(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168288
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】水性被覆材
(51)【国際特許分類】
C09D 163/10 20060101AFI20221027BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221027BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221027BHJP
【FI】
C09D163/10
C09D7/61
C09D7/63
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146878
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2020102140の分割
【原出願日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2019112734
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五味 岳志
(72)【発明者】
【氏名】三木 菜摘
(57)【要約】
【課題】塗膜強度、密着性、防錆性等に優れた水性被覆材を提供する。
【解決手段】本発明は、被膜形成成分、及び粉体成分を含む水性被覆材であって、上記被膜形成成分は、樹脂成分として水性エポキシ樹脂エマルションを含み、かつ形成被膜のゲル分率が10%以上であり、上記粉体成分は、防錆顔料、及び炭酸カルシウムを含み、上記樹脂成分100重量部に対し、上記粉体成分を50~300重量部含み、上記粉体成分中に、上記炭酸カルシウムを30~90重量%含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜形成成分、及び粉体成分を含む水性被覆材であって、
上記被膜形成成分は、樹脂成分及び硬化促進剤を含み、かつ形成被膜のゲル分率が10%以上であり、
上記樹脂成分として水性エポキシ樹脂エマルションを含み、該水性エポキシ樹脂エマルションは、ビニル変性エポキシエステル樹脂の水分散体を含み、
上記硬化促進剤として、金属ドライヤーと、架橋剤(オキサゾリン基含有樹脂を除く)及び/またはシラン化合物とを含み、
上記粉体成分は、防錆顔料、及び炭酸カルシウムを含み、
上記樹脂成分100重量部に対し、上記粉体成分を50~300重量部含み、
上記粉体成分中に、上記炭酸カルシウムを30~90重量%含むことを特徴とする水性被覆材。
【請求項2】
一液硬化型の水性被覆材であることを特徴とする請求項1に記載の水性被覆材。
【請求項3】
上記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性被覆材。
【請求項4】
上記シラン化合物は、アルキルアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築・土木構造物に対するコーティング分野においては有機溶剤を溶媒とする溶剤型の材料から、水を溶媒とする水性の材料への転換が図られつつある。これは、塗装作業者や居住者の健康被害を低減するためや、大気環境汚染を低減する目的で行われているものであり、金属用の被覆材においても水性化の検討が種々行われている。
【0003】
このような金属用の被覆材として、例えば、樹脂成分としてエポキシ樹脂を使用し、該樹脂成分に様々な防錆顔料を配合した水性被覆材が提案されている。しかし、このような水性被覆材は、溶剤系被覆材に比較して乾燥性が遅く、防錆性に劣るという問題がある。特に一液型の水性被覆材では、十分な防錆性を得るためには、高温下での乾燥が必要となる場合がある。
【0004】
このような問題から、常温乾燥可能な水性被覆材として、例えば、特許文献1には、アクリル変性エポキシ樹脂を含むバインダー樹脂と、防錆顔料を含む水性被覆材が開示されており、防錆顔料として特定の化合物を配合することにより常温での乾燥が可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように特定の顔料を配合するだけでは、十分な塗膜強度が得られず、密着性、防錆性等において不十分となる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、被膜形成成分、及び粉体成分を含む水性被覆材において、形成被膜のゲル分率が10%以上である被膜形成成分、及び特定の粉体成分を特定重量比率で含むことにより、塗膜強度、密着性、防錆性等に優れた水性被覆材が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.被膜形成成分、及び粉体成分を含む水性被覆材であって、
上記被膜形成成分は、樹脂成分及び硬化促進剤を含み、かつ形成被膜のゲル分率が10%以上であり、
上記樹脂成分として水性エポキシ樹脂エマルションを含み、該水性エポキシ樹脂エマルションは、ビニル変性エポキシエステル樹脂の水分散体を含み、
上記硬化促進剤として、金属ドライヤーと、架橋剤(オキサゾリン基含有樹脂を除く)及び/またはシラン化合物とを含み、
上記粉体成分は、防錆顔料、及び炭酸カルシウムを含み、
上記樹脂成分100重量部に対し、上記粉体成分を50~300重量部含み、
上記粉体成分中に、上記炭酸カルシウムを30~90重量%含むことを特徴とする水性被覆材。
2.一液硬化型の水性被覆材であることを特徴とする1.に記載の水性被覆材。
3.上記架橋剤は、カルボジイミド基を有する化合物を含むことを特徴とする1.または2.に記載の水性被覆材。
4.上記シラン化合物は、アルキルアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする1.または2.に記載の水性被覆材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性被覆材は、塗膜強度、密着性、防錆性等に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明は、被膜形成成分、及び粉体成分を含む水性被覆材であって、上記被膜形成成分は、樹脂成分として水性エポキシ樹脂エマルションを含み、上記粉体成分は、防錆顔料及び炭酸カルシウムを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明で用いる被膜形成成分(A)(以下「(A)成分」ともいう。)は、樹脂成分(A1)(以下「(A1)成分」ともいう。)として、水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)を含み、かつ形成被膜のゲル分率が10%以上(好ましくは12%以上、より好ましくは15%以上)であることを特徴とする。また、その上限値は、特に限定されないが、実用的に好ましくは80%以下(より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下)である。被膜形成成分(A)より形成される被膜がこのような範囲を満たす場合、本発明水性被覆材の塗膜強度、密着性等が向上し、優れた防錆性を発揮することができる。
【0013】
なお、本発明において、ゲル分率は、ポリエステルフィルム上に被膜形成成分(A)を乾燥後の膜厚が0.15mmとなるように塗付し、23℃で24時間乾燥して被膜を形成させたものを試験片とし、アセトンに24時間浸漬した後、次式にて算出されるものである。
ゲル分率(%)=(浸漬後の被膜重量/浸漬前の被膜重量)×100
【0014】
上記水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)とは、エポキシ樹脂を水性媒体に分散・乳化させたエポキシ樹脂の水分散体である。エポキシ樹脂としては、水性媒体に分散しうるものであればよく、固形型エポキシ樹脂及び/または液状型エポキシ樹脂のいずれであってもよく、例えば、分子中にエポキシ基を1個以上、好ましくは2個以上含有する樹脂が使用できる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール系エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン樹脂等が挙げられる。本発明では、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等から選ばれる1種以上が好適である。
【0015】
さらに水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)は、エポキシ樹脂として、上記エポキシ樹脂のエポキシ基が有機酸でエステル化されたエポキシエステル樹脂を含むことが好ましく、さらにはエポキシエステル樹脂をビニル変性したビニル変性エポキシエステル樹脂を含むことが好ましい。これにより、塗膜強度、密着性、防錆性等を十分に発揮することができる。
【0016】
上記エポキシエステル樹脂は、上記エポキシ樹脂と有機酸を、必要に応じてエステル化触媒の存在下で加熱(50~250℃)して、エステル化反応させることで製造できる。
【0017】
上記有機酸としては、特に限定されないが、例えば、桐油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、魚油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米糠油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等の乾性油脂肪酸あるいは半乾性油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸等の不乾性油脂肪酸、あるいはこれら脂肪酸を精製した、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エレオステアリン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。なお、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸をいう。一方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸をいう。
【0018】
本発明では、有機酸として上記乾性油脂肪酸あるいは半乾性油脂肪酸を使用することが好ましく、中でも、ヨウ素価100~200の桐油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、魚油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米糠油脂肪酸等から選ばれる1種以上を使用することが好ましい。
【0019】
上記エステル化触媒としては、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン等が使用できる。
【0020】
上記ビニル変性エポキシエステル樹脂は、上記エポキシエステル樹脂の少なくとも一部の不飽和基にポリビニル基が結合してなるものであり、上記エポキシエステル樹脂の存在下で、ラジカル重合開始剤を用いてビニル基含有化合物をラジカル重合することにより製造することができる。なお、ビニル基含有化合物とは、モノマーとも称される化合物であり、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
【0021】
ビニル基含有化合物としては、上記エポキシエステル樹脂の不飽和基と共重合可能なモノマーから選ばれる1種以上であれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族モノマー、酸基含有モノマー等を含むことが好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。
【0023】
芳香族モノマーは、芳香環と重合性不飽和二重結合を有する化合物であり、その具体例としては、例えばスチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、イソクロトン酸、サリチル酸等のカルボキシル基含有モノマー等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他のビニル基含有化合物を使用することもできる。このようなビニル基含有化合物として、例えば、
(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α-シアノエチル(メタ)アクリレート等のニトリル基含有モノマー;
マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等のアミド基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ-n-ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p-アミノスチレン、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε-カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;
【0026】
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有モノマー;これら水酸基含有モノマーにεカプロラクトンを付加したεカプロラクトン変性水酸基含有モノマー;
2-イソシアナートプロペン、2-イソシアナートエチルビニルエーテル、2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、m-イソプロペニル-α、α-ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー;
フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;
ビニルアセトアセテート、2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の活性メチレン基を有するモノマー;
ビニルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシリル基を有するモノマー;
ポリオキシエチレンエーテルグリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンエーテルグリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシブチレンエーテルグリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンエーテル(メタ)アクリレート:等が挙げられる。
【0027】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジクロルベンゾイルパーオキシド、ジ-t―ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエートなどのパーオキサイド化合物、アゾビスイソブチルニトリル、およびジメチルアゾブチレートなどのアゾ化合物などが挙げられる。
【0028】
ビニル変性エポキシエステル樹脂は、その固形分酸価が、好ましくは100mgKOH/g以下(より好ましくは1~50mgKOH/g、さらに好ましくは2~40mgKOH/g、特に好ましくは7~30mgKOH/g)である。このような範囲を満たす場合、初期乾燥性、耐水性等が高まり、塗膜強度、防錆性に優れた水性被覆材を得ることができる。本発明において「α~β」は「α以上β以下」と同義である。なお、酸価は、固形分1gに含まれる酸基と等モルの水酸化カリウムのmg数によって表される値である。
【0029】
上記ビニル変性エポキシエステル樹脂を水性媒体に分散するには、例えば、塩基性化合物等が使用できる。このような塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-アミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。これら塩基性化合物は、アンモニア水等のように水溶液として使用することもできる。また、前記塩基性化合物としては、ビニル変性エポキシエステル樹脂を含有する水性被覆材が塗膜を形成した際に揮発して塗膜中に残留せず、耐水性及び耐食性に優れた塗膜を形成ができることから、揮発性の塩基性化合物やその水溶液、例えばアンモニア水、トリエチルアミン、2-ジメチルアミノエタノール等が好ましい。
【0030】
なお、上記エポキシ樹脂を水性媒体に分散させる場合には、必要に応じて乳化剤等を用いることができる。なお、水性媒体とは、主に水を含む媒体であり、必要に応じ、例えば、低級アルコール、多価アルコール、エーテル化合物、エステル化合物、アルキレンオキサイド含有化合物等の水溶性溶剤が混合されていてもよい。
【0031】
乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いることができる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ステアリルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸アルカリ金属塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステルアルカリ金属塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0032】
本発明の水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)の樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは500nm以下(より好ましくは5~300nm、さらに好ましくは10~200nm)である。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0033】
本発明の(A1)成分では、上記水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)に加えて、その他の樹脂成分(A1-2)(以下、「(A1-2)成分」ともいう)を含むことができる。このような(A-2)成分としては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。(A-2)成分の態様としては、水溶性樹脂及び樹脂エマルションから選ばれる1種以上が好適である。
【0034】
本発明では(A1)成分中に、上記水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)を60重量%以上(より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上)含むことが好ましい。なお、上記水性エポキシ樹脂エマルション(A1-1)のみの態様も好適である。
【0035】
本発明の(A)成分には、さらに硬化促進剤(A2)を含むことが好ましい。硬化促進剤としては、例えば、金属ドライヤー(A2-1)、架橋剤(A2-2)、シラン化合物(A2-3)等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0036】
上記金属ドライヤー(A2-1)(以下、単に「(A2-1)成分」ともいう。)としては、例えば、コバルト、マンガン、バナジウム、セリウム、鉄、スズ、ジルコニウム、ビスマス、アルミニウム、ストロンチウム、亜鉛、バリウム、銅、カルシウム、鉛、ニッケル等の金属を含む有機金属化合物(例えば、オクチル酸塩、ナフテン酸塩等)等が使用できる。具体的には、例えば、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オクチル酸マンガン、ナフテン酸マンガン、オクチル酸鉄、ナフテン酸鉄、オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ、オクチル酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸バリウム、ナフテン酸バリウム、オクチル酸銅、ナフテン酸銅、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸カルシウム等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0037】
上記(A2-1)成分は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対して、合計金属量換算で好ましくは0.01~10重量部(より好ましくは0.05~5重量部)含む。このような場合、(A)成分形成被膜のゲル分率が上記範囲を安定して満たすことができ、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0038】
上記架橋剤(A2-2)(以下、単に「(A2-2)成分」ともいう。)としては、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、ヒドラジド基等から選ばれる1種以上の反応性官能基を有する化合物を含むものが使用できる。本発明では、(A2-2)成分として、好ましくはカルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の反応性官能基を有する化合物(より好ましくはカルボジイミド基を有する化合物)を含む。この場合、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。
【0039】
カルボジイミド基を含む架橋剤としては、特開平10-60272号公報、特開平10-316930号公報、特開平11-60667号公報、特開2016-196612号公報、特開2016-196613号公報、特開2018-104605公報、特開2019-038960号公報等に記載のもの等が挙げられる。
エポキシ基を含む架橋剤としては、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0040】
アジリジン基を含む架橋剤として、2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサメチレンジエチレンウレア、ジフェニルメタン-ビス-4,4’-N,N’-ジエチレンウレア等が挙げられる。
【0041】
オキサゾリン基を含む架橋剤として、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の重合性オキサゾリン化合物を該化合物と共重合可能な単量体と共重合した樹脂等が挙げられる。
【0042】
ヒドラジド基を含む架橋剤としては、例えば、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0043】
上記(A2-2)成分は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対して、好ましくは0.01~20重量部(より好ましくは0.05~10重量部)含む。このような場合、(A)成分形成被膜のゲル分率が上記範囲を安定して満たすことができ、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0044】
シラン化合物(A2-3)(以下、単に「(A2-3)成分」ともいう。)としては、アルコキシシリル基、シラノール基等を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ビニル基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤、メタクリル基含有シランカップリング剤、クロロプロピル基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、及びアルキルアルコキシシラン化合物等から選ばれる1種以上が使用できる。
【0045】
ビニル基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤等が挙げられる。
【0046】
エポキシ基(グリシジル基)含有シランカップリング剤としては、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロビルアミン等が挙げられる。
【0048】
メタクリル基含有シランカップリング剤としては、例えば、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
クロロプロピル基含有シランカップリング剤としては、例えば、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、11-メルカプトウンデシルトリメトキシシラン、S-(オクタノイル)メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0051】
アルキルアルコキシシラン化合物としては、アルキルアルコキシシラン、及びその加水分解縮合物等が使用できる。このようなアルキルアルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等の4官能アルコキシシラン類;
【0052】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等の3官能アルキルアルコキシシラン類;
【0053】
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の2官能アルキルアルコキシシラン類;
等が挙げられる。
【0054】
本発明では、(A2-3)成分として、アルキルアルコキシシラン化合物を含むことが好ましい。さらに、本発明では、フェニル基を含有するものを含むことが好ましい。このような(A2-3)成分としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン等が挙げられる。これらを用いた場合、形成被膜の強度が高まり、よりいっそう防錆性が向上する。さらには、基材への付着発現性、密着性向上において優れた効果を発揮することができる。
【0055】
上記(A2-3)成分は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対して、好ましくは0.01~20重量部(より好ましくは0.05~10重量部)含む。このような場合、(A)成分形成被膜のゲル分率が上記範囲を安定して満たすことができ、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0056】
本発明の(A)成分は、上記(A1)成分を必須成分として含み、(A1)成分に加え、好ましくは上記(A2)成分を含み、上記(A2)成分としては、好ましくは上記(A2-1)成分、上記(A2-2)成分、上記(A2-3)成分から選ばれる少なくとも1種以上(より好ましくは2種以上、さらに好ましくは3種以上)を含むものである。
【0057】
本発明の粉体成分(B)(以下、単に「(B)成分」ともいう。)は、防錆顔料(B1)(以下、単に「(B1)成分」ともいう。)、及び炭酸カルシウム(B2)(以下、単に「(B2)成分」ともいう。)を含むことを特徴とする。
【0058】
防錆顔料(B1)としては、特に限定されないが、例えば、鉛系防錆顔料、ホウ酸系防錆顔料、複合酸化物系防錆顔料等の塩基性防錆顔料;クロム酸系防錆顔料、リン酸系防錆顔料、モリブデン酸系防錆顔料、タングステン酸系防錆顔料、有機金属塩系防錆顔料等の不動態被膜形成防錆顔料;金属系防錆顔料、リン化物系防錆顔料、亜リン酸・次亜リン酸系防錆顔料等の還元性防錆顔料;雲母状酸化鉄、リーフィング型アルミニウム等の鱗片状顔料等が挙げられる。
これらは1種または2種以上を使用することができる。
【0059】
本発明では、リン酸系防錆顔料、モリブデン酸系防錆顔料、タングステン酸系防錆顔料、有機金属塩系防錆顔料、亜リン酸・次亜リン酸系防錆顔料から選ばれる1種以上(好ましくは2種以上)を含むことが好ましい。
リン酸系防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸化合物;ポリリン酸亜鉛、ポリリン酸鉄、ポリリン酸アルミニウム等のポリリン酸化合物;リン酸ケイ素、リン酸チタン等;及びこれらの有機変性物及び/または水和物等が挙げられる。
モリブデン酸系防錆顔料としては、例えば、モリブデン酸亜鉛、モリンブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸化合物;リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛等のリンモリブデン酸化合物等;及びこれらの有機変性物及び/または水和物等が挙げられる。
タングステン酸系防錆顔料としては、例えば、タングステン酸亜鉛、タングステン酸アルミニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウム等のタングステン酸化合物等;及びこれらの有機変性物及び/または水和物等が挙げられる。
有機金属塩系防錆顔料としては、有機ニトロ化合物の亜鉛塩、ブタン酸亜鉛の亜鉛塩等が挙げられる。
亜リン酸・次亜リン酸系防錆顔料としては、例えば、亜リン酸鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン、次亜リン酸鉄、次亜リン酸カルシウム等が挙げられる。
【0060】
本発明の(B1)成分の平均粒子径は、好ましくは0.5μm~30μm(より好ましく1μm~25μm、さらに好ましくは1.5μm~20μm)である。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置にて測定することができる。
【0061】
炭酸カルシウム(B2)としては、特に限定されず、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム等、公知のものを使用することができる。本発明の(B2)成分の平均粒子径は、好ましくは0.5μm~100μm(より好ましく1μm~80μm、さらに好ましくは1.5μm~50μm、特に好ましくは2μm~20μm)である。このような場合、優れた防錆性を発揮することができる。さらには、形成被膜の仕上り性を高めることができる。なお、平均粒子径は、上記(B1)成分と同様の方法で測定することができる。
【0062】
本発明では、(B)成分の含有量が、上記樹脂成分(A1)の固形分100重量部に対し、50~300重量部(好ましくは80~280重量部、さらに好ましくは135~250重量部)である。このような範囲を満たすことにより、塗膜強度が向上し、優れた防錆性を発揮することができる。さらには、形成被膜の、各種物性(例えば、耐割れ性、耐収縮性、密着性等)を向上させることができる。
なお、(B1)成分の含有量は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは1~100重量部(さらに好ましくは2~50重量部)である。このような場合、優れた防錆性を発揮することができる。
また、(B2)成分の含有量は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは50~280重量部(さらに好ましくは70~250重量部)である。このような場合、塗膜強度、密着性(ピーリング強度)において優れた効果を発揮することができる。
【0063】
さらに本発明では、(B)成分中に、上記(B2)成分を30~90重量%(好ましくは35~90重量%、より好ましくは40~88重量%、さらに好ましくは50~86重量%)含むことを特徴とする。このような範囲を満たすことにより、塗膜強度(ピーリング強度)、密着性がよりいっそう高まり、優れた防錆性を発揮することができる。また、(B)成分中に、上記(B1)成分を好ましくは0.5~20重量%(より好ましくは1~15重量%)含む。このような場合、上記効果を十分に発揮することができる。
【0064】
本発明では、(B)成分として、上記(B1)成分、及び上記(B2)成分以外に、着色顔料(B3)、体質顔料(B4)等を含むことが好ましい。
着色顔料(B3)としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム顔料、パール顔料等の1種または2種以上を使用することができる。
着色顔料(B3)の含有量は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは250重量部以下(より好ましくは1~250重量部、さらに好ましくは10~200重量部)である。
【0065】
体質顔料(B4)としては、上記(B2)成分以外の体質顔料が使用でき、例えば、寒水石、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、珪砂、珪石粉、石英粉、雲母、樹脂ビーズ、ガラスビーズ、中空バルーン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
体質顔料(B4)の含有量は、上記(A1)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは100重量部以下(より好ましくは1~100重量部、さらに好ましくは2~80重量部)である。
【0066】
本発明の水性被覆材には、上記成分以外に、その他の成分として、例えば、水、溶剤等の分散媒、骨材、造膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、顔料分散剤、増粘剤、沈降防止剤、配向剤、レベリング剤、表面調整剤、湿潤剤、pH調整剤、繊維類、つや消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、吸着剤、触媒等を混合することができる。このような成分を適宜組み合わせて使用することにより、種々の形態の被覆材を設計することができる。
【0067】
本発明の水性被覆材は、上記(A)成分、及び(B)成分に加え、必要に応じこれらその他の成分を常法により均一に混合することで製造できるものであり、好ましくは一液硬化型の水性被覆材である。
【0068】
本発明の水性被覆材により形成される塗膜は、その形成塗膜の酸素透過係数が、好ましくは50×10 -12cc・cm/cm 2・sec・cmHg以下(より好ましくは45×10 -12cc・cm/cm 2・sec・cmHg以下)である。このような範囲の場合、より一層優れた防錆性を発揮することができる。
なお、酸素透過係数は、離型紙に水性被覆材を乾燥膜厚が0.15mmとなるように塗付し、23℃で24時間乾燥して形成した塗膜を剥離した塗膜片を試験片とし、試験方法JIS K 7126に準じて、ガスクロマトグラフ法によって酸素透過度を測定した。なお、ガス透過率測定装置は、「GTR-10XACT」GTRテック(株)製、ガスクロマトグラフは、「GC/TCD G2700」ヤナコテクニカルサイエンス(株)製を使用した。
【0069】
本発明の水性被覆材は、建築物や土木構造物等の金属部材を被覆する材料として使用することができる。このような金属部材が用いられる部位としては、例えば、壁、柱、床、梁、屋根、階段等が挙げられる。また、本発明の水性被覆材の塗装方法としては、刷毛塗り、鏝塗り、ローラー塗装、スプレー塗装、静電気塗装、ロールコーター、カーテンフローコーター、ディッピング塗装や電着塗装等を用いることができるが、塗装作業性、塗着性等の点でローラーまたは刷毛が好適である。塗付け量としては、特に限定されないが、好ましくは0.05kg/m 2~0.5kg/m 2である。水性被覆材の塗回数は、下地の状態によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。水性被覆材の乾燥時間は、好ましくは1時間以上1週間以内とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは-10℃以上50℃以下、より好ましくは-5℃以上40℃以下であればよい。本発明の水性被覆材は、常温硬化型として好ましいものである。
【0070】
本発明の水性被覆材を塗付した後には、各種上塗材を塗付することができる。上塗材としては、一般的に建築物や土木構造物の塗装に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、その結合材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂等の有機質結合材、あるいはシリコン樹脂、アルコキシシラン、コロイダルシリカ、ケイ酸塩等の無機質結合材、アクリルシリコン樹脂等の有機無機複合結合材等が挙げられる。
【0071】
具体的な上塗材としては、例えば、建築用耐候性上塗り塗料(JIS K5658:2010)、鋼構造物用耐候性塗料(JIS K5659:2008)、つや有合成樹脂エマルションペイント(JIS K5660:2008)、建築用防火塗料(JIS K5661:1970)、合成樹脂エマルションペイント(JIS K5663:2008)、路面標示用塗料(JIS K5665:2011)、多彩模様塗料(JIS K5667:2003)、合成樹脂エマルション模様塗料(JIS K5668:2010)、アクリル樹脂系非水分散形塗料(JIS K5670:2008)、鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K5674:2008)、屋根用高日射反射率塗料(JIS K5675:2011)、建物用床塗料(JIS K5970:2008)、建築用塗膜防水材(JIS A6021:2011)、建築用仕上塗材(JIS A6909:2014)、等が挙げられる。特に、本発明の上塗材としては、建築用耐候性上塗り塗料、構造物用耐候性塗料が好適である。
【0072】
上塗材の塗装方法としては、特に限定されず公知の方法で塗装することができるが、例えば、刷毛塗り、スプレー塗装、ローラー塗装、ロールコーター、フローコーター等種々の方法により塗装することができる。即ち、それぞれの上塗材に最適な塗装仕様で、通常の工程に基づいて、各上塗材を塗装すればよい。
【実施例0073】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0074】
(水性被覆材1~17の製造)
表1に示す配合に従い、(A)成分、(B)成分、および添加剤を常法により混合し水性被覆材1~17を製造した。
なお、原料としては以下のものを使用した。
【0075】
(A)樹脂成分
(A1)水性エポキシ樹脂エマルション
(A1-1)ビニル変性エポキシエステル樹脂(アクリル変性ビスフェノールA型エポキシエステル樹脂)[固形分:40重量%、酸価:10mgKOH/g、媒体:水]
(A1-2)ビニル変性エポキシエステル樹脂(アクリルスチレン変性ビスフェノールA型エポキシエステル樹脂)[固形分:40重量%、酸価:6.5mgKOH/g、媒体:水]
(A2)硬化促進剤
(A2-1)金属ドライヤー(金属石鹸)
(A2-1-1)Co系金属ドライヤー[金属含有量:4重量%]
(A2-1-2)Zr系金属ドライヤー[金属含有量:12重量%]
(A2-2)架橋剤
(A2-2-1)ポリカルボジイミド[固形分:40重量%、媒体:水]
(A2-3)シラン化合物
(A2-3-1)フェニルトリメトキシシラン
(A2-3-2)ジメトキシメチルフェニルシラン
【0076】
(B)粉体成分
(B1)防錆顔料
(B1-1)リンモリブデン酸化合物[平均粒子径:3.0μm]
(B1-2)有機ニトロ化合物の亜鉛塩[平均粒子径:3.8μm]
(B2)炭酸カルシウム
(B2-1)炭酸カルシウム[平均粒子径:3.3μm]
(B2-2)炭酸カルシウム[平均粒子径:21μm]
(B2-3)炭酸カルシウム[平均粒子径:1.2μm]
(B3)酸化チタン
(B4)タルク
・添加剤:消泡剤、増粘剤、顔料分散剤、造膜助剤等
【0077】
(実施例1~15、比較例1~5)
得られた水性被覆材1~20について、以下の評価を実施した。結果は表1に示す。
【0078】
<塗膜強度(ピーリング強度)>
鋼板(150×70×0.8mm)の長手方向の一端部(10mm)を離型紙で被覆し、水性被覆材を、塗付け量120g/m 2で塗付し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で7日間養生したものを試験体1とした。次いで、離型紙上に形成した塗膜部から長手方向に塗膜を引っ張り、鋼板上に形成した塗膜が剥離しなかったものを「a」、容易に剥離したものを「d」とする4段階(a>b>c>d)にて評価を行った。
【0079】
<防錆性試験>
鋼板(150×70×0.8mm)に水性被覆材を、塗付け量120g/m 2で塗付し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で7日間養生したものを試験体2とした。得られた試験体2に対し、耐塩水噴霧性試験を行い、50時間後と100時間後にて評価を行った。結果を表2に示す。表中の防錆性1は50時間後の評価、防錆性2は100時間後の評価を示す。なお、この評価は、錆の発生が認められなかったものを「a」、錆が顕著に発生したものを「d」とする4段階(a>b>c>d)にて評価を行った。
【0080】
【0081】
実施例1~15(水性被覆材1~15)では塗膜強度、密着性、防錆性において良好な形成被膜を得ることができた。特に、実施例5~8、14(水性被覆材5~8、14)では、優れた防錆性を発揮することができた。
【0082】
次いで、水性被覆材5~8、14について、以下の評価を実施した。
鋼板(150×70×0.8mm)に水性被覆材を、塗付け量120g/m 2で塗付し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で1日間養生した後、建築用耐候性上塗り塗料(ウレタン樹脂系塗料)を塗付け量100g/m 2で塗付し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で7日間養生したものを試験体3とした。得られた試験体3の仕上り状態を確認した。その結果、水性被覆材5~8では光沢のある優れた仕上りであった。これと比較すると、水性被覆材14では、やや光沢の低い仕上りであった。