(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168418
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】パラレルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/18 20060101AFI20221031BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
F04C2/18 311B
F04C15/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073859
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 敦士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇明
(72)【発明者】
【氏名】三馬 拓実
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB02
3H041CC12
3H041DD04
3H044AA02
3H044BB02
3H044CC19
3H044DD04
(57)【要約】
【課題】従来よりも効率を向上させることができるパラレルポンプを提供する。
【解決手段】パラレルポンプは、駆動ギア6が固定された駆動軸と、従動ギア7が固定された従動軸と、駆動ギア6および従動ギア7を収容する、油が溜められたギア室を含む。ギア室における駆動ギア6および従動ギア7を挟んで互いに対向する一対の対向面のうちの少なくとも一方には、駆動ギア6と従動ギア7の噛み合い領域に沿って延びる溝8が形成されている。溝8における駆動ギア6および従動ギア7の回転方向側の端部は、駆動ギア6および従動ギア7の回転方向に沿って二又に分かれている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ギアが固定された駆動軸と、
前記駆動ギアと噛み合う従動ギアが固定された従動軸と、
前記駆動ギアおよび前記従動ギアを収容する、油が溜められたギア室と、を備え、
前記ギア室における前記駆動ギアおよび前記従動ギアを挟んで互いに対向する一対の対向面のうちの少なくとも一方には、前記駆動ギアと前記従動ギアの噛み合い領域に沿って延びる溝が形成されており、
前記溝における前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向側の端部は、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向に沿って二又に分かれている、パラレルポンプ。
【請求項2】
前記溝は、前記駆動ギアと前記従動ギアの並び方向と直交する方向に延びる、上流端および下流端を有する直線部と、前記直線部の下流端から前記駆動ギアの回転方向に沿って延びる第1分岐部と、前記直線部の下流端から前記従動ギアの回転方向に沿って延びる第2分岐部を含む、請求項1に記載のパラレルポンプ。
【請求項3】
前記直線部の上流端は、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向と反対側に向かって尖っている、請求項2に記載のパラレルポンプ。
【請求項4】
前記第1分岐部の先端は、前記駆動ギアの回転方向と直交する直線状であり、前記第2分岐部の先端は、前記従動ギアの回転方向と直交する直線状である、請求項2または3に記載のパラレルポンプ。
【請求項5】
前記溝における前記第1分岐部と前記第2分岐部の間の分岐点は、前記駆動ギアの歯先円と前記従動ギアの歯先円の下流側交点に対して前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向と反対側に位置する、請求項2~4の何れか一項に記載のパラレルポンプ。
【請求項6】
前記溝の深さは、前記直線部の上流側端部では前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向に向かって深くなり、前記直線部の下流側端部から前記第1分岐部にかけては前記駆動ギアの回転方向に向かって浅くなり、前記直線部の下流側端部から前記第2分岐部にかけては前記従動ギアの回転方向に向かって浅くなる、請求項2~5の何れか一項に記載のパラレルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに並列に配置された一対のピストンポンプ機構を含むパラレルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、互いに並列に配置された一対のピストンポンプ機構を含むパラレルポンプが知られている。例えば、特許文献1には、
図5に示すようなパラレルポンプ100が開示されている。
【0003】
具体的に、パラレルポンプ100では、ケーシング110内に第1ピストンポンプ機構120および第2ピストンポンプ機構130が互いに並列に配置されている。ケーシング110には、第1ピストンポンプ機構120および第2ピストンポンプ機構130を収容するポンプ室111が形成されている。
【0004】
第1ピストンポンプ機構120は駆動軸140によって駆動され、第2ピストンポンプ機構130は従動軸150によって駆動される。駆動軸140の一端部はケーシング110の外部に位置しており、エンジンや電動モータなどの原動機と連結される。
【0005】
駆動軸140には、上記の一端部と第1ピストンポンプ機構120との間に駆動ギア160が固定されている。従動軸150には、駆動ギア160と噛み合う従動ギア170が固定されている。ケーシング110には、駆動ギア160および従動ギア170を収容するギア室112も形成されている。
【0006】
特許文献1のパラレルポンプ100では、第1ピストンポンプ機構120および第2ピストンポンプ機構130が斜板ポンプ式の可変容量型である。第1ピストンポンプ機構120および第2ピストンポンプ機構130のそれぞれでは、作動油の一部が斜板に固定されたシュープレートとシューとの間に供給されて潤滑油として使用される。その油はポンプ室111内に溜められる。
【0007】
ポンプ室111内に溜められる油は、ギア室112にも供給されてギア室112内にも溜められる。このため、ギア室112内では油が駆動ギア160および従動ギア170の回転に伴って撹拌される。より詳しくは、駆動ギア160の周囲では油が駆動ギア160の回転方向に流動し、従動ギア170の周囲では油が従動ギア170の回転方向に流動する。
【0008】
さらに、特許文献1のパラレルポンプ100では、ギア室112における駆動ギア160および従動ギア170を挟んで互いに対向する一対の対向面113,114のそれぞれに、駆動ギア160と従動ギア170の噛み合い領域に沿って延びる直線状(
図5では紙面と直交する直線状)の溝180が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
駆動ギア160と従動ギア170の噛み合い工程の前半では、一方のギアの歯溝(tooth space)に他方のギアの歯が入り込むことで歯溝の容積が減少する。このため、歯溝内の油はギアの軸方向に溢れ出す。これに対し、上記のように溝180が在れば、歯溝から溢れ出した油が溝180内に流入する。従って、ギアが油を圧縮する圧縮仕事(いわゆる撹拌損失)が低減される。一方、駆動ギア160と従動ギア170の噛み合い工程の後半では、一方のギアの歯溝から他方のギアの歯が抜け出すことで歯溝の容積が増加する。このため、溝180から歯溝内に油が侵入する。
【0011】
このように、特許文献1のパラレルポンプ100では、ギアによる圧縮仕事が低減されるため、パラレルポンプ100の効率(原動機から与えられる仕事に対するポンプが行う仕事の割合)が向上する。ただし、パラレルポンプについては更なる効率の向上が望まれる。
【0012】
そこで、本発明は、従来よりも効率を向上させることができるパラレルポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、従来のようにギア室における駆動ギアおよび従動ギアを挟んで互いに対向する一対の対向面のうちの少なくとも一方に直線状の溝が形成されている場合には、その溝内では油が溝の形状である直線状に沿ってしか流れないため、噛み合い工程の後半で歯溝に侵入した油をギアの周方向に加速する加速仕事が必要であることを見出した。本発明は、このような観点から成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明のパラレルポンプは、駆動ギアが固定された駆動軸と、前記駆動ギアと噛み合う従動ギアが固定された従動軸と、前記駆動ギアおよび前記従動ギアを収容する、油が溜められたギア室と、を備え、前記ギア室における前記駆動ギアおよび前記従動ギアを挟んで互いに対向する一対の対向面のうちの少なくとも一方には、前記駆動ギアと前記従動ギアの噛み合い領域に沿って延びる溝が形成されており、前記溝における前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向側の端部は、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向に沿って二又に分かれている、ことを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、ギア室の対向面に形成された溝における駆動ギアおよび従動ギアの回転方向側の端部が駆動ギアおよび従動ギアの回転方向に沿って二又に分かれているので、溝内での油の流れも二又に分かれる。従って、噛み合い工程の後半では、溝から周方向速度を持った油を歯溝に侵入させることができる。これにより、加速仕事を低減することができ、パラレルポンプの効率を従来よりも向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来よりも効率を向上させることができるパラレルポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るパラレルポンプの断面図である。
【
図4】駆動ギアと従動ギアの噛み合い領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本発明の一実施形態に係るパラレルポンプ1を示す。このパラレルポンプ1は、ケーシング2と、ケーシング2内に互いに並列に配置された第1ピストンポンプ機構3Aおよび第2ピストンポンプ機構3Bを含む。例えば、第1ピストンポンプ機構3Aと第2ピストンポンプ機構3Bの並び方向は水平方向である。
【0019】
第1ピストンポンプ機構3Aは駆動軸4によって駆動され、第2ピストンポンプ機構3Bは従動軸5によって駆動される。駆動軸4および従動軸5は互いに平行である。以下、説明の便宜上、駆動軸4および従動軸5の軸方向の一方(
図1では左側)を前方、他方(
図1では右側)を後方という。
【0020】
ケーシング2は、ケーシング本体22と、ケーシング本体22に取り付けられた前カバー21および後カバー23を含む。ケーシング本体22は、前後方向に延びる筒状の周壁24と、周壁24内の前方寄りの位置に設けられた隔壁25を含む。前カバー21は、隔壁25の前面に面する前側空間を覆っており、後カバー23は、隔壁25の後面に面する後側空間を覆っている。
【0021】
隔壁25と後カバー23との間にはポンプ室11が形成されており、隔壁25と前カバー21との間にはギア室12が形成されている。ポンプ室11内には、第1ピストンポンプ機構3Aおよび第2ピストンポンプ機構3Bが収容されている。
【0022】
駆動軸4および従動軸5は共に隔壁25を貫通している。駆動軸4はさらに前カバー21を貫通している。駆動軸4におけるケーシング2の外部に位置する一端部は、エンジンや電動モータなどの原動機と連結される。なお、駆動軸4と従動軸5の少なくとも一方は、後カバー23を貫通してもよい。
【0023】
駆動軸4は、隔壁25に保持された軸受け41および後カバー23に保持された軸受け42により回転可能に支持されている。従動軸5は、隔壁25に保持された軸受け51および後カバー23に保持された軸受け52により回転可能に支持されている。
【0024】
本実施形態では、第1ピストンポンプ機構3Aおよび第2ピストンポンプ機構3Bが斜板ポンプ式の可変容量型である。第1ピストンポンプ機構3Aおよび第2ピストンポンプ機構3Bは、互いに同じ構造を有している。以下では代表として第1ピストンポンプ機構3Aの構造を説明する。
【0025】
ただし、第1ピストンポンプ機構3Aおよび第2ピストンポンプ機構3Bは斜軸ポンプ式の可変容量型であってもよい。あるいは、第1ピストンポンプ機構3Aおよび第2ピストンポンプ機構3Bは固定容量型であってもよい。
【0026】
第1ピストンポンプ機構3Aは、バルブプレート31、シリンダブロック32、複数のピストン33、斜板36および支持台37を含む。バルブプレート31は、後カバー23に取り付けられている。図示は省略するが、バルブプレート31には、円弧状の吸入ポートおよび吐出ポートが設けられており、後カバー23には、吸入ポートと連通する吸入路と、吐出ポートと連通する吐出路が設けられている。
【0027】
シリンダブロック32は駆動軸4に固定されており、駆動軸4と共に回転することでバルブプレート31と摺動する。シリンダブロック32には、駆動軸4の周囲に、バルブプレート31と反対向きに開口する複数のシリンダボアが設けられている。これらのシリンダボアに、ピストン33がそれぞれ挿入されている。図示は省略するが、シリンダブロック32には、各シリンダボアの底からバルブプレート31に至るシリンダポートが設けられている。
【0028】
各ピストン33の頭部には、シュー34が取り付けられている。本実施形態では、シュー34が斜板36に固定された環状のシュープレート35上を摺動する。ただし、シュープレート35が省略されて、シュー34が斜板36上を摺動してもよい。シュー34は、シュープレート35に接触した状態が維持されるように、図略の押え部材によって押えられている。
【0029】
図示は省略するが、ピストン33およびシュー34には、ピストン33の後端面からシュープレート35に至る油路が形成されている。このため、上述した吸入ポートおよびシリンダポートを通じてシリンダボアに吸入された作動油の一部がシュープレート35とシュー34との間に供給されて潤滑油として使用される。その油はポンプ室11内に溜められる。
【0030】
斜板36は、隔壁25に取り付けられた支持台37によってピストン33と反対側から支持される。斜板36は、第1ピストンポンプ機構3Aと第2ピストンポンプ機構3Bの並び方向に延びる揺動軸回りに揺動可能となるように支持台37に支持されている。
【0031】
上述したギア室12内には、互いに噛み合う駆動ギア6および従動ギア7が収容されている。駆動ギア6は駆動軸4に固定され、従動ギア7は従動軸5に固定されている。駆動ギア6の歯形状(歯数、ギアピッチ、歯たけなど)は、従動ギア7の歯形状と同じである。
【0032】
ポンプ室11内に溜められる油は、隔壁25に設けられた図略の貫通穴および軸受け41,51を介してギア室12にも供給されてギア室12内にも溜められる。このため、ギア室12内では油が駆動ギア6および従動ギア7の回転に伴って撹拌される。より詳しくは、駆動ギア6の周囲では油が駆動ギア6の回転方向に流動し、従動ギア7の周囲では油が従動ギア7の回転方向に流動する。
【0033】
ギア室12は、駆動ギア6および従動ギア7を挟んで互いに対向する一対の対向面13,14を有する。対向面13は前カバー21の後面であり、対向面14は隔壁25の前面である。また、ギア室12は、駆動ギア6および従動ギア7を取り囲む周面15を有する。
【0034】
図2に示すように、周面15は、駆動ギア6の歯先円61(
図4参照)よりも僅かに大径の第1筒状面15aと、従動ギア7の歯先円71(
図4参照)よりも僅かに大径の第2筒状面15bを有する。すなわち、周面15は、駆動ギア6と従動ギア7の間では、それらの噛み合い領域に向かって突出している。ここで、「噛み合い領域」とは、
図4に示すように、駆動ギア6の歯先円61と従動ギア7の歯先円71とで囲まれる領域(歯先円61,71の上流側交点Aと下流側交点Bの間の両凸レンズ状の領域)をいう。
【0035】
さらに、本実施形態では、
図1および
図3に示すように、ギア室12の対向面13,14のそれぞれに、駆動ギア6と従動ギア7の噛み合い領域に沿って延びる溝8が形成されている。
【0036】
各溝8はY字状であり、各溝8の駆動ギア6および従動ギア7の回転方向側の端部は、駆動ギア6および従動ギア7の回転方向に沿って二又に分かれている。より詳しくは、
図4に示すように、各溝8は、直線部81、第1分岐部82および第2分岐部83を含む。
【0037】
直線部81は、駆動ギア6と従動ギア7の並び方向(駆動軸4の中心軸40(
図2参照)と従動軸5の中心軸50(
図2参照)とを結ぶ方向)と直交する方向に延びている。直線部81は、駆動ギア6および従動ギア7の回転方向と反対側に位置する上流端と、駆動ギア6および従動ギア7の回転方向側に位置する下流端を有する。
【0038】
第1分岐部82は、直線部81の下流端から駆動ギア6の回転方向に沿って延びており、第2分岐部83は、直線部81の下流端から従動ギア7の回転方向に沿って延びている。
【0039】
本実施形態では、直線部81の上流端が、駆動ギア6および従動ギア7の回転方向と反対側に向かって尖っている。換言すれば、直線部81の上流端は、二等辺三角形を構成するように中央でV字状に折れ曲がっている。その折れ曲がりの角度は、例えば60~120度である。
【0040】
本実施形態では、直線部81の上流端の先端(中央点)が歯先円61,71の上流側交点Aと一致している。ただし、直線部81の上流端の先端は、必ずしも歯先円61,71の上流側交点Aと一致している必要はなく、上流側交点Aに対して駆動ギア6および従動ギア7の回転方向側に位置してもよいし、上流側交点Aに対して駆動ギア6および従動ギア7の回転方向と反対側に位置してもよい。
【0041】
直線部81の幅Wは、駆動ギア6の歯底円62と従動ギア7の歯底円72の間の最小距離よりも大きいことが望ましい。例えば、直線部81の幅Wは、駆動ギア6の歯底円62と従動ギア7の歯底円72の間の最小距離の1.05~1.3倍である。
【0042】
溝8における第1分岐部82と第2分岐部83の間の分岐点C(直線部81の下流端の中央点)は、歯先円61,71の下流側交点Bに対して駆動ギア6および従動ギア7の回転方向と反対側に位置する。このため、第1分岐部82および第2分岐部83が噛み合い領域と確実に重なり合う。
【0043】
第1分岐部82および第2分岐部83のそれぞれの長さαは、例えば、駆動ギア6および従動ギア7の歯先円61,71上でのギアピッチPの1/2程度である。第1分岐部82の先端は、駆動ギア6の回転方向と直交する直線状であり、第2分岐部83の先端は、従動ギア7の回転方向と直交する直線状である。
【0044】
第1分岐部82の内側辺は、駆動ギア6の歯先円61と平行であり、歯先円61から距離βだけ径方向内側に位置している。第1分岐部82の外側辺は、駆動ギア6の歯底円62と平行であり、歯底円62から距離γだけ径方向内側に位置している。例えば、距離β,γは、駆動ギア6の歯底円62と従動ギア7の歯底円72の間の最小距離の1/8程度である。
【0045】
同様に、第2分岐部83の内側辺は、従動ギア7の歯先円71と平行であり、歯先円71から距離βだけ径方向内側に位置している。第2分岐部83の外側辺は、従動ギア7の歯底円72と平行であり、歯底円72から距離γだけ径方向内側に位置している。例えば、距離β,γは、駆動ギア6の歯底円62と従動ギア7の歯底円72の間の最小距離の1/8程度である。
【0046】
溝8の深さは、
図3に示すように、直線部81の上流側端部では駆動ギア6および従動ギア7の回転方向に向かって徐々に深くなっている。また、溝8の深さは、直線部81の下流側端部から第1分岐部82にかけては駆動ギア6の回転方向に向かって徐々に浅くなり、直線部81の下流側端部から第2分岐部83にかけては従動ギア7の回転方向に向かって徐々に浅くなる。換言すれば、溝8の底が中央から両側に向かって浅くなるように傾斜している。例えば、溝8の底の傾斜部の傾斜角度は、双方共に15度程度である。
【0047】
次に、溝8による作用を説明する。駆動ギア6と従動ギア7の噛み合い工程の前半では、一方のギアの歯溝に他方のギアの歯が入り込むことで歯溝の容積が減少する。このため、歯溝内の油はギアの軸方向に溢れ出し、歯溝から溢れ出した油が溝8内に流入する。従って、ギアが油を圧縮する圧縮仕事(いわゆる撹拌損失)が低減される。一方、駆動ギア6と従動ギア7の噛み合い工程の後半では、一方のギアの歯溝から他方のギアの歯が抜け出すことで歯溝の容積が増加する。このため、溝8から歯溝内に油が侵入する。
【0048】
本実施形態では、溝8における駆動ギア6および従動ギア7の回転方向側の端部が駆動ギア6および従動ギア7の回転方向に沿って二又に分かれているので、溝8内での油の流れも二又に分かれる。従って、噛み合い工程の後半では、溝8から周方向速度を持った油を歯溝に侵入させることができる。これにより、加速仕事を低減することができ、パラレルポンプ1の効率を従来よりも向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、第1分岐部82および第2分岐部の先端が直線状であるので、それらの先端による堰き止め効果によって、溝8内の油を歯溝へ向かって誘導することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、溝8の底が中央から両側に向かって浅くなるように傾斜しているので、溝8の深さを、歯溝の容積変化に合わせて変化させることができる。
【0051】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0052】
例えば、溝8は、必ずしもギア室12の対向面13,14の双方に形成されている必要はなく、対向面13,14のどちらか一方のみに形成されてもよい。
【0053】
また、溝8の直線部81の上流端は、駆動ギア6と従動ギア7の並び方向と平行な直線状であってもよい。ただし、前記実施形態のように直線部81の上流端が駆動ギア6および従動ギア7の回転方向と反対側に向かって尖っていれば、駆動ギア6および従動ギア7の回転に伴って流動する周方向速度を持つ油を溝8内にスムーズに導入することができる。
【0054】
(まとめ)
本発明のパラレルポンプは、駆動ギアが固定された駆動軸と、前記駆動ギアと噛み合う従動ギアが固定された従動軸と、前記駆動ギアおよび前記従動ギアを収容する、油が溜められたギア室と、を備え、前記ギア室における前記駆動ギアおよび前記従動ギアを挟んで互いに対向する一対の対向面のうちの少なくとも一方には、前記駆動ギアと前記従動ギアの噛み合い領域に沿って延びる溝が形成されており、前記溝における前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向側の端部は、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向に沿って二又に分かれている、ことを特徴とする。
【0055】
上記の構成によれば、ギア室の対向面に形成された溝における駆動ギアおよび従動ギアの回転方向側の端部が駆動ギアおよび従動ギアの回転方向に沿って二又に分かれているので、溝内での油の流れも二又に分かれる。従って、噛み合い工程の後半では、溝から周方向速度を持った油を歯溝に侵入させることができる。これにより、加速仕事を低減することができ、パラレルポンプの効率を従来よりも向上させることができる。
【0056】
例えば、前記溝は、前記駆動ギアと前記従動ギアの並び方向と直交する方向に延びる、上流端および下流端を有する直線部と、前記直線部の下流端から前記駆動ギアの回転方向に沿って延びる第1分岐部と、前記直線部の下流端から前記従動ギアの回転方向に沿って延びる第2分岐部を含んでもよい。
【0057】
前記直線部の上流端は、前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向と反対側に向かって尖ってもよい。この構成によれば、駆動ギアおよび従動ギアの回転に伴って流動する周方向速度を持つ油を溝内にスムーズに導入することができる。
【0058】
前記第1分岐部の先端は、前記駆動ギアの回転方向と直交する直線状であり、前記第2分岐部の先端は、前記従動ギアの回転方向と直交する直線状であってもよい。この構成によれば、第1分岐部および第2分岐部の先端による堰き止め効果によって、溝内の油を歯溝へ向かって誘導することができる。
【0059】
前記溝における前記第1分岐部と前記第2分岐部の間の分岐点は、前記駆動ギアの歯先円と前記従動ギアの歯先円の下流側交点に対して前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向と反対側に位置してもよい。この構成によれば、第1分岐部および第2分岐部が噛み合い領域と確実に重なり合う。
【0060】
前記溝の深さは、前記直線部の上流側端部では前記駆動ギアおよび前記従動ギアの回転方向に向かって深くなり、前記直線部の下流側端部から前記第1分岐部にかけては前記駆動ギアの回転方向に向かって浅くなり、前記直線部の下流側端部から前記第2分岐部にかけては前記従動ギアの回転方向に向かって浅くなってもよい。この構成によれば、溝の深さを、歯溝の容積変化に合わせて変化させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 パラレルポンプ
12 ギア室
13,14 対向面
4 駆動軸
5 従動軸
6 駆動ギア
61 歯先円
7 従動ギア
71 歯先円
8 溝
81 直線部
82 第1分岐部
83 第2分岐部
A 上流側交点
B 下流側交点
C 分岐点