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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167981
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】枠体および蒸着マスク
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20221027BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221027BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134603
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2018144174の分割
【原出願日】2018-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 樹一郎
(72)【発明者】
【氏名】田丸 裕仁
(57)【要約】
【課題】マスク本体の収縮に起因する枠体の撓み変形を抑制することを目的とする。
【解決手段】マスク本体2を支持するために用いられる枠体である。相対的に引張強度が高く変形し難い難変形部と、相対的に引張強度が低く変形し易い易変形部とを含む。少なくとも難変形部に、引張強度を低下させるための強度低下部14が形成されている。強度低下部14が切欠孔からなる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体(2)を支持するために用いられる枠体であって、
相対的に引張強度が高く変形し難い難変形部と、相対的に引張強度が低く変形し易い易変形部とを含み、
少なくとも前記難変形部に、引張強度を低下させるための強度低下部(14)が形成されており、
前記強度低下部(14)が切欠孔からなることを特徴とする枠体。
【請求項2】
前記切欠孔が貫通状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の枠体。
【請求項3】
前記切欠孔に閉塞体(19)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の枠体。
【請求項4】
前記閉塞体(19)が別体で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の枠体。
【請求項5】
周回状に形成される外周枠(12)と、該外周枠(12)内にマスク開口(5)を区画する格子枠(13)とを備え、
前記外周枠(12)が矩形枠状に形成され、
前記外周枠(12)の四隅の少なくとも一箇所に前記切欠孔(14)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の枠体。
【請求項6】
多数の蒸着通孔を所定パターンで設けられるマスク本体(2)と、請求項1ないし5のいずれかに記載の枠体とを備えることを特徴とする蒸着マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体を支持するために用いられる枠体と、当該枠体を備える蒸着マスクに関する。本発明に係る枠体および蒸着マスクは、例えば、有機EL素子の発光層を形成する際に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
表示装置を有するスマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器において、機器
の軽量化および駆動時間の長時間化を目的として、液晶ディスプレイに替えて、より軽量
で消費電力が小さな有機ELディスプレイの採用が始まっている。有機ELディスプレイ
は、蒸着マスク法により、基板(蒸着対象)上に有機EL素子の発光層(蒸着層)を形成
することで製造される。
【0003】
蒸着マスク法に用いられる蒸着マスクは、例えば本出願人が先に提案した特許文献1に
開示されている。かかる特許文献1では、マトリクス状に配置される複数のマスク本体と
、各マスク本体を囲むように配置される補強用の枠体と、両者を不離一体的に接合する金
属層とで蒸着マスクを構成している。この蒸着マスクは、母型上に電鋳法により複数のマ
スク本体を形成する第1の電鋳工程と、母型上に枠体を配する枠体配設工程と、電鋳法に
より金属層を形成して各マスク本体と枠体を接合する第2の電鋳工程と、母型から複数の
マスク本体と枠体と金属層を一体に剥離する剥離工程などを経て製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-210633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くの場合、母型から剥離した蒸着マスクのマスク本体には、内方へ収縮しようとする
応力が作用する。これは、マスク本体を形成する第1の電鋳工程における電鋳槽の液温(
特許文献1では40~50℃)が、常温よりも高いことなどに起因するものである。マス
ク本体が収縮しようとすることにより、枠体には金属層を介して引張応力が作用する。こ
こで、枠体の各部の引張強度は同一ではなく、相対的に変形し易い部分と変形し難い部分
が存在する。枠体の変形量が各部で異なると、枠体が内向きに撓み変形するおそれがある
【0006】
本発明は、マスク本体を支持する枠体、並びに当該枠体を備える蒸着マスクにおいて、マスク本体の収縮に起因する枠体の撓み変形を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蒸着マスクは、多数独立の蒸着通孔9からなる蒸着パターンを備えるマス
ク本体2と、マスク本体2が配置されるマスク開口5を有する補強用の枠体3と、各マス
ク本体2と枠体3を不離一体的に接合する金属層4とを備える。枠体3は、相対的に引張
強度が高く変形し難い難変形部と、相対的に引張強度が低く変形し易い易変形部とを含み
、枠体3の少なくとも難変形部に、引張強度を低下させるための強度低下部14が形成さ
れていることを特徴とする。
【0008】
枠体3が、周回状に形成される外周枠12と、外周枠12内に複数のマスク開口5を区
画する格子枠13とを備えており、外周枠12の難変形部に強度低下部14が形成されて
いる形態を採ることができる。
【0009】
外周枠12を矩形枠状に形成し、外周枠12の四隅のそれぞれに強度低下部14を形成
することができる。
【0010】
外周枠12の難変形部から易変形部にかけて、面積が徐々に小さくなる強度低下部14
を形成することができる。
【0011】
強度低下部14が切欠孔からなる形態を採ることができる。この場合は、強度低下部1
4の開口縁どうしを繋ぐ桟47を、枠体3と一体に設けることができる。
【0012】
強度低下部14を平面視において多角形状に形成し、強度低下部14の各コーナー部分
をR状に形成することができる。
【0013】
強度低下部14に閉塞体19が設けられており、閉塞体19が強度低下部14の周囲に
対して引張応力を作用させる形態を採ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、蒸着マスク1の枠体3のうち相対的に引張強度が高く変形し難い難変形部
に、引張強度を低下させるための強度低下部14を形成した。これによれば、枠体3の難
変形部の引張強度を低下させて、枠体3の各部の引張強度の均一化を図ることができる。
換言すれば、マスク本体2の収縮により生じる引張応力が、枠体3の易変形部に集中する
のを避けて、枠体3の全体に分散させることができ、これにより、枠体3の撓み変形を抑
制することができる。
【0015】
枠体3が、周回状に形成される外周枠12と、外周枠12内にマスク開口5を区画する
格子枠13とを備える形態を採ることができる。このうち格子枠13の各部は、隣り合う
2個のマスク開口5に挟まれており、収縮する2枚のマスク本体2により両側から引張ら
れるが、引張応力が互いに打ち消されるため殆ど変形しない。一方、外周枠12の各部は
、1個のマスク開口5のみに隣接しており、1枚のマスク本体2により一方のみから引張
られるため、格子枠13に比べて変形し易い。そこで本発明では、外周枠12の難変形部
に強度低下部14を形成した。これによれば、外周枠12の全周にわたって引張強度を均
一化させて、外周枠12の内向きの撓み変形を抑制することができるので、枠体3ひいて
は蒸着マスク1の全体の外形を良好に保つことができる。
【0016】
矩形枠状の外周枠12の四隅のそれぞれに強度低下部14を形成すると、外周枠12の
うち特に引張強度が高く変形し難い四隅の引張強度を確実に低下させて、外周枠12の各
辺部の内向きの撓み変形を抑制することができる。
【0017】
外周枠12の難変形部から易変形部にかけて、面積が徐々に小さくなる強度低下部14
を形成すると、外周枠12の各部の引張強度をその全周にわたってより正確に均一化させ
ることができ、これにより外周枠12の撓み変形をより確実に防止することができる。
【0018】
切欠孔からなる強度低下部14によれば、これを枠体3に対して容易に設けることがで
きる。この場合に、強度低下部14の開口縁どうしを繋ぐ桟47を枠体3と一体に設ける
と、強度低下部14の周囲の部分の引張強度を補強して、当該部分の引張強度が低下し過
ぎるのを避けることができる。また、桟47の隣接ピッチや太さを変更することにより、
枠体3の各部の引張強度を容易に調整することができる。
【0019】
強度低下部14を多角形状の切欠孔としたうえで、その各コーナー部分をR状に形成す
ると、応力がコーナー部分の一点に集中するのを避けることができるので、コーナー部分
から亀裂が生じるなどの枠体3の破損を防止することができる。
【0020】
強度低下部14の周囲に対して引張応力を作用させる閉塞体19を設けると、枠体3の
各部の引張強度のさらなる均一化を図って、枠体3の外形をより良好に保つことができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係る蒸着マスクの全体を示す斜視図である。
図2図1におけるA-A線断面図である。
図3】実施例1に係る蒸着マスクの要部を示す平面図である。
図4】実施例1に係る蒸着マスクの枠体の平面図である。
図5】実施例1に係る蒸着マスクの製造方法の前段を示す説明図である。
図6】実施例1に係る蒸着マスクの製造方法の中段を示す説明図である。
図7】実施例1に係る蒸着マスクの製造方法の後段を示す説明図である。
図8】本発明の実施例2に係る蒸着マスクの全体を示す斜視図である。
図9】実施例2に係る蒸着マスクの枠体の平面図である。
図10】本発明の実施例3に係る蒸着マスクの枠体の要部を示す平面図である。
図11】本発明の実施例4に係る蒸着マスクの縦断面図である。
図12】実施例4に係る蒸着マスクを用いた蒸着工程の説明図である。
図13】本発明の実施例5に係る蒸着マスクの縦断面図である。
図14】本発明の実施例6に係る蒸着マスクの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施例1) 図1から図7に、本発明に係る蒸着マスクの実施例1を示す。なお、本実
施例の各図における厚みや幅などの寸法は、実際の様子を示したものではなく、それぞれ
模式的に示したものである。以下の各実施例の図においても同様である。
【0023】
図1および図2に示すように蒸着マスク1は、マトリクス状に配置される複数(本実施
例では9枚)のマスク本体2と、各マスク本体2を囲むように配置される補強用の枠体3
と、両者2・3を不離一体的に接合する金属層4とを含む。枠体3は、マスク本体2と同
数のマスク開口5を備える(図4参照)。各マスク開口5はマスク本体2よりも一回り大
きく形成されており、各マスク開口5にマスク本体2が1枚ずつ配置されている。金属層
4は、マスク本体2の周縁部とマスク開口5の開口縁部との間隙部分などに形成されて、
マスク本体2と枠体3を接合している。
【0024】
各マスク本体2は、四隅が丸められた長方形状に形成されており、その面積の過半を占
める内側のパターン形成領域7と、同領域7を囲む外側の接合領域8とを備える。パター
ン形成領域7には、多数独立の蒸着通孔9からなる蒸着パターンが形成されており、接合
領域8には、マスク本体2の各辺に沿って二列に並ぶ多数個の接合通孔10が形成されて
いる(図3参照)。このマスク本体2は、ニッケルからなる電着金属を素材として電鋳法
で形成される。本実施例では各マスク本体2の厚みを8μmに設定した。なおマスク本体
2は、ニッケル以外にニッケルコバルト等のニッケル合金、銅、その他の電着金属を素材
として形成することができる。さらにマスク本体2は、二層以上の積層構造であってもよ
く、具体的には例えば、光沢めっき層からなる上層と、無光沢めっき層からなる下層とを
有するマスク本体2を形成し、各層の厚み比率を例えば上層:下層=5:7に設定するこ
とができる。
【0025】
図4に示すように枠体3は、矩形枠状の外周枠12と、外周枠12内にマスク開口5を
区画する格子枠13とを備える。外周枠12の四隅には、L字状の切欠孔からなる強度低
下部14がそれぞれ形成されている。外周枠12のうち最も引張強度が高い部分である四
隅に強度低下部14を形成して、四隅の引張強度を低下させることにより、外周枠12の
全周にわたって引張強度の均一化を図ることができる(その意義については後述する)。
切欠孔からなる強度低下部14の各コーナー部分はR状に形成することが好ましい。
【0026】
図2に拡大して示すように、枠体3は積層構造となっており、同一形状の上枠15と下
枠16を接着層17で貼り合わせて構成される。上枠15と下枠16は、ニッケル-鉄合
金であるインバー材からなる低熱線膨張係数の金属板材で形成されている。本実施例では
、上枠15と下枠16の厚み寸法をそれぞれ0.5mmに設定して、枠体3をマスク本体
2よりも十分に肉厚に形成した。なお上枠15と下枠16は、上記のインバー材以外に、
ニッケル-鉄-コバルト合金であるスーパーインバー材などで形成してもよく、上枠15
と下枠16の厚み寸法は異なっていてもよい。また枠体3は、上枠15と下枠16の二層
構造以外に、三層以上の積層構造や単層構造であってもよく、また、特許文献1に開示さ
れた四層構造(上枠15と下枠16を備える枠体3を2つ重ねて貼り合わせた四層構造)
を採用してもよい。接着層17としては、シート状の未硬化感光性ドライフィルムレジス
トや、市販されている種々の接着剤などを用いることができる。
【0027】
枠体3の各強度低下部14には、これより一回り小さいL字シート状の閉塞体19が配
置されている。閉塞体19は、通孔を持たない内側の閉塞領域20と、同領域20を囲む
外側の接合領域21とを備えており、マスク本体2と同様に金属層4を介して枠体3に不
離一体的に接合されている。閉塞体19の接合領域21にも、マスク本体2の接合領域8
と同様に、二列に並ぶ多数個の接合通孔22が形成されている。なお、蒸着マスクの製造
工程において、閉塞体19はマスク本体2と同時に、同本体2と同一の素材で同一の厚み
に形成される(詳細は後述する)。
【0028】
金属層4は、後述する電鋳法によって、枠体3の表面からマスク本体2と閉塞体19の
接合領域8・21にわたって連続して形成される。金属層4は接合通孔10・22内にも
形成されており、これによりマスク本体2と閉塞体19に対する金属層4の接合強度が向
上する。本実施例ではニッケルを素材として金属層4を形成したが、これ以外にニッケル
コバルト等のニッケル合金や、その他の電着金属を素材として形成することができる。な
お本発明において、金属層4を枠体3の上面に形成することは必須ではなく、少なくとも
枠体3の側面(マスク開口5の内周面)に金属層4が形成されていればよい。
【0029】
本実施例に係る蒸着マスク1の製造方法の一例を図5から図7に示す。まず図5(a)
に示すように、導電性を有する例えばステンレスや真ちゅう製の母型24の表面に、ネガ
タイプのフォトレジスト層25を形成する。次いで、フォトレジスト層25の上に、ガラ
スマスクからなるパターンフィルム26を密着させ、パターンニング前段体27を得る。
パターンフィルム26には、マスク本体2の蒸着通孔9に対応する透光孔26aと、同本
体2の接合通孔10に対応する透光孔26bと、閉塞体19の接合通孔22に対応する透
光孔26cとが形成されている。さらにパターンフィルム26には、1枚のマスク本体2
に対応する一群の透光孔26a・26bを囲む平面視で矩形枠状の透光溝26dと、1枚
の閉塞体19に対応する一群の透光孔26cを囲む平面視で中空L字状の透光溝26eと
が形成されている。矩形枠状の透光溝26dの内周縁はマスク本体2の外郭線に一致し、
中空L字状の透光溝26eの内周縁は閉塞体19の外郭線に一致する。
【0030】
次いで、得られたパターンニング前段体27と、紫外線ランプ28を備える紫外線照射
装置の炉内とを、露光作業時の炉内温度にそれぞれ予熱する。予熱が完了したら、パター
ンニング前段体27を紫外線照射装置の炉内に収容し、紫外線ランプ28で紫外線光を照
射することにより、パターンフィルム26を介してフォトレジスト層25を露光する。露
光後のパターンニング前段体27を取り出し、フォトレジスト層25からパターンフィル
ム26を取り外し、フォトレジスト層25の未露光部分を溶解除去(現像)することによ
り、図5(b)に示すように、母型24上に一次パターンレジスト29を形成する。一次
パターンレジスト29は、パターンフィルム26の各透光孔26a~26cと各透光溝2
6d・26eに対応するレジスト体29a~29eで構成される。
【0031】
次いで、図5(c)に示すように、レジスト体29a~29eで覆われていない母型2
4の表面に電鋳処理を施すことにより、レジスト体29a~29eの高さの範囲内で一次
電鋳層30を形成する。一次電鋳層30は、蒸着マスク1の完成品を構成する複数のマス
ク本体2および閉塞体19と、その完成前に除去される枠体支持部31とで構成される。
一次電鋳層30の形成後、図5(d)に示すように、一次パターンレジスト29を溶解除
去する。これにより、マスク本体2の蒸着通孔9および接合通孔10と、閉塞体19の接
合通孔22とが現れる。
【0032】
次に、マスク本体2と閉塞体19に対する金属層4の接合強度(密着性)を高めるため
の密着めっき層34(図2参照)を形成する。マスク本体2においては、接合領域8の上
面および外周面と、接合通孔10の内周面とに密着めっき層34を形成する。閉塞体19
においても、接合領域21の上面および外周面と、接合通孔22の内周面とに密着めっき
層34を形成する。なお密着めっき層34は、ニッケルや銅などを素材として、ストライ
クめっきや無光沢めっきにより、一次電鋳層30よりも十分に薄く形成される。
【0033】
密着めっき層34の形成手順としては、まず図6(a)に示すように、一次電鋳層30
の表面全体にネガタイプのフォトレジスト層35を形成し、その上にパターンフィルム3
6を密着させる。このパターンフィルム36は、マスク本体2の接合領域8に対応する矩
形枠状の非透光部36aと、閉塞体19の接合領域21に対応する中空L字状の非透光部
36bと、その他の部分を占める透光部36cとを備える。次いで、紫外線ランプ28で
紫外線光を照射して、パターンフィルム36を介してフォトレジスト層35を露光する。
露光後、フォトレジスト層35からパターンフィルム36を取り外し、フォトレジスト層
35の未露光部分を溶解除去(現像)することにより、図6(b)に示すパターンレジス
ト37を形成する。このパターンレジスト37は、マスク本体2と閉塞体19の接合領域
8・21を露出させる開口37aを有する。つまりパターンレジスト37は、密着めっき
層34の形成領域を除く一次電鋳層30の表面全体を覆う。
【0034】
次いで、開口37aに臨む一次電鋳層30の表面にめっき処理(密着処理)を施すこと
により、図6(c)に拡大して示す密着めっき層34を形成することができる。なお密着
めっき層34は、開口37aに臨む母型24の表面にも不可避的に形成されるが、母型2
4上の密着めっき層34は、後にマスク本体2と閉塞体19を母型24から剥離する際の
妨げになるため、その面積をなるべく小さくすることが好ましい。密着めっき層34の形
成後にパターンレジスト37を溶解除去すると、図6(c)に示す状態になる。なお、接
合領域8・21と接合通孔10・22に密着めっき層34を形成するのに代えて、酸浸漬
や電解処理等の活性化処理(密着処理)を施してもよい。これによってもマスク本体2と
閉塞体19に対する金属層4の接合強度(密着性)を高めることができる。
【0035】
次に、一次電鋳層30のマスク本体2と閉塞体19に対して、枠体3を金属層4で接合
する。具体的にはまず、図7(a)に示すように、密着めっき層34を形成した一次電鋳
層30の表面全体にネガタイプのフォトレジスト層40を形成し、その上にパターンフィ
ルム41を密着させる。このパターンフィルム41は、マスク本体2のパターン形成領域
7に対応する長方形状の透光孔41aと、閉塞体19の閉塞領域20に対応するL字状の
透光孔41bとを備える。
【0036】
次いで、紫外線ランプ28で紫外線光を照射して、パターンフィルム41を介してフォ
トレジスト層40を露光する。露光後、フォトレジスト層40からパターンフィルム41
を取り外し、フォトレジスト層40の未露光部分を溶解除去(現像)することにより、図
7(b)に示す二次パターンレジスト42を形成する。二次パターンレジスト42は、マ
スク本体2のパターン形成領域7の表面を覆うレジスト体42aと、閉塞体19の閉塞領
域20の表面を覆うレジスト体42bとで構成される。パターン形成領域7の蒸着通孔9
はレジスト体42aで覆われるため、その後の電鋳処理の際に、同通孔9に電鋳液が浸入
することは無い。
【0037】
次いで、図7(c)に示すように、一次電鋳層30の枠体支持部31の上面の所定の位
置に枠体3を載置する。平面視において枠体支持部31は枠体3よりも一回り大きく形成
されている。枠体支持部31で支持される枠体3の下面には、剥離層44を介して接着層
45が予め積層されており、この接着層45によって枠体3は枠体支持部31に対してズ
レ動き不能に固定される。本実施例では剥離層44をニッケルで形成し、接着層45を未
露光のフォトレジスト層で形成した。
【0038】
次いで、図7(d)に示すようにめっき処理を施して、枠体3の表面からマスク本体2
と閉塞体19の接合領域8・21にわたって連続する二次電鋳層すなわち金属層4を形成
する。一次電鋳層30の表面における金属層4は、レジスト体42a・42bの高さの範
囲内で形成する。またこのとき、接合通孔10・22内に金属層4を形成することにより
、接合通孔10・22の内周面に密着めっき層34を形成していることと相俟って、マス
ク本体2と閉塞体19に対する金属層4の接合強度がより向上する。電鋳処理後、母型2
4から一次電鋳層30および金属層4を剥離し、次いで一次電鋳層30の枠体支持部31
を接着層45および剥離層44と共に、枠体3および金属層4から剥離する。最後に二次
パターンレジスト42を除去することにより、図7(e)に示す蒸着マスク1の完成品を
得ることができる。なお、二次パターンレジスト42の除去は、一次電鋳層30および金
属層4の剥離前に行っても良いし、枠体支持部31、接着層45および剥離層44の剥離
前に行っても良い。
【0039】
母型24から剥離した完成後の蒸着マスク1において、各マスク本体2には内方へ収縮
しようとする応力が作用する。これは、マスク本体2を含む一次電鋳層30を形成する際
の電鋳槽の液温(例えば40~50℃)が、常温よりも高いことなどに起因するものであ
る。各マスク本体2が収縮しようとすることにより、枠体3には金属層4を介して引張応
力が作用する。枠体3のうち格子枠13の各部は、隣り合う2枚のマスク本体2(マスク
開口5)で両側から挟まれており、該マスク本体2により両側から引張られるが、引張応
力が互いに打ち消されるため殆ど変形しない。一方、外周枠12の各部は、1枚のマスク
本体2(マスク開口5)にのみ隣接しており、該マスク本体2により一方のみから引張ら
れるため、格子枠13に比べて変形し易い。
【0040】
外周枠12の各部の引張強度は同一ではなく、特に四隅は相対的に引張強度が高く変形
し難い(難変形部)。外周枠12の変形量が各部で異なると、各辺部が内向きに撓み変形
するおそれがある。そこで本実施例では、外周枠12の四隅のそれぞれに、L字状の切欠
孔からなる強度低下部14を形成した。これによれば、外周枠12の四隅の引張強度を低
下させて、外周枠12の全周にわたって引張強度の均一化を図ることができる。換言すれ
ば、マスク本体2の収縮により生じる引張応力が、外周枠12の各辺部の中央(易変形部
)に集中するのを避けて、外周枠12の全体に分散させることができる。これにより、外
周枠12の各辺部が内向きに撓み変形することを抑制して、枠体3ひいては蒸着マスク1
の全体の外形を良好に保つことができる。なお本実施例では、マスク本体2と同時に形成
される閉塞体19にも、内方へ収縮しようとする応力が作用する。この応力は作用する方
が好ましいが、応力がゼロもしくは限りなく小さくなるように閉塞体19を形成すること
もできる。また必要があれば、閉塞体19を省略することもできる。この場合、強度低下
部14としての切欠孔は、有底状のものであっても良い。
【0041】
(実施例2) 図8および図9に、本発明に係る蒸着マスクの実施例2を示す。本実施例
では、枠体3の外周枠12の全周にわたって複数個の強度低下部14を形成し、これら強
度低下部14の開口面積(外周枠12の周方向の長さ寸法)が、外周枠12の隅部から辺
部中央にかけて徐々に小さくなるようにした。外周枠12の隅部は、相対的に引張強度が
高く変形し難い難変形部であり、外周枠12の辺部中央は、相対的に引張強度が低く変形
し易い易変形部である。本実施例のように、外周枠12の難変形部から易変形部にかけて
、強度低下部14の開口面積を徐々に小さくしていくと、外周枠12の各部の引張強度を
その全周にわたってより正確に均一化させることができ、これにより外周枠12の各辺部
の撓み変形をより確実に防止することができる。他は実施例1と同じであるので、同じ部
材に同じ符号を付してその説明を省略する。以下の実施例においても同じとする。なお、
外周枠12の周方向における強度低下部14の長さ寸法を徐々に小さくするのに代えて、
該周方向に直交する幅方向における強度低下部14の幅寸法を徐々に小さくする場合にも
、本実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
マスク本体2と同一の素材および厚みからなる閉塞体19は、自らが変形する(ダミー
となる)ことにより、マスク本体2の変形を抑制する作用効果を発揮する。本実施例のよ
うに、マスク本体2を囲むように閉塞体19の一群を配置すると、マスク本体2の変形を
より的確に抑制できる。なお、各閉塞体19をマスク本体2と同一の形状および大きさに
形成すると、上記の作用効果が最大限に発揮される。
【0043】
(実施例3) 図10に、本発明に係る蒸着マスクの実施例3を示す。本実施例では、枠
体3の強度低下部14の開口縁どうしを繋ぐ複数本の桟47を、外周枠12と一体に設け
た。これらの桟47は、外周枠12の四隅の引張強度を補強するものであり、強度低下部
14を形成することで四隅の引張強度が低下し過ぎるのを避けるために設けられている。
本実施例において、強度低下部14と桟47を備える外周枠12の四隅(難変形部)の引
張強度は、外周枠12の辺部中央(易変形部)の引張強度に略等しい。桟47は、最初か
ら枠体3と一体に形成してもよく、別体からなる桟47を枠体3に接合して一体化しても
よい。両者3・47を別体とする場合、桟47は枠体3と同じ材質でも異なる材質でも良
い。ただし、桟47を枠体3とは異なる材質とする場合でも、枠体3と同様にインバー材
やセラミック材などの低熱膨張係数の材質で桟47を形成することが好ましい。
【0044】
本実施例の別形態として、外周枠12の全周にわたって強度低下部14を無端状に形成
するとともに、四隅(難変形部)から辺部中央(易変形部)にかけて、隣接ピッチが徐々
に小さくなるように桟47を設けることができ、あるいは、隣接ピッチは変えずに桟47
を徐々に太くすることができる。これらの別形態によれば、先の実施例2と同様の作用効
果を得ることができる。なお、実施例3とその別形態において、桟47で区切られた部分
の1つ1つを強度低下部14と解釈することも可能であり、また、実施例2の強度低下部
14間の非開口部分を桟47と解釈することも可能である。さらに、枠体3(格子枠13
)の強度の向上や、枠体3(外周枠12)の強度低下部14の周囲の強度の調整を目的と
して、マスク開口5内に桟47を設けることができる。この場合の桟47の位置や形状な
どは任意であるが、蒸着の障害とならないように、マスク本体2のパターン形成領域7(
蒸着通孔9)と重ならないようにすることが望ましい。
【0045】
(実施例4) 図11および図12に、本発明に係る蒸着マスクの実施例4を示す。本実
施例では、枠体3を構成する上枠15を下枠16よりも細く形成して、上枠15のマスク
開口5が下枠16の同開口5よりも一回り大きくなるようにした。上枠15の格子枠13
を構成する縦枠と横枠の幅寸法は、下枠16の同幅寸法の3分の1に設定されており、上
枠15と下枠16を接着層17で貼り合わせた状態では、上枠15の縦枠および横枠の幅
寸法W1と、上枠15の両側における下枠16の上面の幅寸法W2とが等しくなる。
【0046】
図12に示すように、基板(蒸着対象)B上に蒸着層を形成する蒸着工程において、蒸
着マスク1は上下を反転した状態で基板Bの下面に密着配置されて、下から上昇する蒸着
物質を蒸着パターン(蒸着通孔9)に従って通過させる。本実施例のように、上枠15の
マスク開口5を下枠16の同開口5よりも一回り大きくしていると、蒸着工程において上
枠15が下側になるように蒸着マスク1を反転させたとき、上枠15を覆う金属層4の下
端部が、上昇する蒸着物質にとっての障害物になることを防止することができる。なお、
特許文献1に開示された四層構造(上枠15と下枠16を備える枠体3を2つ重ねて貼り
合わせた四層構造)を採用する場合に、本実施例と同様の作用効果を得るためには、一方
の枠体3を構成する上枠15と下枠16を、他方の枠体3を構成する上枠15と下枠16
よりも細く形成し、細い方の枠体3を太い方の枠体3の上に貼り合わせるとよい。
【0047】
(実施例5) 図13に、本発明に係る蒸着マスクの実施例5を示す。先の実施例1では
、マスク本体2と閉塞体19の接合領域8・22の全体(上面および外周面)に密着めっ
き層34を形成したが、本実施例では、接合領域8・22の外周縁部を除く上面のみに密
着めっき層34を部分的に形成した。実施例1に比べて密着めっき層34の形成領域(母
型24との接地面積)を小さくした本実施例によれば、母型24からマスク本体2と閉塞
体19を比較的容易に剥離することができる。
【0048】
(実施例6) 図14に、本発明に係る蒸着マスクの実施例6を示す。本実施例では、閉
塞体19の表面全体を金属層4で覆った。密着めっき層34は、金属層4と閉塞体19の
接合面の全体に形成されている。閉塞体19の表面全体に金属層4を形成すると、強度低
下部14の周囲の強度が上昇するため、これを利用して当該部分の強度を調整することが
できる。
【符号の説明】
【0049】
1 蒸着マスク
2 マスク本体
3 枠体
4 金属層
5 マスク開口
9 蒸着通孔
12 外周枠
13 格子枠
14 強度低下部
19 閉塞体
47 桟
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14