IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特開2022-168425インクジェットインク組成物、及び記録方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168425
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/32 20140101AFI20221031BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20221031BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20221031BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221031BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221031BHJP
   C09B 61/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
C09D11/32
C09B67/44 A
D06P5/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 114
C09B61/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073869
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健太
(72)【発明者】
【氏名】粂田 宏明
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB53
4H157AA02
4H157BA32
4H157CA11
4H157CA12
4H157CA29
4H157CB33
4H157CB34
4H157CB38
4H157CB41
4H157CB43
4H157CB60
4H157CC02
4H157DA01
4H157DA24
4H157DA34
4H157GA06
4J039BA07
4J039BA32
4J039BA33
4J039BA34
4J039BA37
4J039BA39
4J039BC07
4J039BC12
4J039BC16
4J039BC19
4J039BC35
4J039BE30
4J039BE32
4J039CA03
4J039EA29
4J039EA44
4J039FA01
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】高い発色性の記録物を得られつつ、吐出安定性に優れるインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】配位子を有する色材と、無機化合物と、pH調整剤とを含み、色材は当該配位子によって無機化合物と複合体を形成している、インクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位子を有する色材と、
無機化合物と、
pH調整剤と、を含み、
前記色材は、前記配位子によって前記無機化合物と複合体を形成している、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記色材が天然物に由来する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記色材が、コチニール又はクルクミンを含む、請求項2に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記無機化合物が、金属のオキソニウムイオン又は金属イオンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記無機化合物に対する前記色素の含有比(色素/無機化合物)が、質量基準で20~120である、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記無機化合物が、第13族又は第14族の金属を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記無機化合物が、すず酸ナトリウム又は硫酸カリウムアルミニウムを含む、請求項6に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記pH調整剤が、トリエタノールアミン又はクエン酸を含む、請求項6又は7に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
pHが6.5~9.5である、請求項6~8のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項10】
前記無機化合物が、第8族又は第11族の金属を含み、
前記pH調整剤が、酢酸を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項11】
前記無機化合物が、硫酸銅(II)又は硫酸鉄(II)を含む、請求項10に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項12】
pHが4.0~5.0である、請求項10又は11に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項13】
記録媒体上に、請求項1~12のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物を付着させる付着工程を含む、
記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、より安定して高品質な記録物を得ることについて種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インクジェット法によって安定的に吐出可能な草木染め用の染料液及び媒染液が開示されている。この染料液及び媒染液は、インクジェット法によって吐出させ、セルロース系担体の同じ箇所に供給することによって、色素の沈着、固定化、及び発色をさせることにより染色することに用いられる。また、染料液は、主要溶媒の水と、乾燥速度調整用としてのアルコールと、天然物から抽出された色素分子とを含み、表面張力が、20mN/m以上75mN/m以下であり、粘度が、0.5mPa・s以上40mPa・s以下である。一方、媒染液は、天然物から抽出された色素分子と錯体を形成するための多価金属イオンと、主要溶媒としての水と、乾燥速度調整用溶媒としてのアルコールとを含み、表面張力が、20mN/m以上75mN/m以下であり、粘度が、0.5mPa・s以上40mPa・s以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-28871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載する染料液及び媒染液は、染料液と媒染液とが別であることから煩雑である。そこで、染料液と媒染液を別に準備するという煩雑な構成を採用することなく、発色性に優れ、吐出安定性が良好なインクジェットインク組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、配位子を有する色材と、無機化合物と、pH調整剤とを含み、色材は、当該配位子によって前記無機化合物と複合体を形成している、インクジェットインク組成物を用いることにより、上記課題を解決しつつ、インクジェット方式により記録するためのインク組成物における各種特性に優れることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、配位子を有する色材と、無機化合物と、pH調整剤と、を含み、前記色材は、前記配位子によって前記無機化合物と複合体を形成している、インクジェットインク組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で、適宜に変形して実施できる。
【0009】
インクジェットインク組成物
本実施形態のインクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、配位子を有する色材と、無機化合物と、pH調整剤とを含む。また、色材は、上記配位子によって無機化合物と複合体を形成している。本実施形態のインク組成物が、インクジェット方式により記録するためのインク組成物における各種特性に優れる要因は下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、従来のインク組成物は、特に色材として天然色素を含む場合に、化学構造の安定性が十分でないことに起因して、得られる記録物の発色性を十分に得られない場合がある。また、吐出安定性に優れない場合もある。一方、本実施形態のインク組成物は、色材に含まれる配位子が無機化合物に配位することによって複合体を形成し、色材の化学構造が安定であるため、得られる記録物の発色性に優れたインク組成物を得ることができる。さらに、色材の化学構造が安定であるため、本実施形態のインク組成物は、その発色性以外の信頼性にも優れ、吐出安定性にも優れる。
【0010】
本明細書において、「インクジェットインク組成物」とは、インクジェット方式を利用して記録媒体上に記録(印刷)するためのインク組成物を意味する。「記録物」とは、記録媒体上にインク組成物が記録されて画像が形成されたものを意味する。
【0011】
配位子を有する色材
本実施形態のインク組成物は、配位子を有する色材を含む。本明細書において、「配位子を有する色材」とは、配位子によって無機化合物と複合体を形成し、記録物に発色性を付与する色材を意味する。
【0012】
配位子を有する色材の種類としては、特に限定されないが、例えば、天然物に由来する色材及び化学的に合成された色材が挙げられる。本実施形態の色材は、これらの中から配位子を有する各種色材を適宜選択して用いることができるが、天然物に由来する色材を含むことが好ましい。
【0013】
天然物に由来する色材としては、特に限定されないが、例えば、コチニール(カルミン酸、配位子:OH(ヒドロキソ)、C=O(カルボニル))、ラック(ラッカイン酸、配位子:OH(ヒドロキソ)、C=O(カルボニル))等のアントラキノン系色材、ベニバナ赤(カルタミン、配位子:OH(ヒドロキソ)、C=O(カルボニル))等のフラボノイド系化合物、クチナシ赤等のイリトイド配糖体、ブドウ果皮(マルビジン-3-グルコシド、配位子:OH(ヒドロキソ)、OCH3(メトキシ))、バタフライピー(ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジン、配位子:OH(ヒドロキソ)、O(オキソカチオン))等のアントシアニン系色材、クルクミン(配位子:OH(ヒドロキソ)、OCH3(メトキシ)、C=O(カルボニル))等のウコン系色材が挙げられる。この中でも、コチニール及びクルクミンが好ましい。
【0014】
配位子を有する色材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。配位子を有する色材は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1.0~15質量%であり、より好ましくは2.0~10.0質量%であり、さらに好ましくは3.0~8.0質量%である。配位子を有する色材の含有量が上記範囲内であることで、記録物の発色性に優れ、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0015】
本実施形態のインク組成物は、配位子を有する色材以外の色材(例えば顔料や染料)を含むことができる。
【0016】
本実施形態のインク組成物は、配位子によって無機化合物と複合体を形成している色材を含むことにより、ホワイトインク、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、さらにバイオレットインク、ブラウンインク、オレンジインク、レッドインク、グリーンインク等の特色インク等の各種インクに適用可能な、優れた発色性を発現する。
【0017】
無機化合物
本実施形態のインク組成物は、色材の配位子と複合体を形成する無機化合物を含む。本明細書において、「無機化合物」とは、金属を含む化合物を意味する。
【0018】
無機化合物の種類としては、特に限定されないが、例えば、水中でイオン化し、金属イオン又は金属を含むイオンを形成する塩が挙げられる。本実施形態の無機化合物は、これらの中から色材の配位子と複合体を形成する各種無機化合物を適宜選択して用いることができるが、インク組成物中において、無機化合物が、金属のオキソニウムイオン又は金属イオンを含むことが好ましい。
【0019】
上記金属として具体的には、例えば、鉄等の第8族の金属、又は銅、銀、金等の第11族の金属を含む、アルミニウム等の第13族の金属、スズ、鉛等の第14族の金属が挙げられる。金属が第13族又は第14族の金属である場合には、無機化合物は、すず酸ナトリウム及び硫酸カリウムアルミニウムを含むことが好ましい。また、金属が第8族又は第11族の金属である場合には、無機化合物は、硫酸銅(II)又は硫酸鉄(II)を含むことが好ましい。
【0020】
無機化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機化合物は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.001~5.0質量%であり、より好ましくは0.01~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.2質量%である。無機化合物の含有量が上記範囲内であることで、記録物の発色性に優れ、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0021】
無機化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機化合物は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.001~5.0質量%であり、より好ましくは0.01~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.2質量%である。無機化合物の含有量が上記範囲内であることで、記録物の発色性に優れ、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0022】
無機化合物に対する配位子を有する色素の含有比(色素/無機化合物)が、質量基準で、好ましくは5~200であり、より好ましくは20~120であり、さらに好ましくは40~80である。上記含有比が上記範囲内であることで、記録物の発色性に優れ、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0023】
pH調整剤
本実施形態のインク組成物は、インク組成物のpHを調整するためのpH調整剤を含む。pH調整剤を含むことにより、色材の配位子と無機化合物とが複合体を形成することを促進し、記録物の発色性に優れ、吐出安定性がより良好となる。
【0024】
pH調整剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸、酢酸等の酸、及びトリエタノールアミン等の塩基が挙げられる。本実施形態のpH調整剤は、これらの中から色材の配位子と無機化合物とが複合体を形成することを促進する各種pH調整剤を適宜選択して用いることができる。
【0025】
上記無機化合物における金属が第13族又は第14族の金属である場合には、pH調整剤は、トリエタノールアミン又はクエン酸を含むことが好ましい。また、金属が第8族又は第11族の金属である場合には、pH調整剤は、酢酸を含むことが好ましい。
【0026】
インク組成物のpHは、特に限定されないが、上記無機化合物における金属が第13族又は第14族の金属である場合には、好ましくは6.0~10.0であり、より好ましくは6.5~9.5であり、さらに好ましくは7.0~9.0である。また、インク組成物のpHは、上記無機化合物における金属が第8族又は第11族の金属である場合には、好ましくは3.0~7.0であり、より好ましくは3.5~6.0であり、さらに好ましくは4.0~5.0である。インク組成物のpHが上記範囲内であることで、記録物の発色性に優れ、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0027】
水溶性有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。本明細書において、「水溶性」とは、水と共に用いることができ、水に対して少なくともその一部が溶解する性質を意味する。
【0028】
水溶性有機溶剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、モノアルコール、アルキルポリオール、グリコールエーテル、環状窒素化合物、及び非プロトン性極性溶剤が挙げられる。本実施形態の有機溶剤は、これらの有機溶剤の中から、水溶性の各種有機溶剤を適宜選択して用いることができるが、アルキルポリオールを含むことが好ましい。
【0029】
モノアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノールが挙げられる。
【0030】
アルキルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ジプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール(1,3-プロパンジオール)、イソブチレングリコール(2-メチル-1,2-プロパンジオール)、1,2-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール(1,3-ブタンジオール)、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、及び1,8-オクタンジオールが挙げられる。この中でも、グリセリン、及び1,3-ブチレングリコールが好ましい。
【0031】
グリコールエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、及びジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテルが挙げられる。
【0032】
非プロトン性極性溶剤としては、特に限定されないが、例えば、環状ケトン化合物、鎖状ケトン化合物、及び鎖状窒素化合物が挙げられる。また、環状窒素化合物及び非プロトン性極性溶剤としては、ピロリドン類、イミダゾリジノン類、スルホキシド類、ラクトン類、アミドエーテル類及びイミダゾール類の溶剤が代表例として挙げられる。ピロリドン類としては、ピロリドン骨格を有するものであれば特に限定されないが、例えば、2-ピロリドン、N-アルキル-2-ピロリドン、及び1-アルキル-2-ピロリドンが挙げられる。イミダゾリジノン類としては、例えば1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホキシド類としては、例えばジメチルスルホキシド、ラクトン類としては、例えばγ-ブチロラクトン、イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、及び1,2-ジメチルイミダゾールが挙げられる。
【0033】
水溶性有機溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1.0~70質量%であり、より好ましくは5.0~50質量%であり、さらに好ましくは10~30質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることで、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0034】
界面活性剤
インク組成物は、界面活性剤を含むことが好ましい。本明細書において、「界面活性剤」とは、インク組成物が記録媒体に浸透することを促進させるものを意味する。
【0035】
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0036】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される1種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン E1010、PD-002W、PD-005、EXP4200、EXP4300、WE-003等(商品名、日信化学工業社製)、サーフィノール 104E、104PG50、420、465、485、61、82、DF110D、DF37、DF75、MD-20等(商品名、エボニックインダストリーズAG製)が挙げられる。
【0037】
アルキルエーテル系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレントリデシルエーテルから選択される1種以上が好ましい。アルキルエーテル系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、ニューコール1006、1008、1020(日本乳化剤社製商品名)、ノイゲンDL-0415、ET-116B、ET-106A、DH-0300、YX-400、EA-160(第一工業製薬社製商品名)、エマルゲン430、1108(花王社製商品名)が挙げられる。
【0038】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(以上商品名、旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(以上商品名、住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(以上商品名、Dupont社製);FT-250、251(以上商品名、株式会社ネオス製)が挙げられる。
【0039】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、及びポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、SAG503A(商品名、日信化学工業社製)、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学社製)等が挙げられる。
【0040】
界面活性剤は、上述した中でも、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0041】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.05~2.5質量%であり、より好ましくは0.1~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることで、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0042】

本実施形態のインク組成物は、水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、凝集液を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができる。これにより貯蔵安定性がより向上する傾向にある。
【0043】
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは10~95質量%であり、より好ましくは40~90質量%であり、さらに好ましくは60~85質量%である。水の含有量が上記範囲内であることで、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0044】
インク組成物は、上述した成分以外の成分として、色材に対する分散剤、樹脂粒子、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防カビ・防腐剤、防黴剤、腐食防止剤等の、種々の添加剤を適宜含有することもできる。
【0045】
記録方法
本実施形態の記録方法は、記録媒体上に、上述したインク組成物を付着させる工程(以下、「付着工程」という。)を含む。付着工程では、より具体的にはインクジェット法により、インク組成物を記録媒体上に吐出して、記録物が得られる。この記録媒体としては、例えば、吸収性の記録媒体又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。本実施形態の記録方法は、水溶性のインク組成物の浸透が困難な非吸収性の記録媒体から、水溶性のインク組成物の浸透が容易な吸収性の記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ記録媒体に幅広く適用できるが、吸収性の記録媒体に適用することが好ましい。
【0046】
吸収性の記録媒体として、具体的には、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子若しくはアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、又は、ポリビニルアルコール(PVA)若しくはポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙が挙げられる。
【0047】
非吸収性の記録媒体として、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルム及びプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、並びにそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレス及び真鋳等の合金のプレートが挙げられる。
【0048】
本実施形態は、インク組成物の乾燥を促進するために、記録前、記録中、記録後の一部、及び全てで記録媒体を加熱する加熱工程を含んでもよい。加熱する手段としては、温度が制御できる装置であれば特に限定されず、輻射加熱式のシーズヒータや赤外線ヒータ、接触加熱式のシートヒータ、電磁波等を用いる方法が挙げられる。加熱温度は、被記録媒体の表面温度として40~80℃が好ましい。さらに、ファン等による送風工程をさらに含んでもよい。
【0049】
本実施形態の記録方法は、上記各工程の他、従来のインクジェット記録方法が有する公知の工程を含んでもよい。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
下記の実施例及び比較例においてインク組成物に用いた材料は、以下の通りである。
〔色材〕
コチニール(天然色素、配位子:OH(ヒドロキソ)、C=O(カルボニル)、キリヤ化学社製「カルミンレッドDX」)
クルクミン(天然色素、配位子:OH(ヒドロキソ)、OCH3(メトキシ)、C=O(カルボニル)、キリヤ化学社製クルクミン原末、表中、「クルクミン」と略記する。)
ベニコウジ赤(天然色素、配位子なし、キリヤ化学社製「モナスコレッドAL」)
黄色4号(合成色素、配位子なし、キリヤ化学社製)
〔無機化合物〕
すず酸ナトリウム(第14属の金属のオキソニウムイオン、スズ酸ナトリウム三水和物、CAS RN:12209-98-2、富士フイルム和光純薬工業社製、表中、「すず酸Na」と表記する。)
硫酸カリウムアルミニウム(第13属の金属の金属カチオン、硫酸カリウムアルミニウム十二水和物、CAS RN:7784-24-9、富士フイルム和光純薬工業社製、表中、「硫酸KAl」と表記する。)
硫酸銅(II)(第11族の金属カチオン、硫酸鉄(II)七水和物、CAS RN:7782-63-0、富士フイルム和光純薬工業社製)
硫酸鉄(II)(第8族の金属カチオン、硫酸銅(II)五水和物、CAS RN: 7758-99-8、富士フイルム和光純薬工業社製)
〔pH調整剤〕
トリエタノールアミン(表中、「TEA」と略記する。)
クエン酸緩衝液(クエン酸-クエン酸ナトリウム、表中、「クエン酸」と略記する。)
酢酸緩衝液(酢酸-酢酸ナトリウム、表中、「酢酸」と略記する。)
〔水溶性有機溶剤〕
グリセリン
1,3-ブチレングリコール
〔界面活性剤〕
オルフィン E1010(エアプロダクツ社製の商品名)
〔水〕
純水
【0052】
[インク組成物の調製]
各材料を下記の表1に示す組成で混合し、十分に撹拌し、各インク組成物を得た。なお、下記の表1中、数値は固形分量を表し、単位は質量%であり、合計は100.0質量%である。
【0053】
【表1】
【0054】
[発色性(Abs.)]
各インク組成物を、色材濃度が0.001%になるよう水で希釈し、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製「U-39000H型」)にて400-800nmの範囲で測定した。400-800nmの範囲における最大吸収波長のAbs.の値から、下記評価基準により発色性(Abs.)を評価した。
(評価基準)
A:Abs.0.8以上
B:Abs.0.6以上0.8未満
C:Abs.0.4以上0.6未満
D:Abs.0.4未満
【0055】
[発色性(OD)]
インクジェット記録装置(セイコーエプソン社製「PX-S840」)を用い、そのインクジェット記録装置のインクカートリッジに各インク組成物を充填し、平織りのコットンにA4-100%Dutyベタ印字で印刷した。測色計(コニカミノルタ社製「FD-7」:蛍光分光濃度計)を用い印刷物のODを測定し、下記評価基準により発色性(OD)を評価した。
(評価基準)
A:OD1.0以上
B:OD0.8以上1.0未満
C:OD0.6以上0.8未満
D:OD0.6未満
【0056】
[吐出安定性]
インクジェット記録装置(セイコーエプソン社製「PX-S840」)を用い、そのインクジェット記録装置のインクカートリッジに各インク組成物を充填し、普通紙にA4-100%Dutyベタ印字で、50枚連続で印刷した。印刷後、インク組成物を吐出したノズルの抜け本数から、下記評価基準により吐出安定性を評価した。
(評価基準)
AA:ノズル抜け5本未満
A:ノズル抜け5本以上10本未満
B:ノズル抜け10本以上20本未満
C:ノズル抜け20本以上30本未満
D:ノズル抜け30本以上
【0057】
【表2】