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特開2022-167905シクロデキストリンを含有する細胞水和組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167905
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】シクロデキストリンを含有する細胞水和組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/724 20060101AFI20221027BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20221027BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20221027BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61K31/724
A61P43/00 107
A61K45/00
A61K47/69
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022124803
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2019112865の分割
【原出願日】2010-12-31
(71)【出願人】
【識別番号】512237257
【氏名又は名称】イーストポンド・ラボラトリーズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラヨシュ・シェンテ
(57)【要約】
【課題】生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系と相互作用する組成物。
【解決手段】組成物は、生物細胞系の活性を、その細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させるように構築された生物学的に活性な成分を含む。生物学的に活性な成分は、水の水素結合構造を増加させる第1の炭水化物クラスレート小成分、および第2の溶質小成分を含んでよい。生物学的に活性な成分は、クラスレート成分と錯体形成性化合物とで構成される包接錯体を含んでよい。クラスレート小成分は、アミロースまたはシクロデキストリンを含んでよい。ヒトなどの動物における細胞の水和を改善する飲料および方法も存在する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系と相互作用する組成物であって、
生物細胞系システムの活性をその細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させるように構築された生物学的に活性な成分を含む組成物。
【請求項2】
前記生物学的に活性な成分が、水の水素結合構造を増加させる第1の炭水化物クラスレート小成分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記生物学的に活性な成分が、第2の溶質小成分を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第2の溶質小成分が生物活性剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記生物学的に活性な成分が、クラスレート成分と錯体形成性化合物とで構成される包接錯体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記錯体形成性化合物が生物活性剤である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記クラスレート小成分がアミロースおよびシクロデキストリンからなる群から選択される化合物を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記クラスレート小成分がシクロデキストリンを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記シクロデキストリンが、水の結合構造を増加させるコスモトロープ活性を示すように構築された、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記シクロデキストリンが、水分子間の水素結合の増加を引き起こすように構築されており、その増加が前記生物細胞系の生体分子表面の水和を改変し、それにより、前記生物細胞系の細胞成分間の相互作用を変化させる、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記シクロデキストリンが、水分子間の水素結合を強化し、より低い特定の密度を有する開いた水構造をもたらし、前記生物活性分子の拡散速度を上昇させるように構築されている、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
酵素、酵素基質、栄養分、代謝産物、サイトカイン、神経伝達物質、ホルモン、細胞外シグナル、細胞内メッセンジャー、および薬理作用剤からなる群から選択される前記生物活性分子をさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、メチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、水溶性β-シクロデキストリンポリマー、部分的にアセチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、エチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル化β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンの四級アンモニウム塩、アミロース(例えば、アセチル化アミロース)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項14】
錯体形成剤をさらに含み、前記クラスレート小成分が前記錯体形成剤と包接錯体を形成することができる、請求項7に記載の組成物。
【請求項15】
前記錯体形成剤が、アミノ酸、ビタミン、香味料、着臭剤、および着色料からなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記クラスレート小成分が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリン、カルボキシメチル化シクロデキストリン、四級アンモニウムシクロデキストリン、アミロース、アミロース誘導体、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系と相互作用する組成物であって、
水の水素結合構造を増加させることができる第1の炭水化物クラスレート成分と、
第2の溶質小成分と、
を含み、
前記クラスレート成分および前記溶質成分が、生物細胞系の活性をその細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させることができる組成物。
【請求項18】
クラスレート小成分が、アミロースおよびシクロデキストリンからなる群から選択される化合物を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記第2の溶質小成分が生物活性剤である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
錯体形成性化合物をさらに含み、クラスレート化合物と錯体形成性化合物が包接錯体を形成する、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
酵素、酵素基質、栄養分、代謝産物、サイトカイン、神経伝達物質、ホルモン、細胞外シグナル、細胞内メッセンジャー、および薬理作用剤からなる群から選択される前記生物活性分子をさらに含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記クラスレート成分が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、水溶性β-シクロデキストリンポリマー、部分的にアセチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、エチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル化β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンの四級アンモニウム塩、アミロース(例えば、アセチル化アミロース)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるシクロデキストリンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項23】
錯体形成剤が、アミノ酸、ビタミン、香味料、着臭剤、および着色料からなる群から選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記クラスレート小成分が、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリン、カルボキシメチル化シクロデキストリン、四級アンモニウムシクロデキストリン、アミロース、アミロース誘導体、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項25】
生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系と相互作用する飲料であって、
炭酸の入っていない液体および炭酸の入った液体からなる群から選択される含水成分と、
水の水素結合構造を増加させることができる第1の炭水化物クラスレート成分と、
第2の溶質小成分と
を含み、
前記クラスレート成分および前記溶質成分が、前記生物細胞系の活性を、その細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させることができる飲料。
【請求項26】
前記クラスレート小成分が、アミロースおよびシクロデキストリンからなる群から選択される化合物を含む、請求項25に記載の飲料。
【請求項27】
前記第2の溶質小成分が生物活性剤である、請求項26に記載の飲料。
【請求項28】
錯体形成性化合物をさらに含み、クラスレート化合物と錯体形成性化合物が包接錯体を形成する、請求項27に記載の飲料。
【請求項29】
リンゴ、アンズ、バナナ、ブドウ、クロフサスグリ、キイチゴ、モモ、セイヨウナシ、パイナップル、セイヨウスモモ、オレンジ、およびバニラの香味料からなる群から選択される香味料をさらに含み、香味料関連化合物の例が、酢酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、酪酸アリル、吉草酸アミル、酢酸エチル、吉草酸エチル、酢酸アミル、マルトール、酢酸イソアミル、エチルマルトール、イソマルトール、ジアセチル、プロピオン酸エチル、アントラニル酸メチル、酪酸メチル、酪酸ペンチル、ペンタン酸ペンチル、エリスリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、ラクチトール、キシリトール、イノシトール、イソマルト、プロピレングリコール、グリセロール(グリセリン)、トレイトール、ガラクチトール、パラチノース、還元イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、還元マルトースシロップ、および還元グルコースシロップを含む、請求項28に記載の飲料。
【請求項30】
ベタライン、ベタシアニン、ベタキサンチン、ブルガキサンチン、ミラキサンチン、ポルツラキサンチン、インジカキサンチン、アントシアニジン、オーランチニジン、シアニジン、デルフィニジン、ヨーロピニジン、ルテオリジニン、ペラルゴニジン、マルビジン、ペオニジン、ペチュニジン、ロシニジン、対応するアントシアニンまたはアントシアニジンのグルコシド、ウコン類着色料、フェノール類クルクミノイド、クルクミン、デメトキシクルクミンおよびビスデメトキシクルクミンからなる群から選択される着色料をさらに含む、請求項28に記載の飲料。
【請求項31】
ニコチンアミド(ビタミンB3)、ナイアシンアミド、ナイアシン、塩酸ピリドキサール(ビタミンB6)、アスコルビン酸、食用アスコルビン酸エステル、リボフラビン、ピリドキシン、チアミン、ビタミンB9、葉酸、葉酸塩、プテロイル-L-グルタミン酸、プテロイル-L-グルタミン酸塩、その塩、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるビタミンをさらに含む、請求項28に記載の飲料。
【請求項32】
アミノ酸またはアミンをさらに含む、請求項28に記載の飲料。
【請求項33】
アミノ酸が、アスパラギン酸、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、テアニン、システイン、シスチン、アラニン、バリン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン、セリン、リシン、ヒスチジン、オルニチン、メチオニン、カルニチン、アミノ酪酸(アルファ-異性体、ベータ-異性体、およびガンマ-異性体)、グルタミン、ヒドロキシプロリン、タウリン、ノルバリン、サルコシン、その塩、それらの混合物、ならびに、これらのアミノ酸のN-アルキル化されたC1~C3およびN-アシル化されたC1~C3誘導体、ならびに任意のアミノ酸またはその誘導体の混合物からなる群から選択される、請求項32に記載の飲料。
【請求項34】
生理的条件が生じ、生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系が存在する体を有するヒトなどの動物における細胞の水和を改善する方法であって、
炭水化物クラスレート成分、および生理的条件下で前記炭水化物クラスレート成分から解離することができる錯体形成剤によって形成された包接錯体を溶解させることによって飲料を調製するステップと、
動物に該飲料を経口摂取させるステップであって、そこで、前記炭水化物クラスレート成分が前記錯体形成剤から解離し、細胞の生体分子表面の水素結合した水構造の強度、範囲、およびキネティクスが改変されるステップと
を含む方法。
【請求項35】
アミロースおよびシクロデキストリンからなる群から前記クラスレート成分を選択するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記選択するステップが、シクロデキストリンを、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、水溶性β-シクロデキストリンポリマー、部分的にアセチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、エチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル化β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンの四級アンモニウム塩、アミロース(例えば、アセチル化アミロース)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記錯体形成剤を、アミノ酸、ビタミン、香味料、着臭剤、および着色料からなる群から選択するステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、生物細胞活性、特に、水和の状態に左右される細胞活性の調節に関する。より詳細には、本発明は、生物細胞系の活性を、その細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させるように構築された生物学的に活性な成分に関する。その生物学的に活性な成分は、水の水素結合構造を増加させる第1の炭水化物クラスレート小成分を含んでよい。本発明は、さらに、哺乳動物の生理学的活性を改変するために生物学的化合物をin vivoで送達することに関する。
【背景技術】
【0002】
水分子は、主に、水素(H)結合を通じて、および双極子モーメントのアラインメントを通じて相互作用する。例えば、隣接する水分子間の結合は、結合軸と、次に近接する水分子のアラインメントによって補強または安定化される。液体の状態の水では、そのようなアラインメントは周囲の水媒体に伝播し、マイクロメートル未満の規模の分子構造が確立される。
【0003】
医薬化合物の溶解性および/または生物学的利用能を改善するための、生物活性ゲスト分子と包接体を形成するためのクラスレートとしてのシクロデキストリンの製品および使用方法の例は、その完全な開示があらゆる目的について参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,115,586号および同第7,202,233号、ならびに米国特許出願公開第2004/0137625号、および2009/0227690号に記載されている。
【0004】
疎水性生体分子に結合するクラスレートを含有する製品および使用方法の例は、その完全な開示があらゆる目的について参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,890,549号、同第7,105,195号、同第7,166,575号、同第7,423,027号、および同第7,547,459号;米国特許出願公開第2004/0161526号、同第2007/0116837号、同第2008/0299166号、および同第2009/0023682号;日本特許出願JP 60-094912号;SuzukiおよびSato、「Nutritional significance of cyclodextrins: indigestibility and hypolipemic effect of α-cyclodextrin」 J. Nutr. Sci. Vitaminol.(Tokyo 1985;31:209-223);およびSzejtlら、Staerke/Starch、27(11)、1975、368~376頁に記載されている。
【0005】
米国特許出願公開第2009/0110746号は、ヒトの体内において、溶解した分子状酸素(O2)の水拡散率を上昇させる性質を有する化学剤であって、シクロデキストリンを第1の酸素化促進剤(pro-oxygenating agent)の溶解性を改善するための第2の「担体」成分として含むことができ、シクロデキストリンが、水拡散率、組織の酸素化、水構造、または細胞の水和を直接変化させる作用剤としては企図されていない化学剤を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,115,586号
【特許文献2】米国特許第7,202,233号
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0137625号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0227690号
【特許文献5】米国特許第6,890,549号
【特許文献6】米国特許第7,105,195号
【特許文献7】米国特許第7,166,575号
【特許文献8】米国特許第7,423,027号
【特許文献9】米国特許第7,547,459号
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/0161526号
【特許文献11】米国特許出願公開第2007/0116837号
【特許文献12】米国特許出願公開第2008/0299166号
【特許文献13】米国特許出願公開第2009/0023682号
【特許文献14】日本特許出願JP 60-094912号
【特許文献15】米国特許出願公開第2009/0110746号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】SuzukiおよびSato、「Nutritional significance of cyclodextrins: indigestibility and hypolipemic effect of α-cyclodextrin」 J. Nutr. Sci. Vitaminol.(Tokyo 1985; 31:209-223)
【非特許文献2】Szejtlら、Staerke/Starch、27(11)、1975、368~376頁
【非特許文献3】Hinrichs、W.ら、「An Amylose Antiparallel Double Helix at Atomic Resolution」、Science、(1987)、238(4824): 205-208
【非特許文献4】LindnerおよびSaenger (Carbohydr.Res.、99:103、1982)
【非特許文献5】Segtanら(Anal. Chem. 2001;73、3153-3161)
【非特許文献6】R. Giangiacomo(Food Chemistry、2006、96.3. 371-379)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系と相互作用する組成物であって、前記生物細胞系システムの活性をその細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させるように構築された生物学的に活性な成分を含む組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】7つのα[1-4]結合型グルコース単位を有する環式オリゴ糖であるβ-シクロデキストリンの化学結合モデルを示す図である。
図2】全体的にトロイド状トポロジーを有するシクロデキストリンの構造モデルを示す図である。
図3】トロイドの縁に沿ったグルコシルヒドロキシル基の配置を含むシクロデキストリンの構造モデルを示す図である。
図4】最初の接触から1ピコ秒後の、β-シクロデキストリン分子の周囲の水分子の、算出された分子の動的分布を示す図である。
図5】最初の接触から1000ピコ秒後の、より組織化された開いた水構造を含む、図4の水分子の算出された分子の動的分布を示す図である。
図6図4および5に示されている水分子の分布の閾値処理した画像を示す図である。
図7】シクロデキストリンが溶解した水試料およびシクロデキストリンが溶解していない水試料についての、特定の波長域を含めたNIR微分スペクトルの比較を示す図である。
図8】シクロデキストリンが溶解した水試料およびシクロデキストリンが溶解していない水試料についての、特定の波長域を含めたNIR微分スペクトルの比較を示す図である。
図9】シクロデキストリンが溶解した水試料およびシクロデキストリンが溶解していない水試料についての、特定の波長域を含めたNIR微分スペクトルの比較を示す図である。
図10】シクロデキストリンが溶解した水試料およびシクロデキストリンが溶解していない水試料についての、特定の波長域を含めたNIR微分スペクトルの比較を示す図である。
図11】シクロデキストリン、アミノ酸、およびシクロデキストリン/アミノ酸包接錯体を変動的に含めた水における種子発芽キネティクスの比較を示す図である。
図12】シクロデキストリン、ビタミン、およびシクロデキストリン/ビタミン包接錯体を変動的に含めた水における種子発芽キネティクスの比較を示す図である。
図13】本開示による水和の活性成分を変動的に含めた水における種子発芽率の比較を示す図である。
図14】本開示による水和の活性成分としてシクロデキストリンを変動的に含めた培地における線形動物の長寿命の比較を示す図である。
図15】本開示による水和の活性成分として誘導体化シクロデキストリンを変動的に含めた培地における線形動物の長寿命の比較を示す。
図16】本開示による水和の活性成分としてシクロデキストリン包接錯体を変動的に含めた培地における線形動物の長寿命の比較を示す図である。
図17】本開示による水和の活性成分としてシクロデキストリン包接錯体を含む培地および含まない培地における線形動物の死亡頻度を示す図である。
図18】本開示による水和の活性成分としてシクロデキストリン包接錯体を含む培地および含まない培地において生きている線形動物についての集団生存曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
水構造は、表面が水分子と水素結合および/または双極子配向について強力に競合することができる1つまたは複数の溶質または適切な分子凝集体を加えることによって意図的に増加または組織化される。特に、水分子相互作用を強化し、水構造を増加させる因子および作用剤は、それにより、さらなる分子表面の水和または溶媒和を変化させる。したがって、水構造を増加させる第1の溶液添加物により、第2の成分の水素結合表面特性に応じて、第2の溶液成分の分子表面との水和相互作用(例えば、結合強度およびキネティクス)を増加させることができ、あるいは、そのような相互作用を減少させることができる。
【0011】
さらに、水構造を改変する因子は、一般には、水分子間の平均距離を変化させ、それにより、水の密度を増加または減少させる。例えば、水の温度がその凝固点未満に下がると、水分子間の水素結合が水分子の動力学的エネルギーに打ち勝ち、その結果、水構造が増加し、それにより、凍結した水の密度がおよそ9%減少する。同様に、液体状態の水では、水の水素結合の強度が増加すると、水分子間の平均距離が増加し、これは、比体積の増加(すなわち、密度の低下)として観察される。液体の水の密度が低下することにより、溶解している溶質の拡散率が上昇し得る。したがって、水の密度を低下させる水性添加物成分により、共溶解している溶質の拡散率が上昇し得る。
【0012】
カオトロープとは、本明細書で使用される場合、水溶液中で水素結合ネットワークを破壊し、それにより、水構造を減少させる機能を果たす含水溶質添加物である。カオトロープは、一般には、水分子よりも極性が低く、水素結合ポテンシャルが弱い。カオトロープは、非極性溶質および粒子に優先的に結合し、それにより、非極性溶質の溶解性を増加させることができる。
【0013】
コスモトロープとは、本明細書で使用される場合、水溶液中で強力かつ拡張された水素結合ネットワークを促進し、それにより、水分子相互作用のマイクロメートル未満の規模の構造を増加させ、かつ/または安定化する溶質である。水の水素結合化学ポテンシャルを超える水素結合化学ポテンシャルを有し、かつ/または水の双極子モーメントを超える双極子モーメントを有するコスモトロープは、水分子間の水素結合ネットワークを増加させることができる。さらに、コスモトロープは、水和構造を強化することにより、分子間の結合部位を含み得る分子表面における水和相互作用を増加させることができる。したがって、コスモトロープは、分子相互作用を安定化する水溶液添加物として使用され得る。
【0014】
さらに、コスモトロープは、溶解している共溶質の有効な化学的活性を増加させることができる。水分子間の水素結合相互作用の強度が増加すると、水は、より低い特定の密度を有し、比体積がより大きい、より開いた構成に適合するようになる。したがって、水溶液へのコスモトロープの添加は、密度の低下を引き起こすことによって、溶解している共溶質種または化合物のうちの1つまたは複数の拡散率を上昇させることができる。溶質種または化合物の拡散率を上昇させることにより、その反応性、化学ポテンシャル、有効濃度、および利用可能性を増加させることができる。
【0015】
本明細書で考察されている通り、クラスレート成分は、親水性で、水と強力に水素結合する外部表面と、親水性が低い内部表面とを有する両親媒性の炭水化物化合物である。クラスレートの内部表面は、比較的非極性である、または水よりも親水性が低い分子構造に選択的に結合することができる。
【0016】
包接錯体とは、本明細書で使用される場合、2つ以上の化合物間で形成される化学的錯体であり、第1の化合物(ホストとも称される)は、第2の化合物(ゲストとも称される)の分子がはまり込み、第1の化合物に結合する、部分的に囲まれた空間を規定する構造を有する。ホスト分子は、クラスレートと称することができ、ゲスト分子と可逆的または不可逆的に結合することができる。
【0017】
生物細胞とは、本明細書で使用される場合、生きている生物体の自己複製する機能的代謝単位であり、単細胞生物として、または多細胞生物体のサブユニットとして生存することができ、タンパク質、核酸、および糖類などの相互作用する生体分子の機能的なネットワークを含有する脂質膜構造を含む。生物細胞としては、原核細胞、真核細胞、および予め多細胞生物体から得た培養細胞を含み得る多細胞生物体から解離した細胞が挙げられる。
【0018】
生物細胞系とは、本明細書で使用される場合、生物細胞および/または細胞内要素が機能的に相互接続されたネットワークであり、生細胞、非生細胞、細胞小器官、および/または生体分子を含んでよい。
【0019】
生物活性分子とは、本明細書で使用される場合、生物細胞系において機能活性を有する分子化合物である。
【0020】
生体分子とは、本明細書で使用される場合、生物細胞によって合成される分子化合物である。生体分子は、細胞によって標準的に合成される化合物、および遺伝子操作された細胞によって合成される化合物、および細胞由来の化合物の化学的に合成されるコピーを含む。
【0021】
生体分子表面とは、本明細書で使用される場合、生体分子の外側の原子の境界であり、結合部位などの生化学的相互作用表面を含み得る。
【0022】
細胞成分とは、本明細書で使用される場合、生物細胞の機能的要素であり、生体分子、生体分子錯体、細胞小器官、ポリマー構造、膜および膜に結合した構造を含み、分子事象の連続などの機能的経路および/またはネットワークをさらに含み得る。
【0023】
物質の密度とは、温度および圧力の特定の条件下でのその物質の単位体積当たりの質量である。
【0024】
物質の比体積とは、物質の単位質量当たりの体積であり、例えば、m3/kgと表現することができる。物質の比体積は、その物質の密度の逆数と等しい。
【0025】
生物学的に活性な成分とは、本明細書で使用される場合、生物細胞系の活性を改変する(増加または減少させる)分子性物質である。
【0026】
生物活性剤とは、本明細書で使用される場合、生物細胞系、または細胞成分に加えると、そのシステム、またはその成分の生物活性の変化を引き起こす物質である。
【0027】
水の結合構造とは、本明細書で使用される場合、液体状態および固体状態の水分子の配向を保持し、組織化する水素結合のネットワークを指す。水構造は、本明細書で使用される場合、所定の温度における水分子間の水素結合が強化されると増加し、所定の温度における水分子間の水素結合が弱まると減少する。
【0028】
細胞成分間の相互作用とは、本明細書で使用される場合、生体分子表面間の化学結合を指す。そのような相互作用は、リガンドとその特異的な受容体などの2つの生体分子間の結合を含んでよい。あるいは、そのような相互作用は、生体分子と細胞膜などの細胞小器官の間の結合を含んでよい。
【0029】
細胞外シグナルとは、本明細書で使用される場合、細胞の外に適用すると細胞の活性を改変する(増加または減少させる)ことができる生体分子である。細胞外シグナルは、細胞の細胞膜(外膜)の成分に結合することができ、あるいは、細胞膜を通過して、細胞内の活性を調節することができる。細胞外シグナルとしては、これらに限定されないが、細胞外マトリックスの成分;細胞膜成分、例えば、糖タンパク質および糖脂質;抗原;および拡散性生体分子、例えば、一酸化窒素などを挙げることができる。
【0030】
細胞内メッセンジャーとは、本明細書で使用される場合、活性な状態を有する生物細胞の内部の成分であり、活性な状態で、細胞外シグナルを細胞内の標的に伝達する中間シグナルとして機能する。
【0031】
薬理作用剤とは、本明細書で使用される場合、生体分子または生体分子錯体に結合し、それにより、その活性を変化させる合成化学物質である。
【0032】
本発明は、生物細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって、その細胞系の活性を増加させる活性な組成物を含む。
【0033】
細胞の水和を改変するための活性な組成物は、水の水素結合構造を増加させる第1の炭水化物クラスレート成分を含むことが好ましい。いくつかの例では、活性な組成物は、水の水素結合構造を増加させる第1の炭水化物クラスレート成分、および生物活性剤であってよい第2の溶質化合物を含むことが好ましい。いくつかの例では、活性な組成物は、クラスレート成分と、生物活性剤であってよい錯体形成性化合物との間で形成される包接錯体を含むことが好ましい。
【0034】
生物細胞はマルチコンパートメント構造であり、化学的に活性な水ベースのチャンバーおよび脂質ベースの膜を含む。細胞の構造および活性は、それらの生体分子成分、例えば、脂質、構造タンパク質、酵素タンパク質、炭水化物、塩、ヌクレオチド、ならびに他の代謝性生体分子およびシグナル伝達生体分子などの間の高度に選択的な化学結合性の結びつきに由来する。生体分子結合の強度および特異性は、結合インターフェースにおける相補的な化学的トポロジーを反映する。親水性表面および/または疎水性表面は、一般に、生体分子結合インターフェースの化学的トポロジーの優位を占める。水性系では、疎水性相互作用および親水性相互作用は、濃度が50Mを超える水の分子との競合水和相互作用によって実質的に駆動される。
【0035】
細胞の水和とは、本明細書で使用される場合、細胞系の水分子と生体分子成分の間の相互作用を指す。細胞の水和は、水分子と生体分子表面の間の水素結合の強度および/またはキネティクスを変化させることによって改変することができる。
【0036】
水構造を改変する水溶液添加物は、生体分子の結合表面の水和を改変することにより、細胞成分間の結合の強度、キネティクス、および/または特異性を変化させることができる。例えば、水構造を増加させるコスモトロープ含水添加物は、分泌される細胞間シグナル伝達因子と、その因子の潜在的な標的細胞の細胞膜に位置する同種の受容体の間の結合の強度、キネティクス、および/または特異性を変化させることができ、したがって、細胞のシグナル伝達ネットワークの結果にバイアスをかける(結果を偏らせる)ことができる。
【0037】
本発明による細胞の水和の活性成分として適切なクラスレートは、アミロースおよびシクロデキストリンを含む。アミロースは、D-グルコース単位の直鎖多糖である。図1に示されているように、シクロデキストリンは、α(1-4)グルコース間結合によって結合されたD-グルコース単位の大環状オリゴ糖である。アミロースおよびシクロデキストリンは、加水分解したデンプンから容易に多量に調製される。シクロデキストリンの調製は、最も一般的にはバチルス属(Bacillus)株により産生される酵素シクロデキストリン‐グリコシルトランスフェラーゼを使用する、酵素による変換を含む。
【0038】
図2に示されているように、シクロデキストリンは、環に含まれるグルコース単位の数によって異なり得る。シクロデキストリン種としては、α-シクロデキストリン(6単位)、β-シクロデキストリン(7単位)、γ-シクロデキストリン(8単位)、およびδ-シクロデキストリン(9単位)が挙げられる。親のシクロデキストリンとは、本明細書で使用される場合、天然の、化学的に誘導体化されていないα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンであり、それぞれ18個(α-)、21個(β-)および24個(γ-)の、遊離の、改変されていないヒドロキシル基を有する。
【0039】
図3に概略的に示されている通り、シクロデキストリンは、一般に、先端を切り取った円錐体に類似している、または開口端の円筒の半分の形状である、トロイド状トポロジーを有する。したがって、シクロデキストリンは、外部表面および円筒の縁を含む外側の化学的表面、ならびに内部の腔(円筒の内側)を取り囲む内側の化学的表面を含むと説明することができる。
【0040】
シクロデキストリンの外部表面は、水と水素結合する高密度の親水性化学基を含む。特に、親のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン構造のヒドロキシル基は全て、シクロデキストリン円筒の末端に集中している。より詳細には、シクロデキストリンのヒドロキシル(-OH)化学基は、円筒の縁に沿って位置し、それらの配向は立体的に制限されている。グルコースのC(6)位のヒドロキシル基は第1のOH基と称することができ、シクロデキストリン円筒の狭い方の開放端に対して反時計回りの方向に向いている。グルコース位のC(2)のヒドロキシル基は第2のヒドロキシル基と称することができ、シクロデキストリン円筒の広い方の開放端に対して時計回りの方向の角度である。
【0041】
高密度であり、制約された配向のシクロデキストリンのヒドロキシル基により、特に、シクロデキストリン円筒の両末端に強力な水素結合表面が創出される。シクロデキストリンの物理化学的分析および溶媒和モデリングは、シクロデキストリンに近接している水分子は、位置が固定されており、角度的な(回転性の)移動性が低いことを示す。有用に、シクロデキストリンの各種は、円筒の直径ならびにヒドロキシル基の数が異なり、強力に結合した水分子の数および移動性も異なる。
【0042】
シクロデキストリン化合物の水素結合活性は、周囲の水媒体に伝播し得る。図4および5に示されているように、標準の温度および圧力において規定された水分子の集団に導入したシクロデキストリン分子の動力学的モデリングにより、体積全体を通したナノ秒の水の再編成が引き起こされる。図4は、混合シミュレーションを開始してから1ピコ秒(ps)後の集団分布を示し、図5は、1000ps(1ナノ秒)における同じ集団の再分布を示し、そこで水分子は、より開いた構造をとっている。
【0043】
いくつかの例では、シクロデキストリンは、水の結合構造を増加させるコスモトロープ活性を通じて細胞の水和の活性成分として機能し得、水分子間の水素結合が増加することにより、生体分子表面の水和が改変され、それにより、細胞成分間の結合の強度、キネティクス、および/または特異性が変化する。
【0044】
いくつかの例では、シクロデキストリンは、水の結合構造を増加させるコスモトロープ活性を通じて細胞の水和の活性成分として機能し得、より強力な水分子間の水素結合により、より低い特定の密度を有する(すなわち、比体積がより高い)開いた水構造が引き起こされ、また、生物活性分子の拡散速度が増加する。そのような例は、酵素、酵素基質、栄養分、代謝産物、サイトカイン、神経伝達物質、ホルモン、細胞外シグナル、細胞内メッセンジャー、または薬理作用剤などの可溶性生物活性分子を含んでよい。
【0045】
水中での拡散速度を増加させる細胞の水和の活性成分により、生物活性成分の濃度の変化の速度により限定される多くの生物学的プロセスのうちの1つが調節され得る。例えば、シナプス間隙からの神経伝達物質のクリアランスは、一般に、哺乳動物の脳における興奮性シナプスからのグルタミン酸の受動分散、および脊椎動物の神経筋シナプスにおける、拡散律速酵素アセチルコリンエステラーゼによるアセチルコリンの能動的異化を含め、拡散律速である。同様に、筋肉細胞などの電気興奮性細胞の活性は、一般に、細胞内二次メッセンジャーシグナルカルシウムの濃度の拡散律速変化により調和される。
【0046】
シクロデキストリンの細胞水和活性は、錯体形成剤との包接錯体を形成することによって、増加または減少のいずれかで改変することができる。シクロデキストリンの内部表面はヒドロキシル基を欠き、周囲の水性の環境よりも親水性が低く、それにより、親水性および水素結合ポテンシャルが低い共溶質分子に優先的に結合する。
【0047】
動物により摂取されると、間質液および細胞内液の水素結合構造を増加させる炭水化物クラスレート組成物は、健康な細胞の機能に役立つ細胞膜表面の水和構造ならびに生体分子の溶媒和を含めた細胞の水和を改善することができる。細胞の水和を改善することにより、健康な細胞の機能を、例えば、細胞の機能、分化、修復、成長、および生存を支持する溶質、栄養分、老廃物、サイトカイン、代謝産物および他の分子作用剤の、移入、移出、および/または拡散率を増加させることによって、ならびに筋肉および神経などの傷つきやすい組織の細胞膜を安定化することによって、支持することができる。
【0048】
いくつかの例では、動物によって摂取された炭水化物包接錯体は、水の水素結合構造を増加させ、それにより、細胞の水和および/または細胞成分の拡散率を改善することができる。いくつかの例では、動物によって摂取された炭水化物包接錯体は、水の水素結合構造を増加させ、それにより、細胞の水和および/または細胞成分の拡散率を改善する遊離の(すなわち、錯体形成していない)シクロデキストリンクラスレート成分を放出させるために、解離させることができる。いくつかの例では、炭水化物包接錯体は、解離せずに水構造を増加させ、細胞の水和を改善することができる。いくつかの例では、炭水化物包接錯体は、水構造および細胞の水和を増加させるためにクラスレート成分に解離させることができ、錯体形成剤は、水の構造をさらに増加させ、かつ/または他の有益な性質、例えば、栄養または香味などをもたらすことができる。
【0049】
本発明の炭水化物クラスレート組成物は、固体粉末、錠剤、カプセル、カプレット、顆粒剤、ペレット、ウェーハ、粉末、インスタント飲料粉末、発泡散剤、または発泡錠に形成することを含めた、種々の形態で提供することができる。一部の炭水化物クラスレート組成物は、含水飲料または他の食品として形成すること、またはそれに組み入れることもできる。そのような炭水化物クラスレート組成物は、保管している間、合理的に安定なままであり、したがって、クラスレート成分が錯体形成剤から解離し、錯体のコスモトロピック活性を低下させ、それにより、細胞の水和を改善するその能力を減少させる別の化合物とより強力な錯体を形成することのない包接錯体であってよい。
【0050】
本開示は、ヒトなどの動物において細胞の水和を改善するための方法も提供する。例えば、いくつかの方法は、(a)炭水化物クラスレート成分と、生理的条件下で炭水化物クラスレート成分から解離することができる錯体形成剤とによって形成された包接錯体を溶解させることによって飲料を調製するステップと、(b)動物に飲料を経口摂取させ、そこで炭水化物クラスレート成分が錯体形成剤から解離し、細胞の生体分子表面の水素結合した水構造の強度、範囲、およびキネティクスが改変されるステップを含んでよい。
【0051】
I.炭水化物クラスレート組成物
炭水化物クラスレート成分は、これらに限定されないが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、メチル化β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、水溶性β-シクロデキストリンポリマー、部分的にアセチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、エチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル化β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンの四級アンモニウム塩、アミロース(例えば、アセチル化アミロース)、ならびにそれらの混合物を含めた任意の適切な炭水化物を含んでよい。
【0052】
好ましい実施形態では、炭水化物クラスレートは、単独で、または他の溶質と組み合わせて水構造を増加させるコスモトロープ活性に基づいて、選択することができる。好ましいシクロデキストリンコスモトロープは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリン、カルボキシメチル化シクロデキストリン、および四級アンモニウムシクロデキストリンを含んでよい。
【0053】
シクロデキストリン誘導体は、アルキル化された誘導体、ヒドロキシアルキル化された誘導体、アルコキシアルキル化された誘導体、アセチル化された誘導体、第四級アンモニウム塩誘導体、カルボキシアルキル化された誘導体、マルトシル化された誘導体、およびグルコシル化された誘導体を含んでよい。シクロデキストリン誘導体のアルキル基は直鎖または分枝であってよく、主鎖の長さは炭素1~3個であってよく、合計1~6個、好ましくは1~3個の炭素原子を有してよい。シクロデキストリン誘導体のいくつかの非限定的な例は、メチル化されたベータ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン、水溶性ベータ-シクロデキストリンポリマー、部分的にアセチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、および/またはγ-シクロデキストリン、エチル化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、および/またはγ-シクロデキストリン、カルボキシアルキル化β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、および/またはγ-シクロデキストリンの第四級アンモニウム塩、ならびに、1つまたは複数のシクロデキストリンと一緒にまたはそれと組み合わせたこれらの誘導体の任意の組み合わせの混合物を含んでよい。例示的なシクロデキストリンの混合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、および/またはγ-シクロデキストリンの、それぞれ約1:1:1~2:2:1の重量比範囲での組み合わせを含んでよい。シクロデキストリンは、これらに限定されないが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、および/またはγ-シクロデキストリンの水和物および/または非結晶の形態、ならびにそれらの混合物を含めた、水和結晶および/または非結晶の形態であってよい。
【0054】
炭水化物クラスレート組成物が固形である場合、シクロデキストリン成分は、約10~90%w/w、または約15~70%w/w、または約15~60%w/wの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、シクロデキストリン成分は、約10~50%w/w、または約15~40%w/wの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、シクロデキストリン成分は、約20~25%w/wの濃度範囲で存在してよい。
【0055】
炭水化物クラスレート組成物が、含水飲料の形態である場合、シクロデキストリン成分は、約0.01~75%w/v、または約0.05~50%w/v、または約0.1~25%w/vの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、シクロデキストリン成分は、約0.1~10%w/vの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、シクロデキストリン成分は、0.1~5%w/vの濃度範囲で存在してよい。
【0056】
炭水化物クラスレート組成物は、種々の錯体形成剤、例えば、アミノ酸、ビタミン、香味料(flavorant)、着臭剤、着色料などと包接錯体を形成することができるクラスレートを含むことが好ましい。錯体形成剤と結合して、包含体を形成することができる炭水化物クラスレート成分の非排他的な例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリン、カルボキシメチル化シクロデキストリン、四級アンモニウムシクロデキストリン、アミロース、アミロース誘導体、またはこれらの任意の所望の混合物を挙げることができる。
【0057】
シクロデキストリンクラスレート成分は、さらに、選択された錯体形成剤との所望の結合特性に基づいて選択することができる。許容できるシクロデキストリンの非限定的な例としては、市販の、および政府規制認可済みの形態のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンを挙げることができる。グルコース単位の数により、腔の内部の寸法およびその体積が決定され、また、ゲスト分子との包接錯体の形成における選択性が決定され得る。選択された錯体形成剤は、ホストシクロデキストリンまたは他のホスト炭水化物クラスレートに結合すると、錯体を形成したホストの物理化学的性質を、そのコスモトロピック活性が増加するように改変することができる。
【0058】
クラスレート成分がアミロース成分の形態である場合、アミロース成分は、DP=10~900、より好ましくはDP=20~200、最も好ましくはDP=30~80の範囲内の重合の程度(DP)として表されるグルコース単位を含有してよい。アミロース誘導体としては、これに限定されないが、アセチル化アミロースを挙げることができる。好ましくは、アミロース成分は、疎水性分子を結合するための中心腔を規定するヘリックス配置のα1,4-結合型D-グルコピラノースを含む構造を有してよい。例えば、V-アミロースのA-デンプンヘリックスおよびB-デンプンヘリックスは、中心腔を規定する平行の、左巻きの二重らせんを含んでよい。アミロース包接錯体のヘリックスは、ホスト-ゲスト相互作用によって創出される疎水性の力、近接するアミロースのグルコース間の分子間水素結合、およびへリックス内の近接するターンによって形成される分子内水素結合によって安定化することができる。この完全な開示はあらゆる目的について参照により本明細書に組み込まれるHinrichs、W.ら、「An Amylose Antiparallel Double Helix at Atomic Resolution」、Science、(1987)、238(4824): 205-208を参照されたい。アミロースクラスレート成分を使用して、低分子量を有する錯体形成剤、例えば、香味料、着色料、ビタミン、アミノ酸、および/またはアミンの非限定的な例などとの包接錯体を形成することができる。
【0059】
アミロースクラスレート成分を含有する組成物が固形である場合、アミロース成分は、好ましくは、約10~90%w/w、または約15~70%w/w、または約15~60%w/wの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、アミロース成分は、約10~50%w/w、または約15~40%w/wの濃度範囲で存在してよい。最も好ましくは、アミロース成分は、約20~25%w/wの濃度範囲で存在してよい。アミロースクラスレート成分を含有する組成物が含水飲料の形態である場合、アミロース成分は、好ましくは、約0.1~75%w/v、または約1~50%w/v、または約1~25%w/vの濃度範囲で存在してよい。
【0060】
II.錯体形成剤
いくつかの例では、本明細書に開示されているクラスレート組成物は、場合によって、1つまたは複数のアミノ酸、ビタミン、香味料、着臭剤、および/または他の栄養成分、ならびにこれらの作用剤の組み合わせまたは混合物を含み得る錯体形成剤を含有してよい。炭水化物クラスレート組成物は、飲料製品の形成において使用するための1つまたは複数の炭酸形成成分をさらに含んでよい。
【0061】
錯体形成剤は、コスモトロピック活性を増加させ、それにより、細胞の水和に影響を及ぼすように、クラスレート成分と強力に錯体を形成することができる。あるいは、これらの作用剤は、遊離のクラスレート成分により水構造を増加させるために、クラスレート成分から解離することができるように、クラスレート成分と弱く錯体を形成することができる。
【0062】
本開示の炭水化物クラスレート組成物と包接錯体を形成するために適したアミノ酸の非限定的な例としては、アスパラギン酸、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、テアニン、システイン、シスチン、アラニン、バリン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン、セリン、リシン、ヒスチジン、オルニチン、メチオニン、カルニチン、アミノ酪酸(アルファ-異性体、ベータ-異性体、およびガンマ-異性体)、グルタミン、ヒドロキシプロリン、タウリン、ノルバリン、サルコシン、その塩、ならびにそれらの混合物を挙げることができる。これらのアミノ酸のN-アルキルC1~C3誘導体およびN-アシル化されたC1~C3誘導体、ならびに任意のアミノ酸またはその誘導体の混合物も包含される。水構造および細胞の水和を増加させるためにシクロデキストリンに含めることができる好ましい錯体形成アミノ酸としては、L-アルギニン、L-リシン、N-メチルリシン、およびL-カルニチンが挙げられる。
【0063】
ビタミンの非限定的な例としては、ニコチンアミド(ビタミンB3)、ナイアシンアミド、ナイアシン、塩酸ピリドキサール(ビタミンB6)、アスコルビン酸、食用アスコルビン酸エステル、リボフラビン、ピリドキシン、チアミン、ビタミンB9、葉酸、葉酸塩、プテロイル-L-グルタミン酸、プテロイル-L-グルタミン酸塩、その塩、ならびにそれらの混合物を挙げることができる。水構造および細胞の水和を増加させるためにシクロデキストリンに含めることができる好ましいビタミンとしては、ニコチンアミドおよびナイアシンアミドを挙げることができる。
【0064】
香味料の非限定的な例としては、リンゴ、アンズ、バナナ、ブドウ、クロフサスグリ、キイチゴ、モモ、セイヨウナシ、パイナップル、セイヨウスモモ、オレンジ、およびバニラの香味料を挙げることができる。香味料関連化合物の例としては、酢酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、酪酸アリル、吉草酸アミル、酢酸エチル、吉草酸エチル、酢酸アミル、マルトール、酢酸イソアミル、エチルマルトール、イソマルトール、ジアセチル、プロピオン酸エチル、アントラニル酸メチル、酪酸メチル、酪酸ペンチル、およびペンタン酸ペンチルが挙げられる。香味料は、選択されたシクロデキストリン成分に、約10~800M-1、好ましくは30~150M-1、より好ましくは40~100 M-1の範囲内の結合定数で弱く結合するように選択することができる。
【0065】
他の風味改善成分の非限定的な例としては、ポリオール添加物、例えば、エリスリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、ラクチトール、キシリトール、イノシトール、イソマルト、プロピレングリコール、グリセロール(グリセリン)、トレイトール、ガラクチトール、パラチノース、還元イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、還元マルトースシロップ、および還元グルコースシロップなどを挙げることができる。
【0066】
着色料の非限定的な例としては、水溶性が高く親油性が低いことが公知である着色料を挙げることができる。これらの性質を有する着色料の例は、例えば、ブルガキサンチン、ミラキサンチン、ポルツラキサンチン(portulaxanthin)およびインジカキサンチンを含めたベタシアニンおよびベタキサンチン等のベタライン;アントシアニジン、例えば、オーランチニジン、シアニジン、デルフィニジン、ヨーロピニジン、ルテオリニジン、ペラルゴニジン、マルビジン、ペオニジン、ペチュニジンおよびロシニジン、ならびにこれらのアントシアニジンの全ての対応するアントシアニン(またはグルコシド)など;およびフェノール類クルクミノイド、例えば、クルクミン、デメトキシクルクミンおよびビスデメトキシクルクミンなどを含めたウコン類着色料である。
【0067】
上記のアミノ酸、ビタミン、香味料および関連化合物の例は全て、適切な塩または水和した形態であってよい。
【0068】
錯体形成剤は、選択されたクラスレート成分と包接錯体を形成するように選択することができる。錯体形成剤は、クラスレート分子の腔内のゲスト分子としてクラスレート成分に結合することができ、かつ/または、選択された弱い錯体形成剤が、クラスレートの縁またはその周辺の位置でクラスレート分子に結合している、いわゆる外圏錯体を形成することができる。例えば、選択された弱い錯体形成剤は、シクロデキストリン分子に、シクロデキストリンの円環の縁の第1ヒドロキシル基および/または第2ヒドロキシル基に、またはその周辺に結合させることができる。選択されたシクロデキストリンと外圏錯体を形成する一部の錯体形成剤は、溶解し、水和したシクロデキストリン分子の自己凝集を、水中の2つの隣接するシクロデキストリン分子の間で形成される分子間水素結合を遮蔽することによって、減少させることまたは妨げることができる。
【0069】
炭水化物クラスレート組成物が固形である場合、錯体形成剤は、約1~50%w/wの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、錯体形成剤は、約1~40%w/wまたは約1~25%w/wの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、錯体形成剤は、約5~15%w/wの濃度範囲で存在してよい。
【0070】
炭水化物クラスレート組成物が含水飲料の形態である場合、錯体形成剤は、約0.1~25%w/vまたは約1~20%w/vの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、錯体形成剤は、約1~15%w/vまたは約1~10%w/vまたは約3~8%w/vの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、錯体形成剤は、約5~8%w/vの濃度範囲で存在してよい。
【0071】
III.包接錯体
上記の通り、包接錯体は、1つまたは複数の錯体形成剤と錯体を形成したクラスレートホスト分子を含んでよい。固体の粉末または錠剤などの固体製品の形態で、包接錯体は、基本的に同じ成分を含有するが予備的な包接錯体の形成を伴わない固体組成物と比較して、いくつかの独特の性質を示す。包接錯体は、基本的に、クラスレート分子と弱い錯体形成剤分子の間で形成された非共有結合性の水素結合を有する化学的実体である。包接錯体は、その固形の状態では、水構造を増加させるためのクラスレート成分と、水構造をさらに増加させること、または包接錯体を水性の環境に導入した際、例えば、含水飲料に溶解させた際または摂取した際などに、栄養またはフレーバーなどの他の有益な性質をもたらすことができる錯体形成剤とに解離する潜在性を有する。
【0072】
固体製品の形態では、クラスレート成分および1つまたは複数の種類の錯体形成剤は、上記の通り実質的に包接錯体の形態でであってよい。約25%超のクラスレート成分が1つまたは複数の種類の錯体形成剤と、包接錯体の形態で錯体を形成していることが好ましい。35%超、45%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、および95%超のクラスレート成分が錯体を形成していることが、この順でますます好ましい。
【0073】
IV.炭酸形成成分
一部のクラスレート組成物は、水性の環境に溶解させると炭酸化、または泡立ちを生じる炭酸形成成分を含んでよい。炭酸形成成分により、クラスレート分子の自己凝集を有利に阻害し、それにより、水を構造化し、細胞の水和を増加させるためにクラスレートの表面積を増加させることができる。
【0074】
炭酸形成成分の非限定的な例としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムを挙げることができる。好ましい炭酸形成成分としては、炭酸ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムを挙げることができる。
【0075】
炭水化物クラスレート組成物が固形である場合、炭酸形成成分は、約1~60%w/wまたは約5~60%w/wの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、炭酸形成成分は、約5~45%w/wまたは10~45%w/wの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、炭酸形成成分は、約10~15%w/wの濃度範囲で存在してよい。
【0076】
炭水化物クラスレート組成物が含水飲料の形態である場合、炭酸形成成分は、約1~30%w/vまたは約1~25%w/vの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、炭酸形成成分は、約2~15%w/vまたは2~10%w/vの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、炭酸形成成分は、約2~5%w/vの濃度範囲で存在してよい。
【0077】
V.他の成分
一部の組成物は、組成物の風味および/または栄養価に影響を及ぼすさらに他の成分を含んでよい。これらの追加的成分としては、これらに限定されないが、以下の1つまたは複数を挙げることができる:フレーバー添加物、栄養成分および/または配合物中のクラスレート凝集防止添加物としての機能を果たす種々のヒドロキシル酸。そのような他の成分の非限定的な例としては、クエン酸、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸カリウム、塩化ユウロピウム(EuCl3)、塩化ガドリニウム(GdCl3)、塩化テルビウム(TbCl3)、硫酸マグネシウム、ミョウバン、塩化マグネシウム、マルトデキストリン、リン酸のモノ-、ジ-、トリ-塩基性ナトリウムまたはカリウム塩(例えば、無機リン酸)、塩酸塩(例えば、無機塩化物)、硫酸水素ナトリウムを挙げることができる。シクロデキストリンの凝集を妨げるヒドロキシル酸の非限定的な例としては、イソクエン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、トレオン酸、その塩ならびにそれらの混合物を挙げることができる。これらのヒドロキシル酸は、いくつかの栄養上の利点も示し得る。使用することができる風味添加物などの追加的な任意選択成分の他の非限定的な例としては、適切な有機塩、例えば、塩化コリン、アルギン酸ナトリウム塩(alginic acid sodium salt)(sodium alginate)、グルコヘプトン酸ナトリウム塩、グルコン酸ナトリウム塩(glucoonic acid sodium salt)(sodium gluconate)、グルコン酸カリウム塩(gluconic acid potassium salt)(potassium gluconate)、塩酸グアニジン、塩酸グルコサミン、塩酸アミロリド、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、アデノシン一リン酸塩、グルコン酸マグネシウム、酒石酸カリウム(一水和物)、および酒石酸ナトリウム(二水和物)などが挙げられる。
【0078】
好ましい他の成分としては、例えば、クエン酸、アスコルビン酸、およびマルトデキストリンを挙げることができる。
【0079】
炭水化物クラスレート組成物が固形である場合、1つまたは複数の他の成分は、それぞれ、約1~30%w/wまたは約1~25%w/wの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、1つまたは複数の他の成分は、それぞれ、約1~20%w/wまたは1~15%w/wの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、1つまたは複数の他の成分は、それぞれ、約2~5%w/wの濃度範囲で存在してよい。
【0080】
炭水化物クラスレート組成物が含水飲料の形態である場合、1つまたは複数の他の成分は、約1~20%w/vまたは約1~15%w/vの濃度範囲で存在してよい。好ましくは、1つまたは複数の他の成分は、約1~10%w/vまたは1~5%w/vの濃度範囲で存在してよい。より好ましくは、1つまたは複数の他の成分は、約1~3%w/vの濃度範囲で存在してよい。
【0081】
VI.成分の比率
本明細書に開示されている炭水化物クラスレート組成物に使用することができる種々の成分の種類および量に関する上記の説明に加えて、これらの成分の相対的な量についても同様に説明することができることも注目される。好ましくは、クラスレート成分と錯体形成剤の重量比は、約5:1~1:10の範囲内であってよく、より好ましくは、約2:1~1: 5の範囲内であってよく、さらに好ましくは、約2:1~1:2の範囲内であってよく、さらにより好ましくは、約1:1~1:2の範囲内であってよい。
【0082】
他の可能性のある成分、例えば、フレーバー成分、炭酸形成成分、および他の上記の成分などに関して、クラスレート成分と、他の成分のそれぞれの重量比は、独立して、約25:1~1:25、または約10:1~1:10、または約5:1~1:5、または場合によって、約2:1~1:2、ならびに1:1の範囲内であってよい。
【0083】
VII.好ましい実施形態
本明細書に開示されている炭水化物クラスレート組成物の好ましい実施形態は、例示として提供され、本開示の範囲をいかなる形でも限定するものではない。
【実施例0084】
水構造の分子動力学に対するシクロデキストリンの効果
シミュレートされた水溶媒和シクロデキストリン分子系を、HyperChem(登録商標)5.11ソフトウェア(HyperCube Inc、Gainesville、FL)を使用し、LindnerおよびSaengerによって報告された(Carbohydr.Res.、99:103、1982参照)シクロヘプタ-アミロース十二水和物クラスレート(または、β-シクロデキストリン)の単結晶解析から得られた入力パラメータを用い、全体で984個の水分子を含有する水の周期的溶媒ボックス(periodic solvent box)(3.1x3.1x3.1nm3)を使用して創作した。分子変換および原子の種類を、TinkerFFE 4.2(TINKER Software Tools for Molecular Design、バージョン5.0、Jay William Ponder、Washington University、St. Louis、MO)を使用して調整し、適切な形式にした。分子の力学および動力学の算出を、Tinker 5.0ソフトウェアを用いて、短縮ニュートン・ラプソン法をLinux(登録商標) x86-64オペレーティングシステム(Slamd 64 v12.2)用いて予備的に最適化した後に実施した。
【0085】
分子動力学シミュレーションを、MM3 Force Field分子力学ソフトウェアを用い、一定の温度(298K)で120ピコ秒(psec)、0.1フェムト秒(fsec)のステップを伴って実行した。記録を、中間構造を100,000ステップ(経過時間10psecと等しい)ごとにダンプすることによって生成した。
【0086】
観察結果:
各シミュレーションのゼロ時において、標準の水溶媒ボックスは、1つのβ-シクロデキストリンクラスレート分子および均一に分配した水分子984個の集団を含有した。図4および5は、1つの代表的なシミュレーションの間の特定の経過時間における溶媒ボックスの中心部分の代表例を示す。水分子の位置および配向が(屈曲した)棒として示されており、β-シクロデキストリンがファンデルワールス表面として示されていることが理解されよう。さらに、当然のことながら、図4および5は、溶媒ボックスの体積を示し、したがって、三次元の分子分布が二次元に圧縮されている。
【0087】
図4は、シミュレーションの経過時間1psecにおける溶媒ボックスの中心部分を示す。特に、経過時間1psecにおいて、β-シクロデキストリンのすぐ隣の水分子は、シクロデキストリンとの水素結合を通じて、獲得した比較的静的(安定な)位置を有する。そのような水分子は、第1の水和層と称することができる。しかし、溶媒ボックス内の大部分の水分子の分布は、一般に、構造化されていない最初の分布(1psec前)と同様のままである。
【0088】
図5は、経過時間1000psec(すなわち、1nsec)後のシミュレーションを示す。1000psecにおいて、β-シクロデキストリンのすぐ隣の水分子は、比較的静的(安定な)位置を占有し続ける。しかし、1psecと比較して(図4)、第1の水和層を越えた水分子は、より開いた微細構造を獲得していた。
【0089】
水構造の差異は、図4および5に含まれる透視影つきの説明がない場合により容易に観察することができる。図6は、図4(左側、標識された1psec)および図5(右側、標識された1000psec)に示されている水分子の分布の代替図を示し、これは、以下の方法によって作成した: 256階調レベル(8ビット)を有する図4および5の画像ファイルをPhotoshop 9.0(Adobe, Inc)で開き、300dpiに調整し、階調レベル207で閾値処理し;円選択ツールを使用して画像をトリミングして外側の環形の直径を同一にし、外側の四角の角を黒色で満たし(階調レベル0)、次いで、さらにトリミングしてシクロデキストリン分子をほとんど含まない環形の内部を黒くした。環形の外側および内部の寸法を、比較する画像に等しく適用した。得られた閾値処理された表示は、1000psecにおける中心的な(閉じた)シクロデキストリン分子の周囲の水分子がより開いた調和した構造を有することを定性的に示す(例えば、図6の右側のパネル)。
【0090】
図4~6に示されている水の微細構造の変化を定量的に評価するために、分子密度を、示されている体積を通るオープンパスを測定することによって概算し、これは平均自由行程分析と同様の方法であり、分子性物質の規定された体積における平均自由行程は分子の密度と逆に関連する。特に、白色画素素子によって水分子間のオープンパスが示されており、体積におけるオープンパスの数は白色画素素子の数を数えるためのPhotoshop 9.0のヒストグラムツールを用いて容易に定量化される。図6のパネルに適用して、測定された2%の増加を、経過時間1000psecにおけるオープンパスについて、経過時間1psecにおけるオープンパスと比較して算出した。比較のために、純水を凍結させることにより、密度が9%低下した。行路の長さは分子密度に反比例するので、分析により、溶解したシクロデキストリンにより、水分子の組織化が増加することによって水溶液の密度が減少することが示されている。
【0091】
要約すると、結果は、β-シクロデキストリンの外部表面のヒドロキシルと水分子との間の急速な(psec)水素結合性接着の後に、溶媒ボックス全体を通してより遅い(ナノ秒)水分子再配向の伝播が続き、その結果、より開いた水構造がもたらされることを示している。測定結果は、さらに、シクロデキストリンが、水体積の周囲の水分子間の水素結合を十分に増加させて、水の密度を低下させることができることを示す。
【実施例0092】
IR分光法によって検出される水の結合に対するシクロデキストリン添加物の効果
水、水-糖相互作用、ならびに水構造の増加および減少に対する糖の効果の検出に関する物理的微細構造試験では、例として、Segtanら(Anal. Chem. 2001;73、3153-3161参照)、およびR.Giangiacomo(Food Chemistry、2006、96.3. 371-379参照)により報告されている赤外(IR)分光法、特に、近赤外(NIR)分光法を優先的に用いた。
【0093】
純水およびシクロデキストリン化合物を含有する同じ水の溶液における水和結合エネルギーを、IR分光法を近赤外および中赤外の領域で用いてアッセイした。波長領域全体を通して線形シグナルを記録するために、光学的な長さが短いキュベットを用いて吸水の減衰を最小限にした。
【0094】
NIR領域のスペクトルを、1 mm-esのキュベットを用いてFOSS NIR System, Inc. 6500分光計およびSample Transport Module (STM)に登録した。透過スペクトルを、硫化鉛(PbS)検出器およびVision2.51ソフトウェア(2001;FOSS NIRSystems, Inc.)を使用して1100~2498nmから収集した。
【0095】
Perkin-Elmer Spectrum 400 FT-NIR/FT-IR分光計およびUATR(Universal Attenuated Total Reflectance; ZnSe-ダイヤモンド結晶、1×上部が平らなプレート)試料取扱いユニットを用いて、2500~15385nmにわたるスペクトルを得た(4000~650cm-1として報告)。24℃において、硫酸トリグリシン(TGS)検出器およびSpectrum ES 6.3.2ソフトウェア(PerkinElmer、2008)を使用して測定を実施した。
【0096】
本試験では3つの水の試料を使用した。最初の水試料(USA I)は米国から入手し、逆浸透、炭素濾過、紫外線への曝露、0.2ミクロン、絶対濾過タイプでの膜濾過、およびオゾン処理によって精製した。第2の水試料(USA II)は同様に米国から入手した。第3の水試料(BP I)は、ハンガリー、ブダペストから入手した。キャピラリー電気泳動により、3つの水の間で濃度が異なる同様のイオン成分が明らかになった。
【0097】
以下のシクロデキストリンを上記の水試料に、0.1%~5%w/vの濃度範囲で加えた:
α-シクロデキストリン(αCD、ACDとも称される)、Lot. No. CYL-2322.
β-シクロデキストリン(βCD、BCDとも称される)、Lot. No. CYL-2518/2.
γ-シクロデキストリン(γCD、GCDとも称される)、Lot. No. CYL-2323.
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD、HPBCD)、DS*=3.5、Lot. No. CYL-2232.
2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPCD、HPGCD)、DS*=4.8、Lot. No. CYL-2258.
カルボキシメチル-β-シクロデキストリン(CMBCD)、Lot. No. CYL-2576.
四級アンモニウム-β-シクロデキストリン(QABCD)。
【0098】
一部の実施例では、シクロデキストリンと、アミノ酸であるL-アルギニンおよびL-カルニチンならびにビタミンであるナイアシンアミド(ニコチンアミドとしても公知である)を含めた錯体形成性生物活性剤との間で種々の包接錯体を形成した。全ての試薬は分析的な純度であった。一部の実施例では、シクロデキストリンと生物活性剤の非依存的活性および共依存性的活性を評価するために、L-アルギニンおよびニコチンアミドを、遊離形態で、あるいはシクロデキストリン錯体を形成した(分子的に閉じ込めた)形態で加えた。上記の遊離形態の添加物、およびシクロデキストリン包接錯体の形態での添加物の濃度は、0.1%~5.0%w/vの範囲内であった。
【0099】
観察結果:
図7は、波長域900~1200nmについての二次微分NIRスペクトルを示す。結果は、QABCDを加えることによって水-結合相互作用が有意に改変され、CMBCDおよびHPBCDを加えることによってさらに有意に改変されることを示している。
【0100】
図8は、1200~1500nmについて示されている二次微分NIRスペクトルを示す。結果は、水-結合相互作用が、QABCDおよびHPBCDを加えることによって有意に改変され、CMBCDを加えることによってさらに有意に改変されることを示している。
【0101】
図9は、1620~1710nmについて示されている二次微分NIRスペクトルを示す。結果は、水-結合相互作用が、CMBCD、QABCD、およびHPBCDを加えることによって有意に改変されることを示している。
【0102】
図10は、2170~2370nmについて示されている二次微分NIRスペクトルを示す。結果は、水-結合相互作用が、CMBCDおよびHPBCDを加えることによって有意に改変され、QABCDを加えることによってさらに有意に改変されることを示している。
【0103】
図7~10に示されているように、シクロデキストリンを加えることにより、水媒体の分子結合相互作用が変化する。特に、図9を参照して、1620~1770nmの波長範囲内の精密化されたNIR微分スペクトルは、炭素-水素結合に関連する変更に、シクロデキストリン添加物のCH3-基、CH2-基およびCH-基が関与することを示している。シクロデキストリン処理した水試料のそれぞれにおいて起こった有意なスペクトルの変化により、水素結合の改変された微細構造によってバルク水中のクラスター系が支配されたことが示されている。この効果は、例えば、図9および10に示されている通り、荷電四級アンモニウム-β-シクロデキストリン(QABCD)で処理した水試料において最も大きかった。
【実施例0104】
植物胚の発芽の加速
コムギ種子(コムギ(Triticum aestivum))を、実施例2に記載のUSA I水、USA II水、およびBP I水を用いて発芽させた。補充していない(対照)水を用いた発芽率を、シクロデキストリン成分、および/または生物活性剤を、細胞の水和の活性成分としてさまざまに補充した同じ水を用いた発芽率と比較した。各条件について、種子10個を、連続的にペトリ皿中の水と接触させ、25℃で12時間の明/暗サイクルで保持した。播種後1日目~6日目に測光画像を記録した。発芽した種子の百分率を算出し、その百分率と時間および適用した添加物の濃度との関数として比較した。
【0105】
種子を発芽させるための水試料は、添加物を伴わずに単独で、またはシクロデキストリンを含有させて、またはシクロデキストリンとL-アルギニンもしくはニコチンアミド(どちらもSigma Chemical Co.;St. Louis、MOから入手した)、もしくはL-カルニチン(Lonza AG;Switzerland)とのクラスレート包接錯体を含有させて使用した。添加物は、0.1%(w/v)および5.%(w/v)で含めた。添加物溶液は、発芽の開始日に新鮮に調製した。
【0106】
親シクロデキストリンであるα-シクロデキストリン(ACD)、β-シクロデキストリン(BCD)、およびγ-シクロデキストリン(GCD)は、Wacker Chemie(Munich、Germany)から得た。以下の誘導体化されたシクロデキストリンは、Cyclolab Ltd.(Budapest、Hungary)から入手した:ヒドロキシプロピル化ベータ-シクロデキストリン(DS~3)(HPBCD)、カルボキシメチル化β-シクロデキストリン(DS~3.5)(CMBCD)、2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリンクロライド(DS~3.6)(QABCD)。
【0107】
観察結果
同一の条件下での、対照水および添加物で改変した水における発芽キネティクスを、新芽を有する種子の百分率として数量化した。各決定は、各パラメータについて種子100個からなった。結果が以下の表1および図11~13において報告されている。
【0108】
A)シクロデキストリン/L-Arg包接錯体は種子の発芽を増加させる。
【0109】
【表1】
【0110】
表1は、それぞれUSA I水に溶解させた0.5%w/vのα-CD、0.5%w/vのL-アルギニン(L-Arg)、および0.5%w/vのα-CD/L-アルギニン包接錯体の、コムギ種子の発芽に対する比較的な効果を示す。上記の表にした結果は、いかなる添加物も欠く純水(対照)と比較して、0.5%(w/v)のα-シクロデキストリンとL-アルギニンとの間の包接錯体(αCD/L-Arg包接錯体)を含む水におけるコムギ種子発芽率がはるかに高いことを示す。さらに、表1の結果は、α-シクロデキストリンとL-アルギニンとの間の包接錯体(αCD/L-Arg包接錯体)を含む水におけるコムギ種子発芽率が、0.5%(w/v)のα-シクロデキストリン(αCD)を添加物として単独で含む水と比較して、および0.5%(w/v)L-アルギニン(L-Arg)を添加物として単独で含む水と比較してもはるかに高いことを示している。したがって、この結果は、α-シクロデキストリンとL-アルギニンの錯体が、種子発芽率の上昇に対して、単独の添加物として使用した錯体の個々の成分のいずれによっても示されない相乗効果を有することを示している。表1の結果は図11および13にも示されている。
【0111】
B)シクロデキストリン/ニコチンアミド包接錯体は種子の発芽を増加させる。
【0112】
【表2】
【0113】
表2は、それぞれUSA I水に溶解させた0.5%w/vのα-シクロデキストリン、0.5%w/vのニコチンアミド、および0.5%w/vのα-シクロデキストリン/ニコチンアミド包接錯体(αCD/ニコチンアミド包接錯体)の、コムギ種子の発芽に対する比較的な効果を示す。上記の表にした結果は、いかなる添加物も欠く純水(対照)と比較して、α-シクロデキストリンとニコチンアミドとの間の包接錯体を含む水におけるコムギ種子発芽率がはるかに高いことを示す。さらに、表2の結果は、α-シクロデキストリンとニコチンアミドとの間の包接錯体(αCD/ニコチンアミド包接錯体)を含む水におけるコムギ種子発芽率が、α-シクロデキストリン(αCD)を添加物として単独で含む水と比較して、および、ニコチンアミドを添加物として単独で含む水と比較しても、はるかに高いことを示している。したがって、結果は、包接錯体として使用した場合、α-シクロデキストリンおよびニコチンアミドが、種子発芽率を有意に上昇させる相乗的な生物活性を有することを示している。そのような生物活性は、単独の添加物として使用した錯体の個々の成分のいずれによっても実証されなかった。表2の結果は、図12および13にも示されている。
【0114】
C)発芽にUSA II水およびBP I水を使用して、表1および2、ならびに図11~13において報告されているものと定性的に同様の結果が得られた。したがって、特に、L-アルギニンを含有する、あるいはニコチンアミドを含有するシクロデキストリン包接錯体は、USA II水あるいはBP I水に溶解させると、それぞれ、上でUSA I水を使用して示されている通り、コムギ種子発芽率を有意に上昇させた。
【0115】
D)新芽の長さ(発芽中に新芽が成長する速度)は、条件間で、統計的に有意な信頼区間(P<0.05)では異ならなかった。この結果は、シクロデキストリン、特に、シクロデキストリン包接錯体を、必ずしも新芽の成長速度にも影響を及ぼすことなく、種子の発芽の速度を促進するための細胞の水和の活性成分として選択的に用いることができることを示している。
【実施例0116】
水和が改変された水中での線虫(C.elegans)の寿命の延長
線虫線形動物を、いかなる別の添加物成分も欠くUSA I水(対照) (実施例2に記載)を用いて、またはその代わりに、親のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、またはγ-シクロデキストリン、および/または生物活性剤を細胞の水和の活性成分として補充した同じ水を用いて調製した通常の液体栄養培地を含有するペトリ皿中で成長させた。50±3匹の虫を各皿に移した。各条件を3連で繰り返した。実験を、実施例2に記載のUSA II水およびBP I水について繰り返した。
【0117】
水への添加物:
A.親α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンを添加。
B. L-アルギニンおよびニコチンアミドを添加。
C.シクロデキストリンと、L-アルギニンおよびニコチンアミドの包接錯体を添加。
【0118】
観察結果:
記録された結果は、以下の表3~5に示されており、さらに図14~18に示されている。
【0119】
【表3】
【0120】
表3は、親のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリンを細胞の水和の活性成分として変動的に含有する培地において中年(10日)、高齢(15日)および老年(18日)まで生存している動物の百分率を報告している。本実施例では、親シクロデキストリンを0.1%w/vの濃度でUSA I水に溶解させた栄養培地に加えた。
【0121】
前の試験の全てと一致して、本実施例では、通常の線虫動物は通常の培地で2週間生存した。親シクロデキストリンのそれぞれにより、線虫の高寿命齢(10~15日)における生存(生存の百分率)が著しく増加した。さらに、α-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンにより、老年まで、すなわち、15日後に生存している動物の数が有意に増加した。結果は、図14において図表でも示されており、添加物として親シクロデキストリンのそれぞれを含有する培地において15日および18日まで生存している動物の累積的な百分率が比較されている。結果は、親シクロデキストリン、特に、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンを、生きている動物の生物学的機能を改善するための細胞の水和の活性成分として使用することができることを示している。
【0122】
高齢化を支持する生物学的機構は、加齢の間の広範囲の細胞活性の改善を含んでよい、あるいは、ゆっくりとした加齢の細胞活性経路を選択的に活性化することによってよい。クラスレートにより誘導される水構造、細胞成分の水和、および細胞間シグナルおよび細胞内シグナルを含めた生物活性細胞成分の拡散率の増加は、全て、生物体の生存に対するシクロデキストリンの全体的な効果に寄与し得る。
【0123】
【表4】
【0124】
表4は、誘導体化されたα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ-シクロデキストリンを細胞の水和の活性成分として変動的に含有する培地において中年(10日)、高齢(15日)および老年(18日)まで生存している動物の百分率を報告している。本実施例では、誘導体化されたシクロデキストリンを、0.1%w/vでUSA I水に溶解させた栄養培地に加えた。
【0125】
表4に列挙されている通り、β-シクロデキストリンのHP-誘導体、カルボキシメチル-誘導体、および四級アンモニウム-誘導体は、線虫の10日までの最初の生存に対してわずかな効果のみを有した。対照的に、高齢(15日)では生存の有意な増加が観察されたが、老年(18日)では有意な増加は観察されなかった。結果は、図15において図表でも示されており、添加物として誘導体化されたシクロデキストリンのそれぞれを含有する培地における15日および18日まで生存している動物の累積的な百分率が比較されている。結果は、誘導体化されたシクロデキストリンを、生きている動物の生物学的機能を改善するための細胞の水和の活性成分として使用することができることを示している。
【0126】
【表5】
【0127】
表5は、シクロデキストリン包接錯体を0.1%w/vで、細胞の水和の活性成分として変動的に補充したUSA I水に溶解させた栄養培地において中年(10日)、高齢(14日間)、および老年(18日)まで生存している動物の百分率を報告している。本実施例では、包接錯体は、α-シクロデキストリンおよび生物活性剤、具体的には、L-アルギニン、L-カルニチン、またはナイアシンアミドを含有した。
【0128】
前の実施例の場合と同様に、線虫動物は、補充していない培地では2週間生存した。L-アルギニンおよびナイアシンアミドとのα-シクロデキストリン錯体により、線虫の高齢(14日目)における生存が2倍超になり、さらに、小さいが有意な数の動物が、栄養培地単独では生存していた動物がいなかった老年まで生存することが可能になった。対照的に、L-カルニチンとのα-シクロデキストリン錯体の線虫の生存に対する有意な効果はわずかであった、または効果はなかった。同様に、α-シクロデキストリンを伴わずに単独で培地に加えたL-アルギニンおよびニコチンアミドの、線虫の生存に対する効果はわずかであった。結果は図16において図表でも示されており、各シクロデキストリン包接錯体を添加物として含有する培地において14日および18日まで生存している動物の累積的な百分率が比較されている。結果は、α-シクロデキストリン包接錯体、特に、L-アルギニンおよびナイアシンアミドとの錯体を、生きている動物の生物学的機能を改善するための細胞の水和の活性成分として使用することができることを示している。
【0129】
図17にさらに示されている通り、α-シクロデキストリンとL-アルギニンの包接錯体(データ系列A;1:1錯体、USA I水を用いて作製した培地に0.1%w/vで溶解させた)、およびα-シクロデキストリンとナイアシンアミドの包接錯体(データ系列B;1:1錯体、USA I水を用いて作製した培地に0.1%w/vで溶解させた)は、線虫の死亡率を低下させることができる。図17は、各培地条件について毎日の死んでいる動物の数を示し、対照データ系列は、USA I水を用いて作製した培地であり、さらなる添加物または補充を欠く。結果は、α-シクロデキストリンの錯体を形成した形態を、生きている動物の死亡を遅らせるための細胞の水和の活性成分として使用することができることを示している。
【0130】
図18は、代わりに、図17のデータを、USA I水(対照)を用いた通常の培地、あるいはα-シクロデキストリンとL-アルギニンの1:1包接錯体を補充した培地(試料1);またはシクロデキストリンとナイアシンアミドの1:1包接錯体を補充した培地(試料2)で成長している動物の生存曲線として示す。したがって、図17に示されている死亡の遅延により、より老年までの生存がもたらされ、生存の平均年齢(50%生存)が通常の培地でのおよそ13日から、シクロデキストリン包接錯体を細胞の水和の活性成分として含む培地でのおよそ14日まで増加し、これは、寿命の8%の増加を示している。
【0131】
本発明は、前述の操作上の原理および好ましい実施形態を参照して示され、説明されているが、当業者には、形態および詳細の種々の変化が、本発明の主旨および範囲から逸脱することなくなされ得ることが明らかになるであろう。本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内に入るそのような代替、改変および変動を全て包含するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図11
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図14
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図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2022-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子表面、細胞成分および特定の密度を有する水分子と共に生物活性分子を含む生物細胞系と相互作用する組成物であって、
生物細胞系システムの活性をその細胞系の1つまたは複数の成分の水和を増加させることによって増加させるように構築された生物学的に活性な成分を含む組成物。
【外国語明細書】