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特開2022-168043歯磨組成物及び歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168043
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】歯磨組成物及び歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61Q 11/00 20060101AFI20221027BHJP
   A61K 8/21 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61Q11/00
A61K8/21
A61K8/34
A61K8/46
A61K8/92
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141467
(22)【出願日】2022-09-06
(62)【分割の表示】P 2020153850の分割
【原出願日】2015-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 将人
(72)【発明者】
【氏名】山本 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】川延 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小島 和晃
(57)【要約】
【課題】イソプロピルメチルフェノールの容器への吸着が抑制され、経時においてイソプロピルメチルフェノールが安定化した、歯周疾患の予防又は抑制用として好適な歯磨組成物及び歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法を提供する。
【解決手段】(A)イソプロピルメチルフェノール、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)ノニオン性界面活性剤
を配合し、最内層がポリエチレンからなる容器に充填した歯磨組成物に、
(D)フッ素化合物をフッ素として1,100~3,000ppm
配合したことを特徴とする歯磨組成物、及び上記(A)、(B)、(C)成分を配合し、上記容器に充填した歯磨組成物に、(D)成分を上記量で配合する、前記歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソプロピルメチルフェノール、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)エチレンオキサイドの平均付加モル数20~100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
を配合し、(B)/(C)が質量比として0.4~1.3であり、最内層がポリエチレンからなる容器に充填した歯磨組成物に、
(D)フッ素化合物をフッ素として1,100~3,000ppm
配合したことを特徴とする歯磨組成物(但し、加水分解シルク、又はアスコルビン酸リン酸エステルもしくはその塩を含有するものを除く。)。
【請求項2】
上記容器の最内層への(A)成分の吸着抑制剤として(D)成分を配合したものである請求項1記載の歯磨組成物。
【請求項3】
(A)成分を0.01~0.3質量%、(B)成分を0.6~2.5質量%、(C)成分を0.5~3質量%配合した請求項1又は2記載の歯磨組成物。
【請求項4】
(B)/(C)が質量比として0.5~1.2である請求項1~3のいずれか1項記載の歯磨組成物。
【請求項5】
更に、研磨剤を5~40質量%配合した請求項1~4のいずれか1項記載の歯磨組成物。
【請求項6】
練歯磨である請求項1~5のいずれか1項記載の歯磨組成物。
【請求項7】
容器の最内層へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制用である請求項1~6のいずれか1項記載の歯磨組成物。
【請求項8】
(A)イソプロピルメチルフェノール、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)エチレンオキサイドの平均付加モル数20~100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
を配合し、(B)/(C)が質量比として0.4~1.3であり、最内層がポリエチレンからなる容器に充填した歯磨組成物(但し、加水分解シルク、又はアスコルビン酸リン酸エステルもしくはその塩を含有するものを除く。)に、
(D)フッ素化合物をフッ素として1,100~3,000ppm
配合することを特徴とする、前記歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
【請求項9】
(B)/(C)が質量比として0.5~1.2である請求項8記載の歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
【請求項10】
更に、研磨剤を5~40質量%配合した歯磨組成物である請求項8又は9記載の歯磨組成物における容器の最内層へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
【請求項11】
歯磨組成物が練歯磨である請求項8~10のいずれか1項記載の歯磨組成物における容器の最内層へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプロピルメチルフェノールの容器への吸着が抑制され、経時においてイソプロピルメチルフェノールが安定化した、歯周疾患の予防又は抑制用として好適な歯磨組成物及び歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕、歯周病の2大口腔疾患の原因は、口腔内バイオフィルム中の各種細菌にあると考えられている。特に歯周病は、ポルフィロモナス・ジンジバリス等の偏性嫌気性グラム陰性桿菌を主とした細菌による感染症であり、殺菌剤の選定基準としてはバイオフィルムへの浸透力が重要となる。
難水溶性の殺菌剤であるイソプロピルメチルフェノールは、口腔バイオフィルム浸透性が高いことから、イソプロピルメチルフェノールを用いた歯磨剤が上市されている。
【0003】
しかしながら、イソプロピルメチルフェノールは、難水溶性成分であるため、口腔用組成物に配合してチューブ等の容器に充填すると、特に可溶化状態が不十分な場合、容器素材として使用するポリエチレン等の樹脂に吸着し、安定性が低下するという問題があった。
【0004】
このような容器吸着の問題に対して、特許文献1~3には、容器面から難水溶性殺菌剤を安定配合する技術が提案されているが、これらの技術は、容器製造にかかわる新たな課題が生じるという問題があり、このため、容器に充填される内容物の面から難水溶性殺菌剤を安定化することが有効である。
【0005】
充填する内容物の面から、容器への吸着を抑制する技術として、特許文献4~7には、難水溶性殺菌剤と共に適切な界面活性剤や硫酸ナトリウム等の塩を歯磨剤組成物に配合することによって難水溶性殺菌剤の経時における残存率を向上する技術が提案されている。特許文献4、5では、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、あるいはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びカチオン性界面活性剤によってイソプロピルメチルフェノールの残存率が改善し、特許文献6では、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び硫酸ナトリウムによってイソプロピルメチルフェノールの保存後の殺菌力が改善することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-288820号公報
【特許文献2】特開平6-92830号公報
【特許文献3】特開平6-279248号公報
【特許文献4】特開2003-292426号公報
【特許文献5】特開2005-179266号公報
【特許文献6】特開2008-115115号公報
【特許文献7】特開2012-136446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ノニオン性界面活性剤や塩の配合量が多くなるほど、イソプロピルメチルフェノールの殺菌力の低下や製剤安定性の低下を引き起こすという問題があり、このため、イソプロピルメチルフェノールの容器への吸着を抑制して安定性を向上する新たな技術の開発が望まれた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、イソプロピルメチルフェノールの容器への吸着が抑制され、経時においてイソプロピルメチルフェノールが安定化した歯磨組成物及び歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、(A)イソプロピルメチルフェノールと共に、(B)アニオン性界面活性剤、(C)ノニオン性界面活性剤を配合し、最内層がポリエチレンからなる容器に充填した歯磨組成物に、(D)フッ素化合物をフッ素として1,100~3,000ppm配合することによって、イソプロピルメチルフェノールの前記容器への吸着が抑制され、経時においてイソプロピルメチルフェノールが安定化すること、また、十分かつ適度な泡立ち、製剤の外観安定性を確保できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
一般的に歯磨組成物にはフッ素が添加されるが、一般的にその濃度は1,000ppm以下程度であり、このような1,100ppmに満たないフッ素濃度でフッ素化合物を添加したのでは、(A)成分と共に(B)、(C)成分を組み合わせ上記容器に充填した歯磨組成物において、イソプロピルメチルフェノールの容器吸着を抑制できないにもかかわらず、(D)成分のフッ素化合物をフッ素として1,100ppm以上という高濃度で使用すると、意外にも、(D)成分のフッ素化合物が吸着抑制剤として作用してイソプロピルメチルフェノールの容器吸着が抑制され、上記格別な作用効果を与える。
この場合、歯磨組成物に(A)イソプロピルメチルフェノールを配合し、泡立ち確保のために(B)アニオン性界面活性剤を配合し、かつイソプロピルメチルフェノールを可溶化させるために(C)ノニオン性界面活性剤を配合しても、イソプロピルメチルフェノールが容器に吸着して残存率が経時で低下するという問題が解決できず、ノニオン性界面活性剤の増量は製剤安定性の低下、更にはイソプロピルメチルフェノールの殺菌力低下を招き、また、アニオン性界面活性剤の増量は可溶化バランスの崩れ、それによる容器吸着の増加を招いた。そこで、本発明者らは、製剤安定性等を低下させることなく十分かつ適度な泡立ちを確保してイソプロピルメチルフェノールの容器吸着を抑制するため、更に検討を進めた結果、(A)、(B)、(C)成分の組み合わせにおいて、(D)成分のフッ素化合物が上述したように吸着抑制剤として特異的に作用し、これによって、イソプロピルメチルフェノールが経時において高率で残存する安定性を与え、また、十分かつ適度な泡立ち、60℃で1ヶ月保存しても液分離を抑制できる製剤の外観安定性を与えることもできた。更には、味を良好に保つこともできた。よって、本発明の歯磨組成物によれば、イソプロピルメチルフェノールを効果的に作用させ、その口腔バイオフィルム浸透殺菌力を十分に発現させることが可能となり、歯周疾患の予防又は抑制に好適に使用することができる。
【0011】
界面活性剤、硫酸ナトリウム等の塩によって難水溶性殺菌剤の容器への吸着を抑制し、残存率を向上した特許文献4~7から、フッ素化合物によってイソプロピルメチルフェノールが安定化することは予測できない。
【0012】
従って、本発明は、下記の歯磨組成物及び歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法を提供する。
請求項1:
(A)イソプロピルメチルフェノール、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)ノニオン性界面活性剤
を配合し、最内層がポリエチレンからなる容器に充填した歯磨組成物に、
(D)フッ素化合物をフッ素として1,100~3,000ppm
配合したことを特徴とする歯磨組成物。
請求項2:
(C)ノニオン性界面活性剤が、エチレンオキサイドの平均付加モル数20~100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及び/又は炭素数10~18のアルキル基を有する、エチレンオキサイドの平均付加モル数5~40のポリオキシエチレンアルキルエーテルである請求項1記載の歯磨組成物。
請求項3:
(B)アニオン性界面活性剤が、ラウリル硫酸ナトリウムである請求項1又は2記載の歯磨組成物。
請求項4:
(A)成分を0.01~0.3質量%、(B)成分を0.6~2.5質量%、(C)成分を0.5~3質量%配合した請求項1、2又は3記載の歯磨組成物。
請求項5:
(B)/(C)が質量比として0.2~3である請求項1~4のいずれか1項記載の歯磨組成物。
請求項6:
更に、研磨剤を配合した請求項1~5のいずれか1項記載の歯磨組成物。
請求項7:
(A)イソプロピルメチルフェノール、
(B)アニオン性界面活性剤、
(C)ノニオン性界面活性剤
を配合し、最内層がポリエチレンからなる容器に充填した歯磨組成物に、
(D)フッ素化合物をフッ素として1,100~3,000ppm
配合することを特徴とする、前記歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
請求項8:
(B)/(C)が質量比として0.2~3である請求項7記載の歯磨組成物における容器へのイソプロピルメチルフェノールの吸着抑制方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イソプロピルメチルフェノールの容器吸着が抑制され、イソプロピルメチルフェノールが経時において安定化し、また、十分かつ適度な泡立ち、製剤の外観安定性が良好な歯磨組成物を提供でき、この歯磨組成物は、イソプロピルメチルフェノールを効果的に作用させてその口腔バイオフィルム浸透殺菌力を十分に発現させることが可能であり、歯周疾患の予防又は抑制用として好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳述する。本発明の歯磨組成物は、(A)イソプロピルメチルフェノール、(B)アニオン性界面活性剤、(C)ノニオン性界面活性剤、(D)フッ素化合物を含有する。
【0015】
本発明において、(A)イソプロピルメチルフェノールの含有量は、組成物全体の0.01~0.3%(質量%、以下、同様。)が好ましく、より好ましくは0.02~0.1%である。配合量が多いほど殺菌効果が高まり、0.01%以上であると、十分な殺菌効果が発揮され、イソプロピルメチルフェノールの安定性を十分に確保できる。0.3%以下であることが、味を良好に確保するには好適である。
【0016】
(B)アニオン性界面活性剤としては、特に制限はされないが、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアシルサルコシン酸塩、ラウロイルメチルタウリンナトリウム等のアシルタウリン塩、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム等のN-アシルアミノ酸塩、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム等のN-アシルスルホン酸塩、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩などが挙げられる。これらのうち、泡立ちや味の点で、アルキル硫酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシルタウリン塩、N-アシルアミノ酸塩、特にアルキル硫酸塩、とりわけラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0017】
(B)アニオン性界面活性剤の含有量は、組成物全体の0.6%以上、特に0.6~2.5%が好ましく、より好ましくは0.8~1.8%である。0.6%以上であると十分な泡立ちを確保できる。2.5%以下であることが、イソプロピルメチルフェノールの安定性、製剤の外観安定性を十分に確保するには好適である。
【0018】
(C)ノニオン性界面活性剤としては、特に制限はされないが、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルキロールアミド、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらのうち、イソプロピルメチルフェノールの安定性や味の点で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が20~100モルであるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、炭素数10~18のアルキル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5~40モルであるポリオキシエチレンアルキルエーテル、炭素数10~22の脂肪酸を有し、1つの脂肪酸をエステル化したモノエステルの割合が50%以上であるショ糖脂肪酸エステル、炭素数8~16のアルキル基を有するアルキルグリコシドが好ましく、特にエチレンオキサイドの平均付加モル数が20~100モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、炭素数10~18のアルキル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5~40モルのポリオキシエチレンアルキルエーテル、とりわけエチレンオキサイドの平均付加モル数が20~100モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましい。
【0019】
(C)ノニオン性界面活性剤の含有量は、組成物全体の0.5~3%が好ましく、より好ましくは1.0~2.5%である。0.5%以上であると、イソプロピルメチルフェノールの安定性を十分に確保できる。3%以下であることが、製剤の外観安定性を十分に確保するには好適である。
【0020】
更に、(B)アニオン性界面活性剤と(C)ノニオン性界面活性剤との配合割合を示す(B)/(C)が、質量比として0.2~3であることが好ましく、より好ましくは0.4~1.5である。(B)/(C)が上記範囲内であると、イソプロピルメチルフェノールの安定性向上にはより好適であり、また、製剤の外観安定性、泡立ちを十分に確保できる。0.2に満たないと泡立ち、味が劣る場合があり、3を超えるとイソプロピルメチルフェノールの安定性が劣る場合がある。
【0021】
本発明では、(A)、(B)、(C)成分の組み合わせにおいて、(D)フッ素化合物が、イソプロピルメチルフェノールの安定化剤として作用する。
(D)フッ素化合物としては、例えばフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ストロンチウム等が挙げられ、特にフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0022】
(D)フッ素化合物の含有量は、組成物全体に対して、フッ素として1,100~3,000ppmであり、好ましくは1,200~3,000ppm、より好ましくは1,400~2,500ppmである。1,100ppmに満たないと、イソプロピルメチルフェノールの安定性が劣り、安定化できない。フッ素濃度の上昇に伴ってイソプロピルメチルフェノールの安定性は向上するが、3,000ppmを超えると、製剤の外観安定性が悪くなる。
なお、上記フッ素としての含有量の範囲内において、具体的に、フッ化ナトリウムの含有量は、好ましくは組成物全体の0.25~0.66%であり、モノフルオルリン酸ナトリウムの含有量は、好ましくは組成物全体の0.84~2.27%である。
【0023】
本発明の歯磨組成物は、練歯磨、液状歯磨等の歯磨剤、特に練歯磨として好適に調製され、剤型に応じて、上記成分に加えてその他の公知成分を本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。具体的には、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、サッカリンナトリウム等の甘味剤、パラオキシ安息香酸エステル又はその塩等の防腐剤、酸化チタン等の着色料、香料、有効成分などを配合し得る。
なお、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤以外の界面活性剤は配合しなくてもよいが、本発明の効果を妨げない範囲内において、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を添加してもよい。
【0024】
研磨剤としては、例えば、無水ケイ酸、含水ケイ酸等のシリカ系研磨剤、リン酸水素カルシウム等のリン酸カルシウム系研磨剤、炭酸カルシウム、ゼオライト、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロキシアパタイト、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、結晶セルロース等が挙げられる。特に、使用性の点から、シリカ系研磨剤、リン酸カルシウム系研磨剤が好ましく、中でもシリカ系研磨剤の無水ケイ酸が、フッ素化合物による効果を十分に発現させる点から、より好適である。
また、無水ケイ酸として、BET比表面積が好ましくは50~400m2/g、より好ましくは80~250m2/gのものを用いると、研磨性を低減しつつ十分な清掃効果を与えることもできる。なお、上記BET比表面積は、日本工業規格(JIS8830)に基づいて測定した値である。
研磨剤の含有量は、組成物全体の5~40%好ましく、より好ましくは5~20%である。
【0025】
粘稠剤としては、ソルビット等の糖アルコール、プロピレングリコール等が挙げられる。粘稠剤の配合量は、通常、5~50%、特に20~45%である。
【0026】
粘結剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸誘導体、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系誘導体、キサンタンガム等のガム類などの有機粘結剤、無機粘結剤が挙げられる。粘結剤の配合量は、通常、0.1~5%である。
【0027】
香料としては、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料や、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を組み合わせて使用することができるが、実施例記載の香料に限定されるものではない。
上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001~1%使用するのが好ましく、また、上記香料素材を使用した賦香用香料は、製剤組成中に0.1~2%使用するのが好ましい。
【0028】
有効成分としては、イソプロピルメチルフェノール、フッ素化合物以外の口腔用として公知の薬効成分、具体的にはカチオン性殺菌剤、抗炎症剤、酵素、植物抽出物、歯石防止剤、歯垢防止剤などを、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる。
【0029】
本発明の歯磨組成物は、最内層がポリエチレンからなるチューブ容器に好適に充填される。
かかる容器としては、例えば、外層から低密度ポリエチレン/エチレン・アクリル酸共重合体樹脂/アルミニウム/エチレン・アクリル酸共重合体樹脂/直鎖状低密度ポリエチレン(最内層)、低密度ポリエチレン/エチレン・ビニルアルコールの共重合体/低密度ポリエチレン/エチレン・ビニルアルコールの共重合体/直鎖状低密度ポリエチレン(最内層)、及び低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート/低密度ポリエチレン/ガラス蒸着ポリエチレンテレフタレート/エチレン・メタクリル酸共重合体樹脂/直鎖状低密度ポリエチレン(最内層)などからなるラミネート層構造を有するものが挙げられるが、最内層がポリエチレンであれば他の層構成はいずれでも良く、特に最内層が直鎖状低密度ポリエチレンであるものが好ましい。
【0030】
なお、直鎖状低密度ポリエチレンはリニア低密度ポリエチレンともいい、製法としては、高密度ポリエチレン製造工程において、直鎖状ポリマーにα-オレフィン(例えば、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン、オクテン-1)を共重合させ、短鎖分岐を導入して低密度化したものであり、押出コーティング用の直鎖状低密度ポリエチレンは、密度0.915~0.938g/cm3のものが一般的に使用される。
最内層のポリエチレンの厚さとしては、特に規定されないが、通常30~100μm程度の厚さを有し、ラミネート層全体では200~450μmの厚さのものが通常用いられる。
上記チューブ容器では、特に内容物吐出口、胴部をつなぐ肩部、とりわけ肩部に、内容物中の配合成分が吸着し易いが、本発明においては、上記各部の最内層がポリエチレンであっても、イソプロピルメチルフェノールの吸着が抑制され安定性が優れる。
【0031】
このような最内層がポリエチレンからなるチューブ容器は、市販のものを使用でき、例えば、歯磨チューブとして大日本印刷(株)、凸版印刷(株)などの容器包材メーカーから入手することができる。
【実施例0032】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記において、%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
【0033】
[実施例、比較例]
表1~3に示す組成の歯磨組成物を常法によって調製し、下記に示すようにチューブ容器に充填し、これを試験歯磨組成物として、下記方法で評価した。結果を表1~3に併記した。
【0034】
試験歯磨組成物の調製
歯磨組成物を、最内層が直鎖状低密度ポリエチレンからなる直径26mmのラミネートチューブ(LDPE55/PET12/LDPE20/白LDPE60/EMAA20/AL10/EMAA30/LDPE20/LLDPE30,厚み257μm(大日本印刷(株)製))に60g充填した。
なお、使用したラミネートチューブの層構成における略号と名称は以下の通りであり、略号に続く数字は各層の厚み(μm)を示したものである。
LDPE:低密度ポリエチレン
白LDPE:白色低密度ポリエチレン
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン
AL:アルミニウム
EAA:エチレン・アクリル酸の共重合体樹脂
PET:ポリエチレンテレフタレート
EMAA:エチレン・メタクリル酸の共重合体樹脂
SiOx-PET:ガラス蒸着ポリエチレンテレフタレート
【0035】
(1)イソプロピルメチルフェノールの安定性の評価方法
60℃で1ヶ月保存後の歯磨組成物について、下記試験条件に従いHPLCを用いてイソプロピルメチルフェノール量を測定した。各サンプルの製造直後のイソプロピルメチルフェノール量を100%とした際の残存率を算出し、下記の判定基準に従ってイソプロピルメチルフェノールの安定性を判定し、IPMP安定性として表に示した。
試験条件;
・検出器:紫外吸光光度計(測定波長:285nm)
・カラム:YMC-Pack ODS-A A-303(4.6mmφ×250mm)
・カラム温度:45℃
・移動相:アセトニトリル/水/酢酸混液(60:40:1)
使用機器;
・ポンプ:日本分光(株)、PU-980
・試料導入部:日本分光(株)、AS-950
・検出器:日本分光(株)、UV-970
・カラム恒温槽:日本分光(株)、CO-960
・流量:1mL/min
判定基準;
◎:97%以上100%以下
○:94%以上97%未満
△:90%以上94%未満
×:90%未満
【0036】
(2)製剤の外観安定性の評価方法
60℃で1ヶ月保存後の歯磨組成物をわら半紙上に約15cm吐出させた。わら半紙の裏に染み込んだ水分の長さから、下記の判定基準に従って液分離安定性を評価した。
判定基準
◎:0.2cm未満
○:0.2cm以上0.5cm未満
×:0.5cm以上
【0037】
(3)泡立ちの評価方法
歯磨組成物を歯ブラシに載せ、口腔内を洗浄した際の泡立ちを、5名の被験者が下記の評点基準によって評価した。5名の評価点を平均し、下記の判定基準に従って泡立ちを評価した。
評点基準;
5点:泡立ちが良い
4点:やや泡立ちが良い
3点:どちらともいえない
2点:やや泡立ちが悪い
1点:泡立ちが悪い
判定基準;
◎:平均点4.0点以上
○:平均点3.0点以上4.0点未満
△:平均点2.0点以上3.0点未満
×:平均点2.0点未満
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表1~3の結果から明らかなように、比較例に示すように(A)成分と共に(B)、(C)成分を配合すると、IPMP安定性が悪くなり、(D)成分を添加してもその配合量又は(B)/(C)比が不適切であるとIPMP安定性が劣るが、(A)、(B)、(C)成分に(D)成分を適切量かつ適切な(B)/(C)比の範囲内で組み合わせて配合した本発明の歯磨組成物(実施例)は、IPMP安定性、製剤の外観安定性及び泡立ちが優れた。また、歯磨き後の味も良好であった。