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特開2022-167855有機金属化合物の製造方法およびその方法で得られた有機金属化合物を用いた薄膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167855
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】有機金属化合物の製造方法およびその方法で得られた有機金属化合物を用いた薄膜
(51)【国際特許分類】
   C07F 11/00 20060101AFI20221027BHJP
   C23C 16/16 20060101ALI20221027BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20221027BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C07F11/00 C
C23C16/16
C23C16/18
C23C16/455
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070507
(22)【出願日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0052409
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】519350498
【氏名又は名称】ハンソル ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANSOL CHEMICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7-8F, 513, Teheran-ro, Gangnam-gu, Seoul 06169, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】506327586
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コオペレイション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ソ, ジン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ミ-ラ
(72)【発明者】
【氏名】ソク, チャン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク, チュン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ナム, テ-ウク
(72)【発明者】
【氏名】イ, ユ-ジン
【テーマコード(参考)】
4H050
4K030
【Fターム(参考)】
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB81
4H050AC80
4H050WB11
4H050WB12
4H050WB14
4H050WB21
4K030AA07
4K030AA11
4K030AA12
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA17
4K030BA06
4K030BA12
4K030BA13
4K030BA19
4K030BA20
4K030BB03
4K030EA03
4K030FA01
4K030JA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機金属化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属ヘキサカルボニル化合物を用いて、下記に示す化2の化合物を合成する第1ステップを含む、有機金属化合物の製造方法である。

[式中、R~Rは、H、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素;Mは、タングステン等である。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ヘキサカルボニル(metal hexacarbonyl)化合物と化学式1の化合物とを反応させて、化学式2の化合物を合成する第1ステップを含む、
有機金属化合物の製造方法。
【化1】
【化2】
前記化学式1および化学式2において、R1~R3は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素であり、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つである。
【請求項2】
前記化学式2の化合物を化学式3の化合物と反応させて、化学式4の化合物を合成する第2ステップを含む、
請求項1に記載の有機金属化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
前記化学式3および4において、R4は、水素、炭素数1~3の線状または分枝状炭化水素であり、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つである。
【請求項3】
前記化学式4の化合物を化学式5の化合物と反応させて、化学式6の化合物を合成する第3ステップを含む、
請求項2に記載の有機金属化合物の製造方法。
【化5】
前記化学式5において、R5~R9は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素である。
【化6】
前記化学式6において、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つであり、
5~R9は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素である。
【請求項4】
前記有機金属化合物は、化学式7または化学式8の化合物である、
請求項3に記載の有機金属化合物の製造方法。
【化7】
【化8】
【請求項5】
基板上に、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された有機金属化合物を含む気相蒸着前駆体を吸着させ、不活性気体で未反応の前記気相蒸着前駆体をパージングする第1ステップと、
反応ガスを注入して吸着された1つ以上の前記気相蒸着前駆体と反応させ、未反応の前記反応ガスをパージングする第2ステップと、を含み、
前記反応ガスは、プラズマによって活性化され、
前記第1ステップにおいて前記気相蒸着前駆体の注入時間は4秒以上であり、
前記第2ステップにおいて前記反応ガスの注入時間は8秒以上である、
薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記反応ガスは、酸化剤、還元剤、および窒化剤からなる群より選択されたいずれか1つ以上である、
請求項5に記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
蒸着温度が350℃以下であり、
蒸着率は0.21Å/cycle以下である、
請求項5に記載の薄膜の製造方法。
【請求項8】
密度が14g/cm3以上である、
タングステン金属薄膜。
【請求項9】
α相(phase)とβ相(phase)とを含む、
請求項8に記載のタングステン金属薄膜。
【請求項10】
比抵抗値が300μΩ・cm以下である、
請求項8に記載のタングステン金属薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相蒸着により薄膜蒸着が可能な気相蒸着化合物として使用できる有機金属化合物の製造方法および得られた有機金属化合物を用いて製造した薄膜に関し、具体的には、反応収率を大幅に向上させた有機金属化合物の製造方法および得られた有機金属化合物を用いて製造した優れた特性の薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、半導体の配線工程に使用される金属膜は、半導体素子の集積度が急速に高くなるにつれ、高いアスペクト比(aspect ratio)で均一に薄膜を蒸着することができ、多層配線工程で構造に関係なく均一な厚さの金属薄膜を積層することができる技術が必要なのが現状である。
【0003】
このような金属薄膜の製造のために、蒸着工程技術および前駆体化合物の改善が要求されている。
【0004】
このために、蒸着工程技術の開発の面では、原子層蒸着法(atomic layer deposition、ALD)の適用が迅速に拡大している。
【0005】
原子層蒸着は、表面で起こる自己制限的反応で、原子層単位の蒸着により薄い薄膜を実現することができ、段差被覆性(step coverage)に優れて広い面積および複雑な立体構造に均一な厚さの薄膜を蒸着することができる。
【0006】
原子層蒸着法の適用拡大とともに、原子層蒸着の前駆体として最適化されて使用できる多様な有機金属化合物(例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)など)に対する必要性が高まっているのが現状である。
【0007】
例えば、タングステンは、融点が高く抵抗が低くて、高温工程に有利であり、電流伝達が容易であるというメリットがあるので、半導体用電極および配線材料に適用可能である。
【0008】
半導体用電極および配線材料を形成するための既存のタングステン前駆体としては、フッ化、塩化タングステンなどハロゲンベースの前駆体が主に用いられてきた。
【0009】
これらの前駆体は、構造が簡単で、常温で気体または固体で存在し、比較的純粋な金属を得ることができ、熱的安定性が高いというメリットがあるが、薄膜内に残留する微量のフッ素、塩素などは下部基板の腐食を引き起こして電子素子の特性を低下させることがあり、工程中に発生するHF、HClなどの副産物は毒性が非常に強いというデメリットがある。
【0010】
特に、薄膜内に残留するフッ素、塩素などが引き起こす問題を解決するためには、バリア層の追加が必要であり、これによって比抵抗が増加する問題が発生する。
【0011】
これらの問題点を解決するために、高い熱的安定性を有し、薄膜内の不純物を低減できる、ハロゲン元素を含まない新規タングステン前駆体(例えば、シクロペンタジエニル基を含むタングステン前駆体)が開発されたが、反応収率が低くて価格が高価というデメリットがある。
【0012】
したがって、高い反応収率で新規タングステン前駆体を合成できる製造方法が要求されている。
【0013】
また、このような新規タングステン前駆体を活用する薄膜の製造方法および製造された薄膜においても製造方法の効率改善および薄膜の特性向上が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】大韓民国登録特許第10-1434696号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、有機金属化合物の製造方法、有機金属化合物を用いた薄膜の製造方法および薄膜を提供することを目的とする。
【0016】
特に、前記有機金属化合物の製造方法により有機金属化合物の反応収率が大きく向上し、得られた有機金属化合物を用いて製造された薄膜は、優れた特性の確保が可能で、多様な電子装置に使用できる。
【0017】
ただし、本願が解決しようとする課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の一側面は、金属ヘキサカルボニル(metal hexacarbonyl)化合物と化学式1の化合物とを反応させて、化学式2の化合物を合成する第1ステップを含む、有機金属化合物の製造方法を提供する。
【化1】
【化2】
【0019】
前記化学式1および化学式2において、R1~R3は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素であり、Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つである。
【0020】
前記有機金属化合物の製造方法において、前記化学式2の化合物を化学式3の化合物と反応させて、化学式4の化合物を合成する第2ステップを含むことができる。
【化3】
【化4】
【0021】
前記化学式3および4において、R4は、水素、炭素数1~3の線状または分枝状炭化水素であり、Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つである。
【0022】
前記有機金属化合物の製造方法において、前記化学式4の化合物を化学式5のシクロペンタジエニル(cyclopentadienyl)化合物と反応させて、化学式6の化合物を合成する第3ステップを含むことができる。
【化5】
【0023】
前記化学式5において、R5~R9は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素である。
【化6】
【0024】
前記化学式6において、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つであり、R5~R9は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素である。
【0025】
前記有機金属化合物の製造方法において、前記有機金属化合物は、化学式7または化学式8の化合物であってもよい。
【化7】
【化8】
【0026】
本願の他の側面は、基板上に、前記製造方法により製造された有機金属化合物を含む気相蒸着前駆体を吸着させ、不活性気体で未反応の前記気相蒸着前駆体をパージングする第1ステップと、反応ガスを注入して吸着された1つ以上の前記気相蒸着前駆体と反応させ、未反応の前記反応ガスをパージングする第2ステップと、を含み、前記反応ガスは、プラズマによって活性化され、前記第1ステップにおいて前記気相蒸着前駆体の注入時間(feeding time)は4秒以上であり、前記第2ステップにおいて前記反応ガスの注入時間(feeding time)は8秒以上である、薄膜の製造方法を提供する。
【0027】
前記薄膜の製造方法において、前記反応ガスは、酸化剤、還元剤、および窒化剤からなる群より選択されたいずれか1つ以上であってもよい。
【0028】
前記薄膜の製造方法において、蒸着温度が350℃以下であり、蒸着率(growth rate)は0.21Å/cycle以下であってもよい。
【0029】
本願のさらに他の側面は、密度が14g/cm3以上である、タングステン金属薄膜を提供する。
【0030】
前記タングステン金属薄膜は、α相(phase)とβ相(phase)とを含むことができる。
【0031】
前記タングステン金属薄膜は、比抵抗値が300μΩ・cm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明による有機金属化合物の製造方法は、有機金属化合物の反応収率を大幅に向上させる効果がある。
【0033】
また、本発明の有機金属化合物の製造方法により製造された有機金属化合物を用いる薄膜の製造方法により製造されたタングステン金属薄膜は、優れた物理的特性、特に、電気的特性を有する効果がある。
【0034】
本発明の薄膜の製造方法により製造された優れた特性のタングステン金属薄膜は、多様な電子装置、特に、半導体、ディスプレイ、太陽電池などに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1~実施例3により製造された化合物の核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance、NMR)分析の結果である。
図2】実施例3の有機金属化合物(HEtCpW(CO)3およびHi-PrCpW(CO)3)の熱重量分析の結果である。
図3】前駆体および反応ガスの注入時間の変化による蒸着率の変化を測定した結果である。
図4】蒸着温度の変化による蒸着率の変化およびALDサイクル回数による厚さの変化を測定した結果である。
図5】製造されたタングステン金属薄膜をX線回折法で分析した結果である。
図6】製造されたタングステン金属薄膜をX線反射率測定法で分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付した図面を参照して、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本願の実施形態および実施例を詳細に説明する。しかし、本願は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施形態、実施例および図面に限定されない。そして、図面において本発明を明確に説明するために説明と関係のない部分は省略した。
【0037】
本願の一側面による有機金属化合物の製造方法は、金属ヘキサカルボニル(metal hexacarbonyl)化合物と化学式1の化合物(ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン(hexahydro-1,3,5-triazine))とを反応させて、化学式2の化合物を合成する第1ステップを含むことができる。
【化1】
【化2】
【0038】
前記化学式1および化学式2において、R1~R3は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素であり、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つである。
【0039】
前記金属ヘキサカルボニル化合物の金属としては、ヘキサカルボニル化合物を形成できる金属であればいかなる金属でも使用できるが、好ましくは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つであってもよく、さらに好ましくは、タングステン(W)であってもよい。
【0040】
前記化学式1の化合物のR1~R3は、好ましくは、メチル基(methyl)であってもよい。
【0041】
前記第1ステップにより合成された化学式2の化合物は、80%以上の反応収率で得られ、好ましくは85%以上の反応収率、さらに好ましくは90%以上の反応収率で得られる。
【0042】
前記第1ステップにおいて、溶媒としては、トルエン(toluene)を使用することができ、110~120℃の還流(reflux)下で反応させることができる。
【0043】
一実施形態において、前記第1ステップの反応生成物である化学式2の化合物を化学式3の化合物(ニトリル(nitrile))と反応させて、化学式4の化合物を合成する第2ステップを含むことができる。
【化3】
【化4】
【0044】
前記化学式3および4において、R4は、水素、炭素数1~3の線状または分枝状炭化水素であり、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つである。
【0045】
前記化学式3のR4は、好ましくは、メチル基(methyl)またはプロピル基(propyl)であってもよい。
【0046】
前記第2ステップにより合成された前記化学式4の化合物は、75%以上の反応収率で得られ、好ましくは80%以上の反応収率、さらに好ましくは85%以上の反応収率で得られる。
【0047】
特に、前記第1ステップの反応により合成された前記化学式2の化合物を使用せず、金属ヘキサカルボニル化合物に直接前記化学式3の化合物を反応させる場合、選択性が大きく低下して、前記化学式4の化合物の反応収率が大きく低下し、最終有機金属化合物の反応収率も非常に低くなりうる。
【0048】
前記第2ステップにおいて、溶媒としては、トルエン(toluene)を使用することができ、反応温度は、常温であってもよい。
【0049】
一実施形態において、前記第2ステップの反応生成物である化学式4の化合物を化学式5の化合物(シクロペンタジエニル(cyclopentadienyl))と反応させて、化学式6の化合物を合成する第3ステップを含むことができる。
【化5】
【0050】
前記化学式5において、R5~R9は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素である。
【化6】
【0051】
前記化学式6において、
Mは、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタングステン(W)からなる群より選択されたいずれか1つであり、R5~R9は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素である。
【0052】
好ましくは、前記R5~R9のいずれか1つ以上は、炭素数1~4の線状または分枝状炭化水素であってもよい。
【0053】
前記第3ステップにおいて、前記化学式4の化合物にシクロペンタジエニル基が置換されながら、中心金属の酸化数が0から+2になる。
【0054】
前記第3ステップにより合成された前記化学式6の化合物は、80%以上の反応収率で得られ、好ましくは85%以上の反応収率、さらに好ましくは90%以上の反応収率で得られる。
【0055】
前記第3ステップにおいて、溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)を使用することができ、66~75℃の還流(reflux)下で反応させることができる。
【0056】
一実施形態において、前記有機金属化合物は、化学式7または化学式8の化合物であってもよい。
【化7】
【化8】
【0057】
前記化学式7および化学式8の有機金属化合物は、ハロゲンベースの有機金属化合物が気相蒸着前駆体として使用される時のデメリット(例えば、薄膜内のハロゲン不純物含有量の増加など)を克服することができる。
【0058】
本願の他の側面による薄膜の製造方法は、基板上に、前記製造方法により製造された有機金属化合物を含む気相蒸着前駆体を吸着させ、不活性気体で未反応の前記気相蒸着前駆体をパージングする第1ステップと、反応ガスを注入して吸着された1つ以上の前記気相蒸着前駆体と反応させ、未反応の前記反応ガスをパージングする第2ステップと、を含み、前記反応ガスは、プラズマによって活性化され、前記第1ステップにおいて前記気相蒸着前駆体の注入時間は4秒以上であり、前記第2ステップにおいて前記反応ガスの注入時間は8秒以上であってもよい。
【0059】
前記有機金属化合物の蒸着においては、複雑な形状の3次元構造においても優れた均一度を有するナノ厚さの薄膜蒸着が可能な原子層蒸着法(ALD)または原料がすべて気体状態で供給されて、原料の量を比較的容易かつ正確に調節可能な有機金属化学蒸着法(MOCVD)が使用できる。
【0060】
前記第1ステップと次に進行する前記第2ステップとを合わせて1つのサイクル(cycle)をなし、前記サイクルは所望する厚さの薄膜を得るまで繰り返される。
【0061】
また、前記パージングのためのパージングガスとしては、不活性気体であるアルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)、または水素(H2)の中から選択された1つ以上を使用することを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記反応ガスとしては、製造しようとする薄膜によって、酸化剤、還元剤、窒化剤などが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
例えば、前記酸化剤としては、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、またはオゾン(O3)などが使用可能であり、前記還元剤としては、水素(H2)、アンモニア(NH3)、ヒドラジン(N24)、ボラン(BH3)、ジボラン(B26)などが使用可能であり、前記窒化剤としては、アンモニア(NH3)、ヒドラジン(N24)、窒素(N2)などが使用可能である。
【0064】
前記反応ガスを活性化させるプラズマは、ArおよびH2の混合プラズマであってもよく、プラズマの使用により反応ガスの反応性を向上させて工程温度区間を広げ、気相蒸着前駆体の完全な反応を導き出して不純物の少ない薄膜の形成が可能である。
【0065】
前記第1ステップにおける前記気相蒸着前駆体の注入時間は4秒以上であってもよい。
これは、前記気相蒸着前駆体の注入時間が4秒未満の場合、薄膜の蒸着率が飽和しないからである。
【0066】
前記第2ステップにおける前記反応ガスの注入時間は8秒以上であってもよい。
これは、前記反応ガスの注入時間が8秒未満の場合、薄膜の蒸着率が飽和しないからである。
【0067】
一実施形態において、前記反応ガスとしては、還元剤を使用することができる。
【0068】
一実施形態において、前記薄膜の製造方法の蒸着温度が350℃以下であり、蒸着率は0.21Å/cycle以下であってもよい。
【0069】
好ましくは、前記蒸着温度が200~300℃であってもよい。すなわち、通常、金属薄膜を製造するための蒸着温度である500℃以上の高温に比べて相対的に低温で金属薄膜の製造が可能である。
【0070】
本願のさらに他の側面による、タングステン金属薄膜は、密度が14g/cm3以上であってもよい。これは、β相(phase)のみからなるタングステン金属薄膜の密度(10~13g/cm3)より高い密度である。
【0071】
一実施形態において、α相(phase)とβ相(phase)とを含むことができる。また、比較的純度の高いタングステン金属相のみからなる薄膜を確保することができる。これに対し、既存のタングステン気相蒸着前駆体を蒸着させたタングステン薄膜の場合、WCx、WOx、WNxなどの薄膜が形成されて、純度の高い金属相のみからなるタングステン薄膜が要求される製品に適用しにくかった。
【0072】
一実施形態において、比抵抗値が300μΩ・cm以下と多様な電子製品に適用可能である。これに対し、既存のタングステン気相蒸着前駆体を蒸着させたタングステン薄膜の場合、上述のように、純度の高い金属相のタングステン薄膜を得ることができず、比抵抗値が相対的に高く適用範囲が制限的であった。
【0073】
本願のさらに他の側面による電子装置は、前記薄膜を含むことができる。
【0074】
一実施形態において、前記電子装置は、半導体、ディスプレイ、および太陽電池からなる群より選択されるいずれか1つであってもよい。
【0075】
特に、前記純粋な金属相のタングステン薄膜は、優れた抵抗特性に基づいて半導体の電極および配線材料として適用可能であり、例えば、3D NANDのゲート(gate)などに適用可能である。
【0076】
以下、実施例を用いて本願をより具体的に説明するが、本願がこれに制限されるわけではない。
【0077】
[実施例1]W(CO) 3 (Me 3 tach)の合成
タングステンヘキサカルボニル(tungsten hexacarbonyl)50g(0.14mol)を、500mLの2口フラスコ(2 neck flask)に定量した後、トルエン(toluene)200mLを添加した。次に、1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ1,3,5-トリアジン(1,3,5-trimethylhexahydro-1,3,5-triazine、Me3tach)39.82g(0.32mol)を前記溶液に入れた。その後、還流(reflux)で16時間撹拌して反応を完了した。
【0078】
この過程で黄色固体が形成された。得られた固体を熱く維持し、フィルタ(filter)により濾過し、得られた固体をトルエン(toluene)とヘキサン(hexane)で洗浄した。以後、得られた固体を真空で乾燥して黄色固体を得た(反応収率:90%)。
【0079】
得られたW(CO)3(Me3tach)のNMR測定の結果は下記の通りであり、これを図1の(a)に示した。
1H-NMR (400MHz, Acetone-D6):
δ 5.07 (d, 3H)
δ 4.93 (d, 3H)
δ 2.62 (s, 9H)
【0080】
[実施例2]W(CO) 3 (CH 3 CN) 3 の合成
実施例1で合成されたW(CO)3(Me3tach)3 50g(0.13mol)を1Lの2口フラスコ(2 neck flask)に定量した後、トルエン(toluene)200mLとアセトニトリル(CH3CN)400mLを順に添加した。
【0081】
その後、約16時間常温で撹拌して反応を完了した。この過程で淡黄色固体が形成された。得られた固体をフィルタ(filter)により濾過し、ヘキサン(hexane)で洗浄した。以後、得られた固体を真空で乾燥して淡黄色固体を得た(反応収率:85%)。
【0082】
得られたW(CO)3(CH3CN)3のNMR測定の結果は下記の通りであり、これを図1の(b)に示した。
1H-NMR (400MHz, Acetone-D6):
δ 2.45 (s, 3H)
【0083】
[実施例3]H(Cp)W(CO) 3 の合成
実施例2で合成したW(CO)3(CH3CN)3を500mLの2口フラスコ(2 neck flask)に定量した後、テトラヒドロフラン(THF)200mLを添加した。次に、この溶液にエチルシクロペンタジエン(ethyl cyclopentadiene)およびイソプロピルシクロペンタジエン(isopropyl cyclopentadiene)をそれぞれ添加した。
【0084】
その後、約16時間還流(reflux)で撹拌して反応を完了し、真空で溶媒および揮発性副反応物を除去した。この残留物にヘキサン(hexane)を入れて希釈し、セライト(celite)が入っているフィルタ(filter)により濾過した後、濾過液を再度真空で乾燥した。
【0085】
この液体を減圧して蒸留を進行させた。
【0086】
エチルシクロペンタジエンが置換されたHEtCpW(CO)3は黄色液体で、反応収率は92であった。
【0087】
得られたHEtCpW(CO)3のNMR測定の結果は下記の通りであり、これを図1の(c)に示した。
1H-NMR (400MHz, C66):
δ 4.63 (m, 2H)
δ 4.46 (m, 2H)
δ 1.82 (q, 2H)
δ 0.72 (t, 3H)
δ -6.99 (s, 1H)
【0088】
イソプロピルシクロペンタジエンが置換されたHi-PrCpW(CO)3は黄色液体で、反応収率は60%であった。
【0089】
得られたHi-PrCpW(CO)3のNMR測定の結果は下記の通りであり、これを図1の(d)に示した。
1H-NMR (400MHz, C66):
δ 4.59 (m, 2H)
δ 4.42 (m, 2H)
δ 2.02 (m, 1H)
δ 0.73 (d, 6H)
δ -7.05 (s, 1H)
【0090】
合成されたHEtCpW(CO)3およびHi-PrCpW(CO)3の熱重量分析を実施した。熱重量分析時に用いられた機器はMettler Toledo社のTGA/DSC 1 STAR Systemで、50μL容量のアルミナるつぼ(Alumina crucible)を用いた。すべての試料の量は10mgを使用し、30℃から400℃まで測定し、昇温は10℃/minの速度で行われた。
【0091】
図2に示すように、HEtCpW(CO)3およびHi-PrCpW(CO)3の400℃での残留量はそれぞれ0.21wt%、0.94wt%であることを確認することができた。
また、HEtCpW(CO)3およびHi-PrCpW(CO)3の半減期[T1/2(℃)]はそれぞれ208℃、212℃と測定された。
【0092】
[製造例]
原子層蒸着(ALD)装置を用いて、前記実施例3により製造されたHEtCpW(CO)3を薄膜に蒸着した。本実験に用いられた基板は、p++型Si上にdry oxidation SiO2が300nm蒸着されたウエハであった。蒸着に先立ち、前記ウエハはアセトン-エタノール-脱イオン水(DI water)にそれぞれ10分ずつ超音波処理(Ultra sonic)して洗浄した。
【0093】
HEtCpW(CO)3-Ar(16秒)-水素(H2)-Ar(8秒)の順に供給することを1回のサイクルとした。この時、HEtCpW(CO)3の注入時間および水素(H2)の注入時間をそれぞれ調節した。HEtCpW(CO)3のパージ(purge)のためのアルゴン(Ar)の流量は50sccmとした。反応ガス(還元剤)として使用された水素(H2)は157sccmの流量でアルゴン(Ar)とともに流した。
【0094】
水素(H2)の注入後、活性化のために、プラズマ(RF power:200W、工程圧力:1.7torr)を加えた。
【0095】
各反応気体は空圧バルブのon/offを調節して注入した。蒸着温度は100℃~400℃の範囲で調節し、反応器の圧力は1.7torrとした。
【0096】
本製造例において、基板は、Siウエハを用いたが、ガラス、シリコン、または高分子など当業界にて知られたものはいかなるものでも使用可能である。前記不活性気体としては、Arを使用したが、N2、He気体、またはこれらの混合気体など当業界にて知られたものを使用することができる。
【0097】
また、反応ガスとして用いた水素(H2)の代わりに、アンモニア(NH3)、ヒドラジン(N24)、ボラン(BH3)、ジボラン(B26)などを、金属薄膜を形成するための還元剤として使用してもよい。
【0098】
[実験例1]前駆体および反応ガスの注入時間の変化による蒸着率の変化の測定
製造例において、蒸着温度250℃で、HEtCpW(CO)3の注入時間をそれぞれ2秒、3秒、4秒、8秒に調節した結果、図3の(a)に示すように、注入時間が4秒まで増えるにつれて蒸着率が迅速に高くなったが、4秒から8秒に注入時間が増えることによる蒸着率の変化はほとんど観察されなかった。すなわち、注入時間4秒後の蒸着率が飽和することが分かった。
【0099】
また、蒸着温度250℃で、反応ガスである水素(H2)の注入時間をそれぞれ4秒、6秒、8秒、10秒に調節した結果、図3の(b)に示すように、注入時間が8秒まで増えるにつれて蒸着率が迅速に高くなったが、8秒から10秒に注入時間が増えることによる蒸着率の変化はほとんど観察されなかった。すなわち、注入時間8秒後の蒸着率が飽和することが分かった。
【0100】
[実験例2]蒸着温度の変化による蒸着率の変化およびALDサイクル回数による厚さの変化の測定
製造例において、蒸着温度を100℃から400℃の間に調節した。蒸着温度を調節した結果、図4の(a)に示すように、350℃以下の蒸着温度で一定の蒸着率を確保可能であることを確認することができた。
【0101】
すなわち、蒸着温度が100℃から200℃に変化するにつれ、蒸着率は迅速に高くなり、以後、300℃までは高くなった蒸着率がほぼ一定に維持されたが、蒸着温度を350℃に上昇させると、蒸着率はやや減少する傾向を示した。以後、蒸着温度を400℃に上昇させると、蒸着率は再度高くなった。
【0102】
また、HEtCpW(CO)3(4秒)-Ar(16秒)-水素(H2)(8秒)-Ar(8秒)の順に供給することを1回のサイクルとしかつ、250℃の蒸着温度でサイクル回数をそれぞれ300回、600回として蒸着させた結果、図4の(b)に示すように、nucleation delayなしに線形的に一定に蒸着されることを確認することができた。
【0103】
[実験例3]タングステン金属薄膜のX線回折法分析
製造されたタングステン金属薄膜をX線回折法(X-ray diffraction)で測定した結果、図5に示すように、タングステンのα相(phase)とβ相(phase)に相当するピークをすべて確認することができた。
【0104】
[実験例4]タングステン金属薄膜のX線反射率測定法分析
図6に製造されたタングステン金属薄膜の密度をX線反射率測定法(X-ray reflectometry;XRR)で測定した結果とシミュレーション結果を示した。測定結果とシミュレーション結果とは一致しており、これより測定された薄膜の密度は15.03g/cm3であることを確認することができた。
【0105】
測定された密度は、β相(phase)のみからなるタングステン金属薄膜の密度(10~13g/cm3)に比べて高い値で、これは、上述したX線回折法測定の結果のように製造されたタングステン金属薄膜にはα相(phase)とβ相(phase)とが混在するためと推定される。
【0106】
[実験例5]タングステン金属薄膜の比抵抗値分析
タングステン薄膜の比抵抗値を4-point probe法で分析した結果、300μΩ・cm以下の比抵抗値を有することを確認することができた。
【0107】
以上説明したように、本発明の有機金属化合物の製造方法により高い反応収率で有機金属化合物を合成することができた。
【0108】
また、前記有機金属化合物を気相蒸着前駆体として金属薄膜を製造した結果、優れた特性を有する薄膜が形成されることを確認した。
【0109】
このような優れた特性によって、今後、ゲート電極および配線工程において活用が期待されており、その他、このような高品位薄膜はナノ装置およびナノ構造の製造、半導体、ディスプレイ、太陽電池など多様な分野に応用可能である。
【0110】
本発明の範囲は、上記の詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその均等概念から導出されるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6