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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168190
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144053
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2021086389の分割
【原出願日】2017-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】駒形 徳子
(57)【要約】
【課題】リサイクルされていないポリエチレンテレフタレートからなる積層体よりもCO削減効果に優れるとともに、衛生性に優れた積層体を提供する。
【解決手段】積層体は、少なくとも、基材層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順に備える。基材層は、エチレングリコールをジオール単位とし、テレフタル酸とイソフタル酸とをジカルボン酸単位とするポリエチレンテレフタレートを含む。シーラント層の厚さは、20μm以上200μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順に備える積層体であって、
前記基材層は、エチレングリコールをジオール単位とし、テレフタル酸とイソフタル酸とをジカルボン酸単位とするポリエチレンテレフタレートを含み、
前記シーラント層の厚さは、20μm以上200μm以下である、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、より詳細には、包装材料等から回収して再度使用できるようにしたリサイクルポリエステル樹脂を原材料として用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、化粧品、食品などの商品を充填するための包装材料の製造には、成形のし易さやコスト等の観点から化石燃料由来の材料であるプラスチックが主として用いられている。包装容器用の材料として汎用されているプラスチック材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などが使用されている。中でも、ポリエステル系樹脂は、その機械的特性、化学的安定性、耐熱性、透明性などに優れ、かつ安価であることから、フィルム、シート、包装容器など各種産業用途に広く使用されている。
【0003】
ポリエステルは、ジオール単位とジカルボン酸単位とを重縮合して得られる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す場合がある)は、エチレングリコールとテレフタル酸とを原料として、両者をエステル化反応させた後に重縮合反応させて製造されている。これらの原料は、化石資源である石油から生産されており、例えば、エチレングリコールはエチレンから、テレフタル酸はキシレンから工業的に生産されている。
【0004】
近年、このような化石燃料由来の材料に対して、環境に配慮して様々な用途で化石燃料の使用を削減し、CO排出削減を図る動きが年々強まってきている。こうした化石燃料の使用削減の試みとして、PETボトルなど使用済みの包装材料から回収したポリエステル樹脂を再度使用できるようにして、リサイクルポリエステルとして、再び包装材料の成形にリサイクルする方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1、2では、化石燃料由来のポリエステルを用いて形成された使用済み製品を回収して再度使用できるようにしたポリエステルを包装材料の一部に使用することにより、CO排出量の削減を図ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-256328号公報
【特許文献2】特開2012-41463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、回収されたPETボトル等のポリエステル樹脂製品を粉砕、洗浄して再利用するメカニカルリサイクルによってリサイクルされたリサイクルPETを用いた包装材料は、リサイクルPETに付着していた異物に起因して、コンタミネーションなどが発生している可能性があるとの印象がある。このため、リサイクルPETからなる積層体を用いて製造された包装材料、特に、食品などの商品を充填するための包装材料は、消費者からの信用が得られにくい状況にある。
【0007】
本発明は、このような課題を効果的に解決し得る積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも、基材層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順に備える積層体であって、前記基材層は、エチレングリコールをジオール単位とし、テレフタル酸とイソフタル酸とをジカルボン酸単位とするポリエチレンテレフタレートを含み、前記シーラント層の厚さは、20μm以上200μm以下である、積層体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リサイクルされていないポリエチレンテレフタレートからなる積層体よりもCO削減効果に優れるとともに、衛生性に優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態による積層体の一例を示す模式断面図である。
図2】基材層の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<積層体>
本実施の形態による積層体は、少なくとも、基材層と、バリア性接着剤層と、シーラント層とをこの順に備えるものである。積層体は、更に、印刷層や他の層等を備えてもよい。
【0012】
本実施の形態による積層体について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態による積層体の模式断面図の例を図1に示す。
【0013】
図1に示した積層体10は、基材層11と、バリア性接着剤層12と、シーラント層13とをこの順に備える。図示はしないが、積層体10は、基材層11に設けられた印刷層を更に備えていてもよい。図1に示す積層体10を備える包装袋においては、シーラント層13が包装袋の内面を構成する。
【0014】
以下、積層体を構成する各層について説明する。
【0015】
[基材層]
基材層は、メカニカルリサイクルによりリサイクルされたポリエチレンテレフタレート(以下、ポリエチレンテレフタレートをPETとも記す)を含む。具体的には、基材層は、PETボトルをメカニカルリサイクルによりリサイクルしたPETを含み、このPETは、ジオール単位がエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸およびイソフタル酸を含む。ここで、メカニカルリサイクルとは、一般に、回収されたPETボトル等のポリエチレンテレフタレート樹脂製品を粉砕、アルカリ洗浄してPET樹脂製品の表面の汚れ、異物を除去した後、高温・減圧下で一定時間乾燥してPET樹脂の内部に留まっている汚染物質を拡散させ除染を行い、PET樹脂からなる樹脂製品の汚れを取り除き、再びPET樹脂に戻す方法である。以下、本明細書においては、PETボトルをリサイクルしたポリエチレンテレフタレートを「リサイクルポリエチレンテレフタレート(以下、リサイクルPETとも記す)」といい、リサイクルされていないポリエチレンテレフタレートを「ヴァージンポリエチレンテレフタレート(以下、ヴァージンPETとも記す)」というものとする。
【0016】
基材層に含まれるPETのうち、イソフタル酸の含有量は、PETを構成する全ジカルボン酸単位に対して、0.5モル%以上5モル%以下であることが好ましく、1.0モル%以上2.5モル%以下であることがより好ましい。イソフタル酸の含有量が0.5モル%未満であると柔軟性が向上しない場合があり、一方、5モル%を超えるとPETの融点が下がり耐熱性が不十分となる場合がある。なお、PETは、通常の化石燃料由来のPETの他、バイオマスPETであっても良い。「バイオマスPET」とは、ジオール単位としてバイオマス由来のエチレングリコールを含み、ジカルボン酸単位として化石燃料由来のジカルボン酸を含むものである。このバイオマスPETは、バイオマス由来のエチレングリコールをジオール単位とし、化石燃料由来のジカルボン酸をジカルボン酸単位とするPETのみで形成されていてもよいし、バイオマス由来のエチレングリコールおよび化石燃料由来のジオールをジオール単位とし、化石燃料由来のジカルボン酸をジカルボン酸単位とするPETで形成されていてもよい。
【0017】
PETボトルに用いられるPETは、上記したジオール単位とジカルボン酸単位とを重縮合させる従来公知の方法により得ることができる。具体的には、上記のジオール単位とジカルボン酸単位とのエステル化反応および/またはエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法、または有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法などによって製造することができる。
【0018】
上記PETを製造する際に用いるジオール単位の使用量は、ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、エステル化および/またはエステル交換反応および/または縮重合反応中の留出があることから、0.1モル%以上20モル%以下過剰に用いられる。
【0019】
また、重縮合反応は、重合触媒の存在下で行うことが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
【0020】
PETボトルをリサイクルしたPETは、上記のようにして重合して固化させた後、さらに重合度を高めたり、環状三量体などのオリゴマーを除去したりするため、必要に応じて固相重合を行ってもよい。具体的には、固相重合は、PETをチップ化して乾燥させた後、100℃以上180℃以下の温度で1時間から8時間程度加熱してPETを予備結晶化させ、続いて、190℃以上230℃以下の温度で、不活性ガス雰囲気下または減圧下において1時間~数十時間加熱することにより行われる。
【0021】
基材層に含まれるPETの極限粘度は、0.58dl/g以上0.80dl/g以下であることが好ましい。極限粘度が0.58dl/g未満の場合は、基材としてPETフィルムに要求される機械特性が不足する可能性がある。他方、極限粘度が0.80dl/gを超えると、フィルム製膜工程における生産性が損なわれる場合がある。なお、極限粘度は、オルトクロロフェノール溶液で、35℃において測定される。
【0022】
基材層は、リサイクルPETを50重量%以上95重量%以下の割合で含むことが好ましく、リサイクルPETの他、ヴァージンPETを含んでいてもよい。ヴァージンPETとしては、上記したようなジオール単位がエチレングリコールであり、ジカルボン酸単位がテレフタル酸およびイソフタル酸を含むPETであってもよく、また、ジカルボン酸単位がイソフタル酸を含まないPETであってもよい。また、基材層は、PET以外のポリエステルを含んでいてもよい。例えば、ジカルボン酸単位として、テレフタル酸およびイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸以外にも、脂肪族ジカルボン酸等が含まれていてもよい。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸ならびにシクロヘキサンジカルボン酸などの、通常炭素数が2以上40以下の鎖状または脂環式ジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルおよびブチルエステルなどの低級アルキルエステル、無水コハク酸などの上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸またはこれらの混合物が好ましく、コハク酸を主成分とするものが特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸およびコハク酸のメチルエステル、またはこれらの混合物がより好ましい。
【0024】
このようなPETから構成される基材層は、単層であってもよく、多層であってもよい。図2に示すように、基材層に上記したようなリサイクルPETを用いる場合は、第1層31、第2層32、および第3層33の3層を備えた基材層としてもよい。この場合、積層体においては、基材層のうち第3層33がシーラント層側に位置する。また、この場合、第2層32をリサイクルPETのみから構成される層またはリサイクルPETとヴァージンPETとの混合層とし、第1層31および第3層33は、ヴァージンPETのみから構成される層とすることが好ましい。このように、第1層31および第3層33にヴァージンPETのみを用いることにより、リサイクルPETが基材層の表面または裏面から表出することを防止することができる。このため、積層体の衛生性を確保することができる。また、基材層は、図2に示す第1層31を設けることなく、第2層32および第3層33の2層を備えた基材層としてもよい。さらに、基材層は、図2に示す第3層33を設けることなく、第1層31および第2層32の2層を備えた基材層としてもよい。これらの場合においても、第2層32をリサイクルPETのみから構成される層またはリサイクルPETとヴァージンPETとの混合層とし、第1層31および第3層33は、ヴァージンPETのみから構成される層とすることが好ましい。
【0025】
リサイクルPETとヴァージンPETとを混合して一つの層を成形する場合には、別々に成形機に供給する方法、ドライブレンド等で混合した後に供給する方法などがある。中でも、操作が簡便であるという観点から、ドライブレンドで混合する方法が好ましい。
【0026】
基材層を構成するPETは、その製造工程において、またはその製造後に、その特性が損なわれない範囲において各種の添加剤を添加することができる。添加剤として、例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、着色顔料などが挙げられる。添加剤は、PETを含む樹脂組成物全体に対して、5質量%以上50質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下の範囲で添加されることが好ましい。
【0027】
基材層は、上記したPETを用いて、例えば、Tダイ法によってフィルム化することにより形成することができる。具体的には、上記したPETを乾燥させた後、PETの融点以上の温度(Tm)~Tm+70℃の温度に加熱された溶融押出機に供給して、樹脂組成物を溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出し、押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化することによりフィルムを成形することができる。溶融押出機としては、一軸押出機、二軸押出機、ベント押出機、タンデム押出機等を目的に応じて使用することができる。
【0028】
上記のようにして得られたフィルムは2軸延伸されていることが好ましい。2軸延伸は従来公知の方法で行うことができる。例えば、上記のようにして冷却ドラム上に押し出されたフィルムを、続いて、ロール加熱、赤外線加熱などで加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムとする。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。縦延伸は、通常、50℃以上100℃以下の温度範囲で行われる。また、縦延伸の倍率は、フィルム用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上4.2倍以下とするのが好ましい。延伸倍率が2.5倍未満の場合は、PETフィルムの厚み斑が大きくなり良好なフィルムを得ることが難しい。
【0029】
縦延伸されたフィルムは、続いて横延伸、熱固定、熱弛緩の各処理工程を順次施して2軸延伸フィルムとなる。横延伸は、通常、50℃以上100℃以下の温度範囲で行われる。横延伸の倍率は、この用途の要求特性にもよるが、2.5倍以上5.0倍以下が好ましい。2.5倍未満の場合はフィルムの厚み斑が大きくなり良好なフィルムが得られにくく、5.0倍を超える場合は製膜中に破断が発生しやすくなる。
【0030】
横延伸のあと、続いて熱固定処理を行うが、好ましい熱固定の温度範囲は、PETのTg+70~Tm-10℃である。また、熱固定時間は1秒以上60秒以下が好ましい。さらに熱収縮率の低滅が必要な用途については、必要に応じて熱弛緩処理を行ってもよい。
【0031】
上記のようにして得られるPETフィルムの厚さは、その用途に応じて任意であるが、通常、5μm以上100μm以下程度であり、好ましくは5μm以上25μm以下である。また、PETフィルムの破断強度は、MD方向で5kg/mm以上40kg/mm以下、TD方向で5kg/mm以上35kg/mm以下であり、また、破断伸度は、MD方向で50%以上350%以下、TD方向で50%以上300%以下である。また、150℃の温度環境下に30分放置した時の収縮率は、0.1%以上5%以下である。
【0032】
なお、ヴァージンPETは、化石燃料ポリエチレンテレフタレート(以下化石燃料PETとも記す)であってもよく、バイオマスPETであってもよい。ここで、「化石燃料PET」とは、化石燃料由来のジオールをジオール単位とし、化石燃料由来のジカルボン酸をジカルボン酸単位とするものである。また、リサイクルPETは、化石燃料PETを用いて形成されたPET樹脂製品をリサイクルして得られるものであってもよく、バイオマスPETを用いて形成されたPET樹脂製品をリサイクルして得られるものであってもよい。
【0033】
[バリア性接着剤層]
バリア性接着剤層は、基材層11とシーラント層13とを接着するために設けられる層であるとともに、積層体にバリア性を付与する機能を有するものである。バリア性接着剤層を設けることにより、基材層に用いられるリサイクルPETに異物が付着していたとしても、当該異物がバリア層よりもシーラント層側に表出する不具合を抑制するための層である。これにより、積層体を用いて構成された包装袋において、異物がバリア層よりも内面側に表出する不具合を抑制することができるので、内容物の衛生性を確保することができる。
【0034】
バリア性接着剤層は、基材層11を含むフィルムとシーラント層13を含むフィルムのうち積層される側のフィルムの表面に、後記するような接着剤組成物を塗布して乾燥させることにより形成される層である。上記のラミネート用接着剤のコーティング方法としては、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法、トランスファーロールコート法、その他の方法で塗布することができる。
【0035】
バリア性接着剤層は、ガスバリア性、特に酸素と水蒸気バリア性を有する。バリア性接着剤層の厚みは、例えば0.5μm以上6.0μm以下であり、好ましくは0.8μm以上5.0μm以下であり、更に好ましくは1.0μm以上4.5μm以下である。上記範囲よりも薄いとガスバリア性が不十分になりやすく、上記範囲よりも厚いと耐折り曲げ性に劣りやすく、折り曲げ後のガスバリア性が低下することにつながりやすい。
【0036】
バリア性接着剤層は、ポリエステルポリオールと、イソシアネート化合物と、板状無機化合物とを含む接着剤組成物の硬化物からなる。ポリエステルポリオールは、官能基として1分子中に水酸基を2個以上有する。また、イソシアネート化合物は、官能基として1分子中にイソシアネート基を2個以上有する。ポリエステルポリオールは、主骨格として、例えばポリエステル構造、ポリエステルポリウレタン構造を有する。
【0037】
接着剤組成物は、更に、リン酸変性化合物、カップリング剤、シクロデキストリン及び/又はその誘導体、などを含んでいてもよい。
【0038】
接着剤組成物の硬化塗膜のガラス転移温度は、-30℃以上80℃以下の範囲が好ましい。より好ましくは0℃以上70℃以下である。更に好ましくは25℃以上70℃以下である。ガラス転移温度が80℃よりも高い場合、室温付近での硬化塗膜の柔軟性が低くなることにより、フィルムへの密着性が劣ることで接着力が低下するおそれがある。一方-30℃よりも低い場合、常温付近での硬化塗膜の分子運動が激しいことにより十分な酸素バリア性が出ないおそれや、凝集力不足による接着力低下のおそれがある。
【0039】
ポリエステルポリオール、イソシアネート化合物、及び板状無機化合物を含有する接着剤組成物の具体例としては、DIC株式会社から販売されている、酸素バリア性接着剤パスリム(PASLIM)のシリーズが使用でき、特に、PASLIM 等が好ましく用いられる。
【0040】
(ポリエステルポリオール)
官能基として1分子中に水酸基を2個以上有するポリエステルポリオールとしては、例えば下記の〔第1例〕~〔第1例〕を用いることができる。
〔第1例〕オルト配向多価カルボン酸又はその無水物と、多価アルコールとを重縮合して得られるポリエステルポリオール
〔第2例〕グリセロール骨格を有するポリエステルポリオール
〔第3例〕イソシアヌル環を有するポリエステルポリオール
以下、各ポリエステルポリオールについて説明する。
【0041】
〔第1例〕オルト配向多価カルボン酸又はその無水物と、多価アルコールとを重縮合して得られるポリエステルポリオール
第1例に係るポリエステルポリオールは、オルトフタル酸及びその無水物を少なくとも1種以上含む多価カルボン酸成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む多価アルコール成分とを重縮合して得られる重縮合体であってもよい。特に、前記オルトフタル酸及びその無水物の、多価カルボン酸全成分に対する含有率が70~100質量%であるポリエステルポリオールが好ましい。
【0042】
第1例に係るポリエステルポリオールは、多価カルボン酸成分として前記オルトフタル酸及びその無水物を必須とするが、本実施の形態の効果を損なわない範囲において、他の多価カルボン酸成分を共重合させてもよい。具体的には、脂肪族多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等を、不飽和結合含有多価カルボン酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等を、脂環族多価カルボン酸としては1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等を、芳香族多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸及びこれらジカルボン酸の無水物或いはエステル形成性誘導体;p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸及びこれらのジヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体等の多塩基酸を単独で或いは二種以上の混合物で使用することができる。中でも、コハク酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、イソフタル酸が好ましい。
【0043】
多価アルコール成分及びその他の成分としては、前記のものを挙げることができる。
【0044】
〔第2例〕グリセロール骨格を有するポリエステルポリオール
第2例に係るポリエステルポリオールとして、一般式(1)で表されるグリセロール骨格を有するポリエステルポリオールを挙げることができる。
【化1】
一般式(1)において、R、R、Rは、各々独立に、H又は下記の一般式(2)で表される化合物である。
【化2】
【0045】
式(2)において、nは1~5の整数を表し、Xは、置換基を有してもよい1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,3-アントラキノンジイル基、及び2,3-アントラセンジイル基から成る群から選ばれるアリーレン基を表し、Yは炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。但し、R、R、Rのうち少なくとも一つは、一般式(2)で表される基を表す。
【0046】
前記一般式(1)において、R、R、Rの少なくとも1つは前記一般式(2)で表される基である必要がある。中でも、R、R、R全てが前記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0047】
また、R、R、Rのいずれか1つが前記一般式(2)で表される基である化合物と、R、R、Rのいずれか2つが前記一般式(2)で表される基である化合物と、R、R、Rの全てが前記一般式(2)で表される基である化合物の、いずれか2つ以上の化合物が混合物となっていてもよい。
【0048】
Xは、1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,3-アントラキノンジイル基、及び2,3-アントラセンジイル基から成る群から選ばれ、置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。Xが置換基によって置換されている場合、1又は複数の置換基で置換されていてもよく、該置換基は、X上の、遊離基とは異なる任意の炭素原子に結合している。該置換基としては、クロロ基、ブロモ基、メチル基、エチル基、i-プロピル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルボキシル基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基又はナフチル基等が挙げられる。
【0049】
前記一般式(2)において、Yは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、1,5-ペンチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、メチルペンチレン基、ジメチルブチレン基等の、炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。Yは、中でも、プロピレン基、エチレン基が好ましくエチレン基が最も好ましい。
【0050】
前記一般式(1)で表されるグリセロール骨格を有するポリエステル樹脂化合物は、グリセロールと、カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸又はその無水物と、多価アルコール成分とを必須成分として反応させて得る。
【0051】
カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸又はその無水物としては、オルトフタル酸又はその無水物、ナフタレン2,3-ジカルボン酸又はその無水物、ナフタレン1,2-ジカルボン酸又はその無水物、アントラキノン2,3-ジカルボン酸又はその無水物、及び2,3-アントラセンカルボン酸又はその無水物等が挙げられる。これらの化合物は、芳香環の任意の炭素原子に置換基を有していても良い。該置換基としては、クロロ基、ブロモ基、メチル基、エチル基、i-プロピル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルボキシル基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基又はナフチル基等が挙げられる。
【0052】
また、多価アルコール成分としては炭素原子数2~6のアルキレンジオールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール等のジオールを例示することができる。
【0053】
〔第3例〕イソシアヌル環を有するポリエステルポリオール
第3例に係るポリエステルポリオールは、下記一般式(3)で表されるイソシアヌル環を有するポリエステルポリオールである。
【化3】
一般式(3)において、R、R、Rは、各々独立に、「-(CH)n1-OH(但しn1は2~4の整数を表す)」、又は、一般式(4)の構造を表す。
【化4】
【0054】
一般式(4)中、n2は2~4の整数を表し、n3は1~5の整数を表し、Xは1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,3-アントラキノンジイル基、及び2,3-アントラセンジイル基から成る群から選ばれ、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Yは炭素原子数2~6のアルキレン基を表す)で表される基を表す。但しR、R、Rの少なくとも1つは前記一般式(4)で表される基である。
【0055】
前記一般式(3)において、-(CH)n1-で表されるアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状でもよい。n1は、中でも2又は3が好ましく、2が最も好ましい。
【0056】
前記一般式(4)において、n2は2~4の整数を表し、n3は1~5の整数を表す。Xは1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,3-アントラキノンジイル基、及び2,3-アントラセンジイル基から成る群から選ばれ、置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。
【0057】
Xが置換基によって置換されている場合、1または複数の置換基で置換されていてもよく、該置換基は、X上の、遊離基とは異なる任意の炭素原子に結合している。該置換基としては、クロロ基、ブロモ基、メチル基、エチル基、i-プロピル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルボキシル基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基またはナフチル基等が挙げられる。
【0058】
Xの置換基は、中でもヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基、が好ましくヒドロキシル基、フェノキシ基、シアノ基、ニトロ基、フタルイミド基、フェニル基が最も好ましい。
【0059】
前記一般式(4)において、Yは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、1,5-ペンチレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、メチルペンチレン基、ジメチルブチレン基等の、炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。Yは、中でも、プロピレン基、エチレン基が好ましくエチレン基が最も好ましい。
【0060】
前記一般式(3)において、R、R、Rの少なくとも1つは前記一般式(4)で表される基である。中でも、R、R、R全てが前記一般式(4)で表される基であることが好ましい。
【0061】
また、R、R、Rのいずれか1つが前記一般式(4)で表される基である化合物と、R、R、Rのいずれか2つが前記一般式(4)で表される基である化合物と、R、R、Rの全てが前記一般式(4)で表される基である化合物の、いずれか2つ以上の化合物が混合物となっていてもよい。
【0062】
前記一般式(3)で表されるイソシアヌル環を有するポリエステルポリオールは、イソシアヌル環を有するトリオールと、カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸またはその無水物と、多価アルコール成分とを必須成分として反応させて得る。
【0063】
イソシアヌル環を有するトリオールとしては、例えば、1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、1,3,5-トリス(2-ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸等のイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0064】
また、カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸またはその無水物としては、オルトフタル酸またはその無水物、ナフタレン2,3-ジカルボン酸またはその無水物、ナフタレン1,2-ジカルボン酸またはその無水物、アントラキノン2,3-ジカルボン酸またはその無水物、及び2,3-アントラセンカルボン酸またはその無水物等が挙げられる。これらの化合物は、芳香環の任意の炭素原子に置換基を有していても良い。
【0065】
該置換基としては、クロロ基、ブロモ基、メチル基、エチル基、i-プロピル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルボキシル基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基またはナフチル基等が挙げられる。
【0066】
また、多価アルコール成分としては炭素原子数2~6のアルキレンジオールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール等のジオールを例示することができる。
【0067】
中でも、イソシアヌル環を有するトリオール化合物として1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、または1,3,5-トリス(2-ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸を使用し、カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸またはその無水物としてオルトフタル酸無水物を使用し、多価アルコールとしてエチレングリコールを使用したイソシアヌル環を有するポリエステルポリオール化合物が、酸素バリア性や接着性に特に優れ好ましい。
【0068】
イソシアヌル環は高極性であり且つ3官能である。従って系全体を高極性化させることができ、且つ、架橋密度を高めることが可能である。このような観点からイソシアヌル環を接着剤樹脂全固形分に対し5質量%以上含有することが好ましい。
【0069】
イソシアヌル環を有する接着剤が、酸素バリア性とドライラミネート接着性とを担保できる理由としては次のように推定している。
【0070】
イソシアヌル環は高極性であり、且つ水素結合を形成しない。一般に接着性を高める手法として、水酸基、ウレタン結合、ウレイド結合、アミド結合などの高極性の官能基を配合させる方法が知られているが、これらの結合を有する樹脂は分子間水素結合を形成しやすく、ドライラミネート接着剤に良く使用される酢酸エチル、2-ブタノン溶剤への溶解性を損ねてしまうことがあるが、イソシアヌル環を有するポリエステル樹脂は該溶解性を損なわないので、容易に希釈可能である。
【0071】
また、イソシアヌル環は3官能であるため、イソシアヌル環を樹脂骨格の中心とし、且つその分岐鎖に特定の構造のポリエステル骨格を有するポリエステルポリオール化合物は高い架橋密度を得ることができる。架橋密度を高めることで、酸素等のガスが通過する隙間を減らすことができると推定される。このように、イソシアヌル環は分子間水素結合を形成せずに高極性であり且つ高い架橋密度が得られるので、酸素バリア性とドライラミネート接着性とを担保できると推定している。
【0072】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有し、芳香族または脂肪族のどちらでもよく、低分子化合物または高分子化合物のどちらでもよく、イソシアネート基が2個のジイソシアネート化合物や、3個以上のポリイソシアネート化合物等の公知の化合物が使用できる。イソシアネート化合物としては、公知のイソシアネートブロック化剤を用いて公知慣用の適宜の方法より付加反応させて得られたブロック化イソシアネート化合物であってもよい。
【0073】
中でも、接着性や耐レトルト性の観点から、ポリイソシアネート化合物が好まれ、酸素バリア性付与という点では、芳香族環を有するものが好ましく、特に、メタキシレン骨格を含むイソシアネート化合物が、ウレタン基の水素結合だけでなく芳香環同士のπ-πスタッキングによって酸素バリア性を向上させることが出来るという理由から好ましい。
【0074】
イソシアネート化合物の具体的な化合物としては、たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート或いはこれらのイソシアネート化合物の3量体、およびこれらのイソシアネート化合物の過剰量と、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、メタキシリレンアルコール、1,3-ビスヒドロキシエチルベンゼン、1,4-ビスヒドロキシエチルベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メタキシリレンジアミンなどの低分子活性水素化合物およびそのアルキレンオキシド付加物、各種ポリエステル樹脂類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類の高分子活性水素化合物などと反応させて得られるアダクト体、ビュレット体、アロファネート体等が挙げられる。
【0075】
(板状無機化合物)
板状無機化合物は、形状が板状であることにより、特に、バリア性接着剤層のラミネート強度とバリア性が向上する特徴がある。
板状無機化合物としては、具体的には、含水ケイ酸塩(フィロケイ酸塩鉱物等)、カオリナイト-蛇紋族粘土鉱物(ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等、アンチゴライト、クリソタイル等)、パイロフィライト-タルク族(パイロフィライト、タルク、ケロライ等)、スメクタイト族粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等)、バーミキュライト族粘土鉱物(バーミキュライト等)、雲母又はマイカ族粘土鉱物(白雲母、金雲母等の雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等)、緑泥石族(クッケアイト、スドーアイト、クリノクロア、シャモサイト、ニマイト等)、ハイドロタルサイト、板状硫酸バリウム、ベーマイト、ポリリン酸アルミニウム等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0076】
板状無機化合物の平均粒径は特に限定はないが、好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは1μm以上である。平均粒径が0.1μm以下であると、長辺の長さが短いことにより、酸素分子の迂回経路が長くならずに酸素バリア能を向上させにくい問題や接着力を向上させにくい問題が生じる。平均粒径の大きい側は特に限定されない。接着剤組成物の塗工の方法により大きな板状無機化合物を含有すると塗工面にスジ等の欠陥が生じる場合は、好ましくは平均粒径100μm以下、更に好ましくは20μm以下の材料を用いると良い。
【0077】
板状無機化合物のアスペクト比は酸素の迷路効果によるバリア能の向上のためには高い方が好ましい。具体的には3以上が好ましく、更に好ましくは10以上、最も好ましくは40以上である。
【0078】
板状無機化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、バリア性接着剤層中に5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。5質量%未満ではバリア性が向上しにくく、50質量%を超えると接着剤組成物の塗工表面の粘着性が低下してラミネートしにくくなったり、接着力が不十分になる場合があるためである。
【0079】
バリア性接着剤層を形成するための接着剤組成物には、上記した成分に加えて、更に、リン酸変性化合物、カップリング剤、シクロデキストリン等が含まれていてもよい。
【0080】
(リン酸変性化合物)
リン酸変性化合物は、例えば下記の一般式(5)又は(6)で表される化合物である。
【0081】
【化5】
一般式(5)において、R、R、Rは、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、(メタ)アクリロイル基、置換基を有してもよいフェニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する炭素数1~4のアルキル基から選ばれる基であるが、少なくとも一つは水素原子であり、nは、1~4の整数を表す。
【0082】
【化6】
式中、R、Rは、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、(メタ)アクリロイル基、置換基を有してもよいフェニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する炭素数1~4のアルキル基から選ばれる基であり、nは1~4の整数、xは0~30の整数、yは0~30の整数を表すが、xとyが共に0である場合を除く。
【0083】
上記リン酸変性化合物は、本実施の形態の無機系部材に対するラミネート強度を向上させる効果を有し、公知慣用のものを用いることができる。
【0084】
より具体的には、リン酸、ピロリン酸、トリリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、イソドデシルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0085】
リン酸変性化合物の含有量としては、本実施の形態の接着剤用樹脂組成物中、0.005質量%以上10質量%以下が好ましい。より好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。0.005質量%より少ない場合、良好な密着性が得られない。10質量%以下より多い場合、バリア性が悪化する場合がある。
【0086】
(カップリング剤)
カップリング剤は、下記の一般式(7)であらわされるシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、又はアルミニウム系カップリング剤である。なお、これらのカップリング剤は、単独でも、2種類以上組み合わせてもよい。
【化7】
【0087】
前記シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)等が挙げられる。
【0088】
また、前記チタン系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジドデシルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタイノルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート等が挙げられる。
【0089】
また、前記アルミニウム系カップリング剤の具体例としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレート、イソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテートモノ(ジオクチルホスフェート)、アルミニウム-2-エチルヘキサノエートオキサイドトリマー、アルミニウムステアレートオキサイドトリマー、アルキルアセトアセテートアルミニウムオキサイドトリマー等が挙げられる。
【0090】
(シクロデキストリン及び/又はその誘導体)
前記シクロデキストリン及び/又はその誘導体は、1)無機層を持つフィルムへの優れた接着性、2)優れた酸素バリアの強化、を得るうえで好ましい成分である。具体的には例えば、シクロデキストリンの他、アルキル化シクロデキストリン、アセチル化シクロデキストリン、ヒドロキシアルキル化シクロデキストリン等のシクロデキストリンのグルコース単位の水酸基の水素原子を他の官能基で置換したものなどを用いることができる。また、分岐環状デキストリンも用いることができる。また、シクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体におけるシクロデキストリン骨格としては、6個のグルコース単位からなるα-シクロデキストリン、7個のグルコース単位からなるβ-シクロデキストリン、8個のグルコース単位からなるγ-シクロデキストリンのいずれも用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、これらシクロデキストリン及び/又はその誘導体を以降、デキストリン化合物と総称する場合がある。
【0091】
接着剤組成物への相溶性、分散性の観点から、前記シクロデキストリン化合物としては、シクロデキストリン誘導体を用いることが好ましい。置換度としては上記各種樹脂の極性の観点から、0.1個以上14個以下/グルコースの範囲であることが好ましく、0.3個以上8個個以下/グルコースの範囲であることがより好ましい。
【0092】
前記アルキル化シクロデキストリンとしては、例えば、メチル-α-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、メチル-γ-シクロデキストリン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0093】
前記アセチル化シクロデキストリンとしては、例えば、モノアセチル-α-シクロデキストリン、モノアセチル-β-シクロデキストリン、モノアセチル-γ-シクロデキストリン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0094】
前記ヒドロキシアルキル化シクロデキストリンとしては、例えば、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0095】
前記シクロデキストリン及び/又はその誘導体の含有量としては特に制限はないが、樹脂、溶媒、イソシアネート化合物との相溶性、接着強度向上、とバリア向上の点から、バリア性接着剤層中の0.01質量部以上20質量部以下の範囲であることが好ましく、0.05質量部以上10質量部以下の範囲がより好ましく、0.1質量部以上5質量部以下の範囲が更に好ましい。
【0096】
接着剤組成物がシクロデキストリン及び/又はその誘導体を含む場合、シクロデキストリン及び/又はその誘導体が持つ、環状かつ規則的に配置された水酸基とエーテル基が無機表面と複数の相互作用点を配位結合、水素結合として持つことで、無機層をもつフィルム、特に金属箔、金属蒸着フィルム、透明蒸着フィルムの各種フィルムをラミネートした際に強い接着強度を持つ接着剤とすることができると想定している。また、シクロデキストリン及び/又はその誘導体が持つ多数の水酸基が分子間の相互作用をして、ガスが透過する自由体積孔を狭めることによりバリア機能を向上させると想定している。
【0097】
(溶剤)
ポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とを溶解し、リン酸変性化合物や板状無機化合物などを均一に分散可能で、バリア性接着剤層の形成工程の観点で適切な沸点や揮発性を有するものならば、特に制限は無い。
【0098】
[シーラント層]
シーラント層は、包装体とした場合に最内層側となるものである。シーラント層は、熱によって相互に融着し得る熱可塑性樹脂により形成される層である。シーラント層は、化石燃料由来の樹脂材料を含んでいてもよいし、バイオマス由来の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0099】
シーラント層を形成する樹脂材料としては、熱によって相互に融着し得る樹脂であれば、特に限定されず、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン触媒を利用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体、エチレン・ポリプロピレンのランダムもしくはブロック共重合体、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂、ヒートシール性エチレン・ビニルアルコール樹脂、または、メチルペンテン系樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは環状オレフィンコポリマーなどのポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他などの樹脂などが挙げられる。これらは、単独でも二種以上の混合物として使用してもよい。シーラント層は、上記のような樹脂のフィルムないしシート、あるいはそのコーティング膜などとして使用することができる。
【0100】
シーラント層を形成する樹脂材料として、ポリエチレンを用いる場合、その原料として、化石燃料から得られるエチレンの他に、バイオマス由来のエチレンを重合したものを用いてもよい。バイオマス由来のエチレンとしては、具体的には、例えば、特開2012―251006号公報に記載のものを使用することができる。バイオマス由来のエチレンを重合して得られたポリエチレンを、シーラント層を構成する材料として用いることにより、カーボンニュートラルな材料からなる層で形成できるため、基材層との併用によって、より一層、化石燃料の使用量を削減することができ、環境負荷を減らすことができる。
【0101】
バイオマス由来のエチレンとしては、市販のものを使用してもよく、例えば、ブラスケム社製の「C4LL-SLL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)」のサトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂や「SBC118(d=0.918、MFR=8.1g/10分)」のサトウキビ由来低密度ポリエチレン系樹脂を使用することができる。
【0102】
なお、本実施形態においては、シーラント層は一層としているが、シーラント層は二層以上設けられていてもよい。シーラント層を二層以上有する場合、それぞれが、同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。例えば、シーラント層を第1の層と第2の層と第3の層が順に積層された3層で構成し、第1の層と第3の層を化石燃料由来の樹脂材料とし、第2の層をバイオマス由来の樹脂材料を含む樹脂材料としてもよい。なお、シーラント層を2層以上で構成する場合、共押し出し法を用いて積層することができる。
【0103】
シーラント層の厚さとしては、20μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上130μm以下がより好ましい。
【0104】
[印刷層]
印刷層は、装飾、内容物の表示、賞味期間の表示、製造者、販売者などの表示、その他などの表示や美感の付与のために、文字、数字、絵柄、図形、記号、模様などの所望の任意の印刷模様を形成する層である。印刷層は、必要に応じて設けることができ、例えば、基材層とバリア層の間や、バリア層とシーラント層との間に設けることができる。印刷層は、基材層の全面に設けてもよく、あるいは一部に設けてもよい。印刷層は、従来公知の顔料や染料を用いて形成することができ、その形成方法は特に限定されない。
【0105】
印刷層は、好ましくは0.1μm以上10μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下、さらに好ましくは1μm以上3μm以下の厚さを有するものである。
【0106】
基材層は、上述のように、リサイクルPETを例えば50重量%以上95重量%以下の割合で含んでいる。本実施の形態によれば、基材層がリサイクルPETを含むことにより、リサイクルPETを含まない積層体よりもCO削減効果に優れる積層体を提供することができる。また、本実施の形態によれば、積層体が上述のバリア層を含むことにより、衛生性に優れた積層体を提供することができる。
【0107】
<積層体の製造方法>
本実施の形態による積層体の製造方法は特に限定されず、ドライラミネート法等の従来公知の方法を用いて製造することができる。
【0108】
本実施の形態による積層体には、化学的機能、電気的機能、磁気的機能、力学的機能、摩擦/磨耗/潤滑機能、光学的機能、熱的機能、生体適合性等の表面機能等の付与を目的として、二次加工を施すことも可能である。二次加工の例としては、エンボス加工、塗装、接着、印刷、メタライジング(めっき等)、機械加工、表面処理(帯電防止処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、フォトクロミズム処理、物理蒸着、化学蒸着、コーティング、等)等が挙げられる。また、本実施の形態による積層体に、ラミネート加工(ドライラミネートや押し出しラミネート)、製袋加工、およびその他の後処理加工を施して、成型品を製造することもできる。
【0109】
上記積層体は、例えば食品等の商品を充填する包装袋に使用することができる。例えば、上記積層体を使用し、これを二つ折にするか、又は該積層体2枚を用意し、そのシーラントの面を対向させて重ね合わせ、さらにその周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の包装袋を製造することができる。
【0110】
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0111】
包装袋は、環境負荷を減らしながらも、優れた衛生性を有するため、特に、食品等を密封包装する包装袋として好適に使用することができる。
【0112】
(他の態様)
本発明の他の態様は、少なくとも、基材層と、バリア性接着剤層と、シーラント層とをこの順に備える積層体であって、前記基材層は、エチレングリコールをジオール単位とし、テレフタル酸とイソフタル酸とをジカルボン酸単位とするポリエチレンテレフタレートを含み、前記バリア性接着剤層は、官能基として1分子中に水酸基を2個以上有するポリエステルポリオールと、官能基として1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物と、板状無機化合物とを含む接着剤組成物の硬化物からなる、積層体である。
本発明の他の態様による積層体において、前記ポリエステルポリオールは、オルト配向多価カルボン酸又はその無水物と、多価アルコールとの重縮合体であってもよい。
本発明の他の態様による積層体において、前記ポリエステルポリオールは、下記の一般式(1)
【化8】
で表される化合物であり、
一般式(1)において、R、R、Rは、各々独立に、H又は下記の一般式(2)
【化9】
で表される化合物であり、
式(2)において、nは1~5の整数を表し、Xは、置換基を有してもよい1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、2,3-アントラキノンジイル基、及び2,3-アントラセンジイル基から成る群から選ばれるアリーレン基を表し、Yは炭素原子数2~6のアルキレン基を表し、但し、R、R、Rのうち少なくとも一つは、一般式(2)で表される基を表してもよい。
本発明の他の態様による積層体において、前記ポリエステルポリオールは、イソシアヌル環を有していてもよい。
本発明の他の態様による積層体において、前記イソフタル酸の含有量は、前記ポリエチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸単位に対して、0.5モル%以上5.0モル%以下であってもよい。
本発明の他の態様による積層体において、前記ポリエチレンテレフタレートの極限粘度は、0.58dl/g以上0.80dl/g以下であってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10 積層体
11 基材層
12 バリア性接着剤層
13 シーラント層
図1
図2