(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168388
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】地震動推定装置及び地震動推定方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/28 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073787
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100187388
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 天光
(72)【発明者】
【氏名】森脇 美沙
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直泰
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊六
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105GG05
2G105GG06
2G105MM01
(57)【要約】
【課題】地震発生直後に各地点での地震動を即時的且つ高精度に推定することができる地震動推定装置を提供する。
【解決手段】地震動推定装置は、K-NET位置の地表観測値11に基づいて算出されたK-NET位置の基盤入力値12を空間補間してKiK-net位置の基盤推定値を算出し、KiK-net位置の基盤推定値に基づいてKiK-net位置の地表推定値を算出し、KiK-net位置の地表推定値が補正されたKiK-net位置の地表疑似観測値23を取得し、KiK-net位置の地表疑似観測値23に基づいてKiK-net位置の基盤疑似入力値24を算出し、KiK-net位置の基盤疑似入力値24及びK-NET位置の基盤入力値12を空間補間してメッシュ位置の基盤推定値31を算出し、メッシュ位置の基盤推定値31に基づいてメッシュ位置の地表推定値32を算出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1地点の各々で地表面にそれぞれ設置された複数の第1地震計の各々により観測される地震動に基づいて、前記複数の第1地点と異なる複数の第2地点の各々における前記地表面の地震動を推定する地震動推定装置において、
第1地震が発生した時に前記複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第1地表観測値を取得する第1地表観測値取得部と、
前記複数の第1地点の各々において前記地表面よりも下方の地中に位置する基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第1関係式、及び、前記複数の第1地表観測値に基づいて、前記複数の第1地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ入力される地震動の入力値である複数の第1基盤入力値を算出する基盤入力値算出部と、
前記複数の第1基盤入力値を空間補間することにより、前記複数の第1地点及び前記複数の第2地点と異なる複数の第3地点であって、且つ、前記地表面に第2地震計がそれぞれ設置された前記複数の第3地点の各々において、前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第1基盤推定値を算出する第1空間補間部と、
前記複数の第3地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第2関係式、及び、前記複数の第1基盤推定値に基づいて、前記複数の第3地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第1地表推定値を算出する第1地表推定値算出部と、
前記複数の第3地点の各々について、前記第1地表推定値を補正するための補正係数データであって、前記第1地震が発生する前に前記第1地震と異なる第2地震が発生した時に前記第2地震計により地震動が観測されてなる第2地表観測値、及び、前記第2地震が発生した時に前記複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第3地表観測値、に基づいて算出された前記補正係数データを用いて前記第1地表推定値を補正し、前記複数の第3地点の各々について前記第1地表推定値がそれぞれ補正されてなる疑似的な観測値である複数の第1地表疑似観測値を取得する補正部と、
前記複数の第3地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第3関係式、及び、前記複数の第1地表疑似観測値に基づいて、前記複数の第3地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ入力される地震動の疑似的な入力値である複数の第1基盤疑似入力値を算出する基盤疑似入力値算出部と、
前記複数の第1基盤疑似入力値、及び、前記複数の第1基盤入力値を空間補間することにより、前記複数の第2地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第2基盤推定値を算出する第2空間補間部と、
前記複数の第2地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第4関係式、及び、前記複数の第2基盤推定値に基づいて、前記複数の第2地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第2地表推定値を算出する第2地表推定値算出部と、
を有する、地震動推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地震動推定装置において、
前記補正部は、前記複数の第3地点の各々について、前記第1地震が発生した時に前記第2地震計により地震動が観測されてなる第4地表観測値が取得される前に、前記第1地表推定値を補正する、地震動推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地震動推定装置において、
前記複数の第3地点の各々について前記第1地表推定値をそれぞれ補正するための複数の前記補正係数データを算出する補正係数データ算出部を有し、
前記補正係数データ算出部は、
前記第2地震が発生した時に前記複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる前記複数の第3地表観測値を取得する第1地表観測値取得処理と、
前記複数の第1地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第5関係式、及び、前記複数の第3地表観測値に基づいて、前記複数の第1地点の各々において前記第2地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ入力される地震動の入力値である複数の第2基盤入力値を算出する基盤入力値算出処理と、
前記複数の第2基盤入力値を空間補間することにより、前記複数の第3地点の各々において前記第2地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第3基盤推定値を算出する空間補間処理と、
前記複数の第3地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第6関係式、及び、前記複数の第3基盤推定値に基づいて、前記複数の第3地点の各々において前記第2地震が発生した時に前記地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第3地表推定値を算出する地表推定値算出処理と、
前記第2地震が発生した時に前記複数の第2地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の前記第2地表観測値を取得する第2地表観測値取得処理と、
を含む補正係数データ算出処理を実行し、
前記補正係数データ算出部は、前記第2地震がN回(Nは1以上の整数)発生するごとに前記補正係数データ算出処理を実行することにより、前記複数の第3地点の各々について、N個の前記第3地表推定値を算出し、N個の前記第2地表観測値を取得し、算出された前記N個の第3地表推定値と、取得された前記N個の第2地表観測値と、に基づいて、前記補正係数データを算出する、地震動推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の地震動推定装置において、
前記補正係数データ算出部は、前記複数の第3地点の各々について、前記第3地表推定値から前記第2地表観測値を減じて得られる差分値を算出する差分値算出処理を含む前記補正係数データ算出処理を実行し、
前記補正係数データ算出部は、前記第2地震がN回発生するごとに前記補正係数データ算出処理を実行することにより、前記複数の第3地点の各々について、N個の前記差分値を算出し、算出された前記N個の差分値に基づいて、前記補正係数データを算出する、地震動推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の地震動推定装置において、
前記補正係数データ算出部は、前記複数の第3地点の各々について、前記補正係数データが前記N個の差分値の中央値に等しくなるように、前記補正係数データを算出する、地震動推定装置。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の地震動推定装置において、
前記第1地震が発生した時に前記複数の第2地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第5地表観測値を取得する第2地表観測値取得部を有し、
前記補正係数データ算出部は、前記複数の第5地表観測値が前記第2地表観測値取得部により取得された後、前記複数の第3地点の各々について、前記N個の第3地表推定値及び前記第1地表推定値と、前記N個の第2地表観測値及び前記第5地表観測値と、に基づいて、前記補正係数データを算出して更新する、地震動推定装置。
【請求項7】
複数の第1地点の各々で地表面にそれぞれ設置された複数の第1地震計の各々により観測される地震動に基づいて、前記複数の第1地点と異なる複数の第2地点の各々における前記地表面の地震動を推定する地震動推定方法において、
(a)第1地震が発生した時に前記複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第1地表観測値を第1地表観測値取得部により取得するステップ、
(b)前記複数の第1地点の各々において前記地表面よりも下方の地中に位置する基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第1関係式、及び、前記複数の第1地表観測値に基づいて、前記複数の第1地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ入力される地震動の入力値である複数の第1基盤入力値を基盤入力値算出部により算出するステップ、
(c)前記複数の第1基盤入力値を第1空間補間部により空間補間することにより、前記複数の第1地点及び前記複数の第2地点と異なる複数の第3地点であって、且つ、前記地表面に第2地震計がそれぞれ設置された前記複数の第3地点の各々において、前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第1基盤推定値を前記第1空間補間部により算出するステップ、
(d)前記複数の第3地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第2関係式、及び、前記複数の第1基盤推定値に基づいて、前記複数の第3地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第1地表推定値を第1地表推定値算出部により算出するステップ、
(e)前記複数の第3地点の各々について、前記第1地表推定値を補正するための補正係数データであって、前記第1地震が発生する前に前記第1地震と異なる第2地震が発生した時に前記第2地震計により地震動が観測されてなる第2地表観測値、及び、前記第2地震が発生した時に前記複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第3地表観測値、に基づいて算出された前記補正係数データを用いて、前記第1地表推定値を補正部により補正し、前記複数の第3地点の各々について前記第1地表推定値がそれぞれ補正されてなる疑似的な観測値である複数の第1地表疑似観測値を前記補正部により取得するステップ、
(f)前記複数の第3地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第3関係式、及び、前記複数の第1地表疑似観測値に基づいて、前記複数の第3地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ入力される地震動の疑似的な入力値である複数の第1基盤疑似入力値を基盤疑似入力値算出部により算出するステップ、
(g)前記複数の第1基盤疑似入力値、及び、前記複数の第1基盤入力値を第2空間補間部により空間補間することにより、前記複数の第2地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記基盤面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第2基盤推定値を前記第2空間補間部により算出するステップ、
(h)前記複数の第2地点の各々において前記基盤面の地震動と前記地表面の地震動との関係を表す第4関係式、及び、前記複数の第2基盤推定値に基づいて、前記複数の第2地点の各々において前記第1地震が発生した時に前記地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第2地表推定値を第2地表推定値算出部により算出するステップ、
を有する、地震動推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動を推定する地震動推定装置及び地震動推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内には、複数の地点に設置された複数の地震計を用いて地震動を観測するための地震観測網が構築されている。このような地震観測網を用いて、地震発生直後に各地の揺れの大きさを詳細に把握することは、地震後に適切な即時対応を行うために重要であり、地震動の観測情報および推定情報は有用な情報となり得る。また、このような地震観測網を用いて得られた地震動推定情報を、地震後の即時対応における各種判断の支援情報として活用するためには、情報発信の即時性と、推定精度の高さが求められる。
【0003】
また、このような地震観測網を用いて地震動を推定する方法として、地震観測網を用いて観測される地震動データを空間補間することにより、任意の地点の地震動を推定する方法がある。特開平11-231064号公報(特許文献1)には、地震動推定方法において、地震発生時に、地表面に設置されている地震計で観測される地震動の大きさを、地震計設置地点の表層地盤の地震動増幅率で除算して工学的基盤面での対応する位置における地震動の大きさに変換し、地表面で地震計設置地点の予め定める範囲内の地点に対応する位置の工学的基盤面での地震動の大きさを、地震計設置地点に対応する位置の工学的基盤面での地震動の大きさに基づいて推定し、推定された地震動の大きさに、その地点での表層地盤の地震動増幅率を乗算して、地表面での地震動の大きさに変換する技術が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、広範囲の被害の概略をマクロに予測して危険箇所を抽出する1次スクリーニングを目的として、想定される工学的基盤の地震動に対して表層地盤の絶対加速度増幅率および絶対速度増幅率を推定する式が開示されている。非特許文献2には、地震直後に活用できる公的な地震計の実測データとして防災科学技術研究所のK-NETのデータ等の各種のデータの存在を背景に、公的な地震情報を活用して、地震発生直後に地震の揺れの空間分布を精度良く推定し、速やかに公開する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】野上雄太、外3名、「表層地盤と入力波の周期特性を考慮した表層地盤での地震増幅率の評価」、土木学会論文集A1(構造・地震工学)、2012年、第68巻、第1号、p.191-202
【非特許文献2】山本俊六、外3名、「鉄道用地震情報公開システムの開発」、鉄道総研報告、2016年、第30巻、第5号、p.41-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した地震観測網のうち、地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得可能なものがある。一方、地震発生後、精査等に必要な一定の時間を経て観測データが公開されるか、又は、観測データが一般に公開されないものがある。
【0008】
地震観測網を用いて観測される地震動データを空間補間することにより、任意の地点の地震動を推定する場合には、空間補間に利用することができる観測データ数が多いほど、推定精度が向上すると考えられる。ところが、前述した地震観測網のうち、地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得可能な地震観測網は、限られており、その他の多くの地震観測網は、即時的な地震推定には活用できない。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、地震動を推定する地震動推定装置において、地震発生直後に各地点での地震動を即時的且つ高精度に推定することができる地震動推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の一態様としての地震動推定装置は、複数の第1地点の各々で地表面にそれぞれ設置された複数の第1地震計の各々により観測される地震動に基づいて、複数の第1地点と異なる複数の第2地点の各々における地表面の地震動を推定する地震動推定装置である。当該地震動推定装置は、第1地震が発生した時に複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第1地表観測値を取得する第1地表観測値取得部と、複数の第1地点の各々において地表面よりも下方の地中に位置する基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第1関係式、及び、複数の第1地表観測値に基づいて、複数の第1地点の各々において第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第1基盤入力値を算出する基盤入力値算出部と、を有する。また、当該地震動推定装置は、複数の第1基盤入力値を空間補間することにより、複数の第1地点及び複数の第2地点と異なる複数の第3地点であって、且つ、地表面に第2地震計がそれぞれ設置された複数の第3地点の各々において、第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第1基盤推定値を算出する第1空間補間部と、複数の第3地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第2関係式、及び、複数の第1基盤推定値に基づいて、複数の第3地点の各々において第1地震が発生した時に地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第1地表推定値を算出する第1地表推定値算出部と、を有する。また、当該地震動推定装置は、複数の第3地点の各々について、第1地表推定値を補正するための補正係数データであって、第1地震が発生する前に第1地震と異なる第2地震が発生した時に第2地震計により地震動が観測されてなる第2地表観測値、及び、第2地震が発生した時に複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第3地表観測値、に基づいて算出された補正係数データを用いて第1地表推定値を補正し、複数の第3地点の各々について第1地表推定値がそれぞれ補正されてなる疑似的な観測値である複数の第1地表疑似観測値を取得する補正部と、複数の第3地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第3関係式、及び、複数の第1地表疑似観測値に基づいて、複数の第3地点の各々において第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第1基盤疑似入力値を算出する基盤疑似入力値算出部と、を有する。また、当該地震動推定装置は、複数の第1基盤疑似入力値、及び、複数の第1基盤入力値を空間補間することにより、複数の第2地点の各々において第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第2基盤推定値を算出する第2空間補間部と、複数の第2地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第4関係式、及び、複数の第2基盤推定値に基づいて、複数の第2地点の各々において第1地震が発生した時に地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第2地表推定値を算出する第2地表推定値算出部と、を有する。
【0012】
また、他の一態様として、補正部は、複数の第3地点の各々について、第1地震が発生した時に第2地震計により地震動が観測されてなる第4地表観測値が取得される前に、第1地表推定値を補正してもよい。
【0013】
また、他の一態様として、当該地震動推定装置は、複数の第3地点の各々について第1地表推定値をそれぞれ補正するための複数の補正係数データを算出する補正係数データ算出部を有してもよい。補正係数データ算出部は、第2地震が発生した時に複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第3地表観測値を取得する第1地表観測値取得処理と、複数の第1地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第5関係式、及び、複数の第3地表観測値に基づいて、複数の第1地点の各々において第2地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第2基盤入力値を算出する基盤入力値算出処理と、複数の第2基盤入力値を空間補間することにより、複数の第3地点の各々において第2地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第3基盤推定値を算出する空間補間処理と、複数の第3地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第6関係式、及び、複数の第3基盤推定値に基づいて、複数の第3地点の各々において第2地震が発生した時に地表面でそれぞれ推定される複数の第3地表推定値を算出する地表推定値算出処理と、第2地震が発生した時に複数の第2地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第2地表観測値を取得する第2地表観測値取得処理と、を含む補正係数データ算出処理を実行してもよい。また、補正係数データ算出部は、第2地震がN回(Nは1以上の整数)発生するごとに補正係数データ算出処理を実行することにより、複数の第3地点の各々について、N個の第3地表推定値を算出し、N個の第2地表観測値を取得し、算出されたN個の第3地表推定値と、取得されたN個の第2地表観測値と、に基づいて、補正係数データを算出してもよい。
【0014】
また、他の一態様として、補正係数データ算出部は、複数の第3地点の各々について、第3地表推定値から第2地表観測値を減じて得られる差分値を算出する差分値算出処理を含む補正係数データ算出処理を実行してもよい。また、補正係数データ算出部は、第2地震がN回発生するごとに補正係数データ算出処理を実行することにより、複数の第3地点の各々について、N個の差分値を算出し、算出されたN個の差分値に基づいて、補正係数データを算出してもよい。
【0015】
また、他の一態様として、補正係数データ算出部は、複数の第3地点の各々について、補正係数データがN個の差分値の中央値に等しくなるように、補正係数データを算出してもよい。
【0016】
また、他の一態様として、当該地震動推定装置は、第1地震が発生した時に複数の第2地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第5地表観測値を取得する第2地表観測値取得部を有してもよい。補正係数データ算出部は、複数の第5地表観測値が第2地表観測値取得部により取得された後、複数の第3地点の各々について、N個の第3地表推定値及び第1地表推定値と、N個の第2地表観測値及び第5地表観測値と、に基づいて、補正係数データを算出して更新してもよい。
【0017】
本発明の一態様としての地震動推定方法は、複数の第1地点の各々で地表面にそれぞれ設置された複数の第1地震計の各々により観測される地震動に基づいて、複数の第1地点と異なる複数の第2地点の各々における地表面の地震動を推定する地震動推定方法である。当該地震動推定方法は、第1地震が発生した時に複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第1地表観測値を第1地表観測値取得部により取得する(a)ステップと、複数の第1地点の各々において地表面よりも下方の地中に位置する基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第1関係式、及び、複数の第1地表観測値に基づいて、複数の第1地点の各々において第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第1基盤入力値を基盤入力値算出部により算出する(b)ステップと、を有する。また、当該地震動推定方法は、複数の第1基盤入力値を第1空間補間部により空間補間することにより、複数の第1地点及び複数の第2地点と異なる複数の第3地点であって、且つ、地表面に第2地震計がそれぞれ設置された複数の第3地点の各々において、第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第1基盤推定値を第1空間補間部により算出する(c)ステップと、複数の第3地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第2関係式、及び、複数の第1基盤推定値に基づいて、複数の第3地点の各々において第1地震が発生した時に地表面でそれぞれ推定される複数の第1地表推定値を第1地表推定値算出部により算出する(d)ステップと、を有する。また、当該地震動推定方法は、複数の第3地点の各々について、第1地表推定値を補正するための補正係数データであって、第1地震が発生する前に第1地震と異なる第2地震が発生した時に第2地震計により地震動が観測されてなる第2地表観測値、及び、第2地震が発生した時に複数の第1地震計の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数の第3地表観測値、に基づいて算出された補正係数データを用いて、第1地表推定値を補正部により補正し、複数の第3地点の各々について第1地表推定値がそれぞれ補正されてなる複数の第1地表疑似観測値を補正部により取得する(e)ステップと、複数の第3地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第3関係式、及び、複数の第1地表疑似観測値に基づいて、複数の第3地点の各々において第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第1基盤疑似入力値を基盤疑似入力値算出部により算出する(f)ステップと、を有する。また、当該地震動推定方法は、複数の第1基盤疑似入力値、及び、複数の第1基盤入力値を第2空間補間部により空間補間することにより、複数の第2地点の各々において第1地震が発生した時に基盤面に入力する複数の第2基盤推定値を第2空間補間部により算出する(g)ステップと、複数の第2地点の各々において基盤面に入力する地震動と地表面で観測される地震動との関係を表す第4関係式、及び、複数の第2基盤推定値に基づいて、複数の第2地点の各々において第1地震が発生した時に地表面でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数の第2地表推定値を第2地表推定値算出部により算出する(h)ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様を適用することで、地震動を推定する地震動推定装置において、地震発生直後に各地点での地震動を即時的且つ高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態の地震動推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態の地震動推定方法の一部のステップを示すフロー図である。
【
図3】実施の形態の地震動推定方法を説明するための図である。
【
図4】実施の形態の地震動推定方法を説明するための図である。
【
図5】実施の形態の地震動推定方法を説明するための図である。
【
図6】各地震観測点(各地点)における計測震度差[推定-観測]の一例を示すグラフである。
【
図7】観測計測震度と推定計測震度との誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0022】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0023】
更に、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチング(網掛け)を省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを付す場合もある。
【0024】
(実施の形態)
<地震動推定装置及び地震動推定方法における技術的思想>
初めに、本発明の一実施形態である実施の形態の地震動推定装置及び地震動推定方法における技術的思想について説明する。
【0025】
現在、日本国内には、複数の地点に設置された複数の地震計を用いて地震動を観測するための地震観測網(以下では、単に「観測網」と称する場合がある)が構築されている。これらの日本国内の地震観測網は、おおよそ以下の種別に分類される。
種別1:地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得可能なもの
種別2:地震発生後、精査等に必要な一定の時間を経て観測データが公開されるもの
種別3:観測データが一般に公開されないもの
【0026】
ここで、種別1に相当する観測網として、例えば防災科学技術研究所のK-NETが挙げられる。また、公的機関が運用する地震観測網は、たいてい種別2の観測網に相当する。そのため、種別2に相当する観測網として、例えば防災科学技術研究所のKiK-netが挙げられる。また、種別3の観測網として、例えば電気又はガス等のいわゆる社会インフラの地震対策として事業者が設置して観測を行っているものが挙げられる。このうち、鉄道事業分野においては、鉄道沿線に一定の間隔で地震計を設置して観測を行い、地震発生時には迅速に列車を減速又は停止させて安全を確保するという運転制御のために使用しているものがある。
【0027】
種別1の観測網を、その観測網を運用している運用主体以外の第三者機関が利用する場合には、当該第三者機関に準リアルタイムで観測データを配信するためのシステム又はネットワークを構築し、維持管理を継続する必要があるため、運用コストが増加する。また、種別3の観測網は、種別1及び種別2の観測網のように社会の防災又は減災を目的に整備されたものではないか、又は、社会インフラの制御に関わる機密情報である、等の理由により、一般に公開されていない場合が多い。
【0028】
よって、現在のところ、種別1に相当する観測網としては、代表としてK-NETが挙げられる状況である。即ち、地震観測には、地震観測データを第三者機関がリアルタイムで取得するのは簡単ではないという制約がある。本発明は、このような制約の下で、地震発生直後に各地点での地震動を即時的且つ高精度に推定することを目的として、なされた。
【0029】
このような日本国内の現在の状況を踏まえ、本発明の背景及び目的をまとめると、以下の通りである。
【0030】
まず、本発明の背景として、以下の背景が挙げられる。
背景1:地震発生直後に各地の揺れの大きさを詳細に把握することは、地震後に適切な即時対応を行うために重要であり、地震動の観測情報および推定情報は有用な情報となり得る。
背景2:地震動推定情報を、地震後の即時対応における各種判断の支援情報として活用するためには、情報発信の即時性と、推定精度の高さが求められる。
【0031】
また、本発明の目的として、以下の目的が挙げられる。
目的1:地震発生直後に各メッシュ(各地点)の地震動を即時的且つ高精度に推定し情報公開する。
【0032】
ここで、各メッシュ(各地点)の地震動を即時的且つ高精度に推定するために、従来行われてきた地震動推定方法を、比較例の地震動推定方法として説明する。また、以下では、例えばK-NETである種別1の地震観測網を、地震観測網Aと称し、例えばKiK-netである種別2の地震観測網を、地震観測網Bと称する場合がある。
【0033】
比較例の地震動推定方法では、地震観測網Aの各観測地点において実際に観測された観測値のみを用いて、対象地点の地震動の大きさを推定する。この際に、空間補間を1回行う。比較例の地震動推定方法は、後述する
図2及び
図3を用いて説明する補正係数データベースの作成(
図2のステップS10)の一部に相当するものであるので、その具体的な方法については、説明を省略する。
【0034】
このような比較例の地震動推定方法では、以下の課題がある。
課題1:活用できる種別1の地震観測網(地震観測網A)は限られている。
課題2:種別2の地震観測網(地震観測網B)及び種別3の地震観測網は即時的な地震推定には活用できない。また、過去の観測データは蓄積されているが、即時的な地震動推定に対しては十分に活用できていない。
課題3:比較例の地震動推定方法では、あるメッシュ(地点)の地震動の大きさを過大又は過小に推定する傾向を有するという、地点固有の系統的誤差が生ずる場合がある。
【0035】
地震観測網を用いて観測される地震動データを空間補間することにより、任意の地点の地震動を推定する場合には、空間補間に利用することができる観測データ数が多いほど、推定精度が向上すると考えられる。ところが、前述した地震観測網のうち、地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得可能な地震観測網は、限られており、その他の多くの地震観測網は、即時的な地震推定には活用できない。
【0036】
一方、本実施の形態の地震動推定装置による地震動推定方法によれば、地震観測網Aの各観測地点において実際に観測された観測値と、地震観測網Bの各観測地点において実際に観測された観測値ではないが疑似的に算出された観測値である疑似観測値と、の両方を用いて、対象地点の地震動の大きさを推定する。この際に、疑似観測値を算出する前後で空間補間を2回行う。具体的な地震動推定方法については、後述する
図2及び
図3乃至
図5を用いて説明する。
【0037】
本実施の形態の地震動推定装置による地震動推定方法では、以下の効果がある。
効果1:種別2の地震観測網(地震観測網B)及び種別3の地震観測網が、あたかも種別1の地震観測網(地震観測網A)であるかのように振る舞うことができる。
効果2:種別2の地震観測網(地震観測網B)及び種別3の地震観測網において蓄積された過去の観測データを有効活用できる。
効果3:特に疑似観測値が存在するメッシュ(地点)の周辺では、従来よりも地震動の推定精度が向上するため、地震動推定結果の全体的な信頼性が向上する。
効果4:地震が発生するたびに補正係数データベースを更新することができるため、継続的な地震動の推定精度向上が可能になる。
即ち、本実施の形態の地震動推定装置による地震動推定方法によれば、地震発生直後に各地点での地震動を即時的且つ高精度に推定して情報公開することができる。
【0038】
また、本発明の一実施形態である実施の形態の地震動推定装置及び地震動推定方法における技術的思想については、以下のように考えることもできる。
【0039】
前述したように、地震動推定においては、一般的に空間補間に利用することができる観測データ数が多いほど、推定精度が向上すると考えられる。しかし、地震発生直後に準リアルタイムでデータ取得可能な地震観測網は、K-NETが代表としてと限られているのが現状である。
【0040】
一方、準リアルタイムでデータ取得ができないため、地震発生後の即時的な地震動推定に活用できていない地震観測網も存在するが、過去に発生した地震の観測データが蓄積されている。本発明者らは、このような地震観測網の過去の観測データを有効に活用しつつ、従来の地震動推定手法より高い精度の地震動推定を実現するための手法として、本発明を発明するに到った。
【0041】
<地震動推定装置>
次に、
図1を参照し、実施の形態の地震動推定装置について説明する。
図1は、実施の形態の地震動推定装置の構成を示すブロック図である。
【0042】
本実施の形態の地震動推定装置100は、複数の地点即ち複数のK-NET位置11a(後述する
図4参照)の各々で地表面(地表)GS1(後述する
図4参照)にそれぞれ設置された複数の地震計11b(後述する
図4参照)の各々により観測される地震動に基づいて、複数のK-NET位置11aのいずれともそれぞれ異なる複数の地点即ち複数のメッシュ位置31a(後述する
図5参照)の各々における地表面GS1の地震動を推定する地震動推定装置である。
【0043】
図1に示すように、本実施の形態の地震動推定装置100は、第1地表観測値取得部111と、基盤入力値算出部112と、第1空間補間部121と、第1地表推定値算出部122と、補正部123と、基盤疑似入力値算出部124と、第2空間補間部131と、第2地表推定値算出部132と、を有する。また、本実施の形態の地震動推定装置100として、コンピュータ101を用いることができ、このような場合、第1地表観測値取得部111、基盤入力値算出部112、第1空間補間部121、第1地表推定値算出部122、補正部123、基盤疑似入力値算出部124、第2空間補間部131及び第2地表推定値算出部132の各々として、コンピュータ101を用いることができる。
【0044】
第1地表観測値取得部111は、地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に複数の地震計11b(後述する
図4参照)の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数のK-NET位置の地表観測値11(後述する
図4参照)を取得する。
【0045】
基盤入力値算出部112は、複数のK-NET位置11a(後述する
図4参照)の各々において地表面GS1(後述する
図4参照)よりも下方の地中に位置する工学的基盤面FS1(後述する
図4参照)の深さ位置の地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式12a(後述する
図4参照)、及び、第1地表観測値取得部111により取得された複数のK-NET位置の地表観測値11(後述する
図4参照)に基づいて、複数のK-NET位置11aの各々において地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ入力される地震動の入力値である複数のK-NET位置の基盤入力値12(後述する
図4参照)を算出する。関係式12aについては、後述する
図2を用いて説明する。
【0046】
なお、本願明細書において、「工学的基盤面」ではなく「基盤面」と称する場合でも、「工学的基盤面」を意味する場合がある。即ち、「基盤」とは、「工学的基盤」を意味する場合がある。また、「工学的基盤」とは、建築又は土木等の工学分野で使用される用語であり、構造物を設計するとき、地震動設定の基礎とする良好な地盤を意味する。「工学的基盤」におけるS波速度は対象とする構造物の種類又は地盤状況によって異なるものの、多くの場合S波速度が300~700m/s程度以上となる地盤を意味する。
【0047】
第1空間補間部121は、複数のK-NET位置11a(後述する
図4参照)における複数のK-NET位置の基盤入力値12(後述する
図4参照)に対して空間補間を行う、即ち複数のK-NET位置の基盤入力値12を空間補間することにより、複数のK-NET位置11a及び複数のメッシュ位置31a(後述する
図5参照)のいずれともそれぞれ異なる複数の地点であって、且つ、複数の地点の各々で地表面GS1(後述する
図4参照)に地震計21b(後述する
図4参照)がそれぞれ設置された複数の地点即ち複数のKiK-net位置21a(後述する
図4参照)の各々において、地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に工学的基盤面FS1(後述する
図4参照)の深さ位置でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のKiK-net位置の基盤推定値21(後述する
図4参照)を算出する。空間補間を行う方法として、例えば逆距離加重法又は最小曲率法等の各種の方法を用いることができる(以下の空間補間においても同様)。
【0048】
第1地表推定値算出部122は、複数のKiK-net位置21a(後述する
図4参照)の各々において工学的基盤面FS1(後述する
図4参照)の深さ位置の地震動と地表面GS1(後述する
図4参照)で観測される地震動との関係を表す関係式22a(後述する
図4参照)、及び、第1空間補間部121により算出された複数のKiK-net位置の基盤推定値21(後述する
図4参照)に基づいて、複数のKiK-net位置21aの各々において地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に地表面GS1でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のKiK-net位置の地表推定値22(後述する
図4参照)を算出する。関係式22aについては、後述する
図2を用いて説明する。
【0049】
補正部123は、複数のKiK-net位置21a(後述する
図4参照)の各々について、KiK-net位置の地表推定値22(後述する
図4参照)を補正するための補正係数データ23a(後述する
図4参照)であって、地震EQ1(後述する
図2参照)が発生する前に地震EQ1と異なる地震EQ2(後述する
図2参照)が発生した時にKiK-net位置21aに設置された地震計21b(後述する
図3参照)により観測されてなるKiK-net位置の地表観測値23b(後述する
図3参照)、及び、地震EQ2が発生した時に複数の地震計11b(後述する
図3参照)の各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数のK-NET位置の地表観測値13(後述する
図3参照)、に基づいて算出された補正係数データ23aを用いてKiK-net位置の地表推定値22を補正し、複数のKiK-net位置21aの各々についてKiK-net位置の地表推定値22がそれぞれ補正されてなる疑似的な観測値である複数のKiK-net位置の地表疑似観測値23(後述する
図4参照)を取得する。
【0050】
基盤疑似入力値算出部124は、複数のKiK-net位置21a(後述する
図5参照)の各々において工学的基盤面FS1(後述する
図5参照)の深さ位置で入力される地震動と地表面GS1(後述する
図5参照)で観測される地震動との関係を表す関係式24a(後述する
図5参照)、及び、補正部123により取得された複数のKiK-net位置の地表疑似観測値23(後述する
図5参照)に基づいて、複数のKiK-net位置21aの各々において地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ入力される地震動の疑似的な入力値である複数のKiK-net位置の基盤疑似入力値24(後述する
図5参照)を算出する。関係式24aについては、後述する
図2を用いて説明する。
【0051】
第2空間補間部131は、複数のKiK-net位置21a(後述する
図5参照)における複数のKiK-net位置の基盤疑似入力値24(後述する
図5参照)、及び、複数のK-NET位置11a(後述する
図5参照)における複数のK-NET位置の基盤入力値12(後述する
図5参照)に対して空間補間を行う、即ち複数のKiK-net位置の基盤疑似入力値24及び複数のK-NET位置の基盤入力値12を空間補間することにより、複数のメッシュ位置31a(後述する
図5参照)の各々において地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に工学的基盤面FS1(後述する
図5参照)の深さ位置でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のメッシュ位置の基盤推定値31(後述する
図5参照)を算出する。
【0052】
第2地表推定値算出部132は、複数のメッシュ位置31a(後述する
図5参照)の各々において工学的基盤面FS1(後述する
図5参照)の深さ位置での地震動と地表面GS1(後述する
図5参照)で観測される地震動との関係を表す関係式32a(後述する
図5参照)、及び、第2空間補間部131により算出された複数のメッシュ位置の基盤推定値31(後述する
図5参照)に基づいて、複数のメッシュ位置31aの各々において地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に地表面GS1でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のメッシュ位置の地表推定値32(後述する
図5参照)を算出する。関係式32aについては、後述する
図2を用いて説明する。
【0053】
本実施の形態の地震動推定装置100として用いられるコンピュータ101は、中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)、RAM(Random Access Memory)、記憶部、データ・指令入力部、画像表示部及び出力部等により構成されている。
【0054】
CPUは、図示は省略するが、各種データに対して、四則演算(加算、減算、乗算及び除算)、論理演算(論理積、論理和、否定及び排他的論理和等)、又は、データ比較、若しくはデータシフト等の処理を実行する部分である。なお、記憶部は、図示は省略するが、ハードディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)、又は、ROM(Read Only Memory)等を有しており、CPUを制御するための制御プログラム、及び、CPUが用いる各種データ等を格納している部分である。また、ROMは、一般に、半導体チップ等により構成される。
【0055】
本実施の形態の地震動推定装置100によれば、前述したように、地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得可能な地震観測網Aの各観測地点の観測値と、地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得できない地震観測網Bの各観測地点において実際に観測された観測値ではないが疑似的に算出された観測値である疑似観測値と、の両方を用いて、対象地点の地震動の大きさを推定する。この際に、疑似観測値を算出する前後で空間補間を2回行う。
【0056】
そのため、地震観測網Bが、あたかも地震観測網Aであるかのように振る舞うことができ、空間補間に利用することができる観測データ数が多くなるので、推定精度が向上する。従って、地震発生直後に各地点での地震動を即時的且つ高精度に推定することができる。
【0057】
また、地震観測網Bが地震発生直後に準リアルタイムで観測データが取得できない地震観測網であるから、補正部123は、複数のKiK-net位置21a(後述する
図4参照)の各々について、地震EQ1(後述する
図2参照)が発生した時に地震計21b(後述する
図4参照)により観測されてなるKiK-net位置の地表観測値23c(後述する
図4参照)が取得される前に、KiK-net位置の地表推定値22(後述する
図4参照)を補正することになる。これにより、地震観測網Bが、あたかも地震観測網Aであるかのように振る舞うことができる。
【0058】
好適には、地震動推定装置100は、複数のKiK-net位置21a(後述する
図4参照)の各々についてKiK-net位置の地表推定値22(後述する
図4参照)をそれぞれ補正するための複数の補正係数データ23a(後述する
図4参照)を算出する補正係数データ算出部123aを有する。後述する
図2乃至
図5を用いて説明するように、補正係数データ算出部123aは、第1地表観測値取得処理と、基盤入力値算出処理と、空間補間処理と、地表推定値算出処理と、第2地表観測値取得処理と、を含む補正係数データ算出処理を実行する。また、補正係数データ算出部123aは、過去の地震における地震観測網Aの観測値を取得し、空間補間により過去の地震における地震観測網Bの観測点位置の推定値を算出した後、過去の地震における地震観測網Bの観測値を取得し、観測値と推定値の差分を統計的に整理し、補正係数データベースを作成するものである。
【0059】
これにより、地震観測網において蓄積された過去の観測データを有効活用できる。また、あるメッシュ(地点)の地震動を過大又は過小に推定する傾向を有するという、地点固有の系統的誤差が生じる場合があるが、疑似観測値が存在するメッシュ(地点)の周辺では、従来よりも地震動の推定精度が向上するため、地震動推定結果の全体的な信頼性が向上する。
【0060】
<地震動推定方法>
次に、
図2乃至
図5を参照し、実施の形態の地震動推定装置による地震動推定方法について説明する。
図2は、実施の形態の地震動推定方法の一部のステップを示すフロー図である。
図3乃至
図5は、実施の形態の地震動推定方法を説明するための図である。
【0061】
本実施の形態の地震動推定方法は、本実施の形態の地震動推定装置による地震動推定方法であり、複数の地点即ち複数のK-NET位置11aの各々で地表面(地表)GS1にそれぞれ設置された複数の地震計11bの各々により観測される地震動に基づいて、複数のK-NET位置11aのいずれともそれぞれ異なる複数の地点即ち複数のメッシュ位置31aの各々における地表面の地震動を推定する地震動推定方法である。また、前述したコンピュータ101は、
図2乃至
図5を用いて説明する地震動推定方法の各ステップの動作及び処理を行うためのプログラムを実行するものである。
【0062】
図2に示すように、本実施の形態の地震動推定装置100(
図1参照)による地震動推定方法では、まず、補正係数データベースを作成する(
図2のステップS10)。この補正係数データベースを作成する方法として、以下のような方法が挙げられるが、補正係数データベースを作成する方法は、特に限定されるものではない。
【0063】
このステップS10では、複数のK-NET位置11a及び複数のメッシュ位置31aのいずれともそれぞれ異なる複数の地点であって、且つ、複数の地点の各々で地表面GS1に地震計21bがそれぞれ設置された複数の地点即ち複数のKiK-net位置21aの各々についてKiK-net位置の地表推定値22をそれぞれ補正するための複数の補正係数データ23aを補正係数データ算出部123a(
図1参照)により算出する。
【0064】
ステップS10では、まず、過去の地震における地震観測網Aの観測値を取得する。
図3に示すように、地震観測網Aの地表の観測値である地表観測値A
si(i=1,2,・・・,I
A、I
Aは2以上の整数)を、表層地盤特性を考慮して基盤入力値A
bi(i=1,2,・・・,I
A)に換算する。
【0065】
具体的には、地震EQ1が発生する前に地震EQ1と異なる地震EQ2が発生した時に複数の地震計11bの各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数のK-NET位置の地表観測値13(地表観測値A
si)を取得する第1地表観測値取得処理(
図2のステップS11)を補正係数データ算出部123a(
図1参照)により実行する。
【0066】
また、複数のK-NET位置11aの各々において工学的基盤面FS1の深さ位置の地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式14a、及び、第1地表観測値取得処理にて取得された複数のK-NET位置の地表観測値13に基づいて、複数のK-NET位置11aの各々において地震EQ2が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ入力される地震動の入力値である複数のK-NET位置の基盤入力値14(基盤入力値A
bi)を算出する基盤入力値算出処理(
図2のステップS12)を補正係数データ算出部123a(
図1参照)により実行する。関係式14aについては、関係式12aを説明する際に説明する。
【0067】
ステップS10では、次に、空間補間(事前)を行う。
図3に示すように、地震観測網Aの基盤入力値A
bi(i=1,2,・・・,I
A)を用いて基盤上で空間補間を行い、地震観測網Bの観測点が存在する位置の基盤上の推定値である基盤推定値B´
bi(i=1,2,・・・,I
B、I
Bは2以上の整数)を算出する。
【0068】
具体的には、複数のK-NET位置11aにおける複数のK-NET位置の基盤入力値14に対して空間補間を行う、即ち複数のK-NET位置の基盤入力値14を空間補間することにより、複数のKiK-net位置21aの各々において地震EQ2が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のKiK-net位置の基盤推定値25(基盤推定値B´
bi)を算出する空間補間処理(
図2のステップS13)を補正係数データ算出部123a(
図1参照)により実行する。
【0069】
ステップS10では、次に、過去の地震における地震観測網Bの観測点位置の推定値を算出する。
図3に示すように、基盤上の推定値である基盤推定値B´
biを、表層地盤特性を考慮して地表の推定値である地表推定値B´
si(i=1,2,・・・,I
B)に換算する。
【0070】
具体的には、複数のKiK-net位置21aの各々において工学的基盤面FS1の深さ位置の地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式26a、及び、空間補間処理にて算出された複数のKiK-net位置の基盤推定値25に基づいて、複数のKiK-net位置21aの各々において地震EQ2が発生した時に地表面GS1でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のKiK-net位置の地表推定値26(地表推定値B´
si)を算出する地表推定値算出処理(
図2のステップS14)を補正係数データ算出部123a(
図1参照)により実行する。関係式26aについては、関係式12aを説明する際に説明する。
【0071】
ステップS10では、また、過去の地震における地震観測網Bの観測値を取得する。
【0072】
具体的には、地震EQ2が発生した時に複数の地震計21bの各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数のKiK-net位置の地表観測値23bを取得する第2地表観測値取得処理(
図2のステップS15)を補正係数データ算出部123a(
図1参照)により実行する。
【0073】
ステップS10では、また、観測値と推定値の差分を統計的に整理する。
図3に示すように、地震観測網Bの観測点ごとに、地表の推定値である地表推定値B´
siと地表の観測値である地表観測値B
siとの差を統計的に整理して補正係数を算出し、データベース化する。
【0074】
前述した、第1地表観測値取得処理(
図2のステップS11)と、基盤入力値算出処理(
図2のステップS12)と、空間補間処理(
図2のステップS13)と、地表推定値算出処理(
図2のステップS14)と、第2地表観測値取得処理(
図2のステップS15)と、を含む処理を、前述したように補正係数データ算出処理とする。このようにしたとき、補正係数データ算出部123a(
図1参照)は、地震EQ2がN回(Nは1以上好ましくは2以上の整数)発生するごとに補正係数データ算出処理を補正係数データ算出部123aにより実行することにより、複数のKiK-net位置21aの各々について、N個のKiK-net位置の地表推定値26を算出し、N個のKiK-net位置の地表観測値23bを取得し、算出されたN個のKiK-net位置の地表推定値26と、取得されたN個のKiK-net位置の地表観測値23bと、に基づいて、補正係数データ23aを補正係数データ算出部123aにより算出する(
図2のステップS16)。言い換えれば、
図2のステップS16では、地震EQ2がN回発生するごとに算出されたKiK-net位置の地表推定値26と取得されたKiK-net位置の地表観測値23bとの組におけるKiK-net位置の地表推定値26とKiK-net位置の地表観測値23bとの誤差がN回の地震EQ2の間で統計的に小さくなるように、補正係数データ23aを補正係数データ算出部123aにより算出する。
【0075】
ステップS10では、次に、算出された補正係数データ23aに基づいて、補正係数データベースを作成する(
図2のステップS17)。なお、いずれかの方法により補正係数データ23aを算出し、算出された補正係数データ23aに基づいて補正係数データベースが作成されればよく、補正係数データ23aを算出する方法、及び、補正係数データベースを作成する方法は、上記した方法には限定されない。
【0076】
このようにして補正係数データベースを作成した後、地震が発生した時に、本実施の形態の地震動推定装置による地震動推定方法を行って、地震動を推定する。具体的に地震動を推定する方法は、以下の通りである。
【0077】
まず、地震EQ1が発生した時に、地震観測網Aの観測値を即時取得する。
図4に示すように、地震発生直後に地震観測網Aの地表の観測値である地表観測値A
siを即時取得し、表層地盤特性を考慮して基盤入力値A
biを算出する。
【0078】
具体的には、地震EQ1が発生した時に、複数の地震計11bの各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数のK-NET位置の地表観測値11(地表観測値A
si)を第1地表観測値取得部111(
図1参照)により取得する(
図2のステップS21)。
【0079】
また、複数のK-NET位置11aの各々において地表面GS1よりも下方の地中に位置する工学的基盤面FS1の深さ位置の地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式12a、及び、ステップS21にて第1地表観測値取得部111(
図1参照)により取得された複数のK-NET位置の地表観測値11に基づいて、複数のK-NET位置11aの各々において地震EQ1が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ入力される地震動の入力値である複数のK-NET位置の基盤入力値12(基盤入力値A
bi)を基盤入力値算出部112(
図1参照)により算出する(
図2のステップS22)。
【0080】
関係式12aとして、地表面GS1で観測される地震動の工学的基盤面FS1の深さ位置の地震動に対する増幅率である、表層地盤の増幅率を表す関係式を用いることができる。また、表層地盤の増幅率として、上記非特許文献1の式を用いることもできる。
【0081】
次に、空間補間(1回目)を行う。
図4に示すように、地震観測網Aの基盤入力値A
bi(i=1,2,・・・,I
A)を用いて基盤上で空間補間を行い、地震観測網Bの観測点が存在する位置の基盤上の推定値である基盤推定値B´
bi(i=1,2,・・・,I
B)を算出する。
【0082】
具体的には、複数のK-NET位置11aにおける複数のK-NET位置の基盤入力値12に対して空間補間を行う、即ち複数のK-NET位置の基盤入力値12を第1空間補間部121(
図1参照)により空間補間することにより、複数のK-NET位置11a及び複数のメッシュ位置31aのいずれともそれぞれ異なる複数の地点であって、且つ、複数の地点の各々で地表面GS1に地震計21bがそれぞれ設置された複数の地点即ち複数のKiK-net位置21aの各々において、地震EQ1が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のKiK-net位置の基盤推定値21(基盤推定値B´
bi)を第1空間補間部121により算出する(
図2のステップS23)。
【0083】
次に、地震観測網Bの観測点位置の推定値を算出する。
図4に示すように、基盤上の推定値である基盤推定値B´
biを、表層地盤特性を考慮して地表の推定値である地表推定値B´
si(i=1,2,・・・,I
B)に換算する。
【0084】
具体的には、複数のKiK-net位置21aの各々において工学的基盤面FS1の深さ位置の地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式22a、及び、ステップS23にて第1空間補間部121により算出された複数のKiK-net位置の基盤推定値21に基づいて、複数のKiK-net位置21aの各々において地震EQ1が発生した時に地表面GS1でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のKiK-net位置の地表推定値22(地表推定値B´
si)を第1地表推定値算出部122(
図1参照)により算出する(
図2のステップS24)。
【0085】
次に、推定値を補正する。
図4に示すように、地表の推定値である地表推定値B´
siを、事前に作成した補正係数を用いて補正し、地表の疑似観測値である地表疑似観測値B
*
si(i=1,2,・・・,I
B)を算出する。
【0086】
具体的には、複数のKiK-net位置21aの各々について、KiK-net位置の地表推定値22を補正するための補正係数データ23aであって、地震EQ1が発生する前に地震EQ1と異なる地震EQ2が発生した時にKiK-net位置21aに設置された地震計21bにより地震動が観測されてなるKiK-net位置の地表観測値23b、及び、地震EQ2が発生した時に複数の地震計11bの各々によりそれぞれ観測されてなる複数のK-NET位置の地表観測値13、に基づいて算出された補正係数データ23aを用いて、KiK-net位置の地表推定値22を補正部123(
図1参照)により補正し、複数のKiK-net位置21aの各々についてKiK-net位置の地表推定値22がそれぞれ補正されてなる疑似的な観測値である複数のKiK-net位置の地表疑似観測値23(地表疑似観測値B
*
si)を補正部123により取得する(
図2のステップS25)。
【0087】
この補正係数データ23aについては、前述したように、例えば
図2のステップS10を行って、補正係数データベースを作成し、作成された補正係数データベースに格納されている補正係数データ23aを用いることができる。
【0088】
次に、地震観測網Bの疑似観測値を作成する。
図5に示すように、地震観測網Aの地表の観測値である地表観測値A
si及び地震観測網Bの位置の地表の疑似観測値である地表疑似観測値B
*
siを、表層地盤特性を考慮して、基盤入力値A
bi及び基盤疑似入力値B
*
bi(i=1,2,・・・,I
B)に換算する。
【0089】
具体的には、複数のKiK-net位置21aの各々において工学的基盤面FS1の深さ位置で入力される地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式24a、及び、
図2のステップS25にて補正部123(
図1参照)により取得された複数のKiK-net位置の地表疑似観測値23に基づいて、複数のKiK-net位置21aの各々において地震EQ1が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ入力される地震動の疑似的な入力値である複数のKiK-net位置の基盤疑似入力値24(基盤疑似入力値B
*
bi)を基盤疑似入力値算出部124(
図1参照)により算出する(
図2のステップS26)。なお、基盤入力値A
bi即ちK-NET位置の基盤入力値12は、ステップS22にて算出されている。
【0090】
次に、空間補間(2回目)を行う。
図5に示すように、基盤入力値A
bi及び基盤疑似入力値B
*
biを用いて基盤上で空間補間を行い、各メッシュの基盤上の推定値である基盤推定値M´
bi(i=1,2,・・・,I
M、I
Mは2以上の整数)を算出する。また、
図5に示すように、各メッシュの基盤上の推定値である基盤推定値M´
biを、表層地盤特性を考慮して地表の推定値である地表推定値M´
si(i=1,2,・・・,I
M)に換算する。
【0091】
具体的には、複数のKiK-net位置21aにおける複数のKiK-net位置の基盤疑似入力値24、及び、複数のK-NET位置11aにおける複数のK-NET位置の基盤入力値12に対して空間補間を行う、即ち複数のKiK-net位置の基盤疑似入力値24及び複数のK-NET位置の基盤入力値12を第2空間補間部131(
図1参照)により空間補間することにより、複数のメッシュ位置31aの各々において地震EQ1が発生した時に工学的基盤面FS1の深さ位置でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のメッシュ位置の基盤推定値31(基盤推定値M´
bi)を第2空間補間部131により算出する(
図2のステップS27)。
【0092】
また、複数のメッシュ位置31aの各々において工学的基盤面FS1の深さ位置での地震動と地表面GS1で観測される地震動との関係を表す関係式32a、及び、
図2のステップS27にて第2空間補間部131(
図1参照)により算出された複数のメッシュ位置の基盤推定値31に基づいて、複数のメッシュ位置31aの各々において地震EQ1が発生した時に地表面GS1でそれぞれ推定される地震動の推定値である複数のメッシュ位置の地表推定値32(地表推定値M´
si)を第2地表推定値算出部132により算出する(
図2のステップS28)。
【0093】
その後、地震動分布をインターネットを通じて即時的に公開する。
【0094】
本実施の形態の地震動推定方法によれば、地震観測網Aの各観測地点において実際に観測された観測値と、地震観測網Bの各観測地点において実際に観測された観測値ではないが疑似的に算出された観測値である疑似観測値と、の両方を用いて、対象地点の地震動の大きさを推定する。この際に、疑似観測値を算出する前後で空間補間を2回行う。
【0095】
これにより、即時的に情報公開されない地震観測網(地震観測網B等)が、あたかも即時的に情報公開される地震観測網(地震観測網A)であるかのように振る舞うことができる。地震動推定においては、一般的に空間補間に利用することができる観測データ数が多いほど、推定精度が向上すると考えられるため、本実施の形態によれば、地震動の推定精度を向上させることができる。
【0096】
また、即時的に情報公開されない地震観測網(地震観測網B等)において蓄積された過去の観測データを有効活用できる。また、特に疑似観測値が存在するメッシュ(地点)の周辺では、従来よりも地震動の推定精度が向上するため、地震動推定結果の全体的な信頼性が向上する。
【0097】
好適には、ステップS10において、補正係数データ算出部123a(
図1参照)は、
図3に示すように、複数のKiK-net位置21aの各々について、KiK-net位置の地表推定値26からKiK-net位置の地表観測値23bを減じて得られる差分値27を算出する差分値算出処理を含む補正係数データ算出処理を実行する。また、補正係数データ算出部123aは、地震EQ2がN回発生するごとに補正係数データ算出処理を実行することにより、複数のKiK-net位置21aの各々について、N個の差分値27を算出し、算出されたN個の差分値27に基づいて、補正係数データ23aを算出する。ここで、地表推定値26等の推定値及び地表観測値23b等の観測値として、最大加速度、最大速度、計測震度又はSI値など様々な指標を用いることができる。また、指標によっては、観測値と推定値との間で、単純に指標同士の差分を求めるのではなく、それぞれの指標の対数等、指標に基づいて算出された算出値同士の差分を求める場合もある。即ち、本願明細書では、推定値から観測値を減じて得られる差分値を算出する、とは、推定値と観測値との間で、最大加速度、最大速度、計測震度又はSI値など様々な指標同士の差分値を算出することのみならず、指標の対数等、指標に基づいて算出された算出値同士の差分を算出することも意味する。
【0098】
これにより、例えば後述する
図6を用いて説明するように、あるメッシュ(地点)の地震動の大きさを過大又は過小に推定する傾向を有するという、地点固有の系統的誤差を精度良く把握することができるので、即時的に情報公開されない地震観測網(地震観測網B等)において蓄積された過去の観測データを更に有効活用できる。
【0099】
<補正係数データの更新>
好適には、本実施の形態の地震動推定装置100(
図1参照)は、
図3に示すように、地震EQ1(
図2参照)が発生した時に複数の地震計21bの各々によりそれぞれ地震動が観測されてなる複数のKiK-net位置の地表観測値28を取得する第2地表観測値取得部125(
図1参照)を有する。
【0100】
補正係数データ算出部123aは、複数のKiK-net位置の地表観測値28が第2地表観測値取得部125(
図1参照)により取得された後、複数のKiK-net位置21aの各々について、N個のKiK-net位置の地表推定値26及びKiK-net位置の地表推定値22よりなる(N+1)個のKiK-net位置の地表推定値26bと、N個のKiK-net位置の地表観測値23b及びKiK-net位置の地表観測値28よりなる(N+1)個のKiK-net位置の地表観測値23cと、に基づいて、地震EQ2がN回発生するごとに算出されたKiK-net位置の地表推定値26と取得されたKiK-net位置の地表観測値23bとの組におけるKiK-net位置の地表推定値26とKiK-net位置の地表観測値23bとの誤差、及び、KiK-net位置の地表推定値22とKiK-net位置の地表観測値28との誤差が、N回の地震EQ2及び地震EQ1の間で統計的に小さくなるように、補正係数データ23aを算出して更新する。
【0101】
これにより、地震が発生するたびに補正係数データベースを更新することができるため、継続的な地震動の推定精度向上が可能になる。
【0102】
<補正による疑似観測値の精度の検証>
次に、
図6及び
図7を参照し、本実施の形態の地震動推定方法を用いた補正による疑似観測値の精度の検証を行った結果について説明する。
【0103】
図6は、各地震観測点(各地点)における計測震度差[推定-観測]の一例を示すグラフである。
図6は、多数回の地震が発生した時に、前述した比較例の地震動推定方法を行い、地震観測網Aの各地点で観測された地震動データを用いて地震観測網Bの各地点で観測される震度を推定した推定値から、地震観測網Bの地震計により実際に観測された観測値を減じて得られた値を示している。
図6に示す例では、地震観測網Aの各地点で観測された地震動データとして、防災科学技術研究所のK-NETの各観測地点で観測された地震動データを用いている。また、地震観測網Bの各地点で観測される震度を推定した推定値とは、防災科学技術研究所のKiK-netの各地点で観測される震度を推定した推定値である。また、地震観測網Bの地震計により実際に観測された観測値として、KiK-netの各地点で観測された観測値を用いている。また、
図6に示す例では、19の地点の各々について、複数の個別地震の計測震度差と、中央値、平均値及び最頻値と、を示している。
【0104】
図7は、観測計測震度と推定計測震度との誤差を示すグラフである。
図7は、観測計測震度と推定計測震度との誤差を、観測計測震度と推定計測震度との間の二乗平均平方根(Root Mean Square:RMS)により示している。また、
図7(a)は、補正する前の誤差を示し、
図7(b)は、中央値に等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合の誤差を示し、
図7(c)は、平均値に等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合の誤差を示し、
図7(d)は、最頻値に等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合の誤差を示している。なお、
図7(a)乃至
図7(d)では、
図6に示したデータ数よりも多い14110個のデータをプロットしている。
【0105】
図6に例示されるように、多くの地点において、計測震度差の中央値、平均値又は最頻値は、地点ごとに、正負いずれかの方向にずれる傾向を示していることが分かる。即ち、前述したように、従来の方法では、あるメッシュの地震動を過大又は過小に推定する傾向を有するという、地点固有の系統的誤差が生じる場合があることを示している。また、
図7(a)に示すように、補正係数データを用いた補正を行う前は、誤差RMSは0.60であった。
【0106】
一方、
図7(b)に示すように、中央値に等しくなるように算出された補正係数データで補正する場合を考える。このような場合、補正係数データ算出部123a(
図1参照)は、
図3に示すように、複数のKiK-net位置21aの各々について、補正係数データ23aがN個の差分値27をN個の差分値27の値が小さい順に並べたとき中央に位置する値であるN個の差分値27の中央値に等しくなるように、補正係数データ23aを算出することになる。また、補正部123(
図1参照)は、KiK-net位置の地表推定値22から補正係数データ23aを減ずることにより、KiK-net位置の地表推定値22を補正することになる。
【0107】
なお、
図7(c)に示すように、平均値に等しくなるように算出された補正係数データ23aで補正する場合、補正係数データ算出部123a(
図1参照)は、
図3に示すように、複数のKiK-net位置21aの各々について、補正係数データ23aがN個の差分値27の平均値に等しくなるように、補正係数データ23aを算出することになる。また、
図7(d)に示すように、最頻値に等しくなるように算出された補正係数データ23aで補正する場合、補正係数データ算出部123aは、複数のKiK-net位置21aの各々について、補正係数データ23aがN個の差分値27の最頻値に等しくなるように、補正係数データ23aを算出することになる。
【0108】
図7(b)に示すように、中央値に等しくなるように算出された補正係数データ23aで補正した場合は、誤差RMSは0.35であった。また、
図7(c)に示すように、平均値に等しくなるように算出された補正係数データ23aで補正した場合は、誤差RMSは0.38であった。また、
図7(d)に示すように、最頻値に等しくなるように算出された補正係数データ23aで補正した場合は、誤差RMSは0.38であった。
【0109】
即ち、
図7(b)乃至
図7(d)に示すように、中央値、平均値及び最頻値のいずれかに等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合、中央値に等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合に、最も誤差が小さくなった。従って、中央値に等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合、平均値及び最頻値のいずれかに等しくなるように算出された補正係数データで補正した場合よりも、各地点での地震動をより高精度に推定できることが示された。
【0110】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0111】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0112】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、地震動を推定する地震動推定装置及び地震動推定方法に適用して有効である。
【符号の説明】
【0114】
11 K-NET位置の地表観測値
11a K-NET位置
11b、21b 地震計
12 K-NET位置の基盤入力値
12a、14a、22a、24a、26a、32a 関係式
13 K-NET位置の地表観測値
14 K-NET位置の基盤入力値
21 KiK-net位置の基盤推定値
21a KiK-net位置
22 KiK-net位置の地表推定値
23 KiK-net位置の地表疑似観測値
23a 補正係数データ
23b、23c KiK-net位置の地表観測値
24 KiK-net位置の基盤疑似入力値
25 KiK-net位置の基盤推定値
26、26b KiK-net位置の地表推定値
27 差分値
28 KiK-net位置の地表観測値
31 メッシュ位置の基盤推定値
31a メッシュ位置
32 メッシュ位置の地表推定値
100 地震動推定装置
101 コンピュータ
111 第1地表観測値取得部
112 基盤入力値算出部
121 第1空間補間部
122 第1地表推定値算出部
123 補正部
123a 補正係数データ算出部
124 基盤疑似入力値算出部
125 第2地表観測値取得部
131 第2空間補間部
132 第2地表推定値算出部
EQ1、EQ2 地震
FS1 工学的基盤面
GS1 地表面