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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167950
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】椎間板の修復および/または再構成
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20221027BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20221027BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221027BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20221027BHJP
   A61K 31/726 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/737 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61L27/38 112
A61K35/545
A61P19/02
A61L27/20
A61K35/28
A61K31/726
A61K31/727
A61K31/728
A61K31/737
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022132564
(22)【出願日】2022-08-23
(62)【分割の表示】P 2020092260の分割
【原出願日】2009-06-25
(31)【優先権主張番号】61/133,111
(32)【優先日】2008-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505362089
【氏名又は名称】メゾブラスト,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ゴーシュ
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、脊椎板の修復および再構成を行う方法を提供することである。
【解決手段】本発明の目的は、STRO-1+多分化能細胞を使用することによって達成される。STRO-1+多分化能細胞を使用することにより、椎間板の変性により特徴づけられる脊髄状態を治療することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において椎間板を再構成および/または修復するための方法であって、STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞を椎間板に投与するステップを含む方法。
【請求項2】
STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞が椎間板の髄核に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
STRO-1+多分化能細胞が、TNAP+(STRO-3)、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、CD45+、CD146+、3G5+またはそれらのいずれかの組合せにも陽性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
STRO-1+多分化能細胞が同種供給源に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
グリコサミノグリカン(GAG)を椎間板に投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
GAGが、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、およびガラクトサミノグリクロングリカン硫酸(GGGS)からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象が椎間板の変性により特徴づけられる脊髄状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
脊髄状態が、腰痛、椎間板の加齢性変化または脊椎分離症である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における椎間板(椎間円板, invertebral disc)の修復および再構成のための方法に関する。本発明の方法は、椎間板の変性により特徴づけられる脊髄状態の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
椎間板(IVD)は、ヒト身体中最大の主に無血管性、無神経性および無リンパ性の構造体である。椎間板(disc)は軸圧縮、屈曲および伸長中に柔軟性および機械的安定性を提供するので、脊柱の正常機能にとって極めて重要である。IVDは、いくつかの特殊化した結合組織:(i)椎間板の上部と下部に配置されている椎骨(体)の表面を覆う軟骨性終板(CEP)の硝子軟骨、(ii)髄核(NP)を被包する線維軟骨線維輪(AF)、および(iii)細胞のような軟骨を含有するが硝子軟骨ではない中枢ゼラチン質髄核(NP)で構成されている。その名が示すように、AFとNPの間に位置する移行帯(TZ)も同定されている。線維軟骨AFは椎体の骨性周縁部に結合している同心性コラーゲン層(ラメラ)で構成されている。
【0003】
プロテオグリカン(PG)およびI、II、III、V、VI、IX、X、XI型コラーゲンは、これらの椎間板組織すべての主要マトリックス成分であるが、その相対的な量と分布はその解剖学的位置に依拠している。PGは、水分子に対して高親和性を有するが、「健常な椎間板」のNPにもっとも豊富にある。PGに吸収されている水は、被包している線維軟骨AFを「膨張」させる静水圧をNP内部に生じる。脊柱の正常な生体力学的機能に不可欠なIVDの水力学的および粘弾性特性に寄与しているのが、これらの特殊化した結合組織とその個々の生理化学的特性の組合せである。
【0004】
IVDは、加齢および変性中に深刻なマトリックス変化を受ける。ヒト死体検体および脊髄手術時に得られる椎間板検体の研究により、中年から高齢期群の個人由来の椎間板は一般に広範囲の病変を有することが明らかにされている(1、2)。
【0005】
これらの検体から、主要な3種の椎間板病変:(i)周縁部病変、すなわち椎体周縁部の骨へのAFの付着に近い横断型欠損、(ii)輪状ラメラが互いに分離する同心性(外周)断裂、および(iii)NP内部で始まる裂け目の生長から生じる放射状断裂が同定されている(1、2、3)。周縁部病変は、青年期および成人早期に、椎骨周縁部の骨へのその挿入に近いAFの前領域内部により一般的に現れ、周縁部病変が機械的に媒介される可能性を示唆しているために、特に興味深い。周縁部病変の存在は、AFの早期の不全を示唆しており、椎間板変性の主原因であるが、死体検体での研究により、他の病理学的特徴(同心性断裂、嚢胞性輪状変性、NPの脱水症、椎骨周縁部靭帯骨棘および後部椎間関節の変形性関節症)もある程度は必ず存在することも示されている(1、2)。こうしたそれぞれの椎間板病変の時間的経緯はいまだに議論の主題のままであるが、PGおよびその付随する水のNPからの消失が椎間板変性の初期の病因決定因子であることで一般に意見が一致している(4)。
【0006】
すでに論じたように、椎間板は、主にNP内への水分子の吸収により媒介されて、柔軟な流体弾性クッションとして機能する。含水量、したがってNPの膨潤圧が減少すれば、AF上へ超生理学的機械的応力がかかり、限局性不全を生じると考えられる。
【0007】
椎間板変性から生じる背痛および頚部痛に付随する医学的問題は、生涯のある時期に人口の90%が経験している(5、6)。男性では、医学的介入を正当化するほど十分重症の背痛または頚部痛は、一生の30歳代と40歳代に発生率が増加し、50歳代でピークに達して、その後は減少していく(5)。
【0008】
米国では、背痛は医師の診察を受ける2番目に多い理由であり、背痛および頚部痛に関連する医学的状態は、他のどんな筋骨格障害よりも多くの入院の割合を占めている。背痛は、労働時間を失う主原因である。たとえば、英国では、この病状から毎年1,100万以上の労働日が失われていると推定されている。さらに、人口の寿命が今後数十年にわたり増加するに従って、それに応じて背痛および頚部痛問題も増加すると予想される。
【0009】
現代社会では背痛および頚部痛の発生率が高く経済的負担もあるにもかかわらず、その原因はまだ十分に理解されていない。しかし、外側AFに存在する神経から直接にであれ、または椎間板流体弾性機能の消失により機械的に損なわれる隣接する脊髄構造体からであれ、IVDの変性および/または不全が苦痛の主原因であることでは一般的に見解が一致している(7、8、9、10)。椎間板疾患は、腰痛のすべての症例のうち23~40%の原因である(11、12)。外側AFが刺激され、神経線維はAF内部の3分の1の深さまで伸長することがあり、したがって、外側AFへのどんな病的変化も苦痛を引き起こす可能性がある(13、14、15)。
【0010】
椎間板を起源とする背痛または頚部痛を治療するための既存のパラダイムは経験的であり、総体的症状を最小化する生活様式の変化もしくは抗炎症/鎮痛薬の使用、または変性組織の切除を必要とすることがある外科的介入もしくは運動を制限する脊柱関節固定術の方に向かっている。頚部痛または腰痛の軽減のために脊椎固定術が広範囲に使用されているが、椎間板腔(disc space)へ硬いセグメントを導入することにより隣接する椎間板に機械的応力がかかり、後の段階で症状性になる可能性のある隣接する椎間板の変性変化を加速するために、これは良性の手法ではないことが知られている(16)。代わりの治療法が求められていることは明らかである。
【0011】
タンパク質の骨原性タンパク質-1(OP-1)(骨形成タンパク質-7)を椎間板内投与すると、実験的に生じた変性に続いて椎間板マトリックス修復を刺激することが報告されている。脱重合酵素のコンドロイチナーゼABCを椎間板NPに事前注入することによりウサギに椎間板変性が生じたが、これは化学的髄核融解術として知られる手法である(17)。NP細胞もAF細胞も化学的髄核融解術後のほうが、機能的マトリックスを再形成するのにはるかに効率的であることが見出された。正常な密度の細胞外マトリックスに包埋された椎間板細胞は、PG合成に対するOP-1の促進効果に大部分が無応答性であることが見出された(17)。
【0012】
自己軟骨細胞を使用して変性イヌおよびヒトIVDの修復を実現するための潜在的細胞治療法を調べる研究が報告されている(18、19)。使用された細胞は、同種の健常なNPから回収された軟骨細胞であり、続いて欠損椎間板へ再移植された。このアプローチの欠点は、この目的のために使用される細胞は、隣接する健常椎間板からまたは同種の他の提供者から回収する必要があると考えられる点である。そのような細胞を入手するにはAFを侵害する必要があり、このプロセスではAF構造を損傷するだけではなく、NPから生細胞を取り除くとこの組織の変性変化が加速されると考えられる。明らかにこの手法では、ヒトへの適用が制限されてきたのであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2006/032092号
【特許文献2】国際公開第01/04268号
【特許文献3】国際公開第2004/085630号
【特許文献4】米国特許第4,983,393号
【特許文献5】米国特許第3,089,815号
【特許文献6】米国特許第6,468,527号
【特許文献7】PCT/US94/05700
【特許文献8】米国特許第5,173,414号
【特許文献9】米国特許第5,139,941号
【特許文献10】国際公開第92/01070号
【特許文献11】国際公開第93/03769号
【特許文献12】米国特許出願公開第2005/0158289号
【特許文献13】国際公開第2006/108229号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons (1984)
【非特許文献2】J. Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)
【非特許文献3】T.A. Brown (editor)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、Volumes 1 and 2、IRL Press (1991)
【非特許文献4】D.M. Glover and B.D. Hames (editors)、DNA Cloning: A Practical Approach、Volumes 1~4、IRL Press (1995 and 1996)
【非特許文献5】F.M. Ausubel et al. (editors)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までのすべてのアップデートを含む)
【非特許文献6】Ed Harlow and David Lane (editors) Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)
【非特許文献7】J.E. Coligan et al. (editors) Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons (現在までのすべてのアップデートを含む)
【非特許文献8】Gronthos et al. Blood 85: 929~940頁、1995年
【非特許文献9】Pollard、J. W. and Walker、J. M. (1997) Basic Cell Culture Protocols、Second Edition、Humana Press、Totowa、N.J.
【非特許文献10】Freshney、R. I. (2000) Culture of Animal Cells、Fourth Edition、Wiley-Liss、Hoboken、N.J.
【非特許文献11】Weigel PH、Fuller GM、LeBoeuf RD. (1986) A model for the role of hyaluronic acid and fibrin in the early events during the inflammatory response and wound healing. J Theor Biol. 119: 219~34頁
【非特許文献12】Wadstrom J and Tengblad A (1993) Fibrin glue reduces the dissolution rate of sodium hyaluronate. Upsala J Med Sci. 98: 159~167頁
【非特許文献13】Ausubel et al (In: Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience、ISBN 047 150338、1987年)
【非特許文献14】Sambrook et al (In: Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories、New York, Third Edition 2001年)
【非特許文献15】Buchscher et al.、J Virol. 56:2731~2739頁(1992)
【非特許文献16】Johann et al、J. Virol. 65:1635~1640頁(1992)
【非特許文献17】Sommerfelt et al, Virol. 76:58~59頁(1990)
【非特許文献18】Wilson et al、J. Virol. 63:274~2318頁(1989)
【非特許文献19】Miller et al.、J. Virol. 65:2220~2224頁(1991)
【非特許文献20】Miller and Rosman BioTechniques 7:980~990頁、1989年
【非特許文献21】Miller、A. D. Human Gene Therapy 7:5~14頁、1990年
【非特許文献22】Scarpa et al Virology 75:849~852頁、1991年
【非特許文献23】Burns et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033~8037、1993年
【非特許文献24】Lebkowski et al. Molec. Cell. Biol. 5:3988~3996頁、1988年
【非特許文献25】Vincent et al. (1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533~539頁、1992年
【非特許文献26】Muzyczka. Current Topics in Microbiol、and Immunol. 158:97~129頁、1992頁
【非特許文献27】Kotin, Human Gene Therapy 5:793~801頁、1994年
【非特許文献28】Shelling and Smith Gene Therapy 7:165~169頁、1994年
【非特許文献29】Zhou et al. J Exp. Med. 179:1867~1875頁、1994年
【非特許文献30】Fisher-Hoch et al.、Proc. Nall Acad. Sci. USA 56:317~321頁、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願は、変性椎間板の髄核および線維輪の再構成を促進するためのSTRO-1+多分化能細胞のインビボ使用をはじめて記載している。STRO-1+多分化能細胞は同種供給源に由来し、本実験で使用される動物モデルにおいて耐容性が優れていた。これにより、提供者由来のSTRO-1+多分化能細胞を多数増殖させ、変性椎間板の治療のための「非自己」産物として発育させることができることが示唆される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、対象において椎間板を再構成および/または修復するための方法であって、間葉系前駆細胞(STRO-1+多分化能細胞)および/またはその子孫細胞を椎間板に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
本発明の実施形態では、STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞は椎間板の髄核に投与される。
【0018】
好ましくは、STRO-1+多分化能細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、CD45+、CD146+、3G5+またはそれらのいずれかの組合せでもある。
【0019】
STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞は、自律性、同種または異種供給源に由来するものでもよい。一実施形態では、細胞は同種供給源に由来する。
【0020】
本発明の方法は、たとえば、ヒアルロン酸(ヒアルロナン) (HA)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸などのグリコサミノグリカン(GAG)を椎間板に投与することも含んでいてよい。GAGは、STRO-1+多分化能細胞および/もしくはその子孫細胞と同じ組成物または異なる組成物で投与することができる。
【0021】
本発明の方法は、どんな脊椎動物にも実施してよいことは認識されるであろう。たとえば、対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはヒツジなどの哺乳動物でもよい。
【0022】
本発明の方法は、腰痛、椎間板の加齢性変化または脊椎分離症などの椎間板の変性により特徴づけられる脊髄状態の治療または予防に使用してよい。
【0023】
本明細書全体を通じて、用語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの変化は、述べられる要素、整数もしくは段階、または要素、整数もしくは段階の群を包含することを意味するが、他のどんな要素、整数もしくは段階、または要素、整数もしくは段階の群を排除することは意味しないと理解されるであろう。
【0024】
以下の非限定的な実施例により、添付図面を参照しながら、以降で本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】全ヒツジ群中STRO-1細胞を用いて処置された腰椎レベルの模式図である。
図2A】放射線学的に決定された椎間板高指標(Disc Height Index)(DHI)を示す図である。低用量STRO-1細胞を受けたヒツジ群についての、基線およびコンドロイチナーゼABC誘導変性後3カ月 (STRO-1細胞前3カ月)のX線決定平均±SEM椎間板高指標(DHI)。
図2B】放射線学的に決定された椎間板高指標(DHI)を示す図である。高用量STRO-1細胞を受けたヒツジ群についての、基線およびコンドロイチナーゼABC誘導変性後3カ月 (STRO-1細胞前3カ月)のX線決定平均±SEM椎間板高指標(DHI)。
図3A】コンドロイチナーゼABC注入椎間板についての、MRI決定集計椎間板変性スコアを示す図である。3カ月間の低用量STRO-1細胞+HAまたはHA単独を用いた処置に先立つコンドロイチナーゼABCの注入後のMRI決定集計椎間板変性スコアの平均±SEM。
図3B】コンドロイチナーゼABC注入椎間板についての、MRI決定集計椎間板変性スコアを示す図である。6カ月間の低用量STRO-1細胞+HAまたはHA単独を用いた処置に先立つコンドロイチナーゼABCの注入後のMRI決定集計椎間板変性スコアの平均±SEM。
図4A】コンドロイチナーゼABC注入椎間板についての、MRI決定集計椎間板変性スコアを示す図である。3カ月間の高用量STRO-1細胞+HAまたはHA単独を用いた処置に先立つコンドロイチナーゼABCの注入後のMRI決定集計椎間板変性スコアの平均±SEM。
図4B】コンドロイチナーゼABC注入椎間板についての、MRI決定集計椎間板変性スコアを示す図である。6カ月間の高用量STRO-1細胞+HAまたはHA単独を用いた処置に先立つコンドロイチナーゼABCの注入後のMRI決定集計椎間板変性スコアの平均±SEM。
図5A】集計組織病理学椎間板変性スコアを示す図である。低用量STRO-1細胞についての3カ月目の集計組織病理学椎間板変性スコアの平均。#=対照から有意差ありp<0.001。Ω=STRO-1+細胞からp<0.01。
図5B】集計組織病理学椎間板変性スコアを示す図である。低用量STRO-1細胞についての6カ月目の集計組織病理学椎間板変性スコアの平均。#=対照から有意差ありp<0.001。Ω=STRO-1+細胞からp<0.01。
図6A】集計組織病理学椎間板変性スコアを示す図である。高用量STRO-1細胞についての3カ月目の集計組織病理学椎間板変性スコアの平均。#=対照から有意差ありp<0.001。Ω=STRO-1+細胞からp<0.01。
図6B】集計組織病理学椎間板変性スコアを示す図である。高用量STRO-1細胞についての6カ月目の集計組織病理学椎間板変性スコアの平均。#=対照から有意差ありp<0.001。Ω=STRO-1+細胞からp<0.01。
図7A】集計MRI椎間板変性スコアを示す図である。3カ月目の低用量STRO-1細胞についての集計MRI椎間板変性スコア。#=対照から有意差ありp<0.05。Ω=STRO-1+細胞からp<0.05。
図7B】集計MRI椎間板変性スコアを示す図である。6カ月目の低用量STRO-1細胞についての集計MRI椎間板変性スコア。#=対照から有意差ありp<0.05。Ω=STRO-1+細胞からp<0.05。
図8A】集計MRI椎間板変性スコアを示す図である。3カ月目の高用量STRO-1細胞についての集計MRI椎間板変性スコア。#=対照から有意差ありp<0.05。Ω=STRO-1+細胞からp<0.05。
図8B】集計MRI椎間板変性スコアを示す図である。6カ月目の高用量STRO-1細胞についての集計MRI椎間板変性スコア。#=対照から有意差ありp<0.05。Ω=STRO-1+細胞からp<0.05。
図9A】髄核(NP)組織病理学変性スコアを示す図である。3カ月目の低用量STRO-1細胞についてのNP組織病理学変性スコアの平均。
図9B】髄核(NP)組織病理学変性スコアを示す図である。6カ月目の低用量STRO-1細胞についてのNP組織病理学変性スコアの平均。
図10A】髄核(NP)組織病理学変性スコアを示す図である。3カ月目の高用量STRO-1細胞についてのNP組織病理学変性スコアの平均。
図10B】髄核(NP)組織病理学変性スコアを示す図である。6カ月目の高用量STRO-1細胞についてのNP組織病理学変性スコアの平均。
図11A】髄核について生化学的に決定されたグリコサミノグリカン(GAG)含有量を示す図である。3カ月間の低用量または高用量STRO-1細胞を注入した椎間板の髄核についての平均±SD生化学的に決定されたグリコサミノグリカン(GAG)含有量。#=対照から有意差あり(p<0.05)。
図11B】髄核について生化学的に決定されたグリコサミノグリカン(GAG)含有量を示す図である。6カ月間の低用量または高用量STRO-1細胞を注入した椎間板の髄核についての平均±SD生化学的に決定されたグリコサミノグリカン(GAG)含有量。#=対照から有意差あり(p<0.05)。
図12A】放射線学的に決定された椎間板高指標(DHI)を示す図である。HAまたはHA+低用量STRO-1細胞を用いた注入3カ月および6カ月後のコンドロイチナーゼABC誘導変性椎間板についてのX線決定平均±SEM椎間板高指標(DHI)。
図12B】放射線学的に決定された椎間板高指標(DHI)を示す図である。HAまたはHA+高用量STRO-1細胞を用いた注入3カ月および6カ月後のコンドロイチナーゼABC誘導変性椎間板についてのX線決定平均±SEM椎間板高指標(DHI)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
一般技術および選択された定義
別段特に定義されなければ、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、技術分野(たとえば、細胞培養、幹細胞生物学、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、および生化学)の当業者により一般に理解されているのと同じ意味を有すると解釈されることとする。
【0027】
別段示されなければ、本発明で利用される組換えタンパク質、細胞培養、および免疫学的技法は、標準的手法であり、当業者にはよく知られている。そのような技法は、J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown (editor)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、Volumes 1 and 2、IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames (editors)、DNA Cloning: A Practical Approach、Volumes 1~4、IRL Press (1995 and 1996)、and F.M. Ausubel et al. (editors)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までのすべてのアップデートを含む)、Ed Harlow and David Lane (editors) Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)、and J.E. Coligan et al. (editors) Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons (現在までのすべてのアップデートを含む)などの出典の文献全体に記載され説明されている。
【0028】
本明細書で使用されるように、用語「治療すること(treating)」、「治療する(treat)」または「治療(treatment)」は、特定条件の少なくとも1つの症状を軽減するまたは除去するのに十分な治療的有効量のSTRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞を投与することを含む。
【0029】
本明細書で使用されるように、用語「予防すること(preventing)」、「予防する(prevent)」または「予防(prevention)」は、特定条件の少なくとも1つの症状の発症を止めるまたは妨げるのに十分な治療的有効量のSTRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞を投与することを含む。
【0030】
STRO-1+多分化能細胞または子孫細胞
本明細書で使用されるように、語句「STRO-1+多分化能細胞」は、多分化能細胞コロニーを形成することができるSTRO-1+および/またはTNAP+前駆細胞を意味すると解釈されることとする。
【0031】
STRO-1+多分化能細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮、および骨膜に見られる細胞であり、中胚葉および/または内胚葉および/または外胚葉などの生殖系列に分化することができる。したがって、STRO-1+多分化能細胞は、脂肪性、骨、軟骨性、弾性、筋肉、および線維性結合組織を含むが、これらに限定されることはない多数の細胞型に分化することができる。これらの細胞が入る特定の分化系列決定および分化経路は、機械的影響および/または増殖因子、サイトカインなどの内在性生理活性因子、および/または宿主組織により確立される局所的微小環境条件に依拠する。一実施形態では、STRO-1+多分化能細胞は非造血性前駆細胞であり、この細胞は分裂して、幹細胞またはそのうち不可逆的に分化して表現型細胞を生じる前駆細胞のいずれかである娘細胞を生じる。
【0032】
別の実施形態では、STRO-1+多分化能細胞は、対象、たとえば、治療を受ける対象または関連する対象または関連しない対象(同種であれ異種であれ)から入手される試料から濃縮される。用語「濃縮された(enriched)」、「濃縮(enrichment)」またはその変化形は、1つの特定の細胞型の割合またはいくつかの特定の細胞型の割合が、未処置の集団と比べると増加している細胞集団を表すために本明細書では使用される。
【0033】
別の実施形態では、本発明で使用される細胞は、TNAP+、VCAM-l+、THY-1+、STRO-2+、CD45+、CD146+、3G5+またはそれらのいずれかの組合せからなる群から個別にまたは集団で選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0034】
「個別に」とは、本発明は、列挙されるマーカーまたはマーカーの群を別々に包含すること、および個々のマーカーまたはマーカーの群は本明細書では別々に収載されていないにしても、添付の特許請求の範囲はそのようなマーカーまたはマーカーの群を別々におよび互いに分割して定義する場合があることを意味する。
【0035】
「集団で」とは、本発明は、任意の数または組合せの列挙されるマーカーまたはペプチドの群を包含すること、およびそのような数または組合せのマーカーまたはマーカーの群は本明細書には具体的に収載されていないにしても、添付の特許請求の範囲は、そのような組合せまたは小組合せを別々におよび他の任意の組合せのマーカーまたはマーカーの群から分割して定義する場合があることを意味する。
【0036】
好ましくは、STRO-1+細胞はSTRO-1bright(同義語STRO-1bri)である。好ましくは、STRO-1bright細胞はさらに、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+および/またはCD 146+のうちの1つまたは複数である。
【0037】
一実施形態では、STRO-1+多分化能細胞は、国際公開第2004/85630号に定義される血管周囲間葉系前駆細胞である。
【0038】
所与のマーカーに「陽性」であると呼ばれる細胞は、そのマーカーが細胞表面に存在する程度に応じて低(loまたは暗)レベルまたは高(明、bri)レベルのそのマーカーを発現することがあり、この用語は、細胞のソーティング過程で使用される蛍光または他のマーカーの強度に関係する。lo(または暗または鈍)とbriの区別は、選別されている特定の細胞集団上で使用されるマーカーと関連して理解されるであろう。所与のマーカーに対して「陰性」であると呼ばれる細胞は、必ずしもその細胞に全く存在しないわけではない。この用語は、マーカーがその細胞により比較的非常に低レベルで発現され、検出可能な標識がされている場合は非常に低いシグナルを発生させまたはバックグラウンドレベル以上の検出ができないことを意味する。
【0039】
用語「明」は、本明細書で使用されるとき、検出可能な標識がされている場合には比較的高シグナルを生じる細胞表面上のマーカーのことである。理論に制限されたくはないが、「明」細胞は、試料中の他の細胞よりも標的マーカータンパク質(たとえば、STRO-1により認識される抗原)を多く発現すると提唱される。たとえば、STRO-1bri細胞は、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)解析により決定されるFITCコンジュゲートSTRO-1抗体で標識されている場合は、非明細胞(STRO-1dull/dim)よりも大きな蛍光シグナルを発生する。好ましくは、「明」細胞は、開始試料中に含有されるもっとも明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の実施形態では、「明」細胞は、開始試料中に含有されるもっとも明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、または少なくとも約2%を構成する。好ましい実施形態では、STRO-1bright細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO-1-である細胞に比べて2ログ振幅高い発現のSTRO-1表面発現を有する。比較すると、STRO-1dimおよび/またはSTRO-1intermediate細胞は、「バックグラウンド」よりも2ログ未満、典型的には約1ログ以下の振幅だけ高い発現のSTRO-1表面発現を有する。
【0040】
本明細書で使用するように、用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全アイソフォームを包含することを意図されている。たとえば、前記用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)および腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。好ましい実施形態では、TNAPはBAPである。特に好ましい実施形態では、本明細書で使用されるTNAPとは、ブダペスト条約の条項に基づき、寄託受託番号PTA-7282下で2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞系統により産生されるSTRO-3抗体に結合することができる分子のことである。
【0041】
一実施形態では、STRO-1+多分化能細胞は、クローン原性CFU-Fを生じることができる。
【0042】
STRO-1+多分化能細胞のかなりの割合が、少なくとも2種類の異なる生殖系列に分化することができることが好ましい。多分化能細胞が関係づけられる可能性がある系列の非限定的例には、骨前駆細胞、胆管上皮細胞および肝細胞に多能性である肝細胞前駆体、オリゴデンドロサイトおよび星状細胞に進むグリア細胞前駆体を産生することができる神経拘束性細胞、神経細胞に進む神経細胞前駆体、心筋および心筋細胞の前駆体、グルコース応答インスリン分泌膵β細胞系統が挙げられる。他の系統には、象牙芽細胞、象牙質産生細胞および軟骨細胞、ならびに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎臓管上皮細胞、平滑および骨格筋細胞、精巣前駆体、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、脂肪細胞、髄ストローマ、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管性、上皮性、グリア、神経細胞、星状細胞およびオリゴデンドロサイト細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
別の実施形態では、STRO-1+多分化能細胞は、培養すると、造血細胞を生じることができない。
【0044】
一実施形態では、細胞は治療を受ける対象から採取され、標準技術を使用してインビトロで培養され、自律性または同種組成物として対象に投与するための上清または可溶性因子または増殖細胞を得るために使用される。代わりの実施形態では、樹立ヒト細胞系統のうちの1つまたは複数の細胞が使用される。本発明の別の有用な実施形態では、非ヒト動物の(または患者がヒトではない場合は、別の種由来の)細胞が使用される。
【0045】
本発明は、インビトロ培養から作製されるSTRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞(後者も増殖細胞と呼ばれる)から得られまたはそれに由来する上清または可溶性因子の使用も企図している。本発明の増殖細胞は、培養条件(培養液中の刺激因子の数および/または種類を含む)、継代数などに応じて広範囲の表現型を有する可能性がある。ある種の実施形態では、子孫細胞は、親集団から約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10継代後に得られる。しかし、子孫細胞は、親集団からどんな数の継代後に得られてもよい。
【0046】
子孫細胞は、どんな適切な培養液でも培養することによって得てもよい。用語「培地」は、細胞培養に関連して使用されるように、細胞を取り囲む環境の成分を含む。培地は、固体でも、液体でも、気体でも、相と物質の混合でもよい。培地には、液体増殖培地の他にも細胞増殖を支持しない液体培地が挙げられる。培地には、寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲンマトリックスなどのゼラチン質培地も挙げられる。例となる気体培地には、ペトリ皿または他の固体もしくは半流動担体上で増殖する細胞が曝される気相が挙げられる。用語「培地」は、たとえまだ細胞と接触していないにしても、細胞培養において使用することを目的とする物質のことでもある。言い換えると、細菌培養のために調製される栄養分リッチ液体は培地である。水または他の液体と混合されると、細胞培養に適したものになる粉末混合物は「粉末培地」と呼んでよい。
【0047】
ある実施形態では、本発明の方法に有用な子孫細胞は、STRO-3抗体で標識された磁気ビーズを使用して骨髄からTNAP+ STRO-1+多分化能細胞を単離し、次に単離された細胞を培養増殖することにより得られる(適切な培養条件の例はGronthos et al. Blood 85: 929~940頁、1995年参照)。
【0048】
一実施形態では、そのような増殖細胞(子孫)(好ましくは、少なくとも5継代後)は、TNAP-、CC9+、HLA class I+、HLA class II-、CD 14-、CD 19-、CD3-、CD11 a- c-、CD31-、CD86-、CD34-および/またはCD80-であることが可能である。しかし、本明細書に記載される培養条件とは異なる培養条件下では、異なるマーカーの発現は変化する可能性がある。同様に、これらの表現型の細胞は増殖細胞集団中で優勢である可能性があるが、それは、この表現型を持たないわずかな割合の細胞が存在するということにはならない(たとえば、増殖細胞のうちわずかな割合がCC9-である可能性がある)。好ましい一実施形態では、増殖細胞は、まだ異なる細胞型に分化する能力を有する。
【0049】
一実施形態では、上清または可溶性因子、または細胞それ自体を得るために使用される増殖細胞集団は、細胞の少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%がCC9+である細胞を含む。
【0050】
別の実施形態では、上清または可溶性因子、または細胞それ自体を得るために使用される増殖細胞集団は、細胞の少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも45%がSTRO-1+である細胞を含む。
【0051】
追加の実施形態では、増殖細胞は、LFA-3、THY-1、VCAM-1、ICAM-1、PECAM-1、P-セレクチン、L-セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD90、CD29、CD18、CD61、インテグリンβ6~19、トロンボモジュリン、CD 10、CD 13、SCF、PDGF-R、EGF-R、IGF1-R、NGF-R、FGF-R、レプチン-R (STRO-2=レプチン-R)、RANKL、STRO-lbrightおよびCD146またはこれらのマーカーのいずれかの組合せからなる群から集団でまたは個別に選択される1つまたは複数のマーカーを発現してもよい。
【0052】
一実施形態では、子孫細胞は、国際公開第2006/032092号に定義されているかつ/または記載されている多分化能増殖STRO-1+多分化能細胞子孫(MEMP)である。子孫が由来する可能性があるSTRO-1+多分化能細胞の濃縮集団を調製するための方法は、国際公開第01/04268号および国際公開第2004/085630号に記載されている。インビトロ状況では、STRO-1+多分化能細胞は完全に純粋な調製物として存在することはめったになく、一般には、組織特異的関連細胞(TSCC)である他の細胞と一緒に存在するであろう。国際公開第01/04268号は、約0.1%から90%までの純度レベルで骨髄からそのような細胞を回収することに言及している。子孫が由来するSTRO-1+多分化能細胞を含む集団は、組織供給源から直接回収してもよく、代わりに、すでにエキソビボで増殖されている集団でもよい。
【0053】
たとえば、子孫は、細胞が存在する集団の全細胞のうち少なくとも約0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80または95%を含む、実質的に純粋なSTRO-1+多分化能細胞の回収された、増殖していない集団から得てもよい。このレベルは、たとえば、TNAP、STRO-1bright、3G5+、VCAM-1、THY-1、CD146およびSTRO-2からなる群から個別にまたは集団で選択される少なくとも1つのマーカーに陽性である細胞を選択することにより実現してよい。
【0054】
MEMPは、マーカーのSTRO-1briに陽性であり、マーカーのアルカリンホスファターゼ(ALP)に陰性である点で、新たに回収されたSTRO-1+多分化能細胞から区別することができる。これとは対照的に、新たに単離されたSTRO-1+多分化能細胞は、STRO-1briにもALPにも陽性である。本発明の好ましい実施形態では、投与された細胞の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%が、表現型STRO-1bri、ALP-を有している。追加の好ましい実施形態では、MEMPは、マーカーKi67、CD44および/またはCD49c/CD29、VLA-3、α3β1のうちの1つまたは複数に陽性である。さらに追加の好ましい実施形態では、MEMPは、TERT活性を示さず、かつ/またはマーカーCD18に陰性である。
【0055】
STRO-1+多分化能細胞開始集団は、国際公開第01/04268号または国際公開第2004/085630号に記載されるどの1つまたは複数の組織型、すなわち、骨髄、歯髄細胞、脂肪組織および皮膚、または、おそらく脂肪組織からはもっと広く、歯、歯髄、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靭帯、骨髄、腱および骨格筋に由来していてもよい。
【0056】
本発明を実施する際、任意の細胞表面マーカーを担う細胞の分離は、いくつかの異なる方法により遂行することができることは理解されるであろうが、好ましい方法は、結合媒介物(たとえば、抗体またはその抗原結合フラグメント)を関係するマーカーに結合させ、続いて、高レベル結合でも、低レベル結合でも、無結合でも、結合を示す細胞の分離を利用している。もっとも都合のよい結合媒介物は、抗体または抗体ベースの分子であり、好ましくは、これらの後者の媒介物の特異性により、モノクローナル抗体であるまたはモノクローナル抗体をベースとしている。抗体は両方の段階のために使用することができるが、他の媒介物も使用してよく、したがって、これらのマーカーのリガンドも、マーカーを担っている、またはマーカーを欠く細胞を濃縮するために用いてもよい。
【0057】
抗体またはリガンドを固体担体に付着させて、粗分離を可能にしてもよい。分離技術は、好ましくは、回収する画分の生存保持率を最大にする。有効性の異なる様々な技術を用いて、比較的粗な分離物を得てもよい。用いる特定の技術は、分離効率、関連する細胞障害性、実施の容易さおよび速度、ならびに精巧な機器および/または技術的熟練の必要性に依拠することになる。分離の手法は、抗体被膜磁気ビーズを使用する磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、および固体マトリックスに付着した抗体を用いる「パニング」を含んでいてよいが、これらに限定されるものではない。正確な分離を与える技法には、FACSが挙げられるが、これに限定されるものではない。FACSを実施するための方法は、当業者には明らかであろう。
【0058】
本明細書に記載されるマーカーそれぞれに対する抗体は市販されており(たとえば、STRO-1に対するモノクローナル抗体は、R&D Systems、USAから市販されている)、ATCCまたは他の預託機関から入手可能であり、および/または当技術分野において承認されている技術を使用して作製することができる。
【0059】
STRO-1+多分化能細胞を単離するための方法は、たとえば、STRO-1の高レベル発現を認識する磁気活性化細胞ソーティング(MACS)を利用する固相ソーティング段階である第1段階をたとえば含むことが好ましい。次に、必要であれば、第2ソーティング段階が続いて、特許明細書国際公開第01/14268号に記載されるより高レベルの前駆細胞発現をもたらすことができる。この第2ソーティング段階は、2つ以上のマーカーを使用してもよい。
【0060】
STRO-1+多分化能細胞を得る方法には、既知の技術を使用する第1濃縮段階前に細胞の供給源を回収することを含んでいてもよいであろう。したがって、組織は外科的に除去されることになる。供給源組織を含む細胞は、次に、いわゆる単一細胞懸濁液に分離されることになる。この分離は、物理的および/または酵素的手段により実現してもよい。
【0061】
適切なSTRO-1+多分化能細胞集団が得られると、MEMPを得るために適したどんな手段によってそれを培養してもよく、または増殖させてもよい。
【0062】
一実施形態では、細胞は治療を受ける対象から採取され、標準技術を使用してインビトロで培養され、自律性または同種組成物として対象に投与するための上清または可溶性因子または増殖細胞を得るために使用される。代わりの実施形態では、上清または可溶性因子を得るために樹立ヒト細胞系統のうちの1つまたは複数の細胞が使用される。本発明の別の有用な実施形態では、上清または可溶性因子を得るために非ヒト動物の(または患者がヒトではない場合は、別の種由来の)細胞が使用される。
【0063】
本発明は、非ヒト霊長類細胞、有蹄動物、イヌ、ネコ、ウサギ、齧歯動物、トリ、および魚細胞を含むが、これらに限定されることはないどんな非ヒト動物種由来の細胞でも使用して実施することができる。本発明を実施するのに使用される霊長類細胞には、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザル、および他のどんな新世界または旧世界ザルの細胞でも挙げられるが、これらに限定されることはない。本発明を実施するのに使用される有蹄動物細胞には、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、水牛およびバイソンの細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。本発明を実施するのに使用される齧歯動物細胞には、マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびスナネズミ細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。本発明を実施するのに使用されるウサギ種の例には、家畜化されたウサギ、ジャックラビット、ノウサギ、ワタオウサギ、ユキウサギ、およびナキウサギが挙げられる。ニワトリ(Gallus gallus)は、本発明を実施するのに使用されるトリ種の一例である。
【0064】
本発明の方法に有用な細胞は、使用前に、または上清もしくは可溶性因子を入手する前に貯蔵しておいてよい。真核細胞、および特に哺乳動物細胞を保存し貯蔵するための方法およびプロトコルは、当技術分野で既知である(たとえば、Pollard、J. W. and Walker、J. M. (1997) Basic Cell Culture Protocols、Second Edition、Humana Press、Totowa、N.J.; Freshney、R. I. (2000) Culture of Animal Cells、Fourth Edition、Wiley-Liss、Hoboken、N.J.参照)。間葉系幹/前駆細胞、またはその子孫などの単離された幹細胞の生物活性を維持するどんな方法も、本発明に関連して利用してよい。好ましい一実施形態では、細胞は凍結保存を使用することにより維持され貯蔵される。
【0065】
投与および組成物
投与されるSTRO-1+多分化能細胞またはその子孫の投与量は、個人の病状、年齢、性別および体重などの要因に従って変化してもよい。投与計画は、最適治療応答を与えるように調整してもよい。たとえば、単回ボーラスを施してもよく、数回に分けた用量を時間をかけて投与してもよく、または用量は治療状況の緊急事態により示されるのに比例して減らしても増やしてもよい。投与のしやすさおよび投与量の均一性のために非経口組成物を投与量単位形で処方するのは有利である可能性がある。本明細書で使用される「投与量単位形」とは、治療される対象のための単位投与量として適した物理的に別々の単位のことであり、各単位は必要な医薬担体と関連して所望の治療効果が生じるように計算された所定の量の活性化合物を含有する。
【0066】
一例では、投与されるSTRO-1+多分化能細胞の投与量は、0.1から4.0×106細胞の範囲である。投与量は、たとえば、0.5×106細胞でもよい。
【0067】
STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫は、椎間板腔に添加される前に様々な形態(たとえば、懸濁液、固形、多孔性、織り交ぜた(woven)、織り交ぜていない、微粒子、ゲル、ペースト、など)に加工してもよいことは認識されるべきである。
【0068】
損傷を受けた椎間板への正常な機械的および/または生理学的特性を取り戻すために、髄核へのSTRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫との同時注入のための多数の生物材料および合成材料が企図されている。たとえば、その生理学的塩を含む、たとえば、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ガラクトサミノグリシロングリカン(galactosaminoglycuronglycan)硫酸(GGGS)などの(これまでの変化および他を参照)1つもしくは複数の天然もしくは合成グリコサミノグリカン(GAG)またはムコ多糖類は、直接髄核に注入してもよい。HAは、滑膜細胞による内在性HA合成および軟骨細胞によるプロテオグリカン合成の刺激作用に関与しており、軟骨分解性酵素(chondrodegradative enzymes)の放出を抑制し、軟骨悪化に関与していることが知られている酸素フリーラジカルのスカベンジャーとして作用することがすでに示唆されている。同様に、コンドロイチン硫酸およびグルコサミン注射液は、関節軟骨変性の進行を阻止することが明らかにされている。ほぼ間違いなく、他のGAGは、GAGを変性椎間板疾患を被っている椎間板に注入するための理想的候補にしている治療的価値を有する類似の保護的または回復性特性を提供する可能性がある。GAGのもう1つの価値ある特性は、水を引きつけて保持するその強力な能力である。したがって、後で髄核の吸引から生み出される空間に注入する、または代わりに、サプリメントとして既存の髄核に添加してもよい粘着性ゲルを形成するために、GAGを水もしくは他の水性物質と混合するのは適切である可能性がある。それによって、三次元の空間を充填し、圧壊に抵抗して椎間板が運動に付随する衝撃を十分に吸収できるようにする充填剤のような作用をすることが可能な天然の「ヒドロゲル」を形成することができる。
【0069】
たとえば、Euflexxa(登録商標)(Ferring Pharmaceuticals)、またはRestylane(登録商標)(Q-Med Aktiebolag Co.、Sweden)などの合成ヒアルロン酸ゲルは、本発明における使用に適している。
【0070】
同時投与のために使用してよい他の注射可能な合成物質の例には、医療用シリコーン、Bioplastique(登録商標)(ポリビニルピロリドン担体に懸濁された固体シリコーン粒子; Uroplasty BV、オランダ)、Arteplast(登録商標)(ゼラチン担体中に懸濁されたポリメタクリル酸メチル(PMMA)の微粒子; Artcs Medical、米国)、Artecoll(登録商標)(ウシ軟骨担体中に懸濁された滑面PMMA球; Artepharma Pharmazeu Tische、GMBH Co.、ドイツ)が挙げられる。さらに、合成ヒドロゲル組成物を、正常な形状を椎間板に取り戻し、それによって正常な生体力学機能を回復させるための充填材として用いてもよい。
【0071】
既知の軟骨保護能力を有する抗酸化剤も、髄核への注入のための候補である。これらの例には、トコフェロール(vitamin E)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、アスコルビン酸(vitamin C)、カタラーゼなどが挙げられる。さらに、アルギン酸ナトリウムの両親媒性誘導体および同類のものも、注入のために本明細書では企図されている。さらに、組換え骨原性タンパク質-1(OP-1)は、髄核および線維輪細胞によるプロテオグリカンリッチマトリックスの形成を促進するその能力により、注入のための優れた候補である。
【0072】
合成注射剤の使用も企図されている。これらは、主要目的が生体力学機能を椎間板に取り戻すことである状況に特に適用可能である。単独のまたは他のグリコサミノグリカンと組み合わせたヒアルロン酸は、生物活性物質を送達するための担体として使用してよい。好ましい実施形態では、ヒアルロン酸および/または他のGAGは、STRO-1+多分化能細胞またはその子孫細胞の担体として使用される。ヒアルロン酸/GAG組成物の濃度および粘度は、所与の目的に適うように常に調整される。
【0073】
別の例では、STRO-1+多分化能細胞またはその子孫細胞は、フィブリン糊と混ぜ合わせて送達してもよい。本明細書で使用される場合、用語「フィブリン糊」とは、カルシウムイオンの存在下でフィブリンポリマーの架橋結合により形成される不溶性マトリックスのことである。フィブリン糊は、フィブリノーゲン、またはその誘導体もしくは代謝物、フィブリンマトリックスを形成する生物組織もしくは体液に由来するフィブリン(可溶性モノマーもしくはポリマー)および/またはその複合体から形成されていてよい。代わりに、フィブリン糊は、組換えDNA技術により作製されるフィブリノーゲン、またはその誘導体もしくは代謝物、またはフィブリンから形成されていてよい。
【0074】
フィブリン糊は、フィブリノーゲンとフィブリン糊形成の触媒(たとえば、トロンビンおよび/または第XIII因子)との相互作用により形成されてもよい。当業者であれば認識するように、フィブリノーゲンは、触媒(たとえば、トロンビン)の存在下で、タンパク質分解的に切断され、フィブリンモノマーに変換される。次に、ブリンモノマーは、架橋結合してフィブリン糊マトリックスを形成する可能性のあるポリマーを形成する可能性がある。フィブリンポリマーの架橋結合は、第XIII因子などの触媒の存在により増強される可能性がある。フィブリン糊形成の触媒は、血漿、クリオプレシピテートまたはフィブリノーゲンもしくはトロンビンを含有する他の血漿分画に由来してもよい。代わりに、触媒は、組換えDNA技術により作製されてもよい。
【0075】
凝血塊が形成される速度は、フィブリノーゲンと混合したトロンビンの濃度に依拠している。酵素依存反応なので、温度が高くなるに従って(最大37℃)、凝血塊形成速度も速くなる。凝血塊の引張強度は、使用されるフィブリノーゲンの濃度に依拠する。
【0076】
フィブリン塊がヒアルロン酸の存在下で作り出される場合、フィブリン塊は架橋マトリックスとの相互作用を受け、互いにかみ合うようになる。このマトリックスは、組織再生で大きな役割を果たすことが知られており、組織修復において細胞調節機能を果たす[Weigel PH、Fuller GM、LeBoeuf RD. (1986) A model for the role of hyaluronic acid and fibrin in the early events during the inflammatory response and wound healing. J Theor Biol. 119: 219~34頁]。ヒアルロン酸の分解速度も、このGAGの治療効果を延長するのに有益になる可能性のあるHA-フィブリンマトリックス中で延長される(Wadstrom J and Tengblad A (1993) Fibrin glue reduces the dissolution rate of sodium hyaluronate. Upsala J Med Sci. 98: 159~167頁)。
【0077】
いくつかの出版物が、治療薬の送達のためのフィブリン糊の使用を記載している。たとえば、米国特許第4,983,393号は、アガロース、寒天、グリコサミノグリカン生理食塩水、コラーゲン、フィブリンおよび酵素を含む膣内挿入物としての使用のための組成物を開示している。さらに、米国特許第3,089,815号は、フィブリノーゲンとトロンビンで構成されている注射可能な医薬調製物を開示しており、米国特許第6,468,527号は、身体内の特定部位への様々な生物学的および非生物学的薬剤の送達を促進するフィブリン糊を開示している。しかし、STRO-1+同種細胞の軟骨形成分化を促進するためのフィブリン+ヒアルロナン+の使用はこれまで記載されていない。
【0078】
STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞を含む組成物は、椎間板腔に「外科的に添加」される。すなわち、この物質は、身体の自然な成長または再生過程により「添加」されることと区別して医療関係者の介入により添加される。外科的処置には、好ましくは、皮下注射針による注入が含まれるが、椎間板にコラーゲンベースの物質を導入する他の外科的方法を使用してもよい。たとえば、拡張環状開口を通した放出、カテーテルによる注入、外傷または外科的切開により作り出された開口を通した挿入により、または椎間板腔へのこの物質の浸潤性もしくは最小限浸潤性沈着(minimally invasive deposition)という他の手段により、この物質を椎間板に導入してもよい。
【0079】
本発明の一部の実施形態では、細胞組成物を用いた治療の開始に先立って、患者を免疫抑制しておくことは必要でもなく望ましくもない可能性がある。実際、本明細書に示される結果では、同種STRO-1+多分化能細胞のヒツジへの移植は、免疫抑制がない場合でも良好な耐容性を示したことが明らかになっている。
【0080】
しかし、他の例では、細胞治療を開始するに先立って患者を薬理学的に免疫抑制することが望ましくまたは適切であることもある。これは、全身性もしくは局所性免疫抑制薬の使用により実施してよく、または被包デバイスで細胞を送達することにより実施してもよい。細胞は、細胞が要求する栄養分および酸素ならびに細胞が免疫液性因子および細胞に対してまだ不透過性である治療的要因に対し透過性であるカプセルに被包してもよい。好ましくは、被包材料は、低アレルギー性であり、標的組織中に容易に安定して位置しており、移植された構造体に追加の保護を与える。移植細胞に対する免疫応答を軽減するまたは除去するためのこれらのおよび他の手段は、当技術分野では既知である。代案として、細胞は免疫原性を軽減するように遺伝子改変してもよい。
【0081】
STRO-1+多分化能細胞またはその子孫は、他の有益な薬物または生物学的分子(増殖因子、栄養性因子)と一緒に投与してよいことは認識されるであろう。他の薬物と一緒に投与される場合、STRO-1+多分化能細胞またはその子孫は単一医薬組成物で一緒に、または別々の医薬組成物で、他の薬物と同時にまたは順次(他の薬物の投与前もしくは後に)投与してもよい。同時投与してもよい生物活性因子には、抗アポトーシス薬(たとえば、EPO、EPO ミメティボディー、TPO、IGF-IおよびIGF-II、HGF、カスパーゼ阻害薬);抗炎症薬(たとえば、p38 MAPK阻害薬、TGF-β阻害薬、スタチン、IL-6およびIL-1阻害薬、PEMIROLAST、TRANILAST、REMICADE、SIROLIMUSならびにNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬;たとえば、TEPOXALIN、TOLMETIN、SUPROFEN));免疫抑制薬/免疫調節薬(たとえば、シクロスポリン、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬; mTOR阻害薬(たとえば、SIROLIMUS、EVEROLIMUS);抗増殖薬(たとえば、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);副腎皮質ステロイド(たとえば、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン);モノクローナル抗IL-2Rα受容体抗体などの抗体(たとえば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、ポリクローナル抗T細胞抗体(たとえば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG);抗リンパ球グロブリン(ALG);モノクローナル抗T細胞抗体OKT3));抗血栓形成性薬(たとえば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、PPack (デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害薬、および血小板凝集阻害薬);ならびに抗酸化薬(たとえば、プロブコール、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェロール、補酵素Q-10、グルタチオン、L-システイン、N-アセチルシステイン)の他にも局所麻酔薬が挙げられる。
【0082】
遺伝子改変細胞
一実施形態では、STRO-1+多分化能細胞および/またはその子孫細胞は、たとえば、対象のタンパク質、たとえば、治療的および/または予防的利点をもたらすタンパク質、たとえば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、膵臓リパーゼまたはアミラーゼまたは増強血管新生に関連するもしくは原因となるポリペプチドまたは細胞の膵臓細胞もしくは血管細胞への分化に関連するポリペプチドを発現するかつ/または分泌するように遺伝子改変される。
【0083】
細胞を遺伝子改変するための方法は、当業者には明らかであろう。たとえば、細胞で発現されることになる核酸は、細胞での発現を誘導するためのプロモーターに動作可能的に連結されている。たとえば、核酸は、たとえば、ウイルスプロモーター、たとえば、CMVプロモーター(たとえば、CMV-IEプロモーター)またはSV-40プロモーターなどの対象の様々な細胞で動作可能なプロモーターに連結されている。追加の適切なプロモーターは当技術分野で既知であり、本発明の本実施形態に必要な変更を加えると解釈されるものとする。
【0084】
好ましくは、核酸は発現構築物の形態で提供される。本明細書で使用するように、用語「発現構築物」とは、細胞中でそれが動作可能的に連結されている核酸(たとえば、レポーター遺伝子および/またはカウンター選択レポーター遺伝子)を発現させる能力を有する核酸のことである。本発明の文脈内では、発現構築物はプラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス小ゲノムもしくはゲノムフラグメント、または発現可能フォーマットで異種DNAを維持するかつ/もしくは複製することができる他の核酸を含んでもよい、またはそれらであってもよいと理解されるべきである。
【0085】
本発明の実施に適した発現構築物の構築のための方法は、当業者には明らかであり、たとえば、Ausubel et al (In: Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience、ISBN 047 150338、1987年)またはSambrook et al (In: Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、Third Edition 2001年)に記載されている。たとえば、発現構築物の成分はそれぞれ、たとえば、PCRを使用して適切な鋳型核酸から増幅させ、続いて、たとえば、プラスミドまたはファージミドなどの適切な発現構築物にクローン化される。
【0086】
そのような発現構築物に適したベクターは当技術分野では既知でありおよび/または本明細書に記載されている。たとえば、哺乳動物細胞中で本発明の方法に適した発現ベクターは、たとえば、Invitrogenにより供給されるpcDNAベクタースイートのベクター、pCIベクタースイートのベクター(Promega)、pCMVベクタースイートのベクター(Clontech)、pMベクター(Clontech)、pSIベクター(Promega)、VP 16ベクター(Clontech)またはpcDNAベクタースイートのベクター(Invitrogen)である。
【0087】
当業者であれば、追加のベクターおよび、たとえば、Invitrogen Corporation, ClontechまたはPromegaなどのそのようなベクターの供給源を承知しているであろう。
【0088】
単離された核酸分子または同一物を含む遺伝子構築物を発現用の細胞に導入するための手段は当業者には既知である。所与の生物に対して使用される技術は、既知の成功している技術に依拠している。組換えDNAを細胞に導入するための手段には、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランに媒介されるトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco、MD、米国)および/またはセルフェクチン(Gibco、MD、米国)を使用することによるなどのリポソームに媒介されるトランスフェクション、PEG媒介DNA取込み、エレクトロポレーションならびになかでもDNA被膜タングステンまたは金粒子(Agracetus Inc.、WI、米国)を使用することによるなどの微粒子銃が挙げられる。
【0089】
代わりに、本発明の発現構築物はウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは当技術分野では既知であり市販されている。核酸の送達およびその核酸の宿主細胞ゲノムへの組込みのための従来のウイルスベース系には、たとえば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。代わりに、アデノウイルスベクターは、エピソームのままの核酸を宿主細胞へ導入するのに有用である。ウイルスベクターは、標的細胞および組織における遺伝子移入の効率的多用途法である。さらに、高遺伝子導入効率が多くの異なる細胞型および標的組織で観察されている。
【0090】
たとえば、レトロウイルスベクターは、一般に、最大6~10kbの外来配列のパッケージング能力を備えたシス作用性長終端反復配列(LTR)を含む。最小シス作用性LTRは、ベクターの複製およびパッケージングに十分であり、次に、長期発現を提供するためにこれを使用して発現構築物を標的細胞に組み込む。広く使用されているレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SrV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびその組合せに基づくものが挙げられる(Buchscher et al.、J Virol. 56:2731~2739頁(1992); Johann et al、J. Virol. 65:1635~1640頁(1992); Sommerfelt et al, Virol. 76:58~59頁(1990); Wilson et al、J. Virol. 63:274~2318頁(1989); Miller et al.、J. Virol. 65:2220~2224頁(1991); PCT/US94/05700; Miller and Rosman BioTechniques 7:980~990頁、1989; Miller、A. D. Human Gene Therapy 7:5~14頁、1990年; Scarpa et al Virology 75:849~852頁、1991年; Burns et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033~8037、1993年)。
【0091】
様々なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系も核酸送達のために開発されている。AAVベクターは、当技術分野で既知の技術を使用して容易に構築することができる。たとえば、米国特許第5,173,414号および米国特許第5,139,941号;国際公開第92/01070号および国際公開第93/03769号; Lebkowski et al. Molec. Cell. Biol. 5:3988~3996頁、1988年; Vincent et al. (1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533~539頁、1992年; Muzyczka. Current Topics in Microbiol、and Immunol. 158:97~129頁、1992頁; Kotin, Human Gene Therapy 5:793~801頁、1994年; Shelling and Smith Gene Therapy 7:165~169頁、1994年; and Zhou et al. J Exp. Med. 179:1867~1875頁、1994年を参照されたい。
【0092】
本発明の発現構築物を送達するのに有用な追加のウイルスベクターには、たとえば、ワクシニアウイルスおよびトリポックスウイルスなどのポックスウイルスファミリーに由来するウイルスベクターまたはアルファウイルスもしくはコンジュゲートウイルスベクター(たとえば、Fisher-Hoch et al.、Proc. Nall Acad. Sci. USA 56:317~321頁、1989年に記載のウイルスベクター)が挙げられる。
【実施例0093】
(実施例1)
実験計画
進行性椎間板変性を惹起するために、24匹のヒツジが1.0 IUコンドロイチナーゼABC(cABC) (Seikagaku Corporation、日本)の注射を3つの隣接する腰部椎間板(名目上L3-L4、L4-L5、およびL5-L6)内に受けた。残りの腰部椎間板(名目上L1-L2およびL2-L3)にはcABCを注入せず、正常対照と見なされた。cABC投与に続く15(±3週間)週目、高用量もしくは低用量(それぞれ、4×106または0.5×106細胞)のSTRO-l+多分化能細胞または等量のEuflexxa(登録商標)ヒアルロン酸(Ferring Pharmaceuticals)と混合したProFreeze(商標) NOA Freezing Medium (Lonza Walkersville Md.)の注射を椎間板の髄核内に直接投与した(Table 1)(表1)。動物は、注入の3カ月または6カ月後に死体解剖した。図1は、実験のために使用された脊髄レベルおよび処置のためのプロトコルの模式図である。
【0094】
【表1】
【0095】
(実施例2)
免疫選択されたSTRO-l+多分化能細胞の増殖
これらの実験に使用されるSTRO-l+多分化能細胞は、フランス産ヒツジに由来し、Lonza (USA)により調製された。骨髄(BM)吸引液は、そのヒツジから得られ、BM単核細胞(BMMNC)は、基本的に以前記載された通り(US 2005-0158289)に調製された。
【0096】
STRO-l+多分化能細胞は、続いて、以前記載された通り(WO2006/108229)に磁気活性化細胞ソーティングによりSTRO-3抗体を使用して単離された。
【0097】
(実施例3)
放射線学
動物は、以下の時点:0日目(cABCの注入)、被験物質投与の日(腰椎間板変性導入の15±3週間後)、被験物質埋め込みの3カ月および6カ月後に、導入麻酔下で腰椎の側面単純X線写真を撮られた。すでに記載された通り(24)に、IVDの前方、中央および後方部分の測定値を平均し、それを隣接する椎間本体の高さの平均で割ることにより計算される椎間高(DHI)の指標を使用して盲検観察者により、X線写真の評価は行われた。
【0098】
(実施例4)
磁気共鳴画像法(MRI)
MRIは、コンドロイチナーゼABCの注入による椎間板変性導入のほぼ15週間後に、HAまたは高用量および低用量HA+STRO-l+細胞の円板内注入を用いた処置(Tx)に先立って、導入麻酔下で全ヒツジの腰椎について行われた。処置の3カ月および6カ月後、死体解剖(Nx)の直前に、脊髄MRIは全ヒツジに行われた。
【0099】
画像処理は、2つのMRIスキャナーのうちのどちらかで実施された。STRO-l+細胞の投与に先立って実施されたMRIは、Numaris 33Gソフトウェアを備えた1.5 T Siemens VISION MRIスキャナーを使用した。STRO-l+細胞の投与後に行われたMRIは、syngo B13ソフトウェアを備えた1.5 Tesla Siemens AVANTRO MRIスキャナーを使用した。局所スキャンに続いて、T1、T1 Gradient echo (TI_Flash)、T2およびSTIR強調において腰椎および仙骨を矢状方向撮像(sagittal imaging)し、続いて6椎間板レベルL6/SI L5/L6、L4/L5、L3/L4、L2/L3、L1/L2をT2加重軸方向撮像(T2 weighted axial imaging)した。画像シーケンスは、各スキャンを一連の12矢状方向画像として表示するCD上に提供された。12矢状方向MRI獲得切片について得られたデジタル画像は、椎間板変性スコアリングシステムのPferrmannらの分類基準を使用して、2人の盲検資格観察者により審査され(25)、Table 2(表2)に要約された。最終スコアは、2人の盲検査定者のスコアの平均に一致した。
【0100】
【表2】
【0101】
(実施例5)
病理組織学的解析
組織学的および生化学的解析のために処理される椎間板ユニットは、それぞれ成長板に近い隣接頭蓋および仙骨椎体を骨ノコギリで切り開くことにより、分離した。これらの脊髄セグメントは56時間Histochoice(登録商標)にひとまとめにして固定し、Faxitron HP43855A X線キャビネット(Hewlett Packard、McMinnville、米国)を使用して完全脱灰が確認されるまで、2週間絶えず攪拌しながら5%中性緩衝ホルマリン中10%ギ酸を数回変えて脱灰した。
【0102】
脱灰検体は、パラフィン包埋および切断のために標準組織学的方法により処理した。パラフィン切片4ミクロン厚をSuperfrost Plusガラス製顕微鏡スライド(Menzel-Glaser)に乗せ、85℃で30分、次に55℃で一晩乾燥させた。切片はキシレン(4回交換×2分)で脱パラフィンし、段階エタノール洗浄水(100~70% v/v)から水道水まで再水和させた。矢状方向スライスから調製した全ブロック由来の一切片をヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色した。H&E染色組織切片は、公表されている(26)4点半定量的評価法を使用して独立した盲検組織病理学者により変性の程度を評価するために、コード化され再評価された(Table 3(表3)参照)。ニュートラルレッドで対比染色されたアルシアンブルーを含む追加の着色染料も使用して、椎間板切片中のマトリックス成分の分布および組立てを同定した。
【0103】
【表3】
【0104】
(実施例6)
固定化された椎間板組織の生化学的解析
線維輪(AF)および髄核(NP)は、中央矢状方向スライスを組織学的研究のために取り除いた後に残る処理した脱灰椎間板組織から慎重に解体された。この過程は、NPとAF間の分界境界が失われている甚だしく変性した椎間板ではより困難であった。細かいさいの目状に切ったNPとAF組織のアリコットは恒量まで凍結乾燥させ、乾燥組織の三つ組部分(1~2mg)は、110℃で6時間、6M HCl中で加水分解された。すでに記載されている(4)通りに、中和消化物のアリコットは、組織コラーゲン含有量の尺度としてヒドロキシプロリンについてアッセイされた。凍結乾燥組織の三つ組部分(~2mg)も、すでに記載されている(27)通りにパパインで消化され、アリコットは異染色色素の1,9-ジメチルメチレンブルーを使用して硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)についてアッセイされた。
【0105】
(実施例7)
データの統計的解析
3カ月および6カ月処置群すべてのDHIおよび生化学的データの統計学的比較は、p<0.05が有意と見なされるスチューデント無対応t-検定を使用して行われた。組織学的およびMRI集計変性およびNPスコア(MRI aggregate degeneration and NP scores)では、様々な椎間板処置間の比較は、ダン多重比較ポストホック検定と一緒にクラスカルワオリスまたはフリードマン検定(ノンパラメトリック反復測定ANOVA)を使用して行われた。群間の統計的有意性は、p<0.05として解釈された。
【0106】
(実施例8)
免疫選択されたSTRO-1+多分化能細胞を使用するウシ椎間板再生実験の結果
高用量(4.0×106 STRO-1+細胞)(群2および4)ならびに低用量(0.5×106 STRO-1+細胞)(群1および3)注入群の動物はすべて、実験期間にわたり正常体重を維持し有害な副作用の証拠は全く示さなかった。
【0107】
化学核酸分解薬のコンドロイチナーゼABCの標的椎間板のNPへの注入により、図2に示されるように、3カ月間椎間板高指標(DHI)がほぼ50%減少し、椎間板細胞外マトリックスからのPGと水の有意な消失を確認した。DHI処置前データは、MRI集計椎間板変性スコアにより支持された。図3および4に示されるように、すべての群で、非コンドロイチナーゼABC注入対照椎間板は、コンドロイチナーゼABC注入椎間板スコアのほぼ50%にあたるMRI変性スコアを提供し、モデルの妥当性を確証した。
【0108】
低用量STRO-1+細胞を注入の3カ月後に屠殺された動物の椎間板について決定された平均組織病理学的分類スコアの集合体は、非注入対照椎間板にもcABCまたはcABC+HA注入椎間板にも有意差のないスコアの減少を示した。しかし、後者の2スコアは対照椎間板スコア(図5A)よりも有意に高かった(p<0.001)。処置の6カ月後に屠殺された低用量STRO-1+細胞群では、椎間板スコアはcABCおよびcABC+HA注入椎間板よりも有意に低かった(p < 0.01)が、非注入対照椎間板スコアとは等価であった(図5B)。このパターンは、3カ月目の高用量STRO-1+細胞椎間板では維持された(p<0.05)(図6A)が、注入6カ月後では維持されなかった(図6B)。
【0109】
3カ月低用量ヒツジおよび6カ月低用量ヒツジの非注入対照、cABC、cABC+HAおよびcABC+STRO-1+細胞注入椎間板の組織切片の顕微鏡写真は、そのそれぞれの組織病理学的スコアと共に解析された。この解析は、cABC投与後の様々な椎間板内処置から生じる顕著な構造的および細胞変化に脚光をあてた。この解析は、低用量の細胞投与6カ月後に、椎間板構造完全性および新細胞外マトリックスの沈着の標準化により実証されるSTRO-1+細胞により媒介される有利な効果も例証した。これらの組織切片は、その多様な組織病理学スコアに基づいて選択されたが、図5に要約されている3カ月および6カ月低用量群すべてについて得られた全平均集計スコアと一致していた。
【0110】
椎間板組織病理学スコアは、MRI評価椎間板変性スコアを補完した。さらに、全群においてMRIスコアは、使用された用量に関係なく、cABC+STRO-1+細胞および対照椎間板スコアの場合よりもcABC単独およびcABC+HA注入椎間板の場合のほうが高いスコアという同じパターンに従った。しかし、MRI集計スコアでは、cABC+HAスコア(p < 0.05)と比べて3カ月と6カ月両方の低用量STRO-1+細胞注入椎間板スコアで有意差が観察された(図7Aおよび7B)。高用量注入STRO-1+細胞のMRIスコアは、3カ月目の対照、cABC単独またはcABC+HA値と有意差はなかったが、6カ月目ではcABC単独より低かった(図8Aおよび8B)。
【0111】
これらの実験で使用された椎間板変性の実験モデルは、PG解重合酵素であるコンドロイチナーゼABCを直接NPに注入することにより誘導されたために、この領域の組織病理学スコアは別々に示されている。さらに、NP組織に対する様々な処置に応答して起こった生化学的変化も示されている。図9および10から明らかなように、cABC+STRO-1+細胞注入椎間板に対する平均NP組織病理学スコアは、より高い変性スコアを示しているcABCおよびcABC+HA注入椎間板に関する全椎間板組織病理学スコアと同じパターンに従った。しかし、使用した小群サイズ(N = 6)内の動物間試料変動により、差は統計学的に有意ではなかった。
【0112】
放射線学的に決定された椎間板高指標(DHI)は、椎間板変性の有効な指標である(24)。すでに論じたように、DHIは、PG解重合酵素であるcABCの椎間板内注入の3カ月後、約50%減少した。
【0113】
椎間板NP組織のグリコサミノグリカン(GAG)含有量(PGのマーカーとして)の生化学的決定は、非注入対照椎間板と比べて全処置椎間板についてこの成分のかなりの消失を示した(図11)。全群についての対照NP組織と比べてcABCおよびcABC+HA組織についてGAGレベルの有意差(p<0.05)が観察されたが、3カ月目の高用量STRO-1+細胞注入椎間板および6カ月目の低用量STRO-1+細胞は、対照とは有意差はなかった(図11)。
【0114】
図12からわかるように、全注入椎間板は、その処置とは無関係に、3カ月間の後処置期間にわたりそのDHIのある程度の回復を示した。しかし、DHIの最大の改善は低用量STRO-1+細胞を注入された椎間板で顕著であり、そこでは改善は統計学的に有意であることが示された(p<0.02)。さらに、6カ月目の低用量STRO-1+細胞注入椎間板のDHIは、非注入対照椎間板DHI平均値と有意差はなかった(図12A)。
【0115】
考察
本実験の結果によれば、変性椎間板への低用量STRO-1+細胞+HAの椎間板内投与は、HAを注入した椎間板よりも大きな程度に構造回復を改善することが明らかになった。この結論は、椎間板完全性および正常椎間板高指標の50%に相当する基線変性状況からのマトリックス回復の3つの独立した評価により得られた実験データにより支持された。
【0116】
6カ月間にわたる低用量STRO-1+細胞注入椎間板について観察されたDHIの増加は、再構成細胞外マトリックスの変性椎間板内での沈着により説明される。健常脊柱では、椎間板高(DHI)は、髄核および内部輪内での高濃度PGおよびそれに結合した水分子の存在により維持されている(2、4)。これらの実体は、椎間板高を維持している高膨潤圧を椎間板に与えるが、椎間板が軸圧縮後の変形から回復することも可能にしている(2、4)。実際、この動物モデルに椎間板変性を導入するためのコンドロイチナーゼABCの使用は、この酵素が、NPおよび内部AFの細胞外マトリックスから大多数のPGを選択的に分解し取り除く能力を利用していた(28)。負に帯電しているPGに結合するアルシアンブルー色素を使用する組織化学的実験によれば、低用量STRO-1+細胞を注入した椎間板から得られる切片では、cABC+HA注入椎間板切片のcABC単独よりも強力な染色がこれらの組織中ではより高い濃度のPGが存在することを立証することが明らかにされた。白色光と蛍光顕微鏡の両方によるこれらの染色切片の実験も、AFコラーゲン原線維集合体のラメラ構造の他にも硝子質軟骨性終板(CEP)形態の標準化を立証した。CEPは無血管性NPへの栄養分拡散の主経路であり、その構造の物理的崩壊は常在細胞の生存を減少させる。
【0117】
NP中のPG濃度は、GAG含有量から生化学的に決定されるが、組織病理学的所見を部分的にしか支持しなかった。3カ月および6カ月目の高用量および低用量STRO-1+細胞注入NPのGAG含有量は、対照NPとは統計学的に異なってはいないことが見出されたが、その他の処置椎間板は異なっていた。しかし、cABC+STRO-1+細胞注入椎間板とcABCまたはcABC+HA椎間板NP間のGAGレベルの統計学的差は実証することができず、これらの群の組織内での比較可能なレベルのGAGを示唆している。生化学解析のために使用された椎間板組織は、生化学的解析に先立つ数カ月間あらかじめ緩衝化ホルマリン中に固定されていたので、様々な量のPGがこの時間にわたって浸出した可能性がある。さらに、ホルマリン固定化過程中に形成されるコラーゲンとタンパク質の共有結合架橋は、椎間板のNPとAF領域の互いの十分な巨視的区別および解体を損なった可能性がある。NPとAF間の境界域が消失した変性椎間板では解体は特に困難であった。椎間板AFはNPよりもはるかに低いGAG含有量しかなく、したがって、サンプリング誤差が解析データに著しい影響を与えたおそれがある(1~4)。
【0118】
実験的に作製した変性IVDの髄核へ、ヒツジSTRO-1+多分化能細胞を、高分子量ヒアルロン酸(HA)などの適切な担体とともに投与したことが、椎間板高の回復により放射線学的に評価される椎間板細胞外マトリックスの再生を加速することが本実験では明らかにされた。この解釈は、負荷をかけた脊柱では椎間板高は、それに結合した水分子とともにこの構造体に高膨潤圧を与える高濃度のマトリックスプロテオグリカンのNPおよび内部輪内での存在により維持されるという仮定に基づいている。実際、この実験の開始時に椎間板変性を誘導するためのコンドロイチナーゼABCの使用は、この酵素がNPおよび細胞外マトリックスから大多数のプロテオグリカンを分解し取り除く能力を利用していた。
【0119】
本結果によれば、cABCの初期の注入により誘導される変性状態からの椎間板の回復は、高用量(4.0×106)のSTRO-1+細胞を用いるよりも低用量(0.5×106)を用いるほうが維持されることが示された。この観察結果の考えうる説明は、CEPより下の血管間のO2/CO2および代謝物の交換に依拠している椎間板のNPへの栄養供給が不十分であったことと関係する可能性がある(1、2)。すでに述べたように、NPとCEP間の界面および椎骨の肋軟骨下血液供給の小さな乱れでも、変性椎間板において起こることが見られたように、NPへの栄養摂取を損なうと予想される。この栄養欠乏は、この酸欠状態の環境で生存することができる注入されたSTRO-1+細胞の数に上限を与え、それによって、STRO-1+細胞の生存能が失われ、したがって治療効果も失われるのであろう。
【0120】
低用量STRO-1+多分化能細胞の投与に続くこの動物モデルにおける椎間板完全性の回復に関与する治療機序はまだ解決されてはいない。しかし、変性椎間板腔内でSTRO-1+多分化能細胞により放出される抗炎症サイトカインおよび増殖因子が、生化学的および生体力学的損傷に応答して常在椎間板細胞により放出されるサイトカインおよび他の侵害性因子に媒介されるプロ異化および同化抑制効果を調節すると考えられる可能性がある。これらのSTRO-1+多分化能細胞由来パラクリン因子も、非STRO-1+細胞注入椎間板の一部に時折見られたその細胞外環境からのPGの枯渇に対する常在椎間板細胞の正常な生理学的同化応答を支持することができるのであろう。一方、一部のSTRO-1+多分化能細胞は変性マトリックス内で生着し、NP軟骨細胞または他の椎間板細胞への分化を受けることができる可能性がある。
【0121】
大まかに説明された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態で示される本発明には数多くの変化および/または改変を加えられることは、当業者であれば認識されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で説明に役立つものであって、限定的なものではないと見なされるべきである。
【0122】
本明細書において論じられかつ/または参照される出版物はすべて、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0123】
本明細書に含まれている文書、行為、物質、装置、論文などのいかなる論述も、本発明のための文脈を提供することのみを目的としている。これは、これらの事柄のどれでもまたはすべてが先行技術基盤を形成する、または本出願の各特許請求の範囲の優先日前に存在していた本発明に関連する分野の共通の一般知識であったことを認めたものとして解釈されるべきではない。
[参考文献]
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
【手続補正書】
【提出日】2022-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象において椎間板の変性と関連した腰痛治療するための組成物であって、培養増殖したヒト細胞集団を含み、前記ヒト細胞集団が、少なくとも0.1%のSTRO-1+多分化能細胞および/または少なくとも0.1%のTNAP + 多分化能細胞を含むヒト細胞集団から培養増殖されたものである、組成物
【請求項2】
前記ヒト細胞集団が、少なくとも1%のSTRO-1 + 細胞および/または少なくとも1%のTNAP + 細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒト細胞集団が、少なくとも5%のSTRO-1 + 細胞および/または少なくとも5%のTNAP + 細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒト細胞集団が、少なくとも5%のTNAP + 細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
間板の髄核への投与用に調合された、請求項1に記載の組成物
【請求項6】
前記STRO-1+ またはTNAP + 多分化能細胞が、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、CD45+、CD146+、3G5+またはそれらのいずれかの組合せにも陽性である、請求項1に記載の組成物
【請求項7】
前記ヒト細胞集団が同種供給源に由来する、請求項1に記載の組成物
【請求項8】
グリコサミノグリカン(GAG)をさらに含む、請求項1に記載の組成物
【請求項9】
前記GAGが、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、およびガラクトサミノグリクロングリカン硫酸(GGGS)からなる群から選択される、請求項8に記載の組成物
【請求項10】
前記ヒト対象が椎間板の変性により特徴づけられる脊髄状態を有する、請求項1に記載の組成物
【請求項11】
前記脊髄状態が、腰痛、椎間板の加齢性変化または脊椎分離症である、請求項10に記載の組成物
【請求項12】
ヒト対象において腰痛を治療するための医薬の製造のための、培養増殖したヒト細胞集団の使用であって、前記ヒト細胞集団が、少なくとも0.1%のSTRO-1 + 多分化能細胞および/または少なくとも0.1%のTNAP + 多分化能細胞を含むヒト細胞集団から培養増幅されたものである、使用。
【外国語明細書】