(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168051
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】水性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/22 20060101AFI20221027BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20221027BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221027BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221027BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20221027BHJP
A61P 27/06 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
A61K47/22
A61K31/551
A61K9/08
A61K47/18
A61P27/02
A61P27/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141667
(22)【出願日】2022-09-06
(62)【分割の表示】P 2020168855の分割
【原出願日】2016-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2015006831
(32)【優先日】2015-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 信
(72)【発明者】
【氏名】沢井 勇
(57)【要約】
【課題】優れた防腐効果を有する水性組成物を提供すること。
【解決手段】リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンゾドデシニウム臭化物とを含有する、水性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンゾドデシニウム臭化物とを含有する、水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒として少なくとも水を含有する組成物(水性組成物)は、生体に対して刺激が少ないことや、種々の成分を配合可能であること等の利点から、医薬品や医薬部外品等として広く利用されている。
しかしながら、水を含むものであるため微生物によって汚染され易い、という問題がある。特に、点眼剤や点鼻剤、点耳剤等の繰り返し使用されることが多い剤形の場合には、例え滅菌済みの容器等に充填した場合であっても、使用の都度、水性組成物が非無菌の外気に接触するため、微生物汚染のリスクが増大する。
【0003】
そのため、水性組成物には、防腐剤(殺菌剤)を配合して防腐効果を持たせることが多い。防腐剤としては例えば、パラベン類や、ベンザルコニウム塩化物等の第4級アンモニウム型界面活性剤等が用いられる。
しかしながら、こうした防腐剤には細胞毒性等の問題点があることも指摘されており(例えば、非特許文献1)、例えば水性組成物を点眼剤として用いた場合には角膜損傷をきたすおそれもあることから、その使用量は極力最低限に留めたい。
この点、複数種の成分の組み合わせの協力作用により優れた防腐効果を奏する水性組成物の処方が確立できれば、その分だけ各種防腐剤単独での使用量を低減させることが出来るため、ひいてはより安全性の高い水性組成物の提供が可能となる。
【0004】
ところで、以下の構造式:
【0005】
【0006】
で表されるリパスジル(化学名:4-フルオロ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン)や、以下の構造式:
【0007】
【0008】
で表される4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリンなどのハロゲン化イソキノリン誘導体は、Rhoキナーゼ阻害作用等の薬理作用(例えば、特許文献1、2)を有し、高眼圧症や緑内障等の予防又は治療剤(例えば、特許文献3)として、さらには加齢黄斑変性等の眼底疾患の予防又は治療剤(例えば、特許文献4)として有用であることが報告されており、さらには点眼剤組成物等の水性組成物とすることも報告されている(例えば、特許文献3)。
しかしながら、これらのハロゲン化イソキノリン誘導体の防腐効果についてはこれまでに一切知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4212149号公報
【特許文献2】国際公開第2006/115244号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/068208号パンフレット
【特許文献4】特許第5557408号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】あたらしい眼科 8(10):1599~1603、1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れた防腐効果を有する水性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討したところ、驚くべきことに、リパスジル等の後記一般式(1)で表されるハロゲン化イソキノリン誘導体が優れた防腐効果を有することを見出し、さらに、これをベンザルコニウム塩化物やベンゾドデシニウム臭化物等の第4級アンモニウム型界面活性剤と組み合わせることで、防腐効果が顕著に高められた水性組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、次の一般式(1)
【0014】
【0015】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、第4級アンモニウム型界面活性剤とを含有する、水性組成物を提供するものである。
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、第4級アンモニウム型界面活性剤とを配合する工程を含む、水性組成物への防腐効果付与方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた防腐効果を有し、保存安定性に優れる水性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書は、これらに何ら限定されるものではないが、例えば以下の態様の発明を開示する。
[1] 次の一般式(1)
【0018】
【0019】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、第4級アンモニウム型界面活性剤とを含有する、水性組成物。
[2] 前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、[1]記載の水性組成物。
[3] 前記第4級アンモニウム型界面活性剤が、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物及びベンゾドデシニウム臭化物よりなる群から選ばれる1種以上である、[1]又は[2]記載の水性組成物。
[4] 前記一般式(1)で表される化合物がリパスジルであり、かつ、前記第4級アンモニウム型界面活性剤がベンザルコニウム塩化物及びベンゾドデシニウム臭化物よりなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれか記載の水性組成物。
[5] 点眼剤又は眼軟膏剤である、[1]~[4]のいずれか記載の水性組成物。
[6] リン酸、ホウ酸及びそれらの塩、炭酸脱水酵素阻害薬、α1遮断薬並びにニプラジロールを含まないものである、[1]~[5]のいずれか記載の水性組成物(慢性進行性腎障害の抑制のための医薬及びフィルム製剤を除く。)。
【0020】
[7] 前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、第4級アンモニウム型界面活性剤とを水性組成物に配合する工程を含む、水性組成物への防腐効果付与方法。
[8] 前記一般式(1)で表される化合物が、リパスジルである、[7]記載の方法。
[9] 前記第4級アンモニウム型界面活性剤が、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物及びベンゾドデシニウム臭化物よりなる群から選ばれる1種以上である、[7]又は[8]記載の方法。
[10] 前記一般式(1)で表される化合物がリパスジルであり、かつ、前記第4級アンモニウム型界面活性剤がベンザルコニウム塩化物及びベンゾドデシニウム臭化物よりなる群から選ばれる1種以上である、[7]~[9]のいずれか記載の方法。
[11] 前記水性組成物が点眼剤又は眼軟膏剤である、[7]~[10]のいずれか記載の方法。
[12] 前記水性組成物(慢性進行性腎疾患障害の抑制のための医薬及びフィルム製剤を除く。)がリン酸、ホウ酸及びそれらの塩、炭酸脱水酵素阻害薬、α1遮断薬並びにニプラジロールを含まないものである、[7]~[11]のいずれか記載の方法。
【0021】
[13] さらに、α1受容体遮断薬、α2受容体作動薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、プロスタグランジンF2α誘導体、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、カルシウム拮抗剤及びコリンエステラーゼ阻害剤よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[1]~[5]のいずれか記載の水性組成物。
[14] さらに、ラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド及びチモロール並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[1]~[5]のいずれか記載の水性組成物。
[15] 前記水性組成物が、さらにα1受容体遮断薬、α2受容体作動薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、プロスタグランジンF2α誘導体、交感神経作動薬、副交感神経作動薬、カルシウム拮抗剤及びコリンエステラーゼ阻害剤よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[7]~[11]のいずれか記載の方法。
[16] 前記水性組成物が、さらにラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド及びチモロール並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種以上を含有する、[7]~[11]のいずれか記載の方法。
【0022】
<<水性組成物に係る態様の発明について>>
以下、まず「水性組成物」に係る態様の発明について、その文言の意義等を詳細に説明する。
【0023】
前記一般式(1)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記一般式(1)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
また、前記一般式(1)において、メチル基の置換したホモピペラジン環を構成する炭素原子は不斉炭素である。そのため、立体異性が生じるが、一般式(1)で表される化合物にはいずれの立体異性体も包含され、単一の立体異性体でもよく、各種立体異性体の任意の割合の混合物でもよい。前記一般式(1)で表される化合物としては、絶対配置がS配置である化合物が好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物の塩としては、薬学上許容される塩であれば特に限定されず、具体的には例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、フッ化水素酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、カンファ―スルホン酸塩等の有機酸塩等が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
さらに、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩は、水和物やアルコール和物等の溶媒和物であってもよく、水和物であるのが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、具体的には例えば、
リパスジル(化学名:4-フルオロ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン)若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;
4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物;
等が挙げられる。
【0026】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としては、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が好ましく、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物がより好ましく、リパスジル若しくはその塩酸塩又はそれらの水和物がさらに好ましく、以下の構造式:
【0027】
【0028】
で表されるリパスジル塩酸塩水和物(リパスジル1塩酸塩2水和物)が特に好ましい。
【0029】
前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知であり、公知の方法により製造できる。具体的には例えば、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、国際公開第1999/020620号パンフレット、国際公開第2006/057397号パンフレット記載の方法等により製造することが出来る。また、4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、国際公開第2006/115244号パンフレット記載の方法等により製造することが出来る。
【0030】
水性組成物中の前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の含有量は特に限定されず、適用疾患や患者の性別、年齢、症状等に応じて適宜検討して決定すればよいが、優れた防腐効果を得る観点から、水性組成物全容量に対して、一般式(1)で表される化合物のフリー体に換算して0.01~10w/v%含有するのが好ましく、0.02~8w/v%含有するのがより好ましく、0.04~6w/v%含有するのが特に好ましい。中でも、一般式(1)で表される化合物としてリパスジルを用いる場合においては、優れた防腐効果を得る観点から、水性組成物全容量に対して、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を、フリー体に換算して0.05~5w/v%含有するのが好ましく、0.1~3w/v%含有するのがより好ましく、0.1~2w/v%含有するのが特に好ましい。
【0031】
「第4級アンモニウム型界面活性剤」としては、防腐剤として知られるベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物、ベンゾドデシニウム臭化物等が挙げられる。第4級アンモニウム型界面活性剤としては、優れた防腐効果を得る観点から、ベンザルコニウム塩化物、ベンゾドデシニウム臭化物が好ましく、ベンザルコニウム塩化物が特に好ましい。なお、ベンザルコニウムは4級アンモニウムの混合物であり、当該混合物の構成成分の一つが、ベンゾドデシニウムに相当する。
なお、第4級アンモニウム型界面活性剤は公知であり、公知の方法により製造しても良いし、市販のものを用いても良い。
【0032】
水性組成物中の第4級アンモニウム型界面活性剤の含有量は特に限定されず、適宜検討して決定すればよいが、優れた防腐効果を得る観点から、水性組成物全容量に対して、0.00005~0.02w/v%含有するのが好ましく、0.00025~0.01w/v%含有するのがより好ましく、0.00025~0.004w/v%含有するのが特に好ましい。中でも、第4級アンモニウム型界面活性剤としてベンザルコニウム塩化物を用いる場合においては、優れた防腐効果を得る観点から、水性組成物全容量に対して、0.0001~0.01w/v%含有するのが好ましく、0.0005~0.005w/v%含有するのがより好ましく、0.0005~0.002w/v%含有するのが特に好ましい。また、第4級アンモニウム型界面活性剤としてベンゾドデシニウム臭化物を用いる場合においては、優れた防腐効果を得る観点から、水性組成物全容量に対して、0.0001~0.015w/v%含有するのが好ましく、0.0005~0.005w/v%含有するのがより好ましく、0.0005~0.002w/v%含有するのが特に好ましい。
【0033】
後記試験例に記載の通り、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、第4級アンモニウム型界面活性剤との組み合わせにより、協力作用により顕著に高められた防腐効果を発揮する。そのため、例えば、ベンザルコニウム塩化物等の第4級アンモニウム型界面活性剤の使用量を低減させ、より安全性の高い水性組成物とすることも可能である。
当該組み合わせとしては、協力作用による防腐効果の増強の観点から、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンザルコニウム塩化物及びベンゾドデシニウム臭化物よりなる群から選ばれる1種以上の組み合わせが好ましく、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンザルコニウム塩化物の組み合わせが特に好ましい。
【0034】
水性組成物中の前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と第4級アンモニウム型界面活性剤の含有質量比率は特に限定されないが、優れた防腐効果を得る観点から、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をフリー体として1質量部に対し、第4級アンモニウム型界面活性剤を0.0001~0.4質量部含有するのが好ましく、0.001~0.04質量部含有するのがより好ましく、0.00125~0.015質量部含有するのが特に好ましい。
特に、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としてリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を用い、第4級アンモニウム型界面活性剤としてベンザルコニウム塩化物を用いる場合においては、優れた防腐効果を得る観点から、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をフリー体として1質量部に対し、ベンザルコニウム塩化物を0.0002~0.2質量部含有するのが好ましく、0.002~0.02質量部含有するのがより好ましく、0.0025~0.01質量部含有するのが特に好ましい。また、一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物としてリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を用い、第4級アンモニウム型界面活性剤としてベンゾドデシニウム臭化物を用いる場合においては、優れた防腐効果を得る観点から、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物をフリー体換算として1質量部に対し、ベンゾドデシニウム臭化物を0.0002~0.2質量部含有するのが好ましく、0.002~0.02質量部含有するのがより好ましく、0.0025~0.01質量部含有するのが特に好ましい。
【0035】
本明細書において「水性組成物」とは、少なくとも水を含有する組成物を意味し、その性状としては、液状(溶液又は懸濁液)、半固形状(軟膏)が挙げられる。なお、組成物中の水としては例えば、精製水、注射用水、滅菌精製水等を用いることができる。
水性組成物に含まれる水の含有量は特に限定されないが、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、90~99.8質量%が特に好ましい。
【0036】
水性組成物は、例えば、第十六改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、種々の剤形とすることができる。剤形としては、特に限定されないが、注射剤、吸入液剤、点眼剤、眼軟膏剤、点耳剤、点鼻液剤、注腸剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、ゲル剤、経口液剤、シロップ剤等が挙げられる。剤形としては、一般式(1)で表される化合物の有する薬理作用を有利に利用する観点から、眼疾患用剤、具体的には点眼剤、眼軟膏剤が好ましく、点眼剤が特に好ましい。
【0037】
水性組成物は、上記した以外に、剤形に応じて、医薬品や医薬部外品等で利用される添加物を含んでいても良い。このような添加物としては、例えば、無機塩類、等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、第4級アンモニウム型界面活性剤以外の防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、清涼化剤、分散剤、保存剤、油性基剤、乳剤性基剤、水溶性基剤等が挙げられる。
こうした添加物としては、具体的には例えば、アスコルビン酸、アスパラギン酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルギン酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、イプシロン-アミノカプロン酸、ウイキョウ油、エタノール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エデト酸ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液、カルボキシビニルポリマー、乾燥亜硫酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、d-カンフル、dl-カンフル、キシリトール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、グリセリン、グルコン酸、L-グルタミン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、クレアチニン、クロルヘキシジングルコン酸塩液、クロロブタノール、結晶リン酸二水素ナトリウム、ゲラニオール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム水和物、酸化チタン、ジェランガム、ジブチルヒドロキシトルエン、臭化カリウム、酒石酸、水酸化ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシル45、精製ラノリン、D-ソルビトール、ソルビトール液、タウリン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、チメロサール、チロキサポール、デヒドロ酢酸ナトリウム、トロメタモール、濃グリセリン、濃縮混合トコフェロール、白色ワセリン、ハッカ水、ハッカ油、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、ヒアルロン酸ナトリウム、人血清アルブミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、氷酢酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、フェニルエチルアルコール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ベルガモット油、ベンジルアルコール、ホウ砂、ホウ酸、ポビドン、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレングルコール(70)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、d-ボルネオール、マクロゴール4000、マクロゴール6000、D-マンニトール、無水クエン酸、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、メタンスルホン酸、メチルセルロース、l-メントール、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ユーカリ油、ヨウ化カリウム、硫酸、硫酸オキシキノリン、流動パラフィン、リュウノウ、リン酸、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リンゴ酸、ワセリン等が例示される。
【0038】
添加物としては、例えば、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、グリセリン、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム水和物、酒石酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、濃グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ホウ砂、ホウ酸、ポビドン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水クエン酸、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、メチルセルロース、モノエタノールアミン、リン酸、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、ヒアルロン酸ナトリウム、ブドウ糖、l-メントール等が好ましい。
【0039】
水性組成物は、さらに、上記した以外に、適用疾患等に応じて、他の薬効成分を含んでいても良い。このような薬効成分としては、例えば、ブナゾシン塩酸塩などのブナゾシン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むα1受容体遮断薬;ブリモニジン酒石酸塩などのブリモニジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アプラクロニジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むα2受容体作動薬;カルテオロール塩酸塩などのカルテオロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ニプラジロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、チモロールマレイン酸塩などのチモロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ベタキソロール塩酸塩などのベタキソロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、レボブノロール塩酸塩などのレボブノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ベフノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、メチプラノロール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むβ遮断薬;ドルゾラミド塩酸塩などのドルゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ブリンゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アセタゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ジクロルフェナミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、メタゾラミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む炭酸脱水酵素阻害剤;イソプロピルウノプロストン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、タフルプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、トラボプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ビマトプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ラタノプロスト若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、クロプロステノール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、フルプロステノール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むプロスタグランジンF2α誘導体;ジピべフリン塩酸塩などのジピべフリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、エピネフリン、エピネフリンホウ酸塩、エピネフリン塩酸塩などのエピネフリン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む交感神経作動薬;ジスチグミン臭化物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ピロカルピン、ピロカルピン塩酸塩、ピロカルピン硝酸塩などのピロカルピン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、カルバコール若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含む副交感神経作動薬;ロメリジン塩酸塩などのロメリジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むカルシウム拮抗薬;デメカリウム若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、エコチオフェート若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、フィゾスチグミン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含むコリンエステラーゼ阻害剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合できる。
他の薬効成分としては、ラタノプロスト、ニプラジロール、ドルゾラミド、ブリンゾラミド及びチモロール並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0040】
水性組成物は、保存安定性、携帯性等の観点から、容器に収容されるのが好ましい。容器の形態は、水性組成物を収容可能であることを限度として特に限定されず、剤形等に応じて適宜選択、設定すればよい。このような容器の形態としては、具体的には例えば、注射剤用容器、吸入剤用容器、スプレー剤用容器、ボトル状容器、チューブ状容器、点眼剤用容器、点鼻剤用容器、点耳剤用容器、バッグ容器等が挙げられる。また、これらの容器はさらに箱、袋等によって包装されていてもよい。
【0041】
容器の材質(材料)は特に限定されず、容器の形態に応じて適宜選択すればよい。具体的には例えば、ガラス、プラスチック、セルロース、パルプ、ゴム、金属等が挙げられる。加工性、スクイズ性や耐久性の観点から、プラスチック製であるのが好ましい。プラスチック製容器の樹脂としては、熱可塑性樹脂であるのが好ましく、例えば、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレナフタレート)等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;スチレン系樹脂などが挙げられ、これらの混合体(ポリマーアロイ)であってもよい。
【0042】
水性組成物は、優れた薬理作用を有する前記一般式(1)で表される化合物を含有するため、医薬品等として好適に利用できる。この場合において、適用疾患は特に限定されず、前記一般式(1)で表される化合物の有する薬理作用等に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
具体的には例えば、一般式(1)で表される化合物の有するRhoキナーゼ阻害作用や眼圧低下作用に基づき、高眼圧症や緑内障の予防又は治療剤として利用できる。ここで、緑内障としては、より詳細には例えば、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、房水産生過多緑内障、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、plateau iris syndrome、混合型緑内障、ステロイド緑内障、水晶体の嚢性緑内障、色素緑内障、アミロイド緑内障、血管新生緑内障、悪性緑内障などが挙げられる。
また、日本国特許第5557408号公報に開示されるように、眼底疾患(主として網膜及び/又は脈絡膜に発現する病変、具体的には例えば、高血圧と動脈硬化による眼底変化、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion)や網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion)等の網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病黄斑症、イールズ病(Eales disease)、コーツ病(Coats disease)等の網膜血管先天異常、ヒッペル病(von Hippel disease)、脈なし病(pulseless disease)、黄斑疾患(中心性網脈絡膜症(central serous chorioretinopathy)、嚢胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema)、加齢黄斑変性(age-related macular degeneration)、黄斑円孔(macular hole)、近視性黄斑萎縮(myopic macular degeneration)、網膜硝子体界面黄斑変性症、薬物毒性黄斑変性症、遺伝性黄斑変性等)、(裂孔原性、牽引性、滲出性等の)網膜剥離、網膜色素変性症、未熟児網膜症等が挙げられる。)の予防又は治療剤、より好適には糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫又は加齢黄斑変性の予防又は治療剤として利用できる。
【0044】
<<防腐効果付与方法に係る態様の発明>>
次に、「防腐効果付与方法」に係る態様の発明について説明する。
【0045】
「防腐効果付与方法」とは、水性組成物に防腐効果を付与する方法を意味する。防腐効果付与方法において、防腐効果は、評価する対象の防腐力が、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物及び第4級アンモニウム型界面活性剤の両成分を共に配合しない場合と比較して優れたものであれば効果有りと判定され、その効果の程度は問わない。
具体的には例えば、第十六改正日本薬局方 参考情報「保存効力試験法」に従い、細菌(例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli))あるいは真菌(例えば、カンジダ(Candida albicans))を用いた場合において、前記一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物及び第4級アンモニウム型界面活性剤の両成分を共に配合しない対照(防腐効果が無いことが知られている精製水を対照として用いればよい。)と比較して、いずれか1種以上の微生物種において任意の日数において生菌数が少ないことを確認できれば防腐効果有り、と判定され、この場合、水性組成物への防腐効果の付与が確認される。
【0046】
なお、防腐効果付与方法における他の各文言の意義、各種成分の配合量等は、上記<<水性組成物に係る態様の発明>>にて説明したのと同様である。
【実施例0047】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、試験例等において、リパスジル1塩酸塩2水和物は、例えば国際公開第2006/057397号パンフレット記載の方法により製造することが出来る。
【0048】
[試験例1]リパスジルの微生物 発育阻止活性の確認
リパスジルの微生物(細菌及び真菌)に対する発育阻止活性の有無を確認するため、細菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を、真菌としてカンジダ(Candida albicans)を用い、以下の試験を実施した。
【0049】
<緑膿菌に対する発育阻止活性の確認>
Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275株を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地(メルク社)に播種し、30~35℃で20~22時間培養した。培養後、ペプトン食塩緩衝液(pH7.0)にて1000CFU/mL以下となるように希釈し、試験菌懸濁液を得た。
リパスジル1塩酸塩2水和物 2gを270mLのリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、試料希釈液を得た。
試料希釈液50mLに試験菌懸濁液0.5mLを混合し、試料サンプルを得た(なお、リン酸緩衝液(pH7.2)50mLに試験菌懸濁液0.5mLを混合したものを対照サンプルとした。)。
30分以上経過した後、メンブランフィルター法に従い、セルロース混合エステル性のフィルター(ミリポア社)を用いて各種サンプルをろ過して菌体をフィルター上に回収した後、フィルターをリン酸緩衝液(pH7.2)100mLにて洗浄した。得られたフィルターをソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン培地(メルク社)上に乗せ、30~35℃で3日間培養した。
培養後、形成されたコロニー数をカウントした(なお、試験を2回実施し、その平均値を得た。)。また、得られたコロニー数から、以下の式により発育阻止率(%)を算出した。
【0050】
[数1]
発育阻止率(%) = |(対照サンプルのコロニー数 - 試料サンプルのコロニー数)| / 対照サンプルのコロニー数 × 100
【0051】
<カンジダに対する発育阻止活性の確認>
Candida albicans NBRC 1594株を、サブロー・ブドウ糖液体培地(メルク社)に播種し、20~25℃で44~46時間培養した。その後、ペプトン食塩緩衝液(pH7.0)にて1000CFU/mL以下となるように希釈し、試験菌懸濁液を得た。得られた試験菌懸濁液を用いて、前記した緑膿菌に対する試験と同様の操作を行い、菌体をフィルター上に回収した。得られたフィルターをサブロー・ブドウ糖カンテン培地(メルク社)上に乗せ、20~25℃で5日間培養した。
培養後、形成されたコロニー数をカウントした(なお、試験を2回実施し、その平均値を得た。)。また、発育阻止率(%)を算出した。
結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1記載の結果より、リパスジルは緑膿菌に対しても、カンジダに対しても同様に発育阻止活性を有することが確認された。
以上の試験結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、細菌及び真菌に対し防腐効果を有することが明らかとなった。
【0054】
[試験例2]リパスジルとベンザルコニウムの組合わせによる防腐効果の増強の確認
リパスジルとベンザルコニウムとを組合わせることによる微生物(細菌及び真菌)に対する防腐効果の増強の有無を確認するため、細菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を、真菌としてカンジダ(Candida albicans)を用い、以下の試験を実施した。
なお、ベンザルコニウム塩化物の有効濃度は0.002~0.01%であり、0.001%では十分な殺菌活性を示さないことが知られている(株式会社南山堂1984年発行『点眼剤』、第76~83頁)。そこで、本試験では当該量のベンザルコニウム塩化物を用いることにより、リパスジルとベンザルコニウムとの協力作用(相乗作用)の有無を確認した。
【0055】
<緑膿菌に対する発育阻止活性の確認>
Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275株を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン培地(メルク社)に播種し、30~35℃で、18~24時間培養した。その後、培養菌体を0.1%ペプトン食塩緩衝液(日本製薬社)に浮遊させ、1mL当たり菌体が約108個となるように調整し、試験菌懸濁液を得た。
下記の方法で調製した各種製剤サンプル15mLに対し、試験菌懸濁液を0.1mL接種した後、滅菌したポリプロピレン製の点眼剤用容器(容量:20mL)に充填し、20~25℃で遮光条件下、14日間保存した。
保存後、各種製剤サンプルをレシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地(日本製薬社)で順次10倍ずつ希釈した希釈系列を調製し、カンテン平板混釈法に従いレシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン培地(日本製薬社)に混釈し、30~35℃で5日間培養した。
培養後、形成されたコロニー数と希釈倍数とから、各種製剤サンプル1mL中の生菌数を算出した。
【0056】
<カンジダに対する発育阻止活性の確認>
Candida albicans NBRC 1594株を、サブロー・ブドウ糖カンテン培地(メルク社)に播種し、20~25℃で40~48時間培養した。その後、培養菌体を0.1%ペプトン食塩緩衝液(日本製薬社)に浮遊させ、1mL当たり菌体が約108個となるように調整し、試験菌懸濁液を得た。得られた試験菌懸濁液を用いて、前記した緑膿菌に対する試験と同様の操作を行い、試験菌懸濁液を接種した各種製剤サンプルを保存した。
保存後、各種製剤サンプルをレシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地(日本製薬社)で順次10倍ずつ希釈した希釈系列を調製し、カンテン平板混釈法に従いレシチン・ポリソルベート80添加サブロー・ブドウ糖カンテン培地(日本製薬社)に混釈し、20~25℃で5日間培養した。
培養後、形成されたコロニー数と希釈倍数とから、各種製剤サンプル1mL中の生菌数を算出した。
【0057】
なお、製剤サンプルとしては、リパスジルを単独で含有する製剤サンプルと、リパスジル及びベンザルコニウムを含有する製剤サンプルの2種類を用いた。
【0058】
<リパスジルを単独で含有する製剤サンプル(表中において、「リパスジルのみ」と表記する。)>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、フィルター滅菌して製剤サンプルとした。
<リパスジル及びベンザルコニウムを含有する製剤サンプル(表中において、「リパスジル+ベンザルコニウム」と表記する。)>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、ベンザルコニウム塩化物 0.001g(0.001w/v%)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、フィルター滅菌して製剤サンプルとした。
【0059】
結果を表2に示す。なお、接種菌数は、接種時の試験菌懸濁液中の生菌数から、サンプル1mL中の生菌数に換算した。
【0060】
【0061】
表2記載の結果より、十分な殺菌活性を示さないとされている量のベンザルコニウム塩化物をリパスジルと組合わせることで、リパスジル単独と比較して、緑膿菌の生菌数が1/38000未満に、カンジダの生菌数が1/475に減少した。
以上の試験結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンザルコニウムに代表される第4級アンモニウム型界面活性剤とを組み合わせることにより、相乗的に防腐効果が増強され、第4級アンモニウム型界面活性剤単独では防腐効果を示さないような量であっても優れた防腐効果が奏されることが明らかとなった。
【0062】
[試験例3]リパスジルとベンザルコニウムの組合わせによる防腐効果の増強の確認 その2
細菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の代わりに黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:NBRC 13276株)を用いたほかは試験例2と同様の方法により、試験を実施した。
結果を表3に示す。
【0063】
【0064】
表3記載の結果より、十分な殺菌活性を示さないとされている量のベンザルコニウム塩化物をリパスジルと組合わせることで、リパスジル単独と比較して、黄色ブドウ球菌の生菌数が1/20未満に減少した。
【0065】
[試験例4]リパスジルとベンザルコニウムの組合わせによる防腐効果の増強の確認 その3
細菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の代わりに大腸菌(Escherichia coli:NBRC 3972株)を用い、保存期間を28日間としたほかは試験例2と同様の方法により、試験を実施した。
結果を表4に示す。
【0066】
【0067】
表4記載の結果より、十分な殺菌活性を示さないとされている量のベンザルコニウム塩化物をリパスジルと組み合わせることで、リパスジル単独と比較して、大腸菌の生菌数が1/140000未満に減少した。
【0068】
表3及び表4記載の結果より、リパスジルとベンザルコニウムの組合わせは、緑膿菌やカンジダのみならず広い範囲の微生物に対して発育阻止活性の増強が認められることが明らかとなった。
以上の試験結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンザルコニウムに代表される第4級アンモニウム型界面活性剤とを組み合わせることにより、広い範囲の微生物に対して優れた防腐効果の増強が認められることが明らかとなった。
【0069】
[試験例5]リパスジルとベンザルコニウムの組合わせによる防腐効果の増強の程度の確認
試験例2~4において確認されたリパスジルとベンザルコニウムとを組合わせることによる防腐効果の増強の程度をより明確にするため、試験菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を、製剤サンプルとしてリパスジルを単独で含有する製剤サンプル、ベンザルコニウムを単独で含有する製剤サンプル、並びにリパスジル及びベンザルコニウムを含有する製剤サンプルの3種類をそれぞれ用い、試験例2に準じて試験を実施した。
得られた試験結果(14日保存後のサンプル1mL当たりの生菌数)と接種菌数から、以下の式により生菌残存率(%)を算出した。
【0070】
[数2]
生菌残存率(%) = 14日保存後の各種製剤サンプル1mL当たりの生菌数 / 接種菌数 ×100
【0071】
なお、各種製剤サンプルの組成は以下の通りである。
<リパスジルを単独で含有する製剤サンプル(表中において、「リパスジルのみ」と表記する。)>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、フィルター滅菌して製剤サンプルとした。
【0072】
<ベンザルコニウムを単独で含有する製剤サンプル(表中において、「ベンザルコニウムのみ」と表記する。)>
100mL当たり、ベンザルコニウム塩化物 0.001g(0.001w/v%)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、水酸化ナトリウム 適量(pH6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、フィルター滅菌して製剤サンプルとした。
【0073】
<リパスジル及びベンザルコニウムを含有する製剤サンプル(表中において、「リパスジル+ベンザルコニウム」と表記する。)>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、ベンザルコニウム塩化物 0.001g(0.001w/v%)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、水酸化ナトリウム 適量(pH 6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、フィルター滅菌して製剤サンプルとした。
結果を表5に示す。
【0074】
【0075】
表5記載の結果より、リパスジル単独、ベンザルコニウム単独では十分な生菌数の減少が認められないにも拘わらず、両成分を組合わせることで大幅な生菌数の減少が認められ、それぞれ単独と比較して生菌残存率が1/1000以下と大きく低下した。
以上の試験結果から、リパスジルとベンザルコニウムとを組合わせることによって、防腐効果が相乗的に増強されることがより明確に示された。
【0076】
[試験例6]リパスジルとベンゾドデシニウムの組合わせによる防腐効果の確認
第4級アンモニウム型界面活性剤としてベンザルコニウムの代わりにベンゾドデシニウムを用いた場合にも同様に優れた防腐効果が得られることを確認するため、試験菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)及びカンジダ(Candida albicans)を、製剤サンプルとしてリパスジル及びベンゾドデシニウムを含有する製剤サンプルを用い、試験例2~4に準じて試験を実施した(なお、保存期間はいずれの菌種についても14日及び28日とした。)。
【0077】
なお、製剤サンプルの組成は以下の通りである。
<リパスジル及びベンゾドデシニウムを含有する製剤サンプル>
100mL当たり、リパスジル1塩酸塩2水和物 0.4896g(リパスジルのフリー体として0.4g)、ベンゾドデシニウム臭化物 0.001g(0.001w/v%)、無水リン酸二水素ナトリウム 0.4g、グリセリン 2.136g、水酸化ナトリウム 適量(pH6.0)及び滅菌精製水(残余)を含有する水性組成物を調製し、フィルター滅菌して製剤サンプルとした。
結果を表6に示す。
【0078】
【0079】
表6記載の結果より、ベンザルコニウムの代わりにベンゾドデシニウムを用いてリパスジルと組み合わせた場合にも、広い範囲の微生物に対して優れた発育阻止活性が認められることが明らかとなった。また、試験例2~4に記載のリパスジル単独での生菌数との比較より、リパスジルとベンゾドデシニウムを組合わせることにより優れた防腐効果の増強が認められることが明らかとなった。
以上の試験例1~6の結果から、リパスジルに代表される一般式(1)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、ベンザルコニウム、ベンゾドデシニウムに代表される第4級アンモニウム型界面活性剤とを組合わせることにより、広い範囲の微生物に対して優れた防腐効果の増強が認められることが明らかとなった。
【0080】
[製造例1~27]
表7~表9に記載の成分及び分量(水性組成物100mL当たりの量(g))を含有する点眼剤を、常法により製造できる。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
[製造例28~54]
製造例1~27において、ベンザルコニウム塩化物の代わりに同量のベンゼトニウム塩化物を用いたものを、製造例28~54の点眼剤として、常法により製造できる。
【0085】
[製造例55~81]
製造例1~27において、ベンザルコニウム塩化物の代わりに同量のベンゾドデシニウム臭化物を用いたものを、製造例55~81の点眼剤として、常法により製造できる。
【0086】
[製造例82~162]
製造例1~81において、リパスジル1塩酸塩2水和物の代わりに同量の4-ブロモ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリンを用いたものを、製造例82~162の点眼剤として、常法により製造できる。
本発明によれば、優れた薬理作用を有する前記一般式(1)で表される化合物を含有し、かつ防腐効果に優れ、保存安定性の良好な水性組成物を提供でき、医薬品産業等において好適に利用できる。