(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168392
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】細胞凍結装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221031BHJP
C12N 1/04 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073792
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】秋山 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】渡部 広機
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 裕太
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029DG10
4B065AA90X
4B065BD09
4B065BD12
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明は、冷却性能を高め、基板を効率よくかつ長時間に渡って液体窒素温度に冷却し、基板に着滴させた細胞内包液滴を安定して瞬時に凍結する細胞凍結装置を提供とする。
【解決手段】細胞凍結装置は、細胞を内包する液滴が着滴される基板16と、基板を含む被冷却体に接触し被冷却体を冷却する冷却部材とを備える。冷却部材は液体窒素11を吸収した液体窒素吸収材13であり、液体窒素吸収材13は液体窒素に対し濡れ性を有する繊維材料またはスポンジフォームである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を内包する液滴が着滴される基板と、
前記基板を含む被冷却体に接触し前記被冷却体を冷却する冷却部材と、を備え、
前記冷却部材は液体窒素を吸収した液体窒素吸収材であることを特徴とする細胞凍結装置。
【請求項2】
前記液体窒素吸収材は、液体窒素に対し濡れ性を有する繊維材料またはスポンジフォームであることを特徴とする請求項1に記載の細胞凍結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を内包する液滴(以下、「細胞内包液滴」という。)を冷却した基板に着滴させ瞬間的に凍結する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療、細胞治療、臨床分野等の細胞を取り扱う様々な分野において、細胞を安定に長期間保存が可能な細胞凍結は必須の技術である。細胞凍結には、既存の手法として緩慢凍結法と急速凍結法がある。しかし、これらは、各々細胞内に生成する氷晶を抑制しながら凍結状態(ガラス化状態)にするため、ジメチルスルホキシド(DMSO)やグリセロールなどの凍結保護剤の添加が必須であった。そのため、凍結保護剤の細胞毒性や、凍結過程における細胞内部への浸透圧差による脱水作用が問題視されていた。
【0003】
これに対し本発明者は、凍結保護剤を全く必要としないインクジェット技術による超瞬間細胞凍結法を開発した(非特許文献1参照)。本手法では、インクジェットヘッドから細胞を微小液滴に内包して吐出し、液体窒素で冷却された基板に着滴させていた。これにより、氷晶が生成する前に細胞内をガラス化状態とし、細胞の凍結を実現した。なお、基板の冷却は、基板を含む被冷却体を液体窒素で冷却した金属(アルミニウム製)の土台の上に置き行っていた(非特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、金属土台と被冷却体の間の密着性が十分でなく冷却性能が劣り、凍結・解凍工程における基板の昇温や低温速度の低下の問題が生じていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Akiyama et al., “Cryoprotectant-free cryopreservation of mammalian cells by superflash freezing,” Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.116(16), pp.7738-7743, 2019.
【非特許文献2】H. watanabe, Y. Akiyama, “Improved and reproducible cell viability in the superflash freezing method using an automatic thawing apparatus,” Cryobiology, 96, pp.12-18, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、冷却性能を高め、基板を効率よくかつ長時間に渡って液体窒素温度に冷却し、基板に着滴させた細胞内包液滴を安定して瞬時に凍結する細胞凍結装置を提供とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る細胞凍結装置の一例によれば、細胞を内包する液滴が着滴される基板と、基板を含む被冷却体に接触し被冷却体を冷却する冷却部材とを備え、冷却部材は液体窒素を吸収した液体窒素吸収材であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る細胞凍結装置の一例によれば、液体窒素吸収材は、液体窒素に対し濡れ性を有する繊維材料またはスポンジフォームであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る細胞凍結装置によれば、細胞内包液滴が着滴される基板を効率よくかつ長時間に渡って冷却できるので、細胞を安定して瞬時に凍結する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る細胞凍結装置と凍結保存工程を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る細胞凍結装置と解凍工程を説明する図である。
【
図3】本発明の他の実施の形態に係る細胞凍結装置を説明する図である。
【
図4】本発明の実施例に係る細胞凍結装置の液体窒素吸着材とその上に設置された被冷却体の写真である。
【
図5】比較例に係る細胞凍結装置のアルミニウム製土台とその上に設置された被冷却体の写真である。
【
図6】本発明の実施例と比較例の冷却準備時間の測定結果である。
【
図7】本発明の実施例と比較例の低温維持性能の評価結果である。
【
図10】液体窒素吸収材に不織布シートを用いた例である。
【
図11】液体窒素吸収材にポリプロピレンフィルムを用いた例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る細胞凍結装置の実施の形態について、図面に基づいて説明するが、本発明はここで述べられる実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
<一実施の形態>
図1は、本発明の一実施の形態に係る細胞凍結装置と凍結保存工程を説明する図である。本実施の形態は、本細胞凍結装置をインクジェット技術による瞬間細胞凍結に用いた場合である。
【0013】
(冷却部材)
液体窒素11は、発砲スチロール製の容器12内に貯蔵されている。冷却部材である液体窒素吸収材13は、液体窒素11に浸漬し液体窒素11を吸収して液体窒素温度(-196℃)まで冷却されている。液体窒素吸収材とは、液体窒素を吸収する吸収材を意味する。液体窒素吸収材13には、液体窒素11に対し濡れ性を有する繊維材料またはスポンジフォームを用いることができ、例えば、ポリプロピレン樹脂やナイロン樹脂等の不織布、ガラスウール等の繊維、ならびにメラミン、ウレタンおよびポリビニルアルコール等からなる連続気泡を有するスポンジフォームを用いることができる。液体窒素吸収材13が液体窒素11に対し親液性を有することで、冷却部材の液体窒素吸収材13は液体窒素11を十分含み冷却されるからである。濡れ性は、接触角θの大小で評価することができる。接触角θが小さいほど、液体窒素11に対する親和性が高く濡れ性に優れる。接触角θとしては90°以下であることが望ましい。このとき、液体窒素吸収材13は、毛細管現象が顕著になって液体窒素11が浸み込み、液体窒素11を十分含むことができる。また、液体窒素吸収材13は、液体窒素吸着後も硬化しない点から不織布等繊維材料が好適である。
【0014】
液体窒素吸収材13にスポンジフォームを用いる場合は、カットして、例えば直方体形状にすることができる。直方体形状は、上部が平らなため被冷却体を安定して上に設置することが可能である。また、不織布シートを用いる場合は、
図10に示すように、不織布シートをロールケーキのように渦巻状に巻いて渦巻の面が上部・下部となるよう置くことができる。液体窒素11の液は不織布シートに浸み込み不織布シートに沿って上昇する。
【0015】
また、液体窒素吸収材13には、繊維材料やスポンジフォームの他に、フィルムを何重にも重ねたものも用いることができる。フィルム材としては、例えばポリプロピレンフィルムを用いることができる。フィルムを重ねた構造としては、例えば、
図11(a)と(b)に示すものがある。
図11(a)はフィルムを何重にも重ねて束のように一体化し重ねた断面が上部・下部の面になるよう置いた場合、
図11(b)は、フィルムを何重にも巻いて、巻いた断面が上部・下部の面になるよう置いた場合である。どちらの場合も、重なったフィルムとフィルムの間にはわずかな隙間があり、液体窒素11に浸漬すれば、液体窒素はその隙間を通じて毛細管現象により浸み込み、液体窒素を液体窒素吸収材13の上部まで吸い上げ可能である。
【0016】
(被冷却体)
さらに、被冷却体は、ガラスの基板16を含み、アルミニウム製のトランスポーター14、アルミニウム製のキャリア15およびガラスの基板16で構成される。これらは、下からトランスポーター14、キャリア15、基板16の順に重ねられ設置されている。トランスポーター14は、冷却部材の液体窒素吸収材13の上部に伝熱可能に接触し、被冷却体全体が冷却される。液体窒素吸収材13は、伸縮性を有し被冷却体のトランスポーター14と密着するように変形して接触する。よって、効率的に被冷却体のトランスポーター、キャリア15および基板16を液体窒素温度に冷却することができる。これにより、インクジェットヘッド17(ガラス製)のノズルから吐出された細胞内包液滴18を、冷却された基板16の表面上に着滴させて瞬間に凍結することができる。
【0017】
また、本発明の一実施の形態に係る細胞凍結装置は、図示しないが、この容器12ごと2軸の自動ステージの上に設置し、自動ステージとインクジェットヘッド17が同期して動くようコンピュータによって制御して、基板16上の任意の位置に細胞内包液滴を吐出することができる。
【0018】
さらに、凍結された細胞を表面に載せた基板16は、キャリア15と共にクライオバイアル19へ移し、-180℃以下のLN(液体窒素)タンク20内で長期的に保存可能である。
【0019】
図2は、本発明の一実施の形態に係る細胞凍結装置と解凍工程を説明する図である。本発明に係る細胞凍結装置は、低温維持性能に優れることから、解凍工程においても利用することができる。解凍工程では、まず、LN(液体窒素)タンク20に保存していたクライオバイアル19から凍結細胞を載せた基板16をキャリア15ごと取り出し、基板16とキャリア15をトランスポーター14上にセットする。トランスポーター14は、液体窒素11を吸収した液体窒素吸収材13に密着し液体窒素温度まで冷却されており、トランスポーター14上にセットされたキャリア15と基板16を冷却する。トランスポーター14には、回転の駆動源として根本部分にばねヒンジ(図示無し)が取り付けられており回転トルクがかかっている。ただし、アルミニウム製のロックプレート(図示無し)によってロックされ、トランスポーター14の回転は抑えられている。そして、ロックプレートを勢いよく引くとトランスポーター14は高速に回転する。凍結細胞を載せた基板16は、37℃に温めた解凍用培地21の直上まで運搬され、
図2に示すように、回転の慣性により解凍用培地21に落下し浸漬する。これにより、細胞の昇温を抑え瞬時に細胞を解凍することができる。解凍に要する時間は落下時間を含めて約21msである。
【0020】
<他の実施の形態>
図3は、本発明の他の実施の形態に係る細胞凍結装置を説明する図である。他の実施の形態は、細胞凍結装置を特に胚(受精卵)の瞬間凍結に用いた場合である。
【0021】
液体窒素11は発砲スチロール製の容器12内に貯蔵されている。そして、液体窒素11に浸漬している冷却部材の液体窒素吸収材13は、液体窒素11を吸収し液体窒素温度(-196℃)まで冷却されている。液体窒素吸収材13には、前述の一実施の形態と同様に、液体窒素11に対し濡れ性を有する繊維材料またはスポンジフォームを用いることができ、ポリプロピレン樹脂やナイロン樹脂等の不織布、ガラスウール等の繊維、ならびにメラミン、ウレタンおよびポリビニルアルコール等からなる連続気泡を有するスポンジフォームを用いることができる。そして、液体窒素11に対する接触角θが90°以下であれば親和性が高く濡れ性に優れ、液体窒素吸収材13は液体窒素11を十分含むことができる。
【0022】
さらに、被冷却体は、基板16のみで構成される。基板16の材料としては、アルミニウム、チタン、チタン系合金等の金属又はアルミナ等のセラミックスを用いても良い。基板16は、冷却部材の液体窒素吸収材13に伝熱可能に接触し、被冷却体全体が冷却される。液体窒素吸収材13は、伸縮性を有し基板16と密着するように変形して接触し、効率的に基板16を冷却することができる。そして、胚を含んだ液を先細のピペットで吸引し、例えば1~3μLの微小液滴を基板16上に滴下し着滴させる。基板16は液体窒素温度にまで冷却されているので、胚を内包した液滴24は瞬間的に凍結されガラス化させる。そして、図示しないが、あらかじめ冷却してあるクライオチューブにこの液滴を基板ごと入れ、液体窒素中に保存することができる。また、融解液に入れ融解し胚を確認した後、培養を行うことができる。
【実施例0023】
本発明に係る液体窒素吸着材を基板冷却用の冷却部材に用いた細胞凍結装置(実施例)と従来のアルミニウム製土台を用いた細胞凍結装置(比較例)の低温性能と細胞生存率を評価し比較して、本発明の有効性、効果を確認した。実施例に用いた装置は、
図1および
図2に示す装置と同じものであり、また比較例に用いた装置は、
図1および
図2に示す装置において冷却部材を液体窒素吸着材からアルミニウム製土台に代えたものである。
【0024】
図4は、本発明の実施例に係る細胞凍結装置の液体窒素吸着材13とその上に設置された被冷却体のトランスポーター14とキャリア15、そしてロックプレート23の写真である。液体窒素吸着材13には、オイル吸着パッド(インターネット通販モノタロウ、品番:MOEP4050-4)として市販されているポリプロピレン不織布をカットして、
図10に示すように渦巻状に巻いて広がらないように中央部をワイヤーで巻き付けたものを用いた。液体窒素吸着材13は伸縮性に優れ、トランスポーター14を液体窒素吸着材13の表面に密着して接触させた。
【0025】
図5は、比較例の従来の細胞凍結装置のアルミニウム製土台22とその上に設置された被冷却体のトランスポーター14とキャリア15、そしてロックプレート23の写真である。アルミニウム製土台22の下部の4つの足にばねを取り付け、トランスポーター14が土台22に接触し伝熱するよう土台の傾きを調整した。比較例の細胞凍結装置では、図示しないが、アルミニウム製土台22は容器に貯蔵された液体窒素に浸漬されて液体窒素温度に冷却されている。被冷却体の冷却にアルミニウム製土台を用いたこと以外は、本発明の実施例の細胞凍結装置と同じものを用いた(すなわち、液体窒素、容器の他、解凍用培地、トランスポーターの回転機構などは同じであった)。
【0026】
(低温性能評価)
液体窒素吸着材を使用した場合(実施例)と従来のアルミニウム製土台を使用した場合(比較例)のそれぞれについて冷却性能を評価し比較した。
【0027】
図6は、室温の装置から液滴凍結が可能な温度までの冷却に必要な時間である冷却準備時間を測定し比較した結果である。K熱電対を用いて実施例および比較例のそれぞれの装置のキャリア15の上面の温度を測定した。冷却準備時間は、-185℃に達した時点を冷却完了として冷却開始から冷却完了までの時間とした。空気の流れによる温度のブレを抑制するために細胞凍結装置はクリーンブース内に設置した。
【0028】
比較例のアルミニウム製土台を使用した場合は、冷却準備時間は167秒から211秒であり、冷却速度は-1.0℃/秒から-1.2℃/秒であった。これに対し、実施例の液体窒素吸収材を使用した場合は、冷却準備時間は47秒から54秒であり、冷却速度は-3.9℃/秒から-4.3℃/秒であった。よって、従来のアルミニウム製土台を使用した場合に比べ、液体窒素吸着材を使用した場合は、冷却速度は約4倍大きく冷却準備時間を1分以内に短縮できることが分かった。
【0029】
また、
図7は、実施例および比較例の細胞凍結装置について、液体窒素を充填しキャリア上面の温度が約-190℃の低温で一定時間安定するまでキャリアを十分冷却した後、キャリアの上面の温度の時間変化を測定した結果である。温度は、T熱電対をキャリア上面に密着させて10分間測定した。その結果、比較例のアルミニウム製土台を用いた場合は、低温維持は、93秒から141秒であるが、実施例の液体窒素吸着材を用いた場合は、10分間で、0.9℃から1.4℃の昇温が確認された。比較例において93秒から141秒の範囲で温度が上昇しているは、液体窒素が時間と伴に蒸発し、液面の高さが減少してアルミニウム製土台の上部が液面の高さ以上になり液面から顔を出し(露出し)、冷却効率が低下したためと考えられる。一方、実施例においてそのような急激な温度上昇という現象が生じないのは、液体窒素の液面の高さが液体窒素吸着材(ポリプロピレン不織布)の上部より低くなって液体窒素吸着材の上部が液面から露出しても、液体窒素吸着材に浸み込んだ液体窒素が毛細管現象によって液体窒素吸着材内を上昇し液体窒素吸着材の上面まで供給され、その上の被冷却体のトランスポーターおよびキャリアを冷却することができるからと考えられる。よって、液体窒素吸着材を使用した本発明の細胞凍結装置について、大幅な低温維持性能の向上が可能であることを確認した。
【0030】
(細胞生存率評価)
次に、実際に培養細胞NIH3T3を用いて細胞凍結を行い、低温維持性能向上の効果を確認した。具体的な実験は以下のとおりである。
【0031】
まず、密度調整をした細胞(NIH3T3)の培養液を使用し、当該細胞の懸濁液(5.0×106 cells/mL)を調整した。次に、吐出液滴の体積が約40pLとなる条件に設定し、インクジェットヘッドから当該細胞を内包する液滴を吐出し、液体窒素で冷却したガラス基板上に着滴させ瞬間凍結させた。ここでは、基板の冷却には、本発明に係る液体窒素吸着材を用いた場合(実施例)と従来のアルミニウム製土台を用いた場合(比較例)の2通りを検討した。
【0032】
凍結後、解凍用培地として37℃に温めた培養液4.5mLの入った5mLチューブを設置し、装置のロックプレートを勢いよく引いて、基板を37℃の培養液が入ったチューブへ瞬間的に運搬・浸漬して細胞を急速解凍した。そして、チューブを遠心分離機に20℃、2000×gの条件で10秒かけ、さらにチューブ内からガラス基板を取り出し、再度遠心分離機に20℃、2000×gの条件で30秒かけた。上澄み液を100μLから200μL残すように吸引し、ピペッティング後 96ウェルに播種した。
【0033】
そして、細胞蛍光染色剤Double Staining(DOJINDO)を用いて、精細胞中の細胞質を緑に、死細胞中の核を赤に染色し、倒立顕微鏡(ECLIPSETi、Nikon)を用いて、位相差、Texas Red(励起波長(EX)596nm、蛍光波長(EM)615nm)、GFP(EX488nm,EM507nm)の条件で蛍光観察を行い、得られた画像を積層して、生細胞の数と死細胞の数の数え、染色された全細胞中の緑色に染色された割合を生存率とした。
【0034】
表1は、液体窒素吸着材を用いた場合と従来のアルミニウム製土台を用いた場合の細胞の生存率をカウントした結果である。また、
図8および
図9は、3時間培養後の蛍光画像と位相差画像を合成した蛍光画像である。
図8が実施例の液体窒素吸着材を用いた場合、
図9が比較例の従来のアルミニウム製土台を用いた場合の画像である。
【0035】
【0036】
表1の結果から、細胞生存率は、アルミニウム製土台を用いた場合46.7±3.1%であるのに対し、液体窒素吸着材を用いた場合57.1±4.3%と増加しているのが分かる。よって、液体窒素吸着材を用いた本発明の細胞凍結装置の有効性を確認することができた。