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特開2022-167878SOCチャートを用いた計画発電蓄電制御技術
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167878
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】SOCチャートを用いた計画発電蓄電制御技術
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/12 20160101AFI20221027BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20221027BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221027BHJP
   B60L 50/62 20190101ALI20221027BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20221027BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20221027BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B60W20/12 ZHV
B60W20/13
B60L15/20 J
B60L50/62
B60L58/12
B60K6/46
B60W10/26 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070624
(22)【出願日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2021073245
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301068767
【氏名又は名称】エーシーテクノロジーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516268840
【氏名又は名称】株式会社サニックス
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【弁理士】
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】清水 庄一
(72)【発明者】
【氏名】吉用 茂
(72)【発明者】
【氏名】森 秀雄
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB00
3D202BB01
3D202BB11
3D202BB19
3D202CC00
3D202DD00
3D202DD01
3D202DD45
3D202DD50
5H125AA01
5H125AC07
5H125AC12
5H125BA00
5H125BC08
5H125BC12
5H125BD17
5H125CA18
5H125DD02
5H125EE27
5H125EE51
5H125EE55
5H125EE57
5H125EE61
(57)【要約】
【課題】
大型の商用レンジエクステンダーEVでは大量の電池と高出力のエンジン発電機を必要とするので、乗車人数や搭載貨物の制限が生じると共に、内燃機関のエンジンからの大量の排気ガスが発生する。
【解決手段】
レンジエクステンダーEVの走行計画で、走行前に走行途中で必要な発電量と発電区間を見積もる方法として、出発地点から目的地点までを電池電力だけで走行する事を想定し、目的地点での電池の負の蓄電量(SOC値)から電池の最小蓄電必要電力量(SCL)を引いた値の絶対値を、走行途中に必要な発電量とし、望ましくは走行途中において、その走行計画を修正する事で、搭載する二次電池と発電機の小型化を図るする計画発電蓄電制御技術とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行する所謂PRE-EV車両において、走行前に走行路情報を用いてSOCチャートを作成するに当たって、その走行路を走行するに必要な発電量を求める手段を有する事を特徴とするSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御技術。
【請求項2】
搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEVにおける計画発電蓄電制御装置であって、
走行路情報と、走行前に暫定値として与えられた速度と電費と重量とを用いて、走行路情報で設定した走行路を走行するのに必要なSOCチャートを作成するSOCチャート作成手段を有する事を特徴とするSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置。
【請求項3】
走行時において、その時点で取得できる速度、電費又は重量に基づいてSOCチャートを修正するSOCチャート修正手段を備える、請求項2に記載のSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置。
【請求項4】
前記SOCチャート修正手段は、車両の走行途中でGPS等の位置情報収集装置から走行地点の位置情報と、車両から電池の蓄電量を表すSOC値等の車両情報及び地図情報を用いる事で、走行前に計画したSOCチャートからのSOC値との差を監視し、その乖離値が設定した値に達した場合は、SOCチャートの再作成を走行途中で逐次行う、請求項3に記載のSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置。
【請求項5】
走行中に予期しない事態により、前記SOCチャート修正手段がSOCチャートの修正を行っても目的地まで到達出来ない事を予測する予測手段と、前記レンジエクステンダーEVのドライバーにその場合に適応した運転の指示を与える指示手段を有する、請求項3又は4に記載のSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置。
【請求項6】
前記SOCチャート作成手段は、必要な発電量を求めるためには出発地点での電池の蓄電量を使用して目的地まで走行すると想定し、目的地点でのSOC値から求まる負の電力量に電池の最小蓄電必要電力量(SCL)を加えた値の絶対値を走行に必要な発電電力量とする、請求項2~4の何れか1項に記載のSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置。
【請求項7】
前記SOCチャート作成手段は、電池走行を行う走行路で充電器の設置場所が余め分かっている場合は充電器で充電を行うか否かを判断し、その結果を走行前に作成するSOCチャートに反映する請求項2~4の何れか1項に記載のSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置。
【請求項8】
搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEVであって、
エンジン発電機による車両の電池の充電の制御装置として、請求項2~4の何れか1項に記載の計画発電蓄電制御装置を使用しているレンジエクステンダーEV。
【請求項9】
搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEVにおける計画発電蓄電制御方法であって、
走行路情報と、走行前に暫定値として与えられた速度と電費と重量とを用いて、走行路情報で設定した走行路を走行するのに必要なSOCチャートを作成するSOCチャート作成ステップと、
走行時において、その時点で取得できる速度、電費又は重量に基づいてSOCチャートを修正するSOCチャート修正ステップとを有する事を特徴とするSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン発電機で二次電池を充電し、その二次電池によってモーターを駆動して走行するプラグインレンジエクステンダーEV(Plug-In Range Extended-Electrical Vehicle)車両の計画発電蓄電制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池駆動によるEV車両は二酸化炭素(CO2)の排出がないクリーン交通機関として注目されている。第一の理由は内燃機関で走行する車両と異なり、二次電池に蓄積された電力でモーターを駆動して走行するので、CO2排出がなく静かであり乗り心地も優れていることによる。第二の理由として燃料代を含む維持費はディーゼルエンジン等の車両に比べて安いことから導入する利点は大きいと考えられている。
【0003】
しかし、現状のEV車両の一種であるEVバスの価格は高価な二次電池を大量に搭載する必要があるために、同席数のディーゼルエンジンのバスと比較して初期投資が数倍と高価となり、なかなかその導入が進んでいない。また、EVトラックにおいては、大量の二次電池のスペースがトラックの搭載積載量を減少させてしまう等、使い勝手が悪い等の理由により普及が遅れている。
【0004】
この解決策としてシリーズハイブリッド方式が乗用車には適用されている。一般的にはこの技術は既存のエンジンを発電機として使用し、小容量の二次電池を搭載し、ほとんど常にエンジンを駆動して二次電池に充電し、その二次電池の電力でモーターを駆動させて車両を動かすものである。
【0005】
しかし、バスやトラック等の商用車に適用しようとすると、二次電池の蓄電量が少なくなり発電を行うとした時に、急な長い登坂を走行するために大きな瞬時電力を供給する必要があるので大型発電機と大量の二次電池が必要となる。その結果スペースが取られ、バスでは座席数の削減、トラックでは貨物積載量が制限されるため、商用車のシリーズハイブリッド化はなかなか進まない。
【0006】
それに対して、本技術のレンジエクステンダーEV(以後はRE-EVと記す)車両は地理情報システム(GIS)とGNSS(Global Navigation Satellite System/全地球測位衛星システム)を活用する事で走行ルート上の位置情報や高度差等の路面情報を収集し、さらにこれまでの走行時に蓄積した走行データを用いる事で、走行前に発電計画(走行計画)の作成を行っている。また走行路に充電器が設定されていれば、そこでの充電(プラグイン)を組み入れた走行計画を立てるプラグインレンジエクステンダーEV (以後はPRE-EVと記す)車両とする事も可能である。
このように走行前にその日の走行計画に立てる事で、必要な発電量を事前に算出出来るので、走行中の適切な発電開始時期と発電期間を設定出来る事から発電機と二次電池の小型化が可能となる。
【0007】
提案者は以前にこのようなRE-EVの技術を公共交通システムの主要車両の1つであるバスに応用した特許提案を行っている(特開2019-77257)。さらに、計画発電蓄電制御技術を搭載した大型トラック等の商用車を想定したPRE-EV車両の構成方法についても(特開2020-62906)として特許提案済である。
【0008】
本提案と同様な先行技術として、地図情報やGPS情報、及び電池の残容量を検知して車両に搭載した発電機の駆動を制御するとした"電気自動車ナビゲーションシステム(特許第3264123)がある。この提案はそれまでのハイブリッド自動車は電池容量が少なくなった時点で車両に搭載した発電機を駆動させることで無公害地域でも排気ガスを出してしまう課題に対して、無公害地域に近接してかつ電池残量が少ない場合には発電機を駆動して充電をしておき、無公害地域では発電機を停止して排気ガスを出さないようにできるナビゲーションシステムを活用した技術である。これにより無公害地域では出来るだけ排気ガスを防止できるということを主張している。しかし、本提案の計画発電蓄電制御技術を用いたPRE-EV車両は、発電量を抑制するためのモデリングや制御方法を駆使する事で、発電機の小型化と小容量の二次電池の使用が可能となり積載量に与える影響は限定的なので、商用車においてもシリーズハイブリッド技術を活用可能にするものである。
【0009】
なお、エンジンは以下の記述ではディーゼルエンジンを想定しているが、それに限定されたものではなく、ガソリンエンジンでも燃料発電機(所謂燃料電池)等でも構わない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3264123
【特許文献2】特開2019-77257
【特許文献3】特開2020-62906
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明によって解決しようとする課題は、これまでのシリーズハイブリッド車両ではエンジン稼働を控えたい状況(例えば長いトンネル、病院又は学芸区域等)、或いは長い急な坂道を走行する場合等に備えて、搭載する大量の二次電池と大型発電機の搭載のために、バスでは座席数がトラックでは貨物搭載容量を犠牲になる課題があった。さらに、大型発電機用のエンジンは燃料消費量とそれに比例するCO2排出の削減に課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本提案では、走行前に地図情報から走行路の位置(緯度、経度)と高度情報と、車両からの平均水平電費、平均速度、車載重量等の情報を活用して、走行に最適な二次電池の使用時期とエンジン発電機による蓄電量を計算する事で、目的地点での二次電池の蓄電状態であるSOC(「State Of Charge」の略であり、蓄電量、充電率または充電状態を表す指標。以下同じ。)の目標値を設定し、走行中のSOCの状況をチャート形式などで表すSOCチャートの作成を行う。
さらに、走行中は車両情報と、GISやGNSSなどのICTを活用する事により、逐次、電池の蓄電状況を監視し、走行途中のSOC値がSOCチャートから設定した値以上に乖離した場合はSOCチャートを再作成する手段を有する。即ち、走行開始後は、走行途中で逐次得られる走行情報と車両情報に基づいて当初の走行計画を修正しながら走行を行う。この結果、最適なタイミングで二次電池への充電開始及び停止が行える事から小型のエンジン発電機と小容量の二次電池の使用が可能となり、これまでの特にシリーズハイブリッド商用車両の課題を解決する事が出来る。
【0013】
即ち本発明では、搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行する所謂PRE-EV車両において、走行前に走行路情報を用いてSOCチャートを作成するに当たって、その走行路を走行するに必要な発電量を求める手段を有する事を特徴とするSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御技術として、SOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置とSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御方法を提供する。
【0014】
上記本発明の計画発電蓄電制御技術において、走行前に走行路情報を用いてSOCチャートを作成するに当たって、速度と電費と重量を暫定値として与え、走行時では、その時点で取得できる電費、速度、重量を暫定値に変える事も取り入れる手段を有しても良い。
【0015】
また、必要な発電量を求めるためには出発地点での電池の蓄電量を使用して目的地まで走行すると想定し、目的地点でのSOC値から求まる負の電力量に電池の最小蓄電必要電力量(SCL)を加えた値の絶対値を走行に必要な発電電力量とすることができる。
【0016】
また、SOCチャートの作成方法としては目的地点の設定したSOC値から電池走行で出発地点に向かって逆引きに電池蓄電量を表すSOCラインを引いて、最大蓄電可能電力量(SCH)に到達した場合は発電するラインに切り替え、さらに最小蓄電必要電力量に到達した場合は、再び電池の蓄電量で走行するSOCラインに切り替える事を繰り返して、出発地点から電池走行によるEVラインと発電ラインが交差した地点をEVラインの停止かつ発電ラインの開始とすることもできる。
【0017】
また、出発地点での電池の蓄電量は、最大蓄電可能電力量と最小蓄電必要電力量の間の値を取り得ることもできる。
【0018】
また、走行前のSOCチャートを作成するに当たって、走行途中でSCL以下となり得る場合は早めに発電を開始し、SCH以上となり得る場合は早めに発電を停止し、さらに静音区間でエンジンを駆動せざるを得ない場合は静音区間に入る前に必要な電力量を発電する事で静音区間での発電状態を回避し、SOCチャートをSCLからSCHの範囲内に作成するように発電時期と発電区間を設定することもできる。
【0019】
また、車両の走行途中でGPS等の位置情報収集装置から走行地点の位置情報と、車両から電池の蓄電量を表すSOC値等の車両情報及び地図情報を用いる事で、走行前に計画したSOCチャートからのSOC値との差を監視し、その乖離値が設定した値に達した場合は、SOCチャートの再作成を走行途中で逐次行う手段を有することもできる。
【0020】
また、SOCチャート作成時と再作成時に走行路が複数の小走行路の集合で成り立っている場合に、その小走行路の入口又は出口で走行状態の変換を行うこともできる。
【0021】
また、走行前のSOCチャート作成に当たって、設定電費は想定される値よりも悪い値を、また設定速度は想定される速度よりも速い値を用いて作成を行い、走行中は車両から取得する電費および速度を用いて、SOCチャートの再作成を行うこともできる。
【0022】
また、必要な発電量は電池のSCHとSCLの間をSOCチャートが往復する回数に、電池の使用可能な蓄電電力量(最大蓄電可能電力量-最小蓄電必要電力量)を掛けた値と、その値を前記絶対値から引いた時の電力量も走行に必要な発電電力量に含めることもできる。
【0023】
また、電池走行を行う走行路で充電器の設置場所が余め分かっている場合は充電器で充電を行うか否かを判断し、その結果を走行前に作成するSOCチャートに反映することもできる。
【0024】
また、充電器で充電を行うか否かの判断は、電池走行の最終地点がSCLとなる地点から出発地点の方向に決められた距離以内に充電器が設置されているか、充電器で充電するための充電時間が確保出来るか、運航計画に支障が来さないかを判断することもできる。
【0025】
また、走行中に予期しない事態によりSOCチャートの修正を行っても目的地まで到達出来ない事を予測する手段(予測手段)と、ドライバーにその場合に適応した運転の指示を与える手段を有することもできる。
【0026】
また、ドライバーに与える運転の指示は、走行速度を現在よりも減速して発電時間を確保する事、又は必要な蓄電量を確保するために車両を停止して発電を行う等とすることができる。かかる指示手段は、指示内容を表示するディスプレイなどの表示手段である他、音によってドライバーに指示する報知装置であっても良い。また予測手段は現在のSOCと残りの走行区間についてのSOCチャートから目的地への到達の可否を予測することができる。
【0027】
また、当初予定の走行路に支障が生じて迂回路を走行する場合に当たって、迂回路走行に適応したSOCチャートを再作成する手段を有することもできる。
【0028】
また、電池だけを動力源とするEV車両においても走行前に走行路情報を取り入れたSOCチャートを作成し、走行中は逐次その地点でのSOC値とSOCチャート上のSOC値を比較して、充電設置場所と必要な充電量を知らせる等の手段を有することもできる。
【0029】
また、通常は走行前に立てた走行計画に沿って走行するが、必要な場合は発電走行に切り替えて電池に蓄電する事を優先して、所定の地点で電池の蓄電量を最大にする手段を有することもできる。
【0030】
そして本発明では前記課題を解決するために、搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEVにおける計画発電蓄電制御装置であって、走行路情報と、走行前に暫定値として与えられた速度と電費と重量とを用いて、走行路情報で設定した走行路を走行するのに必要なSOCチャートを作成するSOCチャート作成手段を有する事を特徴とするSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置を提供する。かかる計画発電蓄電制御装置では、更に、走行時において、その時点で取得できる速度、電費又は重量に基づいてSOCチャートを修正するSOCチャート修正手段を備えることもできる。
【0031】
そして本発明では前記課題を解決するために、SOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置を提供する。即ち、搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEV(EVは「Electric Vehicle:電気自動車」の略)における計画発電蓄電制御装置であって、走行路情報と、走行前に暫定値として与えられた速度と電費と重量とを用いて、走行路情報で設定した走行路を走行するのに必要なSOCチャートを作成するSOCチャート作成手段を有するSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置を提供する。かかる計画発電蓄電制御装置では、更に、走行時において、その時点で取得できる速度、電費又は重量に基づいてSOCチャートを修正するSOCチャート修正手段を備えることもできる。
【0032】
そして本発明では前記課題を解決するために、前記SOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置を備えたレンジエクステンダー車両(レンジエクステンダーEVとも言う)を提供する。即ち、搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEVであって、エンジン発電機による車両の電池の充電の制御装置として、上記本発明に係る計画発電蓄電制御装置を使用しているレンジエクステンダーEVを提供する。特に充電器からも充電可能とし、走行路に充電器が設定されていれば、そこでの充電(プラグイン)を考慮した走行計画を立てるプラグインレンジエクステンダーEV (以後はPRE-EVと記す)とする事も可能である。
【0033】
そして本発明では前記課題を解決するために、SOCチャートを用いた計画発電蓄電制御方法を提供する。即ち、搭載した電池で走行すると共に、エンジン発電機で車両の電池を充電し、その電力でモーターを駆動して走行するレンジエクステンダーEVにおける計画発電蓄電制御方法であって、走行路情報と、走行前に暫定値として与えられた速度と電費と重量とを用いて、走行路情報で設定した走行路を走行するのに必要なSOCチャートを作成するSOCチャート作成ステップと、走行時において、その時点で取得できる速度、電費又は重量に基づいてSOCチャートを修正するSOCチャート修正ステップとを有するSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御方法である。かかるSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御方法はコンピュータによって実行することができる。即ち、コンピュータプログラムによって実施することができる。
【0034】
このように計画的に発電機の駆動と停止を操作する仕組みを計画発電蓄電制御システムと名付け、その基本的な概念を示す。車両の走行時に電池から供給される電力量は駆動電力と補器電力に使用される。駆動電力は、転がり抵抗、空力抵抗、加速度抵抗および勾配抵抗に対抗するエネルギーであり時々刻々と変化する。車両の設計時に駆動モータの瞬時パワーを出力できる2次電池容量と駆動システムの駆動力を決定し、それらの能力範囲内で目的地に到達できるように消費エネルギーの配分計算を行うのが当該計画発電蓄電制御システム(以下、「本システム」とも言う。)の基本である。
従って、発電機としては瞬時パワーを即座に供給できる必要はなく、現在地から目的地の間で必要となる電力量を供給できれば良い。この場合、瞬時に必要な電力量は電池から供給できるように計画的に充電する。例えば、電池残量の下限値付近では瞬時に必要な電力を供給出来るように前もって充電を行い、また、満充電付近で瞬時に大きな回生電力量を発生する事のないように、その前に発電機を停止する等を計画的に行う事によって使用するSOC範囲を電池の特性に合わせて設定しSOCチャートを作成する。
【0035】
本システムの計算方法を以下に示す。車両が電池で走行する所謂EV走行時に、走行ルートにおける現在地から目的地までの消費電力量Pを、水平移動電力量Phと垂直移動電力量Pvに分けて算出し、現在の電池の残量に対して不足する電力を算出する。この不足する電力量は発電機を必要最低限の区間で駆動して発電量Pgを確保して走行する。計画発電蓄電制御により発電機を制御することにより目的地での電池残量を設定値に合わせることができる。
現在地の電池残量をSOC、目的地の電池残量設定値SOCをSCL、電池搭載量をDとすれば、電池残量はD ・ (SOC - SCL)である。発電機による発電量をPgとすれば現在地から目的地まで到着できる条件は、使用可能電力量が、必要電力量より大きい事であるから、
Pg + D ・ (SOC - SCL)> Ph + Pv となる。
従って、発電すべき電力量は、
Pg > Ph + Pv - D ・ (SOC - SCL) となる。
ここで、Ph = 距離A(km) / 水平移動の平均電費C(km/kWh)、
Pg = (発電機出力P) ・ (発電時間tg)、 発電時間tg = (距離A) / (平均速度v)
であるから、電費が悪くなり平均車速が速くなると、発電時間が短くなり航続距離が短くなる。また、以下の式(1)が成り立つ。
Pv = (m・g・hu)―(k・m・g・hd) ・・・(1)
ここで、mは車両の総重量、gは重力加速度、huは現在地から目的地までの累計上り標高差、hdは累計下り標高差であるから、重量mが重く、登りの累計標高差が大きく、回生係数k(以下で説明)が小さいと垂直移動電力量Pvが大きくなり、発電出力を高める必要がある。
ここでは、回生率と回生係数kの違いについて記す。回生率は、同じ坂を上る時の電力消費量Puに対する、同じ距離の坂を下る時の電力消費量Pdの比である。
Pu = Phu + m・g・hu
Pd = Phd ― k・m・g・hd
ここでPhuは水平走行時の消費電力量であり、Phdは同様に同じ距離を水平方向に走行した時の消費電力量なので、道路条件や気候条件等が同じであればPhu=Phdとなるが、実際の走行では同じ条件とはなりえないので独立項として考える。
以上から、坂道での水平移動による走行の消費電力量も含めた電力量の比を回生率と定義すると、回生率 = Pd / Pu となり、この値は実測可能である。一方、垂直方向のみの電力量の比を回生係数kと定義すると、回生係数 k = Pvd / Pvu となる。
【0036】
回生係数kは、以下の様に考えて求めることが出来るが、計画発電蓄電制御システムのSOCチャートからも値を合わせこむことが出来る。ここで、移動電力(PhuおよびPhd)は(1)転がり抵抗、(2)空力抵抗、(3)加速度抵抗、(4)勾配抵抗に対抗するエネルギーである。回生率は勾配にあるルートを往復する時の上りの移動電力に対する下りの移動電力の比である。回生率には水平移動に必要な電力が上りと下りに含まれているため、回生係数よりも小さな値となる。計画発電蓄電制御システムでは、この電力を水平移動に必要な電力量である(1)転がり抵抗と(2)空力抵抗と(3)加速度抵抗の合計と、垂直移動に必要な電力量である(4)勾配抵抗に対抗するエネルギーとに分けて計算する。
例えば、駆動モータで巻き上げ機を構成する時、質量mの錘を高さhだけ持ち上げるのに必要なエネルギーはPvu = m・g・h、錘を高さhだけ降ろすときに、モータが発電機となって回収できるエネルギーがPvd = k・Pvuでありk < 1である。kはモータ・インバータの効率と電池の充電効率を掛けた値になる。すなわちk = (モータ・インバータの発電効率)・(電池の充電効率)となる。
【0037】
回生電力は減速時にも発生する。車両を速度1から速度2にフットブレーキを使用しない場合の減速時に回収できる電力量と、速度1から速度2に加速する場合に必要な電力量の比も回生係数kで表される。すなわち、mを車両の総重量、Δvを速度の変化量とすれば、以下の通り表すことができる。
速度1から速度2に加速するために必要な電力量は、(1/2)・m・Δv
速度2から速度1に減速することにより回収できる回生電力量は、 k(1/2)・m・Δv2
ここで、加速と減速の速度変化が同じ仮定すると、出発地から目的地までの加減速に必要な電力量は(1/2)・m・(Σ(1-K)Δvn2)となる。先の垂直方向の移動による回生係数をk1として、加速減速時の回生係数をk2とすると、総合の回生係数kはk = k1・k2となる。
【0038】
さらに詳細に車両の走行消費電力量(移動エネルギー)を計算式で示す。車両の移動エネルギーRは以下の(2)式で計算できる。
水平移動電力はR1は(2)式から算出できる。加速抵抗に対抗するエネルギーがあるが、一定速度の走行では0であり、R3の勾配抵抗はPvであることから、
・モータの消費電力の計算に使用する回転数とトルクは、走行パターンの速度と車両データから計算する
・時刻tのモータの回転数Nt(rpm):
Nt=(1000・im・Vt)/2πr
例として、im:減速ギヤ比(4.555)、r:タイヤの動的負荷半径(0.385m)、Vt:時刻tの車速(km/h)
・時刻tのモータの軸トルクTmt(N・m):
Tmt=(9.8・r・R)/(im・η)
R=R1(転がり抵抗+空気抵抗)+R2(加速抵抗)+R3(勾配抵抗)
=(μr・W+μa・A・Vt2)+((W+ΔW)/9.8))・(Vt-Vt-1)/3.6)
+(9.8・(W+ΔW)・(ht-ht-1)) (2)

ここで、各パラメータ値の一例を記す。
im:減速ギア比(4.555)、
η:減速機の伝達効率(0.95)、
ht-1 :時間tの1秒前における高度(傾斜地走行の場合)
Vt-1 :時間tの1秒前における車速 (km/h)
μr :ころがり抵抗係数 (kg/kg) μr=0.008210
μa :空気抵抗係数 (kg/m2/(km/h)2) μa=0.002846
A :前面投影面積 (m2) A=2.26x2.55=5.085
W :試験時車両質量 トラックの場合{空車時車両質量+大積載質量/2+55(1名)} (kg) 5715kg
ΔW :回転部分相当質量 (kg) 2178.5kg
モータの消費電力の計算:回転数・トルクから消費電力をシミュレーションすることができる。車両の移動エネルギーRが負になると逆起電力が発生し、回生電力として2次電池に蓄積する。
【0039】
以上のように、車両の消費電力量(移動エネルギー)は(1)式で現わされて、単位時間(ここでは1秒)内で変化する高低差(ht-1)と、同様な速度差(Vt-1)の関数となる。計画発電蓄電制御システムは、走行前にSOCチャートを作成するために、水平走行速度、電費、重量等を暫定値として用いるが、走行する事によって、その時点での速度、電費、及び高度が分かるため、それらの値を用いて走行途中でSOCチャートを再作成する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】計画発電蓄電制御システムの全体ブロック図である
図1B】計画発電蓄電制御システムにおける処理のフローチャートである
図2】SOCチャートを用いて必要発電量を見積もる方法を示す図である
図3】必要発電量を走行途中に設定する方法を表した図である
図4】SOCチャートを目的地点から出発地点に向かって逆引きで求める図である
図5】出発地点から電池の最小蓄電必要電力量SCLまで電池の電力量を使って走行を行い、目的地で目標のSOC値となるように発電走行した場合のSOCチャートである
図6A図4のSOCチャートを逆引きで求める方法と計算によって求める方法を表した図である
図6B図4のSOCチャートがSCLとSCHの間を3回発電する場合を計算によって求める方法を表した図である
図7】走行途中に静音区間が存在する場合に、発電区間をその前後に配置した事を表すSOCチャートである
図8】走行途中に急な登坂があり、発電を行ってもSOCが減少する場合の発電開始区間を表す図である
図9】走行途中に急な下坂があり、回生電力を無駄にしないための発電開始区間を表す図である
図10】走行途中の静音区間ではエンジンの稼働を控えるための発電区間を表す図である
図11】走行途中に充電器が設置されているので出発地点から充電器までは電池の蓄電電力量で走行し、充電器で電池にSCHまで蓄電する事を表した図である
図12】走行途中で充電器により充電を行い、その後は電池の蓄電電力量で目的地点まで走行する時のSOCチャートである
図13】走行途中で充電器により充電を行い、目的地点に走行する途中で発電を行なう時のSOCチャートである
図14】実際のSOCチャートの様子を描いた図である
図15】走行途中の各区間にてSOCチャートの修正方法を示した図である
図16A】SOCチャート再作成の別の方法を示し、走行前のSOCチャートを表した図である
図16B】SOCチャート再作成の別の方法を示し、最初のEV走行でのSOCチャートが修正されていく過程を表した図である
図16C】SOCチャート再作成の別の方法を示し、途中の発電走行でのSOCチャートが修正されていく過程を表した図である
図16D】SOCチャート再作成の別の方法を示し、目的地までのEV走行でのSOCチャートが修正されていく過程を表した図である
図17】出発地点から目的地点までの走行路は距離が一定でない区間で構成されている場合に、逆引きでSOCチャートを作成する課程を示した図である
図18】出発地点から電池の蓄電量で走行する場合に、逆引きで目的地点から出発地点まで作成したSOCラインと交差する場合の調整方法を示した図である
図19】出発地点から電池の蓄電量で走行する場合に、逆引きで目的地点から出発地点まで作成したSOCラインと交差しない場合の調整方法を示した図である
図20】走行路の途中で静音区間が存在する場合に、その区間で発電走行を避けるためのSOC作成方法を示した図である
図21】走行路の途中で蓄電してもSOC値が減少する急な登坂が存在する場合に、その区間で電欠となる事を避けるためのSOC作成方法を示した図である
図22A】EXCELを用いてプログラムのコード化前に検証として作成したVBAによるシミュレーションでのSOCチャートの作成過程を表した図であり、目的地点からSOCチャートが逆引きで作成される過程を示している
図22B】EXCELを用いてプログラムのコード化前に検証として作成したVBAによるシミュレーションでのSOCチャートの作成過程を表した図であり、走行路の途中の静音区間を避けて発電を行う事を示している
図22C】EXCELを用いてプログラムのコード化前に検証として作成したVBAによるシミュレーションでのSOCチャートの作成過程を表した図であり、逆引きによって出発地点までSOCチャートが作成された後に、SCHから目的地方向にEV走行が開始された事を示している
図22D】EXCELを用いてプログラムのコード化前に検証として作成したVBAによるシミュレーションでのSOCチャートの作成過程を表した図であり、SOCチャートが作成完了した事を示している
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態に係るSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御技術(即ち、計画発電蓄電制御装置及び計画発電蓄電制御方法)を具体的に説明する。
【0042】
図1Aに計画発電蓄電制御システム(即ち、画発電蓄電制御装置)の全体ブロック図を示す。この計画発電蓄電制御システムは、ECU(エンジンコントロールユニット)などのコンピュータによって構成することができ、少なくともSOCチャート作成手段を備える。かかるSOCチャート作成手段は、入力情報として、車両における走行に関する情報を特定する車両クラスなどの初期設定情報、目的地、走行ルート(走行経路情報)、暫定的な電費・速度・車両重量などの走行前情報、及び現在位置、二次電池の充電状態を示すSOC(State of Charge)、時点時点での電費・速度・車両重量(変動分)などの走行中情報を取得する。そして本システムの中核となる計画発電蓄電制御アルゴリズムによって、走行ルートの把握として、目的地までのルート候補取得及びルート決定、ルートを逸脱した時のりルート作成、さらに、SOCチャートの再作成として、初期のSOCチャートからの乖離量の計測、走行地点から目的地までの移動エネルギーの逐次3次元モデル化、発電計画作成及びSOCチャートの再作成等を行い、出力情報として発電制御などの制御指示情報、及びSOCチャート、発電状況、アラーム情報などのグラフィカルユーザーインターフェース表示情報を出力する。
【0043】
SOCチャート作成手段は、車両における走行に関する情報を特定する車両クラスなどの初期設定情報、目的地、走行ルート(走行経路情報)、暫定的な電費・速度・車両重量などの走行前情報に基づいて、走行ルート(走行経路情報)に応じたSOCチャートを作成する。そしてSOCチャート修正手段は、車両の走行中に取得する走行中情報に基づいて、当初作成したSOCチャートを修正し、修正SOCチャートを作成する。特に入力情報の中に走行前に設定する暫定値(パラメータ)として、電費、速度、車両重量があり、これらは走行中情報として更新されて、その時点時点での電費、速度、及び途中での荷物の積載及び積み下ろしによる車両重量変化を取得しSOCの再作成に役立てる。
【0044】
これによって、その時点以降の走行に対して、より正確な再作成SOCチャートが使用出来るので、走行中に観測されるSOC値との乖離が減少出来る事により、発電機のオンオフの回数を削減できると共に、目的地に到達時には走行前に設定したSOC値に、より近い値で走行する事が可能となる。発電機はオン時には安定状態に落ち着くまでに数十秒から数分必要となり、その間は消費電力量とCO2排出量が増加する等の不具合があるので出来るだけオンオフ回数は少なくする事が求められる。
【0045】
このように本PRE-EV車両は、二次電池の充電量が少なくなればエンジンを駆動させて二次電池に充電する、又は走行路途中で充電器から充電を行う。そのためEV車両の様に走行中での電欠の心配がなく、EV車両の課題であった走行距離の制限を撤廃する事が可能となり、非常に使い勝手の良い車両となり得る。さらに本PRE-EV車両は走行時間の多くの割合は二次電池によるモーターで走るので、通常のエンジン駆動車両に比較して二酸化炭素の排出が大幅に減少出来る。さらに内燃機関からのエンジン音は限定的であり、その結果、かなりの走行時間において静かで乗り心地も優れている。そして燃料代を含む維持費はディーゼルエンジンの車両に比べて安いことから導入する利点は大きいと考えられる。
【0046】
図1Bは、本実施の形態に係るSOCチャートを用いた計画発電蓄電制御装置における処理の流れを示すフローチャートである。この図に示す様に、当該計画発電蓄電制御装置は、車両クラスなどの初期設定情報、目的地と底までのルート情報、速度・電費・車両重量からなる走行前情報を取得する。これらの初期設定情報と走行前情報から、SOCチャート作成手段は当初のSOCチャートを作成する。そして当該SOCチャートに基づいて、レンジエクステンダーEVが備えるエンジン発電機を稼働させて車両の電池を充電する。そして本実施の形態において計画発電蓄電制御装置を構成するSOC監視手段は、走行中における現在位置と二次電池の充電状態を示すSOC(State of Charge)に基づいて、当初作成したSOCチャートと現在のSOCとを比較乃至は差分を算出する。そして差分が許容範囲を超える場合には、現在位置、二次電池の充電状態を示すSOC(State of Charge)、時点時点での電費・速度・車両重量(変動分)などの走行中情報に基づいて、SOCチャート修正手段は当初作成したSOCチャートを修正し、修正済みのSOCチャートを作成する。そして当該修正済みのSOCチャートを、当初作成したSOCチャートに置き換えて、引き続き当該SOCチャートとの差分等を算出して、適宜修正することができる。これにより、例えば車両重量の変化や、速度に基づいた電費に応じた最新のSOCチャートに基づいて、レンジエクステンダーEVの計画発電蓄電を制御することができる。
【0047】
図2から図13は走行前のSOCチャートの作成過程を示したものである。図中のSOCチャートは簡単化のために直線で示したが、実際は走行路の状態、発電機の駆動状況等により直線となり得ず、その様子は図14に模擬的に示した。
【0048】
図2は横軸に出発地点から目的地点までの距離又は時間を示し、縦軸は二次電池の蓄電量(SOC)を示している。また、SCHは電池の最大蓄電可能電力量を、SCLは最小蓄電必要電力量を示す。必要電力量Pcは走行路を走破するに必要な全電力量である。
出発地点で電池にはSCHの電力量が蓄電されているが、走行するにつれて蓄電量(SOC)は減少する。直線A-BはSOCの減少を表しており、目的地点ではマイナスの値となる。この走行では電池の蓄電量だけでは走行が出来ないので、途中で発電による電池への蓄電が必要となり、その必要な発電量はBから上方のSCLまでの矢印で示した電力量Pgとなる。
【0049】
図3では必要な発電電力量をSCLとSCHの間のチャート内に描く1つの方法を示す。直線C-Dは直線A-Bを上方に必要発電電力量Pgだけ平行移動させている。その時、直線C-DがSCHラインと交差した点をEとすると、E-FはPgと同じ発電量となる。そこで、Eから元のA-Bラインに発電を表すE-Gラインを引くが、E-Gラインの傾斜度合いは発電機の発電能力に依存する。車両はG-Fの期間はエンジン発電機を駆動して走行するため、蓄電によりSOC値はGからEに上昇すると共に、F地点までの走行に必要な電力を消費している。この作図の結果、SOCチャートはA-G-E-Cとなり、A-GとE-Cは電池の蓄電量によるEV走行を行い、その間のG-E期間はエンジン発電機を駆動させて電池に蓄電しながら走行する。
【0050】
図4図3に示したSOCチャートの作図方法であり、目的地点から逆引きでEV走行ライン(D-C)を描いて、そのラインがSCHに到達した地点で発電ライン(C-X)に切り替え、そのラインが出発地点からのEV走行ライン(A-B)と交差する地点Xを発電開始地点としている。本SOCチャートの作図方法は目的地点からラインを逆引きで目的地点に戻る事で行えるので直感的である。
【0051】
図5は出発地点からのEV走行はSCLまで続けて、SCLに達したら発電を開始し、目的地点でSOCがSCLとなるような地点まで発電を行う様子を示し、図6Aにその作図方法を示している。図6Aでは図4と同様に必要発電量PgをSCHまで平行移動させた細い破線の矢印ライン(C-E)から目的地点に向かって発電ライン(C-X)を発電開始のXがSCLに達するX'までスライドさせる事でSOCチャートはA -X'-C'-Dとなる事を表している。
また計算にて本SOCチャートを作成するには、発電開始地点(X')を知る必要があり、その地点から目的地点までの距離(Lr)を求める。ここで発電機の発電能力をPw、平均速度をvとすると、Lrを走行するに掛かる時間はLr/vなのでPg = Pw ・ Lr/vとなり、以下の式が成り立つ。

C 電費[km/kWh]
v 走行速度[km/h]
Pw 発電機電力[kW]
PB 電池の最大蓄電電力容量[kWh]
SCH 電池の最大蓄電可能電力量の割合[%]、例として90%
SCL 電池の最小蓄電必要電力量の割合[%]、例として10%

Lr = (Pg ・ v)/Pw
【0052】
図6Aは発電期間が1回の場合だが走行距離が長い場合は発電を何回か繰り返す事になる。図6Bは発電期間が3回の例を示し、最後の発電ではSCHまで達しない前にEV走行(A3-B4)に切り替えた場合である。
最後の発電期間に必要な発電電力量(Pgr)は以下の様に求める。L0は走行開始時の電池の蓄電量で走行するので、残りの走行に必要な発電電力量(Pgt)は全走行路長をLとすると以下となる。

Pgt = (L - L0)/C

電池の最大蓄電量をPBとし、SCLからSCHまでを最大使用可能電力量(80%)とするとL0=(0.8・PB)・Cとなる。また、発電電力量(Pg)は、単位時間当たりの発電量を一定とするなら、発電機の発電量をPw、発電期間のB1のSCLからA1のSCHまでのデータ取得ポイント数をtg、Tをデータの取得周期(秒)とすると以下の式となる。

Pg = Pw ・ tg ・ T/3600

故に最後の発電電力量(Pgr)は以下となる。

Pgr = Pgt - 2・Pg = (L - L0)/C - 2・(Pw ・ tg ・ T/3600)
【0053】
なお、電費Cは走行路の状態によって増減する。最も影響があるのは走行路の傾斜であり、水平方向に走行するためには主に摩擦抵抗に打ち勝つ走行力に、登坂走行時は垂直方向の位置エネルギーが加わるため電費は減少し、反対に下坂は位置エネルギーが引かれるため電費は増加する。次式は水平電費をCRとし、傾斜を考慮した電費をCZとした時の関係式である。

CZ = CR/(1 + (D/100)・(M・ g ・ CR))

ここで、Dは傾斜の度合いを示す係数(%)であり、Lの距離だけ進んだ時にhだけ垂直方向に高低差がある場合は以下の関係である。

D = h/L

また、Mは車両重量であり、gは加速度係数の9.81m/s2である。それぞれの単位は、電費はkm/kWh、重量はkgである。従って傾斜のある走行路では、先の電費C[km/kWh]はCZに置き換える事で走行路の高低差を考慮した算出が行える。
【0054】
図7は走行途中に静音区間と定義するエンジンの稼働を控えるべき領域があり、例えば長いトンネル、ある一定の市内範囲、病院や学校区域等である。この区間はエンジン発電機は停止するため、発電区間は前半の(X-F)と後半の(E-C)に分割される。
【0055】
ところで計画発電蓄電制御技術とは、計画的に発電時間と発電区間を設定する事で、エンジンと発電機モーターの小型化と二次電池の容量を削減し、それらの占める容積を削減出来るので、バスでは乗車人員の人数をトラックでは積載量を通常の車両と遜色のない性能を持たせるものである。しかしモーター及び電池の小型化は急な長い登坂等の電力を瞬時に大量に使用する状況等では注意が必要である。以下に3つの走行パターンに関して計画発電蓄電技術の具体的な適応例を図で説明する。
【0056】
図8は走行路の途中に急な登坂がある場合であり、例えエンジン発電機で電池に充電を行っても走行消費電力の方が大きいために、登坂中にSOCは減少する例を示している。図の上部は走行路を示し、L2からL3までは急な登坂となっている。中央はSOCを示し、もしEV走行でAからBまで走行し、Bで発電を開始してもL2からL3の急な登坂ではSOCはC-Dの様に減少して坂を上り切る前にSOCがD''-Dの区間でSCL以下となり電欠状態となる。それを避けるには走行前にSOCチャート上でB'から発電を始める事により、SOCチャートはA-B'-C'-D'-E'と出来る。すなわち、SCL以下となる電力量D-D'を平地L1-L2区間でB-B''の電力量として前もって発電すれば良い事が分かる。P1とP2は発電区間を示し、P1はBから発電を行うのに対して、P2は手前のB'で発電を開始している。
【0057】
図9は走行の途中に回生電力の発生が見込める急な下坂が存在する場合である。L2-L3区間が急な下坂のため、例えばSOCの発電区間がAからBまであると、例えBで発電を停止してEV走行に切り替えても回生電力ため、電池にSCH以上のC'-Cの電力量を蓄電しようとする。しかしSCH以上は充電出来ないのでその電力量は破棄せざるを得ない。そこでBまで発電せずにB''で発電停止を行いEV走行に切り替える事でC'-Cの回生電力量はB-B'の消費電力量に置換されるので、SOCチャートはA-B''-B'-C'-D'と出来る。P1とP2は発電区間を示し、P1はBのSCHまで発電を行うのに対して、P2は手前のB''で発電を停止している。
【0058】
図10は走行途中に静音区間が存在する場合である。静音区間を考慮せずに立てたSOCチャートはA-B-C-Dとなり、C-C''の区間は静音区間にも拘わらずSOCがSCL以下とならないようにC地点で発電を行わざるを得ない。これを避けるにはC-C''の発電量を前もってB' -B''として発電する事によってCで発電せずに走行が可能となり、SOCチャートはA-B'-B''-C''-D'となる。発電量B-B''は当初のSOCラインがC-C'となった場合の不足する発電量C-C''と等しくなる。発電区間はP1とP2に示すようになる。P2の発電期間(B'-B'')が、等価の電力量を発生するP1の発電期間(C-C')より短いのはB'-B区間は発電電力量に電池の蓄電電力量が加算されるからである。
【0059】
図11は走行ルートの途中のX地点に充電器が設置されている事が走行前のSOCチャート作成時点で分かっているので、X地点で電池に充電を行い電池の蓄電量をSCHまで回復を行う状態(X-E)を示している。本図では出発地点からEV走行を行い、丁度電池の蓄電量がSCLとなる地点に充電器が設置されている状況を示しているが、もちろんSCLに達しない間に充電器が設置されている場合であっても、その日の配送スケジュールを考慮するなどから充電器による充電を行うように走行計画を立てる事は可能である。
【0060】
図12図11の走行途中で充電器で充電を行う場合のアルゴリズムを示す図であり、途中充電を行えば搭載した発電機で発電を行なわなくとも目的地点まで到達できる場合を示している。出発地点のSCHからSCLまで電池の蓄電量でEV走行(A-B)を想定した時、充電器が丁度B地点、若しくはその少し手前に設置されているので、充電器で充電を行う計画を立てる。また目的地点から出発地点に向かって逆引きでEVライン(C-E)を作成した時に、先の充電器による充電ライン(B-D)の途中で交差(E)するので充電電力量はBからEまでとする。故に、走行前に作成したSOCチャートはA-B-E-Cとなる。
【0061】
図13は途中で充電しても目的地点までの走行で発電を行なう必要がある場合を表している。図8と同様に出発地点からSCLまでEV走行を行い、充電器でSCHまでフル充電を行う(B-D)。同時に目的地点から出発地点に向かって逆引きでEV走行のSOCチャートを作成し、SCHに到達(F)したら発電ラインに切り替える。発電ラインが充電後のEVライン(D-C)に交差するところ(G)を発電開始地点とする。その結果、SOCチャートはA-B-D-G-F-Eとなる。あるいは充電後にEV走行(D-C)をSCLまで行い、C地点で発電を開始して目的地点からの逆引きのEVライン(E-F)に交差した地点で発電を停止する。この場合のSOCチャートはA-B-D-C-H-Eとなる。当然ながらH-F-G-Cのひし形の内側であれば、C-H或いはF-Gに平行な発電ラインは引くことが出来る。
なお、充電器が初期のEV走行をした時にSCLとなる地点に設置されていない場合も多々あるので、SCLとなるB地点から出発地点に向かってどれだけ戻った距離までに充電器がある場合に限って充電を行うかを考慮する必要がある。本図では出発地点からBまでの距離の10%以内であれば充電を行う例を示しているが10%に限る必要はない。
B地点より手前に充電器があり、そこで充電を行う場合はSCLまで電池走行を行わずに充電を開始する。その時は図中のB-Dの充電ラインが出発地点に近づく事になる。
【0062】
図14は走行途中に登坂、下坂、さらにトンネルなどを想定した静音区間がある実際の走行ルートを模擬した図である。上図は走行路の断面図を表していて、走行路の中間にかなり急な登坂と下坂を想定し、後半に静音区間が存在している。
下図は、SOCチャートを示し、SCHからSOCチャートは減少をしている。途中で太線は発電期間を示すが、急な登坂のため発電しても電池に蓄電する事なくSOCは減少し続けている。後半部分に静音区間があり本図ではその区間はEV走行区間となっているが、もし静音区間に発電を行なう恐れのある場合は静音区間の前後に発電時期をずらし、静音区間は発電を行なわないように設定する。
図3に記したように目的地でのマイナスのSOC値からSCLまでの電力量(Pg)が走行途中に発電が必要な発電量を示している。最終的なSOCチャートは目的地点でSCLの値から逆引きに目的地に向かってSCHとSCLの間に発電区間を挟みながら出発地からのEVラインに接続する。
本図では出発地点の電池の蓄電量をSCH、目的地点での目標SOCをSCLとしたが、それに拘る必要はなく、SCLからSCHの間であればどの値でも可能である。
【0063】
本計画発電蓄電制御技術は、走行前に作成したSOCチャートを走行途中で修正して、最終的に目的地でのSOC値が当初に設定した範囲の誤差以内で到達可能とする技術である。そのためには走行途中に、逐次、位置情報と車両からの車両情報を得て、もしSOCチャートから設定した値以上のSOC値の乖離がある場合は、SOCチャートの再作成を行う事を特徴としている。
図15は各走行途中でのSOCチャートの再作成の様子を示している。図中では出発地点から目的地点までの走行前のSOCチャートを実線のA-B-C-Dで表している。さらに車両が出発地点からEV走行を行い、車両データであるSOC値をSOCチャートに並べて描いた場合を破線で表している。(1)では車両がY地点まで進んだ時に、実線で描いたSOCチャート上のXと乖離が決められた値以上(ΔSOC)となる状態が検知された場合、太い実線で示したYからDまでをD -C'-B'-Yと逆引きによってSOCチャートの修正を行う事で再作成をしている。
【0064】
(2)から(6)も同様なSOCチャートの修正した結果のSOC再作成の様子を描いている。(3)と(4)はB-C間の発電区間にSOCチャートの修正を行った様子である。また、(5)と(6)は目的地までのEV走行中にSOCの乖離が発生し、SOCの修正を行った様子である。(5)は乖離が上側に発生した場合であり修正した結果、目的地点でのSOC値は計画の値のSCLより誤差分だけ増加した値となるが電池に蓄電されるので問題ない。また(6)はSOCチャートの再作成ではY-Xの短い区間の発電が生じている。
【0065】
SOCチャートの再作成に当たって出来るだけ発電回数の増加を抑制することが望まれる。その理由は、発電開始時は起動負荷によるロスが増す事、発電開始直後は排気ガス抑制機器が正常に機能するまでの時間がある事による排気ガスの削減が十分でない事、また機械的にも発電のONとOFFを繰り返す事の機械的ストレスが増して故障確率を高めてしまう事等が上げられる。
【0066】
(7)は(5)の目的地でのSOC乖離を少なくする方法と、(6)の短い発電区間を無くす方法を示していて、B-Cの発電途中に最後のEV走行中のC-Dで(5)又は(6)の様な乖離が発生する事を検知して、発電停止地点を新たなC'としてEV区間をC'- Dとする事で対応する。
【0067】
図16は走行前の作成したSOCチャートの別の再作成方法に関する。図16Aは走行前に作成したSOCチャートを表し、A0-B0は出発地点のSCHからSCLまではEV走行を行い、B0-C0は発電走行を行い、目的地点までのC0-D0はEV走行を行う例である。SOCチャートを作成するに当たって、SOCチャートを決めるパラメータの中で、平均電費は想定される値よりも悪い値を、或いは平均速度は想定される値より速い値を用いている。
【0068】
図16Bは走行前のEV走行ラインであるA0-B0が走行中に修正される様子を示している。A0からSCLに引かれた破線A0-AZは、出発地点で想定できる平均電費を用いて実際に走行したと仮定する場合に描いたSOCのラインである。走行前のSOCラインA0-B0は想定される値よりも悪い値の電費(設定電費)を用いているので、A0-AZよりも常に下側に位置している。
ここでA1まで走行した時に、A0-B0ラインからΔSOCの乖離が検出されたのでSOCチャートを逆引きで再作成を行うとD0-C1-B1-A1となる。さらに、A2の地点まで走行した時に同様にΔSOCの乖離が検知されたので、SOCチャートの再作成を行いD0-C2-B2-A2となる。その後も同様な修正を行い、D0-C6-B6-A6がSCLに最も接近した場合である。
以上のSOCチャートの再作成に伴う発電開始地点は、修正する毎に目的地点に向かってシフトする。走行前のSOCチャートの発電開始地点はb0だが、1回目の修正でb1となり2回目の修正でb2とさらにシフトして最終的にはb6が発電開始地点となる。
EV走行がA6まで進む間に予想される発電停止地点はc0からc6へ目的地点方向にシフトするが発電期間は徐々に減少する。これは走行前の設定電費よりも実際に走行した時の電費が良い事による。
【0069】
図16Cは発電区間における修正状態を示している。発電区間においても、発電開始地点(B6)で予想されるSOCラインB6-F0の作成には走行前の設定電費を使用しているので、E1まで走行した時にΔSOCの乖離が発生し、修正したSOCチャートはD0-F1-E1となる。さらにE2まで走行した時の修正後のSOCチャートはD0-F2-E2となり、発電期間の停止地点ではD0-F3-E3となる。ΔSOCが常に上側に乖離するのは走行時の電費が走行前の設定電費よりも良い値を取る事による。このため、発電停止地点もf0(c6)からf1, f2, f3と出発地点に近づく様に変化し発電期間も減少する。
【0070】
図16Dは目的地点までのEV走行する時のSOCチャートの修正を表し、F3地点まで走行した時の予想SOCチャートはD0-F3であったが、目的地点まで走行した時のSOCチャートはD3-F3となり到達地点でのSOC値は予定のSCLよりも多いD0-Gとなる。結果的に電池の蓄電電力量が予定よりも残る事となるがこの余剰電力量は次回の走行に使用する。
【0071】
図17は走行前のSOCチャートの作成に関わり、逆引きでチャートを作成する場合にグラフの横軸が距離の時の、出発地点から目的地点までは短い多数の距離区間(n, n-1, n-2 etc)で構成されている場合である。SOCチャートは目的地点(D)から出発地点(A)に向かって作成されるが、各距離区間の長さは一様でない場合である。図中では矢印の長さが各距離区間の長さ比例していて、Dから1区間戻るSOCはCnとなり、次の区間のSOCのCn-1よりも距離的には長く、さらにその前の区間のSOCのCn-2はCn-1よりも短い。この時、各区間の入口でのSOC値をB_SOCとして、その区間消費するとした時の消費電力量をC_SOCとし、その区間を発電した時の発電量をG_SOCとすると以下の関係が成り立つ。なお、入口は矢印の始まりを出口は矢印の終わりを表し各SOCは%とする。

B_SOCn = B_SOCn-1 - C_SOCn + G_SOCn

すなわち、目的地点でB_SOCnはその1つ前の区間のCn-1の入口でのB_SOCn-1に区間Cnでの消費電力量C_SOCnと発電電力量G_SOCnを考慮したものとなる。もちろん、本例ではCn区間はEV走行区間なのでG_SOCnは0である。
このように、目的地点から出発地点に向かって逆引きでSOCチャートを作成して行き、EV走行でのチャートがCのSCHに達したら、その地点を含む区間(n-m)の入口又は出口で発電走行(C-B)に切り替える。そしてBの地点のSCLに達したらBを含む区間(n-l)の入口又は出口でEV走行(B-A)に切り替える。しかし、SOC値がSCLとSCHの範囲以内に必ず存在する事とするならば、C地点での区間(n-m)とB地点での区間(n-1)は入口で状態を切り替える。このようにすればSCLとSCHの範囲以内で状態を切り替える事が出来る。
【0072】
次に図18(1)に示すように、逆引きでSOCチャートをD-C-B-Aと作成した後に、出発地点でのSOC設定値(本例ではSCH)からEV走行で順方向にSOCチャートを作成するが、途中で先に作成したSOCチャートのC-Bと交差する事になる。(2)は交差時のSOCチャートの調整方法を示しており、区間Pで両SOCチャートが交差した場合に、発電ラインB-Cを区間の入口β又は出口αのどちらかにシフトさせる。図では発電ラインC-Bをαで交差するように上側に平行移動してC'-B'とする場合と、βで交差するように下側に平行移動してC''-B''とした場合を示している。しかし、下側にシフトした場合はSCL以下となる恐れがあるので上側にシフトする方が適当である。上側にシフトした場合にC'を延長した地点がSCHよりも大きくなる恐れがあるが、電池には過充電に対してある程度の許容量があるので問題は少ない。
【0073】
図19(1)は逆引きでD-C-B-Aのように出発地点までSOCチャートを作成したとしても、出発地点での電池の蓄電量が、逆引きの出発地点のSOC値のAよりも少ない場合の調整方法を示している。この場合は2つの方法が考えられ、1つは出発地点でE-Gの発電走行を行い、B-AのEV走行ラインと交差する方法であり、他はまずE-FのEV走行を行いSCLに到達したらF-Hの発電走行に切り替えてB-Aと交差させる方法である。
(2)は前者の方法を示しており、逆引きのB-Aラインを下側のB'-A'にシフトするか、上側のB''-A''にシフトするかを示しており、そのシフトの幅は区間Pによって決定される。下側にシフトする場合はαで交差し、上側にシフトする場合はβで交差をする。
(3)ではまずE-FのEV走行と行い、SCLに到達したらF-Hの発電走行ラインに切り替えた場合に、逆引きのB-Aラインを上側もしくは下側にシフトする場合を示している。EV走行ライン(E-F)から発電ラインに切り替えるには、SCLに達した地点(F)を含む区間Qの出口F'から切り替える。その発電ライン(F'-H)と逆引きのEVラインが交差する地点を含む区間Pの出口では、αで交差するので下側にシフトして逆引きラインはB'-A'となり、上側シフトはβで交差し逆引きラインはB''-A''となる。
【0074】
図20は走行路に静音区間が存在する時のSOCチャートの作成方法である。目的地点Dから逆引きでSOCライン(D-C)を引いた時に、SCHに到達して発電走行ラインに切り替えるべき地点Cは静音区間の区間内にある。そこで、静音区間の出口を含む区間(Sn-m)の1つ目的地寄りの区間(Sn-m+1)の入口のa1で発電走行ラインに切り替え、区間(Sn-m)の入口b1で再びEV走行ラインに切り替えるとc1の地点でSCHに到達するが、依然として静音区間の区間内である。そこでEV走行ラインから発電ラインへの切り替えを区間(Sn-m+2)の入口a2で行い、再びEVラインへの切り替えを区間(Sn-m)の入口b2で行ってもSCHに到達するのは静音区間内のc2である。ここでEV走行ラインから発電ラインへの切り替えを区間(Sn-m+3)の入口a3で行い、再びEVラインへの切り替えを区間(Sn-m)の入口b3で行うとSCHに到達するのは静音区間の外側のc3となる。そこで、静音区間の入口地点が含まれる距離区間(Sn-l)の出口地点C3'で発電走行ライン(c3'-d1)に切り替える事で静音区間はEV走行が可能となる逆引きによるSOCチャート(D-a3-b3-c3'-d1)の作成が行える。
【0075】
図21は走行路の途中に発電しても電池に蓄電が出来ないほどの急な登坂が存在する場合である。そのため電池の蓄電量を示すSOC値は、発電状態でありながらも値は減少してしまう。例えばSOCチャートがa1-b1-c1-d1と作成しても、急な登坂のためSOCが減少して区間(Sn-m-2)の出口b1でSCLに達してしまい電欠となる。そこで、1つ前の区間(Sn-m-1)の出口b2までSOCチャートをシフトしてもやはりb2で電欠となる。結局、区間距離が登坂の出口地点を含む区間(Sn-m)の入口b3までSOCチャートをシフトする事で電欠を起こさずに走行が可能となる。この場合のSOCチャートはa3-b3-c3-d3となり、発電開始地点をd1からd3に早める事で急な登坂を走破出来る事が分かる。
なお、図16から図20の図の横軸は距離として表現したが、もちろん時間であっても同様な仕組みは考えられ、その場合は単位時間(例えば1秒)として各区間の距離を置き換える。
【0076】
ここまでは発電機を搭載したPRE-EV車両に関して記述したが、計画発電蓄電の技術は電池だけで走行する所謂EV車両に関しても適用が可能である。多くの車両にはナビゲーションシステムが搭載され、運転者が目的地を設定する事でEVならではの種々の有益な情報が得られ、例えば目的地までの走行路の充電設置場所等がディスプレイに表示される等である。ところで殆んどのナビゲーションシステムの地図情報は緯度と経度の位置情報のみであり高度情報は得られない。しかし、登坂や下坂などでは電費が大きく変化するために、電池の蓄電量だけを動力源としているEV車両への高度変化の影響が大きい。本計画発電蓄電制御技術は、高度情報も取り入れて走行計画(SOCチャート作成)を立てるためにEV車両に対しても有効であり、以下の適用が考えられる。
走行前に目的地までの走行路情報を取り入れて、走行路の登坂と下坂における電費の影響を事前に知る事により、効率的で快適な走行が行える。具体的には長い下坂があり、それ相応の回生電力が見込める場合は、走行前の電池への充電をSCH以下に抑えて電気量の削減と充電時間の短縮化が行える。また、走行路の状態による電費の変化からSOCを監視する事で、電欠を起こす恐れがある場合は充電器設置位置と到着時刻を正確に予測して充電を促す事により電欠を防ぐ事が可能である。さらに走行中にSOCの監視を常時行う事により、現地点以降の走行路上の適宜に地点でのSOCの予測値を逐次表示する事により、運転者はより正確な車両状態を把握出来る。
また、商用車両においては、翌日の充電のために複数台のEV車を限られた充電器で充電する場合には、各車両の充電順位と充電量を制御する事が可能となり、業務効率の改善にも貢献出来る。
【0077】
図22の(1)から(4)は本アルゴリズムのよるSOCチャートの作成過程を、プログラムの検証のためにEXCEL(マイクロソフト社 登録商標)を用いて描いたものである。横軸は距離を表し縦軸は車両に搭載された電池の蓄電量をSOCで表している。図中の起伏は地形の高度を示している。図では約100kmの走行を想定している。走行前の電池のSOC値は90%として、目的地では20%と設定した場合である。
【0078】
(1)は目的地のSOCが20%の値から逆引きによってSOCチャートが作成開始された様子を示している。(2)は走行路の途中にトンネル等の静音区間があるので、その区間を避けて発電区間を設けた様子を表している。またチャートがSCH(90%)に達した後は発電区間として作成されている事が分かる。(3)は逆引きにより出発地点までチャートが引かれた後に、SCH(90%)からSOCチャートが引き直されている様子を示している。(4)はSOCチャートの作成が終了した図であり、地形の変化によって車両の消費電力量が変動する事を反映してSOCチャートが直線ではなく変化している様子を表している。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の計画発電蓄電制御技術は、エンジン発電機で電池に充電し、その充電された電力でモーターを駆動する事によって走行するPRE-EV車両の走行方式に関わり、走行前に走行途中に必要な発電量を見積もると共に、走行中はその発電量の修正を行う事で効率の良い走行が可能となる結果、従来よりも小型の電池と小型のモーターを用いて車両を実現出来る技術であり、そのため商用車の座席数や積載量を減らすことがない上に発電エンジンの使用効率を高める事が出来るので、消費燃料の削減とそれに伴うCO2排出を抑制出来る技術である。
さらに本技術の適用分野としては、災害時の移動蓄電装置としての役割も担う。突発的に発生する自然及び人的災害においては、電気供給手段が災害に見舞われ災害地域の電力供給に支障をきたす場合がある。その場合は移動電源車が現地に駆けつける事が必要となるが時間が掛かるなどの不都合が考えられる。しかし本技術を使用した商用車は通常は配達業務などで走行中であっても、もし災害が近辺に起こった場合は直ちに駆けつけて電源車として電気の供給が可能となる。その場合は強制発電を行ないながら走行し、現地で満充電となる様に急行する。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図22C
図22D