(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168213
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】スピーカ用のマルチチャネルサブバンド空間処理
(51)【国際特許分類】
H04S 1/00 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
H04S1/00 700
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144496
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2020550867の分割
【原出願日】2019-03-20
(31)【優先権主張番号】15/933,207
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518253875
【氏名又は名称】ブームクラウド 360 インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザッカリー セルデス
(57)【要約】
【課題】スピーカ用のマルチチャネルサブバンド空間処理を提供する。
【解決手段】オーディオシステムは、マルチチャネルサラウンドサウンド入力オーディオ信号を処理して、左右のスピーカのステレオ信号にし、入力オーディオ信号の音場の空間感覚を維持する。入力信号の左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルでサブバンド空間処理が実行され、空間的に強調されたチャネルが作成される。バイノーラルフィルタは、周辺入力チャネルまたは空間強調チャネルに適用できる。空間強調チャネルにクロストークキャンセルが実行され、左クロストークキャンセルチャネルと右クロストークキャンセルチャネルが作成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチチャネル入力オーディオ信号を処理するためのシステムであって、
左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルを含む前記マルチチャネル入力オーディオ信号を受信し、
空間強調チャネルを生成するために、前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネル、および前記右周辺入力チャネルに利得を与え、前記左周辺入力チャネルおよび前記右周辺入力チャネルの各々にバイノーラルフィルタを適用し、前記バイノーラルフィルタの左出力チャネルと前記左入力チャネルを結合して左結合チャネルを生成し、前記バイノーラルフィルタの右出力チャネルと前記右入力チャネルを結合して右結合チャネルを生成し、前記左結合チャネルおよび前記右結合チャネルにサブバンド空間処理を実行し、
左クロストークキャンセルチャネルおよび右クロストークキャンセルチャネルを生成するために前記空間強調チャネルにクロストークキャンセルを実行し、
前記左クロストークキャンセルチャネルから左出力チャネルと、前記右クロストークキャンセルチャネルから右出力チャネルとを生成する
ように構成された回路を備えたことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記サブバンド空間処理を実行するように構成された前記回路は、
前記左入力チャネルおよび前記右入力チャネルのミッドサブバンドの成分およびサイドサブバンドの成分を利得調整し、
前記左周辺入力チャネルおよび前記右周辺入力チャネルのミッドサブバンドの成分およびサイドサブバンドの成分を利得調整する
ように構成された前記回路を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記バイノーラルフィルタは、第一のバイノーラルフィルタと第二のバイノーラルフィルタとを含み、前記第一のバイノーラルフィルタは、前記左周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整し、および前記第二のバイノーラルフィルタは、前記右周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整することを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記サブバンド空間処理を実行するように構成された前記回路は、バイノーラル処理をバイパスしてチャネル間スペクトルの均一性を維持するようにさらに構成されたことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記クロストークキャンセルを実行するために構成された前記回路は、
前記左結合チャネルを左インバンド信号および左アウトオブバンド信号に分離し、
前記右結合チャネルを右インバンド信号および右アウトオブバンド信号に分離し、
前記左インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって左クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記右インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって右クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記左インバンド信号および前記左アウトオブバンド信号と、前記右クロストークキャンセルの成分とを結合することによって、前記左クロストークキャンセルチャネルを生成し、
前記右インバンド信号および前記右アウトオブバンド信号と、前記左クロストークキャンセルの成分とを結合することによって、前記右クロストークキャンセルチャネルを生成する
ように構成された前記回路を備えることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記サブバンド空間処理を実行するために構成された前記回路は、左空間強調チャネルおよび右空間強調チャネルを生成するために、前記左結合チャネルおよび前記右結合チャネルのミッドサブバンドの成分およびサイドサブバンドの成分の利得調整をするように構成された前記回路を備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記回路は、
前記左周辺入力チャネルと前記左入力チャネルとを結合する前に、前記左周辺入力チャネルに第一のバイノーラルフィルタを適用し、前記第一のバイノーラルフィルタは前記左周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整し、
前記右周辺入力チャネルと前記右入力チャネルとを結合する前に、前記右周辺入力チャネルに第二のバイノーラルフィルタを適用し、前記第二のバイノーラルフィルタは前記右周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整する
ようにさらに構成されたことを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記クロストークキャンセルを実行するように構成される前記回路であって、
左空間強調チャネルを左インバンド信号および左アウトオブバンド信号に分離し、
右空間強調チャネルを右インバンド信号および右アウトオブバンド信号に分離し、
前記左インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって、左クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記右インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって、右クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記右クロストークキャンセルの成分を前記左インバンド信号および前記左アウトオブバンド信号と結合することによって、前記左クロストークキャンセルチャネルを生成し、
前記左クロストークキャンセルの成分を前記右インバンド信号および前記右アウトオブバンド信号と結合することによって、前記右クロストークキャンセルチャネルを生成する
ように構成された前記回路を備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記左周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の左サラウンド入力チャネルであり、および前記右周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の右サラウンド入力チャネルであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記左周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の左サラウンドリア入力チャネルであり、および前記右周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の右サラウンドリア入力チャネルであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記回路は、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の中央チャネルおよび低周波数チャネルと、前記左クロストークキャンセルチャネルおよび前記右クロストークキャンセルチャネルとを結合するようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記回路は、前記バイノーラルフィルタを前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネル、前記右周辺入力チャネル、および前記中央チャネルのそれぞれに適用するようにさらに構成されたことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記回路は、前記中央チャネルと、前記左クロストークキャンセルチャネルおよび前記右クロストークキャンセルチャネルとを結合する前に、前記中央チャネルにハイシェルフフィルタを適用するようにさらに構成されたことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記回路は、
結合チャネルを生成するために、中央チャネルおよび低周波数チャネルの少なくとも一つを前記空間強調チャネルと結合し、
前記結合チャネルに前記クロストークキャンセルを実行する
ようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記回路は、
結合チャネルを生成するために、中央チャネルおよび低周波数チャネルの少なくとも一つを、前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネルおよび前記右周辺入力チャネルと結合し、
前記結合チャネルに、前記サブバンド空間処理および前記クロストークキャンセルを実行する
ようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
プロセッサによって実行されると、
左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルを含むマルチチャネル入力オーディオ信号を受信し、
空間強調チャネルを生成するために、前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネル、および前記右周辺入力チャネルに利得を与え、前記左周辺入力チャネルおよび前記右周辺入力チャネルの各々にバイノーラルフィルタを適用し、前記バイノーラルフィルタの左出力チャネルと前記左入力チャネルを結合して左結合チャネルを生成し、前記バイノーラルフィルタの右出力チャネルと前記右入力チャネルを結合して右結合チャネルを生成し、前記左結合チャネルおよび前記右結合チャネルにサブバンド空間処理を実行し、
左クロストークキャンセルチャネルおよび右クロストークキャンセルチャネルを生成するために前記空間強調チャネルにクロストークキャンセルを実行し、
前記左クロストークキャンセルチャネルから左出力チャネルと、前記右クロストークキャンセルチャネルから右出力チャネルとを生成する
ことを前記プロセッサにさせるプログラムコードを格納することを特徴とする非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項17】
前記プロセッサに、前記サブバンド空間処理を実行させる前記プログラムコードは、
前記左入力チャネルおよび前記右入力チャネルのミッドサブバンドの成分およびサイドサブバンドの成分を利得調整し、
前記左周辺入力チャネルおよび前記右周辺入力チャネルのミッドサブバンドの成分およびサイドサブバンドの成分を利得調整する
ことを前記プロセッサにさせる前記プログラムコードを含むことを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項18】
前記バイノーラルフィルタは、第一のバイノーラルフィルタと第二のバイノーラルフィルタとを含み、前記プログラムコードは、
前記第一のバイノーラルフィルタによって、前記左周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整し、
前記第二のバイノーラルフィルタによって、前記右周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整する
ことを前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項17に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記プログラムコードは、バイノーラル処理をバイパスしてチャネル間スペクトルの均一性を維持することを前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項17に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記プロセッサに、前記クロストークキャンセルを実行させる前記プログラムコードは、
前記左結合チャネルを、左インバンド信号と左アウトオブバンド信号とに分離し、
前記右結合チャネルを、右インバンド信号および右アウトオブバンド信号に分離し、
前記左インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって左クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記右インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって右クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記左インバンド信号および前記左アウトオブバンド信号と、前記右クロストークキャンセルの成分とを結合することによって、前記左クロストークキャンセルチャネルを生成し、
前記右インバンド信号および前記右アウトオブバンド信号と、前記左クロストークキャンセルの成分とを結合することによって、前記右クロストークキャンセルチャネルを生成する
ことを前記プロセッサにさせる前記プログラムコードを含むことを特徴とする請求項17に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項21】
前記プロセッサに、前記サブバンド空間処理を実行させる前記プログラムコードは、左空間強調チャネルおよび右空間強調チャネルを生成するために、前記左結合チャネルおよび前記右結合チャネルのミッドサブバンドの成分およびサイドサブバンドの成分を利得調整することを前記プロセッサにさせる前記プログラムコードを含むことを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項22】
前記プログラムコードは、
前記左周辺入力チャネルと前記左入力チャネルとを結合する前に、前記左周辺入力チャネルに第一のバイノーラルフィルタを適用し、前記第一のバイノーラルフィルタは前記左周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整し、
前記右周辺入力チャネルと前記右入力チャネルを結合する前に、前記右周辺入力チャネルに第二のバイノーラルフィルタを適用し、前記第二のバイノーラルフィルタは前記右周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整する
ことを前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項21に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項23】
前記プロセッサに、前記クロストークキャンセルを実行させる前記プログラムコードは、
左空間強調チャネルを左インバンド信号および左アウトオブバンド信号に分離し、
右空間強調チャネルを右インバンド信号および右アウトオブバンド信号に分離し、
前記左インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって、左クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記右インバンド信号のフィルタリングおよび時間遅延によって、右クロストークキャンセルの成分を生成し、
前記右クロストークキャンセルの成分を前記左インバンド信号および前記左アウトオブバンド信号と結合することによって、前記左クロストークキャンセルチャネルを生成し、
前記左クロストークキャンセルの成分を前記右インバンド信号および前記右アウトオブバンド信号と結合することによって、前記右クロストークキャンセルチャネルを生成する
ことを前記プロセッサにさせる前記プログラムコードを含むことを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項24】
前記左周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の左サラウンド入力チャネルであり、および前記右周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の右サラウンド入力チャネルであることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項25】
前記左周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の左サラウンドリア入力チャネルであり、および前記右周辺入力チャネルは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の右サラウンドリア入力チャネルであることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項26】
前記プログラムコードは、前記マルチチャネル入力オーディオ信号の中央チャネルおよび低周波数チャネルと、前記左クロストークキャンセルチャネルおよび前記右クロストークキャンセルチャネルとを結合するように前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項27】
前記プログラムコードは、前記バイノーラルフィルタを前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネル、前記右周辺入力チャネル、および中央チャネルのそれぞれに適用するように前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項28】
前記プログラムコードは、前記中央チャネルと、前記左クロストークキャンセルチャネルおよび前記右クロストークキャンセルチャネルとを結合する前に、前記中央チャネルにハイシェルフフィルタを適用するように前記プロセッサをさらにさせることを特徴とする請求項27に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項29】
前記プログラムコードは、
結合チャネルを生成するために、中央チャネルおよび低周波数チャネルの少なくとも一つと前記空間強調チャネルとを結合し、
前記結合チャネルに前記クロストークキャンセルを実行する
ことを前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項30】
前記プログラムコードは、
結合チャネルを生成するために、中央チャネルおよび低周波数チャネルの少なくとも一つと、前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネル、および前記右周辺入力チャネルを結合し、
前記結合チャネルに前記サブバンド空間処理および前記クロストークキャンセルを実行する
ことを前記プロセッサにさらにさせることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項31】
マルチチャネル入力オーディオ信号を処理するための方法であって、
左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルを含む前記マルチチャネル入力オーディオ信号を受信することと、
空間強調チャネルを生成するために、前記左入力チャネル、前記右入力チャネル、前記左周辺入力チャネル、および前記右周辺入力チャネルに利得を与え、前記左周辺入力チャネルおよび前記右周辺入力チャネルの各々にバイノーラルフィルタを適用し、前記バイノーラルフィルタの左出力チャネルと前記左入力チャネルを結合して左結合チャネルを生成し、前記バイノーラルフィルタの右出力チャネルと前記右入力チャネルを結合して右結合チャネルを生成し、前記左結合チャネルおよび前記右結合チャネルにサブバンド空間処理を実行することと、
左クロストークキャンセルチャネルおよび右クロストークキャンセルチャネルを生成するために前記空間強調チャネルにクロストークキャンセルを実行することと、
前記左クロストークキャンセルチャネルから左出力チャネルを生成し、前記右クロストークキャンセルチャネルから右出力チャネルを生成することと
を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、概してオーディオ信号処理の分野に関し、より具体的には、空間的強調マルチチャネルオーディオに関する。
【背景技術】
【0002】
サラウンドサウンドは、リスナーの周囲にスピーカが配置された複数のチャネルを含むオーディオ信号のサウンド再生を指す。例えば、5.1サラウンドサウンドでは、フロントスピーカ、左スピーカと右スピーカ、サブウーファ、およびリア(または「サラウンド」)左スピーカと右リアスピーカの6チャネルを使用する。別の例では、7.1サラウンドサウンドは、5.1サラウンドサウンド構成のリア左および右スピーカを、左サラウンドスピーカ、右サラウンドスピーカ、左リアサラウンドスピーカ、および右リアサラウンドスピーカのような4つの別個のスピーカに分離することにより、8チャネルを使用する。マルチチャネルオーディオ信号のオーディオチャネルは、オーディオチャネルが出力されるスピーカの場所に対応する角度位置に関連付けられ得る。したがって、マルチチャネルオーディオ信号は、オーディオ信号が異なる場所にあるスピーカに出力されるときに、リスナーが音場の空間的感覚を知覚することを可能にする。しかしながら、サラウンドサウンドのためのマルチチャネルオーディオ信号がステレオ(例えば、左および右)スピーカまたはヘッドマウントスピーカに出力されるとき、空間的感覚は失われる可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
例示的な実施形態は、マルチチャネル入力オーディオ信号の音場の空間的感覚を維持または強化しながら、(例えば、サラウンドサウンド)マルチチャネル入力オーディオ信号を左右のスピーカ用のステレオ出力信号に処理することに関する。とりわけ、処理の結果、リスニングエクスペリエンスが得られ、オーディオ信号の各チャネルは、オーディオ信号がサラウンドサウンドシステム(例えば、5.1、7.1など)でレンダリングされた場合に発生するのと同じ方向または同様の方向から発生していると認識される。
【0004】
例示的な一実施形態では、左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルを含むマルチチャネル入力オーディオ信号が受信される。左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルでサブバンド空間処理が実行され、空間強調チャネルが作成される。サブバンド空間処理は、左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルのミッドおよびサイドサブバンド成分の調整利得を含み得る。クロストークキャンセルは左クロストークキャンセルチャネルと右クロストークキャンセルチャネルを生成するために空間強化チャネルに実行される。左出力チャネルは左クロストークキャンセルチャネルから生成され、右出力チャネルは右クロストークチャネルから生成される。
【0005】
左および右周辺チャネルは、左サラウンド入力チャネルおよび右サラウンド入力チャネル、および/または左サラウンドリア入力チャネルおよび右サラウンドリア入力チャネルを含み得る。マルチチャネル入力オーディオ信号は、クロストークキャンセルの出力と結合することができる中央チャネルおよび低周波数チャネルをさらに含み得る。
【0006】
一実施形態では、サブバンド空間処理は、対応する左右のチャネルのペアのそれぞれに実行される。例えば、サブバンド空間処理は、左入力チャネルと右入力チャネルのミッドサブバンド成分とサイドサブバンド成分の利得調整、左周辺入力チャネルと右周辺入力チャネルのミッドサブバンド成分とサイドサブバンド成分の利得調整によって実行され得る、そして左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルの調整ミッドサブバンド成分と調整サイドサブバンド成分を結合し、左結合チャネルと右結合チャネルにする。クロストークのキャンセルは、出力チャネルを生成するために、左および右の結合チャネルで実行される。
【0007】
一実施形態では、サブバンド空間処理は、結合された左チャネルと右チャネルで実行される。例えば、サブバンド空間処理は、左入力チャネルと左周辺入力チャネルを左結合チャネルに結合すること、右入力チャネルと右周辺入力チャネルを右結合チャネルに結合すること、および左空間強調チャネルと右空間強調チャネルを生成するために左結合チャネルと右結合チャネルのミッドサブバンド成分とサイドサブバンド成分の利得調整をすることを含み得る。クロストークのキャンセルは、出力チャネルを生成するために、左および右空間強調チャネルに対して実行される。
【0008】
一実施形態では、バイノーラルフィルタが、入力チャネルの少なくとも一部に適用される。例えば、周辺入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整するために、バイノーラルフィルタは周辺入力チャネルに適用される。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、左または右の入力チャネルを含む、入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整するのに適するように、任意の入力チャネルに適用される。
【0009】
一実施形態は、マルチチャネル入力オーディオ信号を処理するためのシステムを含み得る。システムは左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルを含むマルチチャネル入力オーディオ信号を受信し、サブバンド空間処理は空間強調チャネルを生成するために左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺チャネル、及び右周辺チャネに対し実行され、サブバンド空間処理は左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺チャネル、及び右周辺チャネルのミッド及びサイドサブバンド成分の利得調整を含み、左クロストークキャンセルチャネル及び右クロストークキャンセルチャネルを作るために空間強調チャネルにクロストークキャンセルを実行し左クロストークキャンセルチャネルからの左出力チャネル及び右クロストークキャンセルチャネルからの右出力チャネルを生成するように構成される回路を含む
【0010】
一実施形態は、プログラムコードを記憶する非一時的なコンピュータ可読媒体を含み得る。プログラムコードは、実行可能な命令で構成されるソフトウェアであり得る。プログラムコードは、1つまたは複数のプロセッサによって実行され得る。プログラムコードは、プロセッサによって実行されると、プロセッサに、左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルを含むマルチチャネル入力オーディオ信号を受信させる。プロセッサによってプログラムコードが実行されると、プロセッサに左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルにサブバンド空間処理を実行させ、空間強調チャネルを生成する。サブバンド空間処理は、左入力チャネル、右入力チャネル、左周辺入力チャネル、および右周辺入力チャネルのミッドおよびサイドサブバンド成分の利得調整を含み得る。プログラムコードは、プロセッサによって実行されると、プロセッサに空間強調チャネルでクロストークキャンセルを実行させ、左クロストークキャンセルチャネルと右クロストークキャンセルチャネルを生成させる。プロセッサによって実行されるとき、プログラムコードはまた、プロセッサに、左クロストークキャンセルされたチャネルからの左出力チャネルおよび右クロストークキャンセルされたチャネルからの右出力チャネルを生成させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態による、サラウンドサウンドステレオオーディオ再生システムの例である。
【
図2】一実施形態による、オーディオシステムの例である。
【
図3】一実施形態による、サブバンド空間プロセッサの例である。
【
図4】一実施形態による、クロストークキャンセルプロセッサの例である。
【
図5】一実施形態による、
図2に示されるオーディオシステムを用いてオーディオ信号を強調する方法の例である。
【
図6】一実施形態による、オーディオシステムの例である。
【
図7】一実施形態による、
図6に示されるオーディオシステムを用いてオーディオ信号を強調する方法の例である。
【
図8】一実施形態による、コンピュータシステムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
明細書に記載された特徴および利点は、すべてを網羅しているわけではなく、特に、図面、明細書、および特許請求の範囲を考慮すれば、多くの追加の特徴および利点が当業者には明らかであろう。このほか、明細書で使用される文言は、主に読みやすさと教育目的のために選択されたものであり、本発明の主題を描写または制限するために選択されていない場合がある。
【0013】
図および以下の説明は、あくまで例示として、好適な実施形態に関する。以下の説明から、本明細書で開示されている構造および方法の代替的な実施形態が、本発明の原理から逸脱することなく用いられ得る実行可能な代替例として容易に理解されることに留意されるべきである。
【0014】
ここで、本発明の一実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図に示す。実施可能な場合は、いつも、同様または類似の参照番号が図面において用いられ、同様または類似の機能を示す場合があることを留意されたい。図は、あくまで例示の目的のために実施形態を示している。当業者は、本明細書に図示される構造、および方法の代替的な実施形態が、本明細書に記載される本発明の原理から逸脱することなく、用いられ得ることを以下の説明から容易に認識されることとなるであろう。
【0015】
(サラウンドサウンドステレオの例およびオーディオシステムの例)
本実施形態で論じられるオーディオシステムは、ステレオ(例えば、左および右)スピーカへの出力のためのマルチチャネルサラウンドサウンドオーディオ信号のためのクロストーク処理および空間強調を提供する。信号処理の結果、マルチチャネルサラウンドサウンドオーディオ信号にエンコードされた音場の空間感覚が維持または強化される。特に、マルチスピーカサラウンドサウンドシステムを使用して実現される空間感覚は、ステレオスピーカを使用して実現される。
【0016】
図1は一実施形態による、サラウンドサウンドステレオオーディオ再生システム100の例である。システム100は、リスナー140にオーディオ信号の再生を提供する7.1サラウンドサウンドシステムの例である。システム100は、左スピーカ110L、右スピーカ110R、中央スピーカ115、サブウーファ125、左サラウンドスピーカ120L、右サラウンドスピーカ120R、左サラウンドリアスピーカ130L、および右サラウンドスピーカ130Rを含む。中央スピーカ115およびサブウーファ125は、0°で前方軸を定義するリスナー140の前に配置され得る。左スピーカ110Lは、前方軸に対して-20°から-30°の角度で配置され得、右スピーカ110Rは、前方軸に対して20°から30°の角度で配置され得る。左サラウンドスピーカ120Lは、前方軸に対して-90°から-110°の角度で配置され得、右サラウンドスピーカ120Rは、前方軸に対して90°から110°の角度で配置され得る。左サラウンドリアスピーカ130Lは、前方軸に対して-135°から-150°の角度で配置され得、右サラウンドスピーカ130Rは、前方軸に対して135°から150°の角度で配置され得る。システム100は、スピーカ110、115、120、および130のそれぞれ、およびサブウーファ125に対するチャネルを含むオーディオ信号を受信するように構成され得る。複数のスピーカおよびそれらの配置は、リスナー140によって知覚され得る音場における空間感覚を提供する。以下でより詳細に説明されるように、オーディオシステムは、サラウンドサウンドシステム100のマルチチャネル入力オーディオ信号を、マルチチャネルオーディオ信号を使用してサラウンドサウンドシステム100によって生成された音場の空間感覚を再生またはシミュレートする左および右スピーカ(例えば、スピーカ110Lおよび110R)用の強調ステレオ信号に処理するように構成され得る。
【0017】
図2は一実施形態による、オーディオシステム200の例である。オーディオシステム200は、左入力チャネル210A、右入力チャネル210B、中央入力チャネル210C、低周波数入力チャネル210D、左サラウンド入力チャネル210E、右サラウンド入力チャネル210F、左サラウンドリア入力チャネル210G、および右サラウンドリア入力チャネル210Hを含む入力オーディオ信号を受信する。
【0018】
チャネル210E、210F、210G、および210Hは、サラウンドスピーカの周辺チャネルの例である。周辺チャネルは、左右の入力チャネル以外のチャネルを含み得る。周辺チャネルは、左右ペア、前後ペア、または他のペア配置などのチャネルペアを含み得る。例えば、入力オーディオ信号がサラウンドサウンドステレオオーディオ再生システム100によって出力されるとき、左サラウンドスピーカ120Lは左サラウンド入力チャネル210Eを受け取り、右サラウンドスピーカ120Rは右サラウンド入力チャネル210Fを受け取り、左サラウンドリアスピーカ130Lは左サラウンドリア入力チャネル210Gを受け取り、右サラウンドリアスピーカ130Rは右サラウンドリア入力チャネル210Hを受け取る。一実施形態では、入力オーディオ信号は、より少ないまたはより多い周辺チャネルを有する。例えば、5.1サラウンドサウンドシステムのオーディオ入力信号には、左右のサラウンドスピーカに出力される左右のサラウンド入力チャネルなど、2つの周辺チャネルのみが含まれる場合がある。同様に、左スピーカ110Lは左入力チャネル210Aを受信し、右スピーカ110Rは右入力チャネル210Bを受信し、中央スピーカ115は中央入力チャネル210Cを受信し、サブウーファ125は低周波数入力チャネル210Dを受信し得る。サラウンドサウンドステレオオーディオ再生システム100によって出力されるとき、入力オーディオ信号は、音場の空間感覚を提供する。
【0019】
オーディオシステム200は、入力オーディオ信号を受信し、左出力チャネル290Lおよび右出力チャネル290Rを含む出力信号を生成する。オーディオシステム200は、入力オーディオ信号の入力チャネルを組み合わせることができ、サブバンド空間処理およびクロストークキャンセルのような強調をさらに提供し得、出力オーディオ信号を生成する。左出力チャネル290Lは、左スピーカに提供され得、右出力チャネル290Rは、右スピーカに出力され得る。出力オーディオ信号は、左右のスピーカ(例えば左スピーカ110Lおよび右スピーカ110R)を使用して音場の空間感覚を提供するが、それは通常、多様な(例えば、周辺機器)スピーカを含むサラウンドサウンドシステムを使用して入力オーディオ信号を出力することによって達成される。
【0020】
オーディオシステム200は、利得215A、215B、215C、215D、215E、215F、215G、および215H、サブバンド空間プロセッサ230A、230B、および230C、ハイシェルフフィルタ220、ディバイダー240、バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250D、左チャネル結合器260A、右チャネル結合器260B、クロストークキャンセルプロセッサ270、左チャネル結合器260C、右チャネル結合器260D、および出力利得280を含む。
【0021】
利得215Aから215Hのそれぞれは、それぞれの入力チャネル210Aから210Hを受信することができ、利得を入力チャネル210Aから210Hに与えることができる。利得215Aから215Hは、互いに対して入力チャネルの利得を調整するために異なっていてもよく、または同じであってもよい。一実施形態では、正の利得が左および右の周辺入力チャネル210E、210F、210G、および210Hに与えられ、負の利得が中央チャネル210Cに適用される。例えば、利得215Aは0dbの利得を与えることができ、利得215Bは0dBの利得を与えることができ、利得215Cは-3dBの利得を与えることができ、利得215Dは0dbの利得を与えることができ、利得215Eは3dBの利得を与えることができ、利得215Fは3dB利得を与えることができ、利得215Gは3dB利得を与えることができ、利得215Hは3dB利得を与えることができる。
【0022】
利得215Aおよび利得215Bは、サブバンド空間プロセッサ230Aに結合される。同様に、利得215Eおよび215Fは、サブバンド空間プロセッサ230Bに結合され、利得215Gおよび215Hは、サブバンド空間プロセッサ230Cに結合される。サブバンド空間プロセッサ230A、230B、および230Cはそれぞれ、対応する左および右チャネルにサブバンド空間処理を適用する。
【0023】
各サブバンド空間プロセッサ230は、左および右入力チャネルのミッドおよびサイドサブバンド成分を利得調整することにより、左および右入力チャネルに対してサブバンド空間処理を実行し、左および右空間強調チャネルを生成する。サブバンド空間プロセッサ230Aは、左および右入力チャネルに対してサブバンド空間処理を実行し、他のサブバンド空間プロセッサ230Bおよび230Cはそれぞれ、対応する左および右周辺チャネルに対してサブバンド空間処理を実行する。入力オーディオ信号における周辺チャネルの数に応じて、オーディオシステム200は、より多いまたはより少ないサブバンド空間プロセッサを含み得る。一実施形態では、左/右の対応物を持たないチャネル(中央入力チャネル210C、低周波数入力チャネル210D、または他のタイプのチャネル、リア中央、頭上中央など)は、SBS処理をバイパスすることができる。
【0024】
サブバンド空間プロセッサ230Bは、バイノーラルフィルタ250Aおよび250Bに結合される。サブバンド空間プロセッサ230Bは、左空間強調チャネルをバイノーラルフィルタ250Aに提供し、右空間強調チャネルをバイノーラルフィルタ250Bに提供する。同様に、サブバンド空間プロセッサ230Cは、バイノーラルフィルタ250Cおよび250Dに結合されている。サブバンド空間プロセッサ230Cは、左空間強調チャネルをバイノーラルフィルタ250Cに提供し、右空間強調チャネルをバイノーラルフィルタ250Dに提供する。サブバンド空間プロセッサ230に関する追加の詳細は
図3で示され、以下で説明される。
【0025】
バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dのそれぞれは、リスナーが入力チャネルのサウンドを知覚する必要があることからターゲットソースの場所を説明する頭部伝達関数(HRTF)を適用する。各バイノーラルフィルタは、入力チャネルを受け取り、入力チャネルに関連付けられた角度位置を調整するHRTFを適用することにより、左右の出力チャネルを生成する。
図1に示されるように、角度位置は、聴取者140aに対してXーYの「方位角」平面で定義される角度を含み得、アンビソニックス信号、またはリスナー140に対してXーY平面の上または下にレンダリングされることが意図された信号を含むチャネルベースのフォーマットなど、Z軸で定義された角度をさらに含み得る。例えば、バイノーラルフィルタ250Aは、左サラウンドスピーカ120Lの前方軸に対して-90°から-110°の間の(XーY平面で定義された)角度に関連付けられている左サラウンド入力チャネル210Eに基づいて、フィルタを適用するように構成され得る。バイノーラルフィルタ250Bは、右サラウンドスピーカ120Lの前方軸に対して90°から110°の間の角度に関連付けられている右サラウンド入力チャネル210Fに基づいてフィルタを適用するように構成され得る。バイノーラルフィルタ250Cは、左サラウンドリアスピーカ130Lの前方軸に対して-135°~-150°の間の角度に関連付けられている左サラウンドリア入力チャネル210Gに基づいてフィルタを適用するように構成され得る。バイノーラルフィルタ250Dは、リアスピーカ130Rの前方軸に対して135°から150°の間の角度に関連付けられている右サラウンドリア入力チャネル210Hに基づいてフィルタを適用するように構成され得る。一実施形態では、チャネル間スペクトルの均一性を維持するために、バイノーラル処理を完全にバイパスすることができる。バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dのうちの1つまたは複数は、オーディオシステム200から省略されてもよい。しかしながら、バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dは空間イメージングの強化に使用され得る。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、周辺入力チャネル以外のチャネルに適用されてもよい。例えば、バイノーラルフィルタは、サブバンド空間プロセッサ230Aから出力される左および右の空間強調チャネルのそれぞれに適用されて、異なる左および右の出力スピーカ位置を調整してもよい。別の例では、入力オーディオ信号が他のスピーカ位置(すなわち、頭上、リア中央など)に関連付けられたチャネルを含む場合、バイノーラル処理を他の入力チャネルに適用することができる。その意味で、バイノーラル処理は、左入力チャネル210A、右入力チャネル210B、中央入力チャネル210C、または低周波数入力チャネル210Dのうちの1つまたは複数に適用され得る。一実施形態では、HRTFは適用されず、バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dのうちの1つまたは複数は、システム200からバイパスまたは省略されてもよい。
【0026】
バイノーラルフィルタの例は、式1で定義される。
【0027】
【0028】
ここで、SoおよびSiは、それぞれ出力信号と入力信号である。引数θはSoおよびSiの各チャネルの角度をエンコードする。値zは任意の複素数であり、その解は、周波数をエンコードしている関数である。したがって、H(θ,z)は角度θおよびzの両方の関数であり、伝達関数の集合から選択または補間され、おそらく人体測定のベースから導出され得る、zの関数である伝達関数を返す。この表記では、角度θも、zの関数としてのSおよびH(θ)と同様に、ベクトルと評価される場合がある。この場合、S(z)およびH(θ、z)の各係数は異なるチャネルに対応し、θの各係数は各チャネルの角度を関連付ける。
【0029】
一実施形態では、入力オーディオ信号は、音場のスピーカに依存しない表現を定義するアンビソニックスオーディオ信号である。アンビソニックスオーディオ信号は、サラウンドサウンドシステム用のマルチチャネルオーディオ信号にデコードされ得る。チャネルは、リスナーの上または下の場所を含む、さまざまな場所でのスピーカの場所に関連付けられ得る。バイノーラルフィルタは、デコードされた入力オーディオチャネに関連する位置を調整するためにアンビソニックスオーディオ信号のデコードされた各入力チャネルに適用され得る。
【0030】
一実施形態では、バイノーラルフィルタリングは、サブバンド空間処理の前に実行される。例えば、バイノーラルフィルタは、チャネルに関連する角度位置を調整するのに適切であるように、1つまたは複数の入力チャネルに適用されてもよい。左右の入力チャネルのペアごとに、バイノーラルフィルタの左出力チャネルを組み合わせ、およびバイノーラルフィルタの右出力チャネルを組み合わせ、そしてサブバンド空間処理は組み合わせた左右のチャネルに適用され得る。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、中央入力チャネル210Cまたは低周波数入力チャネル210Dに適用される。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、低周波数入力チャネル210Dを除く各入力チャネルに適用される。
【0031】
左チャネル結合器260Aは、サブバンド空間プロセッサ230A、およびバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dに結合される。左チャネル結合器260Aは、サブバンド空間プロセッサ230Aの左出力チャネル、およびバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dを受け取り、これらのチャネルを左結合チャネルに結合する。右チャネル結合器260Bもまた、サブバンド空間プロセッサ230A、およびバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dに結合される。右チャネル結合器260Aは、サブバンド空間プロセッサ230Aの右出力チャネル、およびバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dを受け取り、これらのチャネルを右結合チャネルに結合する。
【0032】
クロストークキャンセルプロセッサ270は、左および右入力チャネルを受信し、クロストークキャンセルを実行して、左および右クロストークキャンセルチャネルを生成する。クロストークキャンセルプロセッサは、左チャネル結合器260Aに結合されて左結合チャネルを受信し、右チャネル結合器260Bに結合されて右結合チャネルを受信する。ここで、クロストークキャンセルプロセッサ270によって処理された左および右の組み合わされたチャネルは、ミックスダウンされた左および右の対応する入力チャネルを表す。クロストークキャンセルプロセッサ270に関する追加の詳細は、
図4に示され、以下で説明される。
【0033】
ハイシェルフフィルタ220は、中央入力チャネル210Cを受け取り、高周波シェルビングまたはピーキングフィルタを適用する。ハイシェルフフィルタ220は、中央入力チャネル210Cに「ボイスリフト」を提供する。一実施形態では、ハイシェルフフィルタ220は、バイパスされるか、またはオーディオシステム200から省略される。ハイシェルフフィルタ220は、遮断周波数を超える周波数を減衰または増幅することができる。ハイシェルフフィルタ220は、左チャネル結合器260Cおよび右チャネル結合器260Dに結合される。一実施形態では、ハイシェルフフィルタ220は、750Hzの遮断周波数、+3dB利得、およびQ係数0.8によって定義される。ハイシェルフフィルタ220は、中央入力チャネルを2つの別個の左および右中央チャネルに分離することなどによって、左中央チャネルおよび右中央チャネルを出力として生成する。
【0034】
分配器240は、低周波数入力チャネル210Dを受け取り、低周波数入力チャネル210Dを左および右低周波数チャネルに分離する。分配器240は、左チャネル結合器260Cおよび右チャネル結合器260Dに結合され、左低周波数チャネルを左チャネル結合器260Cに提供し、右低周波数チャネルを右チャネル結合器260Dに提供する。
【0035】
左チャネル結合器260Cは、クロストークキャンセルプロセッサ270、ハイシェルフフィルタ220、および分配器240に結合される。左チャネル結合器260Cは、クロストークキャンセルプロセッサ270から左クロストークチャネル、ハイシェルフフィルタ220から左中央チャネル、および分配器240から左低周波数チャネルを受け取り、これらのチャネルを左出力チャネルに結合する。
【0036】
右チャネル結合器260Dは、クロストークキャンセルプロセッサ270、ハイシェルフフィルタ220、および分配器240に結合される。右チャネル結合器260Dは、クロストークキャンセルプロセッサ270からの右クロストークチャネル、ハイシェルフフィルタ220から右出力チャネル、および分配器240から右低周波数チャネルを受け取り、これらのチャネルを右出力チャネルに結合する。
【0037】
一実施形態では、ハイシェルフフィルタ220からの左中央チャネルおよび分配器240からの左低周波数チャネルは、左チャネル結合器260Aによって、サブバンド空間プロセッサ230Aからの左空間拡張チャネルおよび、バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dの左出力チャネルと結合され、左結合チャネルを生成する。同様に、ハイシェルフフィルタ220からの右出力チャネルおよび分配器240からの右低周波数チャネルは、右チャネル結合器260Bによって、サブバンド空間プロセッサ230Aからの右空間強調チャネルおよび、バイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dの右出力チャネルと結合され、右結合チャネルを生成する。左および右の結合チャネルは、クロストークキャンセルプロセッサ270に入力される。ここで、中央および低周波数チャネルがクロストークキャンセル操作を受信する。左チャネル結合器260Cおよび右チャネル結合器260Dは省略されてもよい。一実施形態では、中央または低周波数チャネルの1つがクロストークキャンセル操作を受信する。
【0038】
出力利得280は、左チャネル結合器260Cおよび右チャネル結合器260Dに結合される。出力利得280は、左チャネル結合器260Cからの左出力チャネルに利得を与え、右チャネル結合器260Dからの右出力チャネルに利得を与える。出力利得280は、左および右の出力チャネルに同じ利得を与えてもよく、または異なる利得を与えてもよい。出力利得280は、オーディオシステム200の出力信号のチャネルを表す左出力チャネル290Lおよび右出力チャネル290Rを出力する。
【0039】
(サブバンド空間プロセッサの例)
図3は、一実施形態による、サブバンド空間プロセッサ230の例である。サブバンド空間プロセッサ230は、オーディオシステム200のサブバンド空間プロセッサ230A、230B、または230Cの例である。サブバンド空間プロセッサ230は、空間周波数帯域分配器340、空間周波数帯域プロセッサ345、および空間周波数帯域結合器350を含む。空間周波数帯域分配器340は、空間周波数帯域プロセッサ345に結合され、空間周波数帯域プロセッサ345は、空間周波数帯域結合器350に結合される。
【0040】
空間周波数帯域分配器340は、左入力チャネルXLおよび右入力チャネルXRを受け取り、これらの入力を空間成分Xmおよび非空間成分Xsに変換するL/R to M/S変換器312を含む。空間成分Xsは、左入力チャネルXLおよび右入力チャネルXRを減算することにより生成され得る。非空間成分Xmは、左入力チャネルXLおよび右入力チャネルXRを加算することによって生成され得る。
【0041】
空間周波数帯域プロセッサ345は、非空間成分Xmを受け取り、一組のサブバンドフィルタを適用して、非空間強調成分Emを生成する。空間周波数帯域プロセッサ345はまた、空間成分XSを受け取り、一組のサブバンドフィルタを適用して、非空間強調成分Emを生成する。サブバンドフィルタには、ピークフィルタ、ノッチフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、ローシェルフフィルタ、ハイシェルフフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、および/またはすべてのパスフィルタのさまざまな組み合わせを含むことができる。
【0042】
一実施形態では、空間周波数帯域プロセッサ345は、非空間成分Xmのn個の周波数サブバンドのそれぞれに対するサブバンドフィルタと、空間成分Xsのn個の周波数サブバンドのそれぞれに対するサブバンドフィルタとを含む。例えば、n=4サブバンドの場合、空間周波数帯域プロセッサ345は、サブバンド(1)用のミッドイコライゼーションEQフィルタ362(1)、サブバンド(2)用のミッドEQフィルタ362(2)、サブバンド(3)用のミッドEQフィルタ362(3)、およびサブバンド(4)用のミッドEQフィルタ362(4)を含む非空間成分Xmの一連のサブバンドフィルタを含む。各ミッドEQフィルタ362は、非空間成分Xmの周波数サブバンド部分にフィルタを適用して、非空間強調成分Emを生成する。
【0043】
空間周波数帯域プロセッサ345は、サブバンド(1)用のサイドイコライゼーション(EQ)フィルタ364(1)、サブバンド(2)用のサイドEQフィルタ364(2)、サブバンド(3)用のサイドEQフィルタ364(3)およびサブバンド(4)用のサイドEQフィルタ364(4)を含む、空間成分Xsの周波数サブバンド用の一連のサブバンドフィルタをさらに含む。各サイドEQフィルタ364は、フィルタを空間成分XSの周波数サブバンド部分に適用して、空間強調成分ESを生成する。
【0044】
非空間成分Xmおよび空間成分Xsのn個の周波数サブバンドのそれぞれは、周波数の範囲に対応し得る。例えば、周波数サブバンド(1)は0~300Hzに対応し、周波数サブバンド(2)は300~510Hzに対応し、周波数サブバンド(3)は510~2700Hzに対応し、周波数サブバンド(4)2700Hzからナイキスト周波数に対応する場合がある。一実施形態では、n個の周波数サブバンドは、統合された臨界帯域の集合である。臨界帯域は、さまざまな音楽ジャンルのオーディオサンプルのコーパスを使用して決定され得る。24バークスケールの臨界帯域にわたるミッド成分とサイド成分の長期平均エネルギー比がサンプルから決定される。次に、類似した長期平均比を持つ隣接する周波数帯域をグループ化して、臨界帯域の集合を形成する。周波数サブバンドの範囲は周波数サブバンドの数と同様に調整可能である。
【0045】
一実施形態では、ミッドEQフィルタ362またはサイドEQフィルタ364は、式2によって定義される伝達関数を有する双二次フィルタを含み得る。
【0046】
【0047】
ここで、zは複素数である。フィルタは、式3で定義されている直接型Iトポロジーを使用して実装できる。
【0048】
【0049】
ここで、Xは入力ベクトル、Yは出力である。他のトポロジーは、最大の語長と飽和動作に応じて、特定のプロセッサに対し恩恵がある場合がある。
【0050】
次に、双二次を使用し、実数値の入力と出力を持つ任意の2次フィルタを実装できる。離散時間フィルタを設計するには、連続時間フィルタを設計し、双一次変換を介して、離散時間フィルタに変換する。さらに、結果として生じる中心周波数および帯域幅のシフトの補償は、周波数ワーピングを使用して達成できる。
【0051】
例えば、ピーキングフィルタには、式4で定義されるS平面伝達関数を含めることができる。
【0052】
【0053】
ここで、sは複素変数、Aはピークの振幅、Qはフィルタの「品質」である(正規に
【0054】
【0055】
と導出される)。デジタルフィルタ係数は式とおりである。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
ここで、ω0は角度および
【0063】
【0064】
で表したフィルタの中心周波数である。
【0065】
空間周波数帯域結合器350は、ミッドおよびサイド成分を受け取り、各成分に利得を与え、ミッドおよびサイド成分を左および右チャネルに変換する。例えば、空間周波数帯域コンバイナ350は、非空間強調成分Emおよび空間強調成分Esを受け取り、非空間強調成分Emおよび空間強調成分Esを左空間強調チャネルEL右空間強調チャネルERに変換する前のグローバルミッドおよびサイドゲインを実行する。
より具体的には、空間周波数帯域コンバイナ350は、グローバルミッドゲイン322、グローバルサイドゲイン324、ならびにグローバルミッドゲイン322およびグローバルサイドゲイン324に結合されたM/S to L/R変換器326を含む。グローバルミッドゲイン322は、非空間強調成分Emを受信し、利得を与え、グローバルサイドゲイン324は、空間強調成分Esを受信し、利得を与える。M/S to L/R変換器326は、グローバルミッドゲイン322から非空間強調成分Emおよびグローバルサイドゲイン324から空間強調成分Esを受信し、これらの入力を左空間強調チャネルELおよび右空間強調チャネルERに変換する。
【0066】
(クロストークキャンセルプロセッサの例)
図4は、例示的な一実施形態によるクロストークキャンセルプロセッサ270を示す。クロストークキャンセルプロセッサ270は、左チャネル結合器260Aからの入力として左空間強調チャネルE
Lを受け取り、右チャネル結合器260Bからの入力として右空間強調チャネルERを受け取り、チャネルE
L、E
Rに対してクロストークキャンセルを実行して左出力チャネルO
Lおよび右出力チャネルO
Rを生成する。
【0067】
クロストークキャンセルプロセッサ270は、インアウト帯域分配器410、インバータ420および422、対側推定器430および440、結合器450および452、およびインアウト帯域結合器460を含む。これらの成分は一緒に動作して、入力チャネルTL、TRをインバンド成分とアウトオブバンド成分に分割し、インバンド成分でクロストークキャンセルを実行して、出力チャネルOL、ORを生成する。
【0068】
入力オーディオ信号Eを異なる周波数帯域成分に分割し、選択的成分(インバンド成分など)でクロストークキャンセルを実行することにより、特定の周波数帯域でクロストークキャンセルを実行することができ、他の周波数帯域での劣化を防ぐ。入力オーディオ信号Eを異なる周波数帯域に分割せずにクロストークキャンセルを実行した場合、そのようなクロストークキャンセル後のオーディオ信号は、低周波数(例えば、350Hz未満)、高周波数(例えば、12000Hz以上)、またはその両方での非空間および空間成分での大幅な減衰または増幅を示し得る。インパクトのある空間的手がかりの大部分が存在するインバンド(例:250Hz~14000Hz)でクロストークキャンセルを選択的に実行することにより、特に非空間成分において、混合スペクトル全体でバランスのとれた全体的なエネルギーを保持できる。
【0069】
インアウト帯域分配器410は、入力チャネルEL、ERをインバンドチャネルEL,IN、ER,INおよびアウトオブバンドチャネルEL,OUT、ER,OUTにそれぞれ分割する。特に、インアウト帯域分配器410は、左強調補償チャネルELを左インバンドチャネルEL、Inおよび左アウトオブバンドチャネルEL、Outに分割する。同様に、インアウト帯域分配器410は、右強調補償チャネルERを右インバンドチャネルER、Inおよび右アウトオブバンドチャネルER、Outに分離する。各インバンドチャネルは、例えば、250Hzから14kHzを含む周波数範囲に対応するそれぞれの入力チャネルの一部を包含し得る。周波数帯域の範囲は、例えば、スピーカのパラメータに従って調整可能であり得る。
【0070】
左インバンドチャネルEL、Inに起因する対側音成分を補償するために、インバータ420および対側推定器430は一緒に動作し左対側キャンセル成分SLを生成する。同様に、右インバンドチャネルER、Inに起因する対側音成分を補償するためにインバータ422および対側推定器440は一緒に動作して、右対側キャンセル成分SRを生成する。
【0071】
1つの手法では、インバータ420は、インバンドチャネルEL、Inを受け取り、受け取ったインバンドチャネルEL、Inの極性を反転して、反転されたインバンドチャネルEL、In’を生成する。対側推定器430は、反転インバンドチャネルEL、In’を受け取り、フィルタリングを通じて、対側音成分に対応する反転インバンドチャネルEL、In’の一部を抽出する。フィルタリングは、反転インバンドチャネルEL、In’に対して実行されるため、対側推定器430によって抽出された部分は、対側音成分に起因するインバンドチャネルEL、Inの部分の逆になる。したがって、対側推定器430によって抽出された部分は、左対側キャンセル成分SLとなり、これを対応するインバンドチャネルER、Inに追加することができ、インバンドチャネルEL、Inによる対側音成分を低減する。一実施形態では、インバータ420および対側推定器430は、異なるシーケンスで実装される。
【0072】
インバータ422および対側推定器440は、インバンドチャネルER、Inに関して同様の動作を実行して、右対側キャンセル成分SRを生成する。したがって、簡潔にするために、その詳細な説明はここでは省略される。
【0073】
1つの例示的な実施態様では、対側推定器430は、フィルタ432、増幅器434、および遅延ユニット436を含む。フィルタ432は、反転入力チャネルEL、In’を受け取り、フィルタリング機能を介して、対側音成分に対応する反転インバンドチャネルEL、In’の一部を抽出する。フィルタ実装の例は、中心周波数が5000から10000Hzの間で選択され、Qが0.5から1.0の間で選択されたノッチまたはハイシェルフフィルタである。デシベル単位の利得(GdB)は、式5から導出できる。
GdB = -3.0-log1.333(D) 式(5)
ここで、Dは、例えば48KHzのサンプリングレートでのサンプルにおける遅延ユニット1556A/Bによる遅延量である。代替の実装は、5000から10000Hzの間で選択されたコーナー周波数と0.5から1.0の間で選択されたQを持つローパスフィルタである。さらに、増幅器434は、対応する利得係数GL、Inによって抽出された部分を増幅し、遅延ユニット436は、遅延関数Dに従って増幅器434からの増幅された出力を遅延させて、左対側キャンセル成分SLを生成する。対側推定器440は、フィルタ442、増幅器444、および反転インバンドチャネルER、In
’に対して同様の演算を実行して、右対側キャンセル成分SRを生成する遅延ユニット446を含む。一例では、対側推定器430、440は、以下の式に従って、左対側キャンセル成分SL、SRを生成する。
SL= D [GL、In* F [EL、In’]] 式(6)
SR= D [GR、In* F [ER、In’]] 式(7)
ここで、F[]はフィルタ関数、D[]は遅延関数である。
【0074】
クロストークキャンセルの構成は、スピーカのパラメータによって決定できる。一例では、フィルタ中心周波数、遅延量、増幅器利得、およびフィルタ利得は、リスナーに対する出力信号の2つの出力スピーカ間で形成される角度、または相対位置や電源などのスピーカの他の機能に従って決定できる。一実施形態では、スピーカ角度間の値は、他の値を補間するために使用される。
【0075】
結合器450は、右対側キャンセル成分SRを左インバンドチャネルEL、Inに結合して左インバンド補償チャネルULを生成し、結合器452は、左対側キャンセル成分SLを右インバンドチャネルER、Inに結合し右インバンド補償チャネルURを生成する。インアウトバンド結合器460は、左インバンド補償チャネルULをアウトオブバンドチャネルEL、Outと組み合わせて左出力チャネルOLを生成し、右インバンド補償チャネルURをアウトオブバンドチャネルER,OUTと結合し右出力チャネルORを生成する。
【0076】
したがって、左出力チャネルOLは、対側音に起因するインバンドチャネルTR、Inの一部の逆に対応する右対側キャンセル成分SRを含み、右出力チャネルORは、対側音に起因するインバンドチャネルTLの一部の逆に対応する左対側キャンセル成分SLを含む。この構成では、右耳に到達した右出力チャネルORに応じて右スピーカ(例えばスピーカ110R)より出力される同側音声分の波面は左出力チャネルOLに応じて右スピーカ(例えばスピーカ110L)より出力される対側音成分の波面をキャンセルできる。同様に、左耳に到達した左出力チャネルOLに応じて左スピーカより出力される同側音声分の波面は、右出力チャネルORに応じて右スピーカより出力される対側音成分の波面をキャンセルできる。したがって、対側音成分を低減して、空間的検出能力を高めることができる。
【0077】
(オーディオ信号強調プロセスの例)
図5は一実施形態による、
図2に示されるオーディオシステム200を用いてオーディオ信号を強調する方法500の例である。一実施形態では、方法500は、異なるおよび/または追加のステップを含んでいてもよいし、またはいくつかのステップは、異なる順序であってもよい。
【0078】
505において、オーディオシステム200は、マルチチャネル入力オーディオ信号を受信する。マルチチャネルオーディオ信号は、左入力チャネル、右入力チャネル、少なくとも1つの左周辺入力チャネル、および少なくとも1つの右周辺入力チャネルを含むサラウンドサウンドオーディオ信号であり得る。マルチチャネルオーディオ信号は、中央入力チャネル210Cおよび低周波数入力チャネル210Dをさらに含み得る。例えば、入力オーディオ信号は、左入力チャネル210Aおよび右入力チャネル210Bおよび左サラウンド入力チャネル210Eおよび右サラウンド入力チャネル210Fを含む周辺チャネル、および左サラウンドリア入力チャネル210G、および右サラウンドリア入力チャネル210Hを含む7.1サラウンドサウンドシステムのためのものであり得る。5.1サラウンドサウンドシステムの入力オーディオ信号の別の例では、周辺チャネルは、単一の左周辺チャネルおよび単一の右周辺チャネルを含み得る。
【0079】
510において、オーディオシステム200(例えば、利得215Aから215H)は、マルチチャネル入力オーディオ信号のチャネルに利得を与える。利得215Aから215Hは、オーディオシステム200によって生成された出力信号への特定の入力チャネルの寄与を制御するために変化し得る。一部の実施形態では、中央チャネル210Cは負の利得を受け取り、一方で周辺入力チャネルは正の利得受け取る。
【0080】
515において、オーディオシステム200(例えば、サブバンド空間プロセッサ230A)は、左入力チャネルおよび右入力チャネルに対してサブバンド空間処理を実行することにより、左空間強調チャネルおよび右空間強調チャネルを生成する。例えば、サブバンド空間プロセッサ230Aは、左入力チャネル210Aおよび右入力チャネル210Bのミッド成分およびサイド成分のn個のサブバンドの利得を調整することにより、空間強調チャネルを生成する。
【0081】
520において、オーディオシステム200(例えば、サブバンド空間プロセッサ230Bおよび/または230C)は、左周辺入力チャネルおよび右周辺入力チャネルに対してサブバンド空間処理を実行することにより、左空間強調周辺チャネルおよび右空間強調周辺チャネルを生成する。例えば、サブバンド空間プロセッサ230Bは、左サラウンドチャネル210Eおよび右サラウンドチャネル210Fのミッド成分およびサイド成分のn個のサブバンドの利得を調整して、左および右空間強調周辺チャネルを生成する。サブバンド空間プロセッサ230Cは、左サラウンドリアチャネル210Gおよび右サラウンドリアチャネル210Hのミッド成分およびサイド成分のnサブバンドの利得を調整して、左および右空間強調周辺チャネルを生成する。
【0082】
525において、オーディオシステム200(例えば、バイノーラルフィルタ250Aから250D)は、左右の空間強調周辺チャネルのそれぞれにバイノーラルフィルタを適用する。例えば、バイノーラルフィルタ250Aは、頭部伝達関数(HRTF)を適用することにより、サブバンド空間プロセッサ230Bからの左空間強調周辺チャネル出力から左および右の出力チャネルを生成する。バイノーラルフィルタ250Bは、HRTFを適用することにより、サブバンド空間プロセッサ230Bにより出力された右空間強調チャネルから左および右出力チャネルを生成する。バイノーラルフィルタ250Cは、HRTFを適用することにより、サブバンド空間プロセッサ230Cにより出力された左空間強調チャネルから左および右出力チャネルを生成する。バイノーラルフィルタ250Dは、HRTFを適用することにより、サブバンド空間プロセッサ230Cにより出力された右空間強調チャネルから左および右出力チャネルを生成する。一実施形態では、バイノーラルフィルタリングはバイパスされる。
【0083】
530において、オーディオシステム200(例えば、ハイシェルフフィルタ220)は、ハイシェルフフィルタを中央入力チャネル210Cに適用する。一実施形態では、中央入力チャネル210Cに利得が与えられる。さらに、ハイシェルフフィルタ220は、中央入力チャネル210Cを左中央チャネルと右中央チャネルに分離する。
【0084】
535において、オーディオシステム200(例えば、分配器240)は、低周波数入力チャネルを左右の低周波数チャネルに分離する。
【0085】
540においてオーディオシステム200(例えば、左チャネル結合器260A)は、サブバンド空間プロセッサ230Aからの左空間強調チャネルとバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dの左出力チャネルとを結合して、左結合チャネルを生成する。例えば、左空間強調チャネルは、左の出力チャネルに追加されてもよい。
【0086】
545において、オーディオシステム200(例えば、右チャネル結合器260B)は、サブバンド空間プロセッサ230Aからの右空間強調チャネルとバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dの右出力チャネルとを組み合わせて右結合チャネルを生成する。例えば、右空間強調チャネルは、右出力チャネルに追加されてもよい。
【0087】
550において、オーディオシステム200(例えば、クロストークキャンセルプロセッサ270)は、左結合チャネルおよび右結合チャネルでクロストークキャンセルを実行し、左クロストークキャンセルチャネルおよび右クロストークキャンセルチャネルを生成する。
【0088】
555において、オーディオシステム200(例えば、左チャネル結合器260Cおよび右チャネル結合器260D)は、クロストークキャンセルプロセッサ270からの左クロストークキャンセルチャネルを、分配器240からの左低周波数チャネルおよびハイシェルフフィルタ220からの左中央チャネルと組み合わせ、左周辺チャネルを生成する。また、クロストークキャンセルプロセッサ270からの右クロストークキャンセルチャネルを分配器240からの右低周波数チャネルおよびハイシェルフフィルタ220からの右中央チャネルと組み合わせて、右周辺出力チャネルを生成する。さらに、オーディオシステム200(例えば、出力利得280)は、左右の出力チャネルのそれぞれに利得を与えることができる。オーディオシステム200は、左および右出力チャネル290Lおよび290Rを含む出力オーディオ信号を出力する。
【0089】
(オーディオシステムの例およびオーディオ処理プロセスの例)
図6は一実施形態による、オーディオシステムの例である。オーディオシステム600は、オーディオシステム200と同様であり得るが、少なくとも左右の入力チャネルがオーディオシステム600のサブバンド空間処理の前に左右の周辺チャネルと組み合わされるという点で、オーディオシステム200と異なり得る。ここでは、オーディオシステム200で示されているように、左右のスピーカペアに対してサブバンド空間プロセッサを分けるのではなく、単一のサブバンド空間プロセッサと対応するサブバンド空間処理ステップを使用することができる。
【0090】
オーディオシステム600は、入力オーディオ信号を受信する。入力オーディオ信号は、左入力チャネル610A、右入力チャネル610B、中央入力チャネル610C、低周波数入力チャネル610D、左サラウンド入力チャネル610E、右サラウンド入力チャネル610F、左サラウンドリア入力チャネル610G、および右サラウンドリア入力チャネル610Hを含み得る。チャネル610E、610F、610G、および610Hは、スピーカを囲むために提供され得る周辺チャネルの例である。一実施形態では、オーディオシステム600は、より少ないまたはより多いチャネルを有する入力オーディオ信号を受信および処理し得る。
【0091】
オーディオシステム600は、入力オーディオ信号に対するサブバンド空間処理およびクロストークキャンセルなどの強調を使用して、左出力チャネル690Lおよび右出力チャネル690Rを含む出力信号を生成する。左出力チャネル290Lは、左スピーカに提供され得、右出力チャネル290Rは、右スピーカに出力され得る。出力オーディオ信号は、左および右スピーカ(例えば、左スピーカ110Lおよび右スピーカ110R)を使用して、サラウンドサウンド入力オーディオ信号に関連する音場の空間的感覚を提供する。
【0092】
オーディオシステム600は、利得615A、615B、615C、615D、615E、615F、615G、および615H、ハイシェルフフィルタ620、分配器640、バイノーラルフィルタ650A、650B、650C、および650D、左チャネル結合器660A、右チャネル結合器660B、サブバンド空間プロセッサ630、クロストークキャンセルプロセッサ670、左チャネル結合器660C、右チャネル結合器660D、および出力利得680を含む。
【0093】
利得615Aから615Hのそれぞれは、それぞれの入力チャネル610Aから610Hを受信することができ、利得を入力チャネル610Aから610Hに与えることができる。利得215Aから215Hは、互いに対して入力チャネルの利得を調整するために異なっていてもよく、または同じであってもよい。一実施形態では、正の利得が左および右の周辺入力チャネル210E、210F、210G、および210Hに与えられ、負の利得が中央チャネル210Cに与えられる。例えば、利得215Aは0dbの利得を与えることができ、利得215Bは0dBの利得を与えることができ、利得215Cは-3dBの利得を与えることができ、利得215Dは0dbの利得を与えることができ、利得215Eは3dBの利得を与えることができ、利得215Fは3dB利得を与えることができ、利得215Gは3dB利得を与えることができ、利得215Hは3dB利得を与えることができる。
【0094】
左入力チャネル610Aの利得615Aは、左チャネル結合器660Aに結合される。右入力チャネル610Bの利得615Bは、右チャネル結合器660Bに結合される。利得615Cは、ハイシェルフフィルタ620に結合される。利得615Dは、分配器640に結合される。周辺入力チャネルの利得615E、615F、610G、および610Hは、それぞれバイノーラルフィルタ650に結合される。特に、利得610Eはバイノーラルフィルタ650Aに結合され、利得615Fはバイノーラルフィルタ650Bに結合され、利得615Gはバイノーラルフィルタ650Cに結合され、利得615Hはバイノーラルフィルタ650Dに結合される。
【0095】
バイノーラルフィルタ650A、650B、650C、および650Dのそれぞれは、リスナーが入力チャネルのサウンドを知覚する必要があることからターゲットソースの場所を説明する頭部伝達関数(HRTF)を適用する。各バイノーラルフィルタは、入力チャネルを受信し、HRTFを適用することによって左右の出力チャネルを生成する。オーディオシステム200のバイノーラルフィルタ250A、250B、250C、および250Dの議論は、バイノーラルフィルタ650A、650B、650C、および650Dに適用可能であり得る。例えば、バイノーラルフィルタ650Aから650Dのそれぞれは、それぞれの入力チャネルに関連する角度位置に調整を適用することができる。一実施形態では、バイノーラルフィルタ650Aから650Dの1つまたは複数は、バイパスされるか、またはオーディオシステム600から省略されてもよい。
【0096】
左チャネル結合器660Aは、利得615Aおよびバイノーラルフィルタ650Aから650Dに結合される。左チャネル結合器660Aは、バイノーラルフィルタ650Aから650Dの左出力チャネルを受け取り、左出力チャネルを利得615Aの出力と結合する。右チャネル結合器660Bは、利得615Bおよびバイノーラルフィルタ650Aから650Dに結合される。右チャネル結合器660Bは、バイノーラルフィルタ650Aから650Dの右出力チャネルを受け取り、右出力チャネルを利得615Bの出力と結合する。
【0097】
一実施形態では、バイノーラルフィルタリングは、サブバンド空間処理の前に実行される。例えば、バイノーラルフィルタは、チャネルに関連する角度位置を調整するのに適切であるとして、サブバンド空間プロセッサ630の左および右出力に適用されてもよい。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、
図6に示されるように、周辺入力チャネルに適用される。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、中央入力チャネル610Cまたは低周波数入力チャネル610Dに適用される。一実施形態では、バイノーラルフィルタは、低周波数入力チャネル610Dを除く各入力チャネルに適用される。
【0098】
サブバンド空間プロセッサ630は、左および右入力チャネルのミッドおよびサイドサブバンド成分を利得調整することにより、左および右入力チャネルに対してサブバンド空間処理を実行し、左および右空間強調チャネルを生成する。サブバンド空間プロセッサ630は、左チャネル結合器660Aに結合されて左チャネル結合器660Aから左結合チャネルを受信し、右チャネル結合器660Bに結合されて右チャネル結合器660Bから右結合チャネルを受信する。それぞれ対応する左および右入力チャネルを処理するオーディオシステム200のサブバンド空間プロセッサ230A、230B、および230Cとは異なり、サブバンド空間プロセッサ630は、左および右チャネルを組み合わせた後、左および右チャネルを処理する。したがって、オーディオシステム600は、単一のサブバンド空間プロセッサ630のみを含み得る。一実施形態では、
図3に示されるサブバンド空間プロセッサ230は、サブバンド空間プロセッサ630の例である。
【0099】
クロストークキャンセルプロセッサ670は、サブバンド空間プロセッサ630の出力に対してクロストークキャンセルを実行し、これは、入力オーディオ信号のミックスダウンされたステレオ信号を表すことができる。クロストークキャンセルプロセッサ670は、サブバンド空間プロセッサ630から左および右入力チャネルを受信し、クロストークキャンセルを実行して、左および右クロストークキャンセルチャネルを生成する。クロストークキャンセルプロセッサ670は、左チャネル結合器660Cおよび右チャネル結合器660Dに結合される。一実施形態では、
図4に示されるクロストークキャンセルプロセッサ270は、クロストークキャンセルプロセッサ670の例である。
【0100】
ハイシェルフフィルタ620は、中央入力チャネル610Cを受け取り、高周波シェルビングまたはピーキングフィルタを適用する。ハイシェルフフィルタ620は、中央入力チャネル610Cに「ボイスリフト」を提供する。一実施形態では、ハイシェルフフィルタ620は、バイパスされるか、またはオーディオシステム600から省略される。ハイシェルフフィルタ620は、遮断周波数を超える周波数を減衰または増幅することができる。ハイシェルフフィルタ620は、左チャネル結合器660Cおよび右チャネル結合器660Dに結合される。一実施形態では、高シェルフフィルタ620は、750Hzの遮断周波数、+3dBの利得、および0.8のQ係数によって定義される。ハイシェルフフィルタ620は、出力として左中央チャネルおよび右中央チャネルを生成する。
【0101】
分配器640は、低周波数入力チャネル610Dを受け取り、低周波数入力チャネル610Dを左および右低周波数チャネルに分離する。分配器640は、左チャネル結合器660Cおよび右チャネル結合器660Dに結合され、左低周波数チャネルを左チャネル結合器660Cに提供し、右低周波数チャネルを右チャネル結合器660Dに提供する。
【0102】
左チャネル結合器660Cは、クロストークキャンセルプロセッサ670、ハイシェルフフィルタ620、および分配器640に結合される。左チャネル結合器660Cは、クロストークキャンセルプロセッサ670から左クロストークチャネル、ハイシェルフフィルタ620から左中央チャネル、および分割器640から左低周波数チャネルを受け取り、これらのチャネルを左出力チャネルに結合する。
【0103】
右チャネル結合器660Dは、クロストークキャンセルプロセッサ670、ハイシェルフフィルタ620、および分配器640に結合される。右チャネル結合器660Dは、クロストークキャンセルプロセッサ670から右クロストークチャネル、ハイシェルフフィルタ620から右中央チャネル、および分配器640から右低周波数チャネルを受け取り、これらのチャネルを右出力チャネルに結合する。
【0104】
一実施形態では、ハイシェルフフィルタ620からの左中央チャネルおよび分配器640からの左低周波数チャネルは、左チャネル結合器660Aによってバイノーラルフィルタ650Aから650Dの左出力チャネルおよび利得615Aの出力と結合され、左結合チャネルを生成する。ハイシェルフフィルタ620からの右中央チャネルおよび分配器640からの右低周波数チャネルは、右チャネル結合器660Bによってバイノーラルフィルタ650Aから650Dの右出力チャネルおよび利得615Bの出力と結合されて、右結合チャネルを生成する。左および右の結合チャネルは、サブバンド空間プロセッサ630およびクロストークキャンセルプロセッサ670に入力される。ここで、中心周波数チャネルと低周波数チャネルは、サブバンド空間処理とクロストークキャンセル操作を受け取る。左チャネル結合器660Cおよび右チャネル結合器660Dは省略されてもよい。一実施形態では、中心または低周波数チャネルの1つは、サブバンド空間処理およびクロストークキャンセル操作を受け取る。
【0105】
出力利得680は、左チャネル結合器660Cおよび右チャネル結合器660Dに結合される。出力利得680は、左チャネル結合器660Cから左出力チャネルに利得を与え、右チャネル結合器660Dから右出力チャネルに利得を与える。出力利得680は、左および右の出力チャネルに同じ利得を与えてもよく、または異なる利得を与えてもよい。出力利得680は、オーディオシステム600の出力信号のチャネルを表す左出力チャネル690Lおよび右出力チャネル690Rを出力する。
【0106】
図7は、一実施形態による、
図6に示されるオーディオシステム600を用いてオーディオ信号を強調するための方法700の例を示す。一実施形態では、方法700は、異なるおよび/または追加のステップを含むことができ、またはいくつかのステップは、異なる順序であってもよい。
【0107】
705において、オーディオシステム600は、マルチチャネル入力オーディオ信号を受信する。入力オーディオ信号は、左入力チャネル610A、右入力チャネル610B、少なくとも1つの左周辺入力チャネル、および少なくとも1つの右周辺入力チャネルを含み得る。マルチチャネルオーディオ信号は、中央入力チャネル610Cおよび低周波数入力チャネル610Dをさらに含み得る。
【0108】
710において、オーディオシステム600(例えば、利得615Aから615H)は、マルチチャネル入力オーディオ信号のチャネルに利得を与える。利得615Aから615Hは、オーディオシステム600によって生成された出力信号への特定の入力チャネルの寄与を制御するために変化し得る。
【0109】
715において、オーディオシステム600(例えば、バイノーラルフィルタ650Aから650D)は、左右の周辺チャネルのそれぞれにバイノーラルフィルタを適用する。例えば、バイノーラルフィルタ650Aは、頭部関連伝達関数(HRTF)を適用することにより、左サラウンド入力チャネル610Eから左および右出力チャネルを生成する。バイノーラルフィルタ650Bは、HRTFを適用することにより、右サラウンド入力チャネル610Fから左および右出力チャネルを生成する。バイノーラルフィルタ650Cは、HRTFを適用することにより、左サラウンドリア入力チャネル610Gから左および右出力チャネルを生成する。バイノーラルフィルタ650Dは、HRTFを適用することにより、右サラウンドリア入力チャネル610Hから左および右出力チャネルを生成する。
【0110】
720において、オーディオシステム600(例えば、ハイシェルフフィルタ620)は、ハイシェルフフィルタを中央入力チャネル610Cに適用する。一実施形態では、中央入力チャネル610Cに利得が与えられる。さらに、ハイシェルフフィルタ620は、中央入力チャネル610Cを左中央チャネルと右中央チャネルに分離する。
【0111】
725において、オーディオシステム600(例えば、分配器640)は、低周波数入力チャネルを左および右低周波数チャネルに分離する。
【0112】
730におい、オーディオシステム600(例えば、左チャネル結合器660A)は、左入力チャネル610Aとバイノーラルフィルタ650A、650B、650C、および650Dの左出力チャネルとを組み合わせて、左結合チャネルを生成する。
【0113】
735において、オーディオシステム600(例えば、右チャネル結合器660B)は、右入力チャネル610Bとバイノーラルフィルタ650A、650B、650C、および650Dの右出力チャネルを結合して、右結合チャネルを生成する。
【0114】
740において、オーディオシステム600(例えば、サブバンド空間プロセッサ630)は、左結合チャネルおよび右結合チャネルに対してサブバンド空間処理を実行することにより、左空間強調チャネルおよび右空間強調チャネルを生成する。例えば、サブバンド空間プロセッサ630は、左チャネル結合器660Aおよび右チャネル結合器660Bから左および右結合チャネルを受け取り、左および右結合チャネルのミッド成分およびサイド成分のnサブバンドの利得を調整することにより、空間強調チャネルを生成する。
【0115】
745において、オーディオシステム600(例えば、クロストークキャンセルプロセッサ670)は、サブバンド空間プロセッサ630からの左および右空間強調チャネルに対してクロストークキャンセルを実行し、左クロストークキャンセルチャネルおよび右クロストークキャンセルチャネルを生成する。
【0116】
750において、オーディオシステム600(例えば、左チャネル結合器660Cおよび右チャネル結合器660D)は、クロストークキャンセルプロセッサ670からの左クロストークキャンセルチャネルを、分配器640からの左低周波数チャネルおよびハイシェルフフィルタ620からの左中央チャネルと組み合わせ、左出力チャネルを生成し、クロストークキャンセルプロセッサ670からの右クロストークキャンセルチャネルを、分配器640からの右低周波数チャネルおよびハイシェルフフィルタ620からの右中央チャネルと組み合わせて、右出力チャネルを生成する。さらに、オーディオシステム600(例えば、出力利得680)は、左右の出力チャネルのそれぞれに利得を与えることができる。オーディオシステム600は、左および右出力チャネル690Lおよび690Rを含む出力オーディオ信号を出力する。
【0117】
本明細書で説明されるシステムおよびプロセスは、埋め込み型電子回路または電子システムで実施されてもよいことに留意されたい。システムおよびプロセスはまた、1つまたは複数の処理システム(例えば、デジタル信号プロセッサ)およびメモリ(例えば、プログラムされた読み取り専用メモリまたはプログラム可能な固体メモリ)、または特定用途向け集積回路(ASIC)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)回路のような他のいくつかの回路を含むコンピューティングシステムで具現化され得る。
【0118】
図8は、一実施形態による、コンピュータシステム800の例を示す。オーディオシステム200および600は、システム800上で実装され得る。図示されているのは、チップセット804に結合された少なくとも1つのプロセッサ802である。チップセット804は、メモリコントローラハブ820および入力/出力(I/O)コントローラハブ822を含む。メモリ806およびグラフィックアダプタ812は、メモリコントローラハブ820に結合され、ディスプレイデバイス818は、グラフィックアダプタ812に結合される。ストレージデバイス808、キーボード810、ポインティングデバイス814、およびネットワークアダプタ816は、I/Oコントローラハブ822に結合される。コンピュータ800の他の実施形態は、異なるアーキテクチャを有する。例えば、一実施形態では、メモリ806は、プロセッサ802に直接結合される。
【0119】
記憶装置808は、ハードドライブ、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)、DVD、またはソリッドステートメモリデバイスなどの1つまたは複数の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体を含む。メモリ806は、プロセッサ802によって使用される命令およびデータを保持する。例えば、メモリ806は、プロセッサ802によって実行されたときにプロセッサ802に方法500または700などの本明細書で論じられる方法を実行させるまたは構成させる命令を格納することができる。ポインティングデバイス814は、コンピュータシステム800にデータを入力するためにキーボード810と組み合わせて使用される。グラフィックアダプタ812は、画像および他の情報をディスプレイデバイス818に表示する。一実施形態では、ディスプレイデバイス818は、ユーザー入力および選択を受信するためのタッチスクリーン機能を含む。ネットワークアダプタ816は、コンピュータシステム800をネットワークに結合する。コンピュータ800の一実施形態は、
図8に示されるものとは異なるおよび/または他の構成要素を有する。例えば、コンピュータシステム800は、ディスプレイデバイス、キーボード、および他の要素を欠くサーバーであり得る。
【0120】
コンピュータ800は、本明細書で説明される機能を提供するためのコンピュータプログラムモジュールを実行するように適合されている。本明細書で使用されるとき、「モジュール」という用語は、指定された機能を提供するために使用されるコンピュータプログラム命令および/または他のロジックを指す。したがって、モジュールはハードウェア、ファームウェア、および/またはソフトウェアで実装されることができる。一実施形態では、実行可能なコンピュータプログラム命令で形成されたプログラムモジュールは、ストレージデバイス808に格納され、メモリ806にロードされ、プロセッサ802によって実行される。
【0121】
(その他の考慮事項)
開示された構成は、いくつかの利益および/または利点を含み得る。例えば、マルチチャネル入力信号は、音場の空間感覚を維持または強調しながらステレオスピーカに出力できる。モバイルデバイス、サウンドバー、スマートスピーカなどの高価なマルチスピーカサウンドシステムを必要とせずに、高品質のリスニング体験を実現できる。
【0122】
本開示を読むと、当業者は、本明細書に開示された原理のさらに追加の代替実施形態まで理解するであろう。したがって、特定の実施形態および用途を例示し説明してきたが、開示された実施形態は、本明細書に開示された正確な構造および構成要素に限定されないことを理解されたい。本明細書に記載の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された方法および装置の構成、動作および詳細において、当業者には明らかであろう様々な修正、変更および変形を行うことができる。
【0123】
本明細書で説明されるステップ、動作、またはプロセスのいずれかは、単独または他のデバイスと組み合わせて、1つまたは複数のハードウェアまたはソフトウェアモジュールで実行または実装されてもよい。一実施形態では、ソフトウェアモジュールは、コンピュータプログラムコードを含むコンピュータ可読媒体(例えば、非一時的コンピュータ可読媒体)を含むコンピュータプログラム製品で実装され、ステップ、操作、またはプロセスの説明のいずれかまたはすべてを実行するコンピュータプロセッサによって実行することができる。
【符号の説明】
【0124】
200 オーディオシステム
210A 左入力チャネル
210B 右入力チャネル
210C 中央入力チャネル
210D 低周波数入力チャネル
210E 左サラウンド入力チャネル
210F 右サラウンド入力チャネル
210G 左サラウンドリア入力チャネル
210H 右サラウンドリア入力チャネル
215A 利得
215B 利得
215C 利得
215D 利得
215E 利得
215F 利得
215G 利得
215H 利得
220 ハイシェルフフィルタ
230A サブバンド空間プロセッサ
230B サブバンド空間プロセッサ
230C サブバンド空間プロセッサ
240 分配器
250A バイノーラルフィルタ
250B バイノーラルフィルタ
250C バイノーラルフィルタ
250D バイノーラルフィルタ
260A 左チャネル結合器
260B 右チャネル結合器
260C 左チャネル結合器
260D 右チャネル結合器
270 クロストークキャンセルプロセッサ
280 出力利得
290L 左出力チャネル
290R 右出力チャネル