚さは、0.8nm~5nm又は0.8nm~3nmであることができる。前記保護層40の厚さが0.8nm未満であれば、触媒の劣化低減効果が微々たるものであり、前記保護層40の厚さが5nmを超えれば、触媒の性能低下をもたらすおそれがある。
【0054】
前記触媒の製造方法は、前記第1触媒が担持された支持体を含む出発物質を準備するステップと、前記出発物質を粉末型原子層堆積(ALD)装置の回転式反応器に投入するステップと、第2触媒の前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した第2触媒の前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第1反応を起こして、第2触媒の前駆体を第1触媒上に反応させるステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、回転式反応器に還元剤を注入して第1反応の結果物を還元させることで第2触媒を前記第1触媒上に担持するステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、保護層前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第2反応を起こして、前記第1触媒及び第2触媒の表面に前駆体層を形成するステップと、回転式反応器に酸化剤を注入して第2反応の結果物を酸化させることで前記第1触媒及び第2触媒の表面に保護層を形成するステップと、を含むことができる。
【0055】
本発明は、回転式反応器が備えられた粉末型原子層堆積装置を用いて触媒を製造することを特徴とする。具体的には、第2触媒及び保護層を蒸着させるとき、反応器が回転して粉末状の触媒がスムーズに形成されるようにした。本発明の目的を達成するためには前記保護層を数nmの厚さで形成しなければならないが、従来の燃料電池、水電解触媒の合成に活用された湿式方式では保護層の均一な薄膜を形成し難く、従来の原子層堆積装置は、厚さの調節は可能であるものの、フィルムの形態で蒸着されるため、粒子状の被蒸着物には適さない。すなわち、本発明では、回転式反応器が備えられた粉末型原子層堆積装置を用いて粒子状の触媒を合成するが、触媒の表面に数nmの厚さで保護層を形成したのである。
【0056】
まず、第1触媒が担持された支持体を含む出発物質を回転式反応器に投入する。回転式反応器の前端に第2触媒の前駆体を位置させ、約50℃~100℃で気化させる。前記第2触媒の前駆体は、特に制限されず、本発明の属する技術分野で広く使用されるものであればいずれも使用することができる。
【0057】
その後、アルゴンガス又は窒素ガスなどのキャリアガスを100mL/min~1,000mL/min、又は150mL/min~300mL/minの流量で注入して、気化した第2触媒の前駆体を前記回転式反応器に投入することができる。キャリアガスを注入する理由は、第2触媒の前駆体の一定の注入量を確保して、各出発物質の粒子上に均一に第2触媒を形成するためである。前記キャリアガスの流量が100mL/min未満であれば、前記第1反応が均一に起こらないおそれがあり、前記キャリアガスの流量が1000mL/minを超えれば、第2触媒の前駆体が気化する前に粒子状に回転式反応器の内部に入って汚染を起こすか或いは均一な反応が起こらないおそれがある。
【0058】
前記気化した第2触媒の前駆体が回転式反応器に注入されると、キャリアガスの注入を停止し、前記出発物質と第2触媒の前駆体との第1反応を起こす。
【0059】
前記第1反応は、回転式反応器の回転速度30rpm~60rpm、回転式反応器の温度200℃~360℃、反応時間2秒~30秒の条件で行うことができる。反応時間が2秒未満であれば、第1反応が十分に起こらないおそれがあり、反応時間が30秒を超えれば、第1反応が十分に起こった後、不必要に時間がさらに経過して経済的に望ましくないおそれがある。また、回転速度が30rpm未満であれば、第2触媒が均一に形成され難いおそれがあり、回転速度が60rpmを超えれば、出発物質が互いに固まって第2触媒の担持を妨害するおそれがある。
【0060】
第1反応が完了した後、アルゴンガス又は窒素ガスなどのパージガスを100mL/min~1,000mL/minの流量で注入して回転式反応器内の残留前駆体や反応副産物などを除去することができる。パージガスの流量が100mL/min未満であれば、残留ガスを完全に除去できないおそれがあり、パージガスの流量が1,000mL/minを超えれば、過剰な流量で結果物が失われるおそれがある。
【0061】
このとき、前記反応物は、前記第1反応が完了した後、回転式反応器に還元剤を注入して第1反応の結果物を還元させるステップをさらに行うことができる。
【0062】
前記還元剤は、水素(H2)、酸素(O2)、アンモニア(NH3)、水蒸気(H2O)、及びその他の反応物の組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0063】
上記の過程を繰り返し行うことにより、第1触媒上に第2触媒を所望の量だけ担持することができる。
【0064】
その後、保護層の形成のために回転式反応器の前端に保護層前駆体を位置させ、約50℃~100℃で気化させる。保護層前駆体は、特に制限されず、本発明の属する技術分野で広く使用されるものであればいずれも使用することができる。一例として、チタン酸化物を含む保護層を形成する場合には、チタンイソプロポキシド(Titanium isopropoxide)を保護層前駆体として使用することができる。
【0065】
その後、アルゴンガス又は窒素ガスなどのキャリアガスを100mL/min~1,000mL/min、又は150mL/min~300mL/minの流量で注入して、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入することができる。キャリアガスを注入する理由は、保護層前駆体の一定の注入量を確保して第1触媒と第2触媒の表面に均一に保護層を形成するためである。前記キャリアガスの流量が100mL/min未満であれば、前記第2反応が均一に起こらないおそれがあり、前記キャリアガスの流量が1000mL/minを超えれば、保護層前駆体が気化する前に粒子状に回転式反応器の内部に入って汚染を起こすか或いは均一な反応が起こらないおそれがある。
【0066】
前記気化した保護層前駆体が回転式反応器に注入されると、キャリアガスの注入を停止し、第1反応の結果物と保護層前駆体との第2反応を起こす。
【0067】
前記第2反応は、回転式反応器の回転速度30rpm~60rpm、回転式反応器の温度70℃~250℃、反応時間2秒~30秒の条件で行うことができる。反応時間が2秒未満であれば、第2反応が十分に起こらないおそれがあり、反応時間が30秒を超えれば、第2反応が十分に起こった後、不必要に時間がさらに経過して経済的に望ましくないおそれがある。また、回転速度が30rpm未満であれば、保護層が均一に形成され難いおそれがあり、回転速度が60rpmを超えれば、第1反応の結果物が互いに固まって保護層の形成を妨げるおそれがある。
【0068】
第2反応が完了した後、アルゴンガス又は窒素ガスなどのパージガスを100mL/min~1,000mL/minの流量で注入して回転式反応器内の残留前駆体や反応副産物などを除去することができる。パージガスの流量が100mL/min未満であれば、残留ガスを完全に除去できないおそれがあり、パージガスの流量が1,000mL/minを超えれば、過剰な流量で結果物が失われるおそれがある。
【0069】
この時、前記保護層が酸化物の形態であれば、前記第2反応が完了した後、回転式反応器に酸化剤を注入して第2反応の結果物を酸化させるステップをさらに行うことができる。
【0070】
前記酸化剤は、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、オゾン(O3)及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。
【0071】
上記の過程を繰り返し行って第1触媒及び第2触媒の表面に保護層を所望の厚さで形成することができる。
【0072】
具体的な実施例として、下記のとおりに電気化学セル用触媒を製造した。
【0073】
支持体である炭素に第1触媒である白金(Pt)が担持された出発物質(以下、「Pt/C」、HISPEC4000■grade、Johnson Matthey、UK)を粉末型原子層堆積装置の回転式反応器に投入した。
【0074】
ルテニウム前駆体(Carish、TANAKA、JP)を回転式反応器の前端に位置させ、気化させた。その後、キャリアガスによってルテニウム前駆体を回転式反応器に投入した。前述した第1反応条件で、前記ルテニウム前駆体とPt/Cを反応させてPt上にルテニウムを担持した。
【0075】
Pt/Cとルテニウム前駆体との間に十分な反応が完了した後、パージガスで残留ガスを除去した。
【0076】
その後、Ru還元剤(Ru前駆体のリガンド除去剤)として酸素(O2)を回転式反応器に投入してPt/Cと反応したルテニウム前駆体を還元させることにより、ルテニウム触媒を形成した。
【0077】
これを約900回繰り返し行うことにより、第2触媒であるルテニウムが第1触媒である白金上に担持された結果物(Ru(Pt)/C)を得た。
【0078】
その後、保護層前駆体であるチタンイソプロポキシドを回転式反応器の前端に位置させ、気化させた。キャリアガスによって、チタンイソプロポキシドを回転式反応器に投入した。前述した第2反応条件で、前記チタンイソプロポキシドとRu(Pt)/Cとを反応させることで、ルテニウム及び白金の表面にチタンを含む一連の層を形成した。
【0079】
保護層前駆体とRu(Pt)/Cとの間に十分な反応が完了した後、パージガスで残留ガスを除去した。前記チタンを酸化させるために酸化剤として水蒸気を投入して、チタン酸化物(TiOx)を含む保護層を形成した。
【0080】
上記の過程を42回繰り返し行うことにより、最終的に本発明に係る触媒を得た。
【0081】
図2は前記触媒をTEM-EDSで分析した結果である。
図3は前記触媒をXRF、TEMで分析した結果である。
図2及び
図3に示すように、TiO
x保護層が形成されたRu(Pt)/C構造と、Ruの上にTiO
xが形成されたことを確認することができる。
【0082】
一方、本発明に係る触媒を実施例として設定し、保護層を形成する前のRu(Pt)/Cを比較例として設定して、次のとおりに耐久性を評価した。
【0083】
実施例と比較例に対して0.1M HClO
4溶液の下でLSV(Linear Sweep Voltammetry)を行った。この時、基準電極はAg/AgCl、作用電極はAu、対極はPtメッシュを使用した。2Vで実施例と比較例の電流密度を測定した。
図4aは実施例の結果であり、
図4bは比較例の結果である。これを参照すると、初期には実施例と比較例が2Vで同等なレベルの電流密度を示し、それぞれ同じ繰り返しサイクルによる耐久試験後には実施例が比較例に比べて相対的に高い電流密度を示す。これを下記表1にまとめた。
【0084】
【0085】
実施例は、厚さ数nmの保護層を第1触媒及び第2触媒の表面に形成して、初期性能は維持し、触媒の劣化の低減による耐久性を確保したものであることが分かる。
【0086】
図5は本発明に係る電気化学セル用触媒の第2実施形態を示すものである。これを参照すると、前記触媒は、支持体10と、前記支持体10上に担持され、水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性がある第1触媒20と、前記支持体上に担持され、酸素発生反応(OER)に活性がある第2触媒30と、前記第1触媒20と第2触媒30の表面に形成された保護層40と、を含むことができる。
【0087】
第2実施形態に係る触媒は、第2触媒30を支持体10の表面にのみ成長させて、水電解反応が起こる表面積を極大化させた触媒を実現したものである。
【0088】
前記第2触媒30を支持体10の表面にのみ担持させるために、本発明は、製造方法の出発物質として、支持体10上に担持された第1触媒20の表面に自己組織化単分子膜(Self-assembled monolayer、SAM)が形成されたものを使用する。具体的には、前記第1触媒20の表面に自己組織化単分子膜(SAM)を形成して、第2触媒30を支持体10の欠陥がある側に誘導して蒸着させる。
【0089】
前記自己組織化単分子膜(SAM)は、特に制限されないが、例えば、オクタデカンチオール(Octadecanethiol、ODT)、ドデカンチオール(Dodecanethiol、DDT)を含むことができる。
【0090】
第2実施形態に係る触媒は、第1触媒の酸素還元反応及び水素酸化反応、第2触媒の酸素発生反応を極大化することができる。また、支持体の表面の欠陥を第2触媒が保護して、支持体が腐食されることを防止することができる。
【0091】
前記触媒の製造方法は、支持体上に担持された第1触媒の表面に自己組織化単分子膜(SAM)が形成された出発物質を準備するステップと、前記出発物質を粉末型原子層堆積(ALD)装置の回転式反応器に投入するステップと、第2触媒の前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した第2触媒の前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第1反応を起こして、前記第2触媒を前記支持体上に担持するステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、還元剤を投入して第2触媒の前駆体を還元させることで前記第2触媒を前記第1触媒上に担持するステップと、第1反応の結果物から自己組織化単分子膜(SAM)を除去するために、前記結果物を大気雰囲気中で250℃~300℃及び30分以下の条件で熱処理するステップと、保護層前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第2反応を起こして、前記第1触媒及び第2触媒の表面に保護層を形成するステップと、を含むことができる。
【0092】
その他の事項は、前述した第1実施形態と同一であるため、以下省略する。
【0093】
上記の過程を繰り返し行うことにより、本発明のRu、Ptに保護層が形成された触媒(Ru(Pt)/C)を得ることができる。
【0094】
図6は本発明に係る電気化学セル用触媒の第3実施形態を示すものである。これを参照すると、前記触媒は、水素酸化反応(HOR)又は酸素還元反応(ORR)に活性がある第1触媒20と、前記第1触媒20上に担持され、酸素発生反応(OER)に活性がある第2触媒30と、前記第1触媒20及び第2触媒30の表面に形成された保護層40と、を含むことができる。
【0095】
前記触媒の製造方法は、第1触媒を含む出発物質を準備するステップと、前記出発物質を粉末型原子層堆積(ALD)装置の回転式反応器に投入するステップと、第2触媒の前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した第2触媒の前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第1反応を起こすステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、還元剤を投入して第2触媒の前駆体を還元させることで前記第2触媒を前記第1触媒上に担持するステップと、パージガスで回転式反応器の残留ガスを除去するステップと、保護層前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第2反応を起こして、前記第1触媒及び第2触媒の表面に保護層を形成するステップと、を含むことができる。
【0096】
図7は本発明に係る電気化学セル用触媒の第4実施形態を示す図である。これを参照すると、前記触媒は、酸素発生反応(OER)に活性がある第2触媒30、及び前記第2触媒30の表面に形成された保護層40を含むことができる。
【0097】
前記触媒の製造方法は、第2触媒を含む出発物質を準備するステップと、保護層前駆体を気化させ、キャリアガスによって、気化した保護層前駆体を前記回転式反応器に投入するステップと、前記回転式反応器を回転させながら第2反応を起こして、前記第2触媒の表面に保護層を形成するステップと、を含むことができる。
【0098】
以上、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、その技術的思想または必須的な特徴を変更することなく、本発明が他の具体的な形態で実施できることを理解することができるだろう。よって、上述した実施形態はあらゆる面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。
【符号の説明】
【0099】
10 支持体
20 第1触媒
30 第2触媒
40 保護層