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特開2022-168264半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168264
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/40 20100101AFI20221027BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20221027BHJP
【FI】
H01L33/40
H01L33/32
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145974
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2018214623の分割
【原出願日】2018-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 紀隆
(72)【発明者】
【氏名】稲津 哲彦
(57)【要約】
【課題】半導体発光素子の信頼性および出力特性を向上させる。
【解決手段】半導体発光素子10は、n型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料のn型半導体層24と、n型半導体層24上の一部領域に設けられるn側電極32と、n型半導体層24上の一部領域とは異なる領域に設けられるAlGaN系半導体材料の活性層26と、を備える。n側電極32は、n型半導体層24上のチタン(Ti)を含む第1層34と、第1層34上のアルミニウム(Al)を含む第2層36と、第2層36上の窒化チタン(TiN)を含む第3層38と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料のn型半導体層と、
前記n型半導体層上の一部領域に設けられるn側電極と、
前記n側電極上に設けられるn側保護金属層と、
前記n型半導体層上の前記一部領域とは異なる領域に設けられるAlGaN系半導体材料の活性層と、を備え、
前記n側電極は、前記n型半導体層上のチタン(Ti)を含む第1層と、前記第1層上のアルミニウム(Al)を含む第2層と、前記第2層上の窒化チタン(TiN)を含む第3層と、を備えることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記n側保護金属層は、白金族金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記n側保護金属層は、金属積層膜で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第3層は、前記第1層および前記第2層の積層構造の上面および側面を被覆するように設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
n型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料のn型半導体層と、
前記n型半導体層上の一部領域に設けられるn側電極と、
前記n型半導体層上の前記一部領域とは異なる領域に設けられるAlGaN系半導体材料の活性層と、を備え、
前記n側電極は、前記n型半導体層上のチタン(Ti)を含む第1層と、前記第1層上のアルミニウム(Al)を含む第2層と、前記第2層上の窒化チタン(TiN)を含む第3層とを備え、前記第3層は、前記第1層および前記第2層の積層構造の上面および側面を被覆することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項6】
前記第3層は、前記第1層および前記第2層の前記積層構造の前記上面および前記側面を被覆するTi層と、前記Ti層の上面および側面を被覆するTiN層と備えることを特徴とする請求項4または5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記第3層は、前記第2層と接触する窒化アルミ(AlN)を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
n型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料のn型半導体層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、
前記n型半導体層上の一部領域が露出するように前記活性層および前記n型半導体層の一部を除去する工程と、
前記n型半導体層の前記一部領域上にn側電極を形成する工程と、を備え、
前記n側電極を形成する工程は、前記n型半導体層上のチタン(Ti)を含む第1層を形成する工程と、前記第1層上のアルミニウム(Al)を含む第2層を形成する工程と、前記第2層上の窒化チタン(TiN)を含む第3層を形成する工程と、を備えることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第3層を形成する工程は、前記第2層上にTi層を形成する工程と、前記Ti層の表面にアンモニアガスプラズマ処理を施してTiN層を形成する工程とを備えることを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記第3層を形成する工程は、前記第2層の表面に前記アンモニアガスプラズマ処理を施してAlN層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記第3層を形成する工程は、前記第1層の表面に前記アンモニアガスプラズマ処理を施してTiN層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項9または10に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記n側電極上にn側保護金属層を形成する工程をさらに備えることを特徴する請求項8から11のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
深紫外光用の発光素子は、基板上に順に積層される窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系のn型クラッド層、活性層、p型クラッド層を有する。n型クラッド層上には例えばTi/Al/Ti/Auの積層構造を有するn側電極が形成される。n型クラッド層とn側電極のコンタクト接触抵抗は、n型クラッド層のAlNモル分率が大きくなるほど増加し、良好なオーミック接触が困難になる傾向が知られている。n側電極のコンタクト抵抗を低減させるため、700℃以上のアニール処理が必要とされる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5594530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム(Al)の融点(約660℃)を超える温度でn側電極をアニール処理すると、アニール後のn側電極の平坦性が低下し、n側電極における紫外光の反射率が低下しうる。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、半導体発光素子の信頼性および出力特性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の半導体発光素子は、n型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料のn型半導体層と、n型半導体層上の一部領域に設けられるn側電極と、n型半導体層上の一部領域とは異なる領域に設けられるAlGaN系半導体材料の活性層と、を備える。n側電極は、n型半導体層上のチタン(Ti)を含む第1層と、第1層上のアルミニウム(Al)を含む第2層と、第2層上の窒化チタン(TiN)を含む第3層と、を備える。
【0007】
この態様によると、Alを含む第2層の上をTiNを含む第3層で被覆することで、アニール工程やリソグラフィ工程でのAl表面の酸化や腐食を防ぐことができる。これにより、平坦性および反射率の優れたn側電極を提供することができ、半導体発光素子の信頼性および出力特性を向上できる。
【0008】
n側電極の上面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下であってもよい。
【0009】
第3層は、厚さが10nm以上のTiN層を含んでもよい。
【0010】
第1層の厚さは5nm以下であり、第2層の厚さは300nm以上であってもよい。
【0011】
第3層は、第2層上のTi層と、Ti層上のTiN層とを含んでもよい。
【0012】
TiN層は、Ti層の表面にアンモニア(NH)ガスプラズマ処理を施すことにより形成されてもよい。
【0013】
n型半導体層は、窒化アルミニウム(AlN)のモル分率が20%以上であり、活性層は、波長350nm以下の紫外光を発するよう構成されてもよい。
【0014】
本発明の別の態様は、半導体発光素子の製造方法である。この方法は、n型窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料のn型半導体層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、n型半導体層上の一部領域が露出するように活性層およびn型半導体層の一部を除去する工程と、n型半導体層の一部領域上に、チタン(Ti)を含む第1層、アルミニウム(Al)を含む第2層およびチタン(Ti)を含む第3層を順に形成する工程と、第3層の表面にアンモニア(NH)ガスプラズマ処理を施して窒化チタン(TiN)層を形成する工程と、第1層、第2層および第3層を500℃以上650℃以下の温度でアニールしてn側電極を形成する工程と、を備える。
【0015】
この態様によると、Alを含む第2層上をTiN層で被覆することで、アニール工程やリソグラフィ工程でのAl表面の酸化や腐食を防ぐことができる。アンモニアガスプラズマ処理でTiN層を形成することで、平坦性の優れたTiN層を形成できる。これにより、平坦性および反射率の優れたn側電極を提供することができ、半導体発光素子の信頼性および出力特性を向上できる。
【0016】
第3層の表面にTiN層を形成する工程は、300℃未満の温度でなされてもよい。
【0017】
n側電極のTiN層上に保護金属層を形成する工程と、n型半導体層上および保護金属層上を被覆する保護絶縁層を形成する工程と、n側電極上の保護絶縁層の一部を除去して保護金属層を露出させる工程と、保護絶縁層の一部除去により露出した保護金属層上にパッド電極を形成する工程と、をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、半導体発光素子の信頼性および出力特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
図2】Ti層の厚さと紫外光反射率の関係を示すグラフである。
図3】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図4】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図5】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図6】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図7】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図8】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図9】半導体発光素子の製造工程を概略的に示す図である。
図10】変形例に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
図11】別の変形例に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の発光素子の寸法比と一致しない。
【0021】
図1は、実施の形態に係る半導体発光素子10の構成を概略的に示す断面図である。半導体発光素子10は、中心波長λが約360nm以下となる「深紫外光」を発するように構成されるLED(Light Emitting Diode)チップである。このような波長の深紫外光を出力するため、半導体発光素子10は、バンドギャップが約3.4eV以上となる窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料で構成される。本実施の形態では、特に、中心波長λが約240nm~350nmの深紫外光を発する場合について示す。
【0022】
本明細書において、「AlGaN系半導体材料」とは、少なくとも窒化アルミニウム(AlN)および窒化ガリウム(GaN)を含む半導体材料のことをいい、窒化インジウム(InN)などの他の材料を含有する半導体材料を含むものとする。したがって、本明細書にいう「AlGaN系半導体材料」は、例えば、In1-x-yAlGaN(0≦x+y<1、0<x<1、0<y<1)の組成で表すことができ、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)または窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)を含む。本明細書の「AlGaN系半導体材料」は、例えば、AlNおよびGaNのそれぞれのモル分率が1%以上であり、好ましくは5%以上、10%以上または20%以上である。
【0023】
また、AlNを含まない材料を区別するために「GaN系半導体材料」ということがある。「GaN系半導体材料」には、GaNやInGaNが含まれる。同様に、GaNを含まない材料を区別するために「AlN系半導体材料」ということがある。「AlN系半導体材料」には、AlNやInAlNが含まれる。
【0024】
半導体発光素子10は、基板20と、バッファ層22と、n型クラッド層24と、活性層26と、電子ブロック層28と、p型クラッド層30と、n側電極32と、p側電極42と、n側保護金属層39と、p側保護金属層49と、保護絶縁層50と、n側パッド電極56と、p側パッド電極58とを備える。
【0025】
基板20は、半導体発光素子10が発する深紫外光に対して透光性を有する基板であり、例えば、サファイア(Al)基板である。基板20は、第1主面20aと、第1主面20aの反対側の第2主面20bを有する。第1主面20aは、バッファ層22より上の各層を成長させるための結晶成長面となる一主面である。第2主面20bは、活性層26が発する深紫外光を外部に取り出すための光取出面となる一主面である。変形例において、基板20は、窒化アルミニウム(AlN)基板であってもよいし、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板であってもよい。
【0026】
バッファ層22は、基板20の第1主面20aの上に形成される。バッファ層22は、n型クラッド層24より上の各層を形成するための下地層(テンプレート層)である。バッファ層22は、例えば、アンドープのAlN層であり、具体的には高温成長させたAlN(HT-AlN;High Temperature AlN)層である。バッファ層22は、AlN層上に形成されるアンドープのAlGaN層を含んでもよい。変形例において、基板20がAlN基板またはAlGaN基板である場合、バッファ層22は、アンドープのAlGaN層のみで構成されてもよい。つまり、バッファ層22は、アンドープのAlN層およびAlGaN層の少なくとも一方を含む。
【0027】
n型クラッド層24は、バッファ層22の上に形成されるn型半導体層である。n型クラッド層24は、n型のAlGaN系半導体材料層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされるAlGaN層である。n型クラッド層24は、活性層26が発する深紫外光を透過するように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が25%以上、好ましくは、40%以上または50%以上となるように形成される。n型クラッド層24は、活性層26が発する深紫外光の波長よりも大きいバンドギャップを有し、例えば、バンドギャップが4.3eV以上となるように形成される。n型クラッド層24は、AlNのモル分率が80%以下、つまり、バンドギャップが5.5eV以下となるように形成されることが好ましく、AlNのモル分率が70%以下(つまり、バンドギャップが5.2eV以下)となるように形成されることがより望ましい。n型クラッド層24は、1μm~3μm程度の厚さを有し、例えば、2μm程度の厚さを有する。
【0028】
n型クラッド層24は、不純物であるシリコン(Si)の濃度が1×1018/cm以上5×1019/cm以下となるように形成される。n型クラッド層24は、Si濃度が5×1018/cm以上3×1019/cm以下となるように形成されることが好ましく、7×1018/cm以上2×1019/cm以下となるように形成されることが好ましい。ある実施例において、n型クラッド層24のSi濃度は、1×1019/cm前後であり、8×1018/cm以上1.5×1019/cm以下の範囲である。
【0029】
活性層26は、AlGaN系半導体材料で構成され、n型クラッド層24と電子ブロック層28の間に挟まれてダブルへテロ接合構造を形成する。活性層26は、単層または多層の量子井戸構造を有してもよく、例えば、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成されるバリア層と、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成される井戸層の積層体で構成されてもよい。活性層26は、波長355nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成され、例えば、波長310nm以下の深紫外光を出力できるようにAlN組成比が選択される。活性層26は、n型クラッド層24の第1上面24aに形成され、第1上面24aの隣の第2上面24bには形成されない。つまり、活性層26は、n型クラッド層24の全面に形成されず、n型クラッド層24の一部領域にのみ形成される。
【0030】
電子ブロック層28は、活性層26の上に形成される。電子ブロック層28は、アンドープのAlGaN系半導体材料層であり、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。電子ブロック層28は、AlNのモル分率が80%以上となるように形成されてもよく、GaNを含まないAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層は、1nm~10nm程度の厚さを有し、例えば、2nm~5nm程度の厚さを有する。電子ブロック層28は、p型のAlGaN系半導体材料層であってもよい。
【0031】
p型クラッド層30は、電子ブロック層28の上に形成されるp型半導体層である。p型クラッド層30は、p型のAlGaN系半導体材料層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされるAlGaN層である。p型クラッド層30は、300nm~700nm程度の厚さを有し、例えば、400nm~600nm程度の厚さを有する。p型クラッド層30は、AlNを含まないp型GaN系半導体材料で形成されてもよい。
【0032】
n側電極32は、n型クラッド層24の第2上面24bに形成される。n側電極32は、第1層34と、第2層36と、第3層38とを含む。第1層34は、n型クラッド層24上に接するように設けられ、チタン(Ti)を含む。第1層34は、実質的にTiのみを含むTi層であってもよい。第2層36は、第1層34上に接するように設けられ、アルミニウム(Al)を含む。第2層36は、実質的にAlのみを含むAl層であってもよい。第3層38は、チタン(Ti)層38aおよび窒化チタン(TiN)層38bを含む。Ti層38aは、第2層36の上に接するように設けられる。TiN層38bは、Ti層38aの上に設けられ、Ti層38aの表面を被覆するように設けられる。
【0033】
第1層34の厚さは1nm~10nm程度であり、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。第1層34の厚さを小さくすることで、n型クラッド層24から見たときのn側電極32の紫外光反射率を高めることができる。第2層36の厚さは100nm~1000nm程度であり、200nm以上であることが好ましく、300nm以上であることがより好ましい。第2層36の厚さを大きくすることで、第2層36の紫外光反射率を高めることができる。第3層38の厚さは20nm~500nm程度であり、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。第3層38の厚さを大きくすることで、第2層36の表面を好適に被覆し、n側電極32のアニール時にAlの酸化を防ぐことができる。
【0034】
図2は、第1層34(Ti層)の厚さと紫外光反射率の関係を示すグラフであり、Ti層の厚さとアニール温度を変化させた場合のn側電極32の紫外光反射率の変化を示している。図示されるように、加熱前に比べて加熱後においてn側電極32の反射率が低下する傾向が見られ、特にAlの融点を超える700℃のアニール後では紫外光反射率が顕著に低下することが分かる。また、Ti層の厚さを5nm以下または2nm以下とすることにより、紫外光反射率のより高いn側電極32が得られることが分かる。
【0035】
n側電極32には、紫外光反射率の低下の要因となりうる金(Au)が含まれないことが好ましい。
【0036】
図1に戻り、p側電極42は、p型クラッド層30上に接するように設けられる。p側電極42は、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電性酸化物(TCO)により形成される。透明電極層42の厚さは20nm~500nm程度であり、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。
【0037】
n側保護金属層39は、n側電極32の上に設けられ、第3層38(TiN層38b)と接する。p側保護金属層49は、p側電極42の上に設けられ、p側電極42と接する。保護金属層39,49は、保護絶縁層50との密着性の高い金属材料で形成され、単一金属膜または金属積層膜で構成される。保護金属層39,49は、n側開口52およびp側開口54を形成するためのドライエッチング工程でのストップ層として機能し、エッチングガスに対する耐性の高い金属材料で構成されることが好ましい。保護金属層39,49の材料として、例えば白金族金属を用いることができ、パラジウム(Pd)を用いることができる。保護金属層39,49の厚みは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが好ましい。
【0038】
保護絶縁層50は、n側保護金属層39およびp側保護金属層49の上と、n型クラッド層24の第2上面24bおよびp型クラッド層30の露出面とを被覆するように設けられる。保護絶縁層50は、酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiON)または窒化シリコン(SiN)などの絶縁性材料で構成される。保護絶縁層50の厚さは20nm~500nm程度であり、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが好ましい。
【0039】
保護絶縁層50には、n側保護金属層39の一部が露出するn側開口52と、p側保護金属層49の一部が露出するp側開口54とが設けられる。n側パッド電極56は、n側保護金属層39上のn側開口52に設けられ、n側保護金属層39と接する。p側パッド電極58は、p側保護金属層49上のp側開口54に設けられ、p側保護金属層49と接する。
【0040】
n側パッド電極56およびp側パッド電極58は、半導体発光素子10をパッケージ基板等に実装する際にボンディング接合される部分である。n側パッド電極56およびp側パッド電極58は、耐腐食性の観点から金(Au)を含むように構成され、例えば、ニッケル(Ni)/Au、チタン(Ti)/AuまたはTi/白金(Pt)/Auの積層構造で構成される。パッド電極56,58が金錫(AuSn)で接合される場合、その接合のためのAuSn層をパッド電極56,58が含んでもよい。
【0041】
つづいて、半導体発光素子10の製造方法について説明する。図3図9は、半導体発光素子10の製造工程を概略的に示す図である。図3において、まず、基板20の第1主面20aの上にバッファ層22、n型クラッド層24、活性層26、電子ブロック層28、p型クラッド層30が順に形成される。
【0042】
基板20は、サファイア(Al)基板であり、AlGaN系半導体材料を形成するための成長基板である。例えば、サファイア基板の(0001)面上にバッファ層22が形成される。バッファ層22は、例えば、高温成長させたAlN(HT-AlN)層と、アンドープのAlGaN(u-AlGaN)層とを含む。n型クラッド層24、活性層26、電子ブロック層28およびp型クラッド層30は、AlGaN系半導体材料、AlN系半導体材料またはGaN系半導体材料で形成される層であり、有機金属化学気相成長(MOVPE)法や、分子線エピタキシ(MBE)法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
【0043】
次に、p型クラッド層30の上に露出領域W1を除いて第1マスク12が形成される。第1マスク12は、例えばフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングされる。つづいて、第1マスク12が形成されていない露出領域W1のp型クラッド層30、電子ブロック層28、活性層26およびn型クラッド層24の一部が除去される。これにより、露出領域W1にn型クラッド層24の第2上面24b(露出面)が形成される。n型クラッド層24の露出面を形成する工程では、ドライエッチング14により各層を除去できる。例えば、エッチングガスのプラズマ化による反応性イオンエッチングを用いることができ、例えば、誘導結合型プラズマ(ICP;Inductive Coupled Plasma)エッチングを用いることができる。その後、第1マスク12が除去される。
【0044】
次に、図4に示すように、n型クラッド層24の第2上面24b(露出面)のn側電極領域W2を除いて第2マスク16が形成される。n側電極領域W2は、第2上面24bの露出領域W1よりも狭い領域である。第2マスク16は、例えばフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングされる。つづいて、n側電極領域W2におけるn型クラッド層24の第2上面24bに第1層34、第2層36およびTi層38aが順に積層される。第1層34、第2層36およびTi層38aのそれぞれは、スパッタリング法または電子ビーム(EB)蒸着法で形成できる。この時点において、TiN層38bは形成されていない。言いかえれば、TiN層38bは、スパッタリング法や電子ビーム(EB)蒸着法では形成されない。その後、第2マスク16が除去される。
【0045】
つづいて、図5に示すように、Ti層38aの表面をアンモニア(NH)ガスプラズマ40で処理することでTi層38aの表面に窒素(N)原子を供給し、Ti層38aの表面を窒化させる。これにより、Ti層38aの表面にTiN層38bが形成される。TiN層38bを形成するためのプラズマ処理の温度は、Alの融点(約660℃)未満であることが好ましく、例えば300℃未満であることがより好ましい。このような比較的低温でのプラズマ処理によりTiN層38bを形成すると、もとのTi層38aの表面の平坦性が維持される。プラズマ処理直後のTiN層38bの表面の算術平均粗さ(Ra)は、5nm以下であり、例えば2nm以下または1nm以下である。TiN層38bの厚さは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることが好ましい。なお、TiN層38bは、n側電極32の側面32bの少なくとも一部に形成されてもよい。
【0046】
つづいて、n側電極32にアニール処理が施される。n側電極32のアニール処理は、Alの融点(約660℃)未満の温度で実行され、500℃以上650℃以下の温度で実行されることが好ましい。このような温度でアニール処理を施すことにより、n側電極32のコンタクト抵抗を0.1Ω・cm以下にするとともに、n側電極32の平坦性および紫外光反射率を高めることができる。第2層36(Al層)の上を第3層38で被覆した状態でアニール処理を施すことにより、アニール処理によるAl層の酸化を防ぐことができ、n側電極32の平坦性をより高めることができる。具体的には、n側電極32の上面32aの算術平均粗さ(Ra)を5nm以下とすることができ、例えば1nm~3nm程度の表面粗さを実現できる。
【0047】
つづいて、図6に示すように、p型クラッド層30の上のp側電極領域W3を除いて第3マスク18が形成される。p側電極領域W3は、p型クラッド層30の上面よりも狭い領域である。第3マスク18は、例えばフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングされる。つづいて、p側電極領域W3のp型クラッド層30の上にp側電極42が形成される。p側電極42は、スパッタリング法または電子ビーム(EB)蒸着法で形成できる。その後、第3マスク18が除去される。
【0048】
次に、図7に示すように、n側電極領域W2およびp側電極領域W3に対応する保護領域W4n,W4pを除いて第4マスク19が形成される。第4マスク19は、例えばフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングされる。第4マスク19の保護領域W4n,W4pは、n側電極領域W2およびp側電極領域W3と厳密に一致してもよいし、n側電極領域W2およびp側電極領域W3と部分的に重複するようにずれていてもよい。つづいて、保護領域W4nのn側電極32(TiN層38b)の上にn側保護金属層39が形成され、保護領域W4pのp側電極42の上にp側保護金属層49が形成される。保護金属層39,49は、スパッタリング法や電子ビーム(EB)蒸着法を用いて形成できる。その後、第4マスク19が除去される。
【0049】
つづいて、図8に示すように、保護絶縁層50が形成される。保護絶縁層50は、素子構造の上面の全体を被覆するように形成される。保護絶縁層50は、n側保護金属層39およびp側保護金属層49の上を被覆し、かつ、n型クラッド層24の第2上面24bおよびp型クラッド層30の上を被覆する。
【0050】
次に、図9に示すように、保護絶縁層50の一部を除去することによりn側開口52およびp側開口54が形成される。保護絶縁層50は、CF系のエッチングガスを用いてドライエッチングすることができ、例えば、六フッ化エタン(C)を用いることができる。このドライエッチング工程にて、n側保護金属層39およびp側保護金属層49がストップ層として機能し、その下のn側電極32およびp側電極42へのダメージを防ぐことができる。
【0051】
つづいて、n側保護金属層39上のn側開口52にn側パッド電極56を形成し、p側保護金属層49上のp側開口54にp側パッド電極58を形成する。パッド電極56,58は、例えば、まず、Ni層またはTi層を堆積し、その上にAu層を堆積することで形成できる。Au層の上にさらに別の金属層が設けられてもよく、例えば、Sn層、AuSn層、Sn/Auの積層構造を形成してもよい。
【0052】
以上の工程により、図1の半導体発光素子10ができあがる。本実施の形態によれば、n側電極32のアニール処理時にn側電極32の上面32aをTiN層38bで被覆することにより、n側電極32の上面32aの酸化を防ぐことができる。また、n側電極32の上面32aに酸化物が形成されないため、その後の第3マスク18や第4マスク19を形成するためのフォトリソグラフィ工程に用いる薬液による酸化物の腐食を防止できる。その結果、n側電極32の上面32aの酸化や腐食による平坦性の低下を好適に防止できる。
【0053】
例えば、n側電極の第2層36の上にTi層38aおよびTiN層38bが設けられない比較例の場合、アニール時に第2層36に含まれるアルミニウム(Al)が酸化して酸化アルミニウムが形成され、その後のフォトリソグラフィ工程にて酸化アルミニウムが腐食されうる。また、n側電極の第2層36の上にTi層38aのみが設けられ、TiN層38bが設けられない比較例の場合、アニール時にTi層38aの表面が酸化して酸化チタンが形成され、その後のフォトリソグラフィ工程にて酸化チタンが腐食しうる。いずれの比較例においてもn側電極の上面で酸化や腐食が発生しうるため、電極表面の平坦性が低下し、電極表面の算術平均粗さ(Ra)が5nmを超えてしまう。n側電極の上面の平坦性が5nmを超えると、保護絶縁層による絶縁性やパッド電極との接触性が不良となり、半導体発光素子が点灯しない不具合が生じうる。
【0054】
一方、本実施の形態によれば、平坦性の高いn側電極32の上面32aにn側保護金属層39、保護絶縁層50およびn側パッド電極56が形成されるため、絶縁不良や接触不良などの不具合を好適に防止できる。したがって、本実施の形態によれば、半導体発光素子10の信頼性を高めることができる。また、高反射率のn側電極32を実現することにより、半導体発光素子10の出力特性を向上させることができる。
【0055】
本実施の形態によれば、プラズマ処理によりTiN層38bを形成することで、n側電極32の上面32aの平坦性を高めることができる。TiN層を形成する方法として、スパッタリング法などの成膜技術も考えられる。しかしながら、スパッタリングによりTiN膜を形成すると、表面に粒状構造が形成されるために平坦性が悪化しうる。その結果、5nm以下の算術平均粗さ(Ra)を実現することが難しくなる。一方、本実施の形態によれば、平坦性の高いTi金属膜を形成した後に、表面の平坦性を維持したまま窒化させることができるため、平坦性の優れたn側電極32を実現できる。
【0056】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上述の実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0057】
図10は、変形例に係る半導体発光素子110の構成を概略的に示す断面図である。本変形例では、n側電極132の第3層138が第1層34および第2層36の双方の側面を被覆するように設けられる点で上述の実施の形態と相違する。第3層138は、Ti層138aと、TiN層138bとを含む。Ti層138aは、第1層(Ti層)34および第2層(Al層)36の側面と、第2層36の上面とを被覆するように設けられる。TiN層138bは、Ti層138aの表面、つまり、Ti層138aの側面および上面を被覆するように設けられる。本変形例においても、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0058】
図11は、別の変形例に係る半導体発光素子210の構成を概略的に示す断面図である。本変形例に係るn側電極232は、Tiを含む第1層234と、Alを含む第2層236と、Tiを含む第3層238と、窒化物層240とを含む。第1層234、第2層236および第3層238は、n型クラッド層24の第2上面24bに順に積層される。窒化物層240は、n側電極232の上面および側面を被覆するように設けられ、第1層234の側面を被覆する第1部分と、第2層236の側面を被覆する第2部分と、第3層238の側面および上面を被覆する第3部分とを有する。窒化物層240の第1部分はTiN層であり、窒化物層240の第2部分はAlN層であり、窒化物層240の第3部分はTiN層である。窒化物層240は、第1層234、第2層236および第3層238のそれぞれの表面をアンモニアガスプラズマ処理で窒化させることにより形成できる。本変形例においても、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0059】
なお、図10および図11に示す変形例においても、n側電極132,232とn側パッド電極56の間にn側保護金属層39が設けられてもよい。また、p側電極42とp側パッド電極58の間にp側保護金属層49が設けられてもよい。
【0060】
上述の実施の形態および変形例では、n側電極の第3層がTi層とTiN層の積層構造で構成される場合について示した。さらなる変形例では、n側電極の第3層が実質的にTiN層のみで構成されてもよい。例えば、第3層のTiN層に比べて厚さの小さいTi層が残存し、実質的にTi層が含まれていなくてもよい。この場合、第3層のTiN層の厚さは5nm以上または10nm以上であるのに対し、第3層のTi層は10nm未満または5nm未満(例えば、1nm~3nm程度)であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…半導体発光素子、24…n型クラッド層、26…活性層、32…n側電極、34…第1層、36…第2層、38…第3層、38a…Ti層、38b…TiN層、42…p側電極、50…保護絶縁層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11