IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

<>
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図1
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図2
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図3
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図4
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図5
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図6
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図7
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図8
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図9
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図10
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図11
  • 特開-高分子化合物の分解方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168399
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】高分子化合物の分解方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20221031BHJP
   C08G 64/42 20060101ALI20221031BHJP
   C08G 63/02 20060101ALI20221031BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20221031BHJP
   C08G 18/83 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08J11/10
C08G64/42
C08G63/02
C08G18/32 003
C08G18/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073804
(22)【出願日】2021-04-26
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 杏里
(72)【発明者】
【氏名】萩原 敬人
【テーマコード(参考)】
4F401
4J029
4J034
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA23
4F401AA25
4F401AA26
4F401AA27
4F401AA40
4F401BA06
4F401CA62
4F401CA75
4F401EA76
4F401FA07Y
4J029AA07
4J029AB07
4J029AC01
4J029AD01
4J029AE06
4J029AE11
4J029AE13
4J029EA05
4J029EB01
4J029GA02
4J029HA01
4J029HA02
4J029HB01
4J029KG01
4J029KH01
4J034CA04
4J034CC09
4J034CC12
4J034DC02
4J034FA02
4J034FB01
4J034FC03
4J034FD03
4J034FE02
4J034HA07
4J034LA01
4J034LA34
4J034RA02
4J034RA07
4J034RA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高分子化合物の穏和な条件における分解方法を提供する。
【解決手段】高分子化合物の主鎖を求核剤との共役置換反応を利用して切断する分解方法であって、前記高分子化合物が式(1)で表される基を含み、式(1)で表される基を、求核剤との共役置換反応によって式(2)で表される基にすることで分断する、方法。


[式(1)、(2)中、Rは炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Rは水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Aは求核剤から酸性水素を除いた基である。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物の主鎖を求核剤との共役置換反応を利用して切断する高分子化合物の分解方法であって、前記高分子化合物が下記一般式(1)で表される基を含み、前記一般式(1)で表される基を、求核剤との共役置換反応によって一般式(2)で表される基にすることで高分子化合物の主鎖を分断する高分子化合物の分解方法。
【化1】
[一般式(1)中、Rは炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Rは水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。]
【化2】
[一般式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に一般式(1)と同義である。Aは前記求核剤から酸性水素を除いた基である。]
【請求項2】
前記求核剤が、カルボキシラートイオン、チオラートイオン、アミドイオン、アルコキシドイオン、フェノラートイオンを生じる化合物であり、一般式(2)におけるAがアシロキシ基、スルフィド基、アミノ基、アルコキシ基、フェノキシ基である、請求項1に記載の高分子化合物の分解方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される基が、下記一般式(1)-1で表される基である請求項1または2記載の高分子化合物の分解方法。
【化3】
[一般式(1)-1中、Rは炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Rは水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Xは酸素原子(-O-)または2級アミノ基(-NH-)である。]
【請求項4】
前記一般式(1)-1で表される基が、下記一般式(1)-2で表される基である請求項3記載の高分子化合物の分解方法。
【化4】
[一般式(1)-2中、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。X、Yはそれぞれ独立に酸素原子(-O-)または2級アミノ基(-NH-)である。Zは炭素数2~20の2価の基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物の分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の化学分解はケミカルリサイクルを実現するだけでなく、自然界における生分解を促す補助機構としても重要である。これら環境調和型材料としての用途に加えて、解体性接着材料、レジスト材料、自己修復材料といった先端機能材料、生体適合性材料や薬物輸送などの医療材料としても応用されている。
【0003】
こうした背景から、光・熱・酸・塩基といった特定の刺激に応答して切断する、弱い共有結合を主鎖に導入する分子設計が検討されている。例えば特許文献1には、主鎖中にフッ化アルキレンエステルを導入した高分子化合物がアルカリ現像液に対して良好な分解性を示し、分解により高分子化合物の溶解性が飛躍的に上昇することが記載されている。この現象は、現像時の表面欠陥を小さく抑えたレジスト材料に応用されており、高解像度なリソグラフィーを実現している。非特許文献1では、ウレタン結合の熱分解を利用した高分子化合物の分解が報告されている。
【0004】
ビス[α-(ハロメチル)アクリレート]は、ジカルボン酸やビスフェノール、チオールと塩基の存在下で、共役置換反応を起こし、ポリ共役エステルを与える(特許文献2)。この反応は室温で進行し、数時間~1日以内に完結し、不活性ガス雰囲気など特殊な反応場を必要としない。生成物であるポリ共役エステルは、チオールによる共役置換反応によって、副反応なく定量的に分解することができる(非特許文献2)。共役置換反応は脱離成分と求核剤によって、可逆的にも不可逆的にもなる反応で(非特許文献3)、例えば脱離成分がビスフェノール、求核剤がチオールの場合は、両者の酸性度が同程度であるため、共役置換反応は可逆的で、不完全な主鎖切断・分解になる(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-128575号公報
【特許文献2】特開2020-158658号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.K.Schneiderman,M.E.Vanderlaan,A.M.Mannion,T.R.Panthani,D.C.Batiste,J.Z.Wang,F.S.Bates,C.W.Macosko,M.A.Hillmyer,ACS Macro Lett.,2016,5,515.
【非特許文献2】Y.Kohsaka,T.Miyazaki,K.Hagiwara,Polym.Chem.2018,9,1610-1617
【非特許文献3】Y.Kohsaka,Polym.J.2020,52,1175-1183.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では高分子化合物の分解を達成するために、過酷な条件が必要であった。例えば、特許文献1ではフッ化アルキレンエステル結合部の分解に、強アルカリ性の現像液としてテトラブチルヒドロキシド水溶液を使用する。非特許文献1ではウレタン結合切断のため、180度以上の高温加熱が必要である。非特許文献2はチオールを用いた穏和な条件での分解を提供するが、分解点となるメタクリル骨格に対して等モル以上のチオールを必要としている。また、脱離成分がビスフェノールの場合は、可逆的な反応による不完全な主鎖切断・分解にとどまっている。さらに、チオールよりも弱い求核性をもつカルボン酸やカルボキシラート塩による分解は達成されていない。これは、反応に伴う結合切断で生じる高分子鎖の断片、例えばカルボン酸断片やフェノール断片が、結合切断に使用する求核剤、すなわちカルボン酸やフェノールおよびこれらの塩と同等の求核性を有するため、反応が可逆的になり、分解と再重合の平衡が成立することに由来する。
【0008】
したがって、求核剤にカルボン酸やビスフェノールを用いて不可逆的な分解を達成するためには、生じる高分子化合物の断片が求核剤より安定な骨格である必要がある。本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、高分子化合物の穏和な条件における分解方法の提供が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を採用するために、本発明では以下の構成を採用した。
[1]本発明は、高分子化合物の主鎖を求核剤との共役置換反応を利用して切断する高分子化合物の分解方法であって、前記高分子化合物が下記一般式(1)で表される基を含み、前記一般式(1)で表される基を、求核剤との共役置換反応によって一般式(2)で表される基にすることで高分子化合物の主鎖を分断する高分子化合物の分解方法である。
【化1】
[一般式(1)中、Rは炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Rは水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。]
【0010】
【化2】
[一般式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に一般式(1)と同義である。Aは求核剤から酸性水素を除いた基である。]
【0011】
すなわち、共役置換反応の基質(原料)である一般式(1)の基が不安定な外部オレフィン化合物であるのに対し、生成物である一般式(2)で表される基が安定な内部オレフィン化合物であることから、原系と生成系の間に明確なエネルギー差が生じ、不可逆的な共役置換反応が実現する。本発明ではこの化学変化を利用し、高分子化合物の不可逆的な主鎖切断・分解を実現するものである。
【0012】
[2]本発明は、前記求核剤が、カルボキシラートイオン、チオラートイオン、アミドイオン、アルコキシドイオン、フェノラートイオンであり、一般式(2)におけるAがアシロキシ基、スルフィド基、アミノ基、アルコキシド基、フェノキシ基である、[1]に記載の高分子化合物を分解する方法が好ましい。
【0013】
[3]本発明は、前記一般式(1)で表される基が、下記一般式(1)-1で表される基である[1]または[2]に記載の高分子化合物の分解方法が好ましい。
【化3】
[一般式(1)-1中、Rは炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Rは水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。Xは酸素原子(-O-)または2級アミノ基(-NH-)である。]
【0014】
一般式(1)-1で表される基が求核剤と共役置換反応を起こすと、一般式(2)で表される基と二酸化炭素、-X-で表される基に変化する。このとき、一般式(1)-1で表される基に含まれる末端オレフィンが、一般式(2)で表される基に含まれる、より安定な内部オレフィンに変化する。さらに、一般式(1)-1で表される基を構成していたカーボネート結合(X=O)またはウレタン結合(X=NH)が二酸化炭素とXに分解し、このうち二酸化炭素が炭酸ガスとして反応系外に遊離し、不可逆的な共役置換反応が実現する。本発明ではこの化学変化を利用し、高分子化合物の不可逆的な主鎖切断・分解を実現するものである。
【0015】
[4]本発明は、前記一般式(1)-1で表される基が、下記一般式(1)-2で表される基である[3]に記載の高分子化合物の分解方法がより好ましい。
【化4】
[一般式(1)-2中、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。X、Yはそれぞれ独立に酸素原子(-O-)または2級アミノ基(-NH-)である。Zは炭素数2~20の2価の基であり、ヘテロ元素を含んでもよい。]
【0016】
一般式(1)-2で表される基が求核剤と共役置換反応を起こすと、一般式(2)-1で表される基と二酸化炭素、-X-で表される基に変化する。
【化5】
[一般式(2)中、R~R、X~Zは一般式(1)-2におけるそれぞれと同一である。Aは一般式(2)におけるAと同義である。]
【0017】
このとき、一般式(1)-2で表される基に含まれる末端オレフィンが、一般式(2)-1で表される基に含まれる、より安定な内部オレフィンに変化する。さらに、一般式(1)-2で表される基を構成していたカーボネート結合(X=O)またはウレタン結合(X=NH)が二酸化炭素とXに分解し、このうち二酸化炭素が炭酸ガスとして反応系外に遊離し、不可逆的な共役置換反応が実現する。本発明ではこの化学変化を利用し、高分子化合物の不可逆的な主鎖切断・分解を実現するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、穏和な条件で高分子化合物を不可逆的に分解する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート]のH NMRスペクトル
図2】1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート]の13C NMRスペクトル
図3】実施例1における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図4】実施例2における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図5】実施例3における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図6】実施例4における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図7】実施例5における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図8】実施例6における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図9】実施例7における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図10】実施例8における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図11】実施例9における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
図12】実施例10における反応前(実線)および反応後(点線)のサイズ排除クロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の化合物の好ましい実施形態について説明する。以下の実施形態は本発明の一例であり、本発明を何ら限定するものではない。
【0021】
<共役置換反応を用いて不可逆的に高分子化合物を分解する方法>
本発明における高分子化合物の分解方法は、一般式(1)で表される基を含む高分子化合物を、求核剤との共役置換反応を利用した主鎖切断により、不可逆的に分解する方法である。
【0022】
<<一般式(1)で表される基>>
{R
は炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよく、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、2-ピリジル基、2-フラニル基が好ましい。合成上の観点から、より好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-フラニル基である。共役置換反応による主鎖切断により、一般式(2)で示される内部オレフィンを生成する過程において、長い共役系が確保でき、より安定な内部オレフィンを提供するフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が、弱い求核剤に対しても不可逆的な共役置換反応を実現できることから、さらに好ましい。
【0023】
{R
は水素原子または炭素数1~20の有機基であり、ヘテロ元素を含んでもよく、水素原子、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ピリジル基、2-フラニル基が好ましい。より好ましくは水素原子である。
【0024】
一般式(1)で表される基の具体例を以下に記載する。
【化6】
【0025】
<<一般式(1)-1で表される基>>
一般式(1)-1におけるR、Rは、同義であり、好ましい範囲も同様である。
{X}
Xは酸素原子(-O-)または2級アミノ基(-NH-)である
【0026】
一般式(1)-1で表される基の具体例を以下に記載する。
【化7】
【化8】
【0027】
<<一般式(1)-2で表される基>>
{R,R
一般式(1)-2におけるR、Rは、それぞれ独立に、一般式(1)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
{R,R
一般式(1)-2におけるR、Rはそれぞれ独立に、一般式(1)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
{X,Y}
一般式(1)-2におけるX,Yはそれぞれ独立に一般式(1)におけるXと同義である。
{Z}
Zは炭素数2~20の2価の基で、ヘテロ元素を含んでもよい。好ましくはエチレン基、プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,8-オクチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブタン-2-エニル-基、p-フェニレン基、o-フェニレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、ジエチレングリコール基であり、より好ましくは1,4-ブチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,8-オクチレン基、p-フェニレン基である。
【0028】
一般式(1)-2で表される基の具体例を以下に記載する。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0029】
主鎖切断に伴う高分子化合物の性質変化は、原料となる高分子化合物の単位構造や分子量、モノマー連鎖に大きく依存する。このとき要求される主鎖切断の頻度は、分解対象となる高分子化合物や用途によって様々なため、高分子化合物に含まれる、一般式(1)で表される基(以下、一般式(1)-1、一般式(1)-2で表される基も含めて説明する)の割合は自由に設定することができる。例えば分解による分子量減少を利用し、高分子鎖の絡み合い効果を抑制することで、原料高分子化合物と分解物の間に溶解性、溶液の粘度、熱物性などに顕著な差を誘起する場合は、一般式(1)で表される基の割合はすべての繰り返し単位に対して5mol%~100mol%であることが好ましく、20mol%~100molであることがより好ましく、30mol%~100molであることがさらに好ましい。
【0030】
<<原料となる高分子化合物の単位構造>>
本発明は一般式(1)で表される基と求核剤の共役置換反応により、高分子化合物を分解する方法に関するので、一般式(1)で表される基以外の高分子化合物を構成する単位構造は特に限定されない。一般式(1)で表される基はエステル結合およびカルボニル基を両端に有するので、これらを効率よく導入する観点では、高分子化合物がポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルフィドを主な構成要素とすることが好ましく、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネートがより好ましい。本発明の高分子化合物としては上述の一般式(1)-2で表される基を構成単位として繰り返す高分子化合物を上げることができる。
本発明の高分子化合物は、多価アクリル化合物と2モル等量以上のアルデヒドやケトンを混合し、3級アミン触媒と、無溶媒あるいは極めて少量の溶媒の存在下でBaylis-Hillman反応にて得ることができる。
【0031】
<<求核剤・塩基>>
本発明における求核剤は、カルボン酸、チオール、アミン、アルコール、フェノール類およびこれらの共役塩基、すなわちカルボキシラートイオン、チオラートイオン、アミドイオン、アルコキシドイオン、フェノラートイオンが好ましい。カルボキシラートイオンとなるカルボン酸としては、酢酸、テトラブチルアンモニウムアセテート、安息香酸等があげられる。チオラートイオンとなるチオールとしてはベンジルメルカプタン、1-ドデカンチオール等があげられる。アミドイオンとなるアミンとしては、ジエチルアミン、n-プロピルアミン等があげられる。アルコキシドイオンとなるアルコールとしてはメタノール、エタノール等があげられる。フェノラートイオンとなるフェノール類としてはフェノール、アニソール等があげられる。カルボキシラートイオン、チオラートイオン、アミドイオン、アルコキシドイオン、フェノラートイオンは、それぞれの塩を使用するか、カルボン酸、チオール、アミン、アルコールと塩基を反応させることで、反応系中で発生させてもよい。塩を使用する場合の対カチオンは特に限定しないが、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオンなどのアルカリ金属イオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラオクチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンなどのアンモニウム塩が好ましい。求核剤の使用量は、一般式(1)の基に対して0.10~2.0モル等量が好ましく、0.15~1.5モル等量が好ましく、さらに好ましくは0.20~1.2モル等量である。
塩基は共役置換反応が進行する範囲で自由に選択することができ、あるいは使用しなくてもよい。カルボン酸、チオール、アミン、アルコール、フェノールから、それぞれカルボキシラートイオン、チオラートイオン、アミドイオン、アルコキシドイオン、フェノラートイオンを反応系中で発生させる場合は、好ましくはトリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、イミダゾールなどの3級アミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ水酸化物塩を使用することが好ましい。また、n-プロピルアミン、ジエチルアミンのように求核剤が塩基の性質を兼ね備える場合は、塩基を加えなくてもよい。塩基の使用量は、一般式(1)の基に対して0.05~2.0モル等量が好ましく、0.10~1.5モル等量が好ましく、さらに好ましくは0.20~1.0モル等量である。
【0032】
<<溶媒>>
溶媒は必ずしも使用する必要はないが、高分子化合物と求核剤、塩基の反応を促進する目的で、ジクロロメタン、クロロホルム、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ジオキサン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、2-ブタノン、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶媒および水を使用することができる。
【0033】
<<温度>>
加熱はしなくてもよいが、高分子化合物ならびにα-(置換メチル)アクリル化合物の溶解が不十分な場合は、必要に応じて10~80℃の反応温度となるように加熱をすることもできる。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<分析機器>
(NMRスペクトル)
核磁気共鳴(NMR)装置(ブルカー(株)製AVANCE NEO)を用いて25℃で測定した。測定溶媒は、重クロロホルムを用い、内部標準は、テトラメチルシランを用いた。
【0036】
(分子量)
ポリマーの分子量(数平均分子量M)及び分子量分散度D(M/M)は、EXTREMAクロマトグラフ(日本分光)に40℃に加熱したサイズ排除カラム「PL-gel,Mixed C(300mm×7.5mm)」(アジレント・テクノロジー(株))を2本直列に装填し、溶出液としてN,N-ジメチルホルムアミド(高速液体クロマトグラフ用,和光純薬工業)を0.8mL/分で流して、紫外吸収分光計「UV-4070」(254nmで検出、日本分光)および示差屈折率計(RI-4030,日本分光)で検出したクロマトグラムを、標準ポリメタクリル酸メチル(東ソー,TSKゲルオリゴマーキット,M:6.03×10,2.522×10,1.416×10,2.912×10,8.59×10,4.25×10,1.46×10,8.30×10)による三次曲線で較正して評価した。
【0037】
<1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート]の合成>
1,4-ブチレンジアクリレート(30.0g,0.152mol)、ベンズアルデヒド(76.5mL,0.758mmol)、3-キヌクリジノール(9.2g,72mmol)を室温で、14時間撹拌した。カラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)により精製し、減圧濃縮、真空乾燥し、1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート](24.8g,39.6%)を無色液体として得た。
【0038】
H NMRスペクトル(400MHz,CDCl,25℃)δ/ppm:7.30&7.29(br,8H,Ar),7.25-7.20(m,2H,Ar),6.21(t,J=1.4Hz,CHH=,2H),6.00(t,J=1.4Hz,CHH,2H),5.73(d,J=4.4Hz,2H,allyl),5.43(br,2H,OH),4.00-3.90(m,4H,O-CH),1.42-1.40(m,4H,CH
【0039】
13C NMRスペクトル(100MHz,DMSO-d,25℃)δ/ppm:165.9,144.4,143.4,128.4,127.6,127.4,124.1,71.3,64.1,25.0
図1に1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート]のH NMRスペクトル、図213C NMRスペクトルを示す。
25×10,1.46×10,8.30×10)による三次曲線で較正して評価した。
【0040】
<ポリエステル1の合成>
1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート](0.305g,0.740mmol)と2,6-ジメチルピリジン(0.176g,1.64mol)のクロロホルム(0.3mL)溶液に、テレフタル酸クロリド(0.150g,0.739mmol)のジクロロメタン溶液(0.4mL)を加えて50℃で24時間撹拌した。反応液をメタノール(40mL)に沈殿した後,濃縮、真空乾燥してポリエステル1(0.204g,50.8%、M=3600、D=1.35)を得た。
【0041】
<ポリウレタン1の合成>
1,4-ブチレンビス[α-(1-ヒドロキシエチル)アクリレート](1.074g,3.72mmol)とジクロロメタン(2.0mL)溶液に、トリレン-2,4-ジイソシアナート(0.604g,3.47mmol)のジクロロメタン溶液(1.0mL)を混合し、ジラウリン酸ジ-n-ブチルすず(II)(20μL)を加えて24時間撹拌した。反応液をジエチルエーテル(40mL))に沈殿した後,濃縮、真空乾燥して、ポリウレタン1(1.127g,67.2%、M=7100、D=2.03)を得た。
【0042】
<ポリウレタン2の合成>
1,4-ブチレンビス[α-(1-ヒドロキシエチル)アクリレート](1.00g,3.49mmol)とジクロロメタン(2.0mL)溶液に、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアン酸)(0.871mL,3.48mmol)のジクロロメタン溶液(1.0mL)を混合し、ジラウリン酸ジ-n-ブチルすず(II)(20μL)を加えて24時間撹拌した。反応液をジエチルエーテル(40mL))に沈殿した後,濃縮、真空乾燥して、ポリウレタン2(1.05g,55.7%、M=3800、D=1.49)を得た。
【0043】
<ポリウレタン3の合成>
1,4-ブチレンビス[α-(フェニル)ヒドロキシメチルアクリレート](1.00g,2.43mmol)とジクロロメタン(2.0mL)溶液に、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアン酸)(0.608,2.43mmol)のジクロロメタン溶液(1.0mL)を混合し、ジラウリン酸ジ-n-ブチルすず(II)(20μL)を加えて24時間撹拌した。反応液をジエチルエーテル(40mL))に沈殿した後,濃縮、真空乾燥して、ポリウレタン3(1.54g,96.0%、M=4500、D=1.60)を得た。
【0044】
<実施例1> ポリエステル1の分解
ポリエステル1(50mg,アクリル単位あたり0.19mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(0.135mL)に溶かし、テトラブチルアンモニウムアセテート(56mg,0.19mmol)を加えて室温にて24時間撹拌した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン1のサイズ解除クロマトグラムとともに図3に示す。分子量が、ポリウレタン1のM=2630からM=400に低下したことが確認された。
【0045】
<実施例2> ポリウレタン1の分解
ポリウレタン1(0.10g,メタクリル骨格あたり0.433mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(0.3mL)溶液にジエチルアミン(0.046mL,0.433mol、ポリウレタン1のメタクリル骨格に対して1.0モル等量)を加えて、室温にて24時間撹拌した。反応開始直後に二酸化炭素の脱泡を確認した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン1のサイズ解除クロマトグラムとともに図4に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン1のM=11800からM=700に低下したことが確認された。
【0046】
<実施例3> ポリウレタン1の分解
ジエチルアミン(0.016mL,0.144mol、ポリウレタン1のメタクリル骨格に対して0.33モル等量)を用いたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン1のサイズ解除クロマトグラムとともに図5に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン1のM=11800からM=700に低下したことが確認された。
【0047】
<実施例4> ポリウレタン2の分解
ポリウレタン2(0.10g,メタクリル骨格あたり0.372mol)、ジエチルアミン(0.39mL,0.372mmol、ポリウレタン2のメタクリル骨格に対して1.0モル等量)を用いたこと以外は実施例3と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン3のサイズ解除クロマトグラムとともに図6に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン2のM=4900からM=1400に低下したことが確認された。
【0048】
<実施例5> ポリウレタン2の分解
ポリウレタン2(0.10g,メタクリル骨格あたり0.372mmol)、ジエチルアミン(0.013mL,0.124mmol、ポリウレタン2のメタクリル骨格に対して0.33モル等量)を用いたこと以外は実施例3と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン2のサイズ解除クロマトグラムとともに図7に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン1のM=4000からM=2300およびM=1500に低下したことが確認された。
【0049】
<実施例6> ポリウレタン3の分解
ポリウレタン3(0.1g,メタクリル骨格あたり0.302mol)、ジエチルアミン(0.032mL,0.302mol、ポリウレタン3のメタクリル骨格に対して1.0モル等量)を用いたこと以外は実施例3と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン3のサイズ解除クロマトグラムとともに図8に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン3のM=5700からM=800に低下したことが確認された。
【0050】
<実施例7> ポリウレタン3の分解
ポリウレタン3(0.102g,メタクリル骨格あたり0.308mol)、ジエチルアミン(0.011mL,0.101mmol、ポリウレタン3のメタクリル骨格に対して0.33モル等量)を用いたこと以外は実施例3と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン3のサイズ解除クロマトグラムとともに図9に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン3のM=5700からM=2200に低下したことが確認された。
【0051】
実施例2~7より、ジエチルアミンにより、室温でポリウレタン1~3が低分子化合物に分解できることがわかった。実施例3、実施例5,実施例7の結果から、メタクリル骨格に対して1モル等量未満の求核剤を使用した場合も、主鎖切断による低分子化を達成できることがわかった。
【0052】
<実施例8> ポリウレタン1の無溶媒分解
ポリウレタン1(0.100g,メタクリル骨格あたり0.433mmol)にジエチルアミン(0.046mL,0.433mmol、ポリウレタン1のメタクリル骨格に対して1.0モル等量)を加えて、マグネチックスターラーを用いて24時間混練した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン8のサイズ解除クロマトグラムとともに図10に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン1のM=11800からM=1500およびM=1000に低下したことが確認された。
【0053】
<実施例9> ポリウレタン2の無溶媒分解
ポリウレタン2(0.100g,メタクリル骨格あたり0.372mmol)、ジエチルアミン(0.039mL,0.372mmol、ポリウレタン3のメタクリル骨格に対して1.0モル等量)を用いたこと以外は実施例8と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン1のサイズ解除クロマトグラムとともに図11に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン2のM=4900からM=1700に低下したことが確認された。
実施例8、実施例9からポリウレタンの分解は、無溶媒でも進行することがわかった。
【0054】
<実施例10> ポリウレタン3の分解
ポリウレタン3(0.100g,メタクリル骨格あたり0.302mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(0.1mL)溶液に、テトラブチルアンモニウムアセテート(0.091g,0.302mmol、ポリウレタン3のメタクリル骨格に対して1.0モル等量)のN,N-ジメチルホルムアミド(0.2mL)溶液を加えて、24時間撹拌した。用いたこと以外は実施例2と同様に実施した。生成物のサイズ解除クロマトグラムを、ポリウレタン3のサイズ解除クロマトグラムとともに図12に示す。ピークトップにおける分子量が、ポリウレタン3のM=6000からM=680に低下したことが確認された。
【0055】
実施例10から、アミンより弱い求核塩基であるカルボキシラートイオンでも、主鎖分解が定量的に進行することがわかった。また、1モル等量で定量的な分解が達成されていることから、この反応は不可逆反応であることがわかった。
【0056】
以上の実施例においては、一般式(1)、一般式(1)-1,一般式(1)-2で表される基に対して、アミンやカルボキシラートイオンなどの求核剤による共役置換反応を起こすことで、高分子化合物を低分子化合物に分解できることがわかった。アミン、カルボキシラートイオンによる分解が達成されたことから、これらの基を有する高分子化合物が、アミノ酸やペプチド、脂肪酸、アルギン酸、ヒアルロン酸など天然に存在するアミンおよびカルボン酸によっても分解される可能性がある。また、室温、無溶媒でも分解が達成できたことは、海洋や土壌中など、自然界における分解を期待させる。本発明における分解方法は、強い求核種や強アルカリ性、強酸性、加熱、溶媒を必ずしも必要としないため、官能基寛容性が高く、様々な高分子化合物の分解技術に応用することができる。
【0057】
以上で示した各実施形態のおける各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、二酸化炭素を放出しながら低分子化合物に変化する性質から、解体性接着剤、レジスト剤、分解性塗料、生体適合性材料、医療材料、分解性ゴム、農業用フィルム、包装材などへの応用が考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12