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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168379
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20221031BHJP
   F04C 15/06 20060101ALI20221031BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
F04C2/10 341E
F04C15/06 C
F04C15/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073773
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】竹花 憲夫
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC11
3H041DD01
3H041DD12
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC11
3H044DD01
3H044DD12
(57)【要約】
【課題】構造の簡素化を図りつつ、油圧振幅を抑制して、又、油圧振幅に伴う騒音又は振動の低減を図れるポンプ装置を提供する。
【解決手段】吸入口15,吐出口16,及び収容室13を画定するハウジングHと、収容室に配置され,流体に対して,吸入行程,加圧及び吐出行程を含むポンプ作用を及ぼすべく拡縮するポンプ室Pcを画定するポンプユニットPuを備えたポンプ装置において、ハウジングは、吸入行程が完了する直前の所定の開放タイミングにおいてポンプ室へ空気を導入するべく開放される空気導入孔27を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口,吐出口,及び収容室を画定するハウジングと、
前記収容室に配置され,流体に対して,吸入行程,加圧及び吐出行程を含むポンプ作用を及ぼすべく拡縮するポンプ室を画定するポンプユニットと、を備え、
前記ハウジングは、前記吸入行程が完了する直前の所定の開放タイミングにおいて前記ポンプ室へ空気を導入するべく開放される空気導入孔を含む、
ことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記空気導入孔は、前記吸入行程が完了した後の所定の閉塞タイミングにおいて閉塞される、
ことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記ポンプユニットは、所定の軸線回りに回転するインナーロータと、前記インナーロータの回転に連動して回転するアウターロータを含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記インナーロータ及び前記アウターロータの端面が摺動する壁部において、前記空気導入孔を含む、
ことを特徴とする請求項3に記載のポンプ装置。
【請求項5】
前記空気導入孔は、前記インナーロータの端面により開閉される位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載のポンプ装置。
【請求項6】
前記吐出口は、前記加圧及び吐出行程の開始から所定期間に亘って、前記ポンプ室により加圧された流体を前記インナーロータから離れた前記アウターロータの外周側領域から吐出させるべく、前記外周側領域寄りに偏倚して開口する偏倚開口領域を含む、
ことを特徴とする請求項3ないし5いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項7】
前記インナーロータ及び前記アウターロータは、4葉5節のトロコイド歯形を有するトロコイドロータである、
ことを特徴とする請求項3ないし7いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項8】
前記吸入行程の範囲に亘る前記インナーロータの回転角度をΘとし、前記開放タイミングから前記吸入行程の完了までの前記インナーロータの回転角度をΔΘaとするとき、
ΔΘaは、0.08×Θ<ΔΘa<0.12×Θの範囲に設定されている、
ことを特徴とする請求項3ないし7いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項9】
前記吸入行程の範囲に亘る前記インナーロータの回転角度をΘとし、前記開放タイミングから前記吸入行程の完了までの前記インナーロータの回転角度をΔΘaとし、前記吸入行程の完了から前記閉塞タイミングまでの前記インナーロータの回転角度をΔΘbとするとき、
ΔΘaは、0.08×Θ<ΔΘa<0.12×Θの範囲に設定され、
ΔΘbは、0.6×ΔΘa<ΔΘb<0.7×ΔΘaの範囲に設定されている、
ことを特徴とする請求項3ないし7いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項10】
前記空気導入孔から前記ポンプ室に導入される空気流れのみを許容する逆止弁を含む、
ことを特徴とする請求項1ないし9いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項11】
前記ハウジングは、前記吸入口,前記吐出口,適用対象物に接合される接合壁,及び前記収容室を画定する有底筒状のハウジングボディと、前記収容室を閉塞するべく前記ハウジングボディに結合される平板状のハウジングカバーを含み、
前記空気導入孔は、前記ハウジングカバーに設けられている、
ことを特徴とする請求項1ないし10いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項12】
前記ハウジングは、前記収容室を画定する有底筒状のハウジングボディと、前記吸入口,前記吐出口,適用対象物に接合される接合壁を画定すると共に前記収容室を閉塞するべく前記ハウジングボディに結合される平板状のハウジングカバーを含み、
前記空気導入孔は、前記ハウジングボディに設けられている、
ことを特徴とする請求項1ないし10いずれか一つに記載のポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を吸入し加圧して吐出するポンプ装置に関し、特に、インナーロータ及びアウターロータを備え、内燃エンジンのシリンダブロックや流体機器等に適用されるポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポンプ装置としては、吸入ポート及び吐出ポートを有するケーシングと、ケーシングの収容空間に収容されるポンプユニットとしてのインナーロータ及びアウターロータと、インナーロータと一体的に回転するポンプ軸を備え、エンジンの作動油を加圧して供給するトロコイドポンプが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
このトロコイドポンプにおいては、ポンプ軸及びインナーロータの回転にアウターロータが連動して回転することにより、両者の内歯と外歯に挟まれる隙間(ポンプ室)が拡大及び縮小の変化を繰り返すことで、作動油を吸入する吸入行程、吸入した作動油を加圧して吐出する加圧及び吐出行程が連続的に繰り返される。
【0003】
このポンプ動作において、特に、ポンプ軸の回転が高回転になると作動油の吸入抵抗が増加して、吸入行程が完了した時点でポンプ室の内部が負圧状態となる。そして、吸入行程が完了したポンプ室が吐出ポート側に連通した瞬間に、先の加圧及び吐出行程にあるポンプ室内の作動油が逆流し、続いて、逆流が止まり、順流れが生じる。
この逆流と順流れの現象により、加圧及び吐出行程にあるポンプ室内の作動油の油圧が、ポンプ軸の回転に伴って低下と上昇を繰り返す油圧変動(油圧振幅)の増加を招き、結果的に、騒音や振動を招く。さらに、上記負圧が過大になると、キャビテーションによる衝撃音やロータの壊食等の問題も発生する。
【0004】
一方、同一の吐出量で油圧振幅を抑制するべく、多数の歯を有するインナーロータ及びアウターロータを採用して、吐出を小分けにして吐出回数を増やす手法も考えられるが、ロータの大径化、ポンプ全体の大型化を招く。また、ポンプユニットを二段に配置して、同様に、吐出を交互に行って吐出回数を増やす手法も考えられるが、部品点数が増加して、高コスト化、ポンプ全体の大型化を招く。
【0005】
また、従来のポンプ装置として、騒音の低減を図るべく、アウターロータ又はインナーロータを複数枚に分割して構成したオイルポンプ装置又はトロコイドポンプが提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3を参照)。
しかしながら、これらのポンプ装置では、作動油の逆流を許容するものであって、作動油の逆流により生じる油圧変動(油圧振幅)の増加を抑制するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-105291号公報
【特許文献2】特開2003-293964号公報
【特許文献3】特開2010-53785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、上記従来技術の課題等を解消して、構造の簡素化を図りつつ、油圧振幅を抑制して、又、油圧振幅に伴う騒音又は振動の低減を図れる、ポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポンプ装置は、吸入口,吐出口,及び収容室を画定するハウジングと、収容室に配置され,流体に対して,吸入行程,加圧及び吐出行程を含むポンプ作用を及ぼすべく拡縮するポンプ室を画定するポンプユニットとを備え、ハウジングは、吸入行程が完了する直前の所定の開放タイミングにおいてポンプ室へ空気を導入するべく開放される空気導入孔を含む、構成となっている。
【0009】
上記ポンプ装置において、空気導入孔は、吸入行程が完了した後の所定の閉塞タイミングにおいて閉塞される、構成を採用してもよい。
【0010】
上記ポンプ装置において、ポンプユニットは、所定の軸線回りに回転するインナーロータと、インナーロータの回転に連動して回転するアウターロータを含む、構成を採用してもよい。
【0011】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、インナーロータ及びアウターロータの端面が摺動する壁部において、空気導入孔を含む、構成を採用してもよい。
【0012】
上記ポンプ装置において、空気導入孔は、インナーロータの端面により開閉される位置に設けられている、構成を採用してもよい。
【0013】
上記ポンプ装置において、吐出口は、加圧及び吐出行程の開始から所定期間に亘って、ポンプ室により加圧された流体をインナーロータから離れたアウターロータの外周側領域から吐出させるべく、アウターロータの外周側領域寄りに偏倚して開口する偏倚開口領域を含む、構成を採用してもよい。
【0014】
上記ポンプ装置において、インナーロータ及びアウターロータは、4葉5節のトロコイド歯形を有するトロコイドロータである、構成を採用してもよい。
【0015】
上記ポンプ装置において、吸入行程の範囲に亘るインナーロータの回転角度をΘとし、開放タイミングから吸入行程の完了までのインナーロータの回転角度をΔΘaとするとき、ΔΘaは、0.08×Θ<ΔΘa<0.12×Θの範囲に設定されている、構成を採用してもよい。
【0016】
上記ポンプ装置において、吸入行程の範囲に亘るインナーロータの回転角度をΘとし、開放タイミングから吸入行程の完了までのインナーロータの回転角度をΔΘaとし、吸入行程の完了から閉塞タイミングまでのインナーロータの回転角度をΔΘbとするとき、ΔΘaは、0.08×Θ<ΔΘa<0.12×Θの範囲に設定され、ΔΘbは、0.6×ΔΘa<ΔΘb<0.7×ΔΘaの範囲に設定されている、構成を採用してもよい。
【0017】
上記ポンプ装置において、空気導入孔からポンプ室に導入される空気流れのみを許容する逆止弁を含む、構成を採用してもよい。
【0018】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、吸入口,吐出口,適用対象物に接合される接合壁,及び収容室を画定する有底筒状のハウジングボディと、収容室を閉塞するべくハウジングボディに結合される平板状のハウジングカバーを含み、空気導入孔は、ハウジングカバーに設けられている、構成を採用してもよい。
【0019】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、収容室を画定する有底筒状のハウジングボディと、吸入口,吐出口,適用対象物に接合される接合壁を画定すると共に収容室を閉塞するべくハウジングボディに結合される平板状のハウジングカバーを含み、空気導入孔は、ハウジングボディに設けられている、構成を採用してもよい。
【発明の効果】
【0020】
上記構成をなすポンプ装置によれば、構造の簡素化を達成しつつ、油圧振幅を抑制することができ、又、それに伴う騒音又は振動の低減を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係るポンプ装置を適用対象物(内燃エンジン)に適用したシステムのブロック図である。
図2】第1実施形態に係るポンプ装置を適用対象物(内燃エンジン)に取り付ける前の状態を示す分解斜視図である。
図3】第1実施形態に係るポンプ装置を適用対象物に接合する接合壁と反対側から視た外観斜視図である。
図4】第1実施形態に係るポンプ装置を適用対象物に接合する接合壁側から視た外観斜視図である。
図5図3に示すポンプ装置の分解斜視図である。
図6図4に示すポンプ装置の分解斜視図である。
図7】第1実施形態に係るポンプ装置を回転軸の軸線を通る面で切断した断面図である。
図8】第1実施形態に係るポンプ装置に含まれるポンプユニット(インナーロータ及びアウターロータ)と吸入口及び吐出口の関係を示すものであり、ハウジングカバーを取り除いた状態での正面図である。
図9】第1実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図10】第1実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図11】第1実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図12】第1実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図13】本発明のポンプ装置と従来のポンプ装置とにおいて、回転数に対する油圧振幅の特性を示すグラフである。
図14】本発明の第2実施形態に係るポンプ装置に含まれるハウジングボディの正面図である。
図15】第2実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図16】第2実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図17】第2実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図18】第2実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図19】第2実施形態に係るポンプ装置(インナーロータ及びアウターロータ)の動作図を示す模式図である。
図20】本発明の第3実施形態に係るポンプ装置を適用対象物(内燃エンジン)に適用したシステムのブロック図である。
図21】本発明の第4実施形態に係るポンプ装置を適用対象物に接合する接合壁と反対側から視た外観斜視図である。
図22】第4実施形態に係るポンプ装置を適用対象物に接合する接合壁側から視た外観斜視図である。
図23】第4実施形態に係るポンプ装置を回転軸の軸線を通る面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
第1実施形態に係るポンプ装置M1は、適用対象物としての内燃エンジンEに適用されるものである。
ここで、内燃エンジンEは、図1及び図2に示すように、エンジン本体1と、エンジン本体1の下方に結合されたオイルパン2を備えている。エンジン本体1は、ポンプ装置M1を接合する接合面3、円筒状の嵌合凹部4、作動油の流出通路5、作動油の流入通路6、ボルトBを捩じ込む三つのネジ穴7等を備えている。
【0023】
ポンプ装置M1は、図3ないし図6に示すように、ハウジングHとしてのハウジングボディ10及びハウジングカバー20、所定の軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプユニットPuとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、ハウジングカバー20をハウジングボディ10に締結するネジbを備えている。
【0024】
ハウジングボディ10は、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の金属材料を用いて有底筒状に形成されており、図5及び図6に示すように、接合壁11、外周壁12、収容室13、インロー部14、吸入口15、吐出口16、軸受孔17、三つの挿通孔18、一つのネジ穴19を備えている。
【0025】
接合壁11は、図7に示すように、軸線Sに垂直な平坦壁として形成され、エンジン本体1の接合面3に接合される外壁面11a、ポンプユニットPuの端面41,51が密接して摺動する内壁面11bを画定する。
外周壁12は、接合壁11の外縁領域から軸線S方向に筒状に突出して環状の端面12aを画定する。
収容室13は、接合壁11と外周壁12により画定される空間であり、ポンプユニットPuを回転可能に収容する。
また、収容室13は、図8に示すように、軸線Sから平行に偏倚した軸線S1を中心とする円筒面をなす円弧面13aを備えている。
円弧面13aは、ポンプユニットPuの一部をなすアウターロータ50の外周面53を摺動自在に支持する。また、円弧面13aの内縁部は、ハウジングカバー20の嵌合凸部22が嵌合される嵌合凹部としても機能する。
インロー部14は、接合壁11から軸線S方向の外側に突出すると共に軸線Sを中心とする円筒状に形成され、エンジン本体1の嵌合凹部4に密接して嵌合される。
【0026】
吸入口15は、図4図6図8に示すように、接合壁11において、略三ヶ月状の輪郭をなすように、外壁面11aから内壁面11bまで貫通して形成されている。そして、ポンプ装置M1がエンジン本体1の接合面3に接合された状態で、流出通路5から導かれる作動油が、吸入口15を通してポンプ室Pc内に吸入される。
【0027】
吐出口16は、図4図6図8に示すように、接合壁11でかつインロー部14を挟んで吸入口15と反対側の領域において、略三ヶ月状の輪郭をなすように、外壁面11aから内壁面11bまで貫通して形成されている。そして、ポンプ装置M1がエンジン本体1の接合面3に接合された状態で、ポンプ室Pcで加圧された作動油が、吐出口16を通して流入通路6に向けて吐出される。
【0028】
軸受孔17は、回転軸30の一端側領域31を回動自在に支持するべく、インロー部14の内側において軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
三つの挿通孔18は、エンジン本体1のネジ穴7に捩じ込むボルトBを挿通させるものであり、端面12aから外壁面11aまで軸線S方向に貫通するように形成されている。
一つのネジ穴19は、ハウジングカバー20をハウジングボディ10に結合するネジbを捩じ込むべく、端面12aに形成されている。
【0029】
ハウジングカバー20は、ハウジングボディ10の収容室13を閉塞するべくハウジングボディ10に結合されるものであり、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の材料を用いて平板状に形成されている。
そして、ハウジングカバー20は、図5ないし図7に示すように、結合壁21、嵌合凸部22、軸受孔23、環状凸部24、三つの挿通孔25、一つの円孔26、空気導入孔27を備えている。
【0030】
結合壁21は、軸線Sに垂直な平坦壁として形成され、ハウジングボディ10の端面12aに密接して結合される。
嵌合凸部22は、ハウジングカバー20の中央寄りにおいて、軸線S1を中心とし結合壁21から軸線S方向に突出する円盤状に形成されており、外周面22a及び内壁面22bを画定している。外周面22aは、ハウジングボディ10の円弧面13aの内縁部に嵌合される。内壁面22bは、ポンプユニットPuの端面42,52と密接する。
【0031】
軸受孔23は、回転軸30の他端側領域32を回動自在に支持するべく、軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
環状凸部24は、軸受孔23の周りにおいて、機械的強度を高めるべく軸線S方向の外側に突出する円筒状に形成されている。
三つの挿通孔25は、エンジン本体1のネジ穴7に捩じ込むボルトBを挿通させるものであり、ハウジングボディ10の三つの挿通孔18に対応する位置において軸線S方向に貫通する円孔として形成されている。
一つの円孔26は、ハウジングカバー20をハウジングボディ10に結合するネジbを通すものであり、一つの挿通孔25の近傍に形成されている。
【0032】
空気導入孔27は、外気をポンプユニットPuにより画定されるポンプ室Pcへ導入するべく、環状凸部24の領域でかつインナーロータ40が摺動する内壁面22bの領域に位置する壁部において、軸線S方向に貫通する円孔として形成されている。
そして、空気導入孔27は、ポンプユニットPuによる吸入行程が完了する直前の所定の開放タイミングにおいてインナーロータ40の端面42により開放され、吸入行程が完了した後の所定の閉塞タイミングにおいてインナーロータ40の端面42により閉塞されるようになっている。
【0033】
上記のように、ハウジングHは、吸入口15,吐出口16,適用対象物である内燃エンジンEに接合される接合壁11,及び収容室13を画定する有底筒状のハウジングボディ10と、収容室13を閉塞するべくハウジングボディ10に結合される平板状のハウジングカバー20を含み、空気導入孔27は、ハウジングカバー20に設けられている。
このように、空気導入孔27が、適用対象物と接合される側と反対側の領域においてハウジングHに設けられているため、空気導入孔27の外側に障害物が無く、ポンプ室Pc内への空気(外気)の導入を円滑に行うことができる。
【0034】
回転軸30は、鋼材料等を用いて軸線S方向に伸長する円柱状に形成され、一端側領域31がハウジングボディ10の軸受孔17に嵌合され、又、他端側領域32がハウジングカバー20の軸受孔23に嵌合されて、軸線S回りに回動自在に支持される。
図7において、回転軸30は、ハウジングHから軸線S方向に僅かに突出する単純な形態で示され、端部の詳細は省略されている。
実際には、回転軸30が、ハウジングカバー20から突出する他端側領域32において、内燃エンジンの駆動回転体の駆動力が伝達される場合は、例えば、歯車、スプロケット、プーリー等の被動回転体が連結され、又、電動モータの駆動回転体(例えば、ロータ、駆動軸)の駆動力が伝達される場合は、駆動回転体に伝達部材を介して又は直接連結されるように形成される。
一方、回転軸30が、ハウジングボディ10の接合壁11から突出する一端側領域31において、内燃エンジンの駆動回転体の駆動力が伝達される場合は、例えば、駆動回転体に直接連結されるように形成される。
この実施形態においては、図2に示すように、歯車8が他端側領域32に連結されて、内燃エンジンEの駆動回転体の駆動力が伝達される。
【0035】
ポンプユニットPuは、ハウジングHの収容室13に配置され、流体としての作動油に対して、吸入行程、加圧及び吐出行程を含むポンプ作用を及ぼすべく拡大及び縮小する(拡縮する)ポンプ室Pcを画定するものであり、インナーロータ40及びアウターロータ50を含む4葉5節のトロコイドロータとして構成されている。
インナーロータ40は、鋼又は焼結鋼等の金属材料を用いて、トロコイド曲線による歯形をもつ外歯車として形成されている。そして、インナーロータ40は、図5ないし図7に示すように、ハウジングボディ10の内壁面11bを摺動する端面41、ハウジングカバー20の内壁面22bを摺動する端面42、回転軸30を嵌合する嵌合孔43、四つの凸部44及び四つの凹部45を備えている。
そして、インナーロータ40は、軸線Sを中心として、矢印R方向に回転軸30と一体的に回転する。
【0036】
アウターロータ50は、鋼又は焼結鋼等の金属材料を用いて、インナーロータ40に噛合し得る歯形をもつ内歯車として形成されている。そして、アウターロータ50は、図5ないし図7に示すように、ハウジングボディ10の内壁面11bを摺動する端面51、ハウジングカバー20の内壁面22bを摺動する端面52、軸線S1を中心とする円筒状の外周面53、五つの凸部54及び五つの凹部55を備えている。
外周面53は、ハウジングボディ10の円弧面13aに摺動自在に接触する。
五つの凸部54及び五つの凹部55は、インナーロータ40の四つの凸部44及び四つの凹部45と部分的に噛み合うように形成されている。
【0037】
そして、アウターロータ50は、軸線Sを中心として回転するインナーロータ40の回転に連動しつつ、インナーロータ40よりも遅い速度で、図8に示すように、軸線S1を中心として、インナーロータ40と同一方向に回転する。
また、インナーロータ40とアウターロータ50とが部分的に噛み合って回転することにより、両者の間において拡縮するポンプ室Pcが画定され、吸入行程、加圧及び吐出行程を含むポンプ作用が連続的に生じる。
【0038】
次に、ポンプ装置M1の動作について、図9ないし図12を参照しつつ説明する。尚、回転軸30及びインナーロータ40が反時計回り(矢印R方向)に回転した時の時系列ごとの動作状態を示す。ここでは、インナーロータ40の一つの凸部44(黒丸印を付したもの)の回転方向Rにおける背後に画定されるポンプ室Pcに着目して説明する。
【0039】
先ず、図9に示すように、インナーロータ40が回転角度θにあるとき、作動油を吸入口15から吸入する吸入行程が開始される(吸入行程の開始時)。
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約90度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油が吸入される途中の状態にある(吸入行程)。
【0040】
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約150度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油がさらに吸入される途中の状態にある(吸入行程)。また、この状態において、ポンプ室Pcは空気導入孔27に近づくが、インナーロータ40の端面42は空気導入孔27を閉塞している。
【0041】
続いて、図10に示すように、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約165度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油がさらに吸入される吸入行程にあるものの、吸入口15が絞られて小さくなりつつある状態である。また、この状態において、ポンプ室Pcは空気導入孔27に隣接するが、インナーロータ40の端面42は空気導入孔27を閉塞している。
【0042】
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約172度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油が吸入される吸入行程の完了直前にあり、吸入口15が絞られて通路抵抗が増加した状態になる。したがって、回転軸30が、特に高回転にて回転する場合は、ポンプ室Pc内への作動油の流入が追い付かず、ポンプ室Pc内の雰囲気は負圧が大きい状態にある。
この吸入行程の完了直前において、インナーロータ40の端面42は空気導入孔27から外れて、空気導入孔27が開放される。したがって、ポンプ室Pcの負圧により、空気導入孔27を通して、外気がポンプ室Pc内に吸入され始める。
【0043】
そして、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約185度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油が吸入される吸入行程がさらに完了時点に近づき、空気導入孔27は依然として開放された状態にあり、ポンプ室Pcの負圧により、外気は慣性力も作用してポンプ室Pc内に流れ込み続ける。これにより、ポンプ室Pcの負圧が低減される。
【0044】
さらに、図11に示すように、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約192度)回転したとき、吸入口15は閉塞されて吸入行程が完了する。すなわち、吸入行程の完了とは吸入口15が閉塞された時点である。
このとき、空気導入孔27は依然として開放されており、外気は慣性力も作用してポンプ室Pc内に流れ込む状態にあり、ここまでの過程において、ポンプ室Pc内の負圧は十分に低減される。
一方、ポンプ室Pcが狭い領域にて吐出口16と連通し始め、ポンプ室Pc内の作動油が吐出口16に向けて流れ始める状態にある(加圧及び吐出行程の開始時)。
このように、吸入行程が完了して加圧及び吐出行程に移行する際に、ポンプ室Pc内の負圧は導入された外気(空気)により緩和されており、先の行程にあるポンプ室Pc内の作動油の逆流が抑制ないし防止される。また、逆流が抑制ないし防止されるため、逆流後の順流れによる圧力の上昇も抑制ないし防止される。
【0045】
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約205度)回転したとき、インナーロータ40の端面42により空気導入孔27は閉塞される。すなわち、空気導入孔27は、吸入行程が完了した(回転角度θ)後の所定の閉塞タイミング(回転角度θ)において閉塞される。そして、ポンプ室Pc内の作動油は加圧されつつ吐出口16から吐出される(加圧及び吐出行程)。
続いて、インナーロータ40が、回転角度θの位置、図12に示すように、回転角度θの位置及び回転角度θ10の位置を経て、回転角度θ11の位置まで回転する。この過程において、ポンプ室Pc内の作動油は加圧されつつ吐出口16から吐出され続ける(加圧及び吐出行程)。また、回転角度θ11の位置において、図9に示す回転角度θの位置に戻る。
【0046】
ここでは、一つの凸部44に着目して説明したが、実際には、四つの凸部44の背後に画定されるポンプ室Pcがそれぞれ同様の動作(ポンプ作用)を行う。したがって、回転軸30が一回転する間に、吸入行程、加圧及び吐出行程が4回連続的に行われる。
【0047】
上記第1実施形態においては、空気導入孔27が開放される開放タイミングは、吸入行程が完了する回転角度θよりも約20度前の回転角度θに設定されている。
具体的には、吸入行程の範囲に亘るインナーロータ40の回転角度(回転角度θ-回転角度θ)をΘとし、開放タイミング(回転角度θ)から吸入行程の完了(回転角度θ)までのインナーロータ40の回転角度(回転角度θ-回転角度θ)をΔΘaとするとき、Θ=192度、ΔΘa=192-172=20度となり、ΔΘa=0.1×Θとなる。
部品の組付けバラツキや空気が効率良く導入される許容角度範囲を考慮して、ΔΘaは、0.08×Θ<ΔΘa<0.12×Θの範囲に設定されるのが好ましい。
すなわち、吸入行程の範囲の回転角度Θに対して、開放タイミングから吸入行程の完了までのインナーロータ40の回転角度ΔΘaは非常に小さくなっており、開放タイミングは、吸入行程の範囲の回転角度のうちの約1割の回転角度だけ吸入行程の完了時よりも前に設定されている。
換言すれば、空気導入孔27が開放される開放タイミングは、吸入行程が完了する直前に設定されている。
【0048】
また、吸入行程の完了時(回転角度θ)から空気導入孔27が閉塞される閉塞タイミング(回転角度θ)までのインナーロータ40の回転角度(回転角度θ-回転角度θ)をΔΘbとするとき、ΔΘb=205-192=13度となり、ΔΘb=0.65×ΔΘaとなる。
部品の組付けバラツキや空気が効率良く導入される許容角度範囲を考慮して、ΔΘbは、0.6×ΔΘa<ΔΘb<0.7×ΔΘaの範囲に設定されるのが好ましい。
換言すれば、空気導入孔27が閉塞される閉塞タイミングは、吸入行程が完了した後で、吐出口16がポンプ室Pcと連通し始めた時に設定されている。
【0049】
以上述べたように、第1実施形態に係るポンプ装置M1によれば、吸入行程が完了する直前の所定の開放タイミング(回転角度θ)においてポンプ室Pcへ空気を導入するべく開放される空気導入孔27を設けたことにより、特に高回転時においてポンプ室Pc内の負圧を緩和することができる。
その結果、図13に示すように、従来品に比べて作動油の油圧振幅ΔPを低減することができ、油圧振幅ΔPに伴う振動や騒音も低減することができる。
また、負圧過大によるキャビテーションの発生や、キャビテーションによる懐食の発生も防止することができる。
さらに、吸入負圧の緩和により、回転軸30を回転させる駆動トルクを低減することができる。特に、作動油の粘性が高い低温時において、空気を作動油内に導入することにより、作動油の剪断トルクが緩和される。その結果、低温時における駆動トルクを低減することができる。
【0050】
尚、回転軸30の低回転時においては、吸入抵抗は小さく、ポンプ室Pc内の負圧も小さくなり、空気導入孔27からの空気の導入も少ない。一方、回転軸30の高回転時においては、吸入抵抗が大きく作動油の吸入が追い付かない状態で空気を導入するものであり、又、吸入行程が完了する直前領域でのポンプ室Pcの容積の変化率は5%以下である。したがって、空気が導入されても、吸入量と吐出量とは殆ど差が無く、所望する吐出量を得ることができる。
【0051】
また、空気導入孔27は、ハウジングHの壁部に設けられてインナーロータ40の端面42により開閉されるため、インナーロータ40とは別に専用の開閉弁を設ける場合に比べて、構造の簡素化、低コスト化、小型化等を達成することができる。
さらに、空気導入孔27は、ハウジングHを構成する平板状のハウジングカバー20に設けられているため、穴開け加工を施すだけでよく、又、穴開け加工を容易に行うことができる。
【0052】
図14は、本発明の第2実施形態に係るポンプ装置M2に含まれるハウジングボディ110を示すものであり、第1実施形態に係るポンプ装置M1と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態に係るポンプ装置M2は、ハウジングHとしてのハウジングボディ110及びハウジングカバー20、所定の軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプユニットPuとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、ハウジングカバー20をハウジングボディ110に締結するネジbを備えている。
【0053】
ハウジングボディ110は、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の金属材料を用いて有底筒状に形成され、接合壁11、外周壁12、収容室13、インロー部14、吸入口15、吐出口116、軸受孔17、三つの挿通孔18、一つのネジ穴19を備えている。
吐出口116は、図14に示すように、収容室13の外周側領域寄りに偏倚して開口する偏倚開口領域116aと、偏倚開口領域116aよりも径方向の内側に拡大して開口する拡大開口領域116bを含む、略三日月の輪郭形状に形成されている。
そして、回転軸30の回転方向Rにおいて、偏倚開口領域116aは吐出口116の前半領域を占め、拡大開口領域116bは吐出口116の後半領域を占める。
【0054】
すなわち、吐出口116は、加圧及び吐出行程の開始から所定期間に亘って、ポンプ室Pcにより加圧された作動油をインナーロータ40から離れたアウターロータ50の外周側領域から吐出させるべく、外周側領域寄りに偏倚して開口する偏倚開口領域116aを含む構成となっている。
【0055】
次に、ポンプ装置M2の動作について、図15ないし図19を参照しつつ説明する。尚、回転軸30及びインナーロータ40が反時計回り(矢印R方向)に回転した時の時系列ごとの動作状態を示す。ここでは、インナーロータ40の一つの凸部44(黒丸印を付したもの)の回転方向Rにおける背後に画定されるポンプ室Pcに着目して説明する。
【0056】
先ず、図15に示すように、インナーロータ40が回転角度θにあるとき、作動油を吸入口15から吸入する吸入行程が開始される(吸入行程の開始時)。
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約90度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油が吸入される途中の状態にある(吸入行程)。
【0057】
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約150度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油がさらに吸入される途中の状態にある(吸入行程)。また、この状態において、ポンプ室Pcは空気導入孔27に近づくが、インナーロータ40の端面42は空気導入孔27を閉塞している。
【0058】
続いて、図16に示すように、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約165度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油がさらに吸入される吸入行程にあるものの、吸入口15が絞られて小さくなりつつある状態である。また、この状態において、ポンプ室Pcは空気導入孔27に隣接するが、インナーロータ40の端面42は空気導入孔27を閉塞している。
【0059】
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約172度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油が吸入される吸入行程の完了直前にあり、吸入口15が絞られて通路抵抗が増加した状態になる。したがって、回転軸30が、特に高回転にて回転する場合は、ポンプ室Pc内への作動油の流入が追い付かず、ポンプ室Pc内の雰囲気は負圧が大きい状態にある。
この吸入行程の完了直前において、インナーロータ40の端面42は空気導入孔27から外れて、空気導入孔27が開放される。したがって、ポンプ室Pcの負圧により、空気導入孔27を通して、外気がポンプ室Pc内に吸入され始める。
【0060】
そして、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約185度)回転したとき、吸入口15からポンプ室Pcに作動油が吸入される吸入行程がさらに完了時点に近づき、空気導入孔27は依然として開放された状態にあり、ポンプ室Pcの負圧により、外気は慣性力も作用してポンプ室Pc内に流れ込み続ける。これにより、ポンプ室Pcの負圧が低減される。
【0061】
さらに、図17に示すように、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約192度)回転したとき、吸入口15は閉塞されて吸入行程が完了する。すなわち、吸入行程の完了とは吸入口15が閉塞された時点である。
このとき、ポンプ室Pcは、吐出口116と連通しておらず、閉ざされた仕切り領域の状態にある。一方、空気導入孔27は依然として開放されており、外気は慣性力も作用してポンプ室Pc内に流れ込む状態にあり、ここまでの過程において、ポンプ室Pc内の負圧は十分に低減される。
このように、吸入行程が完了して加圧及び吐出行程に移行する前に、ポンプ室Pc内の負圧は導入された外気(空気)により緩和される。
【0062】
続いて、インナーロータ40が回転角度θの位置まで(ここでは、約205度)回転したとき、インナーロータ40の端面42により空気導入孔27は閉塞される。また、ポンプ室Pcが狭い領域にて吐出口116の偏倚開口領域116aと連通し始め、ポンプ室Pc内の作動油が吐出口116に向けて吐出され始める状態にある(加圧及び吐出行程の開始時)。
この加圧及び吐出行程の開始時においては、既にポンプ室Pc内の負圧が緩和されているため、先の行程にあるポンプ室Pc内の作動油の逆流が抑制ないし防止される。また、逆流が抑制ないし防止されるため、逆流後の順流れによる圧力の上昇も抑制ないし防止される。
【0063】
続いて、インナーロータ40が、回転角度θの位置まで回転したとき、ポンプ室Pc内の作動油は、吐出口116の偏倚開口領域116aから吐出口116の下流側に加圧されつつ吐出される。すなわち、ポンプ室Pcにより加圧された作動油は、インナーロータ40から離れたアウターロータ50の外周側領域から吐出される(加圧及び吐出行程)。このとき、混入した空気(気泡)は、遠心力の関係により、吐出口116から吐出されることなく、インナーロータ40の凹部45に隣接する領域に寄せ集められる。
【0064】
続いて、図18に示すように、インナーロータ40が、回転角度θの位置まで回転したとき、ポンプ室Pc内の作動油は、依然として、吐出口116の偏倚開口領域116aから吐出口116の下流側に加圧されつつ吐出される。また、混入した空気(気泡)は、遠心力の関係により、依然として吐出口116から吐出することなく、インナーロータ40の凹部45に隣接する領域に寄せ集められている。
【0065】
続いて、インナーロータ40が、回転角度θ9-2の位置を経て回転角度θ9-3の位置まで回転したとき、ポンプ室Pc内の作動油は、主として偏倚開口領域116aから吐出口116の下流側に加圧されつつ吐出され、僅かに拡大開口領域116bから吐出口116の下流側に加圧されつつ吐出される。
この状態において、混入した空気(気泡)は、遠心力によりインナーロータ40の凹部45に隣接する領域に寄せ集められた状態で吐出口116から吐出することなく、圧力により押し潰される。
【0066】
続いて、図19に示すように、インナーロータ40が、回転角度θ9-4の位置まで回転したとき、ポンプ室Pc内の作動油は、偏倚開口領域116a及び拡大開口領域116bから吐出口116の下流側に加圧されつつ吐出される。
この状態において、混入した空気(気泡)は、遠心力によりインナーロータ40の凹部45に隣接する領域に寄せ集められた状態で吐出口116から吐出することなく、圧力により押し潰されて作動油内に溶け込み殆ど消滅する。
【0067】
続いて、インナーロータ40が、回転角度θ10の位置を経て回転角度θ11の位置まで回転する。この過程において、ポンプ室Pc内の作動油は加圧されつつ吐出口116から吐出され続ける(加圧及び吐出行程)。また、回転角度θ11の位置において、図15に示す回転角度θの位置に戻る。
【0068】
ここでは、一つの凸部44に着目して説明したが、実際には、四つの凸部44の背後に画定されるポンプ室Pcがそれぞれ同様の動作(ポンプ作用)を行う。したがって、回転軸30が一回転する間に、吸入行程、加圧及び吐出行程が4回連続的に行われる。
【0069】
上記第2実施形態においては、空気導入孔27が開放される開放タイミングは、吸入行程が完了する回転角度θよりも約20度前の回転角度θに設定されている。
すなわち、空気導入孔27が開放される開放タイミングは、吸入行程が完了する直前に設定されている。
また、空気導入孔27が閉塞される閉塞タイミングは、吸入行程が完了した後で、吐出口116の偏倚開口領域116aがポンプ室Pcと連通し始めた時に設定されている。
【0070】
特に、吐出口116が偏倚開口領域116aを含むように形成されているため、加圧及び吐出行程の開始から所定期間に亘って、導入された空気(気泡)を吐出させることなく、ポンプ室Pcにより加圧された作動油をインナーロータ40から離れたアウターロータ50の外周側領域から吐出させることができる。これにより、導入された空気(気泡)を、油圧変動の高圧側を吸収して減衰させるダンパ手段として利用することができ、油圧振幅を効率よく低減することができる。
【0071】
以上述べたように、第2実施形態に係るポンプ装置M2によれば、第1実施形態と同様に、従来品に比べて作動油の油圧振幅ΔPを低減することができ、油圧振幅ΔPに伴う振動や騒音も低減することができる。また、負圧過大によるキャビテーションの発生や、キャビテーションによる懐食の発生も防止することができ、構造の簡素化、低コスト化、小型化等を達成することができる。
さらに、吸入負圧の緩和により、回転軸30を回転させる駆動トルクを低減することができる。特に、作動油の粘性が高い低温時において、空気を作動油内に導入することにより、作動油の剪断トルクが緩和される。その結果、低温時における駆動トルクを低減することができる。
【0072】
図20は、本発明の第3実施形態に係るポンプ装置M3を内燃エンジンEに適用したシステムのブロック図であり、前述の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
第3実施形態に係るポンプ装置M3は、ハウジングHとしてのハウジングボディ10及びハウジングカバー20、所定の軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプユニットPuとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、逆止弁60、ハウジングカバー20をハウジングボディ10に締結するネジbを備えている。
【0073】
逆止弁60は、例えば、ハウジングカバー20の空気導入孔27の下流側に配置されている。そして、逆止弁60は、ポンプ室Pc内の圧力が所定レベル以下の負圧になったとき開弁して、外気が空気導入孔27を通してポンプ室Pc内に流れる一方向の空気流れを許容し、作動油がポンプ室Pcから外部への流れ出るのを遮断する。
第3実施形態に係るポンプ装置M3によれば、前述の実施形態と同様の効果が得られるのは勿論のこと、仮にポンプ室Pc内の圧力が上昇しても、作動油が外部へ流出するのを確実に防止することができる。
【0074】
図21ないし図23は、本発明の第4実施形態に係るポンプ装置M4を示すものであり、前述の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
第4実施形態に係るポンプ装置M4は、ハウジングHとしてのハウジングボディ210及びハウジングカバー220、所定の軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプユニットPuとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、ハウジングカバー220をハウジングボディ210に締結するネジbを備えている。
【0075】
ハウジングボディ210は、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の金属材料を用いて有底筒状に形成されており、底壁211、外周壁212、収容室213、軸受孔214、環状凸部215、三つの挿通孔216、一つのネジ穴217、空気導入孔218を備えている。
【0076】
底壁211は、軸線Sに垂直な平坦壁として形成され、外壁面211a、ポンプユニットPuの端面42,52が密接して摺動する内壁面211bを画定する。
外周壁212は、底壁211の外縁領域から軸線S方向に筒状に突出して環状の端面212aを画定する。
収容室213は、底壁211と外周壁212により画定される空間であり、ポンプユニットPuを回転可能に収容する。
また、収容室213は、図23に示すように、軸線Sから平行に偏倚した軸線S1を中心とする円筒面をなす円弧面213aを備えている。
円弧面213aは、ポンプユニットPuの一部をなすアウターロータ50の外周面53を摺動自在に支持する。また、円弧面213aの内縁部は、ハウジングカバー220の嵌合凸部222が嵌合される嵌合凹部としても機能する。
【0077】
軸受孔214は、回転軸30の他端側領域32を回動自在に支持するべく、軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
環状凸部215は、軸受孔214の周りにおいて、機械的強度を高めるべく軸線S方向の外側に突出する円筒状に形成されている。
三つの挿通孔216は、エンジン本体1のネジ穴7に捩じ込むボルトBを挿通させるものであり、外壁面211aから端面212aまで軸線S方向に貫通するように形成されている。
一つのネジ穴217は、ハウジングカバー220をハウジングボディ210に結合するネジbを捩じ込むべく、端面212aに形成されている。
【0078】
空気導入孔218は、外気をポンプユニットPuにより画定されるポンプ室Pcへ導入するべく、環状凸部215の領域でかつインナーロータ40が摺動する内壁面211bの領域に位置する壁部において、軸線S方向に貫通する円孔として形成されている。
そして、空気導入孔218は、ポンプユニットPuによる吸入行程が完了する直前の所定の開放タイミングにおいてインナーロータ40の端面42により開放され、吸入行程が完了した後の所定の閉塞タイミングにおいてインナーロータ40の端面42により閉塞されるようになっている。
ここで、空気導入孔218は、ハウジングHの壁部に設けられてインナーロータ40の端面42により開閉されるため、インナーロータ40とは別に専用の開閉弁を設ける場合に比べて、構造の簡素化、低コスト化、小型化等を達成することができる。
さらに、空気導入孔218は、ハウジングHを構成する有底筒状のハウジングボディ210の底壁211に設けられているため、穴開け加工を施すだけでよく、又、穴開け加工を容易に行うことができる。
【0079】
ハウジングカバー220は、ハウジングボディ210の収容室213を閉塞するべくハウジングボディ210に結合されるものであり、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の材料を用いて平板状に形成されている。
そして、ハウジングカバー220は、接合壁221、嵌合凸部222、インロー部223、吸入口224、吐出口225、軸受孔226、三つの挿通孔227、一つの円孔228を備えている。
【0080】
接合壁221は、軸線Sに垂直な平坦壁として形成され、エンジン本体1の接合面3に接合される外壁面221a、ハウジングボディ210の端面212aに接合される内壁面221bを画定する。
嵌合凸部222は、ハウジングカバー220の中央寄りにおいて、軸線S1を中心とし接合壁221から軸線S方向に突出する円盤状に形成されており、外周面222a及び内壁面222bを画定している。外周面222aは、ハウジングボディ210の円弧面213aの内縁部に嵌合される。内壁面222bには、ポンプユニットPuの端面41,51が摺動自在に密接する。
【0081】
インロー部223は、接合壁221から軸線S方向の外側に突出すると共に軸線Sを中心とする円筒状に形成され、エンジン本体1の嵌合凹部4に密接して嵌合される。
吸入口224は、前述の実施形態に係る吸入口15と同一形状をなし、図22に示すように、接合壁221において、略三ヶ月状の輪郭をなすように軸線S方向に貫通して形成されている。そして、ポンプ装置M4がエンジン本体1の接合面3に接合された状態で、流出通路5から導かれる作動油が、吸入口224を通してポンプ室Pc内に吸入される。
吐出口225は、前述の実施形態に係る吐出口16と同一形状をなし、図22に示すように、接合壁221でかつインロー部223を挟んで吸入口224と反対側の領域において、略三ヶ月状の輪郭をなすように軸線S方向に貫通して形成されている。そして、ポンプ装置M4がエンジン本体1の接合面3に接合された状態で、ポンプ室Pcで加圧された作動油が、吐出口225を通して流入通路6に向けて吐出される。
【0082】
軸受孔226は、回転軸30の一端側領域31を回動自在に支持するべく、インロー部223の内側において軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
三つの挿通孔227は、エンジン本体1のネジ穴7に捩じ込むボルトBを挿通させるものであり、ハウジングボディ210の三つの挿通孔216に対応する位置において軸線S方向に貫通する円孔として形成されている。
一つの円孔228は、ハウジングカバー220をハウジングボディ210に結合するネジbを通すものであり、一つの挿通孔227の近傍に形成されている。
【0083】
上記のように、ハウジングHは、収容室213を画定する有底筒状のハウジングボディ210と、吸入口224,吐出口225,適用対象物に接合される接合壁221を画定すると共に収容室213を閉塞するべくハウジングボディ210に結合される平板状のハウジングカバー220を含み、空気導入孔218は、ハウジングボディ210に設けられている。
このように、空気導入孔218が、適用対象物と接合される側と反対側の領域においてハウジングHに設けられているため、空気導入孔218の外側に障害物が無く、ポンプ室Pc内への空気(外気)の導入を円滑に行うことができる。
【0084】
第4実施形態に係るポンプ装置M4によれば、前述の実施形態と同様に、従来品に比べて作動油の油圧振幅ΔPを低減することができ、油圧振幅ΔPに伴う振動や騒音も低減することができる。また、負圧過大によるキャビテーションの発生や、キャビテーションによる懐食の発生も防止することができ、構造の簡素化、低コスト化、小型化等を達成することができる。
さらに、吸入負圧の緩和により、回転軸30を回転させる駆動トルクを低減することができる。特に、作動油の粘性が高い低温時において、空気を作動油内に導入することにより、作動油の剪断トルクが緩和される。その結果、低温時における駆動トルクを低減することができる。
【0085】
尚、第4実施形態に係るポンプ装置M4において、第2実施形態に係る吐出口116と同一の形態をなす吐出口を採用してもよく、又、第3実施形態に係る逆止弁60を採用してもよい。
【0086】
上記実施形態においては、ポンプ作用を及ぼすポンプユニットとして、トロコイド歯形をなすトロコイドロータ(インナーロータ40及びアウターロータ50)を含むポンプユニットPuを示したが、これに限定されるものではない。
例えば、トロコイド歯形以外の歯形を有するインナーロータ及びアウターロータを備えたロータユニットを採用してもよい。また、インナーロータ及びアウターロータを含むポンプユニットに限ることなく、その他の容積型のポンプユニットを採用してもよい。
【0087】
上記実施形態においては、ポンプユニットPuを構成するインナーロータ40及びアウターロータ50がトロコイド歯形をなす4葉5節からなる構成を示したが、これに限定されるものではなく、その他の個数からなる構成を採用してもよい。
【0088】
上記実施形態においては、ハウジングHに設けた空気導入孔27,218を開閉するものとして、インナーロータ40の端面42を採用したが、これに限定されるものではなく、空気導入孔の配置場所を変更して、アウターロータ50の端面52により空気導入孔が開閉されるようにしてもよい。
【0089】
上記実施形態においては、ハウジングHを構成するハウジングカバー20又はハウジングボディ210に対して、穴加工により空気導入孔27,218を設けた構成を示したが、空気導入孔27,218を含む通路の途中において、外気中の浮遊物を除去するフィルタ部材を設置してもよい。
【0090】
上記実施形態においては、ポンプ装置M1,M2,M3,M4を適用する適用対象物として、自動車等に搭載される内燃エンジンを示したが、これに限定されるものではなく、トランスミッション、その他の潤滑機器に適用してもよく、又、作動油以外の流体を用いる流体機器に適用してもよい。
【0091】
上記実施形態においては、ポンプ装置M1,M2,M3,M4のハウジングHが適用対象物と接合される接合壁11,221を備える構成を示したが、これに限定されるものではなく、適用対象物に接合されるのではなく独立して配置され、連結パイプ等を介して流体の吸入及び吐出が行われるシステムに適用されてもよい。この場合、空気導入孔は、接合壁と反対側に限らず、ハウジングの適した領域に設けてもよい。
【0092】
以上述べたように、本発明のポンプ装置は、構造の簡素化を達成しつつ、油圧振幅を抑制することができ、それに伴う騒音又は振動も低減することができるため、自動車又は二輪車の内燃エンジンに適用することができるのは勿論のこと、その他の潤滑機器に適用することもでき、さらには、作動油以外の流体を取り扱う流体機器においても有用である。
【符号の説明】
【0093】
E 内燃エンジン(適用対象物)
M1,M2,M3,M4 ポンプ装置
S 軸線
H ハウジング
10,110,210 ハウジングボディ(ハウジング)
11,221 接合壁
13,213 収容室
15,224 吸入口
16,116,225 吐出口
116a 偏倚開口領域
20,220 ハウジングカバー(ハウジング)
22b,211b 内壁面(ハウジングの壁部)
27,218 空気導入孔
Pu ポンプユニット
Pc ポンプ室
40 インナーロータ
42 インナーロータの端面
50 アウターロータ
60 逆止弁
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