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特開2022-168033軟骨へのカプセル化薬剤の制御送達のための二成分型自己集合ゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168033
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】軟骨へのカプセル化薬剤の制御送達のための二成分型自己集合ゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20221027BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/5355 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 31/245 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221027BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20221027BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/36
A61K47/38
A61K45/00
A61P37/02
A61K31/56
A61K38/18
A61K31/495
A61K31/55
A61K31/5355
A61K31/40
A61K31/167
A61K31/245
A61P25/04
A61P29/00
A61P19/02
A61P19/08
A61F2/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022141269
(22)【出願日】2022-09-06
(62)【分割の表示】P 2018557853の分割
【原出願日】2017-05-08
(31)【優先権主張番号】62/332,664
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503146324
【氏名又は名称】ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー カープ
(72)【発明者】
【氏名】ニティン ジョシ
(72)【発明者】
【氏名】シュエイン ヘ
(72)【発明者】
【氏名】サチン バグチャンダニ
(57)【要約】
【課題】軟骨へのカプセル化薬剤の制御送達のための二成分型自己集合ゲルの提供。
【解決手段】軟骨組織に対する接着性が増強された自己集合ゲル組成物が提供される。カチオン剤は、一般に安全と認められる(GRAS)低分子量(2,500Da未満)ゲル化剤と共自己集合し、制御放出のための1種または複数種の治療剤をカプセル化し得る均一自立性ゲルを形成する。組成物は、ゲル化剤のみに由来する自己集合ゲルよりも広範囲で長時間にわたり、結合組織、例えば軟骨に接着する。組成物は、結合組織を特異的に標的とし、投与効力を向上させる制御放出として1種または複数種の治療剤、予防剤、または診断剤を送達するために使用される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2016年5月6日に出願された米国仮出願第62/332,664号の利益および優先権を主張し、当該出願は、その全体が本明細書において参考として援用される。
【0002】
政府支援を受けた研究または開発に関する記載
本発明は、Department of Defenseによってグラント番号W81XWH-14-1-0229を与えられた政府支援の下でなされた。政府は発明について一定の権利を有する。
【0003】
本開示技術は、一般に薬物の制御送達の分野に属し、より詳細には、軟骨修復のための注射可能な接着性ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0004】
軟骨(硝子軟骨または関節軟骨)は、関節内の骨表面を被覆する3~5mmの薄い組織であり、加えて、他の潤滑性の強い表面を形成する。軟骨は、理想的には終生持続する極めて低摩擦の関節(articulation)をもたらす。軟骨は、急性傷害または経時的な変性によって損傷することがある。例えば、変形性関節症(OA)は、軟骨の非薄化および進行性関節損傷につながる関節障害である。45歳より高齢のアメリカ人の40%近くがある程度の膝OAを持っており、その数は年齢別人口につれて増加すると予想される。関節軟骨の巣状病変は、軟骨破壊の拡大および関節炎の悪化に進行し得る。関節軟骨は内在性の治癒能力が限られている。このため、これらの病変の整形外科的管理は、整形外科医および患者にとって持続的な問題となっている。軟骨の傷害を処置することの重要性は、米国だけで数百万人が軟骨の損傷による影響を受けているという事実によって強調されている(Praemer Aら、American Academy of Orthopaedic Surgeons、1999年、34~9頁)。
【0005】
軟骨欠損の大きさおよび位置に応じて、壊死組織切除、剥離関節形成術(abrasion arthroplasty)、微小骨折、骨軟骨自家移植片移植(autograft transfer)、骨軟骨同種
移植片移植、および自己軟骨細胞移植を含む、軟骨修復のための各種外科手術が行われる(Browne J Eら、Clinical Orthopaedics and Related Research、2005年;436号:237~245頁;Magnussen R Aら、Clinical Orthopaedics and Related Research、2008年;466巻:952~96頁)。
【0006】
しかし、正常な軟骨表面を復元し、周囲の正常な関節軟骨との統合を向上させることは極めて困難である。研究では、骨軟骨自家移植および同種移植などで、完全に機能する軟骨を欠損部に移植すると、多くの場合周囲の軟骨組織との統合が不十分になることが示されている(Hunziker EB、Osteoarthritis Cartilage、2002年;10巻:432~
463頁)。従来の生体材料インプラントは、in vivoの剛性材料にしばしば見られるように、統合が不十分であり硝子軟骨の代わりに骨および線維組織成長が促進されることに起因して、臨床試験および前臨床試験が成功しなかった(Custers RJら、J Bone
Joint Surg Am、2009年;91巻:900~910頁)。
【0007】
したがって、本発明の目的は、軟骨組織に対する良好な接着性および統合ならびに治療剤の制御送達のための生体適合性ゲル組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、軟骨損傷を処置および予防する方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Praemer Aら、American Academy of Orthopaedic Surgeons、1999年、34~9頁
【非特許文献2】Browne J Eら、Clinical Orthopaedics and Related Research、2005年;436号:237~245頁
【非特許文献3】Magnussen R Aら、Clinical Orthopaedics and Related Research、2008年;466巻:952~96頁
【非特許文献4】unziker EB、Osteoarthritis Cartilage、2002年;10巻:432~463頁
【非特許文献5】Custers RJら、J Bone Joint Surg Am、2009年;91巻:900~910頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
軟骨組織に対する接着性が増強された自己集合ゲル組成物が提供される。ゲル組成物は、ゲルを形成するために使用される主要な溶媒成分に応じて、または溶媒除去および/または精製の後にどの成分が存在するかに応じて、ヒドロゲルまたは有機ゲルであってよい。好ましくは、自己集合ヒドロゲルは、2,500Da未満の低分子量であり一般に安全と認められる(GRAS)両親媒性ゲル化剤と結合組織に接着能力を付与するカチオン剤(cationic agent)との共自己集合体から調製され、必要に応じて、水性または実質的
に水性の媒体中に、1種または複数種の治療剤、予防剤および診断剤をカプセル化する。あるいは、カチオン剤は、GRAS両親媒性ゲル化剤と相互作用または会合するか、GRAS両親媒性ゲル化剤から形成された集合ゲルを被覆して、軟骨接着性および標的化能力を付与することができる。
【0011】
第1の実施形態では、GRAS両親媒性ゲル化剤、軟骨接着能力を付与するためのカチオン剤、ならびに必要に応じて治療剤、予防剤、および/または診断剤を、混合することによって、および完全溶解を確保するため必要に応じて加熱することによって、水(または水性緩衝液もしくは塩溶液)および水混和性有機溶媒の両方を含む共溶媒中に溶解させる。第2の実施形態では、GRAS両親媒性物質ゲル化剤を最初に有機溶媒中に溶解させて、溶質としてゲル化剤を有する溶液(「ゲル化剤溶液」と称する)を形成する。軟骨接着能力を付与するためのカチオン剤、ならびに必要に応じて治療剤、予防剤、および/または診断剤も、ゲル化剤溶液に溶解させる。次に、必要に応じて治療剤、予防剤、および/または診断剤を含有する、純水または水性緩衝液もしくは塩溶液などの水溶液を、ゲル化剤溶液と混合して液体ゲル溶液を形成する。いずれの実施形態でも、十分な時間にわたり、ある温度(一般に、使用される液体溶媒のいずれかの沸点よりも低い温度)にゲル溶液を加熱し、続いて冷却することにより、室温(約℃)または体温(約37℃)において倒置に対して安定な粘性均一ゲルが得られる。
【0012】
成分の完全溶解は、不均一ゲル化(例えば、ゲル化していない部分を有する混合物中のゲルの塊、または沈殿物)とは異なり、自立性(self-supporting)(例えば、特に倒置
したときに流動抵抗を有する)均一ゲルを形成する上で極めて重要である。溶媒(複数可)、pH、および/または塩は、成分を均一溶液に溶解させるのに効果的になるように選択される。ゲルの形成後、余剰溶媒を除去し、薬学的に許容されるヒドロゲルを生成する。
【0013】
米国食品医薬品局によって一般に安全と認められる(GRAS)好適なゲル化両親媒性化合物。例示的なゲル化剤は、アスコルビルアルカノエート、ソルビタンアルカノエート、トリグリセロールモノアルカノエート、スクロースアルカノエート、グリココール酸、およびこれらの組合せなどの、酵素で切断可能な一般に安全と認められる(GRAS)化合物である。均一な自立性ゲルを形成するために、GRAS両親媒性ゲル化剤は通常、ゲル化のために液体媒体中に3、4、5、6、7、8、9または10重量/容量%より多く含まれる。
【0014】
カチオン剤は一般に、軟骨の1種または複数種の成分と静電的に相互作用して、カチオン剤非含有の対照ゲルと比較して、軟骨に対する粘性均一ゲルの接着性を増強する。カチオン剤は、ゲル化剤と共自己集合し(co-self assemble)、すなわち、均一ゲルのラメ
ラ、小胞状、またはナノ繊維状のミクロ構造体を形成する。好適なカチオン剤としては、アミン含有リン脂質、例えば、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)および1,2-ジオレイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパンクロリド(DOTMA)、ならびに正に荷電した生体適合性分子、例えばキトサン、カルボキシメチルキトサン、およびキトサンの他の誘導体が挙げられる。結合組織に接着能力を付与するために、カチオン剤は一般に、GRAS両親媒性物質ゲル化剤とカチオン剤と含有する合わせた質量中、10、11、12、13、14、15、20または25重量%より多い。カチオン剤対GRAS両親媒性物質ゲル化剤の質量比は、好ましくは少なくとも1:9であり、または1:9より大きく、例えば1.5:8.5、2:8、2.5:7.5、3:7、またはそれよりも大きい。
【0015】
自己集合ゲル組成物は、軟骨などの結合組織に接着し、潤滑剤として、および治療剤の制御送達用として機能し得る。自己集合ゲル組成物は、典型的に、液体媒体中でインキュベートするときカプセル化薬剤(encapsulated agent)のバースト放出を有さない。例
えば、リン酸緩衝食塩水中で37℃にて少なくとも1週間、2週間、または3週間、1ヶ月、2ヶ月、またはそれよりも長くインキュベートするときに、充填薬物(loaded drug)の総量の10、15、20、25、または30%未満が粘性均一ゲルから放出される。
【0016】
自己集合ゲル組成物は、1つまたは複数の軟骨損傷を処置または予防するために投与される。通常の投与経路は、局所注射、関節鏡検査、または外科手術の時点によるものである。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
2,500Da未満の分子量を有する両親媒性ゲル化剤とカチオン剤とを含む、軟骨組織に対して接着性であるゲル組成物であって、
該ゲル化剤と該カチオン剤とは、溶解するまで加熱し、室温まで冷却した後、共自己集合または会合して粘性均一ゲルを形成し、ここで該粘性均一ゲルは、倒置に対して安定であり、
該ゲル組成物は軟骨組織に接着している、ゲル組成物。
(項目2)
前記カチオン剤が、2,500Da未満の分子量を有する前記両親媒性ゲル化剤と該カチオン剤との合わせた質量中、乾燥重量で10%より多くの量で存在する、項目1に記載のゲル組成物。
(項目3)
前記カチオン剤が、前記ゲル組成物1mL当たり少なくとも0.08mgである、項目2に記載のゲル組成物。
(項目4)
前記ゲル化剤、前記カチオン剤、またはその両方が、一般に安全と認められる(GRAS)化合物として、米国食品医薬品局によって認められた化合物である、項目1~3のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目5)
前記ゲル化剤が、アスコルビルアルカノエート、ソルビタンアルカノエート、トリグリセロールモノアルカノエート、スクロースアルカノエート、グリココール酸、およびこれらの組合せからなる群から選択される、酵素で切断可能な一般に安全と認められる(GRAS)化合物である、項目1~4のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目6)
前記ゲル化剤が、パルミチン酸アスコルビル、モノステアリン酸トリグリセロール、パルミチン酸スクロース、およびステアリン酸スクロースからなる群から選択される、項目5に記載のゲル組成物。
(項目7)
前記カチオン剤が、軟骨の1種または複数種の成分と静電的に相互作用または会合して、該カチオン剤非含有の対照ゲル組成物と比較して、該軟骨に対する前記粘性均一ゲルの接着性を増強する、項目1~6のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目8)
前記カチオン剤が、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジオレイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパンクロリド(DOTMA)、キトサン、カルボキシメチルキトサン、N-アシルキトサン、アルキルキトサン、カルボキシアルキル(アリール)キトサン、o-カルボキシアルキルキトサン、N-カルボキシアシルキトサン、チオール化キトサン、カチオン性デンプン、カチオン性セルロース、カチオン性アミロペクチン、カチオン性ガラクタン、カチオン性デキストラン、および軟骨(cartilate)に結合するこれらの誘導体からなる群から選択される、
項目1~7のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目9)
1種または複数種の治療剤、予防剤、または診断剤をさらに含む、項目1~8のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目10)
前記1種または複数種の治療剤、予防剤、または診断剤は、前記粘性均一ゲルをリン酸緩衝食塩水中で37℃にて7日間インキュベートする場合、10、15、20、25、または30%未満で、該粘性均一ゲルから放出される、項目9に記載のゲル組成物。
(項目11)
前記1種または複数種の治療剤、予防剤、または診断剤が、免疫調節剤、化学療法薬、鎮痛剤、麻酔薬、関節潤滑剤、解熱剤、抗感染剤、組織および/または骨再生促進剤、ビタミン、抗酸化剤、プロテアーゼ阻害剤、ならびに低分子干渉RNAからなる群から選択される、項目8~10のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目12)
ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症剤からなる群から選択される免疫調節剤(immunodulatory agents)を含む、項目11に記載のゲル組成物。
(項目13)
前記薬剤が、骨形態形成タンパク質、トランスフォーミング成長因子ベータ、線維芽細胞成長因子、間質細胞由来因子1(SDF1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、カテプシンK阻害剤、およびシステインプロテイナーゼ阻害剤、ならびに多血小板血漿からなる群から選択される、項目11に記載のゲル組成物。
(項目14)
バリカチブ(AAE581)、レラカチブ(SB-462795)、オダナカチブ(MK-0822)、MV061194、MV061748、MV061940、MV061645、MSX-081、LL-006235、および二環状ケトンからなる群から選択されるカテプシンK阻害剤を含む、項目13に記載のゲル組成物。
(項目15)
CL-82198、アクチノニン、PD166793、CP471474、WAY170523、およびアジェラディンAからなる群から選択されるMMP阻害剤を含む、項目13に記載のゲル組成物。
(項目16)
リドカイン、プロカイン、テトラカイン、ジブカイン、ベンゾカイン、またはこれらの塩からなる群から選択される疼痛緩和剤を含む、項目13に記載のゲル組成物。
(項目17)
2種またはそれよりも多くの種の薬剤を含み、少なくとも1種の薬剤が1種または複数種の残りの薬剤の効力を高める、項目8~16のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目18)
投薬単位キット中にあり、該投薬単位は、乾燥成分のための1つまたは複数の容器および液体成分のための1つまたは複数の容器を備え、該乾燥成分と該液体成分とが一緒に混合されて自己集合ゲル組成物を形成する、項目8~17のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目19)
溶媒または非カプセル化薬剤が除去されている、項目1~18のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目20)
分散されているかまたは細かく崩壊されている、項目1~19のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目21)
前記溶媒が、凍結乾燥、乾燥または遠心分離によって除去される、項目1~20のいずれか一項に記載のゲル組成物。
(項目22)
軟骨組織に対して接着性である自己集合ゲル組成物の調製方法であって、
2,500Da未満の1種または複数種の低分子量両親媒性ゲル化剤、1種または複数種のカチオン剤、および必要に応じて治療剤、予防剤、または診断剤を組み合わせて、有機ゲルまたはヒドロゲルを形成するステップ
を含み、
項目1~21のいずれか一項に規定された通り、該カチオン剤が、2,500Da未満の分子量を有する該両親媒性ゲル化剤と該カチオン剤との合わせた質量中、10重量%より多いか、または該自己集合ゲル組成物1mL当たり少なくとも0.08mgである、方法。
(項目23)
治療剤、予防剤、または診断剤を被験体に送達する方法であって、項目1~21のいずれかに記載のゲル組成物を、それを必要とする軟骨の部位、該軟骨内の部位、または該軟骨に隣接する部位に投与するステップを含む方法。
(項目24)
被験体の軟骨損傷を処置または予防する方法であって、潤滑を付与するか、または治療剤、予防剤、または診断剤を送達するために、項目1~21のいずれか一項に記載のゲル組成物を投与するステップを含む方法。
(項目25)
前記ゲル組成物が関節内に投与される、項目24に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、蛍光色素を充填したゲルとともに1時間のインキュベーション後における、軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。AP-DOTAPゲルは、パルミチン酸アスコルビルと1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパンとの間の共自己集合ゲルを指す。APゲルは、自己集合パルミチン酸アスコルビルゲルを指す。
【0018】
図2図2は、リン酸緩衝食塩水(PBS)中(丸を結ぶ線)、1μg/mLのMMP-2を含むPBS中(三角形を結ぶ線)、または200U/mLのエステラーゼを有するPBS中(四角形を結ぶ線)で、AP-DOTAP共集合ゲルからCL-82198(マトリックスメタロペプチダーゼ13、MMP-13に対する阻害剤)の、経過時間(日数)による累積放出(%)を示す線グラフである。
【0019】
図3図3は、リン酸緩衝食塩水(PBS)中(丸を結ぶ線)、1μg/mLのMMP-2を含むPBS中(三角形を結ぶ線)、または800U/mLのエステラーゼを有するPBS中(四角形を結ぶ線)で、AP-DOTAP共集合ゲルからのL-006235(カテプシンk阻害剤)の、経過時間(日数)による累積放出(%)を示す線グラフである。
【0020】
図4図4は、変形性関節症(OA)患者由来の滑液の存在下(丸を結ぶ線)、または正常なヒト被験体由来の滑液の存在下(四角形を結ぶ線)で、AP-DOTAP共集合ゲルからのCL-82198の、経過時間(日数)による累積放出(%)を示す線グラフである。
【0021】
図5図5は、変形性関節症(OA)患者由来の滑液の存在下(丸を結ぶ線)、または正常なヒト被験体由来の滑液の存在下(四角形を結ぶ線)で、AP-DOTAP共集合ゲルからのL-006235の、経過時間(日数)による累積放出(%)を示す線グラフである。
【0022】
図6図6は、PBS中、ジメチルスルホキシド(DMSO)中、AP-DOTAP共集合ゲル(ゲル)中、CL-82198を充填したAP-DOTAP共集合ゲル(ゲル+薬物)中、またはCL-82198(薬物)の存在下での、正常なヒト膝に由来する培養軟骨細胞の細胞代謝活性の百分率を示す棒グラフである。
【0023】
図7図7は、PBS中、ジメチルスルホキシド(DMSO)中、AP-DOTAP共集合ゲル(ゲル)中、CL-82198が充填されたAP-DOTAP共集合ゲル(ゲル+薬物)中、またはCL-82198(薬物)の存在下での、変形性関節症陽性のヒト膝に由来する培養軟骨細胞の細胞代謝活性の百分率を示す棒グラフである。
【0024】
図8図8は、ラットの内側脛骨軟骨変性(medial tibial cartilage degeneration)のスコアを、10mg/mLカテプシンK阻害剤(L-006235)を充填したAP-DOTAP共集合ゲル(10重量/重量%)を有さない場合とそれを有する場合とで比較した棒グラフである。
【0025】
図9~11は、蛍光色素を充填した標本とともに、または蛍光色素である標本とともに1時間のインキュベーション後における、軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。
【0026】
図9図9は、モノステアリン酸トリグリセロール(TG18)-DOTAP共集合ゲルとTG18単独ゲルとを比較している。
【0027】
図10図10は、パルミチン酸スクロース(SP)-DOTAP共集合ゲルとSP単独ゲルとを比較している。
【0028】
図11図11は、ステアリン酸スクロース(SS)-DOTAP共集合ゲルとSS単独ゲルとを比較している。
【0029】
図12図12は、パルミチン酸スクロースヒドロゲル(SP、丸で示されたデータ点)からの、またはパルミチン酸スクロースとDOTAPとの共集合体由来のヒドロゲル(SP-DOTAP、四角形で示されるデータ点)からの、カプセル化L-006235の、経過時間(日数)による累積放出(%)を示す線グラフである。
【0030】
図13図13は、蛍光色素を充填した異なる組成のゲルとともに1時間のインキュベーション後における、軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。ゲルは、(1)DOTAPを添加していないパルミチン酸スクロース(SP)単独、(2)95%のSPおよび5%のDOTAP(重量百分率)、(3)90%のSPおよび10%のDOTAP、(4)85%のSPおよび15%のDOTAP、(5)80%のSPおよび20%のDOTAPの、加熱および冷却後の自発的集合体から形成された。
【0031】
図14図14は、異なる試料とともに24時間のインキュベーション、続いて洗浄および残留試料の表面除去を行った後の軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。試料は、(1)蛍光色素をカプセル化した、それぞれ85重量%と15重量%のSPとDOTAPとの共自己集合体によって形成されたヒドロゲル、(2)蛍光色素をカプセル化した、自己集合SPにより形成されたヒドロゲル、および(3)蛍光色素を含んでいた。ブランク対照は軟骨自体を指す。
【0032】
図15図15は、(1)蛍光色素をカプセル化した、それぞれ80重量%と20重量%のTG18とDOTMAとの共自己集合体によって形成されたヒドロゲル、(2)蛍光色素をカプセル化した、TG18単独の自己集合体によって形成されたヒドロゲル、または(3)蛍光色素による1時間インキュベーション後における軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。
【0033】
図16図16は、(1)蛍光色素をカプセル化した、それぞれ80重量%と20重量%のSPとDOTMAとの共自己集合体によって形成されたヒドロゲル、(2)蛍光色素をカプセル化した、SP単独の自己集合体によって形成されたヒドロゲル、または(3)蛍光色素による1時間インキュベーション後における軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。
【0034】
図17図17は、(1)蛍光色素をカプセル化した、0.8mg/mLキトサンを含有する1mL液体媒体中の100mgのSPから形成されたヒドロゲル、(2)蛍光色素をカプセル化した、0.4mg/mLのキトサンを含有する1mL液体媒体中の100mgのSPから形成されたヒドロゲル、(3)蛍光色素をカプセル化した、0.08mg/mLのキトサンを含有する1mL液体媒体中の100mgのSPから形成されたヒドロゲル、または(4)キトサンなしの1mL液体媒体中の100mgのSPから形成されたヒドロゲルとともに1時間インキュベーション後における軟骨外植片の蛍光強度(任意単位、A.U.)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
I.定義
用語「ゲル化剤」は、1種または複数種の溶媒中で、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、イオン性相互作用、パイ-パイスタッキング、またはこれらの組合せなどの非共有結合性相互作用を介して、集合し得る分子を指す。ゲル化剤は、例えば毛管力を介して溶媒を硬くすることによってゲルを形成し得る。ゲル化剤としては、ヒドロゲル化剤(例えば、ヒドロゲルを形成するゲル化剤)および有機ゲル化剤(例えば、有機ゲルを形成するゲル化剤)を挙げることができる。いくつかの実施形態において、ゲル化剤は、ヒドロゲルおよび有機ゲルの両方を形成し得る。ゲル化剤は、必要に応じて酵素で切断可能であり、独立に自己集合してゲルを形成することができる、安全な両親媒性化合物として一般に認識される低分子量(2,500Da未満)を有する。両親媒性ゲル化剤とともに共集合して共自己集合ゲルを形成するカチオン剤は、共ゲル化剤でもあり得る。
【0036】
用語「自己集合する」は、自発的に集合または組織化して高次構造、例えば、好適な環境におけるヒドロゲルもしくは有機ゲルを形成する、分子の能力を指す。
【0037】
用語「ヒドロゲル」は、共有結合的に一緒に保持された分子の三次元(3D)ネットワーク(例えば、ポリマーヒドロゲル)または非共有結合的に一緒に保持された分子の3Dネットワーク(例えば、自己集合ヒドロゲル)であって、水が主要な成分であるものを指す。ゲルは、ゲル化剤の自己集合を介して、またはゲル化剤の化学架橋を介して、形成する。
【0038】
用語「有機ゲル」とは、共有結合的に一緒に保持された分子の3Dネットワーク(例えば、ポリマーヒドロゲル)または非共有結合的に一緒に保持された分子の3Dネットワーク(例えば、自己集合ヒドロゲル)であって、有機溶媒が主要な成分であるものを指す。ゲルは、ゲル化剤の自己集合を介して、またはゲル化剤の化学架橋を介して、形成され得る。
【0039】
用語「有機溶媒」は、その液相中で固形物質を溶解させることができる任意の炭素含有物質を指す。有機化学において一般に使用される例示的有機溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジクロロメタン、およびヘキサンが挙げられる。この用語には、1kDa MWの場合37℃で融解し、潜在的には極性化合物を溶解させ得る、ポリエチレングリコール(PEG)も含まれる。
【0040】
用語「水混和性」は、全ての割合で水と混合して単一の均一液相を形成する任意の溶媒を指す。このような溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、メタノール、およびジオキサンなどの溶媒が挙げられるが、一般に、ヘキサン、油、およびエーテルなどの溶媒は除外される。また、水中での混和性または溶解性が極めて限定的であり、実際には混和しないと考えられる、酢酸エチルおよびジクロロメタンなどの溶媒も除外される。一般に、水混和性有機溶媒の約20~50容量%の間がヒドロゲルを作製するために使用され、残りは水または緩衝液である。
【0041】
用語「接着する」は、ゲル組成物が、しばらくの間接触またはインキュベーションした後に表面または物質に固着することを指す。マイルドな洗浄溶液は、一般に、接着したゲル組成物を表面から除去しない。このマイルドな洗浄溶液としては、ゲル組成物が形成される溶媒または媒体が挙げられる。比較すると、コンドロイチナーゼ処理は、軟骨に対するGRAS両親媒性ゲル化剤およびカチオン剤を含む自己集合ゲルの接着を低減させる。
【0042】
用語「薬学的に許容される」は、適切な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織と接触する使用に適しており、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、またはその他の問題もしくは合併症を伴わず、合理的なベネフィット/リスク比に相応しており、米国食品医薬品局などの機関のガイドラインに従った化合物、材料、組成物および/または剤形であることを指す。
【0043】
本明細書で使用するとき、用語「生体適合性の」および「生物学的に適合性の」は一般に、代謝産物またはその分解生成物と共に用いたとき、一般にレシピエントに対して非毒性でありレシピエントに対して重大な有害作用を引き起こさない物質であることを指す。生体適合性物質は、一般に、患者に投与したときに重大な炎症性応答または免疫応答を誘発しない物質である。
【0044】
本明細書で使用するとき、用語「分子量」は、一般に、特に指示がない限り、バルクポリマーの相対的平均鎖長を指す。実際には、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)または毛管粘度測定法を含む種々の方法を使用して推定または特性決定される。GPC分子量は、数平均分子量(Mn)とは対照的に、重量平均分子量(Mw)として報告される。毛管粘度測定法は、濃度、温度、および溶媒条件の特定のセットを使用して希釈ポリマー溶液から決定されたインヘレント粘度として、分子量の推定値を提供する。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「親水性の」は、水に対して親和性を有する特性を指す。例えば、親水性ポリマー(または親水性ポリマーセグメント)は、主に水溶液に可溶であり、かつ/または水を吸収する傾向を有するポリマー(またはポリマーセグメント)である。一般に、ポリマーがより親水性であるほど、ポリマーは、水に溶解する、水と混合する、または水が浸潤する傾向が強くなる。
【0046】
本明細書で使用するとき、用語「疎水性の」は、水に対する親和性を欠いているか、または水をはじく特性を指す。例えば、ポリマー(またはポリマーセグメント)がより疎水性であるほど、ポリマー(またはポリマーセグメント)は、水に溶解しない、水と混合しない、または水が湿潤しない傾向が強くなる。
【0047】
本明細書で使用するとき、用語「界面活性剤」は、液体の表面張力を低下させる剤を指す。
【0048】
用語「治療剤」は、疾患または障害の1つまたは複数の症状を予防または処置するために投与され得る薬剤を指す。治療剤は、核酸もしくはその類似体、低分子(2000ダルトン未満、より典型的には1000ダルトン未満のmw)、ペプチド模倣体、タンパク質、もしくはペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質、またはこれらの組合せであり得る。いくつかの実施形態において、細胞または細胞物質は、治療剤として使用され得る。
【0049】
用語「軟骨細胞」は、限定されないが、軟骨基質を産生および維持する軟骨に見出される細胞、ならびに分化して軟骨を形成する細胞を意味することがある。軟骨細胞系列(chondrocytic lineage)は、最も初期から最後までの分化にかけて(i)コロニー形成単
位線維芽細胞(CFU-F;colony-forming unit-fibroblast)、(ii)間葉系幹細
胞/骨髄間質細胞(MSC;mesenchymal stem cell/marrow stromal cell)、(3
)軟骨細胞である。用語「軟骨形成」は、軟骨形成細胞または軟骨化能を有する細胞(chondrocompetent cell)からの新しい軟骨の形成を指す。
【0050】
疾患、障害および/または状態の素因があり得るが罹患しているとはまだ診断されていない、動物において疾患、障害または状態の発生を「処置する」または「予防する」という用語は、疾患、障害または状態を抑制すること、例えば、その進行を妨げること、および疾患、障害または状態を緩和すること、例えば疾患、障害および/または状態の後退を引き起こすこと。疾患または状態の処置は、基礎をなす病態生理が影響を受けない場合でも、特定の疾患または状態のうち少なくとも1つの症状を軽減すること、例えば、鎮痛剤の投与によって被験体の疼通を処置することを含むが、そのような薬剤は、疼痛の原因を処置しない。
【0051】
用語「治療有効量」は、自己集合ゲル組成物内および/または自己集合ゲル組成物上に組み込まれたとき、任意の処置に適用できる合理的なベネフィット/リスク比で、ある程度の望ましい効果を生じる治療剤の量を指す。有効量は、処置される疾患または状態、投与される特定の製剤、被験体のサイズ、または疾患もしくは状態の重症度などの要因に応じて変わり得る。
【0052】
用語「組み込まれた(incorporated)」および「カプセル化された(encapsulated)」は、組成物内および/または組成物上に薬剤を組み込み、製剤化し、あるいは他の方法で含めることを指し、薬剤またはその他の材料を組み込む仕方を問わない。
【0053】
II.組成
1.GRAS両親媒性ゲル化剤
自己集合体がゲルを形成するのに適したGRAS両親媒性ゲル化剤は、一般に、2,500Da未満であり、好ましくは酵素で切断可能であり得る。GRAS両親媒性ゲル化剤は、ゲルベースのミクロ構造体/ナノ構造体(例えば、ラメラ構造体、ミセル構造体、小胞状構造体、または繊維構造体)に自己集合することができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、GRAS両親媒性ゲル化剤は、アスコルビルアルカノエート、ソルビタンアルカノエート、トリグリセロールモノアルカノエート、スクロースアルカノエート、グリココール酸、またはこれらの任意の組合せである。
【0055】
アルカノエートとしては、不安定な結合(labile linkage)(例えば、エステル結合
、カルバメート結合、チオエステル結合およびアミド結合)を介して、アスコルビル分子、ソルビタン分子、トリグリセロール分子、またはスクロース分子に結合した、疎水性C~C22アルキル(例えば、アセチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、カプリリル、カプリル、ラウリル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、アラキジル、またはベヘニル)を挙げることができる。例えば、アスコルビルアルカノエートとしては、パルミチン酸アスコルビル、デカン酸アスコルビル、ラウリン酸アスコルビル、カプリル酸アスコルビル、ミリスチン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、またはこれらの任意の組合せを挙げることができる。ソルビタンアルカノエートとしては、モノステアリン酸ソルビタン、デカン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、カプリル酸ソルビタン、ミリスチン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、またはこれらの任意の組合せを挙げることができる。トリグリセロールモノアルカノエートとしては、モノパルミチン酸トリグリセロール、モノデカン酸トリグリセロール、モノラウリン酸トリグリセロール、モノカプリル酸トリグリセロール、モノミリスチン酸トリグリセロール、モノステアリン酸トリグリセロール、モノオレイン酸トリグリセロール、またはこれらの任意の組合せを挙げることができる。スクロースアルカノエートとしては、パルミチン酸スクロース、デカン酸スクロース、ラウリン酸スクロース、カプリル酸スクロース、ミリスチン酸スクロース、オレイン酸スクロース、またはこれらの任意の組合せを挙げることができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、GRAS両親媒性ゲル化剤は、パルミチン酸アスコルビル、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸トリグリセロール、パルミチン酸スクロース、またはグリココール酸を含む。
【0057】
代表的な低分子量GRAS両親媒性ゲル化剤としては、パルミチン酸アスコルビル(ビタミンC前駆体)、酢酸レチニル(ビタミンA前駆体)、および酢酸アルファ-トコフェロール(ビタミンE前駆体)などのビタミン前駆体が挙げられる。
【0058】
いくつかの形態において、GRAS両親媒性ゲル化剤は、C~C30基を有する1種または複数種の飽和または不飽和炭化水素鎖と、低分子量で一般に親水性の化合物とを、エステル化またはカルバメート結合、無水物結合、および/もしくはアミド結合を介して、合成的にコンジュゲートすることによって形成される。C~C30の範囲は、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19等、C30までを含み、範囲は、例えば、C~C29、C~C30、C~C28等、C~C30に含まれる。
【0059】
いくつかの実施形態において、酢酸アルファ-トコフェロール、酢酸レチニル、パルミチン酸レチニル、またはこれらの組合せは、ゲル化剤と共集合することができる。
【0060】
ゲルは、独立して、ゲルの容積当たり約3から最大30~40重量%、より好ましくは約4~10重量%のゲル化剤を含むことができる。30~40%を超えると、ゲルは溶液から沈殿し始め、または注射しにくくなる。
【0061】
いくつかの形態において、自己集合ゲル組成物は、2500またはそれ未満の分子量を有する、酵素で切断可能な一般に安全と認められる(GRAS)第1のゲル化剤、および同様にGRAS剤である非独立的な第2のゲル化剤を含む。非独立的なゲル化剤は、酵素で切断可能なGRASゲル化剤と組み合わせた場合に典型的には自立性ゲルを形成する濃度では、自立性ゲルを形成しない。例示的な非独立的な第2のゲル化剤としては、酢酸アルファ-トコフェロール、酢酸レチニル、およびパルミチン酸レチニルが挙げられる。非独立的なゲル化剤は、第1のGRASゲル化剤と共集合して、自己集合ゲルを形成する。
【0062】
2.カチオン剤
GRAS両親媒性ゲル化剤と共自己集合するか、GRAS両親媒性ゲルを被覆して軟骨または結合組織に特異的な接着能力を付与するために、1種または複数種のカチオン剤が含まれる。カチオン剤は、一般に、in vivoの組織または細胞へのゲルの結合または接着を増強し、それにより、治療剤の制御放出のために標的部位にゲルの長い滞留時間および濃縮蓄積をもたらす。自己集合ゲル中のカチオン剤は、主としてコンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロネート、または他の多糖を介して、結合組織(例えば、軟骨)への結合および接着を増強し、このことはコンドロイチナーゼによる組織の処置後のそのような結合/接着における特異的低下により実証される。
【0063】
カチオン剤は一般に、共集合ゲルまたは被覆ゲルを形成するために、GRAS両親媒性ゲル化剤の質量濃度よりも低いが軟骨または結合組織への接着能力を付与するのに十分高い質量濃度で含まれる。例えば、GRAS両親媒性ゲル化剤とカチオン剤を合わせた量において、カチオン剤は、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、または15重量%より多く、40重量%、45重量%、50重量%、または60重量%以下の濃度範囲にある。好ましくは、カチオン剤は、カチオン剤とGRAS両親媒性物質ゲル化剤とを合わせた量において、10%より多く50%以下、例えば、15%、20%、25%、または30%(重量/重量)の間の範囲内の任意の数字(any number)で含まれる。カチオン剤の量は、得ら
れるゲルの接着特性、機械的特性、および薬物充填量に依存し得る。
【0064】
いくつかの実施形態において、好適なカチオン剤は、少なくとも疎水性-親水性相互作用を介してゲル化剤と共集合するリン脂質である。ある特定の実施形態において、ゲル化剤およびカチオン剤は共に、ゲルのミクロ構造体/ナノ構造体(例えば、ラメラ構造体、ミセル構造体、小胞状構造体または繊維構造体)に組み入れられ得る。
【0065】
他の実施形態において、好適なカチオン剤は、GRAS両親媒性ゲル化剤から形成された自己集合ゲルと相互作用し、非共有結合的に会合し、またはそれを被覆する、正に荷電した多糖類である。
【0066】
軟骨接着能力を付与するための例示的なカチオン性多糖類としては、キトサン、N-アシルキトサン、四級化キトサン、アルキルキトサン、カルボキシアルキル(アリール)キトサン、o-カルボキシアルキルキトサン、N-カルボキシアシルキトサン、チオール化キトサン、キトサンの糖誘導体、カチオン性デンプン、カチオン性セルロース、カチオン性アミロペクチン、カチオン性ガラクタン、カチオン性デキストラン、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0067】
軟骨接着能力を付与するための例示的なカチオン性リン脂質としては、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジオレイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパンクロリド(DOTMA)、またはこれら両方が挙げられる。
【0068】
全体として正電荷を帯びたリン脂質の他の例は、エチルホスファチジルコリンの誘導体、特にエチルホスファチジルコリンと脂肪酸とのジエステル、例えば1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(エチル-DSPCまたはDSEPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(エチル-DPPCまたはDPEPC)である。負の対イオンは、好ましくはハロゲンイオン、特に塩素または臭素である。正に荷電した脂質としては、少なくとも1つの(C10~C20)好ましくは(C14~C18)、アルキル鎖、例えば、モノまたはジステアリルアンモニウムクロリド、モノまたはジヘキサデシルアンモニウムクロリド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CrAB)などを含む、ハロゲン対イオン(例えば塩素または臭素)を有するアルキルアンモニウム塩が挙げられる。正に荷電した脂質のさらなる例は、(C3~C6)アルキレン架橋を介してN原子に連結した1つまたは好ましくは2つの(C10~C20)、好ましくは(C14~C18)アシル鎖を含む、ハロゲン対イオン(例えば塩素または臭素)を有する第3級または第4級アンモニウム塩、例えば、1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DSTAP)、1,2-ジパルミトイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DPTAP)、1,2-オレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、1,2-ジステアロイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DSDAP)などである。
【0069】
他の形態において、好適なカチオン剤はアミン含有ポリマーである。これらのカチオン剤は、ゲル化剤と相互作用し、少なくともゲルの集合ミクロ構造体/ナノ構造体に挿入される。
【0070】
ゲル化剤と相互作用して共集合ゲルを形成するのに適した例示的なアミン含有ポリマーとしては、ポリリジンおよびカルボキシメチルキトサンを含む。一般に、アミン含有ポリマーの分子量は、約100~約10,000の間、約300~2,500の間、または約500~約2,500の間である。
【0071】
正に荷電した成分は、典型的に、モノ-(例えばハロゲン)、ジ-(例えば硫酸またはメチル硫酸)または三価(例えばリン酸)であり得る、対応する負の対イオンと会合する。
【0072】
3.治療、予防および診断活性剤
このゲル組成物は、それを必要とする個体または被験体、特に、軟骨などの、コンドロチイン(choindroitin)または他の多糖類で濃縮された結合組織において、1種または複数種の治療剤、予防剤または診断剤の送達に適している。治療剤、予防剤および診断剤は、タンパク質、ペプチド、糖類もしくは多糖類、脂質もしくはリポタンパク質もしくはリポ多糖、核酸(DNA、RNA、siRNA、miRNA、tRNA、piRNA等)もしくはこれらの類似体、または軟骨を修復または再生し、もしくはそれにより障害を処置するための低分子(典型的には2,000Dもしくはそれ未満、より典型的には1,000Dもしくはそれ未満の有機、無機、天然または合成分子)であってよい。
【0073】
いくつかの形態において、ゲル化剤は、活性剤を加水分解的にまたは酵素的に分解して放出するプロドラッグであってよい。
【0074】
他の形態において、治療剤、予防剤、または診断剤は、ゲル組成物のナノ繊維構造体に物理的に閉じ込められ、カプセル化され、または非共有結合的に会合してよい。治療剤、予防剤または診断剤は、1種または複数種のゲル化剤、1種または複数種の安定剤により共有結合的に修飾されてもよく、またはゲル化剤として使用されてもよい。あるいは、治療剤、予防剤または診断剤は、ゲル組成物の集合した規則的なラメラ構造体、小胞状構造体、および/またはナノ繊維構造体に組み込まれるか、または集合構造体の表面に配置される。
【0075】
好適な活性物質としては、ステロイドを含む免疫調節剤、非ステロイド性抗炎症剤、化学療法薬、鎮痛剤、麻酔薬、グルコサミン、コンドロイチンおよびヒアルロン酸などの関節潤滑剤、解熱剤、抗菌剤、抗ウイルス剤および抗真菌剤などの抗感染剤、組織および/または骨再生促進剤、ビタミン、抗酸化剤、ならびに低分子干渉RNAが挙げられる。ゲルは、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(エチレングリコール)-ジ-アクリレート、ポリ(エチレンオキシド)、カルボキシメチルセルロース、およびポリ(グリセロール-co-セバケート(sebasate)アクリレート)などのポリマー、これらの任意の誘導体、および/またはキトサンなどの物質、これらの任意の組合せを含んでもよい。
【0076】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲルは、標的細胞のゲノム中の一本鎖または二本鎖破断を誘導する1つまたは複数のエレメントをコードするゲノム編集核酸、および必要に応じてポリヌクレオチドを含む。例示的な鎖破断誘導エレメントは、CRISPR/Cas媒介ゲノム編集組成物である。CRISPRは、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列)の頭字語であり、多くの場合、CRISPRSに関連する各種機能を行うタンパク質をコードする遺伝子(CRISPR関連(「Cas」)遺伝子と称される)と会合している。典型的なCRISPR/Cas系は、原核生物免疫系として、または真核生物のゲノム編集ツールとして取り入られた、内因性CRISPRスペーサーが外因性遺伝エレメントを認識しサイレンシングすることを可能にする。(例えば、Cong、Science、15巻:339(6121)号:
819~823頁(2013年)およびJinekら、Science、337(6096)号:816~21頁(2012年)を参照されたい)。cas遺伝子および特異的に設計されたCRISPRを含む必要なエレメントで細胞をトランスフェクトすることにより、生体のゲノムを任意の所望の位置で切断し改変することができる。CRISPR/Cas系を使用するゲノム編集に使用するための組成物の調製方法は、WO2013/176772およびWO2014/018423に詳細に記載されている。
【0077】
内因性CRISPR系の文脈において、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズし1種または複数種のCasタンパク質と複合体化したCRISPRのガイド配列を含む)の形成は、標的配列中またはその付近の一方または両方の鎖の開裂をもたらす。外因性CRISPR系を標的細胞に導入する文脈において、CRISPR系の1つまたは複数のエレメントの発現を駆動し、標的細胞の1つまたは複数の標的部位においてCRISPR複合体を形成するように、1つまたは複数のベクターが自己集合ゲルに含められてよい。ベクターは、1つまたは複数の挿入部位(例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識配列)、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合された調節エレメント、または1つまたは複数の核局在配列を含んでよい。あるいは、ベクターは、変異CRISPR酵素が標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を開裂する能力を欠くように、対応する野生型酵素に関して変異した、CRISPR酵素をコードする。
【0078】
所望のDNA標的配列が同定された際に、実務者(practitioner)が好適な標的部位を決定することに役立つリソースが利用可能である。例えば、ヒトエキソンの40%超を標的とする、約190,000の潜在的sgRNAのバイオインフォマティクスに関して作成されたリストを含む多数の公開リソースが利用可能であり、実務者が標的部位を選択し、関連sgRNAを設計して、その部位でのニックまたは二本鎖破断に影響を及ぼすのに役立つ。科学者が広範囲の種の中からCRISPR標的部位を見つけ出し、好適なcrRNA配列を生成することを助けるために設計されたツールである、crispr.u-psud.fr/も参照されたい。例えば、(多数の利用可能なオンラインツールの1つを使用して同定された)DNA配列を標的とするためにCRISPR技術を使用することに関心のある実務者は、標的配列を含有する短いDNA断片をガイドRNA発現プラスミドに挿入することができる。核内の蓄積の検出は、CRISPR酵素への検出可能マーカーの融合、タンパク質を同定するための免疫組織化学検査、または酵素活性アッセイなどの任意の好適な技術によって行うことができる。
【0079】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲル組成物が2種またはそれよりも多くの種の薬剤を含む場合、少なくとも1種の薬剤は、1種または複数種の残りの薬剤の効力を高める。
【0080】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲル組成物は、健常組織から損傷軟骨領域への細胞の移動を促進し、それにより傷害軟骨を治癒する、連続送達のための因子のカクテルを含む。例示的な因子としては、以下の、骨形態形成タンパク質(BMP-7など)、トランスフォーミング成長因子ベータ、線維芽細胞成長因子、間質細胞由来因子1(SDF1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤などのプロテアーゼ阻害剤、カテプシンK阻害剤、およびシステイン(cystein)プロテイナーゼ阻害剤、ならびに多
血小板血漿のうちの1種または複数種が挙げられる。
【0081】
自己集合ゲル組成物に含めるのに適した例示的なカテプシンK阻害剤としては、バリカチブ(AAE581)、レラカチブ(SB-462795)、オダナカチブ(odanacatibe)(MK-0822)、MV061194、MV061748、MV061940、M
V061645、MSX-081、LL-006235、および二環状ケトンが挙げられる。
【0082】
自己集合ゲル組成物に含めるのに適した例示的なMMP阻害剤としては、CL-82198、アクチノニン、PD166793、CP471474、WAY170523、およびアジェラディンAが挙げられる。
【0083】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲル組成物は、疼痛管理剤をさらに含む。例示的な疼痛緩和剤としては、リドカイン、プロカイン、テトラカイン、ジブカイン、またはこれらの塩などの局所麻酔薬が挙げられる。
【0084】
他の実施形態において、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、および放射性核種を含む自己集合ゲル組成物には、診断剤が含まれる。好適な診断剤としては、限定されないが、X線イメージング剤および造影媒体が挙げられる。放射性核種もイメージング剤として使用することができる。他の好適な造影剤の例としては、放射線不透過性である、ガスまたはガス放出化合物が挙げられる。
細胞
【0085】
細胞はまた、結合組織への送達のために粘性ゲルに含めるのに適している。これらの細胞は、軟骨細胞、前駆細胞(progenitor)または間葉幹細胞などの幹細胞であり得る。自己由来軟骨細胞はFDAの承認を受けている。間葉幹細胞(MSC)は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、腱細胞、筋芽細胞、および神経細胞系列に分化することができる多分化能細胞である(Pittenger M Fら、Science、1999年;284巻:143~147頁)。成人から得られた少量の骨髄吸引物から、MSCを単離し、その増殖能のために容易に拡大し、特性を決定することができる。(Friedenstein Aら、Cell Tissue Kinet、1987年;20巻:263~72頁;Haynesworth Sら、J Cell Physiol、1992年;138巻:8~16頁)。自己集合ゲル組成物中の同種異系MSCは、軟骨組織再生のための別のアプローチをもたらす。
【0086】
自己集合ゲルはまた、細胞の播種およびin vivoでの移植のための足場にもなり得る。ゲルは、そこに播種された細胞の生存、増殖、および/または分化を増強するために、1種または複数種の生物活性分子と共に製剤化されてもよい。薬剤は、ゲル化剤またはカチオン剤に共有結合されていてもよく、または非共有結合的に会合していてもよい。例示的な生物活性剤は、細胞認識およびゲルへの接着を改善するためのポリアミノ酸(例えば、アルギニルグリシルアスパラギン酸、Arg-Gly-Aspを含有するペプチド配列)である。
【0087】
4.溶媒
自己集合ゲル組成物は、最終製剤における主要溶媒に応じて、ヒドロゲルまたは有機ゲルとして調製することができる。
【0088】
in vivoでのほとんどの用途のために、ヒドロゲルが調製される。いくつかの有機溶媒、通常はGRAS有機溶媒または水混和性有機溶媒を使用して、水または水性塩溶液の添加前に、ゲル化剤、カチオン剤および/または治療剤の溶解および/または均一混合を促進することができる。均一混合物を加熱し、続いて冷却した後、自己集合ゲル組成物が得られる。さらなる精製を行い、有機溶媒を除去することにより、薬学的に許容されるヒドロゲルが得られる。有機溶媒の任意の残留量は、一般に、米国FDAにより定められた医薬製品の限度内であり、例えば、ジクロロメタンは600ppm未満、メタノールは3,000ppm未満、クロロホルムは60ppm未満であり、GMPまたは他の品質ベースの要件の限度内となる。
【0089】
いくつかの形態において、有機溶媒は、ゲル化剤、カチオン剤、および必要に応じて1種または複数種の治療剤を溶解する。水性媒体(例えば食塩水)または水を有機溶液に添加し、続いて加熱し、必要に応じて撹拌、混合またはボルテックスして均一溶液を得る。ゲル化剤のクラフト点未満、例えば室温または体温に冷却した後、粘性均一ゲルが形成され、この粘性均一ゲルは倒置に対して安定である(例えば、倒置バイアル内に含まれているときに流れない)。
【0090】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲル中の有機溶媒は、透析、遠心分離、および/または濾過によって除去され、好適なヒドロゲル製剤が得られる。
【0091】
有機溶媒は、その中のゲル化剤の溶解度、極性、疎水性、水混和性、および場合によっては酸性度に基づいて選択される。好適な有機溶媒としては、水混和性溶媒、または相当の水溶解性(例えば、5g/水100g超)を有する溶媒、例えば、DMSO、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、酪酸ヘキシル、グリセロール、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、エタノール、メタノールまたはイソプロピルアルコールなどのアルコール、および低分子量ポリエチレングリコール(例えば、37℃で融解する1kDのPEG)が挙げられる。他の形態において、自己集合ゲル組成物は、水、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、アセトニトリル、グリセロール、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、メタノール、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、N,N’-ジメチルホルムアミド、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、テトラヒドロフラン、キシレン、メシチレン、および/またはこれらの任意の組合せなどの極性または非極性溶媒を含み得る。
【0092】
他の形態において、自己集合ゲル組成物は、水、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、アセトニトリル、グリセロール、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、メタノール、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、N,N’-ジメチルホルムアミド、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、テトラヒドロフラン、キシレン、メシチレン、および/またはこれらの任意の組合せなどの極性または非極性溶媒を含み得る。
【0093】
他の形態では、油媒体、例えば、ピーナッツ油、流動パラフィンまたはオリーブ油が使用される。
【0094】
一般に、有機溶媒の量は、水性溶液(例えば、必要に応じて治療剤を含有する、水、水性緩衝液、水性塩溶液)の容量と比較して、容量で、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10以下であるか、またはそれ未満である。すなわち、薬物充填量が高い均一ゲルを形成するのに使用される液体の総容量量中の有機溶媒の容量量(volume amount)は、一般に約50%、33%、25%、20%、17%、14%、12.5%、11%、10%、または9%未満であり、粒子については極めて少なく、典型的には1%未満である。
【0095】
ゲル化剤および有機溶媒は、適切なゲル化剤濃度および適切な容量ならびに水-有機混合溶媒系の比、またはその両方で選択され、自立性ゲルを形成する。ゲル化剤溶液は、生物学的製剤または他の治療剤を含有する水溶液の添加前に、37℃で凝固または沈殿すべきでない。有機溶媒の量を増加させるか、または有機溶媒中のゲル化剤の濃度を低減させることにより、ゲル化剤溶液の凝固を防ぐことができる。(有機溶媒中の)ゲル化剤溶液を、生物学的製剤または他の治療剤を含有する水溶液と混合すると、流動性の塊/凝集物ではなく、倒置に対して安定な自立性ゲルが(必要な場合加熱後に)形成される。
【0096】
自立性ゲルの形成後、ゲル中の有機溶媒は、医薬用途に適した残留レベルまで除去されてよい。透析、遠心分離、濾過、乾燥、溶媒交換、または凍結乾燥などの1つまたは複数の精製技術を使用することができる。残留有機溶媒は、米国食品医薬品局(FDA)によって定められた医薬製品の限度内であり、または米国薬局方協会、医薬品規制調和国際会議ガイダンス(U.S. Pharmacopeia Convention, International Conference on Harmonization guidance)の許容基準より少ない。例えば、ジクロロメタンは600pp
m未満であり、メタノールは3,000ppm未満であり、クロロホルムは60ppm未満であり、GMPまたは他の品質ベースの要件の限度内である。
【0097】
5.特性
ヒドロゲルは、水性条件下で水和する能力および増強された生物学的適合性などの利点を提供し、生物学的投与(例えば、湿潤ヒドロゲルの移植)によく適合し得る。自己集合ゲルは、カプセル化治療剤および/またはビタミンなどの薬剤の、例えば光分解/紫外線分解に対する安定性を増加させることができ、高濃度のビタミンまたはGRAS剤を送達することができる。
表面電荷および接着
【0098】
いくつかの実施形態は、約50mV~約-20mVの間、約30mV~約-10mVの間のζ電位を有するか、または全体として正に荷電している、自己集合ゲル組成物をもたらす。正に荷電したゲル組成物は、結合組織中のプロテオグリカンまたは他の生体分子と静電的に相互作用していてもよいし、または物理的に絡み合っていてもよい。
【0099】
カチオン剤を含有する自己集合ゲル組成物は、カチオン剤を欠いた自己集合ゲル組成物よりもはるかに強く軟骨組成物または結合組織に接着する。
機械的特性および注射可能性
【0100】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲル組成物は、潤滑性であり、かつ/または回復可能なレオロジー特性を有する。いくつかの実施形態において、自己集合ゲル組成物は、10~10,000パスカルの弾性係数および10~10,000パスカルの粘性係数を有する。
【0101】
自己集合ゲル組成物では、少なくとも10秒間、場合によっては約1時間、3時間、1日、2日またはそれよりも長くにわたり、室温で容器を倒置したときに、重力流は観察されない。自己集合ゲルは、ゲル化領域(非流動性)および非ゲル化液体領域(流動性)の混合物である不均一材料とは異なり、均一であり倒置に対して安定である。自己集合ゲルもまた、リポソームまたはミセル懸濁液とは異なる。リポソームまたはミセル懸濁液は自立性ではなく、容器が倒置されると流動し得る。
【0102】
好ましい実施形態において、自己集合ゲル組成物は、軟骨の治癒および修復に適した、注射可能または移植可能な接着性ヒドロゲルである。ゲル化剤およびカチオン剤の集合体の非共有結合性相互作用に起因して、バルクゲルは変形し(例えば、注射中の)せん断力下で押し出され得、せん断力を停止すると、ゲル化剤およびカチオン剤は再集合し、自立性で、転倒状態に対し安定になる(例えば、粘性係数G”より大きい弾性係数G’)。あるいは、自己集合ゲル組成物を、ミクロ粒子またはナノ粒子へと加工し、薬学的に許容されるキャリア中に懸濁させてよい。このものは、懸濁物として注射可能であるか、またはナノ構造体を単独でもしくはゲル中に含有する乾燥粉末として適用する。
ミクロ構造体および/またはナノ構造体
【0103】
薬剤は、ナノ構造体内またはナノ構造体間にカプセル化することができ、ナノ構造体に非共有結合的に結合させることができるか、または両方であってよい。
【0104】
両親媒性分子が溶媒中で自己集合すると、ゲル化剤分子の疎水性部分および親水性部分が相互作用して、ゲル化剤分子のラメラを形成することができる。いくつかの実施形態において、ゲルがヒドロゲルである場合、ゲル化剤の疎水性部分は所与のラメラの内側領域に位置し、親水性部分はラメラの外側表面に位置する。いくつかの実施形態において、ゲルが有機ゲルである場合、ゲル化剤の疎水性部分は所定のラメラの外側領域に位置し、親水性部分はラメラの内側表面に位置する。ラメラは、約3(例えば、約4)~約5(例えば、約4)ナノメートルの幅および数ミクロン(例えば、1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン、もしくは25ミクロン)またはそれより長い長さを有してよい。数十または数百のそのようなラメラは、一緒に束ねられ、繊維およびシート様構造体などのナノ構造体を形成し得る。いくつかの実施形態において、ナノ構造体として、ナノ粒子、ミセル、リポソーム小胞、繊維、および/またはシートを挙げることができる。
【0105】
いくつかの実施形態において、ナノ構造体は、2nmもしくはそれを超える(例えば、50nmもしくはそれを超える、100nmもしくはそれを超える、150nmもしくはそれを超える、200nmもしくはそれを超える、250nmもしくはそれを超える、300nmもしくはそれを超える、350nmもしくはそれを超える)、および/または400nmもしくはそれ未満(例えば、350nmもしくはそれ未満、300nmもしくはそれ未満、250nmもしくはそれ未満、200nmもしくはそれ未満、150nmもしくはそれ未満、100nmもしくはそれ未満、または500nmもしくはそれ未満)の最小寸法(例えば、厚さ、幅、もしくは直径)を有し得る。いくつかの実施形態において、ナノ構造体(例えば、繊維、シート)は、数ミクロン(例えば、1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、10ミクロン、20ミクロンまたは25ミクロン)またはそれを超える長さおよび/または幅を有し得る。ナノ構造体は、ネットワークに凝集し得、かつ/または液晶、エマルジョン、フィブリル構造、またはテープ様構造の形態であり得る。ナノ構造体が繊維形態である場合、繊維は、約2nmまたはそれを超える直径を有し得、数百nmまたはそれを超える長さを有し得る。いくつかの実施形態において、繊維は数ミクロン(例えば、1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン、または25ミクロン)またはそれを超える長さを有し得る。
分解
【0106】
いくつかの実施形態において、ゲル組成物は、細胞、組織または器官の疾患状態に存在する条件下で優先的に分解し、したがって、標的組織および/または器官における薬剤の放出を可能にする。
【0107】
一態様では、本開示は、薬剤の制御放出が可能な自己集合ゲル組成物を特徴とする。自己集合ゲル組成物は、2500またはそれ未満の分子量を有し酵素で切断可能な一般に安全と認められる(GRAS)第1のゲル化剤、および1種または複数種の薬剤を含む。
【0108】
例えば、ゲル組成物は、酵素と接触して、および/または加水分解により開裂可能である、エステル結合、アミド結合、無水物結合、チオエステル結合、およびカルバメート結合などの、分解可能な結合を含むことができる。典型的に、結合は常に、両親媒性分子の親水性部分と疎水性部分との間に存在する。いくつかの実施形態において、リン酸ベースの結合は、ホスファターゼによって開裂され得る。いくつかの実施形態において、不安定な結合は、レドックス開裂可能であり、還元または酸化の際に開裂される(例えば、-S-S-)。いくつかの実施形態において、分解可能な結合は、温度の影響を受けやすく、例えば高温で開裂可能であり、例えば37~100℃、40~100℃、45~100℃、50~100℃、60~100℃、70~100℃の温度範囲で開裂可能である。いくつかの実施形態において、分解可能な結合は、生理的温度(例えば、36~40℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃)で開裂可能である。例えば、結合は温度上昇によって開裂され得る。薬剤は必要な部位でのみ放出されるため、これにより、より低い投薬量の使用が可能となる。別の利益は、他の器官および組織に対する毒性の低下である。ある特定の実施形態において、刺激は、超音波、温度、pH、金属イオン、光、電気刺激、電磁刺激、およびこれらの組合せであり得る。
分解(開裂可能結合)
【0109】
放出を誘起する刺激は、投与部位または放出が所望される部位、例えば腫瘍または感染域における特徴が原因で存在し得る。これらは、血液または血清中に存在する状態、または細胞、組織または器官の内部または外部に存在する状態であり得る。これらは、低pHおよび分解酵素の存在によって特徴付けられる。ゲル組成物は、細胞、組織または器官の疾患状態、例えば炎症に存在する条件下でのみ分解し、したがって、標的組織および/または器官における薬剤の放出を可能にするように設計することができる。これは1つの選択肢であるか、またはゲル浸食介在性および受動拡散媒介性薬剤放出と組み合わせて使用してもよい。
【0110】
この応答性放出は、分解可能な化学結合(chemical bond)(または官能基)および/または調整可能な非共有結合性会合力(例えば、静電気力、ファンデルワールス力または水素結合力)から形成された結合(linkage)に基づく。いくつかの実施形態において、
これらの結合は、(1)両親媒性ゲル化剤の親水性セグメントと疎水性セグメントとの間の分解可能な共有結合(covalent linkage)であり、(2)開裂の際に活性薬物を放出
する、プロドラッグ型ゲル化剤に配置され、および/または)(3)ゲル化剤と治療剤との間の共有結合力または非共有結合会合力である。これらの結合の開裂または解離は、(1)薬剤の受動拡散媒介性放出と比較して、カプセル化されたか閉じ込められた薬剤のより迅速またはより大規模な放出をもたらし、かつ/または(2)放出のためにプロドラッグゲル化剤を活性薬物に変換する。
【0111】
放出を誘起する刺激としては、in vivoでの内因性環境、およびユーザが適用する刺激、例えば、酵素、pH、酸化、温度、照射、超音波、金属イオン、電気刺激または電磁気刺激が含まれる。典型的な応答性結合は、エステル、アミド、無水物、チオエステル、および/またはカルバメートを含む化学結合に基づいて、酵素および/または加水分解によって開裂可能である。いくつかの実施形態において、リン酸ベースの結合は、ホスファターゼまたはエステラーゼによって開裂され得る。いくつかの実施形態において、不安定な結合は、レドックス開裂可能であり、還元または酸化の際に開裂される(例えば、-S-S-)。いくつかの実施形態において、分解可能な結合は、温度の影響を受けやすく、例えば高温で開裂可能であり、例えば37~100℃、40~100℃、45~100℃、50~100℃、60~100℃、70~100℃の温度範囲で開裂可能である。いくつかの実施形態において、分解可能な結合は、生理的温度(例えば、36~40℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃)で開裂可能である。例えば、結合は温度上昇によって開裂され得る。薬剤は必要な部位でのみ放出されるため、これにより、より低い投薬量の使用が可能となる。別の利益は、他の器官および組織に対する毒性の低下である。特定の実施形態において、刺激は、超音波、温度、pH、金属イオン、光、電気刺激、電磁刺激、およびこれらの組合せであり得る。
【0112】
ゲル組成物は、投与部位の状態に基づいて、ある部位で、またはある期間後に、制御分解が生じるように設計され得る。溶液中の遊離薬剤と比較して、カプセル化薬剤は自己集合ゲルからはるかに遅く放出され、例えば、カプセル化薬剤の30%未満が最初の3日間に放出され、7日間で70%未満が放出される。酵素などの刺激の存在下で、酵素分解可能な結合を有するゲル化剤から形成された自己集合ゲルは、酵素を欠く媒体中のゲルと比較して、より迅速に薬剤を放出する。
【0113】
他の実施形態において、自己集合ゲルは、少なくとも3日、5日、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月、3か月、またはそれよりも長い間、結合組織部位に接着して留まり、内因性または外因性細胞をそこで成長させ増殖させることによって、傷害軟骨を治癒するための足場として働く。分解は、新組織、例えば軟骨の成長に見合ったものであり得る。自己集合ゲル組成物は、形成の初期段階の間では構造的支持を実質的に維持する速度で分解するが、新しい軟骨組織の連続的成長のための空間も確保する。
放出
【0114】
生物系に適用される場合、自己集合ゲル組成物は、薬剤の制御放出を提供し得る。ゲル組成物は、制御可能に分解されるように適合させることができる。
【0115】
放出を誘起する刺激は、投与部位の特性または放出が望まれる部位の特性が原因で存在し得る。
【0116】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲル組成物は、少なくとも3日、5日、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月、3か月、またはそれよりも長くにわたり、投与後の結合組織において治療剤を放出する。
【0117】
6.製剤
結合組織に対する親和性を有する自己集合ゲル組成物は、乾燥粉末製剤または液体製剤に調製することができる。
【0118】
一般に、製剤は、滅菌されているか、または無菌である。例えば、滅菌製剤は、まず、ゲル化剤、カチオン剤、およびカプセル化される薬剤の滅菌濾過を実施し、続いて無菌環境での製造プロセスを実施することによって、調製することができる。あるいは、全ての処理ステップを非滅菌条件下で実施することができ、その後、形成された粒子または凍結乾燥製品に対して、最終滅菌(例えばガンマ線照射または電子線照射)を適用することができる。
【0119】
乾燥製剤は、溶媒が除去され、キセロゲルwomotarasu凍結乾燥自己集合ゲル組成物を含有する。キセロゲルは、貯蔵中の薬剤の無菌性および活性を維持し、所望の形態に加工するのに有用であり得る、粉末形態であってよい。キセロゲルは溶媒を含まないので、貯蔵寿命を改善することができ、比較的容易に輸送し貯蔵することができる。自己集合ゲルを凍結乾燥するために、ゲルを(例えば、-80℃で)凍結させ、ある期間にわたって真空乾燥させて、キセロゲルを得ることができる。
【0120】
あるいは、乾燥製剤は、ゲル化剤、カチオン剤、1種または複数種の治療剤の乾燥粉末成分を含有し、これらは別々の容器に貯蔵されるか、または特定の比で混合されて貯蔵される。いくつかの実施形態において、好適な水性溶媒および有機溶媒が追加の容器に含まれる。いくつかの実施形態において、乾燥粉末成分、1種または複数種の溶媒、および集合ナノ構造体の混合および調製手順に関する指示がキットに含まれる。
【0121】
液体製剤は、液体医薬キャリア中に懸濁した自己集合ゲル組成物を含有する。いくつかの形態において、自己集合ゲルは、投与を容易にするために、かつ/または毒性を最小限に抑えるため所望の濃度に達するように、水性媒体中に懸濁または再懸濁される。
【0122】
好適な液体キャリアとしては、限定されないが、蒸留水、脱イオン水、純粋または超純水、食塩水、および塩および/または緩衝剤を含有する生理学的に許容できる他の水溶液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)、リンゲル液、および等張性塩化ナトリウム、または動物もしくはヒトへの投与が許容される他の任意の水溶液が挙げられる。液体製剤は、体液に対して等張性であってよく、ほぼ同じpHを有し、約pH4.0~約pH8.0、より好ましくは約pH6.0~pH7.6の範囲であってよい。液体の薬学的キャリアは、リン酸緩衝液または重炭酸塩緩衝液などの、1種または複数種の生理的に適合する緩衝液を含み得る。当業者であれば、意図された投与経路に適した水溶液のための好適な食塩水含量およびpHを容易に決定することができる。
【0123】
液体製剤は、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、またはレシチンなどの、1種または複数種の懸濁化剤を含み得る。液体製剤はまた、p-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルなどの、1種または複数種の防腐剤を含み得る。
III.作製方法
【0124】
一般に、自己集合ゲル組成物を作製するプロセスは、ゲル化剤、カチオン剤、治療剤、および溶媒を合わせて混合物を形成するステップ、混合物を加熱または超音波処理するステップ、均一溶液を形成するのに十分な時間、混合物を撹拌または振とうするステップ、および自己集合ゲル組成物の形成を可能にするのに十分な時間、均一溶液を冷却するステップを含む。
【0125】
有機溶媒(例えば、DMSO、メタノール、イソプロパノール)を使用して、有機相における溶解度に応じて、ゲル化剤、カチオン剤および/または薬剤を溶解および混合してもよい。水分を導入するために水または水性塩溶液が添加される。混合物は、加熱および/または超音波処理され、かつ/またはゲル化剤、薬物および任意の他の固体成分を完全に溶解して均一溶液を形成するために浴内に置かれ、次いで、溶液は制御条件下(例えば温度制御容器または水浴)下で冷却され、かつ/または静かな場所に置かれる。溶液は、所定の期間後に粘性ゲルに転移することができる。ゲル化は、少なくとも10秒間、場合によっては約1日、3日、1週間、2週間、またはそれよりも長い間、室温において容器を倒置して重力流が観察されなくなったときに、完了したとみなされる。自己集合ゲルは、ゲル化領域(非流動性)および非ゲル化液体領域(流動性)の混合物である不均一材料とは異なり、均一であり倒置に対して安定である。
【0126】
減圧、凍結乾燥、遠心分離、洗浄、透析等を通じて、自己集合ヒドロゲル中の有機溶媒を実質的に除去することができ、1つまたは複数の反復プロセスにおいて、医薬製品要件の規定限度を下回るまで、有機溶媒の残留量を低減することができる。
【0127】
滅菌注射用溶液を調製することができる。例えば、滅菌製剤は、まずプロセス溶液(例えば、薬物およびゲル化剤溶液)の滅菌濾過を行い、続いて無菌処理条件(aseptic procession condition)下でゲル調製、懸濁、精製および凍結乾燥を行うことによって調製することができる。あるいは、全ての処理ステップを非滅菌条件下で実施し、その後、凍結乾燥ヒドロゲル製品に対して最終滅菌(例えばガンマ線照射または電子線照射)を適用してもよい。再懸濁のための滅菌溶液も同様の方法を使用して調製することができる。
【0128】
いくつかの実施形態において、自己集合ゲルは、投与を容易にするため、または他の目的のために、粒子にさらに加工される。ゲル組成物は、水溶液中に懸濁させ、ホモジナイズし、単離し、または合わせることができる。いくつかの形態において、生理的塩濃度の水および/またはリン酸緩衝食塩水中にバルクゲルを懸濁させ、ホモジナイズまたは超音波処理して、バルクゲルを、バルクゲル中に形成された繊維状ナノ構造体を保持する粒子へと崩壊させる。
IV.使用方法
【0129】
自己集合ゲル組成物は、軟骨損傷を予防および/または修復するための潤滑(lubrication)として使用することができる。
【0130】
自己集合ゲル組成物は、軟骨細胞が成長し増殖するための生体適合性の足場を提供し、したがって、損傷軟骨の治癒を促進することができる。
【0131】
自己集合ゲル組成物は、治療剤の制御放出のために、結合組織に結合し、接着し、または優先的に蓄積することができる。結合組織は、軟骨、腱、靭帯および体内の他の無血管組織、ならびにその前駆体、例えば軟骨細胞を含む。組成物は、軟骨および他の分化無血管組織だけでなく、結合組織に分化または成熟する組織にも適用され得ると理解される。カチオン性化合物の包含により製剤が同様に接着する他の組織に、製剤を適用してもよい。
【0132】
自己集合ゲル組成物は、自己軟骨細胞移植手順における軟骨細胞の送達、軟骨再生のための幹細胞の送達および分化、またはこの両方を行うことができ、必要に応じて活性物質のカクテルの送達と同時にこれらを行うことができる。
【0133】
一般に、軟骨への注射可能な接着性ゲル組成物は、治療効力を向上させ、外科手術に関連する合併症または負の後遺症を低減することにより、軟骨修復のための外科手術を補足するか置き換えることができる。
【0134】
いくつかの形態において、自己集合ゲル組成物は、有効量の自己集合ゲル組成物を薬学的に許容される形態で被験体に投与することによって、被験体の軟骨組織を処置および/または修復するために使用され、ここで、自己集合ゲル組成物は、軟骨の成長、再生および/または修復を、支援、促進および/または増強するのに有効である。
【0135】
いくつかの形態において、自己集合ゲル組成物は、有効量の自己集合ゲル組成物を被験体に投与することによって、被験体の軟骨組織を処置および/または修復する方法に使用され、ここで、軟骨細胞、前駆細胞または幹細胞は、投与前または投与後のいずれかに自己集合ゲル組成物上に播種される。
【0136】
いくつかの形態において、被験体の関節炎の症状を和らげるまたは緩和するのに有効な有効量の自己集合ゲル組成物を被験体に投与することにより、関節炎を処置する方法が提供される。
【0137】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによって、さらに理解される。
【実施例0138】
(実施例1)
軟骨への接着性およびカプセル化薬剤の応答性放出を増強したナノ構造体化ゲルに共自己集合したパルミチン酸アスコルビル(AP)および1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)。
材料および方法
【0139】
GRAS両親媒性物質(80mg)、本実施例ではパルミチン酸アスコルビル、およびDOTAP(20mg)をシンチレーションバイアルに入れて秤量した。DOTAPは、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルサルフェートを指す。1mLの水-DMSO(4:1の体積比)の存在下での混合物を、溶解するまで加熱した。平坦で安定した表面上で、溶液を室温まで冷却させた。
【0140】
バイアルを倒置して重力流が観察されなくなったとき、ゲル化が完了した。ゲル化には15~45分の間かかることがある。
【0141】
接着実験用のゲルを調製するため、蛍光色素、親油性カルボシアニンDiOC18(7)(「DiR」)をゲル内にカプセル化した。具体的には、ゲル調製プロセス中に、DMSO中の40μlのDiR溶液(2.5mg/ml)を添加した。
【0142】
DiR充填ヒドロゲルの軟骨への接着アッセイのために、50μLのヒドロゲルをウシ軟骨外植片(直径6mm)に適用し、37℃で1時間インキュベートした。1時間後、軟骨外植片をPBSで2回洗浄し、in vivoイメージングシステム(IVIS)を使用して画像化した。
【0143】
DOTAP有りおよび無しの両方のヒドロゲルを評価した。DOTAPを使用せず、かつ100mgのGRAS両親媒性物質を使用して上記と同様の方法を用いてDOTAP無しのヒドロゲルを調製した。未処理の軟骨(ブランク対照)および遊離色素で処理した軟骨を対照として使用した。
結果
【0144】
パルミチン酸アスコルビルとDOTAPとの共集合体から、AP-DOTAPゲルと称するゲルを調製した。走査型電子顕微鏡法(SEM)を使用してゲルモルフォロジーを特性決定し、ナノ繊維性であることを見出した。ゲルは+45mVを超えるゼータ電位値を有する高い表面正電荷を示した。
【0145】
図1は、軟骨外植片に優先的かつ迅速に接着した、正に荷電したゲル(AP-DOTAPゲル)を示し、このことから、関節内投与によりカプセル化薬剤を軟骨に特異的に送達する可能性が示された。AP-DOTAPゲルは、軟骨に対する接着性がAP単独ゲルよりも高く、このことから、DOTAPの添加およびDOTAPとの共集合によって軟骨対する特異性の改善が示された。グリコサミノグリカン(GAG)の百分率を減少させるための24時間にわたるコンドロイチナーゼABCによる軟骨の前処理は、AP-DOTAPゲルの接着性の低減をもたらし、このことから、軟骨に対するAP-DOTAPゲルの特異性が、軟骨におけるGAGとの相互作用を介して媒介されることが示された。
【0146】
図2および図3は、AP-DOTAPゲルが、通常の生理的様の条件(リン酸緩衝食塩水、PBS中)下で、少なくとも30日間、CL-82198(MMP-13阻害剤)およびLL-006235(カテプシンk阻害剤)をそれぞれ安定的にカプセル化したことを示す。この正に荷電したAP-DOTAPヒドロゲルは、関節の炎症の間に上方調節されるエステラーゼおよびMMPを含む酵素に応答して、カプセル化治療薬の放出を示した(図2および図3)。
【0147】
図4および図5は、AP-DOTAPゲルが、変形性関節症(OA)患者由来の滑液に応答して、正常ヒト(正常)由来の滑液に応答する放出と比較して、それぞれカプセル化CL-82198およびL-006235の有意により高い放出率を有したことを示す。
【0148】
図6および7は、AP-DOTAPゲルが正常ドナー由来の軟骨細胞およびOA陽性ドナー由来の軟骨細胞に対してそれぞれ細胞適合性であり、このことから、ゲルの関節内投与は健康な軟骨または罹患した軟骨のいずれにも有害作用をもたらさないことを示すと考えられた。これらの試験した軟骨細胞は、それぞれのヒト被験体の膝からの軟骨に由来するものであった。
【0149】
(実施例2)
カテプシンk阻害剤を充填したAP-DOTAP共集合ゲルはラット変形性関節症モデルにおける軟骨変性を予防した。
方法
【0150】
L-006235充填AP-DOTAPヒドロゲルの治療効力を、ルイスラットで開発した変形性関節症の内側半月板断裂モデルで評価した。0日目に全てのラットの右膝において内側半月板断裂手術を行った。手術後7日目に、ラットを、第1群:Cat-K阻害剤(L-006235)充填ヒドロゲルによる処置群、第2群:未処置の疾患対照群という、2つの群に無作為抽出した。10mg/mLのCat-K阻害剤(L-006235)充填AP-DOTAPゲル(10%重量/重量)の2用量(7日目に1用量および14日目に1用量)を関節内注射した。組織学的分析のため、21日目に動物を屠殺した。
結果
【0151】
図8は、カテプシンk阻害剤を送達するAP-DOTAPゲルを投与されたラットは、内側半月板断裂後21日目に、疾患対照群のラットと比較して、はるかに少ない変性を有していたことを示す。
【0152】
(実施例3)
他のGRAS両親媒性物質(パルミチン酸アスコルビル以外)とDOTAPとの間で共集合したゲルはGRAS両親媒性物質単独ゲルと比較して軟骨への接着を増強した。
材料および方法
【0153】
本実施例のGRAS両親媒性物質は、モノステアリン酸トリグリセロール(TG18)、パルミチン酸スクロース(SP)、およびステアリン酸スクロース(SS)を含んでいた。これらの両親媒性物質は、個別にDOTAPとの間で共集合し、それぞれTG18-DOTAPゲル、SP-DOTAPゲル、およびSS-DOTAPゲルを形成した。各成分の量は実施例1に記載の通りであった。従って、80mgの両親媒性ゲル化剤と20mgのDOTAP(それゆえ、固体成分を合わせた量中20%(重量/重量)のDOTAP)は、1mLの液体媒体中でゲルを形成し、したがって、1mLの液体媒体中の100mgの固体質量は、10重量/容量%のゲルをもたらす。
【0154】
接着アッセイのために、蛍光色素(DiR)を充填した10%(重量/容積)ゲルを調製した。ウシ軟骨(直径6mm)の各外植片に50μlのゲルを適用し、37℃で1時間インキュベートした。1時間後、軟骨外植片をPBSで洗浄し、in vivoイメージングシステム(IVIS)を使用して画像化した(n=3)。DOTAPを使用せずに100mgのGRAS両親媒性物質を使用して、DOTAPを含まないヒドロゲルを調製した。未処理の軟骨(ブランク対照)および遊離色素で処理した軟骨を対照として使用した。
結果
【0155】
図9は、DOTAPとモノステアリン酸トリグリセロール(TG18)との共自己集合体が、TG18単独ゲルと比較して、軟骨に対する接着性の有意な増加をもたらしたことを示す。
【0156】
図10は、DOTAPとパルミチン酸スクロース(SP)との共自己集合体が、SP単独ゲルと比較して、軟骨に対する接着性の顕著な増加をもたらしたことを示す。
【0157】
図11は、DOTAPとステアリン酸スクロース(SS)との共自己集合体が、軟骨に対する接着性の有意な増加をもたらしたことを示す。
【0158】
表1は、実施例1のデータをまとめたものであり、本実施例では、4種類のゲル、すなわちAP-DOTAP、TG18-DOTAP、SS-DOTAP、およびSP-DOTAPの中で、SP-DOTAPゲルが最大の軟骨接着性が示された。SP-DOTAPに見られる、より高い接着性は、他のGRAS両親媒性物質と比較して、SPのより高い親水性に起因し得る。
【0159】
【表1】
【0160】
(log Pは、水性相と親油性相、通常はオクタノールと水との間での分子の分配係数であ
り、化合物の親油性の尺度として一般に使用される。)
【0161】
(実施例4)
DOTAPの組み込みは自己集合ヒドロゲル中のカプセル化薬物の安定性に影響しなかった。
方法
【0162】
SP-DOTAPゲルを、10%(重量/重量)でL-006235を充填したカプセル化カテプシンK阻害剤を保持する能力についてアッセイした。PBS中で37℃にて、SP単独ヒドロゲルおよびSP-DOTAPヒドロゲルからのL-006235のin vitroでの放出を評価した。PBS(800μl)中にさらに懸濁させた薬物充填ヒドロゲル(200μL、10mg薬物/mL)を、透析用チューブ(8~10kD分子量カットオフ、Spectrum Labs)に入れた。懸濁媒体中のヒドロゲルで満たした透析バックを40mLシンク媒体(sink medium)(PBS)に入れ、振とう速度150rpmで37℃にてインキュベートした。各時点で、シンク媒体からのアリコート(1ml)を取り出し、同じ容量の新しいPBSを補充して、一定のシンク条件を確保した。アリコートを凍結乾燥し、250μLのメタノールに溶解させ、続いて薬物量の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。
結果
【0163】
37℃でのPBS中でのin vitro放出研究は、7日間でカテプシンK阻害剤(L-006235)の累積放出が10%未満であることを示した。L-006235は、疾患改変変形性関節症薬物(DMOAD)である。
【0164】
図12は、30日間の研究において、SPゲルおよびSP-DOTAPゲルの両方で、L-006235の累積放出は20%未満であり、同様の放出動態であることを示し、このことから、DOTAPのヒドロゲルへの組み込みはカプセル化薬物の安定性に影響しないことが示された。
【0165】
(実施例5)
DOTAP-パルミチン酸スクロース共自己集合ゲルの軟骨接着能力ならびに軟骨への浸透性に関する、両親媒性ゲル化剤に対するDOTAPの相対量の効果。
方法
【0166】
種々の濃度のDOTAPを用いて、実施例3に記載のように、DiRを充填したSP-DOTAPヒドロゲルを調製した。具体的には、ゲル化剤混合物(すなわち、DOTAPとSPとの組合せ)中のDOTAP濃度を5~20%(重量/重量)の間で変化させた。100mgのSPを使用して調製したDiR充填SPヒドロゲルを対照として使用した。未処理の軟骨(ブランク対照)および遊離色素で処理した軟骨も対照として使用した。実施例1および3に記載の方法を使用して、接着性を試験した。
【0167】
ゲルの軟骨への浸透を決定するために、DOTAPがゲル化剤混合物(すなわち、DOTAPとSPとの組合せ)中15%(重量/重量)含まれているSP-DOTAPゲルをアッセイした。50μLのSP単独ヒドロゲルまたはSP-DOTAPヒドロゲルをウシ軟骨外植片(直径6mm)に適用し、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、軟骨外植片をPBSで2回洗浄し、ブラシを使用して軟骨の表面をこすり表面接着ヒドロゲルを除去した。in vivoイメージングシステム(IVIS)を使用して、軟骨外植片を画像化した。未処理の軟骨(ブランク対照)および遊離色素で処理した軟骨を対照として使用した。
結果
【0168】
図13は、ゲル化剤混合物中で10%(重量/重量)を超えるDOTAP、すなわち1:9を超えるDOTAP対パルミチン酸スクロースの質量比が、軟骨接着を達成するために必要とされたことを示す。
【0169】
図14は、SPヒドロゲルにDOTAPを添加することにより、SP単独ヒドロゲルと比較して、軟骨浸透の有意な増加がもたらされたことを示す。
【0170】
(実施例6)
軟骨標的化ヒドロゲルを調製するためのDOTMAとGRAS両親媒性物質(ampihiphile)との共自己集合体
(DOTMA:1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(塩化物塩))
方法
【0171】
GRAS両親媒性物質(80mg)およびDOTMA(20mg)をシンチレーションバイアルに入れて秤量した。本実施例におけるGRAS両親媒性物質は、モノステアリン酸トリグリセロール(TG18)またはパルミチン酸スクロース(SP)を含む。1mlの水-DMSO(4:1の体積比)の存在下での混合物を、溶解するまで加熱した。平坦で安定した表面上で、溶液を室温まで冷却させた。バイアルを倒置して重力流が観察されなくなったとき、ゲル化が完了した。全てのGRAS両親媒性物質-DOTMAの組合せについてゲル化を観察し、ゲル化に15~45分を要した。接着実験用のゲルを調製するため、蛍光色素、DiRをゲル内にカプセル化した。具体的には、ゲル調製プロセス中に、DMSO中の40μlのDiR溶液(2.5mg/ml)を添加した。
【0172】
接着アッセイのために、50μlのヒドロゲルをウシ軟骨外植片(直径6mm)に適用し、37℃で1時間インキュベートした。1時間後、軟骨外植片をPBSで2回洗浄し、in vivoイメージングシステム(IVIS)を使用して画像化した。DOTMA有りおよび無しのいずれかのヒドロゲルを評価した。DOTMAを使用せずGRAS両親媒性物質100mgを使用する同様の方法を使用して、DOTMA無しのヒドロゲルを調製した。未処理の軟骨(ブランク対照)および遊離色素で処理した軟骨を対照として使用した。
結果
【0173】
図15は、DOTMAとTG18との共自己集合体が、TG18単独ヒドロゲルと比較して、軟骨に対する接着性の顕著な増加をもたらしたことを示す。
【0174】
図16は、DOTMAとSPとの共自己集合体が、SP単独ヒドロゲルと比較して、軟骨に対する接着性の顕著な増加をもたらしたことを示す。
【0175】
SP-DOTMAはTG18-DOTMAよりも高い軟骨接着性を示した(表2)。TG18-DOTMAと比較して、SP-DOTMAに見られる軟骨へのより高い接着性は、TG18と比較してSPのより高い親水性に起因し得る。実施例3に示したDOTAP含有ゲルについても、同様の傾向が観察された。
【0176】
【表2】
【0177】
(実施例7)
パルミチン酸スクロースゲル上の低分子量キトサン(カチオン性多糖類)の被覆は、軟骨への接着能力を付与する。
方法
【0178】
パルミチン酸スクロース(SP)100mgをシンチレーションバイアルに入れて秤量した。
【0179】
1%の酢酸を含有する水にキトサンを溶解させた。異なる濃度のキトサン(1mg/ml、0.5mg/ml、および0.1mg/ml)を含有する溶液を調製した。1mLのキトサン溶液-DMSO(4:1の体積比)の存在下でSPを溶解するまで加熱し、従って、それぞれ0.8mg/mL、0.4mg/mL、および0.08mg/mLという最終/全体キトサン濃度を形成させた。平坦で安定した表面上で、溶液を室温まで冷却した。
【0180】
バイアルを倒置して重力流が観察されなくなったときゲル化が完了し、一般にゲル化に15~45分を要した。
【0181】
接着実験用のゲルを調製するため、蛍光色素(DiR)をゲル内にカプセル化した。具体的には、ゲル調製プロセス中に、DMSO中の40μlのDiR溶液(2.5mg/ml)を添加した。
【0182】
異なるキトサン溶液を有するゲルは、SP-キトサン(0.8mg/ml)、SP-キトサン(0.4mg/ml)、およびSP-キトサン(0.08mg/ml)と称される。濃度はゲル中のキトサンの最終濃度を指す。
【0183】
接着アッセイのために、50μlのSPゲルまたはSP-キトサンゲルをウシ軟骨外植片(直径6mm)に適用し、37℃で1時間インキュベートした。1時間後、軟骨外植片をPBSで2回洗浄し、in vivoイメージングシステム(IVIS)を使用して画像化した。キトサン有りおよび無しのいずれかのヒドロゲルを評価した。未処理の軟骨(ブランク対照)および遊離色素で処理した軟骨を対照として使用した。
【0184】
結果
図17は、SPヒドロゲルにキトサンを添加することにより、SP単独ヒドロゲルと比較して、軟骨に対する接着性の有意な増加がもたらされたことを示す。軟骨標的化のために、パルミチン酸スクロースゲル中、0.08mg/mlを超えるキトサンが必要であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【外国語明細書】