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2022-168373ミリングポット冷却容器、それを用いた遊星型ボールミル装置及びクライオミリング方法
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  • -ミリングポット冷却容器、それを用いた遊星型ボールミル装置及びクライオミリング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168373
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ミリングポット冷却容器、それを用いた遊星型ボールミル装置及びクライオミリング方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 17/08 20060101AFI20221031BHJP
   B02C 19/18 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B02C17/08
B02C19/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073764
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 怜雄奈
(72)【発明者】
【氏名】日原 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】西野 洋一
【テーマコード(参考)】
4D063
4D067
【Fターム(参考)】
4D063FF04
4D063FF22
4D063FF35
4D063GA02
4D063GA05
4D063GA10
4D063GB02
4D063GC27
4D063GC31
4D063GC32
4D063GD02
4D063GD04
4D063GD22
4D063GD28
4D067CG04
4D067EE35
4D067GA07
4D067GA10
4D067GA20
(57)【要約】
【課題】
プロセスを大幅に簡略化した遊星型クライオミリングの装置(その装置用ミリングポット冷却容器と装置)及び方法を提供すること。
【解決手段】
開口部3を有する筐体本体2及び開口部3を密閉できる蓋体4を備える筐体12と、粉砕対象試料Mを密閉して収納できるミリングポット9を筐体12の内部に固定する固定部5と、筐体12の少なくとも一部分に配された断熱部材6と、筐体12の外部から冷却媒体Lを筐体12の内部に供給できる第1流通孔7と、を備え、自転手段110と公転手段120を有する遊星型ボールミル装置100に設置されたときに、自転手段110による自転回転と、公転手段120による公転回転ができるミリングポット冷却容器1、及びミリングポット冷却容器1が設置された遊星型ボールミル装置100である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する筐体本体及び前記開口部を密閉ができる蓋体を備える筐体と、粉砕対象試料を密閉して収納できるミリングポットを前記筐体の内部に固定する固定部と、前記筐体の少なくとも一部分に配された断熱部材と、前記筐体の外部から冷却媒体を前記筐体の内部に供給できる第1流通孔と、を備え、自転手段と公転手段を有する遊星型ボールミル装置に設置されたときに、前記自転手段による自転回転と、前記公転手段による公転回転とができることを特徴とするミリングポット冷却容器。
【請求項2】
前記冷却媒体を前記ミリングポットに至らしめる第2流通孔を、さらに有することを特徴とする請求項1に記載のミリングポット冷却容器。
【請求項3】
自転手段と公転手段を有する遊星型ボールミル装置であって、さらに請求項1に記載のミリングポット冷却容器を備えることを特徴とする遊星型ボールミル装置。
【請求項4】
粉砕対象試料と粉砕ボールが密閉されたリングポットを請求項1に記載のミリングポット冷却容器内に収納し、前記ミリングポット冷却容器を請求項3に記載の遊星型ボールミル装置の自転手段に設置して、供給された冷却媒体による前記粉砕対象試料の冷却を行いながら、前記自転手段による自転回転と前記公転手段による公転回転によって、前記粉砕対象試料を粉砕することを特徴とするクライオミリング方法。
【請求項5】
前記冷却媒体による粉砕対象試料の冷却は、前記冷却媒体を前記砕対象試料に直接接触させることを含むことを特徴とする請求項4に記載のクライオミリング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリングポット冷却容器、それを用いた遊星型ボールミル装置及びクライオミリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電材料では、微粉化した粒子を粒界に不均一析出させることで熱伝導度が低下し、熱電変換効率の向上が期待される。また電池材料では、活物質の粒径を1μm以下にすることで、出力特性の向上につながる。このように、材料の微粉化はエネルギーデバイスの特性向上のカギと言える。粉砕容器の自転と公転による回転エネルギーを利用した遊星型ボールミリング法は粉砕効率が高く、材料の微粉化や焼結の予備処理に広く用いられている。
【0003】
一方で、熱電材料や電池材料ではSnやLi、Bi等の“軟らかい”材料も用いられており、これらは遊星型ボールミリングによる微粉化が困難である。軟らかい材料は、ミリングによりむしろ凝集する傾向があるため、液相を介した微粒子の合成法が一般的である。
【0004】
特定の特性を有するセラミック部品を製造するため、液化ガス及び粉末の混合及び粉砕から懸濁液を調製する段階、懸濁液からの粉末又は懸濁液からの成形部品を加圧することによって成形する段階等においてボールミル又は遊星ミルを使用しうることが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、一般的に低温になるほど材料の脆性が増加し、粉砕しやすくなる傾向がある。この低温脆性を利用した粉砕技術として、液体窒素を用いたクライオミリング法が知られる。このクライオミリング装置は既に市販されており、実際にCuやSnの微粉化が記載されている。
【0006】
非特許文献2には、しかし現状のミリング方式は振動型であり、より高効率な遊星型クライオミリング装置は開発されていない。これは自転と公転を繰り返す容器を、継続的に冷却することが困難であるためと考えられる。現状の遊星型クライオミリングを用いた報告では、5分毎に粉砕容器を取り出して-80℃で1時間冷却しており、合成に膨大な時間と労力を要していることが記載されている。
【0007】
すなわちSnやLi、Bi等の“軟らかい材料”の微粉化は、液相を介した微粒子の合成法によるため、複雑なプロセスや装置を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2021-501312号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ACS Appl.Energy Mater. 3 (2020)11285. Materials Science & Engineering A 558(2012)52.
【非特許文献2】Materials Letters,271(2020)127775
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は上記のような従来の遊星型クライオミリングでは複雑なプロセスや装置を要するという問題を解決し、プロセスを大幅に簡略化した遊星型クライオミリングの装置(その装置用ミリングポット冷却容器と装置)及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)開口部を有する筐体本体及び前記開口部を密閉できる蓋体を備える筐体と、粉砕対象試料を密閉して収納できるミリングポットを前記筐体の内部に固定する固定部と、前記筐体の少なくとも一部分に配された断熱部材と、前記筐体の外部から冷却媒体を前記筐体の内部に供給できる第1流通孔と、を備え、自転手段と公転手段を有する遊星型ボールミル装置に設置されたときに、前記自転手段による自転回転と、前記公転手段による公転回転とができることを特徴とするミリングポット冷却容器である。
(2)前記冷却媒体を前記ミリングポットに至らしめる第2流通孔を、さらに有することを特徴とする(1)に記載のミリングポット冷却容器である。
(3)自転手段と公転手段を有する遊星型ボールミル装置であって、さらに(1)に記載のミリングポット冷却容器を備えることを特徴とする遊星型ボールミル装置である。
(4)粉砕対象試料と粉砕ボールが密閉されたミリングポットを(1)に記載のミリングポット冷却容器内に収納して密閉し、前記ミリングポット冷却容器を(3)記載の遊星型ボールミル装置の自転手段に設置して、供給された冷却媒体による前記粉砕対象試料の冷却を行いながら、前記自転手段による自転回転と前記公転手段による公転回転によって、前記粉砕対象試料を粉砕することを特徴とするクライオミリング方法である。
(5)前記冷却媒体による粉砕対象試料の冷却は、前記冷却媒体を前記砕対象試料に直接接触させることを含むことを特徴とする(4)に記載のクライオミリング方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるミリングポット冷却容器を備えた遊星型ボールミル装置やそれを使用したクライオミリング方法によれば、複雑な装置を要することなく、粉砕対象試料の粉砕のプロセスを大幅に簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るミリングポット冷却容器(実施例1、断面図)を模式的に示した図である。
図2】(a)熱電対等が付属したミリングポット冷却容器(断面図)、(b)遊星型ボールミル装置に設置されたミリングポット冷却容器を、それぞれ模式的に示した図である。
図3A】(a)側面に断面を有する略円筒状のミリングポットの蓋体の上面図、(b)側面に断面を有する略円筒状のミリングポットの本体の上面図、(c)(a)の蓋体の断面図、(d)(c)の本体の断面図を、それぞれ示した図である。
図3B図3A(a)~(d)を再掲してそれぞれ示した図である。
図4A】(a)ミリングポット冷却容器(実施例1の再掲、断面図)、(b)ミリングポット冷却容器(実施例2、断面図)を模式的に示した図である。
図4B図4A(a)のA-A断面を示した図である。
図5】(a)ミリングポット冷却容器(実施例3、断面図)、(b)ミリングポット冷却容器(実施例4、断面図)を模式的に示した図である。
図6】(a)ミリングポット冷却容器(実施例5、断面図)、(b)ミリングポット冷却容器(実施例6、断面図)を模式的に示した図である。
図7】(a)ミリングポット冷却容器(実施例7、断面図)、(b)ミリングポット冷却容器(実施例8、断面図)を模式的に示した図である。
図8】(a)ミリングポット冷却容器(実施例9、断面図)、(b)ミリングポット冷却容器(実施例10、断面図)を模式的に示した図である。
図9】(a)ミリングポット冷却容器(実施例11、断面図)、(b)ミリングポット冷却容器(実施例12、断面図)を模式的に示した図である。
図10】(a)Sn(Li電池用負極材料)とLiS-P系固体電解質の合材に対するクライオミリング後のミリングポット容器内部の様子、(b)クライオミリングにより粉砕された合材の画像を、それぞれ示した図である。
図11】(a)熱電変換材料BiTeに対するクライオミリング後のミリングポット容器内部の様子、(b)クライオミリングにより粉砕されたBiTeのXRD画像を、それぞれ示した図である。
図12】冷媒タンクを付属する遊星型ボールミル装置の従来技術の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
従来技術でクライオミリングを行おうとすると、例えば図12に示すような構成となる。遊星型ボールミル装置100の外部に用意した冷却溶媒用タンク130と、遊星型ボールミル装置100を外部パイプ131でつなぎ、外部パイプ131に内部パイプ132を接続して、カバー137を施し、内部パイプ132の開口した先端からミリングポット手段133~136に向けて冷却溶媒を吹きつけるのである。そうすると、次のようになる。
【0016】
遊星ボールミル装置100内部が約-40℃まで冷却され、ミリングポット手段133~136が約-40℃まで冷却されるにとどまる。
【0017】
上記従来技術に対比して、本発明によれば、以下に説明するようにさらに低温度での冷却ができるようになるである。
図1に示したように、ミリングポット冷却容器1は、開口部3を有する筐体本体2と、開口部3を密閉できる蓋体4を有する筐体12と、ミリングポット9を筐体12の内部に固定する固定部5と、筐体12の内部(内側)面に配された断熱部材6と、筐体12の外部から冷却媒体Lを筐体12の内部に供給できる第1流通孔7と、冷却溶媒Lをミリングポット9に至らしめる第2流通孔8、8´を備える。なお、第2流通孔8´は、固定部5の下端と、筐体本体2の底面2cの内部面に配された断熱部材6との間にある隙間として示している。なお、本明細書において、符号は同様な機能を有する場合には同じものを使用する。
【0018】
筐体本体2と蓋体4のそれぞれの材質は、公知の材質が使用されるが、機械的性質、強度加工性の観点から、ステンレス等が好ましい。それぞれの材質は同じであっても良いし、異なっていても良い。筐体本体2の開口部3を密閉するため、蓋体4を筐体本体2に固定する方法は、後述もするが、筐体本体のリブ2aと蓋体4の外周縁4a同士をビスで留める等の公知の方法を用いることができる。
【0019】
固定部5にミリングポット9をより強固に固定する観点からは、第1流通孔8´はなるべく小さい方が好ましいが、冷却溶媒Lによるミリングポット9すなわち粉砕対象試料Mの冷却(以下、単に「粉砕対象試料M等の冷却」と言う場合がある)をより行う観点からは、第1流通孔8´はなるべく大きい方が好ましい
【0020】
筐体12の内部には冷却溶媒Lが、粉砕対象試料M等の冷却をできるように供給される。冷却溶媒Lの供給方法としては、例えば次のようである。ミリングポット9の蓋体9aと本体9bのそれぞれの外部面を、固定部5の内部面に勘合して固定後、第2流通孔8を通じて、冷却溶媒Lをミリングポット9の蓋9aの上側から供給し、ミリングポット9が固定された蓋体4を筐体本体2にセットする。その後、第1流通孔7から筐体本体2の側面2bの内部面に配された断熱部材6と、固定部5の間の空間に冷却溶媒Lを供給すると、冷却溶媒Lは第2流通孔8を通じて、ミリングポット9の蓋9aの上側から、そして第2流通孔8´を通じてミリングポット9の側面に至ることができる。
その他、ミリングポット9が固定された蓋体4を筐体本体2にセットした後に、上記と同様にして第1流通孔7から冷却溶媒Lを供給してもよい。
【0021】
冷却溶媒としては液体窒素の他、クラッシュドライアイスやペレットドライアイス等の各種ドライアイスを使用することができる。それぞれの冷却溶媒を使用したときの特徴は以下のようである。液体窒素の場合は、-196℃までミリングポット9、筐体本体2等を冷却可能である。クラッシュドライアイスやペレットドライアイス等の場合は、-79℃までミリングポット9、筐体本体2等を冷却可能である。
【0022】
さらに、ミリングポット冷却容器1では、ドライアイス等で冷却したエタノール等の冷媒を、粉砕対象試料Mに直接接触させるクライオミリング方法である湿式ボールミリング法を行うことができる。すなわち冷媒中でのボールミリングが可能である。その方法によって乾式のボールミリングと比較してボールミリング中の粉砕対象試料の温度上昇を防ぐ効果があり、冷媒に粉砕対象試料を補足させて粉砕するため、湿式ボールミリングでは到達最小粒形が乾式ボールミリングに比べて小さくなるという効果を奏する。
【0023】
断熱部材6の材質は、公知の材質が使用されるが、断熱性能の観点から、発泡スチロールや発泡ウレタン等が好ましい。断熱部材6が配される位置は、粉砕対象試料M等の冷却をより行う観点から、筐体本体2の内部面や蓋体4の内部面が好ましく、それらの内部面のより多くの部分に配されることが好ましい。
また、筐体本体2や蓋体4に配された断熱部材6は、粉砕対象試料M等の冷却をより行う観点から、接着剤等によって筐体本体2や蓋体4に密着して固定されることが好ましい。
【0024】
ミリングポット9は、ミリングポット蓋体9aとミリングポット本体9bを有し、粉砕対象試料Mと粉砕ボール90を収納して、密閉することができる。通常ミリングポット9や粉砕ボール90は、公知技術である遊星型ボールミル装置100に付属する備品である。ここで、遊星型ボールミル装置100は、自転手段110と公転手段120を有するボールミル装置である(図2図12参照)。
【0025】
図2(b)に示すように、公知技術である遊星型ボールミル装置100は、自転盤111、保持具112、保持具112に接続したハンドル113及び自転軸体114(自転軸体114は自転盤111の下にあるため不図示)を有する自転手段110と、公転盤121及び公転軸体122(公転軸体122は公転盤121の下にあるため不図示)を有する公転手段120を備える。
ミリングポット冷却容器1は、遊星型ボールミル装置100の自転手段110に設置される。具体的にはミリングポット冷却容器1を自転盤111上に置き、ミリングポット冷却容器1の蓋体4を保持具112で抑え、ハンドル113によって保持具112を蓋体4に固定する。
【0026】
したがって、ミリングポット冷却容器1の形状や大きさは、遊星型ボールミル装置100に設置されたときに、自転手段110による自転回転と、公転手段120による公転回転ができるようであれば良い。遊星型ボールミル装置100では自転盤111は円形平板状であるため、ミリングポット冷却容器1の筐体本体2の底面2cは、好ましく円形平板状である。また、保持具112に接続したハンドル113の形状から蓋体4は、好ましく円形平板状であって、ミリングポット冷却容器1全体としては円筒状が好ましい。
【0027】
さらに図2(b)に示すように、遊星型ボールミル装置100の公転盤121には4つの自転盤111が設置されているため(従来技術では自転回転と公転回転を行うためにこのようにすることが慣用されている)、ミリングポット冷却容器1の大きさは、好ましくは4つのミリングポット冷却容器1が、自転回転と公転回転ができるものであることが好ましい。
【0028】
なお、図2(a)に示すように、ミリングポット冷却容器1では、冷却媒体Lとして液体窒素を用い、ミリングポット冷却容器1の内部に挿入した熱電対により、ミリングポット冷却容器1内部の温度を温度ロガーにより測定することができる。
【0029】
図3A(a)に示したように、ミリングポット9の蓋体9aは、蓋体9aの厚み方向の側面に4箇所の断面Sを有する。そして、ミリングポット9の本体9b(同(b)、(d))に挿入できるように縮径している。ミリングポット9の蓋体9aが本体9bに勘合したとき、4箇所の断面Sと同一断面となるように本体9bも、深さ方向の側面に4箇所の断面Sを有する。なお、蓋体9aは例えばビスによって本体9bに密閉して固定することができる(図3B(a)~(d)も参照)。
【0030】
側面に同一断面Sを有するミリングポット9に対しては、保持部5が円筒状であるミリングポット冷却容器1を使用して、ミリングポット9を筐体12の内部に保持して固定することができる(図1図4A(a)参照)。その理由は次のようである。
断面Sを形成するときと、断面Sでなく円柱側面を形成するときとのクリアランスKによって、蓋体9aは円筒状である保持部5の内部に挿入しやすくなり、一方、円柱側面のままである部分が円筒状の内部面に接触する摩擦力と、断面Sと円柱側面のままである部分とにより形成されるエッジEが、円筒状の内部面に接触する摩擦力とによって、ミリングポット9は、保持部5すなわち筐体12の内部に保持・固定されるのである(図3B(a)~(d)も参照)。
一方、上記のようなクリアランスKのない円筒状のミリングポット9(以下「ミリングポット9(円筒状)」と言う)は従来技術として慣用されている。
【0031】
その結果、ミリングポット9は、遊星型ボールミル装置100が有する自転手段110による自転回転と、公転手段120による公転回転ができ、粉砕ボール90と共にミリングポット9に密閉された粉砕対象試料Mは粉砕されることになる。
【0032】
図1~3A(B)に示す本発明の実施形態と図12に示すような従来技術を対比し、解決される従来技術の不具合を具体的に説明すると次のようである。遊星型ボールミリング装置においても液体窒素でミリングポットを冷却した状態で、ボールミリングが可能である。また、液体窒素を外部から供給することにより、連続的なボールミリングが可能である。
【実施例0033】
(ミリングポット冷却容器)
図4A(a)、(b)、図5(a)、(b)には、ミリングポット9(略円筒状)に対するミリングポット冷却容器1(実施例1~4)の断面図を、それぞれ断熱部材を省いて示した。それぞれビス10によって筐体本体2に蓋体4を固定した。ミリングポット9はステンレス製ミリングポット9(円筒状)を加工することによって準備した。実施例1おいては断熱部材を省いているので、実施例1は図1に示したミリングポット冷却容器1と同様である。なお、第1、2流通孔7、8(8´)の大きさ、個数は粉砕対象試料M等の冷却等の観点から適宜に定めれば良い。また、第1流通孔7は粉砕対象試料M等の冷却等の観点から栓をしても良い。
【0034】
実施例2は実施例1おいて固定部5を別部品として蓋体4にビス11によって固定したものである。固定部5を別部品としているため、実施例1と対比して容易に様々なサイズのミリングポット冷却容器を使用することが可能であるという特徴がある。実施例3は、実施例1おいて固定部5を筐体本体2の底面2cの内部面から上方向に突設したものである。そのため、第2流通孔8は不要である。また、ミリングポット冷却容器全体を冷却可能であるという特徴がある。実施例4は、実施例3おいて固定部5を別部材として蓋体4にビス11によって固定したものである。固定部5を別部品としているため、実施例3と対比してミリングポット冷却容器全体を冷却可能であるとともに、容易に様々なサイズのミリングポット冷却容器を使用することが可能であるという特徴がある。
【0035】
また、図4Bは、図4A(a)のA-A断面図を示した。ミリングポットの蓋体9aの4つの断面Sによってミリングポット9が固定部5に支持されていることが分かる。
【0036】
図6(a)、(b)、図7(a)、(b)には、ミリングポット9(略円筒状)に対するミリングポット冷却容器1(実施例5~8)の断面図を、それぞれ断熱部材を省いて示した。それぞれビス10によって筐体本体2に蓋体4を固定した。実施例5は、固定部5の下部に設けたビス11によってミリングポット9(略円筒状)の本体9bの側面を支持してミリングポット9(略円筒状)を固定した。
【0037】
実施例6は、固定部5の下端面によってミリングポット9(円筒状)の蓋体9aの上面を抑えてミリングポット9(円筒状)固定した。そのため、円形のミリングポット冷却容器でも装着可能という特徴がある。実施例7は、実施例6において別部材とした固定部5を蓋体4にビスによって固定したものである。そのため、ミリングポット冷却容器全体を冷却可能であるとともに、円形のミリングポット冷却容器でも装着可能という特徴がある。実施例8は、別部材とした固定部5を筐体本体2の底面2cの内部面から上方向に突設させ、ミリングポット9(略円筒状)の9bをビスによって蓋体4に固定したものである。そのため、容易に固定部5にミリングポット冷却容器を取り付け可能という特徴がある。
【0038】
図8(a)、(b)、図9(a)、(b)には、ミリングポット9(略円筒状)に対するミリングポット冷却容器1(実施例9~12)の断面図を、それぞれ断熱部材を省いて示した。実施例9は、実施例5において固定部5の下部に設けたビス11の代わりに、その下部の内部面に設けたネジ形状と、それに対応するネジ形状を有するミリングポット9(円筒状)の蓋体9aの側面を、それらネジ形状同士の螺合によってミリングポット9(円筒状)を固定した。そのため、容易に固定部5にミリングポット冷却容器を取り付け可能という特徴がある。実施例10は、実施例9においてネジ形状の位置をミリングポット9(円筒状)の蓋体9aから蓋体9bの側面に変更したものである。そのため、容易に固定部5にミリングポット冷却容器を取り付け可能であり、容易に様々なサイズのミリングポット冷却容器を使用することが可能であるという特徴がある。
【0039】
実施例11は、固定部5を筐体本体2の底面2cの内部面から上方向に突設させ、固定部5の内部面に設けたネジ形状と、それに対応するネジ形状を有するミリングポット9(円筒状)の本体9bの側面を、それらネジ形状同士の螺合によってミリングポット9(円筒状)を固定した。そのため、容易に固定部5にミリングポット冷却容器を取り付け可能という特徴がある。実施例12は、実施例11において別部材とした固定部5を筐体本体2の底面2cにビスによって固定したものである。そのため、容易に固定部5にミリングポット冷却容器を取り付け可能であり、容易に様々なサイズのミリングポット冷却容器を使用することが可能であるという特徴がある。
【0040】
(クライオミリング)
遊星型ボールミル装置(Hunan Togoal製)、ミリングポット9とミリングポット冷却容器1(実施例1)を使用し、粉砕対象試料Mとして、Sn(Li電池用負極材料)とLiS-P系固体電解質の合剤を選択してクライオミリングを行った(実施例13)。そのときの条件は次のようであった。Snは1400mg、SEは600mg秤量し、クロム鋼製の容積45mlのミリング容器に、φ10のボール10個と共にAr雰囲気のグローブボックス中で封じた。ミリング容器を、ミリングポット冷却容器1にセットし、液体窒素を満たした。この状態で、自転・公転速度320rpmで遊星型ボールミリングを行った。
【0041】
図10(a)に示したように、ミリングポット9の本体9aに合材の粉末の凝集は見られず、同(b)に示したように、SnとSE(LiS-P系固体電解質)いずれも1μm以下まで微粉化されていた。
【0042】
冷却温度はミリング中の粉末の凝集を防ぐ観点から-100℃~-150℃が好ましく、その時間はミリング容器および内部の粉末試料を十分に冷却する観点から10~30minが好ましい。
【0043】
自転回転の回転数は十分に粉末を粉砕し、かつ容器内部の温度上昇を防ぐ観点から320rpm~600rpmが好ましく、公転回転の回転数は320~600rpmが好ましい。
【0044】
実施例13において粉砕対象試料Mとして、熱電変換材料BiTeを選択してクライオミリングを行った(実施例14)。そのときの条件は次のようであった。BiTe5g、冷却温度-196℃、ミリング時間2時間、自転回転数640rpm、公転回数420rpmである。
【0045】
図11(a)に示したように、粉砕後のミリングポット9の本体9aや粉砕ボールに粉末の凝集は見られず、微粉化されていることが分かった。そして、同(b)に示したように、測定したXRD強度では、クライオミリングのBiTeの粉末はピークがブロードになり、一次粒子が10nm程度まで微細化されていることが分かった。
なお、XRD強度測定の条件等は次のようであった。X線源にCu-Kα線、40kV、30mAの条件で測定した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
ミリング装置メーカーが粉砕対象としている材料は、エネルギー材料だけでなく薬剤、建築材料、食料品等多岐にわたっている。従って遊星型クライオミリング装置も、従来のミリング装置同様に幅広い用途が見込まれる。
【符号の説明】
【0047】
1:ミリングポット冷却容器
2:筐体本体
2a:筐体本体のリブ
2b:筐体本体の側面
2c:筐体本体の底面
3:筐体本体の開口部
4:蓋体
4a:蓋体の外周縁
5:固定部
6:断熱部材
7:第1流通孔
8、8´:第2流通孔
9:ミリングポット
:ミリングポットの蓋体
9b:ミリングポットの本体
10、11:ビス
12:筐体
30:微粉化された合材
90:粉砕ボール
100:遊星型ボールミル装置
110:自転手段
111:自転盤
112:保持具
113:ハンドル
114:自転軸体
120:公転手段
121:公転盤
122:公転軸体
130:冷却溶媒用タンク
131:外部パイプ
132:内部パイプ
133~136:ミリングポット手段
137:カバー
L:冷却媒体
M:粉砕対象試料
S:断面
K:クリアランス
E:エッジ

図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12