(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168037
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】覆われた人工心臓弁
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022141328
(22)【出願日】2022-09-06
(62)【分割の表示】P 2019539752の分割
【原出願日】2018-01-23
(31)【優先権主張番号】62/535,724
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/449,320
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/520,703
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/876,053
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500218127
【氏名又は名称】エドワーズ ライフサイエンシーズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Edwards Lifesciences Corporation
【住所又は居所原語表記】One Edwards Way, Irvine, CALIFORNIA 92614, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ハイヴァトヴ
(72)【発明者】
【氏名】ケン・パールマター
(72)【発明者】
【氏名】ダーシン・エス・パテル
(72)【発明者】
【氏名】ボアズ・マナッシュ
(72)【発明者】
【氏名】アジャイ・チャダ
(72)【発明者】
【氏名】ワイナ・ミシェル・チュウ
(72)【発明者】
【氏名】シャンボリー・チー
(72)【発明者】
【氏名】エヴァン・ティー・シュワルツ
(72)【発明者】
【氏名】サンディップ・ヴァサント・パワル
(57)【要約】
【課題】人工心臓弁と接触している天然の心臓弁の組織にクッションを付ける被覆を含む人工心臓弁。
【解決手段】人工心臓弁が、複数の支柱部材、流入端部、および流出端部を有する、フレームを含む。人工心臓弁は、少なくとも部分的にフレーム内部に位置する弁尖構造体と、フレームの周りに配された被覆とをさらに含む。被覆は、第1の層および第2の層を有し、第2の層は、フラシ天表面を有する。第1の層は、第2の層の周方向エッジ部分上に折り返されて、支柱部材を越えて人工心臓弁の長手方向軸に沿った方向に延びる保護部分を形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工心臓弁であって、
複数の支柱部材を含み、かつ流入端部および流出端部を有する、フレームと、
少なくとも部分的に前記フレームの内部に位置する弁尖構造体と、
前記フレームの周りに配された被覆と、を含み、前記被覆は、第1の層および第2の層を含み、前記第2の層は、フラシ天表面を有し、前記第1の層は、前記第2の層の周方向エッジ部分上に折り返され、前記支柱部材を越えて前記人工心臓弁の長手方向軸に沿った方向に延びる保護部分を形成する、人工心臓弁。
【請求項2】
前記保護部分は、前記フレームの前記流入端部に隣接して位置する第1の保護部分であり、
前記被覆は、前記フレームの前記流出端部に隣接して位置する第2の保護部分をさらに含む、請求項1に記載の人工心臓弁。
【請求項3】
前記第1の層は、前記第2の層の内部表面に沿って、前記フレームの前記流入端部から前記フレームの前記流出端部まで延び、前記フレームの前記流出端部において前記第2の層の周方向エッジ上に折り返されて、前記第2の保護部分を形成する、請求項2に記載の人工心臓弁。
【請求項4】
前記第1の保護部分の前記第1の層は、前記フレームの前記流入端部において前記第2の層の前記周方向エッジ部分上に折り返されたストリップ部材として構成される、請求項2に記載の人工心臓弁。
【請求項5】
前記第2の保護部分の第1の層は、前記フレームの前記流出端部において前記第2の層の周方向エッジ部分上に折り返されたストリップ部材として構成される、請求項4に記載の人工心臓弁。
【請求項6】
前記第1の保護部分の前記ストリップ部材は、前記フレームの前記流入端部において前記支柱部材のそれぞれの頂点を封入し、
前記第2の保護部分の前記ストリップ部材は、前記フレームの前記流出端部において前記支柱部材のそれぞれの頂点を封入する、請求項5に記載の人工心臓弁。
【請求項7】
前記第2の層は、織物層と、複数のパイル糸を含むフラシ天パイル層とを有する布を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の人工心臓弁。
【請求項8】
前記パイル糸は、ループパイルを形成するように配列されるか、またはカットパイルを形成するように切断される、請求項7に記載の人工心臓弁。
【請求項9】
前記第1の層は、組織層を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の人工心臓弁。
【請求項10】
第1の層の長手方向エッジ部分が第2の層の長手方向エッジ部分を越えて延びるように、前記第1の層を前記第2の層の第1の表面に固定するステップであって、前記第2の層の前記第1の表面はフラシ天表面である、ステップと、
取り付けられた前記第1および第2の層を固定して円筒形状とし、被覆を形成するステップと、
前記被覆を人工心臓弁のフレームの周りに位置させるステップであって、前記フレームは複数の支柱部材を含む、ステップと、
前記第1の層の長手方向エッジ部分を、前記第2の層の長手方向エッジ部分上に折り返して保護部分を形成し、前記保護部分が前記支柱部材の頂点を越えて、前記人工心臓弁の長手方向軸に沿った方向に延びるようにするステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記被覆を前記フレームの周りに位置させるステップは、前記第2の層のフラシ天の第1の表面が半径方向外側に向けられるように、前記被覆を前記フレームの周りに位置させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記保護部分は、前記フレームの流入端部に隣接する流入保護部分であり、
前記流入保護部分の前記第1の層は、第1のストリップ部材として構成され、
前記方法は、前記フレームの流出端部に隣接する流出保護部分を形成するように、第2のストリップ部材の長手方向エッジ部分を、前記第2の層の長手方向エッジ部分上に折り返すステップをさらに含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のストリップ部材の前記長手方向エッジ部分を折り返すステップは、前記流入保護部分が前記フレームの前記流入端部において前記支柱部材のそれぞれの頂点を封入するように前記第1のストリップ部材の前記長手方向エッジ部分を折り返すステップをさらに含み、
前記第2のストリップ部材の前記長手方向エッジ部分を折り返すステップは、前記流出保護部分が前記フレームの前記流出端部において前記支柱部材のそれぞれの頂点を封入するように前記第2のストリップ部材の前記長手方向エッジ部分を折り返すステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の層は、織物層と、第2の表面を形成する複数のパイル糸を含むフラシ天パイル層とを有する布を含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人工心臓弁に関し、特に、人工心臓弁と接触している天然の心臓弁の組織にクッションを付ける被覆を含む人工心臓弁に関する。
【背景技術】
【0002】
経カテーテル的人工心臓弁を植え込む処置では、人工心臓弁は、典型的には、天然の心臓弁の輪に位置付けられ、その機能的なサイズまで拡張されるか、または拡張させられる。人工心臓弁を所望の場所に保持するために、人工心臓弁は、人工心臓弁が取り除かれるのを防ぐため周囲組織に力を加えるように、天然の弁輪の直径より大きくてよい。他の構成では、人工心臓弁は、天然の輪内部に位置付けられ、人工心臓弁を輪に対して選択された位置に保持するように構成された、支持構造体内部で拡張され得る。経時的に、人工心臓弁と、人工心臓弁と接触している天然の心臓弁の組織(例えば、天然の弁膜、腱索など)との相対運動は、組織への損傷を引き起こし得る。したがって、人工心臓弁を改善する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第15/682,287号
【特許文献2】米国特許出願第15/684,836号
【特許文献3】米国特許第9,393,110号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定の開示された実施形態は、人工心臓弁の被覆、ならびに、それを製造および使用する方法に関する。代表的な実施形態では、人工心臓弁が、複数の支柱部材を含み、かつ流入端部および流出端部を有する、フレームを含む。人工心臓弁は、少なくとも部分的にフレーム内部に位置する弁尖構造体と、フレームの周りに配された被覆とをさらに含む。被覆は、第1の層および第2の層を含み、第2の層は、フラシ天表面を有する。第1の層は、第2の層の周方向エッジ部分上に折り返され、支柱部材を越えて人工心臓弁の長手方向軸に沿った方向に延びる保護部分を形成する。
【0005】
いくつかの実施形態では、保護部分は、フレームの流入端部に隣接して位置する第1の保護部分であり、被覆は、フレームの流出端部に隣接して位置する第2の保護部分をさらに含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、第1の層は、第2の層の内部表面に沿って、フレームの流入端部からフレームの流出端部まで延び、フレームの流出端部において第2の層の周方向エッジ上に折り返されて、第2の保護部分を形成する。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1の保護部分の第1の層は、フレームの流入端部において第2の層の周方向エッジ部分上に折り返されたストリップ部材として構成される。
【0008】
いくつかの実施形態では、第2の保護部分の第1の層は、フレームの流出端部において第2の層の周方向エッジ部分上に折り返されたストリップ部材として構成される。
【0009】
いくつかの実施形態では、第1の保護部分のストリップ部材は、フレームの流入端部において支柱部材のそれぞれの頂点を封入し、第2の保護部分のストリップ部材は、フレームの流出端部において支柱部材のそれぞれの頂点を封入する。
【0010】
いくつかの実施形態では、第2の層は、織物層と、複数のパイル糸を含むフラシ天パイル層とを有する布を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、パイル糸は、ループパイルを形成するように配列されるか、またはカットパイルを形成するように切断される。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1の層は、組織層を含む。
【0013】
別の代表的な実施形態では、方法は、第1の層の長手方向エッジ部分が第2の層の長手方向エッジ部分を越えて延びるように、第1の層を第2の層の第1の表面に固定するステップであって、第2の層の第1の表面はフラシ天表面である、ステップを含む。この方法は、取り付けられた第1および第2の層を固定して円筒形状とし、被覆を形成するステップと、被覆を人工心臓弁のフレームの周りに位置させるステップであって、フレームは複数の支柱部材を含む、ステップとをさらに含む。方法は、第1の層の長手方向エッジ部分を、第2の層の長手方向エッジ部分上に折り返して保護部分を形成し、保護部分が支柱部材の頂点を越えて、弁の長手方向軸に沿った方向に延びるようにするステップをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、被覆をフレームの周りに位置させるステップは、第2の層のフラシ天の第1の表面が半径方向外側に向けられるように、被覆をフレームの周りに位置させるステップをさらに含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、保護部分は、フレームの流入端部に隣接する流入保護部分であり、流入保護部分の第1の層は、第1のストリップ部材として構成され、方法は、フレームの流出端部に隣接する流出保護部分を形成するように、第2のストリップ部材の長手方向エッジ部分を、第2の層の長手方向エッジ部分上に折り返すステップをさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1のストリップ部材の長手方向エッジ部分を折り返すステップは、流入保護部分がフレームの流入端部において支柱部材のそれぞれの頂点を封入するように第1のストリップ部材の長手方向エッジ部分を折り返すステップをさらに含み、第2のストリップ部材の長手方向エッジ部分を折り返すステップは、流出保護部分がフレームの流出端部において支柱部材のそれぞれの頂点を封入するように第2のストリップ部材の長手方向エッジ部分を折り返すステップをさらに含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、第2の層は、織物層と、第2の表面を形成する複数のパイル糸を含むフラシ天パイル層とを有する布を含む。
【0018】
別の代表的な実施形態では、方法が、人工心臓弁を天然の心臓弁の輪に位置付けるステップを含む。人工心臓弁は、半径方向に圧縮された状態にあり、複数の支柱部材を含み、かつ流入端部および流出端部を有する、フレームを有する。人工心臓弁は、少なくとも部分的にフレーム内部に位置する弁尖構造体と、フレームの周りに配された被覆とをさらに含む。被覆は、第1の層および第2の層を含む。第2の層は、フラシ天表面を有し、第1の層は、第2の層の周方向エッジ部分上に折り返されて、支柱部材を越えて人工心臓弁の長手方向軸に沿った方向に延びる保護部分を形成する。方法は、人工心臓弁の弁尖構造体が天然の心臓弁の輪を通る血流を調整するように、輪の中の人工心臓弁を拡張させるステップをさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、人工心臓弁を拡張させるステップは、保護部分と接触している天然の心臓の組織が支柱部材の頂点に接触するのを保護部分が防ぐように、人工心臓弁を拡張させるステップをさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、人工心臓弁を拡張させるステップは、天然の心臓弁の弁尖が第2の層のフラシ天表面と心臓内に位置付けられたアンカー装置との間に捕捉されるように、人工心臓弁を拡張させるステップをさらに含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、保護部分は、フレームの流入端部に隣接して位置する第1の保護部分であり、被覆は、フレームの流出端部に隣接して位置する第2の保護部分をさらに含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、第2の層は、織物層と、フラシ天表面を形成する複数のパイル糸を含むフラシ天パイル層とを有する布を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1の層は、保護部分が支柱部材のそれぞれの頂点を封入するように、第2の層の周方向エッジ部分上に折り返される。
【0024】
開示される技術の前述した、また他の目的、特徴、および利点は、添付図面を参照して進める、以下の詳細な説明から、さらに明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図4A】一実施形態による、弁プロテーゼが植え込まれた、心臓の僧帽弁位置に配備されたリングアンカーの断面側面図である。
【
図4B】別の実施形態による、弁プロテーゼが植え込まれた、心臓の僧帽弁位置に配備されたコイルアンカーの断面側面図を示す。
【
図4C】螺旋アンカーの代表的な実施形態の斜視図である。
【
図5】被覆の代表的な実施形態を含む人工心臓弁の斜視図である。
【
図9】フラシ天パイルを含むクッション層の代表的な実施形態の斜視図である。
【
図10】心臓の僧帽弁位置に配備された
図5の人工心臓弁の断面側面図である。
【
図11】被覆の別の実施形態を含む人工心臓弁の側面立面図である。
【
図12】裏打ち層およびクッション層が互いに固定される前の、裏打ち層、裏打ち層を製造するためのステンシル、およびクッション層の斜視図である。
【
図13】被覆の別の実施形態を含む人工心臓弁の断面側面立面図である。
【
図15】スペーサ布を含む被覆の別の実施形態を含む人工心臓弁の側面立面図である。
【
図16】ループパイル糸を含むスペーサ布の代表的な実施形態の斜視図である。
【
図18】平行四辺形のステンシルを用いて切断された後の裏打ち層の実施形態の平面図である。
【
図19】被覆の別の実施形態を含む人工心臓弁の斜視図である。
【
図23】折り畳まれていない構成にある
図19の被覆の平面図である。
【
図24】被覆が円筒形状へと形成された後に
図19の人工心臓弁が被覆内へ設置されたところを示す斜視図である。
【
図25】弁フレームの支柱部材への被覆の取り付けを示す、
図19の人工心臓弁の流入端部の斜視図である。
【
図26】流入保護部分を形成するために被覆のストリップ部材が弁フレームの支柱部材上に折り返されたところを示す、
図19の人工心臓弁の流入端部の斜視図である。
【
図27】被覆の別の実施形態を含む人工心臓弁のフレームの斜視図である。
【
図28】
図27のフレームおよび被覆の断面側面立面図である。
【
図29】
図27の被覆を製造する代表的な方法を示す斜視図である。
【
図30】
図27の被覆を製造する代表的な方法を示す斜視図である。
【
図32】フレームの頂点の上を延びる主要な被覆および第2の被覆を含む人工心臓弁の斜視図である。
【
図34】平たく置いた構成にある
図32の人工弁のフレームの一部の平面図である。
【
図35】主要な外側被覆がない
図32の人工心臓弁の斜視図である。
【
図36】第2の被覆がフレームの頂点に巻き付けられる方法を示す
図32の人工心臓弁の斜視図である。
【
図37】送達器具のシャフト上にクリンプされた第2の被覆を含む
図32の人工弁のフレームを示す斜視図である。
【
図38A】別の実施形態による、外側被覆を含む
図19の人工弁の側面立面図である。
【
図39A】送達装置のシャフト上にクリンプされた
図38Aの人工心臓弁を示す平面図である。
【
図41A】平たく置いた構成にあり、パイル層によって画定された外側表面を含む、人工弁のための布の外側被覆の別の実施形態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示は、植え込み可能な人工心臓弁、ならびに、そのような装置を製造および使用する方法の実施形態に関する。一態様では、人工心臓弁は、裏打ち層、および裏打ち層上に配された主要なクッション層を有する外側被覆を含み、それによって、クッション層は、弁の周縁部の周りで半径方向外側に向けられる。クッション層は、例えば、心臓が拡張および収縮する際の人工弁と組織との間の相対運動または摩擦による、植え込み部位における心臓弁の、および/または周辺の解剖学的組織の天然の組織への損傷を軽減するために、柔らかく、かつ柔軟であってよい。被覆は、流入保護部分および流出保護部分も含んで、周囲の解剖学的組織にクッションを付け、心臓弁の天然の組織がフレームの支柱部材の頂点に接触するのを防ぎ、それによって、周囲組織を保護することができる。別の実施形態では、被覆は、クッション層に固定され、支柱部材の頂点の上に折り返されて、流入保護部分および流出保護部分を形成する、流入ストリップ部材および流出ストリップ部材を含み得る。
【0027】
開示される技術の実施形態は、心臓内部のさまざまな場所に植え込まれるように構成されたさまざまな人工心臓弁と組み合わせて使用され得る。代表的な例は、天然の僧帽弁の機能に取って代わる人工心臓弁である。
図1および
図2は、ヒトの心臓の僧帽弁を例示する。僧帽弁は、左心房と左心室との間の血液の流れを制御する。左心房が、肺静脈を介して肺から酸素化された血液を受け取った後、僧帽弁は、酸素化された血液が左心房から左心室内へと流れることを可能にする。左心室が収縮すると、左心室内に保持された、酸素化された血液は、大動脈弁および大動脈を通って、身体の残部へ送達される。一方、僧帽弁は、心室収縮中に閉じて、血液が左心房へと流れて戻るのを防ぐ。
【0028】
左心室が収縮すると、左心室の血圧は実質的に上昇し、これにより僧帽弁が閉じる。この時間中に左心室と左心房との間に大きな圧力差があるため、僧帽弁の弁尖が心房内へと脱出、または外転して戻る可能性が生じる。したがって、一連の腱索は、僧帽弁の弁尖を左心室の壁に位置する乳頭筋に接続し、ここで、腱索および乳頭筋の両方は、心室収縮中に引っ張られて、弁尖を閉鎖位置に保持し、それらが左心房に向かって引き返して延びるのを防ぐ。これにより、概して、酸素化された血液が左心房内に逆流するのを防ぐ。腱索は、
図1の心臓断面図および
図2の僧帽弁の上面図の両方に概略的に例示されている。
【0029】
僧帽弁およびその弁尖を左心房から見たときの一般的な形状は、
図2に示されている。僧帽弁のさまざまな合併症は、潜在的には致命的な心不全を引き起こし得る。心臓弁膜症の一形態は、僧帽弁の漏れまたは僧帽弁逆流であり、左心室から僧帽弁を通って左心房に戻る血液の異常な漏れを特徴とする。これは、例えば左心室の膨張により引き起こされ得、この膨張は、天然の僧帽弁尖の不完全な接合を引き起こし、その結果、弁を通る漏れを生じ得る。僧帽弁逆流は、天然の弁尖への損傷によっても引き起こされ得る。このような状況では、僧帽弁を修復するか、または、僧帽弁の機能性を、経カテーテル的心臓弁などの人工心臓弁の機能性と取り換えることが望ましくなり得る。
【0030】
いくつかの経カテーテル的心臓弁は、半径方向にクリンプされるかまたは圧縮されて、患者の心臓におけるインプラント部位への血管内送達を容易にするように設計される。いったん天然の弁輪に位置付けられると、置換弁は次に、例えば拡張バルーンによって、動作状態まで拡張し、それによって、人工心臓弁の弁尖構造体は、天然の弁輪を通る血流を調節する。他の場合には、人工弁は、送達シースから解放されるとそれ自体の弾性下で、圧縮された送達状態から動作状態へと機械的に拡張されるか、または半径方向に自己拡張し得る。人工心臓弁の一実施形態が
図3に例示されている。
図3に示す人工弁と同様の弁の輪郭を有する経カテーテル的心臓弁は、エドワーズライフサイエンス社(Edwards Lifesciences)のSAPIEN XT(商標)弁である。
図3の人工弁1は、流入端部2および流出端部3を有し、フレームまたはステント10と、フレーム10の内側に支持された弁尖構造体20とを含む。いくつかの実施形態では、スカート30が、フレーム10の内側表面に取り付けられて、弁尖構造体20の弁膜のための、より適切な取付表面を形成し得る。
【0031】
フレーム10は、半径方向に潰れた状態にクリンプされること、および
図3に例示する拡張した機能的状態に再び拡張することの両方を可能にする、任意の身体適合性の拡張可能材料で作られ得る。例えば、人工弁が、それ自体の弾性下でその機能的サイズまで拡張する自己拡張可能な人工弁である実施形態では、フレーム10は、ニチノールまたは別の自己拡張材料で作られ得る。他の実施形態では、人工弁は、バルーンまたは別の拡張装置によってその機能的サイズまで拡張される、塑性的に拡張可能な弁であってよく、その場合、フレームは、ステンレス鋼またはコバルトクロム合金など塑性的に拡張可能な材料で作られ得る。他の適切な材料も使用され得る。
【0032】
フレーム10は、弁尖構造体20をその中に取り付け成形するのを助ける、複数の垂直に延びる交連取付ポスト11を有する環状構造体を含み得る。追加の垂直ポストまたは支柱部材12が、周方向に延びる支柱部材13と共に、フレーム10の残部を形成するのに役立つ。フレーム10の支柱部材13は、ジグザグになり、弁1の流入端部2および流出端部3に、エッジの付いたクラウン部分または頂点14を形成する。さらに、取付ポスト11は、フレーム10の一端部または両端部にエッジを形成することもできる。
【0033】
人工弁1では、スカート30は、必要に応じて、フレーム10のさまざまな支柱11、12、13の外側に概して巻き付けられた、1つまたは複数の細線40を介して、弁フレーム10の内側表面に取り付けられる。スカート30は、弁1の流入端部2の近くに位置付けられた弁尖構造体20の一部に、より実質的な取付表面を提供する。
【0034】
図4Aおよび
図4Bは、患者の心臓の僧帽弁位置での弁1の植え込みを容易にするために使用され得る、種々のアンカーの実施形態の側面断面図を示す。
図4Aおよび
図4Bに示すように、心臓80の左側は、左心房82、左心室84、および左心房82と左心室84とを接続する僧帽弁86を含む。僧帽弁86は、腱索90および乳頭筋92を介して左心室84の内壁に接続された、前尖および後尖88を含む。
【0035】
図4Aでは、第1のアンカー装置が、僧帽弁86の天然の弁尖88および/または腱索90を取り囲む可撓性リングまたはかさ(halo)60を含む。リング60は、弁尖の一部を内側に締め付けるかまたは押して、より円形の開口部を僧帽弁位置に形成し、人工弁1の植え込みをより効果的にする。弁プロテーゼ1は、リングアンカー60によって天然の僧帽弁輪86に保持され、例えば、弁1がクリンプされている間に弁1を僧帽弁輪86に位置付け、その後、いったん弁1が
図4Aに示すように位置付けられたら弁1を拡張させることによって、図示する位置に送達され得る。いったん拡張されると、弁1は、リングアンカー60を外側に押して、弁1およびリングアンカー60の両方の位置を固定する。いくつかの実施形態では、拡張状態にある人工弁1の直径よりもわずかに小さい内径を有する小型のリングアンカー60を使用して、部品間により強い摩擦を提供し、より安定した取り付けをもたらすことができる。
図4Aで分かるように、少なくとも、天然の僧帽弁膜88の一部および/または腱索90の一部が、弁1とリングアンカー60との間に締め付けられるか、または挟まれて、構成要素を天然の解剖学的組織に固定する。
【0036】
図4Bは、リングアンカー60の代わりに、螺旋アンカー70が利用されていることを除き、
図4Aと同様である。螺旋アンカー70は、リングアンカー60より多くのコイルまたは巻き線を含み得、僧帽弁輪86の上流および下流の両方に延び得る。螺旋アンカー70は、場合によっては、弁1が当接し得る、より大きくかつより安定した取付領域を提供し得る。
図4Aのリングアンカー60と同様に、天然の僧帽弁膜88および/または腱90の少なくとも一部が、弁1と螺旋アンカー70との間に締め付けられる。螺旋アンカーおよび人工弁を植え込む方法および装置が、2017年8月21日出願の特許文献1、および2017年8月23日出願の特許文献2に記載されている。
【0037】
図4Cは、本明細書に記載される人工弁のうちのいずれかと組み合わせて使用され得る螺旋アンカー300の別の代表的な実施形態を例示する。アンカー300は、中心領域302、下方領域304、および上方領域306を有するコイルとして構成され得る。下方領域304は、腱索および/もしくは僧帽弁の弁尖を取り囲むかもしくは捕捉するように構成され得る、螺旋構成の1つまたは複数の巻き線を含む。中心領域302は、人工弁を天然の輪の中に保持するように構成された複数の巻き線を含む。上方領域306は、1つまたは複数の巻き線を含み、アンカーが人工弁の植え込み前に弁輪から外れるのを防ぐように構成され得る。いくつかの実施形態では、上方領域306は、左心房の底部(floor)の上に位置付けられ得、中心領域302の巻き線を僧帽弁器官内部の高いところに位置付けたままにするように構成され得る。
【0038】
アンカー300はまた、中心領域302と上方領域306との間に位置付けられた延長部分308を含む。他の実施形態では、延長部分308は、代わりに、例えば、全体が中心領域302内に(例えば、中心領域の上方部分に)、または全体が上方領域306に、位置付けられ得る。延長部分308は、アンカーの中心軸に実質的に平行に延びるコイルの一部を含む。他の実施形態では、延長部分308は、アンカーの中心軸に対して角度を付けられ得る。延長部分308は、中心領域302および上方領域306を、中心軸に沿った方向に互いから離すのに役立ち得、それによって、隙間がアンカーの心房側と心室側との間に形成される。
【0039】
アンカーの延長部分308は、アンカーが植え込まれるときに天然の輪および/または天然の弁尖を通過するか、押すか、またはこれらに寄りかかるアンカーの量を減らすために、天然の弁輪を通って、またはその近くに位置付けられることが意図されている。これは、アンカーによって天然の僧帽弁に加えられる力を減少させ、かつ、天然の弁尖の摩耗を減少させ得る。一構成では、延長部分308は、天然の僧帽弁の交連のうちの1つに位置付けられ、これを通過する。このように、延長部分308は、上方領域306を僧帽弁の天然の弁尖から離して、上方領域306が心房側からの天然の弁尖と相互作用するのを防ぐことができる。延長部分308はまた、上方領域が天然の弁より上の心房壁に接触するように上方領域306を持ち上げ、これによって、天然の弁への、またはその周りでの応力が減少し、また、アンカーがより良く保持され得る。
【0040】
例示された実施形態では、アンカー300は、アンカーの近位端部および遠位端部のうちの一方もしくは両方に、またはその近くに、貫通孔310として構成された1つまたは複数の開口部をさらに含み得る。貫通孔310は、例えば、カバー層をアンカーのコイル上に取り付けるための縫合孔として、またはプッシャーもしくは他の前進装置のためのプルワイヤなどの送達ツール用の取付部位として、役立ち得る。いくつかの実施形態では、アンカー300のコイルの幅または厚さは、アンカーの長さに沿って変化してもよい。例えば、アンカーの中心部分は、アンカーの端部分より薄くされ得る。これにより、中心部分はより大きな可撓性を示すことができ、端部分は、より強いか、またはより頑丈となり得る。ある実施例では、コイルの端部分を比較的厚くすることにより、カバー層をアンカーのコイルに縫合するか、または別様に取り付けるための、より大きい表面積を提供することもできる。
【0041】
ある実施形態では、螺旋アンカー300は、天然の弁輪を通って反時計回り方向に挿入されるように構成され得る。例えば、アンカーは、交連A3P3、交連A1P1を通って、または天然の僧帽弁の別の部分を通って、前進され得る。アンカー300のコイルの反時計回り方向は、送達カテーテルの遠位端部を同様の反時計回り方向に曲げることも可能にし、これは、送達カテーテルを時計回り方向に曲げるよりも達成するのが容易となり得る。しかしながら、アンカーは、要望通りに、弁を通って時計回りまたは反時計回りのいずれかで挿入されるように構成され得ることを、理解されたい。
【0042】
図3の人工弁に戻ると、人工弁1は、概して、いくつかのエッジを形成する金属フレーム10を含む。さらに、多くのフレーム10が、エッジの付いたクラウンまたは頂点14および突出する交連取付ポスト11、ならびにフレーム10の外側表面に沿って露出され得る細線40を有して、構成されている。これらの特徴部は、例えば天然の組織と人工弁1のさまざまな摩耗表面との間の動きまたは摩擦によって、人工弁1とアンカー60、70との間に挟まる組織などの天然の僧帽弁組織に損傷を引き起こし得る。さらに、腱索(chordae tendinae)などの、人工弁1にきわめて近接する他の天然の組織も、潜在的には損傷され得る。
【0043】
図5~
図7は、特許文献3で詳細に説明される、エドワーズライフサイエンス社のSAPIEN(商標)3の弁に類似の人工心臓弁100の代表的な実施形態を例示する。人工弁100は、角度を付けられた複数の支柱部材104によって形成され、かつ流入端部106および流出端部108を有する、フレーム102を含む。人工弁100は、少なくとも部分的にフレーム102内部に位置し、大動脈弁と同じような三尖弁構成で潰れるように構成された、3つの弁尖110を含む弁尖構造体も含むが、人工弁は、僧帽弁のように二尖弁構成で潰れるように構成された2つの弁尖、または3つより多い弁尖を、要望通りに含むこともできる。支柱部材104は、フレームの流入端部および流出端部の周りに配置された複数の頂点124を形成し得る。
【0044】
人工心臓弁は、植え込み後に人工弁と接触している天然の組織にクッションを付け(保護し)、組織と弁の表面との間の動きまたは摩擦による組織への損傷を減少させるように構成された、外側被覆112を含み得る。被覆112は、弁周囲漏出を減少させることもできる。
図5の実施形態では、被覆112は、裏打ち層114として構成された第1の層(例えば、
図8を参照)と、クッション層116として構成された第2の層とを含む。クッション層116は、裏打ち層114上に配され得、クッション層と接触している組織または物体を保護するように半径方向外側に向けられた、柔らかなフラシ天表面118を含み得る。例示された構成では、被覆112はまた、フレームの流入端部106の周りを周方向に延びる非外傷性の流入保護部分120と、フレームの流出端部108の周りを周方向に延びる非外傷性の流出保護部分122とを含む。流入保護部分120と流出保護部分122との間のクッション層116の部分は、主要なクッション部分136を画定し得る。
【0045】
図8は、弁尖構造体が例示目的で取り外された、人工弁100を概略的に例示する断面図である。被覆112は、フレーム102の外部の周りを延び、それによって、裏打ち層114の内部表面は、支柱部材104の外部表面に隣接するか、または接している。
図8に例示するように、クッション層116は、フレームの長手方向軸126に沿って測定されると、フレームの長さより長い長さを有し得る。よって、被覆112は、クッション層116が、フレームの流入端部106における支柱部材の頂点124を越えて遠位に(例えば、上流方向に)延びるように位置してよく、頂点を越えて延びるクッション層の部分は、本明細書では遠位端部分128と呼ぶ。弁の反対端部では、クッション層116が、支柱部材の頂点124を越えて近位に(例えば、下流方向に)延びることができ、頂点を越えて位置する部分は、近位端部分130と呼ぶ。クッション層116の近位端部分130および遠位端部分128が弁のそれぞれの端部における頂点を越えて延びる距離は、例えば弁の寸法、特定の適用などに応じて、同じであるか、または異なっていてよい。
【0046】
裏打ち層114は、裏打ち層114の近位端部分またはフラップ132が流出保護部分122を形成するようカフのようにクッション層116の近位端部分130上に折り返され得るように、軸方向に十分な長さを有し得る。一方、裏打ち層114の遠位端部分またはフラップ134は、流入保護部分120を形成するように、クッション層116の遠位端部分128上に折り返され得る。裏打ち層116の近位フラップ132および遠位フラップ134は、例えば縫合糸136によって、裏打ち層の下にあるセクションに固定され得る。このように、流入保護部分120および流出保護部分122は、クッション層116の近位端部分130および遠位端部分128が、裏打ち層116のフラップ132、134によって少なくとも部分的に囲まれるように、構成される。この構成により、流入保護部分120および流出保護部分122への曲げに対する十分な強度および抵抗を提供し、それによって、流入保護部分120および流出保護部分122は、曲がったり、(例えば、それら自体の重量により曲がることにより、血流により、または血圧により)別様に弁の内径内に突出したりせずに、弁の長手方向軸126に沿って延びる。このように、流入保護部分120および流出保護部分122は、人工弁を通る流れへの影響を最小限にし、人工弁膜への干渉を避けて、流れの障害および血栓のリスクを減少させる。
【0047】
例示された構成では、流入保護部分120は、フレームの流入端部における支柱部材の頂点124を距離d1だけ越えて延びることができ、流出保護部分122は、フレームの流出端部における支柱部材の頂点124を距離d2だけ越えて延びることができる。距離d1およびd2は、人工弁の種類、治療場所などに応じて、同じであるか、または異なっていてよい。例えば、29mmの人工弁では、距離d1およびd2は、約0.5mm~約3mmであってよい。代表的な実施形態では、距離d1およびd2は、約1mm~約2mmであってよい。流入保護部分120および流出保護部分122が、フレームのそれぞれの端部の頂点124を越えて延びるので、流入保護部分および流出保護部分は、隣接する組織および/または人工弁に隣接する別のインプラントを、フレームの頂点124との接触から保護することができる。
【0048】
例えば、
図10は、前述した
図4Aおよび
図4Bと同じように、天然の僧帽弁86内の螺旋アンカー70内部に植え込まれた人工弁100を例示する。例示された実施例では、人工弁の流入端部分は、天然の僧帽弁輪の上面より上に位置付けられ、周囲組織から離間される。しかしながら、他の実施態様では、人工弁の軸方向の位置付けに応じて、流入保護部分120は、天然の弁尖88に接触し、それらがフレームの流入端部における頂点124に直接接触するのを防ぐことができる。流入端部における人工弁の直径に応じて、流入保護部分120は、心房壁がフレームの流入端部における頂点124に直接接触するのを防ぐのに役立ち得る。
【0049】
図10に示すように、アンカー70は、柔軟な流入保護部分120に寄りかかることもできる。一方、アンカー70と人工弁100との間に捕捉された天然の弁尖88の部分は、主要なクッション部分136のフラシ天表面118によってクッションを付けられ得る。ある実施形態では、クッション層116の柔らかく柔軟な性質およびテクスチャは、天然の弁尖と人工弁との間の摩擦を増加させ得る。これにより、左心室が拡張および収縮する際の天然の弁尖および人工弁の相対運動を減少させ、天然の弁尖および周囲組織への損傷の可能性を減らすことができる。クッション層116は、アンカー70と人工弁100との間の保持力を増加させることもできる。クッション層116のフラシ天の圧縮可能な性質はまた、被覆へ圧力を加えることによりフレーム102の開口部を被覆112が貫通するのを低減し、それによって、弁の血行動態の障害を軽減することができる。さらに、流出クッション部分122は、腱索90がフレームの支柱部材、特に、フレームの流出端部における頂点124と接触するのを防ぎ、それによって、腱の傷害または裂傷のリスクを軽減することができる。
【0050】
裏打ち層114は、例えば、ガーゼ、ポリエチレンテレフタレート(PET)布(例えば、ダクロン)、ポリエステル布、ポリアミド布などのさまざまな織布のいずれか、またはフェルトなどのさまざまな不織布のいずれか、を含み得る。ある実施形態では、裏打ち層114は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PET、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などといった、さまざまな結晶性または半結晶性のポリマー材料のいずれかを含むフィルムも含み得る。このように、裏打ち層114は、比較的薄く、しかし、裂けることなく、被覆112がフレームに縫い付けられることを可能にし、かつ人工弁がクリンプされることを可能にするのに十分強くすることができる。
【0051】
前述したように、クッション層116は、少なくとも1つの柔らかなフラシ天表面118を含み得る。ある実施例では、クッション層116は、さまざまな織布または編布のいずれかで作られてよく、表面116は、布のフラシ天のけばまたはパイルの表面である。パイルを有する例示的な布は、ベロア、ベルベット、綿ビロード、コーデュロイ、テリー織の布、フリースなどを含む。
図9は、クッション層116の代表的な実施形態をさらに詳細に例示する。
図9の実施形態では、クッション層116は、ベース層162(第1の層)を有し得、ここから、パイル158(第2の層)が延びる。ベース層162は、メッシュ状構造体へと織られるかまたは編まれた経糸および緯糸を含み得る。例えば、代表的な構成では、ベース層162の糸は、約7dtex~約100dtexのデニール範囲の平坦な糸であってよく、また、約20~約100ウェール/インチおよび約30~約110コース/インチの密度で編まれ得る。糸は、例えば、PET、ナイロン、ePTFEなどの生体適合性の熱可塑性ポリマー、他の適切な天然もしくは合成繊維、または柔らかなモノリシック材料から作られ得る。
【0052】
パイル158は、ループへと織られるかまたは編まれたパイル糸164を含み得る。ある構成では、パイル糸164は、それらのループを形成するように織られるかまたは編まれたベース層162の経糸または緯糸であってよい。パイル糸164は、所望される特定の特徴に応じて、ベース層へと組み込まれる別々の糸であってもよい。ある実施形態では、ループは、パイル158が、例えばベロア布のように、カットパイルとなるように切断され得る。
図5~
図8は、ベロア布として構成されたクッション層116の代表的な実施形態を例示する。他の実施形態では、ループは、例えばテリー織の布のように、ループパイルを形成するよう、そのまま残され得る。
図9は、パイル糸164がループ166を形成するように編まれた、クッション層116の代表的な実施形態を例示する。
図11は、
図9のクッション層116を組み込む被覆112の実施形態を例示する。
【0053】
いくつかの構成では、パイル糸164は、例えば波状または波打つ構造により表面積が増大したテキスチャード糸であってよい。
図11のループパイルの実施形態などの構成では、ループ166のテキスチャード糸により提供される、ループ構造および増大した表面積によって、ループは、パイルのループ内およびその周りへの組織成長のための足場として作用することが可能になる。パイル158内への組織成長を促すことは、インプラント部位での弁の保持を増大させ、弁の長期安定性に貢献し得る。
【0054】
本明細書に記載されるクッション層の実施形態は、既知の弁被覆およびスカートに比べて、被覆112の圧縮性および形状記憶特性の改善にも貢献し得る。例えば、パイル158は、(例えば、組織、インプラントなどと接触している場合に)負荷の下で圧縮され、その負荷が除去されると元のサイズおよび形状に戻るように、柔軟であってよい。これは、クッション層116と、例えば支持構造体、もしくは人工弁が配備される螺旋アンカー70などの他の装置との間、またはクッション層と天然の輪の壁との間の密封を改善するのに役立ち得る。クッション層116のパイル158によって提供される圧縮性は、人工弁のクリンププロファイルを減少させる上でも有効である。さらに、被覆112は、人工弁がクリンプされたときに弁尖110またはその一部が支柱部材104間の空間を通って延びるのを防ぎ、それによって、支柱間に弁尖が締め付けられることによる人工弁尖への損傷を減少させることができる。
【0055】
代替的な実施形態では、クッション層116は、フェルトなどの不織布、または不織綿繊維などの繊維で作られ得る。クッション層116は、例えば、さまざまな柔軟なポリマーフォーム材料、または、織られたかもしくは編まれたPETなどの織布もしくは編布、のうちのいずれかなどの、多孔質または海綿状(spongey)の材料で作られてもよい。さらに代替的な実施形態では、
図11の実施形態のクッション層116の近位端部分および遠位端部分は、ループ166がなくてもよく、流入保護部分120および流出保護部分122は、弁の流入端部および流出端部においてカフを形成するように、ベース層162を折り重ねることによって、形成され得る。
【0056】
図12に例示される代表的な実施例では、
図5~
図8の被覆112は、裏打ち層114を形成するためにステンシル138で布材料(例えば、PET布)を切断することによって、作られ得る。例示される実施形態では、ステンシル138は、平行四辺形のように成形されているが、他の構成が可能である。ステンシル138の角の角度は、布材料が布の繊維の方向に対して約45°の角度で切断されるように、成形され得る。これにより、例えば、裏打ち層を経糸および緯糸に対して斜めの方向に沿って伸ばすことを可能にすることによって、結果として得られる裏打ち層114のクリンプ可能性を改善し得る。
図18は、平行四辺形のステンシル138を使用して切断された後の裏打ち層114の代表的な実施例の平面図を例示している。
【0057】
クッション層116は、(例えば、縫合糸、接着剤などによって)裏打ち層114に取り付けられ得る。
図12では、被覆がフレームに取り付けられた際のフレーム102の近位端部および遠位端部の場所は、裏打ち層114上の破線140、141として表されている。一方、破線142、144は、クッション層が裏打ち層に固定された時点の、クッション層116の近位エッジおよび遠位エッジの場所を表す。例えば、クッション層116は、線142、144において、またはその近くで、近位エッジおよび遠位エッジに沿って裏打ち層114に縫い付けられ得る。
図12に示すように、クッション層116の近位エッジを表す線142は、近位フラップ132を作るように距離d
3だけ裏打ち層114の近位エッジ146からオフセットされ得る。一方、クッション層116の遠位エッジを表す線144は、遠位フラップ134を作るように距離d
4だけ裏打ち層114の遠位エッジ148からオフセットされ得る。距離d
3およびd
4は、要望通りに、同じか、または異なっていてよい。例えば、弁のサイズならびに流入クッション部分および流出クッション部分のサイズに応じて、距離d
3およびd
4は、例えば、約3~5mmであってよい。いくつかの実施形態では、距離d
3およびd
4は、約3.5mmであってよい。
【0058】
いったんクッション層116が裏打ち層114に固定されると、結果として得られる見本(swatch)は、折り畳まれ縫合されて円筒形状にされ得る。裏打ち層114のフラップ132、134は、クッション層116のエッジ上に折り返され、縫合されて、流入保護部分120および流出保護部分122を形成し得る。結果として得られる被覆112は、次に、例えば、これを支柱部材104に縫い付けることによって、フレーム102に固定され得る。
【0059】
図13および
図14は、流入保護部分120および流出保護部分122が、弁の流入端部および流出端部においてクッション層116の端部に巻き付けられる別々の材料片で形成される、被覆112の別の実施形態を例示している。例えば、クッション層116の近位端部分130は、流出保護部分122を形成するために、クッション層116の内部表面170(例えばフレームに隣接した表面)から近位端部分130の周方向エッジを越えてクッション層の外部表面118上へとクッション層に巻き付けられる材料のストリップ150として構成された部材によって、覆われ得る。同様に、材料のストリップ部材152が、流入保護部分120を形成するために、クッション層の内部表面170から遠位端部分128の周方向エッジを越えてクッション層の外部表面上へと延びることができる。ストリップ部材150、152は、縫合線154、156それぞれにおいて、クッション層の近位エッジ部分130および遠位エッジ部分128に沿ってクッション層116に縫い付けられ得る。
【0060】
ある構成では、ストリップ部材150、152は、心臓周囲の組織(例えば、ウシの心臓周囲の組織)などの、さまざまな天然材料および/または組織のいずれかから作られ得る。ストリップ部材150、152は、PETおよび/または延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などの、さまざまな合成材料のいずれかで作られてもよい。いくつかの構成では、ストリップ部材150、152を、心臓周囲の組織などの天然の組織から作ることで、強度、耐久性、疲労抵抗、および適合性、ならびにインプラントの周囲の材料または組織とのクッション性および減少した摩擦などの、望ましい特性を提供し得る。
【0061】
図15は、スペーサ布で作られたクッション層204を含む外側被覆202の別の実施形態を含む人工弁200を例示している。例示された実施形態では、外側被覆202は、流入保護部分および流出保護部分なしで示されており、クッション層204が、弁の流入端部から流出端部までフレームの全長に沿って延びている。しかしながら、外側被覆202は、本明細書の他の部分に記載されるように、流入保護部分および/または流出保護部分を含んでもよい。
【0062】
図16および
図17を参照すると、スペーサ布のクッション層は、三次元の布を作るように、第1の層206、第2の層208、および第1の層と第2の層との間に延びるスペーサ層210を含み得る。第1の層206および第2の層208は、織布またはメッシュ層であってよい。ある構成では、第1の層206および第2の層208のうちの1つまたは複数は、それらが複数の開口部212を画定するように、織られ得る。いくつかの実施例では、開口部212などの開口部は、被覆202内への組織成長を促進し得る。他の実施形態では、層206、208は、開口部を画定する必要はないが、要望通りに多孔質であってよい。
【0063】
スペーサ層210は、複数のパイル糸214を含み得る。パイル糸214は、例えば、第1の層206と第2の層208との間の足場状構造体を形成するように配列された、モノフィラメント糸であってよい。例えば、
図16および
図17は、パイル糸214が第1の層206と第2の層208との間を正弦波またはループパターンで延びる、実施形態を例示している。
【0064】
ある実施例では、パイル糸214は、パイル糸214が、第2の層208の重量を受けて潰れずに、第1の層206と第2の層208との間に延びることができるように、第1の層206および第2の層208の布の剛性より大きい剛性を有し得る。パイル糸214は、パイル糸が、負荷を受けると曲がるかまたは崩れて布を圧縮し、負荷が取り除かれると非偏向状態に戻ることができるように十分に弾性であってもよい。
【0065】
スペーサ布は、要望通りに、経編であるか、または緯編であってよい。スペーサ布のいくつかの構成は、ダブルバー編機で作られ得る。代表的な実施例では、第1の層206および第2の層208の糸は、約10dtex~約70dtexのデニール範囲を有し得、モノフィラメントパイル糸214の糸は、約2mil~約10milのデニール範囲を有し得る。パイル糸214は、約20~約100ウェール/インチおよび約30~約110コース/インチの編み密度を有し得る。さらに、いくつかの構成では、異なる可撓性特性を有する(例えば、経編のスペーサ布)材料が、スペーサ布の全体的な可撓性を改善するためにスペーサ布に組み込まれ得る。
【0066】
図19~
図21は、支柱部材の頂点を封入する流入保護部分および流出保護部分を備えた外側被覆を含む人工心臓弁400の別の実施形態を例示している。例えば、人工弁は、頂点420(
図22および
図24)を画定する複数の支柱部材404によって形成されたフレーム402を含み得、流入端部406および流出端部408を有し得る。複数の弁尖410が、少なくとも部分的にフレーム402内部に位置し得る。
【0067】
人工弁は、フレーム402の周りに位置する外側被覆412を含み得る。外側被覆412は、前述した
図13のクッション層116と類似した、フラシ天の外部表面432(例えば、第1の表面)を含む、主要なクッション層414を含み得る。被覆412はまた、弁の流入端部406の周りを周方向に延びる流入保護部分416と、弁の流出端部408の周りを周方向に延びる流出保護部分418とを含み得る。流入保護部分416および流出保護部分418は、保護部分が支柱部材の頂点420を封入するように、弁の流入端部および流出端部においてクッション層414の周方向端部の周りに折られた、別々の材料片で形成され得る。
【0068】
例えば、
図22を参照すると、流入保護部分416は、第1の周方向エッジ部分426および第2の周方向エッジ部分428を含む、材料のストリップ424として構成された部材を含み得る。材料のストリップ部材424は、第1の周方向エッジ部分426がフレーム402内部に配された内側スカート430に隣接する(例えば、接触する)ように、折られ得る。第1の周方向エッジ部分426は、それによって、流入保護部分416の第1の層または内側層を形成する。ストリップ部材424は、第2の周方向エッジ部分428がクッション層414の外部表面432上に配されるように、支柱部材の頂点420の上、およびクッション層414の流入端部分422の上を延びることができる。このように、クッション層414の流入端部分422は、流入保護部分414の第2の層を形成することができ、第2の周方向エッジ部分428は、流入保護部分の第3の層または外側層を形成し得る。ストリップ部材424の第1の周方向エッジ部分426および第2の周方向エッジ部分428は、縫合糸434、435により支柱部材404(例えば、流入端部406に最も近い支柱の段)に固定され得る。よって、ストリップ部材424は、クッション層414の流入端部分422と共に、第1の周方向エッジ部分426と第2の周方向エッジ部分428との間に、頂点420を封入し得る。
【0069】
例示された構成では、流入保護部分416は、前述した実施形態と同じように、フレームの頂点420を越えて延び得る。特に、クッション層414の流入端部分422は、フレームの頂点420を越えて、折られたストリップ424内部の流入保護部分416の中に延び得る。このように、クッション層414の流入端部分422は、ストリップ部材424と共に、弾力的なクッション品質を流入保護部分416に与え得る。これにより、流入保護部分416は、弾力的に変形して、流入保護部分と接触する、例えば天然の組織、他のインプラントなどを収容および保護することも可能となる。
【0070】
例示された実施形態では、流入端部分422は、距離d
1だけ頂点420を越えて延びることができる。距離d
1は、流入保護部分416が、例えば治療部位における天然の組織に接触すると、流入端部分422が頂点420の上を延びるか、または頂点420を覆うことができるように構成され得る。ストリップ部材424は、流入端部分422のエッジ上にドームを形成することもでき、それによって、流入端部分422のエッジは、ストリップ部材424のドーム型部分から離間する。他の実施形態では、ストリップ部材424は、
図13の実施形態と同様に、流入端部分422のエッジに接触するように折られ得る。
【0071】
流出保護部分418は、流入保護部分416と同じように、第1の周方向エッジ部分438が支柱部材の内側表面440に隣接し(例えば、接触し)、第2の周方向エッジ部分442がクッション層414の外部表面432上に配されるように、折られた材料のストリップ436として構成された部材を含み得る。クッション層414の流出端部分444が、距離d2だけ頂点420を越えて延びることができ、第1の周方向エッジ部分438と第2の周方向エッジ部分442との間に、頂点420と共に、ストリップ部材436によって封入され得る。距離d2は、要望通りに、距離d1と同じか、または異なっていてよい。ストリップ部材436は、縫合糸446、447により支柱部材404に固定され得る。ストリップ部材436は、ストリップ部材424と同じように、ドーム型形状を形成することもできる。
【0072】
ある構成では、クッション層414は、前述したように、ベロア布、または任意の他の種類のフラシ天の編物、織物、もしくは不織材料などの、フラシ天パイルを含む布であってよい。いくつかの実施形態では、クッション層414は、フラシ天パイルなしで、比較的厚さの小さい織布を含むこともできる。ある構成では、ストリップ部材424、436は、心膜などの、弾力的な天然の組織材料で作られ得る。あるいは、ストリップ部材は、布または、PTFEもしくはePTFEポリマー材料で作られてもよい。
【0073】
図23~
図26は、外側被覆412を製造し、その被覆を人工弁400に取り付けて流入保護部分416および流出保護部分418を形成する代表的な方法を例示している。
図23は、被覆をフレーム402に固定する前に、折り畳まれていない構成にある外側被覆412を例示している。
図23に例示されるように、ストリップ部材424の第2の周方向エッジ部分428は、クッション層の流入端部分422においてクッション層414のフラシ天表面432(例えば、第1の表面)に縫い付けられ得る。ストリップ部材436の第2の周方向エッジ部分442は、クッション層の流出端部分444においてクッション層414のフラシ天表面432に縫い付けられ得る。
【0074】
例示された構成では、クッション層414およびストリップ部材424、436は、フレーム402の周縁部に対応する長さ寸法Lを有し得る。代表的な実施例では、長さ寸法Lは、約93mmであってよい。ストリップ部材424、436は、それぞれの幅寸法W
1、W
2も有し得る。例示目的で幅寸法W
1を参照すると、幅寸法W
1は、ストリップ部材424が、
図22に示すように、支柱部材の頂点420に接触せずに、弁の内部から弁の外部まで延びるように構成され得る。例えば、幅寸法W
1は、ストリップ部材424が、フレームの流入端部406において支柱部材404の段に隣接したところから、支柱部材の同じ段に隣接する弁の外部まで延び、頂点420の上にドーム型形状を形成するように、構成され得る。ある構成では、幅寸法W
1は約6mmであってよい。幅寸法W
2は、要望通りに、W
1と同じであるか、または異なっていてよい。
【0075】
図24を参照すると、外側被覆412は、折り畳まれ縫合されて円筒形状にされ得る。外側被覆412は次に、クッション層414の第2の表面または内部表面454がフレームの方に向けられるように、フレーム402の周りに位置し得る。ある構成では、フレーム402は、
図24に示すように、既に、内側スカート430および弁尖構造体410を含むこともできる。
【0076】
図25および
図26を参照すると、外側被覆412は次に、フレームに縫い付けられ得る。例えば、
図25に例示されるように、ストリップ部材424は、支柱部材404の隣接する段(例えば、フレームの流入端部に最も近い支柱部材の段)と整列され得る。クッション層414および/またはストリップ部材424は次に、縫合線434において支柱部材404に縫い付けられ得る。ストリップ部材424は次に、フレームの流入端部において頂点420上に折り返され得、第1の周方向エッジ部分426および第2の周方向エッジ部分428は、流入保護部分416を形成するように、縫合線435において互いに縫い付けられ得る。他の実施形態では、ストリップ部材424は、外側被覆412がフレームに縫い付けられる前に流入保護部分416を形成するように折り畳まれて縫合され得る。
【0077】
流出保護部分418は、同様に形成され得る。例えば、ストリップ部材426は、フレームの流出端部408に隣接する支柱部材404の段と整列され得、ストリップ部材426および/またはクッション層414は、支柱部材に縫い付けられ得る。ストリップ部材436は次に、フレームの流出端部において頂点420およびクッション層414上に折り返され得、第1の周方向エッジ部分438および第2の周方向エッジ部分442は、流出保護部分418を形成するように、互いに、また、フレームの流出端部に隣接する支柱部材404の段に、縫い付けられ得る。被覆412は、
図22に示すように、縫合線448および450などの、1つまたは複数の追加の場所において、フレームに縫い付けられてもよい。
【0078】
図27および
図28は、前述し、かつ特許文献3に記載されるフレーム102と同じように、頂点506(
図28)を画定する複数の支柱部材504によって形成されたフレーム502を含む人工心臓弁500の別の実施形態を例示している。人工弁500は、流入端部508および流出端部510を有し得、少なくとも部分的にフレーム内部に位置する弁尖構造体(不図示)を含み得る。
【0079】
人工弁は、フレーム502の周りに位置する外側被覆514を含み得る。外側被覆514は、円筒形状を有し、織布、編布、または編組布(例えば、PET布、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)布、PTFE布など)から作られた、主要なクッション層516(主要層とも呼ぶ)を含み得る。いくつかの実施形態では、主要なクッション層516の布は、フラシ天パイルを含み得る。いくつかの実施形態では、主要なクッション層516の布は、かさ高加工糸を含み得、この糸では、糸の構成繊維が、例えば、ねじられ、ヒートセットされ、ほどかれることによってかさばっていて、それによって、繊維がそれらの変形してねじられた形状を保持し、ボリュームのある布を作る。かさ高加工糸によって提供されるボリュームは、被覆のクッション特性を改善し、かつ、布と周囲の解剖学的組織および/または弁が配備されるアンカー装置との間の摩擦を増加させ得る。
【0080】
外側被覆514は、フレームの流入端部508の周りを周方向に延びる流入保護部分518と、フレームの流出端部510の周りを周方向に延びる流出保護部分520とを含み得る。ある実施形態では、流入保護部分518および流出保護部分520は、以下でさらに説明するように、外側被覆514が一体的な単一の構造となるように、主要なクッション層516の布上に形成され得る。
【0081】
図28を参照すると、主要なクッション層516は、流入保護部分518の一部を形成し得る、弁の流入端部508に隣接して位置する第1の周方向エッジ部分522(流入エッジ部分とも呼ばれる)を含み得る。クッション層516は、流出保護部分520の一部を形成し得る、弁の流出端部510に隣接して位置する第2の周方向エッジ部分524(流出エッジ部分とも呼ばれる)をさらに含み得る。依然として
図28を参照すると、第1の周方向エッジ部分522は、エッジ526を含み得、第2の周方向エッジ部分524は、エッジ528を含み得る。第1の周方向エッジ部分522は、エッジ526がフレーム502の内側に配されるように、支柱部材504の頂点506上に折り返されるか、または巻かれ得る。第2の周方向エッジ部分524は、エッジ528もエッジ522とは反対側でフレームの内側に配されるように、同じようにフレームの流出端部510において頂点506の周りに折り畳まれ得る。
【0082】
例示された構成では、流入保護部分518は、主要なクッション層516の外側表面532上に配された材料の滑らかな層530として構成された、第2の層または外側層を含み得る。流出保護部分520は、主要なクッション層516の外側表面532上に配された材料の第2の滑らかな層または外側の滑らかな層534も含み得る。いくつかの実施形態では、層530および534は、低摩擦材料または滑らかな材料を含む、平滑で厚さの小さいコーティングであってよい。例えば、ある構成では、層530、534の一方または両方は、PTFEまたはePTFEを含み得る。
【0083】
例示された構成では、滑らかな層530は、第1の周方向エッジ536(
図27)および第2の周方向エッジ538(
図28)を有し得る。滑らかな層530は、第1の周方向エッジ536がフレームの外側に配され、第2の周方向エッジ538がフレームの内側に配されるように、主要なクッション層516の外側表面532から、頂点506を越えて延びることができる。滑らかな層534は同様に構成され得、それによって、第1の周方向エッジ540(
図27)がフレームの外側に配され、層534が、フレームの流出端部510の頂点506の上を延び、第2の周方向エッジ542(
図28)がフレームの内側に配される。いったん天然の心臓弁に植え込まれると、保護部分518および520は、頂点506と周囲の解剖学的組織との間の直接接触を防ぐことができる。層530および534の滑らかな材料はまた、人工弁の流入端部および流出端部と接触している天然の弁(例えば、腱)の組織との摩擦を減少させ、それによって、組織への損傷を防ぐことができる。他の実施形態では、主要なクッション層516の外側表面532全体、またはその一部は、流入保護部分518および流出保護部分520に加えてePTFEなどの滑らかなコーティングで覆われ得、それによって、その滑らかなコーティングは、被覆の流入端部から流出端部まで軸方向に延びる。さらに他の実施形態では、クッション層516はPTFE、ePTFEなどといった、滑らかな材料の織り繊維、編み繊維、編組繊維、または電界紡糸繊維から形成され得、流入保護部分および流出保護部分を形成し得る。
【0084】
図29~
図31Bは、被覆514を製造する代表的な方法を例示している。
図29は、円筒形の管状体へと形成された、主要なクッション層516を例示している。
図30を参照すると、クッション層516の第1の周方向エッジ部分522は次に、矢印544の方向に(例えば、管状体の内部表面に向かって内側に)折り返され得、それによって、下方エッジ526は、管状体の内側に来て、管状体の内部表面に接して配される。エッジ部分524は、矢印546で示すように、同じように折り畳まれ得、それによって、上部エッジ528は、管状体の内側に来て、内部表面に接して配される。
【0085】
図31Aおよび
図31Bを参照すると、滑らかな層530、534は次に、主要な層516に付けられて、流入保護部分518および流出保護部分520を形成し得る。ある実施形態では、滑らかな層530、534は、低摩擦材料(例えば、PTFE、ePTFEなど)を、第1の周方向エッジ部分522および第2の周方向エッジ部分524上に電界紡糸することによって、形成され得る。ある実施形態では、電界紡糸によって層530および534を形成することにより、平滑で均一な表面を提供し、層の厚さを、厳密に定められた仕様の範囲内に維持することができる。
【0086】
例えば、層530および534は、比較的薄くすることができ、これにより、弁の全体的なクリンププロファイルを減少させることができる。ある実施形態では、層530および534の厚さは、約10μm~約500μm、約100μm~約500μm、約200μm~約300μm、約200μm、または約300μmであってよい。他の実施形態では、層530および/または534は、浸漬コーティング、スプレーコーティング、または滑らかな材料の薄層を主要なクッション層516に付けるための任意の他の適切な方法によって、作られ得る。完成した外側被覆514は次に、フレーム502の周りに位置させられ、例えば縫合糸、超音波溶接、または任意の他の適切な取付方法を用いて、フレーム502に固定され得る。他の実施形態では、主要なクッション層516は、エッジが折り畳まれる前、かつ/または滑らかな層530および534が付けられる前に、フレーム502の周りに位置され得る。さらに他の実施形態では、滑らかな層530および/または534のうちの一方または両方が、第1の周方向エッジ部分522および第2の周方向エッジ部分524から省略され得る。さらに他の実施形態では、第1の周方向エッジ部分522および第2の周方向エッジ部分524のうちの一方または両方は、フレームの内側に折り畳まれる必要はないが、要望通りに、フレームのそれぞれの流入端部もしくは流出端部まで、またはフレームの外部でフレームの端部を越えて、延びることができる。
【0087】
フレーム502および頂点506を覆うことに加え、外側被覆514は、いくつかの他の重大な利点を提供し得る。例えば、被覆514は、比較的薄く、人工弁が低いクリンププロファイル(例えば、23Fr以下)を達成することを可能にし得る。外側被覆514ならびに保護部分518および520の一体的な単一の構造は、被覆を製造し、それをフレームに固定するのに必要な時間を著しく減少させることもでき、生産収率を増大させ得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、流入保護部分および流出保護部分のうちの一方または両方は、主要な外側被覆から離間した別々の被覆として構成され得、主要な外側被覆に連結されても、連結されなくてもよい。例えば、
図32~
図36は、前述し、また特許文献3に記載されるフレーム102と同様の、頂点606を画定する複数の支柱部材604によって形成されたフレーム602を含む人工心臓弁600の別の実施形態を例示している。人工弁600は、流入端部608および流出端部610を有し得、少なくとも部分的にフレーム内部に位置する複数の弁尖612を含み得る。
【0089】
図34は、例示目的で平たく置いた構成にあるフレーム602の一部を例示している。支柱部材604は、端と端をつないで配列されて、フレーム602の周りを周方向に延びる複数列または段の支柱部材を形成し得る。例えば、
図34を参照すると、フレーム602は、フレームの流入端部608を形成する第1の列または下方列Iの角度が付けられた支柱部材、第1の列より上の第2の列IIの支柱部材、第2の列より上の第3の列IIIの支柱部材、第3の列より上の第4の列IVの支柱部材、および第4の列より上にあり、フレームの流出端部610を形成する第5の列Vの支柱部材を含み得る。フレームの流出端部610において、第5の列Vの支柱部材604は、ジグザグパターンで、交互の角度をなして配列され得る。第5の列Vの支柱部材604は、(僧帽弁に植え込まれる方向に対して)それらの遠位端部で互いに接合されて、頂点606を形成し、また、それらの近位端部の接合部630で互いに接合され得、これにより、交連ウィンドウ638の一部を形成し得る。列I~Vの支柱部材604の追加的な構造および特徴は、特許文献3にさらに詳細に記載されている。
【0090】
図32および
図33に戻ると、人工弁は、フレーム602の周りに位置する第1の被覆614(主要な被覆とも呼ばれる)を含み得る。弁は、フレームの流出端部610において第5の列Vの支柱部材の頂点606および支柱部材604の周りに配された第2の被覆616として構成された、流出保護部分も含み得る。第1の被覆616は、例えば、PET、UHMWPE、PTFEなどから作られた、織布または編布を含み得る。
図33を参照すると、第1の被覆614は、弁の流入端部608に位置する流入端部分618と、弁の流出端部610に位置する流出端部分620とを含み得る。例示された実施形態では、第1の被覆614の流出端部分620は、第5の列Vの支柱部材604からフレームの流入端部に向かって(例えば、上流方向に)オフセットされ得る。言い方を変えれば、第5の列Vの支柱部材604は、第1の被覆614の最も上方の周方向エッジ622を越えて(例えば、人工弁が僧帽弁に植え込まれたときにエッジ622を越えて遠位に)延びることができる。主要な被覆614の最も下方の周方向エッジ624は、弁の流入端部608において第1の列Iの支柱部材604に隣接して配され得る。いくつかの実施形態では、第1の被覆614は、フレームの流入端部608において頂点606の上を延びて、頂点606を覆うことができる。
【0091】
図35は、第2の被覆616および内側スカート640を含み、例示目的で第1の被覆614がない、フレーム602を例示している。ある実施形態では、第2の被覆616は、フレーム602の周縁部の周りを延び、第5の列Vの支柱部材604を囲む、包装材料として構成され得る。例えば、
図36を参照すると、被覆616は、矢印632で示すような方向にフレームの流出端部610において第5の列Vの支柱部材の頂点606および支柱604にらせん状に巻き付けられた、材料の1つまたは複数のストラップまたはストリップ626として構成され得る。ある構成では、第2の被覆616は、PTFE、ePTFE、UHMWPE、ポリウレタンなどといった、滑らかなまたは低摩擦ポリマー材料で作られ得る。このように、第2の被覆616は、第2の被覆と、弁の流出端部610と接触している天然の組織との間の摩擦を減少させることができる。被覆616は、天然の組織が頂点606に直接接触するのを防ぐことによって、天然の組織への傷害を防ぐこともできる。
【0092】
いくつかの実施形態では、ストリップ626は、第2の被覆616のクッション特徴を改善するために、比較的厚くてよい。例えば、いくつかの実施形態では、ストリップ626は、約0.1mm~約0.5mmの厚さ、約3mm~約10mmの幅を有する、PTFEストリップであってよい。代表的な実施形態では、ストリップ626は、約0.25mmの厚さ、および約6mmの幅を有し得る。第2の被覆616は、1つまたは複数の層を含むこともできる。例えば、第2の被覆616は、フレームの支柱の列に巻き付けられた単一の層(例えば、単一のストリップ626)を含み得る。第2の被覆は、フレームの支柱の列に巻き付けられたストリップの、2つの層、3つの層、またはそれより多い層を含むこともできる。いくつかの実施形態では、第2の被覆616は、種々の材料で作られた複数の層を含み得る。ある構成では、第2の被覆616は、多孔質であってもよく、第2の被覆の材料内への組織の内部成長を促進するように構成された細孔径および細孔密度を有し得る。
【0093】
いくつかの実施形態では、第1の被覆614および/または第2の被覆616は、例えば縫合によって、フレームに固定され得る。いくつかの実施形態では、第1の被覆614および第2の被覆616は、互いに固定されてもよい。例えば、
図32および
図33を参照すると、第1の被覆614は、例えばランニングステッチで、第1の被覆の流出端部分620の周りを周方向に延びる1つまたは複数の縫合糸628を含み得る。第5の列Vの支柱部材604の接合部630(
図34)において、またはその近くに、縫合糸628は、ステッチ線から(例えば、被覆614の半径方向外向き表面から)延びて、第2の被覆616の上でループになり得る。縫合糸628は次に、(例えば、被覆614の半径方向内向き表面上で)被覆614に再び入り、ランニングステッチを再開することができる。例示された実施形態では、縫合糸628は、接合部630において第2の被覆616の上でループになり得る。縫合糸628のループは、それによって、頂点606間の「谷」に位置し、第2の被覆616を支柱部材602上の所定の場所に保持するのに役立ち得る。縫合糸628はまた、弁がクリンプされている間に第1の被覆614を所定の場所に保持することもできる。
【0094】
依然として
図32および
図33を参照すると、第1の被覆614の周方向エッジ622は、比較的まっすぐであってよく、第2の被覆616は、第5の列Vの支柱部材604の角度が付けられたパターンまたはジグザグパターンに一致し得る。このように、第1の被覆614および第2の被覆616は、第1の被覆と第2の被覆との間でフレーム602を通る複数の隙間または開口部634を画定し得る。例示された実施形態では、開口部634は、三角形の形状を有し、三角形の底辺は第1の被覆614のエッジ622によって画定され、辺は第2の被覆616によって画定されている。開口部634は、弁600が植え込まれた後で、血液が開口部を通ってフレーム602に流入し、かつ/またはフレーム602から流出し得るように、構成され得る。このように、フレーム602の内部と弁尖612の心室表面638との間の空間は、人工弁の動作中に開口部634に流入し、かつここから流出する血液で洗い流されるか、または洗浄され得る。これにより、血栓形成および左心室の流出路の妨害のリスクを減少させることができる。
【0095】
図37は、送達器具のシャフト636上で半径方向に潰れるか、またはクリンプされた送達構成にある、第2の被覆616を含むフレーム602を例示している。
図37に示すように、第2の被覆616は、支柱部材604が半径方向に潰れた構成へと移動する際の、支柱部材604の、密に押し固められて曲がりくねった形状に一致し得る。ある構成では、第2の被覆616は、低いクリンププロファイルを維持するために、膨らみ、プリーツ加工、ヒダ、または集積のない、支柱部材604の形状および方向に密接に似ていてよい。他の実施形態では、フレームの流入端部は、被覆616と同じように別個の被覆を含むこともできる。
【0096】
図38A、
図38B、
図39A、および
図39Bは、別の実施形態による、外側被覆700を含む
図19~
図26の人工弁400を例示している。外側被覆700は、フラシ天の外部表面704を有する主要なクッション層702を含み得る。被覆700はまた、弁の流入端部406の周りを周方向に延びる流入保護部分706と、弁の流出端部408の周りを周方向に延びる流出保護部分708とを含み得る。
図19~
図26の実施形態に見られるように、流入保護部分706および流出保護部分708は、主要な層702の周方向端部の周りに折り畳まれた別々の材料片で形成され得、それによって、クッション部分は、弁の流入端部および流出端部において支柱部材の頂点420を封入する。例えば、流入保護部分706および流出保護部分708は、折り畳まれた材料(例えば、PTFE、ePTFEなどといったポリマー材料、または心膜などといった天然の組織)のストリップから構成され得、それによって、ストリップの一方の周方向エッジがフレーム402の内部(もしくは、フレーム内部の内側スカート)に接して配され、かつ他方の周方向エッジが主要な層702の外側表面に接して配される。外側被覆700は、例えば、縫合糸、超音波溶接、または任意の他の適切な取付方法を用いて、フレーム402に固定され得る。
【0097】
外側被覆700の主要な層702は、織布または編布を含み得る。主要な層702の布は、第1の自然なまたは弛緩構成(
図38Aおよび
図38B)と、第2の細長いかまたは引張構成(
図39Aおよび
図39B)との間で弾力的に伸縮可能であってよい。フレーム402上に配されると、弛緩構成は、人工弁の半径方向に拡張した機能的構成に対応し得、細長い構成は、弁の半径方向に潰れた送達構成に対応し得る。よって、
図38Aを参照すると、外側被覆700は、以下でさらに詳細に説明するように、人工弁が拡張した構成にあるときに第1の長さL
1を、弁が送達構成にクリンプされるとL
1より長い第2の長さL
2(
図39A)を、有し得る。
【0098】
布は、複数の周方向に延びる経糸712と、複数の軸方向に延びる緯糸714とを含み得る。いくつかの実施形態では、経糸712は、約1D~約300D、約10D~約200D、または約10D~約100Dのデニールを有し得る。いくつかの実施形態では、経糸712は、約0.01mm~約0.5mm、約0.02mm~約0.3mm、または約0.03mm~約0.1mmの厚さt
1(
図40A)を有し得る。いくつかの実施形態では、経糸712は、約0.03mm、約0.04mm、約0.05mm、約0.06mm、約0.07mm、約0.08mm、約0.09mm、または約0.1mmの厚さt
1を有し得る。代表的な実施形態では、経糸712は、約0.06mmの厚さを有し得る。
【0099】
緯糸714は、複数のかさ高加工フィラメント(texturized filament)716を含むかさ高加工糸であってよい。例えば、緯糸714のフィラメント716は、かさばり得、例えば、フィラメント716は、ねじられ、ヒートセットされ、ほどかれ、それによって、フィラメントは、弛緩した非伸張構成において、それらの変形してねじられた形状を保持する。フィラメント716は、クリンピング、コイリングなどによってテクスチャを付けることもできる。緯糸714が弛緩した非引張状態にあるとき、フィラメント716は、緩く押し固められ得、布、ならびにフラシ天表面に、圧縮可能なボリュームまたはかさを提供し得る。いくつかの実施形態では、緯糸714は、約1D~約500D、約10D~約400D、約20D~約350D、約20D~約300D、または約40D~約200Dのデニールを有し得る。ある実施形態では、緯糸714は、約150Dのデニールを有し得る。いくつかの実施形態では、緯糸714のフィラメント数は、2フィラメント/糸~200フィラメント/糸、10フィラメント/糸~100フィラメント/糸、20フィラメント/糸~80フィラメント/糸、または約30フィラメント/糸~60フィラメント/糸であってよい。さらに、軸方向に延びるテキスチャード糸714は、例示された構成では緯糸と呼ばれるが、布は、軸方向に延びるテキスチャード糸が経糸であり、周方向に延びる糸が緯糸となるように、製造することもできる。
【0100】
図40Aおよび
図40Bは、主要な層702の断面図を例示しており、緯糸712が頁の平面内に延びている。
図40Aを参照すると、主要な層702の布は、弛緩状態にあり、かつフレームに固定されると、約0.1mm~約10mm、約1mm~約8mm、約1mm~約5mm、約1mm~約3mm、約0.5mm、約1mm、約1.5mm、約2mm、約2.5mm、または約3mmの厚さt
2を有し得る。いくつかの実施形態では、主要な層702は、押さえ金を有する、重りの付いたドロップゲージ(weighted drop gauge)で、弛緩状態において測定すると、約0.1mm、約0.2mm、約0.3mm、約0.4mm、または約0.5mmの厚さを有し得る。代表的な実施例では、主要な層702は、弛緩状態において人工弁フレームに固定されると、約1.5mmの厚さを有し得る。これにより、主要な層702の布は、弁本体と弁が植え込まれるアンカーまたはリングとの間で弁尖にクッションを付け、解剖学的組織内の空隙または空間を占めることができる。弛緩状態にある緯糸714の、緩く押し固められた、かさ高加工フィラメント716は、主要な層702内への組織成長を促進することもできる。
【0101】
布が弛緩状態にあるとき、緯糸714のテキスチャードフィラメント(textured filament)716は、
図38Aおよび
図38Bにおいて見られるように、個々の緯糸が容易に見分けられないように広く分散され得る。引っ張られると、緯糸714のフィラメント716は、布が伸びて厚さが減少するように、緯糸が伸び、フィラメントのよじれ、ねじれなどがまっすぐ引っ張られるにつれて、一緒に引っ張られ得る。ある実施形態では、十分な引張力が、軸方向(例えば、緯糸方向)において布に加えられると、例えば、人工弁が送達シャフト上にクリンプされると、テキスチャード繊維(textured fiber)716は、
図39Bおよび
図40Bに最も良く示されているように、個々の緯糸714を見分けることができるように、一緒に引っ張られ得る。
【0102】
よって、例えば、十分に伸びると、主要な層702は、
図40Bに示すように、厚さt
2未満である第2の厚さt
3を有し得る。ある実施形態では、引っ張られた緯糸714の厚さは、経糸712の厚さt
1と同じか、またはほぼ同じであってよい。よって、ある実施例では、伸びると、布は、例えば緯糸714の平坦化の量に応じて、経糸712の厚さt
1の3倍と同じか、またはほぼ同じである厚さt
3を有し得る。したがって、経糸712が約0.06mmの厚さを有する、前述した実施例では、主要な層702の厚さは、布が伸び、かつ弛緩するにつれて、約0.2mm~約1.5mmの間で変化し得る。言い方を変えれば、布の厚さは、布が伸び、また弛緩するにつれて、750%以上だけ変化し得る。
【0103】
さらに、
図40Aに示すように、経糸712は、外側被覆が弛緩状態にあるときに、布において距離y
1だけ互いから離間し得る。
図39Bおよび
図40Bに示すように、引張力が、経糸712に垂直かつ緯糸714に平行な方向において布に加えられると、経糸712間の距離は、緯糸714が長くなるにつれて、増加し得る。緯糸714が長くなって経糸712のおよそ直径まで狭まるように布が伸びている、
図40Bに例示する実施例では、経糸712間の距離は、距離y
1より大きい新たな距離y
2まで増加し得る。
【0104】
ある実施形態では、距離y
1は、例えば、約1mm~約10mm、約2mm~約8mm、または約3mm~約5mmであってよい。代表的な実施例では、距離y
1は、約3mmであってよい。いくつかの実施形態では、布が
図39Bおよび
図40Bに見られるように伸びると、距離y
2は、約6mm~約10mmであってよい。よって、ある実施形態では、外側被覆700の長さは、弛緩した長さL
1と完全に伸びた長さ(例えば、L
2)との間で100%以上だけ変化し得る。布がこのように長くなる能力により、人工弁は、外側被覆が伸びる能力によって制限されることなく、例えば23Frの直径までクリンプされることが可能である。よって、外側被覆700は、人工弁がその機能的サイズまで拡張されると、柔らかくなり、かつボリュームを出すことができ、人工弁が人工弁の全体的なクリンププロファイルを最小限にするようにクリンプされると、比較的薄くなり得る。
【0105】
図41A、
図41B、
図42A、および
図42Bは、別の実施形態による、人工心臓弁(例えば、人工心臓弁400など)のための外側密封部材または被覆800を示す。密封部材800は、ベース層802およびパイル層804を含む二重層の布であってよい。
図41Aは、パイル層804によって画定された密封部材800の外側表面を示す。
図42Aは、ベース層802によって画定された密封部材800の内側表面を示す。例示された構成にあるベース層802は、より低密度のメッシュ部分の列またはストライプ808が組み入れられた、より高密度のメッシュ部分の周方向に延びる列またはストライプ806を有する、メッシュ織りを含む。
【0106】
特定の実施形態では、周方向に(
図42Aおよび
図42Bでは左右または水平方向に)延びる糸の糸数は、より高密度の列806のほうが、より低密度の列808より多い。他の実施形態では、周方向に延びる糸の糸数、ならびに軸方向(
図42Aおよび
図42Bでは垂直方向に)延びる糸の糸数は、より高密度の列806のほうが、より低密度の列808より多い。
【0107】
パイル層804は、ベース層802へと織られた糸から形成され得る。例えば、パイル層804は、ベース層802に組み込まれた糸から形成されたベロア織りを含み得る。
図41Bを参照すると、パイル層804は、密封部材800の高さに沿って軸方向に離間した場所に形成されたパイルの周方向に延びる列またはストライプ810を含み得、それによって、隣り合う列810間に、軸方向に延びる隙間がある。このように、パイル層の密度は、密封部材の高さに沿って変化する。代替的な実施形態では、パイル層804は、パイルの隣り合う列間の隙間なしで形成され得るが、パイル層は、より低密度のパイルの列またはストライプが組み入れられた、より高密度のパイルの周方向に延びる列またはストライプを含み得る。
【0108】
代替的な実施形態では、ベース層802は、均一のメッシュ織り(織りパターンの密度が均一である)を含み得、パイル層804は、さまざまな密度を有する。
【0109】
代替的な実施形態では、密封部材800の密度は、密封部材の周縁部に沿って変化し得る。例えば、パイル層804は、パイル糸の複数の軸方向に延び、周方向に離間した列、または代わりに、より低密度のパイルの軸方向に延びる列が組み入れられた、より高密度のパイルの軸方向に延びる交互の列を含み得る。同様に、ベース層802は、より低密度のメッシュの列が組み入れられた、より高密度のメッシュの複数の軸方向に延びる列を含み得る。
【0110】
他の実施形態では、密封部材800は、密封部材の周縁部に沿って、また密封部材の高さに沿って、密度が変化する、ベース層802および/またはパイル層804を含み得る。
【0111】
密封部材800の高さおよび/または周縁部に沿ってパイル層804および/またはベース層802の密度を変化させることは、半径方向に潰れた状態において密封部材のかさばりを減少させ、したがって人工心臓弁の全体的なクリンププロファイルを低減させる点で、有利である。
【0112】
ある実施形態では、外側被覆800は、前述した保護部分416および418と同様の流入保護部分および/または流出保護部分を含み得る。しかしながら、他の実施形態では、外側被覆800は、保護部分を含む必要はなく、特定の適用に応じて、フレームの支柱部材の上列と下列との間、または支柱部材の中間列の間を、延びることができる。
【0113】
本明細書に記載される人工弁被覆の実施形態は僧帽弁修復の状況で提示されているが、開示された被覆は、心臓内の弁のいずれかに植え込まれるさまざまな人工心臓弁のいずれかと組み合わせて使用され得ることを、理解されたい。例えば、本明細書に記載される人工弁被覆は、経カテーテル的心臓弁、外科用心臓弁、低侵襲性心臓弁などと組み合わせて使用され得る。被覆の実施形態は、心臓の天然の輪のいずれか(例えば、大動脈、肺、僧帽弁、および三尖弁輪)において植え込まれることが意図された弁において使用され、既存の人工弁内部に植え込まれること(いわゆる「valve-in-valve」処置)が意図された弁を含み得る。被覆の実施形態は、心臓の外側の他の身体管腔内部に植え込み可能な他の種類の装置、または天然の弁以外の場所で心臓内部に植え込み可能である心臓弁、例えば経心房もしくは経心室隔壁弁と組み合わせて、使用されてもよい。
【0114】
一般論
この説明の目的で、本開示の実施形態のある態様、利点、および新規な特徴が本明細書に記載されている。開示された方法、器具、およびシステムは、決して制限するものと解釈すべきではない。代わりに、本開示は、単独の、また、互いとのさまざまな組み合わせおよび部分的組み合わせにおける、さまざまな開示された実施形態のすべての新規かつ非自明の特徴および態様に向けられている。方法、器具、およびシステムは、任意の特定の態様もしくは特徴またはその組み合わせに制限されず、開示された実施形態は、任意の1つまたは複数の特定の利点が存在するか、もしくは問題が解決されることを必要としない。
【0115】
開示された実施形態のうちのいくつかの動作は、都合よく表示するために具体的な順序で記載されているが、この記載方法は、特定の順序が以下に記載する特定の言い回しにより必要とされない限り、並べ替えを含むことを理解されたい。例えば、連続して記載される動作は、場合によっては、並べ替えられるか、または同時に実行され得る。さらに、単純にするために、添付図面は、開示された方法が他の方法と共に使用され得る、さまざまな方法を示すわけではない場合がある。さらに、説明は、時には、開示された方法を説明するために、「提供する」または「達成する」などの用語を使用する。これらの用語は、実行される実際の動作の高レベルな抽象概念である。これらの用語に対応する実際の動作は、特定の実施態様に応じて変化し得、当業者が容易に認識できるものである。
【0116】
本出願および特許請求の範囲で使用される、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、別段文脈で明白に指示されない限り、複数形を含む。さらに、用語「含む(includes)」は、「含む(comprises)」を意味する。さらに、用語「連結される(coupled)」および「関連付けられる(associated)」は、一般的には、電気的、電磁気的、かつ/または物理的に(例えば、機械的もしくは化学的に)連結されるか、または結合されることを意味し、特定の逆の言い回しがなければ、連結されるか、または関連付けられたアイテム間の中間要素の存在を排除するものではない。
【0117】
本出願の文脈では、用語「下方」および「上方」は、用語「流入」および「流出」それぞれと互換的に使用される。よって、例えば、弁の下方端部は、その流入端部であり、弁の上方端部は、その流出端部である。
【0118】
本明細書で使用される、用語「近位」は、ユーザに近く、かつ植え込み部位から離れている、装置の位置、方向、または部分を指す。本明細書で使用される、用語「遠位」は、ユーザから離れ、植え込み部位に近い、装置の位置、方向、または部分を指す。よって、例えば、装置の近位運動は、ユーザに向かう装置の運動であり、装置の遠位運動は、ユーザから離れる装置の運動である。用語「長手方向」および「軸方向」は、別段明白な定義がない限り、近位方向および遠位方向に延びる軸を指す。
【0119】
開示される技術の原理が適用され得る、多くの可能な実施形態を鑑みて、例示された実施形態は、好適な実施例に過ぎず、開示の範囲を制限するものとして理解すべきでないことを、認識されたい。むしろ、開示の範囲は、少なくとも以下の特許請求の範囲と同じほどの広さである。
【符号の説明】
【0120】
1 人工弁
2 流入端部
3 流出端部
10 フレーム
11 交連取付ポスト
12 支柱部材
13 支柱部材
14 頂点
20 弁尖構造体
30 スカート
40 細線
60 リングアンカー
70 螺旋アンカー
80 心臓
82 左心房
84 左心室
86 僧帽弁
88 弁尖
90 腱索
92 乳頭筋
100 人工心臓弁
102 フレーム
104 支柱部材
106 流入端部
108 流出端部
110 弁尖
112 外側被覆
114 裏打ち層
116 クッション層
118 フラシ天表面
120 流入保護部分
122 流出保護部分
124 頂点
126 長手方向軸
128 遠位端部分
130 近位端部分
132 近位フラップ
134 遠位フラップ
136 クッション部分
138 ステンシル
146 近位エッジ
148 遠位エッジ
150 ストリップ部材
152 ストリップ部材
154 縫合線
156 縫合線
158 パイル
162 ベース層
164 パイル糸
166 ループ
170 内部表面
200 人工弁
202 外側被覆
204 クッション層
206 第1の層
208 第2の層
210 スペーサ層
212 開口部
214 パイル糸
300 螺旋アンカー
302 中心領域
304 下方領域
306 上方領域
308 延長部分
310 貫通孔
400 人工心臓弁
402 フレーム
404 支柱部材
406 流入端部
408 流出端部
410 弁尖
412 外側被覆
414 クッション層
416 流入保護部分
418 流出保護部分
420 頂点
422 流入端部分
424 ストリップ部材
426 第1の周方向エッジ部分
428 第2の周方向エッジ部分
430 内側スカート
432 外部表面
434 縫合糸
435 縫合糸
436 ストリップ部材
438 第1の周方向エッジ部分
440 内側表面
442 第2の周方向エッジ部分
444 流出端部分
446 縫合糸
447 縫合糸
448 縫合線
450 縫合線
454 第2の表面
500 人工心臓弁
502 フレーム
504 支柱部材
506 頂点
508 流入端部
510 流出端部
514 外側被覆
516 クッション層
518 流入保護部分
520 流出保護部分
522 第1の周方向エッジ部分
524 第2の周方向エッジ部分
526 エッジ
528 エッジ
530 滑らかな層
532 外側表面
534 第2の滑らかな層
536 第1の周方向エッジ
538 第2の周方向エッジ
540 第1の周方向エッジ
542 第2の周方向エッジ
600 人工弁
602 フレーム
604 支柱部材
606 頂点
608 流入端部
610 流出端部
612 弁尖
614 第1の被覆
616 第2の被覆
618 流入端部分
620 流出端部分
622 最も上方の周方向エッジ
624 最も下方の周方向エッジ
626 ストリップ
628 縫合糸
630 接合部
634 開口部
636 シャフト
638 交連ウィンドウ
640 内側スカート
700 外側被覆
702 クッション層
704 フラシ天の外部表面
706 流入保護部分
708 流出保護部分
712 経糸
714 緯糸
716 かさ高加工フィラメント
800 密封部材
802 ベース層
804 パイル層
806 列
808 列
810 列
【外国語明細書】